特許第6840863号(P6840863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6840863ポリγグルタミン酸を含有するアトピー性皮膚症状改善用の組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6840863
(24)【登録日】2021年2月19日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】ポリγグルタミン酸を含有するアトピー性皮膚症状改善用の組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/785 20060101AFI20210301BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20210301BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20210301BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   A61K31/785
   A61P37/08
   A61P17/04
   A61P43/00 121
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-554460(P2019-554460)
(86)(22)【出願日】2017年12月15日
(65)【公表番号】特表2020-503382(P2020-503382A)
(43)【公表日】2020年1月30日
(86)【国際出願番号】KR2017014880
(87)【国際公開番号】WO2018117550
(87)【国際公開日】20180628
【審査請求日】2019年6月18日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0173380
(32)【優先日】2016年12月19日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519220124
【氏名又は名称】バイオリーダース コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100168631
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 康匡
(72)【発明者】
【氏名】チョイ ジェ チョル
(72)【発明者】
【氏名】リー イル ハン
(72)【発明者】
【氏名】チョー ヒジン
(72)【発明者】
【氏名】キム スン フン
【審査官】 福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第103800219(CN,A)
【文献】 国際公開第2009/035174(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第2008−0003636(KR,A)
【文献】 アレルギー,2011年,Vol. 60, Issue 12,p. 1598-1605
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子量ポリγグルタミン酸及び低分子量ポリγグルタミン酸を有効成分として含有するアトピー性皮膚症状改善用の皮膚外用剤組成物であって、
前記高分子量ポリγグルタミン酸の分子量が、1,500kDa〜3,500kDaであり、
前記低分子量ポリγグルタミン酸の分子量が、0.5kDa〜2kDaであり、
前記高分子量ポリγグルタミン酸が、前記組成物の全重量に対して0.01〜0.5重量%の量で含まれており、且つ
前記低分子量ポリγグルタミン酸が、前記組成物の全重量に対して0.01〜2.5重量%の量で含まれている、前記組成物
【請求項2】
前記高分子量ポリγグルタミン酸及び前記低分子量ポリγグルタミン酸を1:1乃至1:5の割合で含有することを特徴とする請求項1に記載のアトピー性皮膚症状改善用の皮膚外用剤組成物。
【請求項3】
前記高分子量ポリγグルタミン酸の分子量が、2,000kDa〜2,500kDaであることを特徴とする請求項1に記載のアトピー性皮膚症状改善用の皮膚外用剤組成物。
【請求項4】
前記低分子量ポリγグルタミン酸の分子量が、kDa〜1.5kDaであることを特徴とする請求項1に記載のアトピー性皮膚症状改善用の皮膚外用剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリγグルタミン酸を含有するアトピー性皮膚症状改善用の組成物に係り、さらに詳しくは、高分子量ポリγグルタミン酸及び低分子量ポリγグルタミン酸を有効成分として含有し、アトピー性皮膚症状の改善に有効な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎は、極めてありふれた皮膚病であって、全人口の0.5〜1%、子供の場合、5〜10%が症状を示し、発病時期は、通常、生後2〜6カ月であり、特に、1歳未満で最も多く示され、85%が満5歳以前に現れる。患者の50%は、生後2年以内に自然によくなるが、25%は、青年期まで持続し、残りの25%は成人になっても症状が消えず続く。
【0003】
アトピー性皮膚炎の原因は、よく知られていないが、遺伝的な要素が多く、免疫系の異常と関連している。その他、乾燥皮膚、正常人に比べて皮膚痒み症を感じやすい特性、細菌、ウィルス、カビなどによる感染、情緒的要因、環境的要因などが互いに複合的に作用して生じるものと知られている。アトピー性皮膚炎の主要症状は、甚だしい痒み症、皮膚乾燥、発疹、膿などの分泌物、瘡蓋、魚鱗癬のある皮膚などである。また、前記アトピー性皮膚炎は、現代医学でも根本的な治療法がなく、完治を目標とするよりは、誘発因子を避け、適切な治療により症状を調節するしかない病気と知られている。
【0004】
アトピー性皮膚炎への薬物を用いた治療法としては、対症療法として、痒み症及び皮膚炎を治療するためのステロイド剤、抗ヒスタミン剤と抗生剤及び保湿剤などの非ステロイド剤などが使われている。前記ステロイド剤は、副腎皮質ホルモン剤として大別して消炎作用と免疫抑制作用があり、効果に優れているが、長期間使うとき、使用部位の皮膚に毛が生え、皮膚が委縮することがあり、皮膚色素が減少し、細菌感染が発生し、にきびができ、皮膚が薄くなり、毛細血管が現れるなど、深刻な副作用が発生するという問題点があった。また、抗ヒスタミン剤は、肥満細胞からヒスタミンが遊離されないようにして、痒み症を軽減させるために、一時しのぎに使用するものであって、長期間服用すると、不眠、不安、めまい症、食欲減退の副作用が生じ得る。また、抗生剤は、痒くて掻く部位に発生するブドウ球菌などの二次細菌感染を治療するために使うものであって、アトピー性皮膚炎そのものの根本的な治療剤とは言えない。
【0005】
ポリγグルタミン酸は、グルタミン酸(glutamic acid)がγ結合を介して連結された粘液性のアミノ酸高分子であり、バチルス属菌株から作られる。本発明者は、高分子量ポリγグルタミン酸及びその利用方法に関する物質特許(特許文献1)、高分子量のポリγグルタミン酸を産生する耐炎性菌株のバチルス・サブティリス・チョングッチャン菌株を用いてポリγグルタミン酸を産生する方法に関する特許(特許文献2)を獲得し、その他、ポリγグルタミン酸を含有する抗癌組成物、免疫補強材、及び免疫増強剤に関する特許(特許文献3、特許文献4、及び特許文献5)、を獲得している。また、ポリγグルタミン酸を含有するヒアルロニダーゼ阻害剤(特許文献6)、及びポリγグルタミン酸の免疫増強による抗癌機能を明らかにすることにより(非特許文献1)、ポリγグルタミン酸の医薬用途に関する研究が進行するなど、ポリγグルタミン酸に関する持続的な用途開発を行い、様々な効能を明らかにした。
【0006】
本発明では、アトピー性皮膚の症状を効果的に改善することができる組成物を開発しようとして鋭意努力した結果、高分子量のポリγグルタミン酸と低分子量のポリγグルタミン酸を一緒に含有する組成物をアトピー性皮膚疾患者に適用すると、皮膚の水分損失を抑制し、角質と皮膚鎮静効果、乾燥による痒み緩和効果を示すことを確認し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国登録特許第399091号公報
【特許文献2】韓国登録特許第500796号公報
【特許文献3】韓国登録特許第496606号公報
【特許文献4】韓国登録特許第517114号公報
【特許文献5】韓国登録特許第475406号公報
【特許文献6】韓国登録特許第582120号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Poo, H.R. et al., Journal of Immunology, 178:775, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、アトピー性皮膚の症状を効果的に改善することができる組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明は、高分子量ポリγグルタミン酸及び低分子量ポリγグルタミン酸を有効成分として含有するアトピー性皮膚症状改善用の皮膚外用剤組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、高分子量ポリγグルタミン酸及び低分子量ポリγグルタミン酸を有効成分として含有するアトピー性皮膚症状改善用の皮膚外用剤組成物を処理することを特徴とするアトピー性皮膚症状の治療または改善方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、ヒアルロン酸、ウロカニン酸(urocanic acid)、乳酸(lactic acid)などの皮膚保湿因子と皮膚バリア機能を果たす蛋白質であるフィラグリン(filaggrin)、インボルクリン(involucrin)、ロリクリン(loricrin)、トランスグルタミナーゼ(transglutaminase)の生成を最適に促進させるポリγグルタミン酸の分子量及び含量比を確認した。
【0013】
また、本発明では、高分子量のポリγグルタミン酸と低分子量のポリγグルタミン酸を一緒に含有する組成物の表皮水分、経皮水分喪失量、角質、皮膚鎮静効果、乾燥による痒みの緩和・改善への人体に対する効能を確認した。
【0014】
したがって、本発明は、高分子量ポリγグルタミン酸及び低分子量ポリγグルタミン酸を有効成分として含有するアトピー性皮膚症状改善用の皮膚外用剤組成物に関する。
【0015】
本発明において、前記高分子量ポリγグルタミン酸及び前記低分子量ポリγグルタミン酸を1:1乃至1:5の割合で含有することを特徴とする。
【0016】
前記高分子量ポリγグルタミン酸及び前記低分子量ポリγグルタミン酸の比が1:1未満であれば、治療効果が少なく、1:5超過であれば、保湿効果が少なく、剤形化し難いので、好ましくない。
【0017】
本発明は、一観点において、高分子量ポリγグルタミン酸の分子量は、1,500kDa〜3,500kDaが好ましく、より好ましくは2,000kDa〜2,500kDaである。
【0018】
本発明は、一観点において、低分子量ポリγグルタミン酸の分子量は、0.5kDa〜2kDaが好ましく、より好ましくは1kDa〜1.5kDaである。
【0019】
本発明の皮膚外用剤組成物は、好適な分子量範囲の高分子量及び低分子量のポリγグルタミン酸を含有しなければ、ヒアルロン酸、ウロカニン酸、乳酸などの皮膚保湿因子と、皮膚バリア機能を果たす蛋白質であるフィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、トランスグルタミナーゼの生成を最適に促進させることにより優れたアトピー性皮膚症状の改善効果が得られない。
【0020】
本発明において、前記高分子量ポリγグルタミン酸を組成物の全重量に対して0.01乃至0.5重量%で含有し、前記低分子量ポリγグルタミン酸を組成物の全重量に対して0.01乃至2.5重量%で含有することを特徴とする。
【0021】
前記高分子量ポリγグルタミン酸の含量が0.01重量%未満であれば、保湿効果が少なく、0.5重量%超過であれば、粘度が減少し、剤形化し難い。
【0022】
前記低分子量ポリγグルタミン酸の含量が0.01重量%未満であれば、治療効果が少なく、2.5重量%超過であれば、痒みやチクチク感などの皮膚刺激が示される。
【0023】
本発明に係る皮膚外用剤組成物は、当業界において通常用いる一つ以上の無毒性、薬剤学的に許容可能な担体、補助剤、希釈液、または他の活性成分を含んでもよい。本発明に係る皮膚外用剤組成物は、薬剤学的に許容可能な担体及び賦形剤を用いて公知の方法で製剤化され得る。
【0024】
具体例を挙げると、軟膏、ゲル、クリーム、パッチ、または噴霧剤などの外用剤などをはじめとして薬剤学的製剤に適合したいずれの形態でも剤形化して使用されてもよく、これらの各剤形は、その剤形の製剤化に必要かつ適切な各種の基剤と添加物を含有してもよく、これらの成分の種類と量は、発明者により容易に選定され得る。
【0025】
また、本発明に係る皮膚外用剤組成物が化粧料に剤形化される場合、その剤形に特に限定されず、柔軟化粧水、収斂化粧水、栄養化粧水、アイクリーム、栄養クリーム、マッサージクリーム、クレンジングクリーム、クレンジングフォーム、クレンジングウォーター、パウダー、エッセンス、またはパックなどの剤形であってもよい。
【0026】
本発明の組成物は、表皮水分、経皮水分喪失量、角質、皮膚鎮静効果、乾燥による痒みの緩和・改善に役立ち、アトピー性皮膚を有した被験者から皮膚異常反応が示されず、アトピー性皮膚症状に対する優れた改善効果を提供する。
【0027】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳述する。これらの実施例は、単に本発明をさらに具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例により制限されないというのは、当該技術分野における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0028】
実施例1〜3及び比較例1〜2
【0029】
既存のドクターズPGAクリーム((株)バイオリーダース、韓国)からポリγグルタミン酸を除いたベース原料に高分子量ポリγグルタミン酸(2,000kDa;以下、HW−PGAという)及び低分子量ポリγグルタミン酸(1kDa;以下、LW−PGAという)を下記表1に記載の含量比で添加し、クリーム剤形の実施例1〜3及び比較例1〜2を製造した。
【0030】
【表1】
【0031】
試験例1:HW−PGA及びLW−PGAの単独/混合剤形のアトピー性皮膚症状の改善効能テスト
【0032】
上記のように製造された実施例1〜3及び比較例1〜2をアトピー性皮膚症状を見せる様々な性別及び年齢の被験者10名に一週間使用させ、痒みの程度及び頻度、睡眠時の痒みの程度を使用前後で比較評価するようにした。その結果を下記表2に示した(単位:名)
【0033】
−試験対象
(1)性別:男性(50%)、女性(50%)
(2)年齢:5歳〜9歳(50%)、10歳〜15歳(33%)、15歳〜19歳(17%)
【0034】
【表2】


【0035】
前記表2から分かるように、本発明の有効成分をそれぞれ単独で用いた比較例1〜2は、使用前後の痒み緩和効果を確認することができなかった。これに対して、高分子量ポリγグルタミン酸及び低分子量ポリγグルタミン酸を1:1、1:3、1:5の含量比で混合使用した実施例1〜3は、痒みの程度及び頻度が全て半分以上に改善したことが確認された。
【0036】
その結果、本発明により、高分子量ポリγグルタミン酸及び低分子量ポリγグルタミン酸を1:1乃至1:5の割合で用いれば、2つの有効成分間のシナージ効果により、アトピー性皮膚症状を有意に改善させることが確認された。
【0037】
試験例2:皮膚貼布の安定性テスト
【0038】
前記実施例1〜3を用いて、皮膚貼布による安定性を確認した。
【0039】
被験者33名を対象として、フィンチャンバー(Finn Chamber)を用いて、皮膚貼布試験を行った。被験者の背部を70%エタノールで拭き取って乾燥させてから、試験物質20μlを直径8mmのフィンチャンバーに滴下し、試験部位に付着して固定した。貼布は、24時間付着し、貼布除去後、30分、24時間、48時間の経過後、皮膚刺激程度を観察した。これは、皮膚科専門医により行われ、国際接触皮膚炎研究班(International Contact Dermatitis Research Group:ICDRG)の判定基準に従った。その結果を下記表3に記載した。
【0040】
【表3】
【0041】
前記表3から分かるように、本発明の組成物は、貼布の除去後、30分、24時間、48時間の経過後も、皮膚反応度が0.00であって、「無刺激」と判定され、皮膚刺激を全く引き起こさないことが確認された。
【0042】
試験例3:アトピー性皮膚の改善効能テスト
【0043】
前記実施例1を用いて、アトピー性皮膚の改善効能を確認した。
【0044】
被験者(全24名)は、5〜41歳の男女のうち、アトピー性皮膚疾患を除いた急・慢性の身体疾患のない健康人として、試験責任者の問診により、ハニフィンとライカ(Hanifin & Rajka)の診断基準に基づいて判定されたアトピー性皮膚炎患者のうち、SCORAD(Scoring atopic dermatitis)指数が15以上70以下である軽度若しくは重度のアトピー性皮膚を有するとともに、乾燥による痒み症があるヒトを選定し、被験者の基本情報を下記表4に示した。
【0045】
【表4】
【0046】
試験期間である8週間、洗顔及び洗浄後、または乾燥を感じるときはいつでも、試験物質である本発明の組成物を試験部位として指定されたアトピー性皮膚症状部位に適用し、試験期間中は、ステロイド性軟膏などのアトピー性と関連した処方薬及び皮膚保湿剤の使用を一切禁じ、パックやマッサージなどの施術も禁じた。
【0047】
結果の測定は、同一の洗浄剤で洗浄後、30分間、恒温恒湿室(温度:22±1℃、湿度:45±5%)で安静にした後、測定した。
【0048】
試験例3−1:ハニフィンとライカ(Hanifin & Rajka)のアトピー性診断基準による目視評価
【0049】
アトピー性皮膚症状の目視評価のために、ハニフィンとライカのアトピー性診断基準を適用し、アトピー性皮膚の状態を評価するために、SCORAD指数を評価基準として用いた。全ての被験者のアトピー性皮膚症状がある部位のうち、試験期間の持続的な目視評価及び写真撮影可能な部位を試験部位として選定して目視評価し、SCORAD指数の算定は、同一の試験担当者が算定基準により、面積計算方法による皮膚病変の範囲(A)、皮膚病変の重症度(B)、痒み症と睡眠妨害に対する主観的な症状(C)を点数化し、SCORAD指数の計算公式により算定した。Aの場合、被験者の身体部位のうち、アトピー性皮膚症状のある当該身体部位の面積百分率(%)で評価してから、算定基準により、各身体部位の当該点数を掛け算して算定し、Bの場合、紅斑(erythema)、浮腫及び丘疹(oedema/papulation)、膿などの分泌物及び痂皮(oozing/crust)、擦り傷(excoriation)、苔蘚化(lichenification)、乾燥度(dryness)の6項目の重症度を4段階(0=無し、1=軽度、2=中等度、3=重度)と評価し、Cの場合、最近3日間の症状を基準として痒み症と睡眠障害に対する主観的な症状を、10cmの視覚的アナログスケール(VAS:Visual Analogue Scale、0=全くない、10=非常に甚だしい)を用いて評価した。
【0050】
試験部位の写真撮影のために、デジタルカメラ(EOS 450D, Canon, Japan)を適用しており、一貫した撮影のために、試験部位とレンズの距離が同一であるように、被験者とカメラの位置を固定した後、同一の試験担当者が、ストロボを用いて均一な照明と同一のポジションにおいて、全ての被験者のアトピー性皮膚症状のある部位を測定し、試験物質の使用前と比べてSCORAD指数が減少するほど、アトピー性皮膚症状が改善されたことを意味する。ハニフィンとライカのアトピー性診断基準による目視評価は、試験物質の使用前と、4週間使用後、8週間使用後の時点で行われた。
【0051】
SCORAD指数の計算公式は、下記の通りである。
【0052】
SCORAD=A/5+7B/2+C(ここで、A=面積計算方法による皮膚病変の範囲、B=皮膚病変の重症度、C=最近3日間の症状を基準とした痒み症と睡眠障害に対する主観的な症状)
【0053】
全ての被験者のアトピー性皮膚症状のある部位のうち、試験部位として選定した部位のアトピー性皮膚症状の改善度を分析した結果、SCORAD指数が、試験物質使用前と比べて、4週間使用後22.06%、8週間使用後41.34%が減少する変化を示した。また、試験物質の使用前と比べて、4週間使用後、8週間使用後において統計的に有意に示し(p<.001)、試験物質がアトピー性皮膚症状の改善に役立つものと判断される(表5)。
【0054】
【表5】
【0055】
試験例3−2:イプシロン E100による表皮水分の改善効能評価
【0056】
試験物質の表皮水分の改善評価のために、イプシロン E100(Epsilon E100、Biox Systems Ltd.,UK)を適用した。イプシロン E100は、センサに接触した皮膚表面の水分をイプシロン(ε)値として算定し、皮膚水分量が高いほど、イメージ出力物の明度が増加し、青色部分が白色のように変わって見える。同一の試験担当者が、全ての被験者のアトピー性皮膚症状のある部位のうち、試験部位として選定した部位を測定し、これに対する分析は、イプシロン E100専用分析プログラムであるEpsilon E100 Software Installer V1を用いて皮膚水分の変化を分析した。試験物質の使用前と比べて測定値が増加するほど、表皮水分が改善されたことを意味する。機器測定は、試験物質の使用前と使用直後、4週間使用後、8週間使用後の時点で行った。
【0057】
その結果、皮膚水分が試験物質の使用前と比べて、使用直後215.37%、4週間使用後75.80%、8週間使用後79.47%が減少する変化を示した(表6)。また、試験物質の使用前と比べて、使用直後、4週間使用後、8週間使用後において統計的に有意に示し(p<.001)、試験物質が表皮水分の改善に役立つものと判断される。
【0058】
【表6】
【0059】
試験例3−3:バポメーター(Vapometer)による経皮水分喪失量の改善効能評価
【0060】
試験物質の経皮水分喪失量の改善評価のために、バポメーター(Delfin, Technologies Ltd., Finland)を適用した。同一の試験担当者が、全ての被験者のアトピー性皮膚症状のある部位のうち、試験部位として選定された部位に同一の内力でプローブを接触して経皮水分喪失量を測定した。バポメーターは、測定チャンバ内の湿度センサにより、チャンバ内部の相対湿度(RH)の増加による蒸発量を測定し、測定単位は、g/m2/hである。試験物質の使用前と比べて測定値が減少するほど、経皮水分喪失量が改善されたことを意味する。機器測定は、試験物質の使用前と使用直後、4週間使用後、8週間使用後の時点で行った。
【0061】
その結果、経皮水分喪失量が試験物質の使用前と比べて、使用直後15.76%、4週間使用後30.90%、8週間使用後41.33%が減少する変化を示した。また、試験物質の使用前と比べて、使用直後、4週間使用後、8週間使用後において統計的に有意に示し(p<.01)、試験物質が経皮水分喪失量の改善に役立つものと示された(表7)。
【0062】
【表7】
【0063】
試験例3−4:ビデオマイクロスコープとイメージ分析プログラムによる角質改善効能評価
【0064】
試験物質の角質改善評価のために、ビデオマイクロスコープ(Skin Diagnosis System SDM, Bomtech, Korea)とイメージ分析プログラム(Image J, National Institutes of Health, USA)を適用した。ビデオマイクロスコープは、一貫した撮影のために、均一な照明と同一のポジションにおいて、同一の試験担当者が、全ての被験者のアトピー性皮膚症状のある部位のうち、試験部位として選定した部位を250倍拡大して測定した。測定された画像は、大津の方法により閾値を求め、二値化しており、二値化された画像は、閾値以上の白色部位を角質と判断し、全体面積上の割合で分析した。試験物質の使用前と比べて測定値が減少するほど、角質が改善されたことを意味する。機器測定は、試験物質の使用前と使用直後、4週間使用後、8週間使用後の時点で行った。
【0065】
その結果、皮膚角質度が試験物質の使用前と比べて、使用直後62.87%、4週間使用後55.84%、8週間使用後63.47%が減少する変化を示した。また、試験物質の使用前と比べて、使用直後、4週間使用後、8週間使用後において統計的に有意に示し(p<.001)、試験物質が角質の改善に役立つものと示された(表8)。
【0066】
【表8】
【0067】
試験例3−5:メグザメーター(Mexameter)による皮膚鎮静効能評価
【0068】
試験物質の皮膚鎮静効果の評価のために、メグザメーター(Mexameter MX18,Courage−Khazaka Electronic GmbH, Cologne, Germany)を適用した。同一の試験担当者が、全ての被験者のアトピー性皮膚症状のある部位のうち、試験部位として選定した部位の同一の地点を同一の圧力で3回連続して測定し、その平均値を算定して分析に用いた。メグザメーターは、メラニンまたはヘモグロビン(赤み)に対応する異なる種類の波長帯を有する光線を照射して反射される程度を光学的測定技法により数値で表示し、測定値は、メラニン指数(melanin index)とエリシーマ指数(erythema index)で構成されている。メラニン指数は、皮膚に存在するメラニンの量を示し、エリシーマ指数は、皮膚に存在するヘモグロビンの量を示す。試験物質の皮膚鎮静効果を測定する値としては、皮膚の赤みを示すエリシーマ指数を用いており、試験物質の使用前と比べて測定値が減少するほど、皮膚鎮静効果があることを意味する。機器測定は、試験物質の使用前と使用直後、4週間使用後、8週間使用後の時点で行った。
【0069】
その結果、皮膚の赤みを示すエリシーマ指数が、試験物質の使用前と比べて、4週間使用後14.60%、8週間使用後19.68%が減少する変化を示した。また、試験物質の使用前と比べて、4週間使用後、8週間使用後において統計的に有意に示し(p<.001)、試験物質が皮膚鎮静効果に役立つものと示された(表9)。
【0070】
【表9】
【0071】
試験例3−6:乾燥による痒み緩和効能評価
【0072】
(1)モイスチャーメータDコンパクトによる真皮保湿改善評価
【0073】
試験物質の乾燥による痒み緩和評価のうち、真皮保湿改善評価のために、モイスチャーメータDコンパクト(Delfine Technologies Ltd., Finland)を適用し、同一の試験担当者が、全ての被験者のアトピー性皮膚症状のある部位のうち、試験部位として選定した部位に垂直でプローブを接触し、10秒間水平を維持しながら真皮水分を測定した。モイスチャーメータDコンパクトは、プローブにより、300MHzの周波数で、2mm深さの皮膚組織遺伝率(TDC)を測定し、測定単位は%である。試験物質の使用前と比べて測定値が増加するほど、真皮保湿が改善されたことを意味し、機器測定は、試験物質の使用前と使用直後、4週間使用後、8週間使用後の時点で行った。
【0074】
その結果、真皮水分が、試験物質の使用前と比べて、使用直後21.87%、4週間使用後11.66%、8週間使用後18.47%が増加する変化を示した。また、試験物質の使用前と比べて、使用直後、4週間使用後、8週間使用後において統計的に有意に示し(p<.01)、試験物質が真皮保湿の改善に役立つものと示された(表10)。
【0075】
【表10】
【0076】
(2)被験者へのアンケート調査を用いた乾燥による痒み緩和評価
【0077】
本試験では、被験者の試験物質の使用前後の痒み症による行動及び習慣状態に関する5つの質問と、10cmの視覚的アナログスケール(VAS、0=全くない、10=非常に甚だしい)を用いて、試験物質の使用前後の痒み症による心理状態に関する3つの質問を行った。
【0078】
本実施例の統計処理は、SPSS 17.0 for Windowsプログラムを用いて分析した。被験者の乾燥による痒み緩和のアンケート調査分析のために、ウィルコクソン符号順位検定(Wilcoxon−signed ranks test)分析を行い、一般のアンケート調査用紙の分析は、平均、標準偏差、頻度、百分率について行った。また、様々な皮膚改善度への機器測定結果の有意な変化有無を分析するために、対応のあるt-検定(paired t−test)を行った。
【0079】
その結果、表11に示すように、痒みの程度は、試験物質使用前の3.25から4週間使用後の2.17、8週間使用後の1.25へ、痒みの頻度は、試験物質使用前の2.88から4週間使用後の1.58、8週間使用後の1.00へ、睡眠時の痒みの程度は、試験物質使用前の2.54から4週間使用後の1.33、8週間使用後の0.67へ、痒みが最も甚だしいときの痒みの程度は、試験物質使用前の3.88から4週間使用後の2.54、8週間使用後の1.50へ、痒みが最も少ないときの痒みの程度は、試験物質使用前の2.58から4週間使用後の1.29、8週間使用後の0.79へ、それぞれ減少することを示した。また、試験物質の使用前と比べて、4週間使用後、8週間使用後において統計的に有意に示し(p<.001)、試験物質が痒み症による行動及び習慣状態の改善に役立つものと示された。
【0080】
【表11】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のアトピー性皮膚症状改善用の組成物を皮膚に用いる場合、表皮及び経皮水分喪失を抑制し、角質を改善し、優れた皮膚鎮静効果を提供するだけでなく、乾燥による痒みを緩和し、アトピー性皮膚症状の全般にわたって優れた改善効果を示す。
【0082】
以上、本発明の内容の特定な部分について詳述したが、当業界の通常の知識を有する者にとって、このような具体的技術は、単に好適な実施態様であるだけであり、これにより本発明の範囲が制限されるものではないことが明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とそれらの等価物により定義されると言うべきであろう。
なお、本発明としては、以下の態様も好ましい。
〔1〕 高分子量ポリγグルタミン酸及び低分子量ポリγグルタミン酸を有効成分として含有するアトピー性皮膚症状改善用の皮膚外用剤組成物。
〔2〕 前記高分子量ポリγグルタミン酸及び前記低分子量ポリγグルタミン酸を1:1乃至1:5の割合で含有することを特徴とする請求項1に記載のアトピー性皮膚症状改善用の皮膚外用剤組成物。
〔3〕 前記高分子量ポリγグルタミン酸の分子量が、1,500kDa〜3,500kDaであることを特徴とする請求項1に記載のアトピー性皮膚症状改善用の皮膚外用剤組成物。
〔4〕 前記低分子量ポリγグルタミン酸の分子量が、0.5kDa〜2kDaであることを特徴とする請求項1に記載のアトピー性皮膚症状改善用の皮膚外用剤組成物。