特許第6841688号(P6841688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6841688二段過給式排気ターボ過給機、エンジン、及び二段過給式排気ターボ過給機の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841688
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】二段過給式排気ターボ過給機、エンジン、及び二段過給式排気ターボ過給機の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02B 37/24 20060101AFI20210301BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20210301BHJP
   F02B 37/013 20060101ALI20210301BHJP
   F02M 26/08 20160101ALI20210301BHJP
   F02D 41/02 20060101ALI20210301BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   F02B37/24
   F02B37/00 500B
   F02B37/013
   F02B37/00 302F
   F02M26/08 301
   F02M26/08 321
   F02M26/08 331
   F02M26/08 351
   F02D41/02
   F02D41/04
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-42773(P2017-42773)
(22)【出願日】2017年3月7日
(65)【公開番号】特開2018-145909(P2018-145909A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年10月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨川 邦弘
【審査官】 沼生 泰伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−108329(JP,A)
【文献】 特開2010−203321(JP,A)
【文献】 特開2008−063987(JP,A)
【文献】 特開2008−038602(JP,A)
【文献】 特開2016−065506(JP,A)
【文献】 特開2011−241766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 33/00−41/10
F02B 47/08−47/10
F02M 26/00−26/74
F02D 41/00−41/40
F02D 43/00−45/00
F02D 13/00−28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低圧段タービンと低圧段コンプレッサとを有し、エンジン本体の吸排気系に接続された低圧段過給機と、
高圧段タービンと高圧段コンプレッサとを有し、前記低圧段過給機と前記エンジン本体との間の吸排気系に接続された高圧段過給機と、
前記吸排気系における前記高圧段タービンの上流側と前記高圧段コンプレッサの下流側とに接続され、前記エンジン本体の排気ガスを再循環させる高圧排気再循環装置と、
前記低圧段タービン及び前記高圧段タービンの少なくとも一方の排気可動ベーンを、前記高圧排気再循環装置による再循環を実行しない場合における開度より小さい第1開度の状態にさせて、前記排気ガスを前記高圧排気再循環装置に再循環させる過給機制御部と、
を備え、
前記過給機制御部は、
前記排気可動ベーンを前記第1開度に絞った状態で、前記高圧排気再循環装置が前記排気ガスを再循環させている場合に、前記エンジン本体の負荷が所定の負荷を超えると、前記排気可動ベーンを前記高圧排気再循環装置による再循環を実行しないの場合における開度より大きく、かつ前記第1開度よりも開いた状態の第2開度に変更することを特徴とする二段過給式排気ターボ過給機。
【請求項2】
前記吸排気系における前記低圧段タービンの下流側と前記高圧段コンプレッサの上流側とに接続され、前記排気ガスの再循環が可能な状態と再循環が不能な状態とを切り替え可能な低圧排気再循環装置をさらに備え、
前記過給機制御部は、
前記排気可動ベーンを前記第1開度よりも開いた状態の前記第2開度に変更すると、前記排気ガスの再循環が可能な状態に前記低圧排気再循環装置を切り替えることを特徴とする請求項1に記載の二段過給式排気ターボ過給機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の二段過給式排気ターボ過給機と、
前記二段過給式排気ターボ過給機と接続されたエンジン本体と、
前記エンジン本体を制御するエンジン制御部と、
を備え、
前記エンジン制御部は、前記エンジン本体のトルクが低下すると、前記エンジン本体の燃料噴射量を増加させることを特徴とするエンジン。
【請求項4】
低圧段タービンと低圧段コンプレッサとを有し、エンジン本体の吸排気系に接続された低圧段過給機と、
高圧段タービンと高圧段コンプレッサとを有し、前記低圧段過給機と前記エンジン本体との間の吸排気系に接続された高圧段過給機と、
前記吸排気系における前記高圧段タービンの上流側と前記高圧段コンプレッサの下流側とに接続され、前記エンジン本体の排気ガスを再循環させる高圧排気再循環装置と、
を備える二段過給式排気ターボ過給機によって実行される制御方法であって、
前記低圧段タービン及び前記高圧段タービンの少なくとも一方の排気可動ベーンを、前記高圧排気再循環装置による再循環を実行しない場合における開度より小さい第1開度の状態にさせて、前記排気ガスを前記高圧排気再循環装置に再循環させるステップと、
前記エンジン本体の負荷が所定の負荷を超えると、前記排気可動ベーンを前記高圧排気再循環装置による再循環を実行しない場合における開度より大きく、かつ前記第1開度よりも開いた状態の第2開度に変更するステップと、
を含むことを特徴とする二段過給式排気ターボ過給機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧段過給機と低圧段過給機とを備える二段過給式排気ターボ過給機、エンジン、及び二段過給式排気ターボ過給機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンでは、NOxの発生を抑制するために、排気ガスの一部を吸気系に循環させる排気ガス再循環(EGR)装置が適用されている。また、ディーゼルエンジンの出力を向上させる方法として、過給機(ターボチャージャ)が適用されている。例えば、特許文献1には、低圧段ターボチャージャと高圧段機械式過給機とを備えたエンジンにおいて、高圧EGR、中圧EGR及び低圧EGRの複数のEGRモードから選択したEGRモードでEGRを行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−3614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の二段過給式排気ターボ過給機は、ターボの制限値に近い状態で作動しているエンジンの高負荷時に、EGR率を向上させることが困難であった。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、エンジンの高負荷時におけるEGR率を向上させることができる二段過給式排気ターボ過給機、エンジン、及び二段過給式排気ターボ過給機の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の二段過給式排気ターボ過給機は、低圧段タービンと低圧段コンプレッサとを有し、エンジン本体の吸排気系に接続された低圧段過給機と、高圧段タービンと高圧段コンプレッサとを有し、前記低圧段過給機と前記エンジン本体との間の吸排気系に接続された高圧段過給機と、前記吸排気系における前記高圧段タービンの上流側と前記高圧段コンプレッサの下流側とに接続され、前記エンジン本体の排気ガスを再循環させる高圧排気再循環装置と、前記低圧段タービン及び前記高圧段タービンの少なくとも一方の排気可動ベーンを第1開度の状態にさせて、前記排気ガスを前記高圧排気再循環装置に再循環させる過給機制御部と、を備え、前記過給機制御部は、前記排気可動ベーンを第1開度に絞った状態で、前記高圧排気再循環装置が前記排気ガスを再循環させている場合に、前記エンジン本体の負荷が所定の負荷を超えると、前記排気可動ベーンを前記第1開度よりも開いた状態の第2開度に変更することを特徴とする。
【0007】
本発明の二段過給式排気ターボ過給機は、前記吸排気系における前記低圧段タービンの下流側と前記高圧段コンプレッサの上流側とに接続され、前記排気ガスの再循環が可能な状態と再循環が不能な状態とを切り替え可能な低圧排気再循環装置をさらに備え、前記過給機制御部は、前記排気可動ベーンを前記第1開度よりも開いた状態の第2開度に変更すると、前記排気ガスの再循環が可能な状態に前記低圧排気再循環装置を切り替えることができる。
【0008】
本発明のエンジンは、上記の二段過給式排気ターボ過給機と、前記二段過給式排気ターボ過給機と接続されたエンジン本体と、前記エンジン本体を制御するエンジン制御部と、を備え、前記エンジン制御部は、前記エンジン本体のトルクが低下すると、前記エンジン本体の燃料噴射量を増加させることを特徴とする。
【0009】
本発明の二段過給式排気ターボ過給機の制御方法は、低圧段タービンと低圧段コンプレッサとを有し、エンジン本体の吸排気系に接続された低圧段過給機と、高圧段タービンと高圧段コンプレッサとを有し、前記低圧段過給機と前記エンジン本体との間の吸排気系に接続された高圧段過給機と、前記吸排気系における前記高圧段タービンの上流側と前記高圧段コンプレッサの下流側とに接続され、前記エンジン本体の排気ガスを再循環させる高圧排気再循環装置と、を備える二段過給式排気ターボ過給機によって実行される制御方法であって、前記低圧段タービン及び前記高圧段タービンの少なくとも一方の排気可動ベーンを第1開度の状態にさせて、前記排気ガスを前記高圧排気再循環装置に再循環させるステップと、前記エンジン本体の負荷が所定の負荷を超えると、前記排気可動ベーンを前記第1開度よりも開いた状態の第2開度に変更するステップと、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の二段過給式排気ターボ過給機及び制御方法によれば、低圧段タービン及び高圧段タービンの少なくとも一方の排気可動ベーンを第1開度に絞った状態で、高圧排気再循環装置が排気ガスを再循環させている場合に、エンジン本体の負荷が所定の負荷を超えると、過給機の排気可動ベーンを第1開度よりも開いた状態の第2開度に変更させることができる。これにより、二段過給式排気ターボ過給機及び制御方法は、低圧段タービンの回転数の低下によるマージン分、高圧排気再循環装置の開度を開くことができるため、エンジンの高負荷状態におけるEGR率を向上させることができる。その結果、二段過給式排気ターボ過給機及び制御方法は、排気ガスの清浄度を改善することができる。
【0011】
本発明の二段過給式排気ターボ過給機によれば、低圧段タービンの排気可動ベーンを第2開度に開いた場合に、低圧排気再循環装置を排気ガスの再循環が可能な状態に切り替えることで、過給機、エンジン等に流れるガスの流量を増加させることができる。これにより、二段過給式排気ターボ過給機は、再循環させる排気ガスを増加させることができるため、エンジンの高負荷状態におけるEGR率をより一層向上させることができる。
【0012】
本発明のエンジンによれば、二段過給式排気ターボ過給機が低圧段タービン及び高圧段タービンの少なくとも一方の排気可動ベーンを第1開度に絞ったエンジンの高負荷状態で、高圧排気再循環装置が排気ガスを再循環させている場合に、過給機の排気可動ベーンを第1開度よりも開いた状態の第2開度に変更し、エンジン本体のトルクが低下すると、燃料噴射量を増加させることができる。これにより、エンジンは、エンジン出力を維持しながら、EGR率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エンジンの高負荷時におけるEGR率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態に係る二段過給式排気ターボ過給機を含むディーゼルエンジンの一例を示す構成図である。
図2図2は、ディーゼルエンジンのエンジン回転数とトルクとモードとの関係を示すマップである。
図3図3は、低圧段過給機の開度とエンジン負荷との関係を示す図である。
図4図4は、EGR率とディーゼルエンジンの負荷状態との関係を示す図である。
図5図5は、高負荷状態におけるディーゼルエンジンの制御と作用との関係を示す図である。
図6図6は、ターボ回転数とディーゼルエンジンの負荷状態との関係を示す図である。
図7図7は、圧力比とディーゼルエンジンの負荷状態との関係を示す図である。
図8図8は、トルクとディーゼルエンジンの負荷状態との関係を示す図である。
図9図9は、燃料噴射量とディーゼルエンジンの負荷状態との関係を示す図である。
図10図10は、正味燃料消費率とディーゼルエンジンの負荷状態との関係を示す図である。
図11図11は、制御装置による低圧段過給機の開度を切り替える制御の一例の処理手順を示すフローチャートである。
図12図12は、制御装置が実行するマップを用いた二段過給式排気ターボ過給機に対する制御の一例を示す図である。
図13図13は、実施形態に係る二段過給式排気ターボ過給機を含むディーゼルエンジンの他の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0016】
図1を用いて、二段過給式排気ターボ過給機1が適用されるディーゼルエンジン100について説明する。図1は、実施形態に係る二段過給式排気ターボ過給機1を含むディーゼルエンジン100の一例を示す構成図である。ディーゼルエンジン100は、例えば、車両、船舶等に搭載される。ディーゼルエンジン100は、エンジン本体101と、二段過給式排気ターボ過給機1と、制御装置10と、を備える。
【0017】
エンジン本体101は、燃料室に燃料を噴射するインジェクタ102を有する。インジェクタ102は、指示された噴射量の燃料を噴射できる。エンジン本体101には、吸気ガスをエンジン本体101に供給する吸気流路113と、エンジン本体101から排気ガスを排出する排気流路121とが接続されている。
【0018】
二段過給式排気ターボ過給機1は、低圧段過給機2と、高圧段過給機3と、高圧排気再循環装置4と、低圧排気再循環装置5と、吸気バイパス弁6と、排気バイパス弁7と、を備える。本実施形態では、二段過給式排気ターボ過給機1は、制御装置10の過給機制御部10Aを備える。二段過給式排気ターボ過給機1は、外部の過給機制御部10Aによって制御される構成としてもよい。
【0019】
低圧段過給機2は、ディーゼルエンジン100の吸排気系に接続されている。低圧段過給機2は、低圧段タービン21と、低圧段コンプレッサ22とを備える。低圧段タービン21は、エンジン本体101からの排気ガスで駆動される。低圧段タービン21は、ディーゼルエンジン100の運転状態が高負荷状態で、排気ガスの流量が多いときに単段で作動する。低圧段タービン21と低圧段コンプレッサ22とは、回転軸23により一体で回転自在に連結されている。低圧段コンプレッサ22は、回転軸23を介した低圧段タービン21からの動力で駆動される。低圧段タービン21は、上流側が排気流路122に接続され、下流側が排気流路123に接続されている。低圧段コンプレッサ22は、上流側が吸気流路111に接続され、下流側が吸気流路112に接続されている。
【0020】
低圧段過給機2は、低圧段タービン21の周囲に設けられたノズルベーン(排気可動ベーン)21aを有する。例えば、ノズルベーン21aは、低圧段タービン21の周囲の周方向に等間隔で複数配置してもよい。ノズルベーン21aは、アクチュエータ等により、その開度が調整可能である。低圧段タービン21は、ノズルベーン21aの開度を小さくする(絞る)ことで、低圧段タービン21等を流動する排気ガスの流量を増やすことができる。
【0021】
高圧段過給機3は、低圧段過給機2とエンジン本体101との間の吸排気系に接続されている。高圧段過給機3は、高圧段タービン31と、高圧段コンプレッサ32とを備える。高圧段タービン31は、ディーゼルエンジン100の運転状態が低負荷状態で、排気ガスの流量が少ないときに作動する。高圧段タービン31と高圧段コンプレッサ32とは、回転軸33により一体で回転自在に連結されている。高圧段タービン31は、上流側が排気流路121に接続され、下流側が排気流路122に接続されている。高圧段コンプレッサ32は、上流側が吸気流路112に接続され、下流側が吸気流路113に接続されている。
【0022】
高圧段過給機3は、低圧段過給機2と同様に、高圧段タービン31のノズルベーン31aを有する。例えば、ノズルベーン31aは、高圧段タービン31の周囲の周方向に等間隔で複数配置してもよい。ノズルベーン31aは、アクチュエータ等により、その開度が調整可能である。高圧段タービン31は、ノズルベーン31aの開度を小さくする(絞る)ことで、高圧段タービン31等を流動する排気ガスの流量を増やすことができる。
【0023】
高圧排気再循環装置4は、EGR(Exhaust Gas Recirculation、排気再循環)通路41と、EGR通路41に設けられたEGR弁42とを有する。EGR通路41は、エンジン本体101の排気ガスをEGRガスとしてエンジン本体101に環流する。EGR通路41は、高圧段タービン31とエンジン本体101との間の排気流路121と、高圧段コンプレッサ32とエンジン本体101との間の吸気流路113とに接続される。EGR通路41は、エンジン本体101をバイパスする流路である。EGR弁42は、エンジン本体101に環流する排気ガスの流量を調整できる。
【0024】
低圧排気再循環装置5は、EGR通路51と、EGR通路51に設けられたEGR弁52とを有する。EGR通路51は、低圧段タービン21を介したエンジン本体101の排気ガスを、EGRガスとしてエンジン本体101に低圧段コンプレッサ22を介して環流する。EGR通路51は、排気流路123と吸気流路111とに接続される。EGR通路51は、エンジン本体101をバイパスする流路である。EGR弁52は、低圧段タービン21から低圧段コンプレッサ22に環流する排気ガス等の流量を調整できる。
【0025】
吸気バイパス弁6は、吸気流路112と吸気流路113とに接続された吸気バイパス流路131に設けられている。吸気バイパス流路131は、高圧段コンプレッサ32をバイパスする流路である。吸気バイパス弁6は、図示しないアクチュエータで開閉されるバルブである。吸気バイパス弁6は、開閉することで、吸気バイパス流路131を流れる吸気ガスの流量を調節できる。吸気バイパス弁6は、開状態のとき、吸気バイパス流路131を吸気ガスが通過し、高圧段コンプレッサ32をバイパスする。
【0026】
排気バイパス弁7は、排気流路121と排気流路122とに接続された排気バイパス流路132に設けられている。排気バイパス弁7は、高圧段タービン31をバイパスする流路である。排気バイパス弁7は、図示しないアクチュエータで開閉されるバルブである。排気バイパス弁7は、開閉することで、排気バイパス流路132を流れる排気ガスの流量を調節できる。排気バイパス弁7は、開状態のとき、排気バイパス流路132を排気ガスが通過し、高圧段タービン31をバイパスする。
【0027】
制御装置10は、メモリ及びCPU(Central Processing Unit:中央演算装置)により構成される。制御装置10は、専用のハードウェアにより実現されるものであっても、制御装置10の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
【0028】
制御装置10は、ディーゼルエンジン100を総合的に制御する。制御装置10は、過給機制御部10Aと、エンジン制御部10Bと、を有する。
【0029】
過給機制御部10Aは、二段過給式排気ターボ過給機1の各部の動作を制御する。過給機制御部10Aは、エンジン本体101の負荷情報を取得する。例えば、負荷情報は、エンジン回転数センサ、アクセル開度センサ、圧力センサ、温度センサなどの検出結果を含む。過給機制御部10Aは、エンジンの負荷状態に基づいてノズルベーン21a、31aの開度を調節できる。過給機制御部10Aは、EGR弁42、52を制御可能となっており、エンジン運転状態に基づいてEGR弁42、52の開度を調整することができる。
【0030】
エンジン制御部10Bは、エンジン本体101の運転を制御する。エンジン制御部10Bは、要求負荷等の各種入力条件及び各種センサで検出した結果に基づいて、エンジン本体101の運転を制御する。エンジン制御部10Bは、シリンダへの燃料の噴射タイミングや、噴射量、排気弁の開閉タイミングを制御して、エンジン本体101の燃料投入量や回転数、燃焼室での燃焼を制御する。エンジン制御部10Bは、燃料投入量や回転数を制御することで、エンジン本体101のエンジン出力を制御する。
【0031】
本実施形態では、ディーゼルエンジン100は、制御装置10が過給機制御部10Aと、エンジン制御部10Bとを有する場合について説明するが、これに限定されない。例えば、ディーゼルエンジン100は、過給機制御部10Aとエンジン制御部10Bとを独立したハードウェアとしてもよい。
【0032】
制御装置10は、エンジン本体101の運転状態に応じて、吸気バイパス弁6と排気バイパス弁7とを制御する。より詳しくは、制御装置10は、エンジン本体101の運転状態が低負荷状態の場合、アクチュエータを制御し排気バイパス弁7を閉弁させ、エンジン本体101の運転状態が高負荷状態の場合、アクチュエータを制御し排気バイパス弁7を開弁させる。
【0033】
次に、エンジン100における吸気ガスが流れる流路について説明する。吸気ガスが流れる流路は、上流側から順に、吸気流路111と、吸気流路112と、吸気流路113とが接続され構成されている。吸気流路111は、外部から空気を吸気する。吸気流路111は、上流側が外部に開放され、下流側が低圧段コンプレッサ22に接続されている。吸気流路112は、上流側が低圧段コンプレッサ22に接続され、下流側が高圧段コンプレッサ32に接続されている。吸気流路113は、上流側が高圧段コンプレッサ32に接続され、下流側がエンジン本体101に接続されている。このように構成された流路を通過して、吸気ガスがエンジン本体101に供給される。
【0034】
次に、エンジン100における排気ガスが流れる流路について説明する。排気ガスが流れる流路は、上流側から順に、排気流路121と、排気流路122と、排気流路123とが接続され構成されている。排気流路121は、エンジン本体101から排気ガスを排出する。排気流路121は、上流側がエンジン本体101に接続され、下流側が高圧段タービン31に接続されている。排気流路122は、上流側が高圧段タービン31に接続され、下流側が低圧段タービン21に接続されている。排気流路123は、上流側が低圧段タービン21に接続されている。このように構成された流路を通過して、エンジン本体101から排気ガスが排出される。
【0035】
このように構成された二段過給式排気ターボ過給機1は、エンジン100の運転状態が高負荷状態のとき、エンジン本体101から排出された排気ガスで低圧段タービン21が回転する。そして、低圧段タービン21の回転が回転軸23を介して伝達されて低圧段コンプレッサ22が回転する。そして、低圧段コンプレッサ22が吸気ガスを圧縮して吸気流路112を介してエンジン本体101に供給する。二段過給式排気ターボ過給機1は、エンジン100の運転状態が低負荷状態のとき、エンジン本体101から排気流路121を介して排出された排気ガスで高圧段タービン31が回転する。そして、高圧段タービン31の回転が回転軸33を介して伝達されて高圧段コンプレッサ32が回転する。そして、高圧段コンプレッサ32が吸気ガスを圧縮して吸気流路113を介してエンジン本体101に供給する。
【0036】
図2を用いて、ディーゼルエンジン100の制御に用いるモードの一例について説明する。図2は、ディーゼルエンジン100のエンジン回転数とトルクとモードとの関係を示すマップ11である。図2は、横軸をエンジン回転数とし、縦軸をトルクとしている。
【0037】
制御装置10は、エンジン回転数とトルクとマップ11とに基づいて、図2に示すモード1、モード2、モード3を切り替えて、二段過給式排気ターボ過給機1を制御する。モード1は、ディーゼルエンジン100の作動状態が低速状態である場合のモードである。モード2は、ディーゼルエンジン100の作動状態が低速状態から高速状態へ移行する途中の状態(以下、「中速状態」という。)である場合のモードである。モード3は、ディーゼルエンジン100の作動状態が高速状態である場合のモードである。ディーゼルエンジン100は、マップ11の全負荷性能曲線は、ターボ制限値に近い状態で作動しているエンジン回転数とトルクとの関係を示している。ターボ制限値は、例えば、ロータ回転数、背温、コンプレッサの出口温度等の制限値を含む。ディーゼルエンジン100は、エンジン回転数とトルクとの関係がターボ制限値を超えないように、二段過給式排気ターボ過給機1を制御する。
【0038】
制御装置10は、排気流路121の排気圧力が吸気流路113の吸気圧力よりも高くなるように、二段過給式排気ターボ過給機1におけるノズルベーン21a、31aの開度を調整する。その結果、排気流路121の排気ガスは、EGR通路41から吸気流路113に流れる。
【0039】
制御装置10は、ディーゼルエンジン100の運転状態、つまり、燃焼温度が高くて高濃度のNOxが発生しやすい高負荷状態時に、EGR弁42の開度を大きくして大量のEGRガスをEGR通路41からエンジン本体101に戻す。その結果、ディーゼルエンジン100は、戻されたEGRガスにより燃焼室の燃焼温度が低下し、この燃焼温度の低下に伴ってNOxの発生量を低下させることができる。
【0040】
制御装置10は、ディーゼルエンジン100の運転状態、つまり、出力が不十分となる低負荷状態時に、ノズルベーン21aの開度を小さくして低圧段タービン21に流動する排気ガスの速度を高める。その結果、ディーゼルエンジン100は、高速の排気ガス流により低圧段タービン21及び低圧段コンプレッサ22を高速回転し、この低圧段コンプレッサ22により吸気を圧縮して充填効率を高め、エンジン出力を向上させることができる。
【0041】
図3を用いて、ディーゼルエンジン100による低圧段過給機2の制御の一例を説明する。図3は、低圧段過給機2の開度とエンジン負荷との関係を示す図である。図3は、横軸をディーゼルエンジン100のエンジン負荷、縦軸を低圧段過給機2の開度としている。横軸は、左側を低負荷状態、右側を高負荷状態としている。縦軸は、上側ほど開き、下側ほど閉じている。
【0042】
図3に示すグラフG11は、再循環を実行しない場合のエンジン負荷と過給機の開度(VG開度)との関係を示している。グラフG12は、再循環を実行し、かつ、EGR弁42の開度を絞った場合のエンジン負荷と過給機の開度(VG開度)との関係を示している。グラフG13は、再循環を実行し、かつ、EGR弁42の開度を開いた場合のエンジン負荷と過給機の開度(VG開度)との関係を示している。グラフG14は、本実施形態のエンジン負荷と過給機の開度(VG開度)との関係を示している。
【0043】
ディーゼルエンジン100は、EGRなしの場合、EGR弁42を閉じた状態とする。EGRなしは、ディーゼルエンジン100がEGRを適用しないことを意味している。図3のグラフG11に示すように、ディーゼルエンジン100は、EGRなしの場合、エンジン本体101のエンジン負荷が低負荷状態から高負荷状態になるにつれて、過給機の開度を絞っている。ディーゼルエンジン100は、EGRありの場合、EGR弁42を開いた状態とする。EGRありは、ディーゼルエンジン100がEGRを適用することを意味している。本実施形態のディーゼルエンジン100は、図3のグラフG14に示すように、ディーゼルエンジン100は、EGRありの場合、エンジン負荷が所定の負荷に到達するまで、低圧段過給機2の低圧段タービン21を絞った第1開度、つまり、グラフG12の関係に沿って、排気ガスを高圧排気再循環装置4に再循環させる。そして、ディーゼルエンジン100は、エンジン負荷が所定の負荷を超えると、低圧段タービン21を第1開度よりも開いた状態の第2開度に変更する。具体的には、図3のグラフG13の関係に沿って弁開度を調整する。
【0044】
これにより、ディーゼルエンジン100は、低圧段タービン21の回転数の低下によるマージン分、高圧排気再循環装置4の開度を開くことができるため、排気流路121の排気ガス(EGRガス)をEGR通路41から吸気流路113に導入することができる。ディーゼルエンジン100は、EGRガスにより燃焼温度が低下してNOxの発生を抑制することができるため、エンジンの高負荷状態におけるEGR率を向上させることができる。その結果、ディーゼルエンジン100は、排気ガスの清浄度を改善することができる。
【0045】
例えば、ディーゼルエンジン100は、EGRありの場合、過給機のノズルベーン21a、31a等の開度を絞ることで、排気ガスをエンジン本体101に環流させることができる。しかし、ディーゼルエンジン100は、エンジン本体101が高負荷状態である場合、ノズルベーン21a、31aの開度を小さくする(絞る)と、低圧段タービン21等を流動する排気ガスの流量が増えるため、ターボの制限値により、ノズルベーン21a、31aの開度を小さくすることができない。これに対し、本実施形態のディーゼルエンジン100は、エンジン本体101が高負荷状態である場合、ノズルベーン21a、31aの開度を開くため、ターボの制限値を超えることなく、EGR率を向上させることができる。
【0046】
図4を用いて、EGRありで、エンジン負荷が所定の負荷を超えた場合に、ディーゼルエンジン100が低圧段過給機2の開度を開く場合と、開度を開かない場合との、EGR率とエンジン負荷との関係の一例を説明する。図4は、EGR率とディーゼルエンジン100の負荷状態との関係を示す図である。図4は、横軸をディーゼルエンジン100のエンジン負荷、縦軸をディーゼルエンジン100のEGR率としている。横軸は、左側を低負荷状態、右側を高負荷状態としている。縦軸は、上側ほどEGR率が高く、下側がEGR率0となっている。グラフG22は、再循環を実行し、かつ、EGR弁42の開度を絞った設定(グラフG12の設定)場合のエンジン負荷とEGR率との関係を示している。グラフG23は、再循環を実行し、かつ、EGR弁42の開度を開いた設定(グラフG13の設定)の場合のエンジン負荷とEGR率との関係を示している。グラフG24は、本実施形態でEGR弁42の開度を設定(グラフG14の設定)した場合のエンジン負荷とEGR率との関係を示している。
【0047】
本実施形態のディーゼルエンジン100は、弁開度をグラフG14の関係で変化させることで、図4のグラフG24に示すように、エンジン負荷が所定の負荷に到達するまで、第1の傾斜でEGR率が低下する。そして、ディーゼルエンジン100は、エンジン負荷が所定の負荷を超えると、第1の傾斜よりも緩やかな第2の傾斜でEGR率が低下する。これに対し、グラフG22は、ディーゼルエンジン100について、シミュレーションまたはエンジン試験を行い、EGRありで、エンジン負荷が所定の負荷を超えても過給機の開度を開かない場合のエンジン負荷とEGR率との関係を示している。グラフG22は、エンジン負荷が所定の負荷に到達するまで、グラフG12と同様に、EGR率が低下している。そして、グラフG22は、エンジン負荷が所定の負荷を超えると、EGR率が0になるまで低下している。以上により、本実施形態のディーゼルエンジン100は、エンジン負荷が所定の負荷を超えた場合に、過給機の開度を開かない場合の結果よりもEGR率が向上している。また、本実施形態のディーゼルエンジン100は、エンジン負荷が所定の負荷以下の場合、EGR弁42の開度を開いた設定よりもEGR率を高くすることができる。
【0048】
次に、図5乃至図11を用いて、ディーゼルエンジン100の制御と作用との関係の一例を説明する。図5は、高負荷状態におけるディーゼルエンジン100の制御と作用との関係を示す図である。本実施形態は、図5に示す関係に基づいて、EGR弁42の開度とエンジン負荷との関係を設定する。
【0049】
ディーゼルエンジン100は、ディーゼルエンジン100のエンジン負荷が所定の負荷を超えると、低圧段タービン21の開度を開く(ステップS100)。例えば、ディーゼルエンジン100は、図3のグラフG12に基づいて、アクチュエータ等を制御し、閉じた状態の低圧段タービン21のノズルベーン21aを開かせる。その結果、ディーゼルエンジン100は、低圧段過給機2の回転数が低下する(状態ST11)。すなわち、ディーゼルエンジン100は、ターボ回転数が低下する。なお、ディーゼルエンジン100は、低圧段タービン21の開度を開きすぎると、背温が超過となる。背温は、排気ガスの温度を含む。
【0050】
ディーゼルエンジン100は、ターボ回転数が低下すると、圧力比が低下する(状態ST12)。すなわち、ディーゼルエンジン100は、吸排気系の空気流量が減少する。ディーゼルエンジン100は、気圧比が低下すると、エンジンのトルクが低下する(状態ST13)。すなわち、ディーゼルエンジン100は、低圧段タービン21の開度を開くことにより、エンジン出力が低下する。
【0051】
ディーゼルエンジン100は、低圧段タービン21の開度が開かれた後、燃料噴射量を増加する(ステップS200)。例えば、ディーゼルエンジン100は、エンジン負荷の状態とに基づいた燃料噴射量をエンジン本体101に噴射させる。その結果、ディーゼルエンジン100は、状態ST13におけるエンジンのトルクの低下を相殺する燃料噴射量をエンジン本体101に噴射させることができる。
【0052】
ディーゼルエンジン100は、燃料噴射量を増加させると、正味燃料消費率が悪化する場合がある(状態ST21)。正味燃料消費率は、1時間に消費される燃料を1馬力あるいは1km当たりの仕事量で示したものである。例えば、ディーゼルエンジン100は、低圧段タービン21を閉じた状態でEGRありとすることにより、正味燃料消費率が悪化する場合がある。ディーゼルエンジン100は、低圧段タービン21を閉じた状態における正味燃料消費率の悪化を、低圧段タービン21を閉じた状態と同じレベルの悪化に抑える範囲で燃料噴射量を増加させてもよい。
【0053】
ディーゼルエンジン100は、燃料噴射量を増加させたことにより、エンジンのトルクが増加する(状態ST22)。すなわち、ディーゼルエンジン100は、低圧段タービン21の開度を開いて低下したエンジン出力を、増加させたエンジン出力で相殺することができる。その結果、ディーゼルエンジン100は、低圧段過給機2の回転数の低下によるマージン分、高圧排気再循環装置4のEGR弁42を開くことができるため、EGR率を向上させることができる。
【0054】
また、ディーゼルエンジン100は、低圧排気再循環装置5を備える場合、燃料噴射量を増加させた後に、低圧排気再循環装置5のEGR弁52を開く(ステップS300)。例えば、ディーゼルエンジン100は、アクチュエータ等を制御し、閉じた状態のEGR弁52を開かせる。
【0055】
ディーゼルエンジン100は、エンジン負荷が所定の負荷を超えると、低圧排気再循環装置5のEGR弁52を開くことにより、低圧段過給機2の回転数が増加する(状態ST31)。すなわち、ディーゼルエンジン100は、ターボ回転数が上昇する。なお、ディーゼルエンジン100は、EGR弁52の開度を開きすぎると、低圧段過給機2の回転数と低圧段コンプレッサ22の出口温度が制限値を超過し、正味燃料消費率の悪化も許容範囲を超過する可能性がある。
【0056】
ディーゼルエンジン100は、ターボ回転数が増加すると、圧力比が増加する(状態ST32)。すなわち、ディーゼルエンジン100は、吸排気系の空気流量が増加する。そして、ディーゼルエンジン100は、気圧比が増加すると、エンジンのトルクが増加する(状態ST22)。これにより、ディーゼルエンジン100は、低圧段タービン21の開度を開いて低下したエンジン出力を、燃料噴射量の増加及びEGR弁52を開くことによって増加させたエンジン出力で相殺することができる。その結果、ディーゼルエンジン100は、低圧段過給機2の回転数の低下によるマージン分、高圧排気再循環装置4のEGR弁42を開くことができるため、EGR率を向上させることができる。
【0057】
以上により、ディーゼルエンジン100は、エンジン負荷が所定の負荷を超えた場合に、エンジン負荷から第2開度を求めるVGテーブルを制御装置10のメモリ等に記載している。制御装置10は、エンジン本体101の負荷が所定の負荷を超えた場合、当該負荷とVGテーブルとに基づいて、低圧段過給機2の第1開度よりも開いた第2開度を求めることができる。
【0058】
また、ディーゼルエンジン100は、低圧段タービン21のノズルベーン21aを第1開度に絞った状態で、高圧排気再循環装置4が排気ガスを再循環させている場合に、低圧段タービン21のノズルベーン21aを第1開度よりも開いた状態の第2開度に変更させると、エンジンの出力が低下する。しかし、ディーゼルエンジン100は、エンジン本体101の燃料噴射量を増加させることで、低下したエンジンの出力を回復させることができる。これにより、ディーゼルエンジン100は、エンジンの高負荷状態において、エンジン出力を維持しながら、EGR率を向上させることができる。その結果、ディーゼルエンジン100は、エンジンの高負荷状態において、排気ガスの清浄度を改善することができる。
【0059】
次に、本実施形態のディーゼルエンジンで制御を行った場合の他のパラメータの関係について説明する。図6は、ターボ回転数とディーゼルエンジンの負荷状態との関係を示す図である。図6は、ディーゼルエンジン100について、シミュレーションまたはエンジン試験を行い、横軸をディーゼルエンジン100のエンジン負荷、縦軸をターボ回転数としている。横軸は、左側を低負荷状態、右側を高負荷状態としている。縦軸は、上側ほど高回転となり、下側ほど低回転となっている。グラフG31は、再循環を実行しない場合のエンジン負荷とターボ回転数との関係を示している。グラフG32は、再循環を実行し、かつ、EGR弁42の開度を絞った設定(グラフG12の設定)の場合のエンジン負荷とターボ回転数との関係を示している。グラフG33は、再循環を実行し、かつ、EGR弁42の開度を開いた設定(グラフG13の設定)の場合のエンジン負荷とターボ回転数との関係を示している。グラフG34は、本実施形態でEGR弁42の開度を設定(グラフG14の設定)した場合のエンジン負荷とターボ回転数との関係を示している。
【0060】
EGRなしの場合、ディーゼルエンジン100は、図6のグラフG31に示すように、エンジン本体101のエンジン負荷が低負荷状態から高負荷状態になるにつれて、ターボ回転数が増加している。これに対し、EGRありの場合、ディーゼルエンジン100は、図6のグラフG34に示すように、エンジン負荷が所定の負荷に到達するまで、グラフG32と同様の関係で変化し、グラフG31よりも高回転数で、ターボ回転数が増加している。そして、ディーゼルエンジン100は、エンジン負荷が所定の負荷を超えると、グラフG33と同様の関係で変化し、グラフG31よりも低回転数に低下した後、グラフG31よりも低い状態で、ターボ回転数が増加する。
【0061】
図7は、圧力比とディーゼルエンジンの負荷状態との関係を示す図である。図7は、ディーゼルエンジン100について、シミュレーションまたはエンジン試験を行い、横軸をディーゼルエンジン100のエンジン負荷、縦軸を圧力比としている。横軸は、左側を低負荷状態、右側を高負荷状態としている。縦軸は、上側ほど圧力比が高く、下側ほど圧力比が低くなっている。グラフG41は、再循環を実行しない場合のエンジン負荷と圧力比との関係を示している。グラフG42は、再循環を実行し、かつ、EGR弁42の開度を絞った設定(グラフG12の設定)の場合のエンジン負荷と圧力比との関係を示している。グラフG43は、再循環を実行し、かつ、EGR弁42の開度を開いた設定(グラフG13の設定)の場合のエンジン負荷と圧力比との関係を示している。グラフG44は、本実施形態でEGR弁42の開度を設定(グラフG14の設定)した場合のエンジン負荷と圧力比との関係を示している。
【0062】
EGRなしの場合、ディーゼルエンジン100は、図7のグラフG41に示すように、エンジン本体101のエンジン負荷が低負荷状態から高負荷状態になるにつれて、圧力比が増加している。これに対し、EGRありの場合、ディーゼルエンジン100は、図7のグラフG44に示すように、エンジン負荷が所定の負荷に到達するまで、グラフG41よりも高い状態で、圧力比が増加している。そして、ディーゼルエンジン100は、エンジン負荷が所定の負荷を超えると、グラフG41よりも低い圧力比に低下した後、グラフG41よりも低い状態で、圧力比が増加する。
【0063】
図8は、トルクとディーゼルエンジンの負荷状態との関係を示す図である。図8は、ディーゼルエンジン100について、シミュレーションまたはエンジン試験を行い、横軸をディーゼルエンジン100のエンジン負荷、縦軸をトルクとしている。横軸は、左側を低負荷状態、右側を高負荷状態としている。縦軸は、上側ほどトルクが大きく、下側ほどトルクが小さくなっている。グラフG51は、再循環を実行しない場合のエンジン負荷とトルクとの関係を示している。グラフG52は、再循環を実行し、かつ、EGR弁42の開度を絞った設定(グラフG12の設定)の場合のエンジン負荷とトルクとの関係を示している。グラフG53は、再循環を実行し、かつ、EGR弁42の開度を開いた設定(グラフG13の設定)の場合のエンジン負荷とトルクとの関係を示している。グラフG54は、本実施形態でEGR弁42の開度を設定(グラフG14の設定)した場合のエンジン負荷とトルクとの関係を示している。
【0064】
ディーゼルエンジン100は、各種条件を調整することで、いずれの条件の場合でもトルクを一定にすることで、要求された出力を維持する。グラフG51、G52、G53、G54は、エンジン負荷が低負荷状態から高負荷状態になるにつれて、トルクが大きくなっている。
【0065】
図9は、燃料噴射量とディーゼルエンジンの負荷状態との関係を示す図である。図9は、ディーゼルエンジン100について、シミュレーションまたはエンジン試験を行い、横軸をディーゼルエンジン100のエンジン負荷、縦軸を燃料噴射量としている。横軸は、左側を低負荷状態、右側を高負荷状態としている。縦軸は、上側ほど燃料噴射量が大きく、下側が燃料噴射量0となっている。グラフG61は、再循環を実行しない場合のエンジン負荷と燃料噴射量との関係を示している。グラフG62は、再循環を実行し、かつ、EGR弁42の開度を絞った設定(グラフG12の設定)の場合のエンジン負荷と燃料噴射量との関係を示している。グラフG63は、再循環を実行し、かつ、EGR弁42の開度を開いた設定(グラフG13の設定)の場合のエンジン負荷と燃料噴射量との関係を示している。グラフG64は、本実施形態でEGR弁42の開度を設定(グラフG14の設定)した場合のエンジン負荷と燃料噴射量との関係を示している。
【0066】
ディーゼルエンジン100は、EGRなしの場合、図9のグラフG61に示すように、エンジン本体101のエンジン負荷が低負荷状態から高負荷状態になるにつれて、燃料噴射量が大きくなっている。EGRありの場合、ディーゼルエンジン100は、本実施形態の制御を実行した場合、図9のグラフG64に示すように、グラフG61よりも高い燃料噴射量で、エンジン負荷が低負荷状態から高負荷状態になるにつれて、燃料噴射量が大きくなっている。また、ディーゼルエンジン100は、本実施形態の制御を実行した場合、EGR弁の開度を大きくした場合のグラフG63と同様の燃料噴射量となり、高負荷帯域で、EGR弁の開度を絞った場合のグラフG62よりも燃料噴射量が多くなる。
【0067】
図10は、正味燃料消費率とディーゼルエンジンの負荷状態との関係を示す図である。図10は、ディーゼルエンジン100について、シミュレーションまたはエンジン試験を行い、横軸をディーゼルエンジン100のエンジン負荷、縦軸を正味燃料消費率としている。横軸は、左側を低負荷状態、右側を高負荷状態としている。縦軸は、上側ほど正味燃料消費率が高く、下側が正味燃料消費率0となっている。グラフG71は、再循環を実行しない場合のエンジン負荷と正味燃料消費率との関係を示している。グラフG72は、再循環を実行し、かつ、EGR弁42の開度を絞った設定(グラフG12の設定)の場合のエンジン負荷と正味燃料消費率との関係を示している。グラフG73は、再循環を実行し、かつ、EGR弁42の開度を開いた設定(グラフG13の設定)の場合のエンジン負荷と正味燃料消費率との関係を示している。グラフG74は、本実施形態でEGR弁42の開度を設定(グラフG14の設定)した場合のエンジン負荷と正味燃料消費率との関係を示している。
【0068】
EGRなしの場合、ディーゼルエンジン100は、図10のグラフG71に示すように、エンジン本体101のエンジン負荷が低負荷状態から高負荷状態になるにつれて、正味燃料消費率が大きくなっている。ディーゼルエンジン100は、本実施形態の制御の場合、図10のグラフG74に示すように、グラフG71よりも高い燃料噴射量で、エンジン負荷が低負荷状態から高負荷状態になるにつれて、正味燃料消費率が高くなっている。ディーゼルエンジン100は、正味燃料消費率が悪化した場合、グラフG72とエンジン負荷の状態とに基づいた燃料噴射量をエンジン本体101に噴射させる。その結果、ディーゼルエンジン100は、状態ST13におけるエンジンのトルクの低下を相殺する燃料噴射量をエンジン本体101に噴射させることができる。
【0069】
図11は、制御装置10による低圧段過給機2の開度を切り替える制御の一例の処理手順を示すフローチャートである。図11に示す処理手順は、制御装置10が制御プログラム等を実行することによって実現される。図11に示す処理手順は、ディーゼルエンジン100がEGRありの場合に、制御装置10によって実行される。
【0070】
図11に示すように、ディーゼルエンジン100の制御装置10は、低圧段過給機2の開度を第1開度に絞る(ステップS51)。例えば、制御装置10は、低圧段過給機2のアクチュエータ等を制御することにより、低圧段過給機2の開度を第1開度に閉じさせる。制御装置10は、高圧排気再循環装置4のEGR弁42を開く(ステップS52)。その結果、ディーゼルエンジン100は、高負荷状態において、エンジン本体101の排気ガスをEGRガスとしてエンジン本体101に環流させることができる。
【0071】
制御装置10は、ディーゼルエンジン100の状態を検出する(ステップS53)。例えば、制御装置10は、図示しないエンジン回転数センサ、アクセル開度センサ、圧力センサ、温度センサなどの検出結果からディーゼルエンジン100の負荷状態を検出する。
【0072】
制御装置10は、検出したディーゼルエンジン100の負荷状態に基づいて、負荷が所定の負荷を超えたか否かを判定する(ステップS54)。制御装置10は、負荷が所定の負荷を超えていないと判定した場合(ステップS54でNo)、処理を既に説明したステップS53に戻す。制御装置10は、負荷が所定の負荷を超えたと判定した場合(ステップS54でYes)、処理をステップS55に進める。
【0073】
制御装置10は、低圧段過給機2の開度を第1開度から第2開度に開く(ステップS55)。例えば、制御装置10は、ディーゼルエンジン100の負荷状態と上記VGテーブルとに基づいて第2開度を求め、当該第2開度に低圧段過給機2の開度を開かせる。そして、制御装置10は、低圧段過給機2の開度を開いた量に対応した燃料噴射量を特定する(ステップS56)。例えば、制御装置10は、図9に示す燃料噴射量と負荷との関係と第2開度とから燃料噴射量を特定するテーブル、算出プログラム等を用いて燃料噴射量を特定する。
【0074】
制御装置10は、特定した燃料噴射量の噴射をエンジン本体101に要求する(ステップS57)。例えば、制御装置10のエンジン制御部10Bは、エンジン本体101のインジェクタ102に当該燃料噴射量で燃料噴射させる。そして、制御装置10は、低圧排気再循環装置5のEGR弁52を開く(ステップS58)。その結果、ディーゼルエンジン100は、低圧段タービン21からの排気ガスをEGRガスとして低圧段コンプレッサ22に環流させることができる。そして、制御装置10は、EGR弁52を開くと、図11に示す処理手順を終了させる。
【0075】
ディーゼルエンジン100は、低圧段タービン21のノズルベーン21aを第1開度に絞ったエンジン負荷の状態で、高圧排気再循環装置4が排気ガスを再循環させている。この場合、ディーゼルエンジン100は、高圧段過給機3と低圧段過給機2との2ステージターボの制限値に基づいて、低圧段タービン21のノズルベーン21a(排気可動ベーン)を第2開度に変更させるとともに、エンジンの出力を回復させることができる。これにより、ディーゼルエンジン100は、ターボの制限値等によりEGR率を大きくできないエンジンの高負荷状態において、EGR率をより一層向上させることができる。
【0076】
ディーゼルエンジン100は、低圧段タービン21のノズルベーン21aを第2開度に開いた場合に、低圧排気再循環装置5を排気ガスの再循環が可能な状態に切り替えることで、低圧段コンプレッサ22、エンジン本体101等に流れるガスの流量を増加させることができる。これにより、ディーゼルエンジン100は、高負荷状態におけるEGR率を向上させることができるとともに、燃料消費量の増加を抑制することができる。
【0077】
次に、図12を用いて、ディーゼルエンジン100の運転モードと過給機の作動状態との一例について説明する。図12は、制御装置10が実行する上記マップ11を用いた二段過給式排気ターボ過給機1に対する制御の一例を示す図である。
【0078】
制御装置10は、ディーゼルエンジン100の運転モードがモード1である場合、ディーゼルエンジン100の作動状態が低速状態で二段過給式排気ターボ過給機1を制御する。制御装置10は、排気バイパス弁7及び吸気バイパス弁6を閉じ、高圧段タービン31を小開から中開とし、低圧段タービン21を中開とする。中開は、小開よりも開いた状態である。これにより、排気ガスは、高圧段タービン31及び低圧段タービン21に流入する。その結果、二段過給式排気ターボ過給機1は、低圧段過給機2及び高圧段過給機3の2ステージが作動する。
【0079】
制御装置10は、ディーゼルエンジン100の運転モードがモード2である場合、ディーゼルエンジン100の作動状態が中速状態で二段過給式排気ターボ過給機1を制御する。中速状態は、低速状態よりも速い状態である。制御装置10は、排気バイパス弁7を開き、吸気バイパス弁6を閉じ、高圧段タービン31を全開とし、低圧段タービン21を小開から中開とする。これにより、排気ガスは、高圧段タービン31及び低圧段タービン21に流入する。その結果、二段過給式排気ターボ過給機1は、低圧段過給機2及び高圧段過給機3の2ステージが作動する。この場合、高圧段過給機3は、低圧段過給機2の補助として作動する。
【0080】
制御装置10は、ディーゼルエンジン100の運転モードがモード3である場合、ディーゼルエンジン100の作動状態が高速状態で二段過給式排気ターボ過給機1を制御する。高速状態は、中速状態よりも速い状態である。制御装置10は、排気バイパス弁7を全開とし、吸気バイパス弁6を開き、高圧段タービン31を全開とし、低圧段タービン21を中開から全開とする。すなわち、制御装置10は、低圧段タービン21の開度を第1開度と第2開度とに切り替えることができる。これにより、排気ガスは、低圧段タービン21に流入する。その結果、二段過給式排気ターボ過給機1は、低圧段過給機2の1ステージが作動する。この場合、高圧段過給機3は、停止している。
【0081】
上記の実施形態では、ディーゼルエンジン100は、エンジン本体101の負荷が所定の負荷を超えた場合に、低圧段タービン2のノズルベーン21aの開度を開く場合について説明したが、これに限定されない。本実施形態のディーゼルエンジン100は、過給機のベーン開度を拡大してタービンの回転数を低下させ、この低下によって生じる余裕により、EGR弁の開度を拡大してEGR率を稼ぐ場合について説明した。本願発明のディーゼルエンジン100は、エンジンと過給機の仕様等によって、ベーンの開度を開かせる対象の過給機を変更することができる。例えば、ディーゼルエンジン100は、エンジン本体101の負荷が所定の負荷を超えた場合に、高圧段タービン3のノズルベーン31aの開度を開くことにより、タービンの回転数を低下させてもよい。例えば、ディーゼルエンジン100は、エンジン本体101の負荷が所定の負荷を超えた場合に、低圧段タービン2のノズルベーン21a及び高圧段タービン3のノズルベーン31aの双方の開度を開くことにより、タービンの回転数を低下させてもよい。
【0082】
上記の実施形態では、ディーゼルエンジン100は、二段過給式排気ターボ過給機1が低圧排気再循環装置5を備える場合について説明したが、これに限定されない。図13は、実施形態に係る二段過給式排気ターボ過給機を含むディーゼルエンジン100の他の一例を示す構成図である。図13は、図1と同様の構成要素について同一の符号を付している。図13に示すように、ディーゼルエンジン100は、二段過給式排気ターボ過給機1が低圧排気再循環装置5を備えなくてもよい。すなわち、二段過給式排気ターボ過給機1は、低圧段過給機2と、高圧段過給機3と、高圧排気再循環装置4と、吸気バイパス弁6と、排気バイパス弁7と、制御装置10とを備える構成としてもよい。この場合、制御装置10は、図11に示す所定手順のステップS51からステップS57を実行し、ステップS58の処理を実行しない。
【0083】
上記の実施形態では、二段過給式排気ターボ過給機1をディーゼルエンジン100に用いる場合について説明したが、これに限定されない。例えば、二段過給式排気ターボ過給機1は、ガソリンエンジンに適用してもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 二段過給式排気ターボ過給機
2 低圧段過給機
21 低圧段タービン
22 低圧段コンプレッサ
3 高圧段過給機
31 高圧段タービン
32 高圧段コンプレッサ
4 高圧排気再循環装置
41 EGR通路
42 EGR弁
5 低圧排気再循環装置
51 EGR通路
52 EGR弁
6 吸気バイパス弁
7 排気バイパス弁
10 制御装置
10A 過給機制御部
10B エンジン制御部
100 ディーゼルエンジン(エンジン)
101 エンジン本体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
図13