(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記駆動機構は、前記凹面鏡の向きおよび位置の変化の前後において、前記虚像提示面上の限定された表示領域内に前記画像表示光が入射するように前記凹面鏡の向きおよび位置を変化させることを特徴とする請求項1または2に記載の虚像表示装置。
前記駆動機構は、前記凹面鏡の向きおよび位置の変化の前後において、前記虚像提示面上の同一点に前記画像表示光の主光線が入射するように前記凹面鏡の向きおよび位置を変化させることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の虚像表示装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。かかる実施の形態に示す具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0011】
図1は、実施の形態に係る虚像表示装置10の設置態様を模式的に示す図である。本実施の形態では、移動体の一例である車両60のダッシュボード内に虚像表示装置10が設置される。虚像表示装置10は、いわゆるヘッドアップディスプレイ装置である。虚像表示装置10は、虚像提示面であるウインドシールド62に画像表示光を投射し、車両60の進行方向(
図1の左方向)の前方に虚像50を提示する。運転者などのユーザEは、ウインドシールド62を介して現実の風景に重畳される虚像50を視認できる。そのため、ユーザEは、車両の走行中に視線をほとんど動かすことなく虚像50に示される情報を得ることができる。
【0012】
虚像表示装置10は、投射部12と、反射鏡14と、凹面鏡16と、駆動機構18と、制御部40と、を備える。投射部12は、画像表示素子を用いて照明光を変調し、画像表示素子の表示画像に対応する画像表示光を生成する。投射部12は、LCOS(Liquid crystal on silicon)などの反射型の表示素子や、TFT(Thin Film Transistor)液晶表示パネルなどの透過型表示素子を含む。投射部12は、ラスタースキャン方式により画像表示光を生成するよう構成されてもよく、レーザ光線を変調および走査するためのMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラー等を含んでもよい。
【0013】
反射鏡14は、投射部12からの画像表示光を凹面鏡16に向けて折り返すための折り返しミラーである。反射鏡14は、平面で構成されてもよいし、曲面で構成されてもよい。反射鏡14は、例えば、光学系の収差を補正するための凸曲面または凹曲面で構成されてもよい。なお、反射鏡14を設けずに投射部12からの画像表示光が凹面鏡16に直接投射されてもよい。また、反射鏡14を複数設け、投射部12から凹面鏡16までの光路が複数回折り返されるように構成されてもよい。
【0014】
凹面鏡16は、投射部12からの画像表示光を虚像提示面であるウインドシールド62に向けて反射させる投射鏡である。凹面鏡16は、画像表示光に基づく画像を拡大してユーザEに提示する。ユーザEは、画像表示光に基づく画像を虚像50として視認する。
【0015】
凹面鏡16により投射される画像表示光の光束は一定の大きさを有しており、ウインドシールド62上において所定の大きさ(画像サイズ)を有する。ウインドシールド62上での画像サイズとは、ウインドシールド62の表面上において画像表示光の光束が入射および反射する領域の大きさのことをいう。
図1において符号Dで示される寸法は、虚像50として視認される画像の縦方向の寸法に対応する。
【0016】
駆動機構18は、凹面鏡16の向きおよび位置を変化させる。駆動機構18は、凹面鏡16の向きを変化させることにより、ウインドシールド62からユーザEに向かう画像表示光の方向を変化させ、ユーザEの目の高さに応じた適切な方向に画像表示光が投射されるようにする。駆動機構18は、凹面鏡16における画像表示光の主光線の入射方向に沿って凹面鏡16の位置を変化させる。これにより、ウインドシールド62上での画像表示光の入射および反射位置が固定されるようにする。画像表示光の位置が固定されるメカニズムについては後述する。
【0017】
制御部40は、表示用画像を生成し、表示用画像に対応する虚像50が提示されるように投射部12および駆動機構18を動作させる。制御部40は、外部装置64と接続されており、外部装置64からの情報に基づいて表示用画像を生成する。
【0018】
外部装置64は、虚像50として表示される画像の元データを生成する装置である。外部装置64は、例えば、車両60の電子制御ユニット(ECU;Electronic Control Unit)や、ナビゲーション装置、携帯電話やスマートフォン、タブレットといったモバイル装置などである。外部装置64は、虚像50の表示に必要な画像データ、画像データの内容や種別を示す情報、車両60の速度や現在位置といった車両60に関する情報を制御部40に送信する。
【0019】
本実施の形態は、駆動機構18により凹面鏡16の向きと位置の双方が調整可能となるように構成されることを特徴とする。凹面鏡16の向きと位置を同時に変化させることにより、ウインドシールド62上での画像表示光の入射および反射位置を固定しつつ、ユーザEに向かう画像表示光の向きを変化させることができる。このようなウインドシールド62上での画像表示光の位置固定を実現する本実施の形態について詳述する前に、比較例を参照しながらウインドシールド62上での画像表示光の入射および反射位置の変化について説明する。
【0020】
図2は、比較例に係る虚像表示装置110の虚像提示位置の調整方法を模式的に示す図である。
図2は、目の高さ位置が異なるユーザE1,E2,E3のそれぞれに適切な向きの画像表示光を提供する場合の画像表示光の主光線の光路L1,L2,L3を示している。
図2において、凹面鏡116に向かう画像表示光の主光線(入射主光線ともいう)L
inの入射方向をz方向とし、入射主光線L
inと出射主光線L
outの双方に直交する方向をx方向とし、z方向とx方向に直交する方向をy方向としている。凹面鏡116の回転軸120は、x方向である。
【0021】
本比較例では、上述の実施の形態と異なり、凹面鏡116の向きのみを変化させて画像表示光の光路L1〜L3を調整している。駆動機構118は、凹面鏡116を矢印Rに示されるように回動させて凹面鏡116の向きを調整する。凹面鏡116での主光線の入射および反射角θが大きくなるように凹面鏡116を回動させることで、ウインドシールド62での主光線の入射および反射角φが小さくなる。逆に、凹面鏡116での主光線の入反射角θを小さくすれば、ウインドシールド62での入反射角φが大きくなる。これにより、異なる目の高さのユーザE1〜E3のそれぞれに適切な方向に画像表示光を投射できる。
【0022】
本比較例では、凹面鏡116における入射主光線L
inの入射点および出射主光線L
outの出射点が固定されているため、出射主光線L
outの出射方向が変わると、ウインドシールド62上での画像表示光の主光線の位置P1,P2,P3が変化する。一般にウインドシールド62の曲面形状は均一ではなく、場所によって傾斜や曲率が異なりうるため、ウインドシールド62上での位置によって画像表示光に対する光学特性が変化しうる。例えば、
図2に示す画像表示光の主光線の入射および反射位置P1〜P3のそれぞれの曲率が異なる場合、それぞれの位置P1〜P3を介して提示される虚像50の拡大率が異なってしまう。また、画像表示光の光束はある程度の大きさを有するため、主光線の位置P1〜P3が変化することによってウインドシールド62上で画像表示光の光束の全体が入射および反射する領域(表示領域ともいう)の位置も変化する。ウインドシールド62上の表示領域の位置変化に起因して表示領域の曲面形状が変化すれば、画像表示光の結像特性が変化し、提示する虚像50に歪みを生じさせてしまう。例えば、外部装置64から取得した情報に基づいて、主光線の位置がP2のときに最適となるように歪補正した表示画像を制御部40にて生成した場合、主光線の位置がP1またはP3に変化すると、変化後の位置P1,P3におけるウインドシールド62の傾斜や曲率が異なることで、虚像50に歪みが生じてしまう。
【0023】
図3は、実施の形態に係る虚像表示装置110の虚像提示位置の調整方法を模式的に示す図である。本実施の形態では、矢印Rで示される凹面鏡16の向きと、矢印Zで示される凹面鏡16の位置が可変となるように構成される。本実施の形態においても、凹面鏡16を回転軸20まわりに回転させて向きを変えることにより、ウインドシールド62上での主光線の入反射角φが調整される。本実施の形態では、ウインドシールド62上での主光線の位置Pが変わらないように凹面鏡16のz方向の位置がさらに調整される。
【0024】
図3において、中間の高さの第2ユーザE2に向かう第2光路L2を基準とし、ウインドシールド62での主光線の入反射角φを大きくして相対的に高い位置の第1ユーザE1に向かう第1光路L1に変更する場合、反射鏡14から遠ざかるように凹面鏡16の位置を変える。つまり、凹面鏡16における入射主光線L
inの入射方向(z方向)と同じ方向(正方向)に凹面鏡16を移動させる。一方、ウインドシールド62での主光線の入反射角φを小さくして相対的に低い位置の第3ユーザE3に向かう第3光路L3に変更する場合、反射鏡14に近づくように凹面鏡16の位置を変える。つまり、凹面鏡16における入射主光線L
inの入射方向(z方向)と逆方向(負方向)に凹面鏡16を移動させる。
【0025】
図4は、凹面鏡16の角度変化量Δθと移動量Δzの関係を模式的に示す図である。
図4では、第2ユーザE2に向かう第2光路L2から第1ユーザE1に向かう第1光路L1に変更する場合の光学配置を示している。ウインドシールド62での主光線の入反射角φの変化量をΔφ、凹面鏡16の角度変化量をΔθとしている。また、第1光路L1における凹面鏡16での主光線の入反射位置をQ
1、第2光路L2における凹面鏡16での主光線の入反射位置をQ
2としている。また、第1光路L1に沿って凹面鏡16から出射される主光線を第1出射主光線L1
out、第2光路L2に沿って凹面鏡16から出射される主光線を第2出射主光線L2
outとしている。
【0026】
図4の光路配置において、ウインドシールド62での主光線の位置Pと凹面鏡16における入射主光線L
inとの相対関係は不変である。そのため、ウインドシールド62での主光線の入射角φと凹面鏡16における主光線の入射角θおよび反射角θの和(φ+2θ)は一定となる。したがって、第1光路L1での角度の和{(φ+Δφ)+2(θ−Δθ)}は、第2光路L2での角度の和(φ+2θ)と等しく、凹面鏡16の角度変化量Δθ=Δφ/2となる。
【0027】
また、ウインドシールド62での主光線の位置Pと、第1光路L1および第2光路L2での凹面鏡16の入反射位置Q
1,Q
2とで作られる三角形△PQ
1Q
2に着目すると、凹面鏡16のz方向の移動量Δzを求めることができる。線分PQ
2(つまり、第2出射主光線L2
out)の距離をkとすると、正弦定理より、k/sin(2θ−2Δθ)=Δz/sin(Δφ)となり、Δz=k・sin(Δφ)/sin(2θ−2Δθ)と記述することができる。したがって、凹面鏡16の角度変化量Δθと移動量Δzの関係は、Δz=k・sin(2Δθ)/sin(2θ−2Δθ)と記述できる。このようにして、凹面鏡16の移動量Δzを凹面鏡16の角度変化量Δθの関数として決定でき、凹面鏡16の角度変化量Δθが決まれば、適切な移動量Δzが一意に求まる。駆動機構18は、凹面鏡16の角度変化量Δθと移動量Δzが上述の式の関係を満たすように、凹面鏡16の向きおよび位置を調整する。
【0028】
図5は、実施の形態に係る駆動機構18の構成を模式的に示す図である。駆動機構18は、第1支持ピン22と、第1ガイドレール24と、ラックギア26と、駆動ギア28と、第2支持ピン32と、第2ガイドレール34とを備える。駆動機構18は、凹面鏡16の中心部16cと下端部16bの位置を規制して凹面鏡16が適切な角度となるようにしながら、凹面鏡16のz方向の移動を可能にする。
【0029】
図5において、凹面鏡16の上端部16a、下端部16bおよび中心部16cは、凹面鏡16のy方向の位置を特定するために用いられる。上端部16aは、ウインドシールド62に相対的に近い端部のことをいい、下端部16bは、ウインドシールド62から相対的に遠い端部のことをいう。中心部16cは、上端部16aと下端部16bの中間位置であり、画像表示光の主光線が入射および反射する部分のことをいう。
【0030】
第1支持ピン22は、凹面鏡16の中心部16cに設けられ、凹面鏡16の側方からx方向に突起するように取り付けられる。第1ガイドレール24は、z方向に直線状に延在し、第1支持ピン22を回動可能に支持する。第1ガイドレール24は、y方向の位置が凹面鏡16での入射主光線L
inと一致するように設けられ、入射主光線L
inが凹面鏡16の中心部16cに入射するように凹面鏡16のy方向の位置を規制する。ラックギア26は、第1ガイドレール24に沿ってz方向に延在し、第1ガイドレール24に沿ってz方向に移動可能となるように構成される。ラックギア26は、第1支持ピン22の軸受部27を介して第1支持ピン22と固定されている。駆動ギア28は、図示しないモータなどの駆動源を動力として回転するよう構成される。駆動ギア28が回転すると、ラックギア26がz方向に移動し、第1ガイドレール24に沿って凹面鏡16がz方向に移動する。
【0031】
第2支持ピン32は、凹面鏡16の中心部16cからy方向に離れた位置に設けられ、例えば、凹面鏡16の下端部16bまたは下端部16bの近傍に設けられる。第2ガイドレール34は、上方に凸となるように円弧状に延在し、第2支持ピン32を回動可能に支持する。第2ガイドレール34は、おおむねz方向に延在しているが、y方向に傾斜するように配置される。したがって、第2ガイドレール34は、第1ガイドレール24とは形状および向きの少なくとも一方が異なるように構成される。このような第2ガイドレール34を用いて凹面鏡16の下端部16bまたは下端部16bの近傍の位置を規制することにより、凹面鏡16の位置と向きを連動して変化させ、ウインドシールド62上での主光線の位置Pを固定できる。
【0032】
以上の構成によれば、凹面鏡16の向きに応じて凹面鏡16のz方向の位置を適切に変化させ、虚像提示面であるウインドシールド62上の主光線の位置Pを固定しながら虚像提示位置を調整できる。これにより、ウインドシールド62上での主光線の位置が変化することによる光学特性の変化を抑制し、画像表示光の結像性能を一定以上に保つことができる。したがって、本実施の形態によれば、虚像提示位置の調整に伴う虚像50の歪みを低減し、虚像提示位置を可変にしつつ視認性の高い虚像50を提示できる。
【0033】
なお、駆動機構18の構成は、
図5に示されるものに限られず、他の構成が用いられてもよい。y方向に異なる位置に設けられる二本のガイドレールを用いて凹面鏡16の位置と向きを制御する場合、凹面鏡16の中心部16cに設けられる第1ガイドレールと、凹面鏡16の上端部16aまたは上端部16aの近傍に設けられる第2ガイドレールを用いてもよい。その他、上端部16aと下端部16bのそれぞれにガイドレールを配置し、中心部16cにはガイドレールを配置しない構成としてもよい。いずれの場合においても、二本のガイドレールの形状および向きの少なくとも一方を異ならせることにより、凹面鏡16の向きと位置を好適に調整できる。
【0034】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、各表示例に示す構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。
【0035】
上述の実施の形態では、虚像提示面上での主光線の位置Pを固定させたまま虚像提示面での主光線の入反射角φを調整する方法について示した。変形例においては、虚像提示面上での主光線の位置を厳密に固定するのではなく、ある一定の範囲内に限定されるようにしてもよい。例えば、虚像提示面上の限定された表示領域の範囲内であれば、凹面鏡の向きおよび位置の変化に応じて、虚像提示面上の画像表示光の位置が多少変動するようにしてもよい。例えば、虚像提示面の曲面形状が実質的に一定とみなせる範囲内であれば、虚像提示面上で画像表示光の位置が変化してもよい。このような表示領域の範囲の大きさを一概に決めることは容易ではないが、一例を挙げれば、
図1に示したような虚像提示面上での画像サイズの寸法Dの1.2倍以下とすればよく、1.1倍以下といった1.0倍に近いほどより好ましい。
図2の比較例では、虚像提示位置の調整によって最大で画像サイズの寸法Dの1.2倍〜1.5倍程度の範囲にわたって画像表示光の位置が移動しうるため、位置の変化に伴う画像の歪みが顕著となりやすい。一方、変形例において、虚像提示面上での画像表示光の位置の移動範囲を画像サイズの寸法Dの1.2倍以下、より好ましくは1.0倍に近づけることによって、画像の歪みを好適に低減できる。
【0036】
上述の実施の形態では、凹面鏡16に入射する入射主光線L
inと凹面鏡16の中心部16cが一致するように凹面鏡16を配置する場合について示した。変形例においては、ある一定の範囲内であれば、凹面鏡16の中心部16cが入射主光線L
inからずれるように凹面鏡16が配置されてもよい。具体的には、凹面鏡16の曲率が一定とみなせる範囲において凹面鏡16と入射主光線L
inの間に位置ずれが生じてもよく、例えば、凹面鏡16の焦点距離の1%〜5%程度の範囲にずれが生じてもよい。このような場合であっても、虚像提示位置の調整に伴う画像の歪みを好適に低減できる。
【0037】
上述の実施の形態では、二本のガイドレールを用いることで一つの駆動源により凹面鏡16の位置および向きを制御することとした。変形例においては、凹面鏡16をz方向に移動するための駆動源に加えて、凹面鏡16を回転させるための別の駆動源を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
上述の実施の形態では、凹面鏡16のz方向の移動を入射主光線L
inと同じ方向としたが、ウインドシールド62上の主光線の位置Pが変わらない、または、その変化が十分に小さいとみなせる態様であれば、厳密に同一方向としなくてもよい。