特許第6841404号(P6841404)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6841404-ペプチド 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841404
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/47 20060101AFI20210301BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20210301BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20210301BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   C07K14/47ZNA
   A61K38/17
   A61P1/04
   A61P35/00
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-163465(P2016-163465)
(22)【出願日】2016年8月24日
(65)【公開番号】特開2018-30807(P2018-30807A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 裕二
(72)【発明者】
【氏名】内山 和彦
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−511662(JP,A)
【文献】 特表2009−542609(JP,A)
【文献】 J. Cell. Physiol., 2014, Vol. 229, pp. 1908-1917
【文献】 生化学, 2009, Vol. 81, No. 9, pp. 780-792
【文献】 難治性炎症性腸管障害に関する調査研究,平成25年度総括・分担研究報告書,平成26年3月,第205−206頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00−15/90
C07K 14/47
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列GVSGSCSLKTCWLQLADFRKVGDALKEKYDSAAAMRで表される、ペプチド
【請求項2】
請求項1に記載のペプチドを有効成分として含む炎症性腸疾患の予防又は治療剤。
【請求項3】
請求項1に記載のペプチドを有効成分として含む大腸がん治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドに関する。また、本発明は、炎症性腸疾患の予防又は治療剤、大腸がんの治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
潰瘍性大腸炎やクローン病を代表とする炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease:以下IBD)は原因不明の慢性再燃性消化管炎症疾患である。近年、IBDの病態における免疫機構や腸内細菌の関与などが明らかとなっており、それらを標的とする様々な治療が提唱されている。その治療効果の目標は臨床的寛解ではなく、内視鏡的に確認する「粘膜治癒」が重要であり粘膜治癒が得られれば、臨床的寛解の維持、手術率の低下につながることが示されている。IBDに対しては近年多くの治療薬が臨床応用されており、治療成績も向上しているが、同時に治療抵抗性で手術を余儀なくされる症例も依然として多く存在している。また、炎症性腸疾患の患者数は年々増加の一途をたどっており、内科治療に抵抗性で手術にいたる症例も増加している。したがって、既存の内科治療に加え、粘膜治癒を促すことによる長期寛解維持効果を発揮する治療の開発が急務である。
【0003】
一方、進行した大腸癌に対しては分子標的薬の開発などで治療効果は向上しているが、いまだに死亡率は増加傾向にある。進行大腸癌に対する内科治療は、複数の治療を繰り返して実施する過程で治療抵抗性を示し、治療の継続が不可能になってしまう。したがって、既存の抗癌剤治療に加え、別のメカニズムによる大腸癌化学療法の開発が急務である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、炎症性腸疾患、大腸がんの治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、Wnt5aの部分ペプチドが炎症性腸疾患、大腸がんに有効であることを見出した。
【0006】
本発明は、以下のペプチド、炎症性腸疾患の予防又は治療剤、大腸がん治療剤を提供するものである。
項1. 下記のアミノ酸配列(I)
QLADFRKVGDALKEKYDSAAAMR (I)
を含む、ペプチド。
項2. 下記のアミノ酸配列(Ia)
R−QLADFRKVGDALKEKYDSAAAMR (Ia)
(式中、Rは下記の13種
GVSGSCSLKTCWL、
VSGSCSLKTCWL、
SGSCSLKTCWL、
GSCSLKTCWL、
SCSLKTCWL、
CSLKTCWL、
SLKTCWL、
LKTCWL、
KTCWL、
TCWL、
CWL、
WL、又は
L
のいずれかである)
を含む、項1に記載のペプチド。
項3. GVSGSCSLKTCWLQLADFRKVGDALKEKYDSAAAMRで表される、項1又は2に記載のペプチド
項4. 項1,2又は3のペプチドを有効成分として含む炎症性腸疾患の予防又は治療剤。
項5. 項1,2又は3のペプチドを有効成分として含む大腸がん治療剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明のペプチドは、大腸粘膜細胞の増殖を促進し、大腸粘膜の創傷治癒に有効であり、炎症性腸疾患の予防又は治療剤として有用である。
【0008】
また、本発明のペプチドは、大腸がん細胞の増殖を抑制し、大腸がんの治療剤として有用である。
【0009】
大腸がんの発症は、炎症性腸疾患により促進すると言われており、本発明のペプチドは、潰瘍性大腸炎の治癒促進により、大腸がんを予防でき、かつ大腸がんの治療効果を有し、強力な大腸保護作用を有する。
【0010】
本発明のペプチドは、大腸粘膜細胞の増殖を促進し、かつ、大腸がんの増殖を抑制するという、相反する作用を併せ持つという格別の効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のペプチドとコントロールによる大腸がんの発育抑制の比較。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のペプチドは、ヒトWnt5a由来であり、23アミノ酸のペプチド(I)を必須配列として含み、さらにN末端側にR基で表される1〜13個のアミノ酸もしくはペプチドを連結したものであってもよい。これらの23〜36個のアミノ酸からなるペプチドは、共通して式(I)の23個のアミノ酸配列を保有している。
【0013】
23個と36個のアミノ酸配列の配列番号は、以下の通りである。
配列番号1: QLADFRKVGDALKEKYDSAAAMR
配列番号2: GVSGSCSLKTCWLQLADFRKVGDALKEKYDSAAAMR
ヒト及びマウスのWnt5aの塩基配列及びアミノ酸配列は公知であり、データベースに下記のアクセッション番号で登録されている。
マウスのWnt5a : NM_009524
ヒトのWnt5a : NM_003392
ヒトとマウスのWnt5aの配列番号1,2に対応するアミノ酸配列は同一であり、本発明のペプチドは、ヒト及びマウスを含む哺乳動物に対し、炎症性腸疾患の予防又は治療剤、並びに、大腸がん治療剤として有用である。
【0014】
配列番号1で示される23アミノ酸のペプチド(I)(QLADFRKVGDALKEKYDSAAAMR)は、エピトープを含んでおり、腸粘膜創傷治癒作用及び大腸がんの増殖抑制作用に必須の部分である。また、本発明のペプチドは水溶性である。
【0015】
本発明の式(I)又は(Ia)のペプチドは、固相合成により製造してもよく、これらのペプチドをコードするDNAを大腸菌などの適当な宿主に導入して遺伝し工学的な手法により製造してもよい。また、式(I)又は(Ia)のペプチドのN末端は、メチル化もしくはアセチル化されていてもよく、C末端はメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステルなどの炭素数1〜4のアルキル基とエステル化されていてもよく、アミド化(CONH2)されていてもよい。
【0016】
また、本発明のペプチドは、塩酸、硫酸、硝酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸などの有機酸もしくは無機酸と酸付加塩を形成してもよく、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属と塩基塩を形成してもよい。
【0017】
本発明のペプチドは、粘膜細胞の増殖を促進することで炎症性腸疾患の粘膜創傷治癒を促進することができ、潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患の予防又は治療に有効である。
【0018】
また、本発明のペプチドは、大腸がんの増殖を抑制できるので、大腸がんの治療に有効である。
【0019】
本発明のペプチドは、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤などの経口剤により投与した場合、腸管粘膜から吸収されることにより大腸に作用してもよく、吸収されなかったペプチドは大腸表面の粘膜もしくはがんに直接作用して効果を発現してもよい。或いは、注射剤、坐剤などの非経口剤により投与してもよい。本発明のペプチドを大腸に直接作用させる場合、腸溶性コーティングした錠剤、顆粒剤などの経口剤として投与すると、腸内で分解されずに大腸まで到達するので、好ましい。
【0020】
本発明のペプチドの潰瘍性大腸炎、大腸がんに対する有効投与量は、いずれも成人1日当たり0.01mg〜10g程度である。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を示すが、本発明はこの実施例だけに限定されるものではない。
【0022】
本実施例で使用する配列番号2の36アミノ酸のペプチドの製造は、Invitragenに依頼し、質量分析の結果、理論値3906.53、実測値3906.40であった。
配列番号2:GVSGSCSLKTCWLQLADFRKVGDALKEKYDSAAAMR
【0023】
実施例1:マウス大腸癌皮下移植モデル
6週齢BALB-Cマウスの背側に培養したColon26(マウス大腸癌細胞株)を皮下移植(皮下注)し、同日より投与を開始した。PBS(200μl)連日腹腔内投与群をコントロール群、PBSに溶解した36アミノ酸の配列番号1のWnt5a ペプチド(20μg/200μl)の連日腹腔内投与群を治療群とした(各群5匹)。その後経時的に両群の腫瘍径を測定し、比較検討した。結果を図1に示す。
【0024】
実施例2:Wnt5a 36AA peptideの創傷治癒効果
YAMC細胞(Young Adult Mouse Colonic epithelial cell)におけるwound healing assay(YAMC細胞を用いたwound healing assayに関する参考論文:Uchiyama K, et al., BBRC 391(2010) 1122-1126)において、配列番号1の36アミノ酸のペプチドの濃度が10ng/mlでYAMC細胞の創傷治癒を亢進した。
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]