【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年11月11日、一般社団法人日本機械学会発行の日本機械学会流体工学部門講演会講演論文集にて発表、該当番号 GS31(USBメモリーの配布) 平成28年11月13日、一般社団法人日本機械学会、第94期流体工学部門講演会にて発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。なお、以下に参照する各図においては、共通する要素について同じ符号を用い、適宜、その説明を省略するものとする。
【0011】
図1は、本発明の実施形態である液体輸送システム100の構成を示す模式図である。本実施形態の液体輸送システム100は、任意の液体を高所に輸送するためのシステムであり、
図1に示すように、液体供給容器10と、液体回収容器20と、液体供給管30と、液体輸送管40と、給気管52と、空気供給手段50とを含んで構成されている。
【0012】
液体供給容器10は、輸送の対象となる液体(以下、“対象液体”という)を貯留するための容器であり、開放容器として構成される。ここで、開放容器とは、貯留された液体の液面の圧力を大気圧に維持する容器を意味する(以下、同様)。
【0013】
液体回収容器20は、対象液体を高所において回収するための容器であり、開放容器として構成される。なお、液体回収容器20の底部には、バルブ24を介して排液管22が接続されている。
【0014】
液体供給管30は、その後端がバルブ12を介して液体供給容器10の底部に接続され、その先端がT字状の合流管35の横棒部の一端に接続される。ここで、液体供給管30は、U字状の屈曲部U1を備えており、液体供給容器10の底部から鉛直方向下方に延びた後に、Uターンする形で鉛直方向上方に延び、その後、略水平に延びて合流管35に接続するように配管される。なお、本実施形態では、対象液体の移動速度の急増を防止するために、液体供給管30の後端部(バルブ12の下流側)にオリフィス32が設けられる。なお、本実施形態において、“オリフィス”とは微細内径を持つ抵抗管を意味する(以下、同様)。
【0015】
液体輸送管40は、対象液体の輸送距離に応じた長さを有しており、その後端が合流管35の縦棒部に接続され、その先端が液体回収容器20の上部側面に接続される。ここで、液体輸送管40は、U字状の屈曲部U2を備えており、合流管35から鉛直方向下方に延びた後に、Uターンする形で鉛直方向上方に延びて液体回収容器20に接続されるように配管される。なお、本実施形態では、対象液体の移動速度の急増を防止するために、液体輸送管40の後端部および先端部に、それぞれ、オリフィス42およびオリフィス44が設けられる。
【0016】
給気管52は、その後端が空気供給手段50に接続され、その先端が合流管35の横棒部の他端(液体供給管30に対向する端)に接続される。なお、給気管52には、空気供給手段50に対象液体が流入するのを防止するために逆止弁54が設けられる。
【0017】
本実施形態では、上述した液体供給管30、液体輸送管40および給気管52は、いずれも、対象液体が液柱の状態で移動可能な細管として構成される。すなわち、これら3本の細管は、いずれも、管内に導入された対象液体を液柱の状態に維持することができる程度の微小径を有しており、対象液体が水の場合、細管の内径は、2.5mm以下とされることが好ましい。
【0018】
空気供給手段50は、液体輸送管40に導入された対象液体の液柱の後端側空間に対して、一定圧の微小流量の空気を連続供給するための手段である。本実施形態では、空気供給手段50から給気管52を介して液体輸送管40に一定圧の微小流量の空気が供給されることにより、空気に押し上げられる形で対象液体の液柱が鉛直方向上方に等速移動する。ここで、空気供給手段50が供給する空気の圧力は、液体輸送管40の管内を移動する液柱のヘッド、粘性による圧力損失および表面張力による圧力抵抗の総和に相当し、液柱の移動速度は、液体輸送管40に供給される空気の流量によって決まる。
【0019】
ここで、液体輸送管40を移動する液柱の速度がある限界値(以下、限界移動速度という)を超えると、管内で液柱が細かな液滴に分断し、その場合、1個の水滴あたり約15mmaqの圧力抵抗が表面張力によって発生するので、対象液体の輸送が不可能になる。この点、本実施形態における空気供給手段50は、液柱が限界移動速度を超えない一定の速度(液柱が移動の過程で分断しないような速度)で管内を移動するように、一定流量の空気を液体輸送管40に連続供給する。
【0020】
なお、液体輸送管40の内径が小さくなるほど、あるいは、対象液体の表面張力が大きくなるほど、液柱の限界移動速度は大きくなり、内径2.5mmの液体輸送管40で水を輸送する場合には、秒速30ミリ程度の速度で水柱を輸送することが可能となる。
【0021】
上述した空気供給手段50の実装方法として、圧縮空気を蓄える圧力タンクからレギュレータを介して液体輸送管40に一定圧の微小流量の空気を供給させる方法が考えられるが、この方法では、圧力タンクとレギュレータで大きなエネルギー損失が発生するため、全体のエネルギー効率が低下する。この点、
図1に示す空気供給手段50は、最小限のエネルギー損失で、液柱に対して一定圧の微小流量の空気を連続的に供給することができる。
【0022】
ここで、空気供給手段50は、給気管52が接続される密閉容器60と、密閉容器60に細管62を介して接続される密閉容器70と、密閉容器70の底部に配管76を介して接続され、所定量の液体が貯留される開放容器80とを含んで構成されている。なお、細管62は、上述した液体供給管30、液体輸送管40および給気管52と同様の内径を持つ細管であることが望ましく、配管76は、細管である必要はない。また、開放容器80に貯留される液体の種類は任意であり、対象液体と同じであって、異なっていてもよい。
【0023】
ここで、開放容器80は、密閉容器70よりも鉛直方向上方に配置されており、開放容器80に貯留される液体が重力の作用で配管76を通って密閉容器70に導入されることで、密閉容器70の上部空間に一定の空気圧Pが生じるようになっている。ここで、開放容器80の液面と密閉容器70の液面の離間距離をHとし、液体の密度をρとし、重力加速度をgとすると、密閉容器70の上部空間に空気圧P=ρgHが生じることになる。なお、本実施形態においては、ここでいう空気圧Pを、液体輸送管40が一度に輸送する対象液体の液柱の抵抗力(液柱のヘッド、粘性による圧力損失および表面張力による圧力抵抗の総和)と釣り合う空気圧p(p<P)の1.5倍以下にすることが望ましく、1.2倍程度とすることが好ましい。
【0024】
一方、密閉容器60は、密閉容器70と給気管52の間に介在して、給気管52側の空気圧の上昇を遅延させるための手段である(詳細については後述する)。密閉容器60は、透明容器として構成され、その内部には所定容積の上部空間を残す形で所定量の液体が貯留されており、細管62の先端部が貯留された液体の中に配置され、密閉容器60と密閉容器70を接続する細管62にはバルブ72が設けられている。ここで、密閉容器60は、合流管35または液体輸送管40に対象液体が存在しているときに密閉状態となる一方で、合流管35および液体輸送管40のいずれにも対象液体が存在していないときに大気開放となる。なお、密閉容器60に貯留される液体の種類は任意であり、対象液体と同じであって、異なっていてもよい。
【0025】
一方、本実施形態では、密閉容器70と密閉容器60を接続する細管62に微細内径を持つ抵抗管64が設けられる。ここで、抵抗管64は、密閉状態となった密閉容器60の上部空間に、液体輸送管40が一度に輸送する対象液体の液柱の抵抗力(液柱のヘッド、粘性による圧力損失および表面張力による圧力抵抗の総和)と釣り合う空気圧p(p<P)が生じ、且つ、当該液柱の移動速度が限界移動速度を超えない範囲で微小流量の空気が定量供給されるように、その粘性損失が設計されている。同時に、抵抗管64は、密閉容器60の大気開放時に、密閉容器70から密閉容器60へ流入する空気流量の急増を防止することで、エネルギー効率の低下を防止する役割を果たす。
【0026】
ここで、密閉容器70の上部空間の空気圧Pと密閉容器60の上部空間の空気圧pの差分は、抵抗管64の粘性損失として失われてしまうため、エネルギー効率の観点から、空気圧Pをできるだけ空気圧pに近づけることが好ましいが、ある限度を超えて、空気圧Pを小さくしすぎると、密閉容器60が大気開放となったときの空気流量が大きくなり却ってエネルギー効率が低下する。
【0027】
この点につき、本実施形態では、エネルギー効率を最大化する空気圧Pの最適値を計算によって求めた上で、求めた空気圧Pから開放容器80を設置する高さ(すなわち、
図1に示す離間距離H)を逆算により求める。
【0028】
以上、本実施形態の液体輸送システム100の構成を説明してきたが、続いて、液体供給容器10に貯留された対象液体が液体回収容器20に回収されるまでの流れを順を追って説明する。
【0029】
図1に示すように、液体輸送の開始前の段階では、4つのバルブ(12,24,72,74)は全て閉じられており、密閉容器70の上部空間は空気圧Pに維持されている。
【0030】
液体輸送の開始にあたって、
図2に示すように、バルブ12とバルブ72を開放する。バルブ12の開放に伴って、液体供給容器10から液体供給管30の管内へ導入された対象液体は、重力の作用で、液体供給管30の管内をゆっくりと移動して合流管35に向かう。なお、このとき、オリフィス32の作用で、対象液体の移動速度の急増が防止される。
【0031】
一方、バルブ72の開放に伴って、密閉容器70の上部空間の空気が細管62を通って密閉容器60内の液体の中に気泡として放出される。この間、開放容器80に貯留された液体は配管76を介して密閉容器70に供給され続けるため、密閉容器70の上部空間の空気圧Pが維持される。この段階では、密閉容器60の上部空間は、給気管52、合流管35および液体輸送管40を経て液体回収容器20(開放容器)に連通しているため、大気開放となっている。なお、本実施形態では、密閉容器60が透明容器となっているので、空気(気泡)の導入状態を目視で確認することで、液体輸送管40の途中で液柱が停止して動かなくなったといった異常の発生を下方において検知することが可能になる。
【0032】
その後、
図3に示すように、対象液体は、合流管35を経て給気管52に侵入するが、逆止弁54の作用で、給気管52の後端側に少しだけ侵入した状態で停止する。一方、対象液体は、合流管35を経て液体輸送管40にも導入され、オリフィス42の作用で、鉛直方向上方に向かってゆっくりと上昇する。その後、液体輸送管40を上昇する対象液体は、その先端位置が液体供給容器10の液位W1に等しくなった時点で上昇を停止する。
【0033】
一方、合流管35が対象液体によって塞がれた時点で、密閉容器60は密閉状態となるため、密閉容器70から細管62を介して空気が導入されることにより、密閉容器60の上部空間およびこれに連通する給気管52の管内の空気圧が上昇しはじめる。この空気圧の上昇速度は、密閉容器60の上部空間の容積の大きさに応じて決まるため、本実施形態では、密閉容器60が密閉状態となってから対象液体の先端が液位W1に到達するまでの時間Tの間、密閉容器60の上部空間の空気圧が、液位W1と合流管35の高低差によって生じる液圧よりも大きくならないように、密閉容器60の上部空間の容積を適切な大きさに設計する。ここで、理論的には、密閉容器60の上部空間の容積の最小値は、液体輸送管40の断面積に比例し、内径2.5mmの液体輸送管40で水を輸送する場合、その最小値は52cm
3となる。
【0034】
密閉容器60は密閉状態となった後、上述した時間Tが経過すると、密閉容器60の上部空間およびこれに連通する給気管52の空気圧が、液位W1と合流管35の高低差によって生じる液圧よりも大きくなり、給気管52に侵入していた対象液体が液体供給管30側に少しずつ押し戻される。その結果、
図4に示すように、対象液体が合流管35を境に2つの液柱(液柱L1、液柱L2)に分断される。
【0035】
図5(a)は、対象液体が合流管35を境に2つの液柱(液柱L1、液柱L2)に分断された状態を拡大して示す。その後、密閉容器60の上部空間およびこれに連通する給気管52の空気圧が、液柱L1の先端と後端の高低差h1によって生じる液圧よりも大きくなると、
図5(b)に示すように、液体輸送管40の屈曲部U2を占めている液柱L1の後端が鉛直方向下方に押し下げられ、最下位に達する。
【0036】
液柱L1の後端が屈曲部U2の最下位に達した時点で、密閉容器60の上部空間およびこれに連通する給気管52の空気圧は、液柱L1の先端と後端の高低差h2(h2>h1)によって生じる液圧に等しくなるため、液体供給管30に残っていた液柱L2がさらに上流側に押し戻されることになる。つまり、本実施形態では、液体輸送管40の屈曲部U2の存在により、液柱L1が液体輸送管40を上昇し始めるときに、液柱L2の先端が液柱L1の後端から十分な距離だけ遠ざけられるので、液柱L1の分断が起こりにくくなる。
【0037】
その後、密閉容器60の上部空間およびこれに連通する給気管52の空気圧がさらに大きくなり、上述した空気圧pに達した時点で、液柱L1の後端に、抵抗力(液柱L1のヘッド、粘性による圧力損失および表面張力による圧力抵抗の総和)に釣り合う正圧力pが作用する。その後、抵抗管64を経た微小流量の空気が、密閉容器60および給気管52を介して液体輸送管40に定量供給されることにより、
図6に示すように、液柱Lは、移動の過程で分断されることなく、鉛直方向上方に等速移動する。
【0038】
なお、本実施形態では、液柱L1が液体輸送管40を上昇する間、液柱L2の先端は上流側に大きく押し戻されることになるが、液体供給管30の屈曲部U1の最下部が合流管35の位置より十分に下方に位置しているので、管内の空気が液体供給容器10に逆流しないようになっている。
【0039】
その後、液柱L1の先端が液体回収容器20に到達して、対象液体の回収が始まると、液体輸送管40中の液柱の長さが減少して、液体輸送管40の空気圧とのバランスが崩れるが、オリフィス44の作用で液柱L1の移動速度の急増が防止されるので、液柱L1は液滴に分断されることなく、液体回収容器20の中にゆっくりと回収される。
【0040】
液柱L1が液体回収容器20の中に回収されると、液体輸送管40およびこれに連通する密閉容器60の上部空間は、再び、大気圧に戻る。その結果、
図7に示すように、液体供給管30に残っていた液柱L2の先端がオリフィス32の作用でゆっくりと上昇して合流管35に再び接近する。その後、液体輸送システム100は、再び、
図2に示す状態となり、以降、上述した過程が繰り返される。その結果、液体供給容器10に貯留された対象液体が高所に配置される液体回収容器20に向けて連続的に輸送されることになる。
【0041】
その後、
図8に示すように、開放容器80が空になり、配管76の管内に残った液柱の後端位置と密閉容器70の水面の高低差と、液体供給容器10の水面と合流管35の高低差とが等しくなった時点で、液体の自動輸送が停止する。液体の自動輸送を再開する場合、本実施形態では、バルブ72を閉じた上でバルブ74を開放し、給気管73から密閉容器70内に空気を圧入して、密閉容器70内の液体を開放容器80の方に移動させる。その後、バルブ74を閉じた上でバルブ72を開放すれば、液体の自動輸送が再開する。なお、密閉容器70への空気の圧入は、随時行うことができ、例えば、自転車用の空気入れなどを用いて人力で行うことができる。
【0042】
なお、上述したサイクルを繰り返すと、液体回収容器20に対象液体が溜まっていくので、液体回収容器20の液面が液体輸送管40の先端部より高くなる前に、適時、バルブ24を開放して、液体回収容器20から対象液体を回収することが望ましい。
【0043】
最後に、本実施形態の液体輸送システム100のエネルギー効率について述べる。
【0044】
液体輸送管40で1度に輸送する液柱の長さをL、輸送する鉛直方向の高さをH、液体輸送管40の内径をd、断面積をA(=πd
2/4) 、対象液体の表面張力をγ、輸送速度をVとすると、高さHの高所に輸送された液柱が得るエネルギーはρgLAHである。そして、この輸送を実現するために必要な圧力は、ρgL+8γ/d+32μLV/d
2である。この式の第2項は表面張力により発生する圧力損失であり、第3項は管摩擦によるエネルギー損失である。したがって、液体輸送系のエネルギー効率ηは、
η=ρgLAH/{(ρgL+8γ/d+32μLV/d
2)HA}
=1/{1+8γ/(ρgLd)+32μV/(ρgd
2) }
となる。d=0.002m,V=0.01m/sのとき、分母第2項は約0.03/L,分母第3項は約0.008となり、Lが大きいほどエネルギー効率ηは高くなり,L=1mの場合、95%以上の高効率となる。
【0045】
一方、空気供給手段50のエネルギー損失は、P=p×(1+α)としたとき、
p×α×V×A
となり、給気管52の大気開放時の流量をqとすると、
p×(1+α)×q
も損失となる。
【0046】
ここで、αの最適値は、大気開放時間と液柱上昇時間の比βを用いて次式で表わすことができる。
α=sqrt(β/(1+β))
例えばβ=0.1のとき、空気供給系の最大エネルギー効率は約50%となるが、βの値をゼロに近づけることができれば、空気供給系のエネルギー効率を80%程度に保つことが可能になる。そして、液体輸送系のエネルギー効率に空気供給系のエネルギー効率を乗じた値が液体輸送システム100全体のエネルギー効率となる。
【0047】
以上、説明したように、本実施形態によれば、電気エネルギーを用いない小動力によって、任意の液体を高エネルギー効率で高所に輸送することが可能になる。
【0048】
さらに、本実施形態では、システムのエネルギー効率を最大化するべく、
図9に示す構成を採用することができる。
【0049】
図9に示す例では、液体輸送システム100は、給気管52が大気開放となったことに応じて、密閉容器70から密閉容器60への空気の流入を自動的に遮断する自動開閉バルブ90を備える。
【0050】
自動開閉バルブ90は、上部が開放された中空円柱状の開放容器92と、開放容器92の内部に保持される円柱状のシリンダー94とを含んで構成されており、その円柱軸方向が鉛直方向に一致するように配置されている。そして、開放容器92の下部底面と給気管52が細管95で接続され、その側面と密閉容器60が抵抗管64を介して細管62で接続され、その側面と密閉容器70が細管96で接続されている。なお、上述した細管62、95、96は、給気管52と同様の内径を持つ細管であることが望ましい。
【0051】
一方、シリンダー94は、開放容器92の内径に略等しい外径と、開放容器92の容積高さよりも短い高さを有しており、開放容器92の内部に、その円柱軸方向に摺動自在に保持されている。加えて、シリンダー94の外周側面には、細管62、細管96の内径に略等しい高さを有するリング状の切り欠き部Rが形成されている。
【0052】
図9に示すように、給気管52が大気開放されている状態では、シリンダー94は、鉛直方向下方に下がりきった状態となる。このとき、
図9に示すように、密閉容器70に連通する細管96の出口と密閉容器60に連通する細管62の入口がシリンダー94の外周側面で塞がれることにより、密閉容器70から密閉容器60への空気の流入が遮断される。
【0053】
その後、
図10(a)に示すように、対象液体が合流管35に達した時点で、給気管52に連通する細管95および、これに連通するシリンダー94の下部空間が密閉空間となる。その後、
図10(b)に示すように、対象液体が給気管52へ侵入することによって、細管95およびシリンダー94の下部空間の空気圧が徐々に増してくる。
【0054】
その後、シリンダー94の下部空間の空気圧が増した結果、それによって生じる正圧力によって、シリンダー94が、重力に抗して持ち上げられ、鉛直方向上方に上がりきった状態となる。このとき、
図10(c)に示すように、密閉容器70に連通する細管96の出口と密閉容器60に連通する細管62の入口がシリンダー94の外周側面に形成されたリング状の切り欠き部Rを介して連通することにより、密閉容器70から密閉容器60への空気が流入し始める。
【0055】
その後、液柱L1が液体回収容器20に回収されることによって、再び、給気管52が大気開放されると、これに伴ってシリンダー94の下部空間が大気開放され、シリンダー94が鉛直方向下方に下がりきった状態となる。これにより、再び、密閉容器70から密閉容器60への空気の流入が遮断される。
【0056】
以上、説明したように、
図9に示す構成を採用すれば、大気開放時間と水柱上昇時間の比βの値にかかわらず、空気供給系のエネルギー効率を80%程度に保つことが可能となる。
【0057】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の設計変更が可能である。例えば、上述した液体供給管30、合流管35、液体輸送管40、給気管52は、シームレスに一体化されていてもよい。また、密閉容器70を十分に下方に配置することで、液体供給容器10が開放容器80の機能を兼ねるようにしてもよい。その他、当業者が推考しうる実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0058】
図1に示した液体輸送システム100と同等のモデルを作製して、水を高所に輸送する実験を行った。なお、本実験では、液体輸送管40として内径2.5mmの透明プラスチックパイプを使用し、液体供給容器10の液位W1と合流管35の高低差を約0.7mとし、合流管35と液体回収容器20の高低差を約60mとした。その結果、液体輸送管40に液柱が繰り返し自動的に形成されること、約60mの高所に安定的な揚水なされることが確認できた。なお、揚水の1サイクルに要した時間は約75分、揚水速度は平均0.013m/sであった。