特許第6841595号(P6841595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841595
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】減速機用潤滑剤組成物及び減速機
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/06 20060101AFI20210301BHJP
   C10M 169/00 20060101ALI20210301BHJP
   F16H 1/32 20060101ALI20210301BHJP
   C10M 143/04 20060101ALN20210301BHJP
   C10M 135/10 20060101ALN20210301BHJP
   C10M 143/18 20060101ALN20210301BHJP
   C10M 159/24 20060101ALN20210301BHJP
   C10M 159/20 20060101ALN20210301BHJP
   C10M 117/00 20060101ALN20210301BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20210301BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20210301BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20210301BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20210301BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20210301BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20210301BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20210301BHJP
【FI】
   C10M169/06
   C10M169/00
   F16H1/32 A
   !C10M143/04
   !C10M135/10
   !C10M143/18
   !C10M159/24
   !C10M159/20
   !C10M117/00
   !C10M107/02
   C10N10:02
   C10N10:04
   C10N20:02
   C10N30:00 Z
   C10N40:04
   C10N50:10
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-255180(P2015-255180)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-115104(P2017-115104A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100170944
【弁理士】
【氏名又は名称】岩澤 朋之
(72)【発明者】
【氏名】今井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】市村 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 綾佑
(72)【発明者】
【氏名】谷村 公
(72)【発明者】
【氏名】王 宏▲猷▼
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 隆秀
(72)【発明者】
【氏名】服部 泰幸
【審査官】 宮地 慧
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−339411(JP,A)
【文献】 特開2004−231714(JP,A)
【文献】 特開2004−345595(JP,A)
【文献】 特開2008−265701(JP,A)
【文献】 特開2008−106204(JP,A)
【文献】 特開2008−274141(JP,A)
【文献】 特開平09−194867(JP,A)
【文献】 特開2008−115304(JP,A)
【文献】 特開2006−077980(JP,A)
【文献】 特開昭62−004586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10B
F16H
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(a)〜(c)を含有することを特徴とする偏心揺動式遊星歯車タイプの減速機用潤滑剤組成物:
(a)合成油を含む基油、
(b)エチレンプロピレン共重合ワックス及びポリプロピレンワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種である炭化水素系ワックス、
(c)石油スルホン酸のカルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩、酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、及び酸化ワックスの過塩基性カルシウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のカルシウム塩、及び
(d)リチウム石けん系増ちょう剤
【請求項2】
(b)炭化水素系ワックスが、ポリプロピレンワックスからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1記載の減速機用潤滑剤組成物。
【請求項3】
下記の成分(a)〜(c)を含有することを特徴とする、ロボットの関節部に取り付けられる偏心揺動式遊星歯車タイプの減速機用潤滑剤組成物:
(a)合成油を含む基油、
(b)炭化水素系ワックス、
(c)石油スルホン酸のカルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩、酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、及び酸化ワックスの過塩基性カルシウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のカルシウム塩、及び
(d)リチウム石けん系増ちょう剤
【請求項4】
(b)炭化水素系ワックスが、ポリエチレンワックス、エチレンプロピレン共重合ワックス及びポリプロピレンワックスからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項3記載の減速機用潤滑剤組成物。
【請求項5】
全組成物中、(b)炭化水素系ワックスの含有量が0.1〜20質量%である、請求項1〜4のいずれか1項記載の減速機用潤滑剤組成物。
【請求項6】
基油中の合成油の含有量が10〜50質量%である、請求項1〜5のいずれか1項記載の減速機用潤滑剤組成物。
【請求項7】
(a)基油中の合成油が、合成炭化水素油である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の減速機用潤滑剤組成物。
【請求項8】
(a)基油の40℃における動粘度が、20〜300mm2/sである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の減速機用潤滑剤組成物。
【請求項9】
(c)カルシウム塩が、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩及びアルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の減速機用潤滑剤組成物。
【請求項10】
b)炭化水素系ワックスが、170℃における溶融粘度が9000〜10000mPa・sである低密度ポリプロピレンワックスである、請求項1〜9のいずれか1項記載の減速機用潤滑剤組成物
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の減速機用潤滑剤組成物を封入した、偏心揺動式遊星歯車タイプの減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動式遊星歯車タイプの減速機に用いられる潤滑剤組成物、及びこれを用いた偏心揺動式遊星歯車タイプの減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
減速機は内部が複数の滑り部分と転がり部分で構成されており、入力側にトルクを加えると減速して出力側に高いトルクが伝達される。このような減速機は、鉄道、航空、船舶等の輸送分野の他、ロボット等の産業分野で幅広く利用されている。
減速機の性能の一つとして、出力側トルクは長期間一定で変動がないことが求められる。特に、ロボットの関節部に取り付けられる減速機(例えば、特許文献1に記載の偏心揺動式減速機)においては、精密な動作を可能とする点から、出力側トルクの変動をできる限り抑制することが求められる。しかし、減速機の作動後の内部部品の形状変化、例えば、鋼対鋼の摺動における金属接触部の損傷の発生等により、出力側トルクの変動が大きくなるという問題がある。この問題は、特に高温下で顕著になり、高温になると減速機の寿命が短くなる。
減速機用潤滑剤組成物として、内部摩擦低減効果が高く、減速機効率向上効果が高いモリブデンジチオカーバメートにカルシウム塩を配合した潤滑油、又はグリースが提案されている(例えば、特許文献2)。しかし、モリブデンジチオカーバメート及びカルシウム塩を含む潤滑剤組成物は、高温下の減速機の寿命を改善する点では十分ではない。
また、減速機の使用環境の拡大に伴い、減速機が、寒冷地等においても使用できることが求められる。寒冷地等では、冬場のような低温下において、入力側トルク(起動トルク)が増大し、減速機の起動効率が低くなる。従って、高温下の耐久性に加え、低温下の入力トルクが低減された、減速機用潤滑剤組成物の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−077980
【特許文献2】特開2004−339411
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、高温下の寿命が長く、かつ低温下の入力トルクが低い、偏心揺動式遊星歯車タイプの減速機用潤滑剤組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、高温下の寿命が長く、かつ低温下の入力トルクが低い、偏心揺動式遊星歯車タイプの減速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、以下を提供する。
1.下記の成分(a)〜(c)を含有することを特徴とする偏心揺動式遊星歯車タイプの減速機用潤滑剤組成物:
(a)合成油を含む基油、
(b)炭化水素系ワックス、並びに
(c)石油スルホン酸のカルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩、酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、及び酸化ワックスの過塩基性カルシウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のカルシウム塩。
2.(b)炭化水素系ワックスが、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスからなる群から選ばれる少なくとも一種である、1.記載の減速機用潤滑剤組成物。
3.全組成物中、(b)炭化水素系ワックスの含有量が0.1〜20質量%である、1.又は2.記載の減速機用潤滑剤組成物。
4.(a)基油中の合成油が、合成炭化水素油である、1.〜3.のいずれか1項に記載の減速機用潤滑剤組成物。
5.(a)基油の40℃における動粘度が、20〜300mm2/sである、1.〜4.のいずれか1項に記載の減速機用潤滑剤組成物。
6.(c)カルシウム塩が、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩及びアルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩である、1.〜5.のいずれか1項に記載の減速機用潤滑剤組成物。
7.1.〜6.のいずれか1項に記載の減速機用潤滑剤組成物を封入した、偏心揺動式遊星歯車タイプの減速機。
【発明の効果】
【0006】
本発明の減速機用潤滑剤組成物は、従来の減速機用潤滑剤組成物と比較して、高温下の減速機の寿命を改善することができる。従って、これを封入した本発明の減速機は高温下でも寿命が長い。また、本発明の減速機用潤滑剤組成物は、低温下の入力トルク増大を抑制することができる。従って、これを封入した本発明の減速機は寒冷地等においても好適に使用することができる。さらに、本発明の減速機用潤滑剤組成物は、減速機の起動効率を増大することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<基油>
本発明に使用する(a)基油は、合成油を必須成分とするが、鉱油等の他の基油を更に含んでもよい。合成油としては、合成炭化水素油、エステル油、フェニルエーテル、ポリグリコールなど、通常潤滑剤組成物で使用されている合成油がいずれも使用できる。合成油は、一種類を単独で用いてよく、二種類以上を併用してもよい。好ましい合成油は、合成炭化水素油である。合成炭化水素油としては、具体的には、α−オレフィンを1種または2種以上混合して重合したものが挙げられる。α−オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、これらの誘導体などを原料として製造されたα−オレフィンが挙げられ、好ましくは、炭素数6〜18のα−オレフィン(例えば、1−デセン、1−ドデセンなど)が挙げられる。最も好ましい合成炭化水素油は、1−デセンや1−ドデセンのオリゴマーである、ポリ−α−オレフィン(PAO)である。
基油としては、合成炭化水素油(例えば、PAO)を含む基油であるのが好ましく、合成炭化水素油(例えば、PAO)と鉱油の組み合わせがより好ましい。
基油中の合成油(例えば、PAOなどの合成炭化水素油)の割合は、10〜100質量%であることが好ましく、10〜50質量%(例えば、10〜20質量%)であることがより好ましい。10質量%を下回ると、低温下の入力トルク上昇が懸念される。
潤滑剤組成物中の基油の割合は、50〜99質量%であることが好ましく、70〜95質量%であることがより好ましい。
本発明に使用する基油の40℃における動粘度は、例えば、20〜300mm2/s、好ましくは30〜220mm2/s(例えば、40〜200mm2/s)、より好ましくは50〜150mm2/s(特に、60〜100mm2/s)である。20mm2/sを下回ると、高温下の寿命が不十分となる傾向があり、また300mm2/sを超えると低温時の起動に不具合が生じる傾向がある。なお、40℃の動粘度は、JIS K 2283に準拠した方法により測定される。
【0008】
<炭化水素系ワックス>
本発明に使用する(b)炭化水素系ワックスとしては、特に限定はされないが、例えば、ポリオレフィンワックス(ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エチレン−プロピレン共重合ワックスなど)、モンタンワックス、及びアマイドワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。
炭化水素系ワックスの中でも、ポリオレフィンワックスが好ましい。ポリオレフィンワックスの重量平均分子量は、特に限定はなく、例えば、1,000〜20,000程度である。また、ポリオレフィンワックスの溶融粘度は、特に限定はなく、例えば、140℃において、25000〜30000mPa・sであってもよく、170℃において、9000〜10000mPa・sであってもよい。さらに、ポリオレフィンワックスの密度についても、特に限定はなく、高密度(例えば、0.96g/cm3以上)、中密度(例えば、0.94〜0.95g/cm3)、及び低密度(例えば、0.93g/cm3以下)のいずれであってもよい。高密度であれば、融点や軟化点、結晶化度が高く、硬度が大きいという特徴があり、低密度であれば、融点や軟化点が低く、軟質であるという特徴がある。ポリオレフィンワックスは、耐熱性の観点から、滴点は100℃以上であるのが好ましく、110℃以上であるのがより好ましく、基油への溶解性の観点からは、滴点は150℃以下であるのが好ましく、135℃以下であるのがより好ましい。また、ポリオレフィンワックスの酸価は、0〜10mgKOH/gであるのが好ましく、0〜5mgKOH/gであるのがより好ましい。酸価がこのような範囲にあると、酸成分による潤滑剤組成物への酸化劣化の影響が少ないので好ましい。
ポリオレフィンワックスの中でも、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、及びエチレン−プロピレン共重合ワックスからなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましく、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスからなる群から選ばれる少なくとも一種がより好ましい。
ポリエチレンワックスの市販品としては、クラリアントジャパン株式会社製のLicowax PE520、PE190、PE130等が挙げられ、ポリプロピレンワックスの市販品としては、クラリアントジャパン株式会社製のLicosen PP 7502、PP 3602、Ceridust 6050 M、三井化学株式会社製のハイワックスNP105、NP500等が挙げられる。
最も好ましい炭化水素系ワックスは、ポリプロピレンワックスである。
潤滑剤組成物中の炭化水素系ワックスの割合は、例えば、0.1〜20質量%、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%、さらに好ましくは1〜5質量%である。
【0009】
<カルシウム塩>
本発明に使用する(c)カルシウム塩は、石油スルホン酸のカルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩、酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、及び酸化ワックスの過塩基性カルシウム塩からなる群から選択される少なくとも1種である。
なお、本明細書において、「Xの過塩基性カルシウム塩」とは、JIS K 2501に準拠して測定される塩基価が200mgKOH/g以上である、Xのカルシウム塩を意味する。また、単に「Xのカルシウム塩」と記載した場合、該「Xのカルシウム塩」は、過塩基性カルシウム塩以外のカルシウム塩(中性又は塩基性カルシウム塩)、即ち、JIS K 2501に準拠して測定される塩基価が200mgKOH/g未満である、Xのカルシウム塩を意味する。
カルシウム塩としては、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩及びアルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましく、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩及びアルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩の組み合わせがより好ましい。前記組み合わせ中、アルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩の割合は、例えば、50〜99質量%、好ましくは60〜90質量%、より好ましくは65〜80質量%である。前記組み合わせにより、高温下の耐久性は更に向上する。
潤滑剤組成物中のカルシウム塩の割合は、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.5〜10質量%(例えば、1〜5質量%)である。0.1質量%未満では高温下の寿命が不十分となる傾向にあり、また20質量%を超えると添加量に見合う効果が不十分となる傾向にある。
【0010】
<増ちょう剤>
本発明の潤滑剤組成物は、(d)増ちょう剤を含んでいてもよい。増ちょう剤としては、全ての増ちょう剤が挙げられる。例えば、リチウム石けんや複合リチウム石けんに代表される石けん系増ちょう剤、ジウレアに代表されるウレア系増ちょう剤、有機化クレイやシリカに代表される無機系増ちょう剤、PTFEに代表される有機系増ちょう剤などが挙げられるが、好ましいものはリチウム石けん系増ちょう剤やウレア系増ちょう剤であり、より好ましいものはリチウム石けん系増ちょう剤である。
潤滑剤組成物中の増ちょう剤の割合は、好ましくは0〜20質量%(例えば、1〜15質量%)、さらに好ましくは0.5〜10質量%(例えば、0.5〜3質量%)である。0.5質量%未満では増ちょう効果がなくなり、20質量%を超えると潤滑剤組成物が硬くなりすぎ、潤滑部への流入が無くなり充分な効果を得るのが困難になる傾向がある。
潤滑剤組成物が増ちょう剤を含む場合、潤滑剤組成物のちょう度は、300〜450(例えば、350〜410)が好ましく、395〜425がより好ましい。なお、ちょう度は、JIS K 2220に定義されるとおり、試料を規定の混和器で60往復混和した直後に測定される値である。
【0011】
本発明の潤滑剤組成物には、必要に応じて、他の任意の添加剤を配合することができる。任意の添加剤としては、例えば、(c)カルシウム塩以外の防錆剤又は清浄分散剤、極圧剤、酸化防止剤、金属腐食防止剤、油性剤、耐摩耗剤、固体潤滑剤などが挙げられる。これらの中でも、(e)極圧剤が好ましい。
【0012】
<極圧剤>
本発明に任意に使用される(e)極圧剤としては、特に制限はなく、例えば、チオリン酸塩及びチオカルバミン酸から選ばれる少なくとも一種が使用できる。チオリン酸塩としては、ジチオリン酸塩が挙げられ、好ましくは、ジチオリン酸(例えば、ジアルキルジチオリン酸)の亜鉛塩又はモリブデン塩である。また、チオカルバミン酸としては、ジチオカルバミン酸塩が挙げられ、好ましくは、ジチオカルバミン酸(例えば、ジアルキルジチオカルバミン酸)の亜鉛塩又はモリブデン塩である。
好ましい極圧剤は、ジチオカルバミン酸モリブデン及びジチオリン酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、より好ましい極圧剤は、ジチオカルバミン酸モリブデン(特に、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン)とジチオリン酸亜鉛(特に、ジアルキルジチオリン酸亜鉛)の組み合わせである。前記組み合わせにおけるジチオカルバミン酸モリブデンの割合は、50〜99質量%であるのが好ましく、55〜90質量%であるのがより好ましい。
潤滑剤組成物中の極圧剤の割合は、0〜1.5質量%であることが好ましく、0.5〜1質量%であることがより好ましい。1.5質量%を超えると、添加剤の析出による減速機の振動等の発生確率が上昇する。
【0013】
本発明の潤滑剤組成物の好ましい態様の一つとして、以下の態様が挙げられる。
下記の成分(a)〜(e)を含む、偏心揺動式遊星歯車タイプの減速機用潤滑剤組成物:
(a)合成炭化水素油を含む基油、
(b)ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスからなる群から選ばれる少なくとも一種、
(c)アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩及びアルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一種、
(d)リチウム石けん系増ちょう剤、並びに
(e)ジチオカルバミン酸モリブデン及びジチオリン酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも一種。
【0014】
本発明の潤滑剤組成物は、偏心揺動式遊星歯車タイプの減速機に利用できる。特に、高温下の耐久性を有し、出力側トルクの変動を防止できる点から、ロボットの関節部に取り付けられる偏心揺動式遊星歯車タイプの減速機に利用するのが好ましい。前記減速機の代表例としては、第1段減速機構および第2段減速機構を含む減速機であって、該第1段減速機構がモータからの回転を減速して前記第2段減速機構へ伝達する減速機であり、該第2段減速機構が内歯歯車体、該内歯歯車体に噛み合う外歯歯車体、該外歯歯車体に係合し該外歯歯車体を前記内歯歯車体に対して偏心揺動運動させるクランク軸、及び該クランク軸を回転自在に支持する支持体を有し前記内歯歯車体または前記支持体から出力が取り出される偏心揺動式減速機が挙げられる。
【実施例】
【0015】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0016】
実施例1〜4及び比較例5〜7
表1に示す成分を表1に示す割合で混合し、実施例1〜4及び比較例5〜7の潤滑剤組成物を調製した。これらの潤滑剤組成物について、基油の動粘度及び混和ちょう度は、以下の方法により測定した。
【0017】
[基油の動粘度]
基油の動粘度は、JIS K 2220 23に準拠して、温度40℃で測定した。
【0018】
[混和ちょう度]
混和ちょう度は、JIS K 2220 7に定義されるとおり、試料を規定の混和器で60往復混和した直後に測定した。
【0019】
また、潤滑剤組成物を、偏心揺動式遊星歯車タイプの減速機(ナブテスコ株式会社製、RV-42N3-127.15)に潤滑剤組成物を封入し、寿命試験、低温下のトルク測定試験、起動効率試験を行った。
【0020】
[寿命試験]
作製した潤滑剤組成物について、下記の試験条件で試験を行い、内部部品が破損するまでの時間を測定した。
<試験条件>
試験温度:60℃
負荷トルク及び出力回転数は任意に設定し、ベアリングの寿命換算式に従って寿命計算を行った。
高温耐久性は、相対寿命比(比較例6の寿命時間を1としたときの相対寿命時間比)を算出し、下記の合否判定に基づいて評価した。
<合否判定>
相対寿命比が3.0以上 ◎(合格)
相対寿命比が2.5以上3.0未満 ○(合格)
相対寿命比が2.5未満 ×(不合格)
【0021】
[低温下のトルク測定試験]
作製した潤滑剤組成物について、下記の試験条件で試験を行い、減速機を無負荷で回すために必要な入力軸のトルクを読み取ることにより、低温下の入力トルクを測定した。
<試験条件>
試験温度:−10℃
負荷トルク[ラジアル方向(軸方向に垂直な方向)の荷重]:無負荷
出力回転数:15.7rpm
低温性は、相対トルク比(比較例5のトルクを1としたときの相対トルク比)を算出し、下記の合否判定に基づいて評価した。
<合否判定>
相対トルク比が0.4(−10℃)以下 ○(合格)
相対トルク比が0.4(−10℃)を超える ×(不合格)
【0022】
[起動効率試験]
作製した潤滑剤組成物について、下記の試験条件で試験を行い、起動効率(入力軸のトルクに対して100%出力した場合の出力トルク(理論値)を100としたときの実際の出力トルク)を測定した。
<試験条件>
試験温度:25℃
負荷トルク[ラジアル方向(軸方向に垂直な方向)の荷重]:42kgf−m
起動効率は、相対効率比(比較例6の効率を1としたときの相対効率比)を算出し、下記の基準に基づいて評価した。
<合否判定>
相対効率が1.4以上 ◎(合格)
相対効率が1.2以上1.4未満 〇(合格)
相対効率が1.2未満 ×(不合格)
【0023】
<総合判定>
高温耐久性、低温性、起動効率のいずれも合格 ○(合格)
いずれか1つでも不合格 ×(不合格)
【0024】
作製した潤滑剤組成物についての結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
表1における(b)炭化水素系ワックス、(c)カルシウム塩、(d)増ちょう剤、(e)極圧剤の詳細は、以下のとおりである。
(炭化水素系ワックス)
ポリエチレンワックス:溶融粘度約25000mPa・s(140℃)、密度0.96g/cm3、滴点135℃
ポリプロピレンワックス溶融粘度約9000mPa・s(170℃)、密度0.90g/cm3、滴点112℃
(カルシウム塩)
CaスルホネートA(過塩基性):アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩(The Lubrizol Corporation製、商品名:LUBRIZOL 5283C、塩基価:375mgKOH/g)
CaスルホネートB(中性):アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩(KING INDUSTRIES製、商品名:NA−SUL729、塩基価1mgKOH/g以下)
(増ちょう剤)
Li石けん系増ちょう剤:12−ヒドロキシステアリン酸と水酸化リチウム水溶液を基油中で反応させ、その後225℃まで加熱後100℃以下まで冷却して得られたLiヒドロキシステアレート。
(極圧剤)
MoDTC:ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、ADEKA製、商品名アデカサクラルーブ515
ZnDTP:ジアルキルジチオリン酸亜鉛、インフィニアムジャパン株式会社製、商品名INFINEUM C9421
【0027】
表1に示すように、本発明の実施例1〜4の潤滑剤組成物は、基油に合成炭化水素油を含まない比較例5に比べて、低温性が良好であることが分かる。また、本発明の実施例1〜4の潤滑剤組成物は、添加剤に炭化水素系ワックスを含まない比較例6、Caスルホネートを含まない比較例7に比べて、高温耐久性及び起動効率が良好であることが分かる。
CaスルホネートBを更に含む実施例3及びCaスルホネートBとジアルキルジリオリン酸亜鉛を更に含む実施例4は、高温耐久性及び起動効率が更に良好であることが分かる。