【実施例1】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後、上下の方向は図中に示す方向であるとして説明する。
【0014】
図1は打込機10の全体構成を示す斜視図である。打込機10は、本体部分が、筒形状のシリンダケース12と、シリンダケース12の筒状の軸線方向から略直交する方向に突出したハンドル13と、シリンダケース12の上側開口部を閉じるためのヘッドカバー14と、シリンダケース12の下側開口部に固定されるテールカバー15により、その外殻形状が決定される。ハンドル13は、シリンダケース12の中心線(軸線)に対して交差する方向にその長手方向が延びるように配置される。ハンドル13の付け根付近の下側には止具を射出するためのトリガレバー19が設けられ、後方側付近には打込機10をベルト等に吊すためのフック89が設けられる。テールカバー15は、シリンダケース12の下側を閉鎖すると共に中央に貫通口を有するフランジ部と、フランジ部と一体に成形され釘の射出方向に延びる略管状のノーズ部により構成される。ノーズ部にはドライバブレード(後述)が通過して止具を射出口24aに向けて案内するための案内通路(後述)が設けられる。
【0015】
テールカバー15の案内通路の下側には、射出通路が形成されたプッシュレバーピース23が設けられる。プッシュレバーピース23の下端部は射出口24aが形成され、射出口24aの外周には滑り止め用の凸部を有する先端部23bが形成される。プッシュレバーピース23には、被打込材たる対象物Wの保護用としてのキャップ部材70を装着又は取り外し可能である。キャップ部材70を装着することにより被打撃材にドライバブレードによる打撃痕が残ることを低減できる。プッシュレバーピース23の先端部分には、キャップ部材70を装着するためにフランジ部23d、23fが形成され、矢印73の方向にプッシュレバーピース23に取り付けることができる。打込機10は、キャップ部材70を取り付けない状態でも、取り付けた状態でも双方で釘打ち作業が可能である。
【0016】
テールカバー15のノーズ部分の前方側には、図示しない連結アームの可動部分を覆うためのノーズカバー160が設けられる。テールカバー15の案内通路の後方には、止具の供給手段たるマガジン16が設けられる。マガジン16は、止具としての釘(図示せず)を複数収容するもので、複数の釘は連結した状態で並べられ、つまみ52を操作して釘ガイド53内に釘列の最初の釘が案内通路の内部に入るようにセットされる。マガジン16には、長さや釘頭の形状等の異なる釘を収容可能である。マガジン16の内部では、シート連結釘又は針金連結釘のいずれかがネイルホルダ(図示せず)に装着され、先頭の釘から1本ずつ案内通路に供給される。セットできる釘としては、スムース釘、スクリュー釘、リング釘等である。また釘の頭形状はカップ状又はフロア状のもの等を使用できる。釘の長さは、例えば25〜50mm程度の様々な長さの釘を装填することができる。本実施例の打込機10においては、連結釘がロール状に巻かれた状態でマガジン16内を移動する構造であるが、マガジン16の給送路を直線状に配置して、一列に連結された釘や止具を給送する構成のマガジンを用いても良い。
【0017】
図2は本実施例の打込機10の側面図であり、打撃機構部分を断面図にて示す図である。シリンダケース12内及びヘッドカバー14内に亘ってシリンダ25が設けられる。シリンダ25は、その内部においてピストン35を軸方向に対して摺動可能に保持するものである。ピストン35の下側にはドライバブレード36が延びるように接続される。ここではピストン35と棒形状のドライバブレード36が一体的に製造され、これらが止具の打撃子を構成する。ピストン35の外周側であってシリンダ25との間にはシール部材37が介在される。シリンダ25はシリンダケース12に対して、シリンダ25の中心線A1方向にわずかに移動可能である。フランジ26がシリンダ25の軸方向中央付近の外周面に設けられ、フランジ26とシリンダケース12の間にはシール部材27が設けられ、フランジ26の上側及び下側空間を区画する。
【0018】
ヘッドカバー14は、筒形状のガイド部29を有し、筒形状のメインバルブ30がヘッドカバー14の内部であって、ガイド部29の径方向外側に配置される。メインバルブ30は中心線A1方向にわずかに移動可能である。金属製の圧縮バネ等の弾性部材31は、メインバルブ30を中心線A1方向に付勢してバルブシート28に押し付ける。ヘッドカバー14とメインバルブ30との間にメインバルブ室32が形成される。ストッパ33は、ガイド部29の内外に亘って配置され、メインバルブ30が移動するとポート34を開閉し、ポート34が開くとピストン35の上側空間と排気室39とが接続される。ピストン35の上側空間の圧縮空気は、排気室39から図示されていない排気通路を通って外部に放出される。ポート34が閉じると、ピストン35の上側空間と排気室39とが遮断される。排気室39には作業者により手動で空気を抜くためのリリーフバルブ38が設けられる。排気室39と蓄圧室17とは、ヘッドカバー14の一部であって筒形状のセパレータ14aによって仕切られている。
【0019】
ピストン35の上側空間は、ストッパ33とピストン35との間であり、かつ、メインバルブ30の内側に設けられる。作業者がトリガレバー19を引くと蓄圧室17とピストン35の上側空間が連通されるため、圧縮空気がピストン35の上側空間に流れ込むことによりピストン35が下死点側に向かって一気に移動する。ピストン35が下死点まで移動するとダンパ40に衝突する。ダンパ40はシリンダ25内からテールカバー15内に亘って配置される。ダンパ40は合成ゴム等の弾性体を略円筒状に成形したものであり中心に軸孔40aを有する。ピストン35の下側空間は、シリンダ25内でピストン35とダンパ40との間に形成される。シリンダ25のフランジ26よりも下側に複数の通気口43が設けられ、ピストン35の下方向の移動に伴い、ピストン35の下側空間から通気口43を介して戻し空気室44への空気の流入を許容する。通気口43の外側には合成ゴム製のOリング等の逆止弁45が設けられる。逆止弁45は、ピストン35の下側空間の空気圧で弾性変形し、シリンダ25の内部から通気口43を介して戻し空気室44側への空気の流れだけを許容する。フランジ26とテールカバー15との間に形成される戻し空気室44は、空気の力によりピストン35を下死点から上死点に移動させるために用いられる。シリンダ25の下端に近い箇所には、通気口43とテールカバー15との間を常時連通する通気口46が設けられる。
【0020】
蓄圧室17は、ハンドル13内からシリンダケース12内に亘って設けられるもので、プラグ18に着脱される図示しないエアホースにより供給される圧縮空気を貯める空間である。ハンドル13のシリンダケース12の近傍には、トリガバルブ機構21が設けられる。トリガバルブ機構21は、プランジャ22を移動させることにより、蓄圧室17からトリガバルブ機構21を通る空気通路の開閉弁を制御するもので、プランジャ22はトリガレバー19によってその開閉が操作される。本実施例のトリガレバー19の操作は、プッシュレバー機構と連動して許容又は阻止される構造とされ、プッシュレバーピース23が対象物Wに対して押しつけられている状態でのみ、トリガレバー19がプランジャ22を移動させることができるように構成される。換言すると、プッシュレバーピース23が対象物Wに対して押しつけられていない場合には、作業者がトリガレバー19を引いてもプランジャ22を移動させることができないように構成される。プッシュレバーピース23が対象物Wに対する押し込みと、トリガバルブ機構21との連動を可能とするために、プッシュレバーピース23の上下方向の移動を伝達するための連結アーム241がトリガレバー19の近傍まで延びるように配置される。つまり、プッシュレバーピース23が上方向に移動すると、連結アーム241も上方向に移動する。また、プッシュレバーピース23の対象物Wへの押しつけが解除されると、図示しないバネの付勢力によって連結アーム241は下方に戻され、プッシュレバーピース23も下方向に移動する。
【0021】
プッシュレバーピース23は、止具の射出口を形成するコンタクト部材となるもので、テールカバー15に対して中心線A1の軸線方向に摺動可能なように連結アーム241への接続部に取り付けられる。ねじ部材65により、連結アーム241の接続部に取り付けられ、ねじ部材65を緩めたり締め付けたりすると、プッシュレバーピース23は連結アーム241に対して着脱可能である。連結アーム241は射出方向と同方向又は逆方向に摺動可能なようにテールカバー15にて保持される。テールカバー15はシリンダケース12の下側開口を塞ぐと共に、ドライバブレード36の案内通路48を形成するためのノーズ部分を形成するための部材であって、金属の一体成形により製造される。本実施例において案内通路48は、テールカバー15の内部に設けられた断面通路が略円形の孔部である。プッシュレバーピース23の先端には射出通路24が設けられており、案内通路48から射出通路24に至る部分が釘の移動通路となり、射出口24aから釘が射出される。
【0022】
テールカバー15の上端付近に形成される軸孔47は、中心線A1と同心状に配置され、初期状態においてはドライバブレード36の先端が軸孔47内に位置する。テールカバー15の案内通路48の側方に配置されたマガジン16から、釘50(
図10参照)が1本ずつ案内通路48に供給される。釘50の頭部は、その外径が軸部よりも大きく、案内通路48の内径よりも小さい。ドライバブレード36は、シリンダ25の中心線A1に対して垂直な平面における断面形状が円形である。ドライバブレード36の外径は、案内通路48の内径よりもわずかに小さく形成され、釘の打撃時にはドライバブレード36は案内通路48を貫通してプッシュレバーピース23の射出通路24の内部にまで移動する。
【0023】
次に、打込機10の使用例を説明する。圧縮空気は蓄圧室17に供給され、蓄圧室17の空気圧は大気圧よりも高い。トリガレバー19に操作力が加えられておらず、かつ、プッシュレバーピース23が対象物Wから離れていると、ピストン35の上側空間は排気室39を介してハウジングの外に接続される。蓄圧室17の空気圧はメインバルブ30に加わり、メインバルブ30を中心線A1方向でヘッドカバー14に近づける向きの第1の力が生じる。また、蓄圧室17の空気圧はメインバルブ室32に伝達されており、メインバルブ30は、メインバルブ室32の空気圧に応じた力及び弾性部材31の力により、ヘッドカバー14から離れる向きの第2の力を受ける。このため、メインバルブ30は、第1の力と第2の力との差により、バルブシート28に押し付けられる。つまり、メインバルブ30はポート34を閉じており、蓄圧室17の空気圧はピストン35の上側空間に伝達されない。このときのピストン35の上側空間は大気圧である。
【0024】
ピストン35はピストン35の下側空間の空気圧で中心線A1方向に付勢され、ピストン35は、
図2のようにストッパ33に接触して上死点で停止している。ピストン35が上死点で停止していると、ドライバブレード36の先端の打撃面36dは軸孔47に位置する。そして、トリガレバー19に操作力が加えられ、かつ、プッシュレバーピース23が対象物Wに押し付けられ、プッシュレバーピース23が初期位置から移動すると、メインバルブ室32がハウジングの外に接続され、メインバルブ室32は大気圧になる。すると、メインバルブ30は、弾性部材31の力と、蓄圧室17の空気圧に応じた力との差により、ヘッドカバー14に向けて移動する。このため、メインバルブ30がバルブシート28から離れて開き、ポート34が閉じられる。この結果、蓄圧室17の空気圧でピストン35の上側空間の空気圧が上昇し、ピストン35及びドライバブレード36が下降する。ドライバブレード36が案内通路48に進入すると、ドライバブレード36は釘50の頭部を打撃する。ドライバブレード36の下降に伴い、釘50は案内通路48で長手方向に移動して射出通路24へ進入し、射出口24aを通って対象物Wに打ち込まれる。この際、ドライバブレード36の先端は射出口24aとほぼ同位置付近まで到達する。
【0025】
ピストン35が上死点から下死点に向けて移動中、ピストン35の下側空間の空気は、通気口46を通り、戻し空気室44に進入する。ピストン35の移動中、シール部材37が、中心線A1方向でストッパ33と通気口43との間に位置していると、逆止弁45は通気口43を閉じている。ピストン35の移動中、シール部材37が、通気口43とダンパ40との間に移動すると、逆止弁45は通気口43を開き、ピストン35の上側空間の空気の一部は通気口43を通り、戻し空気室44に進入する。このようにして、戻し空気室44及びピストン35の下側空間の空気圧が上昇する。そして、ドライバブレード36が釘50を打ち込んだ後、作業者はトリガレバー19に対する操作力を解除し、かつ、プッシュレバーピース23の端部63を対象物Wから離す。すると、プッシュレバーピース23及び連結アーム241は、図示しないバネの付勢力で初期位置に戻り停止する。さらに、メインバルブ室32と、図示されていない大気通路とが遮断され、蓄圧室17とメインバルブ室32とが接続され、メインバルブ室32の空気圧が上昇する。このため、メインバルブ30がヘッドカバー14から離れてポート34が開く。このように、ピストン35の上側空間は排気室39、及び図示されていない排気通路を介してハウジングの外につながり、ピストン35の上側空間は大気圧となる。この結果、フランジ26が戻し空気室44の圧力を受けてシリンダ25が上昇し、ストッパ33に接触し、ピストン35は上死点で停止する。そして、バルブシート28がメインバルブ30に押し付けられてポート34が閉じられる。
【0026】
ドライバブレード36が釘50を打ち込んだ後に次の打撃を行うには、作業者が必ずトリガレバー19を戻さなければならない“単発モード”に加えて、釘50を打ち込んだ後に作業者がトリガレバー19に対する操作力を維持したまま、プッシュレバーピース23を、対象物Wの次の打撃位置に押し付けることにより連続的に打撃操作を行うことができるようにした“連発モード”が設けられる。このモード切替は、トリガレバー19の近傍に設けられた単連切替レバー20(
図1参照)を操作することで行う。
【0027】
図3は打込機10のプッシュレバーピース23付近の部分拡大断面図であって、打ち込み前の状態を示す。キャップ部材70はプッシュレバーピース23の先端に取り付けられている。プッシュレバーピース23は、テールカバー15に対して矢印55の方向、即ち止具の射出方向に沿ってスライド可能である。
図3はプッシュレバーピース23を対象物W等に押し当てている状態、即ちプッシュレバーピース23が上死点側に移動している状態である。プッシュレバーピース23は内周側に射出通路24が形成され、先端に射出口24aを有する。射出通路24の中心軸は、案内通路48の中心線A1と一致するか、あるいはわずかに偏心させて配置され、それらの内径は同径又は略同径であって、共に使用可能な最大径の釘50の頭部の外径よりも大きい径とする。プッシュレバーピース23の上方の側面部分23aは、テールカバー15の案内通路48の下側部分の外周側に位置する。プッシュレバーピース23の内周面とテールカバー15の外周面との間には、わずかな隙間Gが設けられ、プッシュレバーピース23がテールカバー15に対して矢印55の方向に良好に摺動可能なように構成される。ねじ部材65を緩めて取り外すと、プッシュレバーピース23を取り外しできる。プッシュレバーピース23は、先端を対象物Wに押し当てた際に連結口24cが案内通路48の案内口48aに接近することにより、案内通路48から射出通路24に至る釘50の移動通路を形成する。プッシュレバーピース23が上死点側に移動した状態にて釘が打ち込み可能であり、案内通路48の先端側に射出通路24が同軸上に、またはわずかに偏心した状態で並ぶことにより、釘の移動経路が確立される。射出時のテールカバー15の下端位置(案内口48aの位置)と射出通路24の上端位置(連結口24c)の距離は、打ち込み深さダイヤル245(
図2参照)による設定によって調整可能であるが、座屈防止の観点からはできるだけ小さい方が好ましい。
【0028】
テールカバー15には射出される釘の姿勢を維持するための補助ガイド手段60が揺動可能に設けられる。補助ガイド手段60はテールカバー15側に固定される支持軸59を中心に軸支され、接触部61がテールカバー15のストッパ部(図示せず)に接触して可動片58が矢印67の方向に図示しないスプリング等の弾性力で付勢される。この付勢によって、接触部61は案内通路48の中心線A1に最も近づく方向に付勢され、支持軸59より接触部61側にある一部がテールカバー側に設けられたストッパ(図示せず)に当接することにより、図示された初期位置にて維持される。このように接触部61が、案内通路48の内面とほぼ同一面になるように配置されることにより、案内される釘50の頭部50aが射出通路24より外側に逸脱して大きく傾くことを抑制できる。つまり、補助ガイド手段60は、案内通路48内で移動する釘50を、中心線A1に対して近づける方向に移動させる要素であって、釘の射出方向に向けた姿勢を矯正する手段としての機能を果たす。
【0029】
キャップ部材70は、釘50を柔らかい対象物Wに打ち込む際に、金属製のプッシュレバーピース23の先端部において相手材を傷つけないようにするための覆い部材であって、釘50の打ち込み後の周囲の面をきれいにするために設けられる。そのためキャップ部材70は、プッシュレバーピース23の材質に対して十分柔らかく、好ましくは相手材よりも柔らかい材料で製造される。リング部材80の外周面は、鋳込まれることにより合成樹脂製のキャップ本体71と密接しているが、内周面は合成樹脂には覆われずに金属面が露出している。従って、リング部材80がドライバブレード36の通過する移動通路の一部を形成することになる。キャップ本体71のリング部材80よりも上側部分には、プッシュレバーピース23への取り付けのために内側に向けて突出する凹凸部が形成され、プッシュレバーピース23側に形成された凹凸部と係合する。プッシュレバーピース23の先端部23bが射出口24aを画定し、射出口24aの外周側の相手材Wとの当接面には、滑り止め効果を持たせるための突起部23cが形成される。先端部23bよりやや上方側には、キャップ部材70に形成された凹凸部と係合するための凹凸部として、上から窪み部23g、上側のフランジ部23f、周方向にほぼ連続して細径状にされた円環溝部23e、下側のフランジ部23dが形成される。
【0030】
図4は、
図3のキャップ部材70単体の縦断面図である。キャップ本体71は、合成樹脂の一体成形により製造され、内側に金属製のリング部材80がインサート成形にて鋳込まれる。ここではリング部材80の外周側に窪み83、85を形成し、窪み83に挟まれる部分が外側に突出するフランジ部84を形成するようにして、リング部材80を合成樹脂の一体成形によるキャップ本体7に鋳込んだ後に抜け落ちないように構成した。キャップ本体71のうちリング部材80よりも上側部分は、掛止部72a付近まで軸方向に延びるが、周方向の一部に切り欠き部71cが形成される。切り欠き部71cを設けたのは、補助ガイド手段60を設けるためにプッシュレバーピース23の一部が周方向外側に突出しており、それとの干渉を避けるためである。キャップ本体71の上側部分の内周は、上から、掛止部72a、内径が大きくされた第一の溝部72b、内径がわずかに大きくされた第二の溝部72cが形成される。尚、ここでいうキャップ本体71の溝部とは、内周側から径方向外側に向けてみた際に溝状に窪んでいるという意味であり、合成樹脂部分に形成された嵌合用の凹部である。第一の溝部72bがプッシュレバーピース23の上側のフランジ部23f(
図3参照)に嵌合し、第二の溝部72cが下側のフランジ部23d(
図3参照)に嵌合する。
【0031】
リング部材80の内周面は中央付近81b、即ち内周側の平行部分は内径Cとなる。内周面の上側(ドライバブレード36の入射側)と下側(ドライバブレード36の出射側)は、それぞれ面取り加工がされたテーパ部81a、81cとなっている。リング部材80の上側面82aは、リング部材80が露出しており、キャップ部材70の装着時にリング部材80の上側面82aとプッシュレバーピース23の先端面が接触する。一方、リング部材80の下側面82bは、キャップ本体71により径方向の大部分(ここでは外側半分)が覆われるような形状とされるため、キャップ部材70を対象物Wに押し当てても、リング部材80が対象物Wと接触しない。また、キャップ本体71の開口部71aの大きさは、リング部材80の内径Cよりも十分に大きく形成されるため、射出される釘50が開口部71aにおいてキャップ本体71と接触する恐れはない。
【0032】
図5はドライバブレード36の先端形状とその材質を説明するための図である。ドライバブレード36の形状は、ピストン35の下側の大部分の断面形状が円形であり、同一の外径部分が延びる円柱状の主軸部36aであり、その先端側の長さL1の部分が先端面36dに向かうにつれて径が細く形成された先絞り形状のテーパ部36bである。テーパ部36bの先端は、中心線A1と直交する平面たる先端面36dが形成される。この先端面36dが釘の頭部を打撃する打撃面となる。主軸部36aの直径はDであり、先端面36dの直径(軸径)はD1である(D>D1)。テーパ部36bは、主軸部36a側から先端面36dに近づくにつれて同じ低減率で径が細くなる。本実施例では主軸部36aの径Dが、リング部材80の内径C(
図4参照)より大きくなるように構成した。ピストン35と一体にて形成されるドライバブレード36は、鋼等の強度の高い金属が用いられる。しかし、ドライバブレード36の先端部付近は、その強度をさらに上げるために堅くて耐久性のある材質を結合した補強部36cとしている。補強部36cとしては、例えば高速度工具鋼 (high−speed tool steel)と呼ばれる鋼を用いることができる。補強部36cの軸方向長さL2は、テーパ部36bの軸方向長さL1と一致させる必要はなく、L1よりもL2が短くても良い。
【0033】
次に、ドライバブレード36が下降して釘50を打撃するときの状況を
図6を用いて説明する。ドライバブレード36は、
図2に示す通常時の位置からピストン35の下降によって、案内通路48から射出通路24を通り、先端の打撃面36dがキャップ部材70の内部にまで入り込む。このドライバブレード36の射出の前に、案内通路48には打ち込まれる釘50(図示せず)が給送されているために、ドライバブレード36の先端面36dが釘50の頭部50aを打撃することにより釘50が対象物Wに打ち込まれる。
図5ではドライバブレード36の先端面36dが最も下降した位置(下死点)において、キャップ部材70の開口部71aと一致する状態を示している。この下死点位置(ピストン35の下死点位置)における先端面36dと開口部71aとの高さのずれは、アジャスタ機構(図示せず)によってプッシュレバーピース23の上下方向位置を調整することにより、一致させることができる。また、キャップ部材70を装着しないで釘の打ち込む場合には、アジャスタ機構のダイヤル245(
図2参照)によってプッシュレバーピース23の下端位置を下側に移動させて、ドライバブレード36の下死点位置で、ドライバブレード36の打撃面36dと射出口24a(
図3参照)の位置がほぼ一致するように調整する。
【0034】
キャップ部材70は、上方の側面付近に、内側に突出する掛止部72aが形成され、掛止部72aの下側には、少なくとも2つの周方向に連続する溝部(内径が大きく形成された部分)72b、72cが形成される。キャップ部材70のプッシュレバーピース23への取り付けは、合成樹脂製のキャップ本体71の塑性変形により、掛止部72a、溝部72cをフランジ部23f、23dからなる取付部に掛止させることにより行う。この装着によりプッシュレバーピース23の下端面は、リング部材80の上側面82aに接触することになる。
【0035】
図7は本実施例の打込機10における最も悪い条件での釘打ち状態を示す図である。
図7の状態は、実際の釘の打ち込みにおいてほとんど生ずることがないワーストケースであるが、仮にそのような状態になってもリング部材80の内径C(
図4参照)が射出口24aの直径よりも細い径とされるので、釘50の先端部50cの横ぶれ距離Eが制限されるため、
図10にて示した従来の打込機における釘50の傾斜角θ
1よりも、傾斜角θを十分小さくすることができる。また、本実施例の補助ガイド手段60において、接触部61の内面位置は、射出通路24の円筒面24dとほぼ一致するように配置されるが、接触部61の内面位置が射出通路24の円筒面24dよりも内側にわずかに突出するように、補助ガイド手段60の初期位置(矢印67の方向への図示しないバネ手段による付勢時の初期位置)を設定しても良い。このように、本実施例では射出通路24の内径Bよりも小さい内径Cを有するキャップ部材70を用いるようにしたので、釘50が斜めに射出された際の傾斜角度θが従来のキャップ部材170(
図10参照)を用いられる時の傾斜角θ
1よりも大幅に抑えられ、先端部50cの所望の射出点からの逸脱距離Eを小さくできるので、釘50が座屈する恐れを大幅に除去できる。
【0036】
図7では、釘の頭部50aが可動片58の接触部61と離れる側(つまり前側)に傾斜しているが、これとは逆方向への傾斜、即ち頭部50aが可動片58側に傾斜して接触部61と触れるように後ろ側に傾斜しても、釘50の先端部50cがリング部材80の内周面に当接するため、釘50の傾斜角θを抑制できる。このようにドライバブレード36の先端には主軸部36aよりも堅い金属が接合された補強部36cが形成されているので、補強部36cがリング部材80の内周側で摺動してもドライバブレード36の摩耗を抑制することができる。
【0037】
次に
図8を用いて、各部の寸法について説明する。コンタクト部材たるプッシュレバーピース23の先端の射出口24aとリング部材80の後端面80bが接触するようにキャップ部材70がコンタクト部材に取り付けられる。リング部材80の内周側は中心線A1方向に見て、上側約1/5が径が徐々に小さくなるテーパ状に形成され、その下側部分の円筒面が開口側の角部を除いて内径Cで均一径となる。従って、リング部材80の内周側の貫通孔の最小内径はCとなる。このようにキャップ部材70の最小内径Cはリング部材80により決定されるので、リング部材80の形状を適切に設定すれば、座屈防止効果の高いキャップ部材70を実現できる。また合成樹脂製のキャップ本体71部分で無く、リング部材80が釘50の先端部50cと接触するので、キャップ部材70が摩耗により破損する恐れを抑制できる。さらに、金属製のリング部材80を用いることにより、プッシュレバーピース23の内径A1よりも小さく形成することが容易に、且つ、精度良く実現できる。リング部材80の下側面82bと対象物Wとの間の距離L3は、キャップ本体71の樹脂の厚さ分だけ確保されるので、リング部材80が対象物Wに直接接触しない。キャップ本体71の開口部71aの直径は、リング部材80の内径Cよりも大きく構成すると良い。
【0038】
ドライバブレード36のテーパ状の部分の軸方向長L1は、キャップ部材70の内周側の軸方向長さLよりも長くした。プッシュレバーピース23のテールカバー15に対する初期位置は、射出方向に最大突出位置から最小突出位置まで所定の範囲Sだけ調整可能である。ここでは、ドライバブレード36の先端部分の比較的長い部分でテーパ状に形成したことにより、プッシュレバーピース23の取り付け位置をテールカバー15に対して所定範囲Sだけ調整したとしても、打撃時にドライバブレード36がリング部材80と干渉して、打撃に悪影響を及ぼすことを防止できる。また、
ドライバブレードの先端軸径D1 < リング部材80の最小内径C
< プッシュレバーピース23の射出通路の内径
B
の関係に構成したので、射出時にドライバブレード36が必要以上に対象物W側に移動することも防止できる。
【0039】
テーパ状の部分の軸方向長L1は、キャップ部材70の軸方向長さLよりも長く、且つ、プッシュレバーピース23の調整範囲Sの長さよりも大きくなるようにすると好ましい。ドライバブレード36の堅い金属(
図5参照)の軸方向長さL2は、テーパ状の部分の軸方向長L1及びキャップ部材70の内周側の軸方向長さLよりも短く構成してもドライバブレード36の先端部分の強度向上の効果は十分得られる。テーパ状の部分の軸方向長L1は、キャップ部材70の内周側の軸方向長さLと、コンタクト部材の先端の平行部の軸方向長さLLとの合計よりも短く構成すると好ましい。以上のように、このようにリング部材80の内径Cによって射出口24aの径が従来と同じく案内通路48の径Bと同等であっても、金属製のリング部材80を鋳込んだキャップ部材70を取り付けることによって、細くて短い釘を打ち込む際にもドライバブレード36と干渉することなく、スムーズな打ち込みが可能となった。
【0040】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、打込機の打撃機構は、動力源としてエアを用いるものだけに限られずに、燃焼用のガス、電気モータと弾性部材を用いるその他の打撃機構を用いた打込機であっても良い。また、キャップ部材70のプッシュレバーピース23の先端側に位置する部分の軸方向長さLは、上述の実施例のようにテーパ状の部分の軸方向長L1の半分以上を占めるのではなくて、軸方向長L1の25〜75%程度の範囲で設定しても良い。キャップ部材70、特に被打込材W側の面(キャップ部材先端部)においては、打込みの際にコンタクト部材が滑ることを防ぐためにキャップ部材先端部を摩擦係数の高い材質で成形したり、キャップ部材先端部の端部などに突起部を設けたりする構成であってもよい。さらに、キャップ部材70に硬質のリング部材80を設ける場合に、リング部材80が被打込材Wと接するようにキャップ部材70に埋め込まれていてもよい。
【0041】
打撃子は、ピストン及びドライバブレードが一体成形されている構造、別体であるピストンとドライバブレードとを固定した構造の何れでもよい。またドライバブレードの長手方向と垂直な断面形状は真円形だけに限られずに、楕円形、多角形やその他の形状であっても先端形状が徐々に細く形成されたものであれば、本発明のキャップ部材を同様に適用できる。その際には、ドライバブレードの断面形状に合わせて、射出口の断面よりもわずかに狭くて、相似形の断面の内壁を有するキャップ部とすれば良い。打ち込まれる止具は、上述の実施例では軸部及び頭部を有する丸釘を用いて説明したが、丸釘の他、軸部が有り頭部の小さいか又は無い釘であっても良いし、ステープル状の止具であっても良い。