【0016】
本発明の酸素吸着剤成形体の製造方法においては、ペロブスカイト型酸化物からなる酸素吸着剤としては、一般式(I)
ABO
3
(式中、AはCa、Sr及びMgよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、BはCo及びFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。)
で表されるペロブスカイト型酸化物が好ましく用いられるが、なかでも、本発明においては、一般式(II)
Sr
1-xCa
xFeO
3-σ
(式中、x及びσはそれぞれ、0.12≦x≦0.40及び0≦σ≦0.5を満たす数であり、σは酸素欠損量を示す。)
で表されるSCaFが酸素吸着性能にすぐれていることから好ましく用いられる。特に、本発明においては、上記一般式(II)において、xが0.12≦x≦0.30、好ましくは、0.12≦x≦0.27を満たす数であるSCaFが好ましく用いられる。
【実施例】
【0035】
以下の実施例及び比較例においては、湿潤ケーキを作製するときに湿潤ケーキの温度の上昇が測定しやすい規模にて、即ち、ペロブスカイト型酸化物10kgを用いて湿潤ケーキを作製した。前記商業規模での生産とは、例えば、SCaFを300kg以上用いるときをいう。
【0036】
また、酸素吸着剤組成物からのAサイト元素の溶出試験、湿潤ケーキの作製の際の温度変化の測定、得られた酸素吸着剤の酸素吸着性能試験及び粉末X線回折測定は下記のようにして行った。
【0037】
(酸素吸着剤組成物からのAサイト元素の溶出試験)
ビーカーにイオン交換水20mLと試料としての酸素吸着剤組成物の粉末20gを投入、攪拌し、1時間後に上澄み液のpHを測定した。その後、上記試料を濾過し、濾液中の試料の主成分元素を分析した。
【0038】
(湿潤ケーキの作製の際の温度変化の測定)
酸素吸着剤組成物(炭酸塩を用いないときはペロブスカイト型酸化物)10kgにバインダー0.3kgとイオン交換水1.5Lを加え、30分間混合撹拌して、湿潤ケーキを作製し、その際、混合攪拌時の温度を監視して、混合攪拌前の温度を基準として、30分間での湿潤ケーキの温度上昇度(℃)を測定した。
【0039】
(酸素吸着量の測定)
熱分析装置(セイコー電子工業(株)製TG−600)を用いた。試料を温度800℃、窒素気流中で1時間保持した後、600℃に降温し、その後、空気を流通した。試料を30分間保持した後、雰囲気を窒素ガスに切り替えた。このように処理した試料を窒素ガス中で1時間保持した後、再び、空気を流通し、30分間保持した後、窒素ガスに切り替えた。試料について、このような雰囲気ガスの切り替えを3回行い、その重量変化の平均値を酸素吸着量とした。
【0040】
(粉末X線回折の測定)
得られた酸素吸着剤の粉末X線回折パターンは、粉末X線回折装置((株)リガク製RINT−TTRIII、線源CuKα)を用いて測定した。
【0041】
参考例1
(ペロブスカイト型酸化物A(Sr
0.82Ca
0.18FeO
3-σ)の製造)
炭酸ストロンチウム692.1kg、炭酸カルシウム103.0kg、酸化鉄456.5kgを精秤し、これらをイオン交換水1500L中に投入してスラリーとした。この後、横型ビーズミルに上記スラリーを投入して湿式混合した後、スプレードライヤーにて乾燥させた。次いで、1300℃で5時間焼成した後、粉砕して、Sr
0.82Ca
0.18FeO
3-σで表される平均粒子径10μmのペロブスカイト型酸化物Aを酸素吸着剤として得た。
【0042】
参考例2
(ペロブスカイト型酸化物B(Sr
0.88Ca
0.12FeO
3-σ)の製造)
炭酸ストロンチウム730.8kg、炭酸カルシウム67.6kg及び酸化鉄449.2kgを用いた以外は、参考例1と同様にして、Sr
0.88Ca
0.12FeO
3-σで表される平均粒子径10μmのペロブスカイト型酸化物Bを酸素吸着剤として得た。
【0043】
参考例3
(ペロブスカイト型酸化物C(Sr
0.73Ca
0.27FeO
3-σ)の製造)
炭酸ストロンチウム631.6kg、炭酸カルシウム158.4kg及び酸化鉄468.0kgを用いた以外は、参考例1と同様にして、Sr
0.73Ca
0.27FeO
3-σで表される平均粒子径10μmのペロブスカイト型酸化物Cを酸素吸着剤として得た。
【0044】
実施例1
ペロブスカイト型酸化物A10kgと炭酸アンモニウム0.3kgを秤量し、ブレンダーに投入し、15分間混合撹拌して、炭酸アンモニウムを含む酸素吸着剤組成物を粉末として得た。この粉末の一部を溶出試験に供した。
【0045】
前記粉末10kgにバインダー(ヒドロキシエチルセルロース、以下、同じ。)0.3kgとイオン交換水1.5Lを加え、混合撹拌して、湿潤ケーキを作製し、このときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定した。
【0046】
次に、得られた湿潤ケーキを押出成形機に供給して、直径4mmのペレットを得た。このペレットを空気中、1000℃に加熱し、2時間保持して、前記バインダーを燃焼させ、ペレットから除去した。かくして、得られた酸素吸着剤としてのペレットの一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0047】
実施例2〜7
表1に示すペロブスカイト型酸化物と表1に示す炭酸塩を表1に示す量秤量し、以下、実施例1と同様にして、湿潤ケーキを作製し、そのときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定し、また、上記湿潤ケーキから酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0048】
比較例1
ペロブスカイト型酸化物A10kgにバインダー0.3kgとイオン交換水1.5Lを加えて湿潤ケーキを作製し、そのとき湿潤ケーキの温度(変化)を測定した。
【0049】
得られた湿潤ケーキを実施例1と同様に押出成形し、焼成して、酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0050】
比較例2
ペロブスカイト型酸化物Aに代えて、ペロブスカイト型酸化物Bを用いた以外は、比較例1と同様に湿潤ケーキを作製して、そのときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定し、また、得られた湿潤ケーキから酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0051】
比較例3
ペロブスカイト型酸化物Aに代えて、ペロブスカイト型酸化物Cを用いた以外は、比較例1と同様に湿潤ケーキを作製して、そのときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定し、また、得られた湿潤ケーキから酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0052】
比較例4
実施例1において、炭酸アンモニウム0.3kgに代えて、炭酸アンモニウム0.1kgを用いた以外は、実施例1と同様に湿潤ケーキを作製して、そのときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定し、また、得られた湿潤ケーキから酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0053】
比較例5
実施例1において、炭酸アンモニウム0.3kgに代えて、炭酸水素アンモニウム0.1kgを用いた以外は、実施例1と同様湿潤ケーキを作製して、そのときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定し、また、得られた湿潤ケーキから酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0054】
比較例6
実施例1において、炭酸アンモニウム0.3kgに代えて、リン酸水素アンモニウム0.5kgを用いた以外は、実施例1と同様に湿潤ケーキを作製して、そのときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定し、また、得られた湿潤ケーキから酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0055】
比較例7
実施例1において、炭酸アンモニウム0.3kgに代えて、硫酸アンモニウム0.5kgを用いた以外は、実施例1と同様に湿潤ケーキを作製して、そのときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定し、また、得られた湿潤ケーキから酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0056】
比較例8
実施例1において、炭酸アンモニウム0.3kgに代えて、塩化アンモニウム0.5kgを用いた以外は、実施例1と同様に湿潤ケーキを作製して、そのときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定し、また、得られた湿潤ケーキから酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すように、本発明によれば、湿潤ケーキを作製するときのAサイト元素の水への溶出を抑えて発熱を効果的に抑えることができ、しかも、ペロブスカイト型酸化物A、B及びCのいずれについても、それらが本来、有する酸素吸着性能を低下させることなく、SCaF単相からなる酸素吸着剤成形体を得ることができる。
【0059】
これに対して、比較例1〜5にみられるように、湿潤ケーキの作製に際して前記炭酸塩を用いないとき、又は用いても、量が不十分であるときは、特に、ストロンチウムの溶出が著しく、湿潤ケーキの温度の上昇が著しい。
【0060】
比較例6及び7にみられるように、リン酸水素アンモニウムと硫酸アンモニウムは、ストロンチウムの溶出をある程度は抑えることができるが、得られる成形体には酸素吸着性能の低下が認められる。比較例8にみられるように、塩化アンモニウムはストロンチウムとカルシウムの溶出を抑える効果がなく、得られる成形体は酸素吸着性能の低下が著しい。