特許第6841548号(P6841548)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841548
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】ゲルベアルコールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/34 20060101AFI20210301BHJP
   C07C 31/02 20060101ALI20210301BHJP
   C07C 31/125 20060101ALI20210301BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20210301BHJP
【FI】
   C07C29/34
   C07C31/02
   C07C31/125
   !C07B61/00 300
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-124369(P2017-124369)
(22)【出願日】2017年6月26日
(65)【公開番号】特開2018-21011(P2018-21011A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2020年3月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-143644(P2016-143644)
(32)【優先日】2016年7月21日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】原田 修士
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 由一
(72)【発明者】
【氏名】高田 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】十時 丈典
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第02457866(US,A)
【文献】 特表平04−502764(JP,A)
【文献】 特開昭64−034933(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105646149(CN,A)
【文献】 特開昭52−019605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程1〜工程3をこの順で有する、ゲルベアルコールの製造方法。
工程1:炭素数6以上の脂肪族アルコール、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドから選ばれる塩基、並びに共触媒を含有する液体組成物を調製する工程であって、前記脂肪族アルコールの使用量に対する溶媒の使用量が5質量%以下であり、前記共触媒として、アルミニウム、鉄、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、及び白金よりなる群から選択される金属を単独で用いるか、又はこれらを混合若しくは複合化して用いる工程
工程2:該液体組成物を100℃以上180℃以下に保持し、該液体組成物中の水分量を0.28質量%未満とする工程であって、該工程は、該液体組成物を100℃以上150℃以下の一定の温度に10分以上5時間以下維持後に180℃まで昇温する工程であり、かつ、100℃以上180℃以下に保持する時間が70分以上6.2時間以下である工程
工程3:該液体組成物を180℃超にする工程
【請求項2】
前記塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、メトキシナトリウム、及びt−ブトキシカリウムよりなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載のゲルベアルコールの製造方法。
【請求項3】
前記脂肪族アルコールが、炭素数6以上22以下の飽和脂肪族アルコールである、請求項1又は2に記載のゲルベアルコールの製造方法。
【請求項4】
前記塩基の使用量が、前記脂肪族アルコールに対して、0.3モル%以上6.0モル%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
【請求項5】
前記共触媒として、アルミニウム、鉄、銅、及びパラジウムよりなる群から選択される金属を単独で用いるか、又はこれらを混合若しくは複合化して用いる、請求項1〜4のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
【請求項6】
前記工程1において、液体組成物を調製する温度が、5℃以上100℃未満である、請求項1〜のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
【請求項7】
前記工程1において、液体組成物を調製する圧力が、常圧である、請求項1〜のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
【請求項8】
前記脂肪族アルコールが含む水分量が10質量%以下である、請求項1〜のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
【請求項9】
前記工程2において、気流下にて液体組成物を100℃以上10℃以下に保持する、請求項1〜のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
【請求項10】
前記工程2において、液体組成物を100℃以上10℃以下に保持する際の圧力が常圧である、請求項1〜のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
【請求項11】
前記工程3における液体組成物の温度が、190℃以上である、請求項1〜10のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
【請求項12】
前記工程3における反応時間が、1時間以上20時間以下である、請求項1〜11のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルベアルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲルベアルコールは、脂肪族アルコールの脱水縮合により得られる分岐アルコールである。ゲルベアルコールは、界面活性剤、繊維油剤、柔軟剤、化粧品、医薬品、潤滑油等の分野において、直接又は中間原料として用いられる有用な物質である。
ゲルベアルコールを調製する方法としては、従来、脂肪族アルコールをアルカリ金属水酸化物に代表される強塩基の存在下、200℃以上の高温で自己縮合させる方法(例えば、非特許文献1参照)が知られている。しかし、従来法では反応速度が遅く、反応効率の面で好ましくない。ゲルベ反応は、まず原料アルコールと強塩基からアルコラートを生じ、該アルコラートが触媒的に機能して、原料アルコールの脱水素によりアルデヒドを生成し、このアルデヒド二分子がアルドール縮合の後に脱水して不飽和アルデヒドを与え、次いで生成した不飽和アルデヒドが還元されてゲルベアルコールを生成する反応である。従来法で反応速度が遅い理由は、アルコラート化やアルドールの脱水により副生する水により、触媒の強塩基がアルデヒド又は不飽和アルデヒドとセッケン化して失活するためと考えられている。そのため、通常、溶媒還流下にて副生水を除去しながら反応している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−279336号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Compt.Rend.128,511(1899)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、反応終了後に溶媒を分離除去しなければならないという欠点がある。このような理由から、溶媒を使用せずにゲルベアルコールを製造する方法が望まれる。
本発明は、溶媒を使用する必要がなく、転化率及び収率の向上するゲルベアルコールの製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、脂肪族アルコールを塩基の存在下で反応させるにあたり、昇温工程においてある特定の温度範囲に保持し、水分含有量を低くすることで、前記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、下記工程1〜工程3をこの順で有するゲルベアルコールの製造方法に関する。
工程1:脂肪族アルコール及び塩基を含有する液体組成物を調製する工程
工程2:該液体組成物を100℃以上180℃以下に保持し、該液体組成物中の水分量を0.28質量%未満とする工程
工程3:該液体組成物を180℃超にする工程
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、溶媒を使用する必要がなく、転化率及び収率の向上するゲルベアルコールの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のゲルベアルコールの製造方法は、下記工程1〜工程3をこの順で有する。
工程1:脂肪族アルコール及び塩基を含有する液体組成物(以下、「反応液」ともいう。)を調製する工程
工程2:該液体組成物を100℃以上180℃以下に保持し、該液体組成物中の水分量を0.28質量%未満とする工程
工程3:該液体組成物を180℃超にする工程
【0009】
脂肪族アルコールをR−CH−CH−OHで示すと、ゲルベアルコールの生成反応は、以下のように表される。
【0010】
【化1】
【0011】
脂肪族アルコール(i)は、塩基の存在により酸化されてアルデヒド化し(ii)、該アルデヒド(ii)は、アルドール縮合により、アルデヒド体(iii)を形成し、塩基により還元されて、ゲルベアルコール(iv)が生成する。
主反応は、上記の(i)→(iv)の反応であるが、例えば塩基としてKOHを使用した場合には、反応系中の水の存在により、式(ii)や式(iii)で表されるアルデヒドがカルボン酸となり、石鹸化して、式(ii’)や式(iii’)で表される化合物となり、その結果塩基が失活するという問題がある。
【0012】
【化2】
【0013】
特許文献1に記載された発明では、反応終了後に溶媒を分離除去しなければならず、経済性及び生産性の観点から改善の余地がある。
本発明は、脂肪族アルコールを塩基の存在下で反応させるにあたり、100℃以上180℃以下における水分量を0.28質量%未満とするものである。すなわち、本発明は、180℃超の温度にて脂肪族アルコール及び塩基を用いてゲルベアルコールを製造するにあたり、昇温工程において脂肪族アルコール及び塩基を含有する液体組成物(反応液)を100℃以上180℃以下に保持し、該液体組成物中の水分量を0.28質量%未満としてから、180℃超にするものである。これにより、塩基の失活を抑制し、溶媒を使用せずに転化率及び収率が向上したゲルベアルコールの製造方法が提供できることを見出した。
上記の効果が得られる詳細な機構は不明であるが、一部は以下のように考えられる。KOH等の塩基と水の存在下で、180℃超に加熱すると、石鹸化して、塩基が失活するという問題があるが、本発明では、液体組成物を100℃以上180℃以下、好ましくは100℃以上160℃以下に保持することにより、KOH等の塩基のアルコラート化が進行し、また、該液体組成物の水分量を0.28質量%未満とすることにより、前記問題の要因となる、系内に存在するKOH等の塩基そのもの、及び系内に存在する水の量が十分に低減されるので、塩基性触媒の失活が抑制され、その結果、転化率及び収率が向上したものと推定される。
【0014】
[工程1]
工程1は、脂肪族アルコール及び塩基を含有する液体組成物を調製する工程である。液体組成物の調製は、液体組成物を構成する各成分を混合することにより行えばよく、特に限定されない。
工程1において、撹拌しながら液体組成物を調製することが好ましく、撹拌所要動力の好ましい態様は下記工程2と同様である。
工程1において、液体組成物を調製する温度は、反応装置、操作性及び製造コストの観点から、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは15℃以上、より更に好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは100℃未満、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは60℃以下、より更に好ましくは50℃以下、更に好ましくは40℃以下、より更に好ましくは30℃以下である。
工程1において、液体組成物を調製する圧力は、特に制限されるものではないが、反応装置、操作性及び製造コストの観点から、好ましくは常圧である。
以下、液体組成物を構成する各成分について説明する。
【0015】
<脂肪族アルコール>
本発明において、ゲルベアルコールの原料となる脂肪族アルコールは、飽和でも不飽和でも、直鎖でも分岐でも、環状構造を有していてもよいが、反応性の観点から、好ましくは飽和脂肪族アルコールであり、また、好ましくは直鎖脂肪族アルコールであり、より好ましくは直鎖飽和脂肪族アルコールである。脂肪族アルコールは1級アルコールでも2級アルコールでもよいが、反応性の観点から、好ましくは1級アルコール、より好ましくは1級の直鎖脂肪族アルコール、また、より好ましくは1級の飽和脂肪族アルコール、更に好ましくは炭化水素鎖の末端に水酸基を有する、1級の直鎖飽和脂肪族アルコールである。
【0016】
本発明に用いる脂肪族アルコールの炭素数は、反応性の観点から、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、そして、好ましくは22以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは16以下である。
脂肪族アルコールは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
脂肪族アルコールとしては、反応性の観点から、好ましくは1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、1−トリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール、1−ヘプタデカノール、1−オクタデカノール、1−ノナデカノール、1−イコサノール、1−ヘンイコサノール、及び1−ドコサノールから選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくは1−オクタノール、1−ノナノール、1−ドデカノール、1−トリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール、1−ヘプタデカノール、及び1−オクタデカノールから選ばれる1種又は2種以上であり、更に好ましくは1−ドデカノール、1−トリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、及び1−ヘキサデカノールから選ばれる1種又は2種以上である。
【0017】
本発明に用いる脂肪族アルコールの使用量(前記液体組成物中の脂肪族アルコールの含有量)は、生産性の観点から好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは後述の塩基並びに任意に前記液体組成物に含まれる水及び/又は溶媒の合計量の残部である。
【0018】
本発明に用いる脂肪族アルコールは水を含んでいてもよいが、脂肪族アルコールが含む水分量は、液体組成物中の水分を低減する観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下、より更に好ましくは0.01質量%以下、より更に好ましくは実質的に水を含有しない、より更に好ましくは0質量%である。
なお、実質的に水を含有しないとは、水の含有量が0.001質量%以下であることを意味する。
【0019】
<塩基>
本発明において、液体組成物は塩基を含有する。
塩基としては、無機塩基、有機塩基等が挙げられる。
無機塩基の具体例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウム等のアルカリ金属炭酸水素塩が挙げられる。これらの無機塩基はそのまま用いてもよいが、水溶液として用いることもできる。
また、有機塩基としては、メトキシナトリウム、エトキシナトリウム、t−ブトキシナトリウム、メトキシカリウム、エトキシカリウム、t−ブトキシカリウム等のアルカリ金属アルコキシド化合物、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属酢酸塩が挙げられる。
【0020】
これらの塩基の中でも、好ましくは脱水素反応及びアルドール縮合反応を推し進めることができるような、塩基性が比較的強い塩基であり、より好ましくは水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物、メトキシナトリウム、エトキシナトリウム、t−ブトキシナトリウム、メトキシカリウム、エトキシカリウム、t−ブトキシカリウム等のアルカリ金属アルコキシド化合物であり、汎用性、経済性の観点から、更に好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、メトキシナトリウム、t−ブトキシカリウムである。
【0021】
本発明に用いる塩基の使用量(前記液体組成物中の塩基の含有量)は、反応性の観点から、原料である脂肪族アルコールに対して好ましくは0.3モル%以上、より好ましくは1.0モル%以上、更に好ましくは2.0モル%以上、より更に好ましくは2.5モル%以上、より更に好ましくは2.8モル%以上であり、副反応抑制の観点から、好ましくは6.0モル%以下、より好ましくは4.5モル%以下、更に好ましくは4.0モル%以下、より更に好ましくは3.2モル%以下である。
【0022】
工程1において、操作性及び反応性の観点から、好ましくは塩基は水溶液として前記液体組成物を調製する。塩基を水溶液として用いる場合、水溶液中の塩基の濃度は、特に制限されるものではないが、操作性及び汎用性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、より更に好ましくは45質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、より更に好ましくは55質量%以下である。
【0023】
<共触媒>
本発明において、液体組成物は、更に共触媒を含有することが好ましい。共触媒を含有することにより、脂肪族アルコールの脱水素反応の進行が促進され、より転化率及び収率が向上する。
本発明において、共触媒として、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、白金等の金属(以下金属触媒ともいう)を用いることができる。これらは単独で用いても、混合又は複合化させて用いてもよい。更に、これらの金属(金属触媒)を担体に担持したもの等も用いることができる。
複合化した金属触媒としては、銅−クロマイト、銅−ニッケル、銅−ニッケル−パラジウム、銅−ニッケル−ルテニウム、銅−亜鉛、銅−亜鉛−ルテニウム、亜鉛−クロマイト、銅−鉄−アルミニウム等が例示される。
担体としては、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、ケイソウ土、カーボン、活性炭、ジルコニア、セリア、チタニア、天然及び合成ゼオライト等を用いることができる。
担体への前記金属(金属触媒)の担持量としては、担体及び金属触媒の合計に対し、反応性の観点から好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下である。
【0024】
共触媒の使用量(前記液体組成物中の共触媒の含有量)は、反応性の観点から、原料である脂肪族アルコールに対して、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.002質量%以上、更に好ましくは0.005質量%以上、より更に好ましくは0.01質量%以上であり、副反応抑制の観点から、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下、より更に好ましくは0.05質量%以下である。ここで、共触媒の使用量は、共触媒の全量を示し、例えば、金属触媒を担体に担持させたものである場合には、金属触媒と担体の合計量である。
【0025】
<水分量>
工程1で調製する液体組成物の水分量は、特に制限されるものではないが、反応性の観点から、好ましくは0.28質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.4質量%以上、より更に好ましくは0.5質量%以上、より更に好ましくは0.6質量%以上、より更に好ましくは0.7質量%以上であり、副反応抑制の観点から、好ましくは3.3質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは1.8質量%以下、より更に好ましくは1.2質量%以下である。
【0026】
<溶媒>
本発明において、液体組成物は、更に、上記脂肪族アルコール及び水以外の溶媒を含有していてもよい。
溶媒としては、上述した脂肪族アルコールと可溶であり、かつ、水に難溶性の溶媒が好ましい。ここで、脂肪族アルコールに可溶とは、25℃において、脂肪族アルコールに対する溶解度が10g/100g以上であることを意味する。本発明で使用する溶媒の脂肪族アルコールに対する溶解度は、好ましくは30g/100g以上、より好ましくは50g/100g以上、更に好ましくは100g/100g以上である。
また、水に難溶性であるとは、25℃において、水に対する溶解度が3g/100g以下であることを意味し、好ましくは1g/100g以下、より好ましくは0.1g/100g以下、更に好ましくは0.01g/100g以下である。
また、溶媒の常圧での沸点が75℃以上200℃以下の炭化水素溶媒が好ましく、水と共沸する溶媒又は原料である脂肪族アルコールの沸点と、沸点が近い溶媒が好ましい。なお、溶媒の沸点が、脂肪族アルコールの沸点と近いとは、両沸点の差の絶対値が、好ましくは20℃以下、より好ましくは10℃以下、更に好ましくは5℃以下であることを意味する。
更に、塩基に対して安定であり、かつ、原料である脂肪族アルコールとの反応性が低い溶媒であることが好ましい。
具体的には、ベンゼン、キシレン、トルエン等の芳香族系炭化水素溶媒、オクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素溶媒等が挙げられる。
【0027】
溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
溶媒の使用量(前記液体組成物中の溶媒の含有量)は、生産性の観点から、原料アルコールに対して好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、より更に好ましくは0.01質量%以下、より更に好ましくは実質的に0質量%であり、より更に好ましくは0質量%である。
【0028】
[工程2]
工程2は、工程1にて調製された液体組成物を100℃以上180℃以下に保持し、該液体組成物中の水分量を0.28質量%未満とする工程である。
<水分量>
本発明において、100℃以上180℃以下における液体組成物(反応液)中の水分量は、塩基失活抑制の観点から、0.28質量%未満、好ましくは0.25質量%以下、より好ましくは0.20質量%以下とする。100℃以上180℃以下における反応液中の水分量は実質的に0質量%であることが好ましいが、例えば、0.001質量%以上であってもよい。
工程2では、100℃以上180℃以下におけるいずれかの点において、液体組成物中の水分量が0.28質量%未満であればよいが、180℃において0.28質量%未満であることが好ましい。
なお、本発明では、効率的にゲルベアルコールを製造する観点から、工程3において液体組成物を180℃超にするが、工程2では、その直前(180℃)において、液体組成物中の水分量を0.28質量%未満としてもよい。
【0029】
<保持温度及び保持時間>
液体組成物中の水分量を0.28質量%未満とするために、該液体組成物を100℃以上180℃以下に保持する。液体組成物中の水分量を効率的に低減する観点から、好ましくは液体組成物を100℃以上180℃以下に加熱しながら保持する(加熱保持する)。
ここで、液体組成物をX℃以上Y℃以下(100≦X≦Y≦180)に保持するとは、液体組成物の温度がX℃以上になった後Y℃超になるまで、X℃以上Y℃以下の温度範囲内に保つことである。液体組成物の温度を保持する態様としては、特に制限されないが、液体組成物の温度をX℃以上Y℃以下の温度Z℃(X≦Z≦Y)まで昇温した後、一定の温度Z℃で維持し、しかる後にY℃まで昇温してもよく、液体組成物をX℃からY℃まで徐々に加熱しながら液体組成物の温度をX℃以上Y℃以下の温度範囲内にとどめてもよく、また、X℃以上Y℃以下の温度範囲内で、昇温及び降温を1回以上行ってもよい。これらの中でも、操作性の観点から、液体組成物の温度を上記温度範囲内の一定の温度で維持するか、又は液体組成物を徐々に加熱しながら液体組成物の温度をX℃以上Y℃以下にとどめることが好ましく、上記温度範囲内の一定の温度で維持することがより好ましい。なお、液体組成物の温度をX℃以上Y℃以下の温度範囲に制御するために、昇温、降温又は維持する際に、過昇温等、目的とする温度に対し温度の振れが起こることがあるが、この振れは、目的とする温度であると見做す。このような温度の振れの範囲に特に制限はないが、振れの絶対値として、好ましくは5℃以下、より好ましくは4℃以下、更に好ましくは3℃以下、より更に好ましくは2℃以下、より更に好ましくは1℃以下である。
【0030】
液体組成物を保持する温度は、液体組成物からの水分の除去を促進する観点から、100℃以上であり、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上、更に好ましくは145℃以上であり、塩基の失活を抑制する観点から180℃以下であり、好ましくは170℃以下、より好ましくは160℃以下、更に好ましく155℃以下、より更に好ましくは150℃以下である。
液体組成物を一定の温度で維持する場合、一定の温度で維持する温度は、液体組成物からの水分の除去を促進する観点から、好ましくは100℃以上であり、より好ましくは120℃以上、更に好ましくは140℃以上、より更に好ましくは145℃以上であり、塩基の失活を抑制する観点から、好ましくは180℃以下であり、より好ましくは170℃以下、更に好ましくは160℃以下、より更に好ましく155℃以下、より更に好ましくは150℃以下である。
【0031】
本発明において、100℃以上180℃以下に保持した後の水分量を0.28質量%未満とすることが好ましい。100℃以上180℃以下においてゲルベアルコールの生成反応が生じない場合には、液体組成物からの水の生成はないため、保持している間水分量は減少すると考えられる。
工程2は、100℃以上150℃以下に保持し、保持後の水分量を0.28質量%未満とする工程であることがより好ましい。
上記温度範囲に保持した後の水分量が0.28質量%以上である場合、水分量が0.28質量%未満となるまで、更に保持を行うことが好ましい。また、上記温度範囲に保持した後の水分量が前記好ましい範囲を超える場合、前記好ましい範囲内となるように、更に保持を行うことがより好ましい。
【0032】
液体組成物の温度を100℃以上180℃以下の温度範囲で保持する時間は、保持する温度範囲や下記気流の使用等によるが、液体組成物からの水分の除去を促進する観点から、好ましくは70分以上、より好ましくは90分以上、更に好ましくは110分以上であり、生産性の観点から、好ましくは6.2時間以下、より好ましくは4.2時間以下、更に好ましくは2.2時間以下である。ここで、液体組成物の温度を前記温度範囲で保持する時間とは、液体組成物の温度が前記温度範囲である時間の合計であり、温度に振れがある場合はその時間も含める。
液体組成物の温度を100℃以上180℃以下の温度範囲内の一定の温度で維持する場合、一定の温度で維持する時間は、維持する温度範囲や下記気流の使用等によるが、液体組成物からの水分の除去を促進する観点から、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上、更に好ましくは50分以上であり、生産性の観点から、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下、更に好ましくは1時間以下である。
【0033】
<その他>
工程2において、液体組成物からの水分の除去を促進するために、系外に積極的に水分を排出することが好ましい。系外に水分を排出するためには、気流下にて液体組成物を100℃以上180℃以下で保持することが好ましく、窒素気流下にて液体組成物を100℃以上180℃以下で保持することがより好ましい。
気流下にて液体組成物を100℃以上180℃以下で保持する場合、液体組成物からの水分の除去を促進する観点から、ガスの流量は、好ましくは0.00001m/sec以上、より好ましくは0.0001m/sec以上、更に好ましくは0.001m/sec以上であり、経済性の観点から好ましくは1m/sec以下、より好ましくは0.1m/sec以下である。ここで、ガスの流量は、反応槽内におけるガスの体積速度を反応槽の断面積で割った値で定義される空塔速度である。
【0034】
工程2において、液体組成物を100℃以上180℃以下で保持する際の圧力は常圧でもよいが、液体組成物中の水を系外に除去するために減圧下で行ってもよい。
反応装置、操作性、及び製造コストの観点から、液体組成物の100℃以上180℃以下での保持は常圧にて行うことが好ましい。
【0035】
工程2において、液体組成物からの水分の除去を促進する観点から、撹拌しながら液体組成物を100℃以上180℃以下で保持することが好ましく、撹拌所要動力は、好ましくは0.01kW/m以上、より好ましくは0.1kW/m以上、更に好ましくは0.3kW/m以上、より更に好ましくは0.5kW/m以上であり、機器コストの観点から好ましくは10kW/m以下、より好ましくは5kW/m以下である。ここで、撹拌所要動力は、化学工学便覧第七版338頁〜342頁に記載の永田の式により算出することができる。
【0036】
[工程3]
工程3は、工程2において180℃における水分量を0.28質量%未満とした液体組成物を、180℃超にする工程である。工程3において、2分子の脂肪族アルコールから、1分子のゲルベアルコールと1分子の水が生成する。
<液体組成物の温度>
工程3における液体組成物の温度は、原料の脂肪族アルコールの沸点を考慮して適宜決定されるが、充分な反応速度を確保し、高い反応効率を得る観点から、180℃超であり、好ましくは190℃以上、より好ましくは200℃以上、更に好ましくは220℃以上であり、副反応抑制の観点から、好ましくは290℃以下、より好ましくは270℃以下、更に好ましくは250℃以下である。
なお、高い反応効率を得る観点から、工程1及び工程2を含む、工程3より前の工程において、液体組成物の温度は、好ましくは180℃以下である。
【0037】
<液体組成物の接する気相の圧力>
工程3において、液体組成物の接する気相の圧力は、常圧でもよいが、液体組成物中の水を系外に除去するために減圧下で行ってもよい。
反応装置、操作性、及び製造コストの観点から、反応は常圧にて行うことが好ましい。
【0038】
<反応時間>
工程3における反応時間は、液体組成物の温度及び原料の脂肪族アルコール等によるが、通常1時間以上であり、生産性の観点から、好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下である。
【0039】
工程3において、反応を効率的に行う観点から撹拌しながら行うことが好ましく、撹拌所要動力の好ましい態様は、工程2と同様である。
【0040】
<反応装置>
反応装置は、好ましくは回分式であり、材質はステンレス(SUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305、SUS316、SUS317、SUS329J1、SUS403、SUS405、SUS420、SUS430、SUS430LX、SUS630)でもよく、ガラスでもよい。
【0041】
<ゲルベアルコール>
本発明のゲルベアルコールの製造方法により得られるゲルベアルコールは、飽和でも不飽和でも、1級でも2級でも、環状構造を有していてもよく、反応性の観点から、β−分岐のアルコールが好ましい。
本発明のゲルベアルコールの炭素数は、反応性の観点から、好ましくは12以上、より好ましくは16以上、更に好ましくは20以上であり、そして、好ましくは44以下、より好ましくは36以下、更に好ましくは32以下である。
【0042】
本発明において生成するゲルベアルコールとしては、例えば、2−デシル−1−テトラデカノール、2−ヘキシル−1−デカノール、2−テトラデシル−1−オクタデカノール等が挙げられる。
【0043】
本発明の方法により得られたゲルベアルコールは、必要に応じて蒸留操作等によって精製することができるが、そのまま各種用途に用いてもよい。ゲルベアルコールは、界面活性剤、繊維油剤、柔軟剤、化粧品、医薬品、潤滑油等の原料又は中間原料等として有用である。これらの用途に用いる観点から、ゲルベアルコールの純度は95質量%以上であることが好ましい。
【0044】
上述した実施の形態に関し、本発明は、更に以下のゲルベアルコールの製造方法を開示する。
<1> 下記工程1〜工程3をこの順で有する、ゲルベアルコールの製造方法。
工程1:脂肪族アルコール及び塩基を含有する液体組成物を調製する工程
工程2:該液体組成物を100℃以上180℃以下に保持し、該液体組成物中の水分量を0.28質量%未満とする工程
工程3:該液体組成物を180℃超にする工程
【0045】
<2> 前記工程1において、液体組成物を調製する温度が、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは15℃以上、より更に好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは100℃未満、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは60℃以下、より更に好ましくは50℃以下、更に好ましくは40℃以下、より更に好ましくは30℃以下である、<1>に記載のゲルベアルコールの製造方法。
<3> 前記工程1において、液体組成物を調製する圧力が、好ましくは常圧である、<1>又は<2>に記載のゲルベアルコールの製造方法。
<4> 前記脂肪族アルコールが、好ましくは1級の脂肪族アルコールであり、また、好ましくは飽和脂肪族アルコールであり、また、好ましくは直鎖脂肪族アルコールであり、より好ましくは直鎖飽和脂肪族アルコールであり、また、より好ましくは1級の直鎖脂肪族アルコールであり、また、より好ましくは1級の飽和脂肪族アルコールであり、更に好ましくは炭化水素鎖の末端に水酸基を有する1級の直鎖飽和脂肪族アルコールである、<1>〜<3>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<5> 前記脂肪族アルコールの炭素数が、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、好ましくは22以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは16以下である、<1>〜<4>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<6> 前記脂肪族アルコールが、好ましくは炭素数6以上22以下の飽和脂肪族アルコールである、<1>〜<5>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<7> 前記脂肪族アルコールを1種単独で使用するか、又は2種以上を併用する、<1>〜<6>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<8> 前記脂肪族アルコールが含む水分量が、好ましくは10質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下、より更に好ましくは0.01質量%以下、より更に好ましくは実質的に水を含有しない、より更に好ましくは0質量%である、<1>〜<7>に記載のゲルベアルコールの製造方法。
【0046】
<9> 前記塩基が、好ましくは脱水素反応及びアルドール縮合反応を推し進めることができるような塩基性が比較的強い塩基であり、より好ましくは水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、及び水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物、並びに、メトキシナトリウム、エトキシナトリウム、t−ブトキシナトリウム、メトキシカリウム、エトキシカリウム、及びt−ブトキシカリウム等のアルカリ金属アルコキシド化合物よりなる群から選択される1種以上であり、更に好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、メトキシナトリウム、及びt−ブトキシカリウムよりなる群から選択される1種以上である、<1>〜<8>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<10> 前記塩基の使用量が、脂肪族アルコールに対して、好ましくは0.3モル%以上、より好ましくは1.0モル%以上、更に好ましくは2.0モル%以上、より更に好ましくは2.5モル%以上、より更に好ましくは2.8モル%以上であり、好ましくは6.0モル%以下、より好ましくは4.5モル%以下、更に好ましくは4.0モル%以下、より更に好ましくは3.2モル%以下である、<1>〜<9>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<11> 前記工程1において、好ましくは塩基は水溶液として前記液体組成物を調製する、<1>〜<10>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<12> 前記水溶液中の塩基の濃度が、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、より更に好ましくは45質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、より更に好ましくは55質量%以下である、<11>に記載のゲルベアルコールの製造方法。
【0047】
<13> 前記液体組成物が、好ましくは更に共触媒を含有する、<1>〜<12>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<14> 前記共触媒として、好ましくはアルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、及び白金よりなる群から選択される金属(金属触媒)を単独で用いるか、又はこれらを混合若しくは複合化して用いる、<13>に記載のゲルベアルコールの製造方法。
<15> 複合化した金属触媒が、好ましくは銅−クロマイト、銅−ニッケル、銅−ニッケル−パラジウム、銅−ニッケル−ルテニウム、銅−亜鉛、銅−亜鉛−ルテニウム、亜鉛−クロマイト、銅−鉄−アルミニウムよりなる群から選択される1種以上である、<14>に記載のゲルベアルコールの製造方法。
<16> 前記共触媒が、好ましくは前記金属触媒を担体に担持したものである、<13>〜<15>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<17> 前記担体が、好ましくはシリカ、アルミナ、シリカアルミナ、ケイソウ土、カーボン、活性炭、ジルコニア、セリア、チタニア、天然及び合成ゼオライトよりなる群から選択される、<16>に記載のゲルベアルコールの製造方法。
<18> 前記担体への前記金属触媒の担持量が、担体及び金属触媒の合計に対し、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下である、<16>又は<17>に記載のゲルベアルコールの製造方法。
<19> 前記共触媒の使用量が、原料である脂肪族アルコールに対して、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.002質量%以上、更に好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上であり、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下、より更に好ましくは0.05質量%以下である、<16>〜<18>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
【0048】
<20> 前記工程1で調製する液体組成物の水分量が、好ましくは0.28質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.4質量%以上、より更に好ましくは0.5質量%以上、より更に好ましくは0.6質量%以上、より更に好ましくは0.7質量%以上であり、好ましくは3.3質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは1.8質量%以下、より更に好ましくは1.2質量%以下である、<1>〜<19>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<21> 前記工程2において、100℃以上180℃以下における液体組成物中の水分量が、0.28質量%未満、好ましくは0.25質量%以下、より好ましくは0.20質量%以下、更に好ましくは実質的に0質量%であり、例えば、0.001質量%以上であってもよい、<1>〜<20>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<22> 前記工程2において、好ましくは液体組成物をX℃以上Y℃以下(100≦X≦Y≦180)以下の一定の温度Z℃(X≦Z≦Y)で維持するか、X℃以上Y℃以下まで徐々に加熱しながらX℃以上Y℃以下にとどめておくか、又はX℃以上Y℃以下の温度範囲で昇温及び降温を1回以上行い、より好ましくは液体組成物を一定の温度Z℃で維持するか、又は液体組成物を徐々に加熱しながらX℃以上Y℃以下にとどめる、更に好ましくは液体組成物を一定の温度Z℃で維持する、<1>〜<21>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<23> 前記工程2において液体組成物を保持する温度が、100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上、更に好ましくは145℃以上であり、180℃以下、好ましくは170℃以下、より好ましくは160℃以下、更に好ましく155℃以下、より更に好ましくは150℃以下である、<1>〜<22>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<24> 前記工程2において、液体組成物の温度を100℃以上180℃以下の温度範囲で保持する時間が、好ましくは70分以上、より好ましくは90分以上、更に好ましくは110分以上であり、好ましくは6.2時間以下、より好ましくは4.2時間以下、更に好ましくは2.2時間以下である、<1>〜<23>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<25> 前記工程2において液体組成物の温度を100℃以上180℃以下の温度範囲内の一定の温度で維持する場合、一定の温度で維持する時間が、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上、更に好ましくは50分以上であり、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下、更に好ましくは1時間以下である、<1>〜<24>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
【0049】
<26> 前記工程2において、好ましくは系外に積極的に水分を排出する、より好ましくは気流下にて液体組成物を100℃以上180℃以下に保持する、更に好ましくは窒素気流下にて液体組成物を100℃以上180℃以下に保持する、<1>〜<25>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<27> 前記工程2において、気流下にて液体組成物を100℃以上180℃以下に保持し、ガスの流量が、好ましくは0.00001m/sec以上、より好ましくは0.0001m/sec以上、更に好ましくは0.001m/sec以上であり、好ましくは1m/sec以下、より好ましくは0.1m/sec以下である、<1>〜<26>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<28> 前記工程2において、液体組成物を100℃以上180℃以下に保持する際の圧力が常圧又は減圧であってよく、好ましくは常圧である、<1>〜<27>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<29> 前記工程2において、好ましくは撹拌しながら液体組成物を100℃以上180℃以下で保持し、撹拌所要動力が、好ましくは0.01kW/m以上、より好ましくは0.1kW/m以上、更に好ましくは0.3kW/m以上、より更に好ましくは0.5kW/m以上であり、好ましくは10kW/m以下、より好ましくは5kW/m以下である、<1>〜<28>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<30> 前記工程3における液体組成物の温度が、180℃超であり、好ましくは190℃以上、より好ましくは200℃以上、更に好ましくは220℃以上であり、好ましくは290℃以下、より好ましくは270℃以下、更に好ましくは250℃以下である、<1>〜<29>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
【0050】
<31> 前記工程3における液体組成物の接する気相の圧力が、常圧又は減圧であってよく、好ましくは常圧である、<1>〜<30>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<32> 前記工程3における反応時間が、1時間以上であってよい、好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下である、<1>〜<31>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<33> 前記工程3において、好ましくは液体組成物を撹拌しながら180℃超にし、撹拌所要動力は、好ましくは0.01kW/m以上、より好ましくは0.1kW/m以上、更に好ましくは0.3kW/m以上、より更に好ましくは0.5kW/m以上であり、好ましくは10kW/m以下、より好ましくは5kW/m以下である、<1>〜<32>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
【0051】
<34> 前記工程2及び工程3で使用する反応装置が、好ましくは回分式であり、材質はステンレス又はガラスでもよい、<1>〜<33>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<35> 前記ステンレスが、SUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305、SUS316、SUS317、SUS329J1、SUS403、SUS405、SUS420、SUS430、SUS430LX、及びSUS630から選ばれる、<34>に記載のゲルベアルコールの製造方法。
<36> ゲルベアルコールが、好ましくはβ−分岐のアルコールである、<1>〜<35>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<37> ゲルベアルコールの炭素数が、好ましくは12以上、より好ましくは16以上、更に好ましくは20以上であり、好ましくは44以下、より好ましくは36以下、更に好ましくは32以下である、<1>〜<36>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
【0052】
<38> 前記液体組成物が更に溶媒を含有する、<1>〜<37>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<39> 前記溶媒が脂肪族アルコールと可溶であり、かつ、水に難溶である、<38>に記載のゲルベアルコールの製造方法。
<40> 前記溶媒が、常圧での沸点が75℃以上200℃以下の炭化水素溶媒である、<38>又は<39>に記載のゲルベアルコールの製造方法。
<41> 前記溶媒が、水と共沸する溶媒、又は脂肪族アルコールの沸点と沸点が近い溶媒である、<38>〜<40>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<42> 前記溶媒が、ベンゼン、キシレン、トルエン、オクタン、及びデカンより選択される、<38>〜<41>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
<43> 前記脂肪族アルコールに対する溶媒の使用量が、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、より更に好ましくは0.01質量%以下、より更に好ましくは実質的に0質量%であり、より更に好ましくは0質量%である、<38>〜<42>のいずれかに記載のゲルベアルコールの製造方法。
【実施例】
【0053】
以下の実施例及び比較例において、特記しない限り「%」は「質量%」を意味する。
実施例1
工程1: 中管を1つと側管を4つ備えた、ガラス製の1Lの5つ口フラスコに、1−ドデカノール(花王株式会社製、品名:カルコール2098)600.0g(3.22mol)、塩基触媒として48%水酸化カリウム水溶液(関東化学株式会社製)11.3g(水酸化カリウム0.16mol/kg・1−ドデカノール、3.0モル%対1−ドデカノール)、共触媒としてCu−Fe−Al(日揮触媒化成株式会社製、品名:N2A3)0.06g(0.01質量%対1−ドデカノール)を仕込み、撹拌下、70℃/hrにて昇温を開始した。昇温開始時の温度は25℃であった。
ここで、前記5つ口フラスコの中管に撹拌翼の付いた撹拌棒が挿入されており、撹拌棒をモーターで回転させて撹拌した。また、4つの側管のうちの1つにフラスコ内の液体内に温度センサーを挿入し、もう1つの側管に窒素を通気させるための導入管を装着し、もう1つの側管は窒素と水を系外に排出するためのホースを装着し、もう1つの側管はサンプリング管を装着した。また、昇温にはマントルヒーターを用いた。
工程2: 反応液の温度が150℃に達した時点で昇温を一時中断し、窒素気流下、150℃で30分間撹拌を行うことにより反応液中の水を系外に除去した。なお、昇温を一時中断した直後は過昇温により151℃まで液温が上昇したが、その後150℃で維持した。ここで、昇温を中断し、所定の時間撹拌する温度を一定維持温度といい、所定の撹拌時間を一定維持時間という。ここでは一定維持温度150℃、一定維持時間30分である。この時反応液中の水分量を測定したところ、表1の一定温度での維持後の水分量の欄に記載した通りであった。その後、再び窒素気流下70℃/hrにて再昇温を開始し、180℃に達した時点で反応液中の水分量を測定したところ、表1の180℃時点水分量の欄に記載した通りであった。
工程3: 引続き、窒素気流下70℃/hrにて再昇温を行い、240℃に達した時点から3時間反応を行った。
なお、工程1、2及び3において、撹拌所要動力は1.2kW/mであった。また、工程2における空塔速度は、5.4×10−4m/secであった。また、工程3における空塔速度は、3.1×10−6m/secであった。
【0054】
反応溶液中の水分量はJIS K 0068:2001に準拠し、870KF Titorino plus(Metrohm社製)にて分析し、定量を行った。
【0055】
反応終了後の溶液をヘキサンにより希釈した後、ガスクロマトグラフィー〔カラム:Ultra−alloyキャピラリーカラム30.0m×250μm(Frontier Laboratories社製)、検出器:FID、インジェクション温度:300℃、ディテクター温度:300℃、He流量4.6mL/min.〕にて分析し、生成物を定量した。
その結果、得られた原料アルコールの転化率(原料アルコール転化率)とゲルベアルコールの収率(ゲルベアルコール収率)を表1に示す。
なお、原料アルコール転化率とゲルベアルコール収率は、ガスクロマトグラフィーの結果から以下の式より算出した。
原料アルコール転化率(%)=100−[残存アルコールの量(モル)/原料アルコールの仕込み量(モル)]×100
ゲルベアルコール収率(%)=[生成ゲルベアルコールの量(モル)×2/原料アルコールの仕込み量(モル)]×100
【0056】
比較例1−1
昇温を一時中断することなく行い、すなわち、一定温度での維持時間(一定維持時間)を0分とした以外は、実施例1と同様に反応を行い、原料アルコール転化率とゲルベアルコール収率を定量した。その結果を表1に示す。
【0057】
比較例1−2
一定温度での維持時間(一定維持時間)を10分とした以外は、実施例1と同様に反応を行い、原料アルコール転化率とゲルベアルコール収率を定量した。その結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
実施例2−1
工程2において一定維持温度を100℃、一定温度での維持時間(一定維持時間)を120分とし、工程3において反応時間を4時間とした以外は、実施例1と同様に反応を行い、原料アルコール転化率とゲルベアルコール収率を定量した。その結果を表2に示す。
【0060】
実施例2−2
工程2において一定維持温度を120℃とし、工程3において反応時間を4時間とした以外は、実施例1と同様に反応を行い、原料アルコール転化率とゲルベアルコール収率を定量した。その結果を表2に示す。
【0061】
実施例2−3
工程3において反応時間を4時間とした以外は、実施例1と同様に反応を行い、原料アルコール転化率とゲルベアルコール収率を定量した。その結果を表2に示す。
【0062】
実施例2−4
工程2において一定維持温度を160℃とした以外は、実施例2−3と同様に反応を行い、原料アルコール転化率とゲルベアルコール収率を定量した。その結果を表2に示す。
【0063】
実施例2−5
工程2において一定維持温度を170℃とした以外は、実施例2−3と同様に反応を行い、原料アルコール転化率とゲルベアルコール収率を定量した。その結果を表2に示す。
【0064】
比較例2−1
反応時間を4時間とした以外は、比較例1−1と同様に反応を行い、原料アルコール転化率とゲルベアルコール収率を定量した。その結果を表2に示す。
【0065】
比較例2−2
実施例2−3の工程2の代わりに、反応液の温度が200℃に達した時点で昇温を一時中断し、窒素気流下200℃で30分間撹拌した以外は、実施例2−3と同様に反応を行い、原料アルコール転化率とゲルベアルコール収率を定量した。その結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
実施例3
共触媒としてCu−Fe−Alの代わりに含水率50%の5%Pd担持カーボン(N. E. CHEMCAT製)0.60g(担体を含む触媒量0.05質量%対1−ドデカノール)を用いた以外は、実施例2−3と同様に反応を行い、原料アルコール転化率とゲルベアルコール収率を定量した。その結果を表3に示す。
【0068】
比較例3
昇温を一時中断することなく行い、すなわち、一定温度での維持時間(一定維持時間)を0分とした以外は、実施例2−3と同様に反応を行い、原料アルコール転化率とゲルベアルコール収率を定量した。その結果を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
なお、実施例3では、共触媒の反応性が高く、150℃での維持中又は150℃以上180℃以下への昇温時において、反応が僅かながらも進行し、水が生成したために、一定温度での維持後の水分量に比べ、180℃時点での水分量が増えたものと推定される。このような場合であっても、100℃以上180℃以下のいずれかの点において、液体組成物の水分量を0.28質量%未満とすることによって、原料アルコール転化率及びゲルベアルコール収率を向上させることができる。本発明において、180℃における水分量を0.28質量%未満とすることが好ましい。
【0071】
実施例4
実施例1と同じ装置を用いて、1−オクタノール(花王株式会社製、品名:カルコール0898)600.0g(4.61mol)、塩基触媒として48%水酸化カリウム水溶液(関東化学株式会社製)16.2g(水酸化カリウム0.23mol/kg・1−オクタノール、3.0モル%対1−オクタノール)、共触媒としてCu−Fe−Al(日揮触媒化成株式会社製、品名:N2A3)0.30g(0.05質量%対1−ドデカノール)を仕込み、工程2において一定温度での維持時間(一定維持時間)を60分とした以外は、実施例2−3と同様に反応を行い、原料アルコール転化率とゲルベアルコール収率を定量した。その結果を表4に示す。
【0072】
比較例4
昇温を一時中断することなく行い、すなわち、一定温度での維持時間(一定維持時間)を0分とした以外は、実施例4と同様に反応を行い、原料アルコール転化率とゲルベアルコール収率を定量した。その結果を表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
実施例5
実施例1と同じ装置を用いて、1−ヘキサデカノール(花王株式会社製、品名:カルコール6098)600.0g(2.47mol)、塩基触媒として48%水酸化カリウム水溶液(関東化学株式会社製)8.7g(0.12mol/kg・1−ヘキサデカノール、3.0モル%対1−ヘキサデカノール)、共触媒としてCu−Fe−Al(日揮触媒化成株式会社製、品名:N2A3)0.30g(0.05質量%対1−ドデカノール)を仕込み、工程2において一定温度での維持時間(一定維持時間)を60分とした以外は、実施例2−3と同様に反応を行い、原料アルコール転化率とゲルベアルコール収率を定量した。その結果を表5に示す。
【0075】
比較例5
昇温を一時中断することなく行い、すなわち、一定温度での維持時間(一定維持時間)を0分とした以外は、実施例5と同様に反応を行い、原料アルコール転化率とゲルベアルコール収率を定量した。その結果を表5に示す。
【0076】
【表5】
【0077】
実施例6
工程2において、100℃から150℃までは25℃/hで、150℃から180℃までは70℃/hで昇温した以外は、実施例1と同様に反応を行い、原料アルコール転化率とゲルベアルコール収率を定量した。その結果を表6に示す。
【0078】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のゲルベアルコールの製造方法は、溶媒を使用する必要がなく、転化率及び収率が向上している。本発明により得られたゲルベアルコールは、界面活性剤、繊維油剤、柔軟剤、化粧品、医薬品、潤滑油等の原料又は中間原料等に好適に使用される。