特許第6841389号(P6841389)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6841389電源電流制御装置、電動アクチュエータ製品、及び電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841389
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】電源電流制御装置、電動アクチュエータ製品、及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 31/00 20060101AFI20210301BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20210301BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20210301BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20210301BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20210301BHJP
【FI】
   H02P31/00
   B62D6/00
   B62D5/04
   B62D101:00
   B62D119:00
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2020-555928(P2020-555928)
(86)(22)【出願日】2020年2月7日
(86)【国際出願番号】JP2020004903
(87)【国際公開番号】WO2020166519
(87)【国際公開日】20200820
【審査請求日】2020年10月12日
(31)【優先権主張番号】特願2019-23750(P2019-23750)
(32)【優先日】2019年2月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075579
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100175259
【弁理士】
【氏名又は名称】尾林 章
(72)【発明者】
【氏名】三木 康稔
【審査官】 三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−306771(JP,A)
【文献】 特開2005−7991(JP,A)
【文献】 特開2006−315439(JP,A)
【文献】 特開2007−112319(JP,A)
【文献】 特開2018−57166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 31/00
B62D 5/04
B62D 6/00
B62D 101/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源回路から印加される電源電圧を検出する電圧検出手段と、
前記電源回路から供給される電源電流を検出する電流検出手段と、
前記電圧検出手段が検出した前記電源電圧と所定の設定電圧との差分、前記電流検出手段が検出した前記電源電流、及び前記電源回路の抵抗成分を表す抵抗モデルに基づいて電流制限値を算出する電流制限値算出部と、
前記電流制限値に基づいて前記電源電流の大きさを制限する電源電流制限部と、
前記差分、及び前記電源電圧の変化速度に基づいて変化率制限値を算出する変化率制限値算出部と、
前記変化率制限値に基づいて前記電源電流の変化率を制限する電源電流変化率制限部と、
を備えることを特徴とする電源電流制御装置。
【請求項2】
前記変化率制限値算出部は、前記電源電圧の減少速度が大きいほど、前記電源電流の増加方向の変化率をより制限するように、前記変化率制限値を設定することを特徴とする請求項1に記載の電源電流制御装置。
【請求項3】
前記電圧検出手段が検出した前記電源電圧の微分値を算出する微分器を備え、
前記変化率制限値算出部は、前記差分と、前記微分値と、に基づいて前記変化率制限値を算出する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電源電流制御装置。
【請求項4】
前記微分器が算出した前記微分値の変化率を制限するレートリミッタ又は前記変化率制限値の算出に用いる、前記微分値を参照する変数の変化率を制限するレートリミッタを備えることを特徴とする請求項3に記載の電源電流制御装置。
【請求項5】
前記電源回路の抵抗成分の推定値を算出する抵抗値推定部を備え、
前記電流制限値算出部は、前記差分と、前記電流検出手段が検出した電源電流と、前記推定値と、に基づいて前記電流制限値を算出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電源電流制御装置。
【請求項6】
前記電源回路の抵抗成分の推定値を算出する抵抗値推定部を備え、
前記変化率制限値算出部は、前記差分と、前記抵抗モデルの抵抗値と前記推定値の差又は比と、に基づいて前記変化率制限値を算出する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電源電流制御装置。
【請求項7】
前記電圧検出手段による前記電源電圧の検出値を平滑化するフィルタ、及び前記電流検出手段による前記電源電流の検出値を平滑化するフィルタの少なくとも一方を備えることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の電源電流制御装置。
【請求項8】
前記電流制限値算出部が算出した前記電流制限値の変化率を制限するレートリミッタ、及び前記変化率制限値算出部が算出した前記変化率制限値の変化率を制限するレートリミッタの少なくとも一方を備えることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の電源電流制御装置。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載の電源電流制御装置と、
前記電源電流制御装置によって制御される電源電流により駆動されるモータと、
を備えることを特徴とする電動アクチュエータ製品。
【請求項10】
請求項9に記載の電動アクチュエータ製品によって車両の操舵系に操舵補助力を付与することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源回路から負荷に供給される電源電流を制限する電源電流制御装置、並びにこれを使用する電動アクチュエータ製品及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
負荷に供給される電源電圧が所定の下限値よりも下がらないように電源電流を制限する技術が提案されている。
例えば、電動パワーステアリング装置のような負荷に電源を供給する場合に、消費電力の増大により電源電圧が下限値よりも下がると、操舵補助力の付与が停止する。このため、操舵補助力の停止に至らないように、電源電圧が低下した場合にはたとえ操舵補助力が低下しても消費電力を抑える必要がある。
このため、下記特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置は、電源電圧と設定電圧との偏差の比例成分と微分成分に応じて電源電流の上限電流値を決定し、電源電圧が設定電圧となるようにフィードバック制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4352268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電源電流を制限する上限電流値を、電源電圧のみに基づいて設定すると上限電流値が過小又は過大になることがある。
例えば、システムが許容する最大許容電流が既に流れており、そのために電源電圧が下限値に近づいている場合には、上限電流値を最大許容電流よりも小さく設定する必要は殆どない。一方で、あまり電源電流が流れていないにもかかわらず電源電圧が低下する場合には、より小さな上限電流値を設定して電源電流を強く制限する必要がある。
このように、単純に電源電圧の低下に応じて上限電流値を下げると、上限電流値が過小となったり過大となることがある。
本発明は、上記課題に着目してなされたものであり、電源電流を上限電流値で制限して電源電圧の低下を緩和する際に、上限電流値の設定が過小又は過大となるのを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一態様による電源電流制御装置は、電源回路から印加される電源電圧を検出する電圧検出手段と、電源回路から供給される電源電流を検出する電流検出手段と、電圧検出手段が検出した電源電圧と所定の設定電圧との差分、電流検出手段が検出した電源電流、及び電源回路の抵抗成分を表す抵抗モデルに基づいて電流制限値を算出する電流制限値算出部と、電流制限値に基づいて電源電流の大きさを制限する電源電流制限部と、を備える。
このように、電源電圧だけでなく、電源電流の検出値と電源回路の抵抗モデルに基づいて電流制限値を算出することにより、電流制限値の設定が過小又は過大となるのを抑制できる。
【0006】
なお、電源回路の抵抗成分を表す抵抗モデルに基づいて電流制限値を算出すると、電流制限値が、電源回路の実際の抵抗値と抵抗モデルとの間の誤差の影響を受けることになる。また、電源回路の実際の抵抗値は容易に変動することがある。
例えば、電源としてバッテリが使用される場合には、経年劣化、コネクタの接触抵抗、ハーネスの劣化、温度上昇等により電源回路の抵抗値が変動する。
また、例えば電動パワーステアリング装置の場合には、バッテリ端子が脱落して電動パワーステアリング装置と発電機とが直接接続されると、電源電流の増加によって電源電圧が低下しやすくなり、電動パワーステアリング装置から見た電源回路の内部抵抗が増加したように見える。
【0007】
電源回路の実際の抵抗値と、電流制限値の算出に使用される抵抗モデルとの間の誤差が発生すると、電流制限値による電源電流が過度に制限される状態が発生し、電源電流及び電源電圧が不安定となることがある。
また、電動パワーステアリング装置の場合には、電源電流の急減による操舵補助力の急減が操舵フィーリングの低下を招く。このため、電源電流の制限はなだらかであることが好ましい。
【0008】
このため、本発明の一態様による電源電流制御装置は、電圧検出手段が検出した電源電圧と所定の設定電圧との差分、及び電源電圧の変化速度に基づいて変化率制限値を算出する変化率制限値算出部と、変化率制限値に基づいて電源電流の変化率を制限する電源電流変化率制限部と、を備える。
電源回路の実際の抵抗値によって変動する電源電圧の変化速度に基づいて電源電流の変化率を制限することにより、実際の抵抗値と抵抗モデルとの間に誤差が生じても、電源電流及び電源電圧が不安定となるのを抑制できる。
また、電源電流の変化率を制限することにより、電動パワーステアリング装置の場合の操舵補助力の制限をなだらかに開始できる。
【0009】
本発明の他の一形態によれば、上記の電源電流制御装置と、電源電流制御装置によって制御される電源電流により駆動されるモータと、を備える電動アクチュエータ製品が与えられる。
本発明の更なる他の一形態によれば、上記の電動アクチュエータ製品によって車両の操舵系に操舵補助力を付与する電動パワーステアリング装置が与えられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電源電流を上限電流値で制限して電源電圧の低下を緩和する際に、上限電流値の設定が過小又は過大となるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の電動パワーステアリング装置の一例の概要を示す構成図である。
図2】実施形態のコントロールユニットの機能構成の一例を示すブロック図である。
図3】第1実施形態の電流制限部の機能構成の一例を示すブロック図である。
図4】電源回路の抵抗モデルの一例の説明図である。
図5】(a)及び(b)は、電源電流制限部により電流電源を制限した場合の電源電流と電源電圧のシミュレーション結果を示すタイムチャートである。
図6】変化率制限値CrLimの算出マップの第1例の説明図である。
図7】(a)及び(b)は、電源電流制限部により電流電源を制限するとともに電源電流変化率制限部により変化率を制限した場合の電源電流と電源電圧のシミュレーション結果を示すタイムチャートである。
図8】(a)は変化率制限値CrLimの算出マップの第2例の説明図であり、(b)はゲイン算出マップの第1例である。
図9】(a)は変化率制限値CrLimの算出マップの第3例の説明図であり、(b)はゲイン算出マップの第2例である。
図10】実施形態の電源電流制御方法の一例のフローチャートである。
図11】第2実施形態の電流制限部の機能構成の一例を示すブロック図である。
図12】第3実施形態の電流制限部の機能構成の一例を示すブロック図である。
図13】第4実施形態の電流制限部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
以下、本発明の電源電流制御装置を電動パワーステアリング装置に適用した例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、電源を使用する様々な電気機器に適用可能である。例えば、本発明の電源電流制御装置は、電源電流により駆動されるモータを備える電動アクチュエータ製品に適用され、モータを駆動する電源電流の制御に使用できる。
【0013】
(第1実施形態)
(構成)
実施形態の電動パワーステアリング装置の構成例を図1に示す。操向ハンドル1のステアリング軸(コラム軸、ハンドル軸)2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4A及び4B、ピニオンラック機構5を経て操向車輪のタイロッド6に連結されている。ステアリング軸2には、操向ハンドル1の操舵トルクThを検出するトルクセンサ10が設けられており、操向ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してステアリング軸2に連結されている。
【0014】
パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)30には、電源であるバッテリ14から電力が供給されると共に、イグニションキー11からイグニションキー信号が入力され、コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと車速センサ12で検出された車速Vhとに基づいて、アシストマップ等を用いてアシスト指令の操舵補助指令値の演算を行い、演算された操舵補助指令値に基づいてモータ20に供給する電流Iを制御する。
【0015】
このような構成の電動パワーステアリング装置において、操向ハンドル1から伝達された運転手のハンドル操作による操舵トルクThをトルクセンサ10で検出し、検出された操舵トルクThや車速Vhに基づいて算出される操舵補助指令値によってモータ20は駆動制御され、この駆動が運転手のハンドル操作の補助力(操舵補助力)として操舵系に付与され、運転手は軽い力でハンドル操作を行うことができる。つまり、ハンドル操作によって出力された操舵トルクThと車速Vhから操舵補助指令値を算出し、この操舵補助指令値に基づきモータ20をどのように制御するかによって、ハンドル操作におけるフィーリングの善し悪しが決まり、電動パワーステアリング装置の性能が大きく左右される。
【0016】
コントロールユニット30は、例えば、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含むコンピュータを備えてよい。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
【0017】
なお、コントロールユニット30を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、コントロールユニット30は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。例えばコントロールユニット30はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0018】
図2を参照して、実施形態のコントロールユニット30の機能構成の一例を説明する。コントロールユニット30は、基本電流指令値演算部31と、モータ制御部32と、電流制限部33と、モータ駆動回路34を備える。
基本電流指令値演算部31、モータ制御部32、及び電流制限部33の機能は、例えばコントロールユニット30のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
また、モータ駆動回路34は、例えば、電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)等のスイッチング素子により上側アーム及び下側アームが各々形成されたブリッジ構成を有するインバータであってよい。
【0019】
基本電流指令値演算部31は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと車速センサ12で検出された車速Vhとに基づいて、アシストマップ等を用いてモータ20に通電するアシスト電流を算出し、アシスト電流の制御目標値である電流指令値を演算する。
モータ制御部32は、基本電流指令値演算部31が算出したアシスト電流をモータ20に流すように、モータ駆動回路34の制御信号を生成する。
【0020】
モータ駆動回路34にはバッテリ14により電源電圧VRが印加されており、電源電流Ibatがバッテリ14から供給される。電圧検出手段としての電圧センサ35は、モータ駆動回路34に印加される印加電圧を電源電圧VRとして検出する。電流検出手段としての電流センサ36は、モータ駆動回路34に流れる電源電流Ibatを検出する。モータ駆動回路34に供給された電源電流Ibatは、モータ制御部32により生成された制御信号によりオン/オフ制御され、アシスト電流としてモータ20に供給される。
電流制限部33は、電圧センサ35が検出した電源電圧VRと電流センサ36が検出した電源電流Ibatに基づいて、バッテリ14からモータ駆動回路34に供給される電源電流を制御する。以下、電圧センサ35が検出した電源電圧VRを「電源電圧VRの検出値」と表記し、電流センサ36が検出した電源電流Ibatを「電源電流Ibatの検出値」と表記することがある。
【0021】
図3を参照して、第1実施形態の電流制限部33の機能構成の一例を説明する。電流制限部33は、減算器40と、電流制限値算出部41と、電源電流制限部42を備える。
減算器40は、電源電圧VRの検出値から所定の下限電圧VLoを減算した差分(VR−VLo)を算出する。下限電圧VLoは、例えば、電動パワーステアリング装置が許容するモータ駆動回路34への印加電圧の最小値に所定のマージンを加えた電圧であってよい。
下限電圧VLoは、電源マネージメントを行う車両側コントロールユニットからCAN送信によって設定、又はコントロールユニット30内で設定される。
【0022】
電流制限値算出部41は、差分(VR−VLo)と、電源電流Ibatの検出値と、モータ駆動回路34へ電源電圧VRを供給する電源回路の抵抗成分を表す抵抗モデルに基づいて、モータ駆動回路34を流れる電源電流Ibatの上限を制限する電流制限値IbatMAXを算出する。
電流制限値IbatMAXの算出方法の一例を以下に説明する。以下、モータ駆動回路34へ電源電圧VRを供給する電源回路の抵抗成分を表す抵抗モデルを、単に「抵抗モデル」と表記する。
【0023】
図4は、抵抗モデルの一例の説明図である。例えば抵抗モデルは、バッテリ14の内部抵抗Rbと、バッテリ14とハーネスとを接続するコネクタの接触抵抗Rc1及びRc2と、ハーネス抵抗Rh1及びRh2と、ハーネスと電動パワーステアリング装置とを接続する接触抵抗Rc3及びRc4と、電動パワーステアリング装置内の回路抵抗Rdcを有する。電圧Vbatは、内部抵抗Rbにより降下する前のバッテリ14の生成電圧を示す。
【0024】
上記の抵抗Rb、Rc1〜Rc4、Rh1、Rh2、及びRdcの抵抗値の総和をRsと表すと、次式(1)が成立する。
Vbat=VR+Rs×Ibat (1)
ここで、電源電流Ibatの上限である電流制限値IbatMAXを、電源電圧VRが下限電圧VLoに至る電源電流Ibatとなるように設定する。この場合、次式(2)が成立する。
Vbat=VLo+Rs×IbatMAX (2)
【0025】
式(1)及び式(2)から、電流制限値IbatMAXの算出式(3)が得られる。
IbatMAX=(VR−VLo)/Rs+Ibat (3)
ここで、右辺第1項((VR−VLo)/Rs)は、電源電圧VRが、電圧センサ35が検出した現在値から下限電圧VLoまで差分(VR−VLo)分だけ変動した場合の電源電流Ibatの変動量を表している。
【0026】
算出式(3)では、電源電圧VRが現在値から下限電圧VLoまで変動した場合の電源電流Ibatの変動量に、電流センサ36が検出した電源電流Ibatの現在値の和が、電流制限値IbatMAXとして算出される。
したがって、電流制限値IbatMAXは、電源電圧VRを下限電圧VLoにするための電源電流の上限として算出される。
【0027】
なお、算出式(3)は、抵抗成分のみについて考慮したが、電源回路内の誘導成分及び容量成分を考慮して、電源回路のインピーダンスのモデルを用いて電流制限値IbatMAXを算出してもよい。
また、上記説明では、電源電圧VRとしてモータ駆動回路34に印加される印加電圧を検出したが、電源電圧VRとしては、バッテリ14とモータ駆動回路34との間の様々な中間点で検出される電源電圧を使用できる。例えば、バッテリ端子電圧を電源電圧VRとして使用する場合には、抵抗値の総和Rsは、バッテリ14の内部抵抗Rbとコネクタの接触抵抗Rc1及びRc2との和となる。
【0028】
図3を参照する。電流制限値算出部41は、電流制限値IbatMAXを電源電流制限部42へ出力する。電源電流制限部42は、モータ駆動回路34に流れる電源電流Ibatの上限が電流制限値IbatMAXとなるように、電源電流Ibatを制限する。
例えば、電源電流制限部42は、図2に示す基本電流指令値演算部31が演算した電流指令値の上限を制限することにより、電源電流Ibatを制限してよい。
【0029】
図5の(a)及び図5の(b)は、電源電流制限部42により電源電流Ibatの上限を制限した際の電源電流Ibat及び電源電圧VRのシミュレーション結果を示す。本シミュレーションでは、バッテリ14の生成電圧Vbatが12[V]であり、下限電圧VLoが9[V]であり、電源回路の抵抗値の総和Rsが0.05[Ω]であり、ある時刻(0.01秒)で急に80[A]の電流が流れる場合を想定する。
【0030】
図5の(a)及び図5の(b)は、電源電流制限部42による制限がない場合の波形(制限前電源電流)と、電源電流制限部42により制限された場合の波形を示す。
さらに、電源電流制限部42により制限された場合の波形として、抵抗モデルの抵抗値Rsと電源回路の実際の抵抗値との間に誤差がない場合の波形と、抵抗モデルの抵抗値Rsに対して実際の抵抗値が増加し誤差率がそれぞれ0.2、0.4、0.6、0.8及び1(すなわち20%、40%、60%、80%及び100%)となっている場合の波形が示されている。
以下、抵抗モデルの抵抗値Rsと電源回路の実際の抵抗値との間の誤差を「モデル誤差」と表記する。また、モデル誤差を、実際の抵抗値から抵抗モデルの抵抗値Rsを減算した差分(実際の抵抗値−抵抗モデルの抵抗値Rs)として定義する。また、モデル誤差率を、実際の抵抗値から抵抗モデルの抵抗値Rsを減算した差分を抵抗モデルの抵抗値Rsで除した値{(実際の抵抗値−抵抗モデルの抵抗値Rs)/抵抗モデルRsの抵抗値}として定義する。
【0031】
図5の(a)に示すように、電源電流制限部42による制限がない場合には80[A]の電流が流れるのに対し、電源電流制限部42による制限がある場合には80[A]よりも少なくなるように電流が制限されている。
また、モデル誤差がない場合には、制限された電源電流は即座に電流制限値IbatMAX((12[V]−9[V])/0.05[Ω]=60[A])に安定するが、モデル誤差がある場合には制限が不安定になり、電源電流Ibat及び電源電圧VRの振動が発生する。特に、モデル誤差率が100%の場合には収束しない。モデル誤差がある場合に振動が発生するのは、以下の状態(1)〜(3)が繰り返されるからである。
【0032】
(1)時刻0.01秒で電源電流Ibatを60[A]に制限すると、実際の抵抗が抵抗モデルよりも大きいために電源電圧VRが過剰に低下し理想値より低くなる。
(2)その後、過剰な電圧降下に応じて電源電流の制限が過剰に働くため電源電圧VRが急激に回復する。
(3)電源電圧VRの急激な回復に応じて電源電流の制限も急激に弱まり、その結果電源電流が急増し電源電圧VRが過剰に低下し理想値より低くなる。
【0033】
図3を参照する。電流制限部33は、変化率制限値算出部43と、電源電流変化率制限部44を備え、電源電流の増加方向の変化率を制限することで上記の状態(3)における電源電流の急増を防止する。
変化率制限値算出部43は、差分(VR−VLo)に感応する変化率制限値CrLimを算出する。変化率制限値算出部43は、例えば図6に示す特性を有する変化率制限値CrLimの算出マップを用いて、変化率制限値CrLimを算出してよい。
図6の例では、差分(VR−VLo)が0から所定値V1まで変化する際に、変化率制限値CrLimは0から所定値CrLim1まで変化し、差分(VR−VLo)が所定値V1以上である場合に、変化率制限値CrLimは所定値CrLim1に維持される。
【0034】
図3を参照する。電源電流変化率制限部44は、変化率制限値算出部43が算出した変化率制限値CrLimに基づいて電源電流Ibatの変化率を制限する。例えば電源電流変化率制限部44は、電源電流Ibatの増加方向の変化率(すなわち増加中の電源電流Ibatの変化率)が、変化率制限値CrLim以下となるように電源電流Ibatの変化を制限する。
例えば、電源電流変化率制限部44は、図2に示す基本電流指令値演算部31が演算した電流指令値の変化率を制限することによって、電源電流Ibatの変化率を制限してよい。
【0035】
図7の(a)及び図7の(b)は、電源電流制限部42により電源電流Ibatの上限を制限するとともに、電源電流変化率制限部44により変化率を制限した場合の電源電流Ibat及び電源電圧VRのシミュレーション結果を示す。
シミュレーション条件及び各波形の凡例は、図5の(a)及び図5の(b)と同様である。
【0036】
電源電流変化率制限部44による変化率制限によって、モデル誤差による電源電流Ibat及び電源電圧VRの不安定な制限が改善され、電源電流Ibat及び電源電圧VRがより安定することが分かる。
しかしながら、モデル誤差がない場合の電源電流Ibat波形が、変化率制限が行われない場合の波形(図5の(a)を参照)と比較して、電源電流Ibatの増加が緩やかになっており制限がやや過剰である。
【0037】
一方で、モデル誤差率が100%の場合には電源電流Ibat及び電源電圧VRが安定するまでに時間を要しており、変化率制限を強めて収束時間の短縮を図ることが望ましい。
そこで本発明では、モデル誤差の大きさ(すなわち、抵抗モデルの抵抗値Rsに対する実際の抵抗値の増加量)に応じて電源電流変化率制限部44による変化率制限の強さを変化させることにより、電源電流変化率制限部44による変化率制限の過不足を改善する。
【0038】
例えば、電源回路の実際の抵抗値が増加してモデル誤差が大きくなるほど、電源電流変化率制限部44による変化率制限をより強くしてよい。反対に、モデル誤差が小さいほど(抵抗モデルの抵抗値Rsと電源回路の実際の抵抗値との差分(電源回路の実際の抵抗値−抵抗モデルの抵抗値Rs)がより小さいほど)、電源電流変化率制限部44による変化率制限をより弱くしてよい。
【0039】
ここでは、電源回路の実際の抵抗値が増加すると、同じ大きさの電源電流Ibatの変化に対する電源電圧VRの変化量(すなわち電源電圧VRの変化速度)が大きくなる性質を利用する。
このため、変化率制限値算出部43は、電源電圧VRの変化速度に応じて変化率制限値CrLimを補正する。
【0040】
第1実施形態では、電源電圧VRの変化速度として電源電圧VRの検出値の微分量に応じて変化率制限値CrLimを補正する。
図3を参照する。微分器45は、電源電圧VRの検出値の微分値ΔVRを算出する。変化率制限値算出部43は、電源電圧VRの検出値の減少方向の微分量(−ΔVR)、すなわち電源電圧VRの検出値の減少率(電源電圧VRの負の微分値の大きさ)が大きくなるほど、変化率制限値CrLimをより小さくすることにより、モデル誤差が大きくなるほど変化率制限をより強くする。
これにより、電源電圧VRの検出値の減少速度が大きいほど、電源電流Ibatの増加方向の変化率をより制限するように変化率制限値CrLimが設定される。
【0041】
変化率制限値算出部43は、図8の(a)に示す複数の算出マップMAP−L及びMAP−Hを使用して変化率制限値CrLimを算出してよい。
複数の算出マップMAP−LとMAP−Hは、差分(VR−VLo)をパラメータとして、差分(VR−VLo)に対する変化率制限値CrLimを指定するマップであり、差分(VR−VLo)に感応する変化率制限値CrLimの算出に使用可能である。
図8の(a)に示す算出マップMAP−LとMAP−Hの例では、差分(VR−VLo)が増加するほど変化率制限値CrLimが増加し、差分(VR−VLo)が閾値以上の範囲では、変化率制限値CrLimが一定となる。
【0042】
複数の算出マップMAP−LとMAP−Hとは、同じ差分(VR−VLo)に対して異なる変化率制限値CrLimをそれぞれ指定する。したがって、算出マップMAP−Lにより算出される変化率制限値CrLimの値の大きさは、算出マップMAP−Hにより算出される変化率制限値CrLimの値の大きさと異なる。
具体的には、同じ大きさの差分(VR−VLo)に対して、算出マップMAP−Lにより算出される値は、算出マップMAP−Hにより算出される値よりも小さい。このため、算出マップMAP−Lは、比較的制限の強い変化率制限値CrLimの算出に使用され、算出マップMAP−Hは、比較的制限の弱い変化率制限値CrLimの算出に使用される。
【0043】
また、変化率制限値算出部43は、図8の(b)に示すゲイン算出マップを使用してゲインG1を算出する。
ゲインG1は、電源電圧VRの検出値の減少方向の微分量(−ΔVR)、すなわち電源電圧VRの検出値の減少率(電源電圧VRの負の微分値の大きさ)に感応して、微分量(−ΔVR)がある程度大きい範囲では、微分量(−ΔVR)が増加するほど値「0」から値「1」まで徐々に増加する。
【0044】
変化率制限値算出部43は、算出マップMAP−LとMAP−Hの出力を、次式(4)に基づいてゲインG1に応じて合成することで、電源電圧VRの検出値の微分量に応じて変化率制限値CrLimを変化させる。
変化率制限値CrLim=(MAP−H出力)×(1−G1)+(MAP−L出力)×G1 (4)
【0045】
これに代えて、変化率制限値算出部43は、図9の(a)に示す単一の算出マップMAPと、図9の(b)に示すゲイン算出マップとを使用して、電源電圧VRの検出値の微分量に応じて変化する変化率制限値CrLimを算出してもよい。
算出マップMAPは、差分(VR−VLo)をパラメータとして、差分(VR−VLo)に対する変化率制限値CrLimを指定するマップであり、差分(VR−VLo)に感応する変化率制限値CrLimの算出に使用可能である。
図9の(a)に示す算出マップMAPの例では、差分(VR−VLo)が増加するほど変化率制限値CrLimが増加し、差分(VR−VLo)が閾値以上の範囲では、変化率制限値CrLimは一定となる。
【0046】
変化率制限値算出部43は、図9の(b)に示すゲイン算出マップを使用して、電源電圧VRの検出値の減少方向の微分量(−ΔVR)に感応して、微分量(−ΔVR)がある程度大きい範囲では微分量(−ΔVR)が増加するほど値「1」から徐々に減少するゲインG2を算出する。
変化率制限値算出部43は、算出マップMAPにより算出された変化率制限値にゲインG2を乗算することにより、電源電圧VRの検出値の微分量に応じて変化する変化率制限値CrLimを算出する。
なお、上記の変化率制限値CrLimの算出方法は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。電源電圧VRの検出値の減少方向の微分量が大きくなるほど、電源電流変化率制限部44による変化率制限を強めることができれば、様々な方法で変化率制限値CrLimを算出してよい。
【0047】
(動作)
次に、図10を参照して第1実施形態のアクチュエータ制御方法の一例を説明する。
ステップS1において電圧センサ35は、電源電圧VRを検出する。
ステップS2において電流センサ36は、電源電流Ibatを検出する。
ステップS3において電流制限値算出部41は、電源電圧VRの検出値から所定の下限電圧VLoを減算した差分(VR−VLo)と、電源電流Ibatの検出値と、電源回路の抵抗成分を表す抵抗モデルに基づいて、電流制限値IbatMAXを算出する。
【0048】
ステップS4において変化率制限値算出部43は、差分(VR−VLo)と、電源電圧の変化速度ΔVRとに基づいて変化率制限値CrLimを算出する。
ステップS5において電源電流制限部42は、電流制限値IbatMAXに基づいて電源電流Ibatの上限値を制限する。
ステップS6において電源電流変化率制限部44は、変化率制限値CrLimに基づいて電源電流Ibatの変化率を制限する。
その後に処理は終了する。
【0049】
(第1実施形態の効果)
(1)電圧センサ35は、バッテリ14を有する電源回路から印加される電源電圧VRを検出する。電流センサ36は、電源回路から供給される電源電流Ibatを検出する。電流制限値算出部41は、電圧センサ35が検出した電源電圧VRと所定の設定電圧VLoとの差分(VR−VLo)、電流センサ36が検出した電源電流Ibat、及び電源回路の抵抗成分を表す抵抗モデルに基づいて電流制限値IbatMAXを算出する。電源電流制限部42は、電流制限値IbatMAXに基づいて電源電流Ibatの大きさを制限する。変化率制限値算出部43は、差分(VR−VLo)、及び電源電圧VRの変化速度に基づいて変化率制限値CrLimを算出する。電源電流変化率制限部44は、変化率制限値CrLimに基づいて電源電流Ibatの変化率を制限する。
【0050】
このように、電源電圧VRだけでなく、電源電流Ibatの検出値と電源回路の抵抗モデルに基づいて電流制限値IbatMAXを算出することにより、電流制限値IbatMAXの設定が過小又は過大となるのを抑制できる。
電源電流Ibatの変化率を制限することにより、抵抗モデルと実際の電源回路の抵抗値との間に誤差が生じても、電源電流及び電源電圧が不安定となるのを抑制できる。
また、電源電圧VRの変化速度に応じて変化率制限値CrLimを算出するため、電源電流変化率制限部44による電源電流Ibatの変化率制限の過不足を改善できる。
【0051】
(2)変化率制限値算出部43は、電源電圧VRの減少速度が大きいほど、電源電流Ibatの増加方向の変化率をより制限するように、変化率制限値CrLimを設定する。例えば、微分器45が、電圧センサ35が検出した電源電圧VRの微分値ΔVRを算出し、変化率制限値算出部43が、差分(VR−VLo)と微分値ΔVRとに基づいて変化率制限値CrLimを算出してよい。これにより、電源電流変化率制限部44による電源電流Ibatの変化率制限の過不足を改善できる。
【0052】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の電流制限部33を説明する。電動パワーステアリング装置及びコントロールユニット30の構成は、図1及び図2を参照して上述した第1実施形態の構成と同様である。
電源電圧VRの検出値及び電源電流Ibatの検出値がノイズ成分を含むと、電流制限値算出部41が算出する電流制限値IbatMAX及び変化率制限値算出部43が算出する変化率制限値CrLimにノイズが乗り、電源電流制限部42及び電源電流変化率制限部44による制限が不適切になる。
【0053】
このため、第2実施形態の電流制限部33は、電源電圧VRの検出値を平滑化するフィルタ及び電源電流Ibatの検出値を平滑化するフィルタの少なくとも一方を備える。
図11を参照する。第2実施形態の電流制限部33の機能構成は、図3に示す第1実施形態と同様の機能構成を有しており、同じ参照符号は同様の構成要素を示している。
第2実施形態の電流制限部33は、電源電流Ibatの検出値を平滑化するローパスフィルタ(LPF)60と、電源電圧VRの検出値を平滑化するローパスフィルタ61を備える。
【0054】
減算器40、電流制限値算出部41、変化率制限値算出部43、及び微分器45による電流制限値IbatMAX及び変化率制限値CrLimの算出は、電源電圧VRの検出値自体及び電源電流Ibatの検出値自体に代えてそれぞれの平滑化後の値を用いる以外は、第1実施形態と同様である。
以下に説明する第3実施形態及び第4実施形態においても、電源電流Ibatの検出値を平滑化するローパスフィルタ60と、電源電圧VRの検出値を平滑化するローパスフィルタ61を設けてもよい。検出値を平滑するフィルタとしては、ローパスフィルタに限らず、平均化処理やその他の手法を用いることができる。
【0055】
(第2実施形態の効果)
電流制限部33は、電源電流Ibatの検出値を平滑化するローパスフィルタ60及び電源電圧VRの検出値を平滑化するローパスフィルタ61の少なくとも一方を備える。これにより、電源電圧VRの検出値及び電源電流Ibatの検出値に含まれるノイズ成分により、電流制限値算出部41が算出する電流制限値IbatMAX及び変化率制限値算出部43が算出する変化率制限値CrLimにノイズが乗り、電源電流制限部42及び電源電流変化率制限部44による制限が不適切になるのを防止できる。
【0056】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の電流制限部33を説明する。電動パワーステアリング装置及びコントロールユニット30の構成は、図1及び図2を参照して上述した第1実施形態の構成と同様である。
電流制限値算出部41が算出する電流制限値IbatMAX及び変化率制限値算出部43が算出する変化率制限値CrLimが振動すると、電源電流制限部42及び電源電流変化率制限部44による制限が不安定になる。
【0057】
このため、第3実施形態の電流制限部33は、電流制限値算出部41が算出する電流制限値IbatMAXの変化率を制限するレートリミッタ及び変化率制限値算出部43が算出する変化率制限値CrLimの変化率を制限するレートリミッタの少なくとも一方を備える。
【0058】
また、電源電圧VRの検出値の微分値ΔVRは、電源電圧VRに含まれるノイズ成分や振動成分により急変しやすい。微分値ΔVRに応じて算出される上記ゲインG1及びG2も同様である。
このため、第3実施形態の電流制限部33は、微分器45が算出した微分値ΔVRの変化率を制限するレートリミッタを備える。
【0059】
図12を参照する。第3実施形態の電流制限部33の機能構成は、図3に示す第1実施形態と同様の機能構成を有しており、同じ参照符号は同様の構成要素を示している。
第3実施形態の電流制限部33は、電流制限値算出部41が算出する電流制限値IbatMAXの変化率を制限するレートリミッタ62と、変化率制限値算出部43が算出する変化率制限値CrLimの変化率を制限するレートリミッタ63と、微分器45が算出した微分値ΔVRの変化率を制限するレートリミッタ64を備える。
【0060】
変化率制限値算出部43による変化率制限値CrLimの算出は、電源電圧VRの検出値の微分値ΔVR自体に代えて、レートリミッタ64により変化率が制限された後の値を用いる以外は、第1実施形態と同様である。電源電圧VRの検出値の微分値ΔVRに対する変化率制限に代えて、微分値ΔVRに応じて算出される上記ゲインG1及びG2の変化率を制限するようにレートリミッタ64を配置してもよい。
また、電源電流制限部42は、レートリミッタ62により変化率が制限された後の電流制限値IbatMAXに基づいて電源電流Ibatの上限値を制限する。電源電流変化率制限部44は、レートリミッタ63により変化率が制限された後の変化率制限値CrLimに基づいて電源電流Ibatの変化率を制限する。
【0061】
レートリミッタ62により制限される変化率の上限の値は、電流制限値IbatMAXが増加する場合と減少する場合で異なっていてもよい。例えば、電流制限値IbatMAXが増加する場合(すなわち制限を緩和する方向)の変化率の上限を電流制限値IbatMAXが減少する場合(すなわち制限を強める方向)の変化率の上限よりも小さく設定してよい。
同様に、レートリミッタ63により制限される変化率の上限の値も、変化率制限値CrLimが増加する場合と減少する場合で異なっていてもよい。例えば、変化率制限値CrLimが増加する場合の変化率の上限を変化率制限値CrLimが減少する場合の変化率の上限よりも小さく設定してよい。
【0062】
これにより、これらの制限値IbatMAX及びCrLimによる制限を緩和する場合には急激な緩和を防止する一方で、急激な電源電圧VRの減少に応じて速やかに電源電流Ibatを制限する必要がある場合には、制限値IbatMAX及びCrLimの変化に対して制限をかかりにくくすることができる。
さらに、電流制限値IbatMAXが減少する場合には電流制限値IbatMAXの変化を制限しないようにレートリミッタ62を構成してもよい。同様に、変化率制限値CrLimが減少する場合には変化率制限値CrLimの変化を制限しないようにレートリミッタ63を構成してもよい。
【0063】
同様に、レートリミッタ64により制限される変化率の上限の値も、微分値ΔVRが増加する場合と減少する場合で異なっていてもよい。例えば、最終的に算出される変化率制限値CrLimが増加する場合(すなわち制限を緩和する方向)の微分値ΔVRの変化率の上限を、変化率制限値CrLimが減少する場合(すなわち制限を強める方向)の微分値ΔVRの変化率の上限よりも小さく設定してよい。
以下に説明する第4実施形態においても、電流制限値算出部41が算出する電流制限値IbatMAXの変化率を制限するレートリミッタ62と、変化率制限値算出部43が算出する変化率制限値CrLimの変化率を制限するレートリミッタ63を設けてもよい。
【0064】
(第3実施形態の効果)
(1)電流制限部33は、電流制限値算出部41が算出する電流制限値IbatMAXの変化率を制限するレートリミッタ62、及び変化率制限値算出部43が算出する変化率制限値CrLimの変化率を制限するレートリミッタ63の少なくとも一方を備える。
これにより、電流制限値IbatMAX及び変化率制限値CrLimの振動によって、電源電流制限部42及び電源電流変化率制限部44による制限が不安定になるのを抑制できる。
【0065】
(2)電流制限部33は、微分器45が算出した微分値ΔVRの変化率を制限するレートリミッタ64を備える。これにより、電源電圧VRに含まれるノイズ成分や振動成分による微分値ΔVRの急変や、微分値ΔVRに応じて算出される上記ゲインG1及びG2の急変を抑制できる。
【0066】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態の電流制限部33を説明する。電動パワーステアリング装置及びコントロールユニット30の構成は、図1及び図2を参照して上述した第1実施形態の構成と同様である。
上記のとおり、電流制限値IbatMAXの算出に使用する抵抗モデルの抵抗値Rsと電源回路の実際の抵抗値との間にモデル誤差があると、電源電流Ibatの制限が不安定となる。
このため、第4実施形態の電流制限部33は、電源回路の抵抗成分の推定値Rseを算出し、差分(VR−VLo)と、電源電流Ibatの検出値と、推定値Rseに基づいて電流制限値を算出する。
【0067】
さらに、第4実施形態の電源電流変化率制限部44は、電源電圧VRの微分値ΔVRに代えて、推定値Rseと抵抗モデルの抵抗値Rsとの差分(Rse−Rs)や比(Rse/Rs)に基づいて、変化率制限値CrLimを変化させるゲインG1及びG2を算出する。
上記のとおり電源電流変化率制限部44は、モデル誤差の大きさ(すなわち、抵抗モデルの抵抗値Rsに対する実際の抵抗値の増加量)に応じて変化率制限値CrLimを補正することを意図している。このため、推定値Rseと抵抗モデルの抵抗値Rsとの差分(Rse−Rs)や比(Rse/Rs)に基づいてゲインG1及びG2を算出することにより、電源回路の抵抗の増加に応じた適切な補正が可能となる。
【0068】
図13を参照する。第4実施形態の電流制限部33の機能構成は、図3に示す第1実施形態と同様の機能構成を有しており、同じ参照符号は同様の構成要素を示している。
第4実施形態の電流制限部33は、電源回路の抵抗成分の推定値Rseを算出する抵抗値推定部65を備える。
抵抗値推定部65は、電源回路の抵抗成分の推定値Rseを、異なる時刻における電源電圧VRの検出値及び電源電流Ibatの検出値に基づいて算出する。
【0069】
あるサンプリング時刻t1における電源電圧、電源電流及びバッテリ14の生成電圧をそれぞれVR1、Ibat1及びVbat1と表記すると次式(5)が成立する。
Vbat1=VR1+Rse×Ibat1 (5)
また、サンプリング時刻t1と異なるサンプリング時刻t2における電源電圧、電源電流及びバッテリ14の生成電圧をそれぞれVR2、Ibat2及びVbat2と表記すると次式(6)が成立する。
Vbat2=VR2+Rse×Ibat2 (6)
【0070】
バッテリ14の生成電圧があまり変化せず、Vbat1≒Vbat2と仮定すると、式(5)及び式(6)から、抵抗成分の推定値Rseの算出式(7)が得られる。
Rse=−(VR1−VR2)/(Ibat1−Ibat2) (7)
すなわち、抵抗値推定部65は、サンプリング時刻t1及びt2で検出した電源電圧VR1及びVR2の差分(VR2−VR1)を、サンプリング時刻t1及びt2で検出した電源電流Ibat1及びIbat2の差分(Ibat1−Ibat2)で除算した比を、抵抗成分の推定値Rseとして算出する。
【0071】
なお、推定値Rseの精度を維持するため、抵抗値推定部65は、電源電圧VR1及びVR2の差分(VR2−VR1)及び電源電流Ibat1及びIbat2の差分(Ibat1−Ibat2)が所定の閾値を超えた場合にのみ、推定値Rseの算出結果を採用してもよい。また、算出式(7)は、Vbat1とVbat2とが略等しいことを前提としているため、サンプリング時刻t1及びt2は時間的に離れすぎないことが好ましい。
抵抗値推定部65は、算出した推定値Rseを電流制限値算出部41及び変化率制限値算出部43へ出力する。
【0072】
電流制限値算出部41は、上記の算出式(3)のRsを推定値Rseに代えて、電流制限値IbatMAXを算出する。
変化率制限値算出部43は、電源電圧VRの微分値ΔVRに代えて、推定値Rseと抵抗モデルの抵抗値Rsとの差分(Rse−Rs)や比(Rse/Rs)に基づいて、変化率制限値CrLimを変化させる。
【0073】
すなわち、変化率制限値算出部43は、差分(VR−VLo)と、抵抗モデルの抵抗値Rsと推定値Rseの差分(Rse−Rs)又は比(Rse/Rs)と、に基づいて変化率制限値CrLimを算出する。
ここで、電源回路の抵抗値が増加すれば同じ大きさの電流変化に対する電源電圧VRの変化速度が増加し、このときの電源電圧VRの変化速度の増加量は抵抗値の増加量と比例する。したがって、差分(Rse−Rs)又は比(Rse/Rs)に基づいて変化率制限値CrLimを算出することは、電源電圧VRの変化速度に基づいて変化率制限値CrLimを算出することと等価といえる。
【0074】
変化率制限値算出部43は、抵抗モデルの抵抗値Rsに比べて推定値Rseが大きくなっているほど、変化率制限値CrLimが小さくなるように変化率制限値CrLimを変化させてよい。
例えば、図8の(b)及び図9の(b)のゲイン算出マップを、電源電圧VRの検出値の減少方向の微分量(−ΔVR)の代わりに差分(Rse−Rs)や比(Rse/Rs)に感応するゲインG1及びG2のマップに変更してよい。
【0075】
なお、第1実施形態のように電源電圧VRの微分量(−ΔVR)に応じて変化率制限値CrLimを補正するのに比べて、推定値Rseと抵抗モデルの抵抗値Rsとの差分(Rse−Rs)や比(Rse/Rs)に基づいて変化率制限値CrLimを補正した方が、抵抗値の増加による影響を是正するという点では、より適切な補正を行うことができる。
一方で、電源電圧VRの微分量(−ΔVR)に応じた補正には以下のメリットが考えられる。
【0076】
すなわち、仮にモデル誤差が無かったとしても、電源電流制限部42及び電源電流変化率制限部44の応答性が不足した場合には、即座に電流制限値IbatMAX及び変化率制限値CrLimどおりに電源電流Ibatを制限できない。そこで、電源電圧VRの微分量(−ΔVR)に応じて電源電流Ibatの変化率制限を強めることで、応答性の不足による電源電流Ibatの制限の遅れを予防的に防止できる。
【0077】
したがって、変化率制限値算出部43は、電源電圧VRの微分量(−ΔVR)に感応するゲインG1又はG2と、差分(Rse−Rs)や比(Rse/Rs)に感応するゲインG1又はG2のうち、より変化率制限値CrLimを下げるゲインを選択して使用してもよい。これにより変化率制限値算出部43は、抵抗増加に対する補正効果と、電源電流の制限の応答不足を予防する効果の両者を奏することができる。
なお、このように、電源電圧VRの微分量(−ΔVR)による変化率制限値CrLimの補正と、差分(Rse−Rs)や比(Rse/Rs)による変化率制限値CrLimの補正を併用する場合、微分器45が算出した微分値ΔVRの変化率を制限するレートリミッタ64を備えてもよい。
【0078】
(第4実施形態の効果)
(1)抵抗値推定部65は、電源回路の抵抗成分の推定値Rseを算出する。電流制限値算出部41は、差分(VR−VLo)と、電源電流Ibatの検出値と、推定値Rseと、に基づいて電流制限値IbatMAXを算出する。
これにより、モデル誤差によって電源電流Ibatの制限が不安定となるのを抑制できる。
【0079】
(2)変化率制限値算出部43は、差分(VR−VLo)と、抵抗モデルの抵抗値Rsと推定値Rseの差分(Rse−Rs)や比(Rse/Rs)に基づいて変化率制限値CrLimを算出する。これにより、電源回路の抵抗の増加に応じてより適切に変化率制限値CrLimを補正できる。
【0080】
(変形例)
(1)電源電流Ibatを検出する電流検出手段は電流センサ36に限られない。電流検出手段は、例えば他のセンサにより得られた値に基づいて電源電流Ibatを推定してもよい。
例えば、電動パワーステアリング装置等に使用されるモータ駆動回路の場合、エネルギー収支は次式(8)で表される。
【0081】
【数1】
【0082】
上式(8)において、VRは、インバータに印加されるインバータ印加電圧である電源電圧であり、Ibatはバッテリからインバータを介してモータに流れるバッテリ電流である電源電流であり、Ktはモータのトルク定数であり、Iqはq軸電流であり、Idはd軸電流であり、Rはモータの1相当たりの抵抗値であり、Plossは鉄損や摩擦などに起因する損失電力である。
上式(8)の右辺が消費電力に相当するので、上式(8)の右辺を電源電圧VRで除算することで電源電流Ibatを推定できる。
【0083】
(2)電源電圧VRを検出する電圧検出手段は電圧センサ35に限られない。電圧検出手段は、例えば他のセンサにより得られた値に基づいて電源電圧VRを推定してもよい。
図4を参照する。電源電圧VRとして、例えば電動パワーステアリング装置に入力される入力電圧Vi(すなわち、接触抵抗Rc3の位置と接触抵抗Rc4の位置の間の印加電圧)が下限電圧VLo以上となるように、電源電流Ibatを制限する場合を考える。
この場合、抵抗値の総和Rsは、バッテリ14の内部抵抗Rbと、バッテリ14とハーネスとを接続するコネクタの接触抵抗Rc1及びRc2と、ハーネス抵抗Rh1及びRh2の総和(Rb+Rc1+Rc2+Rh1+Rh2)として定義される。
【0084】
この入力電圧Viは、直接センサで検出するほか、以下の方法でも推定できる。
モータ駆動回路34の印加電圧(ここでは「印加電圧Va」と表記する)が既知である場合、電源電圧VRとして推定すべき入力電圧Viが生じる位置と、印加電圧Vaが生じる位置との間に存在する抵抗の総和Roは、ハーネスと電動パワーステアリング装置とを接続する接触抵抗Rc3及びRc4と、電動パワーステアリング装置内の回路抵抗Rdcの総和となる(Ro=(Rc3+Rc4+Rdc))。
【0085】
したがって、電源電流Ibatを検出又は推定すれば、次式(9)により入力電圧Viを推定できる。
Vin=Va+Ro×Ibat (9)
反対に、電動パワーステアリング装置に入力される入力電圧Viが既知であり、モータ駆動回路34の印加電圧Vaを電源電圧VRとして推定する場合には、次式(10)により推定できる。
Va=Vin−Ro×Ibat (10)
【0086】
このように、センサ等によって電圧を検出可能な位置と、推定すべき電圧が生じる位置との間に存在する抵抗値と電源電流Ibatによって、電源回路上の任意の点の電圧を電源電圧VRとして推定することにより、その推定値を用いて任意の点の電圧が電源電圧VLo以上となるように電源電流Ibatを制限できる。
【0087】
ここに記載されている全ての例及び条件的な用語は、読者が、本発明と技術の進展のために発明者により与えられる概念とを理解する際の助けとなるように、教育的な目的を意図したものであり、具体的に記載されている上記の例及び条件、並びに本発明の優位性及び劣等性を示すことに関する本明細書における例の構成に限定されることなく解釈されるべきものである。本発明の実施例は詳細に説明されているが、本発明の精神及び範囲から外れることなく、様々な変更、置換及び修正をこれに加えることが可能であると解すべきである。
【符号の説明】
【0088】
1…操向ハンドル、2…ステアリング軸、3…減速ギア、4A、4B…ユニバーサルジョイント、5…ピニオンラック機構、6…タイロッド、10…トルクセンサ、11…イグニションキー、12…車速センサ、14…バッテリ、20…モータ、30…コントロールユニット、31…基本電流指令値演算部、32…モータ制御部、33…電流制限部、34…モータ駆動回路、35…電圧センサ、36…電流センサ、40…減算器、41…電流制限値算出部、42…電源電流制限部、43…変化率制限値算出部、44…電源電流変化率制限部、45…微分器、60、61…ローパスフィルタ、62、63、64…レートリミッタ、65…抵抗値推定部
図1
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