(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841402
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】毛髪処理剤及び毛髪処理方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20210301BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20210301BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/9789
A61Q5/00
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-162340(P2016-162340)
(22)【出願日】2016年8月23日
(65)【公開番号】特開2018-30790(P2018-30790A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】591080760
【氏名又は名称】ラピアス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093148
【弁理士】
【氏名又は名称】丸岡 裕作
(72)【発明者】
【氏名】古川 利正
(72)【発明者】
【氏名】村井 啓一
(72)【発明者】
【氏名】福勢 慶昭
【審査官】
田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−184006(JP,A)
【文献】
特開2001−163736(JP,A)
【文献】
特開2003−277239(JP,A)
【文献】
特開2002−241237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪に残存するチオール類に起因する臭いを消臭する毛髪処理剤において、
水を主成分とし、上記チオール類に対して加温されることにより反応促進可能な反応結合可能部位を持ったテルペン化合物を含み、
該テルペン化合物として、反応結合可能部位が付加結合する末端不飽和二重結合である鎖状テルペン化合物、及び、反応結合可能部位が縮合結合するアルコール性水酸基である鎖状テルペン化合物のうち、少なくとも何れかの鎖状テルペン化合物が選択されることを特徴とする毛髪処理剤。
【請求項2】
上記テルペン化合物として、リナロール、ゲラニオール、ネロールから単独若しくは二種以上が選択されることを特徴とする請求項1記載の毛髪処理剤。
【請求項3】
水を主成分とし、上記テルペン化合物を、0.0001〜4W%含有することを特徴とする請求項2記載の毛髪処理剤。
【請求項4】
上記テルペン化合物として、植物から水蒸気蒸留法によって抽出したテルペン精油を用いることを特徴とする請求項3記載の毛髪処理剤。
【請求項5】
植物から水蒸気蒸留法によってテルペン精油を抽出する際の水層成分であることを特徴とする請求項3または4記載の毛髪処理剤。
【請求項6】
上記植物は、クロモジであることを特徴とする請求項4または5記載の毛髪処理剤。
【請求項7】
炭酸イオンを共存させたことを特徴とする請求項1乃至6何れかに記載の毛髪処理剤。
【請求項8】
上記炭酸イオンを共存させるために、炭酸ガスを、50〜9000ppm溶解させたことを特徴とする請求項7記載の毛髪処理剤。
【請求項9】
pH範囲が3≦pH≦8.5であることを特徴とする請求項7または8記載の毛髪処理剤。
【請求項10】
ガススプレー缶に充填したことを特徴とする請求項7乃至9何れかに記載の毛髪処理剤。
【請求項11】
毛髪に残存するチオール類に起因する臭いを消臭する毛髪処理方法において、
上記請求項1乃至10何れかに記載の毛髪処理剤を用い、該毛髪処理剤を、毛髪に付与し、その後、加温することを特徴とする毛髪処理方法。
【請求項12】
還元作用を有する第1剤を毛髪に塗布し、毛髪のシスチンのジスルフィド結合を切って毛髪を軟化させ、その後、酸化作用を有する第2剤を毛髪に塗布し、該毛髪のジスルフィド結合の再結合を促す毛髪のパーマネント処理に用いられ、上記第2剤による処理後に、毛髪に残存するチオール類に起因する臭いを消臭する毛髪処理方法において、
上記請求項1乃至10何れかに記載の毛髪処理剤を用い、該毛髪処理剤を、毛髪に付与し、その後、40〜100℃の範囲で加温することを特徴とする毛髪処理方法。
【請求項13】
上記毛髪処理剤を毛髪を濡らして付与することを特徴とする請求項11または12記載の毛髪処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪変形処理(パーマネント)や毛髪染色処理の後などに、毛髪に残存するチオール類に起因する臭いを消臭する毛髪処理剤及び毛髪処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えば、毛髪の変形処理(パーマネント)においては、還元作用を有する第1剤を毛髪に塗布し、毛髪のシスチンのジスルフィド結合を切って毛髪を軟化させ、その後、酸化作用を有する第2剤を毛髪に塗布し、毛髪のジスルフィド結合の再結合を促すようにしている。第1剤の還元剤としては、チオグリコール酸またはその塩、あるいはシステイン、システアミン、ラクトンチオール等のメルカプト化合物が用いられている。このメルカプト化合物を用いたパーマネントウェーブ剤により処理する際、チオール類に起因する不快臭を伴い、その不快臭は毛髪に残り、また、第2剤による処理をしても、毛髪シスチンが完全に戻らずシステイン類の状態で残留すること等の原因で、数回シャンプー洗髪しても不快な臭気が除去できない。そのため、従来から、この毛髪に残存するチオール類に起因する臭いを消臭する毛髪処理剤を用いた毛髪処理が行われている。
【0003】
従来この種の毛髪処理剤としては、例えば、特開平8―277210号公報(特許文献1)に掲載されたものが知られている。この毛髪処理剤は、ウイキョウ、オレンジ、チョウジ、マツ、ハッカ、ユーカリ、マンネンロウ、ローマカミツレから得られる天然精油の少なくとも1種を含有するもので、例えば、第2剤の終了後に使用するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8―277210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この従来の毛髪処理剤においては、天然精油を含有したものを塗布するだけなので、臭気成分を覆う所謂マスキング処理になっており、そのため、残留したチオール類が顕在化すると不快臭を生じ、また、チオール類の不快臭と毛髪処理剤自身の臭気とが混在してまた別の不快臭を生じさせることもあり、必ずしも十分な処理になっていないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、不快臭の原因となるチオール類と化学反応させて確実に不快臭を除去できる毛髪処理剤及び毛髪処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するため、本発明は、毛髪に残存するチオール類に起因する臭いを消臭する毛髪処理剤において、上記チオール類に対して加温されることにより反応促進可能な反応結合可能部位を持ったテルペン化合物を含む毛髪処理剤にある。
ここで、加温とは、例えば、温風ヘアドライヤーや遠赤外線ドライヤーによる加温を挙げることができる。
【0008】
テルペン化合物としては、テルペンの炭化水素、アルコール、アルデヒド、ケトン、オキシド等で、例えば、ミルセン、オシメン、リモネン、ピネン等のテルペン系炭化水素、テルピネオール、シトロネロール、リナロール、ゲラニオール、ネロール、ジヒドロリナロール、テトラヒドロリナロール、ジヒドロミルセノール、メントール、ボルネオール、イソボルネオール等のテルペン系アルコール、シトロネラール、シトラール、ジメチルオクタナール等のテルペン系アルデヒド、カルボン、ジヒドロカルボン、プレゴン、メントン、ジメチルナフチルケトン、イオノン、ムスコン等のテルペン系ケトン、シネオール等のオキシドが挙げられる。これらのテルペン化合物としては、単独若しくは二種以上が選択される。
【0009】
これを用いるときは、例えば、毛髪のパーマネント処理において、第2剤による処理後に、この毛髪処理剤を、毛髪に付与し、その後、加温する。これにより、加温するので、所謂エン・チオール反応が速やかに生じ、テルペン化合物の反応結合部位がチオール類に対して付加反応し、スルフィドが生成される。そのため、確実に不快臭を除去できるようになる。即ち、毛髪処理剤による処理直後から不快臭が消臭され、その後、1日程度過ぎて香りによるマスキング効果が無くなっても、チオール類と本発明成分の結合反応により不快臭が再び生じる事態を防止することができる。実用的には濡れた状態で加温すると、反応促進効果が良好に発揮される。
【0010】
上記テルペン化合物としては、その反応結合可能部位
が付加結合する末端不飽和二重結合である
鎖状テルペン化合物を選択することができる。チオール類に対する反応を促進することができる。
【0011】
また、上記テルペン化合物としては、その反応結合可能部位
が縮合結合するアルコール性水酸基
である鎖状テルペン化合物を選択することができる。アルコールとチオールとの脱水縮合が生じる場合があり、その場合には、スルフィドの生成が行われる。スルフィドは無臭であるため、消臭される。
【0012】
テルペン化合物が鎖状テルペン化合物であること
は有効である。チオール類に対する反応を促進することができる。
【0013】
特に、上記テルペン化合物として、リナロール、ゲラニオール、ネロールから単独若しくは二種以上が選択されることが有効である。刺激が強すぎない使用感のよいものにすることができる。また、不快臭成分の(−SH)基との反応性に優れる。
【0014】
そして、必要に応じ、水を主成分とし、上記テルペン化合物を、0.0001〜4W%含有する構成としている。好ましくは、0.001〜0.05W%、より好ましくは、0.005〜0.02W%である。
【0015】
そしてまた、必要に応じ、上記テルペン化合物として、植物から水蒸気蒸留法によって抽出したテルペン精油を用いる構成としている。精油採油方法として、周知の水蒸気蒸留法、油脂に植物を添加して精油を吸着させた後、エタノールで精油を抽出する油脂吸着法、植物をヘキサンやベンゼン等の有機溶媒や超臨界流体で抽出し、エタノール等の溶剤に溶解させた後、溶剤を蒸発させて残渣を採取する溶剤抽出法、圧搾法等が挙げられるが、有機や無機不純物の少ない消臭効果の優れた成分を選択的に抽出できる点で水蒸気蒸留法が優れる。
【0016】
また、必要に応じ、植物から水蒸気蒸留法によってテルペン精油を抽出する際の水層成分である構成としている。水層成分の殆んどは水であるが、僅かに水に相溶する水酸基を持ったテルペン精油を含むことから、特別な調整を行なわなくても、チオールとの反応性に優れた成分を所要の含有量を得ることができ、それだけ、製造が容易で、安価に提供できる。
【0017】
この場合、植物は、クロモジであることが有効である。クロモジの精油成分には、テルペン化合物として、リナロール、ゲラニオールが含まれる。特に、水蒸気蒸留法によってクロモジからテルペン精油を抽出する際の水層成分中には、リナロール、ゲラニオールが所要量含有され、他の不純成分がほとんど検出されないので、他の不純成分が反応に与える影響がなく、そのため、チオール類に対する反応が選択的に行われ、極めて反応効率が良くなる。
【0018】
この場合、リナロールの成分量は、0.001〜0.4W%、好ましくは、0.003〜0.05W%、より好ましくは、0.01〜0.02W%である。ゲラニオールの成分量は、0.001〜0.4W%、好ましくは、0.003〜0.05W%、より好ましくは、0.005〜0.01W%である。
また、pHは、3≦pH≦8.5、好ましくは、4≦pH≦5である。pHが低くなり過ぎるとテルペン類の構造が環化するなど変化を起こして反応性が最適化されない可能性がある。
【0019】
また、必要に応じ、炭酸イオンを共存させた構成としている。炭酸ガスが水に溶けた時に形成される炭酸イオンが所謂ルイス酸触媒として機能し、反応を促進させることができる。例えば、テルペン化合物がアルコール類である場合、チオールとアルコールとの脱水縮合が生じ、スルフィドの生成が行われる。スルフィドは無臭であるため、消臭される。
【0020】
この場合、上記炭酸イオンを共存させるために、炭酸ガスを、50〜9000
ppm溶解させた構成としている。好ましくは、200〜5000ppmである。
また、この場合、pH範囲が3≦pH≦8.5であることが有効である。好ましくは、4≦pH≦5である。pHが低くなり過ぎるとテルペン類の構造が環化など変化を起こして反応性が最適化されない可能性がある。
【0021】
この場合、ガススプレー缶に充填したことが有効である。毛髪処理剤をスプレーで塗布することができる。また、炭酸を保持して、その機能を発揮させることができる。
【0022】
そして、上記目的を達成するため、本発明の毛髪処理方法は、毛髪に残存するチオール類に起因する臭いを消臭する毛髪処理方法において、上記の毛髪処理剤を用い、該毛髪処理剤を、毛髪に付与し、その後、加温する構成としている。上記と同様の作用,効果を奏する。加温によって反応が促進され、最適な加温の範囲としては40〜100℃が良く、好ましくは50〜70℃が良いが、風量や加温手段によってその範囲の最適化が必要となる。40℃に満たないと反応がなされないかあるいは不十分になる。100℃を超えると、毛髪に悪影響を与える。ドライヤーの温度は120℃以上にもなるが、乾いた髪にドライヤーを掛けすぎると火傷や毛髪損傷の原因となる。
【0023】
また、本発明の毛髪処理方法は、還元作用を有する第1剤を毛髪に塗布し、毛髪のシスチンのジスルフィド結合を切って毛髪を軟化させ、その後、酸化作用を有する第2剤を毛髪に塗布し、該毛髪のジスルフィド結合の再結合を促す毛髪のパーマネント処理に用いられ、上記第2剤による処理後に、毛髪に残存するチオール類に起因する臭いを消臭する毛髪処理方法において、上記の毛髪処理剤を用い、該毛髪処理剤を、毛髪に付与し、その後、40〜100℃の範囲で加温する構成としている。毛髪のパーマネント処理において、極めて有効になる。
そしてまた、この場合、上記毛髪処理剤を濡れた毛髪に付与することが有効である。毛髪が濡れた状態で加温すると、反応促進効果が良好に発揮される。また、加温温度が比較的低くなるので、火傷や毛髪損傷を確実に防止することができる。実験によれば、濡れた状態の髪にドライヤーを掛けた時の毛髪への接触温度は50〜70℃にすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、例えば、毛髪のパーマネント処理において、第2剤による処理後に、本発明の毛髪処理剤を、毛髪に付与し、その後、加温する。これにより、テルペン化合物の反応結合部位がチオール類に対して化学反応し、不快臭成分の(−SH)基が低減するので、確実に不快臭を除去できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施の形態に係る毛髪処理剤を示す図である。
【
図2】本発明の実施例に係り、クロモジから水蒸気蒸留法によってテルペン精油を抽出する際の水層成分例を示す表図である。
【
図3】本発明の実施例に係り、クロモジから水蒸気蒸留法によって抽出したテルペン精油の成分例を示す表図である。
【
図4】毛髪変形処理(パーマネント)におけるシスティンとシスチンとの変化関係を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る毛髪処理剤において、毛髪処理時のシスティンに対するリナロール及びゲラニオールの反応を示す図である。
【
図6】本発明の毛髪処理方法の実施例1,2について比較例1,2にとともに行った不快臭の官能評価結果を示す表図である。
【
図7】本発明の毛髪処理方法の実施例3について比較例3,4にとともに行った不快臭の官能評価結果を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施の形態に係る毛髪処理剤及び毛髪処理方法について詳細に説明する。実施の形態に係る毛髪処理方法は、実施の形態に係る毛髪処理剤を用いるので、その作用の説明において説明する。
【0027】
図1には、本発明の実施の形態に係る毛髪処理剤を示す。この毛髪処理剤は、毛髪に残存するチオール類に起因する臭いを消臭する毛髪処理剤であって、チオール類に対して加温されることにより反応可能な反応結合可能部位を持ったテルペン化合物を含む。テルペン化合物
としては、その反応結合可能部位
が付加結合する末端不飽和二重結合である
鎖状テルペン化合物、及び、反応結合可能部位
が縮合結合するアルコール性水酸基
である鎖状テルペン化合物のうち、少なくとも何れかの鎖状テルペン化合物が選択される。
【0028】
詳しくは、テルペン化合物として、少なくとも、リナロール、ゲラニオール、ネロールから単独若しくは二種以上が選択される。実施の形態では、リナロール及びゲラニオールが選択されている。そして、毛髪処理剤は、水を主成分とし、テルペン化合物を、0.0001〜4W%含有する。好ましくは、0.001〜0.05W%、より好ましくは、0.005〜0.02W%である。
【0029】
具体的には、植物としてのクロモジから有機や無機不純物の少ない消臭効果の優れた成分を選択的に抽出できる水蒸気蒸留法によってテルペン精油を抽出する際の水層成分を用いている。水層成分の殆んどは水であるが、僅かに水に相溶する水酸基を持ったリナロール及びゲラニオールを含むことから、特別な調整を行なわなくても、チオールとの反応性に優れた成分を所要の含有量を得ることができ、それだけ、製造が容易で、安価に提供できる。
【0030】
この場合、リナロールの成分量は、0.001〜0.4W%、好ましくは、0.003〜0.05W%、より好ましくは、0.01〜0.02W%である。ゲラニオールの成分量は、0.001〜0.4W%、好ましくは、0.003〜0.05W%、より好ましくは、0.005〜0.01W%である。水分量は99.2〜99.998W%である。好ましくは、99.9W%以上である。
【0031】
水層成分の成分例を、
図2に示す。参考に、クロモジの精油層の成分例を
図3に示す。特に、水蒸気蒸留法によってクロモジからテルペン精油を抽出する際の水層成分中には、リナロール、ゲラニオールが所要量含有され、他の不純成分があってもほとんど検出されない。
【0032】
また、本毛髪処理剤においては、炭酸イオンが共存している。具体的には、炭酸イオンを共存させるために、炭酸ガスが、50〜9000
ppm溶解させられている。好ましくは、200〜5000ppmである。
また、pHは、3≦pH≦8.5、好ましくは、4≦pH≦5である。
そして、
図1に示すように、本毛髪処理剤は、ガススプレー缶に充填されている。
【0033】
尚、炭酸ガスを人為的に充填させること無く、一般的に空気中に存在する350ppmの炭酸ガスが自然に本発明のクロモジ水に溶解している状態で用いることも可能である。その場合は、強固な缶に充填することなくポンプ式スプレーで処理することもできる。即ち、空気中の炭酸ガスが溶解し易いように、クロモジ水を長時間放置することで、炭酸ガスを溶解させることができる。理論溶解値として最大200ppmを溶解することができる。自然界に存在する炭酸ガスとクロモジ水の相乗効果により、更に、加温によって消臭効果を顕著に発揮させることができる。
【0034】
従って、実施の形態に係る毛髪処理剤は、例えば、毛髪の変形処理(パーマネント)に用いられる。
図4に示すように、パーマネント処理においては、先ず、還元作用を有する第1剤を毛髪に塗布し、毛髪のシスチンのジスルフィド結合を切って毛髪を軟化させ、その後、酸化作用を有する第2剤を毛髪に塗布し、毛髪のジスルフィド結合の再結合を促す。第1剤の還元剤としては、チオグリコール酸またはその塩、あるいはシステイン、システアミン、ラクトンチオール等のメルカプト化合物が用いられている。第2剤としては、臭素酸ナトリウムまたは過酸化水素が用いられる。
【0035】
その後、パーマネント処理薬剤除去のためにシャンプー洗髪し、本毛髪処理剤が入れられたガススプレー缶を用い、毛髪に本毛髪処理剤を噴霧して毛髪に塗布する。塗布は、シャンプー洗髪してから濡れた状態またはタオルドライしても良い。そして、ドライヤーにより、加温し、乾燥・セットする。乾いた髪に使用する場合はクロモジ水で毛髪を良く濡らしてからドライヤーでセットする。最適な加温の範囲としては40〜100℃が良く、好ましくは50〜70℃が良い。メルカプト化合物を用いたパーマネントウェーブ剤により処理する際、チオール類に起因する不快臭を伴い、その不快臭は毛髪に残り、第2剤による処理をしても、毛髪シスチンが完全に戻らずシステイン状態で残留すること等の原因で、数回シャンプー洗髪しても不快な臭気が除去できないが、本毛髪処理剤により、チオール類に起因する臭いを消臭することができる。この場合、毛髪が濡れた状態で加温するので、反応促進効果が良好に発揮される。また、加温温度が比較的低くなるので、火傷や毛髪損傷を確実に防止することができる。
【0036】
即ち、
図5に示すように、加温するので、所謂エン・チオール反応が速やかに生じ、リナロー
ルにおいては、その反応結合部位である末端不飽和二重結合がチオール(−SH)と反応
し、ゲラニオールにおいては、その反応結合可能部位であるアルコール性水酸基がチオール(−SH)と反応し、スルフィドが生成される。そのため、確実に不快臭を除去できるようになる。また、
ゲラニオールにおいては、炭酸ガスが水に溶けた時に形成される炭酸イオンが所謂ルイス酸触媒として機能
し、アルコール性水酸基(−OH)とチオールとの脱水縮合が生じ、スルフィドの生成が
促進される。スルフィドは無臭であるため、消臭される。また、水蒸気蒸留法によってクロモジからテルペン精油を抽出する際の水層成分中には、リナロール、ゲラニオール以外の他の不純成分がほとんど検出されないので、他の不純成分が反応に与える影響がなく、そのため、チオール類に対する反応が選択的に行われ、極めて反応効率が良くなる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の実施例に係る毛髪処理方法を示す。
実施例においては、以下の毛髪処理剤の試料を作成した。
(1)試料1
試料1に係る毛髪処理剤(クロモジ水と表記)は、上記実施の形態に係る毛髪処理剤と同様であり、その成分は、
図2に示す通りである。また、炭酸イオンが共存しており、クロモジ水の炭酸ガスの溶解重量は、100〜200ppmである。また、pHは、pH=4.1である。
(2)試料2
試料2に係る毛髪処理剤は、
図3に示すクロモジ精油(0.04W%)をエタノール(15.00W%)とともに精製水(84.96W%)に溶解した。pHは、pH=7.9である。
(3)試料3
試料1の毛髪処理剤に、更に炭酸ガスを吹き込んだ毛髪処理剤(クロモジ炭酸スプレー水)である。炭酸ガスの充填量は、0.75MPaであった。計算して得られるクロモジ水中の炭酸ガス量は約5000ppmになる。
【0038】
各試料1〜3について、ブランクとともに、以下の実施例1,2に係る処理及び比較例1,2に係る処理を行い、不快臭について官能評価を行い、比較した。
各実施例及び比較例では、下記の毛束にパーマネント処理を行ない、これに試料に係る毛髪処理剤を塗布した。毛束(ビューラックス製:中国人女性同一人毛、1.5g、15cm)にパーマ処理を行い、この毛束5本を作成した。パーマネント処理はウエラ スタイルフォーム ヘアコントロールN(P&Gジャパン社製)を用い常法により行った。
【0039】
比較例1:試料1の毛髪処理剤(100μL)を乾いた毛束に均一に塗布した。
実施例1:試料1の毛髪処理剤(100μL)を濡れた毛束に均一に塗布し、ドライヤーで加温乾燥した。
比較例2:試料2の毛髪処理剤(50μL)を乾いた毛束に均一に塗布した。
実施例2:試料3の毛髪処理剤の(100μL)を毛束に均一に塗布し、ドライヤーで加温乾燥した。
ブランク:乾燥した毛束をそのまま不快臭の基準として使用した(加温無し)。
【0040】
そして、各実施例及び比較例について、処理直後,1日経過後,1日経過後(濡れた時)の各場合について、不快臭の官能評価を行った。ここで、濡れた時とは、1日以降にシャンプーをすると不快臭が戻るので、1日経過後の評価を行った後、再度濡らして評価した。
結果を
図6に示す。
図6に示す評価は以下の通りである。
◎ 不快臭が全く残っていない。
○ 不快臭が殆んど残っていない。
□ 不快臭が少し残っている。
△ 不快臭がかなり残っている。
× ブランクと同等の強い不快臭が残っている。
【0041】
この結果から、比較例1は加温していないので、処理直後から1日経過後にはある程度の消臭効果は認められるものの、1日経過後に濡らすと内部のチオール臭がしてその効果がなくなる。比較例2も加温していないので、処理直後から1日経過後にはある程度の消臭効果は認められるものの、1日経過後に濡らすとその効果が低減する。そのため、比較例1,2においては、チオールとの反応が行われていない若しくは極めて弱く、消臭はマスキング効果によると考えられる。尚、ブランクも1日経つと不快臭は表面上弱くなるが、髪を濡らすと内部のチオール臭がする。
【0042】
これに対して、実施例1と実施例2は、加温があるので、処理直後から1日経過後に亘り良好な消臭効果が認められ、また、1日経過後に毛髪を濡らしてもその効果が維持される。そのため、加温によりチオールとの反応が顕著に行われていると考えられる。
炭酸ガスは、ルイス酸触媒として働き、クロモジ水+炭酸ガス(炭酸イオン)+加温によってチオール類と本特許成分が瞬時に反応し無臭化することが見出された。
【0043】
また、試料1について、以下の実施例3に係る処理及び比較例3,4に係る処理を行い、不快臭について官能評価を行い、比較した。
各実施例及び比較例では、試験者6人(各実施例及び比較例において試験者2名ずつ)に対して下記のパーマネント処理を行ない、各試験者に試料1に係る毛髪処理剤を塗布し、官能評価を行った。パーマネント処理は、ウエラ スタイルフォーム ヘアコントロールN(P&Gジャパン株式会社製)を用いた。処理方法は、パーマ処理後の頭髪を左右半頭に分け、片方に試料1に係るクロモジ水をポンプスプレーにて塗布した。
【0044】
比較例3:パーマ後の乾燥した髪に試料1を塗布した。
比較例4:パーマ後の濡れた髪に試料1を塗布した。
実施例3:パーマ後の濡れた髪に試料1を塗布し、ドライヤーにて乾燥した。
【0045】
そして、各実施例及び比較例について、処理直後,1日経過後,の各場合について、美容技術経験者による消臭効果を評価判定した。
結果を
図7に示す。
図7に示す評価は以下の通りである。
◎ 不快臭は全く残っていない。
○ 不快臭が殆んど残っていない。
□ 不快臭が少し残っている。
△ 不快臭がかなり残っている。
× ブランクと同等の強い不快臭が残っている。
【0046】
この結果から、比較例3は加温していないので、処理直後にはある程度の消臭効果は認められるものの、1日経過後には内部のチオール臭がしてその効果がなくなる。比較例4も加温していないので、処理直後から1日経過後にはある程度の消臭効果は認められるものの、反応時間が不足するので1日経過後その効果が低減する。そのため、比較例3,4においては、チオールとの反応が行われていないか若しくは極めて弱く、消臭はマスキング効果によると考えられる。即ち、乾燥した髪に塗布した場合はクロモジの精油成分によるマスキングが主たる作用で不快臭は消えるが、香りが飛ぶと残っている臭いがでるので多量のクロモジ水が必要となる。
一方、実施例3はドライヤーによる加熱をしたので、処理直後から1日経過後に亘り良好な消臭効果が認められ、また、1日経過後にシャンプーをしても不快臭の戻りが無いので直後の結合反応効果でチオール類が消滅していることが判った。そのため、加温によりチオールとの反応が顕著に行われていると考えられる。
【0047】
尚、上記実施の形態に係る毛髪処理剤は、リナロール、ゲラニオールを含有したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、何れか一方単独でも良い。また、ネロールを単独若しくは他と混合して用いても良く、適宜変更して差支えない。また、上記実施の形態に係る毛髪処理剤は、クロモジから水蒸気蒸留法によってテルペン精油を抽出する際の水層成分を用いて作成したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、クロモジから水蒸気蒸留法によって抽出したテルペン精油を用いても良い。また、別の方法で生成されたリナロール、ゲラニオール、ネロールから単独若しくは二種以上を選択して用いても良く、適宜変更して差支えない。
【0048】
更にまた、本発明において、テルペン化合物は、リナロール、ゲラニオール、ネロールに限定されるものではなく、適宜のテルペン化合物を用いて良いことは勿論である。また、上記実施の形態に係る毛髪処理剤は、毛髪変形処理(パーマネント)に用いたが、これに限定されるものではなく、毛髪染色後等に用いるなど、毛髪に残存するチオール類に起因する臭いを消臭する目的であれば、どのような毛髪に用いても良いことは勿論である。要するに、本発明は、上述した本発明の実施の形態に限定されず、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施の形態に多くの変更を加えることが容易であり、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、毛髪変形処理(パーマネント)や毛髪染色後等に、毛髪に残存するチオール類に起因する臭いを消臭する技術として、利用,活用を図ることができるだけでなく、消費者の不快臭に対するクレームが解決されるため、所謂パーマ離れが無くなり、顧客の回復に極めて有用である。