【実施例】
【0046】
次に、本発明を、実施例を用いて詳細に説明する。本発明は、これらの例によって限定されない。
[ポリアミド樹脂の製造]
<ポリアミド樹脂A1>
ポリアミド樹脂A1(ポリアミド樹脂A)は、オレイン酸及び重合脂肪酸(ハリマ化成社製、「ハリダイマー250」)を含むカルボン酸成分と、エチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミンからなるアミン成分とを縮合させて得られたものである。ポリアミド樹脂A1は、特許第4580457号公報の段落[0032]に記載された製造方法に準拠して合成した。
すなわち、原料となる、オレイン酸及び重合脂肪酸を含むカルボン酸成分と、アミン成分との混合物を温度計、撹拌系、脱水管及び窒素吹き込み管を備えた四つ口丸底フラスコに入れ、該混合物を撹拌し、着色防止のために僅かの窒素を流した後、210℃で3時間反応させた。さらに減圧下(13.3kPa)で2時間反応させた後、冷却し、粉砕してポリアミド樹脂A1を得た。
それぞれの含有割合は、カルボン酸成分については、カルボン酸成分1モル当量あたりオレイン酸が0.07モル当量(全体原料に占める割合4モル当量%、括弧内、以下同じ)、重合脂肪酸が0.93モル当量(46モル当量%)であり、アミン成分については、アミン成分1モル当量あたりエチレンジアミンが0.50モル当量(25モル当量%)、ヘキサメチレンジアミンが0.50モル当量(25モル当量%)である。また、カルボン酸成分とアミン成分の割合は、モル当量比(カルボン酸成分/アミン成分)で、1.0/1.0である。
ポリアミド樹脂A1の軟化点は82℃であり、180℃溶融粘度は1800mPa・sであった。
【0047】
<ポリアミド樹脂B1>
ポリアミド樹脂B1(ポリアミド樹脂B)は、オレイン酸、プロピオン酸及び重合脂肪酸(ハリマ化成社製、「ハリダイマー250」)を含むカルボン酸成分と、エチレンジアミン及びメタキシリレンジアミンからなるアミン成分とを縮合させた以外は、ポリアミド樹脂A1と同様の方法により得た。
それぞれの含有割合は、カルボン酸成分については、カルボン酸成分1モル当量あたりオレイン酸が0.05モル当量(2モル当量%)、プロピオン酸が0.02モル当量(1モル当量%)、重合脂肪酸が0.94モル当量(47モル当量%)であり、アミン成分については、アミン成分1モル当量あたりエチレンジアミンが0.90モル当量(45モル当量%)、メタキシリレンジアミンが0.10モル当量(5モル当量%)である。また、カルボン酸成分とアミン成分の割合は、モル当量比(カルボン酸成分/アミン成分)で1.0/1.0である。
ポリアミド樹脂B1の軟化点は108℃であり、180℃溶融粘度は2000mPa・sであった。
【0048】
<アスファルト混合物の種類と配合>
《アスファルト混合物a》
・最大粒径13mmの骨材を使用した砕石マスチックアスファルト混合物
・最適アスファルト量=5.5質量%
・バインダとして、ポリマー改質アスファルトH型を使用
【0049】
《アスファルト混合物b》
・最大粒径5mmの骨材を使用した砕石マスチックアスファルト混合物
・最適アスファルト量=7.0質量%
・バインダとして、ポリマー改質アスファルトII型を使用
【0050】
《アスファルト混合物c》
・最大粒径13mmの骨材を使用した砕石マスチックアスファルト混合物
・最適アスファルト量=6.5質量%
・バインダとして、ポリマー改質アスファルトII型を60質量%使用し、ポリアミド樹脂B1を40質量%使用
【0051】
《アスファルト混合物d》
・最大粒径5mmの骨材を使用した砕石マスチックアスファルト混合物
・最適アスファルト量=6.5質量%
・バインダとして、ポリマー改質アスファルトII型を60質量%使用し、ポリアミド樹脂B1を40質量%使用
【0052】
《SFRC》
・SFRC:SFRC(超速硬型)の配合を表1に示す。
・セメントの種類は、SFRCに一般的に用いられている超速硬セメントとした。
【0053】
【表1】
【0054】
<タックコートに使用した材料>
・PK−M:タイヤ付着抑制乳剤(東亜道路工業株式会社製、製品名「タックファインE」)
【0055】
<その他の材料>
・プライマー:エポキシ樹脂系又はアスファルト溶剤系
・防水層用材料:アスファルト塗膜系又はポリアミド樹脂A
・珪砂:5号珪砂
【0056】
[評価方法]
実施例と比較例の床版舗装構造を下記の方法に従って評価した。
【0057】
<複合供試体の単純曲げ試験>
《供試体の作製》
(1)鋼板の設置
縦400mm×幅300mmの型枠に、プライマーと防水層を施した縦399mm×幅95mm×厚さ12mmの鋼版3枚を約5mmの隙間を開けて型枠内に並べる。
(2)基層の設置
型枠内に並べた鋼版の上に、加熱混合した基層(アスファルト混合物層)の作製に用いるアスファルト混合物を所定量敷き均し、ローラコンパクタで所定の密度まで転圧する。
なお、比較例3については、鋼板に接着材を塗布したのち1時間以内にSFRCの打設を行った。
(3)タックコート
基層(アスファルト混合物層)の表面温度が50℃以下になったらタックコートを散布する。
なお、実施例1〜3、6の場合は、1層施工となるのでタックコートは施さない。
(4)表層の設置
タックコートの乾燥が終了したら、加熱混合した表層(アスファルト混合物層)の作製に用いるアスファルト混合物を所定量敷き均し、ローラコンパクタで所定の密度まで転圧する。
ここで、表層とは、基層上に設けられるアスファルト混合物層のうち、最表面を構成するアスファルト混合物層のことをいう。
(5)供試体の切り出し
表層(アスファルト混合物層)の温度が室温まで下がったら、鋼版の隙間に沿ってダイヤモンドカッターで混合物を切り離し、3個の供試体に分割する。
【0058】
《単純曲げ試験方法》
万能試験機を用い、作製した供試体の鋼版を下面にし、スパン長30cmで下部から2点支持し、中央部を上部から点載荷する。載荷速度は、50mm/minの一定とした。試験温度は、23℃と60℃とし、試験前に供試体が試験温度となるように10時間以上の養生を行う。
【0059】
単純曲げ試験から、代表的に
図2に示すような形状の測定チャートが得られる。測定チャートより、最大荷重発生時の応力を最大応力として供試体寸法から算出した。試験結果は3個の供試体の測定値の平均値とした。
【0060】
《最大応力の評価》
実施例と比較例の床版舗装構造の評価のための複合供試体による単純曲げ試験で得られた最大応力について、次の基準で分類した。
A:20MPa以上
B:10MPa以上20MPa未満
C:4.5MPa以上10MPa未満
D:4.5MPa未満
【0061】
<大型供試体を用いた静荷重試験>
《供試体の作製》
(1)鋼板の準備
表2に示す寸法の鋼製床版上に、ショットブラストを150kg/m
2の投射密度で行った後、プライマーと接着防水層を構築した。
(2)基層混合物の施工
加熱混合した基層(アスファルト混合物層)の作製に用いるアスファルト混合物を所定量敷き均し、ローラで所定の密度まで転圧する。
なお、比較例3については、プライマー上に接着材を塗布したのち1時間以内にSFRCの打設を行った。
(3)タックコート
基層(アスファルト混合物層)の表面温度が50℃以下になったらタックコートを散布する。
なお、実施例6の場合は、1層施工となるのでタックコートは施さない。
(4)表層の設置
タックコートの乾燥が終了したら、加熱混合した表層(アスファルト混合物層)の作製に用いるアスファルト混合物を所定量敷き均し、ローラで所定の密度まで転圧した。
【0062】
【表2】
【0063】
《静的載荷試験》
実施例と比較例の床版舗装構造となるように、デッキプレート上に各舗装材料を敷設した。デッキプレート上に敷設した舗装材料の試験時温度は、23℃及び50℃に保ち、それぞれの温度で1ケースの試験を実施した。
静的載荷試験は、200mm×200mmの鋼板である載荷板で行う。載荷板10は、
図3に示すように、載荷面11が2面となるように、100mmの間隔で配置する。載荷板10の下には、試験体表面の不陸を吸収し、載荷荷重が等分布となるように、厚さ30mm程度の硬質のゴム板12を置く。
荷重は、載荷面が2面で最大200kNとし、0kN、50kN、100kN、150kN、200kNの階段状漸増載荷とした。荷重は、供試体中央付近のUリブウェブを跨ぐ2面載荷となるように載荷梁13を乗せた。
【0064】
舗装舗設前の静的載荷試験結果を基本として、載荷した時にUリブに生じるひずみから応力を算出し、舗設後と舗設前の応力比を算出した。応力比が低ければ補強効果が高い。
【0065】
《最大応力の評価》
実施例と比較例の床版舗装構造の評価のための大型供試体を用いた静的載荷試験で得られた舗設前との応力比について、次の基準で分類した。
A:0.5未満
B:0.5以上0.6未満
C:0.6以上0.7未満
D:0.7以上
【0066】
<接着防水層のせん断試験>
せん断試験は、道路橋床版防水便覧(日本道路協会、平成19年3月発刊、p.132〜134)に記載された方法に準拠して実施した。試験温度は、60℃で実施した。試験温度60℃のせん断強度は当該便覧に規定されていないが、温度が高くなるほど従来のアスファルト系防水材は接着力が低下するため、60℃における接着強度が23℃に要求される接着強度以上であれば高温での接着強度に優れていることとなる。接着防水材のせん断強度は、試験温度60℃において、0.15MPa以上であることが好ましく、変位量が1.0mm以上であることが好ましい。
【0067】
《せん断強度の評価》
実施例と比較例の床版舗装構造における接着防水層のせん断強度(試験温度60℃)について、次の基準で分類した。
A:0.6MPa以上
B:0.3以上0.6MPa未満
C:0.15MPa以上0.3MPa未満
D:0.15MPa未満
【0068】
<表基層混合物の施工時間の評価>
実施例と比較例の床版舗装構造の基層及び表層の施工時間の合計について、次の基準で分類した。
なお、床版舗装構造は、幅員6m×延長100mの単路部を想定した。
A:4時間未満
B:4時間以上8時間未満
C:8時間以上12時間未満
D:12時間以上
【0069】
<混合物のリサイクル性>
実施例と比較例の床版舗装構造に用いた材料のリサイクル性について、次の基準で分類した。
○:アスファルト混合物及びセメントコンクリートに再利用可能
×:アスファルト混合物及びセメントコンクリートに再利用不可
【0070】
[実施例1]
上述のようにして得られたポリアミド樹脂A1及びポリアミド樹脂B1を用いて実施例1の供試体を作製した。
すなわち、所定の鉄板にエポキシ系のプライマー(セメダイン株式会社製、型番「EP−29」)を0.3kg/m
2塗布し、硬化する前に珪砂を2kg/m
2散布して硬化させた。
その後、防水層用材料として、ポリアミド樹脂A1を180℃に加熱したものを金属製のヘラで均しながら塗布(0.1kg/m
2)して接着防水層を形成し、硬化する前に珪砂を2kg/m
2散布して常温になるまで放置した。
次に、接着防水層の上に、アスファルト混合物dを150℃の温度で敷均して4cmの厚みの基層(アスファルト混合物層)を形成した。
得られた供試体を上述した評価方法により評価した。結果を表3に示す。
【0071】
[実施例2]
実施例1で、防水層用材料の塗布量が2.0kg/m
2とした以外は実施例1と同様にして、実施例2の供試体を得た。
得られた供試体を上述した評価方法により評価した。結果を表3に示す。
【0072】
[実施例3]
実施例1で、防水層用材料の塗布量が5.0kg/m
2とした以外は実施例1と同様にして、実施例3の供試体を得た。
得られた供試体を上述した評価方法により評価した。結果を表3に示す。
【0073】
[実施例4]
上述のようにして得られたポリアミド樹脂A1及びポリアミド樹脂B1を用いて実施例4の供試体を作製した。
すなわち、所定の鉄板にエポキシ系のプライマー(セメダイン株式会社製、型番「EP−29」)を0.2kg/m
2塗布し、硬化する前に珪砂を2kg/m
2散布して硬化させた。
その後、防水層用材料として、ポリアミド樹脂A1を180℃に加熱したものを金属製のヘラで均しながら塗布(2.0kg/m
2)して接着防水層を形成し、常温になるまで放置した。
次に、接着防水層の上に、アスファルト混合物dを150℃の温度で敷均して4cmの厚みの基層(アスファルト混合物層)を形成した。
次に、基層の上に、PK−Mを0.4kg/m
2塗布し、タックコートを施した。
次に、タックコート上に、アスファルト混合物aを150℃の温度で敷均して4cmの厚みの表層(アスファルト混合物層)を形成した。
得られた供試体を上述した評価方法により評価した。結果を表4、表6、表7に示す。
【0074】
[実施例5]
実施例4で、表層(アスファルト混合物層)がアスファルト混合物cを敷均して形成したこと以外は実施例4と同様にして、実施例5の供試体を得た。
得られた供試体を上述した評価方法により評価した。結果を表4、表6、表7に示す。
【0075】
[実施例6]
上述のようにして得られたポリアミド樹脂A1及びポリアミド樹脂B1を用いて実施例6の供試体を作製した。
すなわち、縦30cm×横30cm×厚さ12mmの鉄板にエポキシ系のプライマー(セメンダイン株式会社製、型番「EP−29」)を0.2kg/m
2塗布し、硬化する前に珪砂を2kg/m
2散布して硬化させた。
その後、防水層用材料として、ポリアミド樹脂A1を180℃に加熱したものを金属製のヘラで均しながら塗布(2.0kg/m
2)して接着防水層を形成し、常温になるまで放置した。
次に、接着防水層の上に、アスファルト混合物cを150℃の温度で敷均して8cmの厚みの基層及び表層に該当するアスファルト混合物層を形成した。
得られた供試体を上述した評価方法により評価した。結果を表4、表6、表7に示す。
【0076】
[比較例1]
まず、所定の鉄板にアスファルト溶剤系のプライマー(東亜道路工業株式会社製、型番「シビルスターS」)を0.3kg/m
2塗布して硬化させた。
その後、防水層用材料として、アスファルト塗膜系を180℃に加熱したものを金属製のヘラで均しながら塗布(1.2kg/m
2)して防水層を形成し、硬化する前に珪砂を2kg/m
2散布して常温になるまで放置した。
次に、接着防水層の上に、アスファルト混合物bを150℃の温度で敷均して4cmの厚みの基層(アスファルト混合物層)を形成した。
次に、基層の上に、PK−Mを0.4kg/m
2塗布し、タックコートを施した。
次に、タックコート上に、アスファルト混合物aを150℃の温度で敷均して4cmの厚みの表層(アスファルト混合物層)を形成した。
得られた供試体を上述した評価方法により評価した。結果を表5〜7に示す。
【0077】
[比較例2]
比較例1で、基層(アスファルト混合物層)がアスファルト混合物dを敷均して形成したこと及び表層(アスファルト混合物層)がアスファルト混合物cを敷均したこと以外は比較例1と同様にして、比較例2の供試体を得た。
得られた供試体を上述した評価方法により評価した。結果を表5〜7に示す。
【0078】
[比較例3]
まず、所定の鉄板にエポキシ系のプライマー(セメダイン株式会社製、型番EP−29)を1.4kg/m
2塗布して硬化させた。
次に、プライマー上に接着材(鹿島道路株式会社製、製品名「KSボンド」)を塗布したのち1時間以内にSFRCの打設を行った
次に、SFRC上に、PK−Mを0.4kg/m
2塗布し、タックコートを施した。
次に、タックコート上に、アスファルト混合物aを150℃の温度で敷均して4cmの厚みの表層(アスファルト混合物層)を形成した。
得られた供試体を上述した評価方法により評価した。結果を表5〜7に示す。
【0079】
[比較例4]
実施例4で、基層(アスファルト混合物層)がアスファルト混合物bを敷均して形成したこと以外は実施例4と同様にして、比較例4の供試体を得た。
得られた供試体を上述した評価方法により評価した。結果を表5、表6に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
【表6】
【0084】
【表7】
【0085】
防水層用材料にポリアミド樹脂A1(ポリアミド樹脂A)を含有し、基層(アスファルト混合物層)を形成するアスファルト混合物にポリアミド樹脂B1(ポリアミド樹脂B)を含有している実施例1〜6では、高温のせん断強度が優れていることがわかる。また、実施例4〜6は、施工時間、リサイクル性、単純曲げ試験で得られた最大応力、及び大型供試体を用いた静的載荷試験で得られた舗設前との応力比の全てにおいて優れていることがわかる。なお、実施例1〜3では、室内試験用の供試体(小型)のみを作成したので施工時間及びリサイクル性の評価を行わなかった。
防水層用材料にポリアミド樹脂A1(ポリアミド樹脂A)を含有していない比較例1及び2では、高温のせん断強度が低下することがわかる。
基層(アスファルト混合物層)を形成するアスファルト混合物にポリアミド樹脂B1(ポリアミド樹脂B)を含有していない比較例1及び4では、単純曲げ試験で得られた最大応力が低い値であった。また、比較例1では、大型供試体を用いた静的載荷試験で得られた舗設前との応力比が低かった。
SFRCの打設を行った比較例3では、施工が困難であるため施工に長時間を要し、SFRCで使用した材料がアスファルト混合物等に再利用できないので、施工時間及びリサイクル性の評価が悪かった。