特許第6841371号(P6841371)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6841371
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】鉄化合物およびコラーゲン含有組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/286 20060101AFI20210301BHJP
   A61K 33/26 20060101ALI20210301BHJP
   A61K 38/39 20060101ALI20210301BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20210301BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20210301BHJP
   A23L 2/66 20060101ALI20210301BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20210301BHJP
   A23L 2/70 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   A61K36/286
   A61K33/26
   A61K38/39
   A61K9/08
   A23L2/38 B
   A23L2/66
   A23L2/00 F
   A23L2/00 K
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2020-147332(P2020-147332)
(22)【出願日】2020年9月2日
【審査請求日】2020年9月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 美保
(72)【発明者】
【氏名】山地 麻里江
(72)【発明者】
【氏名】田中 愛理
【審査官】 池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−199855(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1593223(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第1899311(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第1620936(CN,A)
【文献】 特開2010−090070(JP,A)
【文献】 ミツバチ科学 (2002) vol.23, no.3, p.97-104
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/286
A61K 38/39
A61K 33/26
A23L 2/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄化合物、コラーゲンペプチド、ベニバナエキスを含有することを特徴とするpHが2.5〜4.5である経口液体組成物であって、前記鉄化合物がフマル酸第一鉄、塩化第二鉄、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、クエン酸鉄ナトリウム、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、ピロリン酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄、及び硫酸第一鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種である経口液体組成物。
【請求項2】
鉄化合物、コラーゲンペプチド、ベニバナエキスを含有することを特徴とするpHが2.5〜4.5である経口液体組成物であって、前記鉄化合物の含有量が、鉄換算で0.002〜0.2w/v%である経口液体組成物。
【請求項3】
鉄化合物の含有量が、鉄換算で0.0002〜0.2w/v%である請求項1に記載の経口液体組成物。
【請求項4】
コラーゲンペプチドの含有量が0.02〜20w/v%である請求項1又は2に記載の経口液体組成物。
【請求項5】
ベニバナエキスの含有量が0.0002〜2w/v%である請求項1又は2に記載の経口液体組成物。
【請求項6】
ベニバナエキスが、水、エタノール、又はこれらの混合溶媒による抽出エキスである請求項1、2、又は5に記載の経口液体組成物。
【請求項7】
経口液体組成物が、液体飲料である請求項1〜6のいずれかに記載の経口液体組成物。
【請求項8】
鉄化合物及びベニバナエキスを配合することで生じる沈殿を、コラーゲンペプチドを配合することにより抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄化合物を含有する経口液体組成物に関し、医薬品、医薬部外品及び食品等の分野において利用されうる。
【背景技術】
【0002】
鉄は生体にとって必須の金属であるにも関わらず、摂取基準に対して不足しがちであることが報告されている(非特許文献1)。食生活上の効率的な摂取の方法として、鉄化合物を配合した飲料やサプリメント等が利用されているが、鉄化合物が他の配合成分と反応し、風味や品質を損なうという問題があった(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】活水論文集 健康生活学部編 60
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−93397号公報
【特許文献2】特開2000−279143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、鉄化合物を配合した経口液体組成物を調製した際、鉄化合物とベニバナエキスが反応し、沈殿を生成することを発見した。外観や舌触りといった商品性の観点から、沈殿の生成は少しでも抑制されるべきであるが、今までに、鉄化合物とベニバナエキスの沈殿を抑制する方法については報告されていない。
【0006】
本発明は、鉄化合物とベニバナエキスを組み合わせることで生成する沈殿を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、コラーゲンペプチドを配合することで沈殿生成を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
かかる知見により得られた本発明の態様は次のとおりである。
(1)鉄化合物、コラーゲンペプチド、ベニバナエキスを含有することを特徴とする経口液体組成物、
(2)鉄化合物の含有量が、鉄換算で0.0002〜0.2/v%である(1)に記載の経口液体組成物、
(3)コラーゲンペプチドの含有量が0.02〜20/v%である(1)に記載の経口液体組成物、
(4)ベニバナエキスの含有量が0.0002〜2/v%である(1)に記載の経口液体組成物、
(5)鉄化合物が、フマル酸第一鉄、塩化第二鉄、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、クエン酸鉄ナトリウム、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、ピロリン酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄、硫酸第一鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種である(1)に記載の経口液体組成物、
(6)ベニバナエキスが、水、エタノール、又はこれらの混合溶媒による抽出エキスである(1)に記載の経口液体組成物、
(7)pHが2.5〜4.5 である(1)〜(6)のいずれかに記載の経口液体組成物、
(8)経口液体組成物が、液体飲料である(1)〜(7)のいずれかに記載の経口液体組成物、
(9)鉄化合物及びベニバナエキスを配合することで生じる沈殿を、コラーゲンペプチドを配合することにより抑制する方法
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、鉄化合物とベニバナエキスを配合した場合にも、沈殿生成が抑制される経口液体組成物を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において「鉄化合物」とは、例えばフマル酸第一鉄、塩化第二鉄、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、クエン酸鉄ナトリウム、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、ピロリン酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄、硫酸第一鉄を挙げることができる。
【0011】
鉄化合物の含有量は、本発明の経口液体組成物中、鉄換算で下限値は0.0002/v%が好ましく0.002/v%がより好ましい。また、鉄化合物としては下限値は0.001/v%が好ましく、0.01/v%がより好ましい。当該組成物中に鉄化合物あるいは鉄の含有量が高くなるにつれ、沈殿物の生成が増加するからである。また、風味の点から、鉄化合物の含有量は、本発明の経口液体組成物中、鉄換算としては上限値は0.2/v%が好ましく、0.04/v%がより好ましい。また、鉄化合物の上限値は1.2/v%が好ましく、0.2/v%がより好ましい。
【0012】
本発明において「ベニバナエキス」とは、ベニバナ(紅花、Carthamus tinctorius L.)を溶媒抽出して得られた抽出液およびエキス末である。ベニバナの花、葉、茎、根茎、根等の各部位または全体を用いることができるが、花を用いることが好ましい。抽出溶媒としては、水、エタノール等の低級アルコール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールあるいはこれらの2種以上による混合溶媒等を用いることができ、好ましくは水、エタノール、又はこれらの混合溶媒である。本発明では、例えば、ベニバナの花を水で抽出およびろ過したものを好ましく用いることができる。エキスの形態は特に制限されるものではなく、加熱処理、凍結乾燥あるいは減圧乾燥などの処理により、乾燥エキス末、エキス末、軟エキス、流エキスなどにすることができる。ベニバナエキスは市販品を用いてもよく、例えば「ベニバナ抽出液」(日本粉末薬品株式会社)や「ベニバナエキスパウダー」(日本粉末薬品株式会社)、「ベニバナ抽出液」(丸善製薬株式会社)、「ベニバナ抽出液BG」(丸善製薬株式会社)、「ベニバナエキスD」(松浦薬業株式会社)等が挙げられる。なお、ベニバナを原料とした着色料製剤として「ベニバナ色素」が知られているが、ベニバナ色素はベニバナを溶媒抽出した後に、さらに遠心分離等の工程を経て特定の色価を有するように不純物を除去したものであり、ベニバナエキスとは異なる。
【0013】
ベニバナエキスの含有量は、本発明の経口液体組成物中0.0002〜2/v%であることが好ましく、0.002〜0.2/v%であることがより好ましい。ベニバナエキス含有量は、鉄化合物1質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、0.03〜4質量部がより好ましい。なお、鉄に換算すると、鉄1質量部に対して質量部が0.05〜50質量部が好ましく、0.2〜20質量部がより好ましい。
【0014】
本発明において「コラーゲンペプチド」とは、その起源は特に限定されず、合成であってもよく、牛や豚等の家畜や魚を加工する際に副生する皮、骨、靭帯、腱、軟骨等から抽出して製造されるコラーゲンペプチドであってもよいが、豚由来のコラーゲンペプチドが好ましい。コラーゲンタンパク質を酵素や化学的処理等により分解して得られるコラーゲンペプチドが好ましい。コラーゲンペプチドの平均分子量としては、特に限定されないが、500〜50000であることが好ましく、1000〜25000であることがより好ましい。また、食品への配合し易さの観点から、コラーゲンペプチド15%水溶液(測定温度=40℃)の粘度(食品添加物公定書 一般試験法:第1法)が1〜4mPa・sの範囲であることが好ましい。本発明のコラーゲンペプチドは、市販品を用いてもよく、例えば「ニッピペプタイドPS−1」(ニッピ製)、「ニッピペプタイドPRA−P」(ニッピ製)、「ニッピペプタイドFCP−EX」(ニッピ製)、「HACP−CF」(ゼライス製)、「HACP−TF」(ゼライス製)、「コラペプPU」(新田ゼラチン製)、「コラペプJB」(新田ゼラチン製)、「HDL−50SP」(新田ゼラチン製)、「SCP−3100」(新田ゼラチン製)、「peptan P2000HD」(ルスロ製)等が挙げられる。
【0015】
コラーゲンペプチドの含有量は、本発明の経口液体組成物中、0.02〜20/v%であることが好ましく、0.2〜15/v%がより好ましい。
【0016】
本発明は、経口液体組成物中の鉄化合物とベニバナエキスを配合したことに起因する沈殿物の生成を、コラーゲンペプチドを配合することで抑制できる。
【0017】
コラーゲンの含有量は、本発明の効果の点から、鉄化合物1質量部に対して1〜400質量部が好ましく、3〜260質量部がより好ましい。なお、鉄に換算すると、鉄1質量部に対して2〜2000質量部が好ましく、20〜1500質量部がより好ましい。
【0018】
本発明における経口液体組成物とは、経口摂取できる液体であれば特に制限はなく、医薬品、医薬部外品、又は食品(一般の食品だけでなく、栄養機能性食品や特定保健用食品も含む)を挙げることができる。医薬品及び医薬部外品としては、例えば内服液剤、ドリンク剤等を挙げることができる。食品としては、清涼飲料水、炭酸飲料、スポーツ・機能性飲料、ノンアルコール飲料、乳飲料、茶飲料、コーヒー飲料、果実・野菜系飲料、ゼリー飲料等が挙げられる。より好ましくは、医薬品及び医薬部外品であれば内服液剤、ドリンク剤、食品であれば、栄養機能性食品、特定保健用食品等の各種飲料、炭酸飲料、ゼリー飲料である。
【0019】
本発明の経口液体組成物のpHは、特に限定されないが、口当たりの良さという点から2.5〜4.5が好ましく、3〜4がより好ましい。pHを上記範囲に保つために、必要に応じて有機酸等のpH調整剤を配合することができる。
【0020】
本発明の経口液体組成物は、常法により製造することができ、その方法は特に限定され
るものではない。通常、各成分を量りとり、適量の精製水で溶解、撹拌した後、pHを調
整し、さらに精製水を加えて容量調整し、必要に応じてろ過、殺菌処理を施すことにより
得られる。
【0021】
また、本発明の経口液体組成物には、その他の成分として、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸及びその塩類、生薬、生薬抽出物、カフェイン、ローヤルゼリー、デキストリン等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。さらに必要に応じて、抗酸化剤、着色剤、香料、矯味剤、保存剤、甘味料、酸味剤等の添加物を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例、比較例を挙げ、本発明を更に詳細に説明する。
(比較例1〜8、実施例1〜7)
下記表1〜3に記載の処方および次の方法に従い経口液体組成物を調整した。まず、全量の10%程度の精製水に、豚由来コラーゲンペプチド(新田ゼラチン社製)、クエン酸、安息香酸ナトリウムを添加し、十分に撹拌した。その後に、クエン酸鉄アンモニウムを添加し、全量の60%程度となるように精製水を加え、十分に撹拌した。次にベニバナエキス(水抽出エキス、日本粉末薬品株式会社製)を添加し、十分に撹拌後、塩酸または水酸化ナトリウムを用いてpHを調整し、精製水を加えて全量とし、経口液体組成物を得た(実施例1〜7)。これらの経口液体組成物をスクリュー管No.7((株)マルエム製)に50ml充填し、80℃25分の殺菌を行った。コラーゲンを添加しない経口液体組成物(比較例1〜6)を対照とした。
上記の通り調製した経口液体組成物を65℃で7日間保存し、沈殿を目視により観察した。表4の基準で沈殿生成度合いを評価した。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
【表4】
【0027】
表1〜3に示した通り、鉄とベニバナエキスを配合することで沈殿が生成した(比較例1〜6)。鉄の濃度が高まると沈殿の生成が増加した(比較例1〜3)。また、ベニバナエキスの濃度が高まると沈殿生成の割合も増加した(比較例4〜5)。一方、コラーゲンペプチドを配合することにより沈殿生成が抑制された(実施例1〜7)。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により、経口液体組成物中における鉄化合物およびベニバナエキスを配合した際の沈殿を抑制することが可能となったので、医薬品、医薬部外品及び食品の分野において、商品性の高い鉄化合物及びベニバナエキス含有経口液体組成物を提供することが期待される。
【要約】
【課題】
本発明は、鉄化合物とベニバナエキスを組み合わせることで生成する沈殿を抑制することを課題とする。
【解決手段】
本発明者らは、鉄化合物を配合した経口液体組成物を調製した際、鉄化合物とベニバナエキスが反応し、沈殿を生成することを発見した。この問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、コラーゲンペプチドを配合することで沈殿生成を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
かかる知見により得られた本発明の態様は次のとおりである。
鉄化合物、コラーゲンペプチド、ベニバナエキスを含有することを特徴とする経口液体組成物、である。
【選択図】なし