(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
人の部位の温感を示す基礎的指標(SET*)を算出する算出部(123)と、
人体熱モデル(MDL)の血流による熱移動量(Qbi)を補正要素として前記基礎的指標を補正する補正部(124)とを備え、
前記補正部は、前記熱移動量により過渡時における熱流入と熱流出とを反映するように前記基礎的指標を補正しており、
前記補正部は、さらに、前記人体熱モデル(MDL)の蓄熱による全身蓄熱量(Sb)および平均体温(Tb)を補正要素として前記基礎的指標を補正しており、
前記補正部は、前記全身蓄熱量および前記平均体温により過渡時における人体の蓄熱を反映するように前記基礎的指標を補正しており、
前記補正要素は、前記基礎的指標に対して直流的補正成分を加えて、前記基礎的指標と温感との一致度を高めており、前記直流的補正成分は、前記補正要素の一次関数として与えられて
おり、
前記補正部は、部位毎の温感を示す部位毎の新指標Xiを以下の数式によって算出し、Ai、Bi、Ci、Di、EiおよびFiは部位ごとに設定された定数であり、(SET*)は前記基礎的指標であり、Qbiは前記熱移動量であり、Sbは前記全身蓄熱量であり、Tbは前記平均体温である温感算出装置。
【数1】
人の部位の温感を示す基礎的指標(SET*)を算出する算出部(123)と、
人体熱モデル(MDL)の蓄熱による全身蓄熱量(Sb)および平均体温(Tb)を補正要素として前記基礎的指標を補正する補正部(124)とを備え、
前記補正部は、前記人体熱モデル(MDL)の血流による熱移動量(Qbi)により過渡時における熱流入と熱流出とを反映するように前記基礎的指標を補正しており、
前記補正部は、前記全身蓄熱量および前記平均体温により過渡時における人体の蓄熱を反映するように前記基礎的指標を補正しており、
前記補正要素は、前記基礎的指標に対して直流的補正成分を加えて、前記基礎的指標と温感との一致度を高めており、前記直流的補正成分は、前記補正要素の一次関数として与えられて
おり、
前記補正部は、部位毎の温感を示す部位毎の新指標Xiを以下の数式によって算出し、Ai、Bi、Ci、Di、EiおよびFiは部位ごとに設定された定数であり、(SET*)は前記基礎的指標であり、Qbiは前記熱移動量であり、Sbは前記全身蓄熱量であり、Tbは前記平均体温である温感算出装置。
【数2】
人の全身の温感または人の部位の温感を示す基礎的指標(SET*)を算出する算出ステップ(123)と、
人体熱モデル(MDL)の血流による熱移動量(Qbi)、および人体の蓄熱による全身蓄熱量(Sb)、および平均体温(Tb)を補正要素として前記基礎的指標を補正する補正ステップ(124)とを備え、
前記補正ステップは、前記熱移動量により過渡時における熱流入と熱流出とを反映するように前記基礎的指標を補正しており、
前記補正ステップは、前記全身蓄熱量および前記平均体温により過渡時における人体の蓄熱を反映するように前記基礎的指標を補正しており、
前記補正要素は、前記基礎的指標に対して直流的補正成分を加えて、前記基礎的指標と温感との一致度を高めており、前記直流的補正成分は、前記補正要素の一次関数として与えられて
おり、
前記補正ステップは、部位毎の温感を示す部位毎の新指標Xiを以下の数式によって算出し、Ai、Bi、Ci、Di、EiおよびFiは部位ごとに設定された定数であり、(SET*)は前記基礎的指標であり、Qbiは前記熱移動量であり、Sbは前記全身蓄熱量であり、Tbは前記平均体温である温感算出方法。
【数3】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、環境と対象人物との関係が過渡的であるときに、正確さが低下する。例えば、環境が過渡的に変化する場合、または対象人物が調整された環境に入ったり、出たりする場合には、正しく人の全身としての温感および部位の温感を表すことができないことがある。上述の観点において、または言及されていない他の観点において、温感算出装置、温感算出方法、空調装置、およびプログラムにはさらなる改良が求められている。
【0005】
開示されるひとつの目的は、過渡時における全身としての温感および部位の温感を表すことができる温感算出装置、温感算出方法、空調装置、およびプログラムを提供することである。
【0006】
開示される他のひとつの目的は、過渡時における人の全身としての温感および部位の温感を空調に反映することができる空調装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される温感算出装置は、人の部位の温感を示す基礎的指標(SET*)を算出する算出部(123)と、人体熱モデル(MDL)の血流による熱移動量(Qbi)を補正要素として基礎的指標を補正する補正部(124)とを
備え、補正部は、熱移動量により過渡時における熱流入と熱流出とを反映するように基礎的指標を補正しており、補正部は、さらに、人体熱モデル(MDL)の蓄熱による全身蓄熱量(Sb)および平均体温(Tb)を補正要素として基礎的指標を補正しており、補正部は、全身蓄熱量および平均体温により過渡時における人体の蓄熱を反映するように基礎的指標を補正しており、補正要素は、基礎的指標に対して直流的補正成分を加えて、基礎的指標と温感との一致度を高めており、直流的補正成分は、補正要素の一次関数として与えられている。開示される温感算出装置によると、基礎的指標だけではなく、補正要素が反映される。特に、人体熱モデルの血流による熱移動量が補正要素とされる。このため、過渡時における人の部位の温感を表すことができる。
【0008】
ここに開示される温感算出装置は、人の温感を示す基礎的指標(SET*)を算出する算出部(123)と、人体熱モデル(MDL)の蓄熱による全身蓄熱量(Sb)および/または平均体温(Tb)を補正要素として基礎的指標を補正する補正部(124)とを
備え、補正部は、人体熱モデル(MDL)の血流による熱移動量(Qbi)により過渡時における熱流入と熱流出とを反映するように基礎的指標を補正しており、補正部は、全身蓄熱量および平均体温により過渡時における人体の蓄熱を反映するように基礎的指標を補正しており、補正要素は、基礎的指標に対して直流的補正成分を加えて、基礎的指標と温感との一致度を高めており、直流的補正成分は、補正要素の一次関数として与えられている。開示される温感算出装置によると、基礎的指標だけではなく、補正要素が反映される。特に、人体熱モデルの蓄熱による全身蓄熱量
および平均体温が補正要素とされる。このため、過渡時における人の温感を表すことができる。
【0009】
ここに開示される空調装置は、上記温感算出装置と、温感算出装置に応じて空調を制御する空調制御部(207)とを備える。開示される空調装置によると、基礎的指標だけではなく、補正要素が反映されて与えられる指標により、空調が制御される。このため、過渡時における人の温感を空調に反映することができる。
【0010】
ここに開示される温感算出方法は、人の全身の温感または人の部位の温感を示す基礎的指標(SET*)を算出する算出ステップ(123)と、人体熱モデル(MDL)の血流による熱移動量(Qbi)
、および人体の蓄熱による全身蓄熱量(Sb)
、および平均体温(Tb)を補正要素として基礎的指標を補正する補正ステップ(124)とを
備え、補正ステップは、熱移動量により過渡時における熱流入と熱流出とを反映するように基礎的指標を補正しており、補正ステップは、全身蓄熱量および平均体温により過渡時における人体の蓄熱を反映するように基礎的指標を補正しており、補正要素は、基礎的指標に対して直流的補正成分を加えて、基礎的指標と温感との一致度を高めており、直流的補正成分は、補正要素の一次関数として与えられている。開示される温感算出方法によると、基礎的指標だけではなく、補正要素が反映される。特に、人体熱モデルの血流による熱移動量、人体熱モデルの蓄熱による全身蓄熱量、および人体熱モデルの蓄熱による平均体温が補正要素とされる。このため、過渡時における人の全身の温感または人の部位の温感を表すことができる。
【0011】
ここに開示されるプログラムは、コンピュータに、上記算出ステップ、および上記補正ステップを実行させる。開示されるプログラムによると、基礎的指標だけではなく、補正要素が反映される。特に、人体熱モデルの血流による熱移動量、人体熱モデルの蓄熱による全身蓄熱量、および人体熱モデルの蓄熱による平均体温が補正要素とされる。このため、過渡時における人の全身の温感または人の部位の温感を表すことができる。
【0012】
上記の補正部また補正ステップは、部位毎の温感を示す部位毎の新指標Xiを以下の数式によって算出し、Ai、Bi、Ci、Di、EiおよびFiは部位ごとに設定された定数であり、(SET*)は基礎的指標であり、Qbiは熱移動量であり、Sbは全身蓄熱量であり、Tbは平均体温である。
【数1】
この明細書における開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照しながら、複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的におよび/または構造的に対応する部分および/または関連付けられる部分には同一の参照符号、または百以上の位が異なる参照符号が付される場合がある。対応する部分および/または関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。
【0015】
第1実施形態
図1において、空調装置設計方法1は、大量生産される空調装置2を設計するために利用される。空調装置2は、車両の室内の温度をはじめとする車両の室内の環境条件ENVを制御する車両用の空調装置である。空調装置2は、室内の風量、湿度などを追加的に制御してもよい。空調装置2は、室内にいる対象者が快適と感じるように室内環境を制御する。対象者は、例えば、運転者、またはそれぞれの座席の乗員である。空調装置2は、冷房装置としての冷凍サイクルと、暖房装置と、それらを制御する制御装置とを含む。
【0016】
空調装置2が提供する快適さは、単に室内の温度が目標温度に向けてフィードバック制御されるだけではなく、追加的な室内環境によって提供される。この空調装置設計方法1は、評価段階3と、設計段階4とを含む。評価段階3では、異なる多数の環境条件ENVにおける実験によって対象者の快適さが評価される。設計段階4では、評価段階3で得られた指標と温感(快適さの度数)との関係に基づいて、空調装置2の仕様が調節される。空調装置設計方法1は、多数の空調装置2を製造する製造方法でもある。
【0017】
評価段階3において、温感算出装置5が利用される。温感算出装置5は、温感算出方法を実施する。評価段階3では、被験者を多数の環境条件ENVの中に置いて、被験者が感じた快適さの申告値が収集される。同時に、温感算出装置5によって、人の温感が客観的な指標として算出される。温感を示す指標は、環境条件と、人体熱モデルMDLとに基づいて数学的に算出される。この指標は基礎的指標と呼ばれる。基礎的指標は、人の全身の温感、人の部位の温感、またはそれらの両方を含むことができる。
【0018】
ここでは、基礎的指標として、標準新有効温度(SET*またはSET
*と表記される)が用いられる。温感算出装置5は、SET*を算出する。SET*は、標準環境の相対湿度を50%に設定し、さらに着衣量と代謝量も加えた人体を内層と外層とに2層分割して人体生理応答も考慮した理論モデル(人体熱モデル)から計算される数値である。SET*は、人体を模擬した人体熱モデルMDLに基づいて算出される。SET*は、被験者と同じ環境条件ENVの中に、人体熱モデルMDLを置いた場合を想定して、算出される。SET*は、多数の環境条件ENVを想定して、それぞれにおいて算出される。
【0019】
さらに、温感算出装置5は、基礎的指標を補正することにより、新指標Xを算出する。新指標Xは、補正後指標と呼ばれる。算出された新指標Xは、評価段階3に提供される。さらに、基礎的指標を補正は、過渡時における指標と温感(快適さの度数)との一致度を向上するように実行される。この場合の過渡時は、環境条件ENVが過渡的に変化する場合と、対象者が移動する場合との両方を含む。なお、過渡時は、環境条件ENVが過渡的に変化する場合と、対象者が移動する場合との一方でもよい。
【0020】
温感算出装置5は、マイクロコンピュータまたはロジックアレイのような制御装置によって提供される。制御装置は、少なくともひとつの演算処理装置(CPU)と、プログラムとデータとを記憶する記憶媒体としての少なくともひとつのメモリ装置とを有する。制御装置は、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を備えるマイクロコンピュータによって提供される。記憶媒体は、コンピュータによって読み取り可能なプログラムを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体である。記憶媒体は、半導体メモリまたは磁気ディスクなどによって提供されうる。制御装置は、ひとつのコンピュータ、またはデータ通信装置によってリンクされた一組のコンピュータ資源によって提供されうる。プログラムは、制御装置によって実行されることによって、制御装置をこの明細書に記載される装置として機能させ、この明細書に記載される方法を実行するように制御装置を機能させる。温感算出プログラムは制御装置によって実行される。
【0021】
評価段階3では、快適さの申告値と、算出された新指標Xとが関連付けられる。これにより、主観的な快適さ(温感)が、客観的な算出値である指標に置き換えられる。例えば、申告値は、(1)快適、(2)やや快適、(3)普通、(4)やや不快、(5)不快といった度数である。設計者は、この関連付けにより、主観的な温感(快適さ)を、指標によって把握する。
【0022】
設計段階4では、設計者は、高い快適さが得られた指標が再現されるように空調装置2を設計される。そこには、単に温度を目標温度に制御するだけではなく、追加的な室内環境を変化させるように空調装置2が設計される。言い換えると、温度だけではない他の環境条件も制御対象とする空調装置2が設計される。
【0023】
追加的な室内環境は、既存の空調装置2においても多様な手法によって実現されている。追加的な室内環境の一例は、時間の経過に対する室内の温度の変化曲線によって与えられる。例えば、快適さが向上するように、温度にゆらぎを与えたり、急速暖房を提供したり、または敢えてゆっくりの温度変化を与えたりする場合がある。追加的な室内環境の一例は、時間の経過に対する室内の風速の変化曲線によって与えられる。追加的な室内環境の一例は、上半身に向けられる風の温度と、下半身に向けられる風の温度との差によって与えられる。追加的な室内環境の一例は、補助的な暖房機器の起動時期、作動継続時間、または停止時期によって与えられる。追加的な室内環境は、他の手法によって提供されてもよい。
【0024】
設計段階4において、設計者は、快適さを向上するように、上記追加的な室内環境を設定する。例えば、0℃の室外から20℃の室内に入った場合に感じる快適さと、10℃の室外から20℃の室内に入った場合に感じる快適さとは異なる。多くの対象者は、前者の場合には、十分な暖かさを感じて高い快適さを得る。これに対して、多くの対象者は、後者の場合には、さほど暖かさを感じないで少ない快適さを得る。例えば、後者の場合の快適さを向上するために、風速を高めて刺激を強くすることが考えられる。このような、快適性を向上するための制御が、設計段階4において、空調装置2に設定される。
【0025】
図2は、人体熱モデルMDLの一例を示す。人体熱モデルMDLは、多様なモデルを利用することができる。人体熱モデルMDLは、人体を熱的にモデル化した関数である。人体熱モデルMDLは、(1)体組織の間における伝熱(血流による伝熱を含む)と、(2)人体と人体が置かれた環境との間の伝熱と、(3)血流、発汗、代謝による体温調節反応とで構成されている。
【0026】
図1に戻り、人体熱モデルMDLは、人体の複数の部位Miを想定して構成されている。人体は、少なくとも、頭部、胴部、右腕、左腕、右足、左足といった6部位によってモデル化することが望ましい。さらに、図示される首部、胸部、腹部、上腕部、前腕部、手部、大腿部、下腿部、足部を加えた16部位によってモデル化することが望ましい。
図1および
図2には、上腕部MU、前腕部MF、手部MHが例示されている。
【0027】
図2において、血流は、動脈系統と、静脈系統との2つの系統を想定して表される。人体のひとつの部位Miを想定した場合、その部位Miと動脈との関係を示すノードN1、およびその部位Miと静脈との関係を示すノードN2を想定することができる。その部位Miにおける人体内層と動脈との関係を示すノードN3、およびその部位Miにおける人体内層と静脈との関係を示すノードN4を想定することができる。さらに、その部位Miにおける人体外層(例えば皮膚)と動脈との関係を示すノードN5、およびその部位Miにおける人体外層と静脈との関係を示すノードN6を想定することができる。このように、ひとつの部位Miに関して6つの血管要素としてのノードを設定し、関数化されている。
【0028】
この実施形態では、人のひとつの部位Miにおける温感を示す新指標Xiは、他の部位からの熱流入と熱流出とを反映して算出される。例えば、手部MHのような末端部分であっても、直近の前腕部MFからの熱流入、および直近の前腕部MFへの熱流出が考慮される。さらに、間接的に上腕部MUなど他の部位との間の熱流入および熱流出が考慮される。このような熱流入、熱流出は、過渡時に変化するから、過渡時における補正要素として好適である。
【0029】
図3は、温感算出装置5のブロック図を示す。任意の環境条件ENVにおける複数の変数が人体熱モデルMDLから得られる。環境条件ENVは、人体が置かれた環境の空気の温度Ta、風速Va、湿度h、および日射などの輻射Trを含む。これら環境条件ENVは、人体の部位ごとに与えられる。例えば、ひとつの部位Miにおける温度Taiが与えられる。これにより、例えば、上腕部MUにおける温度と、手部MHにおける温度との違いが温感に反映される。さらに、環状条件ENVは、人の代謝、および人の着衣を含む。さらに、環境条件として、座席の温度、風速の変動量を示す指標、心拍、皮膚温度、空気の温度の履歴などを含んでいてもよい。
【0030】
人体熱モデルMDLに基づいて、温感の基礎的指標が得られる。人体熱モデルMDLは、基礎的指標を算出するための算出部を提供する。基礎的指標は、例えば、標準新有効温度(SET*)である。SET*の算出手法は、広く知られている。SET*と人の温熱感との間には、相関関係があることが知られている。ただし、過渡的な条件の下では、その相関関係に誤差が生じる。
【0031】
そこで、この実施形態では、基礎的指標を補正するための補正要素が算出される。人体熱モデルMDLに基づいて、温感を示す新指標Xを算出するための補正要素が得られる。複数の補正要素を利用することができる。
【0032】
補正要素は、少なくとも血流による熱移動量Qbiを含む。血流による熱移動量Qbiは、人の部位の温感を示す指標の精度を高めるために貢献する。血流による熱移動量Qbiは、人の全身の温感を示す指標の精度を高めるために間接的に貢献する。補正要素は、少なくとも全身蓄熱量Sbを含む。補正要素は、少なくとも平均体温Tbを含む。全身蓄熱量Sbおよび/または平均体温Tbは、人の部位の温感を示す指標の精度を高めるために貢献する。全身蓄熱量Sbおよび/または平均体温Tbは、人の全身の温感を示す指標の精度を高めるために間接的に貢献する。
【0033】
複数の補正要素は、血流による熱移動量Qbiと、全身蓄熱量Sbまたは平均体温Tbとを含むことが望ましい。複数の補正要素は、熱移動量Qbi、全身蓄熱量Sb、および平均体温Tbのすべてを含むことが望ましい。血流による熱移動量Qbiは、環境条件ENVの過渡的な変化に起因する人体の中での熱移動を指標に反映する。全身蓄熱量Sbおよび/または平均体温Tbは、環境条件ENVの過渡的な変化に起因して人体の蓄熱量が増減する過程を指標に反映する。
【0034】
温感算出装置5は、部位毎の温感を示す部位毎の新指標Xiを算出するために、複数の部位温感算出部5iを備える。複数の部位温感算出部5iのひとつは、複数の部位の温感に基づいて、人の全身の温感を算出する。複数の部位温感算出部5iのひとつは、全身温感算出部とも呼ばれる。部位温感算出部5iは、基礎的指標を補正する補正部を提供する。部位温感算出部5iは、(1)式の関数によって新指標Xiを算出する。
Xi=Ai+Bi×(SET*)+Ci×(SET*)
2+Di×Qbi+Ei×Sb+Fi×Tb・・・(1)式
この関数において、右辺1項から3項(Ai+Bi×(SET*)+Ci×(SET*)
2)は、基礎的な関数を与える。基礎的な関数は、SET*の二次関数として与えられている。右辺4項(Di×Qbi)、5項(Ei×Sb)、6項(Fi×Tb)は、補正要素による補正量を与える。補正要素は、基礎的指標であるSET*に対して直流的補正成分を加えて、基礎的指標と温感との一致度を高めている。補正量は、それぞれの補正要素の一次関数として与えられている。
【0035】
図4は、基礎的指標であるSET*と快適さの度数との関係を示すグラフである。快適さの度数は、快適さの申告値であり、人の温感でもある。基礎的指標であるSET*と快適さの度数と間の相関は、基礎的な関数f(SET*)によって表すことができる。補正要素による補正量は、基礎的な関数f(SET*)に対して、直流成分として作用する。例えば、右辺4項(Di×Qbi)は、血流による熱移動量Qbiを変数とする直流成分を加えることにより、基礎的な関数f(SET*)を平行移動させる。右辺5項(Ei×Sb)は、全身蓄熱量Sbを変数とする直流成分を加えることにより、基礎的な関数f(SET*)を平行移動させる。右辺6項(Fi×Tb)は、平均体温Tbを変数とする直流成分を加えることにより、基礎的な関数f(SET*)を平行移動させる。これにより、過渡時における誤差が抑制される。なお、図示の関数f(SET*)は例示である。
【0036】
図5は、温感算出装置5において実行される温感算出プログラムの一例を示すフローチャートである。温感算出プログラム120は、環境条件ENVを入力するステップ121と、人体熱モデルMDLの条件を入力するステップ122とを有する。ステップ121、122は、入力ステップを提供する。人体熱モデルMDLの条件として、例えば、身長、体重、筋肉量、脂肪量、骨量などが用いられる。人体熱モデルMDLの条件は、標準値に固定されてもよい。
【0037】
温感算出プログラム120は、基礎的指標SET*を算出するステップ123を有する。ここでは、人体熱モデルMDLに基づいて、入力された環境条件ENVにおけるSET*が算出される。さらに、ここでは、人体熱モデルMDLに基づいて、熱移動量Qbi、全身蓄熱量Sb、および平均体温Tbが算出される。ステップ123は、算出ステップを提供する。ステップ123は、基礎的指標を算出する基礎算出部を提供する。
【0038】
温感算出プログラム120は、全身の温感、および部位Miごとの温感を算出するステップ124を有する。ステップ124は、部位Miごとに演算をくりかえす。ステップ124は、上記(1)式を実行する。(1)式におけるSET*、Qbi、Sb、Tbは、人体熱モデルに基づいて算出される。Ai、Bi、Ci、Di、Ei、およびFiは、部位Miごとに設定された定数である。ステップ124は、補正ステップを提供する。ステップ124は、基礎的指標を補正する補正部を提供する。ステップ124は、複数の部位の温感に基づいて、人の全身の温感を算出する。
【0039】
ステップ124は、人体熱モデルMDLの血流による熱移動量Qbiを補正要素として基礎的指標SET*を補正する。ステップ124は、熱移動量Qbiにより過渡時における特定部位の熱流入と熱流出とを反映するように基礎的指標SET*を補正する。ステップ124は、さらに、人体熱モデルMDLの蓄熱による全身蓄熱量Sbおよび/または平均体温Tbを補正要素として基礎的指標SET*を補正する。ステップ124は、全身蓄熱量Sbおよび/または平均体温Tbにより過渡時における人体の蓄熱を反映するように基礎的指標SET*を補正する。ステップ124は、補正要素を変数とする直流成分を基礎的指標に基づいて設定される基礎的関数f(SET*)に加える。
【0040】
温感算出プログラム120は、算出された新指標Xiと、申告値(快適さ)とを関連付けるステップ125を有する場合がある。ステップ125が実行された結果は、設計者による設計に提供される。設計者は例えば、どのような環境条件のときに被験者の温感、すなわち快適さが向上したかを評価し、その評価結果を空調装置2の設計に反映する。
【0041】
この実施形態では、過渡環境の特徴である熱の時間変動や、空間的な熱分布に着目し、これらの特徴を示す因子を補正要素として追加することで、基礎的指標(SET*)による温熱感覚の予測精度が向上でき、過渡的な状態でも適合できると考えた。具体的には生体を模擬したモデルを用い、時間変動を考慮するために、該当する人体部位に蓄熱される量や、血流による熱移動量や、部位内部に貯まる蓄熱量を考慮する。これにより、人体の温熱感覚の高精度化が可能となった。
【0042】
この実施形態によると、血流による熱移動量Qbiが補正要素として加えられるため、過渡時における人の温感を表すことができる。この実施形態によると、環境条件ENVに起因して人体の蓄熱量が増減する過程が考慮される。このため、過渡時における人の温感を表すことができる。具体的には、全身蓄熱量Sbまたは平均体温Tbが過渡時の温感の精度を高める。
【0043】
第2実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。上記実施形態では、空調装置2が有する仕様(冷房装置、暖房装置、またはそれらの制御特性)を設計するための評価段階において利用可能な温感算出装置5を説明した。これに代えて、温感算出装置5を空調装置2に搭載してもよい。
【0044】
図6は、温感算出装置5を搭載した空調装置2を示す。温感算出装置5は、室内の環境条件を入力し、そこにいるであろう対象者の温感を推定する。空調装置2は、推定された温感、すなわち算出された温感(快適さ)が向上するように環境条件を整える。空調装置2は、センサ群206を備える。センサ群206は、空調対象である車両の室内、室外の環境条件をリアルタイムで検出する。センサ群206によって検出された環境条件は、温感算出装置5に入力される。
【0045】
温感算出装置5は、センサ群206による検出情報に基づいて、車両の室内にいるであろう対象者が感じている温感(快適さ)を算出する。この算出処理は、温感を推定する処理でもある。空調装置2は、推定された温感が向上するように環境条件を整える。
【0046】
例えば、温感算出装置5によって算出された温感は、温度フィードバック制御部207(FB)に入力される。温度フィードバック制御部207は、温度が過渡的に変化する過程において、算出された温感に基づいて、フィードバック制御の特性を調節する。例えば、温度を所定温度変化させる場合(例えば10℃上昇させる場合)に、環境条件に応じて人の温感が変化する場合がある。このような場合に、温度フィードバック制御部207は、算出された温感に応じて、評価段階において被験者の快適さが向上した制御を実行する。例えば、(1)速い変化、(2)遅い変化、(3)速い変化の後に遅い変化、(4)遅い変化の後に速い変化、(5)行き過ぎ量を伴う変化など多様な変化の中からひとつが選択され、実現される。温度フィードバック制御部207は、温感算出装置5により算出された新指標Xiに応じて空調を制御する空調制御部を提供する。
【0047】
この実施形態によると、過渡時においても人の温感が正確に推定できるから、過渡時における人の温感を空調に反映することができる空調装置が提供される。
【0048】
他の実施形態
この明細書における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0049】
上記実施形態では、温感を示す基礎的指標として標準新有効温度(SET*)を利用した。これに代えて、多様な指標を利用することができる。例えば、有効温度ET(Effective Temperature)、予測平均温冷感申告PMV(Predicted Mean Vote)などを利用することができる。