(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記抵抗変化素子は、前記第2端子と前記第3端子との間に流れるパルス電流に応じて、前記第1端子と前記第3端子との間の抵抗値が変化する、請求項1に記載の演算回路。
前記第1スイッチング素子をオンにすることで前記第3端子から出力される信号は、前記抵抗変化素子の抵抗値と前記入力信号とによって決定される、請求項3に記載の演算回路。
前記配線に、前記入力線、前記抵抗変化素子、前記コンデンサ、前記第1スイッチング素子を含むユニットが複数接続されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の演算回路。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0010】
<演算回路>
図1は、第1実施形態に係る演算回路の最小単位の一例を示す図である。
【0011】
演算回路1は、スパイキングニューラルネットワークのスパイク信号を出力する。演算回路1は、例えば、抵抗変化素子11と入力線w1と配線w2と第1スイッチング素子S1と第2スイッチング素子S2と第3スイッチング素子S3と第4スイッチング素子S4とコンデンサCとを備える。
【0012】
抵抗変化素子11は、抵抗を変化させることが可能な素子である。また、抵抗変化素子11は、第1端子TM1と第2端子TM2と第3端子TM3との3つの端子を有する。すなわち、抵抗変化素子11は、3端子型の素子である。抵抗変化素子11は、例えば、磁壁移動素子である。磁壁移動素子は、磁壁移動型の磁気抵抗効果素子であり、詳細を後述する。抵抗変化素子は、磁壁移動素子に限られず、その他の3端子型の抵抗変化素子でもよい。
【0013】
入力線w1は、入力信号が伝わる伝送路である。配線w2は、充電信号及び出力信号が伝わる伝送路である。伝送路は、半導体集積回路上に形成された金属配線でも、基板上にプリントされた導体でも、線状に形成された銅線でもよい。入力線w1は、抵抗変化素子11の第1端子TM1に接続される。入力線w1は、第1端子TM1に接続される。配線w2は、第1スイッチング素子S1を介して第3端子TM3に接続される。
【0014】
第1スイッチング素子S1、第2スイッチング素子S2、第3スイッチング素子S3、第4スイッチング素子S4は、電流の流れを制御するスイッチング素子である。スイッチング素子がオン状態になると、スイッチング素子は通電状態となり、電気的に接続される。スイッチング素子がオフ状態になると、スイッチング素子は切断状態となり、電気的に切断される。スイッチング素子は、例えば、電界効果型トランジスタ、バイポーラトランジスタ、オボニック閾値スイッチ等である。以下、スイッチング素子が電界効果型トランジスタの例を基に説明する。
【0015】
第1スイッチング素子S1は、第3端子TM3と配線w2との間に接続されている。例えば、第1スイッチング素子S1のソースは第3端子TM3に接続され、第1スイッチング素子S1のドレインは配線w2に接続され、第1スイッチング素子S1のゲートは後述する制御部20に接続される。
【0016】
第2スイッチング素子S2は、配線w2の第1端に接続されている。例えば、第2スイッチング素子S2のソースは後述する充電回路13に接続され、第2スイッチング素子S2のドレインは配線w2に接続され、第2スイッチング素子S2のゲートは後述する制御部20に接続される。
【0017】
第3スイッチング素子S3は、配線w2の第2端に接続されている。例えば、第3スイッチング素子S3のソースは配線w2に接続され、第3スイッチング素子S3のドレインは後述する出力回路14に接続され、第3スイッチング素子S3のゲートは後述する制御部20に接続される。
【0018】
第4スイッチング素子S4は、入力線w1と第1端子TM1との間に接続されている。例えば、第4スイッチング素子S4のソースは入力線w1に接続され、第4スイッチング素子S4のドレインは第1端子TM1に接続され、第4スイッチング素子S4のゲートは後述する制御部20に接続される。第4スイッチング素子S4は無くてもよい。また第4スイッチング素子S4に変えて、抵抗体を設置してもよい。
【0019】
コンデンサCは、第2端子TM2及び基準電位との間にある。コンデンサCの一方の極板は第2端子TM2に接続され、他方の極板は基準電位に接地される。基準電位は、例えば、グラウンドである。
【0020】
<ニューロモーフィックデバイス>
図2は、第1実施形態にかかるニューロモーフィックデバイス100の一例を示す図である。
図2に示すニューロモーフィックデバイス100は、
図1に示す演算回路1の最小単位を含む。
【0021】
図2に示すニューロモーフィックデバイス100は、演算回路10と入力回路12と充電回路13と出力回路14とを備える。
【0022】
ニューロモーフィックデバイス100における演算回路10は、複数の抵抗変化素子11と、複数の入力線w1と、複数の配線w2と、複数の第1スイッチング素子S1と、複数の第2スイッチング素子S2と、複数の第3スイッチング素子S3と、複数の第4スイッチング素子S4と、複数のコンデンサCと、制御部20とを備える。
【0023】
演算回路10は、入力線w1、抵抗変化素子11、コンデンサC、第1スイッチング素子S1、第4スイッチング素子S4からなるユニットUを複数有する。一つの配線w2には、複数のユニットUが接続されている。演算回路10において、複数の抵抗変化素子11は、行列状に配列している。一つの入力線w1には、複数の抵抗変化素子11が接続され、一つの配線w2にも複数の抵抗変化素子11が接続されている。
【0024】
制御部20は、例えば、第1スイッチング素子S1、第2スイッチング素子S2、第3スイッチング素子S3及び第4スイッチング素子S4に接続される。制御部20は、例えば、第1スイッチング素子S1、第2スイッチング素子S2、第3スイッチング素子S3及び第4スイッチング素子S4のゲートに接続される。制御部20は、第1スイッチング素子S1、第2スイッチング素子S2、第3スイッチング素子S3及び第4スイッチング素子S4のオン、オフを制御する。制御部20は、例えば、半導体集積回路上に設けられた制御回路部、あるいはマイコンである。制御部20は、演算回路10を制御可能な他の回路、他の装置であってもよい。
【0025】
入力回路12は、入力線w1に入力される入力信号を生み出す回路である。入力回路12は、例えば、ニューロモーフィックデバイスにおける前の階層のニューロンである。
【0026】
充電回路13は、抵抗変化素子11の抵抗を変えるパルス電流を生み出す電荷をコンデンサCに蓄積するための回路である。充電回路13は、例えば、電源である。充電回路13は、電源と第2スイッチング素子S2との間に、抵抗体を有してもよい。抵抗体によりコンデンサCへの充電速度を制御できる。抵抗体は、第2スイッチング素子S2と第1スイッチング素子S1との間にもうけられても良い。
【0027】
出力回路14は、コンデンサCに蓄積された電荷が出力される回路である。出力回路14は、例えば、検出器である。出力回路14は、スパイク信号を検出する。
【0028】
<ニューロモーフィックデバイスの動作>
次いで、
図2に示すニューロモーフィックデバイス100の動作について説明する。まず一つのユニットUからスパイク信号を出力する出力動作について説明する。
【0029】
まず、第1スイッチング素子S1をオフ、第2スイッチング素子S2をオフ、第4スイッチング素子S4をオンにする。第3スイッチング素子S3は、オンでもオフでもよい。この状態で入力回路12から入力信号を入力する。入力信号は、第4スイッチング素子S4及び抵抗変化素子11を介してコンデンサCに至り、コンデンサCが充電される。コンデンサCに蓄積される電荷量は、抵抗変化素子11の抵抗値と入力信号の大きさとによって決定される。例えば、当該入力信号がスパイキングニューラルネットワークにおける複数の入力パラメータのうちの1つを示す信号であった場合、コンデンサCには、当該入力パラメータと抵抗変化素子11の抵抗値に応じたスパイク信号を発生させるために必要な電荷が蓄積される。
【0030】
コンデンサCに十分電荷が蓄積された後に、第4スイッチング素子S4をオフにすると、コンデンサCは電荷が蓄積された状態を維持する。
【0031】
次いで、第1スイッチング素子S1をオンにする。第3スイッチング素子S3がオフの場合は、同時に第3スイッチング素子S3もオンにする。第1スイッチング素子S1がオンになると、コンデンサCに蓄積された電荷は、出力回路14に流れる。コンデンサCからは、放電電流に応じた信号が出力される。スパイキングニューラルネットワークでは、当該信号が、前述のスパイク信号として扱われる。
【0032】
ここで、
図3は、ニューロモーフィックデバイス100において一つのユニットUから出力されるスパイク信号の波形の一例を示す図である。
図3に示したグラフは、縦軸は電圧で、横軸は原点が示すタイミングからの経過時間である。
図3のスパイク信号は、抵抗変化素子11の抵抗値が0.5MΩであり、入力信号がパルス幅10ns、波高値が0.5Vのパルス信号であった場合のスパイク信号である。
【0033】
また
図4は、ニューロモーフィックデバイス100において一つのユニットUから出力されるスパイク信号の波形の一例を示す図である。
図4に示したグラフは、縦軸は電圧で、横軸は原点が示すタイミングからの経過時間である。
図4のスパイク信号は、抵抗変化素子11の抵抗値が0.5MΩであり、入力信号がパルス幅30ns、波高値が0.5Vのパルス信号であった場合のスパイク信号である。
【0034】
また
図5は、ニューロモーフィックデバイス100において一つのユニットUから出力されるスパイク信号の波形の一例を示す図である。
図5に示したグラフは、縦軸は電圧で、横軸は原点が示すタイミングからの経過時間である。
図5のスパイク信号は、抵抗変化素子11の抵抗値が1MΩであり、入力信号がパルス幅30ns、波高値が0.5Vのパルス信号であった場合のスパイク信号である。
【0035】
図3〜
図5に示した通り、ニューロモーフィックデバイス100は、コンデンサCの放電電流に応じた信号を、スパイキングニューラルネットワークにおけるスパイク信号として出力できる。また
図3〜
図5に示した通り、抵抗変化素子11の抵抗値、入力信号のパルス幅及び波高値に応じて、出力されるスパイク信号は変化する。第3端子TM3から出力されるスパイク信号は、抵抗変化素子11の抵抗値と入力信号とによって決定される。
【0036】
ここまで、一つのユニットUからのスパイク信号の出力動作について説明した。次いで、スパイク信号を変化させるためのパラメータの一つである抵抗変化素子11の抵抗値を変える書き込み動作について説明する。抵抗変化素子11の抵抗値は、例えば、第2端子TM2と第3端子TM3との間に流れるパルス電流に応じて変化する。抵抗変化素子11の抵抗値とは、具体的には、スパイク信号に影響を及ぼす第1端子TM1と第2端子TM2との間の抵抗値である。
【0037】
まず
図2に示す第1スイッチング素子S1をオン、第2スイッチング素子S2をオン、第3スイッチング素子S3をオフ、第4スイッチング素子S4をオフにする。この場合、充電回路13とコンデンサCとが接続され、コンデンサCが充電される。
【0038】
演算回路10が第4スイッチング素子4を有さない場合は、例えば、抵抗変化素子11の第1端子TM1と第2端子TM2との間の抵抗を、第2端子TM2と第3端子TM3との間の抵抗より大きくする。第1端子TM1と第2端子TM2との間の抵抗を大きくすることで、コンデンサCに充電された電荷が入力回路12側に放電されることが防止される。
【0039】
また第1スイッチング素子S1と第2スイッチング素子S2との間、又は、第2スイッチング素子S2と充電回路13との間に抵抗体を設けると、コンデンサCへの充電が緩やかになる。コンデンサCへの充電速度が速いと、第2端子TM2と第3端子TM3との間にパルス電流が流れる。第2端子TM2と第3端子TM3との間に流れるパルス電流は、抵抗変化素子11の抵抗値を変化させる。抵抗変化素子11の抵抗値は、後述するコンデンサCからの放電により制御する。コンデンサCへの充電時にパルス電流が生じると、抵抗変化素子11の抵抗値が予期せぬ変動をする。コンデンサCへの充電を緩やかにすることで、コンデンサCへの充電時にパルス電流が生じることが避けられる。また充電回路13に充電速度を制御できる電源を用いてもよい。
【0040】
コンデンサCに十分電荷が蓄積された後に、第1スイッチング素子S1をオフにすると、コンデンサCは電荷が蓄積された状態を維持する。この際、第2スイッチング素子S2もオフにする。
【0041】
次いで、第1スイッチング素子S1及び第3スイッチング素子S3をオンにする。第1スイッチング素子S1がオンになると、コンデンサCに蓄積された電荷は、出力回路14に流れる。この際、第2端子TM2と第3端子TM3との間にパルス電流が流れる。第2端子TM2と第3端子TM3との間にパルス電流が流れると、抵抗変化素子11の抵抗値が変化する。
【0042】
以上のように、ニューロモーフィックデバイス100は、スパイク信号を生み出すことができ、3端子型の抵抗変化素子を用いたスパイキングニューラルネットワークを実現できる。またコンデンサCからの放電を利用して、抵抗変化素子11の抵抗値を変えることもでき、出力されるスパイク信号の波形を変えることができる。スパイク信号発生時のスパイクで、抵抗変化素子11が予期せぬ変動をおこさないためには、第1端子TM1と第2端子TM2との間の抵抗の方が、第2端子TM2と第3端子TM3との間の抵抗より大きくすることが望ましい。その結果、スパイク信号の電流値と、書き込み動作時の放電パルスの大きさに差をつけることができ、誤書き込み動作を防ぐことができる。第1端子TM1と第2端子TM2との間の抵抗は、第2端子TM2と第3端子TM3との間の抵抗の10倍以上が望ましく、更には100倍以上が望ましい。
【0043】
上述のように、一つのユニットUから一つのスパイク信号を生み出すことができる。また
図2に示すように、配線w2に複数のユニットUが接続されている場合、それぞれのユニットUの第1スイッチング素子S1の動作を、制御部20で制御することで、様々なスパイク信号を生み出すことができる。それぞれのユニットUの第1スイッチング素子S1の動作は、制御部20によって同期させてもよいし、同期させなくてもよい。以下、同じ配線w2に接続された3つのユニットを第1ユニット、第2ユニット、第3ユニットと称する。
【0044】
図6は、配線w2に接続されている複数のユニットUの第1スイッチング素子S1の動作を同期させた場合のタイミングチャートである。タイミングチャートは、第1端子TM1及び第3端子TM3の電圧の時間的な変化を示す。
図6に示す領域R1は、第1ユニットのタイミングチャートである。
図6に示す領域R2は、第2ユニットのタイミングチャートである。
図6に示す領域R3は、第3ユニットのタイミングチャートである。
図6に示す領域R4は、出力回路14に出力される出力電圧の時間的変化を示すタイミングチャートである。
【0045】
タイミングチャートIS1,IS2,IS3はそれぞれ、それぞれのユニットの第1端子TM1の電圧の時間的な変化の一例を示す。またタイミングチャートOS1,OS2,OS3はそれぞれ、それぞれのユニットの第3端子TM3の電圧の時間的な変化の一例を示す。またタイミングチャートOS4は、出力回路14に出力される出力電圧の時間的変化の一例を示す。
【0046】
図6に示した期間TS11,TS12は、第1ユニットの第1端子TM1に入力信号が入力されている期間を示す。
図6に示したように、期間TS12は、期間TS11よりも後の期間である。
また、
図6に示した期間TS21及び期間TS22は、第2ユニットの第1端子TM1に入力信号が入力されている期間を示す。
図6に示したように、期間TS22は、期間TS21よりも後の期間である。
図6に示した期間TS31及び期間TS32は、第3ユニットの第1端子TM1に入力信号が入力されている期間を示す。
図6に示したように、期間TS32は、期間TS31よりも後の期間である。
【0047】
図6に示したタイミングT1〜タイミングT5の5つのタイミングのそれぞれは、第1ユニットから第3ユニットのそれぞれの第1スイッチング素子S1の状態をオフ状態からオン状態へと変化させたタイミングである。制御部20は、当該5つのタイミングのそれぞれにおいて、第1ユニットから第3ユニットのそれぞれの第1スイッチング素子S1を、所定時間が経過するまでの期間、オフ状態とする。制御部20は、所定時間が経過したタイミングにおいて、第1スイッチング素子S1の状態をオンにする。これにより、当該期間内において、第1ユニットから第3ユニットのそれぞれからは、コンデンサCの放電電流に応じたスパイク信号が出力される。配線w2の抵抗値を抵抗変化素子11の抵抗値より2〜3桁程度小さくすることで、第1端子TM1に入力信号が入力された状態のまま第1スイッチング素子S1の状態がオン状態となったとしても、スパイク信号が出力される。
【0048】
図6に示したように、第1ユニットから第3ユニットのそれぞれから出力されたスパイク信号は、重畳されて出力される。タイミングチャートOS4に生じるスパイク信号は、第1ユニットから第3ユニットのそれぞれから出力されたスパイク信号が重畳された信号である。
【0049】
すなわち、ニューロモーフィックデバイス100は、スパイキングニューラルネットワークにおいて、各ニューロンに対応するユニットUから出力されたスパイク信号を重畳し、重畳して得られた信号に応じた処理を行うことができる。ここで、
図6のタイミングチャートOS4に示した「Fire Threshold」は、当該信号についての閾値の一例を示す。例えば、ニューロモーフィックデバイス100は、対象出力端に接続したコンパレータ等によって、当該信号の大きさが当該閾値を超えたか否かを判定することができる。そして、ニューロモーフィックデバイス100は、判定した結果に応じた処理を行うことができる。
【0050】
図7は、配線w2に接続されている複数のユニットUの第1スイッチング素子S1の動作を一部で同期させなかった場合のタイミングチャートである。
図7に示す領域R5は、第1ユニットのタイミングチャートである。
図7に示す領域R6は、第2ユニットのタイミングチャートである。
図7に示す領域R7は、第3ユニットのタイミングチャートである。
図7に示す領域R8は、出力回路14に出力される出力電圧の時間的変化を示すタイミングチャートである。
【0051】
タイミングチャートIS1,IS2,IS3はそれぞれ、それぞれのユニットの第1端子TM1の電圧の時間的な変化の一例を示す。またタイミングチャートOS5,OS6,OS7はそれぞれ、それぞれのユニットの第3端子TM3の電圧の時間的な変化の一例を示す。またタイミングチャートOS8は、出力回路14に出力される出力電圧の時間的変化の一例を示す。
【0052】
ここで、タイミングチャートOS5では、期間TS11が終了するタイミングと、期間TS12が終了するタイミングとのそれぞれにおいて、スパイク信号が第1ユニットから出力されている。これはすなわち、制御部20が、第1ユニットの第1端子TM1への入力信号の入力を終了するタイミングと同期して、第1ユニットの第1スイッチング素子S1を制御していることを意味する。具体的には、これは、制御部20が、当該タイミングにおいて、第1スイッチング素子S1の状態を第1状態から第2状態へと変化させていることを意味する。
【0053】
タイミングチャートOS6でも、期間TS21が終了するタイミングと、期間TS22が終了するタイミングとのそれぞれにおいて、スパイク信号が第2ユニットから出力されている。また、タイミングチャートOS7でも、期間TS31が終了するタイミングと、期間TS32が終了するタイミングとのそれぞれにおいて、スパイク信号が第3ユニットから出力されている。
【0054】
このように、制御部20は、第1ユニットから第3ユニットのそれぞれについて、演算回路10の第1端子TM1への入力信号の入力を終了するタイミングと同期して、演算回路10の第1スイッチング素子S1を制御する構成であってもよい。換言すると、制御部20は、第1ユニットから第3ユニットのそれぞれの第1スイッチング素子S1を、互いに同期させずに制御する構成であってもよい。この場合、例えば、ニューロモーフィックデバイス100は、スパイキングニューラルネットワークにおいて、ある情報(又は、ある入力信号)に対して感度が高いユニットUから出力されるスパイク信号を重畳して対象伝送路の出力端から出力することができる。このようなスパイク信号の重畳は、より人間の脳において行われている処理に近いとも考えることができる。このため、ニューロモーフィックデバイス100は、人間の脳が行う処理を、より高いレベルで模倣したスパイキングニューラルネットワークを実現することができる。
【0055】
<抵抗変化素子の具体例>
また抵抗変化素子11の一例である磁壁移動型の磁気抵抗効果素子について説明する。磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果として巨大磁気抵抗効果(Giant Magneto Resistive Effect)、トンネル磁気抵抗効果(Tunnel Magneto Resistance Effect)等を用いた素子である。磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果素子が有する2つの強磁性層の磁化の関係によって抵抗値が変化する。磁気抵抗効果素子は、例えば、当該2つの強磁性層の磁化の関係を、スピン偏極電流によって変化させることが可能である。そして、磁壁移動型の磁気抵抗効果素子は、スピン偏極電流によって当該2つの強磁性層のうちの一方の強磁性層内における磁壁を移動させることにより、当該2つの強磁性層の磁化の関係を変化させることが可能な磁気抵抗効果素子である。
【0056】
図8は、抵抗変化素子11の構成の一例を示す図である。抵抗変化素子11は、第1端子TM1と第2端子TM2と第3端子TM3との3つの端子に加えて、抵抗変化部B1と磁化固定部B11と磁化固定部B12とを備える。
【0057】
抵抗変化部B1は、2つの強磁性層を有する。抵抗変化部B1は、これら2つの強磁性層の磁化の関係によって抵抗値が変化する。具体的には、抵抗変化部B1は、強磁性層L1と非磁性層L2と磁気記録層L3とを備える。以下では、一例として、磁気記録層L3の形状が板状の直方体である場合について説明する。なお、磁気記録層L3の形状は、これに代えて、他の形状であってもよい。
【0058】
図8に示した三次元座標系BCは、磁気記録層L3の長手方向とX軸方向とが一致し、磁気記録層L3の短手方向とY軸方向とが一致する右手系の三次元直交座標系である。
図8に示した抵抗変化素子11は、三次元座標系BCにおけるY軸の負方向に向かって見た場合における抵抗変化素子11である。以下では、説明の便宜上、三次元座標系BCにおけるZ軸の正方向を上又は上方向と称し、当該Z軸の負方向を下又は下方向と称して説明する。
【0059】
抵抗変化部B1において、強磁性層L1と、非磁性層L2と、磁気記録層L3とは、
図8に示したように、下から上に向かって、磁気記録層L3、非磁性層L2、強磁性層L1の順に積層される。
【0060】
強磁性層L1は、強磁性体を含む。強磁性層L1は、抵抗変化部B1が有する2つの強磁性層のうちの一方である。強磁性層L1では、磁化の方向が固定されている。
図8に示した矢印の方向M1は、強磁性層L1において固定されている磁化の方向の一例を示す。
図8に示した例では、方向M1は、三次元座標系BCにおけるX軸の正方向と一致している。
【0061】
図8に示した例では、強磁性層L1の上部には、前述の第1端子TM1が設けられている。第1端子TM1は、例えば、電極である。
【0062】
強磁性層L1を構成する強磁性材料は、例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等である。強磁性層L1は、例えば、Co−Fe、Co−Fe−B、Ni−Feである。
【0063】
強磁性層L1は、ホイスラー合金を含んでもよい。ホイスラー合金は、ハーフメタルであり、高いスピン分極率を有する。ホイスラー合金は、XYZ又はX
2YZの化学組成をもつ金属間化合物である。Xは、周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素又は貴金属元素である。Yは、Mn、V、Cr、あるいはTi族の遷移金属又はXの元素である。Zは、III族からV族の典型元素である。ホイスラー合金は、例えば、Co
2FeSi、Co
2FeGe、Co
2FeGa、Co
2MnSi、Co
2Mn
1−aFe
aAl
bSi
1−b、Co
2FeGe
1−cGa
cである。
【0064】
強磁性層L1の磁化をXY面に沿った方向に配向させる(強磁性層L1を面内磁化膜にする)場合、例えば、強磁性層L1をNiFeとする。当該XY平面は、三次元座標系BCにおけるX軸及びY軸の両方に平行な平面のことである。一方、強磁性層L1の磁化をZ軸に沿った方向に配向させる(強磁性層L1を垂直磁化膜にする)場合、例えば、強磁性層L1をCo/Ni積層膜、Co/Pt積層膜とする。当該Z軸は、三次元座標系BCにおけるZ軸のことである。
【0065】
強磁性層L1は、非磁性層L2と反対側の面に、反強磁性層AF1からなるピニング層を備えてもよい。反強磁性層AF1の材料としては、IrMn、PtMn等を用いることができる。
【0066】
強磁性層L1の構造は、シンセティック構造でもよい。シンセティック構造は、強磁性層L1の非磁性層L2と反対側の面に、非磁性層、強磁性層が積層される。シンセティック構造をなす2つの強磁性層の磁化が反強磁性カップリングすることで、強磁性層L1の磁化が強く保持される。
【0067】
非磁性層L2には、公知の材料を用いることができる。例えば、非磁性層L2が絶縁体から構成される場合(すなわち、非磁性層L2がトンネルバリア層である場合)、その材料としては、Al
2O
3、SiO
2、MgO、及び、MgAl
2O
4等を用いることができる。非磁性層L2は、上記の材料のAl、Si、Mgの一部が、Zn、Be等に置換された材料等が用いられてもよい。非磁性層L2が金属から構成される場合、その材料としては、Cu、Au、Ag等を用いることができる。さらに、非磁性層L2が半導体から構成される場合、その材料としては、Si、Ge、CuInSe
2、CuGaSe
2、Cu(In,Ga)Se
2等を用いることができる。
【0068】
磁気記録層L3は、強磁性体を含む。磁気記録層L3は、抵抗変化部B1が有する2つの強磁性層のうちの他方である。磁気記録層L3は、内部に磁壁DWを有する。磁壁DWは、磁気記録層L3内において磁化の方向が互いに反対方向を向いている磁区MR1と磁区MR2との境界である。すなわち、磁気記録層L3は、磁区MR1と磁区MR2との2つの磁区を内部に有している。
図8に示した矢印の方向M2は、磁区MR1における磁化の方向の一例を示す。
図8に示した例では、方向M2は、三次元座標系BCにおけるX軸の正方向と一致している。
図8に示した矢印の方向M3は、磁区MR2における磁化の方向の一例を示す。
図8に示した例では、方向M3は、三次元座標系BCにおけるX軸の負方向と一致している。
【0069】
磁気記録層L3が有する端部のうちの磁区MR1側の端部の下部には、磁化固定部B11が設けられている。磁化固定部B11の下部には、前述の第2端子TM2が設けられている。第2端子TM2は、例えば、電極、ビア配線である。
【0070】
磁気記録層L3を構成する強磁性材料としては、強磁性層L1と同様のものを用いることができる。磁気記録層L3を構成する強磁性材料は、強磁性層L1を構成可能な強磁性材料のうち強磁性層L1を構成する強磁性材料と異なる強磁性材料であってもよい。磁気記録層L3は、例えば、Co、Ni、Pt、Pd、Gd、Tb、Mn、Ge、Gaからなる群から選択される少なくとも1つの元素を有することが好ましい。また、磁気記録層L3として垂直磁化を用いる場合には、例えば、磁気記録層L3を構成する強磁性材料としては、CoとNiの積層膜、CoとPtの積層膜、CoとPdの積層膜、MnGa系材料、GdCo系材料、TbCo系材料が挙げられる。MnGa系材料、GdCo系材料、TbCo系材料等のフェリ磁性体は、飽和磁化が小さく、磁壁DWを移動するために必要な閾値電流を下げることができる。また、CoとNiの積層膜、CoとPtの積層膜、CoとPdの積層膜は、保磁力が大きく、素子の安定性をあげることができる。また、磁壁DWの移動速度を抑えることができる。
【0071】
磁化固定部B11は、強磁性体を含む。磁化固定部B11では、磁化の方向が固定されている。
図8に示した矢印の方向M4は、磁化固定部B11において固定されている磁化の方向(又は当該スピンの方向)の一例を示す。
図8に示した例では、方向M4は、三次元座標系BCにおけるX軸の正方向と一致している。
【0072】
磁化固定部B11を構成する材料は、強磁性層L1を構成可能な材料であれば、如何なる材料であってもよい。磁化固定部B11は、シンセティック構造でもよい。
【0073】
磁気記録層L3が有する端部のうちの磁区MR2側の端部の下部には、磁化固定部B12が設けられている。磁化固定部B12の下部には、前述の第3端子TM3が設けられている。第2端子TM2は、例えば、電極、ビア配線である。
【0074】
磁化固定部B12は、強磁性体を含む。磁化固定部B12では、磁化の方向が固定されている。
図8に示した矢印の方向M5は、磁化固定部B12において固定されている磁化の方向の一例を示す。
図8に示した例では、方向M5は、三次元座標系BCにおけるX軸の負方向と一致している。
【0075】
磁化固定部B12を構成する材料は、強磁性層L1を構成可能な材料であれば、如何なる材料であってもよい。磁化固定部B12は、シンセティック構造でもよい。
【0076】
第2端子TM2から磁化固定部B11、磁気記録層L3を順に介して第3端子TM3へ電流が流された場合、磁気記録層L3には、第3端子TM3から第2端子TM2に向かって磁化固定部B12の磁化の方向M5と同じ方向にスピン偏極された電子が流れる。具体的には、第2端子TM2の電位よりも第3端子TM3の電位が低くなるように第2端子TM2と第3端子TM3との間に電圧が印加された場合、磁気記録層L3には、第3端子TM3側から第2端子TM2側に向かって当該電子が流れる。
【0077】
これに対し、第3端子TM3から磁化固定部B12、磁気記録層L3を順に介して第2端子TM2へ電流が流された場合、磁気記録層L3には、第2端子TM2から第3端子TM3に向かって磁化固定部B11の磁化の方向M4と同じ方向にスピン偏極された電子が流れる。具体的には、第2端子TM2の電位よりも第3端子TM3の電位が高くなるように第2端子TM2と第3端子TM3との間に電圧が印加された場合、磁気記録層L3には、第2端子TM2側から第3端子TM3側に向かって当該電子が流れる。
【0078】
磁気記録層L3内における磁壁DWの位置が移動した場合、磁気記録層L3の内部において、磁区MR1が占める体積と磁区MR2が占める体積との比率が変化する。
図8に示した例では、強磁性層L1の磁化の方向M1は、磁区MR1の磁化の方向M2と同じ方向であり、磁区MR2の磁化の方向M3と反対の方向である。
【0079】
三次元座標系BCにおけるZ軸の負方向に向かって抵抗変化部B1を見た場合において強磁性層L1と磁区MR1とが重なる面積は、三次元座標系BCにおけるX軸の正方向に磁壁DWが移動した場合、広くなる。その結果、当該場合、抵抗変化素子11の抵抗値は、磁気抵抗効果によって低くなる。一方、当該面積は、当該X軸の負方向に磁壁DWが移動した場合、狭くなる。その結果、当該場合、抵抗変化素子11の抵抗値は、磁気抵抗効果によって高くなる。
【0080】
ここで、前述した通り、抵抗変化部B1では、磁壁DWは、第2端子TM2と第3端子TM3との間にパルス電流が流されることによって移動する。
【0081】
すなわち、電流が第3端子TM3から第2端子TM2へ流された場合、磁区MR1は、磁区MR2の方向へ広がる。その結果、磁壁DWは、磁区MR2の方向へ移動する。一方、この一例では、電流が第2端子TM2から第3端子TM3へ流された場合、磁区MR2は、磁区MR1の方向へ広がる。その結果、磁壁DWは、磁区MR1の方向へ移動する。
【0082】
このように、抵抗変化部B1では、第2端子TM2と第3端子TM3との間に流される電流の方向(すなわち、磁気記録層L3に流される電流の方向)、強度に応じて、磁壁DWの位置が移動し、抵抗変化素子11の抵抗値が変化する。
【0083】
<演算回路の構成方法>
図9は、基板Sub上に構成された演算回路1の一例を示す図である。上述のように、演算回路1は、例えば、抵抗変化素子11と入力線w1と配線w2と第1スイッチング素子S1と第2スイッチング素子S2と第3スイッチング素子S3とコンデンサCとを備える。
【0084】
基板Subは、例えば、半導体基板である。第1スイッチング素子S1、第2スイッチング素子S2、第3スイッチング素子S3及び第4スイッチング素子S4は、基板Sub上に形成される。第2スイッチング素子S2、第3スイッチング素子S3及び第4スイッチング素子S4は、当該断面には図示されず、例えばY方向のいずれかの位置にある。
【0085】
第1スイッチング素子S1は、例えば、ビア配線V1によって配線w2に接続される。また第1スイッチング素子S1は、例えば、ビア配線V2によって抵抗変化素子11に接続される。配線w2は、例えば、y方向に延びる。第2スイッチング素子S2、第3スイッチング素子S3は、配線w2のy方向の異なる位置で、例えば、ビア配線によって配線w2に接続される。配線w2、第1スイッチング素子S1、第2スイッチング素子S2、第3スイッチング素子S3の周囲は絶縁層91で覆われる。
【0086】
絶縁層91は、多層配線の配線間や素子間を絶縁する層間絶縁膜である。絶縁層91は、例えば、酸化シリコン(SiO
x)、窒化シリコン(SiN
x)、炭化シリコン(SiC)、窒化クロム、炭窒化シリコン(SiCN)、酸窒化シリコン(SiON)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化ジルコニウム(ZrO
x)等である。
【0087】
抵抗変化素子11は、例えば、ビア配線V2によって第1スイッチング素子S1に接続される。抵抗変化素子11は、例えば、前述の磁壁移動素子である。抵抗変化素子11は、絶縁層90で覆われている。絶縁層90は、絶縁層91と同様である。
【0088】
抵抗変化素子11の強磁性層L1には入力線w1が接続されている。抵抗変化素子11の磁気記録層L3には、絶縁層L4と極板L5が接続されている。絶縁層L4及び極板L5は、X方向において、ビア配線V2が接続される端部と反対側の端部に接続されている。
【0089】
絶縁層L4は、コンデンサCとして機能する。コンデンサCが有する2つの極板のうちの一方は、抵抗変化素子11の外周部の一部である。すなわち、極板L5と対向する磁気記録層L3の外周部が、コンデンサCの極板として機能する。磁気記録層L3の外周部がコンデンサCの極板として機能すると、部品点数が減り、製造コストの増加を抑制することができるとともに、製造を容易にすることができる。またニューロモーフィックデバイスを小型化することができる。
第1端子と第2端子と第3端子との3つの端子を有し、抵抗値を変化させることが可能な抵抗変化素子と、前記第1端子に接続された入力線と、前記第2端子に接続され、前記第2端子と基準電位との間にあるコンデンサと、前記第3端子に接続された第1スイッチング素子と、前記第1スイッチング素子を介して、前記第3端子に接続された配線と、前記配線の第1端に接続された第2スイッチング素子と、前記配線の第2端に接続された第3スイッチング素子と、を備える、演算回路。