(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
耐火性フィラー粉末が、コーディエライト、ウイレマイト、アルミナ、リン酸ジルコニウム系化合物、ジルコン、ジルコニア、酸化スズ、石英ガラス、β−ユークリプタイト、スポジュメンから選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項5に記載の封着材料。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レーザー封着に用いる封着材料は、一般的に、ガラス粉末、耐火性フィラー粉末及びレーザー吸収材を含んでいる。ガラス粉末は、レーザー封着の際に軟化流動して、被封着物と反応し、封着強度を確保するための成分である。耐火性フィラー粉末は、骨材として作用し、熱膨張係数を低下させるための材料であり、レーザー封着の際に軟化流動するものではない。レーザー吸収材は、レーザー封着の際にレーザー光を吸収して、熱エネルギーに変換するための材料であり、レーザー封着の際に軟化流動するものではない。
【0008】
ガラス粉末として、従来までは鉛ホウ酸系ガラスが使用されていたが、環境的観点から、近年では無鉛ガラスが使用されている。特に、ビスマス系ガラスは、低融点であり、軟化流動性に優れるため、無鉛ガラスとして有望視されている。しかし、ビスマス系ガラスは、主成分のBi
2O
3がレーザー吸収能を殆ど有しないため、レーザー吸収能が不十分になり易い。このため、ビスマス系ガラスのレーザー吸収能を補うために、レーザー吸収材の含有量を増やさなければならない。しかし、レーザー吸収材の含有量が多くなると、レーザー封着の際に、ビスマス系ガラス中にレーザー吸収材が溶け込み、これによりビスマス系ガラスが失透して、所望の軟化流動性を確保できなくなる。
【0009】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、軟化流動性とレーザー吸収能を高いレベルで両立し得るビスマス系ガラス及びそれを用いた封着材料を創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、ビスマス系ガラス中にCuOとMnOを所定量導入することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明のビスマス系ガラスは、ガラス組成として、下記酸化物換算のモル%で、Bi
2O
3 25〜45%、B
2O
3 20〜35%、CuO+MnO 15〜40%を含有し、且つモル比CuO/MnOが0.5〜6.2であることを特徴とする。ここで、「CuO+MnO」は、CuOとMnOの合量を指す。「CuO/MnO」は、CuOの含有量をMnOの含有量で割った値を指す。
【0011】
本発明のビスマス系ガラスは、ガラス組成中にCuOとMnOを合量で20モル%以上含む。CuOとMnOは、レーザー吸収能を大幅に高める成分である。よって、CuOとMnOの合量を20モル%以上に規制すれば、レーザー吸収能を顕著に高めることができる。特に、工業的に広範に使用されている波長808nmのレーザー光の吸収能を顕著に高めることができる。
【0012】
本発明者等の調査によると、MnO
2等のMnOの導入原料は、溶融時に酸化作用を有する。そして、本発明のビスマス系ガラスのように、CuOとMnOを併用し、モル比CuO/MnOを0.5〜6.2に規制すると、溶融時にガラス中に存在するCu
2Oが、MnOの導入原料により酸化されて、酸化数が2以上の酸化銅(例えば、CuO)が増加し、これにより近赤外波長域におけるレーザー吸収能を大幅に高めることができる。
【0013】
本発明のビスマス系ガラスは、上記の通り、CuOとMnOを合量で20モル%以上、且つモル比CuO/MnOを0.5〜6.2に規制しているため、レーザー吸収能が極めて高く、封着材料として用いる場合に、レーザー吸収材の導入量を可及的に低減することができる。結果として、軟化流動性とレーザー吸収能を高いレベルで両立することができる。
【0014】
第二に、本発明のビスマス系ガラスは、更にガラス組成中にZnOを1〜20モル%含むことが好ましい。
【0015】
第三に、本発明のビスマス系ガラスは、MnOの含有量が3〜25モル%であることが好ましい。
【0016】
第四に、本発明のビスマス系ガラスは、実質的にPbOを含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が0.1質量%未満の場合を指す。
【0017】
第五に、本発明の封着材料は、ビスマス系ガラスからなるガラス粉末と耐火性フィラー粉末とを含む封着材料において、ガラス粉末の含有量が50〜95体積%、耐火性フィラー粉末の含有量が1〜40体積%であり、且つビスマス系ガラスが、上記のビスマス系ガラスであることが好ましい。
【0018】
第六に、本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末が、コーディエライト、ウイレマイト、アルミナ、リン酸ジルコニウム系化合物、ジルコン、ジルコニア、酸化スズ、石英ガラス、β−ユークリプタイト、スポジュメンから選ばれる一種又は二種以上であることが好ましい。
【0019】
第七に、本発明の封着材料は、レーザー吸収材の含有量が5体積%以下であることが好ましい。
【0020】
第八に、本発明の封着材料は、レーザー封着に用いることが好ましい。このようにすれば、封着の際に、素子の熱劣化を防止することができる。なお、レーザー封着に使用するレーザー光の光源は、特に限定されないが、例えば、半導体レーザー、YAGレーザー、CO
2レーザー、エキシマレーザー、赤外レーザー等が、取り扱いが容易な点で好適である。また、レーザー光の発光中心波長は、上記封着材料にレーザー光を的確に吸収させるために、500〜1600nm、特に750〜1300nmが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のビスマス系ガラスは、ガラス組成として、モル%で、Bi
2O
3 25〜45%、B
2O
3 20〜35%、CuO+MnO 15〜40%を含有し、且つモル比CuO/MnOが0.5〜6.2であることを特徴とする。上記のように、ビスマス系ガラスのガラス組成範囲を限定した理由を下記に示す。なお、ガラス組成の説明において、%表示は、モル%を指す。
【0022】
Bi
2O
3は、ビスマス系ガラスの主要成分であり、軟化流動性を高める成分である。Bi
2O
3の含有量は25〜45%であり、好ましくは30〜42%、更に好ましくは35〜40%である。Bi
2O
3の含有量が少な過ぎると、軟化点が高くなり過ぎて、レーザー光を照射しても、ガラスが軟化流動し難くなる。一方、Bi
2O
3の含有量が多過ぎると、熱膨張係数が不当に高くなり、レーザー封着の際に、被封着物や封着材料層にクラックが生じて、気密不良が発生し易くなる。またガラスが熱的に不安定になり、レーザー封着時にガラスが失透し易くなる。
【0023】
B
2O
3は、ガラスネットワークを形成する成分である。B
2O
3の含有量は20〜35%であり、好ましくは22〜32%、更に好ましくは24〜30%である。B
2O
3の含有量が少な過ぎると、ガラスが熱的に不安定になり、レーザー封着時にガラスが失透し易くなる。一方、B
2O
3の含有量が多過ぎると、軟化点が高くなり過ぎて、レーザー光を照射しても、ガラスが軟化流動し難くなる。
【0024】
CuOとMnOは、レーザー吸収能を大幅に高める成分である。CuOとMnOの合量は20〜40%であり、好ましくは22〜35%、更に好ましくは25〜30%である。CuOとMnOの合量が少な過ぎると、レーザー吸収能が低下し易くなる。一方、CuOとMnOの合量が多過ぎると、軟化点が高くなり過ぎて、レーザー光を照射しても、ガラスが軟化流動し難くなる。またガラスが熱的に不安定になり、レーザー封着時にガラスが失透し易くなる。なお、CuOの含有量は、好ましくは8〜30%、更に好ましくは13〜25%である。MnOの含有量は、好ましくは3〜25%、更に好ましくは5〜15%である。
【0025】
MnO
2等のMnOの導入原料は、溶融時に酸化作用を有する。そして、ビスマス系ガラスにおいて、CuOとMnOを併用し、モル比CuO/MnOを0.5〜6.2に規制すると、溶融時にガラス中に存在するCu
2Oが、MnOの導入原料により酸化されて、酸化数が2以上の酸化銅が増加し、これにより近赤外波長域におけるレーザー吸収能を大幅に高めることができる。モル比CuO/MnOは0.5〜6.2であり、好ましくは0.7〜6.0、更に好ましくは1.0〜3.5である。モル比CuO/MnOが小さ過ぎると、ガラスが熱的に不安定になり、レーザー封着時にガラスが失透し易くなる。一方、モル比CuO/MnOが大き過ぎると、溶融時にCu
2Oが十分に酸化されず、所望のレーザー吸収能を得ることが困難になる。
【0026】
ZnOは、熱膨張係数を低下させる成分である。ZnOの含有量は、好ましくは0〜25%、より好ましくは1〜20%、更に好ましくは5〜15%である。ZnOの含有量が少な過ぎると、熱膨張係数が高くなり易い。一方、ZnOの含有量が多過ぎると、Bi
2O
3の含有量が35%以上である場合に、ガラスが熱的に不安定になり、レーザー封着時にガラスが失透し易くなる。
【0027】
上記成分以外にも、例えば、以下の成分を添加してもよい。
【0028】
Fe
2O
3は、レーザー吸収能を高める成分であり、更にBi
2O
3の含有量が35%以上である場合に、レーザー封着時の失透を抑制する成分である。Fe
2O
3の含有量は、好ましくは0〜5%、0.1〜3%、特に0.2〜2%である。Fe
2O
3の含有量が多過ぎると、ガラス組成中の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透し易くなる。
【0029】
Al
2O
3は、耐水性を高める成分である。その含有量は0〜5%、0〜3%、特に0.1〜2%が好ましい。Al
2O
3の含有量が多過ぎると、軟化点が高くなり過ぎて、レーザー光を照射しても、ガラスが軟化流動し難くなる。
【0030】
MgO、CaO、SrO及びBaOは、熱的安定性を高める成分である。しかし、MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量が多過ぎると、軟化流動性を確保しながら、熱膨張係数を低下させることが困難になる。よって、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量及び個別含有量は、好ましくは0〜7%、0〜5%、0〜3%、0〜2%未満、0〜1%、特に0〜1%未満である。
【0031】
SiO
2は、耐水性を高める成分である。その含有量は0〜10%、0〜5%、特に0〜1%未満が好ましい。SiO
2の含有量が多過ぎると、軟化点が高くなり過ぎて、レーザー光を照射しても、ガラスが軟化流動し難くなる。
【0032】
Li
2O、Na
2O、K
2O及びCs
2Oは、軟化点を低下させる成分であるが、溶融時に失透を促進する作用を有する。よって、これらの成分の含有量は、合量で2%以下、特に1%未満が好ましい。
【0033】
P
2O
5は、溶融時の失透を抑制する成分であるが、その添加量が多過ぎると、溶融時にガラスが分相し易くなる。よって、P
2O
5の含有量は0〜5%、特に0〜1%未満が好ましい。
【0034】
La
2O
3、Y
2O
3及びGd
2O
3は、溶融時の分相を抑制する成分であるが、La
2O
3、Y
2O
3及びGd
2O
3の含有量が多過ぎると、軟化点が高くなり過ぎて、レーザー光を照射しても、ガラスが軟化し難くなる。よって、La
2O
3、Y
2O
3及びGd
2O
3の含有量は、それぞれ0〜5%、特に0〜1%未満が好ましい。
【0035】
TiO
2、V
2O
5、Cr
2O
3、Co
2O
3、MoO
3、NiO及びCeO
2は、レーザー吸収能を高める成分である。各々の成分の含有量は、好ましくは0〜7%、0〜4%、特に0〜1%未満である。各々の成分の含有量が多過ぎると、レーザー封着時にガラスが失透し易くなる。
【0036】
PbOは、環境的観点から、実質的に含有しないことが好ましい。
【0037】
本発明の封着材料は、ビスマス系ガラスからなるガラス粉末と耐火性フィラー粉末とを含む封着材料において、ガラス粉末の含有量が50〜95体積%、耐火性フィラー粉末の含有量が1〜40体積%であり、且つビスマス系ガラスが、上記のビスマス系ガラスであることが好ましい。
【0038】
本発明の封着材料において、ガラス粉末の含有量は50〜95体積%、60〜80体積%、特に65〜75体積%が好ましい。ガラス粉末の含有量が少ないと、封着材料の軟化流動性が低下し易くなる。一方、ガラス粉末の含有量が多いと、耐火性フィラー粉末の含有量が相対的に少なくなり、封着材料の熱膨張係数が不当に高くなる虞がある。
【0039】
ガラス粉末の最大粒子径D
maxは、好ましくは10μm以下、特に5μm以下である。ガラス粉末の最大粒子径D
maxが大き過ぎると、レーザー封着に要する時間が長くなると共に、被封着物間のギャップを均一化し難くなり、レーザー封着の精度が低下し易くなる。ここで、「最大粒子径D
max」とは、レーザー回折装置で測定した値を指し、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して99%である粒子径を表す。
【0040】
ガラス粉末の軟化点は、好ましくは480℃以下、450℃以下、特に350〜430℃が好ましい。ガラス粉末の軟化点が高過ぎると、レーザー封着時にガラスが軟化し難くなるため、レーザー光の出力を上昇させない限り、封着強度を高めることができない。ここで、「軟化点」は、マクロ型示差熱分析で測定した時の第四変曲点の温度を指す。
【0041】
ガラス粉末は、例えば、各種原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金溶融に入れて900〜1200℃で1〜3時間溶融した後、溶融ガラスを水冷双ローラー間に流し出して、フィルム状に成形し、得られたガラスフィルムをボールミルにて粉砕し、空気分級等の分級を行うことにより作製される。
【0042】
ガラス粉末の作製に用いる原料の一部に、硝酸塩、硫酸塩、二酸化物、過酸化物塩の一種又は二種以上を用いることが好ましい。着色成分の中には、酸化数が高いと、レーザー吸収能が高まる成分(特に、CuO)がある。そして、このような原料を使用すれば、溶融ガラス中の着色成分の酸化数を高くすることができる。
【0043】
本発明の封着材料において、耐火性フィラー粉末の含有量は、好ましくは1〜40体積%、10〜45体積%、20〜40体積%、特に22〜35体積%である。耐火性フィラー粉末の含有量が少ないと、封着材料の熱膨張係数が不当に高くなる虞がある。一方、耐火性フィラー粉末の含有量が多いと、ガラス粉末の含有量が相対的に少なくなり、封着材料の軟化流動性が低下し易くなる。
【0044】
耐火性フィラー粉末として、種々の材料が使用可能であるが、その中でも、コーディエライト、ウイレマイト、アルミナ、リン酸ジルコニウム系化合物、ジルコン、ジルコニア、酸化スズ、石英ガラス、β−ユークリプタイト、スポジュメンから選ばれる一種又は二種以上が好ましい。これらの耐火性フィラー粉末は、熱膨張係数が低いことに加えて、機械的強度が高く、しかも本発明のビスマス系ガラスとの適合性が良好である。また、β−ユークリプタイトは、封着材料の熱膨張係数を低下させる効果が高いため、特に好ましい。
【0045】
耐火性フィラー粉末の最大粒子径D
maxは、好ましくは15μm以下、10μm未満、5μm未満、特に0.5〜3μm未満である。耐火性フィラー粉末の最大粒子径D
maxが大き過ぎると、被封着物間のギャップを均一化し難くなると共に、被封着物間のギャップを狭小化し難くなり、有機ELディスプレイや気密パッケージの薄型化を図り難くなる。なお、被封着物間のギャップが大きい場合に、被封着物と封着材料層の熱膨張係数差が大きいと、被封着物や封着材料層にクラック等が発生し易くなる。
【0046】
本発明の封着材料において、レーザー吸収材の含有量は、好ましくは0〜5体積%、0〜3体積%、0〜1体積%、特に0〜0.1体積%である。レーザー吸収材の含有量が多過ぎると、レーザー封着の際に、ガラス中にレーザー吸収材が溶け込み、これによりガラスが失透して、封着材料の軟化流動性が低下し易くなる。
【0047】
本発明の封着材料において、波長808nmの単色光における光吸収率は、好ましくは75%以上、更に好ましくは80%以上である。この光吸収率が低いと、レーザー封着時に封着材料層が光を適正に吸収できず、レーザー光の出力を上昇させない限り、封着強度を高めることができない。なお、レーザー光の出力を上昇させると、レーザー封着の際に素子が熱劣化する虞がある。ここで、「波長808nmの単色光における光吸収率」は、膜厚5μmに焼成した封着材料層について、λ=808nmの単色光の反射率と透過率を分光光度計でそれぞれ測定し、それらの合計値を100%から減じた値に相当する。
【0048】
本発明の封着材料において、熱膨張係数は、好ましくは75×10
−7/℃以下、特に50×10
−7/℃以上、且つ71×10
−7/℃以下である。このようにすれば、被封着物が低膨張である場合、被封着物や封着材料層に残留する応力が小さくなるため、被封着物や封着材料層にクラックが生じ難くなる。ここで、「熱膨張係数」は、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置で測定した値を指し、測定温度範囲は30〜300℃とする。
【0049】
本発明の封着材料において、軟化点は、好ましくは510℃以下、480℃以下、特に350〜450℃である。封着材料の軟化点が高過ぎると、レーザー封着時に封着材料層が軟化流動し難くなるため、レーザー光の出力を上昇させない限り、封着強度を高めることができない。
【0050】
本発明の封着材料は、粉末の状態で使用に供してもよいが、ビークルと均一に混練し、封着材料ペーストに加工すると取り扱い易い。ビークルは、主に溶媒と樹脂で構成される。樹脂は、封着材料ペーストの粘性を調整する目的で添加される。また、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤等を添加することもできる。封着材料ペーストは、ディスペンサーやスクリーン印刷機等の塗布機を用いて被封着物上に塗布された後、脱バインダー工程に供される。
【0051】
樹脂として、アクリル酸エステル(アクリル樹脂)、エチルセルロース、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。特に、アクリル酸エステル、ニトロセルロースは、熱分解性が良好であるため、好ましい。
【0052】
溶媒として、N、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、α−ターピネオール、高級アルコール、γ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン等が使用可能である。
【実施例】
【0053】
実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0054】
表1、2は、本発明の実施例(試料No.1〜6)と比較例(試料No.7〜11)を示している。
【0055】
【表1】
【0056】
次のようにして、表中に記載のガラス粉末を作製した。まず表中のガラス組成になるように、各種原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて1000℃で1時間溶融した。なお、溶融に際し、白金棒を用いて攪拌し、溶融ガラスの均質化を行った。次に、得られた溶融ガラスの一部を水冷双ローラー間に流し出して、フィルム状に成形し、残りの溶融ガラスをカーボン製の型枠に流し出して、棒状に成形した。最後に、得られたガラスフィルムをボールミルにて粉砕後、平均粒子径D
50が1.0μm、最大粒子径D
maxが4.0μmになるように空気分級機で分級した。また、棒状のガラスについては、徐冷点よりも約20℃高い温度に保持された電気炉内に投入した後、3分/分の降温速度で常温まで徐冷した。
【0057】
耐火物フィラー粉末として、β−ユークリプタイトを用いた。耐火物フィラー粉末は、空気分級により、平均粒子径D
501.0μm、最大粒子径D
max3.0μmに調整されている。
【0058】
ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を表中に示す混合割合で混合し、試料No.1〜11を作製した。試料No.1〜11につき、熱膨張係数、光吸収率、軟化流動性、封着強度及び気密性を評価した。なお、表中の「N/A」は、評価不能を意味している
【0059】
熱膨張係数は、TMA装置により、30〜300℃の温度範囲で測定した値である。なお、TMAの測定試料として、各試料を緻密に焼結させた後、所定形状に加工したものを用いた。
【0060】
次のようにして光吸収率を測定した。まず、各試料とビークル(エチルセルロース樹脂含有のトリプロピレングリコールモノブチルエーテル)を三本ロールミルで均一に混錬し、ペースト化した後、無アルカリガラス基板(日本電気硝子株式会社製OA−10、40mm×40mm×0.5mm厚)上に、30mm×30mmの正方形に塗布し、乾燥オーブンで120℃、10分間乾燥した。次に、室温から10℃/分で昇温し、510℃で10分間焼成した後、室温まで10℃/分で降温し、ガラス基板の上に定着させた。続いて、得られた膜厚5μmの焼成膜について、波長λ=808nmの単色光の反射率と透過率を分光光度計でそれぞれ測定し、それらの合計値を100%から減じた値を光吸収率とした。
【0061】
軟化流動性は、各試料について、0.6cm
3分に相当する質量の粉末を金型により外径20mmのボタン状に乾式プレスし、これを25mm×25mm×0.6mm厚のアルミナ基板上に載置し、空気中で10℃/分の速度で昇温した後、510℃で10分間保持した上で室温まで10℃/分で降温し、得られたボタンの直径を測定することで評価したものである。具体的には、流動径が16.0mm以上である場合を「○」、16.0mm未満である場合を「×」として評価した。
【0062】
次のようにして、封着強度を評価した。最初に、各試料とビークル(エチルセルロース樹脂含有のトリプロピレングリコールモノブチルエーテル)を三本ロールミルで均一に混錬し、ペースト化した後、無アルカリガラス基板(日本電気硝子株式会社製OA−10、□40mm×0.5mm厚、熱膨張係数38×10
−7/℃)上に、無アルカリガラス基板の端縁に沿って額縁状(5μm厚、0.6mm幅)に塗布し、乾燥オーブンで120℃、10分間乾燥した。次に、室温から10℃/分で昇温し、510℃で10分間焼成した後、室温まで10℃/分で降温し、ペースト中の樹脂成分の焼却(脱バインダー処理)及び封着材料の固着を行い、無アルカリガラス基板上に封着材料層を形成した。次に、封着材料層を有する無アルカリガラス基板の上に、封着材料層が形成されていない別の無アルカリガラス基板(□40mm×0.5mm厚)を正確に重ねた後、封着材料層を有する無アルカリガラス基板側から、封着材料層に沿って、波長808nmのレーザー光を照射することにより、封着材料層を軟化流動させて、無アルカリガラス基板同士を気密封着した。なお、封着材料層の平均厚みに応じて、レーザー光の照射条件(出力、照射速度)を調整した。最後に、得られた封着構造体を上方1mからコンクリート上に落下させた後、無アルカリガラスと封着材料層の界面に剥離が発生しなかったものを「○」、無アルカリガラスと封着材料層の界面が部分的に剥離したものを「△」、無アルカリガラスと封着材料層の界面が完全に剥離したものを「×」として、封着強度を評価した。
【0063】
次のようにして、気密性を評価した。上記の方法で得られた封着構造体を121℃、湿度100%、2気圧に保持された恒温恒湿槽内で24時間保持した。その後、封着構造体を光学顕微鏡で観察して、封着材料層が変質せず、封着構造体内に水分の侵入が認められなかったものを「○」、封着構造体内に水分の侵入が認められなかったが、封着材料層が変質したものを「△」、封着構造体内に水分の侵入が認められたものを「×」として、気密性を評価した。
【0064】
表1から分かるように、試料No.1〜6は、ガラス粉末のガラス組成が所定範囲に規制されているため、熱膨張係数、光吸収率、軟化流動性、封着強度及び気密性の評価が良好であった。一方、試料No.7は、モル比CuO/MnOが大きいため、光吸収率が低く、封着強度と気密性の評価がやや劣っていた。試料No.8は、モル比CuO/MnOが小さいため、焼成時及びレーザー封着時に失透が生じ、この失透によって軟化流動性、封着強度、気密性の評価が不良であった。試料No.9は、CuOとMnOの合量が少ないため、光吸収率が低く、封着強度と気密性の評価が不良であった。試料No.10は、CuOとMnOの合量が多いため、封着材料層の焼結が不十分であり、全ての評価が不能であった。試料No.11は、Bi
2O
3の含有量が多いため、失透により全ての評価が不能であった。