【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明は、使用者が頭部に装着するヘルメットと、該ヘルメットに取り付けられ、使用者の眼前に配置される外方に膨出した曲面状のバイザと、表示画像を形成する表示部と、該表示部による表示画像を情報として含む表示光を前記バイザの反射作用面に投影する投射光学系と、を具備し、前記バイザを通して視認される外界の光景に前記表示画像による虚像を形成する頭部装着型表示装置であって、
水平前方を向いた使用者の左右両眼の間の中央の位置を原点O、使用者から見て原点Oから前方に向かう軸をZ軸、Z軸に対し直交し使用者から見て上方向に向かう軸をY軸、Z軸及びY軸に共に直交する軸をX軸として定義するとともに、前記バイザの反射作用面への入射光線の光軸と該反射作用面との交点をO’、該反射作用面における前記交点O’での法線をZ’軸、該Z’軸に直交し、且つ、前記入射光線の光軸と該入射光線に対し前記反射作用面で反射して使用者の眼に向かって進行する出射光線の光軸とが含まれる平面をZ’軸とでなす軸をY’軸、Y’軸及びZ’軸に共に直交する軸をX’軸、として定義したとき、
前記投射光学系の内部、又は該投射光学系と前記反射作用面との間の光路上
の、Y−Z平面に平行な面内とX−Z平面に平行な面内のいずれにおいても中間像が形成され、
前記バイザは、前記ヘルメットに対しX軸に平行な軸を中心に回転可能であり、上方へスライドすることで使用者が前記ヘルメットを着脱することを可能とする一方、当該バイザの使用時には使用者の眼前でその反射作用面の上側が外方に倒れるように傾斜した状態に保持され、
該バイザの反射作用面の形状は、
該反射作用面に対する表示光の入射角の相違による光学的パワーの差異に相当する分だけ、Y’−Z’平面内の曲率がX’−Z’平面内の曲率よりも小さな非球面形状であることを特徴としている。
【0014】
上述したように従来の航空機用HMDではバイザの反射作用面は球面状であるのに対し、本発明に係る頭部装着型表示装置では、バイザの反射作用面はY’−Z’平面内の曲率がX’−Z’平
面内の曲率よりも小さな非球面形状である。但し、特許文献2に開示されているHMDのようにバイザの形状を市販品のヘルメットと同じ形状にする必要があるといった制約はない。そのため、垂直方向の曲率を水平方向の曲率に比べて極端に小さくする必要はないので、反射作用面における垂直方向と水平方向との光学的パワーの差は小さい状態である。それによって、垂直方向と水平方向のいずれにおいても中間像を形成した状態で、表示光の入射角の相違による光学的パワーの比較的小さな差異を打ち消すように反射作用面におけるY’−Z’平面内とX’−Z’平面内の曲率をそれぞれ調整することができる。その結果、表示光が使用者の眼に到達するまでの光路における垂直方向と水平方向との光学的パワーを概ね揃えることができ、反射作用面が球面状であった場合に生じていた非点収差を小さくすることができる。
【0015】
また本発明に係る頭部装着型表示装置
では、垂直方向と水平方向のいずれにおいても投射光学系の内部又は投射光学系と反射作用面との間の光路上で中間像を形成させる構成
であるため、反射作用面に到達する前に一旦、絞られた光が反射作用面に当たって反射して使用者の眼に到達する。そのため、垂直方向、水平方向のいずれにおいても広い観察視野を実現することができる。また、投射光学系の内部又は投射光学系と反射作用面との間の光路上で表示光の光束が絞られるので、使用者が装着するヘルメットの内側での該使用者の頭部や顔面と光束との干渉を回避し易くなる。また、投射光学系を構成する光学部品の配置の自由度が大きくなることで、表示部や投射光学系の光学設計が容易になるという利点もある。
【0016】
本発明に係る頭部装着型表示装置において、バイザの反射作用面は非球面であれば様々な形状にすることができる。
本発明に係る頭部装着型表示装置の一実施態様として、前記バイザの反射作用面は自由曲面形状であり、使用者の両眼にそれぞれ対応したY’軸に対し面対称形状である構成とすることができる。
【0017】
また本発明に係る頭部装着型表示装置の別の実施態様として、前記バイザの反射作用面は、Z−Y平面上に位置する頂点に対し回転対称である非球面形状である構成としてもよい。
【0018】
また本発明に係る頭部装着型表示装置のさらに別の実施態様として、前記バイザの反射作用面は、Y’−Z’平面内とX’−Z’平面内とで曲率が互いに相違するトロイダル面形状である構成としてもよい。
【0019】
また本発明に係る頭部装着型表示装置を特に航空機用のHMDとして使用する場合、表示画像の視認性のみならず、高い装着性、動き易さ、身体への負担の小ささなどの要素も考慮したものである必要がある。
【0020】
そこで本発明に係る頭部装着型表示装置では例えば、交点O’における前記反射作用面の傾斜角は10°以上であり、該反射作用面のY’−Z’平面内とX’−Z’平面内とでの曲率半径は共に50〜500mmの範囲内であり、該バイザの厚さは0.1〜10mmの範囲内である構成とするとよい。
【0021】
なお、上記構成において、前記バイザは、その内面又は外面に該バイザの基材と異なる材料による表面層が形成されている構成とするとよい。
これにより、バイザ自体の基材の種類や厚さに依らずに、適切な反射及び外光の透過を実現可能な反射作用面を形成することができる。
【0022】
また、この構成では特に、反射作用面とは異なる面にバイザの基材と異なる材料による表面層を形成して、該面を反射を低減する面とするとよい。
これにより、バイザ自体の基材の種類や厚さに依らずに、反射を低減しゴースト像を抑制可能な反射低減面を形成することができる。
【0023】
また、バイザが取り付けられるヘルメットは曲面形状である。また、バイザの正面には使用者の顔面が対向するため、投射光学系は使用者の頭部及び顔面を避けた斜め方向から表示光をバイザに照射する必要があり、これにより非対称なぼけが加わったぼけ画像が形成されてしまう。通常、このぼけ画像の光学的な補正が必要である。
【0024】
そこで本発明に係る頭部装着型表示装置の一実施態様として、前記投射光学系は少なくとも1枚の反射鏡を含み、該反射鏡の反射作用面は非球面形状である構成とすることができる。また、この構成において前記反射鏡の反射作用面は凹面とすればよい。また上記構成において、前記反射鏡は裏面反射鏡であり、反射作用に加えて屈折作用も有するものとしてもよい。この場合、前記屈折作用を有する面は非球面形状とするとよい。
【0025】
また本発明に係る頭部装着型表示装置の別の実施態様として、前記投射光学系は両面に屈
折作用を有するレンズを少なくとも1枚含み、該レンズの少なくとも一面は非球面形状である構成とすることができる。
【0026】
投射光学系を上記のように構成することにより、表示画像の非対称なぼけを補正して、良好な虚像を使用者の眼前に表示することができる。
なお、この構成において、前記レンズは屈折率ndが1.58以上であるものとするとよい。
このように屈折率が高いレンズを用いることにより、光学的パワーが増加し、レンズ枚数を少なくすることができ、重量、サイズ、コスト等を低減することができる。
【0027】
また本発明に係る頭部装着型表示装置の一実施態様として、前記表示部は二色以上の表示を行う構成とするとよい。
この構成によれば、例えば、一般的な情報の表示と緊急を要する情報の表示とを異なる色として、より的確に情報を使用者に伝えることができる。
【0028】
また本発明に係る頭部装着型表示装置において、前記表示部から出射される表示光の視野中心となる主光線は、該表示部の表示面に対し非直交方向の角度で出射するように該表示部及び前記投射光学系が配置されている構成とすることができる。
【0029】
また本発明に係る頭部装着型表示装置において、前記表示部から出射される表示光の視野中心となる主光線は、該表示部の表示面の中心を外れた位置から出射するように該表示部及び前記投射光学系が配置されている構成としてもよい。
【0030】
即ち、こうした構成により、表示光の光路が使用者の頭部及び顔面を避けた非同軸光学系を実現することができる。
【0031】
また本発明に係る頭部装着型表示装置において表示部は様々な構成とすることができる。
例えば本発明に係る頭部装着型表示装置の一実施態様として、前記表示部は、透過型の表示素子、及び、該表示素子に背面側から照明光を照射するバックライト照明部、を含む構成とすることができる。
【0032】
また本発明に係る頭部装着型表示装置の別の実施態様として 前記表示部は、反射型の表示素子、照明光を出射する照明部、及び、前記照明光を前記表示素子の表示面側に照射するとともに該表示面で反射した光を案内する反射型光学系と、を含む構成とすることもできる。
【0033】
また本発明に係る頭部装着型表示装置のさらに別の実施態様として 前記表示部は、有機ELディスプレイなどの自発光型の表示素子を含む構成としてもよい。この構成によれば、表示素子を照明する照明部が不要になるので、表示部の構成が簡素になり小形化や軽量化に有利である。
【0034】
また本発明に係る頭部装着型表示装置のさらに別の実施態様として 前記表示部は、小型プロジェクタ及び小型スクリーンを含む構成としてもよい。
【0035】
この場合、前記表示部は、透過型の表示素子、及び、該表示素子に背面側から照明光を照射するものであって少なくとも一部が小型プロジェクタであるバックライト照明部、を含むものとすることができる。
【0036】
また本発明に係る頭部装着型表示装置では、前記表示部及び前記投射光学系は使用者の両眼に対応して左右一対設けられ、該左右
一対の投射光学系を構成する光学素子の一部は両眼に共通に利用されている構成とすることができる。
【0037】
この構成によれば、一部の光学素子を共用することで、使用する光学素子の数を減らしてコスト低減を図ることができる。