特許第6840900号(P6840900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6840900硬化性組成物、硬化物、及び、硬化性組成物の使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6840900
(24)【登録日】2021年2月19日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】硬化性組成物、硬化物、及び、硬化性組成物の使用方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/08 20060101AFI20210301BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20210301BHJP
   C08K 5/544 20060101ALI20210301BHJP
   C08K 5/5435 20060101ALI20210301BHJP
   C08G 77/24 20060101ALI20210301BHJP
   C09J 183/08 20060101ALI20210301BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20210301BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20210301BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20210301BHJP
   H01L 33/56 20100101ALI20210301BHJP
【FI】
   C08L83/08
   C08K3/013
   C08K5/544
   C08K5/5435
   C08G77/24
   C09J183/08
   H01L23/30 F
   H01L21/56 J
   H01L33/56
【請求項の数】9
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2020-522748(P2020-522748)
(86)(22)【出願日】2019年9月27日
(86)【国際出願番号】JP2019038222
(87)【国際公開番号】WO2020067452
(87)【国際公開日】20200402
【審査請求日】2020年4月21日
(31)【優先権主張番号】特願2018-183182(P2018-183182)
(32)【優先日】2018年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 治仁
(72)【発明者】
【氏名】梅田 明来子
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 学
(72)【発明者】
【氏名】中山 秀一
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−010849(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/110948(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/141360(WO,A1)
【文献】 特開2012−116990(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/101753(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102190956(CN,A)
【文献】 特開2018−178003(JP,A)
【文献】 HYEON-LEE,J. et al.,Synthesis of Poly(methyl-co-trifluoropropyl)-silsesquioxanes and Their Thin Films for Low Dielectric Application,Macromolecular Materials and Engineering,2003年,Vol.288, No.5,pp.455-461
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
C08G 77/00− 77/62
C09J 9/00−201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分、及び、(E)成分を含有することを特徴とする硬化性組成物。
(A)成分:下記式(a−1)で示される繰り返し単位、及び、式(a−2)で示される繰り返し単位を有し、前記式(a−1)で示される繰り返し単位の割合が、全繰り返し単位に対して25〜85mol%であり、前記式(a−2)で示される繰り返し単位の割合が、全繰り返し単位に対して15〜75mol%である硬化性ポリシルセスキオキサン化合物であって、下記要件1及び要件2を満たすことを特徴とする硬化性ポリシルセスキオキサン化合物
【化1】
〔Rは、組成式:C(2m−n+1)で表されるフルオロアルキル基を表す。mは1〜10の整数、nは2以上、(2m+1)以下の整数を表す。Dは結合を表す。〕
【化2】
〔Rは、無置換の炭素数1〜10のアルキル基、又は、置換基を有する、若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基を表す。〕
〔要件1〕
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物の29Si−NMRを測定したときに、−62ppm以上−52ppm未満の領域〔領域(2)〕に1又は2以上のピークが観測され、−52ppm以上−45ppm未満の領域〔領域(1)〕と−73ppm以上−62ppm未満の領域〔領域(3)〕の少なくとも一方の領域に1又は2以上のピークが観測され、かつ、下記式で導かれるZ2が、20〜40%である。
【数1】
P1:領域(1)における積分値
P2:領域(2)における積分値
P3:領域(3)における積分値
〔要件2〕
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物の質量平均分子量(Mw)が、4,000〜11,000である。
(E)成分:平均一次粒子径が0.04μm超、8μm以下の微粒子
【請求項2】
前記硬化性ポリシルセスキオキサン化合物の29Si−NMRを測定したときに、領域(3)に1又は2以上のピークが観測され、かつ、下記式で導かれるZ3が、60〜80%である、請求項1記載の硬化性組成物。
【数2】
【請求項3】
さらに、下記(B)成分を含有する、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
(B)成分:分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤
【請求項4】
さらに、下記(C)成分を含有する、請求項1〜のいずれかに記載の硬化性組成物。
(C)成分:分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤
【請求項5】
さらに、下記(D)成分を含有する、請求項1〜のいずれかに記載の硬化性組成物。
(D)成分:平均一次粒子径が5〜40nmの微粒子
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載の硬化性組成物を硬化して得られる硬化物。
【請求項7】
光素子固定材である請求項に記載の硬化物。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載の硬化性組成物を、光素子固定材用接着剤として使用する方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載の硬化性組成物を、光素子固定材用封止材として使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性に優れ、かつ、屈折率が低い硬化性組成物、前記硬化性組成物を硬化してなる、接着強度が高い硬化物、及び、前記硬化性組成物を、光素子固定材用接着剤又は光素子固定材用封止材として使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硬化性組成物は用途に応じて様々な改良がなされ、光学部品や成形体の原料、接着剤、コーティング剤等として産業上広く利用されてきている。
また、硬化性組成物は、光素子固定材用接着剤や光素子固定材用封止材等の光素子固定材用組成物としても注目を浴びてきている。
【0003】
光素子には、半導体レーザー(LD)等の各種レーザーや発光ダイオード(LED)等の発光素子、受光素子、複合光素子、光集積回路等がある。
近年においては、発光のピーク波長がより短波長である青色光や白色光の光素子が開発され広く使用されてきている。このような発光のピーク波長の短い発光素子の高輝度化が飛躍的に進み、これに伴い、光素子の発熱量がさらに大きくなっていく傾向にある。
【0004】
ところが、近年における光素子の高輝度化に伴い、光素子固定材用組成物の硬化物が、より高いエネルギーの光や光素子から発生するより高温の熱に長時間さらされ、接着力が低下するという問題が生じた。
【0005】
この問題を解決するべく、特許文献1〜3には、ポリシルセスキオキサン化合物を主成分とする光素子固定材用組成物が提案されている。
しかしながら、特許文献1〜3に記載された組成物の硬化物であっても、十分な接着力を保ちつつ、耐熱性を得るのは困難な場合があった。
【0006】
また、硬化性組成物を用いて光素子等を固定する場合、目的に合った屈折率を有する硬化物を形成することが重要になることが多い。特に、従来の硬化性組成物やその硬化物は屈折率が高いものが多かったため、屈折率がより低い硬化性組成物が求められていた。
【0007】
特許文献4には、屈折率が低い硬化物を与える硬化性組成物として、フルオロアルキル基を有する硬化性ポリシルセスキオキサン化合物を含有する硬化性組成物が記載されている。
しかしながら、特許文献4の実施例で示されるように、フルオロアルキル基を有する繰り返し単位の割合が高い硬化性ポリシルセスキオキサン化合物を含有する硬化性組成物を用いた場合、接着強度が高い硬化物を得ることは困難であった。このように、特許文献4に記載の硬化性組成物の硬化物は、高い接着強度と低い屈折率の間にトレードオフの関係があった。このため、特許文献4に記載の硬化性組成物を用いた場合、高い接着強度と低い屈折率の両方の特性を有する硬化物を得ることは困難であった。
【0008】
また、硬化性組成物にフィラー等を添加することで、作業性等が改善することが知られている。
しかしながら、一般に、フィラー等を含有する硬化性組成物やその硬化物は屈折率が高くなる傾向があるため、フィラー等を添加しても、屈折率が低い硬化性組成物が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−359933号公報
【特許文献2】特開2005−263869号公報
【特許文献3】特開2006−328231号公報
【特許文献4】WO2017/110948号(US2018/0355111 A1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、硬化性に優れ、かつ、屈折率が低い硬化性組成物、この硬化性組成物を硬化してなる、接着強度が高い硬化物、及び、前記硬化性組成物を、光素子固定材用接着剤又は光素子固定材用封止材として使用する方法を提供することを目的とする。
本発明において、「硬化性組成物」とは、加熱等の所定の条件を満たすことにより、硬化物に変化する組成物をいう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、フルオロアルキル基を有する硬化性ポリシルセスキオキサン化合物について鋭意検討を重ねた。
その結果、
(1)硬化性ポリシルセスキオキサン化合物にフルオロアルキル基を導入することにより硬化物の接着強度が低下するという問題は、特定の繰り返し単位を有し、かつ、分子構造に関する要件(後述する要件1)と、分子量に関する要件(後述する要件2)を共に満たす硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(以下、「硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)」ということがある。)を用いることで解決し得ること、及び、
(2)硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)を含有する硬化性組成物は、硬化性に優れるという特性を有するため、過度に加熱することなく硬化反応を行うことができるという利点をも有すること、
を見出した。
さらに、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)と平均一次粒子径が0.04μm超、8μm以下の微粒子を含有する硬化性組成物を用いることで、耐剥離性に優れる硬化物を形成することができることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0012】
かくして本発明によれば、下記〔1〕〜〔8〕の硬化性組成物、〔9〕、〔10〕の硬化物、及び〔11〕、〔12〕の硬化性組成物の使用方法が提供される。
【0013】
〔1〕下記(A)成分、及び、(E)成分を含有することを特徴とする硬化性組成物。
(A)成分:下記式(a−1)で示される繰り返し単位を有する硬化性ポリシルセスキオキサン化合物であって、下記要件1及び要件2を満たすことを特徴とする硬化性ポリシルセスキオキサン化合物
【0014】
【化1】
【0015】
〔Rは、組成式:C(2m−n+1)で表されるフルオロアルキル基を表す。mは1〜10の整数、nは2以上、(2m+1)以下の整数を表す。Dは、RとSiとを結合する連結基(ただし、アルキレン基を除く)又は単結合を表す。〕
〔要件1〕
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物の29Si−NMRを測定したときに、−62ppm以上−52ppm未満の領域〔領域(2)〕に1又は2以上のピークが観測され、−52ppm以上−45ppm未満の領域〔領域(1)〕と−73ppm以上−62ppm未満の領域〔領域(3)〕の少なくとも一方の領域に1又は2以上のピークが観測され、かつ、下記式で導かれるZ2が、20〜40%である。
【0016】
【数1】
【0017】
P1:領域(1)における積分値
P2:領域(2)における積分値
P3:領域(3)における積分値
〔要件2〕
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物の質量平均分子量(Mw)が、4,000〜11,000である。
(E)成分:平均一次粒子径が0.04μm超、8μm以下の微粒子
〔2〕前記硬化性ポリシルセスキオキサン化合物が、式(a−1)で示される繰り返し単位の割合が、全繰り返し単位に対して25mol%以上のものである、〔1〕に記載の硬化性組成物。
〔3〕前記硬化性ポリシルセスキオキサン化合物が、さらに、下記式(a−2)で示される繰り返し単位を有するものである、〔1〕又は〔2〕に記載の硬化性組成物。
【0018】
【化2】
【0019】
〔Rは、無置換の炭素数1〜10のアルキル基、又は、置換基を有する、若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基を表す。〕
〔4〕前記硬化性ポリシルセスキオキサン化合物が、式(a−2)で示される繰り返し単位の割合が、全繰り返し単位に対して0mol%超、75mol%以下のものである、〔3〕に記載の硬化性組成物。
〔5〕前記硬化性ポリシルセスキオキサン化合物の29Si−NMRを測定したときに、領域(3)に1又は2以上のピークが観測され、かつ、下記式で導かれるZ3が、60〜80%である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0020】
【数2】
【0021】
〔6〕さらに、下記(B)成分を含有する、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の硬化性組成物。
(B)成分:分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤
〔7〕さらに、下記(C)成分を含有する、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の硬化性組成物。
(C)成分:分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤
〔8〕さらに、下記(D)成分を含有する、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の硬化性組成物。
(D)成分:平均一次粒子径が5〜40nmの微粒子
〔9〕前記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の硬化性組成物を硬化して得られる硬化物。
〔10〕光素子固定材である〔9〕に記載の硬化物。
〔11〕前記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の硬化性組成物を、光素子固定材用接着剤として使用する方法。
〔12〕前記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の硬化性組成物を、光素子固定材用封止材として使用する方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、硬化性に優れ、かつ、屈折率が低い硬化性組成物、この硬化性組成物を硬化してなる、接着強度が高い硬化物、及び、前記硬化性組成物を、光素子固定材用接着剤又は光素子固定材用封止材として使用する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を、1)硬化性組成物、2)硬化物、及び、3)硬化性組成物の使用方法、に項分けして詳細に説明する。
【0024】
1)硬化性組成物
本発明の硬化性組成物は、下記(A)成分、及び、(E)成分を含有する。
(A)成分:上記式(a−1)で示される繰り返し単位を有する硬化性ポリシルセスキオキサン化合物であって、上記要件1及び要件2を満たすことを特徴とする硬化性ポリシルセスキオキサン化合物〔硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)〕
(E)成分:平均一次粒子径が0.04μm超、8μm以下の微粒子
なお、本発明において、「硬化性ポリシルセスキオキサン化合物」とは、加熱等の所定の条件を満たすことにより、単独で硬化物に変化するポリシルセスキオキサン化合物、又は、前記硬化性組成物において硬化性成分として機能するポリシルセスキオキサン化合物をいう。
【0025】
〔(A)成分〕
本発明の硬化性組成物を構成する(A)成分は、下記式(a−1)で示される繰り返し単位を有する硬化性ポリシルセスキオキサン化合物であって、上記要件1及び要件2を満たすことを特徴とする硬化性ポリシルセスキオキサン化合物である。
【0026】
【化3】
【0027】
〔Rは、組成式:C(2m−n+1)で表されるフルオロアルキル基を表す。mは1〜10の整数、nは2以上、(2m+1)以下の整数を表す。Dは、RとSiとを結合する連結基(ただし、アルキレン基を除く)又は単結合を表す。〕
【0028】
式(a−1)中、Rは、組成式:C(2m−n+1)で表されるフルオロアルキル基を表す。mは1〜10の整数、nは2以上、(2m+1)以下の整数を表す。mは、好ましくは1〜5の整数、より好ましくは1〜3の整数である。
を有する硬化性ポリシルセスキオキサン化合物を用いることで、屈折率が低い硬化性組成物を得ることができる。
【0029】
組成式:C(2m−n+1)で表されるフルオロアルキル基としては、CF、CFCF、CF(CF、CF(CF、CF(CF、CF(CF、CF(CF、CF(CF、CF(CF、CF(CF等のパーフルオロアルキル基;CFCHCH、CF(CFCHCH、CF(CFCHCH、CF(CFCHCH等のハイドロフルオロアルキル基;が挙げられる。
【0030】
式(a−1)中、Dは、RとSiとを結合する連結基(ただし、アルキレン基を除く)又は単結合を表す。
Dの連結基としては、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,2−フェニレン基、1,5−ナフチレン基等の炭素数が6〜20のアリーレン基が挙げられる。
【0031】
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)は、1種の(R−D)を有するもの(単独重合体)であっても、2種以上の(R−D)を有するもの(共重合体)であってもよい。
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)が共重合体である場合、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体等のいずれであってもよいが、製造容易性等の観点からは、ランダム共重合体が好ましい。
また、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)の構造は、ラダー型構造、ダブルデッカー型構造、籠型構造、部分開裂籠型構造、環状型構造、ランダム型構造のいずれの構造であってもよい。
【0032】
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)に含まれる式(a−1)で示される繰り返し単位の割合は、全繰り返し単位に対して好ましくは25mol%以上、より好ましくは25〜90mol%、さらに好ましくは25〜85mol%である。
式(a−1)で示される繰り返し単位の割合が、全繰り返し単位に対して25mol%以上の硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)を用いることで、屈折率がより低い硬化性組成物を得ることができる。
【0033】
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)は、さらに、下記式(a−2)で示される繰り返し単位を有するもの(共重合体)であってもよい。
【0034】
【化4】
【0035】
式(a−2)中、Rは、無置換の炭素数1〜10のアルキル基、又は、置換基を有する、若しくは無置換の炭素数6〜12のアリール基を表す。
【0036】
の無置換の炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
【0037】
の無置換の炭素数6〜12のアリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。
の置換基を有する炭素数6〜12のアリール基の置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基等のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;が挙げられる。
【0038】
これらの中でも、Rとしては、接着強度がより高く、耐熱性により優れる硬化物が得られ易いことから、無置換の炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、無置換の炭素数1〜6のアルキル基がより好ましく、無置換の炭素数1〜3のアルキル基が特に好ましい。
【0039】
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)が式(a−2)で示される繰り返し単位を有するものである場合、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)は、1種のRを有するものであっても、2種以上のRを有するものであってもよい。
【0040】
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)が式(a−2)で示される繰り返し単位を有するものである場合、その割合は、全繰り返し単位に対して好ましくは0mol%超、75mol%以下、より好ましくは10〜75mol%、さらに好ましくは15〜75mol%である。
式(a−2)で示される繰り返し単位の割合が上記範囲内の硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)を用いることで、接着強度がより高く、耐熱性により優れる硬化物が得られ易くなる。
【0041】
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)中の、式(a−1)や式(a−2)で示される繰り返し単位の割合は、例えば、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)の29Si−NMRを測定することにより求めることができる。
【0042】
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)は、アセトン等のケトン系溶媒;ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルスルホキシド等の含硫黄系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;クロロホルム等の含ハロゲン系溶媒;及びこれらの2種以上からなる混合溶媒;等の各種有機溶媒に可溶であるため、これらの溶媒を用いて、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)の溶液状態での29Si−NMRを測定することができる。
【0043】
式(a−1)で示される繰り返し単位や、式(a−2)で示される繰り返し単位は、下記式(a−3)で示されるものである。
【0044】
【化5】
【0045】
〔Gは、(R−D)又はRを表す。R、D、Rは、それぞれ上記と同じ意味を表す。O1/2とは、酸素原子が隣の繰り返し単位と共有されていることを表す。〕
【0046】
式(a−3)で示されるように、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)は、一般にTサイトと総称される、ケイ素原子に酸素原子が3つ結合し、それ以外の基(Gで表される基)が1つ結合してなる部分構造を有する。
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)に含まれるTサイトとしては、下記式(a−4)〜(a−6)で示されるものが挙げられる。
【0047】
【化6】
【0048】
式(a−4)、(a−5)及び(a−6)中、Gは、上記と同じ意味を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。Rの炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。複数のR同士は、すべて同一であっても相異なっていてもよい。また、上記式(a−4)〜(a−6)中、*には、ケイ素原子が結合している。
【0049】
式(a−4)及び式(a−5)で示されるTサイトは、重縮合反応に寄与し得る基(R−O)を含む。したがって、これらのTサイトを多く含むポリシルセスキオキサン化合物は反応性に優れる。また、このようなポリシルセスキオキサン化合物を含有する組成物は硬化性に優れる。
一方、式(a−5)及び式(a−6)で示されるTサイトは、2以上のケイ素原子(隣のTサイト中のケイ素原子)と結合している。したがって、これらのTサイトを多く含むポリシルセスキオキサン化合物は、大きな分子量を有する傾向がある。
【0050】
したがって、式(a−5)で示されるTサイトを多く含むポリシルセスキオキサン化合物は、比較的大きな分子量を有し、かつ、十分な反応性を有する。
以下に説明するように、本発明に用いる硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)は、これらの特性を有するものである。
【0051】
まず、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)は、以下の要件1を満たす。
〔要件1〕
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物の29Si−NMRを測定したときに、−62ppm以上−52ppm未満の領域〔領域(2)〕に1又は2以上のピークが観測され、−52ppm以上−45ppm未満の領域〔領域(1)〕と−73ppm以上−62ppm未満の領域〔領域(3)〕の少なくとも一方の領域に1又は2以上のピークが観測され、かつ、下記式で導かれるZ2が、20〜40%である。
なお、「領域(1)に観測されるピーク」とは、ピークトップが、領域(1)の範囲にあることをいう。「領域(2)に観測されるピーク」、「領域(3)に観測されるピーク」についても同様である。
【0052】
【数3】
【0053】
P1:領域(1)における積分値
P2:領域(2)における積分値
P3:領域(3)における積分値
【0054】
本明細書において、「領域(1)における積分値」、「領域(2)における積分値」、「領域(3)における積分値」とは、それぞれ、−52ppm〜−45ppm、−62ppm〜−52ppm、−73ppm〜−62ppmを積分範囲として計算して得られた値をいう。
【0055】
領域(1)、領域(2)、領域(3)に観測されるピークは、それぞれ、式(a−4)、式(a−5)、式(a−6)で示されるTサイト中のケイ素原子に由来するものである。
【0056】
したがって、要件1を満たす硬化性ポリシルセスキオキサン化合物は、式(a−5)で示されるTサイトを、Tサイト全体に対して20〜40%含むものである。
この硬化性ポリシルセスキオキサン化合物は、上記のように、比較的大きな分子量を有し、かつ、十分な反応性を有するものであり、硬化性組成物の硬化性成分として有用である。
【0057】
要件1中、Z2の値は、好ましくは24〜36%、より好ましくは27〜32%である。Z2が小さ過ぎると反応性が十分でなく、Z2が大き過ぎると貯蔵安定性が低下する。
【0058】
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)は、29Si−NMRを測定したときに、領域(3)に1又は2以上のピークが観測され、かつ、下記式で導かれるZ3が、60〜80%であることが好ましい。
【0059】
【数4】
【0060】
Z3が60〜80%である硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)は、式(a−6)で示されるTサイトを、Tサイト全体に対して60〜80%含むものである。
Z3の値が60〜80%の範囲内の硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)は、分子量と反応性のバランスにより優れるものである。
この効果がより得られ易いことから、Z3の値は、64〜76%がより好ましく、68〜73%がさらに好ましい。
【0061】
Z2やZ3の値は、例えば、実施例に記載の条件で29Si−NMRを測定し、P1〜P3を得、上記式に従って算出することができる。
【0062】
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)は、上記要件2を満たすものである。
すなわち、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)の質量平均分子量(Mw)は、4,000〜11,000であり、好ましくは4,000〜8,000、より好ましくは6,000〜7,000である。
【0063】
上記のように、要件1を満たす硬化性ポリシルセスキオキサン化合物は、比較的大きな分子量を有する傾向がある。要件2は、その分子量の範囲を明確にするものである。
質量平均分子量(Mw)が上記範囲内にある硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)を硬化性成分として用いることで、接着強度が高く、耐熱性に優れる硬化物を与える硬化性組成物を得ることができる。
【0064】
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、特に制限されないが、通常1.0〜10.0、好ましくは1.1〜6.0の範囲である。分子量分布(Mw/Mn)が上記範囲内にある硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)を硬化性成分として用いることで、接着性及び耐熱性により優れる硬化物を与える硬化性組成物を得ることができる。
質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、例えば、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値として求めることができる。
【0065】
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)は、例えば、下記式(a−7)で示される化合物(以下、「シラン化合物(1)」ということがある。)、又は、シラン化合物(1)及び下記式(a−8)で示される化合物(以下、「シラン化合物(2)」ということがある。)を、重縮合触媒の存在下に重縮合させることにより製造することができる。
【0066】
【化7】
【0067】
式(a−7)、(a−8)中、R、R、Dは、上記と同じ意味を表す。R、Rは、それぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基を表し、X、Xは、それぞれ独立にハロゲン原子を表し、p、qは、それぞれ独立に0〜3の整数を表す。複数のR、R、及び複数のX、Xは、それぞれ、互いに同一であっても、相異なっていてもよい。
【0068】
、Rの炭素数1〜10のアルキル基としては、Rの炭素数1〜10のアルキル基として示したものと同様のものが挙げられる。
、Xのハロゲン原子としては、塩素原子、及び臭素原子等が挙げられる。
【0069】
シラン化合物(1)としては、CFSi(OCH、CFCFSi(OCH、CFCFCFSi(OCH、CFCFCFCFSi(OCH、CFCHCHSi(OCH、CFCFCFCFCHCHSi(OCH、CFCFCFCFCFCFCHCHSi(OCH、CFCFCFCFCFCFCFCFCHCHSi(OCH、CF(C)Si(OCH(4−(トリフルオロメチル)フェニルトリメトキシシラン)、CFSi(OCHCH、CFCFSi(OCHCH、CFCFCFSi(OCHCH、CFCFCFCFSi(OCHCH、CFCHCHSi(OCHCH、CFCFCFCFCHCHSi(OCHCH、CFCFCFCFCFCFCHCHSi(OCHCH、CFCFCFCFCFCFCFCFCHCHSi(OCHCH、CF(C)Si(OCHCH、4−(トリフルオロメチル)フェニルトリエトキシシラン等のフルオロアルキルトリアルコキシシラン化合物類;
CFSiCl(OCH、CFCFSiCl(OCH、CFCFCFSiCl(OCH、CFSiBr(OCH、CFCFSiBr(OCH、CFCFCFSiBr(OCH
CFCFCFCFSiCl(OCH、CFCHCHSiCl(OCH、CFCFCFCFCHCHSiCl(OCH、CFCFCFCFCFCFCHCHSiCl(OCH、CFCFCFCFCFCFCFCFCHCHSiCl(OCH、CF(C)SiCl(OCH、4−(トリフルオロメチル)フェニルクロロジメトキシシラン、CFSiCl(OCHCH、CFCFSiCl(OCHCH、CFCFCFSiCl(OCHCH、CFCFCFCFSiCl(OCHCH、CFCHCHSiCl(OCHCH、CFCFCFCFCHCHSiCl(OCHCH、CFCFCFCFCFCFCHCHSiCl(OCHCH、CFCFCFCFCFCFCFCFCHCHSiCl(OCHCH、CF(C)SiCl(OCHCH、4−(トリフルオロメチル)フェニルクロロジエトキシシラン等のフルオロアルキルハロゲノジアルコキシシラン化合物類;
CFSiCl(OCH)、CFCFSiCl(OCH)、CFCFCFSiCl(OCH)、CFCFCFCFSiCl(OCH)、CFCHCHSiCl(OCH)、CFCFCFCFCHCHSiCl(OCH)、CFCFCFCFCFCFCHCHSiCl(OCH)、CFCFCFCFCFCFCFCFCHCHSiCl(OCH)、CF(C)SiCl(OCH)、4−(トリフルオロメチル)フェニルジクロロメトキシシラン、CFSiCl(OCHCH)、CFCFSiCl(OCHCH)、CFCFCFSiCl(OCHCH)、CFCFCFCFSiCl(OCHCH)、CFCHCHSiCl(OCHCH)、CFCFCFCFCHCHSiCl(OCHCH)、CFCFCFCFCFCFCHCHSiCl(OCHCH、CFCFCFCFCFCFCFCFCHCHSiCl(OCHCH)、CF(C)SiCl(OCHCH)、4−(トリフルオロメチル)フェニルジクロロエトキシシラン等のフルオロアルキルジハロゲノアルコキシシラン化合物類;
CFSiCl、CFCFSiCl、CFSiBr、CFCFSiBr、CFCFCFSiCl、CFCFCFCFSiCl、CFCHCHSiCl、CFCFCFCFCHCHSiCl、CFCFCFCFCFCFCHCHSiCl、CFCFCFCFCFCFCFCFCHCHSiCl、CF(C)SiCl、4−トリフルオロメチルフェニルトリクロロシシラン、CFSiCl、CFCFSiCl、CFCFCFSiCl、CFCFCFCFSiCl、CFCHCHSiCl、CFCFCFCFCHCHSiCl、CFCFCFCFCFCFCHCHSiCl、CFCFCFCFCFCFCFCFCHCHSiCl、CF(C)SiCl、4−(トリフルオロメチル)フェニルトリクロロシラン等のフルオロアルキルトリハロゲノシラン化合物類;が挙げられる。
シラン化合物(1)は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、シラン化合物(1)としては、フルオロアルキルトリアルコキシシラン化合物類に含まれるものが好ましい。
【0070】
シラン化合物(2)としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリプロポキシシラン、n−プロピルトリブトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、イソオクチルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン化合物類;
【0071】
メチルクロロジメトキシシラン、メチルクロロジエトキシシラン、メチルジクロロメトキシシラン、メチルブロモジメトキシシラン、エチルクロロジメトキシシラン、エチルクロロジエトキシシラン、エチルジクロロメトキシシラン、エチルブロモジメトキシシラン、n−プロピルクロロジメトキシシラン、n−プロピルジクロロメトキシシラン、n−ブチルクロロジメトキシシラン、n−ブチルジクロロメトキシシラン等のアルキルハロゲノアルコキシシラン化合物類;
【0072】
メチルトリクロロシラン、メチルトリブロモシラン、エチルトリトリクロロシラン、エチルトリブロモシラン、n−プロピルトリクロロシラン、n−プロピルトリブロモシラン、n−ブチルトリクロロシラン、イソブチルトリクロロシラン、n−ペンチルトリクロロシラン、n−ヘキシルトリクロロシラン、イソオクチルトリクロロシラン等のアルキルトリハロゲノシラン化合物類;等が挙げられる。
シラン化合物(2)は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、シラン化合物(2)としては、アルキルトリアルコキシシラン化合物類に含まれるものが好ましい。
【0073】
上記シラン化合物を重縮合させる方法は特に限定されず、公知の方法を利用することができる。ただし、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)の製造においては以下に示す問題があるため、反応条件を特別に検討する必要がある。
【0074】
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)を製造する際の問題の一つは、上記特許文献4に示されている。すなわち、上記特許文献4の表1を見ると、フルオロアルキル基を有するシラン化合物の使用割合が増加するにしたがって、得られる重合体は低分子量化する傾向があることが分かる。
このように、シラン化合物(1)の反応性とシラン化合物(2)の反応性は大きく異なるため、シラン化合物(2)の重縮合反応に関する従来の知見をそのまま利用して、要件1及び要件2を満たす硬化性ポリシルセスキオキサン化合物を得ることは困難である。
【0075】
特許文献4の実施例においては、実際に、フルオロアルキル基を有するシラン化合物を用いて重縮合反応を行い、重合体を製造している。しかしながら、上記のように、この文献に記載の製造方法においては、反応に用いたシラン化合物の混合割合が反応に大きく影響するため、重合体の分子量を制御することはできていない。
また、後述するように、特許文献4の実施例に記載の反応条件を用いることで、反応性に劣るシラン化合物(フルオロアルキル基を有するシラン化合物)を単量体として使用することはできるが、この反応条件を用いても、要件1及び要件2を満たす硬化性ポリシルセスキオキサン化合物を得ることは困難である(比較例1〜3)。
【0076】
本発明者らは、シラン化合物(1)を用いる重縮合反応について検討した結果、比較的穏やかな条件で、時間をかけて重縮合反応を行うことで、要件1及び要件2を満たす硬化性ポリシルセスキオキサン化合物が得られることが分かった。
具体的には、溶媒中、又は無溶媒で、適量の酸触媒を用いて、所定温度でシラン化合物の重縮合反応を行って製造中間体を含む反応液を得た後、塩基を加えて反応液を中和し、さらに重縮合反応を行うことで、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)を製造することができる。
【0077】
溶媒としては、水;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類;等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
溶媒を使用する場合、その使用量は、シラン化合物の総mol量1mol当たり、通常0.001〜10.000リットル、好ましくは0.010〜0.9リットルである。
【0078】
酸触媒としては、リン酸、塩酸、ホウ酸、硫酸、硝酸等の無機酸;クエン酸、酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸;等が挙げられる。これらの中でも、リン酸、塩酸、ホウ酸、硫酸、クエン酸、酢酸、及びメタンスルホン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
酸触媒の使用量は、シラン化合物の総mol量に対して、通常0.01〜2.00mol%、好ましくは0.05〜1.00mol%、より好ましくは0.10〜0.30の範囲である。
【0079】
酸触媒存在下での反応の反応温度は、通常20〜90℃、好ましくは25〜80℃である。
酸触媒存在下での反応の反応時間は、通常1〜48時間、好ましくは3〜24時間である。
【0080】
酸触媒存在下の反応により得られる製造中間体の質量平均分子量(Mw)は、通常800〜5,000、好ましくは1,200〜4,000である。
【0081】
反応液を中和する際に用いる塩基としては、アンモニア水;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、アニリン、ピコリン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、イミダゾール等の有機塩基;水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等の有機塩水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムt−ブトキシド等の金属アルコキシド;水素化ナトリウム、水素化カルシウム等の金属水素化物;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の金属炭酸水素塩;等が挙げられる。
【0082】
反応液の中和に用いる塩基の量は、シラン化合物の総mol量に対して、通常0.01〜2.00mol%、好ましくは0.05〜1.00mol%、より好ましくは0.10〜0.70の範囲である。
また反応液の中和に用いる塩基の量(mol)は、1工程前で用いた酸触媒の量(mol)の0.5〜5.0倍が好ましく、より好ましくは0.8〜3.0倍、より更に好ましくは1.0〜2.0倍である。
中和後の反応液のpHは、通常6.0〜8.0、好ましくは6.2〜7.0であり、より好ましくは6.4〜6.9である。
【0083】
中和後の反応の反応温度は、通常40〜90℃、好ましくは50〜80℃である。
中和後の反応の反応時間は、通常20〜200分間、好ましくは30〜150分間である。
【0084】
上記の製造方法では、酸触媒存在下での反応においては、加水分解を主な目的とし、中和後の反応においては、脱水縮合を主な目的としている。
このようにしてシラン化合物の重縮合反応を行うことで、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)を効率よく製造することができる。
【0085】
反応終了後は、公知の精製処理を行い、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)を単離することができる。
【0086】
本発明の硬化性組成物において、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0087】
本発明の硬化性組成物中の硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)の含有量は、硬化性組成物の固形分全体を基準として、通常40〜80質量%、好ましくは50〜70質量%である。
【0088】
〔(E)成分〕
本発明の硬化性組成物を構成する(E)成分は、平均一次粒子径が0.04μm超、8μm以下の微粒子(以下、「微粒子(E)」と記載することがある。)である。
【0089】
微粒子(E)を含有する硬化性組成物を用いることで、耐剥離性に優れる硬化物を形成することができる。
この効果がより得られ易いことから、微粒子(E)の平均一次粒子径は、好ましくは0.06〜7μm、より好ましくは0.3〜6μm、さらに好ましくは0.5〜4μmである。
【0090】
微粒子(E)の平均一次粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(例えば、株式会社堀場製作所製、製品名「LA−920」)等を用いて、レーザー散乱法による粒度分布の測定を行うことにより求められる。
【0091】
微粒子(E)の形状は、球状、鎖状、針状、板状、片状、棒状、繊維状等のいずれであってもよいが、球状であるのが好ましい。ここで、球状とは、真球状の他、回転楕円体、卵形、金平糖状、まゆ状等球体に近似できる多面体形状を含む略球状を意味する。
【0092】
微粒子(E)の構成成分としては、特に制限はなく、金属;金属酸化物;鉱物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩;水酸化アルミニウム等の金属水酸化物;珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム等の金属珪酸塩;シリカ等の無機成分;シリコーン;アクリル系重合体等の有機成分;等が挙げられる。
また、用いる微粒子(E)は表面が修飾されたものであってもよい。
【0093】
金属とは、周期表における、1族(Hを除く)、2〜11族、12族(Hgを除く)、13族(Bを除く)、14族(C及びSiを除く)、15族(N、P、As及びSbを除く)、又は16族(O、S、Se、Te及びPoを除く)に属する元素をいう。
【0094】
金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、アルミナ、ベーマイト、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化銅、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化亜鉛、及びこれらの複合酸化物等が挙げられる。金属酸化物の微粒子には、これらの金属酸化物からなるゾル粒子も含まれる。
【0095】
鉱物としては、スメクタイト、ベントナイト等が挙げられる。
スメクタイトとしては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、ノントロナイト、ソーコナイト等が挙げられる。
シリカとしては、乾式シリカ、湿式シリカ、表面修飾シリカ(表面が修飾されたシリカ)等が挙げられる。
【0096】
微粒子(E)は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、上記効果が得られ易いことから、微粒子(E)としては、シリコーンで表面が被覆された金属酸化物、シリカ及びシリコーンからなる群から選ばれる少なくとも一種の微粒子が好ましく、シリカ、シリコーンがより好ましい。
【0097】
本発明の硬化性組成物中の微粒子(E)〔(E)成分〕の含有量は特に限定されないが、その量は、(A)成分と(E)成分の質量比〔(A)成分:(E)成分〕で、好ましくは100:0.1〜100:40、より好ましくは100:0.2〜100:30、より好ましくは100:0.3〜100:20、より好ましくは100:0.5〜100:15、さらに好ましくは100:0.8〜100:12となる量である。(E)成分を上記範囲で用いることにより、(E)成分を加える効果をより発現することができる。
【0098】
本発明の硬化性組成物は、(B)成分として、分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤(以下、「シランカップリング剤(B)」と記載することがある。)を含有してもよい。
【0099】
シランカップリング剤(B)を含有する硬化性組成物は、塗布工程における作業性に優れ、かつ、接着性、耐剥離性、及び耐熱性により優れる硬化物を与える。
ここで、塗布工程における作業性に優れるとは、塗布工程において、硬化性組成物を吐出管から吐出し、次いで吐出管を引き上げる際、糸引き量が少ないか、又はすぐに途切れることをいう。この性質を有する硬化性組成物を用いることで、樹脂飛びや液滴の広がりによる周囲の汚染を防ぐことができる。
【0100】
シランカップリング剤(B)としては、分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤であれば特に制限はない。例えば、下記式(b−1)で表されるトリアルコキシシラン化合物、式(b−2)で表されるジアルコキシアルキルシラン化合物又はジアルコキシアリールシラン化合物等が挙げられる。
【0101】
【化8】
【0102】
上記式中、Rは、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。複数のR同士は同一であっても相異なっていてもよい。
は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;又は、フェニル基、4−クロロフェニル基、4−メチルフェニル基、1−ナフチル基等の、置換基を有する、又は置換基を有さないアリール基;を表す。
【0103】
は、窒素原子を有する、炭素数1〜10の有機基を表す。また、Rは、さらに他のケイ素原子を含む基と結合していてもよい。
の炭素数1〜10の有機基の具体例としては、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピル基、3−アミノプロピル基、N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)アミノプロピル基、3−ウレイドプロピル基、N−フェニル−アミノプロピル基等が挙げられる。
【0104】
上記式(b−1)又は(b−2)で表される化合物のうち、Rが、他のケイ素原子を含む基と結合した有機基である場合の化合物としては、イソシアヌレート骨格を介して他のケイ素原子と結合してイソシアヌレート系シランカップリング剤を構成するものや、ウレア骨格を介して他のケイ素原子と結合してウレア系シランカップリング剤を構成するものが挙げられる。
【0105】
これらの中でも、シランカップリング剤(B)としては、接着強度がより高い硬化物が得られ易いことから、イソシアヌレート系シランカップリング剤、及びウレア系シランカップリング剤が好ましく、さらに、分子内に、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を4以上有するものが好ましい。
ケイ素原子に結合したアルコキシ基を4以上有するとは、同一のケイ素原子に結合したアルコキシ基と、異なるケイ素原子に結合したアルコキシ基との総合計数が4以上という意味である。
【0106】
ケイ素原子に結合したアルコキシ基を4以上有するイソシアヌレート系シランカップリング剤としては、下記式(b−3)で表される化合物が、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を4以上有するウレア系シランカップリング剤としては、下記式(b−4)で表される化合物が挙げられる。
【0107】
【化9】
【0108】
式中、Rは上記と同じ意味を表す。t1〜t5はそれぞれ独立して、1〜10の整数を表し、1〜6の整数であるのが好ましく、3であるのが特に好ましい。
【0109】
式(b−3)で表される化合物の具体例としては、1,3,5−N−トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−トリi−プロポキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−トリブトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等の1,3,5−N−トリス〔(トリ(炭素数1〜6)アルコキシ)シリル(炭素数1〜10)アルキル〕イソシアヌレート;
1,3,5−N−トリス(3−ジトキシメチルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジメトキシエチルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジメトキシi−プロピルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジメトキシn−プロピルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジメトキシフェニルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジエトキシエチルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジエトキシi−プロピルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジエトキシn−プロピルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジエトキシフェニルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジi−プロポキシメチルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジi−プロポキシエチルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジi−プロポキシi−プロピルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジi−プロポキシn−プロピルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジi−プロポキシフェニルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジブトキシメチルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジブトキシエチルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジブトキシi−プロピルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジブトキシn−プロピルシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−ジブトキシフェニルシリルプロピル)イソシアヌレート等の1,3,5−N−トリス〔(ジ(炭素数1〜6)アルコキシ)シリル(炭素数1〜10)アルキル〕イソシアヌレート;等が挙げられる。
【0110】
式(b−4)で表される化合物の具体例としては、N,N’−ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ウレア、N,N’−ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ウレア、N,N’−ビス(3−トリプロポキシシリルプロピル)ウレア、N,N’−ビス(3−トリブトキシシリルプロピル)ウレア、N,N’−ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ウレア等のN,N’−ビス〔(トリ(炭素数1〜6)アルコキシシリル)(炭素数1〜10)アルキル〕ウレア;
N,N’−ビス(3−ジメトキシメチルシリルプロピル)ウレア、N,N’−ビス(3−ジメトキシエチルシリルプロピル)ウレア、N,N’−ビス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)ウレア等のN,N’−ビス〔(ジ(炭素数1〜6)アルコキシ(炭素数1〜6)アルキルシリル(炭素数1〜10)アルキル)ウレア;
N,N’−ビス(3−ジメトキシフェニルシリルプロピル)ウレア、N,N’−ビス(3−ジエトキシフェニルシリルプロピル)ウレア等のN,N’−ビス〔(ジ(炭素数1〜6)アルコキシ(炭素数6〜20)アリールシリル(炭素数1〜10)アルキル)ウレア;等が挙げられる。
シランカップリング剤(B)は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0111】
これらの中でも、シランカップリング剤(B)としては、1,3,5−N−トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート(以下、「イソシアヌレート化合物」という。)、N,N’−ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ウレア、N,N’−ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ウレア(以下、「ウレア化合物」という。)、及び、上記イソシアヌレート化合物とウレア化合物との組み合わせを用いるのが好ましい。
【0112】
上記イソシアヌレート化合物とウレア化合物とを組み合わせて用いる場合、両者の使用割合は、(イソシアヌレート化合物)と(ウレア化合物)の質量比で、100:1〜100:200であるのが好ましく、100:10〜100:110がより好ましい。このような割合で、イソシアヌレート化合物とウレア化合物とを組み合わせて用いることにより、接着強度がより高く、耐熱性により優れる硬化物を与える硬化性組成物を得ることができる。
【0113】
本発明の硬化性組成物がシランカップリング剤(B)〔(B)成分〕を含有する場合、(B)成分の含有量は特に限定されないが、その量は、上記(A)成分と(B)成分の質量比〔(A)成分:(B)成分〕で、好ましくは100:0.1〜100:90、より好ましくは100:0.3〜100:60、より好ましくは100:1〜100:50、さらに好ましくは100:3〜100:40、特に好ましくは100:5〜100:30となる量である。
このような割合で(A)成分及び(B)成分を含有する硬化性組成物の硬化物は、接着強度がより高く、耐熱性により優れたものになる。
【0114】
本発明の硬化性組成物は、(C)成分として、分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤(以下、「シランカップリング剤(C)」と記載することがある。)を含有してもよい。
シランカップリング剤(C)を含有する硬化性組成物は、塗布工程における作業性に優れ、かつ、接着強度がより高く、耐剥離性及び耐熱性により優れる硬化物を与える。
【0115】
シランカップリング剤(C)としては、2−(トリメトキシシリル)エチル無水コハク酸、2−(トリエトキシシリル)エチル無水コハク酸、3−(トリメトキシシリル)プロピル無水コハク酸、3−(トリエトキシシリル)プロピル無水コハク酸等の、トリ(炭素数1〜6)アルコキシシリル(炭素数2〜8)アルキル無水コハク酸;
2−(ジメトキシメチルシリル)エチル無水コハク酸等の、ジ(炭素数1〜6)アルコキシメチルシリル(炭素数2〜8)アルキル無水コハク酸;
2−(メトキシジメチルシリル)エチル無水コハク酸等の、(炭素数1〜6)アルコキシジメチルシリル(炭素数2〜8)アルキル無水コハク酸;
【0116】
2−(トリクロロシリル)エチル無水コハク酸、2−(トリブロモシリル)エチル無水コハク酸等の、トリハロゲノシリル(炭素数2〜8)アルキル無水コハク酸;
2−(ジクロロメチルシリル)エチル無水コハク酸等の、ジハロゲノメチルシリル(炭素数2〜8)アルキル無水コハク酸;
2−(クロロジメチルシリル)エチル無水コハク酸等の、ハロゲノジメチルシリル(炭素数2〜8)アルキル無水コハク酸;等が挙げられる。
シランカップリング剤(C)は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0117】
これらの中でも、シランカップリング剤(C)としては、トリ(炭素数1〜6)アルコキシシリル(炭素数2〜8)アルキル無水コハク酸が好ましく、3−(トリメトキシシリル)プロピル無水コハク酸又は3−(トリエトキシシリル)プロピル無水コハク酸が特に好ましい。
【0118】
本発明の硬化性組成物がシランカップリング剤(C)〔(C)成分〕を含有する場合、(C)成分の含有量は特に限定されないが、その量は、上記(A)成分と(C)成分の質量比〔(A)成分:(C)成分〕で、好ましくは100:0.1〜100:30、より好ましくは100:0.3〜100:20、より好ましくは100:0.5〜100:15、さらに好ましくは100:1〜100:10となる量である。
このような割合で(C)成分を含有する硬化性組成物の硬化物は、接着強度がより高いものになる。
【0119】
本発明の硬化性組成物は、(D)成分として、平均一次粒子径が5〜40nmの微粒子(以下、「微粒子(D)」と記載することがある。)を含有してもよい。
微粒子(D)を含有する硬化性組成物は、塗布工程における作業性に優れる。
この効果がより得られ易いことから、微粒子(D)の平均一次粒子径は、好ましくは5〜30nm、より好ましくは5〜20nmである。
【0120】
微粒子(D)の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡を用いて微粒子の形状を観察することにより求められる。
【0121】
微粒子(D)の比表面積は、好ましくは10〜500m/g、より好ましくは20〜300m/gである。比表面積が上記範囲内であることで、塗布工程における作業性により優れる硬化性組成物が得られ易くなる。
比表面積は、BET多点法により求めることができる。
【0122】
微粒子(D)の形状は、球状、鎖状、針状、板状、片状、棒状、繊維状等のいずれであってもよいが、球状であるのが好ましい。ここで、球状とは、真球状の他、回転楕円体、卵形、金平糖状、まゆ状等球体に近似できる多面体形状を含む略球状を意味する。
【0123】
微粒子(D)の構成成分としては、微粒子(E)の構成成分として例示したものと同様のものが挙げられる。
微粒子(D)は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、透明性に優れる硬化物が得られ易いことから、微粒子(D)としては、シリカ、金属酸化物、鉱物が好ましく、シリカがより好ましい。
【0124】
シリカの中でも、塗布工程における作業性により優れる硬化性組成物が得られ易いことから、表面修飾シリカが好ましく、疎水性の表面修飾シリカがより好ましい。
疎水性の表面修飾シリカとしては、表面に、トリメチルシリル基等のトリ炭素数1〜20のトリアルキルシリル基;ジメチルシリル基等のジ炭素数1〜20のアルキルシリル基;オクチルシリル基等の炭素数1〜20のアルキルシリル基;を結合させたシリカ;シリコーンオイルで表面を処理したシリカ;等が挙げられる。
疎水性の表面修飾シリカは、例えば、シリカ粒子に、トリ炭素数1〜20のトリアルキルシリル基、ジ炭素数1〜20のアルキルシリル基、炭素数1〜20のアルキルシリル基等を有するシランカップリング剤を用いて表面修飾することにより、あるいは、シリカ粒子をシリコーンオイルで処理することにより得ることができる。また、表面修飾シリカとして市販されているものをそのまま用いることもできる。
【0125】
本発明の硬化性組成物が微粒子(D)〔(D)成分〕を含有する場合、(D)成分の含有量は特に限定されないが、その量は、上記(A)成分と(D)成分の質量比〔(A)成分:(D)成分〕で、好ましくは100:0.1〜100:90、より好ましくは100:0.2〜100:60、より好ましくは100:0.3〜100:50、より好ましくは100:0.5〜100:40、より好ましくは100:0.8〜100:30となる量である。(D)成分を上記範囲で用いることにより、(D)成分を加える効果をより発現することができる。
【0126】
本発明の硬化性組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、上記(A)〜(E)成分以外の他の成分((F)成分)を含有してもよい。
(F)成分としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が挙げられる。
【0127】
酸化防止剤は、加熱時の酸化劣化を防止するために添加される。酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
【0128】
リン系酸化防止剤としては、ホスファイト類、オキサホスファフェナントレンオキサイド類等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としては、モノフェノール類、ビスフェノール類、高分子型フェノール類等が挙げられる。硫黄系酸化防止剤としては、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート等が挙げられる。
【0129】
これらの酸化防止剤は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。酸化防止剤の使用量は、(A)成分に対して、通常10質量%以下である。
【0130】
紫外線吸収剤は、得られる硬化物の耐光性を向上させる目的で添加される。
紫外線吸収剤としては、サリチル酸類、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、ヒンダードアミン類等が挙げられる。
紫外線吸収剤は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
紫外線吸収剤の使用量は、(A)成分に対して、通常10質量%以下である。
【0131】
光安定剤は、得られる硬化物の耐光性を向上させる目的で添加される。
光安定剤としては、例えば、ポリ[{6−(1,1,3,3,−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン)イミノ}]等のヒンダードアミン類等が挙げられる。
これらの光安定剤は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
(F)成分の総使用量は、(A)成分に対して、通常20質量%以下である。
【0132】
本発明の硬化性組成物は、溶媒を含有してもよい。溶媒は、本発明の硬化性組成物の成分を溶解又は分散し得るものであれば特に限定されない。
溶媒としては、254℃以上の沸点を有する溶媒(以下、「溶媒(S1)」と記載することがある。)が好ましい。
溶媒(S1)の沸点は、254℃以上であり、254〜300℃が好ましい。
ここで、沸点は、1013hPaにおける沸点をいう(本明細書において同じ。)
【0133】
溶媒(S1)としては、沸点が254℃以上であり、かつ、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)を溶解可能なものであれば特に制限されない。
このような溶媒(S1)は、揮発速度が比較的遅い。したがって、溶媒(S1)を含有する硬化性組成物は、塗布後に長時間放置された後であっても、粘度変化が小さいため、塗布直後と同様に光素子等を良好にマウントすることが可能となる。
【0134】
溶媒(S1)としては、具体的には、トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル(沸点274℃)、1,6−へキサンジオールジアクリレート(沸点260℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(沸点256℃)、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(沸点261℃)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点264〜294℃)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(沸点275℃)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点290〜310℃)等が挙げられる。
これらの中でも、溶媒(S1)としては、本発明の効果がより得られやすい観点から、トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートが好ましい。
溶媒(S1)は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0135】
本発明の硬化性組成物は、溶媒(S1)以外の溶媒を含有してもよい。
溶媒(S1)以外の溶媒としては、沸点が200℃以上254℃未満の溶媒(以下、「溶媒(S2)」と記載することがある。)が好ましい。
溶媒(S2)としては、沸点が200℃以上254℃未満であり、かつ、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)を溶解可能なものであれば特に制限されない。
溶媒(S1)と溶媒(S2)を併用することで、硬化性組成物の硬化性が向上する。
【0136】
溶媒(S2)の具体例としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点247℃)、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル(沸点229℃)、ベンジルアルコール(沸点204.9℃)、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(沸点209℃)、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(沸点212℃)、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル(沸点212℃)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点215℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点216℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点217.4℃)、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル(沸点230℃)、エチレングリコールモノフェニルエーテル(沸点245℃)、トリプロピレングリコールメチルエーテル(沸点242℃)、プロピレングリコールフェニルエーテル(沸点243℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点249℃)等が挙げられる。
これらの中でも、溶媒(S2)としては、その効果が得られやすいことから、グリコール系溶媒が好ましく、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテルが好ましく、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートがより好ましい。
【0137】
溶媒(S1)と溶媒(S2)を併用する場合、具体的には、トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル(溶媒(S1))とジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(溶媒(S2))の組み合わせ、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(溶媒(S1))と、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(溶媒(S2))の組み合わせ、トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル(溶媒(S1))とジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル(溶媒(S2))の組み合わせ、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(溶媒(S1))とジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル(有機溶媒(S2))の組み合わせが好ましい。
【0138】
本発明の硬化性組成物が溶媒を含有する場合、その含有量は、固形分濃度が、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは60〜85質量%になる量である。固形分濃度がこの範囲内であることで、塗布工程における作業性に優れる硬化性組成物が得られ易くなる。
【0139】
本発明の硬化性組成物が、溶媒(S1)及び/又は溶媒(S2)を含有する場合、これらの溶媒の合計量は、全溶媒に対して、通常50〜100質量%、好ましくは70〜100質量%、より好ましくは90〜100質量%である。
【0140】
本発明の硬化性組成物が、溶媒(S1)を含有する場合、溶媒(S1)の含有量は、溶媒(S1)と溶媒(S2)の合計量に対して、通常20〜100質量%、好ましくは30〜85質量%、より好ましくは50〜80質量%である。
【0141】
溶媒量に関するこれらの要件を満たす硬化性組成物は、接着性、及び、濡れ広がり性(前記した、液滴の広がりに関する特性)が適度にバランスされたものとなる。
【0142】
本発明の硬化性組成物は、例えば、上記(A)成分と(E)成分、及び、所望によりこれら以外の成分を所定割合で混合し、脱泡することにより調製することができる。
混合方法、脱泡方法は特に限定されず、公知の方法を利用することができる。
【0143】
本発明の硬化性組成物は、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(A)を含有する。したがって、本発明の硬化性組成物は硬化性に優れ、かつ、屈折率が低い。また、本発明の硬化性組成物は、接着強度が高い硬化物の形成材料として有用である。
【0144】
本発明の硬化性組成物の、25℃における屈折率(nD)は、通常1.380〜1.434、好ましくは1.380〜1.430、より好ましくは1.380〜1.428、さらに好ましくは1.380〜1.425である。
硬化性組成物の屈折率(nD)は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0145】
さらに、本発明の硬化性組成物は、(E)成分を含有する。したがって、後述するように、本発明の硬化性組成物を用いることで、耐剥離性に優れる硬化物を形成することができる。
【0146】
2)硬化物
本発明の硬化物は、本発明の硬化性組成物を硬化して得られるものである。
本発明の硬化性組成物を硬化させる方法としては加熱硬化が挙げられる。硬化させるときの加熱温度は、通常100〜200℃であり、加熱時間は、通常10分から20時間、好ましくは30分から10時間である。
【0147】
本発明の硬化物は、接着強度が高く、耐熱性に優れるものである。
本発明の硬化物がこれらの特性を有することは、例えば、次のようにして確認することができる。すなわち、シリコンチップのミラー面に、本発明の硬化性組成物を所定量塗布し、塗布面を被着体の上に載せ、圧着し、加熱処理して硬化させる。これを、予め所定温度(例えば、23℃、100℃)に加熱したボンドテスターの測定ステージ上に30秒間放置し、被着体から50μmの高さの位置より、接着面に対し水平方向(せん断方向)に応力をかけ、試験片と被着体との接着力を測定する。
【0148】
本発明の硬化物の接着力は、23℃において60N/4mm以上であることが好ましく、80N/4mm以上であることがより好ましく、100N/4mm以上であることが特に好ましい。また硬化物の接着力は、100℃において30N/4mm以上であることが好ましく、40N/4mm以上であることがより好ましく、50N/4mm以上であることがさらに好ましく、60N/4mm以上であることが特に好ましい。
本明細書において、「4mm」とは、2mm×2mm(1辺が2mmの正方形)を意味する。
【0149】
さらに、本発明の硬化物は、(E)成分を含有する硬化性組成物を硬化して得られるものであり、耐剥離性に優れる。
本発明の硬化物が耐剥離性に優れることは、例えば、次のようにして確認することができる。
LEDリードフレームに、硬化性組成物を塗布した上に、サファイアチップを圧着し、170℃で2時間加熱処理して硬化させた後、封止材をカップ内に流し込み、120℃で1時間、加えて150℃加熱処理して硬化物の試験片を得る。この試験片を85℃、85%RHの環境に168時間曝したのち、プレヒート160℃で、最高温度が260℃になる加熱時間1分間のIRリフローにて処理を行い、次いで、熱サイクル試験機にて、−40℃及び+100℃で各30分放置する試験を1サイクルとして、500サイクル実施する。その後、封止材を除去し、その際に素子が一緒に剥がれるか否かを調べる。本発明の硬化物においては、剥離する確率は通常50%以下、より好ましくは25%以下である。
【0150】
上記特性を有することから、本発明の硬化物は、光素子固定材として好ましく用いられる。
【0151】
3)硬化性組成物の使用方法
本発明の方法は、本発明の硬化性組成物を、光素子固定材用接着剤又は光素子固定材用封止材として使用する方法である。
光素子としては、LED、LD等の発光素子、受光素子、複合光素子、光集積回路等が挙げられる。
【0152】
〈光素子固定材用接着剤〉
本発明の硬化性組成物は、光素子固定材用接着剤として好適に使用することができる。
本発明の硬化性組成物を光素子固定材用接着剤として使用する方法としては、接着の対象とする材料(光素子とその基板等)の一方又は両方の接着面に該組成物を塗布し、圧着した後、加熱硬化させ、接着の対象とする材料同士を強固に接着させる方法が挙げられる。本発明の硬化性組成物の塗布量は、特に限定されず、硬化させることにより、接着の対象とする材料同士を強固に接着することができる量であればよい。通常、硬化性組成物の塗膜の厚みが0.5〜5μm、好ましくは1〜3μmとなる量である。
【0153】
光素子を接着するための基板材料としては、ソーダライムガラス、耐熱性硬質ガラス等のガラス類;セラミックス;サファイア;鉄、銅、アルミニウム、金、銀、白金、クロム、チタン及びこれらの金属の合金、ステンレス(SUS302、SUS304、SUS304L、SUS309等)等の金属類;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミド、アクリル樹脂、ノルボルネン系樹脂、シクロオレフィン樹脂、ガラスエポキシ樹脂等の合成樹脂;等が挙げられる。
【0154】
加熱硬化させる際の加熱温度は、用いる硬化性組成物等にもよるが、通常、100〜200℃である。加熱時間は、通常10分から20時間、好ましくは30分から10時間である。
【0155】
〈光素子固定材用封止材〉
本発明の硬化性組成物は、光素子固定材用封止材として好適に用いることができる。
本発明の硬化性組成物を光素子固定材用封止材として使用する方法としては、例えば、該組成物を所望の形状に成形して、光素子を内包した成形体を得た後、このものを加熱硬化させることにより、光素子封止体を製造する方法等が挙げられる。
本発明の硬化性組成物を所望の形状に成形する方法としては、特に限定されるものではなく、通常のトランスファー成形法や、注型法等の公知のモールド法を採用できる。
【0156】
加熱硬化する際の加熱温度は、用いる硬化性組成物等にもよるが、通常、100〜200℃である。加熱時間は、通常10分から20時間、好ましくは30分から10時間である。
【0157】
得られる光素子封止体は、本発明の硬化性組成物を用いているので、耐熱性に優れ、かつ、接着強度が高い。
【実施例】
【0158】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
各例中の部及び%は、特に断りのない限り、質量基準である。
【0159】
(実施例1)
300mLのナス型フラスコに、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン17.0g(77.7mmol)、及び、メチルトリエトキシシラン32.33g(181.3mmol)を仕込んだ後、これを撹拌しながら、蒸留水14.0gに35%塩酸0.0675g(HClの量が0.65mmol,シラン化合物の合計量に対して、0.25mol%)を溶解して得られた水溶液を加え、全容を30℃にて2時間、次いで70℃に昇温して20時間撹拌した。
内容物の撹拌を継続しながら、そこに、28%アンモニア水0.0394g(NHの量が0.65mmol)と酢酸プロピル46.1gの混合溶液を加えて反応液のpHを6.9にし、そのまま70℃で60分間撹拌した。
反応液を室温まで放冷した後、そこに、酢酸プロピル50g及び水100gを加えて分液処理を行い、反応生成物を含む有機層を得た。この有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥処理を行った。硫酸マグネシウムを濾別除去した後、有機層をエバポレーターで濃縮し、次いで、得られた濃縮物を真空乾燥することにより、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(1)を得た。
【0160】
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(1)100部に、平均一次粒子径が7nmのシリカフィラー20部、平均一次粒子径が0.8μmのシリコーンフィラー10部を加えた。さらに、溶剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート:トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル=40:60(質量比)の混合溶剤を30部加えた後、全容を撹拌した。
三本ロールミルによる分散処理を行った後、1,3,5−N−トリス〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕イソシアヌレート30部、3−(トリメトキシシリル)プロピルコハク酸無水物3部、さらに、溶剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート:トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル=40:60(質量比)の混合溶剤を加えて、全容を十分に混合、脱泡することにより、固形分濃度82%の硬化性組成物(1)を得た。
【0161】
(実施例2)
28%アンモニア水と酢酸プロピルの混合溶液を加えた後の撹拌時間を、120分間に変更したことを除き、実施例1と同様にして硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(2)、及び硬化性組成物(2)を得た。
【0162】
(実施例3)
28%アンモニア水と酢酸プロピルの混合溶液を加えた後の撹拌時間を、90分間に変更したことを除き、実施例1と同様にして硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(3)、及び硬化性組成物(3)を得た。
【0163】
(実施例4)
28%アンモニア水と酢酸プロピルの混合溶液を加えた後の撹拌時間を、50分間に変更したことを除き、実施例1と同様にして硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(4)、及び硬化性組成物(4)を得た。
【0164】
(実施例5)
28%アンモニア水と酢酸プロピルの混合溶液を加えた後の撹拌時間を、40分間に変更したことを除き、実施例1と同様にして硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(5)、及び硬化性組成物(5)を得た。
【0165】
(比較例1)
WO2017/110948号の実施例8の方法に従って、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(6)を得た。
次いで、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(6)100部に、平均一次粒子径が7nmのシリカフィラー20部、平均一次粒子径が0.8μmのシリコーンフィラー10部を加えた。さらに、溶剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを30部加えた後、全容を撹拌した。
三本ロールミルによる分散処理を行った後、1,3,5−N−トリス〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕イソシアヌレート10部、3−(トリメトキシシリル)プロピルコハク酸無水物3部、さらに、E型粘度計を用いて25℃、200s−1の条件で測定したときの粘度が4.5Pa・sになるように、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを添加し、全容を十分に混合、脱泡することにより、硬化性組成物(6)を得た。
なお、WO2017/110948号の段落(0115)には、塩酸の使用量として「シラン化合物の合計量に対して0.25mol%」と記載されているが、仕込み量から計算すると、正しくは「シラン化合物の合計量に対して約1.6mol%」である。以下の比較例2、3においても同様である。
【0166】
(比較例2)
WO2017/110948号の実施例9の方法に従って、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(7)を得た。
次いで、比較例1と同様の方法により、硬化性組成物(7)を得た。
【0167】
(比較例3)
WO2017/110948号の実施例10の方法に従って、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(8)を得た。
次いで、比較例1と同様の方法により、硬化性組成物(8)を得た。
【0168】
(比較例4)
300mLのナス型フラスコに、メチルトリエトキシシラン71.37g(400mmol)を仕込んだ後、これを撹拌しながら、蒸留水21.6gに35%塩酸0.1g(シラン化合物の合計量に対して、0.25mol%)を溶解した水溶液を加え、全容を30℃にて2時間、次いで70℃に昇温して5時間撹拌した。
内容物の撹拌を継続しながら、そこに、酢酸プロピル140gと、28%アンモニア水0.12g(シラン化合物の合計量に対してNHが0.5mol%)を加え、70℃で3時間撹拌した。
反応液を室温まで冷却した後、精製水を用いて、水層のpHが7になるまで有機層を洗浄した。
有機層をエバポレーターで濃縮し、濃縮物を真空乾燥することにより、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(9)を得た。
次いで、実施例1と同様の方法により、硬化性組成物(9)を得た。
【0169】
(比較例5)
28%アンモニア水と酢酸プロピルの混合溶液を加えた後の撹拌時間を、240分間に変更したことを除き、実施例1と同様にして硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(10)、及び硬化性組成物(10)を得た。
【0170】
実施例、及び比較例で得られた硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(1)〜(10)、及び、硬化性組成物(1)〜(10)を用いて、それぞれ以下の測定、試験を行った。結果を第1表に示す。
【0171】
[質量平均分子量測定]
硬化性ポリシルセスキオキサン化合物の質量平均分子量(Mw)は、以下の装置及び条件にて測定した。
装置名:HLC−8220GPC、東ソー株式会社製
カラム:TSKgelGMHXL、TSKgelGMHXL、及び、TSKgel2000HXLを順次連結したもの
溶媒:テトラヒドロフラン
標準物質:ポリスチレン
注入量:20μl
測定温度:40℃
流速:0.6ml/分
検出器:示差屈折計
【0172】
29Si−NMR測定]
装置:ブルカー・バイオスピン社製 AV−500
29Si−NMR共鳴周波数:99.352MHz
プローブ:5mmφ溶液プローブ
測定温度:室温(25℃)
試料回転数:20kHz
測定法:インバースゲートデカップリング法
29Si フリップ角:90°
29Si 90°パルス幅:8.0μs
繰り返し時間:5s
積算回数:9200回
観測幅:30kHz
【0173】
29Si−NMR試料作製方法〉
緩和時間短縮のため、緩和試薬としてFe(acac)を添加し測定した。
ポリシルセスキオキサン濃度:15%
Fe(acac)濃度:0.6%
測定溶媒:アセトン
内部標準:TMS
【0174】
〈波形処理解析〉
フーリエ変換後のスペクトルの各ピークについて、ピークトップの位置によりケミカルシフトを求め、積分を行った。
【0175】
[屈折率測定]
硬化性組成物を水平面上に吐出し、ペン屈折計(ATAGO社製、PEN−RI)の測定面を、25℃で圧着させることで屈折率(nD)を測定した。
【0176】
[硬化性評価]
レオメーター(Anton Paar社製、MCR302)にて、20mmのパラレルプレートを用いて、試験開始温度80℃、昇温速度5℃/分、せん断ひずみ1%、周波数1Hzにてせん断応力を測定した。せん断応力が2000Paとなる温度を硬化温度とした。
【0177】
[粘度評価]
レオメーター(Anton Paar社製、MCR301)にて、半径50mm、コーン角度0.5°のコーンプレートを用い、25℃で、せん断速度が2s−1と、せん断速度が200s−1の粘度をそれぞれ測定した。得られた測定値からチキソ指数(せん断速度が2s−1の粘度/せん断速度が200s−1の粘度)を求めた。
【0178】
[接着強度測定]
一辺が2mmの正方形(面積が4mm)のシリコンチップのミラー面に、硬化性組成物を、それぞれ、厚さが約2μmになるよう塗布し、塗布面を被着体(銀メッキ銅板)の上に載せ圧着した。その後、170℃で2時間加熱処理して硬化して試験片付被着体を得た。この試験片付被着体を、予め所定温度(23℃、100℃)に加熱したボンドテスター(デイジ社製、シリーズ4000)の測定ステージ上に30秒間放置し、被着体から100μmの高さの位置より、スピード200μm/sで接着面に対し水平方法(せん断方向)に応力をかけ、23℃及び100℃における、試験片と被着体との接着強度(N/4mm)を測定した。
【0179】
[耐クラック性評価]
一辺が0.5mmの正方形(面積が0.25mm)のガラスチップのミラー面に、硬化性組成物を厚さが約2μmになるよう塗布し、塗布面を被着体(銀メッキ銅板)の上に載せ圧着した。その後、170℃で2時間加熱処理して硬化させ、試験片付被着体を得た。デジタル顕微鏡(VHX−1000、キーエンス製)を用いガラスチップからはみ出している樹脂部(フィレット部)を観察し、クラックを有するサンプルの数を数え、クラック発生率が0%以上25%未満を「A」、25%以上50%未満を「B」、50%以上100%を「C」と評価した。
【0180】
[耐剥離性評価]
LEDリードフレーム(エノモト社製、5050 D/G PKG LEADFRAME)に、硬化性組成物を0.4mmφ程度塗布した上に、一辺が0.5mmの正方形(面積が0.25mm)のサファイアチップを圧着した。その後、170℃で2時間加熱処理して硬化させた後、封止材(信越化学工業社製、LPS−3419)をカップ内に流し込み、120℃で1時間、加えて150℃で1時間加熱して試験片を得た。
この試験片を85℃、85%RHの環境に168時間曝したのち、プレヒート160℃で、最高温度が260℃になる加熱時間1分間のIRリフロー(リフロー炉:相模理工社製、製品名「WL−15−20DNX型」)にて処理を行った。その後、熱サイクル試験機にて、−40℃及び+100℃で各30分放置する試験を1サイクルとして、500サイクル実施した。その後、封止材を除去する操作を行い、その際に素子が一緒に剥がれるか否かを調べた。この試験を、各硬化性組成物につきそれぞれ100回行った。
素子が一緒に剥がれた回数を数え、剥離発生率が25%以下であれば「A」、25%より大きく50%以下であれば「B」、50%より大きければ「C」と評価した。
【0181】
【表1】
【0182】
第1表から以下のことが分かる。
実施例1〜5で得られた硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(1)〜(5)は、29Si−NMR測定の結果、Z2の値が20〜40%の範囲内にあることが分かった。また、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(1)〜(5)の質量平均分子量は、いずれも4000〜11000の範囲内にある。
これらの硬化性ポリシルセスキオキサン化合物を含有する硬化性組成物(1)〜(5)は、屈折率(nD)が低く、比較的低い温度で十分に硬化する。
また、硬化性組成物(1)〜(5)の硬化物は、接着強度が高い。
【0183】
一方、比較例1〜3は、それぞれ、特許文献4の実施例8〜10の硬化性ポリシルセスキオキサン化合物〔硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(6)〜(8)〕を用いたものである。
特許文献4の実施例においては、フルオロアルキル基を有するシラン化合物の反応性の低さを補うために、酸触媒の量を多く使用している。しかしながら、この方法では、Z2値が小さな硬化性ポリシルセスキオキサン化合物しか得ることはできなかった。また、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシランの仕込み量が増えるにしたがって、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物の質量平均分子量が低下している。
これらのことが原因で、比較例1〜3の硬化性組成物(6)〜(8)は、硬化性や、硬化物の接着強度において、実施例1〜5の硬化性組成物(1)〜(5)よりも劣っている。
【0184】
比較例4で得られた硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(9)は、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン由来の繰り返し単位を有しない。このため、硬化性組成物(9)の屈折率(nD)は大きな値になっている。
また、硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(9)は、Z2値が小さいため、硬化性組成物(9)の硬化性は十分ではない。
【0185】
比較例5で得られた硬化性ポリシルセスキオキサン化合物(10)は、分子量が大き過ぎるものである。この結果、硬化性組成物(10)は、硬化性や、硬化物の接着強度において、実施例1〜5の硬化性組成物(1)〜(5)よりも劣っている。