特許第6841720号(P6841720)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6841720酸素吸着剤成形体の製造方法とそのための酸素吸着剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841720
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】酸素吸着剤成形体の製造方法とそのための酸素吸着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/30 20060101AFI20210301BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20210301BHJP
   C04B 35/01 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   B01J20/30
   B01J20/06 C
   C04B35/01
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-101269(P2017-101269)
(22)【出願日】2017年5月22日
(65)【公開番号】特開2018-196843(P2018-196843A)
(43)【公開日】2018年12月13日
【審査請求日】2020年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079120
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】宮阪 和弥
(72)【発明者】
【氏名】米田 稔
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6028081(JP,B2)
【文献】 特開2015−093251(JP,A)
【文献】 特開2004−201640(JP,A)
【文献】 特開平09−253500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34
C04B 35/00−35/553
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
ABO3
(式中、AはCa、Sr及びMgよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、BはCo及びFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。)
で表されるペロブスカイト型酸化物からなる酸素吸着剤と、上記ペロブスカイト型酸化物100重量部に対して炭酸塩3重量部以上とを含む酸素吸着剤組成物を調製し、この酸素吸着剤組成物に水とバインダーを加えて湿潤ケーキを作製し、この湿潤ケーキを成形し、乾燥し、次いで、焼成することを特徴とする酸素吸着剤成形体の製造方法。
【請求項2】
前記ペロブスカイト型酸化物が一般式(II)
Sr1-xCaxFeO3-σ
(式中、x及びσはそれぞれ、0.12≦x≦0.40及び0≦σ≦0.5を満たす数であり、σは酸素欠損量を示す。)
で表されるものである請求項1に記載の酸素吸着剤成形体の製造方法。
【請求項3】
前記炭酸塩が炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸素吸着剤成形体の製造方法
【請求項4】
前記ペロブスカイト型酸化物からなる酸素吸着剤に前記炭酸塩を乾式混合して、前記酸素吸着剤組成物を得る請求項1〜3のいずれかに記載の酸素吸着剤成形体の製造方法。
【請求項5】
一般式(I)
ABO3
(式中、AはCa、Sr及びMgよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、BはCo及びFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。)
で表されるペロブスカイト型酸化物からなる酸素吸着剤と、上記ペロブスカイト型酸化物100重量部に対して炭酸塩3重量部以上とを含む酸素吸着剤組成物。
【請求項6】
前記ペロブスカイト型複合酸化物が一般式(II)
Sr1-xCaxFeO3-σ
(式中、x及びσはそれぞれ、0.12≦x≦0.40及び0≦σ≦0.5を満たす数であり、σは酸素欠損量を示す。)
で表されるものである請求項5に記載の酸素吸着剤組成物。
【請求項7】
前記炭酸塩が炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項5又は6に記載の酸素吸着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸素吸着剤成形体の製造方法とそのための酸素吸着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸素を含む混合気体から酸素を分離するための1つの方法として圧力スイング吸着法(Pressure Swing Adsorption法(PSA法))が知られている。このPSA法は、酸素吸着剤に対する酸素の吸着量が酸素の分圧に依存することを利用して、酸素を含む混合気体から酸素を分離する方法である。
【0003】
より詳しくは、PSA法においては、酸素吸着剤を充填した吸着塔に酸素を含む混合気体を導入し、所定の温度及び圧力の条件下に上記混合気体中の酸素を酸素吸着剤に選択的に吸着させると共に、酸素を吸着剤に吸着させた後の上記混合気体を吸着塔から排出させ、次いで、吸着塔内を減圧して、上記酸素吸着剤から酸素を脱着させ、この酸素を吸着塔から排出させて回収する方法である。
【0004】
上述したPSA法における酸素吸着剤として、近年、種々のペロブスカイト型酸化物を用いることが提案されている(特許文献1〜4、非特許文献1及び2参照)。具体例として、例えば、La1-xSrxCo1-yFey3-δ(特許文献1及び2参照)、SrCoxFe1-x3-δ(特許文献4参照)、Sr1-xCaxFeO3-σ(特許文献3及び非特許文献1参照)、BaxSr1-xFeO3-δ(特許文献2参照)、SrFeO3-δ(非特許文献2参照)等を挙げることができる。
【0005】
上述したなかでも、一般式(II)
Sr1-xCaxFeO3-σ
(式中、x及びσはそれぞれ、0.12≦x≦0.40及び0≦σ≦0.5を満たす数であり、σは酸素欠損量を示す。)
で表されるペロブスカイト型酸化物(以下、「SCaF」ということがある。)は、ランタンのような高価な元素を含まず、それでいて酸素吸着性能にすぐれていることが知られている(特許文献3及び非特許文献1参照)。
【0006】
このようなペロブスカイト型酸化物からなる酸素吸着剤は、PSA法においては、通常、ペレットのような成形体に成形し、これを吸着塔に充填して用いられる。しかしながら、前記SCaFをはじめ、多くのペロブスカイト型酸化物は、商業規模の大量生産におけるように、これを大量に用いてペレットのような成形体に成形すべく、ペロブスカイト型酸化物に水とバインダーを加え、混合して、湿潤ケーキを作製して、成形機に供して成形しようとするときに、湿潤ケーキが著しく発熱し、時には、湿潤ケーキの作製時に水が沸騰することもあるので、湿潤ケーキが作製できず、目的とする成形体を得ることができないことがある。また、湿潤ケーキの作製時や湿潤ケーキの成形に際しては、通常、湿潤ケーキの温度を30℃以下に保つことが望ましいが、湿潤ケーキの発熱が著しいときは、湿潤ケーキの冷却に多大のエネルギーを必要とし、エネルギーコスト上、問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−87941号公報
【特許文献2】特開2008−12439号公報
【特許文献3】特許第6028081号公報
【特許文献4】特開2015−93251号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ind. Eng. Chem. Res. 2016, 55, 3091-3096, Miura, N., Ikeda, H., Tsuchida, A.
【非特許文献2】J. Ceram. Soc. Jpn. 2010, 118, 952-954, Masunaga, T., Izumi, J, Miura, N.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、ペロブスカイト型酸化物からなる酸素吸着剤を大量に用いて商業規模にて、所定形状、例えば、ペレットに成形する際の上述した問題を解決するために鋭意、研究した結果、前述したペロブスカイト型酸化物からなる酸素吸着剤に水とバインダーを加え、混合して、湿潤ケーキを作製する際の発熱は、ペロブスカイト型酸化物が水と反応して、そのAサイトの元素が水中に溶出することによるものであることを見出した。
【0010】
そこで、更に研究した結果、本発明者らは、ペロブスカイト型酸化物からなる酸素吸着剤にある種の炭酸塩を加え、得られた酸素吸着剤組成物に水とバインダーを加えて湿潤ケーキを作製することによって、商業規模の生産であっても、湿潤ケーキを作製する際の発熱を効果的に抑えることができ、かくして、得られた湿潤ケーキを成形機に供することによって、酸素吸着剤の酸素吸着性能の低下なしに、目的とするペロブスカイト型酸化物からなる酸素吸着剤成形体を得ることができ、しかも、上記成形体が上記ペロブスカイト型酸化物の単相からなることを見出して、本発明に到ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、一般式(I)
ABO3
(式中、AはCa、Sr及びMgよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、BはCo及びFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。)
で表されるペロブスカイト型酸化物からなる酸素吸着剤と、上記ペロブスカイト型酸化物100重量部に対して炭酸塩3重量部以上とを含む酸素吸着剤組成物を調製し、この酸素吸着剤組成物に水とバインダーを加えて湿潤ケーキを作製し、この湿潤ケーキを成形し、乾燥し、次いで、焼成することを特徴とする酸素吸着剤成形体の製造方法が提供される。
【0012】
特に、本発明においては、前記ペロブスカイト型酸化物は、一般式(II)
Sr1-xCaxFeO3-σ
(式中、x及びσはそれぞれ、0.12≦x≦0.40及び0≦σ≦0.5を満たす数であり、σは酸素欠損量を示す。)
で表されるものであることが好ましい。
【0013】
前記炭酸塩としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
更に、本発明によれば、前記一般式(I)で表されるペロブスカイト型酸化物、好ましくは、前記SCaFからなる酸素吸着剤と、上記ペロブスカイト型酸化物100重量部に対して前記炭酸塩3重量部以上とを含む酸素吸着剤組成物が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、商業規模の大量生産であっても、ペロブスカイト型酸化物からなる酸素吸着剤と前記炭酸塩を含む酸素吸着剤組成物を調製し、これに水とバインダーを加え、混合して湿潤ケーキを作製するとき、上記ペロブスカイト型酸化物のAサイト元素の水への溶出を抑えて、発熱を効果的に抑えることができ、かくして、得られた湿潤ケーキを成形機に供して、酸素吸着剤性能の低下なしに、且つ、上記ペロブスカイト型酸化物の単相からなる、目的とする所要形状の成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の酸素吸着剤成形体の製造方法においては、ペロブスカイト型酸化物からなる酸素吸着剤としては、一般式(I)
ABO3
(式中、AはCa、Sr及びMgよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、BはCo及びFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。)
で表されるペロブスカイト型酸化物が好ましく用いられるが、なかでも、本発明においては、一般式(II)
Sr1-xCaxFeO3-σ
(式中、x及びσはそれぞれ、0.12≦x≦0.40及び0≦σ≦0.5を満たす数であり、σは酸素欠損量を示す。)
で表されるSCaFが酸素吸着性能にすぐれていることから好ましく用いられる。特に、本発明においては、上記一般式(II)において、xが0.12≦x≦0.30、好ましくは、0.12≦x≦0.27を満たす数であるSCaFが好ましく用いられる。
【0017】
前記一般式(II)において、σは、ペロブスカイト型酸化物における酸素の不定比性に由来する酸素欠損量を示す。σは、酸素分圧のような周囲環境のほか、金属イオンの種類や組成等の条件によって変化することが知られている。σが0.5よりも大きくなると、結晶構造がペロブスカイト型構造でなくなるので、σは0.5以下とする。
【0018】
本発明の酸素吸着剤成形体の製造方法によれば、先ず、前記ペロブスカイト型酸化物100重量部に対して、炭酸塩3重量部以上を含む混合物の粉末、即ち、酸素吸着剤組成物を調製する。この酸素吸着剤組成物は、本発明による酸素吸着剤成形体の製造のための原料混合物である。
【0019】
前記炭酸塩としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0020】
前記酸素吸着剤組成物を調製するに際して、前記ペロブスカイト型酸化物と前記炭酸塩を混合するために、乾式混合と湿式混合のいずれによってもよいが、乾式混合によるとき、酸素吸着剤組成物の焼成後に酸素吸着剤の酸素吸着性能の低下なしに単相のペロブスカイト型酸化物からなる成形体を容易に得ることができるので好ましい。
【0021】
尚、市販の炭酸アンモニウムは、炭酸水素アンモニウムとカルバミン酸アンモニウムとの混合物であるが、本発明においては、上記炭酸水素アンモニウムとカルバミン酸アンモニウムとの混合物も炭酸アンモニウムに含めることとする。
【0022】
前記ペロブスカイト型酸化物100重量部に対する前記炭酸塩の量は、3重量部以上であれば、特に限定されるものではないが、多量に用いても、それに見合う効果もないので、上記炭酸塩は、通常、上記ペロブスカイト型酸化物100重量部に対して、15重量部以下で十分であり、好ましくは、10重量部以下である。
【0023】
本発明者らによれば、前記ペロブスカイト型酸化物からなる酸素吸着剤と前記炭酸塩からなる混合物の粉末20gをイオン交換水20mLに投入して、1時間経過したときの上澄み液のpHを調べる溶出試験によれば、そのpHが10以下であるとき、上記ペロブスカイト型酸化物のAサイト元素の水への溶出が抑えられることが見出された。
【0024】
そこで、本発明者らによれば、前記溶出試験において、前記pHが10以下であるペロブスカイト型酸化物と炭酸塩の混合物の粉末にバインダーと水を加え、混合撹拌して、湿潤ケーキを作製するときに、前記炭酸塩の作用によって、上記ペロブスカイト型酸化物のAサイト元素の水への溶出が抑えられて、発熱が効果的に抑えられ、しかも、最終的に得られる酸素吸着剤は、その性能の低下がないことが見出された。
【0025】
前記炭酸塩に代えて、リン酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム又は硫酸アンモニウムを前記ペロブスカイト型酸化物に加え、混合して得られる酸素吸着剤組成物も、これを水に投入して、1時間が経過したときの上澄み液のpHは10以下であるが、しかし、上記酸素吸着剤組成物を焼成して最終的に得られる酸素吸着剤は酸素吸着性能が低下しており、酸素吸着量が小さい。
【0026】
本発明の方法によれば、次いで、前記酸素吸着剤組成物に水とバインダーを加えて湿潤ケーキを作製する。
【0027】
前記バインダーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等を挙げることができる。このようなバインダーは、通常、ペロブスカイト型酸化物100重量部に対して、1〜5重量部の範囲で用いられる。
【0028】
また、水は、通常、ペロブスカイト型酸化物100重量部に対して、10〜30重量部の範囲で用いられる。
【0029】
本発明によれば、このようにして得られた湿潤ケーキを適宜の形状に成形し、水分を除去し、乾燥した後、焼成して、前記炭酸塩とバインダーを燃焼させ、除去して、目的とする酸素吸着剤成形体を得る。
【0030】
本発明において、湿潤ケーキの成形のための手段と方法は特に限定されず、例えば、成形手段には押出成形機が用いられる。成形体の形状は、特に限定されない。具体例として、例えば、ペレット、顆粒、球状、ヌードル、ハニカム等を挙げることができる。
【0031】
このようにして得られる成形体の乾燥方法も特に限定されず、例えば、棚型乾燥機を用いて、通常、100〜200℃で加熱、乾燥される。また、成形体の焼成手段と方法についても特に限定されず、酸素含有雰囲気、例えば、空気中で焼成される。焼成温度は炭酸塩とバインダーが除去できる温度であればよく、通常、800〜1200℃が好ましい。
【0032】
前記ペロブスカイト型酸化物は、従来より知られている固相法と液相法のいずれの方法によっても製造することができる。例えば、固相法による場合は、ペロブスカイト型酸化物における金属元素の比と一致するように秤量し、乾式又は湿式にて混合した後、焼成し、粉砕して、通常、数μmから数十μmの粒子を得る。
【0033】
前述したように、本発明においては、前記ペロブスカイト型酸化物として、特に、酸素吸着性能にすぐれるSCaFが好ましく用いられる。
【0034】
SCaFは、上述したように、例えば、固相法による場合は、SCaFにおける金属元素の比と一致するようにストロンチウム、カルシウム及び鉄を含む原料、例えば、炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム及び酸化鉄を秤量し、乾式又は湿式にて混合した後、焼成し、粉砕して、通常、数μmから数十μmの粒子を得る。
【実施例】
【0035】
以下の実施例及び比較例においては、湿潤ケーキを作製するときに湿潤ケーキの温度の上昇が測定しやすい規模にて、即ち、ペロブスカイト型酸化物10kgを用いて湿潤ケーキを作製した。前記商業規模での生産とは、例えば、SCaFを300kg以上用いるときをいう。
【0036】
また、酸素吸着剤組成物からのAサイト元素の溶出試験、湿潤ケーキの作製の際の温度変化の測定、得られた酸素吸着剤の酸素吸着性能試験及び粉末X線回折測定は下記のようにして行った。
【0037】
(酸素吸着剤組成物からのAサイト元素の溶出試験)
ビーカーにイオン交換水20mLと試料としての酸素吸着剤組成物の粉末20gを投入、攪拌し、1時間後に上澄み液のpHを測定した。その後、上記試料を濾過し、濾液中の試料の主成分元素を分析した。
【0038】
(湿潤ケーキの作製の際の温度変化の測定)
酸素吸着剤組成物(炭酸塩を用いないときはペロブスカイト型酸化物)10kgにバインダー0.3kgとイオン交換水1.5Lを加え、30分間混合撹拌して、湿潤ケーキを作製し、その際、混合攪拌時の温度を監視して、混合攪拌前の温度を基準として、30分間での湿潤ケーキの温度上昇度(℃)を測定した。
【0039】
(酸素吸着量の測定)
熱分析装置(セイコー電子工業(株)製TG−600)を用いた。試料を温度800℃、窒素気流中で1時間保持した後、600℃に降温し、その後、空気を流通した。試料を30分間保持した後、雰囲気を窒素ガスに切り替えた。このように処理した試料を窒素ガス中で1時間保持した後、再び、空気を流通し、30分間保持した後、窒素ガスに切り替えた。試料について、このような雰囲気ガスの切り替えを3回行い、その重量変化の平均値を酸素吸着量とした。
【0040】
(粉末X線回折の測定)
得られた酸素吸着剤の粉末X線回折パターンは、粉末X線回折装置((株)リガク製RINT−TTRIII、線源CuKα)を用いて測定した。
【0041】
参考例1
(ペロブスカイト型酸化物A(Sr0.82Ca0.18FeO3-σ)の製造)
炭酸ストロンチウム692.1kg、炭酸カルシウム103.0kg、酸化鉄456.5kgを精秤し、これらをイオン交換水1500L中に投入してスラリーとした。この後、横型ビーズミルに上記スラリーを投入して湿式混合した後、スプレードライヤーにて乾燥させた。次いで、1300℃で5時間焼成した後、粉砕して、Sr0.82Ca0.18FeO3-σで表される平均粒子径10μmのペロブスカイト型酸化物Aを酸素吸着剤として得た。
【0042】
参考例2
(ペロブスカイト型酸化物B(Sr0.88Ca0.12FeO3-σ)の製造)
炭酸ストロンチウム730.8kg、炭酸カルシウム67.6kg及び酸化鉄449.2kgを用いた以外は、参考例1と同様にして、Sr0.88Ca0.12FeO3-σで表される平均粒子径10μmのペロブスカイト型酸化物Bを酸素吸着剤として得た。
【0043】
参考例3
(ペロブスカイト型酸化物C(Sr0.73Ca0.27FeO3-σ)の製造)
炭酸ストロンチウム631.6kg、炭酸カルシウム158.4kg及び酸化鉄468.0kgを用いた以外は、参考例1と同様にして、Sr0.73Ca0.27FeO3-σで表される平均粒子径10μmのペロブスカイト型酸化物Cを酸素吸着剤として得た。
【0044】
実施例1
ペロブスカイト型酸化物A10kgと炭酸アンモニウム0.3kgを秤量し、ブレンダーに投入し、15分間混合撹拌して、炭酸アンモニウムを含む酸素吸着剤組成物を粉末として得た。この粉末の一部を溶出試験に供した。
【0045】
前記粉末10kgにバインダー(ヒドロキシエチルセルロース、以下、同じ。)0.3kgとイオン交換水1.5Lを加え、混合撹拌して、湿潤ケーキを作製し、このときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定した。
【0046】
次に、得られた湿潤ケーキを押出成形機に供給して、直径4mmのペレットを得た。このペレットを空気中、1000℃に加熱し、2時間保持して、前記バインダーを燃焼させ、ペレットから除去した。かくして、得られた酸素吸着剤としてのペレットの一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0047】
実施例2〜7
表1に示すペロブスカイト型酸化物と表1に示す炭酸塩を表1に示す量秤量し、以下、実施例1と同様にして、湿潤ケーキを作製し、そのときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定し、また、上記湿潤ケーキから酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0048】
比較例1
ペロブスカイト型酸化物A10kgにバインダー0.3kgとイオン交換水1.5Lを加えて湿潤ケーキを作製し、そのとき湿潤ケーキの温度(変化)を測定した。
【0049】
得られた湿潤ケーキを実施例1と同様に押出成形し、焼成して、酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0050】
比較例2
ペロブスカイト型酸化物Aに代えて、ペロブスカイト型酸化物Bを用いた以外は、比較例1と同様に湿潤ケーキを作製して、そのときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定し、また、得られた湿潤ケーキから酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0051】
比較例3
ペロブスカイト型酸化物Aに代えて、ペロブスカイト型酸化物Cを用いた以外は、比較例1と同様に湿潤ケーキを作製して、そのときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定し、また、得られた湿潤ケーキから酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0052】
比較例4
実施例1において、炭酸アンモニウム0.3kgに代えて、炭酸アンモニウム0.1kgを用いた以外は、実施例1と同様に湿潤ケーキを作製して、そのときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定し、また、得られた湿潤ケーキから酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0053】
比較例5
実施例1において、炭酸アンモニウム0.3kgに代えて、炭酸水素アンモニウム0.1kgを用いた以外は、実施例1と同様湿潤ケーキを作製して、そのときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定し、また、得られた湿潤ケーキから酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0054】
比較例6
実施例1において、炭酸アンモニウム0.3kgに代えて、リン酸水素アンモニウム0.5kgを用いた以外は、実施例1と同様に湿潤ケーキを作製して、そのときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定し、また、得られた湿潤ケーキから酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0055】
比較例7
実施例1において、炭酸アンモニウム0.3kgに代えて、硫酸アンモニウム0.5kgを用いた以外は、実施例1と同様に湿潤ケーキを作製して、そのときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定し、また、得られた湿潤ケーキから酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0056】
比較例8
実施例1において、炭酸アンモニウム0.3kgに代えて、塩化アンモニウム0.5kgを用いた以外は、実施例1と同様に湿潤ケーキを作製して、そのときの湿潤ケーキの温度(変化)を測定し、また、得られた湿潤ケーキから酸素吸着剤としてのペレットを得、その一部を酸素吸着量試験と粉末X線回折測定に供した。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すように、本発明によれば、湿潤ケーキを作製するときのAサイト元素の水への溶出を抑えて発熱を効果的に抑えることができ、しかも、ペロブスカイト型酸化物A、B及びCのいずれについても、それらが本来、有する酸素吸着性能を低下させることなく、SCaF単相からなる酸素吸着剤成形体を得ることができる。
【0059】
これに対して、比較例1〜5にみられるように、湿潤ケーキの作製に際して前記炭酸塩を用いないとき、又は用いても、量が不十分であるときは、特に、ストロンチウムの溶出が著しく、湿潤ケーキの温度の上昇が著しい。
【0060】
比較例6及び7にみられるように、リン酸水素アンモニウムと硫酸アンモニウムは、ストロンチウムの溶出をある程度は抑えることができるが、得られる成形体には酸素吸着性能の低下が認められる。比較例8にみられるように、塩化アンモニウムはストロンチウムとカルシウムの溶出を抑える効果がなく、得られる成形体は酸素吸着性能の低下が著しい。