特許第6841166号(P6841166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6841166フェニルアルコキシシラン処理シリカの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841166
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】フェニルアルコキシシラン処理シリカの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20210301BHJP
【FI】
   C01B33/18 C
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-114317(P2017-114317)
(22)【出願日】2017年6月9日
(65)【公開番号】特開2018-203601(P2018-203601A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小森 聡
(72)【発明者】
【氏名】村上 泰之
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−527765(JP,A)
【文献】 特開2016−124729(JP,A)
【文献】 特開2014−130944(JP,A)
【文献】 特開2016−110095(JP,A)
【文献】 特開2012−224521(JP,A)
【文献】 特開2015−077681(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0331431(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニルアルコキシシランで処理したシリカを製造する方法であって、
該製造方法は、フェニルアルコキシシランを水と有機溶剤とを含む溶媒中で加水分解する工程と
該加水分解後のシラン化合物でシリカを表面処理する工程とを含み、
該加水分解工程で使用する水の重量をag、有機溶剤の重量をbg、フェニルアルコキシシランの重量をcgとし、該表面処理工程で使用するシリカの重量をdg、比表面積をem/gとすると、
該加水分解工程は、a/bが2〜4、かつ、(c/(a+b))×100が8〜42の条件で行われ、
該表面処理工程は、(a+b+c)/(d×e)が0.01〜0.03の条件で行われる
ことを特徴とするフェニルアルコキシシラン処理シリカの製造方法。
【請求項2】
前記加水分解工程は、pHが3〜4の条件で行われることを特徴とする請求項1に記載のフェニルアルコキシシラン処理シリカの製造方法。
【請求項3】
前記加水分解工程で使用する有機溶剤は、メタノールであることを特徴とする請求項1又は2に記載のフェニルアルコキシシラン処理シリカの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェニルアルコキシシラン処理シリカの製造方法に関する。より詳しくは、樹脂用の添加剤等として好適に用いることができるフェニルアルコキシシラン処理シリカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ粒子は、例えば、封止材料、フィルム材料、トナー用材料、歯科材料等の各種材料において添加剤等として広く使用されている。シリカ粒子表面は親水性であるため、樹脂等との親和性を高めること等を目的として、表面を疎水化処理する技術が種々開発されている。例えば、フェニルシラン処理シリカの製造方法として、フェニルアルコキシシランと水を含む溶媒にシリカを含浸させたのち、水を含む溶媒を留去する方法が開示されている(特許文献1参照)。また別の方法として、シリカに対してシラン化合物を乾式処理する方法が開示されている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−022915号公報
【特許文献2】特開平01−203478号公報
【特許文献3】特開2010−228997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、シリカ表面へのフェニルシラン処理は、通常湿式で行われているが、湿式でフェニルシラン処理を行う場合の、フェニルシラン製造メーカーが推奨するフェニルシラン処理液の濃度は0.1〜2.0%であり、大量の溶媒が必要なために製造コストが高くなり、また大量の溶媒を揮発させる必要があるために環境負荷が高くなるという課題があるため、工業的な製造には不向きであった。上記特許文献2、3には、シリカ表面へのシラン処理を乾式で行う方法が記載されており、シラン化合物を加水分解により前処理しなくても高い疎水化度が得られる結果となっているが、フェニルアルコキシシランの場合は加水分解なしでは所望の表面処理効果(疎水化度)が得られない。また、特許文献2、3の方法をフェニルアルコキシシランに適用した場合には処理液中のフェニルシラン濃度が高くなることによってフェニルシランの自己縮合が生じてシリカ表面への結合が妨げられ、所望の表面処理効果(疎水化度)が得られないという課題があった。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、従来よりも製造コストや環境負荷が低く、かつ、疎水化度の高いフェニルアルコキシシラン処理シリカを製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、シリカ表面へのフェニルアルコキシシラン処理をする方法について種々検討したところ、フェニルアルコキシシランを加水分解する工程と、加水分解工程後のシラン化合物でシリカを表面処理する工程とを含む方法とし、加水分解処理工程で使用する水の重量、有機溶剤の重量、フェニルアルコキシシランの重量、並びに、表面処理工程で使用するシリカの重量及び比表面積が所定の関係を満たす条件下で、これら加水分解工程及び表面処理工程を行うことで、従来よりも製造コストや環境負荷が低い方法でありながら、疎水化度の高いフェニルアルコキシシラン処理シリカを製造することができることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、フェニルアルコキシシランで処理したシリカを製造する方法であって、該製造方法は、フェニルアルコキシシランを水と有機溶剤とを含む溶媒中で加水分解する工程と該加水分解後のシラン化合物でシリカを表面処理する工程とを含み、該加水分解工程で使用する水の重量をag、有機溶剤の重量をbg、フェニルアルコキシシランの重量をcgとし、該表面処理工程で使用するシリカの重量をdg、比表面積をem/gとすると、該加水分解工程は、a/bが2〜4、かつ、(c/(a+b))×100が8〜42の条件で行われ、該表面処理工程は、(a+b+c)/(d×e)が0.01〜0.03の条件で行われることを特徴とするフェニルアルコキシシラン処理シリカの製造方法である。
【0008】
上記加水分解工程は、pHが3〜4の条件で行われることが好ましい。
【0009】
上記加水分解工程で使用する有機溶剤は、メタノールであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフェニルアルコキシシラン処理シリカの製造方法は、従来のフェニルシラン処理の方法に比べて水や有機溶剤の使用量が少なく、製造コストや環境負荷の低い方法でありながら、疎水化度の高いフェニルアルコキシシラン処理シリカを製造することができる有用な製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一例について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更して適用することができる。
【0012】
本発明のフェニルアルコキシシラン処理シリカの製造方法は、フェニルアルコキシシランを水と有機溶剤とを含む溶媒中で加水分解する工程と、加水分解後のシラン化合物でシリカを表面処理する工程とを含む。
以下においては、これらの工程について記載する。
【0013】
<加水分解工程>
本発明のフェニルアルコキシシラン処理シリカの製造方法における加水分解工程は、フェニルアルコキシシランを水と有機溶剤とを含む溶媒中で加水分解する工程であって、加水分解工程で使用する水の重量をag、有機溶剤の重量をbg、フェニルアルコキシシランの重量をcgとすると、a/bが2〜4、かつ、(c/(a+b))×100が8〜42の条件で行われることを特徴とする。このような方法でフェニルアルコキシシランの加水分解を行うと、従来の湿式の方法に比べて少ない水や有機溶剤の量でフェニルアルコキシシランを充分に加水分解させて、アルコキシ基の一部又は全部を水酸基にすることができる。
【0014】
加水分解工程で使用する水と有機溶剤との重量比a/bは2〜4であればよい。加水分解反応には水が必要であり、また、フェニルアルコキシシランは疎水性のため、水となじませるための有機溶剤が必要である。いずれが少なすぎても加水分解速度が遅くなるが、重量比a/bが2〜4であれば、加水分解反応を良好な速度で進めることができる。a/bは、好ましくは、2〜3である。
【0015】
また加水分解工程で使用する水と有機溶剤の合計重量に対するフェニルアルコキシシランの重量比である(c/(a+b))×100は8〜42であればよい。水と有機溶剤の合計重量に対してフェニルアルコキシシランが多すぎると加水分解したフェニルアルコキシシラン同士の距離が近くなり、自己縮合するおそれがあるが、このような重量比であると、水や有機溶剤を多量に使用することなく、加水分解したフェニルアルコキシシラン同士の自己縮合も効果的に抑制することができる。(c/(a+b))×100は、好ましくは、8〜20であり、より好ましくは10〜19である。
【0016】
加水分解工程は、pHが3〜4の条件で行われることが好ましい。pHが3〜4の条件で行うことで、フェニルアルコキシシランの加水分解を短時間で進行させることができる。また、pHが4以下の条件で行うことで、フェニルアルコキシシランの自己縮合を効果的に抑制することができる。pHは、より好ましくは3.5〜4である。pHは、酸やアルカリを用いて適宜調整すればよい。
【0017】
加水分解工程は、攪拌して行われることが好ましい。攪拌することで、フェニルアルコキシシランをより充分に加水分解させることができる。
加水分解工程を行う時間は特に制限されないが、20〜40分であることが好ましい。より好ましくは、30〜40分である。このような時間とすることで、フェニルアルコキシシランの自己縮合を抑制しつつ、加水分解をより充分に進めることができる。
【0018】
加水分解工程における攪拌手段は、特に限定されないが、撹拌羽根による撹拌、振とう攪拌、ミキサーによる撹拌、スターラーによる撹拌等が挙げられる。
【0019】
加水分解工程を行う温度は特に制限されないが、10〜60℃で行うことが好ましい。より好ましくは、20〜60℃である。
【0020】
<表面処理工程>
本発明のフェニルアルコキシシラン処理シリカの製造方法における表面処理工程は、加水分解後のシラン化合物でシリカを表面処理する工程であって、加水分解工程で使用する水の重量をag、有機溶剤の重量をbg、フェニルアルコキシシランの重量をcg、とし、表面処理工程で使用するシリカの重量をdg、比表面積をem/gとすると、(a+b+c)/(d×e)が0.01〜0.03の条件で行われることを特徴とする。表面処理工程は、加水分解工程で得られた加水分解後のシラン化合物、水及び有機溶剤を含む分散液でシリカを表面処理する工程である。
シリカに対して、加水分解後のシラン化合物と水と有機溶剤とを含むフェニルアルコキシシラン加水分解液が少なすぎると、シリカ粒子全体に加水分解したフェニルアルコキシシランが馴染まず、均一に表面処理ができないおそれがあり、フェニルアルコキシシラン加水分解液が多すぎると、シリカ粒子にフェニルアルコキシシラン加水分解液を添加した後(特に後述する静置時間を設けた場合には静置時に)シリカ粒子がフェニルアルコキシシラン加水分解液中で沈降して、均一に表面処理ができないおそれがある。表面処理するシリカの重量とその比表面積とを考慮した(a+b+c)/(d×e)が0.01〜0.03となる条件で表面処理工程を行うことで、フェニルアルコキシシラン含有溶液を多量に使用することなく、シリカ表面を充分に疎水化することができる。
(a+b+c)/(d×e)は0.01〜0.03であればよいが、好ましくは、0.01〜0.02である。
【0021】
表面処理工程では、加水分解後のシラン化合物をシリカに添加した後、攪拌することが好ましい。攪拌することで加水分解したシラン化合物のシラノール基とシリカ表面のシラノール基との反応を充分に進めてシリカの表面処理度(疎水化度)をより高くすることができる。
攪拌する時間は特に制限されないが、20〜60分であることが好ましい。より好ましくは、30〜60分である。
攪拌する手段としては、ブレンダ―、ボールミルなどが挙げられる。
【0022】
また表面処理工程では、加水分解後のシラン化合物をシリカに添加した後、静置する時間を設けることが好ましい。
加水分解後のシラン化合物と水と有機溶剤とを含む液をシリカに添加すると、シリカ粒子間にフェニルアルコキシシラン加水分解液が染み込み、シラン化合物とシリカ粒子とが化学結合してシリカの表面が疎水化される。静置時間を設けることで、シラン化合物とシリカ粒子とが化学結合の形成をより充分に進行させることができ、シリカの表面処理度(疎水化度)を上げることができる。より好ましくは、加水分解後のシラン化合物をシリカに添加した後、攪拌し、その後に静置する時間を設けることである。
シリカの表面処理度(疎水化度)を上げることと生産性とを考慮すると、静置する時間は、5〜40時間であることが好ましい。なお、静置時間を設ける場合、有機溶剤や水の揮発を抑えるため、密閉静置することが好ましい。
【0023】
表面処理工程を行う温度は特に制限されないが、10〜50℃で行うことが好ましい。より好ましくは、20〜40℃である。
【0024】
表面処理工程は、フェニルアルコキシシランを加水分解して得られるシラン化合物を表面処理剤として使用する限り、更にその他の表面処理剤を併用してもよいが、シラン化合物とその他の表面処理剤との合計100質量%中、その他の表面処理剤の割合は50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは1質量%以下であり、最も好ましくは、0質量%、すなわち、表面処理剤として、フェニルアルコキシシランを加水分解して得られるシラン化合物のみを用いることである。
その他の表面処理剤は1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
また表面処理工程では、必要に応じて、シリカ粒子以外の他の無機酸化物粒子を使用してもよい。シリカ粒子以外の他の無機酸化物粒子を使用すると、表面処理されたケイ素含有複合無機粒子が得られる。
他の無機酸化物粒子としては特に限定されないが、例えば、元素周期表II〜VI族の元素を含むものが好ましく、より好ましくは元素周期表III〜IV族の元素を含むものである。中でも、Al、Ti及び/又はZrが好ましい。他の無機酸化物粒子の使用量は、用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、原料無機酸化物粒子の総量(シリカ粒子と他の無機酸化物粒子との合計量)100質量%に対し、50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは1質量%以下、最も好ましくは、0質量%、すなわち、シリカ粒子のみを用いることである。
他の無機酸化物粒子は1種又は2種以上を用いることができる。
【0026】
<その他の工程>
本発明のフェニルアルコキシシラン処理シリカの製造方法は、表面処理工程で得られたシリカを乾燥する工程を含むことが好ましい。
乾燥工程の温度や時間は、表面処理工程で得られたシリカが充分に乾燥される限り特に制限されないが、乾燥工程の温度は、100〜200℃であることが好ましい。より好ましくは、120〜200℃である。
また乾燥工程の時間は、1〜10時間であることが好ましい。より好ましくは、2〜5時間である。
【0027】
本発明のフェニルアルコキシシラン処理シリカの製造方法は、加水分解工程、表面処理工程及び乾燥工程以外に、更にその他の工程を含んでいてもよい。
【0028】
<フェニルアルコキシシラン>
本発明において用いるフェニルアルコキシシランは、フェニル基及びアルコキシ基を含有し、かつSi−O結合を有する化合物であればよいが、中でも、下記一般式(1):
−Si−(OR)4−m (1)
(式中、Xは、置換基を有していてもよいフェニル基を表す。Rは、炭素数1〜5のアルキル基を表す。mは、1〜3の整数を表す。)で表される化合物が好ましい。
【0029】
上記一般式(1)中、Xは、置換基を有していてもよいフェニル基を表す。置換基としては、例えば、水酸基、ハロゲン原子等が挙げられる。中でも、本発明の製造方法で得られるフェニルアルコキシシラン処理シリカの樹脂等への分散安定性を高める観点から、アミノ基を含有しないこと、すなわちアミノ基非含有フェニル基が好適である。より好ましくは、置換基を有しないこと、すなわち非置換フェニル基である。
【0030】
Rは、炭素数1〜5のアルキル基を表す。直鎖、分岐鎖又は環状のいずれであってもよいが、直鎖又は分岐鎖のアルキル基であることが好ましい。炭素数は、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜3、更に好ましくは1〜2である。
【0031】
mは、1〜3の整数を表す。好ましくは1又は2であり、より好ましくは1である。すなわち上記一般式(1)で表される化合物としてより好ましくは、フェニルトリアルコキシシランである。
【0032】
上記フェニルアルコキシシランとして具体的には、例えば、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランが好適である。
本発明の製造方法においては、フェニルアルコキシシランを1種用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0033】
<有機溶剤>
加水分解工程に用いる有機溶剤は、フェニルアルコキシシランを加水分解させることができる限り特に制限されないが、メタノール、エタノールのいずれか又は両方を用いることが好ましい。このような低級アルコールを用いることで加水分解が進みやすくなる。より好ましくは、メタノールである。
【0034】
<シリカ>
本発明において用いるシリカは、無水ケイ酸及び含水ケイ酸のいずれであってもよい。例えば無水ケイ酸としては、乾式法(火炎燃焼法等)により製造されるシリカ(ヒュームドシリカ)の他、石英、トリディマイト、クリストバル石、コーサイト、スティショフ石、石英ガラス等が挙げられる。含水ケイ酸としては、シリカヒドロゾルをゲル化し乾燥して得られる、いわゆる非晶質のシリカゲルの他、コロイダルシリカ、シリケートオリゴマー、ミセルテンプレート型シリカ等が挙げられる。中でも、非晶質シリカがより好ましい。
シリカは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0035】
本発明において用いるシリカは、比表面積が2〜15m/gであるものが好ましい。より好ましくは、2〜10m/gであるものであり、更に好ましくは、2〜7m/gであるものである。
【0036】
本明細書中、比表面積は、BET法により得られたBET比表面積(SSAとも称す)を意味する。BET法は、窒素等の気体粒子を固体粒子に吸着させ、吸着した量から比表面積を測定する気体吸着法であり、圧力Pと吸着量Vとの関係からBET式によって単分子吸着量VMを求めることで、比表面積が定まる。本明細書中の比表面積の詳しい測定方法は、後述の実施例において説明する。
【0037】
本発明において用いるシリカは粒子状のものであり、粒子の形状は特に限定されないが、本発明の製造方法で得られるフェニルアルコキシシラン処理シリカを溶媒や樹脂に分散させた分散体の長期安定性向上の観点から、略球状(球状又は球状に近い形状)であることが好ましい。
粒子形状は、走査型電子顕微鏡等によって観察することができる。
【0038】
<フェニルアルコキシシラン処理シリカ>
本発明のフェニルアルコキシシラン処理シリカの製造方法で得られるフェニルアルコキシシラン処理シリカは、疎水化度が15〜35%であることが好ましい。疎水化度が15〜35%であると、比誘電率が5〜30の溶媒との親和性が向上する。半導体分野では、比誘電率が5〜30の溶媒との馴染みがよい樹脂が使用されるため、疎水化度が15〜35%のフェニルアルコキシシラン処理シリカは、半導体分野で使用される樹脂への添加剤として好適に用いることができる。
フェニルアルコキシシラン処理シリカの疎水化度は、より好ましくは、20〜35%である。
【0039】
比誘電率が5〜30である溶媒としては、例えば、シクロヘキサノン(比誘電率:18.3(20℃))、メチルエチルケトン(比誘電率:18.5(20℃))、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(比誘電率:8.3)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(比誘電率:12.3)、エタノール(比誘電率:24.3(25℃))、n−プロピルアルコール(比誘電率:20.1(25℃))、ベンジルアルコール(比誘電率:13.1(20℃))、フェノール(比誘電率:9.78(60℃))、m−クレゾール(比誘電率:11.8(25℃))、アセトン(比誘電率:20.7(25℃))、テトラヒドロフラン(比誘電率:7.6)等が挙げられる。
【0040】
比誘電率が5〜30の溶媒との馴染みがよい樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0041】
本発明のフェニルアルコキシシラン処理シリカの製造方法で得られるフェニルアルコキシシラン処理シリカは、樹脂への分散安定性に優れるため、封止材料や、フィルム材料、トナー材料、歯科材料等の各種用途に使用される樹脂の添加剤として好適に用いることができる。
【実施例】
【0042】
本発明を詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」は「質量%(重量%)」を、「部」は「質量部(重量部)」を、それぞれ意味する。
【0043】
実施例1
(フェニルトリメトキシシラン加水分解液の調製)
水14gにメタノール6gを投入した後、25℃に保持し、酢酸を添加することによりpHを3.8にした。25℃に保持したpH3.8の水とメタノール溶液にフェニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製 KBM−103)を2g投入し、スターラーで35分間撹拌することによりフェニルトリメトキシシラン加水分解液を調製した。
【0044】
(シリカ粒子の表面処理)
内容積1L、高さ170mmの円筒形広口瓶に比表面積6.8m/gのシリカ200gとフェニルトリメトキシシラン加水分解液を投入し、広口瓶の蓋を閉め、100回上下反転した後、広口瓶の蓋を閉めたまま7時間静置した。静置後、広口瓶からステンレス製のバットにシリカを移し、130℃に設定した乾燥機で3時間熱をかけ、表面処理シリカを得た。得られた表面処理シリカの疎水化度は19%であった。なお、シリカの比表面積、及び、表面処理シリカの疎水化度は以下の方法により測定又は算出した。
[シリカの比表面積(BET比表面積)の測定方法]
BET比表面積は、試料を窒素雰囲気中、200℃で40分間熱処理し、マイクロメリティクス社製GEMINI VII2390を用いて測定した。
[表面処理シリカの疎水化度]
200mLビーカーにイオン交換水を50mL入れ、その後、表面処理シリカ0.200gを入れ、スターラーで攪拌しながら、ビュレットを用いてメタノールを滴下し、液面上に浮いた表面処理シリカが完全沈むまで滴下したメタノール量を読み取り、下記式より疎水化度を算出した。
疎水化度(%)={滴定量(mL)/[滴定量(mL)+50(mL)]}×100
【0045】
実施例2〜8、比較例1〜6
使用する水、有機溶剤、フェニルアルコキシシランの量、シリカの量や比表面積、及び、フェニルアルコキシシランの加水分解液調製時の攪拌時間を表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして表面処理シリカを製造した。表1には得られた表面処理シリカの疎水化度も示した。
【0046】
【表1】
【0047】
表1の結果から、本発明のフェニルアルコキシシラン処理シリカの製造方法の要件を満たす製造方法により表面処理シリカを製造することで、水や有機溶剤を多量に使用することなく、充分に表面処理がされた疎水化度の高いシリカを得ることができることが確認された。