(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照しながら、本実施形態に係る成形体の製造方法について説明する。
図1は、実施形態に係る成形型10の断面図である。
図2は、成形体20の斜視図である。
【0011】
(充填工程)
成形型10の成形空間13に成形用原料を充填する。
【0012】
成形型10は、例えば、金属(アルミニウム、アルミニウム合金、SUS鋼、ニッケル合金等など)によって構成される。本実施形態において、成形型10は、第1型11及び第2型12によって構成される。第1型11は、第2型12に締結される。ただし、成形型10は、成形体20を取り出せるように分解可能であればよく、成形型10を構成する型の数は適宜変更可能である。
【0013】
第1型11の内表面11a及び第2型12の内表面12aは、成形空間13の内表面である。成形空間13の内表面は、離型剤によって構成される離型層13aで被覆される。離型層13aは、後述する成形用原料に含まれる溶媒をはじく性質を有することが好ましい。離型層13aを構成する離型剤としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、フッ素化合物、及びシリコン化合物などが挙げられる。離型層13aの形成方法としては、スプレーコートやディップコートなどが挙げられる。
【0014】
成形型10は、成形空間13、注入孔14、及び排出孔15を内部に有する。
【0015】
成形空間13は、成形体20を形成するための空間である。成形空間13は、いわゆるキャビティーである。成形空間13には、成形用原料が充填される。成形空間13は、成形体20の外形に対応していればよく、その形状は特に限られない。本実施形態において、成形空間13は、略直方体状に形成されている。
【0016】
成形体20に流路などの構造を設ける場合には、当該構造の形状に応じた物体(例えば、棒など)を成形空間13に予め配置してもよい。また、成形体20に何らかの物体(例えば、導体、電子機器など)を埋設する場合には、当該物体を成形空間13に予め配置してもよい。
【0017】
注入孔14は、外部から成形空間13に成形用原料を注入するための流路である。排出孔15は、成形空間13から外部に気体や成形用原料を排出するための流路である。注入孔14から成形空間13に注入される成形用原料は、成形空間13に充填された後、その過充填分が排出孔15から排出される。
【0018】
成形用原料は、流動性を有する自己硬化性のスラリーである。成形用原料は、所定の粉末、反応剤、ゲル化剤、溶媒、分散助剤、その他の添加剤(例えば、造孔剤など)を含む。
【0019】
所定の粉末は、成形体20の基材である。所定の粉末としては、例えば、セラミック粉末、金属粉末、及びこれらの混合物が挙げられる。セラミック粉末としては、例えば、アルミナ粉末、ジルコニア粉末、窒化アルミニウム粉末、炭化珪素粉末などが挙げられるが、これに限定されない。金属粉末としては、白金粉末、タングステン粉末、モリブデン粉末などが挙げられるが、これに限定されない。所定の粉末の含有量は特に限られないが、例えば、20体積%以上60体積%以下とすることができる。
【0020】
反応剤は、ゲル化剤と反応して硬化反応(ゲル化反応)を引き起こす反応性官能基を含む。反応剤としては、多価アルコール(エチレングリコールのようなジオール類、グリセリンのようなトリオール類等)、多塩基酸(ジカルボン酸等)、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。反応剤の含有量は特に限られないが、例えば、0.05体積%以上5体積%以下とすることができる。
【0021】
ゲル化剤は、反応剤に含まれる反応性官能基と反応して硬化反応を引き起こす添加剤である。ゲル化剤としては、例えば、MDI(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアナート)、TDI(トリレンジイソシアナート)、IPDI(イソホロンジイソシアナート)などが挙げられる。ゲル化剤は、イソシアナート基(−N=C=O)及びイソチオシアナート基(−N=C=S)の少なくとも一方を有することが好ましい。これにより、ゲル化剤と反応剤との反応を促進することができる。ゲル化剤の含有量は特に限られないが、例えば、3体積重量%以上20体積%以下とすることができる。
【0022】
溶媒は、所定の粉末を分散させるための添加剤である。溶媒としては、多塩基酸エステル(グルタル酸ジメチル等)、多価アルコールの酸エステル(トリアセチン等)、脂肪族多価エステルなどの2以上のエステル基を有するエステル類などが挙げられる。溶媒の含有量は特に限られないが、例えば、30体積%以上70体積%以下とすることができる。
【0023】
分散助剤は、成形用原料の粘度を低減させるための添加剤である。分散助剤は、所望により添加される任意の添加剤である。分散助剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリカルボン酸系共重合体、重合体のリン酸エステル塩化合物、酸基を含む重合体のアルキルアンモニウム塩化合物、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。分散助剤の含有量は特に限られないが、例えば、0.5体積%以上10体積%以下とすることができる。
【0024】
触媒は、ゲル化剤と反応剤との反応を更に促進するための添加剤である。触媒は、所望により添加される任意の添加剤である。触媒としては、例えば、トリエチレンジアミン、ヘキサンジアミン、6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノールなどが挙げられる。触媒の含有量は特に限られないが、例えば、0.01体積%以上3体積%以下とすることができる。
【0025】
このような成形用原料は、上記の各組成物を混合した時点から硬化し始めるため、例えば射出成形に用いられる熱可塑性樹脂とは異なり、急速に粘度が増大する。具体的には、成形用原料は、各組成物の混合から2分経過後の粘度をE1(せん断速度1sec
−1)とし、各組成物の混合から12分経過後の粘度をE2(せん断速度1sec
−1)としたとき、0.01Pa・sec≦E1≦3.0Pa・sec、2.0Pa・sec≦E2≦2000Pa・sec、E2/E1≧5.0の関係を満たすものである。
【0026】
(硬化工程)
充填工程に続いて、成形用原料を硬化させることによって成形体20を形成する。具体的には、成形用原料を所定の時間(例えば、0.5時間〜72時間)放置して、成形用原料を硬化させることによって成形体20を形成する。成形体20は、多孔体(気孔率10%以上)であってもよいし、緻密体(気孔率10%未満)であってもよい。本実施形態において、成形体20は直方体状であるが、その外形及びサイズは適宜変更可能である。
【0027】
本実施形態では、成形体20の収縮率を1%以上50%以下に制御する。すなわち、成形空間13に成形用原料が充填された後、成形用原料が1%以上50%以下の範囲内に収縮するまで、ゲル化剤と反応剤との硬化反応を進行させる。
【0028】
成形体20の収縮率を1%以上とすることによって、成形体20をハンドリング可能な程度の硬さまで硬化させることができる。また、成形体20の収縮率を1%以上とすることによって、離型層13aと成形体20との間に成形用原料に含まれる溶剤を滲出させつつ、離型層13aと成形体20との間に微小なせん断力を生じさせることができる。これによって、離型層13aと成形体20との密着性を低くすることができるため、下記の取出し工程において、離型層13aが成形体20の外表面に付着することを抑制できる。特に、成形用原料に含まれる溶媒をはじく性質を離型層13aが有している場合には、離型層13aと成形体20との密着性を低下させやすい。
【0029】
また、成形体20の収縮率を50%以下とすることによって、成形体20を完全硬化(具体的には、成形体20の1時間当たりの寸法変化率が0.01%以下になるまで硬化)させる場合に比べて、硬化工程に要するタクトタイムを十分に短縮させることができる。
【0030】
なお、成形体20の収縮率は、下記の取出し工程において測定されるため、成形体20の収縮率の測定方法については後述する。
【0031】
(取出し工程)
硬化工程に続いて、成形型10を分解して、成形型10から成形体20を取り出す。具体的には、第1型11と第2型12との締結を解除して、第2型12を第1型11から取り外した後、成形体20を第1型11から取り出す。
【0032】
この取出し工程では、上述した硬化工程において離型層13aと成形体20との間に溶剤が滲出することで両者の密着性が低くなっているため、離型層13aが成形体20の外表面に付着することを抑制できる。従って、成形型10を加温したり、或いは、成形型10の分解に過剰な注意を払ったりすることなく、成形体20を成形型10から簡便に取り出すことができる。また、成形体20は収縮率が50%以下の時点で取り出されるので、成形体20を成形型10から迅速に取り出すことができる。
【0033】
成形型10から取り出される成形体20の収縮率は、上述したとおり1%以上50%以下である。成形体20の収縮率は、取り出された成形体20の外寸法と成形空間13の内寸法の差から算出される途中収縮量Δ1を全収縮量Δ2で除することによって算出される。成形体20の外寸法は、成形型10の分解を開始した時点から10分以内に測定するものとする。成形型10の分解を開始した時点から10分以内に測定するのであれば、成形型10の分解を開始した時点から成形体20の硬化反応はほとんど進行していないため、成形型10から取り出される成形体20の収縮率を実質的に測定したものといえる。全収縮量Δ2は、完全硬化時点における成形体20の外寸法と成形空間13の内寸法の差から算出される。なお、完全硬化時点とは、成形体20の1時間当たりの寸法変化率が0.01%以下になった時を意味する。
【0034】
なお、成形体20の外寸法は、代表的には、成形体20のうち最長部分の全長である。成形空間13の内寸法は、成形体20のうち最長部分に対応する部分の全長である。成形体20の外寸法及び成形空間13の内寸法は、ノギス、マイクロメーター等を用いて測定することができる。
【実施例】
【0035】
以下において、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0036】
図1に示した成形型10を用いて、実施例1〜12及び比較例1〜5に係る成形体を製造した。
【0037】
まず、成形型10の成形空間13に成形用原料を充填した。成形用原料に含まれる組成物の含有量は、上記実施形態にて記載した範囲内でサンプルごとに変更した。この際、温度、反応剤及び触媒の添加量を変更することによって、表1に示すように、サンプルごとに成形体20の全収縮量Δ2を調整した。成形空間13の最大内寸法L2は、表1に示すとおりであった。
【0038】
次に、成形空間13に充填された成形用原料を放置して、成形用原料を硬化させた。この際、サンプルごとに放置時間を変更することによって、表1に示すように成形体20の途中収縮量Δ1を調整した。表1に記載したタクトタイムは、比較例5の硬化工程における放置時間を基準として、各サンプルの硬化工程における放置時間を規格化した値である。
【0039】
次に、成形型10を分解して、成形型10から成形体20を取り出した。
【0040】
次に、成形体20の外表面に離型層13aが付着していないか否か目視で確認した。表1では、成形体20の外表面に離型層13aが一部でも付着していた場合を「×」と評価し、成形体20の外表面に離型層13aが付着していなかった場合を「○」と評価した。
【0041】
【表1】
【0042】
成形体20の収縮率を1%未満とした比較例1〜2では成形体20の離型性が低く、成形体20の収縮率を50%超とした比較例3〜5では硬化工程のタクトタイムが長かった。
【0043】
一方、成形体20の収縮率を1%以上50%以下とした実施例1〜15では、成形体20を成形型10から簡便かつ迅速に取り出すことができた。具体的には、表1に示すように、成形体20の収縮率を1%以上とすることによって、成形体20の離型性を向上させることができた。これは、離型層13aと成形体20との間に成形用原料に含まれる溶剤を滲出させつつ、離型層13aと成形体20との間に微小なせん断力を生じさせることができたためである。また、成形体20の収縮率を50%以下とすることによって、硬化工程のタクトタイムを十分に短縮させることができた。