(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを含む、ポリイミド多孔質膜である、請求項9に記載の細胞培養モジュール。
前記ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理することにより得られる着色したポリイミド多孔質膜である、請求項9又は10に記載の細胞培養モジュール。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一態様は、
ポリマー多孔質膜と、
2以上の培地流出入口を有し、前記ポリマー多孔質膜が収容されたケーシングと
を備えた細胞培養モジュールであって、
ここで、前記ポリマー多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリマー多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、前記表面層A及びBにおける孔が前記マクロボイドに連通し、
ここで、前記ケーシング内に
(i)2以上の独立した前記ポリマー多孔質膜が、集約されて、
(ii)前記ポリマー多孔質膜が、折り畳まれて、
(iii)前記ポリマー多孔質膜が、ロール状に巻き込まれて、及び/又は、
(iv)前記ポリマー多孔質膜が、縄状に結ばれて、
収容されている、細胞培養モジュールに関する。該細胞培養モジュールを、以下で、「本発明の細胞培養モジュール」とも呼ぶ。なお、本明細書において、「細胞培養モジュール」との記載は、単に「モジュール」と記載することができ、相互に変更しても同一のことを意味する。
【0017】
本明細書において、「細胞培養モジュール」とは、細胞培養容器、細胞培養装置及び細胞培養システム、特に浮遊培養に用いられる細胞培養容器、細胞培養装置及び細胞培養システムに適用可能な、細胞培養基材をいう。細胞培養モジュールのいくつかの実施態様を
図1〜3、
図8、
図20(A)に示す。本発明の細胞培養モジュールは、
図4〜6、9〜14、17、18、20、21及び24のような実施態様によって使用することができる。また、後述する実施例に示す態様によっても使用することができる。
【0018】
本発明の細胞培養モジュールは、ポリマー多孔質膜がケーシングに収容されていることによって、膜状のポリマー多孔質膜がケーシング内で、継続的に形態が変形することが防止される。これによって、ポリマー多孔質膜内で生育される細胞にストレスが加えられることが防止され、アポトーシス等が抑制されて安定的かつ大量の細胞を培養することが可能となる。
【0019】
本発明の細胞培養モジュールが備えるケーシングは、2以上の培地流出入口を有することで、細胞培地がケーシングの内部へ供給及び外部へ排出される。該ケーシングの培地流出入口の径は、ケーシングの内部へ細胞が流入可能であるように、前記細胞の径よりも大きいことが好ましい。また、培地流出入口の径が、該培地流出入口よりポリマー多孔質膜が流出する径よりも小さいことが好ましい。ポリマー多孔質膜が流出する径よりも小さい径は、ケーシングに収容されたポリマー多孔質膜の形状、大きさによって適宜選択可能である。例えば、ポリマー多孔質膜がひも状である場合、該ポリマー多孔質膜の短辺の幅より小さく、該ポリマー多孔質膜が流出しない適度の径であれば特に限定されない。該培地流出入口の数は、細胞培地がケーシング内外へ供給及び/又は排出されやすいように、出来るだけ多く設けられていることが好ましい。好ましくは、5以上、好ましくは10以上、好ましくは20以上、好ましくは50以上、好ましくは100以上である。培地流出入口は、ケーシングの一部又は全部が、メッシュ状の構造を有していてもよい。また、該ケーシング自体がメッシュ状であってもよい。本発明において、メッシュ形状の構造とは、例えば、縦、横、及び/又は斜めの格子状の構造を有するものであって、各目開きが、流体が通過出来る程度に培地流出入口を形成するものであるが、これに限定されない。
【0020】
本発明の細胞培養モジュールが備えるケーシングは、通常の培養条件、例えば、攪拌培養、振とう培養条件における培地の動きによって変形しない程度に強度を有することが好ましく、非可撓性素材から形成されていることが好ましい。また、ケーシングは、細胞培養において、細胞の生育に影響を与えない素材によって形成されていることが好ましい。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリマー、ステンレス綱、チタンなどの金属が挙げられるが、これに限定されない。ケーシングにある程度強度があることにより、ケーシング内部のポリマー多孔質膜の形状が継続的に変更することが防止され、本発明の効果がより発揮される。本明細書において、「ケーシングが変形しない」とは、通常の培養環境下で受ける負荷において変形しないことを意味するものであり、絶対的に変形しないことを意味するものではない。
【0021】
本発明の細胞培養モジュールは、前記ケーシング内に
(i)2以上の独立した前記ポリマー多孔質膜が、集約されて、
(ii)前記ポリマー多孔質膜が、折り畳まれて、
(iii)前記ポリマー多孔質膜が、ロール状に巻き込まれて、及び/又は、
(iv)前記ポリマー多孔質膜が、縄状に結ばれて、
収容されている。
【0022】
本明細書において、「ケーシング内に2以上の独立した該ポリマー多孔質膜が集約されて収容されている」とは、互いに独立した2以上のポリマー多孔性膜が、ケーシングで囲まれた一定空間内に集約されて収容されている状態を指す。本発明において、2以上の独立した該ポリマー多孔質膜は、該ポリマー多孔質膜の少なくとも1カ所と該ケーシング内の少なくとも1カ所とを任意の方法によって固定され、該ポリマー多孔質膜がケーシング内で動かない状態に固定されたものであってもよい。また、2以上の独立したポリマー多孔質膜は、小片であってもよい。小片の形状は、例えば、円、楕円形、四角、三角、多角形、ひも状など、任意の形をとりうるが、好ましくは、略正方形が好ましい。本発明において、小片の大きさは、任意の大きさをとりうるが、略正方形である場合、長さは任意の長さでよいが、例えば、80mm以下がよく、好ましくは50mm以下がよく、より好ましくは30mm以下がよく、さらにより好ましくは20mm以下がよく、10mm以下であってもよい。また、ポリマー多孔性膜の小片が略正方形である場合、その一辺の長さは、ポリマー多孔質膜がケーシング内で動かない状態となるように、ケーシングの内壁に沿って、又は内壁の一辺の長さより短く(例えば、0.1mm〜1mm程度短い)形成されたものであってもよい。これによって、ポリマー多孔質膜内で生育される細胞にストレスが加えられることが防止され、アポトーシス等が抑制されて安定的かつ大量の細胞を培養することが可能となる。なお、ひも状のポリマー多孔質膜の場合、後述するように、(ii)前記ポリマー多孔質膜が、折り畳まれて、(iii)前記ポリマー多孔質膜が、ロール状に巻き込まれて、及び/又は、(iv)前記ポリマー多孔質膜が、縄状に結ばれて、該ケーシングに収容されてもよい。また、ケーシング内に2以上の独立したポリマー多孔質膜を集約して収容するために、任意の枚数のポリマー多孔質膜を積層させてもよい。この場合、ポリマー多孔質膜とポリマー多孔質膜の間には中敷が設けられてもよい。中敷が設けられることにより、積層されたポリマー多孔質膜の間に効率的に培地を供給させることができる。中敷は、積層されたポリマー多孔質膜の間に任意の空間を形成し、効率的に培地を供給させる機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、メッシュ構造を有する平面構造体を用いることができる。中敷の材質は、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ステンレス鋼製のメッシュを用いることができるが、これに限定されない。メッシュ構造を有する中敷を有する場合、積層されたポリマー多孔質膜の間に培地を供給できる程度の目開きを有していればよく、適宜選択することができる。
【0023】
本明細書において、「折り畳まれたポリマー多孔質膜」とは、該ケーシング内にて折り畳まれていることで、ポリマー多孔質膜の各面及び/又はケーシング内の表面との摩擦力によってケーシング内で動かない状態となったポリマー多孔質膜である。本明細書において、「折り畳まれた」とは、ポリマー多孔膜に折り目がついた状態であってもよく、折り目がついていない状態であってもよい。
【0024】
本明細書において、「ロール状に巻き込まれたポリマー多孔質膜」とは、ポリマー多孔質膜が、ロール状に巻き込まれて、ポリマー多孔質膜の各面及び/又はケーシング内の表面との摩擦力によってケーシング内で動かない状態となったポリマー多孔性膜をいう。また、本発明おいて、縄状に編み込まれたポリマー多孔質膜とは、例えば短冊状の複数のポリマー多孔質膜を、任意の方法によって縄状に編み込み、ポリマー多孔質膜同士の摩擦力によって互いに動かない状態のポリマー多孔質膜をいう。(i)2以上の独立した前記ポリマー多孔質膜が集約されたポリマー多孔質膜、(ii)折り畳まれたポリマー多孔質膜、(iii)ロール状に巻き込まれたポリマー多孔質膜、及び(iv)縄状に結ばれたポリマー多孔質膜、が、組み合わせられてケーシング内に収容されていてもよい。
【0025】
本明細書において、「該ポリマー多孔質膜がケーシング内で動かない状態」とは、該細胞培養モジュールを細胞培養培地中で培養する場合に、該ポリマー多孔質膜が継続的に形態変化しない状態になるようにケーシング内に収容されている状態をいう。換言すれば、該ポリマー多孔質膜自体が、流体によって、継続的に波打つ動きを行わないように抑制された状態である。ポリマー多孔質膜がケーシング内で動かない状態を保つため、ポリマー多孔質膜内で生育されている細胞にストレスが加えられることが防止され、アポトーシス等による細胞が死滅されることなく安定的に細胞が培養可能となる。
【0026】
本発明の細胞培養モジュールは、細胞を培養する培養装置及びシステム等であれば、市販のものを適用することが可能である。例えば、培養容器が可撓性のバッグからなる培養装置にも適用可能であり、当該培養容器内に浮遊させた状態で使用することが可能である。また、本発明の細胞培養モジュールは、例えば、スピナーフラスコ等の攪拌培養型容器に適用し、培養することが可能である。その他、培養容器としては、開放容器にも適用可能であり、閉鎖容器にも適用可能である。例えば、細胞培養用のシャーレ、フラスコ、プラスチックバッグ、試験管から大型のタンクまで適宜利用可能である。例えば、BD Falcon社製のセルカルチャーディッシュやサーモサイエンティフィック社製のNunc セルファクトリー等が含まれる。
【0027】
2.細胞培養装置への細胞培養モジュールの適用
本明細書において、「細胞培養装置」とは、一般に、細胞培養システム、バイオリアクター、又はリアクターと同義に扱われる用語であって、相互に入れ替えても同一の意味を有する。本発明の細胞培養モジュールは、以下に例示する細胞培養装置に適用することができる。また、以下に例示する装置以外の市販の装置においても適用可能である。
【0028】
(1)サイフォン式培養装置
本発明の細胞培養モジュールは、
図9及び
図24に示す、サイフォン式培養装置において適用可能である。サイフォン式培養装置とは、ポリマー多孔質膜と、前記ポリマー多孔質膜が収容された細胞培養部と、前記細胞培養部を内部に格納した液溜め部と、前記液溜め部の上部に配置された培地供給手段と、前記液溜め部の底部で連通された逆U字管と、前記逆U字管の他端の下部に設置された培地回収手段と、前記培地回収手段に配置された培地排出手段とを備え、ここで、前記ポリマー多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリマー多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、前記表面層A及びBにおける孔が前記マクロボイドに連通し、ここで、前記培地供給手段から前記液溜め部に供給された培地の液面が前記逆U字管の頂上部に達したとき、サイフォンの原理により培地が前記培地回収手段に間歇的に吐出されることを特徴とする、細胞培養装置である。当該装置において、ポリマー多孔質膜を細胞培養モジュールに置き換えて使用することが可能である。
【0029】
(2)筒型気相培養装置
本発明の細胞培養モジュールは、
図10、
図11及び
図21に示す、筒型気相培養装置において適用可能である。一実施形態において、筒型気相培養装置とは、ポリマー多孔質膜と、前記ポリマー多孔質膜が収容された細胞培養部と、前記細胞培養部の上部に配置された培地供給手段と、前記細胞培養部の下部に配置された培地回収手段と、を備え、ここで、前記ポリマー多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリマー多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、ここで、前記細胞培養部が、1以上の培地排出口を有する底部と、前記底部に略垂直に配置された側部とを備えた、細胞培養装置である。また、一実施形態において、筒型気相培養装置とは、ポリマー多孔質膜と、前記ポリマー多孔質膜が収容された細胞培養部と、前記細胞培養部の上部に配置された培地供給手段と、前記細胞培養部の下部に配置された培地回収手段と、を備え、ここで、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリマー多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、前記表面層A及びBにおける孔が前記マクロボイドに連通し、ここで、前記培地回収手段が、前記細胞培養部を収容する外筒の一部である、細胞培養装置である。当該装置において、ポリマー多孔質膜を細胞培養モジュールに置き換えて使用することが可能である。
【0030】
(3)ミスト及びシャワー型培養装置
本発明の細胞培養モジュールは、
図12に示す、ミスト及びシャワー型培養装置において適用可能である。ミスト及びシャワー型培養装置とは、
ポリマー多孔質膜と、前記ポリマー多孔質膜が載置されたポリマー多孔質膜載置部と、前記ポリマー多孔質膜載置部が収容された筐体と、前記筐体の内部に配置された液滴化培地供給部と、前記液滴化培地供給部と連通した培地供給ラインと、前記培地供給ラインに連通した培地貯留部と、前記培地供給ラインの一部に設けられたポンプと、
を備え、
ここで、前記ポリマー多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリマー多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、前記表面層A及びBにおける孔が前記マクロボイドに連通し、
ここで、前記ポリマー多孔質膜載置部が、スリット状又はメッシュ状の複数の培地排出口を備えた、細胞培養装置である。当該装置において、ポリマー多孔質膜を細胞培養モジュールに置き換えて使用することが可能である。
【0031】
(4)気相露出型回転培養装置
本発明の細胞培養モジュールは、
図13、14及び
図20に示す、回転培養装置において適用可能である。気相露出型回転培養装置とは、
ポリマー多孔質膜と、前記ポリマー多孔質膜を有する細胞培養部と、前記細胞培養部を貫通した軸と、前記軸を回転するための回転モータと、前記細胞培養部の少なくとも一部を浸漬する培地槽と、を備え、
ここで、前記ポリマー多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリマー多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、前記表面層A及びBにおける孔が前記マクロボイドに連通し、
前記軸を中心として前記細胞培養部が回転し、前記ポリマー多孔質膜に担持された細胞が気相及び液相において交互に培養されることを特徴とする、細胞培養装置である。当該装置において、ポリマー多孔質膜を細胞培養モジュールに置き換えて使用することが可能である。
【0032】
3.ポリマー多孔質膜
本発明で使用されるポリマー多孔質膜中の表面層A(以下で、「A面」又は「メッシュ面」とも呼ぶ)に存在する孔の平均孔径は、特に限定されないが、例えば、0.01μm以上200μm未満、0.01〜150μm、0.01〜100μm、0.01〜50μm、0.01μm〜40μm、0.01μm〜30μm、0.01μm〜20μm、又は0.01μm〜15μmであり、好ましくは、0.01μm〜15μmである。
【0033】
本発明で使用されるポリマー多孔質膜中の表面層B(以下で、「B面」又は「大穴面」とも呼ぶ)に存在する孔の平均孔径は、表面層Aに存在する孔の平均孔径よりも大きい限り特に限定されないが、例えば、5μm超200μm以下、20μm〜100μm、30μm〜100μm、40μm〜100μm、50μm〜100μm、又は60μm〜100μmであり、好ましくは、20μm〜100μmである。
【0034】
ポリマー多孔質膜表面の平均孔径は、多孔質膜表面の走査型電子顕微鏡写真より、200点以上の開孔部について孔面積を測定し、該孔面積の平均値から下式(1)に従って孔の形状が真円であるとした際の平均直径を計算より求めることができる。
【数1】
(式中、Saは孔面積の平均値を意味する。)
【0035】
表面層A及びBの厚さは、特に限定されないが、例えば0.01〜50μmであり、好ましくは0.01〜20μmである。
【0036】
ポリマー多孔質膜におけるマクロボイド層中のマクロボイドの膜平面方向の平均孔径は、特に限定されないが、例えば10〜500μmであり、好ましくは10〜100μmであり、より好ましくは10〜80μmである。また、当該マクロボイド層中の隔壁の厚さは、特に限定されないが、例えば0.01〜50μmであり、好ましくは、0.01〜20μmである。一の実施形態において、当該マクロボイド層中の少なくとも1つの隔壁は、隣接するマクロボイド同士を連通する、平均孔径0.01〜100μmの、好ましくは0.01〜50μmの、1つ又は複数の孔を有する。別の実施形態において、当該マクロボイド層中の隔壁は孔を有さない。
【0037】
本発明で使用されるポリマー多孔質膜表面の総膜厚は、特に限定されないが、5μm以上、10μm以上、20μm以上又は25μm以上であってもよく、500μm以下、300μm以下、100μm以下、75μm以下又は50μm以下であってもよい。好ましくは、5〜500μmであり、より好ましくは25〜75μmである。
【0038】
本発明で使用されるポリマー多孔質膜の膜厚の測定は、接触式の厚み計で行うことができる。
【0039】
本発明で使用されるポリマー多孔質膜の空孔率は特に限定されないが、例えば、40%以上95%未満である。
【0040】
本発明において用いられるポリマー多孔質膜の空孔率は、所定の大きさに切り取った多孔質フィルムの膜厚及び質量を測定し、目付質量から下式(2)に従って求めることができる。
【数2】
(式中、Sは多孔質フィルムの面積、dは総膜厚、wは測定した質量、Dはポリマーの密度をそれぞれ意味する。ポリマーがポリイミドである場合は、密度は1.34g/cm
3とする。)
【0041】
本発明において用いられるポリマー多孔質膜は、好ましくは、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリマー多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は0.01μm〜15μmであり、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径は20μm〜100μmであり、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、前記マクロボイド層の隔壁、並びに前記表面層A及びBの厚さは0.01〜20μmであり、前記表面層A及びBにおける孔がマクロボイドに連通しており、総膜厚が5〜500μmであり、空孔率が40%以上95%未満である、ポリマー多孔質膜である。一の実施形態において、マクロボイド層中の少なくとも1つの隔壁は、隣接するマクロボイド同士を連通する、平均孔径0.01〜100μmの、好ましくは0.01〜50μmの、1つ又は複数の孔を有する。別の実施形態において、隔壁は、そのような孔を有さない。
【0042】
本発明において用いられるポリマー多孔質膜は、滅菌されていることが好ましい。滅菌処理としては、特に限定されないが、乾熱滅菌、蒸気滅菌、エタノール等消毒剤による滅菌、紫外線やガンマ線等の電磁波滅菌等任意の滅菌処理などが挙げられる。
【0043】
本発明で使用されるポリマー多孔質膜は、上記した構造的特徴を備える限り、特に限定されないが、好ましくはポリイミド多孔質膜、又はポリエーテルスルホン(PES)多孔質膜である。
【0044】
3−1.ポリイミド多孔質膜
ポリイミドとは、繰り返し単位にイミド結合を含む高分子の総称であり、通常は、芳香族化合物が直接イミド結合で連結された芳香族ポリイミドを意味する。芳香族ポリイミドは芳香族と芳香族とがイミド結合を介して共役構造を持つため、剛直で強固な分子構造を持ち、かつ、イミド結合が強い分子間力を持つために非常に高いレベルの熱的、機械的、化学的性質を有する。
【0045】
本発明で使用され得るポリイミド多孔質膜は、好ましくは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを(主たる成分として)含むポリイミド多孔質膜であり、より好ましくはテトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドからなるポリイミド多孔質膜である。「主たる成分として含む」とは、ポリイミド多孔質膜の構成成分として、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミド以外の成分は、本質的に含まない、あるいは含まれていてもよいが、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドの性質に影響を与えない付加的な成分であることを意味する。
【0046】
一実施形態において、本発明で使用され得るポリイミド多孔質膜は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理することにより得られる着色したポリイミド多孔質膜も含まれる。
【0047】
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを重合して得られる。ポリアミック酸は、熱イミド化又は化学イミド化することにより閉環してポリイミドとすることができるポリイミド前駆体である。
【0048】
ポリアミック酸は、アミック酸の一部がイミド化していても、本発明に影響を及ぼさない範囲であればそれを用いることができる。すなわち、ポリアミック酸は、部分的に熱イミド化又は化学イミド化されていてもよい。
【0049】
ポリアミック酸を熱イミド化する場合は、必要に応じて、イミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子、有機微粒子等の微粒子等をポリアミック酸溶液に添加することができる。また、ポリアミック酸を化学イミド化する場合は、必要に応じて、化学イミド化剤、脱水剤、無機微粒子、有機微粒子等の微粒子等をポリアミック酸溶液に添加することができる。ポリアミック酸溶液に前記成分を配合しても、着色前駆体が析出しない条件で行うことが好ましい。
【0050】
本明細書において、「着色前駆体」とは、250℃以上の熱処理により一部または全部が炭化して着色化物を生成する前駆体を意味する。
【0051】
上記ポリイミド多孔質膜の製造において使用され得る着色前駆体としては、ポリアミック酸溶液又はポリイミド溶液に均一に溶解または分散し、250℃以上、好ましくは260℃以上、更に好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上の熱処理、好ましくは空気等の酸素存在下での250℃以上、好ましくは260℃以上、更に好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上の熱処理により熱分解し、炭化して着色化物を生成するものが好ましく、黒色系の着色化物を生成するものがより好ましく、炭素系着色前駆体がより好ましい。
【0052】
着色前駆体は、加熱していくと一見炭素化物に見えるものになるが、組織的には炭素以外の異元素を含み、層構造、芳香族架橋構造、四面体炭素を含む無秩序構造のものを含む。
【0053】
炭素系着色前駆体は特に制限されず、例えば、石油タール、石油ピッチ、石炭タール、石炭ピッチ等のタール又はピッチ、コークス、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体、フェロセン化合物(フェロセン及びフェロセン誘導体)等が挙げられる。これらの中では、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体及び/又はフェロセン化合物が好ましく、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体としてはポリアクリルニトリルが好ましい。
【0054】
また、別の実施形態において、本発明で使用され得るポリイミド多孔質膜は、上記の着色前駆体を使用せずに、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られるポリアミック酸溶液を成形した後、熱処理することにより得られる、ポリイミド多孔質膜も含まれる。
【0055】
着色前駆体を使用せずに製造されるポリイミド多孔質膜は、例えば、極限粘度数が1.0〜3.0であるポリアミック酸3〜60質量%と有機極性溶媒40〜97質量%とからなるポリアミック酸溶液をフィルム状に流延し、水を必須成分とする凝固溶媒に浸漬又は接触させて、ポリアミック酸の多孔質膜を作製し、その後当該ポリアミック酸の多孔質膜を熱処理してイミド化することにより製造されてもよい。この方法において、水を必須成分とする凝固溶媒が、水であるか、又は5質量%以上100質量%未満の水と0質量%を超え95質量%以下の有機極性溶媒との混合液であってもよい。また、上記イミド化の後、得られた多孔質ポリイミド膜の少なくとも片面にプラズマ処理を施してもよい。
【0056】
上記ポリイミド多孔質膜の製造において使用され得るテトラカルボン酸二無水物は、任意のテトラカルボン酸二無水物を用いることができ、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物の具体例として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)などのビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等を挙げることができる。また、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸等の芳香族テトラカルボン酸を用いることも好ましい。これらは単独でも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0057】
これらの中でも、特に、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。ビフェニルテトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を好適に用いることができる。
【0058】
上記ポリイミド多孔質膜の製造において使用され得るジアミンは、任意のジアミンを用いることができる。ジアミンの具体例として、以下のものを挙げることができる。
1)1,4−ジアミノベンゼン(パラフェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエンなどのベンゼン核1つのべンゼンジアミン;
2)4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシドなどのベンゼン核2つのジアミン;
3)1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−4−トリフルオロメチルベンゼン、3,3’−ジアミノ−4−(4−フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジ(4−フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(3−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼンなどのベンゼン核3つのジアミン;
4)3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンなどのベンゼン核4つのジアミン。
【0059】
これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。用いるジアミンは、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。
【0060】
これらの中でも、芳香族ジアミン化合物が好ましく、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミン、1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンを好適に用いることができる。特に、ベンゼンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル及びビス(アミノフェノキシ)フェニルからなる群から選ばれる少なくとも一種のジアミンが好ましい。
【0061】
本発明で使用され得るポリイミド多孔質膜は、耐熱性、高温下での寸法安定性の観点から、ガラス転移温度が240℃以上であるか、又は300℃以上で明確な転移点がないテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを組み合わせて得られるポリイミドから形成されていることが好ましい。
【0062】
本発明で使用され得るポリイミド多孔質膜は、耐熱性、高温下での寸法安定性の観点から、以下の芳香族ポリイミドからなるポリイミド多孔質膜であることが好ましい。
(i)ビフェニルテトラカルボン酸単位及びピロメリット酸単位からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸単位と、芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド、
(ii)テトラカルボン酸単位と、ベンゼンジアミン単位、ジアミノジフェニルエーテル単位及びビス(アミノフェノキシ)フェニル単位からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド、
及び/又は、
(iii)ビフェニルテトラカルボン酸単位及びピロメリット酸単位からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸単位と、ベンゼンジアミン単位、ジアミノジフェニルエーテル単位及びビス(アミノフェノキシ)フェニル単位からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド。
【0063】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜は、好ましくは、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリイミド多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は0.01μm〜15μmであり、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径は20μm〜100μmであり、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、前記マクロボイド層の隔壁、並びに前記表面層A及びBの厚さは0.01〜20μmであり、前記表面層A及びBにおける孔がマクロボイドに連通しており、総膜厚が5〜500μmであり、空孔率が40%以上95%未満である、ポリイミド多孔質膜である。ここで、マクロボイド層中の少なくとも1つの隔壁は、隣接するマクロボイド同士を連通する、平均孔径0.01〜100μmの、好ましくは0.01〜50μmの、1つ又は複数の孔を有する。
【0064】
例えば、国際公開第2010/038873号、特開2011−219585号公報、又は特開2011−219586号公報に記載されているポリイミド多孔質膜も、本発明に使用可能である。
【0065】
3−2.ポリエーテルスルホン(PES)多孔質膜
本発明で使用され得るPES多孔質膜は、ポリエーテルスルホンを含み、典型的には実質的にポリエーテルスルホンからなる。ポリエーテルスルホンは当業者に公知の方法で合成されたものであってよく、例えば、二価フェノール、アルカリ金属化合物及びジハロゲノジフェニル化合物を有機極性溶媒中で重縮合反応させる方法、二価フェノールのアルカリ金属二塩を予め合成しジハロゲノジフェニル化合物と有機極性溶媒中で重縮合反応させる方法等によって製造できる。
【0066】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属水素化物、アルカリ金属アルコキシド等が挙げられる。特に、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムが好ましい。
【0067】
二価フェノール化合物としては、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、4,4’−ビフェノール、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類(例えば2,2−ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン、及び2,2−ビス(ヒドロキシフェニル)メタン)、ジヒドロキシジフェニルスルホン類、ジヒドロキシジフェニルエーテル類、又はそれらのベンゼン環の水素の少なくとも1つが、メチル基、エチル基、プロピル基等の低級アルキル基、又はメトキシ基、エトキシ基等の低級アルコキシ基で置換されたものが挙げられる。二価フェノール化合物としては、上記の化合物を二種類以上混合して用いることができる。
【0068】
ポリエーテルスルホンは市販品であってもよい。市販品の例としては、スミカエクセル7600P、スミカエクセル5900P(以上、住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0069】
ポリエーテルスルホンの対数粘度は、多孔質ポリエーテルスルホン膜のマクロボイドを良好に形成する観点で、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.55以上であり、多孔質ポリエーテルスルホン膜の製造容易性の観点から、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.9以下、更に好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.75以下である。
【0070】
また、PES多孔質膜、又はその原料としてのポリエーテルスルホンは、耐熱性、高温下での寸法安定性の観点から、ガラス転移温度が、200℃以上であるか、又は明確なガラス転移温度が観察されないことが好ましい。
【0071】
本発明で使用され得るPES多孔質膜の製造方法は特に限定されないが、例えば、
対数粘度0.5〜1.0のポリエーテルスルホンの0.3質量%〜60質量%と有機極性溶媒40質量%〜99.7質量%とを含むポリエーテルスルホン溶液を、フィルム状に流延し、ポリエーテルスルホンの貧溶媒又は非溶媒を必須成分とする凝固溶媒に浸漬又は接触させて、空孔を有する凝固膜を作製する工程、及び
前記工程で得られた空孔を有する凝固膜を熱処理して前記空孔を粗大化させて、PES多孔質膜を得る工程
を含み、前記熱処理は、前記空孔を有する凝固膜を、前記ポリエーテルスルホンのガラス転移温度以上、若しくは240℃以上まで昇温させることを含む、方法で製造されてもよい。
【0072】
本発明で使用され得るPES多孔質膜は、好ましくは、表面層A、表面層B、及び前記表面層Aと前記表面層Bとの間に挟まれたマクロボイド層、を有するPES多孔質膜であって、
前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた、膜平面方向の平均孔径が10μm〜500μmである複数のマクロボイドとを有し、
前記マクロボイド層の隔壁は、厚さが0.1μm〜50μmであり、
前記表面層A及びBはそれぞれ、厚さが0.1μm〜50μmであり、
前記表面層A及びBのうち、一方が平均孔径5μm超200μm以下の複数の細孔を有し、かつ他方が平均孔径0.01μm以上200μm未満の複数の細孔を有し、
表面層A及び表面層Bの、一方の表面開口率が15%以上であり、他方の表面層の表面開口率が10%以上であり、
前記表面層A及び前記表面層Bの前記細孔が前記マクロボイドに連通しており、
前記PES多孔質膜は、総膜厚が5μm〜500μmであり、かつ空孔率が50%〜95%である、
PES多孔質膜である。
【0073】
4.細胞培養モジュールを用いた細胞培養方法
【0074】
本発明の一態様は、
(1)懸濁された細胞を含む第1培地に、細胞培養モジュールに適用する工程、
(2)細胞培養可能な温度に維持し、前記細胞培養モジュールへ前記細胞を吸着させる工程、及び、
(3)前記細胞を吸着させた前記細胞培養モジュールを、培養容器中で、第2培地にて培養する工程、
を含み、
ここで、細胞培養モジュールが、
ポリマー多孔質膜と、
2以上の培地流出入口を有し、前記ポリマー多孔質膜が収容されたケーシングと、を備えた細胞培養モジュールであって、
ここで、前記ポリマー多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリマー多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、
ここで、前記ケーシング内に
(i)2以上の独立した前記ポリマー多孔質膜が、集約されて、
(ii)前記ポリマー多孔質膜が、折り畳まれて、
(iii)前記ポリマー多孔質膜が、ロール状に巻き込まれて、及び/又は、
(iv)前記ポリマー多孔質膜が、縄状に結ばれて、
収容されていて、
ここで、前記第2培地が、界面活性剤を含まない、細胞の培養方法に関する。本発明の細胞の培養方法を、以下で、「本発明の細胞の培養方法」とも呼ぶ。
【0075】
本発明に利用し得る細胞の種類は、例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母菌及び細菌からなる群から選択される。動物細胞は、脊椎動物門に属する動物由来の細胞と無脊椎動物(脊椎動物門に属する動物以外の動物)由来の細胞とに大別される。本明細書における、動物細胞の由来は特に限定されない。好ましくは、脊椎動物門に属する動物由来の細胞を意味する。脊椎動物門は、無顎上綱と顎口上綱を含み、顎口上綱は、哺乳綱、鳥綱、両生綱、爬虫綱などを含む。好ましくは、一般に、哺乳動物と言われる哺乳綱に属する動物由来の細胞である。哺乳動物は、特に限定されないが、好ましくは、マウス、ラット、ヒト、サル、ブタ、イヌ、ヒツジ、ヤギなどを含む。
【0076】
本発明に利用しうる動物細胞の種類は、限定されるわけではないが、好ましくは、多能性幹細胞、組織幹細胞、体細胞、及び生殖細胞からなる群から選択される。
【0077】
本明細書において「多能性幹細胞」とは、あらゆる組織の細胞へと分化する能力(分化多能性)を有する幹細胞の総称することを意図する。限定されるわけではないが、多能性幹細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、生殖幹細胞(GS細胞)等を含む。好ましくは、ES細胞又はiPS細胞である。iPS細胞は倫理的な問題もない等の理由により特に好ましい。多能性幹細胞としては公知の任意のものを使用可能であるが、例えば、国際公開第2009/123349号(PCT/JP2009/057041)に記載の多能性幹細胞を使用可能である。
【0078】
「組織幹細胞」とは、分化可能な細胞系列が特定の組織に限定されているが、多様な細胞種へ分化可能な能力(分化多能性)を有する幹細胞を意味する。例えば骨髄中の造血幹細胞は血球のもととなり、神経幹細胞は神経細胞へと分化する。このほかにも肝臓をつくる肝幹細胞、皮膚組織になる皮膚幹細胞などさまざまな種類がある。好ましくは、組織幹細胞は、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、神経幹細胞、皮膚幹細胞、又は造血幹細胞から選択される。
【0079】
「体細胞」とは、多細胞生物を構成する細胞のうち生殖細胞以外の細胞のことを言う。有性生殖においては次世代へは受け継がれない。好ましくは、体細胞は、肝細胞、膵細胞、筋細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、線維芽細胞、膵細胞、腎細胞、肺細胞、又は、リンパ球、赤血球、白血球、単球、マクロファージ若しくは巨核球の血球細胞から選択される。
【0080】
「生殖細胞」は、生殖において遺伝情報を次世代へ伝える役割を持つ細胞を意味する。例えば、有性生殖のための配偶子、即ち卵子、卵細胞、精子、精細胞、無性生殖のための胞子などを含む。
【0081】
細胞は、肉腫細胞、株化細胞及び形質転換細胞からなる群から選択してもよい。「肉腫」とは、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血液等の非上皮性細胞由来の結合組織細胞に発生する癌で、軟部肉腫、悪性骨腫瘍などを含む。肉腫細胞は、肉腫に由来する細胞である。「株化細胞」とは、長期間にわたって体外で維持され、一定の安定した性質をもつに至り、半永久的な継代培養が可能になった培養細胞を意味する。PC12細胞(ラット副腎髄質由来)、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来)、HEK293細胞(ヒト胎児腎臓由来)、HL−60細胞(ヒト白血球細胞由来)、HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)、Vero細胞(アフリカミドリザル腎臓上皮細胞由来)、MDCK細胞(イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来)、HepG2細胞(ヒト肝癌由来細胞株)、BHK細胞(新生児ハムスター腎臓細胞)、NIH3T3細胞(マウス胎児線維芽細胞由来)などヒトを含む様々な生物種の様々な組織に由来する細胞株が存在する。「形質転換細胞」は、細胞外部から核酸(DNA等)を導入し、遺伝的性質を変化させた細胞を意味する。
【0082】
本明細書において、「接着細胞」とは、一般に、増殖のために適切な表面に自身を接着させる必要がある細胞であって、付着細胞又は足場依存性細胞ともいわれる。本発明のいくつかの実施形態では、使用する細胞は接着細胞である。本発明に用いられる細胞は、接着細胞であって、より好ましくは、培地中に懸濁した状態でも培養可能な細胞である。懸濁培養可能な接着細胞とは、公知の方法によって、接着細胞を懸濁培養に適した状態へ馴化させることによって得ることが可能であり、例えば、CHO細胞、HEK293細胞、Vero細胞、NIH3T3細胞などや、これらの細胞から派生して得られた細胞株が挙げられる。ここに挙げられないものであっても、本発明に用いられる細胞は、接着細胞であって、馴化によって懸濁培養可能な細胞であれば、特に限定されない。
【0083】
ポリマー多孔質膜を用いた細胞培養のモデル図を
図7に示す。
図7は理解を助けるための図であり、各要素は実寸ではない。本発明の細胞の培養方法では、ポリマー多孔質膜に細胞を適用し、培養することにより、ポリマー多孔質膜の有する内部の多面的な連結多孔部分や表面に、大量の細胞が生育するため、大量の細胞を簡便に培養することが可能となる。また、本発明の細胞の培養方法では、細胞培養に用いる培地の量を従来の方法よりも大幅に減らしつつ、大量の細胞を培養することが可能となる。例えば、ポリマー多孔質膜の一部分又は全体が、細胞培養培地の液相と接触していない状態であっても、大量の細胞を長期にわたって培養することができる。また、細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積の総和に対して、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積を著しく減らすことも可能となる。
【0084】
本明細書において、細胞を含まないポリマー多孔質膜がその内部間隙の体積も含めて空間中に占める体積を「見かけ上ポリマー多孔質膜体積」と呼称する(
図7参照)。そして、ポリマー多孔質膜に細胞を適用し、ポリマー多孔質膜の表面及び内部に細胞が担持された状態において、ポリマー多孔質膜、細胞、及びポリマー多孔質膜内部に浸潤した培地が全体として空間中に占める体積を「細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積」と呼称する(
図1参照)。膜厚25μmのポリマー多孔質膜の場合、細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積は、見かけ上ポリマー多孔質膜体積より、最大で50%程度大きな値となる。本発明の方法では、1つの細胞培養容器中に複数のポリマー多孔質膜を収容して培養することができるが、その場合、細胞を担持した複数のポリマー多孔質膜のそれぞれについての細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積の総和を、単に「細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積の総和」と記載することがある。
【0085】
本発明の方法を用いることにより、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積の総和の10000倍又はそれより少ない条件でも、細胞を長期にわたって良好に培養することが可能となる。また、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積の総和の1000倍又はそれより少ない条件でも、細胞を長期にわたって良好に培養することができる。さらに、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積の総和の100倍又はそれより少ない条件でも、細胞を長期にわたって良好に培養することができる。そして、細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地の総体積が、細胞生存域を含むポリマー多孔質膜体積の総和の10倍又はそれより少ない条件でも、細胞を長期にわたって良好に培養することができる。
【0086】
つまり、本発明によれば、細胞培養する空間(容器)を従来の二次元培養を行う細胞培養装置に比べて極限まで小型化可能となる。また、培養する細胞の数を増やしたい場合は、積層するポリマー多孔質膜の枚数を増やす等の簡便な操作により、柔軟に細胞培養する体積を増やすことが可能となる。本発明に用いられるポリマー多孔質膜を備えた細胞培養装置であれば、細胞を培養する空間(容器)と細胞培養培地を貯蔵する空間(容器)とを分離することが可能となり、培養する細胞数に応じて、必要となる量の細胞培養培地を準備することが可能となる。細胞培養培地を貯蔵する空間(容器)は、目的に応じて大型化又は小型化してもよく、あるいは取り替え可能な容器であってもよく、特に限定されない。
【0087】
本発明の細胞の培養方法において、例えば、ポリマー多孔質膜を用いた培養後に細胞培養容器中に含まれる細胞の数が、細胞がすべて細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地に均一に分散しているものとして、培地1ミリリットルあたり1.0×10
5個以上、1.0×10
6個以上、2.0×10
6個以上、5.0×10
6個以上、1.0×10
7個以上、2.0×10
7個以上、5.0×10
7個以上、1.0×10
8個以上、2.0×10
8個以上、5.0×10
8個以上、1.0×10
9個以上、2.0×10
9個以上、または5.0×10
9個以上となるまで培養することをいう。
【0088】
なお、培養中または培養後の細胞数を計測する方法としては、種々の公知の方法を用いることができる。例えば、ポリマー多孔質膜を用いた培養後に細胞培養容器中に含まれる細胞の数を、細胞がすべて細胞培養容器中に含まれる細胞培養培地に均一に分散しているものとして計測する方法としては、公知の方法を適宜用いることができる。例えば、CCK8を用いた細胞数計測法を好適に用いることができる。具体的には、Cell Countinig Kit8;同仁化学研究所製溶液試薬(以下、「CCK8」と記載する。)を用いて、ポリマー多孔質膜を用いない通常の培養における細胞数を計測し、吸光度と実際の細胞数との相関係数を求める。その後、細胞を適用し、培養したポリマー多孔質膜を、CCK8を含む培地に移し、1〜3時間インキュベータ内で保存し、上清を抜き出して480nmの波長にて吸光度を測定して、先に求めた相関係数から細胞数を計算する。
【0089】
また、別の観点からは、細胞の大量培養とは、例えば、ポリマー多孔質膜を用いた培養後にポリマー多孔質膜1平方センチメートルあたりに含まれる細胞数が1.0×105個以上、2.0×10
5個以上、1.0×10
6個以上、2.0×10
6個以上、5.0×10
6個以上、1.0×10
7個以上、2.0×10
7個以上、5.0×10
7個以上、1.0×10
8個以上、2.0×10
8個以上、または5.0×10
8個以上となるまで培養することをいう。ポリマー多孔質膜1平方センチメートルあたりに含まれる細胞数は、セルカウンター等の公知の方法を用いて適宜計測することが可能である。
【0090】
本明細書において、「懸濁された細胞」とは、例えば、トリプシン等のタンパク質分解酵素によって、接着細胞を強制的に浮遊させて培地中に懸濁して得られた細胞や、上述の馴化工程によって培地中に浮遊培養可能となった細胞などを含んでいる。
【0091】
本明細書において、「培地」とは、細胞、特に動物細胞を培養するための細胞培養培地のことを指す。培地は、細胞培養液と同義の意味として用いられる。そのため、本発明において用いられる培地とは、液体培地のことを指す。培地の種類は、通常使用される培地を使用することが可能であり、培養する細胞の種類によって適宜決定される。
【0092】
本発明の細胞の培養方法において、該工程(1)で用いられる第1培地は、細胞を培養できる培地であれば特に限定されないが、例えば、CHO細胞を培養する場合であれば、JXエネルギー製BalanCD(商標) CHO GROWTH Aを用いることができる。
【0093】
本発明の細胞の培養方法において、該工程(2)の細胞培養可能な温度とは、細胞が細胞培養モジュールに吸着可能な温度であればよく、10℃〜45℃、好ましくは、15℃〜42℃、より好ましくは20℃〜40℃、さらに好ましくは25℃〜39℃である。また、本発明の細胞の培養方法において、該工程(2)の細胞を吸着させる時間は、例えば、5分〜24時間、好ましくは10分〜12時間、より好ましくは15分〜500分である。
【0094】
本発明の細胞の培養方法において、該工程(2)は、振盪及び/又は攪拌しながら、該細胞培養モジュールの該ポリマー多孔質膜へ細胞を吸着させてもよく、静置して該細胞培養モジュールの該ポリマー多孔質膜へ細胞を吸着させてもよい。振盪する方法は特に限定されないが、例えば、市販の振盪装置上に、本発明の細胞培養モジュールと細胞とを含む培養容器を載置し、振盪してもよい。振盪は、継続的又は断続的に行ってもよく、例えば、振盪と静置を交互に繰り返してもよく、適宜調整すればよい。攪拌する方法は特に限定されないが、例えば、本発明の細胞培養モジュールと細胞とを市販のスピナーフラスコ内に入れ、スターラーを回転させることで攪拌してもよい。攪拌は、継続的又は断続的に行ってもよく、例えば、攪拌と静置を交互に繰り返してもよく、適宜調整すればよい。
【0095】
本発明の細胞の培養方法において、該工程(3)で用いられる第2培地は、接着細胞の培養に用いられる培地が選択され、例えば、D−MEM、E−MEM、IMDM、Ham’s F−12などを用いることができるが、これに限定されない。第2培地は、細胞が基材へ接着するのを阻害する成分、例えば、界面活性剤が含まれない培地が好ましい。使用される第2培地は、細胞の種類によって適宜選択される。該工程(3)において、第2培地で培養することで、該工程(2)でポリマー多孔質膜に吸着された細胞が、該ポリマー多孔性膜内に接着することを促進する。これによって、細胞が該ポリマー多孔質膜から脱落することなく安定的に培養可能である。また、本発明の細胞の培養方法は、前述のポリマー多孔質膜を備えた細胞培養モジュールを使用する。本発明の細胞の培養方法で用いられる細胞培養モジュールは、ポリマー多孔質膜がケーシングに収容されていることによって、膜状のポリマー多孔質膜がケーシング内で継続的に形態が変形することが防止されている。これによって、ポリマー多孔質膜内で生育される細胞にストレスが加えられることが防止され、アポトーシス等が抑制されて安定的かつ大量の細胞を培養することが可能となる。
【0096】
本発明の細胞の培養方法において、該工程(3)は、細胞を培養する培養装置及びシステム等であれば、市販のものを適用することが可能である。例えば、培養容器が可撓性バッグ型培養容器であってもよく、また、攪拌型培養容器、例えばスピナーフラスコ等の培養容器で培養することも可能である。その他、培養容器としては、開放容器にも適用可能であり、閉鎖容器にも適用可能である。例えば、細胞培養用のシャーレ、フラスコ、プラスチックバッグ、試験管から大型のタンクまで適宜利用可能である。例えば、BD Falcon社製のセルカルチャーディッシュやサーモサイエンティフィック社製のNunc セルファクトリー等が含まれる。また、の細胞の培養方法において、細胞培養モジュールを用いることにより、生来浮遊培養が可能でなかった細胞についても浮遊培養向け装置にて、浮遊培養類似状態での培養を行うことが可能となる。浮遊培養用の装置としては、例えば、コーニング社製のスピナーフラスコや回転培養等が使用可能である。また、該工程(3)は、本明細書に記載の細胞培養装置で実施してもよい。
【0097】
本発明の細胞の培養方法において、該工程(3)は、該細胞培養モジュールを含む培養容器に連続的に培地を添加し回収するような連続循環型の装置を用いて実行することも可能である。
【0098】
本発明の細胞の培養方法において、該工程(3)は、該細胞培養モジュールを含む培養容器の外に設置された細胞培養培地供給手段から連続的又は間歇的に細胞培養培地が細胞培養容器中に供給される系であってもよい。その際、細胞培養培地が細胞培養培地供給手段と細胞培養容器との間を循環する系とすることができる。
【0100】
本発明の一態様は、
(1)懸濁された細胞を含む第1培地に、ポリマー多孔質膜を適用する工程、
(2)細胞培養可能な温度に維持し、前記ポリマー多孔質膜へ前記細胞を吸着させる工程、
を含み、
ここで、前記ポリマー多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリマー多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有する、懸濁された細胞の除去方法に関する。本発明の細胞の除去方法を、以下で、「本発明の細胞の除去方法」とも呼ぶ。
【0101】
本発明の細胞の除去方法において使用されるポリマー多孔質膜は、前述のポリマー多孔質膜を使用することができる。該ポリマー多孔質膜は、前述の細胞培養モジュールであってもよく、ケーシングに収容されていないポリマー多孔質膜であってもよい。
【0102】
本発明の細胞の培養方法において、該工程(1)で用いられる第1培地は、細胞を培養できる培地であれば特に限定されないが、例えば、CHO細胞を培養する場合であれば、JXエネルギー製BalanCD(商標) CHO GROWTH Aを用いることができる。
【0103】
本発明の細胞の除去方法において、該工程(2)の細胞培養可能な温度とは、細胞が細胞培養モジュールに吸着可能な温度であればよく、10℃〜45℃、好ましくは、15℃〜42℃、より好ましくは20℃〜40℃、さらに好ましくは25℃〜39℃である。また、本発明の細胞の培養方法において、該工程(2)の細胞を吸着させる時間は、例えば、5分〜24時間、好ましくは10分〜12時間、より好ましくは15分〜500分である。
【0104】
本発明の細胞の除去方法において、該工程(2)は、振盪及び/又は攪拌しながら、該細胞培養モジュールの該ポリマー多孔質膜へ細胞を吸着させてもよく、静置して該細胞培養モジュールの該ポリマー多孔質膜へ細胞を吸着させてもよい。振盪する方法は特に限定されないが、例えば、市販の振盪装置上に、本発明の細胞培養モジュールと細胞とを含む培養容器を載置し、振盪してもよい。振盪は、継続的又は断続的に行ってもよく、例えば、振盪と静置を交互に繰り返してもよく、適宜調整すればよい。攪拌する方法は特に限定されないが、例えば、本発明の細胞培養モジュールと細胞とを市販のスピナーフラスコ内に入れ、スターラーを回転させることで攪拌してもよい。攪拌は、継続的又は断続的に行ってもよく、例えば、攪拌と静置を交互に繰り返してもよく、適宜調整すればよい。
【0105】
本発明の細胞の除去方法によって、従来は、細胞を含む培地から細胞を除去するためには、遠心分離処理やフィルターによる処理を行うなどの操作が必要であった。本発明の方法によれば、フィルター等を用いることなく、培地から細胞を除去可能することが可能となる。
【0107】
本発明の一態様は、
(1)懸濁された細胞を含む第1培地に、ポリマー多孔質膜を適用する工程、
(2)細胞培養可能な温度に維持し、前記ポリマー多孔質膜へ前記細胞を吸着させる工程、及び、
(3)前記細胞を吸着させた前記ポリマー多孔質膜を培養容器中の第2培地に浮遊させて、前記ポリマー多孔質膜を継続的に形態変化させて培養する工程、
を含み、
ここで、前記ポリマー多孔質膜が、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、前記表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリマー多孔質膜であって、ここで前記表面層Aに存在する孔の平均孔径は、前記表面層Bに存在する孔の平均孔径よりも小さく、前記マクロボイド層は、前記表面層A及びBに結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層A及びBに囲まれた複数のマクロボイドとを有し、前記表面層A及びBにおける孔が前記マクロボイドに連通し、ここで、前記第2培地が、界面活性剤を含まない、懸濁された細胞を死滅させる方法に関する。本発明の細胞を死滅させる方法を、以下で、「本発明の細胞の死滅方法」とも呼ぶ。
【0108】
本発明の細胞の死滅方法で使用されるポリマー多孔質膜は上述と同様である。本発明の細胞の死滅方法で使用される、該ポリマー多孔質膜は、前述の細胞培養モジュール及び細胞の培養方法とは異なり、ケーシングに収容されていないポリマー多孔質膜である。
【0109】
本発明の細胞の死滅方法において、該工程(1)で用いられる第1培地は、細胞を培養できる培地であれば特に限定されないが、例えば、CHO細胞を培養する場合であれば、JXエネルギー製BalanCD(商標) CHO GROWTH Aを用いることができる。
【0110】
本発明の細胞の死滅方法において、該工程(2)の細胞培養可能な温度とは、細胞がポリマー多孔質膜に吸着可能な温度であればよく、10℃〜45℃、好ましくは、15℃〜42℃、より好ましくは20℃〜40℃、さらに好ましくは25℃〜39℃である。また、本発明の細胞の死滅方法において、該工程(2)の細胞を吸着させる時間は、例えば、5分〜24時間、好ましくは10分〜12時間、より好ましくは15分〜500分である。
【0111】
本発明の細胞の死滅方法において、(3)前記細胞を吸着させた前記ポリマー多孔質膜を培養容器中の第2培地に浮遊させて、前記ポリマー多孔質膜を継続的に形態変化させて培養する工程、を含むことにより、該ポリマー多孔質膜内の細胞がアポトーシス等によって死滅する。本発明の細胞の培養方法において、該工程(3)で用いられる第2培地は、接着細胞の培養に用いられる培地が選択され、例えば、D−MEM、E−MEM、IMDM、Ham’s F−12などを用いることができるが、これに限定されない。第2培地は、細胞が基材へ接着するのを阻害する成分、例えば、界面活性剤が含まれない培地が好ましい。使用される第2培地は、細胞の種類によって適宜選択される。該工程(3)において、第2培地で培養することで、該工程(2)でポリマー多孔質膜に吸着された細胞が、該ポリマー多孔性膜内に接着することを促進する。
【0112】
本発明の細胞の死滅方法において該工程(3)は、任意の温度であってもよく、10℃〜45℃、好ましくは、15℃〜42℃、より好ましくは20℃〜40℃、さらに好ましくは25℃〜39℃である。本発明の細胞の死滅方法は、従来の細胞を死滅させる方法、特に、細胞膜を破壊する方法で用いられる界面活性剤等を用いることなく、細胞を破壊することが可能となる。
【実施例】
【0113】
以下、本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明する。なお本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0114】
以下の実施例で使用されたポリイミド多孔質膜は、テトラカルボン酸成分である3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)とジアミン成分である4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)とから得られるポリアミック酸溶液と、着色前駆体であるポリアクリルアミドとを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理することにより、調製された。得られたポリイミド多孔質膜は、複数の孔を有する表面層A及び表面層Bと、当該表面層A及び表面層Bの間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造のポリイミド多孔質膜であり、表面層Aに存在する孔の平均孔径は6μmであり、表面層Bに存在する孔の平均孔径は46μmであり、膜厚が25μmであり、空孔率が73%であった。
【0115】
(実施例1)
バッグ型モジュールリアクターを用いた細胞培養
【0116】
抗ヒトIL−8抗体産生CHO−DP12細胞(ATCC CRL−12445)を馴化・浮遊化した細胞を、培地(BalanCD(商標)CHO Growth A)を用いて浮遊培養し、1mlあたりの生細胞数が、1.6×10
6になるまで培養を継続した。ボックス型モジュール(
図8)を用意し、以下の様な組み合わせで、滅菌的に25μmポリイミド多孔質膜をモジュール内に据え付け、ボックスの蓋部分を溶着してモジュールの準備を完了した。各実験の構成を表1に示す。尚、使用したポリイミド多孔質膜のサイズは、1.5×1.5cmである。
【0117】
【表1】
【0118】
振盪培養向け酸素透過バッグにモジュールを表1に記載の通り1〜3個を入れ、CO
2インキュベータ内で終夜振盪培養を行った。翌日、各振盪バッグより細胞を含む培地液を排出し、細胞数をカウントした。各実験の細胞回収結果を以下の表2に示す。ポリイミド多孔質膜のシート面積及び集積状況によって付着細胞数が変化する事を確認した。
【0119】
【表2】
【0120】
新たな培地を20ml注加し、CO
2インキュベータ内で振盪培養を継続した。2〜3日に一回培地交換を実施し、適宜、Cell Countinig Kit8;同仁化学研究所製溶液試薬(以下、「CCK8」と記載する。)による比色定量法で細胞数を確認し、HPLC法にて抗体産生量を確認した。培地は清澄な状態を維持していた。懸濁液除去から6日目と8日目の培養結果を表3及び表4に示す。何れも、培地量は20mlであった。培地は2%のFBSを加えたIMDMを使用した。
【0121】
【表3】
【0122】
【表4】
【0123】
この後、培養9日目より培地量を20mlから40mlに変更し、更に10日間、合計で19日間、実験1〜5のそれぞれの培養を継続した。19日目に培養バッグを解体し、それぞれのモジュールを1つのバッグに集積させて、40mlの培地を加え、CO
2インキュベータ内で振盪培養を実行した。1時間程度で培地のpH低下が観測される為(
図5)、1時間に1回ずつ、0.5モル水酸化ナトリウムと45%グルコースを注加して、6時間培養した。培養実施後、培養液を回収してCCK8による比色定量法で細胞数を確認し、HPLC法にて抗体産生量を確認した。細胞密度は1平方センチメートルあたり4.7×10
5個であり、総細胞数は1.9×10
8個であり、一日当りに換算した抗体産生量は55mg/L/dayであった。
【0124】
(実施例2)
サイフォン式培養装置によるポリイミド多孔質膜を用いた細胞培養法
【0125】
抗ヒトIL−8抗体産生CHO−DP12細胞(ATCC CRL−12445)を馴化・浮遊化した細胞を、培地(BalanCD(商標) CHO GROWTH A)を用いて浮遊培養し、1mlあたりの生細胞数が、3.9×10
6になるまで培養を継続した。10cm径シャーレ1枚に上記浮遊培養液を夫々12ml注加した後、ナイロンメッシュ(30#、目開き547μm)にて外套を形成し、滅菌的にポリイミド多孔質膜を一定量(1モジュールあたり20cm
2)加えて封じたモジュール12個を同シャーレに加えた。モジュールを細胞懸濁液で湿潤した後、CO2インキュベータ内で終夜放置した。
【0126】
翌日、モジュールを取り出し、
図9に示すサイフォン式細胞培養装置のステージ部分にモジュール10個を設置し、液溜めには、350mlの培地を(FBS2%を含むIMDM)貯留し、同培地をチューブポンプ経由で毎分60mlの速度で循環させた。2日後に培養を終了した。細胞密度5.5×10
4Cells/cm
2で総細胞数1.2×10
7個の細胞が観察された。
【0127】
(実施例3)
サイフォン式培養装置によるポリイミド多孔質膜を用いた細胞培養法
【0128】
抗ヒトIL−8抗体産生CHO−DP12細胞(ATCC CRL−12445)を馴化・浮遊化した細胞を、培地(BalanCD(商標) CHO GROWTH A)を用いて浮遊培養し、1mlあたりの生細胞数が、9.9×10
6になるまで培養を継続した。振盪培養向け酸素透過バッグにモジュール10個を入れ、CO2インキュベータ内で終夜振盪培養を行った。
【0129】
翌日、振盪バッグよりモジュールを取り出し、実施例2と同様の条件で、サイフォン式培養装置による細胞培養を行った。液溜めには、350mlの培地(コージンバイオ製KBM270)を貯留し同培地をチューブポンプ経由で毎分60mlの速度で循環させた。4日後に培養を終了した所、細胞密度1.0×10
5Cells/cm
2で総細胞数2.1×10
7個の細胞が観察された。
【0130】
(実施例4)
筒型気相培養装置によるポリイミド多孔質膜を用いた細胞培養法
【0131】
抗ヒトIL−8抗体産生CHO−DP12細胞(ATCC CRL−12445)を馴化・浮遊化した細胞を、培地(BalanCD(商標) CHO GROWTH A)を用いて浮遊培養し、1mlあたりの生細胞数が、9.9×10
6になるまで培養を継続した。振盪培養向け酸素透過バッグにモジュール10個を入れ、CO2インキュベータ内で終夜振盪培養を行った。
【0132】
翌日、モジュールを取り出し、
図10に示す筒型気相培養装置のステージ部分にモジュール10個を設置し、液溜めには、350mlの培地(コージンバイオ製KBM270)を貯留し同培地をチューブポンプ経由で毎分20mlの速度で循環させた。4日後に培養を終了した所、細胞密度2.5×10
5Cells/cm
2で総細胞数5.0×10
7個の細胞が観察された。酸素供給装置を使用せず、コンパクトかつ簡便な設備で、大量の抗体産生細胞を培養出来る事実が示された。
【0133】
(実施例5)
筒型気相培養装置によるポリイミド多孔質膜を用いた細胞培養法
【0134】
抗ヒトIL−8抗体産生CHO−DP12細胞(ATCC CRL−12445)を馴化・浮遊化した細胞を、培地(BalanCD(商標) CHO GROWTH A)を用いて浮遊培養し、1mlあたりの生細胞数が、2.4×10
6になるまで培養を継続した。ナイロンメッシュ(30#、目開き547μm)にて外套(ケーシング)を形成し滅菌的にポリイミド多孔質膜を一定量(1モジュールあたり20cm
2)加えて封じたモジュール30個を酸素透過型培養バッグに滅菌的に封入し、上記培養液30mlを注加した。CO2インキュベータ内で終夜放置した後、翌日、モジュールを取り出し、
図11に示す筒型気相培養装置のステージ部分にモジュール30個を設置し、液溜めには、300mlの培地(コージンバイオ製KBM270)を貯留し、同培地をチューブポンプ経由で毎分20mlの速度で循環させた。
【0135】
4日後に培養を終了した所、細胞密度7.1×10
4Cells/cm
2で総細胞数5.8×10
7個の細胞が観察された。酸素供給装置を使用せず、コンパクトかつ簡便な設備で、大量の抗体産生細胞を培養出来る事実が示された。
【0136】
(実施例6)
ミスト及びシャワー型培養装置によるポリイミド多孔質膜を用いた細胞培養法
【0137】
抗ヒトIL−8抗体産生CHO−DP12細胞(ATCC CRL−12445)を馴化・浮遊化した細胞を、培地(BalanCD(商標) CHO GROWTH A)を用いて浮遊培養し、1mlあたりの生細胞数が、3.9×10
6になるまで培養を継続した。10cm径シャーレ1枚に上記浮遊培養液を夫々12ml注加した後、ナイロンメッシュ(30#、目開き547μm)にて外套を形成し、滅菌的にポリイミド多孔質膜を一定量(1モジュールあたり20cm
2)加えて封じたモジュール12個を同シャーレに加えた。モジュールを細胞懸濁液で湿潤した後、CO
2インキュベータ内で終夜放置した。
【0138】
翌日、モジュールを取り出し、
図12に示すミスト及びシャワー型培養装置の内部にモジュール12個を設置し、液溜めには、200mlの培地を(FBS2%を含むIMDM)貯留し同培地をチューブポンプ経由で毎分60mlの速度で循環させた。
【0139】
2日後に培養を終了した所、細胞密度3.4×10
4Cells/cm
2で総細胞数8.2×10
6個の細胞が観察された。
【0140】
(実施例7)
ミスト及びシャワー型培養装置によるポリイミド多孔質膜を用いた細胞培養法
【0141】
抗ヒトIL−8抗体産生CHO−DP12細胞(ATCC CRL−12445)を馴化・浮遊化した細胞を、培地(BalanCD(商標) CHO GROWTH A)を用いて浮遊培養し、1mlあたりの生細胞数が、9.9×10
6になるまで培養を継続した。振盪培養向け酸素透過バッグにモジュール10個を入れ、CO
2インキュベータ内で終夜振盪培養を行った。
【0142】
翌日、振盪バッグよりモジュールを取り出し、実施例7と同様の条件で、ミスト及びシャワー型培養装置による細胞培養を行った。液溜めには、200mlの培地(コージンバイオ製KBM270)を貯留し同培地をチューブポンプ経由で毎分60mlの速度で循環させた。4日後に培養を終了した所、細胞密度8.8×10
4Cells/cm
2で総細胞数1.8×10
7個の細胞が観察された。
【0143】
(実施例8)
気相露出型回転培養装置
【0144】
抗ヒトIL−8抗体産生CHO−DP12細胞(ATCC CRL−12445)を馴化・浮遊化した細胞を、培地(BalanCD(商標) CHO GROWTH A)を用いて浮遊培養し、1mlあたりの生細胞数が、1.3×10
6になるまで培養を継続した。
図13に示す気相露出型回転培養装置(竪ドラム式、螺旋状流路無し)内部にナイロンメッシュ(30#、目開き547μm)にて外套(ケーシング)を形成し滅菌的にポリイミド多孔質膜を一定量(1モジュールあたり20cm
2)加えて封じたモジュール18個を据え付け、回転可能な状態に準備する。上記浮遊培養液を上部液溜めに40ml注加した後、毎分6回転のゆっくりした速度で浮遊培養液に湿潤させた。この回転部を含む機器全体を、CO2インキュベータ内で5時間放置した後、上部液溜めの浮遊培養液を排除し、モジュールの回転は継続させたまま、500mlの培地を(FBS2%を含むIMDM)貯留した下部液溜めより、同培地をチューブポンプ経由で毎分10mlの速度で循環させた。7日間培養した時点で、細胞密度3.2×10
5Cells/cm
2で総細胞数1.0×10
8個の細胞が観察された。
【0145】
(実施例9)
気相露出型回転培養装置
【0146】
抗ヒトIL−8抗体産生CHO−DP12細胞(ATCC CRL−12445)を馴化・浮遊化した細胞を、培地(BalanCD(商標) CHO GROWTH A)を用いて浮遊培養し、1mlあたりの生細胞数が、1.3×10
6になるまで培養を継続した。
図14に示す気相回転培養装置(切れ込みドラム式、螺旋状流路有り)内部にナイロンメッシュ(30#、目開き547μm)にて外套を形成し滅菌的にポリイミド多孔質膜を一定量(1モジュールあたり20cm
2)加えて封じたモジュール18個を据え付け、回転可能な状態に準備する。上記浮遊培養液を上部液溜めに40ml注加した後、毎分6回転のゆっくりした速度で浮遊培養液に湿潤させた。この回転部を含む機器全体を、CO2インキュベータ内で終夜放置した後、上部液溜めの浮遊培養液を排除し、モジュールの回転は継続させたまま、500mlの培地を(FBS2%を含むIMDM)貯留した下部液溜めより、同培地をチューブポンプ経由で毎分10mlの速度で循環させた。7日間培養した時点で、細胞密度2.4×10
5Cells/cm
2で総細胞数8.5×10
7個の細胞が観察された。
【0147】
(実施例10)
様々なモジュールによるCHO−DP12細胞のバッグ培養
【0148】
抗ヒトIL−8抗体産生CHO−DP12細胞(ATCC CRL−12445)を馴化・浮遊化した細胞を、培地(BalanCD(商標) CHO Growth A)を用いて浮遊培養し、1mlあたりの生細胞数が、1.1×10
6になるまで培養を継続した。ナイロンメッシュ(30#、目開き547μm)にて外套を形成し滅菌的にポリイミド多孔質膜を一定量(1モジュールあたり20cm
2)加えて封じた、あるいは一部を固定してポリイミド多孔質膜を露出させた各種モジュール6種(
図15;モジュール写真)を用意し、表1に示す様な組み合わせで、滅菌的に25μmポリイミド多孔質膜を酸素透過型培養バッグ内部に据え付け、開口部を溶着してモジュール装備型培養バッグの準備を完了した。各実験の構成を
図15に示す。
【0149】
これらの培養バッグに、上記細胞懸濁液6mlを注加し、2時間及び5.5時間後に、未吸着で浮遊している細胞数を測定した。モジュール形状及びポリイミド多孔質膜の形状に呼応して、未吸着細胞数が観測される事実を見出した。結果を表5に示す。
【0150】
【表5】
【0151】
吸着工程終了後、20mlの培地を供給後、CO
2インキュベータ内で振盪培養を行った。毎日、水酸化ナトリウム溶液およびフィード培地を加えながら週2回程度培地交換を行った。培地交換を行う際、CCK8による比色定量法で細胞数を行い、細胞の増殖を確認した。モジュールの形状に依存して、細胞の増殖挙動が大きく変化する事実が見出された。4日、7日及び11日時点での細胞数に関して、表6に纏めた。
【0152】
【表6】
【0153】
(実施例11)
培地交換型新規培養法
【0154】
抗ヒトIL−8抗体産生CHO−DP12細胞(ATCC CRL−12445)を馴化・浮遊化した細胞を、培地(BalanCD(商標) CHO GROWTH A)を用いて浮遊培養し、1mlあたりの細胞数が、2.0×10
6になるまで培養を継続した。0.3cm×2.5cmの細長い形状をしたポリイミド多孔質膜を準備して乾熱滅菌を行なった後、20cm
2シャーレ内に11〜12片を設置し、上記浮遊培養液4mlを注加して十分にポリイミド多孔質膜を細胞懸濁液で湿潤させた後、CO
2インキュベータ内に放置する。2時間後、シャーレをインキュベータから取り出し、細胞懸濁液を吸引除去した後に培地(2%FBS添加IMDM)4mlを加えて更にCO
2インキュベータ内で培養を継続する。培地は、2日に一回のペースで交換を行なった。
【0155】
培養開、始から7日後、CCK8を用いて培養された3枚のシャーレ内におけるポリイミド多孔質膜上の細胞数を、面積あたりの細胞数として算出した。翌日、3つのシャーレの内1つはそのまま培養を続ける一方で、残り2つのうち1つでは、培養液ごとニプロ製の酸素透過型培養バッグに細胞の生育したポリイミド多孔質膜を移し、ヒートシーラーで滅菌的に密閉した。更に残りのシャーレ1つに関しては、ポリイミド多孔質膜をハサミにて、凡そ0.3cm×0.3cm細片に滅菌的に細断した後、30#ナイロンメッシュの外袋を用意し、1cm×1cm程度の大きさの袋をヒートシーラーで滅菌的に形成し、そのメッシュ外膜ごと、先のニプロ製の酸素透過型培養バッグに培地ごと移送して、ヒートシーラーで滅菌的に密閉した。
【0156】
静置培養はこれまでと同様に継続する一方で、ポリイミド多孔質膜を直接入れた培養バッグと、ナイロンメッシュで外套を作成して培養バッグに入れたものを、それぞれCO
2インキュベータ内に設置したシェーカーで1分間に20〜30回のゆれを生じる設定を行い、振盪培養を2日間実施した。静置培養、及び2種の振盪培養を行った後の細胞密度を、実施前と同様のCCK8法にて算出した。結果を表7に示す。直接バッグに入れた振盪培養のケースのみ、著しい細胞数の減少が観察された。
【0157】
直接ポリイミド多孔質膜を入れたバッグからポリイミド多孔質膜を取り出し、培地1mlを加え、更に、CellMask Orange Plasma Membrane Stain(1μL)及びHoechst33342(PromoKine社製)(1μL)を加えてインキュベータ内に5分静置した。その後、染色試薬の入った培地を除去し、新しい培地を加えて、染色を完了した。ライブセルイメージングを蛍光顕微鏡にて行なった。同様に、静置培養を継続したポリイミド多孔質膜も、同様の条件で、イメージング測定を実施した。静置培養に於いて大量の細胞が確認される(
図16(A))。一方、直接、振盪バッグに入れたポリイミド多孔質膜では、極めて少量の細胞しか視認されなかった(
図16(B))。蛍光顕微鏡写真を、
図16に示す。
【0158】
【表7】
【0159】
(実施例12)
ヒト間葉系幹細胞のポリイミド多孔質膜を含むモジュールを用いた細胞培養法
【0160】
Lonza社製、ヒト間葉系幹細胞をシャーレにて継代・増殖させ、トリプシン処理により、5.0×10
6個の細胞を培地20mlに懸濁させた。酸素透過性培養バッグに、ナイロンメッシュ(30#、目開き547μm)にて外套(ケーシング)を形成し滅菌的にポリイミド多孔質膜を一定量(1モジュールあたり20cm
2)加えて封じたモジュール30個を据え付けておき、そこへ上記懸濁液を注加した後、CO
2インキュベータ内で終夜振盪培養を行った。翌日、バッグ内の液を破棄した後、滅菌的にスピナーフラスコにモジュール保持機能を付与した容器(
図4(A))に移送し、80mlの間葉系幹細胞専用培地を加えて攪拌培養をCO
2インキュベータ内で実行した(
図17)。1週間の攪拌培養の後、CCK8を用いた比色定量法で細胞数を求めた所、5.5×10
7個の細胞が確認された。スピナー培養法により大量のヒト間葉系幹細胞が容易に培養可能である事が示された。
【0161】
(実施例13)
ポリイミド多孔質膜を含むモジュールとWAVE型バイオリアクターを用いた物質産生法
【0162】
抗ヒトIL−8抗体産生CHO−DP12細胞(ATCC CRL−12445)を馴化・浮遊化した細胞を、培地(BalanCD(商標) CHO GROWTH A)を用いて浮遊培養し、1mlあたりの生細胞数が、2.1×10
6になるまで培養を継続した。
【0163】
くればぁ社製交点融着ポリプロピレンメッシュ(25#、目開き670μm)にてケーシングを形成し、滅菌的にポリイミド多孔質膜を一定量(1モジュールあたり10cm
2)及び交点融着ポリプロピレンメッシュ製中敷(10#、目開き2145μm)2枚を加えて封じたモジュールを300個用意し、GEヘルスケア製バイオリアクター;ReadyToProcess WAVE 25(以降、WAVE25と表記)用バッグに、バッグに付属したキャップを通じて滅菌的に封入した。バッグを、WAVE25に設置し、空気・CO
2濃度・温度等を設定して、準備を完了した。そこへ、上記浮遊培養液500mlをチューブ経由で滅菌的に注加し、37℃5%CO
2濃度にて振動を開始し、ポリイミド多孔質膜への細胞吸着を実行した。
図18に、リアクター及びモジュール入りバッグ等を示す。24時間後、注加した培地をバッグから排出し、そこへコージンバイオ製CHO培地KBM270を500ml加えた。バッグ内から排出した液をセルカウントしたところ、1mlあたりの生細胞数が、1.1×10
6であった。48%の生細胞が吸着した計算となる。
【0164】
バッグ内の状況変化を解析する為、定期的に培地をサンプリングし、ロッシュ社製Cedex Bioを用いてグルコース量、乳酸産生量、抗体産生量等の各種成分組成分析を実行した。培地は、1日〜2日に一度、間歇的に交換し、約40日間連続的に細胞培養を実行した。また、後半の実験では、
図19に示す通り、1日に数回培地交換を実施し、効果等の検証を行なった。
図19に、抗体産生量及びグルコース濃度の経時的結果を示す。徐々にグルコース消費量や抗体産生量が上昇する様子が示されると共に、連続的かつ高効率に抗体産生され得る事実を見出した。培養全期間を通じた一日当りの抗体産生効率は、64mg/Lであった。
【0165】
(実施例14)
<ステンレス綱製ケーシングを有するモジュール化ポリマー多孔質膜(以下、「メタルモジュール」という)及びステンレス綱製細胞培養部(以下、「メタルドラム」という)の作製>
ポリイミド多孔質膜の有する耐熱性を最大限に活用し、簡単な全体乾熱滅菌で滅菌作業を完了すべく、ステンレス鋼メッシュ製のケーシング、中敷、及びポリイミド多孔質膜で構成されるメタルモジュールを作製した(
図20(A)を参照)。具体的には、1cm×1cmのポリイミド多孔質膜及びポリイミド多孔質膜と同面積のステンレス鋼メッシュ(「中敷」という。図示しない)を積層したもの(ポリイミド多孔質3枚、中敷1枚、ポリイミド多孔質4枚、中敷1枚、ポリイミド多孔質3枚、の順番で積層)を、ステンレスメッシュ製のケーシングで封止して、メタルモジュールを作製した(
図20(A))。作業は、開放空間下で非滅菌的に実施した。このメタルモジュールを運用するためのメタルドラムも、同様にステンレス綱メッシュにて作製し(
図20(B))、内部にメタルモジュール20個を入れた状態で、非滅菌的に組み立てた。その後、メタルモジュールを含むメタルドラムをアルミホイルで包み、摂氏190度にて80分間乾熱滅菌し、放冷した。
【0166】
<気相露出型回転培養装置>
抗ヒトIL−8抗体産生CHO−DP12細胞(ATCC CRL−12445)を馴化・浮遊化した細胞を、培地(BalanCD(商標) CHO GROWTH A)を用いて浮遊培養し、1mlあたりの生細胞数が、1.1×10
6になるまで培養を継続した。
図20(C)に示す様にメタルモジュールを含むメタルドラムを滅菌的に据え付け、クリーン環境下で回転可能な状態に準備した(
図20(C))。上記のように細胞を浮遊培養して得た培地34mlと、新鮮な培地(BalanCD(商標) CHO GROWTH A)6mlを培養槽(
図13(A)の培養槽に相当)に注加した後、メタルドラムを毎分1回転の速度で回転させ、ポリイミド多孔質膜に培地を湿潤させた。この装置全体を、CO
2インキュベータ内で21時間放置した後、上部液溜めの培地を排除し、メタルドラムの回転は継続させたまま、200mlの培地(KBM−270)を貯留した培地排出槽(
図13(A)の培地排出槽に相当)より、同培地をチューブポンプ経由で毎分10mlの速度で循環させた。4日間培養した時点で、細胞密度3.9×10
5Cells/cm
2で総細胞数7.8×10
7個の細胞が観察された。その後、上部液溜め及び下部液溜め全量の培地を新鮮な培地(KBM−270)に交換し、更に2日間同条件で培養を継続した。その時点で細胞密度1.3×10
6Cells/cm
2、総細胞数2.6×10
8個の細胞が観察された。
【0167】
(実施例15)
ステンレス綱製ケーシングを有するモジュール化ポリマー多孔質膜(以下、「メタルモジュール」という)による筒型気相培養装置(以下、「気筒型バイオリアクター」という)の準備及びそれを使用した細胞培養
【0168】
ポリイミド多孔質膜の有する耐熱性を最大限に活用し、簡単な全体乾熱滅菌で滅菌作業を完了すべく、ステンレス鋼メッシュ製のケーシング、中敷、及びポリイミド多孔質膜で構成されるメタルモジュールを作製した(
図20(A)に相当)。具体的には、1cm×1cmのポリイミド多孔質膜及びポリイミド多孔質膜と同面積のステンレス鋼メッシュ(「中敷」という。図示しない)を積層したもの(ポリイミド多孔質3枚、中敷1枚、ポリイミド多孔質4枚、中敷1枚、ポリイミド多孔質3枚、の順番で積層)を、ステンレスメッシュ製のケーシングで封止して、メタルモジュールを作製した(
図20(A))。作業は、開放空間下で非滅菌的に実施した。
【0169】
このメタルモジュールを運用するためのガラス製耐熱気筒型リアクターは、ガラスチャンバ内にメタルモジュールが据付けられ、液滴下により、培地を気筒内に供給可能である。メタルモジュールを備えた気筒型バイオリアクターは、耐熱素材のみで作製されているため、滅菌は簡便な乾熱滅菌のみで実行可能となる。メタルモジュール30個を耐熱気筒内に設置後、非滅菌的に組み立てられた装置をアルミホイルで包み、摂氏190度にて80分間乾熱滅菌し、放冷した事で滅菌作業を完結した。
【0170】
作製した気筒型バイオリアクターを用いて、ヒト皮膚線維芽細胞の培養実験に着手した。
【0171】
上述に示す通り、気筒型リアクター全体を滅菌的に組み立て、CO
2インキュベータ内に装置全体を設置した(
図21)。シャーレで培養していたヒト皮膚線維芽細胞をトリプシン処理にて剥離させ、
図22(A)〜(C)に示す各反応形式に対し、70mlずつの細胞懸濁液を準備した。その時の細胞密度は、1mlあたりの生細胞数が、1.4×10
5であった。吸着後の細胞増殖挙動に関して、表8にて説明する。
【表8】
【0172】
※1:液中残留細胞密度とは、ポリイミド多孔質膜に細胞を吸着させた後の、細胞懸濁液中に残存した細胞数(密度)を示している。
※2:細胞吸着率とは、播種に使用した細胞懸濁液中の細胞がどれだけポリイミド多孔質膜に吸着したかを示している。
※3:初期予想成熟度とは、ポリイミド多孔質膜での細胞の最大生息数を100%とした場合の、実際の細胞の吸着細胞数を%として表したものである。
※4:※3と同じものを示している(培養5日目を測定して算出した)。上部;最上部のモジュール、下部;最上部のモジュール、の値をそれぞれ示している。
【0173】
なお、ドロップ型の液滴は、
図22(D)に示すように、巻き取ったステンレス鋼メッシュ(久宝金属製作所製、品番E9103,20#)(
図22(D)のメッシュ束に相当)を蓋体に設けられた培地供給口に挿入することにより実現させた。メッシュ型の液滴は、ドロップ型の方法に加え、メッシュ束の直下に、平面状のステンレス鋼メッシュ(久宝金属製作所製、品番E9103,20#)を設けて、モジュールをカバーすることにより実現させた。シャワー型の液滴は、いけうち社製、品番1/8MVVP6503PP−IN番のノズルを用いることにより実現させた。
【0174】
その後、ポンプを用いて連続的に培地(コージンバイオ株式会社製_KBM Fibro Assistを使用)を供給する事で培地循環が開始され、連続培養を進めた。3日に一回培地交換を実施しながら、培養を継続した。細胞数の評価に関しては、30個あるモジュールの内、1〜2個を取り出し、それらのモジュールに生育するヒト皮膚線維芽細胞を、CCK8の呈色反応を用いて細胞数を測定した。この実験結果から明らかな様に、本実験に於いては、培地液の注加方法がその後の各システムに於けるモジュール内細胞数を決定付ける事となる事実が判明した。また、興味深い事に、メッシュによる液浸透平準化の効果は非常に大きく、しっかりと細胞が増殖する結果が観察された。一方で、ドロップの添加方式では培地がリアクター内部全体に広がらず、偏流が生じる事で細胞生育領域が限定されて細胞数の減少を招いたと思われる。シャワー式に培地を注加する方法もある程度の液平準化効果に寄与すると思われる。
【0175】
引き続き、本培養方法のバイオリアクターとしての効率を検証すべく、物質産生能の評価を進めた。タカラバイオ製ヒトフィブロネクチン測定用Elisa kitを用いて、産生されたフィブロネクチン量を測定した。
図23に測定結果を示す。
【0176】
図11からも自明な様に、この物質産生評価に於いても、メッシュ培養法が圧倒的に優位を示しており、フィブロネクチン産生力を着実に伸ばしつつある。1ヶ月の安定運転を実現する事が出来た。一方で、シャワー型及びドロップ型においても、安定的な物質は達成されたが、産生力の向上を見出す事は出来なかった。非常に簡便な装置で、気相暴露型培養にてヒト初代細胞を安定的に培養し、高効率で有用物質の産生を実現し得る事を実証する事が出来た。
【0177】
(実施例16)
メタルモジュール及びガラス製耐熱サイフォンリアクター
ポリイミド多孔質膜の有する耐熱性を最大限に活用し、簡単な全体乾熱滅菌で滅菌作業を完了すべく、ステンレス鋼メッシュ製のケーシング、中敷、及びポリイミド多孔質膜で構成されるメタルモジュールを作製した(
図20(A))。具体的には、1cm×1cmのポリイミド多孔質膜及びポリイミド多孔質膜と同面積のステンレス鋼メッシュ(「中敷」という。図示しない)を積層したもの(ポリイミド多孔質3枚、中敷1枚、ポリイミド多孔質4枚、中敷1枚、ポリイミド多孔質3枚、の順番で積層)を、ステンレスメッシュ製のケーシングで封止して、メタルモジュールを作製した(
図20(A))。作業は、開放空間下で非滅菌的に実施した。
【0178】
このメタルモジュールを運用するためのガラス製耐熱サイフォンリアクターは、ソックスレー抽出器をベースにデザインし、耐熱性を持たせるため、ガラスと金属のみで作製した(
図24(A))。メタルモジュール(
図20(A))を入れたガラス製耐熱サイフォンリアクターを示す。このリアクター、内部にステンレスモジュール30個を非滅菌的に積層させて装置を組み立てた。その後、リアクター部分をアルミホイルで包み、摂氏190度にて80分間乾熱滅菌し、放冷した。
【0179】
次に、耐熱型サンフォンリアクターによるヒト皮膚線維芽細胞の干満培養を実施した。
図24(A)に示す通り、リアクター全体を滅菌的に組み立て、CO
2インキュベータ内に装置全体を設置した(
図24(B))。シャーレで培養していたヒト皮膚線維芽細胞をトリプシン処理にて剥離させ、細胞懸濁液70mlを準備した。セルカウントすると、1mlあたりの生細胞数は1.4×10
5であった。懸濁液70mlを、メタルモジュールを設置したソックスレー管内部に注加し、30分間静置させた。静置後、内部液を滅菌的に排出し、排出された液を再度サイフォンリアクター内部に注加する。この作業を3回繰り返し、その後、液部をサンプリングして細胞数を測定したところ、細胞数は8.0×10
3であった。94%の細胞がこの静置条件での自然接触で吸着したといえる。次に、ポンプを用いて連続的に培地(コージンバイオ株式会社製_KBM Fibro Assistを使用)を供給する事でサイフォン機能が発現し、メタルモジュール内部に安定的かつ循環的に培地と空気(酸素)が供給される。3日に一回培地交換を実施しながら、培養を継続した。安定的かつ大量のフィブロネクチンが産生された事を、タカラバイオ製ヒトフィブロネクチン測定用Elisa−kitにて測定し、高効率な物質産生が簡便かつ継続的に達成されている事を確認した(
図25)。
【0180】
図から示される通り、単位体積あたりの一日の物質産生量が優れている上に、通常のシャーレ培養とは異なり、スケールアップが非常に容易である為、コンパクトな装置で生産性を向上し得る。ヒト初代細胞を物質産生の基盤として、連続産生系を作製し、酸素供給等の手段を有する複雑な装置を使用する事無く、希少物質や有用物質を製造する方法が示された。
【0181】
(実施例17)
ポリイミド多孔質膜の可撓性を利用した動物細胞の除去方法
【0182】
抗ヒトIL−8抗体産生CHO−DP12細胞(ATCC CRL−12445)を馴化・浮遊化した細胞を、培地(BalanCD(商標) CHO GROWTH A)を用いて浮遊培養し、1mlあたりの生細胞数が、6.9×10
5になるまで培養を継続した。次に使用する培養基材に関して、表9に示す(
図26(A)及び(B))。形状変化を高効率に惹起させて効率的に細胞死を起こさせるために、通常の培養で使用する正方形等のポリイミド多孔質膜とは異なり、細長い形状のポリイミド多孔質膜を選択した。
【表9】
【0183】
表9に示す条件にて、同面積・異形状のポリイミド多孔質膜を滅菌的に包埋させた培養バッグに、上記の細胞懸濁液を10ml注加し、37℃、5%CO
2インキュベータ内で1日間静置し、細胞をポリイミド多孔質膜に吸着させた(
図26(C))。次に各バックから細胞吸着後の懸濁液を抜き取り、CHO細胞培養用培地(コージンバイオ社製KBM270)を各20mlずつ注加し、同インキュベータ内で2日間静置した。細胞増殖挙動に関して表10に示す。
【表10】
表10に示された通り、静置培養においては、それぞれの培養基材特性に従い、順調に細胞が培養基材入り培養バッグ内で増殖している事が確認された。次にCO
2インキュベータ内部にエル・エム・エス社製シェーキングミキサー(SHM−2002)を設置し、培養バッグを同ミキサー上に設置して、振盪を開始した(〜20rpm)。2日後に、部材変形を強化する為、空気を50ml注加して、振動を続けた。更に、10日後からは、培地を50mlに増量して振盪を強化させた(〜45rpm)。定期的にCCK8を用いて各バッグの生細胞数を計測した。細胞数の変化を
図27に示す。静置培養での細胞増殖とは異なり、培養基材形状依存的に細胞数の減少が惹起され、時間が経過するに従って細胞数の減少が進行し、23日後には細胞が死滅している実が示された。形状変化が一部抑制された方法(2)(短冊固定型)においても、振盪速度の変化で細胞数が更に減少する事実も見出された。振盪条件及び培養基材形状依存的に、非薬剤的に動物細胞を死滅させる方法論が確立された。