特許第6841135号(P6841135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6841135-コイン形状のICタグとその製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841135
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】コイン形状のICタグとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/04 20060101AFI20210301BHJP
   G06K 19/07 20060101ALI20210301BHJP
   A63F 9/00 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   G06K19/04 070
   G06K19/07 260
   A63F9/00 512Z
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-77549(P2017-77549)
(22)【出願日】2017年4月10日
(65)【公開番号】特開2018-180807(P2018-180807A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 燃
【審査官】 松尾 真人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−016408(JP,A)
【文献】 特開2009−110143(JP,A)
【文献】 特開平5−050790(JP,A)
【文献】 特開2004−021649(JP,A)
【文献】 特開2007−235926(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/137330(WO,A1)
【文献】 特開2016−005226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/00−19/18
A63F 9/00−9/20
9/26−11/00
G06K 17/00
G06K 7/00−7/14
B42D 25/00−25/485
H04B 1/00
1/59
5/00−5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICチップとコイルアンテナを備えたインレットと、一対の円弧状金属パーツと、を備えたコイン形状のICタグであって、
一対の円弧状金属パーツは、インレットのコイルアンテナの周縁部に沿って、左右対称に、且つ所望の共振周波数に応じて相互の距離が調整されて配置されており、
一対の円弧状金属パーツとインレットとは、樹脂により一体に固定されていることを特徴とするコイン形状のICタグ。
【請求項2】
前記コイン形状のICタグの中心に重心があることを特徴とする請求項1に記載のコイン形状のICタグ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコイン形状のICタグの製造方法であって、
樹脂モールド成形用の金型の中で、前記インレットと前記一対の円弧状金属パーツとを、互いに開口側を向かい合わせにして、左右対称に、且つ相互の距離を所望の共振周波数に応じて調整して配置し、固定する第一の工程と、
第一の工程で固定した前記インレットと前記一対の円弧状金属パーツとを、樹脂モールド成形により成形する第二の工程と、を備えていることを特徴とするコイン形状のICタグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイン形状のICタグに関する。更に詳しくは、共振周波数の調整が容易で、広い伝送範囲を確保することができるコイン形状のICタグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、データを記録し、記録データの更新や送信をするICタグで円形をなしたICタグは存在するが、一般的なICタグの構造は、ICモジュールを合成樹脂材料で被覆して形成しているため、金属製のコインに比べて比較的軽量に形成されている。
【0003】
このような非接触ICタグは、一般にはICモジュールおよびアンテナを樹脂材料によって被覆する構成であるために、通信機能の面から寸法や重量が制約されてしまうことが避けられなかった。
一般に硬貨や遊技施設で使用されるコイン類には銅を主体として亜鉛、スズ、ニッケルなどを含む合金である黄銅、青銅、白銅、洋白、もしくはステンレスなどが用いられており、それらの比重は7.7〜9程度である。
【0004】
それに対してICタグを構成する一般的な合成樹脂の比重は1前後であるから、従来の硬貨やコイン類と形状や厚さをほとんど変えずに非接触ICタグを作製すると、重量が数分の1となってしまう。
非接触ICタグは硬貨やコイン類の代替として、機械装置に投入転動させて使用する用途が想定されるが、非接触ICタグが硬貨やコイン類よりも著しく軽量である場合は、従来の硬貨等を基準にした機械装置の使用環境においては必ずしも安定した動作が得られず、そのためデータ送受信において動作不良が生じる問題を有していた。
【0005】
また、非接触ICタグなどの情報媒体を読取書込装置に近付けた際に、しばしば両者が接触し、このために情報媒体の外周部が欠け落ちたり、傷を生じたりする恐れがある。
【0006】
この様な問題点を解決する技術として、例えば特許文献1には、搬送体と、この搬送体に埋設した集積回路素子と、この集積回路素子に接続し、所望の幅に導体を同心状、且つ環状に複数回巻いた第1のコイルと、前記搬送体の外周部に取り付けた金属リングとを備え、前記金属リングの少なくとも一部に、前記金属リングが閉ループをなさないよう切断部を設けた情報媒体が開示されている。
【0007】
この情報媒体は、外周部に金属リングを有するため、情報媒体を保護できるだけでなく、そこに装飾を施して外観上の質感や重量感を持たせることもできるため、機械装置に投入転動させて使用して安定した動作が得られ、レジャーランド等での使用に適したものとなる。さらに前記金属リングに切断部分を設けて閉ループをなさない形状とすることにより、金属リングにループ電流が流れてコイルと交鎖する磁束をさえぎることがないため、読取書込装置との間で強い電磁結合を確保することができ、広い伝送範囲を確保することができる優れた技術である。
【0008】
しかしながら、金属リングを閉ループにしないようにする目的で、リングの一部を切断しているため、重量バランスが必ずしも良好とは言えない。また、そのリングの一部を切断する加工コストがかかる問題がある。また、共振アンテナとして機能する一部を切断した金属リングでは共振周波数の調整が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−50790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑み、共振周波数の調整が容易で、広い伝送範囲を確保することができ、機械装置に投入転動させて使用しても安定した動作が得られるコイン形状のICタグを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決する手段として、請求項1に記載の発明は、ICチップとコイルアンテナを備えたインレットと、一対の円弧状金属パーツと、を備えたコイン形状のICタグであって、
一対の円弧状金属パーツは、インレットのコイルアンテナの周縁部に沿って、左右対称に、且つ所望の共振周波数に応じて相互の距離が調整されて配置されており、
一対の円弧状金属パーツとインレットとは、樹脂により一体に固定されていることを特徴とするコイン形状のICタグである。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記コイン形状のICタグの中心に重心があることを特徴とする請求項1に記載のコイン形状のICタグである。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のコイン形状のICタグの製造方法であって、
樹脂モールド成形用の金型の中で、前記インレットと前記一対の円弧状金属パーツとを、互いに開口側を向かい合わせにして、左右対称に、且つ相互の距離を所望の共振周波数に応じて調整して配置し、固定する第一の工程と、
第一の工程で固定した前記インレットと前記一対の円弧状金属パーツとを、樹脂モールド成形により成形する第二の工程と、を備えていることを特徴とするコイン形状のICタグの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のコイン形状のICタグによれば、一対の円弧状金属パーツが、インレットのコイルアンテナの周縁部に沿って、互いに開口側を向かい合わせにして所望の共振周波数が得られる所望の共振周波数が得られる位置に調整し固定されるため、共振周波数の調整を容易に実施することができる。
また円弧状金属パーツによって適切な重量とし、また一対の円弧状金属パーツをインレットの周縁部に左右対称に配置しているため、破壊し難くすることが可能であり、機械装置に投入転動させて使用しても、安定した動作が可能である。
また、ループ状の金属パーツではなく、分断した一対の円弧状金属パーツを使用するため、ループ電流が流れてコイルと交鎖する磁束をさえぎることがない。そのため、通信距離の短縮が起こらない。
【0015】
また、コイン形状のICタグの製造方法によれば、本発明のコイン形状のICタグを製造可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のコイン形状のICタグの形態の一例を示す説明図であって、(a)は概略上面図、(b)は(a)の切断線A−A´に於ける概略断面図、である。
図2】本発明のコイン形状のICタグにおける一対の円弧状金属パーツの配置変更の状況を例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のコイン形状のICタグを図1および図2を用いて説明する。
図1は、本発明のコイン形状のICタグの実施形態の一例を示す説明図である。図1(a)は概略上面図、(b)は、(a)の切断線A−A´に於ける概略断面図をそれぞれ示している。
【0018】
<コイン形状のICタグ>
本発明のコイン形状のICタグ10は、ICチップ5とコイルアンテナ5を備えたインレット1と、一対の円弧状金属パーツ2と、を備えたコイン形状のICタグ10である。
一対の円弧状金属パーツ2は、インレット1のコイルアンテナ4の周縁部に沿って、互いに開口側を向かい合わせにして、左右対称に配置されている。また所望の共振周波数に応じて一対の円弧状金属パーツの相互の距離を調整した位置に配置され、樹脂3によりインレット1と一体に固定されている(図1(b)参照)。そのため、本発明のコイン形状のICタグ10の中心に重心がある構成となっている。
【0019】
(インレット)
本発明のコイン形状のICタグ10で使用するインレット1は、コイルアンテナ5が巻線コイルからなり、その巻線コイルにICチップ5が電気的に接続されているものでも良いし、配線基板上にパターニングされた導体パターンからなるアンテナに、ICチップ5が接続されたものであっても良い。通信に使用する周波数に従って、コイルアンテナ5の形態を変更すれば良い。ICチップ5についても同様である。
【0020】
(円弧状金属パーツ)
本発明のコイン形状のICタグ10で使用する一対の円弧状金属パーツ2は、インレット1のコイルアンテナ5の周縁部に沿って配置される。
【0021】
一対の円弧状金属パーツ2が互いに開口側を向かい合わせにして配置されており、コイルアンテナの共振周波数は、それらが配置される位置を変更する(図2参照)ことによって変化させることができる。
【0022】
例えば、所望の共振周波数が得られる位置を調べておいて、その位置に一対の円弧状金属パーツ2を配置し、その状態でインレット1と一対の円弧状金属パーツ2とを樹脂によって固定することにより、本発明のコイン形状のICタグ10を作製することができる。
【0023】
本発明のコイン形状のICタグ10で使用する一対の円弧状金属パーツ2の材質は、金属であれば特に限定する必要はなく、銅を主体として亜鉛、スズ、ニッケルなどを含む黄銅、青銅、白銅、洋銅もしくはステンレスなどの硬貨や遊技場などのコインとして使用される材料で、且つコイルアンテナの共振周波数を調整し得る材料であれば使用可能である。それらの機能を備えている材料であれば使用可能であり、金属に限定する必要は無い。
【0024】
<コイン形状のICタグの製造方法>
本発明のコイン形状のICタグの製造方法は、樹脂モールド成形用の金型の中で、インレットと一対の円弧状金属パーツとを、互いに開口側を向かい合わせにして、左右対称に、且つ相互の距離を所望の共振周波数に応じて調整して配置し、固定する第一の工程と、
第一の工程で固定したインレットと一対の円弧状金属パーツとを、樹脂モールド成形により成形する第二の工程と、を備えている。
【0025】
(コイン形状のインレットを作製する工程)
従来の非接触ICタグ(単にICタグとも称す。)のインレットの製造工程を好適に使
用することができる。巻線タイプのコイルアンテナを使用する場合は、そのコイルアンテナの端子にICチップを半田付けする製造工程であれば良い。コイルアンテナとして、配線基板上に形成された銅箔やアルミニウム箔をパターニング後、ICチップを搭載し接続する工程であっても良い。絶縁基板上に、導電性インキを印刷し、焼成した配線基板にICチップを搭載し、接続する工程であっても良い。コイン形状のICタグのインレットを作製できる工程であれば、好適に使用することができる。
【0026】
(第一の工程)
コイン形状のインレットに一対の円弧状金属パーツを配置する工程としては、金型を使用した樹脂モールド工程を好適に使用することができる。例えば、まず金型の中にコイン形状のインレットを配置する。次に、そのコイン形状のインレットのアンテナコイルの周縁部に、一対の円弧状金属パーツを、互いに開口側を向かい合わせにして、左右対称に配置する。一対の円弧状金属パーツは、相互の距離が所望の共振周波数に応じた位置に調整され、配置される。
【0027】
所望の共振周波数が得られる位置に配置する方法としては、例えば、予め一対の円弧状金属パーツとインレットの位置関係を調べておいて、配置する方法を採用することができる。更に正確に共振周波数を微調整する場合には、一対の円弧状金属パーツを配置した後、共振周波数を測定し、一方または両方の円弧状金属パーツの位置を一定の距離だけずらした後、再び共振周波数を測定し、所望の共振周波数が得られた後、円弧状金属パーツを固定し、一対の円弧状金属パーツの配置を完了することもできる。円弧状金属パーツの位置をずらす方向は、例えば図1(b)に図示した円弧状金属パーツの配置変更方向に沿って移動させれば良い。
【0028】
本発明においては、上記に説明した方法に限定する必要は無く、一対の円弧状金属パーツを所望の位置に配置し固定できる手段であれば良い。例えば接着剤を使用して、コイン形状のインレットの周縁部に固定することも可能である。その場合、共振周波数の調整は、コイン形状のインレットの直径を変更することにより可能である。
【0029】
(第二の工程)
第二の工程では、金型の中で、一対の円弧状金属パーツの配置を完了した後、金型を閉じ、樹脂モールドを実施する事によって、インレットと一対の円弧状金属パーツを樹脂で固定する。
【0030】
以上のようにして、本発明のコイン形状のICタグを製造することができるが、上記に説明した製造方法に限定する必要はない。例えば、コイン形状のインレットのコイルアンテナの周縁部に、一対の円弧状金属パーツを接着しても良い。この場合の共振周波数の調整は、例えば、円弧状金属パーツの円弧の長さを変更したり、一対の円弧状金属パーツの距離を、スペーサを介して円弧状金属パーツを接着することにより調整することも容易に実施可能である。
【0031】
また、金型の中で、インレットや一対の円弧状金属パーツを固定する手段としては、例えば、金型の中央部にインレットを配置し固定する凹部を備えておき、その周縁部に、一対の円弧状金属パーツを互いに開口側を向かい合わせにして配置し、固定可能な凹部を備えておく方法を採用することができる。これらの凹部は、所望の複数の共振周波数に対応した位置に一対の円弧状金属パーツが配置できるようにしておけば良い。
【符号の説明】
【0032】
1・・・インレット
2・・・円弧状の金属パーツ
3・・・樹脂
4・・・コイルアンテナ
5・・・ICチップ
10・・・コイン形状のICタグ
図1
図2