(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態に係る光ファイバ着色心線および光ファイバケーブルの構成を、
図1および
図2を参照しながら説明する。なお、
図1および
図2では、各構成部材の形状を認識可能とするために縮尺を適宜変更している。
図1は、本実施形態に係る光ファイバ着色心線の断面図である。
図1に示すように、光ファイバ着色心線1は、光ファイバ裸線2と、プライマリ層3と、セカンダリ層4と、着色層5と、を備えている。
【0010】
光ファイバ裸線2は、例えば石英系ガラスなどにより形成され、光を伝達する。光ファイバ裸線2のモードフィールド径(MFD)は、例えば波長1310nmの光において8.2〜9.6μmである。プライマリ層3は、UV硬化型樹脂により形成され、光ファイバ裸線2を覆っている。セカンダリ層4は、UV硬化型樹脂により形成され、プライマリ層3を覆っている。着色層5は、着色されたUV硬化型樹脂により形成され、プライマリ層3およびセカンダリ層4の外側に配置されている。
なお、プライマリ層3、セカンダリ層4、および着色層5となるUV硬化型樹脂の具体的な材質は互いに同じであってもよく、それぞれ異なっていてもよい。これらのUV硬化型樹脂としては、例えばアクリレート樹脂などを用いることができる。
【0011】
光ファイバ着色心線1は、例えば間欠固定型の光ファイバテープとして用いることができる。間欠固定型の光ファイバテープとは、複数の光ファイバ着色心線1を並列させ、隣り合う光ファイバ着色心線1同士を複数の連結部で間欠的に連結した光ファイバテープである。間欠固定型の光ファイバテープは、幅方向に丸めて筒状にしたり、折り畳んだりすることができる。このため、間欠固定型の光ファイバテープを用いることで、複数の光ファイバ着色心線1を高密度に束ねることができる。
【0012】
光ファイバ着色心線1は、ルースチューブケーブル、スロット型ケーブル、リボン型センターチューブケーブル、ラッピングチューブケーブル、およびマイクロダクトケーブルなどに用いることができる。マイクロダクトケーブルとは、ルースチューブケーブルの一種であり、細径のルースチューブに光ファイバを高密度に詰め込んだものである。このような構造のため、ルースチューブケーブルでは光ファイバ着色心線1に比較的強い側圧が作用し、マイクロベンドによって光の伝達損失が増加する場合がある。
【0013】
側圧が作用した際の光の伝達損失を抑えて、耐マイクロベンド特性を向上させるためには、セカンダリ層4または着色層5を硬い材質で形成し、プライマリ層3を柔らかい材質で形成することが有効である。このように、光ファイバ裸線2に接するプライマリ層3を柔らかくし、プライマリ層3の外側に位置するセカンダリ層4または着色層5を硬くすることで、光ファイバ裸線2を外力から効果的に保護することができる。セカンダリ層4若しくは着色層5のヤング率としては、例えば700MPa以上1400MPa以下の範囲であることが好ましい。
【0014】
図2は、光ファイバ着色心線1を用いた光ファイバケーブル50の一例を示す図である。この光ファイバケーブル50は、複数の光ファイバ着色心線1と、結束材53と、ラッピングチューブ54と、筒状のシース55と、一対の抗張力体56と、一対の引き裂き紐57と、を備えている。
【0015】
結束材53は、複数の光ファイバ着色心線1を束ねている。ラッピングチューブ54は、結束材53により束ねられた光ファイバ着色心線1を覆っている。シース55は、光ファイバ着色心線1をラッピングチューブ54ごと被覆している。一対の抗張力体56は、シース55内に埋設されている。一対の引き裂き紐57は、シース55内の内周面に近接する位置に埋設されている。シース55の外周面のうち、一対の引き裂き紐57が配置された位置の外側にはそれぞれ、マーカ突起58が突設されている。マーカ突起58は、引き裂き紐57に沿って形成されており、引き裂き紐57の埋設位置を示している。なお、光ファイバケーブル50は、ラッピングチューブ54、抗張力体56、引き裂き紐57、およびマーカ突起58を備えていなくてもよい。
【0016】
次に、光ファイバケーブル50の製造工程について説明する。
【0017】
光ファイバケーブル50を製造する際、まず、裸線形成工程が行われる。裸線形成工程では、光ファイバ裸線2が形成される。光ファイバ裸線2は、例えば2000℃程度に熱したガラス母材から引き出されて、所望の外径に形成される。光ファイバ裸線2の外径は、例えば数百μm程度である。
次に、プライマリ層形成工程が行われる。プライマリ層形成工程では、光ファイバ裸線2の周囲に、プライマリ層3となるUV硬化型樹脂を塗布する。その後、塗布したUV硬化型樹脂にUV光を照射して硬化させ、プライマリ層3を形成する。
次に、セカンダリ層形成工程が行われる。セカンダリ層形成工程では、プライマリ層3の周囲にセカンダリ層4となるUV硬化型樹脂を塗布する。その後、塗布したUV硬化型樹脂にUV光を照射して硬化させ、セカンダリ層4を形成する。なお、光ファイバ裸線2の周囲にプライマリ層3となるUV硬化型樹脂を塗布後、その上にセカンダリ層4となるUV硬化型樹脂を続けて塗布し、これにUV光を照射することでプライマリ層3およびセカンダリ層4をまとめて硬化させてもよい。つまり、プライマリ層形成工程およびセカンダリ層形成工程は同時に行われてもよい。
【0018】
次に、着色層形成工程が行われる。着色層形成工程では、セカンダリ層4の周囲に着色層5となるUV硬化型樹脂を塗布する。その後、塗布したUV硬化型樹脂にUV光を照射して硬化させ、着色層5を形成する。これにより、光ファイバ着色心線1が得られる。
次に、光ファイバ着色心線1をシース55の内部に収容することで、光ファイバケーブル50が得られる。
【0019】
このように、光ファイバ着色心線1の製造工程では複数回にわたってUV光の照射が行われる。ここで、本願発明者は、プライマリ層形成工程の後の工程でも、プライマリ層3の硬化が進行する場合があることを見出した。詳しくは、プライマリ層形成工程でのプライマリ層3の硬化が不十分であった場合、その後の工程でUV光を照射する際に、セカンダリ層4や着色層5を透過したUV光がプライマリ層3に吸収され、プライマリ層3の硬化が進行する。
【0020】
このような現象が発生すると、プライマリ層3のヤング率が所望の範囲を超えて硬くなり、プライマリ層3による外力の緩和作用が不十分となることで、光の伝達損失が増加する場合がある。また、プライマリ層3の硬化が不十分であることにより、光ファイバ着色心線1に水が接触した際に、プライマリ層3が光ファイバ裸線2から剥離したり、プライマリ層3と光ファイバ裸線2との間に水泡が介在して光ファイバ裸線2に側圧を作用させたりしてしまう場合がある。
【0021】
上記の課題に着目し、光ファイバケーブル50の光の伝達損失や信頼性などについて検証した結果について、表1を用いて説明する。なお、表1に示す各例においては、波長1310nmの光においてMFDが9.1μm、光ファイバ裸線2の外径が125μm、プライマリ層3の外径が190μm、セカンダリ層4の外径が239μm、着色層5の外径が252μm、の光ファイバ着色心線1を用いている。この光ファイバ着色心線1は、例えば国際電気通信連合の電気通信標準化部門(ITU−T:International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)が定めるG652DまたはG657A1に準拠している。なお、上記したプライマリ層3、セカンダリ層4、着色層5の各外径は設計値であり、実際の寸法は±3μm程度の誤差を有する。また、上記寸法などは一例であり、表1に示す各例から得られる結果は、寸法およびMDFを上記の値から変更した光ファイバ着色心線1にも適用することができる。
【0023】
(定義)
表1の「プライマリヤング率」とは、光ファイバケーブル50の製造工程中の各状態におけるプライマリ層3のヤング率をいう。例えば、「着色前のプライマリヤング率」は、セカンダリ層形成工程後におけるプライマリ層3のヤング率を示す。また、「着色後のプライマリヤング率」は、着色層形成工程後におけるプライマリ層3のヤング率を示す。
上記プライマリ層3のヤング率は、光ファイバ裸線2を固定した状態でプライマリ層3に対してせん断応力を与えてひずみを測定し、応力−ひずみ曲線を描くことで求められる。
【0024】
例えば実施例1のプライマリヤング率に着目すると、着色前は0.50MPaであり、着色後は0.60MPaとなっている。このように、工程が進むごとにプライマリ層3のヤング率が上昇しているのは、セカンダリ層4や着色層5を透過したUV光により、プライマリ層3の硬化が進行していることを意味する。この傾向は、実施例1〜6および比較例1〜5で共通している。
【0025】
なお、表1では、各プライマリヤング率の数値とともに、硬化度を併記している。硬化度とは、後述する飽和プライマリヤング率の数値に対するプライマリヤング率の割合である。例えば実施例1の着色前のプライマリヤング率は0.50MPaであり、飽和プライマリヤング率は0.70MPaである。このとき、実施例1の着色前の硬化度は、0.50÷0.70≒0.71(71%)と算出できる。従って、実施例1の「着色前のプライマリヤング率」の欄には、0.50MPaの数値とともに、硬化度を意味する71%の数値を併記している。
【0026】
表1の「飽和プライマリヤング率」は、プライマリ層3の飽和ヤング率を示す。より詳しくは、光ファイバ裸線2にプライマリ層3となるUV硬化型樹脂を塗布した状態で、硬化反応に寄与する波長を含むUV光を、プライマリ層3が完全に硬化するために充分な光量だけ照射した場合のプライマリ層3のヤング率をいう。例えば本実施例では、プライマリ層3となるUV硬化型樹脂に、中心波長が365nm付近にあるUV光を1J/cm
2照射した場合、それ以上UV光を照射しても、プライマリ層3のヤング率は上昇しなかった。この状態を、プライマリ層3が完全に硬化した状態と定義する。また、上述した「硬化度」は、この飽和ヤング率を基準に算出しているため、各状態におけるプライマリ層3がどの程度硬化しているかを示す指標となる。
【0027】
表1の「マイクロベンド特性」は、光ファイバ着色心線1の側圧に対する光の伝達の安定性を示している。具体的には、IEC−TR62221 Method−Bにおいて、張力1N、サンドペーパー#360番手、条長600m、ボビンサイズφ400mmの条件で、光ファイバ裸線2中を伝達する光の伝達損失の大きさを測定したものである。
【0028】
表1の「ケーブル特性」は、光ファイバ着色心線1を用いて光ファイバケーブルを作成した際の、光の伝達損失の大きさを測定した結果を示している。具体的には、288本の光ファイバ着色心線1を有するマイクロダクトケーブルにおいて、−50℃〜+85℃の範囲で雰囲気温度を変化させた際に、波長1550nmの光の伝達損失が0.05dB/km以下であればOK(良好)、それより大きければNG(不良)としている。
なお、先述のマイクロベンド特性の数値が大きい場合、光ファイバ着色心線1に側圧が印加することで光の伝達損失が増大しやすいため、ケーブル特性も低下しやすい。例えば、比較例2は「着色状態でのマイクロベンド特性」の数値が0.32dB/kmであり表1中で最も大きく、「ケーブル特性」の試験結果も不良となっている。
【0029】
表1の「リボン60℃温水浸漬試験」は、リボン化した光ファイバ着色心線1の水に対する安定性を示すものである。具体的には、12本の光ファイバ着色心線1を連結してリボン化したものを60℃の温水に1か月間浸漬した。浸漬した状態で、あるいは温水から取り出した後に、波長1550nmの光の伝達損失が0.05dB/km以下であればOK(良好)、それよりも大きければNG(不良)としている。
【0030】
(着色後のプライマリヤング率)
次に、着色後のプライマリヤング率の最適な数値範囲について考察する。
着色後のプライマリヤング率が高い場合は、ケーブル化して光ファイバ着色心線1に外力が加わった場合に、光ファイバ裸線2に加わる外力の緩和が不充分となり、光の伝達損失が増加する。また、着色後のプライマリヤング率が過剰に低い場合も、外力を受けたプライマリ層3が大きく変形することで、光ファイバ裸線2に加わる外力の緩和が不充分となり、光の伝達損失が増加する。従って、着色後のプライマリヤング率の最適な数値範囲は、ケーブル特性の試験結果から判断することができる。
【0031】
まず、表1において、着色後のプライマリヤング率の値が比較的大きい実施例5および比較例1に着目する。着色後のプライマリヤング率が0.72MPaである実施例5は、ケーブル特性の試験結果が良好となっている。一方、着色後のプライマリヤング率が0.74MPaであり、実施例5の次に大きい比較例1は、ケーブル特性の試験結果が不良となっている。この結果から、着色後のプライマリヤング率は、0.72MPa以下であることが好ましい。
【0032】
次に、表1において、着色後のプライマリヤング率の値が比較的小さい実施例4および比較例5に着目する。着色後のプライマリヤング率が0.17MPaである実施例4は、ケーブル特性の試験結果が良好となっている。一方、着色後のプライマリヤング率が0.15MPaであり、実施例4の次に小さい比較例5は、ケーブル特性の試験結果が不良となっている。この結果から、着色後のプライマリヤング率は0.17MPa以上であることが好ましい。
以上の考察により、着色後のプライマリヤング率は0.17MPa以上0.72MPa以下の範囲であることが好ましい。
【0033】
(着色後のプライマリヤング率の飽和プライマリヤング率に対する割合)
次に、着色後のプライマリヤング率の飽和プライマリヤング率に対する割合(以下、単に「着色後硬化度」という)の最適な数値範囲について考察する。
着色後硬化度が低い場合、リボン60℃温水浸漬試験の実施時に、光ファイバ着色心線1に接触した水にプライマリ層3が溶出し、光の伝達損失が大きくなる。従って、着色後硬化度の最適な数値範囲は、リボン60℃温水浸漬試験の結果から判断することができる。
【0034】
表1において、着色後硬化度の値が比較的小さい実施例4および比較例3に着目する。
着色後硬化度が70%である実施例4は、リボン60℃温水浸漬試験の結果が良好となっている。一方、着色後硬化度が実施例4の次に小さく68%である比較例3のリボン60℃温水浸漬試験の結果は不良となっている。この結果から、着色後硬化度は70%以上であることが好ましい。
なお、表1における着色後硬化度の最大値は実施例5の97%であるが、着色後硬化度が97%より大きい場合、プライマリ層3の溶出をより確実に抑えられると考えられる。従って、着色後硬化度は97%より大きくてもよい。
【0035】
(飽和プライマリヤング率)
次に、飽和プライマリヤング率の最適な数値範囲について考察する。
表1の比較例2に着目すると、着色後硬化度が80%であり、比較的大きいにもかかわらず、ケーブル特性が不良となっている。これは、飽和プライマリヤング率が1.10MPaであり比較的大きく、硬い材質をプライマリ層3として用いているためであると考えられる。
ここで、表1のうち、飽和プライマリヤング率が比較例2の次に大きいのは、実施例3の0.88MPaであり、実施例3のケーブル特性は良好となっている。
この結果から、プライマリ層3の飽和ヤング率は0.88MPa以下であることが好ましい。
【0036】
以上説明したように、着色層5が形成されて光ファイバ着色心線1となった状態におけるプライマリ層3のヤング率を、プライマリ層3の飽和ヤング率に対して70%以上とすることが好ましい。このようにすると、光ファイバ着色心線1の状態でのプライマリ層3の硬化度が、光ファイバ着色心線1の特性を満たすのに充分な程度に達する。これにより、光ファイバ着色心線1が水と接触した際にプライマリ層3が溶出するのを抑制することができる。従って、光ファイバ着色心線1が水と接触することで生じる光の伝送損失の増加を抑えて、信頼性を確保することができる。
【0037】
また、飽和ヤング率が0.88MPa以下となる材質でプライマリ層3を形成した場合には、プライマリ層形成工程後にプライマリ層3の硬化が進んだとしても、プライマリ層3が、光ファイバ着色心線1の特性を満たすために充分な柔らかさとなる。従って、光ファイバ裸線2に伝わる外力を緩和して、耐マイクロベンド特性を確保することができる。
【0038】
また、光ファイバ着色心線1となった状態におけるプライマリ層3のヤング率を0.72MPa以下とすることにより、光ファイバ着色心線1に側圧が加わった場合に生じる光の伝達損失を抑えて、耐マイクロベンド特性を確保することができる。また、上記ヤング率を0.17MPa以上とすることにより、プライマリ層3が過剰に柔らかいことで光ファイバ裸線2に加わる外力の緩和が不充分となるのを抑えることができる。
【0039】
また、セカンダリ層4または着色層5のヤング率を700MPa以上1400MPa以下とすることにより、プライマリ層3および光ファイバ裸線2を外力や衝撃などから保護することができる。
【0040】
また、光ファイバケーブル50は、プライマリ層3の着色後硬化度が70%以上である光ファイバ着色心線1を用いて製造することが好ましい。これにより、例えばシース55内に水が浸入した場合でも、プライマリ層3が光ファイバ裸線2から剥離することを抑え、光ファイバケーブル50の信頼性を確保することができる。
【0041】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0042】
例えば、前記実施形態では、セカンダリ層4および着色層5を備えた光ファイバ着色心線1について説明したが、着色層5がセカンダリ層4を兼ねることで、プライマリ層3と着色層5とが隣接していてもよい。この場合、着色前のプライマリヤング率は、プライマリ層形成工程後におけるプライマリ層3のヤング率を指す。
【0043】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。