(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記検出器へ所定の光強度を有する光を入射させつつ、前記第1の範囲内の露光時間と前記第2の範囲内の複数の露光時間とを含む複数の露光時間で前記検出器によりそれぞれ測定したときのそれぞれの出力値からなる出力値群を取得するステップと、
前記出力値群についての近似式を規定する係数のセットを決定するステップと、
前記検出器へ入射する光の光強度を変更して、前記出力値群を取得するステップおよび前記係数のセットを決定するステップを繰り返すステップと、
それぞれの光強度について取得された前記係数のセットに対する回帰分析により、前記補正係数を決定するステップとをさらに備える、請求項2に記載の光学測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0023】
<A.装置構成>
まず、本実施の形態に従う光学測定装置を含む光学測定システムの装置構成について説明する。
図1は、本実施の形態に従う光学測定システム1の装置構成を示す模式図である。
【0024】
(a1:光学測定システム)
図1を参照して、光学測定システム1は、光学測定装置100および処理装置200を含む。光学測定システム1は、測定結果などを印刷出力するためのプリンタをさらに含んでいてもよい。
図1には、光学測定装置100および処理装置200が分離して構成される例を示すが、両装置を一体的に構成してもよい。あるいは、複数の光学測定装置100を単一の処理装置200で制御するようにしてもよい。
【0025】
光学測定システム1は、様々な光学特性を測定することができる。光学特性としては、例えば、全光束量、照度(または、分光放射照度)、輝度(または、分光放射輝度)、光度、色演色(色度座標、刺激純度、相関色温度、演色性)、吸収率、透過率、反射率、発光スペクトル(および、ピーク波長、半波値)、励起スペクトル、外部量子効率(または、外部量子収率)、内部量子効率(または、内部量子収率)などを含む。
【0026】
以下では、本実施の形態に従う光学測定システム1および光学測定装置100の一例として、近赤外領域(波長範囲:約800〜2500[nm])での光学特性を測定可能な構成について説明する。本実施の形態に従う光学測定システム1は、反射法および透過法のいずれでも測定可能であり、自発光するサンプルであればそのサンプル単体を測定することも可能である。
【0027】
(a2:光学測定装置)
本実施の形態に従う光学測定装置100は、少なくとも近赤外領域に検出感度を有する検出器を有している。光学測定装置100の典型例として、分光測定が可能な構成(マルチチャネル)について説明するが、本実施の形態に従う出力直線性の補正処理を含む光学測定方法は、特定の波長または波長範囲の光強度などを検出する、いわゆるモノクロメータにも適用可能である。
【0028】
光学測定装置100は、分光測定部110と、コントローラ130と、インターフェイス
回路150とを含む。
【0029】
分光測定部110は、光ファイバ2を介して入力されるサンプルからの光(以下、「サンプル光」とも称す。)が入力され、そのサンプル光に含まれる波長成分毎の強度分布(強度スペクトル)を出力する。より具体的には、分光測定部110は、接続部112と、光学スリット114と、シャッター116と、回折格子118と、検出器120と、冷却フィン122とを含む。光学スリット114と、シャッター116と、回折格子118と、検出器120とは、筐体124の内部に配置される。
【0030】
光ファイバ2の一端は接続部112により筐体124に対して固定される。接続部112は、光ファイバ2の開口端の光軸が光学スリット114の中心軸と位置合わせされるように、光ファイバ2を固定する。光ファイバ2を伝搬したサンプル光は、光学スリット114を通過して回折格子118に入射する。光学スリット114はサンプル光の断面径を調整する。シャッター116は、光ファイバ2と回折格子118との間を光学的に接続/遮断する。通常の測定時においては、シャッター116は開状態に維持されて、光ファイバ2から射出されるサンプル光が回折格子118に入射する。一方、校正時には、シャッター116は開状態に維持されて、光ファイバ2から射出されるサンプル光が回折格子118に入射することが阻止される。
【0031】
回折格子118は、光ファイバ2から射出されたサンプル光が入射すると、当該サンプル光をそれぞれの波長成分に光学的に分離する。すなわち、回折格子118の表面に形成されるパターンによってサンプル光が回折されることで、サンプル光に含まれる各波長成分は、その波長の長さに応じた異なる方向に進むことになる。それぞれの波長成分は、回折格子118に対して光学的に位置合わせされた検出器120に入射する。このように、回折格子118は、検出器120に対応付けて配置され、所定の波長範囲(本構成例では、近赤外領域)の光を検出器120に導くように構成されている。回折格子118としては、ブレーズ回折格子などを用いることができる。
【0032】
検出器120は、回折格子118によって分離された各波長成分を受光できるように、互いに独立した検出面を複数並べて配置した、1次元アレイ素子(例えば、ラインセンサなど)または2次元アレイ素子(例えば、CCDイメージセンサまたはCMOSイメージセンサなど)が採用される。検出器120としては、CCD(Charge-Coupled Device)イメージセンサを採用してもよい。検出器120の検出面の長さおよび分解能などは、回折格子118の回折特性および検出対象となる光の波長範囲に応じて設計される。
【0033】
検出器120は、少なくとも近赤外領域に検出感度を有する。このような近赤外領域に検出感度を有する検出素子として、InGaAs(インジウムガリウムヒ素)、GaAs(ガリウムヒ素)、GaSb(ガリウムアンチモン)、InAs(インジウムヒ素)、InSb(インジウムアンチモン)、PbS(硫化鉛)、PbSe(
セレン
化鉛)などからなるデバイスを用いることができる。本実施の形態においては、一例として、InGaAsフォトダイオードを2次元配置したInGaAsリニアイメージセンサを採用する。検出器120は、InGaAsフォトダイオードアレイ、チャージアンプ、サンプル・ホールド回路、アドレススイッチ、シフトレジスタ、オフセット補償回路などを含む。検出器120は、回折格子118での回折方向に位置付けて配置されることにより、所定の波長範囲毎に区切られた複数のチャネルを有することになる。検出器120は、さらに、InGaAsリニアイメージセンサの指定されたチャネルにおける検出値を読み出す読出回路を有している。
【0034】
検出器120の検出面とは反対側は、筐体124の外部に配置された冷却フィン122と機械的に接続されており、検出器120で発生する熱雑音を低減するようになっている。冷却フィン122と検出器120との間に、図示しない電子冷却装置(例えば、ペルチェ素子)を配置してもよい。
【0035】
コントローラ130は、分光測定部110での光学測定に必要な処理を実施する。典型的には、コントローラ130は、分光測定部110におけるシャッター116の開閉動作、検出器120の活性化、検出器120からの出力信号に対する信号処理(増幅処理およびノイズ除去など)、検出器120からの出力信号の出力直線性を改善するための補正処理などを行なう。
【0036】
より具体的には、コントローラ130は、プロセッサ132と、メモリ134と、増幅器136と、A/D(Analog to Digital)変換器138と、タイミング回路140と、駆動回路142とを含む。
【0037】
プロセッサ132は、プログラムを実行することで、光学測定装置100での必要な処理を実現する。なお、プロセッサ132に代えて、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードワイヤードな構成で実現してもよい。メモリ134は、プロセッサ132で実行されるプログラム、および、後述するような補正処理に必要なデータなどを格納する。
【0038】
増幅器136は、検出器120からの出力信号を増幅する。A/D変換器138は、増幅器136の後段に配置され、出力信号(アナログ信号)を周期的にサンプリングして各タイミングでの信号強度を示すデジタル値を逐次出力する。タイミング回路140は、検出器120を構成する検出素子を順次駆動するとともに、検出素子に対する駆動タイミングをA/D変換器138へ与える。タイミング回路140は、指定される露光時間に応じてタイミングの発生周期または位相を調整する。
【0039】
駆動回路142は、シャッター116の位置を切り替えて開閉動作を実現する。
インターフェイス
回路150は、処理装置200から光学測定装置100へのアクセスを仲介する。インターフェイス
回路150としては、例えば、USB(Universal Serial Bus)またはEthernet(登録商標)といった汎用的な構成が採用されてもよい。
【0040】
図2は、本実施の形態に従う光学測定装置100での検出処理に係る構成を示すブロック図である。
図2を参照して、検出器120は、InGaAsフォトダイオードアレイ120aと、InGaAsフォトダイオードアレイ120aの任意のチャネルにおける検出値を読み出す読出回路120bとを含む。読出回路120bは、タイミング回路140が発生する所定周期のクロック信号に応答して、InGaAsフォトダイオードアレイ120aの各チャネルにおける検出値をサイクリックに出力する。増幅器136は、読出回路120bから出力される出力信号を増幅し、A/D変換器138へ出力する。A/D変換器138は、入力された増幅後の出力信号を所定周期毎にサンプリングして各サンプリング周期での出力信号の強度を示す出力値を順次出力する。A/D変換器138は、タイミング回路140からのクロック信号に応答して、内部に蓄積しているサンプリングをリセットする。すなわち、タイミング回路140からのクロック信号に基づいて、読出回路120bからの出力信号の出力開始と、A/D変換器138でのサンプリングのリセットとを同期させる。A/D変換器138から出力される出力値はメモリ134に順次格納される。
【0041】
プロセッサ132は、メモリ134に順次格納される出力値(補正前)を読み出して、出力直線性の補正処理132aを実施する。出力直線性の補正処理132aの詳細については後述する。プロセッサ132での出力直線性の補正処理132aの実施により得られる補正後の出力値が処理装置200などへ出力される。
【0042】
(a3:処理装置200)
処理装置200は、光学測定装置100からの測定結果を処理することで、サンプル光についての様々な光学特性を算出する。処理装置200は、典型的には汎用的なコンピュータによって実現される。
図3は、本実施の形態に従う処理装置200の装置構成を示す模式図である。
【0043】
図3を参照して、処理装置200は、オペレーティングシステム(OS:Operating System)を含む各種プログラムを実行するプロセッサ202と、プロセッサ202でのプログラムの実行に必要なデータを一時的に記憶する主メモリ204と、プロセッサ202で実行されるプログラムを不揮発的に記憶するハードディスク206とを含む。光学測定装置100を構成する各コンポーネントは、バス220を介して互いに接続されている。
【0044】
ハードディスク206には、サンプル光から様々な光学特性を算出するための測定プログラム208、および、光学測定装置100での校正処理を実現するための校正プログラム209などが予め格納されている。測定プログラム208および/または校正プログラム209は、DVD(Digital Versatile Disc)などの光学媒体212に格納されて流通し、あるいは、ネットワークを介して配信される。測定プログラム208および/または校正プログラム209が光学媒体212に格納されて流通する場合には、光学ドライブ210によって読取られてハードディスク206にインストールされる。一方、測定プログラム208および/または校正プログラム209がネットワークを介して配信され場合には、ネットワークインターフェイス214を介して受信され、ハードディスク206にインストールされる。
【0045】
ディスプレイ216は、算出された光学特性や光学測定装置100の動作状況などを表示する。入力部218は、典型的には、キーボードやマウスなどを含み、ユーザの操作を受付ける。
【0046】
なお、処理装置200の機能の全部または一部をハードワイヤードな構成で実現してもよい。
【0047】
<B.出力直線性の補正方法>
次に、本願発明者らが見出した検出器120で発生する出力直線性の劣化、および、そのような出力直線性の劣化に対する補正方法について説明する。
【0048】
(b1:概要)
図4は、本実施の形態に従う検出器120からの出力信号に対する出力直線性の補正方法の概要を説明するための図である。
図4には、検出器120の露光時間と検出器120からの出力信号との関係を示す。具体的には、ある標準露光時間ts[ms]のときに検出器120から出力されるダーク補正後の出力値(以下、「Sig−Dark値」とも記す。)がysであったとする。標準露光時間tsの大きさは、検出器120の素子特性に依存するが、例えば、10[ms]に設定される。
【0049】
ここで、ダーク補正後の出力値(Sig−Dark値)について説明する。シャッター116(
図1参照)を閉じて検出器120への光の入射を遮断したときであっても、検出器120の熱雑音などによって出力信号はゼロとはならない。この状態の出力信号をダーク出力とも称する。検出器120の実質的な出力信号の大きさとしては、ダーク出力を基準とした差分を評価すべきである。すなわち、検出器120からの出力値(Sig)から予め取得しておいたダーク出力(Dark)を差し引いた値(Sig−Dark値)を検出器120での出力値として用いることとする。
【0050】
ここで、検出器120の露光時間がts[ms]からx[ms]まで増加したとする。露光時間の増加に比例して、検出器120に入射する光量の積算値は増加する。そのため、理想的には、露光時間xのときの検出器120から出力されるSig−Dark値y’は、ys×x/tsと等しくなるべきである。すなわち、検出器120からのSig−Dark値y’は、露光時間xに比例、すなわちy’=axの関係を維持することが理想である。
【0051】
しかしながら、現実には、露光時間が増加するにつれて、検出器120からの出力信号は理想直線を下回るようになる。本願出願人らの知見によれば、検出器120からの現実のSig−Dark値yは、露光時間xに関する2次式、すなわちy=ax+bx
2で規定できる。
【0052】
ここで、2つの式を比較すると、現実のSig−Dark値yと本来のSig−Dark値y’との間では、露光時間xについての1次項の係数aは共通であり、露光時間xについての2次項のみが出力直線性からのズレ量となる。
【0053】
このように、本願発明者らは、露光時間xについての2次項(bx
2)に相当する信号強度を補正すれば、検出器120からの出力信号の露光時間についての出力直線性を維持できるという新たな知見を見出した。つまり、現実のSig−Dark値yに対して、y’=y−bx
2の補正式を適用することで、本来のSig−Dark値(補正後のSig−Dark値)y’を算出できることを見出した。
【0054】
本実施の形態に従う出力直線性の補正方法においては、このような新たな知見に基づいて、係数aおよび係数bを決定する処理なども組み合わせて、出力直線性を実現する光学測定装置を提供する。
【0055】
(b2:測定結果)
上述した新たな知見に係る測定結果の一例を示す。具体的には、検出器120としてInGaAsリニアイメージセンサ(浜松ホトニクス株式会社製:型番G9206−256W:総画素数256)を用いた。InGaAsリニアイメージセンサの露光時間および入射光強度をそれぞれ異ならせて得られた測定結果の一例を示す。
【0056】
図5は、露光時間を1〜10[ms]の範囲で変更した場合の測定結果の一例を示す図である。
図6は、露光時間を10〜100[ms]の範囲で変更した場合の測定結果の一例を示す図である。
図5および
図6には、一例として、
図4に示す標準露光時間tsが10[ms]である場合を示す。
【0057】
図5および
図6において入射光強度は、0.1〜0.9の相対的な値で規定されている。
図5および
図6の各々において、最も短い露光時間(
図5においては1[ms]であり、
図6においては10[ms])における出力値が出力レンジの10%程度となるように、光ファイバ2とサンプル光を発生する光源との位置関係を調整した。
【0058】
図5(A)および
図6(A)には、各露光時間における現実のSig−Dark値が入射光強度毎にプロットされている。その上で、入射光強度毎のプロット集合を回帰分析した得られた回帰式および対応する決定係数R
2の値をそれぞれ示す。
【0059】
図5(B)および
図6(B)には、入射光強度毎に各露光時間での受光感度比がプロットされている。ここで、現実のSig−Dark値を露光時間で割ったものを「受光感度」と定義し、各露光時間での「受光感度」を基準となる露光時間で割ったものを「受光感度比」と定義する。基準となる露光時間としては、各グラフにおける最小の露光時間を採用する。すなわち、各測定結果において、受光感度比は、以下のように算出される。
【0060】
(1)露光時間1〜10[ms]:線形領域
受光感度比={(露光時間x[ms]における現実のSig−Dark値)/(露光時間x[ms]}/{(露光時間1[ms]における現実のSig−Dark値)/(露光時間1[ms]}
(2)露光時間10〜100[ms]:非線形領域
受光感度比={(露光時間x[ms]における現実のSig−Dark値)/(露光時間x[ms]}/{(露光時間10[ms]における現実のSig−Dark値)/(露光時間10[ms]}
すなわち、受光感度比は、
図5(A)および
図5(B)において、最小の露光時間におけるSig−Dark値と原点とを結ぶ直線上から、その他の露光時間におけるSig−Dark値がどの程度ずれているのかを示す。
【0061】
受光感度比が1に近いほど出力直線性が高いことを意味する。理想的な出力直線性が維持される場合には、受光感度比は、露光時間によらず常に1となる。
【0062】
図5(A)を参照して、露光時間が1〜10[ms]においては、いずれの入射光強度についても、1次式(y=ax+b)の形の回帰式が得られており、かつ、決定係数R
2=1となっている。すなわち、露光時間が1〜10[ms]においては、出力直線性が完全に維持されていると判断できる。
【0063】
図5(B)を参照して、露光時間が1〜10[ms]においては、いずれの入射光強度についても、受光感度比は0.99〜1.01の範囲内(すなわち、理想直線からのズレが±1%以内)に収まっており、良好な出力直線性が得られていることが分かる。
【0064】
これに対して、露光時間が10[ms]を超えると、出力直線性が維持されていない。
図6(A)を参照して、露光時間が10〜100[ms]においては、いずれの入射光強度についても、1次式(y=ax+b)の形の回帰式ではなく、2次式(y=ax
2+bx+c)の形の回帰式が得られており、かつ、その2次式の回帰式についての決定係数R
2=1となっている。このことは、露光時間が10〜100[ms]においては、出力直線性が維持されないこと、および、2次式によって各露光時間における出力値を高い精度で推定できることを意味する。
【0065】
より具体的には、露光時間が10〜100[ms]においては、現実のSig−Dark値y’は、以下のような(1)式を用いて近似できる。
【0066】
y’(s,x)≒Y(s,x)=a(s)x+b(s)x
2 …(1)
(1)式において、係数aおよび係数bは、いずれも入射光強度sに依存するという意味で、a(s)およびb(s)が用いられている。1次項の係数a(s)は理想直線の傾きを示し、2次項の係数b(s)は理想直線からのズレ度合いを示す。
【0067】
以下に、理想直線を反映する1次項a(s)xに対して、理想直線からのズレ度合いを示す2次項b(s)x
2(非線形項)がどの程度の大きさであるのかを評価した結果を示す。1次項に対する2次項の比(理想直線からのズレ率)は以下のように表わすことができる。
【0068】
b(s)x
2/a(s)x=b(s)x/a
(s)
入射光強度(0.1〜0.9)および露光時間(10〜100ms)の組み合わせの各々について、理想直線に対するズレ率は以下のように示される。
【0070】
上表によれば、露光時間10[ms]であれば、いずれの入射光強度であっても、理想直線からのズレ率は1%未満に抑制できていることが分かる。しかしながら、露光時間が20[ms]以上になると、入射光強度によってはズレ率が1%以上になっている。また、露光時間が同一であれば、入射光強度が弱いほど、理想直線からのズレ率が大きくなっていることも分かる。
【0071】
以上のような測定結果によれば、出力直線性に対する補正処理に用いる各種係数についても、入射光強度を考慮して決定する必要があると言える。
【0072】
図6(B)を参照して、露光時間が10〜100[ms]においては、いずれの入射光強度についても、露光時間の増加に伴って受光感度比が減少することが分かる。また、受光感度比の減少度合いは入射光強度に依存して異なることが分かる。
【0073】
再度
図4を参照して、上述のような測定結果によれば、標準露光時間ts[ms](例えば、10[ms])より短い露光時間では出力直線性が維持され、この領域は「線形領域」とみなすことができる。すなわち、検出器120へ入射する光強度に対して検出器120からの出力値が比例する露光時間の範囲が「線形領域」に相当する。
【0074】
これに対して、標準露光時間ts[ms]より長い露光時間では出力直線性が維持されず、この領域は「非線形領域」とみなすことができる。すなわち、検出器120へ入射する光強度に対して検出器120からの出力値が比例しない露光時間の範囲が「非線形領域」に相当する。
【0075】
説明の便宜上、
図4には、標準露光時間tsを境界として線形領域および非線形領域が配置されている例を示すが、2つの領域の間にいずれにも属さない領域が配置されていてもよい。
【0076】
本実施の形態に従う出力直線性の補正方法においては、線形領域に現れる出力直線性を基準として、非線形領域において得られる出力信号に対して補正を行なう。
【0077】
(b3:出力直線性の補正処理)
再度
図4を参照して、本実施の形態に従う出力直線性の補正方法においては、ある露光時間xにおいて取得された現実のSig−Dark値yに対して、露光時間xについての2次項bx
2を減じることで、本来のSig−Dark値y’を決定する。2次項の係数bについては、後述するように、補正係数αおよび補正係数βを用いて算出できる。すなわち、本実施の形態に従う出力直線性の補正処理においては、以下の(2)式に示す補正式を採用する。
【0079】
図7は、本実施の形態に従う光学測定装置100における出力直線性の補正処理に係る係数データを説明するための模式図である。
図7を参照して、光学測定装置100は、分光測定が可能な構成であり、検出器120は、複数の検出面(InGaAsフォトダイオード)が用意される。例えば、256chが利用可能である場合には、チャネル毎に補正係数α,βのセットを含む補正係数テーブル180が予め用意される。このように、補正係数α,βはチャネル毎に決定される。補正係数テーブル180は、コントローラ130にて参照可能になっている。補正係数テーブル180の取得方法については後述する。
【0080】
図8は、本実施の形態に従う光学測定装置100における出力直線性の補正処理を説明するための模式図である。
図8に示す機能ブロックは、典型的には、光学測定装置100のコントローラ130内に実装される。
【0081】
コントローラ130は、任意のサンプル光を任意の露光時間で検出器120により測定したときの出力値を取得する。任意の露光時間x[ms]にて検出器120に入射した入射光の検出動作が行なわれたとする。検出器120の任意のチャネルからの出力信号(Sig)に対して、まずダーク補正が実施される。具体的には、減算器184にて、出力信号(Sig)から予め取得されるダーク出力(Dark)182を減じる処理が実施され、ダーク補正後の出力値(Sig−Dark)が算出される。なお、このダーク補正については、検出器120内で実施するようにしてもよい。
【0082】
検出器120における検出動作が行なわれたときの露光時間xが標準露光時間ts以下であるか否かに応じて、ダーク補正後の出力値(Sig−Dark)がそのまま出力されるか、あるいは、上述したような補正処理を実施して得られた補正後の出力値が出力されるのかが選択される。例えば、露光時間xと標準露光時間tsとの差分に応じて切り替わるスイッチ188などを用いて実現されてもよい。
【0083】
出力直線性の補正処理が実施される場合には、上述の(2)式に示す非線形項を算出するための補正関数190が利用される。補正関数190には、現実のSig−Dark値yおよび露光時間xが入力されるとともに、補正係数テーブル180(
図7参照)から対象のチャネルに対応する補正係数αおよび補正係数βが読み出されて、補正値が算出される。そして、減算器186にて、ダーク補正後の出力値(Sig−Dark値)yから補正量(bx
2)が減じられて、Sig−Dark値y’が算出される。この算出されたSig−Dark値y’が補正後の出力値として外部出力される。
【0084】
露光時間xが標準露光時間tsを超えるときの補正量(bx
2)は、標準露光時間tsを超える範囲(非線形領域)内の露光時間で検出器120により測定したときに得られる出力値(Sig−Dark値)yが標準露光時間ts以下の範囲(線形領域)内の露光時間で検出器120により測定したときに得られる出力直線性(y’=ax)に対してどの程度ずれているのかを示す係数bと、露光時間xの2乗との積を含む。
【0085】
係数b自体も出力値(Sig−Dark値)yおよび露光時間xに依存することになる。そのため、本実施の形態に従う補正処理においては、予め取得しておいた補正係数α,βと、検出動作における露光時間xと、ダーク補正後の出力値(Sig−Dark値)yとを用いて、出力直線性を補正する。つまり、上述の(2)式に示すように、係数bは、ダーク補正後の出力値(Sig−Dark値)yと、出力値(Sig−Dark値)yを取得したときの露光時間xと、予め定められた補正係数α,βとに基づいて決定される。
【0086】
図8に示すように、コントローラ130は、出力値(Sig−Dark値)yを取得したときの露光時間が予め定められた範囲内(標準露光時間ts以下)にあれば、出力値をそのまま出力する。一方、コントローラ130は、出力値(Sig−Dark値)yを取得したときの露光時間が予め定められた範囲内(標準露光時間ts以下)になければ、出力値(Sig−Dark値)yと、出力値(Sig−Dark値)yを取得したときの露光時間xと、補正係数α,βとに基づいて決定される係数bに、露光時間xの2乗を乗じた値を含む補正量で、出力値を補正して出力する。
【0087】
(b4:補正式の導出)
次に、上述の(1)式に示す近似式から上述の(2)式に示す補正式の導出について説明する。(1)式に示す近似式を再掲すると、以下のようになる。
【0088】
Y(s,x)=a(s)x+b(s)x
2 …(1)
ここで、係数a(s)は近似式の1次項の係数であり、係数b(s)は近似式の2次項の係数である。
図4に示すように、線形領域においては、出力直線性が保証されているので、(1)式における1次項の係数a(s)は、標準露光時間tsにおける出力値ysを標準露光時間tsで割ったもの(線形領域での傾き)とみなすことができる。つまり、以下の関係式が成立する。
【0089】
a(s)≒ys/ts
すると、(1)式に示す近似式は、以下の(3)式のように表わすことができる。
【0090】
Y(s,x)=(ys/ts)x+b(s)x
2(但し、x>ts) …(3)
続いて、2次項の係数b(s)は、以下に示すような回帰分析(典型的には、最小二乗法)を用いて算出できる。
【0091】
まず、入射光強度s=s
jにおける係数b(s
j)を算出するために、入射光強度sを一定(s=s
j)とし、露光時間をN段階(x:x
1〜x
N)に変化させてSig−Dark値をそれぞれ取得する。
【0092】
入射光強度s
jおよび露光時間x
kでの近似式Y(s
j,x
k)の値と現実のSig−Dark値y(s
j,x
k)との差の2乗をすべての露光時間(x
1〜x
N)にわたって足し合わせたものをS
jとおくと、以下の(4)式のように表わすことができる。さらに、(4)式に示すS
jを最小にするb=b(s
j)の値は、∂S
j/∂b=0の制約条件により与えられるので、以下の(5)式のように決定できる。
【0094】
以上により、ある入射光強度s
jにおける2次項の係数b(s
j)が算出される。
上述した手順と同様に、入射光強度s
jをM段階に変化させて、それぞれ出力されるSig−Dark値に基づいて、入射光強度(s:s
1〜s
M)の各々における2次項の係数b(s
j)を算出する。入射光強度s
jの変化については、Sig−Dark値が出力レンジの全般にわたって現れるように選択することが好ましい。但し、入射光強度s
jの変化幅などを厳密に揃える必要はなく、特定の強度の近傍に集中しないように適宜調整すればよい。
【0095】
以上のとおり、近似式Y(s
j,x
k)に含まれる2次項の係数b(s)は、入射光強度s
jに依存することになる。そこで、(1)式に示す近似式(s,x)を構成する1次項の係数a(s)との相関性を利用して、2次項の係数b(s)を決定することとする。
【0096】
具体的には、以下の(6)式に示すような、1次項の係数a(s)と2次項の係数b(s)との関係を示す近似式B(s)を導入する。
【0097】
b(s)≒B(s)=αa(s)
2+βa(s)
=α(ys
j/ts)
2+β(ys
j/ts) …(6)
(6)式において、係数a(s)≒ys
j/tsとしている。ys
jは、入射光強度s
jのときに標準露光時間tsで測定したときに得られたSig−Dark値を意味する。各入射光強度において、露光時間を増加させた場合であっても、標準露光時間tsとSig−Dark値との比例関係が維持されるべきであるという前提で、1次項の係数a(s)の値を決定している。線形領域に現れる出力直線性を利用できればよいので、線形領域に含まれる任意の露光時間と、それに対応するSig−Dark値とを用いて、係数a(s)の値を決定すればよい。但し、線形領域に含まれる最大の露光時間におけるSig−Dark値を用いることで、取得される出力直線性に含まれる誤差を低減できる。
【0098】
図9は、InGaAsリニアイメージセンサの測定結果から得られた1次項の係数a(s)と2次項の係数b(s)との相関関係の一例を示す図である。
図9に示すように、2次項の係数b(s)は、1次項の係数a(s)についての回帰式(2次式の形)で高い精度で推定できることが分かる。
【0099】
補正係数αおよび補正係数βは、検出器120を構成する素子に固有の定数値であるので、上述の関係を利用して、回帰分析(典型的には、最小二乗法)により決定する。このとき、1次項の係数a(s)は、対応する近似式Y(s
j,x
k)を決定する際に用いられた線形領域内の露光時間(典型的には、標準露光時間ts)における検出器120からのSig−Dark値ys
jを用いて固定した上で、回帰分析が実施される。
【0100】
上述の手順によって算出された2次項の係数b(s
j)と、対応する近似式B(s
j)の値との差をすべての入射光強度s
jにわたって足し合わせたものをTとおくと、以下の(7)式のように表わすことができる。
【0101】
T=Σ[b(s
j)−{α(ys
j/ts)
2+β(ys
j/ts)}]
2 …(7)
Tを最小にする制約条件、∂T/∂α=0,∂T/∂β=0により、以下の(8)式に示すような(α,β)に関する連立方程式を得ることができる。(8)式の連立方程式を(α,β)について解くと、(9)式が得られる。
【0103】
以上のとおり、係数b(s)についての近似式B(s)を決定できる。決定された係数b(s)の近似式B(s)を示す(6)式を(
3)式に代入すると、以下の(10)式に示すように、任意の入射光強度および任意の露光時間における検出器120からの現実のSig−Dark値yを示す近似式Y(s,x)を算出できる。
【0104】
y≒Y(s,x)
=(ys/ts)x+{α(ys/ts)
2+β(ys/ts)}x
2 …(10)
出力直線性の補正処理後のSig−Dark値y’=y’(s,x)は、(10)式に示す近似式Y(s,x)から非線形項に相当する部分を減じればよいので、現実のSig−Dark値yを用いて、以下の(11)式に示すように示すことができる。
【0105】
y’≒y−{α(ys/ts)
2+β(ys/ts)}x
2 …(11)
(11)式に示す補正後のSig−Dark値y’は、理想直線y=(ys/ts)x上に位置すべきであるので、1次項の係数a(=ys/ts)の値は、(10)式を(ys/ts)の二次方程式とみて解くことにより、以下の(12)式に示すように、係数a(=ys/ts)の値を決定できる。
【0107】
最終的に、(12)式を(11)式に代入すると、上述した(2)式に示す補正式を導出できる。
【0108】
以上のように、補正係数α,βおよび上述の(2)式に示す補正式を決定するにあたって、線形領域において複数の出力値(Sig−Dark値)を測定する必要はなく、対象の入射光強度における線形領域での出力直線性を特定できる1つの露光時間のみについて測定を行なえばよい。そのため、補正係数α,βを取得するための手間を削減できる。
【0109】
また、補正式に含まれる係数bは、出力値(Sig−Dark値)yおよび露光時間xの両方に依存し、本来ならば、出力値(Sig−Dark値)yおよび露光時間xの両方のパラメータを設定して初めて本来のSig−Dark値(補正後のSig−Dark値)y’を決定できる。これに対して、本実施の形態においては、線形領域での測定値を用いて推定される出力直線性を利用することで、パラメータの入力を不要とした補正式を採用することで、補正量を測定毎に即座に算出できる。
【0110】
(b5:線形領域および非線形領域の決定方法)
図4に示すような線形領域および非線形領域は予め取得されている。出力直線性が維持される露光時間の範囲である線形領域は、検出器120のデバイス特性に依存する。そこで、入射光強度および露光時間をそれぞれ異ならせてSig−Dark値を取得し、入射光強度毎に1次式を用いた回帰分析を行なって、理想直線からのズレ量が許容値以下である範囲を線形領域として決定すればよい。
【0111】
この許容値に関しては、例えば、JIS規格(JIS Z8724(光源色の測定方法))に記載の分光測光器の応答直線度に関する判定基準を参照して、理想直線からのズレ量を1%以下に設定してもよい。
【0112】
以上のような事前測定によって、線形領域、すなわち標準露光時間が予め決定される。
なお、設定可能な露光時間範囲のうち、最小の露光時間から標準露光時間までの範囲が線形領域になるとは限らない。すなわち、上述の説明においては、露光時間を増加させることで出力直線性が維持できなくなる場合について例示したが、露光時間を減少させることで出力直線性が維持できなくなる場合もあり得る。このような場合には、検出器120に対して設定可能な露光時間範囲のうち、出力直線性が維持できる任意の露光時間範囲を線形領域として設定し、その線形領域以外の領域について、本実施の形態に従う補正方法を適用すればよい。
【0113】
(b6:補正係数テーブルの取得)
次に、
図7に示す補正係数テーブル180を取得する方法について説明する。補正係数テーブル180を取得する処理は、光学測定装置100のコントローラ130によって実施されてもよいし、光学測定装置100に接続される処理装置200を校正装置として用いることで実施されてもよい。典型的には、補正係数テーブル180は光学測定装置100の出荷前における校正作業の一部として実施される。以下では、一例として、メーカの技術者が光学測定装置100および校正用の光源を用いて所定の操作を行なうとともに、処理装置200のプロセッサ202が校正プログラム209(
図2参照)を実行することで、補正係数テーブル180を取得する場合について説明する。
【0114】
図10は、本実施の形態に従う光学測定装置100に格納される補正係数テーブル180の取得方法の処理手順を示すフローチャートである。
図10を参照して、光学測定装置100および校正用の光線が用意される(ステップS100)。
【0115】
まず、検出器120が有する複数のチャネルのうち対象となるチャネルが選択される(ステップS102)。そして、光学測定装置100にて検出される入射光強度をM段階に変更できるように、光ファイバ2とサンプル光を発生する光源との位置関係の調整範囲を決定する(ステップS104)。そして、光学測定装置100にて検出される入射光強度がM段階のうち1番目の入射光強度となるように、光ファイバ2とサンプル光を発生する光源との位置関係を調整する(ステップS106)。
【0116】
続いて、標準露光時間tsを含むN段階の露光時間の各々で測定したときの出力値(Sig−Dark値)を取得する。つまり、検出器120へ所定の光強度を有する光を入射させつつ、線形領域内の露光時間(典型的には、標準露光時間ts)と非線形領域内の複数の露光時間とを含む複数の露光時間で、検出器120によりそれぞれ測定したときのそれぞれの出力値からなる出力値群を取得する処理が実施される。
【0117】
具体的には、露光時間を標準露光時間tsに設定し(ステップS108)、測定操作を行って出力値(Sig−Dark値)を取得する(ステップS110)。続いて、露光時間を現在値から所定時間だけ増加させて(ステップS112)、測定操作を行って出力値(Sig−Dark値)を取得する(ステップS114)。そして、露光時間を異ならせたN回の測定が完了したか否かが判断される(ステップS116)。N回の測定が完了していなければ(ステップS116においてNO)、ステップS112以下の処理が繰り返される。
【0118】
N回の測定が完了していれば(ステップS116においてYES)、出力値群についての近似式を規定する係数のセットを決定する処理が実施される。
【0119】
具体的には、処理装置200は、標準露光時間tsのときの出力値から、上述の(1)式中の1次項の係数aを算出するとともに、それぞれの露光時間について取得された複数の出力値に対する回帰分析(典型的には最小二乗法;上述の(4)式および(5)式参照)により、2次項の係数bを算出する(ステップS118)。そして、現在の入射光強度に関連付けて、算出された係数(a,b)が格納される(ステップS120)。
【0120】
入射光強度を異ならせたM回の測定が完了したか否かが判断される(ステップS122)。M回の測定が完了していなければ(ステップS122においてNO)、検出器120へ入射する光の光強度を変更して、出力値群を取得する処理および係数のセットを決定する処理が繰り返される。具体的には、光学測定装置100にて検出される入射光強度がM段階のうち次の入射光強度となるように、光ファイバ2とサンプル光を発生する光源との位置関係を調整する(ステップS124)。そして、ステップS108以下の処理が繰り返される。
【0121】
M回の測定が完了していれば(ステップS122においてYES)、それぞれの光強度について取得された係数(a,b)に対する回帰分析により、補正係数α,βを決定する処理が実施される。
【0122】
具体的には、処理装置200は、それぞれの入射光強度に関連付けられた係数(a,b)のセットに対する回帰分析(上述の(6)〜(9)式参照)により、補正係数αおよび補正係数βを決定する(ステップS126)。そして、処理装置200は、現在のチャネルに関連付けて、算出された補正係数(α,β)が補正係数テーブル180の一部として格納する(ステップS128)。
【0123】
検出器120が有する複数チャネルのうちすべてのチャネルについて補正係数(α,β)が取得されたか否かが判断される(ステップS130)。検出器120が有する複数のチャネルのうち補正係数(α,β)が取得されていないチャネルが残っていれば(ステップS130においてNO)、検出器120が有する複数チャネルのうち次のチャネルが対象として選択される(ステップS132)、そしてステップS104以下の処理が繰り返される。
【0124】
検出器120が有する複数チャネルのうちすべてのチャネルについて係数(α,β)が取得されていれば(ステップS130においてYES)、補正係数テーブル180の取得処理が終了する。
【0125】
(b7:測定処理)
次に、本実施の形態に従う光学測定装置100を用いた光学特性の測定処理について説明する。
図11は、本実施の形態に従う光学測定装置100を用いた測定方法の処理手順を示すフローチャートである。
図11に示す各ステップは、主として、光学測定装置100のコントローラ130によって実施される。コントローラ130での各ステップは、コントローラ130のプロセッサ132がプログラムを実行することで実現されてもよい。
【0126】
図11を参照して、コントローラ130は、測定処理に係る設定値を取得する(ステップS200)。設定値には、露光時間、波長範囲、測定回数などが含まれる。分光測定部110には、光ファイバ2を介してサンプル光が入力されているとする。
【0127】
コントローラ130は、測定開始がトリガーされたか否かを判断する(ステップS202)。測定開始がトリガーされると(ステップS202においてYES)、コントローラ130は、任意のサンプル光を任意の露光時間で検出器120により測定したときの出力値を取得する。より具体的には、コントローラ130は、検出器120をアクティブにした上で、分光測定部110の検出器120の1番目のチャネルを選択し(ステップS204)、選択されたチャネルからの出力値を取得する(ステップS206)。
【0128】
コントローラ130は、現在設定されている露光時間が標準露光時間tsを超えているか否かを判断する(ステップS208)。現在設定されている露光時間が標準露光時間tsを超えていなければ(ステップS208においてNO)、ステップS210〜S212の処理はスキップされる。
【0129】
現在設定されている露光時間が標準露光時間tsを超えていれば(ステップS208においてYES)、コントローラ130は、補正係数テーブル180を参照して、選択されているチャネルに対応する補正係数αおよび補正係数βを読み出し(ステップS210)、読み出した補正係数αおよび補正係数β、露光時間、ならびに、取得された出力値(Sig−Dark値)を用いて、当該取得された出力値(Sig−Dark値)を補正する(ステップS212)。すなわち、コントローラ130は、出力値を取得したときの露光時間が標準露光時間tsを超える範囲(非線形領域)内にあれば、出力値に応じた補正量で出力値を補正する。
【0130】
そして、コントローラ130は、ステップS206において取得された出力値、または、ステップS212において補正された後の出力値を選択されているチャネルに関連付けて格納する(ステップS214)。
【0131】
コントローラ130は、検出器120のすべてのチャネルについての処理が完了したか否かを判断する(ステップS216)。処理が完了していないチャネルが残っている場合(ステップS216においてNO)、コントローラ130は、分光測定部110の検出器120の次のチャネルを選択し(ステップS218)、ステップS206以下の処理を繰り返す。
【0132】
すべてのチャネルについての処理が完了している場合(ステップS216においてYES)、コントローラ130は、各チャネルに関連付けて格納している出力値をまとめてスペクトルとして出力する(ステップS220)。そして、コントローラ130は、現在設定されている測定回数の測定が完了したか否かを判断する(ステップS222)。
【0133】
現在設定されている測定回数の測定が完了していない場合(ステップS222においてNO)には、ステップS204以下の処理が繰り返される。現在設定されている測定回数の測定が完了している場合(ステップS222においてYES)には、測定処理は終了する。
【0134】
<C.改善効果>
次に、本実施の形態に従う出力直線性の補正方法による改善効果の一例について説明する。
【0135】
図12は、
図6に示す測定結果に対して補正を行なった結果の一例を示す図である。
図12(A)を参照して、いずれの入射光強度についても、補正後のSig−Dark値y’に対して1次式(y=ax+b)の形の回帰式が得られており、かつ、決定係数R
2=1となっている。このように、標準露光時間ts(この例では、10[ms])を超える露光時間であっても、出力直線性が十分に維持されていることが分かる。
【0136】
図12(B)を参照して、本実施の形態に従う出力直線性の補正方法を適用することで、いずれの入射光強度についても、受光感度比は0.99〜1.01の範囲内(すなわち、理想直線からのズレが±1%以内)に収まっており、良好な出力直線性が得られていることが分かる。特に、
図6(B)に示す補正前の受光感度比の測定結果と比較すると、顕著な改善効果を理解できるであろう。
【0137】
本実施の形態に従う光学測定装置100は分光測定が可能である。上述したように、検出器120を構成するInGaAsリニアイメージセンサの各チャネルについて、出力直線性の補正処理が実施される。その結果、各波長成分に対して出力直線性が改善されたスペクトルとして測定結果が出力される。このような測定結果として出力されるスペクトルについての改善効果の一例を示す。
【0138】
図13は、本実施の形態に従う光学測定装置100を用いて光源からのサンプル光を測定した結果の一例を示す図である。
図14は、
図13に示す各スペクトルについての受光感度比の評価結果を示す図である。
図13および
図14には、ハロゲン光源から放射される光をサンプル光源として、波長範囲1000〜2000[nm]におけるスペクトルを測定した測定結果が示される。露光時間を10〜100[ms]の範囲で変更し、各露光時間におけるスペクトルを測定した。
【0139】
図13(A)には、本実施の形態に従う直線性の補正処理を実施する前のスペクトルを示し、
図13(B)には、本実施の形態に従う直線性の補正処理を実施した後のスペクトルを示す。
図13(A)と
図13(B)とを比較すると、特に、長い露光時間が設定されたときのスペクトルがより正確に測定できるようになっている。
【0140】
図14(A)には
図13(A)に示す露光時間毎のスペクトルに対応する受光感度比を示し、
図14(B)には
図13(B)に示す露光時間毎のスペクトルに対応する受光感度比を示す。
図14(A)に示す受光感度比の分布によれば、特に、1602.9[nm]の波長成分についての受光感度比の劣化度合いが著しい。これに対して、
図14(B)に示す補正後の受光感度比の特性によれば、いずれの波長成分についても、受光感度比は0.99〜1.01の範囲内(すなわち、理想直線からのズレが±1%以内)に収まっており、良好な出力直線性が得られていることが分かる。
【0141】
以上のとおり、本実施の形態に従う出力直線性の補正方法を採用することで、露光時間および入射光強度の大きさに依存することなく、良好な出力直線性を維持できていることが分かる。
【0142】
<D.変形例>
上述の説明においては、非線形領域において取得されたSig−Dark値に対して、共通の補正式を適用する例について説明したが、露光時間範囲に応じて、異なる補正式をそれぞれ適用するようにしてもよい。例えば、非線形領域のうち露光時間が相対的に短い範囲については、Sig−Dark値が露光時間についての2次式により回帰でき、非線形領域のうち露光時間が相対的に長い範囲については、Sig−Dark値が露光時間についての3次式により回帰できるような場合には、2次式および3次式に応じたそれぞれの補正式を採用してもよい。
【0143】
上述の説明においては、線形領域より露光時間が長い側に非線形領域が設定される例を挙げたが、線形領域より露光時間が短い側に非線形領域が設定される場合もあり得る。この場合にも上述の説明と同様に、本実施の形態に従う出力直線性の補正処理を適用すればよい。
【0144】
上述の説明においては、近赤外領域での光学測定に適用する例を説明したが、近赤外領域に限らず、その他の波長領域にも適用可能である。例えば、SiまたはGeなどからなる可視光領域に感度を有するセンサを用いた場合などにも適用が可能である。
【0145】
<E.利点>
本実施の形態によれば、少なくとも近赤外領域に検出感度を有する検出器(例えば、InGaAsリニアイメージセンサ)において生じる、露光時間の変化に伴う出力直線性の劣化を測定時に補正することができる。本実施の形態に従う光学測定方法によれば、補正係数α,βを予め取得しておけば、出力値(Sig−Dark値)および測定時の露光時間から補正量が一意に決定できる。すなわち、測定時の入射光強度および露光時間の両方を反映した補正量を事前取得した補正係数α,βから容易に決定できる。そのため、出力直線性を補正するための基準器などを必要とせず、装置構成を簡素化できるとともに、出力直線性の補正に要する処理時間を実質的にゼロにできる。
【0146】
本実施の形態に従う光学測定方法においては、検出器に含まれるチャネル毎に固有の補正係数α,βが取得されるので、検出器を構成する素子のばらつきなどが存在しても、出力直線性を適切に補正できる。また、補正係数α,βは回帰分析により決定されるので、補正係数α,βを決定するのに必要な事前の測定回数はそれほど多くなくてもよい。そのため、事前の補正係数α,βの取得処理を簡素化できる。
【0147】
上述した説明によって、本実施の形態に従う光学測定装置および光学測定方法に係るそれ以外の利点については明らかになるであろう。
【0148】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。