特許第6841381号(P6841381)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6841381n型半導体素子、n型半導体素子の製造方法、無線通信装置および商品タグ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6841381
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】n型半導体素子、n型半導体素子の製造方法、無線通信装置および商品タグ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20210301BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20210301BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20210301BHJP
   H01L 21/283 20060101ALI20210301BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20210301BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20210301BHJP
   H01L 21/8234 20060101ALI20210301BHJP
   H01L 27/06 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   H01L29/78 619A
   H01L29/78 618B
   H01L29/78 618A
   H01L29/78 613Z
   H01L21/28 301R
   H01L21/283 C
   H01L29/28 100A
   H01L29/28 250E
   H01L29/28 280
   H01L29/28 220A
   H01L27/06 102A
【請求項の数】10
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2020-514776(P2020-514776)
(86)(22)【出願日】2020年3月6日
(86)【国際出願番号】JP2020009676
【審査請求日】2020年11月16日
(31)【優先権主張番号】特願2019-58130(P2019-58130)
(32)【優先日】2019年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2019-58131(P2019-58131)
(32)【優先日】2019年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 康宏
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 和生
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 清一郎
【審査官】 棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−293924(JP,A)
【文献】 特開2017−16820(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/180146(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/130836(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極と、
前記ソース電極およびドレイン電極の両方に接する半導体層と、
前記半導体層を前記ゲート電極と絶縁するゲート絶縁層と、
前記半導体層に対して前記ゲート絶縁層とは反対側で、前記半導体層と接する第2絶縁層と、
を備えたn型半導体素子であって、
前記半導体層がナノカーボンを含有し、
前記第2絶縁層が、
(a)真空中のイオン化ポテンシャルが5.8eVより大きく6.6eV以下である化合物(以下、「化合物(a)という」)と、
(b)ポリマーと、を含有し、
前記化合物(a)が、炭化水素化合物、ヘテロ原子が環構造の一部である有機化合物、または、ヘテロ原子が水素原子、アルキル基およびシクロアルキル基から選ばれる一種類以上の基または原子との結合を有する有機化合物である
ことを特徴とする、n型半導体素子。
【請求項2】
前記ポリマーが炭素原子およびヘテロ原子を含有したポリマーである、請求項に記載のn型半導体素子。
【請求項3】
前記ポリマーがエステル結合を有したポリマーである、請求項1または2に記載のn型半導体素子。
【請求項4】
前記ポリマーの吸水率が0.5重量%以下である、請求項1〜のいずれかに記載のn型半導体素子。
【請求項5】
前記ナノカーボンがカーボンナノチューブである、請求項1〜のいずれかに記載のn型半導体素子。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブにおいて、その表面の少なくとも一部に共役系重合体が付着している、請求項記載のn型半導体素子。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載のn型半導体素子の製造方法であって、化合物(a)およびポリマーならびに溶剤を含有する組成物を塗布する工程と、該塗布された組成物を乾燥する工程とが含まれた第2絶縁層を形成する工程を含む、n型半導体素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載のn型半導体素子の製造方法であって、ナノカーボンおよび溶剤を含有する溶液を塗布する工程と該塗布された溶液を乾燥する工程とが含まれた半導体層を形成する工程を含む、n型半導体素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載のn型半導体素子と、アンテナと、を少なくとも有する無線通信装置。
【請求項10】
請求項記載の無線通信装置を用いた商品タグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、n型半導体素子およびその製造方法に関し、また、当該n型半導体素子を用いた無線通信装置および商品タグに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RFID(Radio Frequency IDentification)技術を用いた無線通信システムが注目されている。RFIDタグは、電界効果型トランジスタ(以下、FETという)で構成された回路を有するICチップと、リーダ/ライタとの無線通信するためのアンテナを有する。タグ内に設置されたアンテナが、リーダ/ライタから送信される搬送波を受信し、ICチップ内の駆動回路が動作する。
【0003】
RFIDタグは、物流管理、商品管理、万引き防止などの様々な用途での利用が期待されており、交通カードなどのICカード、商品タグなど一部で導入が始まっている。
【0004】
今後、あらゆる商品でRFIDタグが使用されるためには、製造コストの低減が必要である。そこで、RFIDタグの製造プロセスにおいて、真空や高温を使用するプロセスから脱却し、塗布・印刷技術を用いた、フレキシブルで安価なプロセスを利用することが検討されている。
【0005】
例えば、ICチップ内の駆動回路におけるトランジスタにおいては、インクジェット技術やスクリーン印刷技術が適用できる、カーボンナノチューブ(CNT)や有機半導体を用いた電界効果型トランジスタが盛んに検討されている。
【0006】
ところで、ICチップ内の駆動回路は、その消費電力を抑制するなどのため、p型FETとn型FETからなる相補型回路で構成するのが一般的である。しかし、CNTを用いたFET(以下、CNT−FETという)は、大気中では、通常、p型半導体素子の特性を示すことが知られている。そこで、CNTを含む半導体層の上に、炭素原子と窒素原子の結合を含む有機化合物を含有する第2絶縁層や、窒素原子およびリン原子から選ばれるいずれか1種以上を有する電子供与性化合物を含有する第2絶縁層を形成することにより、CNT−FETの特性をn型半導体素子に転換することが検討されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2017/130836号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2018/180146号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、CNT上に炭素原子と窒素原子の結合を含む有機化合物を含有する層を設けることで高いn型半導体特性を有したn型半導体素子を得る方法を開示している。一方、大気下での長期間保管により、n型半導体特性に劣化が見られるという課題があった。
【0009】
それに対し特許文献2では、CNT上の層の酸素透過度を低くすることにより、大気下での長期間保管によるn型半導体特性の劣化を抑制する方法を開示している。ただし、層構成が限られるためにプロセス工程増えてしまうことや酸素透過度の低い層を設けるまでにn型半導体特性が一部劣化してしまうといった課題もあった。
【0010】
そこで本発明は、高いn型半導体特性を有し、安定性に優れたn型半導体素子を、簡便なプロセスで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
すなわち本発明は、
基材と、
ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極と、
前記ソース電極およびドレイン電極の両方に接する半導体層と、
前記半導体層を前記ゲート電極と絶縁するゲート絶縁層と、
前記半導体層に対して前記ゲート絶縁層とは反対側で、前記半導体層と接する第2絶縁層と、
を備えたn型半導体素子であって、
前記半導体層がナノカーボンを含有し、
前記第2絶縁層が、
(a)真空中のイオン化ポテンシャルが5.8eVより大きく6.6eV以下である化合物(化合物(a))と、
(b)ポリマーと、を含有し、
前記化合物(a)が、炭化水素化合物、ヘテロ原子が環構造の一部である有機化合物、または、ヘテロ原子が水素原子、アルキル基およびシクロアルキル基から選ばれる一種類以上の基または原子との結合を有する有機化合物である
ことを特徴とする、n型半導体素子である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高いn型半導体特性を有し、安定性に優れたn型半導体素子を得ることができる。また本発明の製造方法によれば、前記n型半導体素子を簡便なプロセスで得ることができる。また、その半導体素子を利用した無線通信装置および商品タグを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態1に係るn型半導体素子を示した模式断面図
図2】本発明の実施の形態2に係るn型半導体素子を示した模式断面図
図3A】本発明の実施の形態1に係るn型半導体素子の製造工程を示した断面図
図3B】本発明の実施の形態1に係るn型半導体素子の製造工程を示した断面図
図4】本発明の実施形態の一つであるn型半導体素子を用いた無線通信装置の一例を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るn型半導体素子、n型半導体素子の製造方法、無線通信装置および商品タグの好適な実施の形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本旨を逸脱しない限りにおいて、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0015】
<n型半導体素子>
本発明の実施の形態に係るn型半導体素子は、基材と、ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極と、前記ソース電極およびドレイン電極の両方に接する半導体層と、前記半導体層を前記ゲート電極と絶縁するゲート絶縁層と、前記半導体層に対して前記ゲート絶縁層とは反対側で前記半導体層と接する第2絶縁層と、を備えたn型半導体素子であって、前記半導体層がナノカーボンを含有し、また、前記第2絶縁層が、真空中のイオン化ポテンシャルが7.0eV以下である化合物、およびポリマーを含有する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態1に係る半導体素子を示す模式断面図である。この実施の形態1に係る半導体素子は、絶縁性の基材1の上に形成されるゲート電極2と、それを覆うゲート絶縁層3と、その上に設けられるソース電極5およびドレイン電極6と、それらの電極の間に設けられる半導体層4と、半導体層を覆う第2絶縁層8と、を有する。半導体層4は、ナノカーボン7を含む。
【0017】
この構造は、ゲート電極が半導体層の下側に配置され、半導体層の下面にソース電極およびドレイン電極が配置される、いわゆるボトムゲート・ボトムコンタクト構造である。
【0018】
図2は、本発明の実施の形態2に係る半導体素子を示す模式断面図である。この実施の形態2に係る半導体素子は、絶縁性の基材1の上に形成されるゲート電極2と、それを覆うゲート絶縁層3と、その上に設けられる半導体層4と、その上に形成されるソース電極5およびドレイン電極6と、それらの上に設けられる第2絶縁層8を有する。半導体層4は、ナノカーボン7を含む。
【0019】
この構造は、ゲート電極が半導体層の下側に配置され、半導体層の上面にソース電極およびドレイン電極が配置される、いわゆるボトムゲート・トップコンタクト構造である。
【0020】
本発明の実施の形態に係る半導体素子の構造はこれらに限定されるものではない。また、以下の説明は、特に断りのない限り、半導体素子の構造によらず共通する。
【0021】
(基材)
基材は、少なくとも電極系が配置される面が絶縁性を備える基材であれば、いかなる材質のものでもよい。基材としては、例えば、シリコンウエハ、ガラス、サファイア、アルミナ焼結体等の無機材料からなる基材、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルクロライド、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリシロキサン、ポリビニルフェノール(PVP)、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリパラキシレン等の有機材料からなる基材が好ましい。
【0022】
また、基材としては、例えば、シリコンウエハ上にPVP膜を形成したものや、ポリエチレンテレフタレート上にポリシロキサン膜を形成したものなど、複数の材料が積層されたものであってもよい。
【0023】
(電極)
ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極に用いられる材料は、一般的に電極として使用されうる導電材料であれば、いかなるものでもよい。導電材料としては、例えば、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)などの導電性金属酸化物;白金、金、銀、銅、鉄、錫、亜鉛、アルミニウム、インジウム、クロム、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、パラジウム、モリブデン、アモルファスシリコン、ポリシリコンなどの金属やこれらの合金;ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質;ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン;ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸との錯体など;ヨウ素などのドーピングにより導電率を向上させた導電性ポリマーなど;炭素材料など;および有機成分と導電体とを含有する材料など、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
中でも、電極の柔軟性が増し、屈曲時にも基材およびゲート絶縁層との密着性が良く、配線および半導体層との電気的接続が良好となる点から、電極は、有機成分と導電体を含有することが好ましい。
【0025】
有機成分としては、特に制限はないが、モノマー、オリゴマー、ポリマー、光重合開始剤、可塑剤、レベリング剤、界面活性剤、シランカップリング剤、消泡剤、顔料などが挙げられる。電極の折り曲げ耐性向上の観点からは、有機成分としては、オリゴマーもしくはポリマーが好ましい。
【0026】
オリゴマーもしくはポリマーとしては、特に限定されず、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ノボラック樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド前駆体、ポリイミドなどを用いることができる。これらの中でも、電極を屈曲した時の耐クラック性の観点から、アクリル樹脂が好ましい。これは、アクリル樹脂のガラス転移温度が100℃以下であり、導電膜の熱硬化時に軟化し、導電体粒子間の結着が高まるためと推定される。
【0027】
アクリル樹脂とは、繰返し単位に少なくともアクリル系モノマーに由来する構造を含む樹脂である。アクリル系モノマーの具体例としては、炭素−炭素二重結合を有するすべての化合物が挙げられ、これらのアクリル系モノマーは、単独で用いられてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0028】
導電体としては、導電材料で全部または一部が構成され、粒子自体は導電性を有している導電性粒子であることが好ましい。導電体として導電性粒子を用いることにより、それを含む電極の表面に凹凸が形成される。その凹凸にゲート絶縁膜が入り込むことで、アンカー効果が生じ、電極とゲート絶縁膜との密着性がより向上する。電極とゲート絶縁膜との密着性が向上することで、電極の折り曲げ耐性が向上する効果や、半導体素子に電圧を繰り返し印加した時の電気特性の変動が抑制される効果がある。これらの効果により、半導体素子の信頼性がより改善する。
【0029】
導電性粒子に適した導電材料としては、金、銀、銅、ニッケル、錫、ビスマス、鉛、亜鉛、パラジウム、白金、アルミニウム、タングステン、モリブデンまたは炭素などが挙げられる。より好ましい導電性粒子は、金、銀、銅、ニッケル、錫、ビスマス、鉛、亜鉛、パラジウム、白金、アルミニウムおよび炭素からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含有する導電性粒子である。これらの導電性粒子は、単独で用いられてもよいし、合金として用いられてもよいし、混合粒子として用いられてもよい。
【0030】
これらの中でも、導電性の観点から、金、銀、銅または白金の粒子が好ましい。中でも、コストおよび安定性の観点から、銀であることがより好ましい。
【0031】
また、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極のそれぞれの幅および厚み、ならびに、ソース電極とドレイン電極との間隔は、任意の値に設計することが可能である。例えば、電極幅は10μm〜10mm、電極の厚みは0.01μm〜100μm、ソース電極とドレイン電極との間隔は1μm〜1mmが、それぞれ好ましいが、これらに限らない。
【0032】
これらの電極を作製するための材料は、単独で用いられてもよいが、複数の材料を積層して電極を形成し、または、複数の材料を混合して用いて電極を形成してもよい。
【0033】
(ゲート絶縁層)
ゲート絶縁層に用いられる材料は、半導体層とゲート電極との間の絶縁が確保できれば特に限定されないが、酸化シリコン、アルミナ等の無機材料;ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルクロライド、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリシロキサン、ポリビニルフェノール(PVP)等の有機高分子材料;あるいは無機材料粉末と有機材料の混合物を挙げることができる。
【0034】
中でもケイ素と炭素の結合を含む有機化合物を含むものが好ましく、ポリシロキサンが特に好ましい。
【0035】
ゲート絶縁層は、さらに、金属原子と酸素原子との結合を含む金属化合物を含有することが好ましい。そのような金属化合物は、特に制限はなく、例えば、金属酸化物、金属水酸化物等が例示される。金属化合物に含まれる金属原子は、金属キレートを形成するものであれば特に限定されない。金属原子としては、例えば、マグネシウム、アルミニウム、チタン、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ルテニウム、パラジウム、インジウム、ハフニウム、白金などが挙げられる。中でも、入手容易性、コスト、金属キレートの安定性の点から、アルミニウムが好ましい。
【0036】
ゲート絶縁層の膜厚は0.05μm〜5μmが好ましく、0.1μm〜1μmがより好ましい。この範囲の膜厚にすることにより、均一な薄膜形成が容易になる。膜厚は、原子間力顕微鏡やエリプソメトリ法などにより測定できる。
【0037】
ゲート絶縁層は、単層でも複数層でもよい。また、1つの層を複数の絶縁性材料から形成してもよいし、複数の絶縁性材料を積層して複数の絶縁層を形成しても構わない。
【0038】
(半導体層)
半導体層は、ナノカーボンを含有する。ナノカーボンとは、ナノメートルサイズの大きさの構造を有する、炭素からなる物質であり、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、カーボンナノホーン、グラフェンナノリボン、内包CNTなどが挙げられる。半導体特性の観点から、ナノカーボンとしては、CNT、グラフェンが好ましく、CNTがより好ましい。さらにCNTは、その表面の少なくとも一部に共役系重合体が付着したCNT複合体として用いることが好ましい。半導体層は電気特性を阻害しない範囲であれば、さらに有機半導体や絶縁材料を含んでもよい。
【0039】
半導体層の膜厚は、1nm以上100nm以下が好ましい。この範囲内にあることで、均一な薄膜形成が容易になる。半導体層の膜厚は、より好ましくは1nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは1nm以上20nm以下である。膜厚は、原子間力顕微鏡やエリプソメトリ法などにより測定できる。
【0040】
(CNT)
CNTとしては、1枚の炭素膜(グラフェン・シート)が円筒状に巻かれた単層CNT、2枚のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた2層CNT、複数のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた多層CNTのいずれを用いてもよい。高い半導体特性を得るためには、単層CNTを用いるのが好ましい。CNTは、アーク放電法、CVD、レーザー・アブレーション法等により得ることができる。
【0041】
また、CNTは、半導体型CNTを80重量%以上含むことがより好ましい。さらに好ましくは、半導体型CNTを90重量%以上含むことであり、特に好ましくは、半導体型CNTを95重量%以上含むことである。CNT中に半導体型CNTを80重量%以上含ませる方法としては、既知の方法を用いることができる。例えば、密度勾配剤の共存下で超遠心する方法、特定の化合物を選択的に半導体型もしくは金属型CNTの表面に付着させ、溶解性の差を利用して分離する方法、電気的性質の差を利用し電気泳動等により分離する方法などが挙げられる。CNT中の半導体型CNTの含有率を測定する方法としては、可視−近赤外吸収スペクトルの吸収面積比から算出する方法や、ラマンスペクトルの強度比から算出する方法等が挙げられる。
【0042】
本発明において、CNTを半導体素子の半導体層に用いる場合、CNTの長さは、ソース電極とドレイン電極との間の距離(以下、「電極間距離」)よりも短いことが好ましい。CNTの平均長さは、電極間距離にもよるが、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下である。CNTの長さを短く方法としては、酸処理、凍結粉砕処理などが挙げられる。
【0043】
CNTの平均長さは、ランダムにピックアップした20本のCNTの長さの平均値として求められる。CNT平均長さの測定方法としては、原子間力顕微鏡、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡等で得た画像の中から、20本のCNTをランダムにピックアップし、それらの長さの平均値を得る方法が挙げられる。
【0044】
一般に市販されているCNTは長さに分布があり、電極間距離よりも長いCNTが含まれることがある。そのため、CNTを電極間距離よりも短くする工程を加えることが好ましい。例えば、硝酸、硫酸などによる酸処理、超音波処理、または凍結粉砕法などにより、CNTを短繊維状にカットする方法が有効である。また、フィルターによる分離を併用することは、CNTの純度を向上させる点でさらに好ましい。
【0045】
また、CNTの直径は特に限定されないが、1nm以上100nm以下が好ましく、より好ましくは50nm以下である。
【0046】
本発明では、CNTを溶媒中に均一分散させ、分散液をフィルターによってろ過する工程を設けることが好ましい。フィルター孔径よりも小さいCNTを濾液から得ることで、電極間距離よりも短いCNTを効率よく得られる。この場合、フィルターとしてはメンブレンフィルターが好ましく用いられる。ろ過に用いるフィルターの孔径は、電極間距離よりも小さければよく、0.5μm〜10μmが好ましい。
【0047】
(CNT複合体)
本発明に用いられるCNTにおいては、CNTの表面の少なくとも一部に共役系重合体を付着せしめて用いること(以下、共役系重合体が付着したCNTを「CNT複合体」と称する)が好ましい。ここで、共役系重合体とは、繰り返し単位が共役構造をとり、重合度が2以上である化合物を指す。
【0048】
CNTの表面の少なくとも一部に共役系重合体を付着させることにより、CNTの保有する高い電気的特性を損なうことなく、CNTを溶液中に均一に分散することが可能になる。CNTが均一に分散した溶液を用いれば、塗布法により、均一に分散したCNTを含んだ膜を形成することが可能になる。これにより、高い半導体特性を実現できる。
【0049】
CNTの表面の少なくとも一部に共役系重合体が付着した状態とは、CNTの表面の一部、あるいは全部を、共役系重合体が被覆した状態を意味する。共役系重合体がCNTを被覆できるのは、両者の共役系構造に由来するπ電子雲が重なることによって、相互作用が生じるためと推測される。
【0050】
CNTが共役系重合体で被覆されているか否かは、その反射色から判断できる。被覆されたCNTの反射色は、被覆されていないCNTの反射色とは異なり、共役系重合体の反射色に近い。定量的には、X線光電子分光(XPS)などの元素分析によって、CNTへの付着物の存在を確認することや、CNTと付着物との重量比を測定することができる。
【0051】
また、CNTへの付着のしやすさから、共役系重合体の重量平均分子量が1000以上であることが好ましい。
【0052】
CNTに共役系重合体を付着させる方法としては、(I)溶融した共役系重合体中にCNTを添加して混合する方法、(II)共役系重合体を溶媒中に溶解させ、この中にCNTを添加して混合する方法、(III)CNTを溶媒中に超音波等で予備分散させておき、そこへ共役系重合体を添加し混合する方法、(IV)溶媒中に共役系重合体とCNTを入れ、この混合系へ超音波を照射して混合する方法、などが挙げられる。本発明では、いずれの方法を用いてもよく、複数の方法を組み合わせてもよい。
【0053】
共役系重合体としては、ポリチオフェン系重合体、ポリピロール系重合体、ポリアニリン系重合体、ポリアセチレン系重合体、ポリ−p−フェニレン系重合体、ポリ−p−フェニレンビニレン系重合体などが挙げられるが、特に限定されない。上記重合体としては、単一のモノマーユニットが並んだものが好ましく用いられるが、異なるモノマーユニットをブロック共重合したもの、ランダム共重合したもの、およびグラフト重合したものも好ましく用いられる。
【0054】
上記重合体の中でも、本発明においては、CNTへの付着が容易であり、CNT複合体を形成しやすい観点から、ポリチオフェン系重合体が好ましく使用される。ポリチオフェン系重合体の中でも、環中に含窒素二重結合を有する縮合へテロアリールユニットと、チオフェンユニットとを、繰り返し単位中に含むものがより好ましい。
【0055】
環中に含窒素二重結合を有する縮合へテロアリールユニットとしては、チエノピロール、ピロロチアゾール、ピロロピリダジン、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾチアジアゾール、キノリン、キノキサリン、ベンゾトリアジン、チエノオキサゾール、チエノピリジン、チエノチアジン、チエノピラジンなどのユニットが挙げられる。これらの中でも特にベンゾチアジアゾールユニットまたはキノキサリンユニットが好ましい。これらのユニットを有することで、CNTと共役系重合体の密着性が増し、CNTを半導体層中により良好に分散することができる。
【0056】
(第2絶縁層)
第2絶縁層は、半導体層に対してゲート絶縁層が形成された側の反対側に形成される。半導体層に対してゲート絶縁層が形成された側の反対側とは、例えば、半導体層の下側にゲート絶縁層を有する場合は、半導体層の上側を指す。本発明の第2絶縁層を形成することにより、通常はp型半導体特性を示すナノカーボン−FETを、n型半導体特性を示す半導体素子へ転換できる。
【0057】
第2絶縁層は、(a)真空中のイオン化ポテンシャル(以下、「Ip」と記載する場合がある)が7.0eV以下である化合物(以下、「化合物(a)」と記載する場合がある)、および(b)ポリマーを含有する。
【0058】
化合物(a)は、真空中のイオン化ポテンシャルが7.0eV以下であることにより、ナノカーボンへの電子供与性が強いと考えられる。そのため、通常はp型半導体特性を示すナノカーボン−FETを、安定なn型半導体特性を示す半導体素子へ転換できると推測される。
【0059】
さらに第2絶縁層はポリマーを含有することにより、化合物(a)とナノカーボンとが相互作用する場を安定に保つことができると考えられるので、より安定なn型半導体特性が得られると推測される。
【0060】
化合物(a)としては、例えば、デカメチルニッケロセン(Ip4.4、文献値)、テトラキス(ジメチルアミノ)エチレン(Ip5.36、文献値)、クロモセン(Ip5.50、文献値)、デカメチルフェロセン(Ip5.7、文献値)、2,2’,6,6’−テトラフェニル−4,4’−ビチオピラニリデン(Ip5.84、文献値)、ジメチルテトラフルバレン(Ip6.00、文献値)、テトラメチルチアフルバレン(Ip6.03、文献値)、ヘキサメチルテトラチアフルバレン(Ip6.06、文献値)、テトラチアナフタセン(Ip6.07、文献値)、4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)ビフェニル(Ip6.09、計算値)、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン(Ip6.1、文献値)、テトラフェニル[3,4−c]チエノチオフェン(Ip6.1、文献値)、フタロシアニン(Ip6.1、文献値)、銅フタロシアニン(Ip6.1、文献値)、クォテリレン(Ip6.11、文献値)、ヘキサメチルテトラセレナフルバレン (Ip6.12、文献値)、テトラベンゾペンタセン(Ip6.13、文献値)、4−[(E)−2−(4−メトキシフェニル)エテニル]−N,N−ジメチルアニリン(Ip6.16、文献値)、ニッケロセン(Ip6.2、文献値)、亜鉛テトラフェニルポルフィリン(Ip6.2、文献値)、ビス(エチレンジチオロ)テトラチアフルバレン(Ip6.21、文献値)、2,2’,6,6’−テトラメチル−4,4’−ビチオピラニリデン(Ip6.23、文献値)、テトラメチルテトラセレナフルバレン(Ip6.27、文献値)、テトラチオメトキシテトラセレナフルバレン(Ip6.29、文献値)、1,2,5,6−テトラメチル−6a−チア−1,6−ジアザペンタレン(Ip6.30、文献値)、テトラチアフルバレン(Ip6.3、文献値)、テトラフェニルポルフィリン(Ip6.39、文献値)、4−[(E)−2−(4−フルオロフェニル)エテニル]−N,N−ジメチルアニリン(Ip6.4、文献値)、N,N,N’,N’,4,5−ヘキサメチルベンゼンジアミン(Ip6.4、文献値)、ルブレン(Ip6.41、文献値)、ビオラントレンA(Ip6.42、文献値)、1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン(Ip6.45、文献値)、β−カロテン(Ip6.5、文献値)、テトラベンゾ[a,cd,j,lm]ペリレン(Ip6.58、文献値)、ペンタセン(Ip6.58、文献値)、フェロセン(Ip6.6、文献値)、1,8−ジアミノナフタレン(Ip6.65、文献値)、ジュロリジン(Ip6.65、文献値)、ジベンゾテトラチアフルバレン(Ip6.68、文献値)、テトラセレナフルバレン(Ip6.68、文献値)、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,5−ナフタレンジアミン(Ip6.70、文献値)、1,5−ナフタレンジアミン(Ip6.74、文献値)、トリフェニルアミン(Ip6.75、文献値)、バナドセン(Ip6.75、文献値)、1−フェニルピロリジン(Ip6.8、文献値)、1−(2−メチルフェニル)ピロリジン(Ip6.8、文献値)、ヘキサメチレンテトラテルラフルバレン(Ip6.81、文献値)、フェノチアジン(Ip6.82、文献値)、1,4−フェニレンジアミン(Ip6.84、文献値)、オバレン(Ip6.86、文献値)、ナフタセン(Ip6.89、文献値)、1−(4,5−ジメトキシ−2−メチルフェニル)−2−プロパンアミン(Ip6.9、文献値)、2,4,6−トリ−tert−ブチルアニリン(Ip6.9、文献値)、ペリレン(Ip6.90、文献値)、N,N−ジメチル−p−トルイジン(Ip6.9、文献値)、N,N−ジエチルアニリン(Ip6.95、文献値)などが挙げられる。該化合物は単独種で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
なお、本発明におけるIpは、アメリカ国立標準技術研究所のデータベース(NIST Chemistry WebBook)中の光電子分光測定値、および文献(Mol. Cryst.Liq.Cryst.1989,Vol.171,pp.255−270)記載のIg値(Gas phase ionization energies)のうち、最小値を文献値として採用する。また、同データベースおよび文献にIpの記載の無いものは、Gaussian09にて、汎関数にはB3LYP、基底関数系には6−311G(d)(構造最適化計算)、6−311++G(d,p)(エネルギー計算)を用いて計算で求めた値を使用する。
【0062】
化合物(a)において、真空中のイオン化ポテンシャルが5.8eVより大きく7.0eV以下であることが好ましい。イオン化ポテンシャルを5.8eVより大きくすることにより、化合物の酸化に対する安定性が高くなり、より安定なn型半導体特性を保持できるようになる
化合物(a)において、真空中のイオン化ポテンシャルが5.8eVより大きく6.6eV以下であることがより好ましい。イオン化ポテンシャルを6.6eV以下にすることにより、ナノカーボンへの電子供与性がより強くなり、より安定なn型半導体特性が得られると考えられる。
【0063】
また、化合物(a)は有機化合物であることがより好ましい。有機化合物は、金属や有機金属化合物に比べて化学安定性が高いため、第2絶縁層中の成分との副反応などが低減され、安定性が向上すると考えられる。
【0064】
また、化合物(a)が、炭化水素化合物、ヘテロ原子が環構造の一部である有機化合物(いわゆる、ヘテロ環構造)、またはヘテロ原子が水素原子、アルキル基およびシクロアルキル基からなる群から選ばれる一種類以上の基または原子との結合を有する有機化合物(例えば、ジアルキルアミノ基を有する有機化合物)であることがより好ましい。
【0065】
アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示す。また、アルキル基の炭素数は、特に限定されないが、入手の容易性やコストの点から、1以上20以下が好ましく、より好ましくは1以上8以下である。
【0066】
シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの飽和脂環式炭化水素基を示す。シクロアルキル基の炭素数は、特に限定されないが、3以上20以下の範囲が好ましい。
【0067】
化合物(a)が炭化水素化合物であることによりCNTへの電子的な相互作用がより強くなり、より安定なn型半導体特性が得られると考えられる。また、化合物(a)が、ヘテロ原子が環構造の一部である有機化合物、またはヘテロ原子が水素原子、アルキル基およびシクロアルキル基から選ばれる一種類以上の構造との結合を有する有機化合物であることにより、化合物(a)中のヘテロ原子がCNTに近接しやすく、電子的な相互作用が強くなり、より安定なn型半導体特性が得られると考えられる。
【0068】
この場合の化合物(a)としては、例えば、2,2’,6,6’−テトラフェニル−4,4’−ビチオピラニリデン、ジメチルテトラフルバレン、テトラメチルチアフルバレン、ヘキサメチルテトラチアフルバレン、テトラチアナフタセン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン、テトラフェニル[3,4−c]チエノチオフェン、フタロシアニン、クォテリレン、ヘキサメチルテトラセレナフルバレン、テトラベンゾペンタセン、4−[(E)−2−(4−メトキシフェニル)エテニル]−N,N−ジメチルアニリン、ビス(エチレンジチオロ)テトラチアフルバレン、2,2’,6,6’−テトラメチル−4,4’−ビチオピラニリデン、テトラメチルテトラセレナフルバレン、テトラチオメトキシテトラセレナフルバレン、1,2,5,6−テトラメチル−6a−チア−1,6−ジアザペンタレン、テトラチアフルバレン、テトラフェニルポルフィリン、4−[(E)−2−(4−フルオロフェニル)エテニル]−N,N−ジメチルアニリン、N,N,N’,N’,4,5−ヘキサメチルベンゼンジアミン、ルブレン、ビオラントレンA、1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、β−カロテン、テトラベンゾ[a,cd,j,lm]ペリレン、ペンタセンなどが挙げられる。
【0069】
第2絶縁層に化合物(a)とともに用いられるポリマー(以下、ポリマー(b)ともいう)としては、例えば、ポリイミド、ポリビニルクロライド、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリシロキサン、ポリビニルフェノール、ポリビニルピロリドン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂などが挙げられる。
【0070】
ポリマー(b)としては、中でも、炭素原子およびヘテロ原子を含有したポリマーを用いることが好ましい。化合物(a)とナノカーボンは電子的に相互作用するため、互いに部分的に電荷を帯びていると考えられる。化合物(a)とナノカーボンとの相互作用する周囲に極性を有するポリマー、つまり炭素原子およびヘテロ原子を含有するポリマーが存在することで、前述の化合物/ナノカーボン間の相互作用を安定化すると推定される。特に、ポリマー(b)としては、エステル結合を有するポリマーであることが好ましい。好ましいポリマーとしては、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニルや、ポリメチルメタクリレートやポリメチルアクリレートなどのエステル結合を有するアクリル樹脂などが挙げられる。中でも、ヘテロ原子に水素原子が結合した官能基の含有量の少ない樹脂が好ましい。ヘテロ原子に水素原子が結合した官能基としては、例えば、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボキシ基、スルホ基などが挙げられる。好ましい樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレートやポリメチルアクリレートなどが挙げられる。
【0071】
また、ポリマー(b)の吸水率は0.5重量%以下であることが好ましい。前述の化合物(a)は、ポリマー中の水分の影響により化合物(a)の電子密度が低くなり、化合物(a)とナノカーボンとの電子的な相互作用が弱くなってしまうと考えられる。ポリマー(b)中の水分が少ない、つまりポリマーの吸水率が低い場合、そのような現象を避けられるため、安定なn型半導体特性を示すと推定される。ポリマー(b)の吸水率は、より好ましくは0.3重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下である。
【0072】
ポリマーの吸水率は、JIS K 7209 2000(プラスチック−吸水率の求め方)に基づき、23℃の水中に試験片を1週間浸漬し、その質量変化を測定して算出する。
【0073】
第2絶縁層中の化合物(a)やポリマー(b)の分析方法としては、n型半導体素子から第2絶縁層を構成する各成分を抽出するなどして得られたサンプルを核磁気共鳴(NMR)などで分析する方法や、第2絶縁層をXPSなどで分析する方法などが挙げられる。
【0074】
第2絶縁層の膜厚は、500nm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましく、3.0μm以上であることがさらに好ましく、10μm以上であることが特に好ましい。この範囲の膜厚にすることにより、より高いn型半導体特性を示す半導体素子へと転換でき、また、n型TFTとしての特性の安定性が向上する。また、膜厚の上限としては、特に限定されるものではないが、500μm以下であることが好ましい。
【0075】
第2絶縁層の膜厚は、第2絶縁層の断面を走査型電子顕微鏡により測定し、得られた像のうち、半導体層上に位置する第2絶縁層部分の中から無作為に選択した10箇所の膜厚を算出し、その算術平均の値とする。
【0076】
第2絶縁層は、化合物(a)やポリマー(b)以外に他の化合物を含有していてもよい。他の化合物としては、例えば、第2絶縁層を塗布で形成する場合における、溶液の粘度やレオロジーを調節するための増粘剤やチクソ剤などが挙げられる。
【0077】
また、第2絶縁層は単層でも複数層でもよい。複数層である場合、少なくとも化合物(a)を含有する層が半導体層に接している限りにおいて、少なくとも一つの層が化合物(a)とポリマー(b)とを含んでいてもよいし、化合物(a)とポリマー(b)とがそれぞれ別々の層に含まれていてもよい。例えば、半導体層上に化合物(a)を含有する第1層が形成され、その上にポリマー(b)を含有する第2層が形成された構成が挙げられる。
【0078】
(保護層)
本発明の実施の形態に係るn型半導体素子は、第2絶縁層上に、さらに保護層を有していてもよい。保護層の役割としては、擦れなどの物理ダメージや大気中の水分や酸素から半導体素子を保護することなどが挙げられる。
【0079】
保護層の材料としては、例えば、シリコンウエハ、ガラス、サファイア、アルミナ焼結体等の無機材料、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルクロライド、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリシロキサン、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリパラキシレン、ポリアクリロニトリル、シクロオレフィンポリマー等の有機材料などが挙げられる。また、例えば、シリコンウエハ上にポリビニルフェノール膜を形成したものや、ポリエチレンテレフタレート上に酸化アルミニウム膜を形成したものなど、複数の材料が積層されたものであってもよい。
【0080】
本発明の実施の形態に係る半導体素子では、ソース電極とドレイン電極との間に流れる電流(ソース・ドレイン間電流)を、ゲート電圧を変化させることによって制御することができる。そして、半導体素子の移動度μ(cm/V・s)は、下記の(a)式を用いて算出することができる。
【0081】
μ=(δId/δVg)L・D/(W・εr・ε・Vsd) (a)
ただしIdはソース・ドレイン間電流(A)、Vsdはソース・ドレイン間電圧(V)、Vgはゲート電圧(V)、Dはゲート絶縁層の厚み(m)、Lはチャネル長(m)、Wはチャネル幅(m)、εrはゲート絶縁層の比誘電率(F/m)、εは真空の誘電率(8.85×10−12F/m)、δは該当の物理量の変化量を示す。
【0082】
また、しきい値電圧は、Id−Vgグラフにおける線形部分の延長線とVg軸との交点から求めることができる。
【0083】
n型半導体素子は、ゲート電極にしきい値電圧以上の正の電圧が印加されることで、ソース−ドレイン間が導通して動作するものである。しきい値電圧の絶対値が小さく、移動度が高いものが、高機能な、特性の良いn型半導体素子である。
【0084】
(n型半導体素子の製造方法)
本発明の実施の形態に係るn型半導体素子の製造には、種々の方法を用いることができ、その製造方法に特に制限はないが、上記第2絶縁層の構成成分および溶剤を含有する組成物を塗布する工程と、その塗膜を乾燥する工程とを含むことが好ましい。また、半導体層を塗布法により形成する工程を含むことが好ましい。半導体層を塗布法により形成するには、少なくとも、半導体層の構成成分および溶剤を含有する溶液を塗布する工程と、その塗膜を乾燥する工程とを含む。
【0085】
以下、図1に示す構造の半導体素子を製造する場合を例に挙げて、本発明の実施の形態に係る半導体素子の製造方法を具体的に説明する。
【0086】
まず、図3A(a)に示すように、絶縁性基材1の上にゲート電極2を形成する。ゲート電極2の形成方法としては、特に制限はなく、抵抗加熱蒸着、電子線ビーム、スパッタリング、メッキ、化学気相成長法(CVD)、イオンプレーティングコーティング、インクジェット、印刷などの、公知技術を用いた方法が挙げられる。また、電極の形成方法の別の例として、有機成分および導電体を含むペーストを、スピンコート法、ブレードコート法、スリットダイコート法、スクリーン印刷法、バーコーター法、鋳型法、印刷転写法、浸漬引き上げ法などの、公知の技術で、絶縁基板上に塗布し、オーブン、ホットプレート、赤外線などを用いて乾燥を行い、形成する方法などが挙げられる。
【0087】
また、電極パターンの形成方法としては、上記方法で作製した電極薄膜を、公知のフォトリソグラフィー法などで所望の形状にパターン形成してもよいし、あるいは、電極物質の蒸着やスパッタリング時に、所望の形状のマスクを介することで、パターンを形成してもよい。
【0088】
次に、図3A(b)に示すように、ゲート電極2の上にゲート絶縁層3を形成する。ゲート絶縁層3の作製方法は、特に制限はないが、例えば、絶縁層を形成する材料を含む組成物を基板に塗布し、乾燥することで得られたコーティング膜を、必要に応じ熱処理する方法が挙げられる。塗布方法としては、スピンコート法、ブレードコート法、スリットダイコート法、スクリーン印刷法、バーコーター法、鋳型法、印刷転写法、浸漬引き上げ法、インクジェット法などの公知の塗布方法が挙げられる。コーティング膜の熱処理の温度としては、100℃〜300℃の範囲にあることが好ましい。
【0089】
次に、図3A(c)に示すように、ゲート絶縁層3の上部に、ソース電極5およびドレイン電極6を、同一の材料を用いて、前述の方法で同時に形成する。この形成方法としては、ゲート電極の形成方法と同様の方法が用いられる。
【0090】
次に、図3A(d)に示すように、ソース電極5とドレイン電極6との間に、半導体層4を形成する。半導体層4の形成方法としては、抵抗加熱蒸着、電子線ビーム、スパッタリング、CVDなど、乾式の方法を用いることも可能であるが、製造コストや大面積への適合の観点から、塗布法を用いることが好ましい。具体的には、スピンコート法、ブレードコート法、スリットダイコート法、スクリーン印刷法、バーコーター法、鋳型法、印刷転写法、浸漬引き上げ法、インクジェット法などを好ましく用いることができる。これらの中から、塗膜厚み制御や配向制御など、得ようとする塗膜特性に応じて塗布方法を選択することが好ましい。また、形成した塗膜に対して、大気下、減圧下または窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、アニーリング処理を行ってもよい。
【0091】
次に、図3A(e)に示すように、半導体層4を覆うように、第2絶縁層8を形成する。第2絶縁層8の形成方法としては、特に限定されず、抵抗加熱蒸着、電子線ビーム、ラミネート、スパッタリング、CVDなどの方法を用いることも可能であるが、製造コストや大面積への適合の観点から塗布法を用いることが好ましい。塗布法では、第2絶縁層の構成成分である化合物(a)およびポリマーならびに溶剤を含有する組成物を塗布する工程と、その塗膜を乾燥する工程とを少なくとも含む。
【0092】
塗布方法としては、具体的には、スピンコート法、ブレードコート法、スリットダイコート法、スクリーン印刷法、バーコーター法、鋳型法、印刷転写法、浸漬引き上げ法、インクジェット法、ドロップキャスト法などを好ましく用いることができる。これらの中から、塗膜厚み制御や配向制御など、得ようとする塗膜特性に応じて塗布方法を選択することが好ましい。
【0093】
塗布法を用いて第2絶縁層を形成するに際して、第2絶縁層が含有するポリマーを溶解させる溶媒としては、特に制限されないが、有機溶媒が好ましい。溶媒の具体例としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノt−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、イソブチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、2−ヘプタノン、γ―ブチロラクトン等のケトン類;ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−2−ブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、デカヒドロナフタレン等の炭化水素類が挙げられる。
【0094】
溶媒として、これらを2種以上用いてもよい。中でも、1気圧における沸点が110℃〜250℃の溶媒を含有することが好ましい。溶媒の沸点が110℃以上であれば、溶液塗布時に溶剤の揮発が抑制されて、塗布性が良好となる。溶媒の沸点が250℃以下であれば、絶縁膜中に残存する溶剤が少なくなり、より良好な耐熱性や耐薬品性を有する第2絶縁層が得られる。
【0095】
また、形成した塗膜に対して、大気下、減圧下または窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下でアニーリング処理や熱風乾燥を行ってもよい。具体的には例えば、アニーリングの条件としては、50℃〜150℃、3分〜30分、窒素雰囲気下が挙げられる。このような乾燥工程により、塗膜の乾燥が不十分である場合に、しっかり乾燥させることができる。
【0096】
必要に応じ、図3B(f)に示すように、第2絶縁層を覆うように、保護層9を形成してもよい。
【0097】
<無線通信装置>
次に、上記n型半導体素子を有する、本発明の実施の形態に係る無線通信装置について説明する。この無線通信装置は、例えば、RFIDタグのような、リーダ/ライタに搭載されたアンテナから送信される搬送波を受信し、また、信号を送信することで、電気通信を行う装置である。
【0098】
具体的な動作は、例えば、リーダ/ライタに搭載されたアンテナから送信された無線信号を、RFIDタグのアンテナが受信する。そして、その信号に応じて生じた交流電流が、整流回路により直流電流に変換され、RFIDタグが起電する。次に、起電されたRFIDタグは、無線信号からコマンドを受信し、コマンドに応じた動作を行う。その後、コマンドに応じた結果の回答を、RFIDタグのアンテナからリーダ/ライタのアンテナへ、無線信号として送信する。なお、コマンドに応じた動作は、少なくとも、公知の復調回路、動作制御ロジック回路、変調回路で行われる。
【0099】
本発明の実施の形態に係る無線通信装置は、上述のn型半導体素子と、アンテナと、を少なくとも有するものである。本発明の実施の形態に係る無線通信装置の、より具体的な構成としては、例えば、図4に示すようなものが挙げられる。これは、アンテナ50で受信した外部からの変調波信号の整流を行い各部に電源を供給する電源生成部と、上記変調波信号を復調して制御回路へ送る復調回路と、制御回路から送られたデータを変調してアンテナに送り出す変調回路と、復調回路で復調されたデータの記憶回路への書込み、および/または記憶回路からデータを読み出して変調回路への送信を行う制御回路と、で構成され、各回路部が電気的に接続されている。
【0100】
上記復調回路、制御回路、変調回路、記憶回路は上述のn型半導体素子を含み、さらにコンデンサ、抵抗素子、ダイオードを含んでいても良い。上記電源生成部は、コンデンサと、ダイオードとから構成される。
【0101】
アンテナ、コンデンサ、抵抗素子、ダイオードは、一般的に使用されるものであればよく、用いられる材料、形状は特に限定はされない。また、上記の各構成要素を電気的に接続する材料も、一般的に使用されうる導電材料であればいかなるものでもよい。各構成要素の接続方法も、電気的に導通を取ることができれば、いかなる方法でもよい。各構成要素の接続部の幅や厚みは、任意である。
【0102】
<商品タグ>
次に、本発明の実施の形態に係る無線通信装置を含有する商品タグについて説明する。この商品タグは、例えば基体と、この基体によって被覆された上記無線通信装置とを有している。
【0103】
基体は、例えば、平板状に形成された、紙などの非金属材料によって形成されている。例えば、基体は、2枚の平板状の紙を貼り合わせた構造をしており、この2枚の紙の間に、上記無線通信装置が配置されている。上記無線記憶装置の記憶回路に、例えば、商品を個体識別する個体識別情報が予め格納されている。
【0104】
この商品タグと、リーダ/ライタとの間で、無線通信を行う。リーダ/ライタとは、無線により、商品タグに対するデータの読み取りおよび書き込みを行う装置である。リーダ/ライタは、商品の流通過程や決済時に、商品タグとの間でデータのやり取りを行う。リーダ/ライタには、例えば、携帯型のものや、レジに設置される固定型のものがある。本発明の実施の形態に係る商品タグに対しては、リーダ/ライタは公知のものが利用できる。
【0105】
本発明の実施の形態に係る商品タグは、識別情報返信機能を備えている。これは、商品タグが、所定のリーダ/ライタから、個体識別情報の送信を要求するコマンドを受けたときに、自身が記憶している個体識別情報を無線により返信する機能である。リーダ/ライタからの1度のコマンドで、多数の商品タグから、各タグの個体識別情報が送信される。この機能により、例えば、商品の精算レジにおいて、非接触で多数の商品を同時に識別することが可能となる。それゆえ、バーコードでの識別と比較して、決済処理の容易化や迅速化を図ることができる。
【0106】
また、例えば、商品の会計の際に、リーダ/ライタが、商品タグから読み取った商品情報をPOS(Point of sale system、販売時点情報管理)端末に送信することが可能である。この機能により、POS端末において、その商品情報によって特定される商品の販売登録をすることもできるため、在庫管理の容易化や迅速化を図ることができる。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定して解釈されるものではない。
【0108】
ポリマーの分子量は、以下のように測定した。サンプルを孔径0.45μmメンブレンフィルターで濾過後、GPC(GEL PERMEATION CHROMATOGRAPHY:ゲル浸透クロマトグラフィー、東ソー(株)製HLC−8220GPC)(展開溶剤:クロロホルムまたはテトラヒドロフラン、展開速度:0.4mL/分)を用いて、ポリスチレン標準サンプルによる換算により求めた。
【0109】
ポリマーの吸水率は、JIS K 7209 2000(プラスチック−吸水率の求め方)に基づき、23℃の水中にペレット状のサンプル10gを1週間浸漬し、その質量変化量を元の質量の百分率として算出した。
【0110】
半導体溶液の作製例1;半導体溶液A
国際公開第2017/130836号の「半導体溶液の作製例2」に記載されたとおりにして、化合物[60]を式1に示すステップで合成した。
【0111】
【化1】
【0112】
化合物[60]の分子量を上記の方法で測定したところ、重量平均分子量は4367、数平均分子量は3475、重合度nは3.1であった。
【0113】
化合物[60]2.0mgのクロロホルム10mL溶液に、CNT1(CNI社製、単層CNT、純度95%)を1.0mg加え、氷冷しながら、超音波ホモジナイザー(東京理化器械(株)製VCX−500)を用いて出力20%で4時間超音波撹拌し、CNT分散液A(溶媒に対するCNT複合体濃度0.96g/L)を得た。
【0114】
次に、半導体層を形成するための半導体溶液の作製を行った。メンブレンフィルター(孔径10μm、直径25mm、ミリポア社製オムニポアメンブレン)を用いて、上記CNT分散液Aのろ過を行い、長さ10μm以上のCNT複合体を除去した。得られた濾液に、オルトジクロロベンゼン(o−DCB。和光純薬工業(株)製)5mLを加えた後、ロータリーエバポレーターを用いて、低沸点溶媒であるクロロホルムを留去し、CNT分散液Bを得た。CNT分散液Bの1mLに、3mLのo−DCBを加え、半導体溶液A(溶媒に対するCNT複合体濃度0.03g/L)とした。
【0115】
組成物の作製例1;ゲート絶縁層溶液A
メチルトリメトキシシラン61.29g(0.45モル)、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン12.31g(0.05モル)、およびフェニルトリメトキシシラン99.15g(0.5モル)を、プロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点170℃)203.36gに溶解し、これに、水54.90g、リン酸0.864gを、撹拌しながら加えた。得られた溶液をバス温105℃で2時間加熱し、内温を90℃まで上げて、主として副生するメタノールからなる成分を留出させた。次いで、バス温130℃で2.0時間加熱し、内温を118℃まで上げて、主として水とプロピレングリコールモノブチルエーテルからなる成分を留出させた。その後、室温まで冷却し、固形分濃度26.0重量%のポリシロキサン溶液Aを得た。得られたポリシロキサンの分子量を上記の方法で測定したところ、重量平均分子量は6000であった。
【0116】
得られたポリシロキサン溶液A 10gと、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノ(2,4−ペンタンジオナート)(商品名「アルミキレートD」、川研ファインケミカル(株)製、以下アルミキレートDという)13.0gと、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート(以下、PGMEAという)42.0gとを混合して、室温にて2時間撹拌し、ゲート絶縁層溶液Aを得た。本溶液中の上記ポリシロキサンの含有量は、アルミキレートD 100重量部に対して20重量部であった。
【0117】
組成物の作製例2;第2絶縁層作製用の溶液A
ポリメチルメタクリレート(富士フィルム和光純薬株式会社製)2.5gをN,N−ジメチルホルムアミド7.5gに溶解し、ポリマー溶液Aを調製した。次に、テトラキス(ジメチルアミノ)エチレン(東京化成工業株式会社製)1gをN,N−ジメチルホルムアミド9.0gに溶解し、化合物溶液Aを調製した。ポリマー溶液A0.68gに化合物溶液A0.30gを添加し、第2絶縁層作製用の溶液Aを得た。
【0118】
組成物の作製例3;第2絶縁層作製用の溶液B
テトラキス(ジメチルアミノ)エチレンの代わりにデカメチルフェロセン(富士フィルム和光純薬株式会社製)を用いたこと以外は組成物の作製例2と同様にして、第2絶縁層作製用の溶液Bを得た。
【0119】
組成物の作製例4;第2絶縁層作製用の溶液C
ポリメチルメタクリレート(富士フィルム和光純薬株式会社製)2.5gをトルエン7.5gに溶解し、ポリマー溶液Bを調製した。次に、4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)ビフェニル(東京化成工業株式会社製)0.060gをクロロホルム(富士フィルム和光純薬株式会社製)0.94gに溶解し、化合物溶液Bを調製した。ポリマー溶液B0.68gに化合物溶液B0.50gを添加し、第2絶縁層作製用の溶液Cを得た。
【0120】
組成物の作製例5;第2絶縁層作製用の溶液D
テトラキス(ジメチルアミノ)エチレンの代わりにN,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン(富士フィルム和光純薬株式会社製)を用いたこと以外は組成物の作製例2と同様にして、第2絶縁層作製用の溶液Dを得た。
【0121】
組成物の作製例6;第2絶縁層作製用の溶液E
テトラキス(ジメチルアミノ)エチレンの代わりにニッケロセン(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は組成物の作製例2と同様にして、第2絶縁層作製用の溶液Eを得た。
【0122】
組成物の作製例7;第2絶縁層作製用の溶液F
テトラキス(ジメチルアミノ)エチレンの代わりにテトラチアフルバレン(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は組成物の作製例2と同様にして、第2絶縁層作製用の溶液Fを得た。
【0123】
組成物の作製例8;第2絶縁層作製用の溶液G
4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)ビフェニルの代わりにβ−カロテン(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は組成物の作製例4と同様にして、第2絶縁層作製用の溶液Gを得た。
【0124】
組成物の作製例9;第2絶縁層作製用の溶液H
テトラキス(ジメチルアミノ)エチレンの代わりにジュロリジン(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は組成物の作製例2と同様にして、第2絶縁層作製用の溶液Hを得た。
【0125】
組成物の作製例10;第2絶縁層作製用の溶液I
テトラキス(ジメチルアミノ)エチレンの代わりにジベンゾテトラチアフルバレン(シグマ アルドリッチ製)を用いたこと以外は組成物の作製例2と同様にして、第2絶縁層作製用の溶液Iを得た。
【0126】
組成物の作製例11;第2絶縁層作製用の溶液J
テトラキス(ジメチルアミノ)エチレンの代わりにトリフェニルアミン(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は組成物の作製例2と同様にして、第2絶縁層作製用の溶液Jを得た。
【0127】
組成物の作製例12;第2絶縁層作製用の溶液K
テトラキス(ジメチルアミノ)エチレンの代わりに1−フェニルピロリジン(アルファ・エイサー製)を用いたこと以外は組成物の作製例2と同様にして、第2絶縁層作製用の溶液Kを得た。
【0128】
組成物の作製例13;第2絶縁層作製用の溶液L
テトラキス(ジメチルアミノ)エチレンの代わりにN,N−ジメチル−p−トルイジン(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は組成物の作製例2と同様にして、第2絶縁層作製用の溶液Lを得た。
【0129】
組成物の作製例14;第2絶縁層作製用の溶液M
ポリメチルメタクリレートの代わりにポリスチレン(富士フィルム和光純薬株式会社製)を用いたこと以外は組成物の作製例5と同様にして、第2絶縁層作製用の溶液Mを得た。
【0130】
組成物の作製例15;第2絶縁層作製用の溶液N
シクロオレフィンポリマー(日本ゼオン株式会社製)2.5gをデカヒドロナフタレン(富士フィルム和光純薬株式会社製)7.5gに溶解し、ポリマー溶液Cを調製した。次に、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン1gをトルエン(富士フィルム和光純薬株式会社製)9.0gに溶解し、化合物溶液Cを調製した。ポリマー溶液C0.68gに化合物溶液C0.30gを添加し、第2絶縁層作製用の溶液Nを得た。
【0131】
組成物の作製例16;第2絶縁層作製用の溶液O
ポリメチルメタクリレートの代わりにエステル基含有オレフィン樹脂(JSR株式会社製、ArtonF4520)を用いたこと以外は組成物の作製例5と同様にして、第2絶縁層作製用の溶液Oを得た。
【0132】
組成物の作製例17;第2絶縁層作製用の溶液P
テトラキス(ジメチルアミノ)エチレンの代わりにジメチルアニリン(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は組成物の作製例2と同様にして、第2絶縁層作製用の溶液Pを得た。
【0133】
組成物の作製例18;第2絶縁層作製用の溶液Q
テトラキス(ジメチルアミノ)エチレンの代わりに1−ナフチルアミン(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は組成物の作製例2と同様にして、第2絶縁層作製用の溶液Qを得た。
【0134】
組成物の作製例19;第2絶縁層作製用の溶液R
テトラキス(ジメチルアミノ)エチレンの代わりに9−メチルアントラセン(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は組成物の作製例2と同様にして、第2絶縁層作製用の溶液Rを得た。
【0135】
組成物の作製例20;第2絶縁層作製用の溶液S
N,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン1.5gをN,N−ジメチルホルムアミド8.5gに溶解し、第2絶縁層作製用の溶液Sを得た。
【0136】
組成物の作製例21;第2絶縁層作製用の溶液T
ポリメチルメタクリレートの代わりにポリスチレン(富士フィルム和光純薬株式会社製)を用いたこと以外は組成物の作製例17と同様にして、第2絶縁層作製用の溶液Tを得た。
【0137】
組成物の作製例22;第2絶縁層作製用の溶液U
ポリ酢酸ビニル(富士フィルム和光純薬株式会社製)5gをメタノール45gに溶解し、1M 水酸化ナトリウム水溶液0.41mLを加え、30℃で50分攪拌した。得られた溶液を2.7mM酢酸150mLに加え、沈殿物をろ集した。得られた沈殿物を水でよく洗浄し、乾燥し、ポリマーU(一部けん化したポリ酢酸ビニル)を得た。ポリメチルメタクリレートの代わりにポリマーUを用いたこと以外は組成物の作製例5と同様にして、第2絶縁層作製用の溶液Rを得た。
【0138】
参考例1
図1に示す構成の半導体素子を作製した。ガラス製の基板1(膜厚0.7mm)上に、抵抗加熱法により、マスクを通して、クロムを厚さ5nmおよび金を厚さ50nm真空蒸着し、ゲート電極2を形成した。次に、ゲート絶縁層溶液Aを上記基板上にスピンコート塗布(2000rpm×30秒)し、窒素気流下、200℃で1時間熱処理することによって、膜厚600nmのゲート絶縁層3を形成した。次に、抵抗加熱法により、マスクを通して、金を厚さ50nm真空蒸着し、ソース電極5およびドレイン電極6を形成した。次に、ソース電極5とドレイン電極6との間に、上記半導体溶液Aを1μL滴下し、30℃で10分風乾した後、ホットプレート上で、窒素気流下、150℃で30分の熱処理を行い、半導体層4を形成した。次に、第2絶縁層作製用の溶液A5μLを、半導体層4上に、半導体層4を覆うように滴下し、窒素気流下、110℃で30分熱処理して、第2絶縁層8を形成した。こうして、n型半導体素子を得た。この半導体素子のソース・ドレイン電極の幅(チャネル幅)は200μm、ソース・ドレイン電極の間隔(チャネル長)は20μmとした。
【0139】
次に、ゲート電圧(Vg)を変えたときのソース・ドレイン間電流(Id)−ソース・ドレイン間電圧(Vsd)特性を測定した。測定には半導体特性評価システム4200−SCS型(ケースレーインスツルメンツ株式会社製)を用い、大気中で測定した。Vg=+30V〜−30Vに変化させたときのVsd=+5VにおけるIdの値の変化から、線形領域の移動度を求めた。また、この半導体素子を大気下にて250時間保管した後、同様にして、移動度を求めた(0時間後移動度)。さらに、下記の(b)式を用いて250時間保管前後での移動度変化割合を算出した。
【0140】
移動度変化割合(%)=(250時間後移動度−0時間後移動度)/(0時間後移動度)×100 (b)
結果を表1に示す。
【0141】
参考例2
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Bを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。
【0142】
参考例3
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Cを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。
【0143】
実施例4
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Dを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。
【0144】
参考例4
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Eを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。
【0145】
実施例6
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Fを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。
【0146】
実施例7
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Gを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。
【0147】
参考例5
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Hを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。
【0148】
参考例6
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Iを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。
【0149】
参考例7
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Jを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。
【0150】
参考例8
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Kを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。
【0151】
参考例9
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Lを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。
【0152】
実施例13
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Mを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。
【0153】
実施例14
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Nを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。
【0154】
実施例15
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Oを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。
【0155】
実施例16
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Uを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。
【0156】
実施例4、6、7、13〜16、参考例1〜9では、大気保管0時間後および250時間後において、いずれも移動度が0.60(cm/V・s)以上となり、高いn型半導体特性を有し、安定性に優れたn型半導体素子が得られた。
【0157】
比較例1
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Pを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。良好なn型半導体特性が得られなかった。
【0158】
比較例2
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Qを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。良好なn型半導体特性が得られなかった。
【0159】
比較例3
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Rを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度および移動度変化割合を評価した。良好なn型半導体特性が得られなかった。

【0160】
比較例4
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Sを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度を評価した。n型半導体特性が得られなかった。
【0161】
比較例5
第2絶縁層作製用の溶液Aの代わりに第2絶縁層作製用の溶液Tを用いたこと以外は参考例1と同様にして、半導体素子を作製し、移動度を評価した。良好なn型半導体特性が得られなかった。
【0162】
【表1】
【符号の説明】
【0163】
1 基材
2 ゲート電極
3 ゲート絶縁層
4 半導体層
5 ソース電極
6 ドレイン電極
7 ナノカーボン
8 第2絶縁層
9 保護層
50 アンテナ
【要約】
本発明は、高いn型半導体特性を有し、安定性に優れたn型半導体素子を、簡便なプロセスで提供することを課題として、基材と、ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極と、前記ソース電極およびドレイン電極と接する半導体層と、前記半導体層を前記ゲート電極と絶縁するゲート絶縁層と、前記半導体層に対して前記ゲート絶縁層とは反対側で前記半導体層と接する第2絶縁層と、を備えたn型半導体素子であって、前記半導体層がナノカーボンを含有し、前記第2絶縁層が、(a)真空中のイオン化ポテンシャルが7.0eV以下である化合物と、(b)ポリマーと、を含有することを特徴とする、n型半導体素子とすることを本旨とする。
図1
図2
図3A
図3B
図4