(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
まず、本発明に係る結晶構造制御方法を実施する際に必要となる熱処理を実行する熱処理装置について説明する。
図1は、本発明に係る結晶構造制御方法に使用する熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。
図1の熱処理装置1は、円板形状の基板Wに対してフラッシュ光照射を行うことによってその基板Wを加熱するフラッシュランプアニール装置である。処理対象となる基板Wのサイズは特に限定されるものではないが、例えばφ300mmやφ450mmである。なお、
図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0015】
熱処理装置1は、基板Wを収容するチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するフラッシュ加熱部5と、複数のハロゲンランプHLを内蔵するハロゲン加熱部4と、を備える。チャンバー6の上側にフラッシュ加熱部5が設けられるとともに、下側にハロゲン加熱部4が設けられている。また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部に、基板Wを水平姿勢に保持する保持部7と、保持部7と装置外部との間で基板Wの受け渡しを行う移載機構10と、を備える。さらに、熱処理装置1は、ハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6に設けられた各動作機構を制御して基板Wの熱処理を実行させる制御部3を備える。
【0016】
チャンバー6は、筒状のチャンバー側部61の上下に石英製のチャンバー窓を装着して構成されている。チャンバー側部61は上下が開口された概略筒形状を有しており、上側開口には上側チャンバー窓63が装着されて閉塞され、下側開口には下側チャンバー窓64が装着されて閉塞されている。チャンバー6の天井部を構成する上側チャンバー窓63は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ加熱部5から出射されたフラッシュ光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。また、チャンバー6の床部を構成する下側チャンバー窓64も、石英により形成された円板形状部材であり、ハロゲン加熱部4からの光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。
【0017】
また、チャンバー側部61の内側の壁面の上部には反射リング68が装着され、下部には反射リング69が装着されている。反射リング68,69は、ともに円環状に形成されている。上側の反射リング68は、チャンバー側部61の上側から嵌め込むことによって装着される。一方、下側の反射リング69は、チャンバー側部61の下側から嵌め込んで図示省略のビスで留めることによって装着される。すなわち、反射リング68,69は、ともに着脱自在にチャンバー側部61に装着されるものである。チャンバー6の内側空間、すなわち上側チャンバー窓63、下側チャンバー窓64、チャンバー側部61および反射リング68,69によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。
【0018】
チャンバー側部61に反射リング68,69が装着されることによって、チャンバー6の内壁面に凹部62が形成される。すなわち、チャンバー側部61の内壁面のうち反射リング68,69が装着されていない中央部分と、反射リング68の下端面と、反射リング69の上端面とで囲まれた凹部62が形成される。凹部62は、チャンバー6の内壁面に水平方向に沿って円環状に形成され、基板Wを保持する保持部7を囲繞する。チャンバー側部61および反射リング68,69は、強度と耐熱性に優れた金属材料(例えば、ステンレススチール)にて形成されている。
【0019】
また、チャンバー側部61には、チャンバー6に対して基板Wの搬入および搬出を行うための搬送開口部(炉口)66が形設されている。搬送開口部66は、ゲートバルブ185によって開閉可能とされている。搬送開口部66は凹部62の外周面に連通接続されている。このため、ゲートバルブ185が搬送開口部66を開放しているときには、搬送開口部66から凹部62を通過して熱処理空間65への基板Wの搬入および熱処理空間65からの基板Wの搬出を行うことができる。また、ゲートバルブ185が搬送開口部66を閉鎖するとチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
【0020】
また、チャンバー6の内壁上部には熱処理空間65に処理ガスを供給するガス供給孔81が形設されている。ガス供給孔81は、凹部62よりも上側位置に形設されており、反射リング68に設けられていても良い。ガス供給孔81はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間82を介してガス供給管83に連通接続されている。ガス供給管83は処理ガス供給源85に接続されている。また、ガス供給管83の経路途中にはバルブ84が介挿されている。バルブ84が開放されると、処理ガス供給源85から緩衝空間82に処理ガスが送給される。緩衝空間82に流入した処理ガスは、ガス供給孔81よりも流体抵抗の小さい緩衝空間82内を拡がるように流れてガス供給孔81から熱処理空間65内へと供給される。処理ガスとしては、例えば窒素(N
2)等の不活性ガス、または、水素(H
2)、アンモニア(NH
3)等の反応性ガス、或いはそれらを混合した混合ガスを用いることができる(本実施形態では窒素ガス)。
【0021】
一方、チャンバー6の内壁下部には熱処理空間65内の気体を排気するガス排気孔86が形設されている。ガス排気孔86は、凹部62よりも下側位置に形設されており、反射リング69に設けられていても良い。ガス排気孔86はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間87を介してガス排気管88に連通接続されている。ガス排気管88は排気部190に接続されている。また、ガス排気管88の経路途中にはバルブ89が介挿されている。バルブ89が開放されると、熱処理空間65の気体がガス排気孔86から緩衝空間87を経てガス排気管88へと排出される。なお、ガス供給孔81およびガス排気孔86は、チャンバー6の周方向に沿って複数設けられていても良いし、スリット状のものであっても良い。また、処理ガス供給源85および排気部190は、熱処理装置1に設けられた機構であっても良いし、熱処理装置1が設置される工場のユーティリティであっても良い。
【0022】
また、搬送開口部66の先端にも熱処理空間65内の気体を排出するガス排気管191が接続されている。ガス排気管191はバルブ192を介して排気部190に接続されている。バルブ192を開放することによって、搬送開口部66を介してチャンバー6内の気体が排気される。
【0023】
図2は、保持部7の全体外観を示す斜視図である。保持部7は、基台リング71、連結部72およびサセプタ74を備えて構成される。基台リング71、連結部72およびサセプタ74はいずれも石英にて形成されている。すなわち、保持部7の全体が石英にて形成されている。
【0024】
基台リング71は円環形状から一部が欠落した円弧形状の石英部材である。この欠落部分は、後述する移載機構10の移載アーム11と基台リング71との干渉を防ぐために設けられている。基台リング71は凹部62の底面に載置されることによって、チャンバー6の壁面に支持されることとなる(
図1参照)。基台リング71の上面に、その円環形状の周方向に沿って複数の連結部72(本実施形態では4個)が立設される。連結部72も石英の部材であり、溶接によって基台リング71に固着される。
【0025】
サセプタ74は基台リング71に設けられた4個の連結部72によって支持される。
図3は、サセプタ74の平面図である。また、
図4は、サセプタ74の断面図である。サセプタ74は、保持プレート75、ガイドリング76および複数の基板支持ピン77を備える。保持プレート75は、石英にて形成された略円形の平板状部材である。保持プレート75の直径は基板Wの直径よりも大きい。すなわち、保持プレート75は、基板Wよりも大きな平面サイズを有する。
【0026】
保持プレート75の上面周縁部にガイドリング76が設置されている。ガイドリング76は、基板Wの直径よりも大きな内径を有する円環形状の部材である。例えば、基板Wの直径がφ300mmの場合、ガイドリング76の内径はφ320mmである。ガイドリング76の内周は、保持プレート75から上方に向けて広くなるようなテーパ面とされている。ガイドリング76は、保持プレート75と同様の石英にて形成される。ガイドリング76は、保持プレート75の上面に溶着するようにしても良いし、別途加工したピンなどによって保持プレート75に固定するようにしても良い。或いは、保持プレート75とガイドリング76とを一体の部材として加工するようにしても良い。
【0027】
保持プレート75の上面のうちガイドリング76よりも内側の領域が基板Wを保持する平面状の保持面75aとされる。保持プレート75の保持面75aには、複数の基板支持ピン77が立設されている。本実施形態においては、保持面75aの外周円(ガイドリング76の内周円)と同心円の周上に沿って30°毎に計12個の基板支持ピン77が立設されている。12個の基板支持ピン77を配置した円の径(対向する基板支持ピン77間の距離)は基板Wの径よりも小さく、基板Wの径がφ300mmであればφ270mm〜φ280mm(本実施形態ではφ270mm)である。それぞれの基板支持ピン77は石英にて形成されている。複数の基板支持ピン77は、保持プレート75の上面に溶接によって設けるようにしても良いし、保持プレート75と一体に加工するようにしても良い。
【0028】
図2に戻り、基台リング71に立設された4個の連結部72とサセプタ74の保持プレート75の周縁部とが溶接によって固着される。すなわち、サセプタ74と基台リング71とは連結部72によって固定的に連結されている。このような保持部7の基台リング71がチャンバー6の壁面に支持されることによって、保持部7がチャンバー6に装着される。保持部7がチャンバー6に装着された状態においては、サセプタ74の保持プレート75は水平姿勢(法線が鉛直方向と一致する姿勢)となる。すなわち、保持プレート75の保持面75aは水平面となる。
【0029】
チャンバー6に搬入された基板Wは、チャンバー6に装着された保持部7のサセプタ74の上に水平姿勢にて載置されて保持される。このとき、基板Wは保持プレート75上に立設された12個の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。より厳密には、12個の基板支持ピン77の上端部が基板Wの下面に接触して当該基板Wを支持する。12個の基板支持ピン77の高さ(基板支持ピン77の上端から保持プレート75の保持面75aまでの距離)は均一であるため、12個の基板支持ピン77によって基板Wを水平姿勢に支持することができる。
【0030】
また、基板Wは複数の基板支持ピン77によって保持プレート75の保持面75aから所定の間隔を隔てて支持されることとなる。基板支持ピン77の高さよりもガイドリング76の厚さの方が大きい。従って、複数の基板支持ピン77によって支持された基板Wの水平方向の位置ずれはガイドリング76によって防止される。
【0031】
また、
図2および
図3に示すように、サセプタ74の保持プレート75には、上下に貫通して開口部78が形成されている。開口部78は、放射温度計120(
図1参照)がサセプタ74に保持された基板Wの下面から放射される放射光(赤外光)を受光するために設けられている。すなわち、放射温度計120が開口部78を介してサセプタ74に保持された基板Wの下面から放射された光を受光し、別置のディテクタによってその基板Wの温度が測定される。さらに、サセプタ74の保持プレート75には、後述する移載機構10のリフトピン12が基板Wの受け渡しのために貫通する4個の貫通孔79が穿設されている。
【0032】
図5は、移載機構10の平面図である。また、
図6は、移載機構10の側面図である。移載機構10は、2本の移載アーム11を備える。移載アーム11は、概ね円環状の凹部62に沿うような円弧形状とされている。それぞれの移載アーム11には2本のリフトピン12が立設されている。各移載アーム11は水平移動機構13によって回動可能とされている。水平移動機構13は、一対の移載アーム11を保持部7に対して基板Wの移載を行う移載動作位置(
図5の実線位置)と保持部7に保持された基板Wと平面視で重ならない退避位置(
図5の二点鎖線位置)との間で水平移動させる。水平移動機構13としては、個別のモータによって各移載アーム11をそれぞれ回動させるものであっても良いし、リンク機構を用いて1個のモータによって一対の移載アーム11を連動させて回動させるものであっても良い。
【0033】
また、一対の移載アーム11は、昇降機構14によって水平移動機構13とともに昇降移動される。昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて上昇させると、計4本のリフトピン12がサセプタ74に穿設された貫通孔79(
図2,3参照)を通過し、リフトピン12の上端がサセプタ74の上面から突き出る。一方、昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて下降させてリフトピン12を貫通孔79から抜き取り、水平移動機構13が一対の移載アーム11を開くように移動させると各移載アーム11が退避位置に移動する。一対の移載アーム11の退避位置は、保持部7の基台リング71の直上である。基台リング71は凹部62の底面に載置されているため、移載アーム11の退避位置は凹部62の内側となる。なお、移載機構10の駆動部(水平移動機構13および昇降機構14)が設けられている部位の近傍にも図示省略の排気機構が設けられており、移載機構10の駆動部周辺の雰囲気がチャンバー6の外部に排出されるように構成されている。
【0034】
図1に戻り、チャンバー6の上方に設けられたフラッシュ加熱部5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、フラッシュ加熱部5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。フラッシュ加熱部5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状の石英窓である。フラッシュ加熱部5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53が上側チャンバー窓63と相対向することとなる。フラッシュランプFLはチャンバー6の上方からランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63を介して熱処理空間65にフラッシュ光を照射する。
【0035】
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される基板Wの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。
【0036】
図8は、フラッシュランプFLの駆動回路を示す図である。同図に示すように、コンデンサ93と、コイル94と、フラッシュランプFLと、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)96とが直列に接続されている。また、
図8に示すように、制御部3は、パルス発生器31および波形設定部32を備えるとともに、入力部33に接続されている。入力部33としては、キーボード、マウス、タッチパネル等の種々の公知の入力機器を採用することができる。入力部33からの入力内容に基づいて波形設定部32がパルス信号の波形を設定し、その波形に従ってパルス発生器31がパルス信号を発生する。
【0037】
フラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部に陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)92と、該ガラス管92の外周面上に付設されたトリガー電極91とを備える。コンデンサ93には、電源ユニット95によって所定の電圧が印加され、その印加電圧(充電電圧)に応じた電荷が充電される。また、トリガー電極91にはトリガー回路97から高電圧を印加することができる。トリガー回路97がトリガー電極91に電圧を印加するタイミングは制御部3によって制御される。
【0038】
IGBT96は、ゲート部にMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field effect transistor)を組み込んだバイポーラトランジスタであり、大電力を取り扱うのに適したスイッチング素子である。IGBT96のゲートには制御部3のパルス発生器31からパルス信号が印加される。IGBT96のゲートに所定値以上の電圧(Highの電圧)が印加されるとIGBT96がオン状態となり、所定値未満の電圧(Lowの電圧)が印加されるとIGBT96がオフ状態となる。このようにして、フラッシュランプFLを含む駆動回路はIGBT96によってオンオフされる。IGBT96がオンオフすることによってフラッシュランプFLと対応するコンデンサ93との接続が断続され、フラッシュランプFLに流れる電流がオンオフ制御される。
【0039】
コンデンサ93が充電された状態でIGBT96がオン状態となってガラス管92の両端電極に高電圧が印加されたとしても、キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、通常の状態ではガラス管92内に電気は流れない。しかしながら、トリガー回路97がトリガー電極91に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には両端電極間の放電によってガラス管92内に電流が瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。
【0040】
図8に示すような駆動回路は、フラッシュ加熱部5に設けられた複数のフラッシュランプFLのそれぞれに個別に設けられている。本実施形態では、30本のフラッシュランプFLが平面状に配列されているため、それらに対応して
図8に示す如き駆動回路が30個設けられている。よって、30本のフラッシュランプFLのそれぞれに流れる電流が対応するIGBT96によって個別にオンオフ制御されることとなる。
【0041】
また、リフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光を熱処理空間65の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されている。
【0042】
チャンバー6の下方に設けられたハロゲン加熱部4は、筐体41の内側に複数本(本実施形態では40本)のハロゲンランプHLを内蔵している。ハロゲン加熱部4は、複数のハロゲンランプHLによってチャンバー6の下方から下側チャンバー窓64を介して熱処理空間65への光照射を行って基板Wを加熱する光照射部である。
【0043】
図7は、複数のハロゲンランプHLの配置を示す平面図である。40本のハロゲンランプHLは上下2段に分けて配置されている。保持部7に近い上段に20本のハロゲンランプHLが配設されるとともに、上段よりも保持部7から遠い下段にも20本のハロゲンランプHLが配設されている。各ハロゲンランプHLは、長尺の円筒形状を有する棒状ランプである。上段、下段ともに20本のハロゲンランプHLは、それぞれの長手方向が保持部7に保持される基板Wの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように配列されている。よって、上段、下段ともにハロゲンランプHLの配列によって形成される平面は水平面である。
【0044】
また、
図7に示すように、上段、下段ともに保持部7に保持される基板Wの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域におけるハロゲンランプHLの配設密度が高くなっている。すなわち、上下段ともに、ランプ配列の中央部よりも周縁部の方がハロゲンランプHLの配設ピッチが短い。このため、ハロゲン加熱部4からの光照射による加熱時に温度低下が生じやすい基板Wの周縁部により多い光量の照射を行うことができる。
【0045】
また、上段のハロゲンランプHLからなるランプ群と下段のハロゲンランプHLからなるランプ群とが格子状に交差するように配列されている。すなわち、上段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向と下段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向とが互いに直交するように計40本のハロゲンランプHLが配設されている。
【0046】
ハロゲンランプHLは、ガラス管内部に配設されたフィラメントに通電することでフィラメントを白熱化させて発光させるフィラメント方式の光源である。ガラス管の内部には、窒素やアルゴン等の不活性ガスにハロゲン元素(ヨウ素、臭素等)を微量導入した気体が封入されている。ハロゲン元素を導入することによって、フィラメントの折損を抑制しつつフィラメントの温度を高温に設定することが可能となる。したがって、ハロゲンランプHLは、通常の白熱電球に比べて寿命が長くかつ強い光を連続的に照射できるという特性を有する。すなわち、ハロゲンランプHLは少なくとも1秒以上連続して発光する連続点灯ランプである。また、ハロゲンランプHLは棒状ランプであるため長寿命であり、ハロゲンランプHLを水平方向に沿わせて配置することにより上方の基板Wへの放射効率が優れたものとなる。
【0047】
また、ハロゲン加熱部4の筐体41内にも、2段のハロゲンランプHLの下側にリフレクタ43が設けられている(
図1)。リフレクタ43は、複数のハロゲンランプHLから出射された光を熱処理空間65の側に反射する。
【0048】
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行う回路であるCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えている。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。また、
図8に示したように、制御部3は、パルス発生器31および波形設定部32を備える。上述のように、入力部33からの入力内容に基づいて、波形設定部32がパルス信号の波形を設定し、それに従ってパルス発生器31がIGBT96のゲートにパルス信号を出力する。
【0049】
上記の構成以外にも熱処理装置1は、基板Wの熱処理時にハロゲンランプHLおよびフラッシュランプFLから発生する熱エネルギーによるハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6の壁体には水冷管(図示省略)が設けられている。また、ハロゲン加熱部4およびフラッシュ加熱部5は、内部に気体流を形成して排熱する空冷構造とされている。また、上側チャンバー窓63とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、フラッシュ加熱部5および上側チャンバー窓63を冷却する。
【0050】
次に、本発明に係る結晶構造制御方法について説明する。まず、基板Wの表面にハフニア(HfO
2)の薄膜を成膜する。
図9は、表面にハフニアの薄膜を形成した基板Wを示す図である。基板Wは、例えば円板形状のシリコンの半導体ウェハーである。その基板Wの表面にハフニアの薄膜の下地となる二酸化ケイ素(SiO
2)の界面層膜101を熱酸化法等の手法によって成膜する。界面層膜101の膜厚は、例えば0.8nmである。
【0051】
界面層膜101の上にハフニアの薄膜102(以下、ハフニア膜102とする)を成膜する。ハフニア膜102は、例えばALD(Atomic Layer Deposition)法によって高誘電率材料であるハフニアを界面層膜101の上に堆積させることにより成膜される。界面層膜101の上に堆積されるハフニア膜102の膜厚は、例えば3nmである。ハフニア膜102の形成手法はALDに限定されるものではなく、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)等の公知の手法を採用することができる。
【0052】
成膜された直後のハフニア膜102は、特定の結晶構造を有しておらず、非晶質に近い状態である。電界効果トランジスタの高誘電率ゲート絶縁膜としてハフニアの薄膜が形成された場合には、典型的には成膜後熱処理(PDA:Post Deposition Annealing)が行われることによってハフニアの薄膜が結晶構造を有するようになる。
【0053】
本実施形態においては、表面にハフニア膜102が形成された基板Wに対して熱処理装置1を用いてフラッシュ光を照射してフラッシュ加熱を行っている。以下、熱処理装置1による基板Wの処理について説明する。以下に説明する熱処理装置1の処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
【0054】
まず、ゲートバルブ185が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介してハフニア膜102が形成された基板Wがチャンバー6内の熱処理空間65に搬入される。この際に、チャンバー6内に窒素ガスを供給し続けることによって搬送開口部66から窒素ガス流を流出させ、装置外部の雰囲気がチャンバー6内の流入するのを最小限に抑制するようにしても良い。搬送ロボットによって搬入された基板Wは保持部7の直上位置まで進出して停止する。そして、移載機構10の一対の移載アーム11が退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12が貫通孔79を通ってサセプタ74の保持プレート75の上面から突き出て基板Wを受け取る。このとき、リフトピン12は基板支持ピン77の上端よりも上方にまで上昇する。
【0055】
基板Wがリフトピン12に載置された後、搬送ロボットが熱処理空間65から退出し、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖される。そして、一対の移載アーム11が下降することにより、基板Wは移載機構10から保持部7のサセプタ74に受け渡されて水平姿勢にて下方より保持される。基板Wは、保持プレート75上に立設された複数の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。また、基板Wは、ハフニア膜102が形成された表面を上面として保持部7に保持される。複数の基板支持ピン77によって支持された基板Wの裏面(表面とは反対側の主面)と保持プレート75の保持面75aとの間には所定の間隔が形成される。サセプタ74の下方にまで下降した一対の移載アーム11は水平移動機構13によって退避位置、すなわち凹部62の内側に退避する。
【0056】
また、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖されて熱処理空間65が密閉空間とされた後、チャンバー6内の雰囲気調整が行われる。具体的にはバルブ84が開放されてガス供給孔81から熱処理空間65に処理ガスが供給される。本実施形態では、処理ガスとして窒素ガス(N
2)がチャンバー6内の熱処理空間65に供給される。また、バルブ89が開放されてガス排気孔86からチャンバー6内の気体が排気される。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65の上部から供給された処理ガスが下方へと流れて熱処理空間65の下部から排気され、熱処理空間65が窒素雰囲気に置換される。また、バルブ192が開放されることによって、搬送開口部66からもチャンバー6内の気体が排気される。さらに、図示省略の排気機構によって移載機構10の駆動部周辺の雰囲気も排気される。
【0057】
チャンバー6内が窒素雰囲気に置換され、基板Wが保持部7のサセプタ74によって水平姿勢にて下方より保持された後、ハロゲン加熱部4の40本のハロゲンランプHLが一斉に点灯して基板Wの予備加熱(アシスト加熱)が開始される。ハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光は、石英にて形成された下側チャンバー窓64およびサセプタ74を透過して基板Wの裏面から照射される。ハロゲンランプHLからの光照射を受けることによって基板Wが予備加熱されて温度が上昇する。なお、移載機構10の移載アーム11は凹部62の内側に退避しているため、ハロゲンランプHLによる加熱の障害となることは無い。
【0058】
ハロゲンランプHLによる予備加熱を行うときには、基板Wの温度が放射温度計120によって測定されている。すなわち、サセプタ74に保持された基板Wの裏面から開口部78を介して放射された赤外光を放射温度計120が受光して昇温中の基板温度を測定する。測定された基板Wの温度は制御部3に伝達される。制御部3は、ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する基板Wの温度が所定の予備加熱温度T1に到達したか否かを監視しつつ、ハロゲンランプHLの出力を制御する。すなわち、制御部3は、放射温度計120による測定値に基づいて、基板Wの温度が予備加熱温度T1となるようにハロゲンランプHLの出力をフィードバック制御する。本実施形態では、予備加熱温度T1は500℃としている。
【0059】
基板Wの温度が予備加熱温度T1に到達した後、制御部3は基板Wをその予備加熱温度T1に暫時維持する。具体的には、放射温度計120によって測定される基板Wの温度が予備加熱温度T1に到達した時点にて制御部3がハロゲンランプHLの出力を調整し、基板Wの温度をほぼ予備加熱温度T1に維持している。
【0060】
このようなハロゲンランプHLによる予備加熱を行うことによって、基板Wの全体を予備加熱温度T1に均一に昇温している。ハロゲンランプHLによる予備加熱の段階においては、より放熱が生じやすい基板Wの周縁部の温度が中央部よりも低下する傾向にあるが、ハロゲン加熱部4におけるハロゲンランプHLの配設密度は、基板Wの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域の方が高くなっている。このため、放熱が生じやすい基板Wの周縁部に照射される光量が多くなり、予備加熱段階における基板Wの面内温度分布を均一なものとすることができる。
【0061】
基板Wの温度が予備加熱温度T1に到達して所定時間が経過した時点にてフラッシュ加熱部5のフラッシュランプFLから基板Wの表面にフラッシュ光照射を行う。フラッシュランプFLがフラッシュ光照射を行うに際しては、予め電源ユニット95によってコンデンサ93に電荷を蓄積しておく。そして、コンデンサ93に電荷が蓄積された状態にて、制御部3のパルス発生器31からIGBT96にパルス信号を出力してIGBT96をオンオフ駆動する。
【0062】
パルス信号の波形は、パルス幅の時間(オン時間)とパルス間隔の時間(オフ時間)とをパラメータとして順次設定したレシピを入力部33から入力することによって規定することができる。このようなレシピをオペレータが入力部33から制御部3に入力すると、それに従って制御部3の波形設定部32はオンオフを繰り返すパルス波形を設定する。そして、波形設定部32によって設定されたパルス波形に従ってパルス発生器31がパルス信号を出力する。その結果、IGBT96のゲートには設定された波形のパルス信号が印加され、IGBT96のオンオフ駆動が制御されることとなる。具体的には、IGBT96のゲートに入力されるパルス信号がオンのときにはIGBT96がオン状態となり、パルス信号がオフのときにはIGBT96がオフ状態となる。
【0063】
また、パルス発生器31から出力するパルス信号がオンになるタイミングと同期して制御部3がトリガー回路97を制御してトリガー電極91に高電圧(トリガー電圧)を印加する。コンデンサ93に電荷が蓄積された状態にてIGBT96のゲートにパルス信号が入力され、かつ、そのパルス信号がオンになるタイミングと同期してトリガー電極91に高電圧が印加されることにより、パルス信号がオンのときにはガラス管92内の両端電極間で必ず電流が流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。
【0064】
このようにしてフラッシュ加熱部5の30本のフラッシュランプFLが発光し、保持部7に保持された基板Wの表面にフラッシュ光が照射される。ここで、IGBT96を使用することなくフラッシュランプFLを発光させた場合には、コンデンサ93に蓄積されていた電荷が1回の発光で消費され、フラッシュランプFLからの出力波形は幅が0.1ミリセカンドないし10ミリセカンド程度の単純なシングルパルスとなる。これに対して、本実施の形態では、回路中にスイッチング素子たるIGBT96を接続してそのゲートにパルス信号を出力することにより、コンデンサ93からフラッシュランプFLへの電荷の供給をIGBT96によって断続してフラッシュランプFLに流れる電流をオンオフ制御している。その結果、いわばフラッシュランプFLの発光がチョッパ制御されることとなり、コンデンサ93に蓄積された電荷が分割して消費され、極めて短い時間の間にフラッシュランプFLが点滅を繰り返す。なお、回路を流れる電流値が完全に”0”になる前に次のパルスがIGBT96のゲートに印加されて電流値が再度増加するため、フラッシュランプFLが点滅を繰り返している間も発光出力が完全に”0”になるものではない。
【0065】
IGBT96によってフラッシュランプFLに流れる電流をオンオフ制御することにより、フラッシュランプFLの発光パターン(発光出力の時間波形)を自在に規定することができ、発光時間および発光強度を自由に調整することができる。IGBT96のオンオフ駆動のパターンは、入力部33から入力するパルス幅の時間とパルス間隔の時間とによって規定される。すなわち、フラッシュランプFLの駆動回路にIGBT96を組み込むことによって、入力部33から入力するパルス幅の時間とパルス間隔の時間とを適宜に設定するだけで、フラッシュランプFLの発光パターンを自在に規定することができるのである。
【0066】
具体的には、例えば、入力部33から入力するパルス間隔の時間に対するパルス幅の時間の比率を大きくすると、フラッシュランプFLに流れる電流が増大して発光強度が強くなる。逆に、入力部33から入力するパルス間隔の時間に対するパルス幅の時間の比率を小さくすると、フラッシュランプFLに流れる電流が減少して発光強度が弱くなる。また、入力部33から入力するパルス間隔の時間とパルス幅の時間の比率を適切に調整すれば、フラッシュランプFLの発光強度が一定に維持される。さらに、入力部33から入力するパルス幅の時間とパルス間隔の時間との組み合わせの総時間を長くすることによって、フラッシュランプFLに比較的長時間にわたって電流が流れ続けることとなり、フラッシュランプFLの発光時間が長くなる。フラッシュランプFLの発光時間は0.1ミリ秒〜100ミリ秒の間に設定され、本実施形態においては1.4ミリ秒とされる。
【0067】
このようにしてフラッシュランプFLから基板Wの表面に1.4ミリ秒の照射時間にてフラッシュ光が照射されて基板Wのフラッシュ加熱が行われる。照射時間1.4ミリ秒の極めて短く強度の強いフラッシュ光が照射されることによってハフニア膜102を含む基板Wの表面が瞬間的に処理温度T2にまで昇温する。フラッシュ光照射によって基板Wの表面が到達する最高温度(ピーク温度)である処理温度T2は900℃以上であり、本実施形態では1100℃である。フラッシュ加熱では、フラッシュ光の照射時間が100ミリ秒以下の極めて短時間であるため、基板Wの表面温度は瞬間的に処理温度T2にまで昇温した後、ただちに予備加熱温度T1近傍にまで降温する。
【0068】
図10は、フラッシュ光照射時の基板Wの挙動を示す図である。照射時間が極めて短く強度の強いフラッシュ光が照射されることによって、ハフニア膜102を含む基板Wの表面は瞬間的に処理温度T2(1100℃)にまで昇温される一方で基板Wの裏面は予備加熱温度T1(500℃)からほとんど昇温しない。すなわち、瞬間的に基板Wの表面から裏面に向けて急激な温度勾配が生じる。その結果、基板Wの表面のみに急激な熱膨張が生じ、裏面はほとんど熱膨張しないために、
図10に示すように、基板Wが表面を凸面とするように瞬間的に反る。この瞬間、本実施形態のフラッシュ光照射の条件では基板Wの表面には最大570MPaの圧縮応力が作用するとともに、基板Wの裏面には最大140MPaの引張応力が作用する。
【0069】
そうすると、基板Wの表面に形成されたハフニア膜102はフラッシュ光照射によって処理温度T2に加熱されつつ最大570MPaの圧縮応力を受けることとなる。処理温度T2に加熱されたハフニア膜102に圧縮応力が作用すると、ハフニア膜102が結晶構造を有するようになる。
【0070】
ここで、従来の成膜後熱処理(PDA)と同様にハフニア膜102をRTA(Rapid Thermal Annealing)によって加熱してもハフニア膜102は結晶構造を有する。RTAは、ハロゲンランプ等の連続点灯ランプからの光照射によって秒単位の昇温時間にて加熱対象物を目標温度にまで昇温する熱処理技術である。RTAも一般的には急速加熱を行う熱処理技術ではあるが、ミリ秒単位で加熱対象物を目標温度にまで昇温するフラッシュランプアニール(FLA:Flash Lamp Annealing)に比較するとその昇温速度は極度に遅い。このため、RTAによってハフニア膜102を加熱した場合には、上述したフラッシュ光照射時のような圧縮応力は発生せず、単にハフニア膜102が加熱されるだけである。
【0071】
図11は、フラッシュ加熱後のハフニア膜102のX線回折パターンを示す図である。同図には比較例として、RTAによって加熱したハフニア膜102のX線回折パターンを点線で示している。また、
図11において、”c”と付したのは立方晶構造(Cubic構造)のピークであり、”m”と付したのは単斜晶構造(Monoclinic構造)のピークである。
【0072】
フラッシュ光照射によって加熱したハフニア膜102もRTAによって加熱したハフニア膜102も立方晶構造と単斜晶構造とが混在した結晶構造を有する。ところが、
図11に示すように、RTAによって加熱したハフニア膜102には単斜晶構造の強いピークが現れているのに対して、フラッシュ光照射によって加熱したハフニア膜102には立方晶構造の強いピークが現出している。これは、フラッシュ光照射によって加熱したハフニア膜102は、RTAによって加熱したハフニア膜102に比較して、結晶構造中に存在する立方晶構造の比率が高くなっていることを示している。
【0073】
このように結晶構造中に存在する立方晶構造の比率が高くなったのは、RTAでは単にハフニア膜102を加熱するだけであるのに対して、フラッシュ光照射を行うとハフニア膜102を加熱すると同時に当該ハフニア膜102に強い圧縮応力を作用させていることによるものと考えられる。すなわち、フラッシュ光照射によってハフニア膜102を加熱すると同時に当該ハフニア膜102に強い圧縮応力を作用させることにより、ハフニア膜102のケミカルポテンシャルが変化し、RTAで加熱した場合と比較して、より充填率の高い立方晶構造の比率が高くなったのである。電界効果トランジスタの高誘電率ゲート絶縁膜としてハフニア膜102を使用する場合には、立方晶構造の比率が高い方が好ましい。
【0074】
フラッシュ加熱処理が終了した後、所定時間経過後にハロゲンランプHLが消灯する。これにより、基板Wが予備加熱温度T1から急速に降温する。降温中の基板Wの温度は放射温度計120によって測定され、その測定結果は制御部3に伝達される。制御部3は、放射温度計120の測定結果より基板Wの温度が所定温度まで降温したか否かを監視する。そして、基板Wの温度が所定以下にまで降温した後、移載機構10の一対の移載アーム11が再び退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12がサセプタ74の上面から突き出て熱処理後の基板Wをサセプタ74から受け取る。続いて、ゲートバルブ185により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、リフトピン12上に載置された基板Wが装置外部の搬送ロボットにより搬出され、熱処理装置1における基板Wの処理が完了する。
【0075】
本実施形態においては、表面にハフニア膜102が形成された基板Wを所定の予備加熱温度T1に加熱した後、その基板Wにフラッシュ光を照射してフラッシュ加熱を行っている。照射時間が極めて短く強度の強いフラッシュ光を照射することによって、ハフニア膜102を含む基板Wの表面のみを瞬間的に加熱し、ハフニア膜102を処理温度T2に加熱すると同時に当該ハフニア膜102に強い圧縮応力を作用させている。その結果、RTAによって単にハフニア膜102を加熱しただけの場合に比較して、熱処理後のハフニア膜102の結晶構造中に存在する立方晶構造の比率を高くすることができる。すなわち、基板Wの表面にフラッシュランプFLからフラッシュ光を照射してハフニア膜102を加熱するとともに当該ハフニア膜102に圧縮応力を作用させることによって、基板W上に成膜されたハフニア膜102に出現する結晶構造を調整することができるのである。
【0076】
フラッシュ光照射によってハフニア膜102を加熱するとともに当該ハフニア膜102に強い圧縮応力を作用させると、充填率の高い立方晶構造の比率が高くなるのであるが、その程度は作用する圧縮応力の大きさに依存している。作用する圧縮応力が大きくなるほど、充填率の高い立方晶構造の比率が高くなる。一方、ハフニア膜102に作用する圧縮応力の大きさは、基板W表面に照射されるフラッシュ光の照射時間に依存している。フラッシュ光の照射時間が短くなるほど、基板Wの表面から裏面への熱伝導量が小さくなって温度勾配が大きくなり、ハフニア膜102に作用する圧縮応力が大きくなる。本実施形態では、フラッシュランプFLの駆動回路にIGBT96を組み込んでおり、入力部33から入力するパルス幅の時間とパルス間隔の時間との組み合わせの総時間によって、フラッシュ光の照射時間を調整することができる。すなわち、入力部33から入力するパルス幅の時間とパルス間隔の時間との組み合わせの総時間によって、フラッシュ光の照射時間を調整することにより、ハフニア膜102に作用する圧縮応力の大きさを変化させて充填率の高い立方晶構造の比率を制御することができるのである。フラッシュ光の照射時間を短くするほど、ハフニア膜102に作用する圧縮応力が大きくなり、ハフニア膜102の結晶構造中に存在する立方晶構造の比率を高くすることができる。
【0077】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、表面にハフニア膜102を形成した基板Wにフラッシュ光を照射していたが、これに限定されるものではなく、表面に他の材料の薄膜を形成した基板Wにフラッシュ光を照射して当該薄膜の結晶構造を制御するようにしても良い。例えば、表面にシリコンナイトライドの薄膜が形成された基板Wにフラッシュ光を照射して当該薄膜の結晶構造を制御するようにしても良い。シリコンナイトライドの結晶構造を調整すると、シリコンナイトライドのエッチングレートを変化させることができる。また、表面に二酸化ケイ素の薄膜が形成された基板Wにフラッシュ光を照射して当該薄膜の結晶構造を制御するようにしても良い。
【0078】
集約すると、表面に薄膜を形成した基板Wの表面にフラッシュランプFLからフラッシュ光を照射して当該薄膜を加熱するとともに当該薄膜に圧縮応力を作用させるものであれば良い。フラッシュ光照射により薄膜を加熱するとともに当該薄膜に圧縮応力を作用させることによって、結晶の充填率が高くなるように、薄膜に出現する結晶構造を調整することができる。
【0079】
また、基板Wの予備加熱温度T1、処理温度T2およびフラッシュランプFLのフラッシュ光照射時間は上記実施形態の例に限定されるものではなく、適宜のものとすることができる。フラッシュ光照射時間のみならず、予備加熱温度T1および処理温度T2によってもハフニア膜102に作用する圧縮応力を変化させることができる。
【0080】
また、上記実施形態においては、フラッシュ加熱部5に30本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。また、フラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。また、ハロゲン加熱部4に備えるハロゲンランプHLの本数も40本に限定されるものではなく、任意の数とすることができる。