(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841489
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】光ダクトを利用した可視光通信システム
(51)【国際特許分類】
H04B 10/116 20130101AFI20210301BHJP
F21S 11/00 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
H04B10/116
F21S11/00 200
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-202385(P2016-202385)
(22)【出願日】2016年10月14日
(65)【公開番号】特開2018-64224(P2018-64224A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】397038037
【氏名又は名称】学校法人成蹊学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】特許業務法人エム・アイ・ピー
(72)【発明者】
【氏名】小口 喜美夫
(72)【発明者】
【氏名】西野 真由
【審査官】
後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】
特表2015−533021(JP,A)
【文献】
特開昭60−069608(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0057350(US,A1)
【文献】
特開2005−303919(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/178981(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/116
F21S 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の屋内に自然光を導入するための光ダクトを利用した可視光通信システムであって、
複数の放光部が形成される光ダクトと、
可視光通信の通信光を前記光ダクトの内壁面に向けて出射する位置に固定される可視光送信機と、
を含む、
可視光通信システム。
【請求項2】
前記可視光送信機の光軸方向は、
各前記放光部に入射した前記通信光が、該放光部を透過し、且つ、該放光部で反射するように位置決めされる、
請求項1に記載の可視光通信システム。
【請求項3】
前記可視光送信機の光源は、LEDである、
請求項1または2に記載の可視光通信システム。
【請求項4】
前記可視光送信機から出射した前記通信光を平行光にする光学系を含む、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の可視光通信システム。
【請求項5】
前記放光部を透過した前記通信光を拡散する光学系を含む、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の可視光通信システム。
【請求項6】
各前記放光部がそれぞれ異なる室内に面する、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の可視光通信システム。
【請求項7】
建物の屋内に自然光を導入するための光ダクトを利用した可視光通信システムであって、
複数の放光部が形成される光ダクトと、
可視光を前記光ダクトの内壁面に向けて出射する可視光光源と、
を含み、
データ信号を重畳した駆動信号によって駆動する光シャッターが各前記放光部に設けられることを特徴とする、
可視光通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光通信に関し、より詳細には、光ダクトを利用した可視光通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LED光源が発光する可視光を用いて無線通信を行う可視光通信技術の研究開発が進んでいる。可視光通信は、光が届く範囲と通信範囲が一致することから局所的なデータ通信に適しており、LED照明やデジタルサイネージから発せられるLED光を用いた可視光通信が既に実用化されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方、近年、高反射鏡面の内壁を持つ光ダクトを経由して自然光を建物の屋内に導入する自然採光システムが、省エネルギーなどの観点から注目を集めている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−110599号公報
【特許文献2】特開2011−3534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、光ダクトを利用した可視光通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、光ダクトを利用した可視光通信システムにつき鋭意検討した結果、以下の構成に想到し、本発明に至ったのである。
【0007】
すなわち、本発明によれば、建物の屋内に自然光を導入するための光ダクトを利用した可視光通信システムであって、複数の放光部が形成される光ダクトと、可視光通信の通信光を前記光ダクトの内壁面に向けて出射する可視光送信機とを含む、可視光通信システムが提供される。
【発明の効果】
【0008】
上述したように、本発明によれば、光ダクトを利用した可視光通信システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】第1実施形態の可視光通信システムを示す図。
【
図3】第1実施形態の可視光通信システムの光学系を説明するための図。
【
図4】第2実施形態の可視光通信システムを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。なお、以下に参照する各図においては、共通する要素について同じ符号を用い、適宜、その説明を省略するものとする。
【0011】
本発明は、自然採光システムの光ダクトを利用した可視光通信システムを開示する。そこで、本発明の説明に入る前に、その前提となる従来の自然採光システムの構成について説明する。
【0012】
図1は、従来の自然採光システム500を例示的に示す。
図1に示すように、自然採光システム500は、自然光(太陽光)を建物の屋内に導入するための光ダクト10を備える。光ダクト10は、断面が矩形の管状部材であり、その内壁面は高い反射率を有する鏡面となっている。
【0013】
光ダクト10の、その長手方向に離間したn個(nは2以上の整数。以下同様。)の位置には、光を放光するためのn個の放光部W
1、W
2、W
3、…W
nが形成されており、各放光部Wは、それぞれが異なる部屋(部屋1、部屋2、部屋3、…部屋n)の室内に面している。
【0014】
ここで、放光部Wは、光ダクト10の内壁底面に形成された任意形状の開口部を光透過性部材12で塞いだものである。ここでいう光透過性部材12とは、少なくとも可視光成分を透過する部材であり、例えば、可視光透過性のガラスや合成樹脂(アクリル等)で構成される。なお、
図1は、光透過性部材12として板状部材を例示しているが、光透過性部材12は、少なくとも1つの平滑面を有していればよく、その平滑面が光ダクト10の内壁底面と略面一となる形で固定されていればよい。
【0015】
自然採光システム500においては、屋外の自然光が採光窓14から光ダクト10に導入され、導入された自然光は、光ダクト10の内壁面(高反射鏡面)で反射を繰り返しながら、紙面右方向に進む。このとき、光ダクト10の長手方向に離間して存在する各放光部Wでは、光透過性部材12に入射した光の一部が光透過性部材12を透過する一方で、入射した光の一部は光透過性部材12の平滑面において反射して、さらに紙面右方向に進む。光ダクト10内では、このことが繰り返される結果、各放光部Wが面する室内に自然光が導入されることになる。
【0016】
なお、
図1では、水平方向に延在する光ダクト10を例示したが、光ダクト10は、任意の方向に延在するものであっても良いし、分岐構造を持つものであっても良い。また、
図1では、放光部Wが部屋の天井に面する光ダクト10を例示したが、放光部Wは、部屋の任意の壁面(側面や底面など)に面していても良い。
【0017】
以上、従来の自然採光システムの構成について説明したので、続いて、自然採光システムが備える光ダクトを利用した本発明の可視光通信システムについて説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図2は、本発明の第1実施形態である可視光通信システム100を示す。
図2に示すように、本実施形態の可視光通信システム100は、自然採光システム500が備える光ダクト10と、可視光通信の通信光を出射する可視光送信機20とを含む。
【0019】
可視光送信機20は、光源駆動信号にデータ信号(変調信号)を重畳することによって可視光光源の光強度を高速で変化させる装置である。なお、可視光光源としては、LED(light emitting diode)光源を例示することができる。以下、データ信号で変調された光信号を“通信光”という。
【0020】
本実施形態において、可視光送信機20は、光ダクト10の内壁面に向けて通信光を出射することができる任意の位置に固定される。具体的には、可視光送信機20は、放光部Wが形成される内壁底面10aに向けて通信光を出射するように固定されていても良いし、内壁天井10bに向けて通信光を出射するように固定されていても良い。また、可視光送信機20は、光ダクト10の内部に固定されていても良いし、光ダクト10の外部に固定されていても良い。
【0021】
図2に示す例では、可視光送信機20は、光ダクト10に内部に固定されており、可視光送信機20の光軸方向は、通信光が、光ダクト10の内壁天井10bに対して所定の入射角θをもって入射するように位置決めされている。この場合、可視光送信機20から出射した通信光は、まず、内壁天井10bで反射して放光部W
1に入射する。このとき、放光部W
1の光透過性部材12に入射した通信光の一部が光透過性部材12を透過して部屋1の室内に入射し、一部が光透過性部材12において反射する。その後、反射した光は、光ダクト10の内壁天井10bと内壁底面10aの双方で反射を繰り返しながら、紙面右方向に向かって進行した後に、放光部W
2に入射する。このとき、放光部W
2の光透過性部材12に入射した光の一部が光透過性部材12を透過して部屋2の室内に入射し、一部が光透過性部材12において反射する。
【0022】
その後、反射した光は、再び、光ダクト10の内壁天井10bと内壁底面10aの双方で反射を繰り返しながら、紙面右方向に向かって進行した後に、放光部W
3に入射する。このとき、放光部W
3の光透過性部材12に入射した光の一部が光透過性部材12を透過して部屋3の室内に入射し、一部が光透過性部材12において反射する。その後、反射した光は、光ダクト10の内壁天井10bと内壁底面10aの双方で反射を繰り返しながら、紙面右方向に向かって進行する。以降、これが繰り返される。
【0023】
結果として、可視光送信機20から出射した通信光は、光ダクト10の長手方向(紙面右方向)に進行する過程で、n個の放光部W
1、W
2、W
3、…W
nを透過して、各放光部Wが面する部屋1、部屋2、部屋3、…部屋nの室内に入射する。各部屋に入射した通信光は、各部屋のユーザが使用する可視光通信の可視光受信機30によって受信される。なお、
図2では、可視光受信機30として、可視光通信の受信機能を搭載したスマートフォンを例示しているが、可視光受信機30はこれに限定されない。
【0024】
図3は、
図2において破線で囲んだ部分を拡大して示す。可視光通信システム100は、
図3に示すように、可視光送信機20から出射した通信光を平行光にする光学系22を含むことができる。通信光を平行光にすることにより、通信光の拡散が防止され、光ダクト10の長手方向の通信距離を伸ばすことができる。なお、
図3では、便宜上、光学系22として平凸レンズを示しているが、光学系22は、通信光を平行光にすることができる光学系であればよく、その具体的な構成は問わない。
【0025】
また、可視光通信システム100は、
図3に示すように、放光部W(光透過性部材12)を透過した通信光を拡散する光学系24を含むことができる。放光部Wを透過した通信光を拡散することにより、室内における通信光の受信可能範囲を広げることができる。なお、
図3では、便宜上、光学系24として平凹レンズを示しているが、光学系24は、通信光を拡散することができる光学系であればよく、その具体的な構成は問わない。
【0026】
最後に、可視光送信機20の位置決めについて説明する。
【0027】
本実施形態においては、可視光送信機20から出射した通信光が、光ダクト10の長手方向に進行する過程で、各放光部Wに入射した通信光が、光透過性部材12を透過し、且つ、光透過性部材12で反射するように、可視光送信機20の光軸方向を位置決めする。具体的には、まず、n個の放光部W
1、W
2、W
3、…W
nで反射を繰り返しながら光ダクト10の長手方向に進行する光線であって、各放光部Wに入射した光の一部が透過し、透過した光が可視光通信に必要なS/N比を実現しうる光量を持ち、且つ、各放光部Wに入射した光の一部が反射するような光線の軌跡を計算によって求める。このような光線の軌跡は、可視光送信機20の出力パワー、可視光受信機30の受信可能電力、放光部Wの数(n)、光ダクト10の内壁面の反射率、光透過性部材12の入射角度に対する反射率および透過率、等に基づき、公知の光線追跡法を使用して計算することができる。その上で、計算した光線の軌跡が実現されるように可視光送信機20の光軸方向を位置決めする。
【0028】
以上、説明したように、本実施形態によれば、既存の自然採光システムが備える光ダクトを流用して可視光通信システムを構築することができる。本実施形態によれば、N個の放光部を有する既存の光ダクトに1台の可視光送信機を設置するだけで、追加的な配線工事を行うことなく、1対Nの可視光通信が可能となる。
【0029】
以上、本発明の第1実施形態を説明してきたが、続いて、本発明の第2実施形態を説明する。なお、以下では、第1実施形態の内容と共通する部分の説明を省略し、専ら、第1実施形態との相違点のみを説明するものとする。
【0030】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態である可視光通信システム200を示す。
図4に示すように、本実施形態の可視光通信システム200は、自然採光システム500が備える光ダクト10と、可視光を出射する可視光光源40と、光シャッター50とを含む。すなわち、可視光通信システム200は、可視光送信機20に代えて可視光光源40を備える点、ならびに、光ダクト10に形成される各放光部Wに光シャッター50が設けられている点で、第1実施形態の可視光通信システム100と異なり、その余の構成については共通する。
【0031】
可視光光源40は、可視領域の定常光を出射する装置であり、光ダクト10の内壁面に向けて定常光を出射することができる任意の位置に固定される。具体的には、可視光光源40は、放光部Wが形成される内壁底面10aに向けて通信光を出射するように固定されていても良いし、内壁天井10bに向けて通信光を出射するように固定されていても良い。また、可視光光源40は、光ダクト10の内部に固定されていても良いし、光ダクト10の外部に固定されていても良い。なお、可視光光源40としては、LED、タングステンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、などを例示することができる。
【0032】
光シャッター50は、データ信号(変調信号)を重畳した駆動信号によって駆動する光学デバイスであり、光透過性部材12を覆う形で放光部Wに固定される。なお、光シャッター50としては、液晶光シャッターを例示することができる。
【0033】
可視光光源40から出射した定常光は、光ダクト10内を進行する過程で各放光部Wに入射し、その一部が光透過性部材12と光シャッター50を透過する。このとき、光シャッター50を透過する光の強度は、光シャッター50の駆動信号に重畳されるデータ信号に応じて高速で変化する。これにより、各放光部Wに面する部屋に入射する光は、通信光(すなわち、データ信号で変調された光信号)となり、各部屋に入射した通信光は、各部屋のユーザが使用する可視光受信機30によって受信される。
【0034】
以上、説明したように、本実施形態によれば、可視光送信機を用いることなく、11対Nの可視光通信が可能となる。
【0035】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、当業者が推考しうるその他の実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0036】
可視光送信機(可視光送信評価ボード:VL-100-3T、内藤電誠町田製作所社製)と、可視光受信機(可視光受信評価キット:VL-100-USB-3RA、内藤電誠町田製作所社製)と、光ダクト(どこでも光窓、東洋鋼鈑社製)を使用して上述した可視光通信システムのモデルを作製した。作製したモデルを用いて実証実験を行った結果、光ダクトに日光を導入した状態で、可視光通信に必要なS/N比が実現されることが確認できた。
【符号の説明】
【0037】
10…光ダクト、10a…内壁底面、10b…内壁天井、12…光透過性部材、14…採光窓、20…可視光送信機、22…光学系、24…光学系、30…可視光受信機、40…可視光光源、50…光シャッター、100,200…可視光通信システム、500…自然採光システム