【実施例】
【0011】
(ロータリ圧縮機の構成)
図1は、実施例のロータリ圧縮機を示す縦断面図である。
図2は、実施例のロータリ圧縮機の圧縮部を示す分解斜視図である。
図3は、実施例のロータリ圧縮機において、圧縮部の下方から見た下端板を示す平面図である。
【0012】
図1に示すように、ロータリ圧縮機1は、密閉された縦置き円筒状の圧縮機筐体10内の下部に配置された圧縮部12と、圧縮機筐体10内の上部に配置され回転軸15を介して圧縮部12を駆動するモータ11と、圧縮機筐体10の外周面に固定され密閉された縦置き円筒状のアキュムレータ25と、を備えている。
【0013】
アキュムレータ25は、吸入部としての上吸入管105及びアキュムレータ上湾曲管31Tを介して上シリンダ121Tの上シリンダ室130T(
図2参照)と接続され、吸入部としての下吸入管104及びアキュムレータ下湾曲管31Sを介して下シリンダ121Sの下シリンダ室130S(
図2参照)と接続されている。本実施例では、圧縮機筐体10の周方向において、上吸入管105と下吸入管104の位置が重なっており、同一位置に位置する。
【0014】
モータ11は、外側に配置されたステータ111と、内側に配置されたロータ112と、を備えている。ステータ111は、圧縮機筐体10の内周面に焼嵌め状態で固定されている。ロータ112は、回転軸15に焼嵌め状態で固定されている。
【0015】
回転軸15は、下偏芯部152Sの下方の副軸部151が、下端板160Sに設けられた副軸受部161Sに回転自在に支持され、上偏芯部152Tの上方の主軸部153が上端板160Tに設けられた主軸受部161Tに回転自在に支持されている。回転軸15には、上偏芯部152T及び下偏芯部152Sが、互いに180度の位相差をつけて設けられており、上偏芯部152Tに上ピストン125Tが支持され、下偏芯部152Sに下ピストン125Sが支持されている。これによって、回転軸15は、圧縮部12全体に対して回転自在に支持されるとともに、回転によって上ピストン125Tを上シリンダ121Tの内周面に沿って公転運動させ、下ピストン125Sを下シリンダ121Sの内周面に沿って公転運動させる。
【0016】
圧縮機筐体10の内部には、圧縮部12において摺動する上ピストン125T及び下ピストン125S等の摺動部の潤滑性を確保し、上圧縮室133T(
図2参照)及び下圧縮室133S(
図2参照)をシールするために、潤滑油18が圧縮部12をほぼ浸漬する量だけ封入されている。圧縮機筐体10の下側には、ロータリ圧縮機1全体を支持する複数の弾性支持部材(図示せず)を係止する取付脚310(
図1参照)が固定されている。
【0017】
図1に示すように、圧縮部12は、上吸入管105及び下吸入管104から吸入された冷媒を圧縮し、後述する吐出部としての吐出管107から吐出する。
図2に示すように、圧縮部12は、上から、内部に中空空間が形成された膨出部を有する上端板カバー170T、上端板160T、環状の上シリンダ121T、中間仕切板140、環状の下シリンダ121S、下端板160S及び平板状の下端板カバー170Sを積層して構成されている。圧縮部12全体は、上下から略同心円上に配置された複数の通しボルト174,175及び補助ボルト176によって固定されている。
図2に示すように、下端板160S(
図3参照)、下端板カバー170S、下シリンダ121S、中間仕切板140、上シリンダ121T、上端板160T及び上端板カバー170Tには、略同心円上における同一位相位置に、通しボルト174,175及び補助ボルト176が通される複数のボルト通し孔137が設けられている。
【0018】
上シリンダ121Tには、モータ11の回転軸15と同心円上に沿って、上シリンダ内壁が形成されている。上シリンダ内壁内には、上シリンダ121Tの内径よりも小さい外径の上ピストン125Tが配置されており、
図2に示すように、上シリンダ内壁と上ピストン125Tとの間に、冷媒を吸入し圧縮して吐出する上圧縮室133Tが形成される。下シリンダ121Sには、モータ11の回転軸15と同心円上に沿って、下シリンダ内壁が形成されている。下シリンダ内壁内には、下シリンダ121Sの内径よりも小さい外径の下ピストン125Sが配置されており、
図2に示すように、下シリンダ内壁と下ピストン125Sとの間に、冷媒を吸入し圧縮して吐出する下圧縮室133Sが形成される。
【0019】
図2に示すように、上シリンダ121Tは、円形状の外周部から、回転軸15の径方向に張り出した上側方突出部122Tを有する。上側方突出部122Tには、上シリンダ室130Tから放射状に外方へ延びる上ベーン溝128Tが設けられている。上ベーン溝128T内には、上ベーン127Tが摺動可能に配置されている。下シリンダ121Sは、円形状の外周部から、回転軸15の径方向に張り出した下側方突出部122Sを有する。下側方突出部122Sには、下シリンダ室130Sから放射状に外方へ延びる下ベーン溝128Sが設けられている。下ベーン溝128S内には、下ベーン127Sが摺動可能に配置されている。
【0020】
上側方突出部122T及び下側方突出部122Sは、回転軸15の周方向に沿って、所定の突出範囲にわたって形成されている。上側方突出部122T及び下側方突出部122Sは、上シリンダ121T及び下シリンダ121Sの加工時に加工治具に固定するためのチャック用保持部として用いられる。
【0021】
上側方突出部122Tには、外側面から上ベーン溝128Tと重なる位置に、上シリンダ室130Tに貫通しない深さで上スプリング穴124Tが設けられている。上スプリング穴124Tには上スプリング126Tが配置されている。下側方突出部122Sには、外側面から下ベーン溝128Sと重なる位置に、下シリンダ室130Sに貫通しない深さで下スプリング穴124Sが設けられている。下スプリング穴124Sには下スプリング126Sが配置されている。
【0022】
また、下シリンダ121Sには、下ベーン溝128Sの径方向外側と圧縮機筐体10内とを連通して圧縮機筐体10内の圧縮された冷媒を導入し、下ベーン127Sに冷媒の圧力により背圧をかける下圧力導入路129Sが形成されている。また、上シリンダ121Tには、上ベーン溝128Tの径方向外側と圧縮機筐体10内とを開口部で連通して圧縮機筐体10内の圧縮された冷媒を導入し、上ベーン127Tに冷媒の圧力により背圧をかける上圧力導入路129Tが形成されている。
【0023】
図2に示すように、上シリンダ121Tの上側方突出部122Tには、上吸入管105と嵌合する上吸入孔135Tが設けられている。下シリンダ121Sの下側方突出部122Sには、下吸入管104と嵌合する下吸入孔135Sが設けられている。
【0024】
図2に示すように、上シリンダ室130Tは、上下をそれぞれ上端板160T及び中間仕切板140で閉塞されている。下シリンダ室130Sは、上下をそれぞれ中間仕切板140及び下端板160Sで閉塞されている。
【0025】
図2に示すように、上シリンダ室130Tは、上ベーン127Tが上スプリング126Tに押圧されて上ピストン125Tの外周面に当接することによって、上吸入孔135Tに連通する上吸入室131Tと、上端板160Tに設けられた上吐出孔190Tに連通する上圧縮室133Tと、に区画される。下シリンダ室130Sは、下ベーン127Sが下スプリング126Sに押圧されて下ピストン125Sの外周面に当接することによって、下吸入孔135Sに連通する下吸入室131Sと、下端板160Sに設けられた下吐出孔190Sに連通する下圧縮室133Sと、に区画される。
【0026】
また、上吐出孔190Tは、上ベーン溝128Tに近接して設けられており、下吐出孔190Sは、下ベーン溝128Sに近接して設けられている。上圧縮室133T内及び下圧縮室133S内で圧縮された冷媒は、上圧縮室133T内及び下圧縮室133S内から、上吐出孔190T及び下吐出孔190Sを通って吐出される。
【0027】
図2に示すように、上端板160Tには、上端板160Tを貫通して上シリンダ121Tの上圧縮室133Tと連通する上吐出孔190Tが設けられている。上吐出孔190Tの出口側の開口縁部には、上吐出孔190Tの周囲に上弁座(図示せず)が、後述の上吐出弁200T側に突出して形成されている。上端板160Tには、上吐出孔190Tの位置から上端板160Tの外周に向かって溝状に延びる上吐出弁収容凹部164Tが形成されている。
【0028】
上吐出弁収容凹部164Tには、基端部が上吐出弁収容凹部164T内に上リベット202Tにより固定され先端部が上吐出孔190Tを開閉するリード弁型の上吐出弁200Tと、基端部が上吐出弁200Tに重ねられて上吐出弁収容凹部164T内に上リベット202Tにより固定され先端部が上吐出弁200Tが開く方向へ湾曲して(反って)いて上吐出弁200Tの開度を規制する上吐出弁押さえ201T全体とが収容されている。
【0029】
下端板160Sには、下端板160Sを貫通して下シリンダ121Sの下圧縮室133Sと連通する下吐出孔190Sが設けられている。下吐出孔190Sの出口側の開口縁部には、下吐出孔190Sを囲む環状の下弁座191S(
図4参照)が、後述の下吐出弁200S側に突出して形成されている。下端板160Sには、下吐出孔190Sの位置から下端板160Sの外周に向かって溝状に延びる下吐出弁収容凹部164S(
図4参照)が形成されている。
【0030】
下吐出弁収容凹部164Sには、下吐出孔190Sを開閉するリード弁型の下吐出弁200Sと、下吐出弁200Sの開度を規制する下吐出弁押さえ201S全体とが収容されている。下吐出弁200Sは、金属材料によって板ばね状に形成されており、先端部である頭部200aと、基端部200bと、を有する(
図5参照)。頭部200aは、下吐出孔190Sを開閉可能な円形状に形成されている。基端部200bには、下リベット202Sが通される貫通穴200cが設けられている。下吐出弁200Sは、基端部200bが下吐出弁収容凹部164S内に下リベット202Sにより固定されており、弾性変形することで頭部200aが下吐出孔190Sを開閉する。下吐出弁押さえ201Sは、基端部が下吐出弁200Sに重ねられて下吐出弁収容凹部164S内に下リベット202Sにより固定されており、先端部が下吐出弁200Sが開く方向へ湾曲して(反って)いる先端部が下吐出弁200Sに接することで、下吐出弁200Sの開度を規制する。
【0031】
互いに密着固定された上端板160Tと膨出部を有する上端板カバー170Tとの間には、上端板カバー室180Tが形成される。互いに密着固定された下端板160Sと平板状の下端板カバー170Sとの間には、下端板カバー室180S(
図1参照)が形成される。下端板160S、下シリンダ121S、中間仕切板140、上シリンダ121T及び上端板160Tを貫通し下端板カバー室180Sと上端板カバー室180Tとを連通する冷媒通路孔136が設けられている。
【0032】
以下に、回転軸15の回転による冷媒の流れを説明する。上シリンダ室130T内において、回転軸15の回転によって、回転軸15の上偏芯部152Tに嵌合された上ピストン125Tが、上シリンダ室130Tの外周面(上シリンダ121Tの内周面)に沿って公転することにより、上吸入室131Tが容積を拡大しながら上吸入管105から冷媒を吸入し、上圧縮室133Tが容積を縮小しながら冷媒を圧縮し、圧縮した冷媒の圧力が上吐出弁200Tの外側の上端板カバー室180Tの圧力より高くなると、上吐出弁200Tが開いて上圧縮室133Tから上端板カバー室180Tへ冷媒が吐出される。上端板カバー室180Tに吐出された冷媒は、上端板カバー170Tに設けられた上端板カバー吐出孔172T(
図1参照)から圧縮機筐体10内に吐出される。
【0033】
また、下シリンダ室130S内において、回転軸15の回転によって、回転軸15の下偏芯部152Sに嵌合された下ピストン125Sが、下シリンダ室130Sの外周面(下シリンダ121Sの内周面)に沿って公転することにより、下吸入室131Sが容積を拡大しながら下吸入管104から冷媒を吸入し、下圧縮室133Sが容積を縮小しながら冷媒を圧縮し、圧縮した冷媒の圧力が下吐出弁200Sの外側の下端板カバー室180Sの圧力より高くなると、下吐出弁200Sが開いて下圧縮室133Sから下端板カバー室180Sへ冷媒が吐出される。下端板カバー室180Sに吐出された冷媒は、冷媒通路孔136及び上端板カバー室180Tを通って上端板カバー170Tに設けられた上端板カバー吐出孔172Tから圧縮機筐体10内に吐出される。
【0034】
圧縮機筐体10内に吐出された冷媒は、ステータ111外周に設けられた上下に連通する切欠き(図示せず)、又はステータ111の巻線部の隙間(図示せず)、又はステータ111とロータ112との隙間115(
図1参照)を通ってモータ11の上方に導かれ、圧縮機筐体10の上部に配置された吐出部としての吐出管107から吐出される。
【0035】
(ロータリ圧縮機の特徴的な構成)
次に、実施例のロータリ圧縮機1の特徴的な構成について説明する。
図4は、実施例のロータリ圧縮機において、下端板に取り付けられた下吐出弁を示す縦断面図である。
図5は、実施例のロータリ圧縮機の下吐出弁を示す平面図である。まず、実施例の特徴に関連する下端板160S及び下吐出弁200Sの構成について補足的に説明する。
【0036】
図4に示すように、下端板カバー室180Sは、下端板カバー170Sが平板状で上端板カバー170Tのようなドーム状の膨出部を有しないので、下端板160Sに設けられた下吐出室凹部163Sと下吐出弁収容凹部164Sとにより構成される。下吐出弁収容凹部164Sは、下吐出孔190Sの位置から、下端板160Sの外周に向かって直線的に溝状に延びている。下吐出弁収容凹部164Sは、下吐出室凹部163Sとつながっている。下吐出弁収容凹部164Sは、その幅が下吐出弁200S及び下吐出弁押さえ201Sの幅よりわずかに大きく形成され、下吐出弁200S及び下吐出弁押さえ201Sを収容するとともに、下吐出弁200S及び下吐出弁押さえ201Sを位置決めしている。
【0037】
下吐出室凹部163Sは、下吐出弁収容凹部164Sの下吐出孔190S側に重なるように、下吐出弁収容凹部164Sの深さと同じ深さに形成されている。下吐出弁収容凹部164Sの下吐出孔190S側は、下吐出室凹部163Sに収容される。冷媒通路孔136は、少なくとも一部が下吐出室凹部163Sに重なっており、下吐出室凹部163Sと連通する位置に配置されている。
【0038】
図4に示すように、下吐出孔190Sの開口部周縁には、下吐出室凹部163Sの底部に対して盛り上がった環状の下弁座191Sが形成され、下弁座191Sが下吐出弁200Sの頭部と当接する。下吐出室凹部163Sの下弁座191Sまでの深さは、下吐出孔190Sの直径φDの1.5倍以下に形成されている。
【0039】
下吐出孔190Sから冷媒を吐出するときの下吐出弁200Sの開度すなわち下弁座191Sに対する下吐出弁200Sの最大リフト量は、冷媒の吐出流れの抵抗にならないリフト量とする必要がある。したがって、下吐出室凹部163Sの下弁座191Sまでの深さは、下吐出弁200Sの最大リフト量と、下吐出弁200S及び下吐出弁押さえ201Sの厚さを考慮して決定する必要があるが、下吐出孔190Sの直径φDの1.5倍を有すれば充分である。
【0040】
また、下吐出弁200Sが有する円形状の頭部200aは、下吐出孔190Sの直径Dよりも大きい直径D1を有する。
【0041】
また、冷媒通路孔136は、少なくとも一部が上吐出室凹部163Tに重なって上吐出室凹部163Tと連通する位置に配置されている。上端板160Tに形成された上吐出室凹部163T及び上吐出弁収容凹部164Tについては、詳細な図示を省略するが、下端板160Sに形成された下吐出室凹部163S及び下吐出弁収容凹部164Sと同様の形状に形成されている。上端板カバー室180Tは、上端板カバー170Tのドーム状の膨出部と上吐出室凹部163Tと上吐出弁収容凹部164Tとにより構成される。
【0042】
以下、下端板160Sの下吐出弁200S及び下吐出孔190Sの特徴について説明する。なお、上端板160Tの上吐出弁200T及び上吐出孔190Tにおいても、下端板160Sの下吐出弁200S及び下吐出孔190Sと同一の特徴を有するので、上吐出弁200T及び上吐出孔190Tについての説明を省略する。
【0043】
本実施例のロータリ圧縮機1では、冷媒として、HFO1123冷媒、またはHFO1123冷媒を含む混合冷媒が用いられている。このような冷媒に不均化反応を起こさせないためには、下吐出弁200Sと冷媒との衝突エネルギーをどの程度まで低減する必要があるかは、例えば、圧力や温度等の冷媒の状態、冷媒の流速等によって異なる。しかし、従来の吐出弁の構造との比較に基づくと、下吐出弁200Sと冷媒との衝突エネルギーを5%以上低減することで、冷媒に不均化反応が生じることを抑える効果が得られると考えられる。すなわち、本実施例では、下吐出弁200Sが下吐出孔190Sを閉じるときに発生する、冷媒と下吐出弁200Sとの衝突エネルギーを、従来の衝突エネルギーの95%以下に低減することによって、冷媒に不均化反応が生じることを抑制するものである。
【0044】
下吐出弁200Sの頭部200aが下吐出孔190Sを閉じるときに生じる衝撃力F[N]は、以下の関係(運動量の増加=力積)から算出される。下吐出弁200Sの頭部200aの質量をm[kg]、下吐出弁200Sの頭部200aが下吐出孔190Sの下弁座191Sに着座したときの下吐出弁200Sの頭部200aの第1速度をV1[m/s]、下吐出弁200Sの頭部200aが下吐出孔190Sに対して最大移動量(最大リフト量)まで移動したときの下吐出弁200Sの頭部200aの第2速度をV2[m/s]=0、衝撃力Fが作用する時間をt[sec]としたとき、
|m×V2−m×V1|=F×t ・・・(式1)
となる。
【0045】
式1より、
F=(m/t)×V1 ・・・(式2)
となる。
【0046】
下吐出弁200Sの頭部200aの着座時の第1速度V1[m/s]は、下吐出弁200Sの頭部200aの最大リフト量において、下吐出弁200Sの頭部200aが有する弾性力(バネ)による位置エネルギーよって算出される。下吐出弁200Sの頭部200aの着座時の第1速度V1[m/s]は、下吐出弁200Sのバネ定数をk、下吐出弁200Sの頭部200aの質量をm[kg]、下吐出孔190Sの中心線C上において下吐出弁200Sの頭部200aが下吐出孔190Sに対して移動する最大移動量(以下、最大リフト量と称する。)をh[mm]としたとき(
図4参照)、
V1=√(k/m)×h ・・・(式3)
となる。
【0047】
上述の式2と式3より、
F=(h/t)×√(m×k) ・・・(式4)
となる。
【0048】
式4より、下吐出弁200Sが有する円形状の頭部200aの直径をD1[mm]、下吐出弁200Sの密度をρ、下吐出弁200Sの厚みをb[mm]としたとき、下吐出弁200Sの頭部200aの質量m[kg]は、
m=(π/4)×(D1)
2×ρ×b ・・・(式5)
となる。
【0049】
下吐出弁200Sの厚みをb、密度をρ、バネ定数をkとして、厚みb、密度ρ、バネ定数k及び衝撃力Fが作用する時間t[sec]がそれぞれ一定であると仮定すると、上述の式4と式5より、
F∝h×D1 ・・・(式6)
となる。
【0050】
また、(下吐出弁200Sの頭部200aの直径D1)∝(下吐出孔190Sの直径D)として(
図5参照)、
F∝h×D ・・・(式7)
となる。
【0051】
したがって、式7より、下吐出弁200Sの頭部200aが下吐出孔190Sを閉じるときに生じる衝突エネルギーを、従来の衝突エネルギーの95%以下に低減するためには、(下吐出弁200Sの最大リフト量h)×(下吐出孔190Sの直径D)の値が、従来の値の95%以下とすることで達成できる。
【0052】
ここで、下吐出孔190Sの直径Dを小さくした場合、下吐出孔190Sを通過する冷媒の吐出流速Vが高くなり、冷媒の吐出時の圧力損失が増えるので、下吐出孔190Sでの冷媒の過圧縮によって冷媒に不均化反応を生じさせる恐れがある。よって、冷媒の吐出流速Vは従来と同等に確保することが望ましい。冷媒の吐出流速Vは、モータ11の回転数をN=60[rps]、1つのシリンダ室、すなわち下シリンダ室130S(上シリンダ室130T)の排除容積をQ[mm
3]、下吐出孔190Sの開口面積をA[mm
2]としたとき、
V=N×(Q/A) ・・・(式8)
となる。
【0053】
従来の吐出流速Vは、
0<N×(Q/A)≦15000[mm/s] ・・・(式9)
となる。
【0054】
したがって、式9を満たすことで、冷媒の吐出流速Vが従来と同等に確保される。一方で、下吐出弁200Sの最大リフト量hが小さい場合には、下吐出孔190Sの直径Dを大きくしても吐出流路が狭くなってしまうので、通常は下記式10のように設定されている。
D/h≦3 ・・・(式10)
【0055】
なお、理論上では、D/h≦4に設定することで、下吐出孔190Sの開口面積よりも、下吐出弁200Sの頭部200aの最大リフト時の流路面積が大きくなる。しかし、実際には、下吐出弁200Sが下吐出孔190Sを開く動作の途中から、下吐出孔190Sから冷媒の吐出が開始されるので、D/hを3以下に設定されている。
【0056】
式9より、従来の下吐出孔の直径Dは、
D=√{(4×N×Q)/(15000×π)} ・・・(式11)
となる。
【0057】
式10より、h=D/3として、式7より下吐出弁200Sの衝撃力Fは、
F∝h×D=D
2/3 ・・・(式12)
となる。
【0058】
式11、式12より、下吐出弁200Sの頭部200aの衝撃力Fは、モータ11の回転数N=60[rps]とすると、
F∝(4×N×Q)/(15000×π×3)=0.0017×Q ・・・(式13)
となる。
【0059】
式13より、下吐出弁200Sの衝撃力Fの値の95%は、0.0017×Q×0.95であり、F∝0.0016×Qとなる。よって、1つのシリンダ室、すなわち下シリンダ室130S(上シリンダ室130T)の排除容積をQ[mm
3]、下吐出孔190Sの直径をD[mm]、下吐出弁200Sの頭部200aの最大リフト量をh[mm]としたとき、
0.0016×Q≧D×h ・・・(式14)
となる。
【0060】
式14を満たすように、下吐出孔190Sの直径D、下吐出弁200Sの最大リフト量hを設定することで、下吐出弁200Sが閉じるときに生じる衝突エネルギーを、従来の95%以下に低減することが可能になり、冷媒に不均化反応が生じることを抑制することができる。
【0061】
上述したように実施例のロータリ圧縮機1は、冷媒として、HFO1123冷媒、またはHFO1123冷媒を含む混合冷媒を用いて、下シリンダ室130S(上シリンダ室130T)の排除容積をQ[mm
3]、下吐出孔190S(上吐出孔190T)の開口面積をA[mm
2]、モータ11の回転数をN=60[rps]、下吐出孔190Sの直径をD[mm]、下吐出孔190Sの中心線上において下吐出弁200S(上吐出弁200T)の頭部200aが下吐出孔190Sに対して移動する最大移動量をh[mm]としたとき、0<N×(Q/A)≦15000、及び0.0016×Q≧D×hを満たす。これにより、下吐出弁200Sが下吐出孔190Sを閉じるときに、下吐出弁200Sと冷媒との衝突エネルギーを5%以上低減することが可能となる。このため、ロータリ圧縮機1は、冷媒に不均化反応が生じることを抑えることができる。
【0062】
また、上述した本実施例は、2シリンダ型のロータリ圧縮機1に適用されたが、1シリンダ型のロータリ圧縮機に適用されてもよく、1シリンダ型においても2シリンダ型と同様の効果を得ることができる。