特許第6841412号(P6841412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6841412オロット酸カリウム塩含有組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841412
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】オロット酸カリウム塩含有組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 17/12 20060101AFI20210301BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20210301BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20210301BHJP
   A61K 35/742 20150101ALN20210301BHJP
   A61K 31/513 20060101ALN20210301BHJP
【FI】
   C12P17/12
   A23L33/135
   A61P9/12
   !A61K35/742
   !A61K31/513
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-238125(P2016-238125)
(22)【出願日】2016年12月8日
(65)【公開番号】特開2018-93742(P2018-93742A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】515044263
【氏名又は名称】株式会社古川リサーチオフィス
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(72)【発明者】
【氏名】古川 令
【審査官】 佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−111573(JP,A)
【文献】 特開平04−004891(JP,A)
【文献】 特開昭50−135287(JP,A)
【文献】 特公昭46−006397(JP,B1)
【文献】 特開平01−104189(JP,A)
【文献】 米国特許第05013656(US,A)
【文献】 特開昭48−092589(JP,A)
【文献】 特開2003−088332(JP,A)
【文献】 化学と生物(1997年)、第35巻、第4号、第308-316ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オロット酸産生能を有する納豆菌を、カリウムイオンの存在下で液体培養し、培養後の液体培養物を固液分離して固体部分を採取することを特徴とする食用オロット酸カリウム塩組成物の製造方法。
【請求項2】
カリウムイオンが硫酸カリウム又は水酸化カリウムに由来することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
固液分離が遠心分離又は膜分離による固液分離であることを特徴とする請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
固液分離後の固体部分を乾燥することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
食用オロット酸カリウム塩組成物が10CFU/g以上の納豆菌の芽胞又は死菌体を含むことを特徴とする請求項5記載の製造方法。
【請求項6】
オロット酸カリウム塩とオロット酸産生能を有する納豆菌の芽胞又は死菌体とを含み、組成物全体に対して10質量%以上がオロット酸カリウム塩であることを特徴とする食用オロット酸カリウム塩組成物。
【請求項7】
10CFU/g以上の納豆菌の(a)芽胞、(b)死菌体及び/又は不活性化胞子のいずれかを含むことを特徴とする請求項6記載の食用オロット酸カリウム塩組成物。
【請求項8】
更に、納豆菌培養成分を含むことを特徴とする請求項記載の食用オロット酸カリウム塩組成物。
【請求項9】
請求項6〜のいずれかに記載の食用オロット酸カリウム塩組成物を含むことを特徴とするサプリメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用オロット酸カリウム塩組成物やその製造方法に関し、より詳細にはオロット酸産生能を有する納豆菌を、カリウムイオンの存在下で液体培養し、培養後の液体培養物を固液分離して固体部分を採取する食用オロット酸カリウム塩含有組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オロット酸は乳清から発見された化合物で、オロト酸、オロチン酸、ウラシル6-カルボン酸、ビタミンB13とも呼ばれ、ピリミジンヌクレオチド生合成系における主要中間物質であり、ジヒドロオロト酸からジヒドロオロト酸デヒドロゲナーゼによって誘導され、オロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(PRPP)によってオロチジル酸となる。オロチジル酸は、さらに速やかにウリジン一リン酸(UMP)に変換され、その後ウリジン三リン酸、シチジン三リン酸などのピリミジンヌクレオチドが合成される。このように、オロット酸はピリミジンの前駆体であり、分裂が盛んな組織では重要な栄養素である。オロット酸は、根菜、小麦胚芽、ビール酵母などの食品に含まれていることが知られており、肝臓病の治療に用いられるほか、葉酸、ビタミンB12の代謝に関与し、その抗酸化作用と老化予防にも注目され、オロット酸含有飲料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
オロット酸は化学合成、乳清等食品からの抽出等によって得られるほか、微生物による発酵法によっても製造される。コリネバクテリウム属に属する特定の微生物による発酵法で培地中にオロット酸を産出させ、オロット酸が析出している培地を80〜100℃に加熱してオロット酸を溶解し、次いで濾過を行って菌体と分離された濾液を冷却してオロット酸の結晶を得るオロット酸の製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、バチルス・ズブチリスSTA−17Eを培養し、培養物中にオロチン酸を生成蓄積させ、これを採取するオロチン酸の製造法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−125282号公報
【特許文献2】特開平1−104189号公報
【特許文献3】特開平4−4891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、オロット酸は、その効果効能を標榜しない限り非医薬品と規定されており、オロット酸のフリー体、オロット酸カリウム塩及びオロット酸マグネシウム塩が、食品への添加を許可されている。オロット酸は、フリー体だけでなく、カリウム塩、マグネシウム塩であっても溶解度が低く、アミン塩溶液、コリン塩溶液、カルニチン塩溶液などの一部の溶媒でのみ可溶化できる。これらの中で、特に、オロット酸カリウム塩は、血圧低下等の栄養生理的な効果が期待されている。従来のオロット酸カリウム塩の製造方法は、アンモニウム塩の結晶を遠心分離後、モノエタノールアミン等の溶媒で溶解後、硫酸を添加する事でフリー化し、生成したフリー体の結晶を遠心分離で分離、洗浄しフリー体の粗結晶を得る。フリー体をモノメタノールアミン等の溶媒で溶解後、水酸化カリウムで中和することでカリウム塩を析出させる方法である。この方法は溶媒の専用施設を必要とするだけでなく、その作業性は悪く、更にカリウム塩を食品として利用するには、残留溶媒が無いことなどのチェックも必要である。一般の発酵工場は、エタノールアミン等の溶媒を扱う設備を備えていないから、従来のオロット酸アンモニウム塩からエタノールアミン等の溶媒を使用して食品用オロット酸カリウム塩を製造する技術により、食用オロット酸カリウム塩組成物を製造できない。本発明の課題は、食用オロット酸カリウム塩組成物を簡便かつ効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記特許文献3の培養方法では、オロット酸はアンモニウム塩で沈殿する。オロット酸のカリウム塩の溶解度はアンモニウム塩の1/3程度と低いから、生産培地にカリウム塩を添加配合しておけば直接カリウム塩での沈殿が得られる可能性があると考え、本発明者は、オロット酸産生能を有する納豆菌を、硫酸カリウムを添加配合した液体培地で培養することにより、培地中にオロット酸カリウム塩が析出することを見いだし、さらに硫酸カリウムを添加した培地では、納豆菌の生育などに特に影響はなく、逆にオロット酸の生産性が向上することを確認して、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の事項により特定されるとおりのものである。
[1]オロット酸産生能を有する納豆菌を、カリウムイオンの存在下で液体培養し、培養後の液体培養物を固液分離して固体部分を採取することを特徴とする食用オロット酸カリウム塩組成物の製造方法。
[2]カリウムイオンが硫酸カリウム又は水酸化カリウムに由来することを特徴とする[1]記載の製造方法。
[3]固液分離が遠心分離又は膜分離による固液分離であることを特徴とする[1]又は[2]記載の製造方法。
[4]固液分離後の固体部分を乾燥することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]食用オロット酸カリウム塩組成物が10CFU/g以上の納豆菌の芽胞又は死菌体を含むことを特徴とする[5]記載の製造方法。
[6]オロット酸カリウム塩とオロット酸産生能を有する納豆菌の芽胞又は死菌体とを含む食用オロット酸カリウム塩組成物。
[7]10質量%以上のオロット酸がカリウム塩を含むことを特徴とする[6]記載の食用オロット酸カリウム塩組成物。
[8]10CFU/g以上の納豆菌の(a)芽胞、(b)死菌体及び/又は不活性化胞子のいずれかを含むことを特徴とする[6]又[7]記載の食用オロット酸カリウム塩組成物。
[9]更に、納豆菌培養成分を含むことを特徴とする[8]記載の食用オロット酸カリウム塩組成物。
[10][6]〜[9]のいずれかに記載の食用オロット酸カリウム塩組成物を含むことを特徴とするサプリメント。
【発明の効果】
【0008】
本発明のオロット酸カリウム塩の製造方法によると、プロバイオティクスとしての納豆菌の芽胞又は死菌体を含む食用オロット酸カリウム塩組成物を安価で提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の食用オロット酸カリウム塩組成物としては、オロット酸カリウム塩とオロット酸産生能を有する納豆菌の芽胞又は死菌体とを含む食品用途の組成物であれば特に制限されない。またその製造方法は、オロット酸産生能を有する納豆菌を、カリウムイオンの存在下で液体培養し、培養後の液体培養物を固液分離して固体部分を採取する方法であれば特に制限されない。本発明の方法で製造されたオロット酸カリウム塩組成物は、食品用として使用される組成物であって、食品用用途としては、そのまま飲食品やサプリメント又はその原料として使用される用途や、各種タンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類等をさらに添加し、一般の飲食品、特定保健用食品、機能性食品、健康食品へ添加、配合するための食品原料としての用途を例示できる。
【0010】
上記オロット酸産生能を有する納豆菌は、分類学上納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)に分類される細菌であって、かつオロット酸の産生能力を有する細菌である。上記オロット酸産生能を有する納豆菌は、例えば、特許文献3に開示されているように、親株に紫外線照射等の公知の変異処理を施し、ウリジンヌクレオシドフォスフォリラーゼを欠損しかつピリミジンアナログ耐性を示しウリジン生産能を有する納豆菌として誘導し、次いでかかる納豆菌にニトロソグアニジン(NTG)処理等の公知の変異処理を施し、オロチン酸フォスフォリボシルトランスフェラーゼ欠損株又はオロチジン5’−モノフォスフェートデカルボキシラーゼ欠損株を誘導することにより、作製することができる。また、納豆菌の親株に、NTG処理等の公知の変異処理を施して、6アザウラシル耐性株を取得し、次いでウリジンとウラシル生産株を選択してNTG処理等の公知の変異処理を施してウラシル要求性を誘導することにより、オロット酸産生能を有する納豆菌を作製することができる。なお、本発明においてオロット酸産生能を有するTG−7株は、実施例の記載等により再現性をもって作製可能である。
【0011】
上記オロット酸産生能を有する納豆菌を培養する方法としては、カリウムイオンの存在下で液体培養する方法である限りにおいて、従来公知の納豆菌に適した条件における培養方法も含め特に制限されず、カリウムイオンの他、炭素源、窒素源、その他の栄養源を含む納豆菌生育用培地を用いる培養方法を好ましく挙げることができる。
【0012】
上記納豆菌生育用培地中のカリウムイオンとしては、培地中に蓄積されるオロット酸からオロット酸カリウム塩を形成することができるカリウム塩由来のカリウムイオンが好ましい。かかるカリウム塩としては、硫酸カリウム、水酸化カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム等を挙げることができる。納豆菌の生育に影響がなく、オロット酸の産生を促進できる好ましいカリウム塩は、硫酸カリウム、水酸化カリウムである。また、好ましくは、産生するオロット酸と同モル以上のカリウムイオンを培地中に添加する。かかる納豆菌によるオロット酸の産生促進の理由としては、オロット酸によるフィードバック阻害が減少、すなわちオロット酸からオロット酸カリウム塩が形成されることにより培地中のオロット酸濃度が低下するため、納豆菌においてオロット酸産生に起因するフィードバック阻害作用が減少することが考えられる。また、高力価のオロット酸発酵の場合、菌株によっては培地中のカリウムの阻害を受ける可能性はあるが、培養後半から遠心分離前までに不足分のカリウム塩を追加的に逐次添加することも生産性向上には有効である。
【0013】
上記炭素源の具体例としては、グルコース、ショ糖、マルトース、ソルビトール、デンプン、デンプン糖化液等を挙げることができる。上記窒素源の具体例としては、ペプトン、コーンスティープリカー、大豆粉、肉エキス、カゼイン加水分解物、尿素等の有機窒素類等を挙げることができる。上記その他の栄養源の具体例としては、ウラシル等のピリミジン系化合物類、リボ核酸、無機塩類、アミノ酸類、ビタミン類等、それらを含む酵母エキス、酵母菌体、さらにはシリコーンオイル、ポリアルキレングリコール等の消泡剤、界面活性剤を挙げることができる。
【0014】
上記培養方法による培養は、好気的条件で行われることが好ましい。上記培地のpHは4〜9であり、6〜8.5が好ましい。培地のpHを調整するため、硫酸、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム等を培地に添加することもできる。培養温度としては5〜50℃を挙げることができ、20〜45℃が好ましく、27〜37℃がさらに好ましい。
【0015】
上記オロット酸カリウム塩は、水にほとんど溶解せず、培地中に析出するため、上記液体培養後の培養物を、固液分離すると固体部分として採取することができる。固液分離の手段としては、遠心分離、膜分離等を例示することができる。上記遠心分離の条件としては、オロット酸カリウム塩を含む組成物を調製できる条件であれば特に制限されないが、例えば、1000〜3000rpmで5〜10分の遠心分離処理を挙げることができる。
【0016】
本発明におけるオロット酸カリウム塩組成物は、上記培養後の液体培養物を固液分離して固体部分を採取することにより取得された組成物であれば特に制限されず、上記固体部分には、オロット酸カリウム塩が含まれる他、上記オロット酸産生能を有する納豆菌(固液分離後の乾燥処理により、生菌体はすべて芽胞となる)、残存培地成分が含まれる。これらはすべて食品として摂取可能な成分であるので、オロット酸カリウム塩を分離精製するためのさらなる装置、時間、費用等は不要となる。
必要に応じて、残存培地成分を、菌体とオロット酸の分離後の洗浄により除ける。また、上記納豆菌を含むオロット酸カリウム塩組成物をオートクレーブ殺菌し、上記納豆菌を死菌体とし、上記納豆菌が形成した芽胞を不活性化胞子にできる。
【0017】
オロット酸アンモニウム塩が上記培養後の液体培養物に含まれている場合、硫酸カリウムを液体培養物に添加すると、オロット酸アンモニウム塩の全量をオロット酸カリウム塩にできる。本発明におけるオロット酸カリウム塩組成物が含むオロット酸カリウム塩以外のオロット酸塩の含有量は、オロット酸カリウム塩100質量部に対して5質量部以下、好ましくは3質量部以下、より好ましくは1質量部以下、特に好ましくは0質量部である。
【0018】
上記固体部分を食用オロット酸カリウム塩組成物に調製する方法としては、例えば35〜50℃の温風乾燥する方法や、凍結乾燥する方法、スプレードライにより乾燥する方法や、粉末化処理を施す方法等を挙げることができる。
【0019】
本発明の食用オロット酸カリウム塩組成物には、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは98質量%以上のオロット酸カリウム塩が含まれる。また、本発明のオロット酸カリウム塩組成物には、好ましくは、製品1g当たり10CFU以上、好ましくは10CFU以上の納豆菌の芽胞又は死菌体が含まれる。本発明の食用オロット酸カリウム塩組成物が添加された食品を食すると、納豆菌の栄養細胞は胃酸で死にやすいのに対して、納豆菌芽胞は酸に強く、多くは生きたままで腸に到達すると考えられる。腸に到達した後に芽胞は発芽し、栄養細胞となって、オロット酸を産生する可能性がある。
【0020】
本発明の食用オロット酸カリウム塩組成物の態様・形態としては特に制限されない。当該態様・形態の具体例は、顆粒状、粉末状、バー(棒)状、ブロック状、カプセル状、錠剤状、ゲル状、ペースト状等である。また、本発明の食用オロット酸カリウム塩組成物を包装された態様・形態で提供できる。本発明の食用オロット酸カリウム塩組成物を、当該組成物を含むサプリメントの態様・形態で提供できる。
【0021】
以下、実施例等により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例等により制限されない。
【0022】
6アザウラシル耐性株の取得
Bacillus subtilis ver Natto NBRC-3335株をBacillus用培地(Tryptone1%、Yeast Extract0.3%、NaCl0.5%、pH7.0)で30℃にて一夜培養後、同培地に1%(v/v)接種し30℃にて振盪培養した。対数期(OD660≒0.5)に達した菌体を遠心分離(3、000rpm、10分)で集菌し、50mMトリスマレイン酸緩衝液(pH6.5)で洗浄後、100μg/Lのニトロソグアニジン(NTG)を含む同緩衝液中で30分処理を行った。洗浄後に、6アザウラシル1mg/mLを添加した下記表1に示す最小寒天培地に塗布し、37℃にて4日間培養し、6アザウラシルの耐性株を50株取得した。
【0023】
【表1】
【0024】
ウラシル要求株の取得
得られた6アザウラシルの耐性株50株を下記表2に示す種培養培地で培養後、生産培地で4日間、30℃にて培養を行った結果、No.39株が、ウリジン3g/L、ウラシル7g/Lを蓄積した。
【0025】
【表2】
【0026】
オロット酸産生株の取得
No.39株について実施例1と同様のNTG処理を行い、5フルオロウラシル1mg/mL、ウラシル50μg/mLを添加した最小寒天培地に塗布し、37℃にて4日間培養し、得られたコロニーを前記最小寒天培地とウラシル50μg/mLを添加した最小培地にレプリカし、ウラシル要求性を示す株10株を取得した。これらウラシル要求性株10株を実施例1の生産培地で培養を行った結果、すべての菌株でオロット酸の生産性が確認され、6株がオロット酸単独、4株がオロット酸とオロチジンの併産株であった。TG−7株がオロット酸16g/Lと最も高い生産性を示した。この際、保存培養液中にオロット酸の結晶の析出も認められた。
【0027】
実施例1
オロット酸産生能を有するTG−7株を、マルトース2%、ペプトン1%、酵母エキス0.3%、肉エキス1%を含む種培養液中で30℃で1晩培養後、1%(v/v)の種培養液を、グルコース8%、コーンスティープリカー3%、尿素2%、ウラシル5mg/L、炭酸カルシウム2%及び硫酸カリウム2%を含む生産培地30mlに摂取し、30℃で4日間培養した。培地のpH調整は水酸化カリウムで行った。培養終了後、液体培養物中に、オロット酸のフリー体1水和物換算で18g/Lのオロット酸カリウム塩の蓄積を確認した。液体培養物を3000rpmで10分間遠心分離した。遠心分離後の上清中に溶解しているオロット酸は0.5g/Lであった。
【0028】
1%(v/v)の上記種培養液を、硫酸カリウムを含まない以外は上記生産培地の組成と同じ組成の対照生産培地に摂取し、30℃で4日間培養した。培養終了後、オロット酸のフリー体1水和物換算で16.5g/Lのオロット酸の蓄積を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の製造方法により提供される、食用オロット酸カリウム塩組成物は食品産業において有用である。特にカリウムが豊富に含まれていることから、血圧の低下促進など、カリウム欠乏症に有用である。
本発明の製造方法は、食用オロット酸カリウム塩組成物を、エタノールアミン等の溶媒を使用せず、通常の食品用乳酸菌の製造設備を利用して安価、簡便に製造できる。