特許第6841336号(P6841336)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841336
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】モータの制御装置及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20210301BHJP
   H02P 6/08 20160101ALI20210301BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20210301BHJP
【FI】
   H02P27/06
   H02P6/08
   H02M7/48 F
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-539462(P2019-539462)
(86)(22)【出願日】2018年8月24日
(86)【国際出願番号】JP2018031406
(87)【国際公開番号】WO2019044717
(87)【国際公開日】20190307
【審査請求日】2020年1月27日
(31)【優先権主張番号】特願2017-166566(P2017-166566)
(32)【優先日】2017年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220505
【氏名又は名称】日本電産トーソク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002723
【氏名又は名称】高法特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−64837(JP,A)
【文献】 特開2015−159626(JP,A)
【文献】 国際公開第1998/42070(WO,A1)
【文献】 米国特許第9007004(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02M 7/48
H02P 6/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータによって電源からの駆動電流が供給されるモータの制御装置であって、
前記モータの現在の回転数と目標の回転数との差を算出する差算出部と、
前記インバータの出力電圧の制御値の決定に使用する係数として、初期設定された比例係数及び積分係数にそれぞれ補正係数を乗算して、補正後の比例係数及び積分係数を出力する係数補正部と、
前記差算出部により算出した差に前記補正後の比例係数を乗算した比例項と、前記差に前記補正後の積分係数を乗算して積分した積分項の少なくとも1項を算出し、算出した比例項及び積分項のいずれか1項を、又は2項の和を、前記出力電圧の制御値として決定する出力電圧決定部と、
前記出力電圧決定部により決定した前記出力電圧の制御値に基づいて、前記インバータに出力する制御信号を生成する信号生成部と、を備え、
前記補正係数は、前記インバータの現在の入力電圧に対する基準電圧の比の値であり、前記基準電圧は、前記初期設定された比例係数及び積分係数の決定時に使用又は想定していた前記インバータの入力電圧である、
モータの制御装置。
【請求項2】
前記インバータの入力電圧が変化する前後において、前記制御値に対する前記モータの応答時間が、一定時間であるか、又は一定時間に近づく、
請求項1に記載のモータの制御装置。
【請求項3】
前記制御信号は、PWM方式のパルス信号であり、
前記出力電圧決定部は、前記出力電圧の制御値として、前記パルス信号のデューティ比を決定し、
前記出力電圧決定部により決定した前記パルス信号のデューティ比の変化の速度は、前記インバータの現在の入力電圧によって変化する、
請求項2に記載のモータの制御装置。
【請求項4】
前記デューティ比の変化の速度は、前記インバータの現在の入力電圧が低いほど速く、前記インバータの現在の入力電圧が高いほど遅い、
請求項3に記載のモータの制御装置。
【請求項5】
前記制御信号は、PWM方式のパルス信号であり、
前記出力電圧決定部は、前記出力電圧の制御値として、前記パルス信号のデューティ比を決定し、
前記出力電圧決定部により決定した前記パルス信号のデューティ比の変化量の傾きは、前記インバータの現在の入力電圧が低いほど大きく、前記インバータの現在の入力電圧が高いほど小さい、
請求項2に記載のモータの制御装置。
【請求項6】
前記係数補正部は、さらに、前記インバータの出力電圧の制御値の決定に使用する係数として、初期設定された微分係数に前記補正係数を乗算して、補正後の微分係数を出力し、
前記出力電圧決定部は、前記比例項、前記積分項及び前記差の微分値に前記補正後の微分係数を乗算した微分項の少なくとも2項を算出し、算出した2項以上の和を、前記出力電圧の制御値として決定する、
請求項1〜5のいずれか一項に記載のモータの制御装置。
【請求項7】
前記差算出部は、今回算出した差と前回算出した差の変化量を算出し、
前記出力電圧決定部は、前記差の変化量に前記補正後の比例係数を乗算して前記比例項を算出し、前記差に前記補正後の積分係数を乗算して積分した積分項を算出し、前記差の変化量に前記補正後の微分係数を乗算して前記微分項を算出する、
請求項6に記載のモータの制御装置。
【請求項8】
前記電源は、前記インバータに供給する駆動電流の電圧が変動する電源である、
請求項1〜7のいずれか一項に記載のモータの制御装置。
【請求項9】
前記電源は、バッテリーである、
請求項1〜7のいずれか一項に記載のモータの制御装置。
【請求項10】
コンピュータにモータの制御方法を実行させるプログラムが記憶されたコンピュータ読み取り可能な記憶媒体であって、
前記モータの制御方法は、
前記モータの現在の回転数と目標の回転数との差を算出する工程と、
前記インバータの出力電圧の制御値の決定に使用する係数として、初期設定された比例係数及び積分係数にそれぞれ補正係数を乗算して、補正後の比例係数及び積分係数を出力する工程と、
前記算出した差に前記補正後の比例係数を乗算した比例項と、前記差に前記補正後の積分係数を乗算して積分した積分項の少なくとも1項を算出し、算出した比例項及び積分項のいずれか1項を、又は2項の和を、前記出力電圧の制御値として決定する工程と、を含み、
前記補正係数は、前記インバータの現在の入力電圧に対する基準電圧の比の値であり、前記基準電圧は、前記初期設定された比例係数及び積分係数の決定時に使用又は想定していた前記インバータの入力電圧である、
記憶媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの制御装置及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスモータ等のモータの回転数は、制御装置によって、目標回転数に制御される。例えば、モータのロータ位置とモータに供給する駆動電流との位相差を変化させて、モータの回転数を制御することが行われている(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
また、インバータからモータへ供給する駆動電流の出力電圧を調整することで、モータの回転数を目標の回転数に制御することも行われる。インバータの出力電圧の調整は、例えばPID制御によって行われる。PID制御では、P(比例)、I(微分)及びD(積分)の各係数を用いて、目標回転数と現在の回転数との差から出力電圧の制御値、例えばインバータを駆動するパルス信号のデューティ比等を算出する。
【0004】
PID制御によりモータの回転制御を行う場合、インバータの入力電圧によってモータの応答性が変動しやすい。モータの回転数はインバータの出力電圧によって変動するが、制御後に出力電圧が変化する速度はインバータの入力電圧に応じて変動するためである。例えば、パルス信号のデューティ比が同じであっても、入力電圧が低い方が出力電圧も低くなり、目的の出力電圧に安定化するまでの時間が長くなる。そのため、入力電圧が変動する環境下では、出力電圧の制御に対するモータの応答時間にばらつきが生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−350496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、モータの回転制御に対する応答性を安定化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の例示的な第1発明は、インバータによって電源からの駆動電流が供給されるモータの制御装置であって、前記モータの現在の回転数と目標の回転数との差を算出する差算出部と、前記インバータの出力電圧の制御値の決定に使用する係数として、初期設定された比例係数及び積分係数にそれぞれ補正係数を乗算して、補正後の比例係数及び積分係数を出力する係数補正部と、前記差算出部により算出した差に前記補正後の比例係数を乗算した比例項と、前記差に前記補正後の積分係数を乗算して積分した積分項の少なくとも1項を算出し、算出した比例項及び積分項のいずれか1項を、又は2項の和を、前記出力電圧の制御値として決定する出力電圧決定部と、前記出力電圧決定部により決定した前記出力電圧の制御値に基づいて、前記インバータに出力する制御信号を生成する信号生成部と、を備え、前記補正係数は、前記インバータの現在の入力電圧に対する基準電圧の比の値であり、前記基準電圧は、前記初期設定された比例係数及び積分係数の決定時に使用又は想定していた前記インバータの入力電圧である。
【発明の効果】
【0008】
本願の例示的な第1発明によれば、モータの回転制御に対する応答性を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態のモータの制御装置の構成を示すブロック図である。
図2A】インバータへの入力電圧が10Vの条件下で、補正後の係数を用いて算出したデューティ比と、当該デューティ比により駆動したモータの回転数を示すグラフである。
図2B】インバータへの入力電圧が16Vの条件下で、補正後の係数を用いて算出したデューティ比と、当該デューティ比により駆動したモータの回転数を示すグラフである。
図3A】インバータへの入力電圧が10Vの条件下で、初期設定の係数を用いて算出したデューティ比と、当該デューティ比により駆動したモータの回転数を示すグラフである。
図3B】インバータへの入力電圧が16Vの条件下で、初期設定の係数を用いて算出したデューティ比と、当該デューティ比により駆動したモータの回転数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るモータの制御装置及び記憶媒体について、説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるモータ20の制御装置110の構成を示す。
図1に示すように、モータ20の制御装置110は、モータ20の駆動装置100の構成の一部として使用される。駆動装置100は、制御装置110の他に、回転位置検出部101、インバータ102及びインバータ駆動部103を備える。
【0011】
<モータ>
本実施形態では、モータ20は3相ブラシレスモータである。図1に示すモータ20は、コイルがデルタ結線されるが、スター結線であってもよい。図1に示すように、モータ20の3相を、それぞれU相、V相及びW相と表す。
【0012】
回転位置検出部101は、モータ20の回転位置を検出する。回転位置検出部101としては、例えばホール素子、磁気抵抗素子等の磁気式センサ、光学式エンコーダ、レゾルバ等を使用することができる。
本実施形態では、回転位置検出部101としてモータ20の各コイル間に配置された3つのホール素子を用いる。各ホール素子は、磁界を検出し、その大きさに比例した検出信号を出力する。各ホール素子から出力された3つで1組の検出信号から、例えば60°の電気角ごとに回転位置を検出できる。なお、3つのホール素子の検出信号を1組とする例を説明したが、1組とするホール素子の数はこれに限定されず、モータ20の構成に応じた数のホール素子を使用できる。
【0013】
<インバータ>
インバータ102は、図1に示すように、モータ20のU相、V相及びW相の3相にそれぞれ対応する3組のアームQを備える。各アームQは、ブリッジ接続される。各アームQは、直列接続された上側のスイッチング素子Q1と下側のスイッチング素子Q2を備える。スイッチング素子Q1及びQ2としては、FET(Field Effect Transistor)、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor FET)等の半導体素子を用いることでき、本実施形態ではMOSFETを用いる。
【0014】
各アームQの上側のスイッチング素子Q1及び下側のスイッチング素子Q2には、電源200が接続される。インバータ102は、制御装置110により生成され、インバータ駆動部103から出力された制御信号を入力する。インバータ102は、入力した制御信号にしたがって、各相のアームQの上側及び下側の各スイッチング素子Q1及びQ2のオンとオフを切り替えて、例えばデューティ比のようにオンとオフの時間によってモータ20の各相に交流電圧波形の駆動電流を供給する。
【0015】
<インバータ駆動部>
インバータ駆動部103は、制御装置110において生成した制御信号から、インバータ102の各アームQの上側のスイッチング素子Q1及び下側のスイッチング素子Q2に対する制御信号をそれぞれ生成して、出力する。
【0016】
<モータの制御装置>
制御装置110は、図1に示すように、通電パターン決定部111、回転数算出部112、差算出部113、出力電圧決定部114、信号生成部115、A/D変換部116及び係数補正部117を備える。制御装置110の各構成部の処理内容は、各部の処理手順を記述したプログラムを、当該プログラムを記憶する記憶媒体からコンピュータが読み取って実行するソフトウェア処理により、実現することができる。コンピュータとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサー、マイクロコンピュータ等を使用することができる。記憶媒体としては、ハードディスク、ROM(Read Only Memory)等を使用することができる。なお、各構成部の処理内容を、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、LSI(Large Scale Integration)等のハードウェアにより実現してもよい。
【0017】
通電パターン決定部111は、回転位置検出部101から出力された3つで1組の検出信号が示す回転位置に基づき、モータ20の各相の通電パターンを決定する。通電パターンは、例えば120°通電の場合、60°ごとに切り替わり、各通電パターンで電流方向が異なる。
【0018】
回転数算出部112は、回転位置検出部101から出力された1組の検出信号から、回転位置の単位時間あたりの変化量を求め、当該変化量からモータ20の現在の回転数を算出する。
【0019】
差算出部113は、目標回転数と、回転数算出部112において算出した現在の回転数との差を算出する。差算出部113は、モータ20が搭載された車両等の外部の制御装置からその都度指示された目標回転数を入力することもできるし、記憶媒体に保存された一定の目標回転数を記憶媒体から読み取って入力することもできる。
【0020】
出力電圧決定部114は、差算出部113において算出した回転数の差により、電源200からインバータ102を介してモータ20へ供給する駆動電流の出力電圧の制御値を決定する。本実施形態では、インバータ102に出力する制御信号として、信号生成部115においてPWM(Pulse Width Modulation)方式のパルス信号を出力する。出力電圧決定部114は、パルス信号のデューティ比を出力電圧の制御値として決定する。
【0021】
本実施形態において、出力電圧決定部114は、PI制御によってデューティ比を決定する。出力電圧決定部114は、差算出部113により算出した回転数の差に、係数補正部117から出力される補正後の比例係数を乗算した比例項を算出する。また、出力電圧決定部114は、回転数の差に補正後の積分係数を乗算して積分した積分項を算出する。出力電圧決定部114は、算出した比例項及び積分項の和を、デューティ比として決定する。
【0022】
信号生成部115は、通電パターン決定部111により決定した通電パターンと、出力電圧決定部114により決定したデューティ比に基づいて、インバータ102の各スイッチング素子Q1及びQ2に出力する制御信号であるパルス信号を生成する。
【0023】
A/D変換部116は、電源200から供給される駆動電流の入力電圧をA/D変換し、デジタル値として出力する。
【0024】
係数補正部117は、出力電圧決定部114がデューティ比の決定に使用する係数として、初期設定された比例係数及び積分係数にそれぞれ補正係数を乗算して、補正後の比例係数及び積分係数を出力する。
【0025】
補正係数は、インバータ102の現在の入力電圧に対する基準電圧の比の値である。インバータ102の現在の入力電圧は、A/D変換部116においてA/D変換して得られる入力電圧である。基準電圧は、初期設定の比例係数及び積分係数の決定時に使用又は想定していたインバータ102の入力電圧である。初期設定の比例係数及び積分係数は、モータ20に要求される応答性を満足する値に調整され、決定された係数である。例えば、モータ20を電動オイルポンプに使用する場合、比例係数及び積分係数は、インバータ102の入力電圧がx1(V)の時の油の吐出圧及び吐出量が目的値に到達する時間がx2(ミリ秒)内という要求を満足する値に決定される。この例において、基準電圧はx1(V)である。係数補正部117は、初期設定された比例係数及び積分係数と基準電圧とを、例えばレジスタ等の記憶媒体に保持し、補正係数の算出時に当該記憶媒体から取得する。
【0026】
<出力電圧の制御値の決定手順>
以下、制御装置110において出力電圧の制御値であるデューティ比を決定する流れを説明する。
【0027】
まず、差算出部113が、目標回転数と現在の回転数の差を、下記式(1)により算出する。
(1) d=C−A
は、目標回転数と現在の回転数の差(rpm)を表す。Cは目標回転数(rpm)、Aは現在の回転数(rpm)を表す。
【0028】
係数補正部117は、インバータ102の現在の入力電圧に対する基準電圧の比の値を、補正係数として決定する。インバータ102の現在の入力電圧をE、基準電圧をErefと表すと、補正係数は、Eref/Eである。
【0029】
係数補正部117は、初期設定の比例係数及び積分係数の各係数に補正係数を乗算して、補正後の比例係数及び積分係数を出力する。初期設定の比例係数をK、初期設定の積分係数をKと表すと、補正後の比例係数はK×Eref/E、補正後の積分係数はK×Eref/Eである。
【0030】
出力電圧決定部114は、係数補正部117から出力される補正後の比例係数及び積分係数を使用して、回転数の差dから、下記式(2)によりデューティ比を算出する。
(2) Wf=K×Eref/E×d+Σ(K×Eref/E×d
Wfは、補正後の比例係数及び積分係数により算出したデューティ比(%)を表す。Kは比例係数(%/rpm)、Kは積分係数(%/rpm)を表す。K×Eref/E×dは回転数の差dに補正後の比例係数を乗算した比例項である。Σ(K×Eref/E×d)は回転数の差dに補正後の積分係数を乗算して積分した積分項である。
【0031】
デューティ比は、インバータ102における入力電圧と出力電圧の比である。よって、上記式(2)により算出したデューティ比Wfでモータ20を制御した後の回転数An+1(rpm)は、下記式(3)に示すようにデューティ比Wfとインバータ102の現在の入力電圧Eの乗算値に比例する。
(3) An+1∝Wf×E
【0032】
従来の一般的なPI制御では、デューティ比の算出に初期設定の比例係数K及び積分係数Kがそのまま用いられる。下記式(4)は、従来のデューティ比の算出式である。
(4) W=K×d+Σ(K×d
は、初期設定の比例係数及び積分係数により算出したデューティ比(%)を表す。
【0033】
上記式(2)及び(4)から、Wf=W×Eref/Eであるので、上記式(3)は、下記式(3a)で表すことができる。
(3a) An+1∝Wf×E=W×Eref
すなわち、デューティ比Wfで制御した後の回転数An+1は、初期設定の比例係数及び積分係数を使用して算出したデューティ比Wと基準電圧Erefの乗算値に比例する。
【0034】
一方、デューティ比Wでモータ20を制御した後の回転数An+1(rpm)は、下記式(5)に示すようにデューティ比Wとインバータ102の現在の入力電圧Eの乗算値に比例する。
(5) An+1∝W×E
【0035】
デューティ比は、インバータ102における入力電圧と出力電圧の比である。同じデューティ比でも、インバータ102の現在の入力電圧Eが低ければ出力電圧は低く、出力電圧の変化速度が遅いため、回転数の変化が小さい。一方、現在の入力電圧Eが高いと出力電圧も高く、出力電圧の変化速度が速いため、回転数の変化が大きい。したがって、従来のように、固定値の比例係数K及び積分係数Kでデューティ比Wを算出すると、上記式(5)に示すように、モータ20の回転数の変化がインバータ102の現在の入力電圧Eの影響を受ける。デューティ比の制御によって出力電圧が安定化するまでの出力電圧の変化速度が入力電圧によって変動するため、モータ20の応答時間がばらつく。
【0036】
これに対し、本実施形態では、初期設定の比例係数K及び積分係数Kに、補正係数Eref/Eを乗算する補正を導入する。これにより、インバータ102の現在の入力電圧Eが低ければ、比例係数K及び積分係数Kを大きい値に補正して、出力電圧を上昇させるデューティ比Wfに調整できる。また、本実施形態によれば、現在の入力電圧が高ければ、比例係数K及び積分係数Kを小さい値に補正して、出力電圧を低下させるデューティ比Wfに調整できる。したがって、入力電圧による出力電圧の変化速度の変動が減り、上記式(3a)に示すようにモータ20の回転数が、基準電圧下で初期設定した係数を使用してPI制御したときの回転数となる。入力電圧Eが異なる電圧値でも、モータ20の応答時間を一定時間、すなわち基準電圧下で想定した目的の応答時間に制御することが容易となり、モータ20の応答性を安定化させることができる。
【0037】
補正後の比例係数K及び積分係数Kにより算出したデューティ比Wfに対するモータ20の応答時間は、インバータ102の入力電圧が変化する前後において、一定時間であるか、又は一定時間に近づく。
なお、入力電圧が変化する前後とは、時間的な変化ではなく、モータ20を使用する環境下での変化をいう。すなわち、現在の入力電圧Eが異なる電圧値であっても、応答時間がほぼ一定時間となり、モータ20の応答性が安定化する。
【0038】
ある実験結果では、インバータへの入力電圧が10Vの条件下で、デューティ比Wfで試験用のモータを制御したときの10%−90%の応答時間は、279msであった。インバータへの入力電圧を16Vに変更して、デューティ比Wfで試験用のモータを制御したときの10%−90%の応答時間は、287msであった。誤差は8msと少なく、応答時間が一定時間に近かった。
一方、デューティ比Wにより、入力電圧が10V及び16Vの条件下で同じ試験用のモータを駆動したときの10%−90%の応答時間の誤差は150msであった。デューティ比Wfのときの応答時間と比べて誤差が大きく、応答時間が入力電圧によってばらつくことが分かる。
【0039】
図2A及び図2Bは、補正後の比例係数及び積分係数を用いて算出したデューティ比Wfと、当該デューティ比Wfにより駆動した試験用のモータの実回転数を示すグラフである。図2Aは、試験用のモータを駆動するインバータの入力電圧を10Vとしたときのグラフである。図2Bは、試験用のモータを駆動するインバータの入力電圧を16Vとしたときのグラフである。図2A及び図2Bにおいて、横軸の離散時間(N)は、制御をインターバルで実施した時間を、制御の実施回数N(N=0〜n)で表す。
【0040】
図2A及び図2Bに示すように、補正後の比例係数及び積分係数を用いて算出したデューティ比Wfの変化の速度は、インバータの現在の入力電圧によって変化する。デューティ比Wfの変化の速度は、現在の入力電圧が低いほど速く、現在の入力電圧が高いほど遅い。例えば、図2A及び図2B中の離散時間がN=40のときのデューティ比Wfの変化の速度を比較すると、入力電圧が10Vのときの方が、16Vのときよりも速い。すなわち、デューティ比Wfは、入力電圧が低いときは早く変化し、入力電圧が高いときは遅く変化するため、モータの応答時間を一定時間とするか、又は一定時間に近づけることができる。
【0041】
また、補正後の比例係数及び積分係数を用いて算出したデューティ比Wfの変化量の傾きは、インバータの現在の入力電圧が低いほど大きく、現在の入力電圧が高いほど小さい。例えば、図2A及び図2B中のデューティ比Wfの曲線の傾きが、デューティ比Wfの変化量の傾きであるが、N=40の離散時間における傾きを比較すると、入力電圧が10Vのときの方が、16Vのときよりも大きい。上記変化量の傾きを有するデューティ比Wfは、入力電圧が低いときは早く変化し、入力電圧が高いときは遅く変化するため、モータの応答時間を一定時間とするか、又は一定時間に近づけることができる。
【0042】
同様に、補正後の比例係数及び積分係数を用いて算出した最初のデューティ比Wfも、インバータの現在の入力電圧が低いほど大きく、現在の入力電圧が高いほど小さい。最初のデューティ比Wfとは、制御を開始した実施回数N=0の時に算出されたデューティ比である。
制御開始時、現在回転数A=0rpmであり、0rpmより大きい目標回転数Cが与えられるため、回転数の差dは、d=C−A=Cである。最初のデューティ比Wfは、Wf=K×Eref/E×C+K×Eref/E×Cであることから、現在の入力電圧Eが小さいほど大きくなる。したがって、図2A及び図2Bに示すように、N=0の離散時間における最初のデューティ比Wfは、入力電圧が低い10Vのときの方が16Vのときよりも大きい。
【0043】
図3A及び図3Bは、初期設定の比例係数及び積分係数を用いて算出したデューティ比Wと、当該デューティ比Wにより試験用のモータを駆動したときの実際の回転数を示すグラフである。図3Aは、試験用のモータを駆動するインバータの入力電圧を10Vとしたときのグラフである。図3Bは、試験用のモータを駆動するインバータの入力電圧を16Vとしたときのグラフである。図3A及び図3Bにおいて、横軸の離散時間(N)は、制御をインターバルで実施した時間を、制御の実施回数N(N=0〜n)で表す。
【0044】
図3A及び図3Bに示すように、デューティ比Wの場合も、入力電圧が低い方が、変化速度が速く、変化量の傾きも大きい。しかし、デューティ比Wの速度変化は、ある時間において入力電圧が低いほど回転数が低いことで、回転数の差dが大きくなることによる現象である。この現象による速度変化を考慮しても、応答時間にはばらつきが生じる。
また、デューティ比Wの場合、最初のデューティWは、入力電圧によらず一定である。制御開始時の最初のデューティWは、W=K×C+K×Cであるためである。
【0045】
以上のように、本実施形態の制御装置110によれば、インバータ102の現在の入力電圧によらず、インバータ102の出力電圧の制御に対するモータ20の応答時間を一定時間に近付けることができる。したがって、インバータ102の入力電圧が変動する環境下又は想定した基準電圧と異なる環境下でモータ20を使用する場合も、回転制御に対するモータ20の応答性を安定化することができる。
【0046】
特に、電源200が、モータ20へ供給する駆動電流の電圧が変動する電源であり、インバータ102の入力電圧が変動する場合、入力電圧によらず、安定した応答性を得ることができ、有効である。
バッテリーは、充電量によって入力電圧が変動しやすいため、電源200がバッテリーである場合には、安定した応答性を得ることができ、同様に有効である。
【0047】
また、初期設定の比例係数K及び積分係数Kは、インバータ102の入力電圧を変化させて、入力電圧が変動しても目的の応答時間が得られるときの適切な値に調整する必要がある。しかしながら、比例係数K及び積分係数Kを補正する本実施形態によれば、基準電圧Eref下で目的の応答時間が得られる値に決定すればよいため、比例係数K及び積分係数Kの設定作業が容易となる。
【0048】
〔変形例1〕
上記実施形態において、出力電圧決定部114は、現在の回転数と目標回転数の差ではなく、今回算出した差と前回算出した差の変化量から、デューティ比を決定することもできる。モータ20の応答時間は、回転数の加速の大きさに影響することから、差の変化量によって出力電圧を制御することにより、モータ20の回転制御を精度良く行うことができる。
【0049】
変形例1において、差算出部113は、下記式(1a)により今回算出した差と前回算出した差の変化量を算出する。
(1a) din=d−dn−1
inは、差の変化量を表す。dは、今回算出した差を表す。dn−1は、前回算出した差を表す。
【0050】
inは、下記式(1b)で表すこともできる。
(1b) din=An−1−A
は、今回算出した回転数を表す。An−1は、前回算出した回転数を表す。
【0051】
変形例1において、出力電圧決定部114は、差の変化量dinを用いて、下記式(2a)により、デューティ比Wfinを算出する。
(2a) Wfin=K×Eref/E×din+K×Eref/E×d
Wfinは、補正後の比例係数及び積分係数により算出したデューティ比を表す。
【0052】
上記デューティ比Wfinは、下記式で表すこともできる。
Wfin=Win×Eref/E
inは、初期設定の比例係数及び積分係数を用いて下記式(4a)で算出したデューティ比である。
(4a) Win=K×din+K×d
【0053】
デューティ比Wfinによって制御した後の回転数Afin+1(rpm)は、下記式(3b)に示すようにインバータ102への入力電圧Eに比例する。Wfin×Eは、Win×Erefに等しいため、回転数Afin+1(rpm)は、デューティ比Winと基準電圧Erefの乗算値にも比例する。
(3b) Afin+1∝Wfin×E=Win×Eref
【0054】
〔変形例2〕
上記実施形態において、出力電圧決定部114は、さらに微分項を算出して、比例項、積分項及び微分項のうちの少なくとも2項を算出し、2項以上の和をデューティ比として決定することができる。また、出力電圧決定部114は、比例項、積分項及び微分項のうちのいずれか1項をデューティ比として決定することもできる。
【0055】
例えば、PID制御の場合、係数補正部117は、さらに、インバータ102の出力電圧の制御値の決定に使用する係数として、初期設定された微分係数に上述した補正係数を乗算して、補正後の微分係数を出力する。出力電圧決定部114は、上述した比例項及び積分項に加え、差算出部113により算出した差の微分値に補正後の微分係数を乗算した微分項を算出する。出力電圧決定部114は、算出した比例項、積分項及び微分項の和を、出力電圧の制御値、すなわちデューティ比として決定する。
【0056】
下記式は、PID制御の場合のデューティ比の算出式である。
(2d) Wf=K×Eref/E×d+Σ(K×Eref/E×d
+K×Eref/E×d/dt(d
d/dt(d)は、差の微分値であり、K×Eref/E×d/dt(d)は積分項である。
【0057】
出力電圧決定部114は、比例項、積分項及び微分項のうち、PD制御の場合は比例項と微分項の和を、ID制御の場合は積分項と微分項の和を、それぞれデューティ比として決定する。
出力電圧決定部114は、比例項、積分項及び微分項のうち、P制御の場合は比例項を、I制御の場合は積分項を、D制御の場合は微分項を、それぞれデューティ比として決定する。
なお、変形例1において微分項も算出し、比例項、積分項及び微分項のうちの少なくとも2項以上の和をデューティ比とする場合は、差の変化量dinに補正後の微分係数を乗算して微分項を算出すればよい。
【0058】
本発明は、上述した実施形態及び変形例に限定されない。
例えば、モータは、PID制御によって回転数を制御できるモータであれば、上述した3相ブラシレスモータに限らない。
また、信号生成部115においてPAM(Pulse Amplitude Modulation)方式のパルス信号を生成し、出力電圧決定部114において、当該パルス信号の振幅を出力電圧の制御値として決定してもよい。PAM方式のパルス信号の振幅をPID制御によって決定する場合にも、本発明を適用することができる。
【0059】
本出願は、2017年8月31日に出願された日本特許出願である特願2017−166566号に基づく優先権を主張し、当該日本特許出願のすべての記載内容を援用する。
【符号の説明】
【0060】
20 モータ
102 インバータ
110 モータの制御装置
112 回転数算出部
113 差算出部
114 出力電圧決定部
115 信号生成部
116 A/D変換部
117 係数補正部
200 電源

図1
図2A
図2B
図3A
図3B