(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱間鍛造品の表面に形成されたスケールをブラスト処理により除去すると共に前記熱間鍛造品の表面の粗面化、又は、前記熱間鍛造品の表層部に存在する欠陥を除去するために用いる鋳鋼製の投射材において、
ビッカース硬度がHV300〜HV600であり、
粒子径d1が第1粒子径区間1.000mm≧d1>0.600mmに属する投射材群であって、前記第1粒子径区間内に最大頻度P1を有する第1群と、
粒子径d2が第2粒子径区間1.180mm≧d2>1.000mmに属する投射材群であって、前記第2粒子径区間内に最大頻度P2を有する第2群と、を備え、
前記第1群と前記第2群とで構成される投射材の粒子径頻度分布は、粒子径1.000mmに対応する頻度が0よりも大きい、投射材。
熱間鍛造品の表面に形成されたスケールをブラスト処理により除去すると共に前記熱間鍛造品の表面の粗面化、又は、前記熱間鍛造品の表層部に存在する欠陥を除去するために用いる鋳鋼製の投射材において、
ビッカース硬度がHV300〜HV600であり、
粒子径d1が第1粒子径区間1.000mm≧d1>0.600mmに属する投射材群であって、前記第1粒子径区間内に最大頻度P1を有する第1群と、
粒子径d2が第2粒子径区間1.700mm≧d2>1.000mmに属する投射材群であって、前記第2粒子径区間内に最大頻度P2を有する第2群と、を備え、
前記第1群と前記第2群とで構成される投射材の粒子径頻度分布は、粒子径1.000mmに対応する頻度が0よりも大きい、投射材。
熱間鍛造品の表面に形成されたスケールをブラスト処理により除去すると共に前記熱間鍛造品の表面の粗面化、又は、前記熱間鍛造品の表層部に存在する欠陥を除去するために用いる鋳鋼製の投射材において、
ビッカース硬度がHV300〜HV600であり、
粒子径d1が第1粒子径区間1.180mm≧d1>0.600mmに属する投射材群であって、前記第1粒子径区間内に最大頻度P1を有する第1群と、
粒子径d2が第2粒子径区間1.700mm≧d2>1.180mmに属する投射材群であって、前記第2粒子径区間内に最大頻度P2を有する第2群と、を備え、
前記第1群と前記第2群とで構成される投射材の粒子径頻度分布は、粒子径1.180mmに対応する頻度が0よりも大きい、投射材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多くの金属製品は、スケールを除去した後に、必要に応じて寸法の調整を行い、その後、対象とする金属製品に合わせた仕上げ加工を経て最終製品が完成する。例えば、軸受などの摺動部品を製造する場合、表面に潤滑油を保持するための小さな窪み(ディンプル)を多数設ける加工を行う。そのため、スケールを除去する工程において、金属表面を粗面化して適切なディンプルが形成することができればコストダウンに貢献する。しかし、スケールを除去し、かつ金属製品の表面に適切なディンプルを形成する能力を有する投射材及びブラスト加工法は存在しない。
【0005】
また、摺動部品に限らず、仕上げ加工においては、金属製品を治具に把持する必要がある。このため、金属製品の表面は把持力を増大させることができる程度に粗面化されていることが必要である。金属製品の表面を粗面化するためには、比較的大径の投射材を用いる必要がある。しかし、投射材の寸法を大きくするとカバレージ(一定面積当たりにおける投射材の実打痕面積)が低下する。よって、スケールを除去する効率が低下してしまう。更に、金属製品の表層部に存在する欠陥の除去、例えば、マイクロクラックの封孔、をスケール除去と同時に行うことも要請されている。
【0006】
つまり、スケール除去と粗面化、または表層部に存在する欠陥の除去を一度の処理で効率的に行うことに対する要請がある。しかし、それを可能にする投射材及び表面処理方法は存在しない。
【0007】
そこで、本開示では、スケールが形成された金属製品に対して、効率的にスケールを除去するとともに、表面を粗面化、または、表層部に存在する欠陥の除去を行うことができる投射材及びその投射材を用いた表面処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面は、金属製品の表面に形成されたスケールをブラスト処理により除去するために用いる鋳鋼製の投射材である。この投射材は、第1群と第2群の投射材群を備える。第1群は、粒子径d1が第1粒子径区間d1max≧d1>d1minに属する投射材群であって、第1粒子径区間内に最大頻度P1を有する。第2群は、粒子径d2が第2粒子径区間d2max≧d2>d2minに属する投射材群であって、第2粒子径区間内に最大頻度P2を有する。第1群と第2群とは、d1max=d2minの関係を充足する。第1群と第2群とで構成される投射材の粒子径頻度分布は、実質的に連続している。
【0009】
第1群の投射材は、主にスケールの除去を効率的に行うことに寄与し、第2群の投射材は、スケールをブラスト処理により除去するとともに、金属製品の表面の粗面化、または、金属製品の表層部に存在する欠陥の除去に寄与する。本開示の投射材では、投射材の粒子径分布を第1群の投射材と第2群の投射材との両方が存在するように調整することにより、それぞれの利点を維持し、不足するブラスト処理能力を補完することができる。つまり、スケールが形成された金属製品に対して、効率的にスケールを除去するとともに、表面を粗面化、金属製品の表層部に存在する欠陥の除去を十分に行うことができる。
【0010】
一実施形態においては、d1min=0.710mm及びd2max=1.700mmであり、d1maxが1.000mm又は1.180mmであってもよい。この場合、金属製品の表面の粗面化、または、金属製品の表層部に存在する欠陥の除去を有効に行うことができる。
【0011】
一実施形態においては、金属製品は熱間鍛造品であって、投射材はビッカース硬度がHV300〜HV600であってもよい。投射材は、HV300以上ではブラスト処理対象に対して十分な硬度であり、HV600以下では投射材が十分な靱性を有する。このため、ビッカース硬度がHV300〜HV600である投射材とすることで、十分な硬度と靱性とを併せ持つことができ、金属製品が熱間鍛造品であっても十分に表面処理をすることができる。
【0012】
一実施形態においては、金属製品は摺動部品であって、最大頻度P1が粒子径区間1.180mm≧d1>1.000mm、前記最大頻度P2が粒子径区間1.700mm≧d2>1.400mmに存在してもよい。
【0013】
一実施形態において、d1min=0.600mm及びd2max=1.180mmであり、d1maxが1.000mm又は1.180mmであってもよい。この場合、金属製品は熱間鍛造品であって、投射材はビッカース硬度がHV300〜HV600であってもよい。さらに、金属製品は摺動部品であって、最大頻度P1が粒子径区間1.000mm≧d1>0.850mm、最大頻度P2が粒子径区間1.180mm≧d2>1.000mmに存在してもよい。
【0014】
一実施形態において、d1min=0.600mm及びd2max=1.180mmであり、d1maxが1.000mm又は1.180mmであってもよい。この場合、金属製品は熱間鍛造品であって、投射材はビッカース硬度がHV300〜HV600であってもよい。さらに、金属製品は摺動部品であって、最大頻度P1が粒子径区間1.000mm≧d1>0.850mm、最大頻度P2が粒子径区間1.700mm≧d2>1.400mmに存在してもよい。
【0015】
一実施形態において、投射材は全体が凸曲面で形成されていてもよい。この場合、例えば表面に無数の曲面を有するディンプルを形成することができる。また、投射材の接触面積が均一且つ広くなるので、金属製品の塑性変形が効率良く行われ、金属製品の表層部に存在する欠陥の除去を効率良く行うことができる。
【0016】
本開示の他の側面は、上記の投射材を用いた金属製品の表面処理方法であって、未使用の投射材を前記ブラスト装置に装填する投射材装填工程と、ブラスト装置の操業により投射材の粒子径分布を一定の粒子径分布が安定するオペレーティングミックスを形成するオペレーティングミックス形成工程と、投射材をブラスト装置により金属製品に投射して金属製品の表面のスケールを除去するとともに、金属製品の表面の粗面化、または、金属製品の表面の表層部に存在する欠陥の除去を行う表面処理工程と、を備える。
【0017】
この開示によれば、上記の投射材を用いて、オペレーティングミックス形成工程においてオペレーティングミックスを形成した状態で、金属製品の表面のスケールを除去するとともに、金属製品の表面の粗面化、または、前記金属製品表面の表層部に存在する欠陥の除去を効率的に行うことができる。
【0018】
一実施形態において、オペレーティングミックス形成工程後の投射材の粒子径分布は、0.250mm〜1.700mmであり、且つ最大頻度P1及びP2を有してもよい。この場合、スケールの除去と、最大頻度P1を有する粒度分布群の投射材による粗面化または表層部に存在する欠陥の除去と、を長時間にわたり両立することができる。
【0019】
一実施形態において、最大頻度P1及びP2が、P2≦P1を充足してもよい。
【0020】
一実施形態では、オペレーティングミックス形成工程後の投射材の粒子径分布が、未使用の投射材と比べ、最大頻度P1及びP2の位置は変わらずに、最大頻度P1及びP2間の頻度Vが最大頻度P1及びP2に対して相対的に増大してもよい。このように構成した場合、第1群の投射材の効果及び第2群の投射材の効果を維持しつつ、最大頻度間の粒子径分布がブロードになる。このため、投射材による打痕の大きさが連続的な分布を有するので、カバレージを増大させることができ、表面処理を効率的に行うことができる。なお、「最大頻度P1及びP2間の頻度Vが最大頻度P1及びP2に対して相対的に増大する」とは、最大頻度P1と頻度Vとの差、及び、最大頻度P2と頻度Vとの差、の少なくとも一方が小さくなることを指す。
【0021】
一実施形態では、前記金属製品は熱間鍛造により成型された摺動部品であり、前記表面処理工程により当該摺動部品の表面のスケールを除去するとともに、JIS−B0601:2000(JIS:Japanese Industrial Standards)にて規定される十点平均粗さRzを50μm〜60μmにしてもよい。この場合、摺動部品の表面処理工程では、後加工などにおいて好適な表面粗さに調整することができる。
【発明の効果】
【0022】
スケールが形成された金属製品に対して、効率的にスケールを除去するとともに、表面を粗面化、または、表層部に存在する欠陥の除去を行うことができる投射材及びその投射材を用いた表面処理方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示に係る投射材は、ブラスト処理により金属製品の表面からスケールを除去するために用いることができる鋳鉄製(鋳鋼製)の投射材である。ここで、投射材の硬度はスケール除去の対象となる金属製品に応じて適宜選択することができる。本実施形態では、ギアやシリンダ、摺動部品などの熱間鍛造により製造(成型)される金属製品の表面処理に用いることができる投射材について説明する。
【0025】
投射材は、ビッカース硬度HV300〜HV600の範囲から選択された鉄系材料(鋳鉄)からなる球状のショットである。ここで、このような鉄系材料として、例えば、重量%でC:0.8%〜1.2%、Mn:0.35%〜1.20%、Si:0.40%〜1.50%、P≦0.05%、S≦0.05%、残部Fe及び不可避不純物を含む成分系であって、焼き戻しマルテンサイト組織および/またはベイナイト組織、または焼き入れマルテンサイト組織若しくはそれらに類する組織を有する粒子を採用することができる。このような粒子は例えば水アトマイズ法等の公知の方法で作製することができる。ここで、投射材は、HV300以上ではブラスト処理対象に対して十分な硬度であり、HV600以下では投射材が十分な靱性を有する。このように本開示の投射材は、十分な硬度と靱性とを併せ持つため、熱間鍛造品の表面のブラスト処理に用いることができる。ここで、ビッカース硬度HVは日本工業規格JIS Z 2244(2009)に基づくものである。
【0026】
図1に投射材の粒子径分布を模式的に示す。横軸は粒子径、縦軸は重量分率である。投射材は、主にスケールの除去に寄与する第1粒子径区間d1max≧d1>d1min(粒子径d1)に属する投射材群であって、当該粒子径区間内に最大頻度P1を有する第1群と、主に金属製品の表面の粗面化、または、金属製品の表層部に存在する欠陥の除去に寄与する第2粒子径区間d2max≧d2>d2min(粒子径d2)に属する投射材群であって、当該粒子径区間内に最大頻度P2を有する第2群と、を備えている。ここで、第1群と第2群とは、d1max=d2minの関係を充足する。また、第1群と第2群とで構成される投射材の粒子径頻度分布は、実質的に連続している。以下では、最大頻度P1及びP2間の頻度をV(V1,V2,…)とする。
【0027】
ここで、「粒子径区間d1max≧d>d1minの粒子」とは、JIS Z8801(2006)に規程の公称目開きd1maxの標準ふるいを通過し、公称目開きd1minの標準ふるいで捕獲された(通過しない)粒子を示す。例えば、「粒子径区間1.700mm≧d>1.400mmの粒子」とは、JIS Z8801(2006)に規程の公称目開き1.700mmの標準ふるいを通過し、公称目開き1.400mmの標準ふるいで捕獲された(通過しない)粒子を示す。また、粒子径区間の下限値以下の小径の粒子を最大5%程度含むことを許容するものとする。なお、各図において、横軸の粒子径は、粒子径区間の下限値を代表値として示している。例えば、粒子径1.400mmと表記した場合には、「粒子径区間1.700mm≧d>1.400mmの粒子」を示す。
【0028】
第1群の投射材は、スケールの除去を効率的に行うために、より少ない投射量でカバレージを増大させることが必要である。
図2の(A)は、カバレージが100%に到達したときの粒子径と投射密度との関係を示すグラフである。横軸が粒子径、縦軸が投射密度である。投射密度の評価は、インペラー式ブラスト装置を用い、投射速度73m/sで硬さHV200のSUJ2(高炭素クロム軸受鋼鋼材)製ターゲットに投射材をワーク1及びワーク2に衝突させて行った。投射後のワークはマイクロスコープで外観撮影を行い、標準写真との比較によりカバレージの評価を行った。
【0029】
粒子径が小さい程、小さい投射密度でカバレージが100%に到達する傾向が認められた。これは、粒子径が小さい程、単位質量あたりの投射材の数が多いので、投射材が金属製品に接触する機会が多いためである。
図2の(B)は、投射材の粒子径に対する1kgあたりの投射材の数のグラフである。横軸が粒子径、縦軸が単位質量あたりの投射材数である。投射材の粒子径が1.000mm以下となると、単位質量あたりの投射材の数が上昇していることが判る。従って、スケール除去を効率的に行うために、粒子径は1.000mm以下とすることができる。また、粒子径が0.500mm以下の投射材は、後述するブラスト処理において、セパレーター、集塵機で除去されやすく、投射材寿命の低下につながる。このため、粒子径は0.600mmを超えるとしてもよい。
【0030】
第2群の投射材は、スケールをブラスト処理により除去するとともに、主に金属製品の表面の粗面化、または、金属製品の表層部に存在する欠陥を除去するために、十分な衝突エネルギーを有することが必要である。
図3は、単一粒径の投射材の粒子径と衝突エネルギーとの関係を示すグラフである。横軸が粒子径、縦軸が一粒あたりの衝突エネルギーである。ここで、衝突エネルギーは、投射材重量M、速度Vにおいて、1/2×M×V2(M=ρ×4/3×πr
3)から算出した。なお、ρ=7.5g/cm
3、V=70m/sである。熱間鍛造品の表面の粗面化には、少なくとも0.01J/個の衝突エネルギーが必要である。このため、粒子径は1.000mm以上とすることができる。また、金属製品の表層部に存在する欠陥の除去、例えば、マイクロクラックの封孔処理には、1.200mm以上の粒子径とすることができる。
【0031】
次に、投射材の寿命から適切な粒子径を検討した。
図4は、投射材の粒子径と寿命値との関係を示すグラフである。横軸が粒子径、縦軸が寿命値である。投射材の寿命試験は、SAE J445(SAE:Society of Automotive Engineers)に規定の100%Replacement Methodに準拠し、アーヴィン式ライフテスターを用い、投射速度60m/s、ターゲット硬さHRC65(HRC:Rockwell hardness)とし、カットオフ値はone screen下の篩目で測定実施した。一定衝突回数毎に破砕した投射材を篩別除去するとともに、残留した投射材の重量を測定し、残留した投射材が最初の30%以下となるまで試験を行った。この試験により得た衝突回数と残留投射材の重量割合の関係を示す寿命曲線を積分して求められる数値を寿命値とした。
【0032】
投射材の粒子径が大きい程、寿命が短くなる傾向となった。投射材の寿命値は1000サイクル以上が要求されることが多い。このため、第2群の投射材は、1.700mm以下とすることができる。また、粒子径が大きい投射材を用いると、ブラスト装置の損傷、例えば、部品の摩耗などが大きくなる。このため、必要以上に粒子径を大きくしなくてもよい。
【0033】
第1群の投射材のみでは、カバレージを向上させることができるので効率的なスケール除去を行うことができるが、金属製品の表面の粗面化、または、金属製品の表層部に存在する欠陥の除去を十分に行うことができない。
【0034】
一方、第2群の投射材のみでは、金属製品の表面の粗面化、または、金属製品の表層部に存在する欠陥の除去を十分に行うことができるが、単位重量あたりの粒子数が少なくなるため、カバレージ(一定面積当たりにおける投射材の実打痕面積)の低下に繋がる。
【0035】
本開示の投射材では、投射材の粒子径分布を第1群の投射材と第2群の投射材との両方が存在するように調整することにより、それぞれの利点を維持し、不足するブラスト処理能力を補完することができる。つまり、スケールが形成された金属製品に対して、効率的にスケールを除去するとともに、表面を粗面化、金属製品の表層部に存在する欠陥の除去を十分に行うことができる。ここで、第1群と第2群とは、d1max=d2minの関係を充足してもよい。また、第1群と第2群とで構成される投射材の粒子径頻度分布は、実質的に連続している。これにより、表面処理による打痕の大きさが連続的な分布を有するため、カバレージを増大させることができ、表面処理を効率的に行うことができる。この効果を奏するために、d1max=d2minを1.000mmとしてもよく、1.180mmとしてもよい。
【0036】
ここで、粗面化、または表層部に存在する欠陥の除去を有効に行うために、第1群の投射材の比率を調整して、最大頻度P1及びP2がP2≦P1を充足してもよい。
【0037】
金属製品は摺動部品である場合には、最大頻度P1が粒子径区間1.000mm≧d1>0.850mm、最大頻度P2が粒子径区間1.700mm≧d2>1.400mmに存在するような投射材を用いることができる。あるいは、最大頻度P1が粒子径区間1.180mm≧d1>1.000mm、最大頻度P2が粒子径区間1.700mm≧d2>1.400mmに存在するような投射材を用いてもよい。また、表面粗さを小さくしたい場合には、最大頻度P1が粒子径区間1.000mm≧d1>0.850mm、最大頻度P2が粒子径区間1.180mm≧d2>1.000mmに存在するような投射材を用いることができる。
【0038】
投射材の粒度分布は、ワークである金属製品の性状(形状、材質、スケールの状態、等)及び表面処理の目的に合わせて適宜変更することができる。例えば、d1min=0.710mm及びd2max=1.700mmとし、d1maxが1.000mm又は1.180mmとしてもよい。あるいは、d1min=0.600mm及びd2max=1.180mmとし、d1max=d2minを1.000mm又は1.180mmとしてもよい。あるいは、d1min=0.600mm及びd2max=1.700mmとし、d1max=d2minを1.000mm又は1.180mmとしてもよい。いずれの場合においても、最大頻度P1及びP2を有し、且つ実質的に連続している粒度分布を有することで、スケールが形成された金属製品に対して、効率的にスケールを除去するとともに、表面を粗面化、金属製品の表層部に存在する欠陥の除去を十分に行うことができる。
【0039】
投射材は、水アトマイズ法等の公知の方法により作製した粒子をJIS Z 8801(2006)に規定の篩目の篩を用いて分級し、所望の粒子径分布となるように混合、調整して作製することができる。
【0040】
次に、上記の投射材を使用して、ブラスト処理によりスケール除去及び粗面化または封孔処理を行う表面処理方法について説明する。
【0041】
本開示の投射材を用いて金属製品の表面処理を行うには、例えば、特許文献1に記載のような公知の遠心型ブラスト装置を用いることができる。なお、本開示のブラスト処理方法は当該ブラスト装置を用いた方法に限定されるものではない。
【0042】
ブラスト装置は、投射材の貯留及び定量供給を行うホッパー、投射材を投射するインペラーユニット、投射材を循環させる循環装置、投射材と砂やスケールとを分離するセパレーター及び集塵装置を備えている。
【0043】
投射材は、ホッパーからインペラーユニットに投入され、インペラーユニットに投入された投射材は、インペラーユニット内で加速されて投射室内に配置された金属製品へと投射される。これにより、金属製品のブラスト処理を行なう。
【0044】
投射された投射材は、ブラスト処理により金属製品から除去されたスケールとともに循環装置により回収され、セパレーターに送られる。
【0045】
セパレーターでは投射材をエプロン状に落下させ、集塵機により生じる気流により砂、スケール及び粉砕された微細な投射材を選別し、それらを集塵機及び装置外へ排出する。ブラスト処理に有効な投射材は再度、インペラーユニットに供給され、循環使用される。
【0046】
装置外へ排出された量だけ装置内投射材量が減少するので、減少量に対応した量の投射材を補給する必要がある(未使用の投射材をブラスト装置に装填する投射材装填工程)。投射材の減少はインペラーユニットの負荷電流値により検知され、新たな投射材がホッパーに自動的にもしくは手動に補給される。
【0047】
上記投射、微粉の装置外排出、補給を繰り返し行う一連の操作の結果、装置内投射材の粒子径分布は、未使用の投射材の粒子径分布とは異なる一定の粒子径分布で安定する(ブラスト装置の操業により投射材の粒子径分布を一定の粒子径分布が安定するオペレーティングミックスを形成するオペレーティングミックス形成工程)。この安定した粒子径分布の状態をオペレーティングミックスという。オペレーティングミックス形成工程後、投射材をブラスト装置により金属製品に投射して金属製品の表面のスケールを除去するとともに、金属製品の表面の粗面化、または、金属製品表面の表層部に存在する欠陥の除去が行われる(表面処理工程)。投射材は、オペレーティングミックス形成後の装置内投射材の粒子径分布を効率的なブラスト処理が行えるように管理することが重要である。
【0048】
本開示の投射材を用いると、特別な装置、方法によることなく、オペレーティングミックス形成工程後におけるブラスト装置内の粒子径分布を、ブロードに(例えば、0.250mm〜1.700mm)し、且つ最大頻度P1及びP2を有するようにすることができる。そして、未使用の投射材と比べ、最大頻度P1及びP2の位置(粒子径)は変わらずに、最大頻度P1及びP2間の頻度Vが最大頻度P1及びP2に対して相対的に増大するという特徴的な分布にすることができる。これによれば、第1群の投射材の効果及び第2群の投射材の効果を維持しつつ、最大頻度間の粒子径分布がブロードになる。投射材による打痕の大きさが連続的な分布を有するので、カバレージを増大させることができ、表面処理を効率的に行うことができる。
【0049】
さらに、効率的なスケール除去を行いつつ、粗面化、または表層部に存在する欠陥の除去を有効に行うためには、オペレーティングミックス形成工程後におけるブラスト装置内の粒子径分布において、最大頻度P1及びP2がP2≦P1を充足するようにしてもよい。
【0050】
投射材は、その全体が凸曲面で形成されてもよい。全体が凸曲面で形成された投射材を用いて表面処理工程を行った場合、例えば表面に無数の曲面を有するディンプルを形成することができる。このため、金属製品の摺動性を失うことなく表面に潤滑油を保持するためのディンプルを形成することができる。また、投射材の接触面積が均一且つ広くなるので、金属製品の塑性変形が効率良く行われ、金属製品の表層部に存在する欠陥の除去を効率良く行うことができる。なお、「全体が凸曲面で形成されている」とは、角部を有しない形状を指す。球状の粒子だけでなく、例えば円柱形状の粒子の角部を面取りして丸めた形状の粒子も含まれる。
【0051】
(変更例)
投射材の形態はショットに限定されるものではなく、グリット、カットワイヤなどを用いることもできる。
【0052】
本開示の投射材及び表面処理方法は、鋼材からなる熱間鍛造品以外でも、スケールが形成される材料、製造方法の金属製品の表面処理に適用することができる。例えば、圧延鋼板のスケール除去等に適用することができる。
【0053】
(実施形態の効果)
本開示の投射材及びその投射材を用いた表面処理方法によれば、スケールが形成された金属製品に対して、効率的にスケールを除去するとともに、表面を粗面化、または、表層部に存在する欠陥の除去を行うことができる。特に、投射材の硬度、粒子径分布を適切に設定することにより、熱間鍛造品の表面処理に用いることができる。
【実施例】
【0054】
以下、本開示の効果を確認するために行った実施例について説明する。
【0055】
本開示の投射材を用いたスケール除去を行い、表面処理後の表面粗さを評価した。本試験に使用した被加工物は、材質をSUJとし、形状は円筒(円すいころ軸受の内輪)、試験に使用した投射試験装置は、ショットブラストSNTX−I型(新東工業株式会社)であり、投射速度73m/sにて実施した。投射密度は100%カバレージ到達時の投射密度とした。投射密度は、150kg/m
2〜300kg/m
2とした。また、評価項目は表面粗さであり、測定方法として、JIS−B0601:2000にて規定される十点平均粗さRz(μm)を採用した。
【0056】
投射材は、硬度HV450のスチールショットであって、最大頻度P1及びP2における粒子径及び最大頻度P1と最大頻度P2との比率を変えた投射材を用意し、試験に供した。試験は、投射材を投射試験装置に投入し、連続運転及び補給を繰り返してオペレーティングミックスを形成したのち投射試験を行った。
【0057】
試験に用いた投射材の粒子径分布を下記に示す。
(1)第1群
最大頻度P1となる粒子径が0.710mm(粒子径区間0.850mm≧d1>0.710mm)、0.850mm(粒子径区間1.000mm≧d1>0.850mm)、1.000mm(粒子径区間1.180mm≧d1>1.000mm)の3水準
(2)第2群
最大頻度P2となる粒子径が1.400mm(粒子径区間1.700mm≧d2>1.400mm)、1.180mm(粒子径区間1.400mm≧d2>1.180mm)、1.000mm(粒子径区間1.180mm≧d2>1.000mm)の3水準
【0058】
各条件における表面粗さ測定結果を表1に示す。このように、最大頻度P1及びP2に対応する適当な粒子径を選定することにより表面粗さを調整することができる。例えば、熱間鍛造により製造された摺動部品の表面処理工程では、後加工などにおいて好適な表面粗さRz50μm〜60μm程度に調整することができる。
【0059】
【表1】
【0060】
以下、上記の粒子径分布をグラフで示す。
図5は、本開示の投射材のオペレーティングミックス形成工程後の粒子径分布を、オペレーティングミックス形成工程前の粒子径分布と比較して模式的に示す説明図である。第1群は最大頻度P1の粒子径が0.850mm、第2群は最大頻度P2の粒子径が1.400mmである。「イニシャル」は、オペレーティングミックス形成工程前の粒子径分布であり、「オペレーティングミックス」は、オペレーティングミックス形成工程後の粒子径分布である。オペレーティングミックス形成工程後の最大頻度P1,P2と頻度V1との差分は、イニシャルの最大頻度P1,P2と頻度V1との差分よりも小さい。また、オペレーティングミックス形成工程後の最大頻度P1,P2と頻度V2との差分は、イニシャルの最大頻度P1,P2と頻度V1との差分よりも小さい。このように、最大頻度P1及びP2の位置は変わらずに、最大頻度P1及びP2間の頻度V(V1,V2)が最大頻度P1及びP2に対して相対的に増大するという特徴的な分布になることが確認された。表1を参照すると、この投射材を用いることで表面粗さRz54.13μm程度に調整することができる。
【0061】
図6は、実施例の投射材のオペレーティングミックス形成前の粒子径分布である。横軸は粒子径、縦軸は重量分率である。第1群が粒子径1.000mm、第2群の粒子径が1.400mmである。nは試験番号であり、平均は試験番号で示す試験結果の平均値である。
図7は、
図6の投射材のオペレーティングミックス形成後の粒子径分布である。このように、最大頻度P1及びP2の位置(粒子径)は変わらずに、最大頻度P1及びP2間の頻度Vが最大頻度P1及びP2に対して相対的に増大するという特徴的な分布になることが確認された。オペレーティングミックスの形成後の平均における最大頻度P2:最大頻度P1は18:23であり、P2≦P1を充足する。
【0062】
図8は、実施例の投射材のオペレーティングミックス形成前の粒子径分布である。横軸は粒子径、縦軸は重量分率である。第1群が粒子径0.850mm、第2群の粒子径が1.000mmである。nは試験番号であり、平均は試験番号で示す試験結果の平均値である。
図9は、
図8の投射材のオペレーティングミックス形成後の粒子径分布である。このように、最大頻度P1及びP2の位置(粒子径)は変わらずに、最大頻度P1及びP2間の頻度Vが最大頻度P1及びP2に対して相対的に増大するという特徴的な分布になることが確認された。オペレーティングミックスの形成後の平均における最大頻度P2:最大頻度P1は23:24であり、P2≦P1を充足する。