特許第6841326号(P6841326)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841326
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】頭部装着型表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/02 20060101AFI20210301BHJP
【FI】
   G02B27/02 Z
【請求項の数】21
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-519909(P2019-519909)
(86)(22)【出願日】2017年5月25日
(86)【国際出願番号】JP2017019590
(87)【国際公開番号】WO2018216176
(87)【国際公開日】20181129
【審査請求日】2019年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 真人
【審査官】 横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−019874(JP,A)
【文献】 特表2002−542409(JP,A)
【文献】 特開2013−178422(JP,A)
【文献】 特開平07−218859(JP,A)
【文献】 特表昭61−501946(JP,A)
【文献】 米国特許第05722091(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0252728(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/02
H04N 5/64,5/74
H04N 9/31,13/04
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が頭部に装着するヘルメットと、該ヘルメットに取り付けられ、使用者の眼前に配置される外方に膨出した曲面状のバイザと、表示画像を形成する表示部と、該表示部による表示画像を情報として含む表示光を前記バイザの反射作用面に投影する投射光学系と、を具備し、前記バイザを通して視認される外界の光景に前記表示画像による虚像を形成する頭部装着型表示装置であって、
水平前方を向いた使用者の左右両眼の間の中央の位置を原点O、使用者から見て原点Oから前方に向かう軸をZ軸、Z軸に対し直交し使用者から見て上方向に向かう軸をY軸、Z軸及びY軸に共に直交する軸をX軸として定義するとともに、前記バイザの反射作用面への入射光線の光軸と該反射作用面との交点をO’、該反射作用面における前記交点O’での法線をZ’軸、該Z’軸に直交し、且つ、前記入射光線の光軸と該入射光線に対し前記反射作用面で反射して使用者の眼に向かって進行する出射光線の光軸とが含まれる平面をZ’軸とでなす軸をY’軸、Y’軸及びZ’軸に共に直交する軸をX’軸、として定義したとき、
前記投射光学系の内部、又は該投射光学系と前記反射作用面との間の光路上の、Y−Z平面に平行な面内とX−Z平面に平行な面内のいずれにおいても中間像が形成され、
前記バイザは、前記ヘルメットに対しX軸に平行な軸を中心に回転可能であり、上方へスライドすることで使用者が前記ヘルメットを着脱することを可能とする一方、当該バイザの使用時には使用者の眼前でその反射作用面の上側が外方に倒れるように傾斜した状態に保持され、
該バイザの反射作用面の形状は、該反射作用面に対する表示光の入射角の相違による光学的パワーの差異に相当する分だけ、Y’−Z’平面内の曲率がX’−Z’平面内の曲率よりも小さな非球面形状であることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記バイザの反射作用面は自由曲面形状であり、使用者の両眼にそれぞれ対応したY’軸に対し面対称形状であることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項3】
請求項1に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記バイザの反射作用面は、Z−Y平面上に位置する頂点に対し回転対称である非球面形状であることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項4】
請求項1に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記バイザの反射作用面は、Y’−Z’平面内とX’−Z’平面内とで曲率が互いに相違するトロイダル面形状であることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項5】
請求項1に記載の頭部装着型表示装置であって、
交点O’における前記反射作用面の傾斜角は10°以上であり、該反射作用面のY’−Z’平面内とX’−Z’平面内とでの曲率半径は共に50〜500mmの範囲内であり、該バイザの厚さは0.1〜10mmの範囲内であることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項6】
請求項に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記バイザは、その内面又は外面に該バイザの基材と異なる材料による表面層が形成されていることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項7】
請求項1に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記投射光学系は少なくとも1枚の反射鏡を含み、該反射鏡の反射作用面は非球面形状であることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項8】
請求項に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記反射鏡の反射作用面は凹面であることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項9】
請求項に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記反射鏡は裏面反射鏡であり、反射作用に加えて屈折作用も有することを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項10】
請求項に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記屈折作用を有する面は非球面形状であることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項11】
請求項1に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記投射光学系は両面に屈折作用を有するレンズを少なくとも1枚含み、該レンズの少なくとも一面は非球面形状であることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項12】
請求項11に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記レンズは屈折率ndが1.58以上であることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項13】
請求項1に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記表示部は二色以上の表示を行うものであることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項14】
請求項1に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記表示部から出射される表示光の視野中心となる主光線は、該表示部の表示面に対し非直交方向の角度で出射するように該表示部及び前記投射光学系が配置されていることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項15】
請求項1に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記表示部から出射される表示光の視野中心となる主光線は、該表示部の表示面の中心を外れた位置から出射するように該表示部及び前記投射光学系が配置されていることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項16】
請求項1に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記表示部は、透過型の表示素子、及び、該表示素子に背面側から照明光を照射するバックライト照明部、を含んで構成されていることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項17】
請求項1に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記表示部は、反射型の表示素子、照明光を出射する照明部、及び、前記照明光を前記表示素子の表示面側に照射するとともに該表示面で反射した光を案内する反射型光学系と、を含んで構成されていることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項18】
請求項1に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記表示部は、自発光型の表示素子を含むことを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項19】
請求項1に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記表示部は、小型プロジェクタ及び小型スクリーンを含むことを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項20】
請求項13に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記表示部は、透過型の表示素子、及び、該表示素子に背面側から照明光を照射するものであって少なくとも一部が小型プロジェクタであるバックライト照明部、を含むことを特徴とする頭部装着型表示装置。
【請求項21】
請求項1に記載の頭部装着型表示装置であって、
前記表示部及び前記投射光学系は使用者の両眼に対応して左右一対設けられ、該左右一対の投射光学系を構成する光学素子の一部は両眼に共通に利用されていることを特徴とする頭部装着型表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像情報などを虚像として使用者の眼前に表示する表示装置に関し、さらに詳しくは、使用者が頭部に装着して使用する頭部装着型の表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヘリコプタや飛行機などの航空機を操縦する際に、ヘルメットマウントディスプレイ(Helmet Mounted Display:以下「HMD」と称す)と呼ばれる表示装置が使用されるようになってきている。HMDは、ブラウン管(CRT)や液晶ディスプレイ(LCD)などの表示素子に表示された画像を、操縦者が頭部に着用するヘルメットに設けられたバイザ(シールド)に投影して操縦者側に反射させることにより、操縦者の眼前に虚像による表示画像を形成するものである。
【0003】
航空機(主として軍用機)用のヘルメットでは一般的な二輪車用ヘルメットとは異なり、通常、バイザは球面形状である。これは、寸法精度の高いつまりは歪み等ができるだけ小さいバイザを作製する場合に球面形状とするのが最も加工が容易であること、球面形状とすると加速度による大きな外力に対して高い強度を確保し易いこと、などの理由によるものと推測される。そのため、航空機用のHMDでは、球面形状であるバイザにおいて表示光を反射させるように光学系が構成されている。
【0004】
図8は従来のHMDにおけるバイザを含む光学系の概略構成図であり、(a)は概略縦断面図、(b)は概略横断面図である。
断面が円形の一部を切り取った形状である球形状のバイザ100は、使用者Hの頭部を被う一方、使用者Hの顔面前方が開放された形状である図示しないヘルメットに上下にスライド可能な状態で取り付けられている。バイザ100は使用者Hに向いた内面が反射面100aであり、該反射面100aには、表示光の一部を反射するとともに、外界から到来する光の一部を透過する被層が形成されている。
【0005】
表示画像を形成する画像表示部101から出射された表示光は、投射光学系102により、バイザ100の反射面100aの所定領域に投影される。そして、その反射光が使用者Hの眼EL、ERに到達する。また、バイザ100を通過した外界からの光の一部も使用者Hの眼EL、ERに到達する。これにより、使用者Hの眼前には外界の光景に重畳して表示画像による虚像が形成される(特許文献1など参照)。
【0006】
特許文献1に記載されているように、通常、投射光学系102は画像表示部101から出射した表示光をコリメートしてバイザ100の反射面に投影する。図8ではその表示光の光束の光軸を一点鎖線で示している。
【0007】
こうしたHMDでは、図8(a)に示しているように、断面部分円形状であるバイザ100の反射面100aは使用者Hの視線前方に水平に延伸する軸(Z軸)に対し、バイザ100の上部側が外界側に傾斜した状態に配置されている。こうした配置では、非点収差の発生が避けられず、光軸から外れた位置を通過する表示光ほど、つまりは表示画像の中心から離れるほど、収差の影響が大きくなって画像がぼけてしまう。特に表示画像の視野を広げようとすると収差は増大するため、こうした従来の構成によるHMDでは、表示画像の視野を広げることが難しいという問題があった。
【0008】
一方、特許文献2には、二輪車用ヘルメットのシールドの内面(反射面)に表示画像を投影して虚像表示を行うHMDが開示されている。この場合、シールドの形状を従来の市販品である二輪車用ヘルメットと同じ形状(垂直方向の曲率が水平方向の曲率に比べて極端に小さい、つまりは曲がり具合がゆるやかである非球面形状)にしなければならないという制約がある。そのため、表示光をシールドに照射する光学系の構成を工夫することで虚像表示を可能としている。しかしながら、こうした構成のHMDでも、視野の拡大は難しく、また、小形軽量化にも不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015−154420号公報
【特許文献2】特開2010−19874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般に航空機用のHMDでは、使用者が操縦を行う上できわめて重要である情報を表示することが多いため、広い視野の表示画像について高い視認性が求められる。上述した従来のHMDではこうした要求に応えることは困難である。
【0011】
本発明はこうした課題を解決するために成されたものであり、その主たる目的は、使用者の眼前に配置されるバイザに表示画像を投影する頭部装着型表示装置において、非点収差を低減して表示画像の視野を広げことが可能であるとともに高い視認性を実現することができる表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明は、使用者が頭部に装着するヘルメットと、該ヘルメットに取り付けられ、使用者の眼前に配置される外方に膨出した曲面状のバイザと、表示画像を形成する表示部と、該表示部による表示画像を情報として含む表示光を前記バイザの反射作用面に投影する投射光学系と、を具備し、前記バイザを通して視認される外界の光景に前記表示画像による虚像を形成する頭部装着型表示装置であって、
水平前方を向いた使用者の左右両眼の間の中央の位置を原点O、使用者から見て原点Oから前方に向かう軸をZ軸、Z軸に対し直交し使用者から見て上方向に向かう軸をY軸、Z軸及びY軸に共に直交する軸をX軸として定義するとともに、前記バイザの反射作用面への入射光線の光軸と該反射作用面との交点をO’、該反射作用面における前記交点O’での法線をZ’軸、該Z’軸に直交し、且つ、前記入射光線の光軸と該入射光線に対し前記反射作用面で反射して使用者の眼に向かって進行する出射光線の光軸とが含まれる平面をZ’軸とでなす軸をY’軸、Y’軸及びZ’軸に共に直交する軸をX’軸、として定義したとき、
前記投射光学系の内部、又は該投射光学系と前記反射作用面との間の光路上の、Y−Z平面に平行な面内とX−Z平面に平行な面内のいずれにおいても中間像が形成され、
前記バイザは、前記ヘルメットに対しX軸に平行な軸を中心に回転可能であり、上方へスライドすることで使用者が前記ヘルメットを着脱することを可能とする一方、当該バイザの使用時には使用者の眼前でその反射作用面の上側が外方に倒れるように傾斜した状態に保持され、
該バイザの反射作用面の形状は、該反射作用面に対する表示光の入射角の相違による光学的パワーの差異に相当する分だけ、Y’−Z’平面内の曲率がX’−Z’平面内の曲率よりも小さな非球面形状であることを特徴としている。
【0014】
上述したように従来の航空機用HMDではバイザの反射作用面は球面状であるのに対し、本発明に係る頭部装着型表示装置では、バイザの反射作用面はY’−Z’平面内の曲率がX’−Z’平面内の曲率よりも小さな非球面形状である。但し、特許文献2に開示されているHMDのようにバイザの形状を市販品のヘルメットと同じ形状にする必要があるといった制約はない。そのため、垂直方向の曲率を水平方向の曲率に比べて極端に小さくする必要はないので、反射作用面における垂直方向と水平方向との光学的パワーの差は小さい状態である。それによって、垂直方向と水平方向のいずれにおいても中間像を形成した状態で、表示光の入射角の相違による光学的パワーの比較的小さな差異を打ち消すように反射作用面におけるY’−Z’平面内とX’−Z’平面内の曲率をそれぞれ調整することができる。その結果、表示光が使用者の眼に到達するまでの光路における垂直方向と水平方向との光学的パワーを概ね揃えることができ、反射作用面が球面状であった場合に生じていた非点収差を小さくすることができる。
【0015】
また本発明に係る頭部装着型表示装置では、垂直方向と水平方向のいずれにおいても投射光学系の内部又は投射光学系と反射作用面との間の光路上で中間像を形成させる構成であるため、反射作用面に到達する前に一旦、絞られた光が反射作用面に当たって反射して使用者の眼に到達する。そのため、垂直方向、水平方向のいずれにおいても広い観察視野を実現することができる。また、投射光学系の内部又は投射光学系と反射作用面との間の光路上で表示光の光束が絞られるので、使用者が装着するヘルメットの内側での該使用者の頭部や顔面と光束との干渉を回避し易くなる。また、投射光学系を構成する光学部品の配置の自由度が大きくなることで、表示部や投射光学系の光学設計が容易になるという利点もある。
【0016】
本発明に係る頭部装着型表示装置において、バイザの反射作用面は非球面であれば様々な形状にすることができる。
本発明に係る頭部装着型表示装置の一実施態様として、前記バイザの反射作用面は自由曲面形状であり、使用者の両眼にそれぞれ対応したY’軸に対し面対称形状である構成とすることができる。
【0017】
また本発明に係る頭部装着型表示装置の別の実施態様として、前記バイザの反射作用面は、Z−Y平面上に位置する頂点に対し回転対称である非球面形状である構成としてもよい。
【0018】
また本発明に係る頭部装着型表示装置のさらに別の実施態様として、前記バイザの反射作用面は、Y’−Z’平面内とX’−Z’平面内とで曲率が互いに相違するトロイダル面形状である構成としてもよい。
【0019】
また本発明に係る頭部装着型表示装置を特に航空機用のHMDとして使用する場合、表示画像の視認性のみならず、高い装着性、動き易さ、身体への負担の小ささなどの要素も考慮したものである必要がある。
【0020】
そこで本発明に係る頭部装着型表示装置では例えば、交点O’における前記反射作用面の傾斜角は10°以上であり、該反射作用面のY’−Z’平面内とX’−Z’平面内とでの曲率半径は共に50〜500mmの範囲内であり、該バイザの厚さは0.1〜10mmの範囲内である構成とするとよい。
【0021】
なお、上記構成において、前記バイザは、その内面又は外面に該バイザの基材と異なる材料による表面層が形成されている構成とするとよい。
これにより、バイザ自体の基材の種類や厚さに依らずに、適切な反射及び外光の透過を実現可能な反射作用面を形成することができる。
【0022】
また、この構成では特に、反射作用面とは異なる面にバイザの基材と異なる材料による表面層を形成して、該面を反射を低減する面とするとよい。
これにより、バイザ自体の基材の種類や厚さに依らずに、反射を低減しゴースト像を抑制可能な反射低減面を形成することができる。
【0023】
また、バイザが取り付けられるヘルメットは曲面形状である。また、バイザの正面には使用者の顔面が対向するため、投射光学系は使用者の頭部及び顔面を避けた斜め方向から表示光をバイザに照射する必要があり、これにより非対称なぼけが加わったぼけ画像が形成されてしまう。通常、このぼけ画像の光学的な補正が必要である。
【0024】
そこで本発明に係る頭部装着型表示装置の一実施態様として、前記投射光学系は少なくとも1枚の反射鏡を含み、該反射鏡の反射作用面は非球面形状である構成とすることができる。また、この構成において前記反射鏡の反射作用面は凹面とすればよい。また上記構成において、前記反射鏡は裏面反射鏡であり、反射作用に加えて屈折作用も有するものとしてもよい。この場合、前記屈折作用を有する面は非球面形状とするとよい。
【0025】
また本発明に係る頭部装着型表示装置の別の実施態様として、前記投射光学系は両面に屈作用を有するレンズを少なくとも1枚含み、該レンズの少なくとも一面は非球面形状である構成とすることができる。
【0026】
投射光学系を上記のように構成することにより、表示画像の非対称なぼけを補正して、良好な虚像を使用者の眼前に表示することができる。
なお、この構成において、前記レンズは屈折率ndが1.58以上であるものとするとよい。
このように屈折率が高いレンズを用いることにより、光学的パワーが増加し、レンズ枚数を少なくすることができ、重量、サイズ、コスト等を低減することができる。
【0027】
また本発明に係る頭部装着型表示装置の一実施態様として、前記表示部は二色以上の表示を行う構成とするとよい。
この構成によれば、例えば、一般的な情報の表示と緊急を要する情報の表示とを異なる色として、より的確に情報を使用者に伝えることができる。
【0028】
また本発明に係る頭部装着型表示装置において、前記表示部から出射される表示光の視野中心となる主光線は、該表示部の表示面に対し非直交方向の角度で出射するように該表示部及び前記投射光学系が配置されている構成とすることができる。
【0029】
また本発明に係る頭部装着型表示装置において、前記表示部から出射される表示光の視野中心となる主光線は、該表示部の表示面の中心を外れた位置から出射するように該表示部及び前記投射光学系が配置されている構成としてもよい。
【0030】
即ち、こうした構成により、表示光の光路が使用者の頭部及び顔面を避けた非同軸光学系を実現することができる。
【0031】
また本発明に係る頭部装着型表示装置において表示部は様々な構成とすることができる。
例えば本発明に係る頭部装着型表示装置の一実施態様として、前記表示部は、透過型の表示素子、及び、該表示素子に背面側から照明光を照射するバックライト照明部、を含む構成とすることができる。
【0032】
また本発明に係る頭部装着型表示装置の別の実施態様として 前記表示部は、反射型の表示素子、照明光を出射する照明部、及び、前記照明光を前記表示素子の表示面側に照射するとともに該表示面で反射した光を案内する反射型光学系と、を含む構成とすることもできる。
【0033】
また本発明に係る頭部装着型表示装置のさらに別の実施態様として 前記表示部は、有機ELディスプレイなどの自発光型の表示素子を含む構成としてもよい。この構成によれば、表示素子を照明する照明部が不要になるので、表示部の構成が簡素になり小形化や軽量化に有利である。
【0034】
また本発明に係る頭部装着型表示装置のさらに別の実施態様として 前記表示部は、小型プロジェクタ及び小型スクリーンを含む構成としてもよい。
【0035】
この場合、前記表示部は、透過型の表示素子、及び、該表示素子に背面側から照明光を照射するものであって少なくとも一部が小型プロジェクタであるバックライト照明部、を含むものとすることができる。
【0036】
また本発明に係る頭部装着型表示装置では、前記表示部及び前記投射光学系は使用者の両眼に対応して左右一対設けられ、該左右一対の投射光学系を構成する光学素子の一部は両眼に共通に利用されている構成とすることができる。
【0037】
この構成によれば、一部の光学素子を共用することで、使用する光学素子の数を減らしてコスト低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係る頭部装着型表示装置によれば、バイザの反射作用面で生じる非点収差を低減し、視野の広い表示画像を観察可能とすることができる。また、虚像である表示画像と外界の光景とのいずれについても高い視認性を実現することができる。さらにまた、バイザへ表示画像を投影する投射光学系の配置等の自由度が増すので、装置の小形化及び軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の一実施例であるHMDにおけるバイザを含む光学系の概略構成図であり、(a)は概略縦断面図、(b)は概略横断面図。
図2】本実施例のHMDにおける表示部及び投射光学系の縦方向の詳細構成図。
図3】本実施例のHMDにおける表示部及び投射光学系の横方向の詳細構成図。
図4】本実施例のHMDにおける表示光の概略光路を示す斜視図。
図5】本実施例のHMDにおける表示部の他の構成例を示す図。
図6】本実施例のHMDにおける表示部の他の構成例を示す図。
図7】本実施例のHMDにおける表示部の他の構成例を示す図。
図8】従来のHMDにおけるバイザを含む光学系の概略構成図であり、(a)は概略縦断面図、(b)は概略横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明に係る頭部装着型表示装置の一実施例であるHMDについて、添付図面を参照して説明する。
図1は本実施例のHMDのバイザを含む光学系の概略構成図であり、(a)は概略縦断面図、(b)は概略横断面図である。また、図2及び図3はそれぞれ図1(a)及び(b)において、光学系の構成をより詳細に示した図である。また、図4は表示光の概略光路を示す斜視図である。図4ではバイザ等の記載を省略している。
【0041】
本実施例のHMD1は、典型的には、航空機を操縦する操縦者が頭部に装着して使用するものである。このHMD1は、使用者Hの頭部を被う一方、その顔面前方が開放された形状である図示しないヘルメットに後述するX軸に平行な軸を中心に回転可能で上下にスライド可能な状態で取り付けられたバイザ10と、図示しない画像処理部から入力される画像データに基づいて表示画像を形成する画像表示部11と、表示画像を情報として含む表示光をバイザ10の所定領域に投影する投射光学系12と、を備える。図3に示すように、画像表示部11及び投射光学系12は使用者Hの一対の眼(左眼EL、右眼ER)に対応して左右一対で設けられている。右眼ER用の表示部及び投射光学系を符号11R及び12R、左眼EL用の表示部及び投射光学系を符号11L及び12Lで示す。
【0042】
バイザ10使用者H側の面に反射面10aが形成されており、該反射面10aは、表示光の一部を反射するとともに、外界から到来する光の一部を透過する被層である。この被膜層はバイザ10自体の基材とは異なる材料からなり、例えば、バイザ10の基材はポリカーボネイト、反射面10aを形成する被膜層はSiO、SiO2、Al23、MgO、Ta25、TiO2等の1種類又は複数種類の組合せからなる。また、バイザ10の厚さは基材の種類によって相違するが、概ね0.1〜10mmの範囲内である。
【0043】
画像表示部11L、11Rで形成された表示画像を含む表示光は投射光学系12L、12Rから出射してバイザ10の反射面10a上にそれぞれ投影され、その反射光が使用者Hの左眼EL及び右眼ERに到達する。また、バイザ10を通過した外界からの光の一部も使用者Hの眼EL、ERに到達する。これにより、使用者Hの眼前には外界の光景に重畳して表示画像の虚像が形成される。こうした基本的な光学系の全体的な構成は従来と同じである。
【0044】
ここでは、説明の便宜上、X軸、Y軸、及びZ軸、並びに、X’軸、Y’軸、及びZ’軸を以下のように定義する。
図1図4中に示すように、使用者Hの左眼EL及び右眼ERの中間の位置を原点Oとし、使用者Hから見てその原点Oから前方へ向かう軸をZ軸、該Z軸に直交する方向で使用者Hから見て上方向となる軸をY軸、Y軸及びZ軸の両方に直交する軸で使用者Hから見て左外方となる軸をX軸、と定める。また、投射光学系12(12L、12R)から出射してバイザ10に到達するまでの光線の光軸C1とバイザ10の反射面10aとの交点を交点O’、その交点O’におけるバイザ10の法線方向で使用者Hから見て外方向に向かう軸をZ’軸、該Z’軸に直交する方向であってバイザ10で反射する前の光線の光軸C1と反射したあとの光線の光軸C2とが共にY’−Z’平面上に存在するような軸をY’軸、Y’軸及びZ’軸の両方に直交する軸をX’軸と定める。なお、交点O’は左眼EL、右眼ERに対応してそれぞれ存在するから、図4に示すように、X’軸、Y’軸、Z’軸も左右それぞれ存在する。
【0045】
図8に示した従来のHMDではバイザ100の反射面100aは球面状であったのに対し、本実施例のHMDにおいて、バイザ10の反射面10aは下記(1)式で表される回転対称非球面形状(軸対称非球面形状)であり、その頂点UはY−Z平面上に存在する。
【数1】
非球面形状であるから、交点O’におけるY’軸方向の曲率とX’軸方向の曲率とは相違しており、後述するように、前者を後者より小さく(つまりはY’軸方向の曲率半径をX’軸方向の曲率半径よりも大きく)設定している。
【0046】
以下、本実施例のHMDにおける光学系の詳細な構成について説明する。
バイザ10は図示しないヘルメットに対してX軸周りに回転可能に取り付けられている。図1(a)及び図2に示すように、バイザ10が完全におろされた状態(つまりは使用状態)では、使用者Hの眼前において反射面10aはその上部側が前方に倒れるように傾斜した状態となっている。交点O’におけるその傾斜角(交点O’における反射面10aの接平面と直立する平面とのなす角度)は10°以上である。
【0047】
図2に示すように、画像表示部11は、透過型カラー液晶表示素子などの透過型表示素子112とバックライト照明部111とを含み、バックライト照明部111から出射した光が透過型表示素子112の表示面を透過することで、透過型表示素子112の表示面上に形成された画像が表示光として出射される。これは左右全く対称(つまりはY−Z平面について面対称)である。投射光学系12は、複数のレンズ121と、反射面が凹形状である裏面反射型ミラー122(122L、122R)と、平板状ミラー123とを含む。これも左右全く対称であるが、レンズ121と裏面反射型ミラー122とは左右独立に設けられているのに対し、平板状ミラー123はちょうどY−Z平面を垂直に横切るように配置されており、左右の投射光学系12L、12Rにおいて共用されている。
【0048】
画像表示部11から出射した表示光はレンズ(図2では2枚のレンズを用いているがその枚数は問わない)121を経て裏面反射型ミラー122に達するが、該裏面反射型ミラー122の入射側の屈折面122aで屈折されたあと反射面122bに達し該反射面122bで集光されつつ反射される。そして、その反射光はミラー123で再び反射されてバイザ10の反射面10aに向かうが、裏面反射型ミラー122の反射面122bで集光されているため、ミラー123と反射面10aとの間の光路上で一旦中間像を形成する。図2では中間像が形成される結像面を符号Qで示している。ここでは、垂直方向(つまりはY−Z平面に平行な面内)、水平方向(X−Z平面に平行な面内)のいずれにおいても中間像が形成される。ただし、ミラー123と反射面10aとの間の光路上でなく、ミラー123を含む投射光学系12の内部で中間像を形成するようにしてもよい。
【0049】
なお、図2に示しているように、ここでは、画像表示部11から出射して投射光学系12のレンズ121に入射する表示光の光軸は、画像表示部11の透過型表示素子112の表示面に直交してない。即ち、非同軸光学系の構成が採られている。そのため、非対称なぼけが加わった表示画像が形成されてしまう。そこで、裏面反射型ミラー122の屈折面122aと反射面122bとの少なくとも一方、或いは、レンズ121を非球面形状とすることで、上述したような表示画像のぼけを補正するようにしている。
【0050】
また、投射光学系12から出射された表示光、厳密に言えば、中間像の結像面Qから徐々に拡がりつつ進む表示光は、バイザ10の反射面10aに当たり、その凹面で集光されつつ反射される。このとき、Y’−Z’平面内での入射光の光軸の入射角度とX’−Z’平面内での入射光の光軸の入射角度とが同一ではないため、仮に、反射面が球面状であると、両平面内での光学的パワーに差が生じ、非点収差の原因となる。これに対し、本実施例のHMDでは、上記入射光の光軸の入射角度の相違に対応する分だけ、Y’−Z’平面内での曲率をX’−Z’平面内での曲率よりも小さくし、それによって両平面内での光学的パワーをほぼ同程度に揃えている。実際には、この曲率の差は僅かである。なお、通常、それらの曲率半径は共に50〜500mmの範囲内である。
【0051】
こうしてY’−Z’平面内とX’−Z’平面内とで光学的パワーをほぼ等しくすることで、表示光がそれぞれ両眼EL、ERに達したときに非点収差は殆ど問題にならない。それにより、使用者Hは、垂直方向、水平方向のいずれにも広い視野の表示画像を虚像として観測することができる。
【0052】
なお、バイザ10の反射面10aの形状は非球面形状であれば、上述したような点Uを頂点とする回転対称非球面形状に限らない。例えば、次の(2)式で定義されるトロイダル面形状でもよい。
【数2】
また、次の(3)式で定義され、且つ両眼EL、ERにそれぞれ対応するY’軸に対して面対称である自由曲面形状でもよい。
【数3】
【0053】
また、上記実施例のHMDにおいて画像表示部11や投射光学系12の構成はそれぞれ適宜に変更することが可能である。
図5図7はそれぞれ、表示部について異なる構成の例を示す概略図である。
【0054】
図5に示した画像表示部11Aは、照明部11A1と、反射型カラー液晶表示素子などの反射型表示素子11A2と、ビームスプリッタなどを含む反射型光学素子11A3と、から成る。照明部11A1から出射した光は反射型光学素子11A3で反射されて反射型表示素子11A2へと向かう。そして、反射型表示素子11A2の表示面で反射される際に該表示面に形成されている画像情報を受け、表示光として反射型表示素子11A3を通過して外部へと出射される。
【0055】
図6に示した画像表示部11Bは、有機ELディスプレイなどの自発光型表示素子11B1を含む。この構成では表示素子11B1そのものが発光して表示光を出射するので、照明部を別途設ける必要がない。
【0056】
図7に示した画像表示部11Cは、小型プロジェクタ11C1と小型スクリーン11C2とから成る。小型プロジェクタ11C1から出射した表示光は小型スクリーン11C2上に投影され、該小型スクリーン11C2に拡大した表示画像が形成される。そして、この小型スクリーン11C2上の表示画像がそのまま表示光として出射される。
【0057】
なお、図2に示した上記実施例の構成において、表示素子112としてモノクロ表示素子を用い、バックライト照明部111にカラー又は二色以上の光を発する小型プロジェクタを用いることで、実質的にカラー又は二色以上の表示画像を形成することもできる。
【0058】
さらにまた、上記実施例は本発明の一例にすぎず、上記記載の変形例にとどまらず、本発明の趣旨の範囲で適宜、変更や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【符号の説明】
【0059】
1…ヘルメットマウントディスプレイ(HMD)
10…バイザ
0a…反射面
11、11A、11B、11C、11L、11R…画像表示部
111…バックライト照明部
112…透過型表示素子
12、12L、12R…投射光学系
121…レンズ
122(122L、122R)…裏面反射型ミラー
122a…屈折面
122b…反射面
123…平板状ミラー
C1…入射光束の光軸
C2…出射光束の光軸
EL…左眼
ER…右眼
H…使用者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8