特許第6841500号(P6841500)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841500
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】水静圧支持装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/06 20060101AFI20210301BHJP
   C02F 1/66 20060101ALI20210301BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20210301BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20210301BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20210301BHJP
   C02F 1/20 20060101ALI20210301BHJP
   B01F 3/04 20060101ALI20210301BHJP
   C02F 1/68 20060101ALI20210301BHJP
   B01D 19/00 20060101ALI20210301BHJP
   B23B 19/02 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   F16C32/06 Z
   C02F1/66 510G
   C02F1/66 521B
   C02F1/66 530B
   C02F1/66 530C
   C02F1/66 530G
   B01D61/00
   C02F1/44 H
   C02F1/42 A
   C02F1/20 A
   B01F3/04 A
   C02F1/68 510G
   C02F1/68 520B
   C02F1/68 530A
   C02F1/68 540Z
   B01D19/00 H
   B01D19/00 101
   B23B19/02 B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-27116(P2017-27116)
(22)【出願日】2017年2月16日
(65)【公開番号】特開2018-132143(P2018-132143A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000150604
【氏名又は名称】株式会社ナガセインテグレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】西川 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】板津 武志
(72)【発明者】
【氏名】宇野 剛
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平3−199718(JP,A)
【文献】 特開2000−27864(JP,A)
【文献】 特開2016−47587(JP,A)
【文献】 特開昭59−121297(JP,A)
【文献】 特開2003−136077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/00−32/06
B01D 19/00,61/00
B01F 3/04
B23B 19/02
C02F 1/20, 1/42, 1/44, 1/66, 1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静圧軸受に供される水よりなる静圧媒体の性状を難酸化性にするための性状調整手段を設けた水静圧支持装置において、
前記性状調整手段は、静圧媒体をペーハー調整するためのペーハー調整装置と、前記静圧媒体に対して水素を混入させるための水素混入装置を備えた水静圧支持装置。
【請求項2】
前記ペーハー調整装置の上流側に、静圧媒体を純水化するための純水化装置を設けた請求項に記載の水静圧支持装置。
【請求項3】
前記水素混入装置の上流側に、静圧媒体から脱気するための脱気装置を設けた請求項1または2に記載の水静圧支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を静圧媒体として用いて静圧支持状態を形成するようにした水静圧支持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水を静圧媒体として、軸受に用いることは、低コスト化を図ることができるとともに、油ミストが生じたり、油流出汚染が生じたりすることがないため、環境汚染を改善することができる。また、水は油よりも粘性が低いために、低抵抗及び低振動などの摺動特性を得ることができるばかりでなく、発熱の問題も少なくなる。このため、省エネルギーを達成できるだけではなく、高精度加工が可能になる。
【0003】
水を静圧媒体として用いた装置が、例えば、特許文献1〜3の従来技術に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−142782号公報
【特許文献2】特開2008−149434号公報
【特許文献3】特開2012−177385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
静圧媒体として水を用いる場合、摺動面や配管内の錆の問題を回避することができず、特に摺動面の錆は移動体の位置精度や移動抵抗などに大きな影響を与える。
このため、特許文献1〜3においては、摺動面を構成する部材として、セラミックを用いている。ところが、セラミックは、成形に手間がかかる。
【0006】
また、静圧媒体として、水を用いると、バクテリアの増殖やスケールの発生などを抑えることが困難で、この場合も前記のような精度確保上の問題や、移動抵抗などの問題が生じる。
【0007】
本発明の目的は、静圧媒体として、水を有効に使用できる水静圧支持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の静圧軸受においては、静圧軸受に供される水よりなる静圧媒体の性状を難酸化性にするための性状調整手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、静圧媒体としての低粘性の水により、回転軸などの摺動体を低抵抗で受承できて、高効率で高精度な静圧支持を実現できる。また、静圧媒体が難酸化性であるため、静圧軸受などを構成する部材として、鋳鉄や低膨張合金などのように、加工が容易で、高精度を確保できる部材を用いることができる。静圧媒体が難酸化性であるため、静圧軸受を構成する部材の酸化を抑制でき、さらに、バクテリアの増殖を抑制できるとともに、スケールの生成を抑制できる。従って、静圧軸受などにおいて酸化による錆を抑制できるとともに、潤滑水の粘性が高くなったり、スケールのつまりなどによる摺動部の摺動特性が低下したりすることを回避することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の水静圧支持装置を示す模式図。
図2】ペーハー調整装置を示す模式図。
図3】脱気装置を示す模式図。
図4】水素混入装置を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を具体化した水静圧支持装置の実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、モータ11はモータ軸である回転軸12を回転可能に支持する静圧軸受13を有している。この回転軸12及び静圧軸受13には切削加工により所要形状が付与されるとともに、メッキが施された鋳鉄や低膨張合金が用いられている。
【0012】
潤滑水タンク21には、静圧媒体としての潤滑水100が貯留されている。この潤滑水100には、純水化された水が用いられる。この潤滑水100は、ポンプ22により送給配管23を介して静圧軸受13に供給されて、その静圧軸受13と回転軸12との間の潤滑に供せられる。静圧軸受13からの戻りの潤滑水100はドレン配管24を介して潤滑水タンク21に回収される。従って、潤滑水100は、潤滑水タンク21と静圧軸受13の部分との間において循環される。
【0013】
性状調整手段を構成する性状調整ユニット31の内部に設けられた水が通る内部配管32には、上流側から順に、純水化装置33,ペーハー調整装置34,脱気装置35及び水素混入装置36が接続されている。前記水素混入装置36は、供給配管37を介して前記潤滑水タンク21の入口側に接続されている。前記純水化装置33は、流量調整バルブ51を有する回収配管38を介して潤滑水タンク21の出口側に接続されている。回収配管38には、切換バルブ39が接続され、その切換バルブ39には水源40が水源配管41を介して接続されている。水源40は、例えば水道水の供給源である。切換バルブ39の切換えにより、回収配管38が潤滑水タンク21側または水源40側に切換えられる。
【0014】
そして、水素混入装置36からの潤滑水100が供給配管37を介して潤滑水タンク21に供給される。また、切換バルブ39の一方の切換え状態において、潤滑水タンク21からの潤滑水100が流量調整バルブ51によって流量が調整されながら回収配管38を介して純水化装置33に回収される。なお、前記流量調整は、流量が過大にならないように絞られる。さらに、切換バルブ39の他方の切換え状態において、水源40からの原水が純水化装置33に導入される。
【0015】
前記純水化装置33は、濾過膜(図示しない)を備え、回収配管38を介して導入される潤滑水タンク21からの潤滑水100または水源40からの原水が純水に近付くように濾過して前記ペーハー調整装置34の前処理段階として水を純水化処理する。前記濾過膜としては、例えば、RO膜(逆浸透膜)が用いられる。また、純水化装置33として、イオン交換樹脂を用いたイオン交換器が用いられてもよい。
【0016】
図1及び図2に示すように、ペーハー調整装置34は、純水化装置33から内部配管32を介して導入された純水化水のペーハーを調整してその純水化水に難酸化性を付与し、その純水化水をアルカリ性にする。すなわち、ペーハー調整装置34は、図2に示すように、純水化水を貯留する調整タンク45と、その調整タンク45内の純水化水にペーハー調整液を注入して調整液を難酸化性にするための注入器43とを有している。ペーハー調整液としては、アルカリ性の溶液が用いられ、例えば、炭酸カリウムが用いられる。
【0017】
図1及び図3に示すように、脱気装置35は、水素混入装置36における水素混入の前段階処理として気体分を除去して水に対して難酸化性を付与するためのものであって、ペーハー調整装置34から内部配管32を介して導入された調整済み水を脱気処理する。
【0018】
この脱気装置35には、図3に示すように、内部配管32に一部に、気体を透過させるが、液体の透過を阻止する合成樹脂よりなる筒状の脱気膜44が設けられている。この脱気膜44を包囲するように真空チャンバー52が設けられている。そして、脱気膜44の内側を通過する前記調整済み水から気体分が脱気膜44を介して真空チャンバー52内に移動されて、調整済み水が脱気される。この脱気は、水素混入装置36における処理の前段階処理である。なお、真空チャンバー52内の気圧は、図示しない真空ポンプにより真空に近い状態に維持される。
【0019】
図1及び図4に示すように、水素混入装置36は、脱気装置35から内部配管32を介して導入された気体除去済水内に水素を混入させて、空気が混入されることを抑制して、その気体除去済水に難酸化性を付与する。すなわち、この水素混入装置36は、図4に示すように、前記気体除去済水が一時的に貯留される混入タンク46と、水素ガスを充填した水素ボンベ47と、水素ボンベ47と混入タンク46との間に接続され、開閉バルブ48を有するガス配管49とを備えている。そして、開閉バルブ48が開放された状態で、水素ボンベ47からの水素ガスが混入タンク46内の気体除去済水内に混入される。
【0020】
次に、以上のように構成された本実施形態の水静圧支持装置の作用について説明する。
潤滑水タンク21から回収された潤滑水100及び水源40からの原水は、純水化装置33において濾過されて、純水化された後に、ペーハー調整装置34においてペーハー調整される。そして、そのペーハー調整された水は、脱気装置35において脱気される。その脱気された気体除去済水には、水素混入装置36において水素が混入される。
【0021】
そして、水素が混入された水は、潤滑水タンク21に送られて、その潤滑水タンク21において一時的に貯留され、さらに、その潤滑水タンク21から潤滑水100として静圧軸受13に供給され、その静圧軸受13の部分において潤滑に供される。静圧軸受13からドレン配管24を介して戻されたドレン水は、潤滑水タンク21内に戻される。従って、潤滑水100は、潤滑水タンク21と静圧軸受13の部分との間において循環される。
【0022】
また、潤滑水タンク21内の潤滑水100の一部は、流量調整バルブ51を介して性状調整ユニット31に戻される。従って、性状調整ユニット31に戻された潤滑水100は純水化され、前記のようにペーハー調整され、脱気され、水素が混入されて、潤滑水タンク21に戻される。以上のように、潤滑水タンク21内の潤滑水100は潤滑水タンク21と性状調整ユニット31との間において循環される。このため、潤滑水100が潤滑水タンク21と静圧軸受13の部分との間の循環にともなって劣化したとしても、潤滑水タンク21と性状調整ユニット31との間の循環において再生される。また、潤滑水100の量が減少した場合は、水源40から性状調整ユニット31内に水が補充されて、前記と同様にして純水化、ペーハー調整、脱気、水素混入されて潤滑水100が生成され、潤滑水タンク21内に貯留される。
【0023】
従って、本実施形態においては、以下の効果がある。
(1)水によって静圧軸受13の静圧媒体が構成されるため、低粘性の水により、回転軸12を低抵抗で受承できて、高効率で高精度な静圧支持を実現できる。
【0024】
(2)性状調整ユニット31内において、ペーハー調整装置34により、潤滑水100のペーハーが難酸化性のアルカリ性に調整されるため、静圧軸受13において、静圧軸受13を構成する部材や配管などの酸化を抑制でき、さらにバクテリアの増殖を抑制できるとともに、スケールの生成を抑制できる。従って、静圧軸受13や回転軸12などの酸化による錆を抑制できるとともに、潤滑水100の粘性が高くなったり、スケールのつまりなどによる摺動部の摺動特性が低下したりすることを回避することが可能になる。また、前記部材の酸化を抑制できるため、静圧軸受13などを構成する部材として、鋳鉄や低膨張合金などのように、加工が容易で、高精度を確保できる部材を用いることができる。従って、静圧軸受13を有する工作機械などにおいて、ワークに対する高精度加工を実現できる。また、静圧軸受13の部材などの酸化を抑制できるため、静圧軸受13の部材などの耐久性を向上できる。
【0025】
(3)ペーハー調整装置34の上流側の前処理段階において、純水化装置33により水の純水化が行われるため、ペーハー調整装置34によるペーハー調整が効果的に行われる。
【0026】
(4)性状調整ユニット31内において、脱気装置35により、潤滑水100が脱気されて、難酸化性が付与されるため、静圧軸受13において、静圧軸受13を構成する部材の酸化を抑制できる。また、脱気により、前記と同様に、バクテリアの増殖を抑制できるとともに、スケールの生成を抑制できる。従って、静圧軸受13などの酸化による錆を抑制できるとともに、潤滑水100の粘性が高くなったり、スケールのつまりなどによって摺動部の摺動特性が低下したりすることを回避することが可能になる。
【0027】
(5)性状調整ユニット31内において、水素混入装置36により、潤滑水100に水素が混入されて難酸化性が付与されるため、静圧軸受13などの部分における部材の酸化を抑制できる。従って、静圧軸受13などを構成する部材として、鋳鉄などのように、加工が容易で、高精度を確保できる部材を用いることができる。また、静圧軸受13を有する工作機械などにおいて、ワークに対する高精度加工を実現できる。さらに、静圧軸受13などの部材の酸化を抑制できるため、静圧軸受13などの部材の耐久性を向上できる。
【0028】
(6)水素混入装置36の上流側において、脱気装置35により脱気が行われるため、水素混入装置36における水素混入が円滑に行われる。また、脱気装置35により脱気が行われるため、静圧軸受13内において、その静圧軸受13を構成する部材の摺動によって潤滑水100に対してせん断力が働いても、潤滑水100から空気が分離することを防止できる。従って、前記部材の摺動によって潤滑水100に乱流が生じることを防止でき、このため、静圧軸受部分の振動を抑制できて、高精度加工を達成できる。
【0029】
(変更例)
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、以下のような態様で具体化することも可能である。
【0030】
・性状調整ユニット31において、純水化装置33及び水素混入装置36のうちの少なくともひとつの装置を省略すること。
・静圧軸受13において、潤滑水100と接する部分に電気防錆電極を設けること。この電気防錆電極は、陽極に潤滑水100が接するようにする。この陽極は、イオン化しにくい白金などの金属を用いることが好ましい。
【符号の説明】
【0031】
13…静圧軸受、31…性状調整ユニット、33…純水化装置、34…ペーハー調整装置、35…脱気装置、36…水素混入装置。
図1
図2
図3
図4