(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「エポキシ」とは、炭素鎖によって結合されている2原子の炭素と結合する−O−原子団に対する基名である。
「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基およびメタクリロイル基の総称である。
「等方導電性接着剤層」とは、厚さ方向および面方向に導電性を有する導電性接着剤層を意味する。
「異方導電性接着剤層」とは、厚さ方向に導電性を有し、面方向に導電性を有しない導電性接着剤層を意味する。
「面方向に導電性を有しない導電性接着剤層」とは、表面抵抗が1×10
4Ω以上である導電性接着剤層を意味する。
粒子の平均粒子径は、粒子の顕微鏡像から30個の粒子を無作為に選び、それぞれの粒子について、最小径および最大径を測定し、最小径と最大径との中央値を一粒子の粒子径とし、測定した30個の粒子の粒子径を算術平均して得た値である。導電性粒子の平均粒子径も同様である。
フィルム(離型フィルム、絶縁フィルム等)、塗膜(絶縁樹脂層、導電性接着剤層等)、金属薄膜層等の厚さは、顕微鏡を用いて測定対象の断面を観察し、5箇所の厚さを測定し、平均した値である。
貯蔵弾性率は、測定対象に与えた応力と検出した歪から算出され、温度または時間の関数として出力する動的粘弾性測定装置を用いて、粘弾性特性の一つとして測定される。
表面抵抗は、石英ガラス上に金を蒸着して形成した、2本の薄膜金属電極(長さ10mm、幅5mm、電極間距離10mm)を用い、この電極上に被測定物を置き、被測定物上から、被測定物の10mm×20mmの領域を0.049Nの荷重で押し付け、1mA以下の測定電流で測定される電極間の抵抗である。
【0016】
《熱硬化性組成物》
本発明の第一態様は、エポキシ基含有化合物の1種以上と、下記式(1)で表される化合物(1)の群から選ばれる1種以上とを含み、前記化合物(1)が25℃、1気圧で液体である、熱硬化性組成物である。
【0017】
【化3】
[式(1)中、R
1、R
2及びR
3はそれぞれ独立に水素原子又は任意の置換基であり、R
1及びR
2が互いに結合して環を形成してもよい。]
【0018】
化合物(1)のR
1、R
2及びR
3の任意の置換基は、1価の置換基であってもよいし、2価の置換基で互いに結合して環を形成していてもよい。
化合物(1)のR
1、R
2及びR
3の1価の置換基としては、例えば、芳香族基、炭素数1〜20の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン等が挙げられる。前記アルキル基のメチレン基の1つ以上が、酸素原子同士が結合する場合を除いて、−O−、−C(=O)−、−C(=O)O−、−O−C(=O)−、−NH−、又は−S−によって置換されていてもよい。
前記芳香族基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。前記芳香族基は、炭素数1〜3の連結基を介在してリン原子又は酸素原子に結合していてもよい。
【0019】
化合物(1)の難燃剤及び硬化剤としての機能をより高める観点から、下記式(1b)で表される化合物(1b)が好ましい。
【0020】
【化4】
[式(1b)中、R
2は水素原子又は任意の置換基であり、リン原子に結合したフェニル基にR
2が結合して環を形成していてもよく;R
3は水酸基及びカルボキシル基のうち少なくとも一方を1つ以上有する任意の置換基である。]
【0021】
化合物(1b)のR
2の任意の置換基は、1価の置換基であってもよいし、2価の置換基であってリン原子に結合したフェニル基の任意の水素原子を置換して結合し、環を形成していてもよい。
化合物(1b)のR
2の1価の置換基としては、前述した化合物(1)のR
2と同じ置換基を例示できる。
【0022】
化合物(1b)のR
3は、水酸基を1つ以上有する置換基であるか、カルボキシル基を1つ以上有する置換基であるか、或いは水酸基及びカルボキシル基をそれぞれ1つ以上有する置換基であることが好ましい。
【0023】
化合物(1b)のR
3で表される置換基としては、炭素数1〜20の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状の前記アルキル基が有する1つ以上の水素原子を水酸基又はカルボキシル基が置換した置換基が好ましい。なかでも、炭素数1〜20の分岐鎖状のアルキル基であって、各分岐鎖に1つ以上の水酸基又はカルボキシル基を有する置換基であることがより好ましい。また、前記アルキル基のメチレン基の1つ以上が、酸素原子同士が結合する場合を除いて、−O−、−C(=O)−、−C(=O)O−又は−O−C(=O)−によって置換されていることが好ましく、−C(=O)O−又は−O−C(=O)−によって置換されていることがより好ましい。
上記好適な置換基を有する化合物(1b)は、25℃、1気圧で流動性の高い液体となり易く、熱硬化性組成物における分散性に優れるとともに、硬化収縮がより少なく、接着性により優れた絶縁樹脂層及び接着剤層を形成することができる。
【0024】
化合物(1b)の好適な具体例として、下記式(1b−1)で表されるリン化合物が挙げられる。このリン化合物は25℃、1気圧で液体であり、その希釈溶媒として、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール系溶剤が用いられることが好ましい。
【0026】
(エポキシ基含有化合物)
前記熱硬化性組成物に含まれるエポキシ基含有化合物は、2つ以上のエポキシ基を有する化合物であることが好ましく、2つ以上のエポキシ基を有する樹脂(エポキシ樹脂)であることがより好ましく、樹脂の少なくとも両末端にそれぞれエポキシ基を有するエポキシ樹脂であることがさらに好ましい。
上記の好適なエポキシ基含有化合物であると、前記熱硬化性組成物の硬化収縮が少なく、接着力を高め、金属に対する優れた接着性を有する接着剤層を容易に形成することができる。
前記熱硬化性組成物に含まれるエポキシ基含有化合物は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0027】
本明細書において、エポキシ基とは、エポキシから任意の水素原子が1つ除かれた1価の基である。エポキシとしては、例えば、エポキシエタン(別名:エチレンオキシド)、1,3’‐エポキシプロパン(別名:トリメチレンオキシド、オキセタン)等が挙げられる。
前記エポキシ基含有化合物としては、エポキシ基の1価の結合手にメチレン基が結合したグリシジル基を有するグリシジル基含有化合物が好ましい。
【0028】
前記エポキシ樹脂として公知のエポキシ樹脂が適用可能であり、前記熱硬化性組成物の用途に応じて適宜選択することができる。前記熱硬化性組成物に含まれるエポキシ樹脂は1種でもよいし、2種以上でもよい。
具体的なエポキシ樹脂としては、ヒドロキシフェニル基を2つ有するビスフェノールとエピクロルヒドリンとの縮合反応によって得られるエポキシ樹脂が挙げられ、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等を例示できる。その他、例えば、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0029】
前記熱硬化性組成物中のエポキシ基含有化合物と化合物(1)の含有比率は、化合物(1)がエポキシ基含有化合物を硬化させるのに充分な含有比率であることが好ましい。具体的には、エポキシ基含有化合物のエポキシ基1モルあたり、化合物(1)中の活性水素基のモル数が0.01モル以上1.5モル以下の含有比率であることが好ましい。ここで、活性水素基とは、化合物(1)が有するリン原子に結合した水素、水酸基及びカルボキシル基をいう。
上記下限値以上であると、エポキシ基含有化合物と反応する化合物(1)の量が増え、熱硬化性組成物の硬化収縮をより低減し、硬化物の難燃性、硬度、接着力をより高めることができる。
上記上限値以下であると、熱硬化性組成物の硬化速度が適度となり、硬化物の硬度が均一となり易く、硬度が過度に高くなったり過度に低くなったりすることを抑制できる。
前記熱硬化性組成物が化合物(1)以外の硬化剤を含有する場合、化合物(1)とエポキシ基含有化合物の含有比率は上記の範囲外であっても構わない。
【0030】
前記熱硬化性組成物中、前記エポキシ基含有化合物の合計100質量部に対する化合物(1)の合計の含有量は、10質量部以上1000質量部以下が好ましく、50質量部以上500質量部以下がより好ましく、100質量部以上300質量部以下がさらに好ましい。
上記下限値以上であると、エポキシ基含有化合物と反応する化合物(1)の量が増え、熱硬化性組成物の硬化収縮をより低減し、硬化物の難燃性、硬度、接着力をより高めることができる。
上記上限値以下であると、熱硬化性組成物の硬化速度が適度となり、硬化物の硬度が均一となり易く、硬度が過度に高くなったり過度に低くなったりすることを抑制できる。
【0031】
(添加剤)
前記熱硬化性組成物には、その硬化を阻まない範囲で、任意成分として、前記エポキシ基含有化合物及び化合物(1)以外の添加剤の1種以上を含んでいてもよい。
添加剤としては、例えば、導電材、着色剤、充填材、溶剤、硬化剤、硬化促進剤、低応力化剤等が挙げられる。
【0032】
前記熱硬化性組成物には下記式(2)で表される化合物(2)を含むことが好ましい。
前記熱硬化性組成物中の化合物(2)は、エポキシ基含有化合物のエポキシ基と、化合物(2)が有する水酸基又はカルボキシル基の活性水素基とが熱によって反応し、硬化剤として機能する。また、化合物(2)を含むことにより、前記熱硬化性組成物の硬化物の金属に対する接着性を向上させることができる。
【0034】
特に好適な化合物(2)として、例えば、下記式(2a)で表される4−ヒドロキシ安息香酸、下記式(2b)で表されるガリック酸(没食子酸)が挙げられる。
【0036】
前記式(2)中、L1及びL2はそれぞれ独立に単結合又は炭素数1〜8の2価の連結基であり、m及びnはそれぞれ独立に1〜5の整数であり、m+nは2〜6であり、ベンゼン環に結合する水素原子のうち、任意の1つ以上の水素原子は(HO−L1−)基によって置換されており、他の任意の1つ以上の水素原子は(−L2−COOH)基によって置換されており、(HO−L1−)基及び(−L2−COOH)基に置換されていない任意の1つ以上の水素原子は任意の置換基によって置換されていてもよい。
前記式(2a)及び前記式(2b)中、ベンゼン環に結合する任意の1つ以上の水素原子は、任意の置換基によって置換されていてもよい。
【0037】
前記式(2)中、mは1〜3が好ましく、nは1〜3が好ましい。
前記式(2)中、m=1且つn=1の場合を除いて、(−L2−COOH)基のカルボキシル基の水素原子は、炭素数1〜10の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基によって置換され、カルボン酸エステルを形成していてもよい。
【0038】
前記式(2)中、L1及びL2で表される炭素数1〜8の2価の連結基は、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルケニレン基であることが好ましい。前記アルキレン基及び前記アルケニレン基を構成する1つ以上のメチレン基は、酸素原子同士が結合する場合を除いて、−O−、−C(=O)−、−C(=O)O−、−O−C(=O)−、−NH−、又は−S−によって置換されていてもよい。
mが2以上である場合、複数のL1は互いに同じでもよいし、異なっていてもよい。
nが2以上である場合、複数のL2は互いに同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0039】
前記ベンゼン環の水素原子を置換していてもよい前記任意の置換基としては、例えば、炭素数1〜10の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン等が挙げられる。前記アルキル基の1つ以上のメチレン基は、酸素原子同士が結合する場合を除いて、−O−、−C(=O)−、−C(=O)O−、−O−C(=O)−、−NH−、又は−S−によって置換されていてもよい。
【0040】
化合物(2)の具体例としては、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸(サリチル酸)、2‐(ヒドロキシメチル)安息香酸、バニリン酸、シリング酸等のモノヒドロキシ安息香酸及びその誘導体;
2,3−ジヒドロキシ安息香酸(2−ピロカテク酸)、2,4−ジヒドロキシ安息香酸(β−レゾルシン酸)、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(ゲンチジン酸)、2,6−ジヒドロキシ安息香酸(γ−レゾルシン酸)、3,4−ジヒドロキシ安息香酸(プロトカテク酸)、3,5−ジヒドロキシ安息香酸(α−レゾルシン酸)、3,6−ジヒドロキシ安息香酸、オルセリン酸等のジヒドロキシ安息香酸及びその誘導体;
3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸(ガリック酸)、2,4,6−トリヒドロキシ安息香酸(フロログルシノールカルボン酸)等のトリヒドロキシ安息香酸及びその誘導体;
メリロト酸、フロレト酸、ウンベル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸等のヒドロキシケイヒ酸及びその誘導体;
5−ヒドロキシイソフタル酸、2−ヒドロキシテレフタル酸、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸等の、1つ以上のヒドロキシ基を有する芳香族ジカルボン酸及びその誘導体;等が挙げられる。
前記熱硬化性組成物に含まれる化合物(2)は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0041】
前記熱硬化性組成物中のエポキシ基含有化合物と化合物(2)の含有比率は、化合物(2)がエポキシ基含有化合物を硬化させるのに充分な含有比率にしてもよい。具体的には、エポキシ基含有化合物のエポキシ基1モルあたり、化合物(2)中の活性水素基のモル数が0.5モル以上1.5モル以下の含有比率であることが好ましい。ここで、活性水素基とは、化合物(2)が有する水酸基及びカルボキシル基の両方をいう。
上記下限値以上であると、エポキシ基含有化合物と反応する化合物(2)の量が増え、熱硬化性組成物の硬化物の硬度、接着力をより高めることができる。
上記上限値以下であると、熱硬化性組成物の硬化速度が適度となり、硬化物の硬度が均一となり易く、硬度が過度に高くなったり過度に低くなったりすることを抑制できる。
【0042】
前記熱硬化性組成物中、前記エポキシ基含有化合物の合計100質量部に対する化合物(2)の合計の含有量は、1質量部以上100質量部以下が好ましく、5質量部以上50質量部以下がより好ましく、10質量部以上30質量部以下がさらに好ましい。
上記下限値以上であると、エポキシ基含有化合物と反応する化合物(2)の量が増え、熱硬化性組成物の硬化物の硬度、接着力をより高めることができる。
上記上限値以下であると、熱硬化性組成物の硬化速度が適度となり、硬化物の硬度が均一となり易く、硬度が過度に高くなったり過度に低くなったりすることを抑制できる。
【0043】
前記熱硬化性組成物を後述する電磁波シールドフィルムの接着剤層に適用する場合、前記熱硬化性組成物に導電材を添加することによって、導電性接着剤層を形成することができる。この導電材としては、導電性粒子が好ましい。
【0044】
前記導電性粒子としては、例えば、銀、白金、金、銅、ニッケル、パラジウム、アルミニウム、ハンダ等の金属粒子、黒鉛粉、焼成カーボン粒子、めっきされた焼成カーボン粒子等が挙げられる。
導電性粒子の好適な平均粒子径は後述するように、例えば、0.1μm以上50μm以下程度が挙げられる。
前記熱硬化性組成物の溶媒を除いた固形分の総質量に対する導電性粒子の含有量としては、例えば、1質量%以上50質量%以下が挙げられ、10質量%以上30質量%以下が好ましい。この範囲であると、後述する導電性接着剤層を容易に形成することができる。
【0045】
前記低応力化剤(応力緩和剤)としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、シリコーン化合物等が挙げられる。
前記熱硬化性組成物の溶媒を除いた固形分の総質量に対する低応力化剤の含有量としては、その種類にもよるが、例えば、10質量%以上80質量%以下が挙げられ、30質量%以上70質量%以下が好ましい。この範囲であると、可とう性が良好な硬化物を容易に形成することができる。
【0046】
前記着色剤としては、例えば、カーボンブラック、アゾ系染料、金属錯体等が挙げられる。これらの中でも黒色着色剤が好ましい。
前記熱硬化性組成物の溶媒を除いた固形分の総質量に対する着色剤の含有量としては、その種類にもよるが、例えば、1%以上30%以下が挙げられ、5%以上20%以下が好ましい。
上記の範囲であると充分に着色できるので、離型フィルムと識別可能な絶縁樹脂層を容易に形成することができる。
【0047】
前記充填材としては、例えば、石英ガラス、タルク、溶融シリカ、結晶性シリカ、アルミナ等の粉体が挙げられる。
【0048】
前記溶剤は、前記エポキシ基含有化合物及び化合物(1)を溶解又は分散し得るものが好ましく、例えば、エステル(酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールモノアセテート等)、ケトン(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、プロピレングリールモノメチルエーテル、プロピレングルコール等)等が挙げられる。
【0049】
前記硬化剤としては、例えば、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂等、トリフェニルメタン型フェノール樹脂等の多官能フェノール樹脂等が挙げられる。
【0050】
前記硬化促進剤としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィン等の有機リン化合物、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、フェニルイミダゾール等のイミダゾール化合物、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7(DBU)、1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)ノネン−5(DBN)、N−アミノエチルピペラジン等の三級アミン化合物等が挙げられる。
【0051】
前記添加剤として、上記成分以外のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、例えば、離型剤、前記化合物(1)以外の難燃剤、顔料、イオントラップ剤、カップリング剤、耐熱化剤等を挙げることができる。
【0052】
前記熱硬化性組成物の総質量に対する、前記硬化剤、前記硬化促進剤、前記充填材、前記その他の成分の各々の含有量は特に限定されず、例えば、その含有量の合計が0.1質量%以上30質量%以下の範囲で調製することができる。
【0053】
(熱硬化性組成物の製造方法)
本発明の第一態様の熱硬化性組成物は、例えば、溶剤、前記エポキシ基含有化合物、化合物(1)、添加剤等を適宜配合し、ボールミル、ブレンダー等を用いた常法によって混合することにより調製することができる。
【0054】
<作用効果>
本発明の熱硬化性組成物に含まれる化合物(1)は、難燃性を有するとともに、25℃、1気圧で液体であるため、熱硬化性組成物中の分散性に優れ、その硬化物中の分布も均一になり、その硬化物や塗膜の硬度を低下させ難い。さらに、液体であるので基材に対する接着性が向上しており、比較的穏やかなラミネート処理によってその硬化物を含む層を、金属薄膜層等の基材に対して充分に接着することができる。
本発明の熱硬化性組成物に含まれる化合物(1)は、その硬化物の燃焼温度において難燃剤として機能する。この化学的な機構の詳細は未解明であるが、従来のリン酸トリフェニルと同様の機構により、燃焼時に化合物(1)が難燃性のチャーを形成して、硬化物の燃焼が抑制されると考えられる。
また、本発明の熱硬化性組成物に含まれる化合物(1)は、熱硬化性組成物が硬化する際の硬化収縮を抑制する低応力化剤として機能する。この化学的な機構の詳細は未解明であるが、化合物(1)の置換基が、熱によってエポキシ基と反応し、化合物(1)がエポキシ基含有化合物に付加して、硬化するとともに、硬化収縮を抑制していると考えられる。
【0055】
《硬化物》
本発明の第二態様は、第一態様の熱硬化性組成物の硬化物である。硬化物の硬化の程度は、Bステージよりも未硬化に近い状態、Bステージ化(半硬化)した状態、完全硬化した状態のいずれでもよい。
硬化物の実施形態の一例として、例えば、基材の表面に塗布された熱硬化性組成物が硬化してなる塗膜が挙げられる。
前記塗膜の前記基材に対する接着性は優れるので、前記塗膜は接着剤層として有用である。また、前記基材が金属製である場合には、前記塗膜に前記化合物(2)が含まれていると、その金属表面に対する接着性がより優れる。このため、前記塗膜は後述する電磁波シールドフィルムの金属薄膜層に積層する絶縁樹脂層及び接着剤層として優れた接着性を発揮する。
前記塗膜の膜厚は特に制限されず、例えば、1μm以上100μm以下が挙げられる。
【0056】
前記硬化物を得る方法は、前記エポキシ基含有化合物と化合物(1)とが反応して硬化するための熱を供給できる方法であれば特に限定されず、例えば、容器や型に注入して加熱する方法、基材の表面に塗布して加熱する方法等が挙げられる。
硬化物を得る際の加熱の温度は、前記反応が生じる温度以上であればよく、室温以上であることが好ましく、反応制御を容易にする観点から、50〜200℃、1分以上24時間以下の加熱条件で硬化させることが好ましい。
硬化反応は、1回の加熱で完全に硬化させてもよいし、複数回の加熱でBステージを経て段階的に硬化させてもよい。
【0057】
<作用効果>
本発明の第二態様の硬化物は、前記エポキシ基含有化合物及び化合物(1)を含有するので、硬化時に接触していた基材に対して優れた接着性を発揮する。また、化合物(1)を含有するので、難燃性にも優れる。
【0058】
《電磁波シールドフィルム》
本発明の第三態様は、絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層に隣接する金属薄膜層と、前記金属薄膜層の前記絶縁樹脂層とは反対側に隣接する接着剤層とを有する電磁波シールドフィルムであって、前記絶縁樹脂層及び接着剤層のうち少なくとも一方が、第二態様の硬化物である、電磁波シールドフィルムである。
以下、図面を参照して説明するが、図面における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なっていることがある。
【0059】
図1は、第一実施形態の電磁波シールドフィルム1を示す断面図であり、
図2は、第二実施形態の電磁波シールドフィルム1を示す断面図である。
電磁波シールドフィルム1は、絶縁樹脂層10と;絶縁樹脂層10に隣接する金属薄膜層22と;金属薄膜層22の絶縁樹脂層10とは反対側に隣接する接着剤層24と;絶縁樹脂層10の金属薄膜層22とは反対側に隣接する第1の離型フィルム30と;接着剤層24の金属薄膜層22とは反対側に隣接する第2の離型フィルム40とを有する。
【0060】
第1の実施形態の電磁波シールドフィルム1は、接着剤層24が異方導電性接着剤層24である例である。
第2の実施形態の電磁波シールドフィルム1は、接着剤層26が等方導電性接着剤層26である例である。
【0061】
(絶縁樹脂層)
絶縁樹脂層10は、電磁波シールドフィルム1をフレキシブルプリント配線板の表面に設けられた絶縁フィルムの表面に貼着し、第1の離型フィルム30を剥離した後には、金属薄膜層22の保護層となる。
【0062】
絶縁樹脂層10としては、熱硬化性樹脂と硬化剤とを含む塗料を塗布し、半硬化または硬化させて形成された塗膜;熱可塑性樹脂を含む塗料を塗布して形成された塗膜;熱可塑性樹脂を含む組成物を溶融成形したフィルムからなる層等が挙げられる。ハンダ付け等の際の耐熱性の点から、熱硬化性樹脂と硬化剤とを含む塗料を塗布し、半硬化または硬化させて形成された塗膜が好ましい。
【0063】
熱硬化性樹脂としては、アミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、合成ゴム、紫外線硬化アクリレート樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、耐熱性に優れる点から、アミド樹脂、エポキシ樹脂が好ましい。
硬化剤としては、熱硬化性樹脂の種類に応じた公知の硬化剤が挙げられる。
【0064】
絶縁樹脂層10は、プリント配線板のプリント回路を隠蔽したり、電磁波シールドフィルム付きプリント配線板に意匠性を付与したりするために、着色剤(顔料、染料等)およびフィラーのいずれか一方または両方を含んでいてもよい。
着色剤およびフィラーのいずれか一方または両方としては、耐候性、耐熱性、隠蔽性の点から、顔料またはフィラーが好ましく、プリント回路の隠蔽性、意匠性の点から、黒色顔料、または黒色顔料と他の顔料もしくはフィラーとの組み合わせがより好ましい。
【0065】
絶縁樹脂層10は、前記化合物(1)以外の難燃剤を含んでいてもよい。
絶縁樹脂層10は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。
【0066】
絶縁樹脂層10の表面抵抗は、電気的絶縁性の点から、1×10
6Ω以上が好ましい。絶縁樹脂層10の表面抵抗は、実用上の点から、1×10
19Ω以下が好ましい。
絶縁樹脂層10の厚さは、0.1μm以上30μm以下が好ましく、0.5μm以上20μm以下がより好ましい。絶縁樹脂層10の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、絶縁樹脂層10が保護層としての機能を十分に発揮できる。絶縁樹脂層10の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、電磁波シールドフィルム1を薄くできる。
【0067】
(導電層)
導電層20としては、絶縁樹脂層10に隣接する金属薄膜層22と、導電層20において絶縁樹脂層10とは反対側の最表層となる導電性接着剤層(異方導電性接着剤層24または等方導電性接着剤層26)とを有する導電層(I);または等方導電性接着剤層26のみからなる導電層(II)が挙げられる。導電層20としては、電磁波シールド層として十分に機能できる点から、導電層(I)が好ましい。
【0068】
(金属薄膜層)
金属薄膜層22は、金属の薄膜からなる層である。金属薄膜層22は、面方向に広がるように形成されていることから、面方向に導電性を有し、電磁波シールド層等として機能する。
【0069】
金属薄膜層22としては、物理蒸着(真空蒸着、スパッタリング、イオンビーム蒸着、電子ビーム蒸着等)またはCVDによって形成された蒸着膜、めっきによって形成されためっき膜、金属箔等が挙げられる。面方向の導電性に優れる点から、蒸着膜、めっき膜が好ましく、厚さを薄くでき、かつ厚さが薄くても面方向の導電性に優れ、ドライプロセスにて簡便に形成できる点から、蒸着膜がより好ましく、物理蒸着による蒸着膜がさらに好ましい。
【0070】
金属薄膜層22を構成する金属としては、アルミニウム、銀、銅、金、導電性セラミックス等が挙げられる。電気伝導度の点からは、銅が好ましく、化学的安定性の点からは、導電性セラミックスが好ましい。
【0071】
金属薄膜層22の表面抵抗は、0.001Ω以上1Ω以下が好ましく、0.001Ω以上0.5Ω以下がより好ましい。金属薄膜層22の表面抵抗が前記範囲の下限値以上であれば、金属薄膜層22を十分に薄くできる。金属薄膜層22の表面抵抗が前記範囲の上限値以下であれば、電磁波シールド層として十分に機能できる。
【0072】
金属薄膜層22の厚さは、0.01μm以上1μm以下が好ましく、0.05μm以上1μm以下がより好ましい。金属薄膜層22の厚さが0.01μm以上であれば、面方向の導電性がさらに良好になる。金属薄膜層22の厚さが0.05μm以上であれば、電磁波ノイズの遮蔽効果がさらに良好になる。金属薄膜層22の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、電磁波シールドフィルム1を薄くできる。また、電磁波シールドフィルム1の生産性、可とう性がよくなる。
【0073】
(導電性接着剤層)
導電性接着剤層は、少なくとも厚さ方向に導電性を有し、かつ接着性を有する。
導電性接着剤層としては、厚さ方向に導電性を有し、面方向には導電性を有さない異方導電性接着剤層24、または厚さ方向および面方向に導電性を有する等方導電性接着剤層26が挙げられる。導電層(I)における導電性接着剤層としては、導電性接着剤層を薄くでき、導電性粒子の量が少なくなり、その結果、電磁波シールドフィルム1を薄くでき、電磁波シールドフィルム1の可とう性がよくなる点からは、異方導電性接着剤層24が好ましい。導電層(I)における導電性接着剤層としては、電磁波シールド層として十分に機能できる点からは、等方導電性接着剤層26が好ましい。
【0074】
本実施形態における導電性接着剤層として、本発明の第一態様の熱硬化性組成物又は第二態様の硬化物からなる塗膜が用いられている。前記塗膜は熱硬化性であるため、耐熱性に優れる。また、前記化合物(1)を含有しているので、硬化時の収縮が少なく、フィルムのカールを抑制できるとともに、硬化後の難燃性にも優れる。さらに、前記エポキシ基含有化合物及び化合物(2)を含有する場合には、金属薄膜層22に対する接着性が特に優れる。
導電性接着剤層を構成する前記熱硬化性組成物の硬化の程度は特に制限されず、未硬化状態、Bステージ化された状態、完全硬化状態のいずれであってもよい。
導電性接着剤層を構成する前記硬化物は、Bステージよりも未硬化に近い状態、Bステージ化された状態、完全に硬化した状態のいずれであってもよい。
【0075】
熱硬化性の異方導電性接着剤層24は、例えば、導電性粒子24bを含む熱硬化性組成物24aによって構成される。
熱硬化性の等方導電性接着剤層26は、例えば、導電性粒子26bを含む熱硬化性組成物26aによって構成される。
【0076】
前記熱硬化性組成物は、可とう性付与のためのゴム成分(カルボキシ変性ニトリルゴム、アクリルゴム等)、粘着付与剤等を含んでいてもよい。
前記熱硬化性組成物は、必要に応じて前記化合物(1)以外の難燃剤を含んでいてもよい。
前記熱硬化性組成物は、導電性接着剤層の強度を高め、打ち抜き特性を向上させるために、セルロース樹脂、ミクロフィブリル(ガラス繊維等)を含んでいてもよい。
前記熱硬化性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。
【0077】
導電性粒子としては、金属(銀、白金、金、銅、ニッケル、パラジウム、アルミニウム、ハンダ等)の粒子、黒鉛粉、焼成カーボン粒子、めっきされた焼成カーボン粒子等が挙げられる。導電性粒子としては、導電性接着剤層が適度の硬さを有するようになり、熱プレスの際の導電性接着剤層における圧力損失を低減できる点からは、金属粒子が好ましく、銅粒子がより好ましい。
【0078】
異方導電性接着剤層24における導電性粒子24bの平均粒子径は、2μm以上26μm以下が好ましく、4μm以上16μm以下がより好ましい。導電性粒子24bの平均粒子径が前記範囲の下限値以上であれば、異方導電性接着剤層24の厚さを確保することができ、十分な接着強度を得ることができる。導電性粒子24bの平均粒子径が前記範囲の上限値以下であれば、異方導電性接着剤層24の流動性(絶縁フィルムの貫通孔の形状への追随性)を確保でき、絶縁フィルムの貫通孔内を導電性接着剤で十分に埋めることができる。
【0079】
等方導電性接着剤層26における導電性粒子26bの平均粒子径は、0.1μm以上10μm以下が好ましく、0.2μm以上1μm以下がより好ましい。導電性粒子26bの平均粒子径が前記範囲の下限値以上であれば、導電性粒子26bの接触点数が増えることになり、3次元方向の導通性を安定的に高めることができる。導電性粒子26bの平均粒子径が前記範囲の上限値以下であれば、等方導電性接着剤層26の流動性(絶縁フィルムの貫通孔の形状への追随性)を確保でき、絶縁フィルムの貫通孔内を導電性接着剤で十分に埋めることができる。
【0080】
異方導電性接着剤層24における導電性粒子24bの割合は、異方導電性接着剤層24の100体積%のうち、1体積%以上30体積%以下が好ましく、2体積%以上15体積%以下がより好ましい。導電性粒子24bの割合が前記範囲の下限値以上であれば、異方導電性接着剤層24の導電性が良好になる。導電性粒子24bの割合が前記範囲の上限値以下であれば、異方導電性接着剤層24の接着性、流動性(絶縁フィルムの貫通孔の形状への追随性)が良好になる。また、電磁波シールドフィルム1の可とう性がよくなる。
【0081】
等方導電性接着剤層26における導電性粒子26bの割合は、等方導電性接着剤層26の100体積%のうち、50体積%以上80体積%以下が好ましく、60体積%以上70体積%以下がより好ましい。導電性粒子26bの割合が前記範囲の下限値以上であれば、等方導電性接着剤層26の導電性が良好になる。導電性粒子26bの割合が前記範囲の上限値以下であれば、等方導電性接着剤層26の接着性、流動性(絶縁フィルムの貫通孔の形状への追随性)が良好になる。また、電磁波シールドフィルム1の可とう性がよくなる。
【0082】
導電性接着剤層の180℃における貯蔵弾性率は、1×10
3Pa以上5×10
7Pa以下が好ましく、5×10
3Pa以上1×10
7Pa以下がより好ましい。導電性接着剤層の180℃における貯蔵弾性率が前記範囲の下限値以上であれば、導電性接着剤層がさらに適度の硬さを有するようになり、熱プレスの際の導電性接着剤層における圧力損失を低減できる。その結果、導電性接着剤層とプリント配線板のプリント回路とが十分に接着され、導電性接着剤層が絶縁フィルムの貫通孔を通ってプリント配線板のプリント回路により確実に電気的に接続される。導電性接着剤層の180℃における貯蔵弾性率が前記範囲の上限値以下であれば、電磁波シールドフィルム1の可とう性がよくなる。その結果、電磁波シールドフィルム1が絶縁フィルムの貫通孔内に沈み込みやすくなり、導電性接着剤層が絶縁フィルムの貫通孔を通ってプリント配線板のプリント回路により確実に電気的に接続される。
【0083】
異方導電性接着剤層24の表面抵抗は、1×10
4Ω以上1×10
16Ω以下が好ましく、1×10
6Ω以上1×10
14Ω以下がより好ましい。異方導電性接着剤層24の表面抵抗が前記範囲の下限値以上であれば、導電性粒子24bの含有量が低く抑えられる。異方導電性接着剤層24の表面抵抗が前記範囲の上限値以下であれば、実用上、異方性に問題がない。
【0084】
等方導電性接着剤層26の表面抵抗は、0.05Ω以上2.0Ω以下が好ましく、0.1Ω以上1.0Ω以下がより好ましい。等方導電性接着剤層26の表面抵抗が前記範囲の下限値以上であれば、導電性粒子26bの含有量が低く抑えられ、導電性接着剤の粘度が高くなりすぎず、塗布性がさらに良好となる。また、等方導電性接着剤層26の流動性(絶縁フィルムの貫通孔の形状への追随性)をさらに確保できる。等方導電性接着剤層26の表面抵抗が前記範囲の上限値以下であれば、等方導電性接着剤層26の全面が均一な導電性を有するものとなる。
【0085】
異方導電性接着剤層24の厚さは、3μm以上25μm以下が好ましく、5μm以上15μm以下がより好ましい。異方導電性接着剤層24の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、異方導電性接着剤層24の流動性(絶縁フィルムの貫通孔の形状への追随性)を確保でき、絶縁フィルムの貫通孔内を導電性接着剤で十分に埋めることができる。異方導電性接着剤層24の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、電磁波シールドフィルム1を薄くできる。また、電磁波シールドフィルム1の可とう性がよくなる。
【0086】
等方導電性接着剤層26の厚さは、5μm以上20μm以下が好ましく、7μm以上17μm以下がより好ましい。等方導電性接着剤層26の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、等方導電性接着剤層26の導電性が良好になり、電磁波シールド層として十分に機能できる。また、等方導電性接着剤層26の流動性(絶縁フィルムの貫通孔の形状への追随性)を確保でき、絶縁フィルムの貫通孔内を導電性接着剤で十分に埋めることができ、耐折性も確保でき繰り返し折り曲げても等方導電性接着剤層26が断裂することはない。等方導電性接着剤層26の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、電磁波シールドフィルム1を薄くできる。また、電磁波シールドフィルム1の可とう性がよくなる。
【0087】
(第1の離型フィルム)
第1の離型フィルム30は、絶縁樹脂層10や導電層20のキャリアフィルムとなるものであり、電磁波シールドフィルム1のハンドリング性を良好にする。第1の離型フィルム30は、電磁波シールドフィルム1をプリント配線板等に貼り付けた後には、絶縁樹脂層10から剥離される。
【0088】
第1の離型フィルム30は、離型フィルム本体32と、離型フィルム本体32の絶縁樹脂層10側の表面に設けられた粘着剤層34とを有する。
【0089】
離型フィルム本体32の樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETとも記す。)、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリアセテート、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、合成ゴム、液晶ポリマー等が挙げられる。樹脂材料としては、電磁波シールドフィルム1を製造する際の耐熱性(寸法安定性)および価格の点から、PETが好ましい。
【0090】
離型フィルム本体32は、着色剤(顔料、染料等)およびフィラーのいずれか一方または両方を含んでいてもよい。
着色剤およびフィラーのいずれか一方または両方としては、絶縁樹脂層10と明確に区別でき、熱プレスした後に第1の離型フィルム30の剥がし残しに気が付きやすい点から、絶縁樹脂層10とは異なる色のものが好ましく、白色顔料、フィラー、または白色顔料と他の顔料もしくはフィラーとの組み合わせがより好ましい。
【0091】
離型フィルム本体32の180℃における貯蔵弾性率は、8×10
7Pa以上5×10
9Paが好ましく、1×10
8Pa以上8×10
8Paがより好ましい。離型フィルム本体32の180℃における貯蔵弾性率が前記範囲の下限値以上であれば、第1の離型フィルム30が適度の硬さを有するようになり、熱プレスの際の第1の離型フィルム30における圧力損失を低減できる。離型フィルム本体32の180℃における貯蔵弾性率が前記範囲の上限値以下であれば、第1の離型フィルム30の柔軟性が良好となる。
【0092】
離型フィルム本体32の厚さは、3μm以上75μm以下が好ましく、12μm以上50μm以下がより好ましい。離型フィルム本体32の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、電磁波シールドフィルム1のハンドリング性が良好となる。離型フィルム本体32の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、絶縁フィルムの表面に電磁波シールドフィルム1の導電性接着剤層を熱プレスする際に導電性接着剤層に熱が伝わりやすい。
【0093】
粘着剤層34は、例えば、離型フィルム本体32の表面に粘着剤を含む粘着剤組成物を塗布して形成される。第1の離型フィルム30が粘着剤層34を有することによって、第2の離型フィルム40を導電性接着剤層から剥離する際や電磁波シールドフィルム1をプリント配線板等に熱プレスによって貼り付ける際に、第1の離型フィルム30が絶縁樹脂層10から剥離することが抑えられ、第1の離型フィルム30が保護フィルムとしての役割を十分に果たすことができる。
【0094】
粘着剤は、熱プレス前には第1の離型フィルム30が絶縁樹脂層10から容易に剥離することなく、熱プレス後には第1の離型フィルム30を絶縁樹脂層10から剥離できる程度の適度な粘着性を粘着剤層34に付与するものであることが好ましい。
粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤等が挙げられる。
粘着剤のガラス転移温度は、−100〜60℃が好ましく、−60〜40℃がより好ましい。
【0095】
第1の離型フィルム30の厚さは、25μm以上125μm以下が好ましく、38μm以上100μm以下がより好ましい。第1の離型フィルム30の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、電磁波シールドフィルム1のハンドリング性が良好となる。第1の離型フィルム30の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、絶縁フィルムの表面に電磁波シールドフィルム1の導電性接着剤層を熱プレスする際に導電性接着剤層に熱が伝わりやすい。
【0096】
(第2の離型フィルム)
第2の離型フィルム40は、導電性接着剤層を保護するものであり、電磁波シールドフィルム1のハンドリング性を良好にする。第2の離型フィルム40は、電磁波シールドフィルム1をプリント配線板等に貼り付ける前に、導電性接着剤層から剥離される。
【0097】
第2の離型フィルム40は、例えば、離型フィルム本体42と、離型フィルム本体42の導電性接着剤層側の表面に設けられた離型剤層44とを有する。
【0098】
離型フィルム本体42の樹脂材料としては、離型フィルム本体32の樹脂材料と同様なものが挙げられる。
離型フィルム本体42は、着色剤、フィラー等を含んでいてもよい。
離型フィルム本体42の厚さは、5μm以上500μm以下が好ましく、10μm以上150μm以下がより好ましく、25μm以上100μm以下がさらに好ましい。
【0099】
離型剤層44は、離型フィルム本体42の表面を離型剤で処理して形成される。第2の離型フィルム40が離型剤層44を有することによって、第2の離型フィルム40を導電性接着剤層から剥離する際に、第2の離型フィルム40を剥離しやすく、導電性接着剤層が破断しにくくなる。
離型剤としては、公知の離型剤を用いればよい。
【0100】
離型剤層44の厚さは、0.05μm以上30μm以下が好ましく、0.1μm以上20μm以下がより好ましい。離型剤層44の厚さが前記範囲内であれば、第2の離型フィルム40をさらに剥離しやすくなる。
【0101】
(電磁波シールドフィルムの厚さ)
電磁波シールドフィルム1の厚さ(離型フィルムを除く)は、5μm以上50μm以下が好ましく、8μm以上30μm以下がより好ましい。離型フィルムを含まない電磁波シールドフィルム1の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、第1の離型フィルム30を剥離する際に破断しにくい。離型フィルムを含まない電磁波シールドフィルム1の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、電磁波シールドフィルム付きプリント配線板を薄くできる。
【0102】
《電磁波シールドフィルムの製造方法》
本発明の第四態様は、第三態様の電磁波シールドフィルムの製造方法である。
本態様の第一実施形態は、第一態様の熱硬化性組成物を基材フィルムに塗布してなる塗膜を加熱することによって、任意の程度まで硬化させることにより、前記絶縁樹脂層及び前記接着剤層のうち少なくとも一方を形成する工程を有する、前記電磁波シールドフィルムの製造方法である。
【0103】
前記基材フィルムの形態は特に限定されず、例えば、キャリアフィルム、第1の離型フィルム、第2の離型フィルム等が挙げられる。これらの基材フィルムの前記熱硬化性組成物の塗布面には、予め金属薄膜層が形成されていてもよい。具体的には、例えば、前記基材フィルムは、キャリアフィルムと金属薄膜層との積層フィルムであってもよい。
【0104】
前記塗膜を加熱する温度及び時間は、前記熱硬化性組成物が所望の程度まで硬化する温度及び時間であれば特に制限されず、例えば、50℃以上200℃以下、10秒以上10分以下が挙げられる。
【0105】
<作用効果>
本実施形態においては、前記熱硬化性組成物に化合物(1)が含まれているので、前記塗膜が硬化する際にその硬化収縮を抑制することができる。この結果、前記絶縁樹脂層又は前記接着剤層が表面に形成された基材フィルムのカールが抑制され、電磁波シールドフィルムの製造歩留りを向上させることができる。
【0106】
第四態様の第二実施形態は、前記絶縁樹脂層と、前記金属薄膜層と、前記接着剤層とをこの順で積層し、加熱及び加圧するラミネート処理を施すことによって、前記絶縁樹脂層と前記金属薄膜層の接着、及び前記金属薄膜層と前記接着剤層の接着のうち、少なくとも一方の接着を行う工程を有する、電磁波シールドフィルムの製造方法である。
【0107】
各層を上記の順で積層する方法として、例えば、第1の離型フィルムに前記絶縁樹脂層及び前記金属薄膜層をこの順で形成し、第2の離型フィルムに前記接着剤層を形成し、前記金属薄膜層に前記接着剤層を貼り付けるように前記第1の離型フィルムに前記第2の離型フィルムを載置する方法が挙げられる。
上記の方法に代えて、第1の離型フィルムに前記絶縁樹脂層を形成し、第2の離型フィルムに前記接着剤層及び前記金属薄膜層をこの順で形成し、前記金属薄膜層に前記絶縁樹脂層を貼り付けるように前記第2の離型フィルムに前記第1の離型フィルムを載置する方法も例示できる。
前記ラミネート処理の加熱温度及び圧力の条件は、後で詳述する工程(c3)における条件が好ましい。
【0108】
<作用効果>
本実施形態においては、化合物(1)が前記絶縁樹脂層及び前記接着剤層の少なくとも一方に含まれているので、化合物(1)を含む前記絶縁樹脂層、前記接着剤層の前記金属薄膜に対する接着性が優れており、比較的穏やかなラミネート処理によって、容易に接着することができる。この結果、電磁波シールドフィルムの製造効率を向上させることができる。
以下、より詳細に、本発明にかかる電磁波シールドフィルムの製造方法を例示する。
【0109】
本発明の電磁波シールドフィルムは、例えば、下記の方法(α)、下記の方法(β)等によって製造される。本発明の電磁波シールドフィルムを製造する方法としては、絶縁樹脂層と金属薄膜層との接着性が良好となる点から、方法(α)が好ましい。
【0110】
方法(α)は、下記の工程(a)〜(c)を有する方法である。
工程(a):必要に応じて、キャリアフィルムの表面に金属薄膜層を設ける工程。
工程(b):キャリアフィルムの表面に設けられた金属薄膜層の表面に絶縁樹脂層を設ける工程。
工程(c):キャリアフィルムを金属薄膜層から剥離し、金属薄膜層の絶縁樹脂層とは反対側の表面に接着剤層を設ける工程。
【0111】
方法(β)は、下記の工程(x)〜(z)を有する方法である。
工程(x):第1の離型フィルムの表面に絶縁樹脂層を設ける工程。
工程(y):絶縁樹脂層の表面に金属薄膜層を設ける工程。
工程(z):金属薄膜層の表面に接着剤層を設ける工程。
【0112】
以下、方法(α)について詳細に説明する。
(工程(a))
キャリアフィルムとしては、基材層と、基材層の表面に設けられた粘着剤層とを有するものが挙げられる。
基材層の樹脂材料としては、第1の離型フィルム30の基材層32の樹脂材料と同様なものが挙げられる。
粘着剤層の粘着剤としては、公知の粘着剤を用いればよい。
【0113】
金属薄膜層の形成方法としては、物理蒸着、CVDによって蒸着膜を形成する方法、めっきによってめっき膜を形成する方法、金属箔を貼り付ける方法等が挙げられる。面方向の導電性に優れる金属薄膜層を形成できる点から、物理蒸着、CVDによって蒸着膜を形成する方法、またはめっきによってめっき膜を形成する方法が好ましく、金属薄膜層の厚さを薄くでき、かつ厚さが薄くても面方向の導電性に優れる金属薄膜層を形成でき、ドライプロセスにて簡便に金属薄膜層を形成できる点から、物理蒸着、CVDによって蒸着膜を形成する方法がより好ましく、物理蒸着によって蒸着膜を形成する方法がさらに好ましい。
【0114】
キャリアフィルムの表面に金属薄膜層を設けた市販の積層体を入手することによって、工程(a)を省略してもよい。
【0115】
(工程(b))
金属薄膜層の表面に絶縁樹脂層を設ける方法としては、例えば、金属薄膜層の表面に光硬化性組成物を塗布し、溶剤を含む場合は乾燥させた後、光(紫外線等)を照射して半硬化または硬化させる方法が挙げられる。
【0116】
工程(b)においては、絶縁樹脂層の表面に第1の離型フィルムを設けてもよい。
絶縁樹脂層の表面に第1の離型フィルムを設ける方法としては、絶縁樹脂層の表面に、基材層と粘着剤層とを有する第1の離型フィルムを、絶縁樹脂層と粘着剤層とが接するように貼り付ける方法;絶縁樹脂層の表面に粘着剤層を設けた後、粘着剤層の表面に第1の離型フィルムの基材層を貼り付けることによって、絶縁樹脂層の表面に第1の離型フィルムを設ける方法等が挙げられる。
【0117】
(工程(c))
工程(c)においては、第2の離型フィルムの表面に接着剤層を設けた接着剤層付き第2の離型フィルムを、金属薄膜層の絶縁樹脂層とは反対側の表面に、金属薄膜層と接着剤層とが接するように貼り付けてもよく;金属薄膜層の表面に接着剤層を直接設けてもよい。また、金属薄膜層の表面に接着剤層を設けた後、接着剤層の表面に第2の離型フィルムを貼り付けてもよい。
【0118】
第2の離型フィルムまたは金属薄膜層の表面に接着剤層を設ける方法としては、第2の離型フィルムまたは金属薄膜層の表面に、接着剤と溶剤と必要に応じて導電性粒子とを含む塗工液を塗布し、乾燥させる方法が挙げられる。
【0119】
(電磁波シールドフィルムの製造方法の一実施形態)
以下、
図1に示す第1の実施形態の電磁波シールドフィルム1を製造する方法について、
図3および
図4を参照しながら説明する。
【0120】
工程(a):
図3に示すように、基材層102と離型剤層104とを有するキャリアフィルム100の離型剤層104側の表面に、金属を蒸着して金属薄膜層22を設ける。
【0121】
工程(b1):
図3に示すように、金属薄膜層22の表面に、黒色着色剤(不図示)を含む絶縁樹脂層形成用塗工液(本発明の第一態様の熱硬化性組成物)を塗布し、加熱しながら乾燥させて、絶縁樹脂層10を設ける。
【0122】
工程(b2):
図3に示すように、絶縁樹脂層10の表面に、基材層32と粘着剤層34とを有する第1の離型フィルム30を、絶縁樹脂層10と粘着剤層34とが接するように貼り付ける。
【0123】
工程(c1):
図4に示すように、基材層42と離型剤層44とを有する第2の離型フィルム40の離型剤層44側の表面に、接着剤24aと導電性粒子24bと溶剤とを含む接着剤層形成用塗工液(本発明の第一態様の熱硬化性組成物)を塗布し、加熱しながら乾燥させて、異方導電性接着剤層24(接着剤層24)を設ける。このようにして、接着剤層付き第2の離型フィルムを得る。
【0124】
工程(c2):
図4に示すように、工程(b2)で得られた積層体において、キャリアフィルム100を金属薄膜層22から剥離する。このようにして、絶縁樹脂層および金属薄膜層付き第1の離型フィルムを得る。
【0125】
工程(c3):
図4に示すように、絶縁樹脂層および金属薄膜層付き第1の離型フィルムと、接着剤層付き第2の離型フィルムとを、金属薄膜層22と異方導電性接着剤層24とが接するように貼り合わせ、必要に応じて加熱して絶縁樹脂層及び接着剤層を硬化させ、電磁波シールドフィルム1を得る。
【0126】
工程(c3)において、金属薄膜層22と異方導電性接着剤層24とを貼り合わせる際に、熱プレスよりも穏やかな条件でラミネート処理(積層した状態で接着する処理)を施すことが好ましい。
上記ラミネート処理における加熱温度としては、例えば50〜100℃が好ましい。
上記ラミネート処理における圧力としては、例えば100kPa(0.1MPa)以下が好ましく、0.1kPa以上20kPa以下がより好ましく、1kPa以上10kPa以下がさらに好ましい。
上記ラミネート処理における加熱及び加圧の時間としては、例えば10秒以上30分以下が好ましく、30秒以上10分以下がより好ましい。
上記の好適な加熱温度、圧力、処理時間でラミネート処理することにより、金属薄膜層22と異方導電性接着剤層24を充分な接着力で容易に接着することができる。
【0127】
<作用効果>
本発明にかかる電磁波シールドフィルム1にあっては、絶縁樹脂層10及び異方導電性接着剤層24の少なくとも一方が第一態様の熱硬化性組成物によって形成されているため、難燃性にも優れる。また、その製造時においては、前記熱硬化性組成物の硬化時の収縮が抑制されており、比較的穏やかな条件のラミネート処理によって、絶縁樹脂層10、異方導電性接着剤層24の金属薄膜層22に対する充分な接着力を容易に得ることができる。
また、前記熱硬化性組成物が前記化合物(2)を含有していれば、金属薄膜層22に対する絶縁樹脂層10、異方導電性接着剤層24の接着力がより高まり、離型フィルムを剥離する際に、金属薄膜層22と絶縁樹脂層10又は異方導電性接着剤層24とが剥離することが防止されている。
【0128】
本発明にかかる電磁波シールドフィルムは、絶縁樹脂層及び導電性接着剤層のうち少なくとも一方が前記エポキシ基含有化合物及び化合物(1)を含むものであればよく、図示例の実施形態に限定はされない。
例えば、第2の離型フィルムは、導電性接着剤層の表面のタック性が少ない場合は、離型剤層の代わりに粘着剤層を有していてもよい。または、第2の離型フィルムを省略しても構わない。
第2の離型フィルムは、離型フィルム本体の離型性が高い場合は、離型剤層を有さず、離型フィルム本体のみからなるものであってもよい。
絶縁樹脂層は、2層以上であってもよい。
【0129】
<電磁波シールドフィルム付きプリント配線板>
図5は、本発明の電磁波シールドフィルム付きプリント配線板の一実施形態を示す断面図である。
電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板2は、フレキシブルプリント配線板50と、絶縁フィルム60と、第1の実施形態の電磁波シールドフィルム1とを備える。
フレキシブルプリント配線板50は、ベースフィルム52の少なくとも片面にプリント回路54が設けられたものである。
絶縁フィルム60は、フレキシブルプリント配線板50のプリント回路54が設けられた側の表面に設けられる。
電磁波シールドフィルム1の異方導電性接着剤層24は、絶縁フィルム60の表面に接着され、かつ硬化されている。また、異方導電性接着剤層24は、絶縁フィルム60に形成された貫通孔(図示略)を通ってプリント回路54に電気的に接続されている。
電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板2においては、第2の離型フィルム40は、異方導電性接着剤層24から剥離されている。
【0130】
電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板2において第1の離型フィルム30が不要になった際には、第1の離型フィルム30は絶縁樹脂層10から剥離される。
【0131】
貫通孔のある部分を除くプリント回路54(信号回路、グランド回路、グランド層等)の近傍には、電磁波シールドフィルム1の金属薄膜層22が、絶縁フィルム60および異方導電性接着剤層24を介して離間して対向配置される。
貫通孔のある部分を除くプリント回路54と金属薄膜層22との離間距離は、絶縁フィルム60の厚さと異方導電性接着剤層24の厚さの総和とほぼ等しい。離間距離は、30μm以上200μm以下が好ましく、60μm以上200μm以下がより好ましい。離間距離が30μmより小さいと、信号回路のインピーダンスが低くなるため、100Ω等の特性インピーダンスを有するためには、信号回路の線幅を小さくしなければならず、線幅のバラツキが特性インピーダンスのバラツキとなって、インピーダンスのミスマッチによる反射共鳴ノイズが電気信号に乗りやすくなる。離間距離が200μmより大きいと、電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板2が厚くなり、可とう性が不足する。
【0132】
(フレキシブルプリント配線板)
フレキシブルプリント配線板50は、銅張積層板の銅箔を公知のエッチング法により所望のパターンに加工してプリント回路(電源回路、グランド回路、グランド層等)としたものである。
銅張積層板としては、ベースフィルム52の片面または両面に接着剤層(図示略)を介して銅箔を貼り付けたもの;銅箔の表面にベースフィルム52を形成する樹脂溶液等をキャストしたもの等が挙げられる。
接着剤層の材料としては、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。
接着剤層の厚さは、0.5μm以上30μm以下が好ましい。
【0133】
(ベースフィルム)
ベースフィルム52としては、耐熱性を有するフィルムが好ましく、ポリイミドフィルム、液晶ポリマーフィルムがより好ましく、ポリイミドフィルムがさらに好ましい。
ベースフィルム52の表面抵抗は、電気的絶縁性の点から、1×10
6Ω以上が好ましい。ベースフィルム52の表面抵抗は、実用上の点から、1×10
19Ω以下が好ましい。
ベースフィルム52の厚さは、5μm以上200μm以下が好ましく、屈曲性の点から、6μm以上25μm以下がより好ましく、10μm以上25μm以下がより好ましい。
【0134】
(プリント回路)
プリント回路54(信号回路、グランド回路、グランド層等)を構成する銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられ、屈曲性の点から、圧延銅箔が好ましい。
銅箔の厚さは、1μm以上50μm以下が好ましく、18μm以上35μm以下がより好ましい。
プリント回路54の長さ方向の端部(端子)は、ハンダ接続、コネクター接続、部品搭載等のため、絶縁フィルム60や電磁波シールドフィルム1に覆われていない。
【0135】
(絶縁フィルム)
絶縁フィルム60(カバーレイフィルム)は、絶縁フィルム本体(図示略)の片面に、接着剤の塗布、接着剤シートの貼り付け等によって接着剤層(図示略)を形成したものである。
絶縁フィルム本体の表面抵抗は、電気的絶縁性の点から、1×10
6Ω以上が好ましい。絶縁フィルム本体の表面抵抗は、実用上の点から、1×10
19Ω以下が好ましい。
絶縁フィルム本体としては、耐熱性を有するフィルムが好ましく、ポリイミドフィルム、液晶ポリマーフィルムがより好ましく、ポリイミドフィルムがさらに好ましい。
絶縁フィルム本体の厚さは、1μm以上100μm以下が好ましく、可とう性の点から、3μm以上25μm以下がより好ましい。
接着剤層の材料としては、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン等が挙げられる。エポキシ樹脂は、可とう性付与のためのゴム成分(カルボキシ変性ニトリルゴム等)を含んでいてもよい。
接着剤層の厚さは、1μm以上100μm以下が好ましく、1.5μm以上60μm以下がより好ましい。
【0136】
貫通孔の開口部の形状は、特に限定されない。貫通孔62の開口部の形状としては、例えば、円形、楕円形、四角形等が挙げられる。
【0137】
(電磁波シールドフィルム付きプリント配線板の製造方法)
本発明の電磁波シールドフィルム付きプリント配線板は、例えば、下記の工程(d)〜(g)を有する方法によって製造できる。
工程(d):プリント配線板のプリント回路が設けられた側の表面に、プリント回路に対応する位置に貫通孔が形成された絶縁フィルムを設け、絶縁フィルム付きプリント配線板を得る工程。
工程(e):工程(d)の後、絶縁フィルム付きプリント配線板と、第2の離型フィルムを剥離した本発明の電磁波シールドフィルムとを、絶縁フィルムの表面に導電性接着剤層が接触するように重ね、これらを熱プレスすることによって、絶縁フィルムの表面に導電性接着剤層を接着し、かつ導電性接着剤層を、貫通孔を通ってプリント回路に電気的に接続し、電磁波シールドフィルム付きプリント配線板を得る工程。
工程(f):工程(e)の後、第1の離型フィルムが不要になった際に第1の離型フィルムを剥離する工程。
工程(g):必要に応じて、工程(e)と工程(f)との間、または工程(f)の後に異方導電性接着剤層を本硬化させる工程。
【0138】
以下、電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板を製造する方法について、
図6を参照しながら説明する。
【0139】
(工程(d))
図6に示すように、フレキシブルプリント配線板50に、プリント回路54に対応する位置に貫通孔62が形成された絶縁フィルム60を重ね、フレキシブルプリント配線板50の表面に絶縁フィルム60の接着剤層(図示略)を接着し、接着剤層を硬化させることによって、絶縁フィルム付きフレキシブルプリント配線板3を得る。フレキシブルプリント配線板50の表面に絶縁フィルム60の接着剤層を仮接着し、工程(g)にて接着剤層を本硬化させてもよい。
接着剤層の接着および硬化は、例えば、プレス機(図示略)等による熱プレスによって行う。
【0140】
(工程(e))
図6に示すように、絶縁フィルム付きフレキシブルプリント配線板3に、第2の離型フィルム40を剥離した電磁波シールドフィルム1を重ね、熱プレスすることによって、絶縁フィルム60の表面に異方導電性接着剤層24が接着され、かつ異方導電性接着剤層24が、貫通孔62を通ってプリント回路54に電気的に接続された電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板2を得る。
【0141】
異方導電性接着剤層24の接着および硬化は、例えば、プレス機(図示略)等による熱プレスによって行う。
熱プレスの時間は、20秒以上60分以下であり、30秒以上30分以下がさらに好ましい。熱プレスの時間が前記範囲の下限値以上であれば、絶縁フィルム60の表面に異方導電性接着剤層24が接着される。熱プレスの時間が前記範囲の上限値以下であれば、電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板2の製造時間を短縮できる。
【0142】
熱プレスの温度(プレス機の熱盤の温度)は、140℃以上190℃以下が好ましく、150℃以上175℃以下がより好ましい。熱プレスの温度が前記範囲の下限値以上であれば、絶縁フィルム60の表面に異方導電性接着剤層24が接着される。また、熱プレスの時間を短縮できる。熱プレスの温度が前記範囲の上限値以下であれば、電磁波シールドフィルム1、フレキシブルプリント配線板50等の劣化等を抑えることができる。
【0143】
熱プレスの圧力は、0.5MPa以上20MPa以下が好ましく、1MPa以上16MPa以下がより好ましい。熱プレスの圧力が前記範囲の下限値以上であれば、絶縁フィルム60の表面に異方導電性接着剤層24が接着される。また、熱プレスの時間を短縮できる。熱プレスの圧力が前記範囲の上限値以下であれば、電磁波シールドフィルム1、フレキシブルプリント配線板50等の破損等を抑えることができる。
【0144】
(工程(f))
図6に示すように、第1の離型フィルムが不要になった際に、絶縁樹脂層10から第1の離型フィルム30を剥離する。
【0145】
(工程(g))
工程(e)における熱プレスの時間が20秒以上10分以下の短時間である場合、工程(e)と工程(f)との間、または工程(f)の後に異方導電性接着剤層24の本硬化を行うことが好ましい。
異方導電性接着剤層24の本硬化は、例えば、オーブン等の加熱装置を用いて行う。
加熱時間は、15分以上120分以下であり、30分以上60分以下が好ましい。加熱時間が前記範囲の下限値以上であれば、異方導電性接着剤層24を十分に硬化できる。加熱時間が前記範囲の上限値以下であれば、電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板2の製造時間を短縮できる。
加熱温度(オーブン中の雰囲気温度)は、120℃以上180℃以下が好ましく、120℃以上150℃以下が好ましい。加熱温度が前記範囲の下限値以上であれば、加熱時間を短縮できる。加熱温度が前記範囲の上限値以下であれば、電磁波シールドフィルム1、フレキシブルプリント配線板50等の劣化等を抑えることができる。
【0146】
<作用効果>
以上説明した電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板2の製造方法にあっては、電磁波シールドフィルム1を用いているので、熱プレスによる接着の際に、絶縁樹脂層10及び異方導電性接着剤層24の硬化収縮が少なく、カールの発生を抑制できるとともに、硬化後の難燃性にも優れる。
また、製造後の電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板2にあっては、電磁波シールドフィルム1を備えているため、難燃性に優れる。さらに、上記熱硬化性組成物が前記化合物(2)を含有していれば、金属薄膜層22に対する絶縁樹脂層10、異方導電性接着剤層24の接着力がより高まり、第1の離型フィルム30を剥離する際に、金属薄膜層22と絶縁樹脂層10又は異方導電層24とが剥離することが防止されている。
【0147】
(他の実施形態)
本発明の電磁波シールドフィルム付きプリント配線板は、プリント配線板と、プリント配線板のプリント回路が設けられた側の表面に隣接する絶縁フィルムと、導電層が絶縁フィルムに隣接し、かつ導電層が絶縁フィルムに形成された貫通孔を通ってプリント回路に電気的に接続された本発明の電磁波シールドフィルムを有するものであればよく、図示例の実施形態に限定はされない。
例えば、フレキシブルプリント配線板は、裏面側にグランド層を有するものであってもよい。また、フレキシブルプリント配線板は、両面にプリント回路を有し、両面に絶縁フィルムおよび電磁波シールドフィルムが貼り付けられたものであってもよい。
フレキシブルプリント配線板の代わりに、柔軟性のないリジッドプリント基板を用いてもよい。
第1の実施形態の電磁波シールドフィルム1の代わりに、第2の実施形態の電磁波シールドフィルム1等を用いてもよい。
【実施例】
【0148】
(実施例1)
絶縁樹脂層形成用塗工液(熱硬化性組成物)として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、jER(登録商標)828)の100gと、N−アミノエチルピペラジン(硬化剤)の20gと、カーボンブラック(黒色着色剤)の2gと、前記式(1b−1)で表されるリン化合物(三光社製、M−Ester、濃度80質量%、溶剤:エチレングリコール)の11.0gを溶剤(メチルエチルケトン)の200gに溶解した塗工液を用意した。これにより、エポキシ樹脂のエポキシ基1モルあたり、前記リン化合物が約0.016モルとなるように配合した。
【0149】
接着剤層形成用塗工液(熱硬化性組成物)として、酢酸ビニル樹脂溶液(昭和電工社製、ビニロール(登録商標)K−2S、固形分:15質量、溶剤:メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メタノール)の100gと、エポキシ樹脂(三菱化学社製、jER(登録商標)1031S、固形分:60質量、溶剤:メチルエチルケトン)の4.1gに銅粉(平均粒子径:8μm)の4.5gと、前記式(1b−1)で表されるリン化合物(三光社製、M−Ester、濃度80質量%、溶剤:エチレングリコール)の5.8gと、前記式(2b)で表されるガリック酸の0.5gを混合したものを用意した。これにより、エポキシ樹脂のエポキシ基1モルあたり、前記リン化合物が約0.84モルとなるように、及びガリック酸の活性水素基が約0.6モルとなるように配合した。
【0150】
工程(b1):
図3に示すように、キャリアフィルムの表面に金属薄膜層を設けた積層体(東レKPフィルム社製、ケーピーセデュース(登録商標)、離型層付き銅箔、銅箔厚さ:0.5μm、銅箔表面抵抗:0.015Ω、PET厚さ:50μm)の金属薄膜層の表面に、絶縁樹脂層形成用塗工液を#8のバーコーターを用いて塗布した。塗膜を150℃で1分間乾燥して、金属薄膜層の表面に絶縁樹脂層(厚さ:10μm、表面抵抗:1.0E+12Ω以上)を設けた。この時、絶縁樹脂層形成用塗工液の硬化収縮により、フィルム全体が絶縁樹脂層方向にカールしていないかを確認した。
【0151】
工程(b2):
絶縁樹脂層の表面に、第1の離型フィルム(パナック社製、パナプロテクト(登録商標)GN、粘着フィルム、粘着力:0.49N/cm、PET厚さ:75μm)を、絶縁樹脂層と粘着剤層とが接するように貼り付け、積層体を得た。
【0152】
工程(c1):
第2の離型フィルム(パナック社製、パナピール(登録商標)SM−1、離型フィルム、PET厚さ:50μm)の離型剤層側の表面に、接着剤層形成用塗工液をコンマコーターを用いて25μmの厚さで塗布した。塗膜を100℃で1分間乾燥して、異方導電性接着剤層(厚さ:10μm、表面抵抗:1.0E+12Ω以上Ω)を設け、接着剤層付き第2の離型フィルムを得た。
【0153】
工程(c2):
工程(b2)で得られた積層体において、キャリアフィルムを金属薄膜層から剥離し、絶縁樹脂層および金属薄膜層付き第1の離型フィルムを得た。
【0154】
工程(c3):
絶縁樹脂層および金属薄膜層付き第1の離型フィルムと、接着剤層付き第2の離型フィルムとを、金属薄膜層と異方導電性接着剤層とが接するように95℃、5kPaの圧力でラミネートし、電磁波シールドフィルムを得た。このラミネートによる接着の際、接着が不十分である場合には再度ラミネート処理を施し、十分に接着するまでのラミネートの回数を測定した。
【0155】
工程(d):
厚さ25μmのポリイミドフィルム(絶縁フィルム本体)の表面に絶縁性接着剤組成物を、乾燥膜厚が25μmになるように塗布し、接着剤層を形成し、絶縁フィルム(厚さ:50μm)を得た。プリント回路のグランドに対応する位置に貫通孔(孔径:150μm)を形成した。
【0156】
厚さ12μmのポリイミドフィルム(ベースフィルム)の表面にプリント回路が形成されたフレキシブルプリント配線板を用意した。
フレキシブルプリント配線板に絶縁フィルムを熱プレスにより貼り付けて、絶縁フィルム付きフレキシブルプリント配線板を得た。
【0157】
工程(e):
絶縁フィルム付きフレキシブルプリント配線板に、第2の離型フィルムを剥離した電磁波シールドフィルムを重ね、ホットプレス装置(折原製作所社製、G−12)を用い、熱盤温度:180℃、荷重:3MPaで1分間熱プレスし、絶縁フィルムの表面に異方導電性接着剤層を接着した。
【0158】
工程(f):
絶縁樹脂層から第1の離型フィルムを剥離して、電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板を得た。得られた電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板を150℃で1時間乾燥して絶縁樹脂層及び異方導電性接着剤層を硬化した。
【0159】
<評価>
作製した電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板について、下記の方法により、燃焼試験を実施した。この結果を表1に示す。
(燃焼試験)
垂直に保持した試料の下端に10秒間ガスバーナーの炎を接炎させ、電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板が燃え続ける時間を測定した。この時間が短いほど、難燃性が高いことを示す。
【0160】
(比較例1)
絶縁樹脂層形成用塗工液と接着剤層形成用塗工液に前記リン化合物(三光社製、M−Ester)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板を得た。実施例1と同様に、電磁波シールドフィルム付きフレキシブルプリント配線板について燃焼試験を実施した。結果を表1に示す。
【0161】
【表1】
【0162】
実施例1の電磁波シールドフィルムは、絶縁樹脂層及び異方導電性接着剤層に化合物(1)を含有しているため、難燃性が向上していた。また、その製造時には硬化時の収縮を緩和することにより、基材フィルム(離型フィルム)のカールが抑制されており、穏やかなラミネート処理によって金属薄膜層に対する十分な接着性も得られた。さらに、異方導電性接着剤層に化合物(2)を含有しているため、離型シートを取り外す際に、金属薄膜層と異方導電性接着剤層の接着面で剥離することは無かった。
比較例1の電磁波シールドフィルムは、化合物(1)を含有していないため、難燃性が実施例1よりも低かった。また、その製造時には硬化時の収縮によって基材フィルムのカールが生じていた。
上記の結果は、化合物(1)が難燃剤として機能するだけでなく、エポキシ基含有化合物の硬化収縮を抑制する低応力化剤及び接着力強化剤としても機能することを示している。