特許第6841827号(P6841827)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6841827ラテックス組成物及び該ラテックス組成物からなる一液型水性接着剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841827
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】ラテックス組成物及び該ラテックス組成物からなる一液型水性接着剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 11/02 20060101AFI20210301BHJP
   C08L 33/08 20060101ALI20210301BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20210301BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20210301BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20210301BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20210301BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20210301BHJP
   C09J 111/02 20060101ALI20210301BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20210301BHJP
   C09J 11/00 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   C08L11/02
   C08L33/08
   C08K3/30
   C08K3/38
   C08K5/17
   C08K5/42
   C08K5/098
   C09J111/02
   C09J133/00
   C09J11/00
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-526324(P2018-526324)
(86)(22)【出願日】2017年6月29日
(86)【国際出願番号】JP2017023924
(87)【国際公開番号】WO2018008509
(87)【国際公開日】20180111
【審査請求日】2020年2月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-133343(P2016-133343)
(32)【優先日】2016年7月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】清藤 涯斗
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 正雄
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 学
(72)【発明者】
【氏名】萩原 尚吾
(72)【発明者】
【氏名】小西 宏典
(72)【発明者】
【氏名】四宮 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小手 和洋
【審査官】 今井 督
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第104099038(CN,A)
【文献】 国際公開第2011/065524(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102212320(CN,A)
【文献】 特開平8−333485(JP,A)
【文献】 特開昭53−73243(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/133190(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 11/00− 11/02
C08L 33/00− 33/26
C08K 3/00− 13/08
C09J 11/00− 11/08
C09J 111/00−111/02
C09J 133/00−133/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレン系重合体を含有するクロロプレン系重合体ラテックス(A)を固形分換算で50〜85質量%と、
ガラス転移温度が−52〜−9℃で、下記化学式(1)で表される構造のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを含むアクリル系重合体を含有するアクリル系重合体ラテックス(B)を固形分換算で15〜50質量%と、
を合計で100質量部と、
ホウ酸、硫酸アンモニウム、及び等電点が5.5〜6.5のアミノ酸から選ばれる少なくとも一種のpH調節剤(C)を固形分換算で3〜13質量部と、
を含有するラテックス組成物。
【化1】
(式中、Rは脂肪族アルキル基を示す)
【請求項2】
前記化学式(1)で表される構造のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム又はアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムである請求項1に記載のラテックス組成物。
【請求項3】
前記化学式(1)で表される構造のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの含有量が、アクリル系重合体100質量部に対して1.5〜5質量部である請求項1又は2に記載のラテックス組成物。
【請求項4】
前記クロロプレン系重合体が、クロロプレン単独重合体、クロロプレンと2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンとの共重合体、又は、クロロプレン単独重合体及びクロロプレンと2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンとの共重合体との混合物である請求項1〜3のいずれか一項に記載のラテックス組成物。
【請求項5】
前記クロロプレン系重合体ラテックス(A)が、ゲル含有量(トルエン不溶分)が5〜30質量%、トルエン可溶分の数平均分子量が20万〜50万、かつ分子量分布(Mw/Mn)が2.0〜4.0である請求項1〜4のいずれか一項に記載のラテックス組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のラテックス組成物からなる一液型水性接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロプレン系重合体ラテックスとアクリル系重合体ラテックスとpH調整剤とを少なくとも含有するラテックス組成物、及び該ラテックス組成物からなる一液型水性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な接着剤は、酢酸ビニル系重合体、クロロプレン系重合体、アクリル酸エステル系重合体、天然ゴム、ウレタン系重合体などを原料として製造されている。これらの中でもクロロプレン系重合体は、幅広い被着体に対して低圧着で高度の接着力が得られるため、溶剤系コンタクト接着剤やグラフト接着剤などの接着剤用途で好適に使用されている。
【0003】
しかしながら、作業環境における引火の危険や、その予防のために講じられる特別な排気・回収設備コストに加えて、環境汚染や人体の健康に対する配慮から揮発性有機化合物(VOC)規制や溶剤規制が年々厳しくなってきており、特にソファーやベッドなど家具・建材や自動車内装材に使われる接着剤に対する規制は顕著である。
【0004】
上記規制への対応のために溶剤を排除すべく、クロロプレン系重合体ラテックスを使用した水性接着剤の開発が盛んである。しかしながら、家具・建材や自動車内装材は大型なものや形状複雑なものが多いことから接着作業の工数が多く、生産性の観点から接着剤を塗布後に非常に短い時間で接着できることが求められるのに対し、水性接着剤は水分を十分に乾燥させて固化させなければ接着力を発現しないため、従来の溶剤系接着剤に比較して初期接着力が低いという課題があった。
【0005】
そこで、前述した初期接着力を向上させるための技術として2液型接着剤の検討がおこなわれており、例えば、特定のポリクロロプレンラテックスとアクリル系ラテックスまたはSBR系ラテックスとアニオン系界面活性剤を特定量含有した主剤と、多価金属塩を硬化剤とした接着剤(特許文献1、2参照)が知られている。
【0006】
これらの接着剤をスプレー塗布する場合には、事前に接着剤を混合する方法、スプレー機先端で混合する方法、被着体上で混合する方法(重ね塗工、ハネムーン)などの手段がある。しかしながら、接着剤のポットライフと初期接着力のバランスがとれない、接着剤の混合比率が安定しない、接着作業が安定性しない、スプレーの目詰まりなどのトラブルも多い。
【0007】
上記2液型接着剤の課題を解決するために、特許文献3のようなポリクロロプレンラテックスにpH調整剤を添加した1液型接着剤が検討されている。この1液型接着剤はクロロプレンラテックスにpH調整剤を加えることで優れた初期接着力を持つ。また、1液型接着剤は、塗布時に上記ポットライフと初期接着力のバランスがとれないという問題や、接着剤の混合比率が安定性しない等の問題が発生せず、また、ポリクロロプレンの高い結晶性が起因し、初期接着力、コンタクト性、貯蔵安定性、スプレー塗布性が優れた接着剤としてよく知られている。
【0008】
しかしながら、ポリクロロプレンの高い結晶性が良好な初期接着力を生み出す反面、接着層が硬化していくという性質を持っており、例えば、ソファー、ベッドの家具、建材用、自動車内装品などの発泡体(フォーム)と木材、皮革あるいはフォーム同士などの柔軟な材料を被着体として接着した時に、被着体よりも接着層が硬くなることで風合いを損なうという課題が有った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭56−59874号公報
【特許文献2】特開平9−188860号公報
【特許文献3】特願平11−189982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一液型接着剤には、上述のような問題があるが、極めて短い乾燥時間における優れた初期接着力と乾燥後の接着剤層の柔軟性を両立し、貯蔵安定性とスプレー塗布性に優れた一液型接着剤はいまだ提供されていないのが実情である。
【0011】
そこで、本発明は、極めて短い時間において優れた初期接着力を示し、貯蔵安定性、乾燥後の接着剤層が柔軟な一液型水性接着剤用途に好適なラテックス組成物、及び該ラテックス組成物からなる一液型水性接着剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、クロロプレン系重合体ラテックスに、特定のアクリル系重合体のラテックス(エマルジョン)及び特定のpH調節剤を含有させることにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0013】
すなわち本発明は、まず、クロロプレン系重合体を含有するクロロプレン系重合体ラテックス(A)を固形分換算で50〜85質量%と、
ガラス転移温度が−52〜−9℃で、下記化学式(1)で表される構造のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを含むアクリル系重合体を含有するアクリル系重合体ラテックス(B)を固形分換算で15〜50質量%と、
を合計で100質量部と、
ホウ酸、硫酸アンモニウム、及び等電点が5.5〜6.5のアミノ酸から選ばれる少なくとも一種のpH調節剤(C)を固形分換算で3〜13質量部と、
を含有するラテックス組成物を提供する。
【化1】
本発明に係るラテックス組成物における前記化学式(1)で表される構造のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムとしては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム又はアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを用いることができる。
本発明に係るラテックス組成物における前記化学式(1)で表される構造のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの含有量は、アクリル系重合体100質量部に対して1.5〜5質量部とすることができる。
本発明に係るラテックス組成物における前記クロロプレン系重合体としては、クロロプレン単独重合体、クロロプレンと2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンとの共重合体、又は、クロロプレン単独重合体及びクロロプレンと2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンとの共重合体との混合物を用いることができる。
本発明に係るラテックス組成物における前記クロロプレン系重合体ラテックス(A)としては、ゲル含有量(トルエン不溶分)が5〜30質量%以下、トルエン可溶分の数平均分子量が20万〜50万、かつ分子量分布(Mw/Mn)が2.0〜4.0のクロロプレン系重合体ラテックスを用いることができる。
本発明に係るラテックス組成物は、一液型水性接着剤に用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のラテックス組成物は、初期接着力に優れる。また、乾燥後の接着剤層が柔軟である。更に、貯蔵安定性やスプレー塗布性のバランスにも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0016】
本実施形態のラテックス組成物は、クロロプレン系重合体ラテックス(A)と、特定のアクリル系重合体ラテックス(B)と、特定のpH調節剤(C)と、を所定の割合で含有することを特徴とする。
【0017】
(A)クロロプレン系重合体ラテックス
クロロプレン系重合体ラテックスは、本実施形態のラテックス組成物を用いた接着剤のコンタクト性、耐熱接着性、初期接着力を向上させるために配合するものである。クロロプレン系重合体ラテックスとしては、クロロプレン系重合体ラテックスを構成するクロロプレン系重合体中のゲル含有量(トルエン不溶分)が5〜30質量%であり、クロロプレン系重合体中のトルエン可溶分の数平均分子量が20万〜50万で、かつ分子量分布(Mw/Mn)が2.0〜4.0の範囲のものが望ましい。ゲル含有量を5質量%以上、トルエン可溶分の数平均分子量が20万以上、かつ分子量分布を2.0以上とすることで初期接着力を向上させることが出来る。ゲル含有量を30質量%以下、トルエン可溶分の数平均分子量が50万以下、かつ分子量分布を4.0以下とすることで初期接着力を向上させることが出来る。
【0018】
クロロプレン系重合体ラテックスは、単量体を乳化重合させるために用いる乳化剤や分散剤によって、アニオン系、ノニオン系、カチオン系の何れのラテックスにも調製できる。接着剤の原料として使用する場合には、アニオン系ラテックスにすると、初期接着力の観点から好ましい。アニオン系ラテックスとは、アニオン系の乳化剤や分散剤を主体として用いて、単量体を乳化重合させて得られたラテックスである。
【0019】
アニオン系の乳化剤や分散剤として、例えば、ロジン酸のアルカリ金属塩、炭素数が8〜20個のアルキルスルホネート、アルキルアリールサルフェート、ナフタリンスルホン酸ナトリウムとホルムアルデヒドの縮合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0020】
アニオン系の乳化剤や分散剤として最も好ましいのはロジン酸であり、ウッドロジン酸、ガムロジン酸、トール油ロジン酸、又はこれらを不均化した不均化ロジン酸の何れも使用可能である。ロジン酸を使用した乳化剤重合法では高アルカリ性で実施されることから、ポリクロロプレンラテックスの中で、ロジン酸はアルカリ金属塩の形態で存在している。従って、ロジン酸はロジン酸アルキル金属塩の形態で用いることも可能である。ロジン酸の塩化量は、用いる全単体100質量部に対して、0.5〜10質量部が好ましく、2〜6質量部がより好ましい。0.5質量部以上とすることで、乳化不良となることを防止し、重合発熱制御の悪化を防止し、凝集物の生成や製品外観不良などの問題を低減させることができる。10質量部以下とすることで、乳化剤の残留を防止して重合体の耐水性を向上させ、その結果、接着力も向上し、また、乾燥時の発泡や製品の色調が悪化するなどの問題を低減させることができる。
【0021】
ロジン酸を使用した場合には、pH調節剤添加後、クロロプレン系重合体ラテックス組成物を安定化させるため、硫酸塩系やスルホン酸塩系のアニオン系乳化剤や分散剤を併用することが好ましい。この場合、ロジン酸以外のアニオン系の乳化剤や分散剤の添加量は、用いる全単体100質量部に対して、0.05〜5質量部が好ましく、更に好ましくは0.1〜2質量部である。
【0022】
アニオン系の乳化剤や分散剤とノニオン系の乳化剤や分散剤を併用することもできる。ノニオン系の乳化剤を併用することで、ラテックスの低温安定性や接着剤としたときの接着特性を改良することができる。なお、乳化重合時の乳化剤や分散剤として、ノニオン系やカチオン系の乳化剤や分散剤を併用することで、pH調節剤を加えて水系接着剤とした際に充分な不安定化を起こすことができ、初期接着力の発現を向上させることができる。
【0023】
クロロプレン系重合体ラテックスを構成するクロロプレン系重合体は、クロロプレンの単独重合体でもよいが、クロロプレンと他の共重合可能な単量体、例えば、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸及びそのエステル類、メタクリル酸及びそのエステル類等を本発明の目的とする性能を阻害しない範囲で含む共重合体を使用できる。具体的には、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類は0.01〜20質量%の範囲で、アクリル酸、メタクリル酸は0.01〜7質量%の範囲で、各々含む共重合体を使用できる。共重合体を構成する単量体は必要に応じて2種類以上用いても構わない。また、2種類以上の重合体を混合して用いてもよい。中でもクロロプレン系重合体ラテックスを構成するクロロプレン系重合体として、クロロプレン単独重合体、クロロプレンと2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンとの共重合体、又はクロロプレン単独重合体及びクロロプレンと2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンとの共重合体の混合物を用いることが好ましい。クロロプレン単独重合体、クロロプレンと2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンとの共重合体、又はクロロプレン単独重合体及びクロロプレンと2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンとの共重合体の混合物を用いることで、初期接着力やコンタクト性が向上し、高接着強度を発現させることができる。
【0024】
分子量や分子量分布を調整するための連鎖移動剤として、例えばn−ドデシルメルカプタンやt−ドデシルメルカプタン等の長鎖アルキルメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドやジエチルキサントゲンジスルフィド等のジアルキルキサントゲンジスルフィド類が使用されるが、これらに限定されるものではない。特に、分子量やゲル含有量のコントロールをし易くするためには、長鎖アルキルメルカプタン類がより好ましい。これらの連鎖移動剤は2種類以上を併用しても差し支えない。
【0025】
クロロプレン系重合体ラテックスにおける原料単量体のクロロプレン系重合体への重合転化率は、基本的に限定されないが、65質量%以上、90質量%未満であることが好ましい。重合転化率を65%以上とすることで、重合体ラテックスの固形分が向上し、接着剤塗布後の乾燥工程における負荷が軽減でき、接着層を均一化させることができる。また、残留単量体による臭気の発生を防止し、残留単体量の低減によって、粘着力、接着力を向上させることができる。重合転化率を90質量%未満とすることで、重合体中に分岐が増えることを防止し、分子量が大きくなることを防止して、分子量分布が広がることを抑え、本発明において重要な性能であるコンタクト性、耐水性を向上させることができる。なお、90質量%以上の転化率の重合体を用いる場合は、90質量%未満の転化率の重合体の補助成分として用いることが好ましい。重合転化率(質量%)は[(重合体質量/単量体質量の総和)×100]により求められる。
【0026】
クロロプレン系重合体は、5〜45℃の範囲で重合することができるが、特に5〜20℃の低温重合が好ましい。通常、トランス1−4結合が85%以上を占めることが知られており、その分子構造は比較的規則性に富むものである。この分子構造の規則性の高さゆえに、クロロプレン重合体は典型的な結晶性のポリマーとしての性質を持つ。特に5〜20℃の低温で重合することで、ポリクロロプレン分子内のトランス1−4結合の比率がさらに高まり、より結晶化速度を高めることができ、水系接着剤とした際に充分な接着力が達成される。また、結晶化速度を速めるという観点からは、分子構造の規則性を損ねるクロロプレン以外の単量体を併用する場合は、接着力を阻害しない範囲で極力少量とすることが好ましい。
【0027】
重合用の開始剤としては、通常のラジカル重合開始剤を使用することができる。例えば、乳化重合の場合、通常の、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の有機あるいは無機の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が使用される。またアントラキノンスルホン酸塩や亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウムなどの助触媒を適宜併用することができる。
【0028】
一般に、クロロプレン系重合体の製造では、所望の分子量及び分布の重合体を得る目的で、所定の重合率に到達した時点で、重合停止剤を添加し、反応を停止させる。重合停止剤としては特に制限はないが、具体例として、フェノチアジン、p−t−ブチルカテコール、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジエチルヒドロキシルアミン等を用いることができる。
【0029】
クロロプレン系重合体ラテックス中のクロロプレン系重合体エマルションの固形分濃度は、特に制限はないが、通常40〜65質量%である。
【0030】
ラテックス混合物全体に占めるクロロプレン系重合体ラテックスの割合は、固形分換算で50〜85質量%とし、65〜75質量%とすることがより好ましい。50質量%未満の場合には、初期接着力が低下する。また、85質量%より多い場合には、接着剤層の風合いが柔軟ではなく、後述のアクリル系重合体ラテックスを含有させる相乗効果はない。
【0031】
クロロプレン系重合体は、一般に酸素による劣化を受けやすい。本発明では、発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤や受酸剤などの安定剤を適宜使用することが望ましい。
【0032】
クロロプレン系重合体に対して、受酸剤0.01〜5質量%、酸化防止剤0.1〜3質量%を配合することによって、架橋後のフィルムの柔軟性の経時安定性が改良された組成物が得られる。クロロプレン系重合体ラテックス中に配合に使用される原料のうち、水に不溶であったり、重合体ラテックスのコロイド状態を不安定化させる場合には、予め水系分散体を調製してから重合体ラテックスに添加する。
【0033】
クロロプレン系重合体ラテックス中に配合される受酸剤としては、特に制限は無いが、具体的には酸化亜鉛、ハイドロタルサイト(協和化学(株)製、DHT−4A、DHT−6など)等が挙げられる。これらは2種以上を併用して用いることもできる。これらの受酸剤の添加量は、クロロプレン系重合体ラテックスの固形分(クロロプレン系重合体)に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.05〜1質量%がさらに好ましい。0.01質量%以上とすることで、接着剤組成物として使用後に重合体から発生する脱離塩酸の中和を十分に進行させることができる。また、5質量%以下とすることで、粘着力や接着力を向上させ、また、重合体ラテックスの組成物のコロイド安定性も向上させ、沈降などの問題を低減することができる。
【0034】
(B)アクリル系重合体ラテックス
本実施形態に係るラテックス組成物に用いるアクリル系重合体ラテックスは、接着剤とした際の初期接着力を維持しつつその貯蔵安定性と接着剤層の風合い(硬さ)を調整するために配合するものであり、上述の初期接着力と貯蔵安定性、接着層の風合い(硬さ)のバランスを取るために、ガラス転移温度が−52℃〜−9℃で、前記化学式(1)で表される構造を持つスルホン酸塩系ナトリウムを含んだアクリル系重合体ラテックスを用いる。また、ガラス転移点が−44〜−21℃であるとより好ましい。ここで、ガラス転移温度が−9℃より高い場合、接着剤とした際の柔軟性を損ない、−52℃よりも低い場合は初期接着力が十分でない。また、前記化学式(1)で表される構造を含まない場合は、初期接着力が十分でなく貯蔵安定性を損なう。
【0035】
前記化学式(1)で表される構造のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムとしては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムかアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを使用するとより好ましい。
【0036】
前記化学式(1)で表される構造のアルキルベンゼンスルホン酸は、アクリル共重合体100質量部に対して1.5〜5質量部含まれると好ましく、2〜4部であると更に好ましい。1.5質量部以上とすることで、コロイド安定性が向上し、その結果、貯蔵安定性も向上させることができる。また、5質量部以下とすることで、初期接着力を向上させることができる。
【0037】
これらのアクリル系重合体ラテックスは、(メタ)アクリル酸エステルに、必要に応じて官能基モノマー、常温架橋基モノマー及び/又は共重合可能な他のモノマーを(共)重合させて得られるものである。
【0038】
(メタ)アクリル酸エステルは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどがある。これらは単独でも2種以上混合しても用いることができる。
【0039】
前記官能基モノマーは、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチルメタアクリレート、1,6−ヘキサンジオールアクリレート、アリルメタアクリレートなどがあり、これらは単独でも2種以上混合しても用いることができる。
【0040】
前記常温架橋基モノマーは、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、エチレン−1,2−ジヒドラジン、プロピレン−1,3−ジヒドラジン、ブチレン−1,4−ジヒドラジドなどのヒドラジン誘導体や、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどがありこれらは単独でも2種以上混合しても用いることができる。
【0041】
前記共重合可能な他のモノマーは、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニル、アリルアルコールなどがある。これらは単独でも2種以上混合しても用いることができる。
【0042】
アクリル系重合体ラテックスの製造方法は特に制限されず、乳化重合法や懸濁重合法、乳化分散法等の公知方法によって製造することができる。上記各モノマーを重合してポリマー粒子を合成し、本実施形態に関わるアクリル系重合体ラテックスを得るために重合開始剤、分子量調整剤といった添加剤を使用することができる。
【0043】
重合開始剤の例としては、過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート及び3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の有機過酸化物、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、過硫酸アンモニウム、並びに過硫酸カリウム等が挙げられる。重合開始剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
重合方法のうち、特に乳化重合により本実施形態に用いられるアクリル系重合体ラテックスを簡単に得ることができる。また、モノマー、水、乳化剤の一部を事前に混合分散し、重合中に添加するエマルジョン滴下法による乳化重合にて作製しても良い。
【0045】
アクリル系重合体ラテックスはコロイド安定性等の観点から、pH5〜10の範囲に調整されると良い。アンモニア、アルカリ金属水酸化物等が溶解している塩基性水溶液を加えて調整してもよい。アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。
【0046】
アクリル系重合体ラテックスのガラス転移点は、理学電気株式会社製の示差走査熱量分析計(DCS)を用い、次の条件で測定した値である。
1.アクリル系ラテックス約5g(固形分換算)をガラス板に薄く引き伸ばし、25℃で7日間乾燥させ、ポリマーフィルムを得る。
2.得られた乾燥フィルムのガラス転移点を測定する。具体的には、サンプル量は20mg、窒素雰囲気下、昇温速度は20℃/分で測定を行った。
【0047】
アクリル系重合体ラテックスの固形分濃度は、特に制限はないが、通常35〜65質量%である。
【0048】
本発明のクロロプレン系重合体ラテックス組成物全体に占めるアクリル系重合体ラテックスの割合は、固形分換算で15〜50質量%とし、25〜35質量%であるとより好ましい。15質量%未満では接着剤層の風合いが柔軟ではなく、50質量%より多い場合には、初期接着力がきわめて低くなる。
【0049】
(C)pH調節剤
pH調節剤は、組成物の初期接着力を向上させるために配合するものである。pH調節剤としては、弱酸や緩衝液が使用可能であり、ホウ酸、硫酸アンモニウム、及び等電点が5.5〜6.5のアミノ酸から選ばれる少なくとも一種の化合物が用いられる。等電点が5.5〜6.5のアミノ酸としては、具体的には、グリシン(等電点:5.97)、アラニン(等電点:6.00)、トレオニン(等電点:6.16)、プロリン(等電点:6.30)等が挙げられる。コストや接着性能、ハンドリングの容易さ等からアミノ酸の一種であるグリシンを用いることが好ましい。
【0050】
pH調節剤としてホウ酸を使用する場合には、5%濃度の水溶液、硫酸アンモニウムを使用する場合は2%濃度の水溶液として用いるとハンドリングが容易になるため好ましい。また、pH調節剤としてグリシンを使用する場合には、クロロプレン系重合体ラテックスとアクリル系重合体ラテックスのラテックス混合物100質量部(固形分)に対して、好ましくは3〜13質量部、更に好ましくは5〜11質量部を使用する。グリシンの添加量が3質量部以上とすることで、十分な接着力を発現することができる。また、添加量を13質量部以下とすることで、添加時に凝集物が発生するのを防ぐことができ、接着剤とした際の貯蔵安定性も向上する。
【0051】
以上説明した(A)(B)(C)成分を含んだラテックス組成物を乾燥して得られる乾燥シートのJIS K 6253−3で規定されるデュロメータ硬さ(タイプA)は、75以下の範囲に有る。デュロメータ硬さが75よりも高い場合は接着層が柔軟でない。
【0052】
本実施形態のラテックス組成物には、前述の(A)、(B)、(C)成分以外に、必要に応じて(D)下記の化学式(2)で示される可塑剤を1〜20質量部添加することができる。
【化2】
(式中、R及びRは炭素原子数1〜3の脂肪族アルキル基もしくは水素原子を表し、RおよびRは同じ構造でも異なる構造でもよい。Rは炭素原子数5〜20の脂肪族アルキル基を表す。)
上記記載の可塑剤を添加することで、接着剤層の風合いを柔軟にしたり、乾燥時間が長くなっても接着力を維持することができる。
【0053】
前記化学式(2)で示される可塑剤の添加量は、ラテックスクロロプレン系重合体組成物100質量部(固形分)に対して、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは2〜15質量部、更に好ましくは5〜10質量部の範囲である。可塑剤の添加量が少ないと乾燥時間が延長された場合の接着力が低下する場合がある。また、可塑剤の添加量が多い場合には、初期接着力が低下したり、コスト的にも不利になる場合がある。
【0054】
また、本発明のラテックス組成物には、(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有させることが好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、ラテックス組成物を接着剤とした際にその貼り付け糊のはみ出し部(glueline)の変色や衛生性を改善する効果が有る。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、p−クレソールとジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物などがある。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量はラテックス組成物の固形分100質量部に対して、0.1〜3質量%が好ましく、0.5〜2質量%がさらに好ましい。酸化防止剤の添加量を0.1質量%以上とすることで、酸化防止効果を十分に発揮することができる。また、3質量%以下とすることで、粘着力、接着力を向上させることができる。
【0055】
本発明のラテックス組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記以外の添加剤として、充填材、粘着付与剤、顔料、着色剤、湿潤剤、消泡剤、増粘剤などを適宜使用することができる。また全組成物の10質量%(固形分換算)を上限に、その他の樹脂エマルション(ラテックス)を、補助的に配合しても差し支えない。具体的には、(変性)酢酸ビニル、酢酸ビニル・アクリル混合、アクリル・スチレン混合、ウレタンなどの樹脂エマルションが挙げられる。
【0056】
本発明のラテックス組成物の調製法としては、特に制限はない。通常ブレンドの順番としては、はじめに(A)クロロプレン系重合体ラテックスに(B)アクリル系重合体ラテックスを加え、その後この組成物に(C)ラテックスをブレンドする。尚、ラテックスの成分によっては、(A)クロロプレン系重合体ラテックスと(B)アクリル系重合体ラテックスをブレンド時に凝集物が発生したり、凝固物が発生することがある。その場合はブレンドの順番を(A)クロロプレン系重合体ラテックスに(C)pH調整剤を添加し、最後に(B)アクリル系重合体ラテックスをブレンドすると不具合無くラテックス組成物が得られる。尚、各補助成分についても、水系の分散液として添加することが好ましい。
【0057】
このようにして得られたラテックス組成物は、初期接着力に非常に優れる。例えば、塗布後の乾燥時間が10秒という極めて短い時間においても十分な接着力を持つ。また、乾燥後の接着剤層が柔軟であり、ラテックス組成物を乾燥して得られる乾燥シートのJIS K 6253−3で規定されるデュロメータ硬さ(タイプA)が、75以下の範囲にある。更に、貯蔵安定性やスプレー塗布性のバランスにも優れる。このような特徴を利用して、本実施形態に係るラテックス組成物は、そのまま一液系水性接着剤として用いることができる。
【0058】
本発明の一液系水性接着剤の接着に好適な被着体は、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンなどの材質からなる発泡体(フォーム)、あるいは木材、布、織物などの吸水性の被着体がある。具体的には、例えば、ソファー、ベッド、椅子などの家具、建材用、ぬいぐるみなどの玩具、自動車内装品などの発泡体(フォーム)と木材、皮革あるいはフォーム同士などの被着体を対象とすることができる。
【0059】
以上の様な条件で製造された重合体ラテックス組成物は、柔軟な接着剤層を有し、優れた初期接着力とコンタクト性、耐水性、スプレー塗装性、貯蔵安定性を兼ね備えた、一液系水性接着剤として好適に使用できるものである。
【実施例】
【0060】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、下記の実施例において部及び%は、特に断りのない限り質量基準である。
【0061】
[クロロプレン系重合体ラテックスの製造]
(1)ポリクロロプレンラテックスAの製造
内容積3リットルの反応器を用い、窒素気流下で、純水100質量部(以下、単に「部」という)、ロジン酸ナトリウム5部、水酸化カリウム0.5部、ホルムアルデヒドナフタレンスルホン酸縮合物ナトリウム塩0.3部、亜硫酸水素ナトリウムを0.3部仕込み、溶解後、撹拌しながらクロロプレン単量体100部とn−ドデシルメルカプタン0.06部を加えた。過硫酸カリウム0.1重量部を開始剤として用い、窒素雰囲気下10℃で重合し、最終重合率が65%に達したところでフェノチアジンの乳濁液を加えて重合を停止した。減圧下で未反応単量体を除去した後、撹拌しながら低温安定剤のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを固形分100部に対して0.3部添加した。更に減圧下で水分を蒸発させ濃縮を行い、固形分濃度が55質量%となるよう調節しポリクロロプレンラテックスAを得た。(ゲル含有量:0%、トルエン可溶分のMn:30万、分子量分布(Mw/Mn):2.5)
【0062】
(2)ポリクロロプレンラテックスBの製造
内容積3リットルの反応器を用い、窒素気流下で、純水100部、ロジン酸ナトリウム5部、水酸化カリウム0.5部、ホルムアルデヒドナフタレンスルホン酸縮合物ナトリウム塩0.3部、亜硫酸水素ナトリウムを0.3部仕込み、溶解後、撹拌しながらクロロプレン単量体100部とn−ドデシルメルカプタン0.06部を加えた。過硫酸カリウム0.1重量部を開始剤として用い、窒素雰囲気下10℃で重合し、最終重合率が70%に達したところでフェノチアジンの乳濁液を加えて重合を停止した。減圧下で未反応単量体を除去した後、撹拌しながら低温安定剤のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを固形分100部に対して0.3部添加した。更に減圧下で水分を蒸発させ濃縮を行い、固形分濃度が55質量%となるよう調節しポリクロロプレンラテックスBを得た。(ゲル含有量:5%、トルエン可溶分のMn:30万、分子量分布(Mw/Mn):2.5)
【0063】
(3)ポリクロロプレンラテックスCの製造
内容積3リットルの反応器を用い、窒素気流下で、純水100部、ロジン酸ナトリウム5部、水酸化カリウム0.5部、ホルムアルデヒドナフタレンスルホン酸縮合物ナトリウム塩0.3部、亜硫酸水素ナトリウムを0.3部仕込み、溶解後、撹拌しながらクロロプレン単量体100部とn−ドデシルメルカプタン0.06部を加えた。過硫酸カリウム0.1重量部を開始剤として用い、窒素雰囲気下10℃で重合し、最終重合率が85%に達したところでフェノチアジンの乳濁液を加えて重合を停止した。減圧下で未反応単量体を除去した後、撹拌しながら低温安定剤のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを固形分100部に対して0.3部添加した。更に減圧下で水分を蒸発させ濃縮を行い、固形分濃度が55質量%となるよう調節しポリクロロプレンラテックスCを得た。(ゲル含有量:30%、トルエン可溶分のMn:30万、分子量分布(Mw/Mn):2.5)
【0064】
(4)ポリクロロプレンラテックスDの製造
内容積3リットルの反応器を用い、窒素気流下で、純水100部、ロジン酸ナトリウム5部、水酸化カリウム0.5部、ホルムアルデヒドナフタレンスルホン酸縮合物ナトリウム塩0.3部、亜硫酸水素ナトリウムを0.3部仕込み、溶解後、撹拌しながらクロロプレン単量体100部とn−ドデシルメルカプタン0.06部を加えた。過硫酸カリウム0.1重量部を開始剤として用い、窒素雰囲気下10℃で重合し、最終重合率が90%に達したところでフェノチアジンの乳濁液を加えて重合を停止した。減圧下で未反応単量体を除去した後、撹拌しながら低温安定剤のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを固形分100部に対して0.3部添加した。更に減圧下で水分を蒸発させ濃縮を行い、固形分濃度が55質量%となるよう調節しポリクロロプレンラテックスDを得た。(ゲル含有量:40%、トルエン可溶分のMn:30万、分子量分布(Mw/Mn):2.5)
【0065】
(5)ポリクロロプレンラテックスEの製造
内容積3リットルの反応器を用い、窒素気流下で、純水100部、ロジン酸ナトリウム5部、水酸化カリウム0.5部、ホルムアルデヒドナフタレンスルホン酸縮合物ナトリウム塩0.3部、亜硫酸水素ナトリウムを0.3部仕込み、溶解後、撹拌しながらクロロプレン単量体100部とn−ドデシルメルカプタン0.14部を加えた。過硫酸カリウム0.1重量部を開始剤として用い、窒素雰囲気下10℃で重合し、最終重合率が80%に達したところでフェノチアジンの乳濁液を加えて重合を停止した。減圧下で未反応単量体を除去した後、撹拌しながら低温安定剤のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを固形分100部に対して0.3部添加した。更に減圧下で水分を蒸発させ濃縮を行い、固形分濃度が55質量%となるよう調節しポリクロロプレンラテックスEを得た。(ゲル含有量:15%、トルエン可溶分のMn:10万、分子量分布(Mw/Mn):2.5)
【0066】
(6)ポリクロロプレンラテックスFの製造
内容積3リットルの反応器を用い、窒素気流下で、純水100部、ロジン酸ナトリウム5部、水酸化カリウム0.5部、ホルムアルデヒドナフタレンスルホン酸縮合物ナトリウム塩0.3部、亜硫酸水素ナトリウムを0.3部仕込み、溶解後、撹拌しながらクロロプレン単量体100部とn−ドデシルメルカプタン0.10部を加えた。過硫酸カリウム0.1重量部を開始剤として用い、窒素雰囲気下10℃で重合し、最終重合率が80%に達したところでフェノチアジンの乳濁液を加えて重合を停止した。減圧下で未反応単量体を除去した後、撹拌しながら低温安定剤のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを固形分100部に対して0.3部添加した。更に減圧下で水分を蒸発させ濃縮を行い、固形分濃度が55質量%となるよう調節しポリクロロプレンラテックスFを得た。(ゲル含有量:15%、トルエン可溶分のMn:25万、分子量分布(Mw/Mn):2.5)
【0067】
(7)ポリクロロプレンラテックスGの製造
内容積3リットルの反応器を用い、窒素気流下で、純水100部、ロジン酸ナトリウム5部、水酸化カリウム0.5部、ホルムアルデヒドナフタレンスルホン酸縮合物ナトリウム塩0.3部、亜硫酸水素ナトリウムを0.3部仕込み、溶解後、撹拌しながらクロロプレン単量体100部とn−ドデシルメルカプタン0.10部を加えた。過硫酸カリウム0.1重量部を開始剤として用い、窒素雰囲気下5℃で重合し、最終重合率が80%に達したところでフェノチアジンの乳濁液を加えて重合を停止した。減圧下で未反応単量体を除去した後、撹拌しながら低温安定剤のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを固形分100部に対して0.3部添加した。更に減圧下で水分を蒸発させ濃縮を行い、固形分濃度が55質量%となるよう調節しポリクロロプレンラテックスGを得た。(ゲル含有量:15%、トルエン可溶分のMn:30万、分子量分布(Mw/Mn):2.0)
【0068】
(8)ポリクロロプレンラテックスHの製造
内容積3リットルの反応器を用い、窒素気流下で、純水100部、ロジン酸ナトリウム5部、水酸化カリウム0.5部、ホルムアルデヒドナフタレンスルホン酸縮合物ナトリウム塩0.3部、亜硫酸水素ナトリウムを0.3部仕込み、溶解後、撹拌しながらクロロプレン単量体100部とn−ドデシルメルカプタン0.08部を加えた。過硫酸カリウム0.1重量部を開始剤として用い、窒素雰囲気下10℃で重合し、最終重合率が80%に達したところでフェノチアジンの乳濁液を加えて重合を停止した。減圧下で未反応単量体を除去した後、撹拌しながら低温安定剤のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを固形分100部に対して0.3部添加した。更に減圧下で水分を蒸発させ濃縮を行い、固形分濃度が55質量%となるよう調節しポリクロロプレンラテックスHを得た。(ゲル含有量:15%、トルエン可溶分のMn:30万、分子量分布(Mw/Mn):4.0)
【0069】
これらのポリクロロプレンラテックスA、B、C、D、E、F、G及び、Hのゲル含有量、トルエン可溶分(ゾル)の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、以下の方法によって測定した値である。
【0070】
[ゲル含有量]
各試料を凍結乾燥後、その資料を精秤しXとした。これをトルエンに溶解(0.6%に調製)して、遠心分離機を使用した後、200メッシュの金網を用いてゲル分を分離した。分離したゲル分を風乾した後、110℃雰囲気で1時間乾燥し、その質量を精秤しYとした。ゲル分含有量は、下記の数式(1)により算出した。
【0071】
ゲル分含有量=(Y/X)×100 ・・・(1)
【0072】
[トルエン可溶分(ゾル)の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)]
以下の条件でGPC測定を行って、ポリスチレン換算の分子量を測定し、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を評価した。測定は、ゲル分含有率測定によって分離されたトルエン可溶分(ゾル)を0.1%テトラヒドロフラン(THF)溶液に調製して行った。
【0073】
測定装置:東ソー社製HLC−8120GPC
分析用カラム:東ソー社製TSK−GEL GMHHR−H(5μm)×3本、サイズ:7.8mmφ×300mm
ガードカラム:ガードカラムTSK−ガードカラムTSK−ガードカラムHHR−H(5μm)、サイズ:6mmφ×40mm
カラム温度:40℃
溶媒:THF特級、流量:1mL/min
【0074】
[アクリル系重合体ラテックスの製造]
(1)アクリル系重合体ラテックスIの製造
攪拌機付きの温度調節の可能な容器に、n−ブチルアクリレート80部、メチルメタクリレート20部、エチレングリコールジメタクリレート0.3部、メタクリル酸0.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3部、及び水100部を加え、さらに過硫酸アンモニウム0.2部を添加して、80℃で6時間重合させた。重合転化率は約99%であった。10%炭酸カリウム水溶液にてpH6.5に中和し、固形分35%のアクリル系重合体ラテックスIを得た(ガラス転移点(以下、「Tg」ともいう)=−30℃)。
【0075】
(2)アクリル系重合体ラテックスIIの製造
攪拌機付きの温度調節の可能な容器に、n−ブチルアクリレート100部、エチレングリコールジメタクリレート0.3部、メタクリル酸0.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3部、及び水100部を加え、さらに過硫酸アンモニウム0.2部を添加して、80℃で6時間重合させた。重合転化率は約99%であった。10%炭酸カリウム水溶液にてpH6.5に中和し、固形分35%のアクリル系重合体ラテックスIIを得た(Tg=−52℃)。
【0076】
(3)アクリル系重合体ラテックスIIIの製造
攪拌機付きの温度調節の可能な容器に、n−ブチルアクリレート60部、メチルメタクリレート40部、エチレングリコールジメタクリレート0.3部、メタクリル酸0.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3部、及び水100部を加え、さらに過硫酸アンモニウム0.2部を添加して、80℃で6時間重合させた。重合転化率は約99%であった。10%炭酸カリウム水溶液にてpH6.5に中和し、固形分35%のアクリル系重合体ラテックスIIIを得た(Tg=−9℃)。
【0077】
(4)アクリル系重合体ラテックスIVの製造
攪拌機付きの温度調節の可能な容器に、n−ブチルアクリレート80部、メチルメタクリレート20部、エチレングリコールジメタクリレート0.3部、メタクリル酸0.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5部、及び水100部を加え、さらに過硫酸アンモニウム0.2部を添加して、80℃で6時間重合させた。重合転化率は約99%であった。10%炭酸カリウム水溶液にてpH8に中和し、固形分50%のアクリル系重合体ラテックスIVを得た(Tg=−30℃)。
【0078】
(5)アクリル系重合体ラテックスVの製造
攪拌機付きの温度調節の可能な容器に、n−ブチルアクリレート80部、メチルメタクリレート20部、エチレングリコールジメタクリレート0.3部、メタクリル酸0.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部、及び水100部を加え、さらに過硫酸アンモニウム0.2部を添加して、80℃で6時間重合させた。重合転化率は約99%であった。10%炭酸カリウム水溶液にてpH6.5に中和し、固形分35%のアクリル系重合体ラテックスVを得た(Tg=−30℃)。
【0079】
(6)アクリル系重合体ラテックスVIの製造
攪拌機付きの温度調節の可能な容器に、n−ブチルアクリレート90部、メチルメタクリレート10部、エチレングリコールジメタクリレート0.3部、メタクリル酸0.1部、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(花王株式会社製「ペレックス SS―H」、以下同じ)4部、及び水100部を加え、さらに過硫酸アンモニウム0.2部を添加して、80℃で6時間重合させた。重合転化率は約99%であった。10%炭酸カリウム水溶液にてpH6.5に中和し、固形分35%のアクリル系重合体ラテックスVIを得た(Tg=−44℃)。
【0080】
(7)アクリル系重合体ラテックスVIIの製造
攪拌機付きの温度調節の可能な容器に、n−ブチルアクリレート70部、メチルメタクリレート30部、エチレングリコールジメタクリレート0.3部、メタクリル酸0.1部、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(花王株式会社製「ペレックス SS―H」、以下同じ)4部、及び水100部を加え、さらに過硫酸アンモニウム0.2部を添加して、80℃で6時間重合させた。重合転化率は約99%であった。10%炭酸カリウム水溶液にてpH6.5に中和し、固形分35%のアクリル系重合体ラテックVIIを得た(Tg=−21℃)。
【0081】
(8)アクリル系重合体ラテックスVIIIの製造
攪拌機付きの温度調節の可能な容器に、n−ブチルアクリレート96部、エチレングリコールジメタクリレート2部、メタクリル酸2部、半硬化牛脂肪酸カリ石鹸(花王株式会社製「KSソープ」)8部、及び水100部を加え、さらに過硫酸アンモニウム0.2部を添加して、80℃で6時間重合させた。重合転化率は約99%であった。10%水酸化カリウム水溶液にてpH8.5に中和し、固形分45%のアクリル系重合体ラテックスVIIIを得た(Tg=−52℃)。
【0082】
(9)アクリル系重合体ラテックスIXの製造
攪拌機付きの温度調節の可能な容器に、n−ブチルアクリレート96部、エチレングリコールジメタクリレート2部、メタクリル酸2部、アルケニルコハク酸ジカリウム(花王株式会社製「ラムテルASK」)6部、及び水100部を加え、さらに過硫酸アンモニウム0.2部を添加して、80℃で6時間重合させた。重合転化率は約99%であった。10%水酸化カリウム水溶液にてpH10.0に中和し、固形分45%のアクリル系重合体ラテックスIXを得た(Tg=−52℃)。
【0083】
(10)アクリル系重合体ラテックスXの製造
攪拌機付きの温度調節の可能な容器に、2−エチルヘキシルアクリレート96部、エチレングリコールジメタクリレート2部、メタクリル酸2部、アルケニルコハク酸ジカリウム(花王株式会社製「ラムテルASK」)6部、及び水100部を加え、さらに過硫酸アンモニウム0.2部を添加して、80℃で6時間重合させた。重合転化率は約99%であった。10%水酸化カリウム水溶液にてpH6.5に中和し、固形分35%のアクリル系重合体ラテックスXを得た(Tg=−70℃)。
【0084】
上記で製造したアクリル系重合体ラテックスI〜Xについて、pH、粘度、固形分濃度、及びガラス転移点(Tg)を、以下の方法によって測定した。
【0085】
[pH]
クロロプレン系重合体ラテックス及び接着剤組成物のpHは、クロロプレン系重合体ラテックスの温度を20℃に調整した後、堀場製作所製pHメーターF−22型を用いて測定した。
【0086】
[粘度]
B型粘度計(RB−L80型粘度計:東機産業株式会社製)を用いて、No.1ローター、60秒、25℃の条件で測定した30rpmにおける粘度η30を測定した。
【0087】
[固形分濃度]
アルミ皿だけの質量をα、ポリクロロプレンラテックス試料を2ml入れたアルミ皿の質量をβ、ラテックス試料を入れたアルミ皿を110℃で3時間乾燥させた後の質量をγとし、下記数式(2)により算出した。
【0088】
固形分濃度(質量%)={(γ−α)/(β−α)}×100 ・・・(2)
【0089】
[ガラス転移点(Tg)]
ガラス転移点は、熱示差走査熱量計(DSC)(EXSTAR6000 DSC6200R、Seico Instrumenta Inc)を用いて測定したベースラインの変動として与えられる値(glass transition temperature)である。ガラス転移点の測定は、サンプルを23℃で30分静置した後、−10℃/minで−100℃まで温度を低下させて10分間静置し、その後−100℃から昇温速度20℃/minの条件で、100℃まで昇温した際の示差熱分析を測定した。昇温速度以外の測定条件についてはJISK7121に準拠した。
【0090】
測定結果を下記表1に示す。
【表1】
【0091】
[pH調節剤]
実施例及び比較例の水系接着剤組成物に配合したpH調節剤a〜hは、以下のものを使用した。
a.グリシン(等電点:5.97)
b.アラニン(等電点:6.00)
c.トレオニン(等電点:6.16)
d.5%ホウ酸水溶液(ホウ酸(粉末)5gを純水95gに溶解して調製した。)
e.2%硫酸アンモニウム水溶液(硫酸アンモニウム2gを純水98gに溶解して調整した。)
f.プロリン(等電点:6.30)
g.フェニルアラニン(等電点:5.48)ヒスチジン(等電点:7.59)
h.ヒスチジン(等電点:7.59)
【0092】
[一液系水性接着剤の調製]
クロロプレン系重合体ラテックスA〜Hと(固形分換算)、アクリル系重合体ラテックスI〜Xを混合比率が表2及び表3記載の値になるようにブレンドし、pH調節剤a〜gを表2及び表3記載の配合量で加え、実施例1〜23及び比較例1〜10の一液型水性接着剤を調製した。
【0093】
上記で得られた実施例1〜23及び比較例1〜10の一液型水性接着剤について、初期接着力、スプレー塗布性、貯蔵安定性、接着剤層の風合い、及びデュロメータ硬さを、以下の方法によって測定し、測定結果を表2及び表3に示した。
【0094】
[初期接着力]
密度30kg/mのポリウレタンフォーム(厚さ20mm×長さ50mm×幅50mm)を被着体に用い、23℃雰囲気下で一液系水性接着剤を70g/mとなるようにスプレー塗布した。塗布後23℃雰囲気中で10秒および1分間放置後、一液系水性接着剤が未乾燥の状態で2個のポリウレタンフォームの接着面同士を重ね合わせ、厚さ40mmを10mmに圧縮して5秒間保持した。その後直ちに引張試験機(島津製作所製オートグラフ:引張速度200mm/min)で接着面と垂直方向に引張試験を行ない、初期接着力(N/cm)を測定した。
初期接着力は、10秒においては2.0N/cm以上の場合を、1分においては3.0N/cm以上を合格とした。
【0095】
[スプレー塗布性]
前述の初期接着力のサンプルを作製する際に、接着剤の塗布状態やスプレーガンの状態を目視にて確認した。接着剤がムラなく均一に塗布できたものを○、ムラやぶつができたり、スプレーガンが目詰まりしたものを×とした。
【0096】
[貯蔵安定性]
一液系水性接着剤250gを40℃×7日熱処理後、その粘度の上昇の有無および状態を観察した。一液系水性接着剤の粘度が変わらず、凝集物や凝固物が発生しなかったものを○、粘度が上昇したり凝固又は凝固物が発生したものを×とした。
【0097】
[接着剤層の風合い]
上記初期接着力の評価方法と同様に密度30kg/mのポリウレタンフォーム(厚さ20mm×長さ50mm×幅50mm)を被着体に用い、23℃雰囲気下で一液系水性接着剤を70g/mとなるようにスプレー塗布した。塗布後23℃雰囲気中で10秒間放置後、一液系水性接着剤が未乾燥の状態で2個のポリウレタンフォームの接着面同士を重ね合わせ、厚さ40mmを10mmに圧縮して5秒間保持した。その後23℃で24時間放置後、指の感触で接着剤層の風合いを評価判断した。ポリウレタンフォームと接着剤層の風合いが等しかったものを○、ポリウレタンフォームより接着剤層が硬かったものを×とした。
【0098】
[デュロメータ硬さ]
FLON INDUSTRY社のPTFEフィルムを使用して縦15cm×横10cm×高さ1cmの箱型の形状のものを作製し、一液型接着剤を滴下した。滴下量は乾燥後のフィルム厚が0.2cmになるように、一液型接着剤の固形分と比重から算出した。滴下したラテックス混合物を23℃雰囲気下で1週間乾燥し、乾燥フィルムを得た。
この時乾燥状態が好ましくないものについては、1週間乾燥後に真空乾燥機で数日間乾燥した。そのようにして得られた乾燥フィルムを厚さ1cmになるように重ね、アスカーゴム硬度計A型(高分子計器株式会社)にて、JIS K 6253−3で規定されるデュロメータ硬さ(タイプA)を測定した。デュロメータ硬さが75以下であるものを合格とした。
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
表2及び表3に示す通り、実施例1〜23の一液系型水性接着剤は、初期接着力、貯蔵安定性がいずれも良好かつ、接着剤層の風合いが柔軟であり、デュロメータ硬さが75以下にあった。
【0102】
一方、クロロプレン系重合体ラテックス(A)の配合比が50質量%未満でアクリル系重合体ラテックス(B)の配合比が50質量%を超える比較例1、pH調整剤(C)の配合量が3質量部未満である比較例3、前記化学式(1)で表される構造のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いていない比較例6〜8は、実施例1〜23に比べて、初期接着力が劣っていた。また、クロロプレン系重合体ラテックス(A)の配合比が85質量%を超え、アクリル系重合体ラテックス(B)の配合比が15質量%未満である比較例2は、接着剤層の風合いが接着層の風合いがポリウレタンフォームよりも硬く、デュロメータ硬さも高い結果であった。pH調整剤(C)の配合量が13質量部を超える比較例4及び5は、貯蔵安定性が悪く、比較例4については、スプレー塗布性も悪い結果であった。等電点が5.48のフェニルアラニン及び等電点が7.59のヒスチジンを用いた比較例9、及び等電点が7.59のヒスチジンを用いた比較例10は、一液系水性接着剤を調製する際に凝集物発生や凝固現象が発生してしまい評価することが出来なかった。
【0103】
実施例の中で考察すると、クロロプレン系重合体ラテックスを構成するクロロプレン系重合体中のゲル含有量(トルエン不溶分)が5〜30質量%の範囲外の実施例1及び4や、クロロプレン系重合体中のトルエン可溶分の数平均分子量が20万〜50万の範囲外の実施例5に比べて、この範囲内の実施例6の方が、初期接着力が良好であった。この結果から、クロロプレン系重合体ラテックスを構成するクロロプレン系重合体中のゲル含有量(トルエン不溶分)が5〜30質量%であり、クロロプレン系重合体中のトルエン可溶分の数平均分子量が20万〜50万の範囲のものが好ましいことが分かった。
【0104】
pH調整剤の種類の違いについて結果を考察すると、アラニンを用いた実施例17、トレオニンを用いた実施例18、及びプロリンを用いた実施例21に比べて、グリシンを用いた実施例6の方が、初期接着力が良好であった。