特許第6841604号(P6841604)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社の特許一覧

特許6841604水性樹脂分散体、水性樹脂分散体の製造方法、親水化処理剤、親水化処理方法、金属材料及び熱交換器
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841604
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】水性樹脂分散体、水性樹脂分散体の製造方法、親水化処理剤、親水化処理方法、金属材料及び熱交換器
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20210301BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20210301BHJP
   C08L 39/06 20060101ALI20210301BHJP
   C08L 39/02 20060101ALI20210301BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20210301BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20210301BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20210301BHJP
   C09D 123/08 20060101ALI20210301BHJP
   C09D 201/08 20060101ALI20210301BHJP
   C09D 201/02 20060101ALI20210301BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20210301BHJP
   C09D 201/06 20060101ALI20210301BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20210301BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20210301BHJP
   C09D 129/04 20060101ALI20210301BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20210301BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20210301BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   C08L29/04 C
   C08L33/02
   C08L39/06
   C08L39/02
   C08L71/02
   C08F2/44 C
   C08F290/06
   C09D123/08
   C09D201/08
   C09D201/02
   C09D5/02
   C09D201/06
   C09D7/40
   C09D5/08
   C09D129/04
   C09K3/18
   B05D5/00 Z
   B05D7/24 301F
   B05D7/24 302F
【請求項の数】13
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-112167(P2016-112167)
(22)【出願日】2016年6月3日
(65)【公開番号】特開2016-222920(P2016-222920A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2019年5月27日
(31)【優先権主張番号】特願2015-113524(P2015-113524)
(32)【優先日】2015年6月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】梅田 真紗子
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 宏一
(72)【発明者】
【氏名】内川 美和
(72)【発明者】
【氏名】和田 優子
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃宏
(72)【発明者】
【氏名】金子 宗平
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−219974(JP,A)
【文献】 特開2006−124616(JP,A)
【文献】 特開2001−040231(JP,A)
【文献】 特開2008−297523(JP,A)
【文献】 特表2013−511587(JP,A)
【文献】 特開2013−043944(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/126511(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/057351(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/025058(WO,A1)
【文献】 特開2002−212487(JP,A)
【文献】 特開平11−193340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C09D
C09K
B05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と、
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を含む溶解液中で(共)重合反応させて得られ、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(B1−1)由来の構造単位を有するラジカル重合体(B)と、を含み、
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)中におけるエチレン構造単位の含有量は24〜44モル%であり、
前記ラジカル重合体(B)の含有量は、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と前記ラジカル重合体(B)の合計量に対して10〜80質量%である水性樹脂分散体。
【請求項2】
前記ラジカル重合体(B)は、ラジカル重合性スルホン酸モノマー(B1−2)由来の構造単位をさらに有する請求項1記載の水性樹脂分散体。
【請求項3】
前記ラジカル重合体(B)は、下記式(a)で表されるラジカル重合性モノマー、(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド及びN−ビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも1種のラジカル重合性モノマー(B2−1)由来の構造単位をさらに有する請求項1又は2記載の水性樹脂分散体。
[化1]

CH=C(R)CO−(OCHCH−OR … 式(a)

[式(a)中、Rは、H又はCH、Rは、H又はCH、mは、1〜200の整数である。]
【請求項4】
前記ラジカル重合体(B)は、ラジカル重合性水酸基含有モノマー、ラジカル重合性アミド基含有モノマー、ラジカル重合性シリル基含有モノマー、ラジカル重合性エポキシ基含有モノマー、ラジカル重合性エステル基含有モノマー及びビニル基含有モノマーからなる群より選ばれる少なくとも1種のラジカル重合性モノマー(B2−2)由来の構造単位をさらに有する請求項3記載の水性樹脂分散体。
【請求項5】
前記ラジカル重合体(B)は、前記ラジカル重合性カルボン酸モノマー(B1−1)を必須成分とし且つ前記ラジカル重合性スルホン酸モノマー(B1−2)を任意成分とする第1モノマー群と、前記ラジカル重合性モノマー(B2−1)を必須成分とし且つ前記ラジカル重合性モノマー(B2−2)を任意成分とする第2モノマー群の共重合体であるか、又は、前記第1モノマー群の共重合体と、前記第2モノマー群の共重合体との混合物である請求項4記載の水性樹脂分散体。
【請求項6】
下記式(b)で表される構造を有する化合物、ポリビニルピロリドン構造を有する化合物及びポリ−N−ビニルホルムアミド構造を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の親水性化合物(C)をさらに含み、
前記ラジカル重合体(B)及び前記親水性化合物(C)の合計含有量は、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、前記ラジカル重合体(B)及び前記親水性化合物(C)の合計量に対して10〜80質量%である請求項1から5いずれか記載の水性樹脂分散体。
[化2]

O(CHCHO)− … 式(b)

[式(b)中、Rは、H又はCH−、nは、2〜100,000の整数である。]
【請求項7】
請求項6記載の水性樹脂分散体(D)の製造方法であって、
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)及び必要に応じて前記親水性化合物(C)を含む溶解液中で(共)重合反応を行うことで、前記ラジカル重合体(B)を得る工程を含む水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項8】
請求項1から6いずれか記載の水性粒子分散体(D)を含む親水化処理剤。
【請求項9】
親水性樹脂(E)及び架橋剤(F)のうち少なくとも一方をさらに含み、
前記親水性樹脂(E)及び架橋剤(F)の合計含有量は、前記水性樹脂分散体(D)及び前記親水性樹脂(E)及び架橋剤(F)の合計量に対して70質量%以下であって、前記架橋剤(F)の含有量が前記水性樹脂分散体(D)、前記親水性樹脂(E)及び前記架橋剤(F)の合計量に対して30質量%以下である請求項記載の親水化処理剤。
【請求項10】
Zr,V,Ti,Cr,Ce,Nb及びP群から選ばれる少なくとも1種以上を含有する防錆材料(G)をさらに含み、
前記防錆材料(G)の含有量は、前記水性樹脂分散体(D)、前記親水性樹脂(E)及び前記架橋剤(F)の合計含有量に対し30質量%以下である、請求項記載の親水化処理剤。
【請求項11】
請求項から10いずれか記載の親水化処理剤から親水性皮膜を得る親水化処理方法であって、以下の(I)〜(V)のいずれかの工程を経て、親水性皮膜を得る親水処理方法。
(I)基材に対して化成処理剤を浸漬させ、水洗した後、前記親水化処理剤を当該基材に塗布し、当該親水化処理剤を乾燥する工程、
(II)基材に対して前記親水化処理剤を塗布し、当該親水化処理剤を乾燥させた後、さらに前記以外の親水化処理剤を当該基材に塗布し乾燥する工程、
(III)基材に対してプライマーを付着し、当該プライマーを乾燥させた後、前記親水化処理剤を当該基材に塗布し、当該親水化処理剤を乾燥する工程、
(IV)基材に対して前記親水化処理剤を塗布し、当該親水化処理剤を乾燥する工程、若しくは
(V)基材に対して化成処理剤を浸漬し、さらにプライマーを付着させ、当該プライマーを乾燥させた後、前記親水化処理剤を当該基材に塗布し、当該親水化処理剤を乾燥する工程。
【請求項12】
請求項から10いずれか記載の親水化処理剤を表面に付着させ、これを乾燥することによって親水性皮膜が形成される金属材料。
【請求項13】
請求項から10いずれか記載の親水化処理剤を表面に付着させ、これを乾燥することによって親水性皮膜が形成される熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂分散体、該水性樹脂分散体の製造方法、該水性樹脂分散体を含む親水化処理剤、該親水化処理剤を用いた親水化処理方法、親水性皮膜を形成した金属材料及び親水性皮膜を形成した熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」という。)は、透明性、ガスバリア性、耐溶剤性、耐油性、機械的強度等に優れているため、包装材料素材やプラスチック成型物、金属表面、紙、木材等の保護皮膜形成材料として有用である。
【0003】
EVOH皮膜を形成する方法としては、溶融押出、射出成型、EVOHフィルムをラミネートする方法が広く用いられている他、EVOH溶液を塗布して乾燥させる方法が知られている。このEVOH溶液を塗布する方法によれば、薄膜が容易に得られ、複雑な形状の基材表面にも薄膜を形成することができる。
【0004】
しかしながら、EVOH溶液を塗布する方法では、溶解度の関係で高濃度でのEVOH溶液の使用が困難である。また、皮膜形成過程において、有機溶剤の揮散により作業環境が悪化するうえ、有機溶剤の回収装置が必要になる等、安全性及び経済性の観点から課題がある。
【0005】
そこで、EVOHを水性分散体とし、EVOHの水性分散体を塗布する技術が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。これらの技術によれば、上述のような安全性及び経済性の課題を解決できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−86240号公報
【特許文献2】特開平5−93009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2の技術で得られたEVOHの水性分散体は、粒子径が大きいため、分散安定性が十分ではなかった。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、分散安定性に優れたEVOHの水性樹脂分散体、該水性樹脂分散体の製造方法、該水性樹脂分散体を含む親水化処理剤、該親水化処理剤を用いた親水化処理方法、親水性皮膜を形成した金属材料及び親水性皮膜を形成した熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 上記目的を達成するため本発明は、EVOH(A)と、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(B1−1)由来の構造単位を有するラジカル重合体(B)と、を含み、前記ラジカル重合体(B)の含有量は、前記EVOH(A)と前記ラジカル重合体(B)の合計量に対して10〜80質量%である水性樹脂分散体を提供する。
【0010】
(2) (1)の発明において、前記ラジカル重合体(B)は、ラジカル重合性スルホン酸モノマー(B1−2)由来の構造単位をさらに有していてもよい。
【0011】
(3) (1)又は(2)の発明において、前記ラジカル重合体(B)は、下記式(a)で表されるラジカル重合性モノマー、(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド及びN−ビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも1種のラジカル重合性モノマー(B2−1)由来の構造単位をさらに有していてもよい。
[化1]

CH=C(R)CO−(OCHCH−OR … 式(a)

[式(a)中、Rは、H又はCH、Rは、H又はCH、mは、1〜200の整数である。]
【0012】
(4) (3)の発明において、前記ラジカル重合体(B)は、ラジカル重合性水酸基含有モノマー、ラジカル重合性アミド基含有モノマー、ラジカル重合性シリル基含有モノマー、ラジカル重合性エポキシ基含有モノマー、ラジカル重合性エステル基含有モノマー及びビニル基含有モノマーからなる群より選ばれる少なくとも1種のラジカル重合性モノマー(B2−2)由来の構造単位を有していてもよい。
【0013】
(5) (4)の発明において、前記ラジカル重合体(B)は、前記ラジカル重合性カルボン酸モノマー(B1−1)を必須成分とし且つ前記ラジカル重合性スルホン酸モノマー(B1−2)を任意成分とする第1モノマー群と、前記ラジカル重合性モノマー(B2−1)を必須成分とし且つ前記ラジカル重合性モノマー(B2−2)を任意成分とする第2モノマー群の共重合体であるか、又は、前記第1モノマー群の共重合体と、前記第2モノマー群の共重合体との混合物であってもよい。
【0014】
(6) (1)から(5)いずれかの発明において、下記式(b)で表される構造を有する化合物、ポリビニルピロリドン構造を有する化合物及びポリ−N−ビニルホルムアミド構造を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の親水性化合物(C)をさらに含み、前記ラジカル重合体(B)及び前記親水性化合物(C)の合計含有量は、前記EVOH(A)、前記ラジカル重合体(B)及び前記親水性化合物(C)の合計量に対して10〜80質量%であることが好ましい。
[化2]

O(CHCHO)− … 式(b)

[式(b)中、Rは、H又はCH−、nは、2〜100,000の整数である。]
【0015】
(7) また本発明は、(1)から(5)いずれか記載の水性樹脂分散体の製造方法であって、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を含む溶解液中で(共)重合反応を行うことで、前記ラジカル重合体(B)を得る工程を含む水性樹脂分散体の製造方法を提供する。
【0016】
(8) また本発明は、(6)記載の水性樹脂分散体の製造方法であって、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)及び必要に応じて前記親水性化合物(C)を含む溶解液中で(共)重合反応を行うことで、前記ラジカル重合体(B)を得る工程を含む水性樹脂分散体の製造方法を提供する。
【0017】
(9) また本発明は、(1)から(6)いずれかの発明における水性樹脂分散体(D)を含む親水化処理剤を提供する。
【0018】
(10) (9)の発明における親水化処理剤は、親水性化合物(E)及び架橋剤(F)のうち少なくとも一方をさらに含み、前記親水性化合物(E)の含有量は、前記水性樹脂分散体(D)、前記親水性化合物(E)及び前記架橋剤(F)の合計量に対して70質量%以下であって、前記架橋剤(F)の含有量が前記水性樹脂分散体(D)、前記親水性化合物(E)及び前記架橋剤(F)の合計量に対して30質量%以下であることが好ましい。
【0019】
(11) (9)又は(10)の発明における親水化処理剤は、Zr,V,Ti,Cr,Ce,Nb,P群から選ばれる少なくとも1種以上を含有する防錆材料(G)をさらに含むことが好ましい。
【0020】
(12) (11)の発明における前記防錆材料(G)の含有量は、前記水性樹脂分散体(D)、前記親水性化合物(E)及び前記架橋剤(F)の合計量に対し30質量%以下であることが好ましい。
【0021】
(13) (9)から(12)いずれか記載の親水化処理剤から親水性皮膜を得る親水化処理方法であって、以下の(I)〜(V)のいずれかの工程、
(I)基材に対して化成処理剤を浸漬させ、水洗した後、
前記親水化処理剤を当該基材に塗布し、当該親水化処理剤を乾燥する、
(II)基材に対して前記親水化処理剤を当該基材に塗布し、
当該親水化処理剤を乾燥させた後、さらに前記以外の親水化処理剤を塗布し乾燥する、
(III)基材に対してプライマーを付着し、当該プライマーを乾燥させた後、
前記親水化処理剤を当該基材に塗布し、当該親水化処理剤を乾燥する、
(IV)基材に対して前記親水化処理剤を塗布し、当該親水化処理剤を乾燥する、若しくは
(V)基材に対して化成処理剤を浸漬し、
さらにプライマーを付着させ、当該プライマーを乾燥させた後、
前記親水化処理剤を当該基材に塗布し、当該親水化処理剤を乾燥する、
ことにより親水性皮膜を得る親水処理方法を提供する。
【0022】
(14) (9)から(12)いずれかの発明の親水化処理剤を表面に付着させ、これを乾燥することによって親水性皮膜が形成される金属材料を提供する。
【0023】
(15) (9)から(12)いずれかの発明の親水化処理剤を表面に付着させ、これを乾燥することによって親水性皮膜が形成される熱交換器を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、分散安定性に優れたEVOHの水性樹脂分散体、該水性樹脂分散体の製造方法、該水性樹脂分散体を含む親水化処理剤、該親水化処理剤を用いた親水化処理方法、親水性皮膜を形成した金属材料及び親水性皮膜を形成した熱交換器を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0026】
<水性粒子分散体>
本実施形態に係る水性樹脂分散体は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」という。)(A)と、ラジカル重合体(B)と、を含む。また、本実施形態の水性樹脂分散体は、従来のEVOHの水性分散体と比較して、優れた分散安定性を有する点に特徴がある。
【0027】
次に、EVOH(A)とラジカル重合体(B)について、詳しく説明する。
EVOH(A)は、エチレン構造単位と、ビニルアルコール構造単位とを有する。EVOH(A)中におけるエチレン構造単位の含有量は、24〜44モル%であることが好ましい。エチレン構造単位の含有量がこの範囲内であれば、EVOHが本来有する特性を維持しつつ、優れた分散安定性を有する水性樹脂分散体が得られる。
【0028】
EVOH(A)としては、市販品を用いることができる。例えば、クラレ社製の「エバール」や日本合成化学工業社製の「ソアノール」が挙げられる。
【0029】
ラジカル重合体(B)は、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(B1−1)由来の構造単位を有する。即ち、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(B1−1)を必須として含むラジカル重合性のモノマーをラジカル重合することにより得られる。
【0030】
ラジカル重合性カルボン酸モノマー(B1−1)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸等の不飽和ジカルボン酸やその無水物、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノエステルが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、それらの金属塩やアンモニウム塩を用いてもよい。これらの中でも特にアクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。
【0031】
ラジカル重合体(B)の含有量は、EVOH(A)とラジカル重合体(B)の合計量に対して、10〜80質量%である。ラジカル重合体(B)の含有量がこの範囲内であれば、優れた分散安定性を有する水性樹脂分散体が得られる。より好ましいラジカル重合体(B)の含有量は、20〜65質量%である。
【0032】
ラジカル重合体(B)は、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(B1−1)に加えて、ラジカル重合性のラジカル重合性スルホン酸モノマー(B1−2)由来の構造単位をさらに有していてもよい。ラジカル重合性スルホン酸モノマー(B1−2)としては、例えば、メタクリレート系スルホン酸モノマー、アクリルアミド系スルホン酸モノマー、アリル系スルホン酸モノマー、ビニル系スルホン酸モノマー、スチレン系スルホン酸モノマーが挙げられる。中でも、AMPS(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)やHAPS(3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸のナトリウム塩)が好ましく用いられる。あるいは、これらスルホン酸モノマーの金属塩やアンモニウム塩を用いてもよい。なお、これらのモノマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
また、ラジカル重合体(B)は、下記式(a)で表されるラジカル重合性モノマー、(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド及びN−ビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも1種のラジカル重合性モノマー(B2−1)由来の構造単位をさらに有していてもよい。
[化3]

CH=C(R)CO−(OCHCH−OR … 式(a)

[式(a)中、Rは、H又はCH、Rは、H又はCH、mは、1〜200の整数である。]
【0034】
即ち、ラジカル重合性モノマー(B2−1)は、上記式(a)で表されるように、mが1〜200の整数である(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート又はメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートであるか、アミド結合を有するため、親水性や分散安定性が付与される。
【0035】
ラジカル重合体(B)は、上記式(a)で表されるラジカル重合性モノマー(B2−1)に加えて、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のラジカル重合性水酸基含有モノマー、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等のラジカル重合性アミド基含有モノマー、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のラジカル重合性シリル基含有モノマー、グリシジルメタクリレート等のラジカル重合性エポキシ基含有モノマー、メチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等のラジカル重合性エステル基含有モノマー、及び、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル、ジビニルベンゼン等のビニル基含有モノマーからなる群より選ばれる少なくとも1種のラジカル重合性モノマー(B2−2)由来の構造単位をさらに有していてもよい。これらラジカル重合性モノマー(B2−2)由来の構造単位を有することにより、親水性、分散安定性あるいは架橋性が付与される。
【0036】
ラジカル重合体(B)は、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(B1−1)を必須成分とし且つラジカル重合性スルホン酸モノマー(B1−2)を任意成分とする第1モノマー群と、ラジカル重合性モノマー(B2−1)を必須成分とし且つラジカル重合性モノマー(B2−2)を任意成分とする第2モノマー群の共重合体であるか、又は、前記第1モノマー群の共重合体と、前記第2モノマー群の共重合体との混合物であってもよい。これにより、親水性を有するとともに優れた分散安定性を有する水性樹脂分散体が得られる。
共重合体の種類としては、ランダム共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体を問わない。
【0037】
また本実施形態の水性樹脂分散体は、下記式(b)で表される構造を有する化合物及びポリビニルピロリドン(PVP)構造を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の親水性化合物(C)をさらに含んでいてもよい。
[化4]

O(CHCHO)− … 式(b)

[式(b)中、Rは、H又はCH−、nは、2〜100,000の整数である。]
【0038】
親水性化合物(C)をさらに含有することにより、さらに親水性が付与され、優れた分散安定性が付与される。式(b)で表される構造を有する化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリオキシエチレン基含有ポリビニルアルコール(EO−PVA)等が挙げられる。ポリビニルピロリドン(PVP)構造を有する化合物としてはPVPやPVP変性PVA等が挙げられる。
【0039】
本実施形態では、ラジカル重合体(B)及び親水性化合物(C)の合計含有量は、EVOH(A)、ラジカル重合体(B)及び親水性化合物の合計量に対して、10〜80質量%であることが好ましい。ラジカル重合体(B)及び親水性化合物(C)の合計含有量がこの範囲内であれば、優れた分散安定性を有する水性樹脂分散体が得られる。より好ましいラジカル重合体(B)及び親水性化合物(C)の合計含有量は、30〜70質量%である。
【0040】
なお、本実施形態の水性樹脂分散体は、優れた分散安定性を阻害しない範囲内において、溶剤等の各種添加剤等を含有していてもよい。
【0041】
<水性樹脂分散体の製造方法>
上記水性樹脂分散体の製造方法では、EVOH(A)を含む溶解液中で(共)重合反応を行うことで、ラジカル重合体(B)を得る工程を含んでいてよい。
水性樹脂分散体に親水性化合物(C)を含有させる場合には、EVOH(A)及び必要に応じて親水性化合物(C)を含む溶解液中で、(共)重合反応を行うことで、ラジカル重合体(B)を得る工程が含まれることが好ましい。
ラジカル重合法は従来公知の方法が採用され、ラジカル重合開始剤も従来公知のものが用いられる。
【0042】
また、ラジカル重合体(B)を第1モノマー群の(共)重合体とする場合には、第1モノマー群をEVOH(A)及び必要に応じて親水性化合物(C)を含む溶液中に添加して共重合させることが好ましい。
同様に、ラジカル重合体(B)を第1モノマー群と第2モノマー群の共重合体とする場合には、第1モノマー群と第2モノマー群を同時にEVOH(A)及び必要に応じて親水性化合物(C)を含む溶液中に添加して共重合させる他、第1モノマー群を先に添加して(共)重合した後に、第2モノマー群を添加して(共)重合させてもよい。
【0043】
なお、本実施形態の製造方法では、EVOH(A)を含む溶解液中で(共)重合反応を行う代わりに、第1モノマー群の(共)重合体と第2モノマー群の(共)重合体とを上記溶解液中で混合することで、上記ラジカル重合体(B)を得てもよい。例えば、EVOH(A)の存在下で第1モノマー群を(共)重合して(B1)を得、これに別途第2モノマー群の重合により得られた(共)重合体(B2)を添加して撹拌混合することにより、水性樹脂分散体としてもよい。
【0044】
本実施形態に係る水性樹脂分散体の製造方法の一例を以下に説明する。
先ず、ペレット状のEVOH(A)に対し、水とメタノールの混合溶液を適量添加する。添加後、EVOHのガラス転移点以上、溶媒の沸点以下の温度で加熱し、所定時間撹拌することでEVOH(A)の溶解液を得る。
【0045】
次いで、EVOH(A)溶解液に必要に応じて親水性化合物(C)を溶解し、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(B1−1)を必須として任意でラジカル重合性スルホン酸モノマー(B1−2)を含むモノマー液又は、必要に応じて、ラジカル重合性モノマー(B2−1)を必須としてラジカル重合性モノマー(B2−2)を任意に含むモノマー液とを混合した液と、ラジカル重合開始剤を含む溶液とを、窒素雰囲気下で滴下して反応させる。
【0046】
次いで、配合したモノマー(B1−1)及び(B1−2)中の酸当量に相当する塩基(アンモニア水が好ましい)を滴下して中和する。そして、加熱下で水を補給しながらメタノールを溜去し媒体を水に置換する。
【0047】
その後、冷却して濾過することで、本実施形態の優れた分散安定性を有するEVOH(A)の水性樹脂分散体が得られる。
【0048】
以上説明した本実施形態の水性樹脂分散体は、種々の用途に用いることができる。中でも、本実施形態の水性樹脂分散体は、後述する親水化処理剤の用途として、好ましく用いられる。
【0049】
<親水化処理剤>
本実施形態の親水化処理剤は、上述した水性樹脂分散体(以下、「水性樹脂分散体(D)」という。)を含む。中でも、より高い親水性が得られる観点から、上述のラジカル重合性モノマー(B2−1)及び(B2−2)由来の構造単位を有するラジカル重合体(B)を含む水性樹脂分散体(D)が好ましく用いられる。本実施形態の親水化処理剤は、金属、特にアルミニウムやその合金に対して好ましく用いられ、親水性、特に汚染物質が付着した後の親水持続性に優れ、かつ、密着性、排水性及び汚染除去性にも優れた親水性皮膜を形成することができる。
【0050】
本実施形態の親水化処理剤は、水性樹脂分散体(D)に加えて、親水性化合物(E)及び架橋剤(F)のうち少なくとも一方をさらに含むことが好ましい。親水性化合物(E)としては、架橋性微粒子や変性ポリビニルアルコールの他、カルボン酸基、スルホン酸基又は水酸基等の親水基を有する樹脂が用いられる。架橋剤(F)としては、例えば、メラミン樹脂、フェノール樹脂、オキサゾリン化合物、シランカップリング剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0051】
親水性化合物(E)及び架橋剤(F)の含有量は、水性樹脂分散体(D)、親水性化合物(E)及び架橋剤(F)の合計量に対して、70質量%以下であって、架橋剤(F)の含有量が、水性樹脂分散体(D)、親水性化合物(E)及び架橋剤(F)の合計量に対して、30質量%以下であることが好ましい。親水性化合物(E)及び架橋剤(F)の含有量がこの範囲内であれば、親水性、特に汚染物質が付着した後の親水持続性に優れ、かつ、密着性、排水性及び汚染除去性にも優れた親水性皮膜を形成することができる。より好ましい親水性化合物(E)の含有量は、50質量%未満である。
【0052】
親水性化合物(E)の具体例としては、架橋性微粒子、ポリビニルアルコール(PVA)、変性ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアルキレンエーテル(PAE)、N−メチロールアクリルアミド(NMAM)、ポリ−N−ビニルホルムアミド(PNVF)、アクリル酸共重合体、スルホン酸共重合体、アミド共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0053】
架橋性微粒子としては、アルコール系溶剤中でN−メチロールアクリルアミドを主モノマーとし、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート等を分散安定化剤として分散重合することにより得られる平均粒子径が200〜400nm程度のものを用いることができる。
【0054】
架橋剤(F)としては、市販品を用いることができ、例えば、メラミン樹脂としては日本サイテックインダストリーズ社の「サイメル」、フェノール樹脂としては群栄化学工業社の「レヂトップ」、オキサゾリン化合物としては日本触媒社の「エポクロス」、シランカップリング剤としては信越化学社の製品が挙げられる。
【0055】
また、本実施形態の親水化処理剤は、防錆材料(G)をさらに含むことが好ましい。防錆材料(G)としては、例えば、ジルコニウム化合物、バナジウム化合物、チタニウム化合物、ニオブ化合物、リン化合物、セリウム化合物、クロム化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0056】
ジルコニウム化合物としては、フルオロジルコニウム酸、フルオロジルコニウム酸リチウム、フルオロジルコニウム酸ナトリウム、フルオロジルコニウム酸カリウム、フルオロジルコニウム酸のアンモニウム塩、硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニル、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、フッ化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、フッ化水素酸ジルコニウムが挙げられる。
【0057】
バナジウム化合物としては硫酸バナジル、硝酸バナジル、リン酸バナジル、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、五参加バナジウム、オキシ三塩化バナジウム、酸化バナジウム、二酸化バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート、塩化バナジウムが挙げられる。
【0058】
チタン化合物としては、Tiの炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フッ化物、フルオロ酸(塩)、有機酸塩、有機錯化合物等を用いることができる。具体的には、酸化チタン(IV)(チタニア)、硝酸チタン、硫酸チタン(III)、硫酸チタン(IV)、硫酸チタニルTiOSO、フッ化チタン(III)、フッ化チタン(IV)、ヘキサフルオロチタン酸HTiF、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム(NHTiF、チタンラウレート、チタニウムテトラアセチルアセトネートTi(C、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、ポリヒドロキシチタンステアレート等があげられる。
【0059】
また、チタン化合物には、チタンアルコキシドを用いることもできる。チタンアルコキシドは、チタン原子を中心にアルコキシ基が配位した構造を持つ。このような化合物は、水中において加水分解し、いくつか縮合したオリゴマー或いはポリマーを形成する場合がある。本用途で用いるチタンアルコキシドは、アルコキシ基とキレート剤とが共存したものであることが好ましい。例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンブトキシドダイマー、チタンテトラー2−エチルヘキソキシド、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、ポリヒドロキシチタンステアレート等が挙げられる。特に好ましくはチタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)等が挙げられる。
【0060】
Ce化合物としては、酢酸セリウム、硝酸セリウム(III)若しくは(IV)、及び塩化セリウム等があげられる。
【0061】
Nb化合物としては、フッ化ニオブ、酸化ニオブ、水酸化ニオブ及びリン酸ニオブ等のニオブ化合物等があげられる。
【0062】
Cr化合物としては、硫酸クロム、硝酸クロム、フッ化クロム、燐酸クロム、蓚酸クロム、酢酸クロム、重燐酸クロム、クロムアセチルアセトネート(Cr(C)等やクロム酸、オルトリン酸及びフッ化物を含有する混合水溶液である。
【0063】
リン化合物としては、リン酸、ポリリン酸、トリポリリン酸、メタリン酸、ウルトライン酸、フィチン酸、ホスフィン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ホスホノブタントリカルボン酸、(PBTC)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩、アクリル酸ビニルホスホン共重合体等が挙げられる。
【0064】
防錆材料(G)は、水性樹脂分散体(D)、親水性化合物(E)及び架橋剤(F)の合計量に対し、0質量%から30質量%で含有させることができる。防錆材料(G)の含有量は、20質量%以下が好ましい。防錆材料(G)の含有量がこの範囲内であることにより、親水化処理剤により形成される後述の親水性皮膜の耐食性を向上させることができ、親水性皮膜の形成前に化成皮膜の形成を不要とする。
【0065】
なお、本実施形態の親水化処理剤は、上述の水性樹脂分散体(D)中に配合される親水性化合物(C)を構成するポリエチレンオキシドやオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール等のポリオキシエチレン基を含有する親水性化合物を含むことが好ましい。これにより、より優れた親水性が得られる。
【0066】
本実施形態の親水化処理剤は、付加される機能に応じて、上述の機能を阻害しない範囲で、その他の成分を必要量添加してもよい。例えば、界面活性剤、コロイダルシリカ、酸化チタン、糖類等の親水添加剤;タンニン酸、イミダゾール類、トリアジン類、トリアゾール類、グアニジン類、ヒドラジン類等の添加剤;顔料、抗菌剤、分散剤、潤滑剤、消臭剤、溶剤等を含んでいてもよい。
【0067】
本実施形態の親水化処理剤は、水性樹脂分散体(D)と、必要に応じて親水性化合物(E)、架橋剤(F)及び防錆材料(G)とを、所定量ずつ混合してよく撹拌することで得られる。
【0068】
<親水性皮膜>
本実施形態の親水性皮膜は、上述の親水化処理剤を、アルミニウムやその合金等の金属基材上に塗布して乾燥することにより得られる。塗布方法としては、ロールコート法、バーコート法、浸漬法、スプレー法、刷毛塗り法等が挙げられる。塗布後、例えば120〜300℃の温度で3秒〜60分間乾燥、焼き付けすることにより、親水性皮膜を得ることができる。焼付け温度が120℃未満であると、充分な造膜性が得られず、水への浸漬後に皮膜が溶解するおそれがある。300℃を超えると、樹脂が分解し、親水皮膜の親水性が損なわれるおそれがある。
【0069】
上記方法により形成される親水性皮膜は、アルミニウムやその合金等の金属基材の表面上に形成される皮膜であり、親水性、特に汚染物質が付着した後の親水持続性に優れ、かつ、密着性、排水性及び汚染除去性にも優れた皮膜である。即ち、親水基と疎水基を併せ持つEVOHの特性により、親水性がありながら排水性及び汚染除去性にも優れた親水性皮膜を形成できる。
【0070】
親水性皮膜の膜厚は、好ましくは0.05g/m以上であり、より好ましくは0.1〜2g/mである。皮膜の膜厚が0.05g/m未満であると、皮膜の親水持続性、加工性、密着性及び耐食性が不充分となるおそれがある。
【0071】
<化成皮膜>
なお、本実施形態の親水性皮膜の形成に先駆けて、アルミニウムやその合金等の金属基材上に化成皮膜を形成することができる。
本実施形態の化成皮膜処理剤は、基板の材質に応じて適切に化成皮膜が形成されるものであればよい。例えば、日本ペイント・サーフケミカルズ社製アルサーフ900、アルサーフ970、アルサーフ407/47が使用される。
これら化成皮膜処理剤の塗布方法としては、塗布方法は特に限定せず、浸漬法、スプレー法、いずれの方法でもよい。化成処理剤の温度は、45℃〜70℃の温度で20秒〜900秒で、化成皮膜を得ることができる。
【0072】
<プライマー>
本実施形態の親水性皮膜の形成に先駆けて、アルミニウムやその合金等の金属基材上にプライマーを形成することができる。
本実施形態の化成皮膜処理剤は、基板の材質に応じて適切に化成皮膜が形成されるものであればよい。例えば、日本ペイント・サーフケミカルズ社製サーフアルコート510、サーフアルコート520が使用される。
これら化成皮膜処理剤の塗布方法としては、ロールコート法、バーコート法、浸漬法、スプレー法、刷毛塗り法等が挙げられる。塗布後、例えば40℃〜300℃の温度で20秒〜900秒で、プライマーを得ることができる。
【0073】
<基材表面調整工程>
本実施形態のアルミニウム等の金属基材に対し、上記被膜形成処理以外の表面調整を行うことができる。表面調整工程では、アルミニウム又はアルミニウム合金基材の表面に存在する汚れ、不均一なアルミニウム酸化膜、フラックス等を取り除き、後工程の化成皮膜の形成に適した清浄な表面が得られる。
【0074】
表面調整液には、水、硝酸、硫酸、フッ酸、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種以上が用いられる。
表面調整液の塗布方法としては、スプレー法、ディッピング法等を挙げることができる。表面調整液の温度は10℃〜70℃であることが好ましい。表面調整液の温度が10℃よりも低い場合には、十分な表面の清浄化が行われず、目的とする化成皮膜の形成に適した表面が得られないことがある。また、表面調整液の温度が70℃よりも高い場合には、表面調整処理装置の腐食を招いたり、表面調整液のミストが飛散することにより作業環境を悪化させることがある。
表面調整時間は5秒〜600秒であることが好ましい。表面調整時間が5秒よりも短い場合には、十分な表面の清浄化が行われず、目的とする化成皮膜の形成に適した表面が得られないことがある。また、表面調整時間が600秒よりも長い場合には、アルミニウム合金基材中に含まれる合金成分が著しく表面に偏析し、目的とする化成皮膜の形成に適した表面が得られないことがある。
【0075】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0077】
<水性樹脂分散体の製造例>
[実施例1]
撹拌機、冷却器、温度制御器及び滴下漏斗(2本)を備えたフラスコに、ペレット状のEVOH(A)60質量部と、これに対し、9倍質量部の水とメタノールの混合溶液(質量比で水:メタノール=1:1)を仕込み、75℃に加熱して1時間以上強撹拌することでEVOH(A)溶解液を得た。
【0078】
次いで、アクリル酸40質量部をメタノール溶液としたものと、過硫酸アンモニウム0.6質量部の水溶液とをそれぞれ別の滴下漏斗に入れ、窒素雰囲気下でEVOH(A)の溶液中に滴下した。このとき、液温は75℃に保ち、30分間にわたって滴下し、滴下終了後、同温度で2時間撹拌を続けた。
【0079】
次いで、アクリル酸と当量のアンモニア水(アンモニア水中の水と同量のメタノールで希釈したもの)を約20分間かけて滴下し、中和した。そして、脱溶媒のための冷却管を取り付け、水を補給しながら加熱してメタノールを溜去して媒体を水に置換した。
その後、冷却して濾過することで、安定な水性樹脂分散体を得た。
【0080】
[実施例2〜実施例37]
実施例2〜実施例37についても、実施例1と同様の手順で、表1に示した配合でEVOH(A)及び必要に応じて親水性化合物(C)を混合溶解し、ラジカル重合性モノマー(B1−1)、(B1−2)と、必要に応じてラジカル重合性モノマー(B2−1)、(B2−2)とを混合し、これと過硫酸アンモニウム水溶液とを個別に同時に滴下して重合させ、酸を当量のアンモニア水で中和後、メタノールを水で置換した後に冷却、濾過することで水性樹脂分散体を得た。
なお、比較例1〜比較例6についても、同様の手順で分散体の製造を試みた。ただし、比較例2のみ、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(B1−1)を配合せずに製造した。
【0081】
<分散安定性>
上述の手順に従って製造された実施例1〜実施例37の水性樹脂分散体及び比較例1〜比較例6の分散体について、分散安定性の評価を実施した。結果を表1に示した。
(評価基準)
3:1か月経過後、沈降分離なし
2:1か月経過後、沈降物発生
1:著しい凝集、沈降分離が発生
【0082】
【表1】
【0083】
表1中、各実施例及び比較例の欄に記載された数値は、水性樹脂分散体の固形分中の各成分の含有量(質量%)を示している。また、表1中の各材料の記載は以下の材料を表している。
HAPS:3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸のナトリウム塩
AMPS:2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸
NVF:N−ビニルホルムアミド
AAm:アクリルアミド
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド
GMA:グリシジルメタクリレート
PEG:ポリエチレングリコール(重量平均分子量:20000)
PEO:ポリエチレンオキシド(重量平均分子量:500000)
PVP:ポリビニルピロリドン(重量平均分子量:20000)
EO−PVA:ポリオキシエチレン変性ポリビニルアルコール(重量平均分子量:20000)
PNVF:ポリ−N−ビニルホルムアミド(重量平均分子量:100000)
【0084】
実施例1〜37と比較例2とを比較すると、実施例1〜37の水性樹脂分散体の方が分散安定性に優れていることが分かった。この結果から、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(B1−1)由来の構造単位を有するラジカル重合体(B)を含む本発明の水性樹脂分散体によれば、優れた分散安定性を持つ分散体が得られることが確認された。
【0085】
また、実施例1〜37と比較例1,5とを比較すると、実施例1〜37の水性樹脂分散体の方が分散安定性に優れていることが分かった。この結果から、EVOH(A)とラジカル重合体(B)の合計量に対するラジカル重合体(B)の含有量が10質量%以上である本発明の水性樹脂分散体によれば、優れた分散安定性を持つ分散体が得られることが確認された。
【0086】
また、実施例1〜37と比較例3,4,6とを比較すると、実施例1〜37の水性樹脂分散体の方が分散安定性に優れていることが分かった。この結果から、EVOH(A)とラジカル重合体(B)の合計量に対するラジカル重合体(B)の含有量が80質量%以下である本発明の水性樹脂分散体によれば、優れた分散安定性を持つ分散体が得られることが確認された。
【0087】
[実施例38〜実施例56]
<親水化処理剤の調製>
実施例1、6、11及び15で製造した水性樹脂分散体(D)と、親水性化合物(E)と、架橋剤(F)とを、表2に示す配合量(含有量)となるように混合することにより、実施例38〜56及び比較例7,8の親水化処理剤を調製した。
【0088】
<架橋性微粒子の調製>
表2の実施例に記載した親水性化合物(E)に属する架橋性微粒子は下記のように調製した。メトキシプロパノール200質量部にN−メチロールアクリルアミド70質量部及びメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(繰り返し単位数が90のポリエチレン鎖)30質量部を溶解させたモノマー溶液と、メトキシプロパノール50質量部に「ACVA」(大塚化学社製アゾ系開始剤)1質量部を溶解させた溶液とをそれぞれ別口から、窒素雰囲気下105℃でメトキシプロパノール150質量部に3時間かけて滴下し、さらに1時間加熱撹拌して重合させた。得られた分散液において、架橋性微粒子の平均粒子径は250nmであった。
【0089】
<試験板の作製>
150mm×200mm×0.13mmの1000系アルミニウム材を、日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社製サーフクリーナーEC370の1%溶液にて70℃で5秒間脱脂した。次いで、日本ペイント・サーフケミカルズ社製アルサーフ407/47の10%溶液を用いて40℃5秒間リン酸クロメート処理した。次いで、実施例38〜56及び比較例7、8で得られた各親水化処理剤を固形分5%に調製し、バーコーター#4でこれを上記アルミニウム材に塗布し、220℃で20秒間加熱して乾燥させて、試験板を作製した。
【0090】
<初期親水性の評価>
試験板に対する水滴の接触角を、それぞれ評価した。水接触角は、自動接触角計(型番:DSA20E、KRUSS社製)を用いて測定した。測定した接触角は、室温環境下、滴下後30秒後における、試験板と水滴との接触角である。評価結果を表2に示した。なお、接触角が30°以下であれば、親水性が良好であると認められる。
(評価基準)
4:水接触角が20°以下
3:20°超、30°以下
2:30°超、50°以下
1:50°超
【0091】
<親水持続性の評価>
試験板を、純水中に240時間浸漬し、引き上げて、乾燥させた。続いて、乾燥させた試験板の水滴との水接触角を測定した。接触角の測定は、自動接触角計(型番:DSA20E、KRUSS社製)を用いて測定した。測定した接触角は、室温環境下、滴下後30秒後における、試験板と水滴との接触角である。評価結果を表2に示した。水接触角が、30°以下であれば、親水持続性が良好であると認められる。
(評価基準)
4:水接触角が20°以下
3:20°超、30°以下
2:30°超、50°以下
1:50°超
【0092】
<WET密着性の評価>
試験板に、純水を霧吹きし、500gの加重をかけて、皮膜を擦った。1往復を1回とし、試験板の素地が露出するまで最大10回擦って評価した。評価結果を表2に示した。試験板の素地が露出するまでの回数が7回以上であれば、密着性が良好であると認められる。
(評価基準)
4:10回の摺動回数で親水性皮膜が剥離しない
3:7回以上、10回未満の摺動回数で親水性皮膜が剥離
2:3回以上、7回未満の摺動回数で親水性皮膜が剥離
1:3回未満の摺動回数で親水性皮膜が剥離
【0093】
<排水性>
水平に配置した試験板に、10μLの水滴を載せた。続いて、試験板を垂直に立てて、水滴が8cm下に移動するまでの時間を測定し、排水性を下記基準により評価した。評価結果を表2に示した。なお、評価が3以上であれば、排水性が良好であると認められる。
(評価基準)
4:15秒以下
3:15秒超、25秒以下
2:25秒超、40秒以下
1:40秒超
【0094】
<汚染除去性の評価>
試験板を、純水中に24時間浸漬し、引き上げて、乾燥させた。続いて、乾燥させた試験板を、ステアリン酸3質量部、1−オクタデカノール3質量部、パルミチン酸3質量部及びフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)3質量部を1188質量部のトリクロロエチレンで溶解した溶液に30秒間浸漬した。浸透後に引き上げて自然乾燥させた試験板に、純水を霧吹きしてから自然乾燥させ、試験板の水滴との水接触角を測定した。接触角の測定は、自動接触角計(型番:DSA20E、KRUSS社製)を使用して実施した。室温環境下、滴下後30秒経過後の水滴との接触角を測定し、下記の基準で評価した。評価結果を表2に示した。水接触角が、30°以下であれば、汚染除去性が良好であると認められる。
(評価基準)
4:水接触角が20°以下
3:20°超、30°以下
2:30°超、50°以下
1:50°超
【0095】
【表2】
【0096】
表2中、各実施例及び比較例の欄に記載された数値は、親水化処理剤の固形分中の各成分の含有量(質量%)を示している。また、表2中の各材料の記載は以下の材料を表している。
架橋性微粒子:上述のようにして調製した架橋性微粒子
EO−PVA:エチレンオキサイド変性PVA(重量平均分子量:20000)
PVA:ポリビニルアルコール(重量平均分子量:20000、けん化度98.5)
PAA:ポリアクリル酸(重量平均分子量:20000、酸価780mgKOH/g)
CMC:カルボキシメチルセルロース(重量平均分子量:20000)
PVP:ポリビニルピロリドン(重量平均分子量:20000)
PEG:ポリエチレングリコール(重量平均分子量:20000)
NMAM:N−メチロールアクリルアミド
PNVF:ポリ−N−ビニルホルムアミド(重量平均分子量:100000)
アクリル酸共重合体:アクリル酸/N−ビニルホルムアミド共重合体のナトリウム塩(重量平均分子量:700000)
スルホン酸共重合体:2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸/アクリル酸共重合体のナトリウム塩(重量平均分子量:10000)
メラミン樹脂:日本サイテックインダストリーズ社製の「サイメル370N」
シランカップリング剤:信越化学社製の「KBM−403」
【0097】
実施例38〜56と比較例7とを比較すると、実施例38〜56の親水化処理剤により形成された親水性皮膜の方が、初期親水性、親水持続性、Wet密着性、排水性及び汚染除去性いずれも優れていることが分かった。この結果から、水性樹脂分散体(D)、親水性化合物(E)及び架橋剤(F)の合計量に対して30質量%以下の範囲内で架橋剤(F)を含む本発明の親水化処理剤によれば、初期親水性、親水持続性、Wet密着性、排水性及び汚染除去性いずれも優れた親水性皮膜が得られることが確認された。
【0098】
実施例38〜56と比較例8とを比較すると、実施例38〜56の親水化処理剤により形成された親水性皮膜の方が、初期親水性、親水持続性、Wet密着性、排水性及び汚染除去性に優れていることが分かった。この結果から、水性樹脂分散体(D)、親水性化合物(E)及び架橋剤(F)の合計量に対して70質量%以下の範囲内で親水性化合物(E)及び架橋剤(F)を含む本発明の親水化処理剤によれば、初期親水性、親水持続性、Wet密着性、排水性及び汚染除去性いずれも優れた親水性皮膜が得られることが確認された。
【0099】
本発明の水性樹脂分散体によれば、優れた分散安定性を持つ分散体が得られる。また、この水性樹脂分散体を含む親水化処理剤によれば、(初期)親水性、特に汚染物質が付着した後の親水持続性に優れ、かつ、密着性、排水性及び汚染除去性にも優れた親水性皮膜を形成できる。従って、本発明の水性樹脂分散体、該水性樹脂分散体を含む親水化処理剤及び該親水化処理剤により得られる親水性皮膜は、金属、特にアルミニウムやその合金に対して好ましく用いられる。
【0100】
[実施例57〜実施例89]
実施例22、26、31、34及び37で製造した水性樹脂分散体(D)と、親水性化合物(E)と、架橋剤(F)と、防錆材料(G)とを、表3に示す配合量(含有量)となるように混合することにより、実施例57〜89及び比較例9〜11の親水化処理剤を調製した。
【0101】
<架橋性微粒子の調製>
表3の実施例に記載した親水性化合物(E)に属する架橋性微粒子の調製は上記と同様に行った。
【0102】
<試験熱交換器の作製>
試験熱交換器として、上記1000系アルミニウム材を用いて、自動車エアコン用のアルミニウム製熱交換器(NB熱交換器)を作製した。その後、試験熱交換器に対して下記の処理条件により試験熱交換器の表面処理を行った。表3に示す実施例57〜89及び比較例9〜11においては、この試験熱交換器を使用して、以下の評価を行った。
【0103】
(処理条件)
条件I:試験熱交換器表面を硫酸5%液で酸洗した後、水洗する。次いで、日本ペイント・サーフケミカルズ社製アルサーフ900の10%液を60℃、60秒間浸漬塗布し、試験熱交換器表面に化成皮膜を形成する。次いで、実施例57、62、63、70、71、81〜89及び比較例9〜11で得られた各親水化処理剤を固形分5%に調製し、これを上記試験熱交換器表面に浸漬塗布し、この熱交換器を160℃の環境下に30分間設置することにより、試験熱交換器を作製した。
【0104】
条件II:試験熱交換器表面を硫酸5%液で酸洗した後、水洗する。次いで、実施例58、65及び72で得られた各親水化処理剤を固形分5%に調製し、これを上記試験熱交換器表面に浸漬塗布し、この熱交換器を160℃の環境下に30分間設置した。次いで、この試験熱交換器に日本ペイント・サーフケミカルズ社製サーフアルコート1100を5倍希釈したものを塗布し、160℃で30分間加熱して乾燥させて、試験熱交換器を作製した。
【0105】
条件III:試験熱交換器表面を硫酸5%液で酸洗した後、水洗する。次いで、日本ペイント・サーフケミカルズ社製サーフアルコート510を浸漬塗布し、この熱交換器を160℃の環境下に30分間設置した。次いで、実施例59及び67で得られた各親水化処理剤を固形分5%に調製し、これを上記試験熱交換器表面に浸漬塗布した後、この熱交換器を160℃の温度環境下に30分間設置して、試験熱交換器を作製した。
【0106】
条件IV:試験熱交換器表面を湯洗した後、水洗する。次いで、実施例60、64、68、69、73〜80で得られた各親水化処理剤を固形分5%に調製し、これを上記試験熱交換器表面に浸漬塗布し、この熱交換器を160℃の温度環境下に30分間設置して、試験熱交換器表面に化成皮膜を形成した。
【0107】
条件V:試験熱交換器表面を硫酸5%液で酸洗した後、水洗する。次いで、日本ペイント・サーフケミカルズ社製アルサーフ900の10%液を60℃、60秒間浸漬塗布し、試験熱交換器表面に化成皮膜を形成する。次いで、日本ペイント・サーフケミカルズ社製サーフアルコート510を浸漬塗布し、160℃で30分間加熱して乾燥させた。次いで、実施例61及び66で得られた各親水化処理剤を固形分5%に調製し、これを上記試験熱交換器表面に浸漬塗布し、この熱交換器を160℃の温度環境下に30分間設置して、試験熱交換器表面に化成皮膜を形成する。
【0108】
<初期親水性の評価>
試験熱交換器のフィン表面に対する水滴の接触角について、上述の実施例38の初期親水性の評価と同様の評価条件に従い評価した。評価結果を表3に示した。
【0109】
<親水持続性の評価>
試験熱交換器の親水持続性について、上述の実施例38の初期親水性の評価と同様の評価条件に従い評価した。評価結果を表3に示した。
【0110】
<耐食性>
試験熱交換器について、JIS Z 2371に基づいた耐食性(耐白錆性)の評価を実施した。具体的には、各実施例及び比較例で作製した試験熱交換器に対して、5%食塩水を35℃にて噴霧した後、480時間経過後の白錆発生部の面積を、下記の評価基準に従って目視で評価し、評価結果を表3に示した。
熱交換器を
(評価基準)
4:白錆発生無し、若しくは、白錆は見られたが、白錆発生部の面積が10%未満。
3:白錆発生部の面積が10%以上20%未満。
2:白錆発生部の面積が20%以上50%未満。
1:白錆発生部の面積が50%以上。
【0111】
<耐湿性>
試験熱交換器に対して、温度50℃、湿度98%以上の雰囲気下で480時間の耐湿試験を実施した。試験後の黒変発生部の面積を、下記耐食性の評価基準に準じて目視で評価し、評価結果を表3に示した。なお、黒変は、最終的には白錆に変化する特性を有するため、黒変発生部の面積には白錆発生部の面積を加えた。
(評価基準)
4:変色なし、若しくは、変色は見られたが、変色発生部の面積が10%未満。
3:変色発生部の面積が10%以上20%未満。
2:変色発生部の面積が20%以上50%未満。
1:変色発生部の面積が50%以上。
【0112】
<臭気性>
試験熱交換器を、水道水の流水に72時間接触させた後、その臭気を下記の評価基準で評価し、評価結果を表3に示した。なお臭気の評価が2以上であれば、防臭性が良好であると評価される。
(評価基準)
3:臭気を感じない。
2:やや臭気を感じる。
1:明らかに臭気を感じる。
【0113】
【表3】
【0114】
表3中、各実施例及び比較例の欄に記載された数値は、親水化処理剤の固形分中の各成分の含有量(質量部)を示している。また、表3中の各材料の記載は以下の材料を表している。
架橋性微粒子:上述のようにして調製した架橋性微粒子
EO−PVA:エチレンオキサイド変性PVA(重量平均分子量:20000)
PVA:ポリビニルアルコール(重量平均分子量:20000、けん化度98.5)
PAA:ポリアクリル酸(重量平均分子量:20000、酸価780mgKOH/g)
PVP:ポリビニルピロリドン(重量平均分子量:20000)
PEG:ポリエチレングリコール(重量平均分子量:20000)
アクリル酸共重合体:アクリル酸/N−ビニルホルムアミド共重合体のナトリウム塩(重量平均分子量:700000)
スルホン酸共重合体:2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸/アクリル酸共重合体のナトリウム塩(重量平均分子量:10000)
メラミン樹脂:日本サイテックインダストリーズ社製の「サイメル370N」
シランカップリング剤:信越化学社製の「KBM−403」
ジルコニウム化合物:ジルコンフッ化アンモニウム
バナジウム化合物:メタバナジン酸アンモニウム
チタニウム化合物:チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)
ニオブ化合物:水酸化ニオブ
リン化合物:ポリリン酸
セリウム化合物:硝酸セリウムアンモニウム
クロム化合物:硝酸クロム
【0115】
表3に示す実施例57〜89と比較例9〜11とを比較すると、実施例57〜89の親水化処理剤により形成された親水性皮膜の方が、初期親水性、親水持続性、耐食性、耐湿性及び臭気性いずれも優れていることが分かった。この結果から、親水性化合物(E)及び架橋剤(F)を、水性樹脂分散体(D)、親水性化合物(E)及び架橋剤(F)の合計量に対して70質量%以下の範囲内で含み、架橋剤(F)を同30質量%以下の範囲内で含み、防錆材料(G)を同30質量%以下で含む本発明の親水化処理剤によれば、初期親水性、親水持続性、耐食性、耐湿性及び臭気性のいずれにも優れた親水性皮膜が得られることが確認された。
【0116】
本実施形態の無機化合物を含む親水化処理剤によれば、熱交換器組立前の基材(アルミニウム材)に塗布するプレコート、若しくは組立後の熱交換器(基材)に塗布するポストコートを問わず、(初期)親水性、親水持続性に優れ、かつ、耐食性、耐湿性及び臭気性にも優れた親水性皮膜を形成できる。従って、本発明の水性樹脂分散体、該水性樹脂分散体を含む親水化処理剤及び該親水化処理剤により得られる親水性皮膜は、自動車やエアコンなどに使用される熱交換器に使用されることが好ましい。