(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。なお、図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。また、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0014】
なお、以下の説明において、プレス機1を設置した状態の鉛直方向を「上下方向」という。この上下方向は、金型によるプレス方向と一致する。また、プレス機1を設置した状態で、プレス機1を正面から見て、左右方向を「幅方向」という。
【0015】
[実施形態1]
(プレス機)
図1は、本発明の実施形態に係るプレス機1の概略構成を示す正面図である。プレス機1は、金型10を用いて、金属製の板状材料Mをプレス加工する加工機である。プレス機1は、金型10と、フレーム20と、駆動機構30と、送り装置40と、金型異常予測システム50(金型の異常予測システム、
図3参照)とを備える。なお、
図1は、プレス機1の正面図である。
【0016】
フレーム20は、クラウン21と、ベッド22と、コラム23とを備える。クラウン21とベッド22とは、それらの間に配置された複数のコラム23によって接続されている。すなわち、複数のコラム23は、クラウン21をベッド22に対してそれらの四隅で支えている。クラウン21には、駆動機構30が収納されている。ベッド22上には、ボルスター24が配置されている。ボルスター24上には、金型10が固定されている。
【0017】
プレス機1の側方には、プレス機1を正面から見て、プレス機1の外方から右方向に向かって板状材料Mを搬送するための送り装置40が配置されている。送り装置40が板状材料Mを上述のように搬送することにより、金型10に対して板状材料Mが連続して供給される。これにより、金型10によって、板状材料Mを連続してプレス加工することができる。なお、送り装置40は、ベッド22に固定されている。
【0018】
駆動機構30は、金型10の後述する上金型11を、上下方向に移動可能に構成されている。具体的には、駆動機構30は、モータ31と、ホイール32と、ベルト33と、フライホイール34と、クラッチブレーキ35と、クランクシャフト36と、コネクティングロッド37と、スライド38とを備える。
【0019】
モータ31は、クラウン21上に配置されている。ホイール32は、円筒または円柱状であり、その中心軸がモータ31の回転軸の軸線と一致するように、該回転軸に接続されている。これにより、ホイール32は、モータ31の回転軸と一体で回転する。
【0020】
ベルト33は、ホイール32の外周面上、及び、クラウン21内に配置された円筒状または円柱状のフライホイール34の外周面上に位置するように、ホイール32及びフライホイール34に掛けられている。ベルト33によって、ホイール32の回転をフライホイール34に伝達することができる。
【0021】
クランクシャフト36は、フライホイール34と一体で回転するように、フライホイール34に接続されている。詳しくは、クランクシャフト36は、クラウン21内に、プレス機1の幅方向に延びるように配置されていて、その一端側がフライホイール34に接続されている。クランクシャフト36には、その延伸方向の異なる位置に、2本のコネクティングロッド37が接続されている。
【0022】
2本のコネクティングロッド37の先端側は、スライド38に接続されている。スライド38は、特に図示しないが、フレーム20に対して上下方向にスライド移動可能に構成されている。スライド38の下側には、上金型11が固定されている。
【0023】
プレス機1が上述の構成を有するため、モータ31の回転によって、スライド38が上下方向にスライド移動する。スライド38のスライド移動により、金型10の上金型11が上下方向に移動する。これにより、上金型11と下金型17との間に板状材料Mを挟みこんで、該板状材料Mをプレス加工することができる。
【0024】
(金型)
次に、金型10の構成を、
図2を用いて説明する。
【0025】
金型10は、上金型11と、下金型17とを備える。上金型11は、下金型17に対して、上下方向にスライド移動可能である。金型10は、例えば、プレスによって板状材料Mを所定の形状に打ち抜く打ち抜き加工に用いられる。そのため、金型10は、上金型11が、後述するパンチ14及びストリッパプレート15を有する。
【0026】
詳しくは、上金型11は、固定側取付板12と、ガイドピン13と、パンチ14と、ストリッパプレート15と、スプリング16とを備える。
【0027】
固定側取付板12は、例えば平面視で長方形の金属製の板状部材である。固定側取付板12は、プレス機1のスライド38の下面に固定される。
【0028】
ガイドピン13は、固定側取付板12の下面の四隅から、下方に延びている。ガイドピン13の下端は、下金型17の四隅に形成された挿入孔(図示省略)に挿入されている。
【0029】
パンチ14は、先端に板状材料Mを打ち抜くための歯部14aを有する。パンチ14は、固定側取付板12の下面から下方に向かって延びている。歯部14aは、パンチ14において、下側に位置する。
【0030】
ストリッパプレート15は、平板状の金属製の部材である。ストリッパプレート15は、固定側取付板12に対して複数のスプリング16を介して接続されている。ストリッパプレート15には、パンチ14に対応して、貫通孔15aが形成されている。
【0031】
スプリング16は、ストリッパプレート15を、固定側取付板12に対し、平行に、且つ、パンチ14の先端部分が貫通孔15a内に位置付けられるように、弾性支持する。スプリング16は、伸縮方向に圧縮された状態で弾性復元力を生じる圧縮ばねである。
【0032】
下金型17は、平板状の金属製の部材である。下金型17には、上金型11のパンチ14に対応してダイ18が設けられている。このダイ18には、パンチ14の歯部14aに対応して貫通孔18aが形成されている。この貫通孔18aの上側の開口部と、パンチ14の歯部14aとによって、板状材料Mは所定の形状に打ち抜かれる。貫通孔18a内には、上金型11が下方に移動してパンチ14によって板状材料Mを打ち抜いた後、パンチ14の歯部14aが進入する。
【0033】
下金型17には、上金型11におけるストリッパプレート15の最も下方の位置(下死点)を検出するための下死点検出センサ61が設けられている。
【0034】
(金型異常予測システム)
次に、プレス機1が有する金型異常予測システム50について、
図3から
図5を用いて説明する。
図3に、金型異常予測システム50の概略構成をブロック図で示す。
図4に、下死点検出センサ61の出力信号とバリ高さとの関係を示す。
図5に、金型異常予測システム50の動作を説明するフローを示す。
【0035】
金型異常予測システム50は、プレス機1で板状材料Mをプレス加工する際に用いる金型10の異常を予測するシステムである。金型異常予測システム50は、プレス機1の図示しない制御装置が備えていてもよいし、プレス機1とは別に設けられた制御装置によって一部が構成されていてもよい。
【0036】
金型異常予測システム50は、プレス加工の際に、上金型11におけるストリッパプレート15の最下点(下死点)の位置情報を用いて、金型10の現状の磨耗度合いを推定し、該磨耗度合いに基づいて金型10の異常発生(磨耗による不良品発生度合い)を予測する。
【0037】
具体的には、
図3に示すように、金型異常予測システム50は、演算処理部51と、下死点検出センサ61と、角度検出部63とを備える。
【0038】
下死点検出センサ61は、プレス機の上下方向(プレス方向)において、上金型11におけるストリッパプレート15の最下点(下死点)の位置を検出し、その検出結果を下死点信号として演算処理部51に出力する。なお、下死点信号が、出力信号に対応する。
【0039】
角度検出部63は、プレス機1の上下方向における上金型11の位置を、角度として検出する。詳しくは、角度検出部63は、上金型11が固定されたスライド38の上下方向の位置を検出し、スライド38が上下方向に一往復した場合を360度として、スライド38の上下方向の位置を角度に換算する。よって、角度検出部63は、スライド38が上下方向の最も上に位置する状態を0度または360度とし、スライド38が最下点に位置する状態を180度として、角度信号を出力する。角度検出部63から出力された角度信号は、演算処理部51に入力される。
【0040】
なお、角度検出部63は、特に図示しないが、スライド38の上下動またはクランクシャフト36の回転を検出可能な位置に配置されている。
【0041】
演算処理部51は、下死点検出センサ61から出力された下死点信号を用いて、金型10の磨耗度合いを推定するための異常予測スコアを算出し、該異常予測スコアを用いて金型10の異常発生を予測する。
【0042】
具体的には、演算処理部51は、下死点信号変換部52と、下死点信号処理演算部53(スコア算出部)と、異常予測部54とを備える。
【0043】
下死点信号変換部52は、下死点検出センサ61から出力された下死点信号のうち、角度検出部63で得られた角度信号において1ショット(1プレス)内の所望の角度の下死点信号のみを、アナログ信号からデジタル信号に変換(以下、単にA/D変換という)する。
【0044】
なお、前記所望の角度は、プレス加工の1ショットにおいて、金型10と板状材料Mとが接触している角度である。
【0045】
下死点信号処理演算部53は、A/D変換後の信号から、下死点付近(ストリッパプレート15の上下方向の位置において、最下点に対して所定範囲)のデータを抽出し、それらの平均値を求める。また、下死点信号処理演算部53は、求めた平均値を一定のショット数において平均化処理を行うことにより、下死点値(異常予測スコア)とする。すなわち、下死点信号処理演算部53は、下死点検出センサ61の出力信号に基づいて、金型の異常予測スコアを算出する。なお、下死点信号処理演算部53は、スコア算出部であってもよい。
【0046】
なお、本実施形態では、下死点信号の平均値を求めて、該平均値を一定のショット数で平均化処理することが、位置情報の平均値の算出に対応する。位置情報の平均値を算出する際には、A/D変換後の信号を、一定のショット数で平均化処理を行った後、下死点付近のデータを抽出して、その平均値を求めてもよい。また、前記位置情報の平均値の算出では、下死点信号の平均値を、一定のショット数で平均化処理しなくてもよい。
【0047】
ところで、本発明者らは、鋭意努力の結果、
図4に示すように、前記下死点信号(下死点検出センサ61の出力)と、金型10によってプレス加工された板状材料のバリの高さ(以下、バリ高さという)とが相関関係を有することを見出した。すなわち、前記バリ高さが大きくなると前記下死点信号の出力は増大する一方、前記バリ高さが小さくなると前記下死点信号の出力は低下する傾向がある。なお、本実施形態の場合では、前記下死点信号の出力が大きいほど、ストリッパプレート15の下死点の位置が高い。
【0048】
また、本発明者らは、前記下死点信号をxとし、前記バリ高さをyとすると、前記下死点信号xと前記バリ高さyとの間には、下式の関係が成り立つことも見出した。
y=a×exp(bx) (1)
ここで、a,bは、成形品の材料及び形状等によって決まる定数である。
【0049】
図4に示す実線は、(1)式をプロットした線である。(1)式の関係を見出したことにより、前記下死点信号から、前記バリ高さを精度良く予測することが可能になる。
【0050】
前記バリ高さは、一般的に、金型10の磨耗が大きくなると高くなることが知られている。したがって、前記下死点信号と金型10の磨耗量とは相関関係を有する。本発明者らは、前記下死点信号と金型10の磨耗量とが相関関係を有する点に着目し、前記下死点信号を金型10の磨耗度合いの推定に用いることを考えた。すなわち、上述の(1)式を用いることによって、前記バリ高さ、すなわち金型10の磨耗度合いが金型10の交換等が必要になる限界値に達する前に、金型10の磨耗度合いを推定し、金型10の異常発生の時期等を予測することができる。
【0051】
本実施形態に係る金型異常予測システム50は、下死点検出センサ61によって検出された結果から異常予測スコアとしての下死点値を算出し、該下死点値を用いて、金型10の現状の磨耗度合いから金型10の異常発生を予測する。
【0052】
異常予測部54は、下死点信号処理演算部53によって算出された下死点値を異常予測スコアとして用いて、金型10の異常発生を予測する。具体的には、異常予測部54は、前記下死点値を用いて、成形品のバリ高さが所定の閾値P(
図4参照)に達する時期(金型10の磨耗度合いが限界点に達する時期)を、上述の(1)式を用いて予測する。
【0053】
異常予測部54は、予測結果に応じて、下死点信号処理演算部53で得られた前記異常予測スコアのスコア値(下死点値)を表示したり、金型10の交換準備や交換のタイミングを作業者に対して通知したりする。このような通知を行うことにより、磨耗した金型によって不良品が大量に生産されることを防止することができ、生産性を向上することができる。
【0054】
次に、
図5を用いて、上述のような構成を有する金型異常予測システム50の演算処理部51の動作について説明する。
図5は、演算処理部51が、下死点検出センサ61から出力される下死点信号を用いて下死点値を算出し、該下死点値を用いて異常予測を行うフローである。
【0055】
図5に示すフローがスタートすると、ステップSA1において、下死点信号変換部52は、下死点検出センサ61から出力された下死点信号を、角度検出部63から出力された角度信号を用いてA/D変換を行う。詳しくは、下死点信号変換部52は、下死点検出センサ61から出力された下死点信号のうち、角度検出部63で得られた角度信号において1ショット(1プレス)内の所望の角度の下死点信号のみをA/D変換する。前記所望の角度は、プレス加工の1ショットにおいて、金型10と板状材料Mとが接触している角度である。
【0056】
続くステップSA2では、下死点信号処理演算部53は、A/D変換後の信号から、下死点付近(ストリッパプレート15の上下方向の位置において、最下点に対して所定範囲)のデータを抽出する。
【0057】
そして、ステップSA3において、下死点信号処理演算部53は、抽出したデータの平均値を求め、ステップSA4において、前記平均値を一定のショット数で平均化処理を行うことにより、下死点値(異常予測スコア)とする。
【0058】
続くステップSA5において、異常予測部54は、異常予測処理を行う。具体的には、異常予測部54は、ステップSA4で求めた下死点値を用いて、上述の(1)式から、成形品のバリ高さが所定の閾値P(
図4参照)に達する時期(金型10の磨耗度合いが限界点に達する時期)を予測する。異常予測部54は、金型10の異常予測に応じて、異常予測スコアとしての下死点値を表示したり、金型10の交換準備や交換のタイミングを作業者に対して通知したりする。その後、このフローを終了する(エンド)。
【0059】
前記ステップSA1及びSA2が、金型10のプレス方向における最下点を下死点検出センサ61によって検出し、該下死点検出センサ61の出力信号に基づいて前記最下点の位置情報を得る下死点位置取得ステップに対応する。
【0060】
また、前記ステップSA3及びSA4が、前記下死点位置取得ステップで得られた前記最下点の位置情報に基づいて、金型10の異常予測スコア(下死点値)を算出するスコア算出ステップに対応する。
【0061】
さらに、前記ステップSA5が、前記スコア算出ステップによって算出された結果に基づいて、金型10の異常発生を予測する異常予測ステップに対応する。
【0062】
以上より、本実施形態では、金型異常予測システム50は、金型10を用いてプレス機1でプレス加工する際に、ストリッパプレート15の下死点を下死点検出センサ61によって検出する。そして、金型異常予測システム50は、下死点検出センサ61によって検出された下死点信号に基づいて、異常予測スコアを算出し、該異常予測スコアを用いて金型10の異常発生を予測する。
【0063】
金型10のプレス方向の最下点の位置は、金型10の磨耗に応じて成形品に形成されるバリ高さによって変化する。すなわち、金型10のプレス方向の最下点の位置は、金型10の摩耗に応じて変化する。そのため、前記最下点の位置を検出することによって、金型10の摩耗度合いを検出することができる。そして、本発明者らが見出した上述の(1)式を用いることにより、成形品のバリ高さが所定の閾値Pに達する時期、すなわち金型10の磨耗度合いの限界点を予測することができる。これにより、金型10の異常発生を予測することができる。したがって、上述の構成により、金型10の異常発生を予測可能なシステムが得られる。
【0064】
上述のような金型異常予測システム50は、せん断加工に用いられる金型10の異常発生を予測する場合に適している。金型としてせん断加工に用いられる金型を用いた場合、該金型の摩耗に応じて、成形品にバリが形成されやすい。よって、金型のプレス方向の下死点の位置によって、バリ高さを精度良く推定することができ、金型10の磨耗度合いを精度良く推定することができる。したがって、上述の金型異常予測システム50は、せん断加工に用いられる金型10の異常発生の予測に効果的な構成である。
【0065】
また、本実施形態で用いる下死点検出センサ61は、成形品に形成されたバリ高さを、下死点信号として出力するため、温度等の影響を受けにくい。一方、金型10の異常を検出する他のセンサ(例えば弾性波を検出するAEセンサ)の場合には、温度によって検出精度が影響を受けると考えられる。よって、下死点検出センサ61を金型10の異常予測に用いることによって、温度変化が大きいプレス機の起動直後であっても、金型の異常発生を精度良く予測することができる。
【0066】
[実施形態2]
図6は、実施形態2に係る金型異常予測システム100の概略構成を示すブロック図である。実施形態2に係る金型異常予測システム100は、金型10の異常予測に、下死点検出センサ61に加えて、AEセンサ62も用いた点で、実施形態1の構成とは異なる。以下の説明では、実施形態1の構成と同じ構成については実施形態1と同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1と異なる部分についてのみ説明する。
【0067】
金型異常予測システム100は、演算処理部101と、下死点検出センサ61と、AEセンサ62と、角度検出部63とを備える。AEセンサ62は、金型10を用いてプレス機1によってプレス加工する際に、金型10の加工部分で生じた弾性波を検出する。AEセンサ62によって検出された値は、弾性波信号として、演算処理部101に出力される。なお、特に図示しないが、AEセンサ62は、金型10の近傍に配置または金型10に取り付けられている。下死点検出センサ61及びAEセンサ62からそれぞれ出力される下死点信号及び弾性波信号が、出力信号に対応する。
【0068】
演算処理部101は、下死点検出センサ61及びAEセンサ62から出力された下死点信号及び弾性波信号を用いて、金型10の磨耗度合いを推定するための異常予測スコアを算出し、該異常予測スコアを用いて金型10の異常予測を行う。
【0069】
具体的には、演算処理部101は、下死点信号変換部102と、下死点信号処理演算部103と、弾性波信号変換部104と、弾性波信号処理演算部105と、スコア算出部106と、異常予測部107とを備える。
【0070】
下死点信号変換部102は、下死点検出センサ61から出力された下死点信号のうち、角度検出部63で得られた角度信号において1ショット(1プレス)内の所望の角度の下死点信号のみを、A/D変換する。
【0071】
なお、前記所望の角度は、プレス加工の1ショットにおいて、金型10と板状材料Mとが接触している角度であってもよいし、AEセンサ62で検出される弾性波信号の角度と同期した角度であってもよい。
【0072】
下死点信号処理演算部103は、A/D変換後の信号から、下死点付近(ストリッパプレート15の上下方向の位置において、最下点に対して所定範囲)のデータを抽出し、それらの平均値を求める。また、下死点信号処理演算部103は、求めた平均値を一定のショット数において平均化処理を行うことにより、下死点値(位置情報)とする。
【0073】
なお、本実施形態では、下死点信号の平均値を求めて、該平均値を一定のショット数で平均化処理することが、位置情報の平均値の算出に対応する。位置情報の平均値を算出する際には、A/D変換後の信号を、一定のショット数で平均化処理を行った後、下死点付近のデータを抽出して、その平均値を求めてもよい。また、前記位置情報の平均値の算出では、下死点信号の平均値を、一定のショット数で平均化処理しなくてもよい。
【0074】
既述のとおり、本発明者らは、鋭意努力の結果、
図4に示すように、前記下死点信号と、金型10によってプレス加工された板状材料のバリの高さ(以下、バリ高さという)とが相関関係を有することを見出した。すなわち、前記バリ高さが大きくなると前記下死点信号の出力は増大する一方、前記バリ高さが小さくなると前記下死点信号の出力は低下する傾向がある。なお、本実施形態の場合では、前記下死点信号の出力が大きいほど、ストリッパプレート15の下死点の位置が高い。
【0075】
前記バリ高さは、一般的に、金型10の磨耗が大きくなると高くなることが知られている。したがって、前記下死点信号と金型10の磨耗量とは相関関係を有する。本発明者らは、前記下死点信号と金型10の磨耗量とが相関関係を有する点に着目し、前記下死点信号を金型10の磨耗度合いの推定に用いることを考えた。具体的には、後述するように、本実施形態に係る金型異常予測システム100は、下死点検出センサ61によって検出された結果を、異常予測スコアの算出に利用し、該異常予測スコアを用いて、金型10の現状の磨耗度合いから金型10の異常発生を予測する。
【0076】
弾性波信号変換部104は、AEセンサ62から出力された弾性波信号のうち、角度検出部63で得られた角度信号において1ショット(1プレス)内の所望の角度の弾性波信号のみをA/D変換する。その後、弾性波信号変換部104は、A/D変換後の信号から、金型10によって板状材料Mをプレス加工する期間の信号を抽出する。そして、弾性波信号変換部104は、抽出された信号に対して、FFT処理及びパワースペクトル演算を行うことにより、周波数帯域毎のパワー値を周波数の関数として得る。
【0077】
なお、前記所望の角度は、プレス加工の1ショットにおいて、金型10と板状材料Mとが接触している角度であってもよいし、下死点検出センサ61で検出される下死点信号の角度と同期した角度であってもよい。
【0078】
弾性波信号処理演算部105は、弾性波信号変換部104によって得られた周波数帯毎のパワー値のうち、所定の周波数帯(例えば300から500kHz)の値を抽出して、その平均値を求める。そして、弾性波信号処理演算部105は、求めた平均値を、一定のショット数において平均化処理を行うことにより、弾性波パワー値とする。
【0079】
スコア算出部106は、下死点検出センサ61及びAEセンサ62の各出力信号に基づいて、金型10の異常予測スコアを算出する。すなわち、スコア算出部106は、下死点信号処理演算部103によって求められた下死点値と、弾性波信号処理演算部105によって求められた弾性波パワー値とを用いて、異常予測スコアを算出する。具体的には、スコア算出部106は、前記下死点値及び前記弾性波パワー値に対してそれぞれ重み付けを行って、得られた値の和を求めることにより、前記異常予測スコアを算出する。
【0080】
詳しくは、スコア算出部106は、下死点信号処理演算部103によって求められた下死点値に対して下死点係数を乗算することにより下死点補正値を算出する。また、スコア算出部106は、弾性波信号処理演算部105によって求められた弾性波パワー値に対して弾性波係数を乗算することにより弾性波パワー補正値を算出する。そして、スコア算出部106は、前記下死点補正値と前記弾性波パワー補正値との和を、前記異常予測スコアとする。
【0081】
ここで、前記下死点係数及び前記弾性波係数は、金型10の磨耗度合いが所定の範囲内において、後述する磨耗度と異常予測スコアとの差分の合計が最小値になるように、スコア算出部106によって設定されている。なお、前記下死点係数及び前記弾性波係数は、実際の磨耗度と異常予測スコアとの差分を補正可能な値であれば、固定値であってもよいし、実験的または経験的に求められた値であってもよい。
【0082】
スコア算出部106は、例えば、下式によって、異常予測スコアPを算出する。
【0083】
P=Σ(Kn×Sn)
ここで、Knは、係数であり、Snは、各センサから出力された信号に基づいて得られた特徴量である。本実施形態のように複数のセンサから出力される信号を用いる場合には、各センサについて、その特徴量に所定の係数を乗算し、得られた値を加算すればよい。
【0084】
前記異常予測スコアは、
図7に示すように、実際の磨耗度と相関関係を有する。すなわち、実際の磨耗度が大きくなると、異常予測スコアが大きくなる。なお、
図7における磨耗度(
図7における白丸)は、金型10を用いてプレス加工された板状材料に形成されたバリ高さに基づいて決めた。すなわち、既述のように、バリ高さが大きいほど、金型の磨耗度が大きいため、基準値(製品として許容可能なバリ高さの限界値)に対するバリ高さの比から、磨耗度を算定した。
【0085】
なお、スコア算出部106による前記異常予測スコアの計算は、上述以外の方法によって行ってもよい。すなわち、下死点と弾性波とを考慮して異常予測スコアを算出する方法であれば、どのような計算方法であってもよい。
【0086】
異常予測部107は、スコア算出部106によって算出された前記異常予測スコアを用いて、金型10の異常発生を予測する。異常予測部107は、スコア算出部106で得られた前記異常予測スコアのスコア値を表示したり、該スコア値に応じて金型10の交換準備や交換のタイミングを作業者に対して通知したりする。このような通知を行うことにより、磨耗した金型によって不良品が大量に生産されることを防止でき、生産性を向上することができる。
【0087】
次に、
図8から
図10を用いて、上述のような構成を有する金型異常予測システム100の演算処理部101の動作について説明する。
図8は、演算処理部101が、AEセンサ62から出力される弾性波信号を用いて弾性波パワー値を算出するフローを示す。
図9は、演算処理部101が、下死点検出センサ61から出力される下死点信号を用いて下死点値を算出するフローを示す。
図10は、前記弾性波パワー値及び前記下死点値を用いて、異常予測スコアを算出し、該異常予測スコアに基づいて異常予測処理の動作を行うフローを示す。
【0088】
図8に示すフローがスタートすると、ステップSB1において、弾性波信号変換部104は、AEセンサ62から出力された弾性波信号を、角度検出部63から出力された角度信号を用いてA/D変換を行う。詳しくは、弾性波信号変換部104は、AEセンサ62から出力された弾性波信号のうち、角度検出部63で得られた角度信号において1ショット(1プレス)内の所望の角度の弾性波信号のみをA/D変換する。前記所望の角度は、プレス加工の1ショットにおいて、金型10と板状材料Mとが接触している角度であってもよいし、下死点検出センサ61で検出される下死点信号の角度と同期した角度であってもよい。
【0089】
続くステップSB2では、弾性波信号変換部104は、A/D変換後の信号から、金型10を用いて加工している期間の信号を抽出する。そして、ステップSB3,SB4において、弾性波信号変換部104は、抽出後の信号をFFT処理してパワースペクトル演算を行う。
【0090】
ステップSB5において、弾性波信号処理演算部105は、FFT処理及びパワースペクトル演算後のデータを用いて、所定の周波数帯におけるパワー値の平均値を求める。ステップSB6では、弾性波信号処理演算部105が、前記平均値を、一定のショット数において平均化処理を行うことにより、弾性波パワー値を算出する。その後、このフローを終了する(エンド)。
【0091】
次に、
図9に示すフローでは、フローがスタートすると、ステップSC1において、下死点信号変換部102は、下死点検出センサ61から出力された下死点信号を、角度検出部63から出力された角度信号を用いてA/D変換を行う。詳しくは、下死点信号変換部102は、下死点検出センサ61から出力された下死点信号のうち、角度検出部63で得られた角度信号において1ショット(1プレス)内の所望の角度の下死点信号のみをA/D変換する。前記所望の角度は、プレス加工の1ショットにおいて、金型10と板状材料Mとが接触している角度であってもよいし、AEセンサ62で検出される弾性波信号の角度と同期した角度であってもよい。
【0092】
続くステップSC2では、下死点信号処理演算部103は、A/D変換後の信号から、下死点付近(ストリッパプレート15の上下方向の位置において、最下点に対して所定範囲)のデータを抽出する。
【0093】
そして、ステップSC3において、下死点信号処理演算部103は、抽出したデータの平均値を求め、ステップSC4において、前記平均値を一定のショット数で平均化処理を行うことにより、下死点値とする。その後、このフローを終了する(エンド)。
【0094】
図10に示すフローでは、フローがスタートすると、ステップSD1において、スコア算出部106が、弾性波信号処理演算部105によって算出された弾性波パワー値と、下死点信号処理演算部103によって算出された下死点値とを用いて、異常予測スコアを算出する。具体的には、スコア算出部106は、前記弾性波パワー値に対して弾性波係数を乗算して弾性波パワー補正値を求め、前記下死点値に対して下死点係数を乗算することにより下死点補正値を求める。そして、スコア算出部106は、前記弾性波パワー補正値と前記下死点補正値との和を、前記異常予測スコアとして算出する。
【0095】
続くステップSD2において、異常予測部107は、ステップSF1で求めた異常予測スコアのスコア値を表示したり、該スコア値に応じて金型10の交換準備や交換のタイミングを作業者に対して通知したりする。その後、このフローを終了する(エンド)。
【0096】
前記ステップSB1からSB6が、金型10を用いてプレス機1でプレス加工する際に金型10で生じる弾性波をAEセンサ62によって検出し、該AEセンサ62の出力信号に基づいて前記弾性波に関する値(弾性波パワー値)を得る弾性波成分取得ステップに対応する。
【0097】
また、前記ステップSC1からSC4が、金型10のプレス方向における最下点を下死点検出センサ61によって検出し、該下死点検出センサ61の出力信号に基づいて前記最下点の位置情報(下死点値)を得る下死点位置取得ステップに対応する。
【0098】
さらに、前記ステップSD1が、前記弾性波成分取得ステップ及び前記下死点位置取得ステップでそれぞれ得られた値に基づいて、金型10の異常予測スコアを算出するスコア算出ステップに対応する。前記ステップSD2が、前記スコア算出ステップによって算出された結果に基づいて、金型10の異常発生を予測する異常予測ステップに対応する。
【0099】
なお、演算処理部101は、
図8及び
図9に示すフローを同時に処理してもよいし、いずれか一方を先に処理してもよい。
【0100】
以上より、本実施形態では、金型異常予測システム100は、金型10を用いてプレス機1でプレス加工する際に、金型10の加工部分で生じた弾性波をAEセンサ62によって検出し、且つ、前記プレス加工の際におけるストリッパプレート15の下死点を下死点検出センサ61によって検出する。そして、金型異常予測システム100は、AEセンサ62によって検出された弾性波信号と、下死点検出センサ61によって検出された下死点信号とに基づいて、異常予測スコアを算出し、該異常予測スコアを用いて金型10の異常発生を予測する。
【0101】
これにより、金型10の磨耗度合いを、実施形態1の構成よりも精度良く検出することができる。したがって、金型10の異常発生をより精度良く予測可能な金型異常予測システム100が得られる。
【0102】
また、金型異常予測システム100は、前記弾性波信号から得られる所定の周波数帯の弾性波パワー値と、前記下死点信号から得られる下死点値とに、それぞれ所定の係数を乗算して、重み付けすることにより得られた弾性波パワー補正値と下死点補正値との和によって、前記異常予測スコアを得る。これにより、AEセンサ62及び下死点検出センサ61によってそれぞれ検出された値を用いて前記異常予測スコアを精度良く求めることができる。したがって、金型10の現状の磨耗度合いをより精度良く推定することができるため、金型10の異常発生をより精度良く予測することができる。
【0103】
上述のような金型異常予測システム100は、せん断加工に用いられる金型10の異常発生を予測する場合に適している。バリ高さを精度良く推定可能な下死点検出センサ61によって、金型10の磨耗度合いを精度良く推定できるとともに、せん断加工に用いられる金型10の加工部分で生じた弾性波は、AEセンサ62によって精度良く検出することができる。したがって、上述の金型異常予測システム100は、せん断加工に用いられる金型10の異常発生の予測により効果的な構成である。
【0104】
なお、本実施形態では、金型10の位置として、ストリッパプレート15の下死点の位置を用いたが、この限りではなく、プレス状態を検出可能な位置であれば、金型10の他の位置を用いてもよい。
【0105】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0106】
前記各実施形態では、下死点信号処理演算部53,103は、下死点値を算出する際に、下死点付近のデータを抽出し、それらの平均値を求めた後、該平均値を一定のショット数で平均化処理している。しかしながら、下死点信号処理演算部は、上述のような平均値の算出や平均化処理を行わずに、金型10のプレス方向における最下点(下死点)の位置を求めてもよい。すなわち、下死点信号処理演算部は、金型10のプレス方向における最下点(下死点)の位置を求めることができれば、上述のような平均値の算出や平均化処理を行わなくてもよい。
【0107】
前記各実施形態では、金型異常予測システム50,100は、金型10を用いて板状材料Mを所定の形状に打ち抜く打ち抜き加工を行うプレス機1に適用されている。しかしながら、プレス加工によって材料をせん断加工するプレス機以外に、曲げ加工や絞り加工等を行うプレス機など、他の構成を有するプレス機に金型異常予測システム50,100を適用してもよい。プレス機の駆動方式としては、本実施形態のようなクラウンプレスに限定されず、リンクプレスやサーボプレス、油圧プレスなどの他の駆動方式であってもよい。