(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の永久磁石は、前記第2の磁場を印加する場合、前記第1の永久磁石の一方の磁極が前記第1の軟磁性体に近接するように前記回転軸回りに回転し、前記第2の磁場を遮断する場合、前記第1の永久磁石の双方の磁極が前記第2の軟磁性体に近接するように前記回転軸回りに回転する、請求項2記載の検体検査装置。
前記第2の磁場発生部と前記第1のトルク低減部と前記第2のトルク低減部とは、前記第2の磁場発生部の中心を含み前記回転軸に垂直な面に対して左右対称な幾何学的配置を有する、請求項6記載の検体検査装置。
前記第2の軟磁性体の前記第1の永久磁石に対向する内面は、前記第1の永久磁石の磁極と前記第2の軟磁性体の前記磁極に対向する部分との距離が前記第1の永久磁石の前記回転軸回りの回転に関わらず略一定になるように形成された略円弧形状を有する、請求項6記載の検体検査装置。
前記第2の磁場発生部の前記第2の軟磁性体は、前記第1のトルク低減部の前記第3の軟磁性体と前記第2のトルク低減部の前記第3の軟磁性体との少なくとも一方に磁気的に接続されている、請求項6記載の検体検査装置。
前記第1の磁場と前記第2の磁場との合成磁場を前記検査液に印加するために前記第1の磁場発生部と前記第2の磁場発生部とを制御する制御部をさらに備える、請求項1記載の検体検査装置。
前記検査容器は、前記検査液を収容する収容体と、前記収容体の底面に設けられ前記対象物質に特異的に結合する物質が固定された前記センサエリアと、前記センサエリアに接して設けられ前記検出部の光源により発生された光線を伝播する光導波路と、を有する、請求項1記載の検体検査装置。
前記磁性粒子を前記センサエリアに引き寄せるために前記第2の磁場発生部により前記検査液に所定時間に亘り前記第2の磁場を印加し、前記第1の磁場発生部の前記第1の磁場と前記第2の磁場発生部の前記第2の磁場との両方を所定時間に亘り遮断し、前記磁性粒子を前記センサエリアから引き離すために前記第1の磁場発生部により前記検査液に所定時間に亘り前記第1の磁場を印加する制御部をさらに備える、請求項1記載の検体検査装置。
前記第1の永久磁石は、前記第2の磁場を印加する場合、前記第1の永久磁石の磁極が前記第1の軟磁性体に近接するようにスライドし、前記第2の磁場を遮断する場合、前記第1の永久磁石の磁極が前記第2の軟磁性体に近接するようにスライドする、
請求項16記載の検体検査装置。
前記第1の永久磁石による前記第2の磁場の印加と遮断との切り替えに伴い発生するトルクを打ち消すためのトルクを発生するトルク低減部を更に備える、請求項17記載の検体検査装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係わる検体検査装置を説明する。
【0010】
本実施形態に係る検体検査装置は、生体試料等の検体に含まれる検査対象物質を検査する装置である。より詳細には、本実施形態に係る検体検査装置は、磁性粒子を利用して検査対象物質を光学的に検出する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る検体検査装置の構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る検体検査装置は、演算回路1を中枢として、上方磁場発生器2、下方磁場発生器3、支持フレーム4、磁場制御回路5、検出装置6、表示回路7、入力回路8及び記憶回路9を有する。演算回路1、磁場制御回路5、表示回路7、入力回路8及び記憶回路9は互いにバスを介して通信可能に接続されている。
【0012】
上方磁場発生器2と下方磁場発生器3とは、支持フレーム4を挟むように配置される。支持フレーム4は、検査容器100を支持する。具体的には、支持フレーム4は、検査容器100が収容される所定空間10を形成する枠体である。検査容器100は支持フレーム4に装着され、所定空間10に配置される。検査容器100には検査液が収容されている。検査液は、検査対象物質を含む検体と当該検査対象物質の検出に利用される磁性粒子とを含む。検査対象物質としては、例えば、測定項目に対応する生体分子が挙げられる。磁性粒子には、検査対象物質に特異的に結合する第1物質が固定される。検査容器100の底面にはセンサエリアが設けられている。センサエリアには、検査対象物質に特異的に結合する第2物質が固定されている。所定空間10は、上方磁場発生器2と下方磁場発生器3との間に位置する。上方磁場発生器2は支持フレーム4の上方に配置された磁場発生器であり、下方磁場発生器3は支持フレーム4の下方に配置された磁場発生器である。上方磁場発生器2は、磁場制御回路5による制御に従い、検査容器100に収容された検査液に印加する磁場を発生する。下方磁場発生器3は、磁場制御回路5による制御に従い、検査容器100に収容された検査液に印加する磁場を発生する。下方磁場発生器3は、検査液への磁場の印加と遮断とを切り替え可能に構成される。
【0013】
磁場制御回路5は、上方磁場発生器2と下方磁場発生器3とを同期的に制御し、上方磁場発生器2と下方磁場発生器3との各々の検査液への磁場の印加と遮断とを切り替える。上方磁場発生器2と下方磁場発生器3とにより交互に磁場を印加することにより、検査容器100の底面に設けられたセンサエリアに、効率良く検査対象物質を集めることができる。磁場制御回路5は、ハードウェア資源として、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等の処理装置(プロセッサ)とROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の記憶装置(メモリ)とを有する。また、磁場制御回路5は、上記発生タイミングを個別に制御可能に構成された特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)やフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA)、他の複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)により実現されても良い。磁場制御回路5は、有線又は無線により上方磁場発生器2と下方磁場発生器3とに電気的に接続される。
【0014】
検出装置6は、検査容器100に含まれる検査対象物質を検出する。検出装置6は、光学や磁気、電磁気等の既存の如何なる原理により検査対象物質を検出しても良い。例えば、本実施形態に係る検出装置6は、光学的に検査対象物質を検出する。この場合、検出装置6は、検査容器100に光を照射し、検査容器100を伝播した光を検出し、検出した光の強度に応じたデータを生成する。検出光強度のデータは、演算回路1に供給され、検査対象物質の定量分析に供される。
【0015】
表示回路7は、検査対象物質の定量分析結果等の種々のデータを表示する。具体的には、表示回路7は、表示インタフェース回路と表示機器とを有する。表示インタフェース回路は、表示対象を表すデータをビデオ信号に変換する。ビデオ信号は、表示機器に供給される。表示機器は、表示対象を表すビデオ信号を表示する。表示機器としては、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ、又は当技術分野で知られている他の任意のディスプレイが適宜利用可能である。
【0016】
入力回路8は、ユーザからの各種指令を入力する。具体的には、入力回路8は、入力機器と入力インタフェース回路とを有する。入力機器は、ユーザからの各種指令を受け付ける。入力機器としては、各種スイッチ等を含む。入力インタフェース回路は、入力機器からの出力信号をバスを介して演算回路1に供給する。
【0017】
記憶回路9は、種々の情報を記憶するHDD(hard disk drive)やSSD(solid state drive)、集積回路記憶装置等の記憶装置である。例えば、記憶回路9は、定量分析結果のデータを記憶する。また、記憶回路9は、本実施形態に係る検体検査装置の制御プログラム等を記憶する。
【0018】
演算回路1は、ハードウェア資源として、CPUやMPU等の処理装置(プロセッサ)とROMやRAM等の記憶装置(メモリ)とを有する。演算回路1は、本実施形態に係る検体検査装置の中枢として機能する。具体的には、演算回路1は、記憶回路9に記憶されている制御プログラムを読み出してメモリ上に展開し、展開された制御プログラムに従って検体検査装置の各部を制御する。また、演算回路1は、検出装置6から供給された検出光強度のデータに定量解析を施して、検査液における検査対象物質の量や濃度を計算する。
【0019】
図2は、上方磁場発生器2、下方磁場発生器3、検査容器100及び検出装置6の配置を示す図である。
図2に示すように、検査容器100の上方に上方磁場発生器2が設けられ、検査容器100の下方に下方磁場発生器3が設けられている。なお
図2において支持フレーム4の図示は省略している。
【0020】
図2に示すように、検査容器100は、収容器110、センサエリア120及び光導波路130を有している。収容器110は、検査液200を収容する容器である。上記の通り、検査液200は、少なくとも検査対象物質を含む検体と磁性粒子とを含む溶液である。磁性粒子には検査対象物質に特異的に結合する第1物質が固定される。収容器110は、検査液200に対して上方磁場発生器2と下方磁場発生器3とが有効に磁場を印加できるよう、非磁性の材料を用いて形成されると良い。また、収容器110の材料は、検体や検査試薬等によって腐食しない材質を有すると良い。具体的には、収容器110は、光学ガラスや樹脂等を用いて形成されることが望ましい。収容器110の底面にはセンサエリア120が設けられている。センサエリア120には、検査対象物質に特異的に結合する第2物質が固定されている。センサエリア120には、検査対象物質や磁性粒子220が非特異的にセンサエリア120に固定されないよう、非特異吸着防止用のコーティング等の加工が施されると良い。センサエリア120には光導波路130が結合されている。光導波路130は、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂又はガラス等を材料として形成される。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂等を用いることができる。
【0021】
図2に示すように、検出装置6は、センサエリア120に結合している磁性粒子220を光学的に検出する。具体的には、検出装置6は、光源61と光検出器62とを有する。光源61は、光(以下、検出光と呼ぶ)LIを光導波路130に照射する。光源61としては、例えば、LED等のダイオードやキセノンランプ等のランプが用いられると良い。光導波路130に入射した検出光LIは光導波路130内を全反射しながら伝播し、所定の出射口から出射する。
【0022】
光導波路130内を全反射する検出光LIにより、センサエリア120内における光導波路130との界面にエバネッセント(evanescent)光が発生する。エバネッセント光は、センサエリア120に捕集された磁性粒子により散乱又は屈折する。散乱又は屈折したエバネッセント光の光量に応じて検出光LIの強度が低下する。すなわち、光検出器62により検出される検出光LIの強度は、センサエリア120に捕集された磁性粒子の量、換言すれば、検査対象物質の量に依存する。
【0023】
光検出器62は、光導波路130から出射される検出光LIを検出し、検出された検出光LIの強度を示す光検出強度のデータを生成する。光導波路130の下方にはさらに検出光LIを透過する基板を設けたり、光導波路130に検出光LIを入射する効率を改善するためにグレーティングを設けたりしても良い。
【0024】
なお、光学的に検査対象物質を検出する他の方法として、着色された磁性粒子による光の吸収・散乱を利用しても良い。この場合、検出装置6は、センサエリア120に結合した磁性粒子に選択的に光を照射し、磁性粒子からの光を検出することにより検査対象物質を検出する。また、磁気的に検査対象物質を検出するため検出装置6は、磁気センサを有しても良い。磁気センサをセンサエリア120に近づけることにより、磁気センサは磁性粒子を感知する。磁気センサとしては、ホール効果磁気センサ、磁気インピーダンスセンサ、巨大磁気抵抗素子、SQUID(superconducting quantum interference device)磁気センサ等を用いることができる。
【0025】
ここで、検査容器100の高さ方向がY軸方向に規定され、検査容器100の横方向がX軸方向に規定され、検査容器100の奥行き方向がZ軸方向に規定される。X軸、Y軸及びZ軸は、直交三次元座標系を構成する。本実施形態においては、Y軸方向が鉛直方向に一致するように、上方磁場発生器2、下方磁場発生器3、検査容器100及び検出装置6が配置される。この場合、検査容器100のY軸上向き方向に上方磁場発生器2が配置され、検査容器100のY軸下向き方向に下方磁場発生器3が配置されるものとする。
【0026】
次に、本実施形態に係る検体検査装置の詳細について説明する。
【0027】
図3は、本実施形態に係る検体検査装置の上方磁場発生器2、下方磁場発生器3及び検査容器100の配置を示す図である。
図3に示すように、下方磁場発生器3は、検査容器100のセンサエリア120に近くに配置され、上方磁場発生器2はセンサエリア120から遠くに配置される。このように上方磁場発生器2と下方磁場発生器3とを配置することにより、上方磁場発生器2と下方磁場発生器3とは、検査容器100に収容された検査液200に対して、磁性粒子220をセンサエリア120に引き離すための磁場や引き寄せるための磁場を印加でき、さらに磁場を遮断することができる。
【0028】
下方磁場発生器3は、永久磁石(第1の永久磁石)31、コア(第1の軟磁性体)32及びシャントヨーク(第2の軟磁性体)33を有する。永久磁石31は、円柱形状や角柱形状、板形状等の柱状形状を有する。永久磁石31は、磁場を発生する。永久磁石31は、一対の磁極を有する。永久磁石31のうちの第1の磁極を有する面を第1の磁極面31aと呼び、第2の磁極を有する面を第2の磁極面31bと呼ぶことにする。永久磁石31としては、例えば、フェライト磁石やアルニコ磁石、サマリウムコバルト磁石、ネオジム磁石等の既存の如何なる永久磁石が用いられても良い。特に、サマリウムコバルト磁石やネオジム磁石等の希土類磁石は残留磁束密度が大きく、検査液200に高い磁束密度を与えることができる。なお、第1の磁極と第2の磁極との何れがN極又はS極であっても良い。
【0029】
コア32は、センサエリア120と永久磁石31との間に固定された軟磁性材料からなる軟磁性体である。コア32は、円柱形状や角柱形状、板形状等の柱状形状を有する。コア32は、検査容器100内の検査液200に磁場を印加するために永久磁石31により担磁される。コア32のセンサエリア120に対向する面32aは、センサエリア120と略同程度のサイズと形状とを有する。また、コア32の永久磁石31に対向する面32bは、永久磁石31の磁極面(31a、31b)と同じもしくはそれより大きいサイズと形状とを有する。上記の配置と形状とを有するコア32が設けられることにより、永久磁石31の磁極31a又は31bをコア32に近接させることによって永久磁石31からの磁束がコア32を通り、コア32からの磁束を検査液200に通すことができる。これにより、検査液200に磁場を印加することができる。すなわち、永久磁石31とコア32とは検査液200に磁場を印加するための磁気回路を構成する。
【0030】
シャントヨーク33は、コア32から離間して設けられた軟磁性材料からなる軟磁性体である。シャントヨーク33は、検査液200への磁場を遮断するために永久磁石31からの磁束を短絡する。シャントヨーク33を軟磁性材料で形成することにより、永久磁石31がシャントヨーク33から離間した状態ではシャントヨーク33が保持する磁化を略ゼロにすることができる。すなわち、シャントヨーク33が検査容器100内の空間に及ぼす磁気的な影響を無視することができる。シャントヨーク33は、C字形状又はU字形状を有する。シャントヨーク33の角部は角形であっても良く、曲線状であっても良い。シャントヨーク33における両端の突出部の互いに向き合う面間の距離D331は、永久磁石31の磁極面31aと31bとの間の距離D31よりも僅かに長く設計される。上記の形状と寸法とを有することによりシャントヨーク33は、永久磁石31を挟み込むことが可能となる。シャントヨーク33が永久磁石31を挟み込むと、永久磁石31から発生する磁束がシャントヨーク33を通る。これにより永久磁石31とシャントヨーク33とは閉回路を形成し、永久磁石31から発生する磁束を短絡することができる。
【0031】
上記の通り、本実施形態に係る下方磁場発生器3は、検査液200に含まれる磁性粒子220をセンサエリア120に引き寄せるための磁場を発生する永久磁石31と、永久磁石31により励磁されるコア32と、永久磁石31からの磁束を短絡するシャントヨーク33とを有し、永久磁石31をコア32とシャントヨーク33とに対して移動させることにより、当該磁場の印加と遮断とを切り替える。
【0032】
次に、
図4A、
図4B及び
図4Cを参照しながら、磁場制御回路5の制御の下に行われる磁性粒子を利用した検査対象物質の検査の流れについて説明する。
図4Aは、下方磁場発生器3による磁場の印加時における構成を示し、
図4Bは、磁場の遮断時における構成を示し、
図4Cは、上方磁場発生器2による磁場の印加時における構成を示す。
【0033】
磁場制御回路5は、上方磁場発生器2と下方磁場発生器3とを制御し、検査容器100に含まれる磁性粒子220をセンサエリア120に対して接近と離間とを交互に行わせる。磁性粒子220を利用した検査は次のプロセスで行われる。プロセス1:
図4Aに示すように、検査液200中に分散している磁性粒子220をセンサエリア120に引き寄せるための磁場を検査液200に印加する。プロセス2:
図4Bに示すように、センサエリア120近傍に捕集された磁性粒子220をセンサエリア120に特異的に結合させるために磁場を遮断する。プロセス3:センサエリア120に特異的に結合しなかった磁性粒子220をセンサエリア120から引き離すための磁場を検査液200に印加する。
【0034】
以下、磁性粒子を利用した検査について詳細に説明する。
【0035】
まず、上方磁場発生器2と下方磁場発生器3とを停止させた状態において検査液200内において磁性粒子220と検査対象物質とを反応させる。
【0036】
次にプロセス1が行われる。プロセス1では、検査液200全体に分散している磁性粒子220がセンサエリア120に捕集される。磁性粒子220に強い磁力を作用させることができれば磁性粒子220を速く効率的に捕集することができ、検査時間を短縮できる。磁性粒子220に作用する磁力は、磁性粒子220の比帯磁率、磁場の磁束密度及び磁束密度勾配の積に比例し、磁束密度勾配の向きに(磁束密度が小さい方から大きい方に向かって)作用する。そのため、磁場を印加した状態において、検査液200内の磁束密度が高く、磁束密度の勾配が大きくなるように構成することが検査時間短縮に有効である。
【0037】
プロセス1において磁場制御回路5は、下方磁場発生器3からの磁場をオンにするため、下方磁場発生器3にオン信号を供給する。磁場制御回路5からオン信号の供給を受け、下方磁場発生器3は、磁場を検査液200に印加する。具体的には、下方磁場発生器3は、
図4Aに示すように、永久磁石31の一方の磁極31aをコア32に近づけるように動かす。磁極31aがコア32に近づくことにより、永久磁石31から発生する磁束MF3はコア32を通り、永久磁石31に対してコア32の反対側に位置する検査液200に導かれる。下方磁場発生器3が検査容器100のセンサエリア120の近くに配置されているため、下方磁場発生器3がオンの状態では、検査液200内部の磁束密度はセンサエリア120側がより高くなる。そのため、磁性粒子220はセンサエリア120に近づく。下方磁場発生器3からの磁場は所定時間に亘り印加される。下方磁場発生器3からの磁場の印加は、検査の開始から所定の時刻が経過したことを契機として自動的に行われても良いし、入力回路8を介してユーザから指示されたタイミングで行われても良い。
【0038】
次にプロセス2が行われる。プロセス2では、少なくともセンサエリア120近傍では印加される磁場はゼロに近いことが望ましい。センサエリア120近傍に磁性粒子が多数存在する状態で磁場が印加されると、磁化された磁性粒子が磁気的な相互作用によって互いに凝集してしまう。そのため、磁場が印加されたままではセンサエリア120の最表面に接近できる磁性粒子は捕集された磁性粒子の一部に過ぎず、磁性粒子とセンサエリア120上の第2の物質との結合反応効率は低く留められる。磁性粒子をセンサエリア120近傍に捕集した後、センサエリア120近傍の磁場を遮断することによって磁性粒子の磁化が消失して凝集が解消され、重力により大半の磁性粒子がセンサエリア120の表面まで沈降する。これにより、磁性粒子とセンサエリア120の第2の物質との結合反応が促進される。
【0039】
プロセス2において磁場制御回路5は、下方磁場発生器3からの磁場の印加開始から所定の時間の経過後、当該磁場をオフにするため、下方磁場発生器3にオフ信号を供給する。オフ信号の供給を受け下方磁場発生器3は、
図4Bに示すように、永久磁石31の磁極31a及び31bをシャントヨーク33に近づける。その結果、永久磁石31から発生する磁束MF3はシャントヨーク33を通って再び永久磁石31に戻る閉ループを形成する。このように、永久磁石31の磁極31a及び31bをシャントヨーク33に近づけることにより、検査液200に印加する磁場を遮断する。磁場を遮断にすることにより、センサエリア120の近辺の磁場が略ゼロになる。この状態において磁性粒子220とセンサエリア120に結合された第2物質との結合反応を行わせる。
【0040】
次にプロセス3が行われる。プロセス3では、センサエリア120上に存在しているものの、センサエリア120に結合していない磁性粒子、すなわち検査対象物質と結合していない未反応の磁性粒子をセンサエリア120から引き離すため、プロセス1とは逆向きの勾配を有する磁場を印加する。
【0041】
プロセス3において磁場制御回路5は、上方磁場発生器2からの磁場をオンにするため、上方磁場発生器2にオン信号を供給する。磁場制御回路5からオン信号の供給を受け、上方磁場発生器2は磁場を発生する。上方磁場発生器2からの磁束MF2は検査液200を通過する。これにより上方磁場発生器2からの磁場が検査液200に印加される。
図4Cに示すように、上方磁場発生器2は、下方磁場発生器3に比してセンサエリア120から遠い位置に配置されるため、下方磁場発生器3の磁場をオフとし上方磁場発生器2の磁場をオンとすると、検査液200内の磁束密度はセンサエリア120側がより低くなる。そのため、磁性粒子220はセンサエリア120から離れる向きに移動する。
【0042】
その後、センサエリア120上の磁性粒子220に結合している検査対象物質を、検出装置6により光学的に計測する。
【0043】
次に、
図5A、
図5B、
図5C及び
図5Dを参照しながら、本実施形態に係る下方磁場発生器3の詳細について説明する。
図5Aと
図5Bとは、永久磁石31の回転軸RR1がシャントヨーク33と同一面に配置された下方磁場発生器3の例である。換言すれば、永久磁石31の回転軸RR1がシャントヨーク33の中心軸(図示せず)に略直交するように配置される。
図5Aは、磁場印加時における下方磁場発生器3の配置と磁束とを示す図であり、
図5Bは、磁場遮断時における下方磁場発生器3の配置と磁束とを示す図である。
図5Cと
図5Dとは、永久磁石31の回転軸RR1がシャントヨーク33を横切るように配置された下方磁場発生器3の例である。換言すれば、永久磁石31の回転軸RR1がシャントヨーク33の中心軸(図示せず)に略一致するように配置される。
図5Cは、磁場印加時における下方磁場発生器3の配置と磁束とを示す図であり、
図5Dは、磁場遮断時における下方磁場発生器3の配置と磁束とを示す図である。
【0044】
上記の通り、コア32は、図示しない検査容器と永久磁石31との間に固定され、シャントヨーク33は永久磁石31を挟むように配置される。永久磁石31は、回転軸RR1回りに回転可能に構成される。
図5A、
図5B、
図5C及び
図5Dに示すように、永久磁石31が回転軸RR1回りに回転することにより、永久磁石31からコア32を介して検査液200に印加する磁場のオンとオフとを切り替えることができる。永久磁石31を回転軸RR1回りに回転可能にするための構成は如何なる構成であっても良い。例えば、図示しない支持フレームにより永久磁石31は回転軸RR1回りに回転可能に支持されると良い。また、永久磁石31が回転軸RR1周りに回転するよう、永久磁石31に直接的に回転シャフトを固定しても良い。回転軸RR1は、例えば、図示しないサーボモータ等の駆動装置に接続されており、当該駆動装置は、磁場制御回路5からのオン信号又はオフ信号を受けて永久磁石31を回転軸RR1回りに所定の回転角度だけ回転する。なお、回転軸RR1は、仮想的な軸である。ここで仮想的というのは、回転軸RR1が必ずしも物理的な構造物として永久磁石31を実際に貫くことが必要なのではないことを意味する。
【0045】
図5Aと
図5Cとに示すように、永久磁石31とコア32とは、永久磁石31のN極とS極を通る長軸R1とコア32の長軸R2とが一致するように配置される。また、永久磁石31は、その長軸R1と回転軸RR1とが直交するように配置される。永久磁石31とコア32とは、永久磁石31が回転軸RR1回りに回転する際にコア32に接触しない程度の間隔D12を隔てて配置される。シャントヨーク33は、C字形状又はU字形状を有している。シャントヨーク33の開口(シャントヨーク33が取り囲む空間)の間隔D331の略中心に回転軸RR1が直交するように、シャントヨーク33と永久磁石31とが位置決めされる。換言すれば、間隔D331は、シャントヨーク33の開口を挟んで向かい合う内面33aと内面33bとの間の距離に等しい。
【0046】
図5Bと
図5Dとに示すように、シャントヨーク33の開口の間隔D331は、永久磁石31が回転軸RR1回りに回転する際にシャントヨーク33に接触しないように、永久磁石31の長軸R1に沿う長さD31に比して長く設計される。また、
図5Bに示すように、間隔D331は、永久磁石31の長軸R1がコア32の長軸R2に直交するように永久磁石31が配置された場合、永久磁石31からの磁束が漏れなくシャントヨーク33を通るように、シャントヨーク33と磁極31a及び31bとが接近するように設計される。
【0047】
図5A、
図5B、
図5C及び
図5Dに示すように、永久磁石31はシャントヨーク33の開口に配置される。具体的には、
図5Aと
図5Bとに示す配置の場合、回転軸RR1がシャントヨーク33を貫くように永久磁石31がシャントヨーク33の開口に配置される。換言すれば、
図5Cと
図5Dとに示す配置の場合、回転軸RR1がシャントヨーク33を貫かないように永久磁石31がシャントヨーク33の開口に配置される。
【0048】
図5Aと
図5Cとに示すように、永久磁石31は、検査液に磁場を印加する場合、永久磁石31のコア32に近接する磁極31aが、シャントヨーク33の開口の外部に突出するように設計及び配置されるとよい。例えば、
図5Aのように、永久磁石31の回転軸RR1がシャントヨーク33と同一面に配置された下方磁場発生器3では、永久磁石31の長軸R1に沿う長さD31は、シャントヨーク33の内面33a,33bの幅D332よりも長く設計されると良い。また、
図5Cのように、永久磁石31の回転軸RR1がシャントヨーク33を横切るように配置された下方磁場発生器3では、検査液に磁場を印加するときに永久磁石31のコア32に近接する磁極31aがシャントヨーク33の上端よりも上に突出するように永久磁石31および回転軸RR1を配置するとよい。永久磁石31のコア32に近接する磁極31aがシャントヨーク33の開口の外部に突出しない場合、永久磁石31から発生した磁束の一部がコア32ではなくシャントヨーク33に入ってしまう。このため、検査容器100内の検査液に印加する磁場の磁力が低下してしまう。上記の通り、永久磁石31のコア32に近接する磁極31aがシャントヨーク33の開口の外部に突出する場合、永久磁石31から発生した磁束の大半をコア32に通すことができる。これにより、検査容器100内の検査液に印加する磁場の磁力の低下を防止することができる。
【0049】
図5Bと
図5Dとに示すように、永久磁石31は、検査液への磁場を遮断する場合は、永久磁石31がシャントヨーク33の開口の内部に含まれるように永久磁石31とシャントヨーク33とを設計及び配置するのが良い。
図5Bのように、永久磁石31の回転軸RR1がシャントヨーク33と同一面に配置された下方磁場発生器3では、永久磁石31の磁極面31a,31bの厚み(回転軸RR1と長軸R1とに直交する軸に沿う長さ)D311は、シャントヨーク33の幅D332よりも短く設計されると良い。磁極面31a,31bの厚みD311がシャントヨーク33の幅D332よりも長い場合、永久磁石31から発生した磁束の一部がシャントヨーク33ではなくコア32に入ってしまう。このため、検査容器100内の検査液に印加する磁場の遮断能が低下してしまう。上記の通り、磁極面31a,31bの厚みD311がシャントヨーク33の幅D332よりも短い場合、永久磁石31から発生した磁束の大半をシャントヨーク33に通すことができる。これにより、検査容器100内の検査液に印加する磁場の遮断能を向上させることができる。また、
図5Dのように、永久磁石31の回転軸RR1がシャントヨーク33を横切るように配置された下方磁場発生器3では、永久磁石31の磁極面31a,31bの回転軸RR1と平行な方向の厚みD312は、シャントヨーク33の幅D332よりも短く設計されると良い。
【0050】
次に、上述の下方磁場発生器3による磁場のオンとオフとの切り替え動作について説明する。磁場をオンにする場合、磁場制御回路5はオン信号を下方磁場発生器3内の図示しない駆動装置に供給する。当該駆動装置は、
図5A又は
図5Cに示すように、永久磁石31を回転軸RR1回りに回転し、磁極面31a又は31bをコア32の底面32bに近づける。換言すれば、永久磁石31の長軸R1をコア32の長軸R2に一致させる。この時、永久磁石31で発生する磁束MF3はコア32を通り、コア32の反対側に位置する検査容器100に収納される検査液200に印加される。
【0051】
磁場をオフにする場合、磁場制御回路5は、磁場遮断信号を下方磁場発生器3内の図示しない当該駆動装置に供給する。当該駆動装置は、
図5B又は
図5Dに示すように、永久磁石31を回転軸RR1回りに回転し、磁極面31a及び31bをシャントヨーク33に近づける。より詳細には、当該駆動装置は、永久磁石31の長軸R1をコア32の長軸R2に直交させる。当該回転により、磁極31a及び31bがシャントヨーク33の内面に対向する。この時、永久磁石31で発生する磁束MF3はシャントヨーク33を通って再び永久磁石31に戻る閉ループを形成するため、コア32にはほとんど磁束が向かわず、検査容器100内部に印加される磁場は実質的に遮断される。
【0052】
なお、
図5A、
図5B、
図C及び
図5Dは、下方磁場発生器3の磁気回路として最低限必要な磁性体部品の配置を示したものであり、実際にはコア32やシャントヨーク33は非磁性の構造物によってユニット内に機械的に固定される。例えば、
図5Eは、
図5Dの下方磁場発生器3を筐体50と共に示す図である。
図5Eに示すように、コア32は、筐体50により支持される。筐体50は、略C字又はU字形状を有し、永久磁石31及びシャントヨーク33を跨ぐように配置される。コア32は、永久磁石31の上方に固定されるように筐体50に配置される。筐体50は、真鍮やアルミニウム等の非磁性の材料により形成される。また、下方磁場発生器3の構成要素としてさらにヨークを設けても良い。
【0053】
次に、本実施形態に係る検体検査装置(以下、永久磁石機と呼ぶ)と標準的な検体検査装置(以下、標準機と呼ぶ)との比較について説明する。
【0054】
図6Aは、標準機の下方磁場発生器270の構成を示す図である。標準機の下方磁場発生器270には電磁石272が用いられている。電磁石272で発生した磁束はコア271を経由して検査容器に印加され、図示しない上方磁場発生器を経由してヨーク273に戻る。標準機の下方磁場発生器270において磁場のオンとオフとは電磁石272への通電によって制御される。
【0055】
図6Bは、本実施形態に係る永久磁石機の下方磁場発生器3の構成を示す図である。下方磁場発生器3は、標準機に搭載されている電磁石の代わりに永久磁石を用いた装置である。
図6Bに示す下方磁場発生器3は、コア32、永久磁石31及びシャントヨーク33に加えて他のヨーク34を有する。ヨーク34は、略C字形状又はU字形状を有する軟磁性体である。ヨーク34は、永久磁石31とシャントヨーク33とを挟み込むように配置される。磁場オンの時、永久磁石31は鉛直に配置され、永久磁石31から発生された磁束はコア32から検査容器100に印加され、図示しない上方磁場発生器を経由してヨーク34に戻る。すなわち、永久磁石31とコア32とヨーク34とは磁気回路を構成する。永久磁石31を水平に傾けた場合、永久磁石31とシャントヨーク33との間で閉ループを形成し、磁場はオフとなる。
【0056】
標準機の下方磁場発生器と本実施形態に係る永久磁石機の下方磁場発生器とで検査容器に印加される磁場の強さを比較するため、検査容器のセンサエリア中央に相当する位置にテスラメータのプローブを挿入して磁束密度が測定された。標準機の磁束密度は、下磁場オン時において14.2mT、磁場オフ時において0.0mTであった。本実施形態に係る永久磁石機の磁束密度は、下磁場オン時において42.0mT、磁場オフ時において0.0mTであった。この通り、下方磁場発生器として電磁石を用いた標準機に比べて、本実施形態に係る永久磁石機では磁束密度が約3倍になる。
【0057】
標準機と本実施形態に係る永久磁石機とにおける、磁性粒子をセンサエリアに吸引する能力の違いを調べるため、以下の試験が行われた。試験用検体としては、インフルエンザA不活化抗原をバッファで、標準濃度から1/16に希釈したものを用いた。当該試験用検体に検出対象分子と特異的に結合する磁性粒子を加えた検査液を検査容器に注入し、標準機および永久磁石機にセットする。その後、下方磁場発生器(標準機では電磁石、永久磁石機では永久磁石)を2分間オンとして、センサエリアに結合した光導波路の光信号を計測した。
【0058】
図7は、標準機と本実施形態に係る永久磁石機とに関する光強度信号の時間変化曲線を示す図である。
図7の縦軸は検出された光強度信号を、t=0を基準に規格化して示したものである。光強度が小さいほどセンサエリアの表面に多数の磁性粒子が付着していることを示す。標準機では2分かけて光強度が約20%低下しているのに対し、永久磁石機では30秒ほどで約30%と、より急激に光強度が低下している。この結果から、永久磁石機の方が強い磁力によってより速く磁性粒子をセンサエリアに吸引していることがわかる。磁性粒子をセンサエリアに捕集するために必要な時間は、標準機で2分程度であるのが、永久磁石機では30秒程度で十分ではあると考えられる。
【0059】
次に、本実施形態に係る永久磁石機と標準機とにおける検体検出試験の比較について説明する。検体検出試験は、以下の様に行われる。検査容器をセットした後、光導波路を通って光検出器で検出される光強度を検出装置によりモニタし、光強度の低下度合いから、センサエリア表面のエバネッセント領域に存在する磁性粒子を検出・定量する。本実施形態に係る永久磁石機と標準機とを用いて検体の検出試験を実施した。検体には所定の検出対象分子(インフルエンザA不活化抗原)をバッファに希釈したものを用い、その濃度としては、標準濃度を1/16希釈したもの、1/64希釈したもの、検出対象分子なし(ブランク)の3水準とした。
【0060】
検体を検査する手順は次の通りである。工程1.検体を磁性粒子と混合し、検査容器に注入して標準機及び永久磁石機にセットする。工程2.下方磁場発生器をオンとし、磁性粒子をセンサエリアに捕集する。工程3.下方磁場発生器をオフとする。工程4.上方磁場発生器をオンとし、未反応の磁性粒子をセンサエリアから上方に移動させる。
【0061】
図8は、標準機で測定された3水準の濃度の検体に関する反応曲線を示す図である。標準機において工程2は2分、工程3は5分、工程4は30秒間行われた。ブランク、1/64希釈、1/16希釈の3通りの濃度で検査開始から450秒後、検出対象分子の濃度に応じて反応曲線の値には違いが認められた。
【0062】
図9は、本実施形態に係る永久磁石機(検体検査装置)で測定された3水準の濃度の検体に関する反応曲線を示す図である。本実施形態に係る永久磁石機において工程2(下方磁場発生器のオン)は30秒、工程3は5分、工程4は30秒間行われた。標準機に比べて検査時間が短縮されているにも拘らず、ブランク、1/64希釈、1/16希釈の3通りの濃度で反応曲線に明確な違いが認められ、検査開始から360秒後、検出対象分子の濃度に応じて反応曲線の値は異なり、標準機と同程度の感度性能を示していることがわかる。以上により、本実施形態に係る下方磁場発生器を用いることにより、検査感度を保ちつつ、検査時間を短縮できることが確認された。
【0063】
上記の説明の通り、本実施形態に係る検体検査装置は、少なくとも検出装置6、上方磁場発生器2及び下方磁場発生器3を有する。検出装置6は、検査容器100内の検査液200に含まれ、検査容器100内のセンサエリア120に捕集された磁性粒子220に結合された対象物質を検出する。上方磁場発生器2は、検査液200に含まれる磁性粒子220をセンサエリア120から引き離すための第1の磁場を印加する。上方磁場発生器2は、第1の磁場の印加と遮断とを切り替える。下方磁場発生器3は、検査液200に含まれる磁性粒子220をセンサエリア120に引き寄せるための第2の磁場を発生する永久磁石31と、永久磁石31により励磁されるコア32と、永久磁石31からの磁束を短絡するシャントヨーク33とを有する。下方磁場発生器3は、永久磁石31をコア32とシャントヨーク33とに対して移動させることにより、第2の磁場の印加と遮断とを切り替える。
【0064】
上記の構成により、下方磁場発生器3は、永久磁石31を移動させることにより、永久磁石31からの磁場をコア32に担磁して検査液に磁場を印加することができる。また、下方磁場発生器3は、永久磁石31を移動させることにより、永久磁石31からの磁束をシャントヨーク33により短絡して永久磁石31から検査液への磁場を遮断することができる。磁場をオンからオフに切り替える際、永久磁石31が移動するとコア32から検査容器100に向かう磁束は減少するものの磁場分布はほとんど歪まないため、センサエリア120上における磁性粒子220の分布の歪みを抑制することができる。すなわち、磁場をオンからオフに切り替える動作によっても磁性粒子の分布を歪ませることはなく、磁場オフ時に磁性粒子に印加される磁束密度を小さく抑えることができ、磁性粒子のセンサエリア120への結合反応効率を高くすることができる。
【0065】
また、永久磁石31の長軸方向の長さをシャントヨーク33の幅よりも長くすることにより、永久磁石31から発生する磁束の略全てをコア32に通すことができる。そのため、永久磁石31の長軸方向の長さがシャントヨーク33の幅の長さよりも短い場合に比して、検査液に印加する磁場の強度を高くすることができる。よって、磁性粒子を捕集するために磁場を印加する際は検査液に高い磁束密度を与えて磁性粒子を迅速かつ効率的に捕集することができる。
【0066】
また、磁場のオンとオフとを切り替え可能な磁石として、本実施形態に係る永久磁石31の代わりに電磁石を用いる場合が考えられる。電磁石により永久磁石31と同等の磁束密度を得る場合、コイルの巻き数を増やすかコイルに流す電流を大きくする必要がある。従って、電磁石で高い磁束密度を得ようとすると、磁場発生部の寸法が大きくなり、また消費電力が大きく発熱してしまう。そのため、本実施形態に係る下方磁場発生器3は、電磁石の代わりに永久磁石31を用いることにより、下方磁場発生器3の全体の寸法を縮小させ、且つ消費電力を少なくすることができる。よって、コンパクトで消費電力の小さい簡易型の検体検査装置を製造することができる。
【0067】
かくして、本実施形態によれば、高感度かつ定量的な検査結果を高精度且つ迅速に得ることが可能となる。ひいては、検査時間、より詳細には、下方磁場発生器3による磁場のオンの時間を短縮し、検査のスループットを向上することができる。
【0068】
(応用例1)
下方磁場発生器3においては、磁場オンにおいて永久磁石31はコア32と磁力によって強く引き合っており、また磁場オフにおいて永久磁石31はシャントヨーク33と磁力によって強く引き合っている。そのため、下方磁場発生器3の磁場をオンからオフに切り替える際は、永久磁石31をコア32から引き離すときに抵抗力が発生し、永久磁石31がシャントヨーク33に近づくと吸引力が発生する。また、下方磁場発生器3の磁場をオフからオンに切り替える際は、永久磁石31をシャントヨーク33から引き離すときに抵抗力が発生し、永久磁石31がコア32に近づくと吸引力が発生する。このように、永久磁石31をコア32とシャントヨーク33との間で移動させるときに当該移動に対する抵抗トルクが発生するため、当該抵抗トルクに勝る動作パワーで永久磁石31を移動させる必要がある。これは、永久磁石31を移動させる駆動装置の大型化、消費電力増大及びコストアップを招く。
【0069】
図10は、本実施形態の応用例1に係る検体検査装置の構成を示す図である。
図10に示すように、応用例1に係る検体検査装置は、演算回路1、上方磁場発生器2、下方磁場発生器3、支持フレーム4、磁場制御回路5、検出装置6、表示回路7、入力回路8及び記憶回路9の他に、更にトルク低減磁気回路10を有する。トルク低減磁気回路10は、下方磁場発生器3に含まれる永久磁石31からの磁場の印加と遮断との切り替えに伴い発生するトルクを打ち消すためのトルクを発生する。トルク低減磁気回路10は、下方磁場発生器3に設けられる磁気回路である。
【0070】
図11A、
図11B及び
図11Cは、永久磁石31をスライドするタイプの下方磁場発生器3とトルク低減磁気回路10との詳細な配置を示す断面図である。
図11Aは磁場オンにおける下方磁場発生器3とトルク低減磁気回路10との詳細な配置を示す断面図であり、
図11Bは磁場オフにおける下方磁場発生器3とトルク低減磁気回路10との詳細な配置を示す断面図であり、
図11Cは磁場オンと磁場オフとの間における下方磁場発生器3とトルク低減磁気回路10との詳細な配置を示す断面図である。
図11A、
図11B及び
図11Cに示すように、トルク低減磁気回路10は、永久磁石11とヨーク13(第3の軟磁性体)とを有する。永久磁石11は、永久磁石31と略同一形態を有する。ヨーク13は、永久磁石11で発生した磁束をヨーク13内に閉じ込めることによって、下方磁場発生器3から検査容器100に印加される磁場に及ぼす影響を抑える。ヨーク13は、永久磁石11を取り囲み可能にC字形状、U字形状又は環形状を有する軟磁性体である。
【0071】
図12A、
図12B、
図12C、
図12D及び
図12Eは、永久磁石11をスライドするタイプの下方磁場発生器3に設けられるトルク低減磁気回路10の詳細な構造を示す図である。
図12Aは、C字形状又はU字形状を有するヨーク13を有するトルク低減磁気回路10の斜視図である。
図12Bは、環形状を有するヨーク13を有するトルク低減磁気回路10の斜視図である。
図12Cは、
図12AのAA′断面を示す図である。
図12Dは、
図12BのAA′断面を示す図である。
図12Eは、
図12A及び
図12BのBB′断面を示す図である。
図12A、
図12B、
図12C、
図12D及び
図12Eに示すように、ヨーク13は、永久磁石11の磁極と対向する内面13a、13a′、13b、13b′、13c、13c′を有する。内面13bと13b′との間隔は、内面13aと13a′との間隔、及び内面13cと13c′との間隔より狭くなるよう、段差をつけてヨーク13の内面が加工形成される。永久磁石11が内面13b及び13b′に対向して位置しているときは永久磁石11と内面13b及び13b′との間隔は狭く、永久磁石11が内面13a′及び13a′、又は13c及び13c′に対向して位置しているときは永久磁石11と内面13a′及び13a′、又は13c及び13c′との間隔は広くなる。
【0072】
永久磁石11は、非磁性の接続アーム15を介して永久磁石31に対して機械的に固定されている。永久磁石11が接続アーム15を介して永久磁石31に固定されているため、永久磁石11は永久磁石31に連動し、ヨーク13のC字形状、U字形状又は環形状が取り囲む空間(開口)の内部においてスライドする。永久磁石31がコア32に近接した状態(磁場オン)では永久磁石11はヨーク13の内面13c及び13c′に対向し(
図11A)、永久磁石31はシャントヨーク33に近接した状態(磁場オフ)では永久磁石11がヨーク13の内面13a及び13a′に対向し(
図11B)、そして永久磁石31がコア32とシャントヨーク33の中間位置にあるときに永久磁石11はヨーク13の内面13b及び13b′に対向する(
図11C)ように配置される。当該配置により、永久磁石31をコア32から離すときの抵抗力が永久磁石11とヨーク13との引力によって打ち消され、また永久磁石31をシャントヨーク33から離すときの抵抗力は永久磁石11とヨーク13との引力によって打ち消される。これにより、下方磁場発生器3による磁場のオンとオフとの切り替え動作を小さい動力で行うことができる。
【0073】
トルク低減磁気回路10のヨーク13を
図12A、
図12B、
図12C、
図12D及び
図12Eに示したような構造とすることによって、磁場の切り替え動作で永久磁石11がスライドしても、永久磁石11はヨーク13の開口(ヨーク13に取り囲まれた空間)の内部にあるため、永久磁石11で発生した磁束はヨーク13によって遮断される。また、トルク低減磁気回路10を構成する永久磁石11とヨーク13とは、コア32と永久磁石31とシャントヨーク33とから所定の距離以上離して配置すると良い。当該配置により、永久磁石11から発生する磁束による、検査容器100に印加する磁場への影響を低減することができる。
【0074】
ヨーク13の永久磁石11に向かう内面13a、13a′、13b、13b′、13c、13c′の形状は、以上の条件を満たせばよく、
図12A、
図12B、
図12C、
図12D及び
図12Eに示す形状に限定されるものではない。また、永久磁石31と永久磁石11とは、各々が発生した磁場が相手側に及ぼす影響を無視できる程度に所定の距離だけ離れた位置関係であれば良い。例えば、永久磁石11と永久磁石31とはそれぞれの磁化の向きが異なってもよい。ただし、一方のN極から出た磁束が相手側のS極に流れ込むのを防ぐため、永久磁石11と永久磁石31とは、磁極が互いに同じ向きに配置されると良い。なお、
図11A、
図11B、
図11C、
図12A、
図12B、
図12C、
図12D及び
図12Eは磁気回路の構成部品とその配置を示したに過ぎず、実際には各部品を固定する治具や可動機構等も含んでも良い。
【0075】
図13A、
図13B及び
図13Cは、永久磁石31を回転するタイプの下方磁場発生器3とトルク低減磁気回路10との詳細な配置を示す図である。
図13Aは磁場オンにおける下方磁場発生器3とトルク低減磁気回路10との詳細な配置を示す図であり、
図13Bは磁場オフにおける下方磁場発生器3とトルク低減磁気回路10との詳細な配置を示す図であり、
図13Cは磁場オンと磁場オフとの間における下方磁場発生器3とトルク低減磁気回路10との詳細な配置を示す図である。
図13A、
図13B及び
図13Cに示すように、下方磁場発生器3の永久磁石31とトルク低減磁気回路10の永久磁石11とは、永久磁石31の回転軸RR1と永久磁石11の回転軸RR2とが同軸上に配置されるように配置される。下方磁場発生器3の永久磁石31とトルク低減磁気回路10の永久磁石11とは、同時に同方向に回転するように、図示しない接続アーム230に機械的に接続される。例えば、永久磁石11と永久磁石31とは回転軸RR1,RR2回りに関して同一角度を保つように接続アーム230に接続されると良い。接続アーム230は、永久磁石11からの磁場の乱れを防止するため、非磁性を有する素材により形成されると良い。
【0076】
ヨーク13は、永久磁石11を取り囲み可能に環形状を有する軟磁性体である。ヨーク13は、その環形状の中心軸が回転軸RR2に一致するように配置される。ヨーク13は、永久磁石11で発生した磁束をヨーク13内に閉じ込めることによって、下方磁場発生器3から検査容器100に印加される磁場に及ぼす影響を抑える。ヨーク13の開口の径は、永久磁石11の回転軸RR2回りの回転に伴い当該永久磁石11の磁極面11a及び11bと面13aとの間隔D13が変化するように、中心軸(回転軸RR2)回りの角度に応じて異なる長さを有する。具体的には、永久磁石31がコア32に近接している状態、すなわち下方磁場発生器3の磁場をオンにした状態(
図13A)と、永久磁石31がシャントヨーク33に近接している状態、すなわち第1磁場発生ユニットの磁場をオフにした状態(
図13B)において、間隔D13が最も長くなり、また永久磁石31がコア32とシャントヨーク33との何れにも近接していない、磁場オンとオフとの切り替え途中の状態(
図13C)において、永久磁石11の磁極11a及び11bとヨーク13との間隔D13が最も短くなるような形に加工されている。
【0077】
ヨーク13の永久磁石11に向かう面13aの形状は、以上の条件を満たせばよく、
図13A及び
図13Bに示す形状に限定されるものではない。また、永久磁石31と永久磁石11とは、各々が発生した磁場が相手側に及ぼす影響を無視できる程度に所定の距離だけ離れた位置関係であれば良い。例えば、永久磁石11と永久磁石31とは回転軸RR1及びRR2回りに関して異なる回転角度に保たれても良い。ただし、一方のN極から出た磁束が相手側のS極に流れ込むのを防ぐため、永久磁石11と永久磁石31とは、磁極が互いに同じ向きに配置されると良い。なお、
図13A、
図13B及び
図13Cは磁気回路の構成部品とその配置を示したに過ぎず、実際には各部品を固定する治具や、永久磁石31と永久磁石11とを結合して同時に回転軸RR1の周りを回転させる接続アーム230や可動機構等も含んでも良い。
【0078】
次に、トルク低減磁気回路10によるトルク低減効果について説明する。トルク低減磁気回路10なしの下方磁場発生器3とトルク低減磁気回路10付きの下方磁場発生器3とのトルク低減効果を比較する。
図14Aは、トルク低減磁気回路10なしの下方磁場発生器3の構造を示し、
図14Bは、トルク低減磁気回路10付きの下方磁場発生器3の構造を示す。なお、
図14A及び
図14Bは磁気回路を構成する磁性体の配置を示すものであり、実際には各磁性体部品を固定する非磁性の部品が追加される。
図14Bに示されるトルク低減磁気回路10付きの下方磁場発生器3においては、永久磁石31と永久磁石11とは14Bには示されていない非磁性の接続アーム230によって機械的に固定されている。そのため永久磁石31と永久磁石11とは同時に同方向に回転する。
【0079】
図15は、
図14A及び
図14B各々の磁気回路について永久磁石31の回転に伴うトルクの変化を示す図である。
図15において、永久磁石31が垂直方向(磁場オン)の状態を回転角0°、水平方向(磁場オフ)を回転角90°とする。トルクの値は、磁場をオンからオフに切り替える場合(回転角0°→90°)は負の方向が回転に対する抵抗力、磁場をオフからオンに切り替える場合(回転角90°→0°)は正の方向が回転に対する抵抗力となる。トルク低減磁気回路10なしの下方磁場発生器3(
図14A)に比べて、トルク低減磁気回路10付きの下方磁場発生器3(
図14B)では回転トルクが著しく低下しており、磁場オン・オフ切り替えに要する駆動力は小さくて済む。そのため本実施形態に係る検体検査装置は、小型で安価な可動機構で永久磁石31を動作させることができる。
【0080】
(応用例2)
上記の実施形態において下方磁場発生器3には、単一のトルク低減磁気回路10が設けられるとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。応用例2に係る下方磁場発生器3には、二つのトルク低減磁気回路11及びトルク低減磁気回路11’が設けられる。なお以下の説明において、上記実施形態と略同一の機能を有する構成要素については、同一符号を付し、必要な場合にのみ重複説明する。
【0081】
図16は、応用例2に係る検体検査装置の構成を示す図である。
図16に示すように、応用例2に係る検体検査装置は、演算回路1、上方磁場発生器2、下方磁場発生器3、支持フレーム4、磁場制御回路5、検出装置6、表示回路7、入力回路8及び記憶回路9の他に、更にトルク低減磁気回路11及びトルク低減磁気回路11’を有する。トルク低減磁気回路11及び11’は、下方磁場発生器3に含まれる永久磁石31からの磁場の印加と遮断との切り替えに伴い発生するトルクを打ち消すためのトルクを発生する。トルク低減磁気回路11及び11’は、下方磁場発生器3に設けられる磁気回路である。
【0082】
図17は、応用例2に係る検査容器100、上方磁場発生器2、下方磁場発生器3、トルク低減磁気回路11及びトルク低減磁気回路11’の配置を示す図である。
図18は、下方磁場発生器3、トルク低減磁気回路11及びトルク低減磁気回路11’の配置を示す斜視図である。
図17及び
図18に記載されているトルク低減磁気回路11及びトルク低減磁気回路11’以外の他の構成要素は、
図2に記載の構成要素と略同一である。また、
図17及び
図18に記載されているトルク低減磁気回路11及びトルク低減磁気回路11’各々の構成は、応用例1に係るトルク低減磁気回路10と同一である。
【0083】
図17及び
図18に示すように、トルク低減磁気回路11は、環状ヨーク13と永久磁石12とを有し、トルク低減磁気回路11’は、環状ヨーク13’と永久磁石12’とを有する。永久磁石12及び12’の材料は、下方磁場発生器3により発生するトルクをキャンセルするため、永久磁石31の材質に合わせて、コスト等も考慮して選択さればよい。例えば、永久磁石12及び12’としては、フェライト磁石やアルニコ磁石、サマリウムコバルト磁石、ネオジム磁石等の既存の如何なる永久磁石が適用可能である。永久磁石12及び12’は、非磁性の材質を有する部材によって永久磁石31と機械的に固定され、永久磁石31と共に回転軸RR1の周りを回転可能に構成される。環状ヨーク13は、永久磁石12を取り囲む軟磁性体であって、その環形状の中心軸が永久磁石12の回転軸RR1に一致するように配置される。同様に、環状ヨーク13’は、永久磁石12’を取り囲む軟磁性体であって、その環形状の中心軸が永久磁石12’の回転軸RR1に一致するように配置される。
【0084】
図18に示すように、永久磁石12及び12’の横幅は環状ヨーク13及び13’の横幅と同程度以下とする。この寸法により、環状ヨーク13及び13’は、永久磁石12及び12’で発生した磁束を環状ヨーク13及び日13’内に閉じ込めることができる。従って、環状ヨーク13及び13’は、下方磁場発生器3から検査容器100に印加される磁場にトルク低減磁気回路11及び11’が及ぼす影響を抑えることができる。シャントヨーク33、コア32及び環状ヨーク13及び13’の軟磁性体の材質には、一般構造用圧延鋼材などの、安価で入手性が良好、かつ磁気特性が比較的よく揃っている材料を用いればよい。
【0085】
図18に示すように、トルク低減磁気回路11を構成する環状ヨーク13の開口の径は、永久磁石12の回転軸RR1回りの回転に伴い、永久磁石12の磁極面12a及び12bと内面13aとの間隔D13が変化するように、回転軸RR1回りの角度に応じて異なる長さを有する。具体的には、永久磁石31がコア32に近接している状態、すなわち下方磁場発生器3の磁場をオンにした状態(例えば、
図5C)と、永久磁石31がシャントヨーク33に近接している状態、すなわち下方磁場発生器3の磁場をオフにした状態(例えば、
図5D)において、間隔D13が最も長くなるように環状ヨーク13及び13’の内面13aが形成される。また、永久磁石31がコア32とシャントヨーク33との何れにも近接していない、磁場オンとオフとの切り替え途中の状態(例えば、
図18)において、間隔D13が最も短くなるように環状ヨーク13及び13’の内面13aが形成される。環状ヨーク13の永久磁石12に向かう面13aの形状は、上記条件を満たせばよく、
図18に示す形状に限定されるものではない。トルク低減磁気回路11’の環状ヨーク13’の形状、及び永久磁石12’の磁極と環状ヨーク13’の開口の径の関係は、トルク低減磁気回路11の場合と同等である。
【0086】
永久磁石31と永久磁石12、及び永久磁石31と永久磁石12’とは、各々が発生した磁場が相手側に及ぼす影響を無視できる程度に所定の距離だけ離れた位置に配置される。永久磁石12及び12’と永久磁石31とは回転軸RR1回りに関して互いに異なる回転角度に保たれても良い。ただし、一方のN極から出た磁束が相手側のS極に流れ込むことを防ぐため、永久磁石12及び12’と永久磁石31とは、磁極が互いに同じ向きに配置されると良い。
【0087】
なお、
図18は、磁気回路の構成部品とその配置を示したに過ぎず、実際には各部品を固定する治具や、永久磁石31と永久磁石12及び12’とを結合して同時に回転軸RR1の周りを回転させる接続アームや可動機構等も含んでも良い。例えば、
図19に示すように、下方磁場発生器3、トルク低減磁気回路11及びトルク低減磁気回路11’は、筐体60に収容される。筐体60は、真鍮やアルミニウム等の非磁性の材質を有する部材により形成される。筐体60は、下方磁場発生器3の永久磁石31、トルク低減磁気回路11の永久磁石12及びトルク低減磁気回路11’の永久磁石12’を回転軸RR1回りに一体に回転可能に支持する。
【0088】
2つのトルク低減磁気回路11及び11’は、
図18に示すように、下方磁場発生器3を挟んで対向するように設置される。この配置により、下方磁場発生器3の中央で発生する回転トルクが、その両側のトルク低減磁気回路11及び11’で発生する回転トルクによって左右で打ち消され、ねじれの発生を低減することができる。
【0089】
更に、下方磁場発生器3は、その中心を通り回転軸RR1に垂直な仮想的な断面S(
図17に示す)に対して、永久磁石31、コア32及びシャントヨーク33が対称になる幾何学的配置を有する。また、2つのトルク低減磁気回路11とトルク低減磁気回路11’とが実質的に同一の構造を有し、かつ下方磁場発生器3を挟んで面Sから等距離に配置することによって、下方磁場発生器3が全体として面Sに対して対称な磁気回路を形成する。また、下方磁場発生器3は、コア32の中心軸が検査液200及びセンサエリア120の中央と一致するように検査容器100に対して配置される。このように下方磁場発生器3を構成および配置することによって、下方磁場発生器3の中央の永久磁石31で発生する回転トルクは、その両側のトルク低減磁気回路11及び11’で発生する回転トルクによって打ち消され、2つのトルク低減磁気回路11及び11’で発生するトルクが等しいためトルク低減に伴うねじれは発生しない。また、このとき下方磁場発生器3の磁気回路が全体として面Sに対して対称的なので、下方磁場発生器3の磁場をオンした際に検査液200内およびセンサエリア120上に形成される磁場分布は対称的になる。その結果、磁場によってセンサエリア120により捕集される磁性粒子の分布の偏りが軽減され、より均一に粒子が分布するため、センサエリア120表面に磁性粒子が効率的に結合反応することができ、検査感度が向上する。
【0090】
(応用例3)
応用例3に係る検体検査装置において、下方磁場発生器3の永久磁石31のシャントヨーク33に対向する磁極31bと、シャントヨーク33の永久磁石31の磁極31bに対向する内面33aとの距離が、永久磁石31の回転軸RR1周りの回転によってもほぼ一定を保つように、シャントヨーク33の永久磁石31の磁極31bに対向する内面33aが形成される。以下、応用例3に係る検体検査装置について詳細に説明する。なお以下の説明において、上記実施形態と略同一の機能を有する構成要素については、同一符号を付し、必要な場合にのみ重複説明する。
【0091】
図20A及び
図20Bは、下方磁場発生器3のシャントヨーク33の内面の形状によって永久磁石31の回転トルクが異なることを示す図である。
図20A及び
図20Bは、永久磁石31が時計回りに回転して磁場オンから磁場オフに切り替わる途中の様子を示す断面図である。
図20Aに係るシャントヨーク33は、略直角に折れ曲がるU字形状を有する。この場合、永久磁石31のシャントヨーク33に対向する磁極31a及び31bと、シャントヨーク33の永久磁石31の磁極31a及び31bに対向する内面33aとの距離は、永久磁石31の回転軸RR1周りの回転に応じて変化する。従って、磁場オンから磁場オフに切り替わる途中において、永久磁石31の磁極31aはコア32の磁石対向面32bから遠ざかり、磁極31bはシャントヨーク33の永久磁石31に向かう内面33aから遠ざかる。そのため、
図20Aに示すように、磁極31a及び31bの2か所で回転の向きと反対向きの磁気的な抵抗力t1及びt2が働く。そのため永久磁石31を回転して磁場を切り替えるためには、抵抗力t1及びt2に勝る大きな回転トルクを要する。
【0092】
これに対し、
図20Bのように、応用例3に係るシャントヨーク33の内面33aは、永久磁石31の磁極31bと内面33aとの距離が、永久磁石31の回転に関わらず実質的に変化しないよう形状を有する。より具体的には、内面33aの回転軸RR1よりも下方の部分が、回転軸RR1を中心とする半円形状に形成される。当該形状により、永久磁石31が回転軸RR1周りに回転しても、永久磁石31の磁極31bとシャントヨーク33との間に作用する磁力の向きと永久磁石31の回転方向とは直交を保ち続けるため、回転に対する抵抗力は発生しない。そのため、
図20Bの場合はt1に示すように永久磁石31の磁極31aとコア32との間の引力のみが回転トルクに寄与するため、
図20Aに比べて回転トルクは半減する。
【0093】
応用例3のように、下方磁場発生器3で発生する回転トルクを小さくすることができれば、トルク低減磁気回路11及びトルク低減磁気回路11’もそれに合わせて小さくすることができ、さらに永久磁石31、12、12’を回転駆動する駆動装置も小型化できる。そのため、本実施形態に係る検体検査装置のサイズを全体として小さくすることができ、製造コストや消費電力を抑制することが可能になる。これによって磁場オン・オフの切り替え駆動が容易な、小型の検体検査装置を実現することが可能になる。
【0094】
(応用例4)
応用例4に係る検体検査装置においてシャントヨーク33は、トルク低減磁気回路11の環状ヨーク13及びトルク低減磁気回路11’の環状ヨーク13’の少なくとも一方に磁気的に接続される。以下、応用例4に係る検体検査装置について詳細に説明する。なお以下の説明において、上記実施形態と略同一の機能を有する構成要素については、同一符号を付し、必要な場合にのみ重複説明する。
【0095】
図21Aは、シャントヨーク33と環状ヨーク13及び13’とが磁気的に接続されていない下方磁場発生器3、トルク低減磁気回路11及びトルク低減磁気回路11’の斜視図である。
図21Bは磁場オフ時の
図21Aの横断面図に磁束を重ねて示す図であり、
図21Cは
図21Bの平面図である。
【0096】
図21Bに示すように、磁場オフ時において永久磁石31は横向きになり、永久磁石31の磁極から発生する磁束MF1の大半はシャントヨーク内部を通って永久磁石31の反対側の磁極に戻る閉ループを形成する。しかしながら、永久磁石31の磁極から発生する磁束MF1のうちのごく一部の磁束は、シャントヨーク33の末端やコア32から漏れ出し、検査容器100への漏れ磁場となる。この漏れ磁場は、磁場オンによってセンサエリア120に集められた磁性粒子220に対し、磁場オフの状態でも僅かに磁化を与える。その結果、磁性粒子220に磁力が作用したり磁性粒子220同士の凝集が促進されたりするため磁性粒子220の熱運動が妨げられ、磁性粒子220のセンサエリア120への結合反応を阻害する要因となる。漏れ磁場を低減するためには、シャントヨーク33の材質をより透磁率の大きい材料に替えたり、シャントヨーク33を大きくして磁束が通る断面積を実質的に拡大する方法がある。ただし、透磁率が大きい材料は一般に高価であり、またシャントヨーク33を大きくすると装置全体が大きく重くなるなど、コストアップにつながる。
【0097】
図22Aは、シャントヨーク33と環状ヨーク13及び13’とが磁気的に接続された下方磁場発生器3、トルク低減磁気回路11及びトルク低減磁気回路11’の斜視図である。
図22Bは磁場オフ時の
図22Aの横断面図に磁束を重ねて示す図であり、
図22Cは
図22Bの平面図である。
【0098】
図22A、
図22B及び
図22Cに示すように、シャントヨーク33と環状ヨーク13とが接続ヨーク15a及び15bにより磁気的に接続され、シャントヨーク33と環状ヨーク13’とが接続ヨーク15c及び15dにより磁気的に接続さている。ここで、磁気的に接続するとは、例えばシャントヨーク33と接続ヨーク15a、および接続ヨーク15aと環状ヨーク13とが物理的に接触して、または非常に近接して配置されることによって、シャントヨーク33から接続ヨーク15aを通して環状ヨーク13へと磁束が通りやすくなる状態を指す。接続ヨーク15a、15b、15c及び15dの材質は、シャントヨーク33や環状ヨーク13、及び13’と同等の軟磁性体でよい。また、接続ヨーク15a、15b、15c及び15dは、それぞれ独立した軟磁性体部品でもよいし、シャントヨーク33又は環状ヨーク13及び13’の何れかと一体化した構造の一部としてもよい。
【0099】
図22B及び
図22Cに示すように、磁場オフでは永久磁石31から出た磁束は、シャントヨーク33の内部を通って永久磁石31に戻る閉ループMF1だけでなく、接続ヨーク15a、環状ヨーク13、接続ヨーク15bを通って永久磁石31に戻る閉ループMF2と、接続ヨーク15c、環状ヨーク13’、接続ヨーク15dを通って永久磁石31に戻る閉ループMF3が形成される。このように応用例4に係る検体検査装置は、磁場オフ時において永久磁石31から発生する磁束を閉じ込める経路をより多く持つため、
図21A、
図21B及び
図21Cに示すような接続ヨークを有さない検体検査装置に比して、漏れ磁場が小さい。
【0100】
上述の下方磁場発生器3による磁場のオンとオフとの切り替え動作について説明する。磁場をオンにする場合、磁場制御回路5はオン信号を下方磁場発生器3内の図示しない駆動装置に供給する。当該駆動装置は、
図18に示すように、永久磁石31を回転軸RR1回りに回転し、磁極面31a又は31bをコア32の底面32bに近づける。換言すれば、永久磁石31の長軸R1をコア32の長軸R2に一致させる。この時、永久磁石31で発生する磁束MF3はコア32を通り、コア32の反対側に位置する検査容器100に収納される検査液200に印加される。
【0101】
磁場をオフにする場合、磁場制御回路5は磁場遮断信号を下方磁場発生器3内の図示しない当該駆動装置に供給する。当該駆動装置は、
図18に示すように、永久磁石31を回転軸RR1回りに回転し、磁極面31a及び31bをシャントヨーク33に近づける。より詳細には、当該駆動装置は永久磁石31の長軸R1をコア32の長軸R2に直交させる。当該回転により、磁極31a及び31bがシャントヨーク33の内面に対向する。この時、永久磁石31で発生する磁束MF3はシャントヨーク33を通って再び永久磁石31に戻る閉ループを形成するため、コア32にはほとんど磁束が向かわず、検査容器100内部に印加される磁場は実質的に遮断される。
【0102】
磁場をオンにする場合もオフにする場合も、トルク低減磁気回路11及び11’に含まれる永久磁石12及び12’は、
図18に示すように永久磁石31と一体に回転軸RR1回りを同方向に回転し、下方磁場発生器3で発生する抵抗トルクを低減するためのトルクを発生する。
【0103】
なお、
図21A、
図21B、
図21C、
図22A、
図22B及び
図22Cは、下方磁場発生器3の磁気回路として最低限必要な磁性体部品の配置を示したものであり、実際にはコア32やシャントヨーク33、環状ヨーク13及び13’、接続ヨーク15a、15b、15c及び15dは、非磁性の構造物によって磁性体部品どうしで互いに固定され、あるいはユニット内に機械的に固定される。また、永久磁石31、12及び12’は、非磁性の構造物によって固定されて一体の回転体を形成し、この回転体が環状ヨーク13及び13’、シャントヨーク33の中で回転軸RR1の周りを回転するように、ベアリング等によって制限された空間に配置される。更に、この回転体は駆動装置に接続され、磁場制御回路5の制御によって回転することにより、磁場のオン・オフを切り替えることができる。
【0104】
(応用例5)
上記の実施形態において磁場制御回路5は、上方磁場発生器2からの磁場と下方磁場発生器3からの磁場とを交互に検査液に印加するものとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。応用例5に係る磁場制御回路5は、上方磁場発生器2からの磁場と下方磁場発生器3からの磁場とを同時に検査液に印加することが可能であるとする。
【0105】
図23は、応用例5に係る検体検査装置の構成を示す図である。
図23に示すように、磁場制御回路5は、下方磁場発生器3の磁場をオンする際、上方磁場発生器2の磁場も同時にオンするように上方磁場発生器2と下方磁場発生器3とを制御する。その結果、下方磁場発生器3から発生する磁場と上方磁場発生器2から発生する磁場との合成磁場が検査液200に印加される。
【0106】
図24は、上方磁場発生器2の配置を詳細に示した検体検査装置の構成を示す図である。
図24に示すように、上方磁場発生器2は電磁石により実現される。電磁石2は電磁気的な原理に従い磁場を印加する。電磁石2は、磁場制御回路5による制御に従い磁場の印加と遮断とを切り替えることができる。具体的には、電磁石2は、コイル21に巻き付けられたコア22を有する。コア22は、柱状形状を有する軟磁性体である。磁場制御回路5がコイル21に電流を通すことにより磁場が発生し、電流を遮断することにより磁場が消失する。
【0107】
下方磁場発生器3を単独でオンした場合に比して、上方磁場発生器2と下方磁場発生器3とを同時にオンした場合、検査液200に含まれている磁性粒子220に及ぼす磁力の効果は次の通りである。コア32の検査容器100に対向する面32aの磁極と、コア22の検査容器100に対向する面22aの磁極とが異極、すなわちSN対向またはNS対向の場合、上方磁場発生器2と下方磁場発生器3とを同時にオンすることにより検査液200中の磁束密度は増加し、磁束密度勾配は減少する。これらの磁極が同極、すなわちSS対向またはNN対向の場合、上方磁場発生器2と下方磁場発生器3とを同時にオンすることによって検査液200中の磁束密度は減少し、磁束密度勾配は増加する。磁性粒子220に作用する磁力は、各磁性粒子の位置における磁束密度と磁束密度勾配との積に比例するため、下方磁場発生器3と上方磁場発生器2とを、対向する磁極が同極あるいは異極になるように同時にオンすることによって、下方磁場発生器3単独で磁場をオンする場合よりも磁性粒子220に作用する磁力を大きくしたり小さくしたりすることができる。磁性粒子220に作用する磁力が大きくなる場合は、下方磁場発生器3単独で磁場をオンする場合よりも磁性粒子220をさらに早くセンサエリア120に捕集することができ、検査時間を短縮することができる。また、検査時間を短縮する必要がない場合は、その分だけ永久磁石31を表面磁束密度の小さなものに替えることができ、その結果、下方磁場発生器3のオンとオフとの切り替えに伴い発生するトルクを低減することができる。
【0108】
永久磁石31を利用して磁場のオンとオフとを切り替える下方磁場発生器3は、強い磁場を印加することには優れているが、磁力の調節は困難である。このため、磁場制御回路5は、磁性粒子220をセンサエリア120に吸引するための磁場を印加するため、下方磁場発生器3からの磁場と上方磁場発生器2からの磁場との合成磁場を印加するものとする。電磁石2に流す電流の電気量(電流値)を制御することにより磁場制御回路5は、磁性粒子220をセンサエリア120に吸引するための合成磁場の磁力を調節する。
【0109】
この磁力可変機構は、複数の異なる検査対象物質を検出する場合に利用できる。すなわち、検査対象物質が、磁性粒子220に固定された第1物質との特異的な反応に時間を要するものである場合、磁場制御回路5は、磁力を弱くして磁性粒子220が検査液200中に分散している状態を長く保つようにして検査対象物質と第1物質との反応率を向上させる。また、検出対象分子411が磁性粒子220に固定された第1物質421との特異的な反応を比較的速く完了するものである場合、磁場制御回路5は、磁力を強くして磁性粒子220をセンサエリア120に速く捕集し、検査時間を短縮する。これによって、検出対象分子や検出対象分子と反応させる磁性粒子等の検出試薬の特性に応じて磁力を適切に設定し、効率的に検体検査を実施することができる。
【0110】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。