(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記必須系列データ抽出部は、所定の精度で前記評価指標を算出するために不要なデータと、前記所定の制約条件を考慮するときに不要なデータとを、前記第1系列データから排除することによって、前記必須系列データを取得する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の組合せ解決定システム。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施形態に係る組合せ解決定システムについて、図面を参照しながら説明する。組合せ解決定システムは、消費電力が最小となる空調システムを導出する数理計画問題の解を決定する。
【0018】
(1)空調システムの構成
空調システムは、建物に設置され、主として室外機、室内機及び換気装置から構成される。
図1は、空調システム100の構成の一例を示す図である。
図1において、空調システム100は、2台の室外機10a,10bと、6台の室内機20a〜20fと、2台の換気装置30a,30bとから構成される。各室外機10a,10bは、1台または複数台の室内機20a〜20fと冷媒配管を介して接続されている。各室内機20a〜20fは、2台の室外機10a,10bのいずれか1つに接続され、かつ、空調システム100が設置されている建物のゾーン40a〜40cのいずれか1つに設置されている。
図1では、各室外機10a,10bは3台の室内機20a〜20fと接続され、各ゾーン40a〜40cに2台の室内機20a〜20fが設置されている。ゾーン40a〜40cは、空調システム100による空調対象空間である。室内機20a〜20fは、ゾーン40a〜40cの顕熱を取り除くことによって、ゾーン40a〜40cを快適な状態に維持する。換気装置30a,30bは、1つ又は複数のゾーン40a〜40cを換気して、ゾーン40a〜40cを快適な状態に維持する。
【0019】
(2)空調システムの選定
空調システム100を建物に設置する前に、空調システム100の選定を行う必要がある。空調システム100の選定とは、ゾーン40a〜40cの熱負荷、及び、消費電力等を考慮して、機器(室外機10a,10b、室内機20a〜20f及び換気装置30a,30b)を選択したり、機器の組み合わせを決定したりすることである。空調システム100の選定で決定されるパラメータ(空調選定パラメータ)は、例えば、各ゾーン40a〜40cの室内機20a〜20fの台数、室内機20a〜20fの機種及び性能(容量等)、室外機10a,10bの機種及び性能(容量等)、換気装置30a,30bの機種及び性能(換気量等)、冷媒系統、制御パラメータ等である。冷媒系統とは、例えば、室外機10a,10bと、当該室外機10a,10bに接続される室内機20a〜20fとの組に関する情報である。制御パラメータとは、例えば、各ゾーン40a〜40cの設定温度及び設定湿度である。
【0020】
従来、空調システムを選定する際には、ピーク時の熱負荷に対応できるように過大な性能を有する機器が選択されている。しかし、温度を固定値とした静的な熱負荷計算しか行われなかったり、現場の担当者の経験及び技量によって選定される機器にばらつきがあったりして、消費電力の観点からは適切でない機器が選定される課題がある。この課題を解決するためには、機器及び建物の特性、及び、空調対象空間の温度及び顕熱の変化を考慮して空調システムを選定する必要がある。しかし、その場合、熱負荷及び消費電力の計算コストが大きくなる。また、空調システムの選定時において、機器の数及び種類が多いほど、選定に要する計算時間が増大する。
【0021】
実施形態に係る組合せ解決定システムは、上記の課題を解決するものであり、多数の選択肢の中から消費電力が最小となる空調システムを効率的に選定する。これにより、組合せ解決定システムは、トータルコストを最小化する空調システムを選定することができる。トータルコストとは、機器コストと電気コストとの合計である。機器コストは、例えば、機器自体の費用、機器の設置工事費用、及び、機器の保守費用を含む。電気コストは、空調システムを稼動させるために必要な電気料金を含み、機器の消費電力等から算出される。
【0022】
実施形態に係る組合せ解決定システムによって解が決定される数理計画問題は、目的関数を定式化できないため汎用ソルバーを用いることができないブラックボックス最適化問題に該当する。ブラックボックス最適化問題の解を決定するためには、一般的に、目的関数の値をシミュレーションにより計算する必要があるため、計算コストがかかりやすい。例えば、消費電力が最小となる空調システムを選定する問題の場合、多数の時刻における消費電力を、シミュレーションソフトを用いて計算する必要があり、計算時間が長くなりやすい。実施形態に係る組合せ解決定システムは、ブラックボックス最適化問題にも用いることができる局所探索法の応用手法である反復局所探索法を用いることで、計算時間を削減することができる。
【0023】
(3)組合せ解決定システムの構成
図2は、組合せ解決定システム190の概略的なブロック図である。組合せ解決定システム190は、消費電力が最小となる空調システムを選定する。組合せ解決定システム190は、例えば、1つ又は複数のコンピュータから構成される。組合せ解決定システム190が複数のコンピュータから構成される場合、当該複数のコンピュータは、ネットワークを介して互いに接続されてもよい。
【0024】
組合せ解決定システム190は、主として、解候補生成部110と、シミュレーション部120と、評価指標算出部130と、解決定部140と、必須系列データ抽出部150とを備える。解候補生成部110〜必須系列データ抽出部150は、例えば、組合せ解決定システム190を構成するコンピュータの記憶装置に記憶されているプログラムを、当該コンピュータのCPUが実行することにより実現される。
【0025】
解候補生成部110は、組合せ解の候補を生成する。組合せ解とは、組合せ解決定システム190によって決定される解である。組合せ解は、空調システム100の構成に関する情報であり、具体的には、上述した空調選定パラメータを含む。
【0026】
シミュレーション部120は、解候補生成部110が生成した組合せ解の候補に関する情報と、組合せ解を評価するための系列データと、を用いてシミュレーションデータを演算する。シミュレーションデータは、組合せ解の候補を入力パラメータとしてシミュレーションにより算出される、空調システム100の消費電力を含む。系列データとは、所定の時刻におけるシミュレーションデータ(消費電力)が算出される場合、当該時刻に関するデータである。シミュレーション部120が1年間の消費電力をシミュレーションにより算出する場合、系列データは、例えば、当該1年間の1時間ごとの時刻である。この場合、系列データは、8760個の時刻データから構成される(365日×24時間/日)。シミュレーション部120が算出する消費電力は、室外機10a,10b、室内機20a〜20f、及び、換気装置30a,30bの消費電力である。換気装置30a,30bの消費電力は、換気シミュレーションによって算出される。室外機10a,10b及び室内機20a〜20fの消費電力は、換気装置30a,30bによる熱負荷の影響を考慮して、各ゾーン40a〜40cの熱負荷(顕熱負荷)から空調シミュレーションによって算出される。
【0027】
評価指標算出部130は、シミュレーション部120が算出したシミュレーションデータ(消費電力)に基づいて評価指標を算出する。評価指標とは、上述のトータルコスト、未処理熱負荷、及び、未処理換気量等から算出されるパラメータである。未処理熱負荷とは、ゾーン40a〜40cに配置された室内機20a〜20fが処理できる顕熱負荷がそのゾーン40a〜40cでかかる顕熱負荷未満である場合に、処置できない分の顕熱負荷に相当する。未処理換気量とは、ゾーン40a〜40cに配置された換気装置30a,30bが処理できる換気負荷がそのゾーン40a〜40cでかかる換気負荷未満である場合に、処置できない分の換気負荷に相当する。トータルコスト、未処理熱負荷、及び、未処理換気量が小さいほど、評価指標は小さくなる。資源を最大限に活用する観点からは、評価指標は小さいほど好ましい。
【0028】
解決定部140は、複数の組合せ解の候補のそれぞれから評価指標算出部130が算出した評価指標に基づいて、複数の組合せ解の候補の中から評価の高い組合せ解を決定する。評価の高い組合せ解とは、評価指標が最も小さい組合せ解である。解決定部140によって決定された組合せ解は、資源を最大限に活用する観点から最適な空調選定パラメータである。
【0029】
必須系列データ抽出部150は、必須系列データを取得する。必須系列データとは、系列データから抽出されたデータである。具体的に説明すると、上述したように、系列データが1時間ごとの8760個の時刻データから構成される場合、必須系列データは、この8760個の時刻データ(以下「第1系列データ」と呼ぶ。)の一部の時刻データである。
【0030】
シミュレーション部120は、必須系列データ抽出部150が必須系列データを抽出した後に、組合せ解の候補に関する情報と、必須系列データと、を用いてシミュレーションデータを演算する。そのため、シミュレーション部120は、第1系列データに含まれる時刻データよりも少ない時刻データに基づいて、シミュレーションデータ(消費電力)を演算することができる。これにより、組合せ解決定システム190は、消費電力の演算に必要な計算コストを削減することができる。
【0031】
ここで、
図3を参照しながら、組合せ解決定システム190が計算コストを削減することができる理由について説明する。
図3は、組合せ解決定システム190による空調システムを選定する処理のフローチャートである。
【0032】
ステップS11では、システム構成が決定される。具体的には、ステップS11では、解候補生成部110によって組合せ解の候補が生成される。
【0033】
ステップS12では、必須系列データが抽出済みであるか否かが判定される。ステップS16において必須系列データが抽出済みである場合、ステップS13に移行し、抽出済みでない場合、ステップS18に移行する。
【0034】
ステップS13では、シミュレーションが実行される。具体的には、シミュレーション部120は、組合せ解の候補と、第1系列データとを用いて、第1系列データに含まれる各時刻におけるシミュレーションデータを演算する。
【0035】
ステップS14では、ステップS13で得られた各時刻におけるシミュレーションデータ(消費電力)を、トレーニングデータとして保存する。
【0036】
ステップS15では、評価指標算出部130によって、ステップS14で保存されたトレーニングデータから評価指標が算出されて保存される。
【0037】
ステップS16では、トレーニングデータから算出された評価指標に基づいて、最初の局所解が導出されたか否かが判定される。最初の局所解は、反復局所探索法によって算出される。最初の局所解は、例えば、シミュレーションの実行開始から、評価指標が最初に最小値(局所的な最小値)を示したシステム構成である。
【0038】
ステップS16において最初の局所解が導出された場合、ステップS17において、それまでに得られたトレーニングデータに基づいて、第1系列データから必須系列データが抽出される。具体的には、必須系列データ抽出部150は、消費電力の演算に必要な時刻を抽出する。その後、ステップS11において新たなシステム構成が決定されて、シミュレーションが実行される。
【0039】
ステップS16において最初の局所解が導出されなかった場合、ステップS17において必須系列データが抽出されずに、ステップS11において新たなシステム構成が決定されて、トレーニングデータがさらに取得される。
【0040】
ステップS18では、ステップS17で抽出された時刻(必須系列データ)に基づいて、シミュレーションが実行される。具体的には、シミュレーション部120は、組合せ解の候補と、必須系列データとを用いて、必須系列データに含まれる各時刻におけるシミュレーションデータを演算する。
【0041】
ステップS19では、評価指標算出部130によって、ステップS18で得られたシミュレーションデータから評価指標が算出されて保存される。
【0042】
以降、ステップS11でシステム構成が新たに決定され、ステップS18においてシミュレーションが実行され、ステップS19において評価指標が算出されて保存される。以上の処理が、所定の数の組合せ解の候補について行われる。
【0043】
ステップS13において実行されるシミュレーション(以下「フル計算」と呼ぶ。)は、全ての時刻を含む第1系列データ(8760個の時刻データ)を用いて行われる。一方、ステップS18において実行されるシミュレーション(以下「抽出計算」と呼ぶ。)は、第1系列データから抽出された必須系列データ(8760個未満の時刻データ)を用いて行われる。抽出計算に要する計算時間は、フル計算に要する計算時間よりも短い。そのため、最初の局所解が得られるまでは、各システム構成(組合せ解の候補)についてフル計算を実行してトレーニングデータを記録し、最初の局所解が得られた後は、各システム構成について抽出計算を実行して効率的に評価指標を得ることができる。従って、多数のシステム構成についてシミュレーション(抽出計算)を実行することで、評価指標が最小となるシステム構成(最適解)を得るために必要な計算時間を抑えることができる。
【0044】
次に、
図3のステップS17において第1系列データの中から必須系列データを抽出する具体的な処理の概要について説明する。
【0045】
必須系列データ抽出部150は、解候補生成部110が生成したn個(n≧2)の組合せ解の候補のうちのm個(m≧2かつn>m)の組合せ解の候補に関する情報と、第1系列データとを用いて、評価指標に基づいて、第1系列データの中から第2系列データを抽出する。第2系列データとは、所定の精度で評価指標を算出するために必要な時刻データを含む。言い換えると、第2系列データとは、シミュレーションデータ(消費電力)に対する寄与が大きい時刻データを含む。「m個の組合せ解の候補」とは、最初の局所解が得られるまでに生成されたシステム構成に関する情報であり、言い換えると、トレーニングデータの生成に利用されたシステム構成に関する情報である。
【0046】
さらに、必須系列データ抽出部150は、第1系列データの中から、上述の「m個の組合せ解の候補」に対して所定の制約条件の適否を検証するために必要な第3系列データを抽出する。所定の制約条件とは、未処理熱負荷に関する条件である。第3系列データとは、例えば、未処理熱負荷が所定の基準値を超える可能性が高い時刻データを含む。シミュレーションにより算出された消費電力が小さくても、未処理熱負荷が大きい場合、資源を最大限に活用する観点からは好ましくない。そのため、未処理熱負荷に応じた値をペナルティーとしてトータルコストに加えることで、適切な評価指標を算出することができる。所定の制約条件としては、未処理熱負荷が所定の基準値以下であるという条件が挙げられる。この場合、必須系列データ抽出部150は、所定の制約条件を満たさなくなる可能性が高い第1系列データを、第3系列データとして抽出する。
【0047】
そして、必須系列データ抽出部150は、第2系列データと第3系列データとを合わせて必須系列データを取得する。シミュレーション部120は、必須系列データ抽出部150が必須系列データを抽出した後に、少なくとも、上述の「m個の組合せ解の候補」以外の組合せ解の候補に関する情報と、必須系列データを含む系列データと、を用いてシミュレーションデータを演算する。「m個の組合せ解の候補」以外の組合せ解の候補とは、最初の局所解が得られた後に生成されたシステム構成に関する情報である。
【0048】
必須系列データ抽出部150は、例えば、スパース推定によって第2系列データを抽出し、極値統計によって第3系列データを抽出する。
【0049】
スパース推定とは、回帰分析における回帰係数の推定方法の一つである。スパース推定は、説明変数が多い場合になるべく少ない説明変数の値をもとに目的変数を推定するため、回帰係数の推定と変数選択とを同時に行う手法である。
【0050】
極値統計とは、確率論および統計学において、ある累積分布関数にしたがって生じた大きさnの標本X
1,X
2,...,X
nのうち、x以上(あるいはx以下)となるものの個数がどのように分布するかを表す、連続確率分布モデルに基づき極値を推定する手法である。
【0051】
(4)組合せ解決定システムの具体例
(4−1)概要
次に、具体例として、消費電力が最小となる空調システムを選定するための組合せ解決定システムについて詳細に説明する。この組合せ解決定システムは、スパース推定と極値統計により消費電力を計算すべき時刻を抽出し、抽出された時刻から一年間の消費電力の推定を行うことで、全体の計算コスト削減を目指す。
【0052】
(4−2)空調機構成問題
ある建物に室内機を導入する際、必ずどの室内機も室外機と接続されている必要がある。一つの室外機に接続できる室内機の数には制限があるが、一つの室外機には複数台の室内機を接続することができる。このとき、建物に導入されている室外機と、それに接続されている室内機との組を空調システムという。
【0053】
一つの建物に空調機を設置する際、様々なパターンが考えられる。まず、室内機を設置する際、室内機は各ゾーンでかかる顕熱を取り除くことによって快適な温度を維持しているので、各ゾーンにおいて必要となる顕熱負荷以上を処理できる室内機が必要とされる。室内機の組み合わせ方としては、処理できる顕熱負荷が大きな室内機を一つ置くというパターンや、処理できる顕熱負荷が小さな種類の室内機を複数配置するなど様々な組み合わせが考えられる。また、換気装置は一つのゾーンで必要となる換気量を満たす必要があり、換気装置の導入により各ゾーンで必要となる顕熱負荷も変化する。次に、室外機を配置する際、まずどの種類の室外機を導入するのか、次にどのゾーンの室内機と接続し空調システムを構成するのかに対しても様々なパターンが考えられる。
【0054】
どの空調システムを導入するかによって消費電力が変化する。このとき消費電力が最小となる空調システムを導出する問題を空調機構成問題という。本開示では、消費電力を15年分の電気料金に換算したランニングコストと、空調機の値段(イニシャルコスト)とを加えたものの最小化を目指す。
【0055】
(4−2−1)空調機構成において考慮すべき制約
空調機を配置する上で必要な制約条件について説明する。
【0056】
まず、各ゾーンに配置されている室内機と換気装置が処理することのできる負荷が、そのゾーンで必要とされる負荷を上回ることが必要であり、また、各ゾーンに配置できる室内機の数がある上限を超えないことと、室外機に接続できる室内機の数もある上限を超えないことも条件として加える。また、ゾーンで必要となる負荷以上の室内機を配置しても、その室内機の接続状態などにより未処理の熱負荷が発生してしまう時刻が存在してしまうことがあるため、ここで発生する未処理顕熱負荷は規定値以下であるという条件も加える。上記の考慮すべき点を以下に整理する。
(A)各ゾーンに配置された室内機が処理することのできる顕熱負荷が、そのゾーンでかかる顕熱負荷以上である。
(B)各ゾーンに配置される室内機の上限を守る。
(C)室外機に接続できる室内機の台数の上限を守る。
(D)室外機の設置上限を守る。
(E)各ゾーンに配置された換気装置が処理することのできる換気量は、そのゾーンでかかる換気負荷以上である。
(F)各ゾーンで発生した処理できなかった顕熱負荷は、規定値以下である。
【0057】
(4−2−2)0−1整数計画問題としての定式化
空調機構成問題を、0−1整数計画問題として定式化する。
【0058】
0−1整数計画問題とは、最適化問題において、すべての変数が0または1の値を取るもののことである。(4−2−1)節で挙げた考慮すべき制約(A)〜(F)のうち、(A)、(E)、(F)は条件を緩和できるように扱い、制約を違反した量を目的関数で最小化する。
【0059】
(4−2−2−1)記号説明
定式化に利用する記号について説明する。
【0060】
定数
I:室内機の集合
O:室外機の集合
Z:ゾーンの集合
V:換気装置の集合
T=[1, 2, …, 8760]:時刻の集合
a
j, j∈I:室内機jの処理可能な顕熱負荷
b
i, i∈Z:ゾーンiでかかる顕熱負荷
f
i, i∈Z:ゾーンiでかかる換気負荷
g
v, v∈V:換気装置vの処理可能な換気負荷
p
j, j∈I:室内機jの値段
q
v, v∈V:換気装置vの値段
c:ゾーンに配置される室内機の上限
d:室外機に接続できる室内機の台数の上限
e:室外機の設置上限
M:未処理顕熱の基準値
変数
x
i,j,k, i∈Z, j∈I, k∈O:室内機jがゾーンiに配置され種類kの室外機につながっているとき1、そうでないとき0となる変数
y
i,v, i∈Z, v∈V:換気装置vがゾーンiに配置されているとき1、そうでないとき0となる 変数
x:x
i,j,kのベクトル表記
y:y
i,vのベクトル表記
δ
k, i∈Z:種類kの室外機が設置されているかを表す変数(数1で表される変数)
【数1】
【0061】
(4−2−2−2)定式化
(4−2−2−1)節の記号を利用し、(4−2−1)節の(A)〜(D)の制約を元に定式化したものを以下に示す。
【数2】
【0062】
目的関数f(x), h(y)は、変数x
i,j,k, y
i,vをそれぞれシミュレーションソフトに入力することにより出力として得られる消費電力であり、C(f(x), h(y))は、消費電力から電力料金を算出する関数である。
【0063】
制約式中のg(y)は、変数y
i,vをシミュレーションソフトに入力することにより出力として得られる負荷である。
【0064】
制約式中のu
t(x)は、変数x
i,j,kをシミュレーションソフトに入力することにより出力として得られる、時刻tにおける未処理顕熱負荷である。
【0065】
(4−2−3)制約付きブラックボックス最適化問題の解法
一般的に、制約条件付きブラックボックス最適化問題は無制約最適化問題に変形する。無制約最適化問題へ変更するための手法として、探索の際制約条件を満たさないものは探索空間から外す方法と、ペナルティー関数法を用いる方法が考えられている。
【0066】
本問題では、制約(A)、(E)、(F)に関してペナルティー関数法を適用し、制約(B)〜(D)に違反するものは探索空間から外した。ペナルティー関数法とは、制約条件を満たさないことに対するペナルティー項を目的関数に加えて定義されるペナルティー関数を無制約最適化する手法である。
【0067】
ペナルティー関数F(x)を次のように定義する。
【数3】
ρは、正のパラメータである。
【0068】
(4−2−4)ブラックボックス最適化問題の解法
本節ではブラックボックス最適化問題に対する解法について紹介し、本開示で取り組んだ解法の方針を説明する。(4−2−3)節で用いた方法により問題を無制約ブラックボックス最適化問題に変形し、F(x)に対し基本的なブラックボックス最適化問題に対する解法として知られている反復局所探索法を用いることによって解の改善を目指した。
【0069】
(4−3)計算時刻の抽出
計算時刻を抽出するにあたりどのようなデータ構造をしているかというトレーニングデータが必要になる。しかし、空調機構成問題では空調機を配置する建物の種類や立地条件、気候などによりシミュレーション結果も変動するため、一意なトレーニングデータを作成することができない。そこで本開示では、
図4に示されるように、反復局所探索法において最初の局所解を導出するまでは時刻抽出を行わず全ての時刻で計算を行い、最初の局所解導出までに得られたデータをトレーニングデータとして時刻抽出を行い、それ以降の探索では計算時刻を抽出して計算を行うことにより計算時間の削減を実現した。
【0070】
(4−3−1)スパース推定
スパース推定は、ここ10数年、情報学、機械学習、統計学など、様々な分野から注目を集めているが、本開示では、L
1正則化法の代表である、Tibshiraniの提案したLASSO(Least Absolute Shrinkage and Selection Operator)を用いた。LASSOは、回帰モデルの損失関数にパラメータのL
1ノルムに基づく正則化項を加えた正則化損失関数を最小化することによってパラメータを推定する方法で、推定の安定化とともに変数選択も行うことができる手法である。以下ではスパース推定の理論と本開示での適用方法を説明する。
【0071】
(4−3−1−1)スパース推定の理論
連続値をとる目的関数Yとp次元説明変数x=(x
1, …, x
p)
Tに関して、n個の観測によりデータ(x
i, y
i); i=1, …, nが得られたとする。x
i=(x
i1, …, x
ip)
Tとする。
【数4】
【0073】
X=(x
(1), …, x
(p)), x
i=(x
i1, …, x
nj)
T y=(y
1, …, y
n)
Tとおくと回帰モデルはつぎのように書ける。
【数5】
【0074】
線形回帰モデルの回帰係数の推定法としてlassoと呼ばれる次の制約付き最小化関数を考える。
【数6】
【0075】
lassoに基づいてパラメータ推定を行うことにより、いくつかのパラメータの推定値はぴったり0に縮小する性質を持つ。数6の式で得られる解は、数6の式に対してラグランジュの未定乗数法を適用することにより得られる関数
【数7】
をパラメータβに関して最小化することにより得られる解と同値になっている。
【0076】
(4−3−1−2)本開示におけるスパース推定
i回目のシミュレーション計算における時刻tにおける消費電力をx
it(t=1, …, 8760)、全時刻の消費電力の合計値をy
iとすると線形回帰モデルとして下式のように書くことができ、
【数8】
このモデルに対してスパース推定を行うことにより、回帰係数(β
1, …, β
8760)のうち多くの時刻にかかる係数は0となり、係数が0でない時刻のみシミュレーションソフトで消費電力を導出し係数をかけることにより、全時刻における消費電力を推定した。
【0077】
(4−3−2)極値統計
本節では、未処理負荷が発生する可能性のある時刻を抽出するために用いる極値統計について説明する。極値統計学とは、もともと自然災害の予測や評価の際に用いられてきた学問であり、限られた期間の観測データから将来どのような大きな値をもつ事象が発生するか予測することを目的に考えられた。観測されていない右裾の領域について推測するため、極値統計では大きな値をとるデータのみに分布を当てはめることを考える。極値統計にはいくつかの統計モデルが存在するが、本開示ではGEVモデルを活用する。GEVモデルでは、ある期間でのブロック最大データに対し一般極値分布をあてはめて解析を行った。以下ではGEVモデルとその解析方法について紹介する。
【0078】
(4−3−2−1)極値理論
はじめに、独立で同一分布Fに従う確率変数X
1, X
2, …について考える。n個の確率変数の最大値を
【数9】
とおく。適当な尺度との変換により基準化するとほとんどの連続分布が満たす条件の下で、Z
nは退化していない分布に収束することが知られている。
【0079】
(Fisher-Tippettの定理)
ある定数a
n>0, b
n∈Rと退化していない分布Gが存在して、
【数10】
を満たすならば、分布Gは次の標準極値分布Gξで表すことができる。
【数11】
【0080】
(定義)
次の分布を一般極値分布といいGEV(μ,σ,ξ)(−∞<μ<∞, σ>0, −∞<ξ<∞)で表す。
【数12】
【0081】
一般極値分布GEV(μ,σ,ξ)のパラメータ(μ,σ,ξ)はブロック最大データに一般極値分布をあてはめ、最尤法により推定する。一般極値分布は最尤推定量に関する正則条件を満たしていないが、ξ>0.5の場合、最尤推定量は漸近有効推定量になることが示されており、これまでの実験から応用上ξ≦0.5になることはまれであるため、一般にパラメータ推定は最尤法で行われる。
【0082】
一般極値分布GEV(μ,σ,ξ)の上側p確率点z
p
【数13】
において、この確率点z
pは再現期間1/pの再現レベルと呼ぶ。ここでは再現レベルについて考える。分布Gを、ある期間の中(一年間など)の最大データが従う一般極値分布GEV(μ,σ,ξ)とする。期間最大データは、互いに独立で同一の分布Gに従う確率変数Z
1, Z
2, …の実現値とする。このときi番目の期間を考えるとZ
iは期間最大なので、事象Z
i>z
pは最大データが値z
pを超えることを、事象Z
i≦z
pは観測したすべてのデータが値z
pを超えないことを表す。ここで2値の確率変数
【数14】
を考える。このB
1, B
2, …はベルヌーイ試行になる。G(z
p)=1−pよりB
iは互いに独立で二項分布B(1,p)に従う。このとき
【数15】
はT年間で各年の最大データz
pを超えた年の数を表しており、J
T〜B(T,p)よりその平均E(J
T)=Tpとなり、特にT=1/pとするとE(J
1/p)=1より再現レベルz
pを超える現象が観測されるのは1/p年で平均一回である。
【0083】
(4−3−2−2)本開示における極値統計
本開示におけるブロックは局所探索法で探索した10点のうち未処理負荷が最大となるデータとし、各時刻において極値分布の作成を行った。作成した極値分布に基づいて各時刻で今後出る可能性のある未処理負荷の最大値z
maxを推定する。ここでは、より安全なレベル期間z
pとして期間Yにおいてz
pを超える確率を小さな確率αで抑える。すなわち十分小さいαに対して
【数16】
を満たすpを考える。ただしM
Y=max[Z
1, Z
2, … Z
Y]である。
ここで与えられたαに対して
【数17】
となるpを計算する。すなわち期間Yで年最大データがz
pを超える確率をα以下に抑えるために期間最大データが従う一般極値分布Gの上側p=p(α,Y)確率点z
pを起こりえる最大値z
maxと定義する。未処理顕熱の基準値Mとして、z
max>Mである時刻の抽出計算を行い、z
max<Mである時刻は間引きを行った。
【0084】
(4−4)問題例
(4−4−1)基本情報
空調機割り当ての上での基本的な情報を、以下の表1、表2、表3、表4に示す。
表1は、上からゾーン数、室内機の種類数、室外機の種類数を表している。
表2は、各換気装置タイプにおける処理可能な換気負荷を表している。
表3は、各室内機タイプにおける処理可能な顕熱負荷容量を表している。
表4は、各ゾーンにかかる顕熱負荷と換気負荷を表している。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0085】
(4−4−2)各制約条件
(4−2)節で述べた各制約に関して下に示す。
(B)ゾーンに配置できる室内機は2台まで。
(C)一つの室外機に接続できる室内機は6台まで。
(D)室外機の設置上限は4台まで。
(F)未処理顕熱負荷の規定値は5.5kWまでとする。
【0086】
本開示において、反復局所探索法を用いることによって消費電力の最も小さくなる空調機の構成を導出すると同時に、スパース推定と極値統計を用いることにより計算時間の削減を試みた。計算環境はIntelR Core? i7 CPU 2.5GHz、メモリは8GBである。
【0087】
スパース推定と極値統計により抽出計算した結果の評価と、従来人が選定していた構成と本開示で導出した最適解の比較を行った。
【0088】
(4−5)計算実験
(4−5−1)終了条件
反復局所探索法における終了時条件は、反復回数が10000点探索した時終了とした。また、一度に探索する近傍は10点とし、10点のうち最善の解に移動するものとした。単純反復局所探索法の過程で350点解を探索しても解が改善しない場合、その解を局所解とし反復局所探索のステップへ移行するものとした。
【0089】
(4−5−2)時刻抽出
最初の局所解に至るまでに1100回の解計算が行われ、この1100回分の計算データをトレーニングデータとしてスパース推定、極値統計による時刻抽出を行った。
【0090】
(4−5−2−1)スパース推定による時刻抽出
スパース推定を行うことにより24時間365日、8760変数のうち27変数の抽出が行われた。スパース推定による消費電力推定におけるmae(mean absolute error)は31.23であった。全体のmaeは小さく、また得られた全ての局所解における実現値と推測値は次の表5のようになり、局所解における評価値の推測も正しくできていると考えられる。
【表5】
【0091】
推測値と実現値の相関係数は、0.9999867であった。これよりほとんど解の上下関係が崩れていないことがわかり推測値による局所探索を行うことが可能であることを裏付けることができている。
【0092】
(4−5−2−2)極値統計による時刻抽出
極値統計により時刻抽出における基準値Mは安全側に作用させるために本来の基準値(5.5kW)よりも低い4kWを用いた。本開示では10000回の計算を行っており、極値統計では10回の計算結果の最大値を用いていることからY=1000, α=0.05とし一般極値分布Gの上側p(0.05, 1000)=5.13×10
-5確率点z
pを計算することにより、計算過程において5パーセントの確率で起こりえる値z
maxを計算することができ、z
max≧4である時刻を抽出した。安全側に基準値を下げたにもかかわらず本来の基準値である5.5kWを超えた日時で極値統計による抽出では包括できなかった時刻が[11/19 10:00:00, 11/19 11:00:00, 11/19 12:00:00]の3点存在した。この3時刻における全探索過程における未処理顕熱の推移を
図5〜7に示す。
図5〜7より基準値5.5を超えたのは3642回目の計算によるものであることがわかる。3642回目に探索した空調機構成に対する全時刻の未処理顕熱を
図8に示す。
【0093】
図8よりそれぞれの構成における未処理顕熱を確認すると、どの構成においても基準値を大きく超える未処理顕熱が発生している時刻があり、極値統計で選ばれなかった時刻で基準値を超える未処理顕熱が現れるのは、特殊な構成に対してのみであり局所解に近づいていく時に発生する未処理顕熱は極値統計による抽出でカバーできていることがわかる。
【0094】
(4−5−2−3)最適解と計算時間
本開示において導出された最適構成と、従来人が選択していた構成に対する評価値は以下の表6のようになっている。
【表6】
【0095】
表6を見るとわかる通り最適設計がどの従来設計よりもトータルコストの良い結果が導出できており、ペナルティーの値も0にできている。
【0096】
計算時間に関する比較を以下の表7に示す。
【表7】
【0097】
フル計算するときと比較し計算時間を73%削減することができた。
【0098】
(4−6)結論
空調機構成問題は、シミュレーションにより目的関数や制約条件がわかるブラックボックス最適化問題であり定式化することができない。そのため、本開示では反復局所探索法を用いて最適化を行った。反復局所探索法を用いることによって、従来よりもコストの低い構成を導出することができた。しかし、シミュレーションソフトによる計算コストが大きいという問題点があり、単純な反復局所探索法では莫大な時間がかかってしまった。
【0099】
そこで本開示では、最初に局所解に陥るまでのデータをトレーニングデータとし、スパース推定を用いて一部の日時から目的関数値の推定を行うことにより、計算すべき時刻を8760変数から27変数に短縮することができ、maeは31.23、相関係数が0.9999867と非常に精度の高い推定を行うことができた。しかし、スパース推定による時刻抽出のみでは制約条件を考慮していないため抽出されなかった時刻で未処理顕熱が発生してしまう可能性がある。そこで、極値統計による制約条件に違反する可能性のある時刻抽出を行うことにより、制約条件を違反する可能性のある変数を抽出し、スパース推定で抽出した時刻と合わせ重複をなくした172変数での抽出計算を行うことにより、計算時間を73%削減することができた。また、目的関数値よりも、従来設計よりもコストの小さいものを導出でき、フルで計算を行ったときと遜色ない結果を得ることができた。
【0100】
(5)効果
組合せ解決定システム190は、シミュレーションに必要な計算コストを削減することができる。そのため、組合せ解決定システム190は、計算時間を削減して、ブラックボックス最適化問題の解を効率的に導出することができる。
【0101】
(6)変形例
(6−1)変形例A
必須系列データ抽出部150は、所定の精度で評価指標を算出するために不要なデータを、第1系列データから排除することによって、第2系列データを取得してもよい。
【0102】
必須系列データ抽出部150は、所定の制約条件を考慮するときに不要なデータを、第1系列データから排除することによって、第3系列データを取得してもよい。
【0103】
(6−2)変形例B
組合せ解決定システム190が決定する組合せ解は、物の組合せ解、又は、方法の組合せ解である。実施形態の場合、組合せ解は、空調制御パラメータ及び空調制御内容等の方法の組合せ解であってもよい。
【0104】
また、組合せ解決定システム190は、空調システム以外にも用いられてもよい。例えば、組合せ解決定システム190は、プラントの設計システムに用いることができる。この場合、組合せ解決定システム190は、プラント運用費用の最小化を実現するプラントの各機器の最適容量を決定したり、各機器の最適な運用方法を決定したりするために用いられてもよい。
【0105】
(6−3)変形例C
組合せ解決定システム190が決定する組合せ解は、組合せ解の適用対象の状況を改善するものであってもよい。実施形態の場合、組合せ解の適用対象は、空調対象空間である。第1系列データは、組合せ解の適用対象の状況の改善に影響を与える、状況に関する過去のデータである。状況とは、例えば、空調対象空間の温度、湿度及び二酸化炭素濃度である。過去のデータとは、例えば、熱負荷及び換気負荷である。
【0106】
(6−4)変形例D
必須系列データ抽出部150は、スパース推定によって第2系列データを抽出する。しかし、必須系列データ抽出部150は、スパース推定以外の他の方法によって第2系列データを抽出してもよい。他の方法とは、重回帰分析、主成分分析、判別分析及びランダムフォレストが挙げられる。
【0107】
(6−5)変形例E
必須系列データ抽出部150は、極値統計によって第3系列データを抽出する。しかし、必須系列データ抽出部150は、極値統計以外の他の方法によって第3系列データを抽出してもよい。他の方法の一例は、ある一定の頻度で所定の値を超えた条件を抽出する方法である。他の方法の別の例は、発生した値を正規分布に当てはめて、平均と分散を算出し、ある確率で所定の値を超える条件を抽出する方法である。
【0108】
―むすび―
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。