特許第6841903号(P6841903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841903
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】細胞移動装置及び細胞移動方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/26 20060101AFI20210301BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   C12M1/26
   C12M1/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2019-513250(P2019-513250)
(86)(22)【出願日】2018年2月26日
(86)【国際出願番号】JP2018006972
(87)【国際公開番号】WO2018193719
(87)【国際公開日】20181025
【審査請求日】2019年9月24日
(31)【優先権主張番号】特願2017-83909(P2017-83909)
(32)【優先日】2017年4月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】井爪 洋平
(72)【発明者】
【氏名】坂本 大
【審査官】 池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4616342(JP,B2)
【文献】 国際公開第2015/193957(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/193958(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の吸引及び吐出を行うチップが装着され、第1方向に沿って移動可能なヘッドを複数本備えるヘッド群と、
前記ヘッド群が組み付けられ、前記第1方向と直交する第2方向と、前記第1方向及び前記第2方向の双方と直交する第3方向に移動可能なヘッドユニットと、
前記ヘッドの各々に対応して前記ヘッドユニットに搭載され、前記ヘッドを前記第1方向に沿って移動させる駆動力を発生する複数の駆動モータと、を備え、
前記複数の駆動モータは、前記第1方向の平面視において、前記ヘッド群を挟んで前記第3方向の一方側と他方側とに分けて配置され、
前記ヘッド群は、少なくとも第1ヘッドと、前記第1ヘッドと前記第2方向に隣接する第2ヘッドとを含み、
前記第1ヘッドは、前記第3方向の一方側に配置された駆動モータで駆動され、
前記第2ヘッドは、前記第3方向の他方側に配置された駆動モータで駆動される細胞移動装置において、
前記ヘッド群が備える前記複数本のヘッドは、前記第2方向に直線状に配列されると共に、第1グループに属するヘッドと、第2グループに属するヘッドとに区分され、
前記第1グループのヘッドは前記第1ヘッドを含み、前記第3方向の一方側に配置された各々の駆動モータで駆動され、
前記第2グループのヘッドは前記第2ヘッドを含み、前記第3方向の他方側に配置された各々の駆動モータで駆動され、
前記複数本のヘッドの配列は、前記第1グループに属するヘッドと、前記第2グループに属するヘッドが交互に並ぶ配列であり、
前記第1方向の平面視において、前記第3方向の一方側及び他方側に配置された駆動モータは、それぞれ前記一方側及び他方側において、前記第2方向に直線状に配列され、
前記ヘッドユニットは、前記ヘッドを保持する第1フレーム部と、この第1フレーム部が取り付けられると共に、前記駆動モータを含む昇降機構に連結され前記昇降機構によって前記第1方向に移動される第2フレーム部とを含むフレーム部材を前記ヘッド毎に備え、
前記第1方向の平面視において、前記第2フレーム部は前記第2方向に第1幅を有し、前記第1フレーム部は前記第1幅よりも狭幅の第2幅を有し、
前記第1グループに属するヘッドのフレーム部材と前記第2グループに属するヘッドのフレーム部材とが互いに向かい合い、且つ、前記第1フレーム部同士が前記第2方向に隣接するように、前記ヘッドユニットに組み付けられている、細胞移動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞移動装置において、
前記ヘッドの各々に対応して前記ヘッドユニットに搭載され、前記ヘッドに装着されているチップに前記細胞の吸引及び吐出を行わせるための駆動力を発生する複数の吸引モータをさらに備え、
前記第1ヘッドに装着されるチップには、前記第3方向の一方側に配置された吸引モータが適用され、
前記第2ヘッドに装着されるチップには、前記第3方向の他方側に配置された吸引モータが適用される、細胞移動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の細胞移動装置において、
前記第1グループの各ヘッドに装着されるチップに各々適用される前記吸引モータは、前記第3方向の一方側に配置され、
前記第2グループの各ヘッドに装着されるチップに各々適用される前記吸引モータは、前記第3方向の他方側に配置される、細胞移動装置。
【請求項4】
請求項1に記載の細胞移動装置において
前記ヘッド毎に備えられる前記フレーム部材は同一形状を有している、細胞移動装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞移動装置において、
前記ヘッドユニットの一方側に配置されたヘッド装置と他方側に配置されたヘッド装置とのペアは、前記第2方向の同じ位置に配置され、且つ、前記第3方向に互いに対向するようにヘッドユニットに組み付けられている、細胞移動装置。
【請求項6】
チップに吸引された細胞を所定位置まで移動させて吐出する細胞移動方法であって、
前記細胞が吐出される複数のウェルが、所定方向に第1ピッチで配列されてなるマイクロプレートと、前記チップが前記第1ピッチのn倍(nは1以上の整数)の第2ピッチで配列されるよう、複数のヘッドが配列された請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞移動装置と、を準備する工程と、
前記ヘッドユニットの移動可能範囲内に前記マイクロプレートを載置する工程と、
前記ヘッド群の前記チップに前記細胞を吸引させた状態で、前記ヘッドユニットを前記マイクロプレートの載置位置へ移動させる工程と、
複数の前記チップの先端開口が各々前記ウェルに進入するように、複数の前記駆動モータを同時に駆動して複数本の前記ヘッドを同時に前記第1方向へ移動させると共に、複数本の前記チップから前記細胞を同時に吐出させる工程と、
を備えることを特徴とする細胞移動方法。
【請求項7】
請求項6に記載の細胞移動方法において、
前記細胞を保持する複数の保持部が、前記第1ピッチよりも狭い第3ピッチで所定方向に配列されたディッシュを準備する工程と、
前記ヘッドユニットの移動可能範囲内に前記ディッシュを載置する工程と、
前記ヘッド群の前記チップが空の状態で、前記ヘッドユニットを前記ディッシュの載置位置へ移動させる工程と、
一つの前記チップの先端開口が前記保持部にアクセスするように、一つの前記駆動モータを駆動して一つの前記ヘッドを前記第1方向へ移動させると共に、前記チップに前記細胞を吸引させ、順次他の前記チップについても同様に前記吸引を行わせる工程と、
をさらに備える、細胞移動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を吸引したチップを所定の位置まで移動させた後、前記細胞を前記チップから吐出させる細胞移動装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば医療や生物学的な研究の用途では、単細胞、或いは細胞が三次元的に凝集してなる細胞凝集塊、或いは細胞の断片から塊化培養した細胞塊(以下、これらを本明細書では単に細胞という)が、観察、薬効確認、検査若しくは培養等の処理作業のために、マトリクス配列されたウェルを有するマイクロプレートの、前記ウェルに収容されることがある。前記ウェルに収容される細胞は、細胞を収容可能な保持凹部を有するディッシュ上において選別される。選別された細胞は、上下動が可能且つ負圧を発生可能な複数のヘッドに装着された複数のチップの各々によって前記保持凹部から吸引され、前記マイクロプレートの配置位置に移動される。移動後、前記チップに吸引されている細胞が、前記マイクロプレートの前記ウェルに吐出される。
【0003】
前記複数のチップから各ウェルへ個別に細胞の吐出を行わせたのでは、細胞移動作業の作業効率が悪い。従って、複数の前記チップから前記ウェルへ細胞を同時吐出させることが望ましい。例えば、特許文献1には、ディスペンサチップの配置ピッチとウェルの配置ピッチとをマッチングさせることが開示されている。前記マッチングにより、前記同時吐出の実行が可能となる。
【0004】
ところが、前記チップが装着される前記ヘッドの配列ピッチを、前記マイクロプレートの前記ウェルの配列ピッチにマッチさせることが困難な場合がある。例えば、ウェル数=24×16個の標準的なマイクロプレートでは、前記ウェルの配列ピッチは4.5mmである。一方、前記ヘッドには、当該ヘッドを昇降させる駆動モータ、さらには当該ヘッドに前記負圧を発生させるための吸引モータ等を組み付ける必要がある。しかしながら、所要の駆動力を発生可能な前記モータのサイズは、前記ウェルの配列ピッチよりも一般的に大きくなってしまう。このようなヘッドの構成上の事情より、前記同時吐出を実行させることが困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4616342号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、駆動モータが搭載されたヘッドに装着されるチップを、所要のピッチで配列することが可能な細胞移動装置、及びこれを用いた細胞移動方法を提供することにある。
【0007】
本発明の一局面に係る細胞移動装置は、細胞の吸引及び吐出を行うチップが装着され、第1方向に沿って移動可能なヘッドを複数本備えるヘッド群と、前記ヘッド群が組み付けられ、前記第1方向と直交する第2方向と、前記第1方向及び前記第2方向の双方と直交する第3方向に移動可能なヘッドユニットと、前記ヘッドの各々に対応して前記ヘッドユニットに搭載され、前記ヘッドを前記第1方向に沿って移動させる駆動力を発生する複数の駆動モータと、を備える。前記複数の駆動モータは、前記第1方向の平面視において、前記ヘッド群を挟んで前記第3方向の一方側と他方側とに分けて配置され、前記ヘッド群は、少なくとも第1ヘッドと、前記第1ヘッドと前記第2方向に隣接する第2ヘッドとを含む。前記第1ヘッドは、前記第3方向の一方側に配置された駆動モータで駆動される。前記第2ヘッドは、前記第3方向の他方側に配置された駆動モータで駆動される。
【0008】
本発明の他の局面に係る細胞移動方法は、チップに吸引された細胞を所定位置まで移動させて吐出する細胞移動方法であって、前記細胞が吐出される複数のウェルが、所定方向に第1ピッチで配列されてなるマイクロプレートと、前記チップが前記第1ピッチのn倍(nは1以上の整数)の第2ピッチで配列されるよう、複数のヘッドが配列された上記の細胞移動装置と、を準備する工程と、前記ヘッドユニットの移動可能範囲内に前記マイクロプレートを載置する工程と、前記ヘッド群の前記チップに前記細胞を吸引させた状態で、前記ヘッドユニットを前記マイクロプレートの載置位置へ移動させる工程と、複数の前記チップの先端開口が各々前記ウェルに進入するように、複数の前記駆動モータを同時に駆動して複数本の前記ヘッドを同時に前記第1方向へ移動させると共に、複数本の前記チップから前記細胞を同時に吐出させる工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態に係る細胞移動装置を概略的に示す図である。
図2図2(A)は、前記細胞移動装置に使用される選別容器が備えるディッシュの上面図、図2(B)は、図2(A)のIIB−IIB線断面図である。
図3図3(A)は、前記細胞移動装置に使用されるマイクロプレートの斜視図、図3(B)は、384ウェルのマイクロプレートの断面図である。
図4図4は、ヘッドに装着されるチップの分解斜視図を付記した、ヘッドユニットの一例を示す正面図である。
図5図5は、複数本のチップからマイクロプレートのウェルへの、細胞の同時吐出を説明するための図である。
図6図6は、前記同時吐出の他の例を説明するための図である。
図7図7は、前記チップと前記ウェルとの位置ズレが生じた際における吐出動作を説明するための図である。
図8図8は、ヘッドカバーを外した状態の、ヘッドユニットの斜視図である。
図9図9は、図8のヘッドユニットの分解斜視図である。
図10図10は、前記ヘッドユニットの上面図である。
図11図11は、一対の+Y側及び−Y側のヘッド装置の組み付け状態を示す斜視図である。
図12図12は、図11の一対のヘッド装置を、+Y側と−Y側との分離した状態の斜視図である。
図13図13は、ヘッド装置の側断面図である。
図14図14は、図13の要部拡大図である。
図15図15は、変形例に係るヘッドユニットの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。本発明に係る細胞移動装置では、生体由来の細胞、細胞塊或いは細胞凝集塊(スフェロイド;spheroid)等が移動対象物とされる。例えば生体由来の細胞凝集塊は、細胞が数個〜数十万個凝集して形成されている。そのため、細胞凝集塊の大きさは様々である。生きた細胞が形成する細胞凝集塊は略球形であるが、細胞凝集塊を構成する細胞の一部が変質したり、死細胞となっていたりすると、細胞凝集塊の形状は歪になる、あるいは密度が不均一となる場合がある。バイオ関連技術や医薬の分野における試験において、選別ステージ上のディッシュに担持された種々の形状を呈する複数の細胞凝集塊の中から、使用可能な細胞凝集塊をチップでピッキッングし、これをマイクロプレートまで移動する細胞移動装置が用いられる。マイクロプレートでは、細胞凝集塊に対して、観察、薬効確認、検査、培養等の各種の処理が実行される。以下の説明では、上記のような細胞凝集塊を含む意味で、簡略的に細胞Cと表現する。
【0011】
[細胞移動装置の全体構成]
図1は、本実施形態の細胞移動装置Sの全体構成を概略的に示す図である。ここでは、細胞Cを2つの容器間で移動させる細胞移動装置Sを例示している。なお、図1及び他の図において、X方向、Y方向及びZ方向の方向表示が付されている。例えば、X方向は左右方向、Y方向は前後方向、Z方向は上下方向であり、+Xは右方、−Xは左方、+Yは前方、−Yは後方、+Zは上方、−Zは下方である。以下においては、状況に応じて、XYZの方向表示、或いは上記の左右、前後、上下の例に沿って説明する。
【0012】
細胞移動装置Sは、水平な載置面(上面)を有する透光性の基台1と、基台1の下方側に配置されたカメラユニット5と、基台1の上方側に配置されたヘッドユニット6とを含む。基台1の第1載置位置P1には、ディッシュ2を備えた選別容器11が載置され、第2載置位置P2にはマイクロプレート4が載置されている。ヘッドユニット6は、細胞Cの吸引及び吐出を行うチップ12が装着され、Z方向(第1方向)に沿って移動可能なヘッド61を複数備えるヘッド群6Hを含む。カメラユニット5及びヘッドユニット6は、X方向(第1方向と直交する第2方向)と、Y方向(第1方向及び第2方向の双方と直交する第3方向)とに移動可能である。ディッシュ2及びマイクロプレート4は、ヘッドユニット6の移動可能範囲内において、基台1の上面に載置されている。
【0013】
大略的に細胞移動装置Sは、細胞Cを多数保持している選別容器11のディッシュ2から複数のチップ12の各々で細胞Cを個別に吸引し、これをマイクロプレート4まで移動すると共に、当該マイクロプレート4(ウェル41)に複数のチップ12から細胞Cを同時に吐出する装置である。以下、細胞移動装置Sの各部を説明する。
【0014】
基台1は、所定の剛性を有し、その一部又は全部が透光性の材料で形成される長方形の平板である。好ましい基台1は、ガラスプレートである。基台1をガラスプレートのような透光性材料によって形成することで、基台1の下方に配置されたカメラユニット5にて、基台1の上面に配置された選別容器11(ディッシュ2)及びマイクロプレート4を、当該基台1を通して撮像させることが可能となる。
【0015】
選別容器11は、細胞Cの移動元となる容器であり、培地Lを貯留し、細胞選別用のディッシュ2を培地Lに浸漬される状態で保持している。ディッシュ2は、細胞Cを保持するプレートであり、細胞Cを個別に収容して保持することが可能な保持凹部3(保持部)を上面に複数有している。培地Lは、細胞Cの性状を劣化させないものであれば特に限定されず、細胞Cの種類により適宜選定することができる。
【0016】
選別容器11は、その上面側に矩形の上部開口11Hを備えている。上部開口11Hは、細胞Cの投入、並びに、選別された細胞Cをピックアップするための開口である。ディッシュ2は、上部開口11Hの下方に配置されている。選別容器11及びディッシュ2は、透光性の樹脂材料やガラスで作製されたものが用いられる。これは、選別容器11の下方に配置されたカメラユニット5により、ディッシュ2に担持された細胞Cを観察可能とするためである。
【0017】
選別容器11には、図略の分注チップから、細胞培養液に分散された状態の複数の細胞Cが注入される。前記分注チップは、多量の細胞Cを含む細胞培養液を貯留する容器から、細胞Cと共に細胞培養液を吸引し、当該分注チップ内に保持する。その後、前記分注チップは、選別容器11の上空位置へ移動され、上部開口11Hを通してディッシュ2の上面にアクセスする。そして、前記分注チップの先端開口が選別容器11の培地Lに浸漬された状態で、前記分注チップ内に保持された細胞Cが細胞培養液と共にディッシュ2の上へ吐出される。
【0018】
<ディッシュの詳細>
ディッシュ2の詳細構造を説明する。図2(A)は、ディッシュ2の上面図、図2(B)は、図2(A)のIIB−IIB線断面図である。ディッシュ2は、ディッシュ本体20と、該ディッシュ本体20に形成される複数の保持凹部3とを備えている。ディッシュ本体20は、所定の厚みを有する平板状の部材からなり、上面21と下面22とを有する。保持凹部3は、上面21の側に細胞Cの受け入れ開口(開口部31)を有する。ディッシュ2は、選別容器11内の培地L中に浸漬される。詳しくは、ディッシュ本体20の上面21が選別容器11内の培地L中に浸漬される一方、下面22が選別容器11の底板に対して間隔を置いた状態で、選別容器11内で保持される(図1参照)。
【0019】
保持凹部3の各々は、開口部31、底部32、筒状の壁面33、孔部34及び境界部35を含む。本実施形態では、上面視で正方形の保持凹部3がマトリクス状に配列されている例を示している。図2(B)に示すように、複数の保持凹部3は、所定の凹部配列ピッチ3P(第3ピッチ)で配列されている。凹部配列ピッチ3Pは、後述するヘッド61(チップ12)の配列ピッチや、マイクロプレート4のウェル41の配列ピッチよりも狭いピッチである。
【0020】
開口部31は、上面21に設けられた正方形の開口であり、選別用のチップ12の先端開口部tの進入を許容するサイズを有する。底部32は、ディッシュ本体20の内部であって、下面22の近くに位置している。底部32は、中心(前記正方形の中心)に向けて緩く下り傾斜する傾斜面である。筒状の壁面33は、開口部31から底部32に向けて鉛直下方に延びる壁面である。孔部34は、底部32の前記中心と下面22との間を鉛直に貫通する貫通孔である。境界部35は、上面21に位置し、各保持凹部3の開口縁となる部分であって、保持凹部3同士を区画する稜線である。
【0021】
各保持凹部3の底部32及び筒状の壁面33は、細胞Cを収容する収容空間3Hを区画している。収容空間3Hには、一般的には1個の細胞Cが収容されることが企図されている。孔部34は、所望のサイズ以外の小さな細胞や夾雑物を収容空間3Hから逃がすために設けられている。従って、孔部34のサイズは、所望のサイズの細胞Cは通過できず、所望のサイズ以外の小さな細胞や夾雑物を通過させるサイズに選ばれている。これにより、選別対象となる細胞Cは保持凹部3にトラップされる一方で、夾雑物等は孔部34から選別容器18の底板に落下する。
【0022】
<マイクロプレートの詳細>
図1に戻って、マイクロプレート4は、細胞Cの移動先となる容器であり、細胞Cが吐出される複数のウェル41を有する。ウェル41は、マイクロプレート4の上面に開口した有底の孔である。1つのウェル41には、培地Lと共に必要個数(通常は1個)の細胞Cが収容される。マイクロプレート4もまた、透光性の樹脂材料やガラスで作製されたものが用いられる。これは、マイクロプレート4の下方に配置されたカメラユニット5により、ウェル41に担持された細胞Cを観察可能とするためである。
【0023】
図3(A)は、マイクロプレート4の一例を示す斜視図である。マイクロプレート4は、プレート本体40と、このプレート本体40にマトリクス状に配列された複数のウェル41とを含む。細胞Cの吐出時、ウェル41にはチップ12の先端開口部tが進入するので、各ウェル41は余裕を持ってチップ12の進入を許容する開口径を有している。
【0024】
市販されているマイクロプレートには基準サイズが存在する。基準マイクロプレートは、所定の縦×横サイズ(縦85.48mm×横127.76mm)を備え、所定数のウェルを有する(例えば、ANSI(American National Standards Institute)のSLAS(Society for Laboratory Automation and Screening)によって2004年に規定された「Footprint Dimensions−for Microplates」参照)。一般的なウェル数は、24×16個(384ウェル)であり、これらウェルが所定のピッチでマトリクス配列されている。
【0025】
図3(B)は、384ウェルのマイクロプレート4の断面図である。図示する通り、マイクロプレート4の長手方向には、24個のウェル41が均等なウェルピッチ4Pで配列されている(短手方向には16個)。384ウェルの場合、ウェルピッチ4Pは4.5mmである。汎用されているマイクロプレート4としては、384ウェルの他に、1536ウェル、96ウェルがある。1536ウェルの場合、ウェルピッチ4Pは2.25mm、96ウェルの場合、ウェルピッチ4Pは9.0mmである。すなわち、いずれのマイクロプレート4のウェルピッチ4Pも、2.25mmの倍数である。
【0026】
<カメラユニット>
カメラユニット5は、選別容器11又はマイクロプレート4に保持されている細胞Cの画像を、これらの下面側から撮像するもので、レンズ部51及びカメラ本体52を備える。レンズ部51は、光学顕微鏡に用いられている対物レンズであり、所定倍率の光像を結像させるレンズ群と、このレンズ群を収容するレンズ鏡筒とを含む。カメラ本体52は、CCDイメージセンサのような撮像素子を備える。レンズ部51は、前記撮像素子の受光面に撮像対象物の光像を結像させる。カメラユニット5は、基台1と平行に左右方向に延びるガイドレール5Gに沿って、基台1の下方においてX方向に移動可能である。なお、図1では図示していないが、カメラユニット5は、Y方向にも移動可能である。また、レンズ部51は、合焦動作のためにZ方向に移動可能である。
【0027】
<ヘッドユニット>
ヘッドユニット6は、細胞Cをディッシュ2からマイクロプレート4へ移動させるために設けられ、複数本のヘッド61からなるヘッド群6Hと、このヘッド群6Hが組み付けられるヘッド本体62とを含む。各ヘッド61の先端には、細胞Cの吸引及び吐出を行うチップ12が装着されている。ヘッド本体62は、ヘッド61を+Z及び−Z方向に昇降可能に保持し、ガイドレール6Gに沿って+X及び−X方向に移動可能である。なお、図1では図示していないが、ヘッド本体62は、Y方向にも移動可能である。
【0028】
図4は、ヘッド61に装着されるチップ12の分解斜視図を付記した、ヘッドユニット6の一例を示す正面図である。ヘッドユニット6は、ヘッド本体62の機構部分を覆うヘッドカバー621を含む。ヘッドカバー621の下端側(−Z側)から、ヘッド群6Hが下方に露出している。図4では、X方向に直線状に並ぶ8本のヘッド61からなるヘッド群6Hを例示している。
【0029】
各ヘッド61に装着されるチップ12は、細胞Cの吸引経路となる管状通路を内部に備えるシリンジ13と、このシリンジ13の内周壁と摺接しつつ前記管状通路内を進退移動するプランジャ14とを備える。シリンジ13は、大径の円筒体からなるシリンジ基端部131と、細径で長尺の円筒体からなるシリンジ本体部132と、基端部131と本体部132とを繋ぐテーパ筒部133とを含む。前記管状通路は、シリンジ本体部132に形成されている。シリンジ本体部132の先端には、上述の先端開口部tが設けられている。プランジャ14は、円筒体からなるプランジャ基端部141と、針状のプランジャ本体部142と、基端部141と本体部142とを繋ぐテーパ部143とを含む。
【0030】
シリンジ基端部131は、円筒型の中空部14Hを備えている。プランジャ基端部141は、中空部14Hに収容されるサイズを有する。プランジャ本体部142の外径は、前記管状通路の内径よりも僅かに小さく設定されている。また、テーパ筒部133の内周面の形状は、テーパ部143の外周面の曲面形状に合致している。プランジャ基端部141が中空部14H内に収容され、プランジャ本体部142がシリンジ本体部132の前記管状通路に挿通される態様で、シリンジ13に対してプランジャ14が組み付けられている。プランジャ14が最も深くシリンジ13に挿通された状態では、プランジャ14の先端部144が先端開口部tから僅かに突出する。
【0031】
シリンジ13に対してプランジャ14が+Z側に移動することで、先端開口部tには吸引力が発生する。一方、プランジャ14が−Z側に移動することで、先端開口部tには吐出力が発生する。これら吸引力及び吐出力により、先端開口部tからの細胞Cの吸引、及び吸引した細胞Cの先端開口部tからの吐出を行わせることができる。
【0032】
ヘッド本体62には、ヘッド61自体をZ方向に昇降させる昇降機構(後述の駆動モータ81が駆動源)に加えて、前記ピストンロッドを前記筒状ロッド内でZ方向に昇降させるピストン機構(後述の吸引モータ82が駆動源)が備えられている。前記ピストン機構によりプランジャ14がシリンジ13に対して相対的にZ方向へ移動することで、チップ12の先端開口部tに前記吸引力及び吐出力が与えられるものである。ヘッド61の構造については、後記で詳述する。
【0033】
複数のヘッド61に各々装着された複数のチップ12は、所定のチップ配列ピッチ12P(第2ピッチ)でX方向に配列されている。このチップ配列ピッチ12Pは、マイクロプレート4におけるウェル41のウェルピッチ4P(第1ピッチ)のn倍(nは1以上の整数)である。例えば、384ウェルのマイクロプレート4の場合、上述の通りウェルピッチ4Pは4.5mmであるので、チップ配列ピッチ12Pを4.5mm×2=9.0mmに設定することができる。このようなチップ配列ピッチ12Pで複数のチップ12が配列されるよう、複数のヘッド61がヘッド本体62に配列される。
【0034】
ウェルピッチ4Pとチップ配列ピッチ12Pとを上記の関係とすることで、複数のチップ12を複数のウェル41に対して同時にアクセスさせ、同時に細胞Cを吐出させることが可能となる。図5は、チップ配列ピッチ12Pがウェルピッチ4Pの2倍に設定されている場合における、チップ12のウェル41へのアクセス状況を示している。この場合、8本のチップ12の群は、16個のウェル41の配列領域に対峙し、各チップ12は、そのうちの1つ飛ばしの8個のウェル41のそれぞれに対峙する。従って、図5の状態からヘッド群6Hを下降させれば、各チップ12の先端開口部tを各ウェル41のキャビティ内へ進入させることができ、細胞Cの同時吐出動作を実行させることができる。
【0035】
なお、図2(B)に示した、ディッシュ2における保持凹部3の凹部配列ピッチ3P(第3ピッチ)は、ウェルピッチ4Pに対して相当狭いピッチに設定されている。換言すると、ディッシュ2のサイズはヘッド61のサイズに対して相当小さく、凹部配列ピッチ3Pに応じたヘッド群6Hを作製することは難しい。このため、ディッシュ2に対しては、複数のチップ12を用いた細胞Cの同時吸引は困難である。
【0036】
[細胞移動方法の説明]
続いて、本発明の実施形態に係る細胞移動方法を、図1を主に参照して説明する。先ず、必要な設備を準備する工程が実行される。当該細胞移動方法の実施に際して準備されるのは、上述の細胞移動装置Sである。すなわち、細胞Cが吐出される複数のウェル41が所定のウェルピッチ4Pで直線状に配列されてなるマイクロプレート4と、細胞を保持する保持凹部3を有するディッシュ2を保持した選別容器11と、チップ12がウェルピッチ4Pのn倍のチップ配列ピッチ12Pで配列されるように複数のヘッド61が配列されたヘッドユニット6とが準備される。
【0037】
続いて、基台1の上面であって、ヘッドユニット6の移動可能範囲、且つ、カメラユニット5の移動可能範囲内に、選別容器11及びマイクロプレート4が載置される(載置する工程)。その後、図略の分注チップから選別容器11に対して、細胞培養液に分散された状態の複数の細胞Cが注入される。つまり、ディッシュ2の上に細胞Cが撒かれる。そして、カメラユニット5がガイドレール5Gに沿って選別容器11の下方へ移動され、ディッシュ2に担持された細胞Cを撮像すると共に、移動対象の細胞C(良質の細胞C)を選別する判定が行われる。
【0038】
その後、ヘッドユニット6を移動させる工程が実行される。ここでは、ヘッド群6Hの各ヘッド61に装着された各チップ12が空の状態(何も吸引していない状態)で、ヘッドユニット6がガイドレール6Gに沿ってディッシュ2を保持する選別容器11の載置位置へ移動される。
【0039】
次に、細胞Cをチップ12に吸引させる工程が実行される。吸引されるのは、先の工程で移動対象として選別された細胞Cであり、それら細胞Cの担持位置を示す座標情報がヘッドユニット6のコントローラに与えられている。この吸引工程では、ヘッド61(チップ12)が一本ずつ下降される。つまり、一つのチップ12の先端開口部tが、前記選別された細胞Cを担持する一つの保持凹部3にアクセスするように、一つのヘッド装置が備える昇降機構(後述の駆動モータ81)を駆動して一つのヘッド61を下方(−Z方向)へ移動させる。そして、前記一つのヘッド装置が備えるピストン機構(後述の吸引モータ82)を駆動して、チップ12に細胞Cを吸引させる。順次、他のヘッド61に装着されたチップ12についても、同様な吸引工程が実行される。
【0040】
続いて、ヘッドユニット6をマイクロプレート4の載置位置へ移動させる工程が実行される。この工程では、ヘッド群6Hの各チップ12に細胞Cを吸引させた状態で、ヘッドユニット6がガイドレール6Gに沿って、選別容器11の上空からマイクロプレート4の上空へ移動される。
【0041】
その後、細胞Cをチップ12から吐出させる工程が実行される。この吐出工程では、ヘッド群6Hの全てのヘッド61(チップ12)が、同時に下降される。つまり、図5に例示したように、全てのチップ12の先端開口部tが各々ウェル41に進入するように、全てのヘッド装置が備える昇降機構(後述の駆動モータ81)を駆動して全てのヘッド61を下方(−Z方向)へ移動させる。そして、全てのヘッド装置が備えるピストン機構(後述の吸引モータ82)を駆動して、全てのチップ12から細胞Cを同時に吐出させる。これら細胞Cの吐出状況は、カメラユニット5によるマイクロプレート4の撮像によって確認される。
【0042】
上記吐出工程において、全てのチップ12からの細胞Cの同時吐出は必須ではない。前記吸引工程と同様に、1つのチップ12の単位で細胞Cの吐出を行わせても良い。また、同時吐出が可能な一部のチップ12群について、前記同時吐出を行わせても良い。図6は、前記同時吐出の他の例を説明するための図である。ここでは、全8本のヘッド61(チップ12)のうち、4本のヘッド61だけが下降され、それらに装着されたチップ12がウェル41にアクセスしている状態を例示している。
【0043】
上記の同時吐出は、全く同じタイミングで、全てのチップ12から細胞Cが吐出される態様に限定されない。例えば、全てのヘッド61は同時に下降させるとしても、細胞Cの吐出タイミングは、ヘッド61毎に多少の時間差を持たせるようにしても良い。例えば、ウェル41に対してチップ12が不適正な位置関係で進入する場合が生じ得る。この場合、上記同時吐出の際に、チップ12(ヘッド61)を微小移動させた上で細胞Cを吐出させることが望ましい。
【0044】
図7は、チップ12とウェル41との位置ズレが生じた際における吐出動作を説明するための図である。例えば、マイクロプレート4(ウェル41)の成型誤差や、ヘッド61の組み付け誤差等により、チップ12が狙い通りの位置へ下降しない場合がある。図7では、チップ配列ピッチ12Pが、正しくウェルピッチ4Pの整数倍となっていない例を示している。この場合、図中に点線で示すように、チップ12はウェル41の孔芯からズレた位置に進入する。このまま細胞Cの吐出が行われると、細胞Cがウェル41の所期の位置に静置されない場合が生じ得る。従って、この場合は、図7の左方のチップ12から細胞Cの吐出を行わせた後、ヘッドユニット6を微小移動させ、右方のチップ12と対応するウェル41との位置合わせを行わせた上で、右方のチップ12から細胞Cを吐出させることが望ましい。
【0045】
[ヘッドユニットの具体的構成]
以下、上述の同時吐出を達成可能な、ヘッドユニット6の具体的構成を、図8図14に基づいて説明する。図8は、ヘッドカバー621を外した状態の、ヘッドユニット6の斜視図、図9は、その分解斜視図である、図10は、その上面図である。図11は、一対の+Y側及び−Y側のヘッド装置6A、6Bの組み付け状態を示す斜視図、図12は、一対のヘッド装置6A、6Bを、+Y側と−Y側との分離した状態の斜視図である。図13は、一つのヘッド装置6Aの側断面図、図14は、図13の要部拡大図である。
【0046】
<ヘッドユニットの全体構成>
ヘッドユニット6は、−Y側のヘッド装置群G1(第1グループ)と、+Y側のヘッド装置群G2(第2グループ)との組立体からなる。ヘッド装置群G1は、X方向に並ぶ4個のヘッド装置6Aを備え、ヘッド装置群G2も、X方向に並ぶ4個のヘッド装置6Bを備え、ヘッド装置群G1とヘッド装置群G2とがY方向に対峙する態様で組み立てられている。ヘッド装置6A、6Bは、各々−Z側に上述のヘッド61を備えている。
【0047】
図8図9に示すように、−Y側のヘッド装置群G1は、−Y側に配置されZ方向に延びるユニットフレーム70に組み付けられている。ユニットフレーム70の+Z側端部には、上端フレーム701が取り付けられている。上端フレーム701は、X方向視でL字型の形状を有し、ユニットフレーム70の+Z側延長線上に位置する上側支持部702と、ユニットフレーム70から+Y方向に延びる下側支持部703とを備えている。また、ユニットフレーム70には、4個のヘッド装置6Aに各々対応して、Z方向に延びるガイドレール716が取り付けられている。ガイドレール716は、ユニットフレーム70のZ方向中央部付近から−Z側端部付近まで延在している。
【0048】
図示を省いているが、+Y側のヘッド装置群G2も、+Y側に配置されZ方向に延びる上記と同様なユニットフレームに組み付けられる。図8図9では、前記−Y側のユニットフレームに取り付けられる上端フレーム701と4本のガイドレール716とが示されている。−Y側のユニットフレーム70の−Z端部と図略の+Y側のユニットフレームの−Z端部とは、下端フレーム704(図8にのみ記載)によって橋絡されている。下端フレーム704のY方向中央部には、8本のヘッド61を各々Z方向に貫通させるための8つの貫通孔が穿孔されている。
【0049】
<各ヘッド装置の構成>
8個のヘッド装置6A、6Bは同一の構成を備えている。図12図14を参照して、一つのヘッド装置6Aの構成について説明する。各ヘッド装置6Aは、チップ12が装着されるヘッド61と、ヘッド61を保持する第1フレーム部71(フレーム部材)と、第1フレーム部71が取り付けられZ方向に移動する第2フレーム部72(フレーム部材)と、第2フレーム部72をZ方向に移動させる昇降機構8Aと、第1フレーム部71に搭載され、チップ12に細胞Cの吸引及び吐出を行わせるための駆動力を発生する吸引モータ82とを備えている。
【0050】
昇降機構8Aは、駆動モータ81、ボールねじ軸811、ナット部材812、カップリング813、上端軸受け814及びモータ支持板815を備えている。駆動モータ81は、ヘッド61の各々に対応してヘッドユニット6に搭載され、ヘッド61をZ方向に沿って移動させる駆動力を発生するモータである。本実施形態では、駆動モータ81は、ボールねじ軸811を軸回りに正回転及び逆回転させる回転駆動力を発生する。
【0051】
ボールねじ軸811は、Z方向に延び、周面に雄ねじが刻まれている。ナット部材812は、雌ねじを内面に有し、ボールねじ軸811に螺合されている。駆動モータ81によりボールねじ軸811が正回転又は逆回転されることで、ナット部材812は+Z又は−Z方向に移動する。カップリング813は、駆動モータ81の出力軸とボールねじ軸811の上端を連結する部材である。上端軸受け814は、ボールねじ軸811の上端を回転自在に支持する。上端軸受け814は、筒状部とフランジ部とを備え、前記筒状部が上端フレーム701の下側支持部703に設けられた貫通孔に嵌め込まれ、前記フランジ部が下側支持部703の上面で保持されている。モータ支持板815は、駆動モータ81を支持する平板である。モータ支持板815は、上端フレーム701の上側支持部702にネジ止めされ、駆動モータ81の下面側を支持している。
【0052】
第1フレーム部71は、Z方向に延びる垂直フレーム711と、垂直フレーム711の+Z端部に組み付けられ+Y方向に突出する保持フレーム712と、保持フレーム712の上に組み付けられたモータ支持フレーム713と、垂直フレーム711の−Z端部側から+Y方向に突出するヘッド保持フレーム714とを備えている。垂直フレーム711の−Y側の側面には、ユニットフレーム70のガイドレール716に係合されるガイド部711Aが取り付けられている。
【0053】
吸引モータ82は、モータ支持フレーム713にて支持されている。モータ支持フレーム713は、吸引モータ82のサイズよりも大きいX方向幅を有し該吸引モータ82を支持する基部と、この基部から+Y方向に突出され前記基部の1/2程度のX方向幅とされた幅狭部71A(ヘッド装置6Bでは幅狭部71B)を有している。ヘッド保持フレーム714は、幅狭部71Aと上下方向に重なる位置に突設されており、幅狭部71Aとほぼ同じX方向幅を有している。
【0054】
第2フレーム部72は、昇降機構8Aに連結され当該昇降機構8AによってZ方向に移動されるフレームであって、Z方向に延びる垂直部721と、この垂直部721の+Z端部から+Y方向に突出する水平部722とを備えるL字型のフレームである。垂直部721の−Z端部付近には、第1フレーム部71が固定されている。水平部722にはZ方向の貫通孔が備えられ、昇降機構8Aのナット部材812が、前記貫通孔に嵌め込まれた状態で水平部722に固定されている。従って、ボールねじ軸811が駆動モータ81によって回転駆動され、ナット部材812が−Z又は+Z方向に移動すると、第2フレーム部72及びこれに連結されている第1フレーム部71も連動して−Z又は+Z方向に移動する。この移動の際、第1フレーム部71のガイド部711Aがガイドレール716に案内される。水平部722の+Y側端面には、ケーブルトレイ73が取り付けられている。ケーブルトレイ73は、吸引モータ82の給電ケーブル74を保持している。
【0055】
<ヘッドの詳細>
図13及び図14を参照して、ヘッド61の構成を詳述する。ヘッド61は、Z方向に配置された、軸部材63、第1筒状ロッド64、第2筒状ロッド65、吐出ロッド66、連結片67、コイルバネ68及びストッパ69を備えている。
【0056】
軸部材63は、外周面に雄ねじが刻まれたねじ軸であって、回転駆動力が与えられる第1ねじ軸631と、第1ねじ軸631に螺合される筒状の第2ねじ軸632とを含む。第2ねじ軸632は、第1ねじ軸631の前記雄ねじと係合する雌ねじが刻まれている上端部分632Aと、連結片67を介して第1筒状ロッド64が取り付けられる下端部632Bとを備える。第1ねじ軸631が軸回りに正回転又は逆回転することで、第2ねじ軸632は−Z又+Z方向に移動する。第1ねじ軸631の上端部は、軸受け821で回転自在に支持されている。また、第1ねじ軸631の最上端には、入力ギア822が取り付けられている。
【0057】
吸引モータ82は、第1ねじ軸631を軸回りに正回転又は逆回転させる回転駆動力を発生する。吸引モータ82の出力軸と入力ギア822との間には、ギアユニット823が介在されている。吸引モータ82の回転駆動力は、ギアユニット823を通して入力ギア822に伝達され、第1ねじ軸631を回転させる。軸受け821及びギアユニット823は、保持フレーム712によって保持されている。
【0058】
第2ねじ軸632のZ方向の中間部付近における周壁には、Z方向に延びる長孔632Cが設けられている。長孔632Cには、ガイドピン715の先端部が嵌り込んでいる。ガイドピン715は、ヘッド保持フレーム714にねじ止めされる部分と、該部分に連設された前記先端部とを含む。上述の通り、第1ねじ軸631が軸回りに回転すると、第2ねじ軸632がZ方向に移動する。この際、第2ねじ軸632は、長孔632Cに嵌り込んだガイドピン715によって、軸回りには回転することなく、そのZ方向の移動がガイドされる。長孔632CのZ方向の長さは、第2ねじ軸632の移動範囲に相当する。
【0059】
第1筒状ロッド64は、吐出ロッド66及びコイルバネ68を収容する筒状空間64Hを内部に備える円筒部材である。筒状空間64Hを区画する内壁には、ねじ溝が刻まれている。このねじ溝と連結片67が備えるねじ部とが螺合されることによって、第1筒状ロッド64が第2ねじ軸632(軸部材63)に接続されている。その結果、第1筒状ロッド64は第2ねじ軸632と一体的にZ方向に移動することができる。
【0060】
吐出ロッド66は、チップ12のプランジャ14(図4)をZ方向に動作させるための部材である。吐出ロッド66は、第1筒状ロッド64の筒状空間64H内に、第1筒状ロッド64に対してZ方向に相対移動可能に収容されている。吐出ロッド66の−Z端部は、プランジャ基端部141の中空部14Hに装着される。ストッパ69は、第1筒状ロッド64と吐出ロッド66とを係合させるピン部材である。ストッパ69は、第1筒状ロッド64に穿孔された長孔と、吐出ロッド66に穿孔されたストッパ孔とを貫通するように挿通され、吐出ロッド66の筒状空間64HにおけるZ方向移動範囲を規制する。
【0061】
コイルバネ68は、筒状空間64H内において、連結片67と吐出ロッド66との間に介在されている。連結片67は第1筒状ロッド64にねじ止めされているので、コイルバネ68は吐出ロッド66を下方に押圧する付勢力を発生する。前記付勢力により、吐出ロッド66の一部が、第1筒状ロッド64の一部に当止される。この付勢力を伴った当止より、吐出ロッド66は、軸部材63の上下動に連動する状態となる。なお、ストッパ69が第2筒状ロッド65の係止部と干渉すると、吐出ロッド66の上記連動が行われなくなり、コイルバネ68は圧縮される。
【0062】
第2筒状ロッド65は、−Zから+Zに向けて、その外径が3段階で拡径する円筒体であって、第1筒状ロッド64をZ方向に移動可能に収容する収容空間65Hを備えている。第2筒状ロッド65の下端65Lには、シリンジ13のシリンジ基端部131が備える中空部13H(図4)が装着される。
【0063】
第2筒状ロッド65の上端部分65Tは、ヘッド保持フレーム714に固定的に保持されている。従って、第2筒状ロッド65は、第1フレーム部71と一体的にZ方向に移動はするが、第1フレーム部71に対しては相対的に移動しない。つまり、第1筒状ロッド64は第2ねじ軸632と連動するので、第1フレーム部71に対して相対的に移動するのに対して、第2筒状ロッド65は不動である。
【0064】
以上の通り構成されたヘッド61と、吸引モータ82の駆動力とにより、チップ12を動作させて細胞Cの吸引及び吐出を行わせることができる。すなわち、第2ねじ軸632のZ方向の移動に吐出ロッド66が連動することによって、吐出ロッド66に装着されたプランジャ14がシリンジ13の管状通路内を進退移動し、先端開口部tからの細胞Cのチップ12内への吸引、及び吸引された細胞Cの先端開口部tからの吐出が行われる。
【0065】
細胞Cの吸引動作時には、第2ねじ軸632が上方(+Z)に移動するように第1ねじ軸631が吸引モータ82によって回転駆動される。第2ねじ軸632が上昇すると、当該第2ねじ軸632に連結されている第1筒状ロッド64も一体的に上昇する。また、コイルバネ68の付勢力によって第1筒状ロッド64と係合状態とされた吐出ロッド66も連動する。このため、吐出ロッド66に装着されているプランジャ14は、不動の第2筒状ロッド65に装着されているシリンジ13に対して上方に移動する。これにより、シリンジ13の管状通路内に細胞Cを吸引することができる。
【0066】
細胞Cの吐出動作時には、第2ねじ軸632が下方(−Z)に移動するように第1ねじ軸631が吸引モータ82によって回転駆動される。第2ねじ軸632が下降すると、第2ねじ軸632に連結されている第1筒状ロッド64も一体的に下降する。また、コイルバネ68の付勢力によって第1筒状ロッド64と係合状態とされた吐出ロッド66も、第2ねじ軸632の下降に連動する。このため、吐出ロッド66に装着されているプランジャ14は、シリンジ13内に挿通されるように下方へ移動する。これにより、チップ12内に一旦吸引された細胞Cは先端開口部tから吐出される。
【0067】
[ヘッド装置のレイアウト]
図8図12、主に図10を参照して、ヘッドユニット6における8個のヘッド装置6A、6Bのレイアウトについて説明する。8個のヘッド装置6A、6Bが各々備えるヘッド61、すなわちヘッドユニット6が具備するヘッド群6Hの各ヘッド61は、X方向(第2方向)に直線状に配列されている。これに対し、ヘッドユニット6が具備する駆動モータ81及び吸引モータ82は、Z方向(第1方向)の平面視において、ヘッド群6Hを挟んで−Y側(第3方向の一方側)と+Y側(第3方向の他方側)とに分けて配置されている。
【0068】
詳述すると、ヘッドユニット6は、−Y側のヘッド装置群G1の4個のヘッド装置6Aと、+Y側のヘッド装置群G2の4個のヘッド装置6Bとを備える。−Y側のヘッド装置6Aに各々搭載されている駆動モータ81及び吸引モータ82は、ヘッド群6Hの配列ラインに対して−Y側に配置されている。一方、+Y側のヘッド装置6Bに各々搭載されている駆動モータ81及び吸引モータ82は、ヘッド群6Hの配列ラインに対して+Y側に配置されている。
【0069】
すなわち、ヘッド群6Hが備える8本のヘッド61(複数本のヘッド)は、−Y側のヘッド装置群G1(第1グループ)に属する4本のヘッド61(ここでは第1ヘッド61という)と、+Y側のヘッド装置群G2(第2グループ)に属する4本のヘッド61(ここでは第2ヘッド61という)とに区分されている。第1ヘッド61に対し、第2ヘッド61がX方向に隣接するように配置されている。つまり、ヘッド群6Hにおける複数本のヘッドの配列は、第1ヘッド61と第2ヘッド61とがX方向に交互に並ぶ配列である。
【0070】
そして、第1ヘッド61は、−Y側に配置された駆動モータ81で各々駆動(第1フレーム部71及び第2フレーム部72を通して昇降)され、第2ヘッド61は、+Y側に配置された駆動モータ81で各々駆動される。また、第1ヘッド61に装着されるチップ12には、−Y側に配置された吸引モータ82が各々適用され、第2ヘッド61に装着されるチップ12には、+Y側に配置された吸引モータ82が各々適用されるものである。
【0071】
駆動モータ81及び吸引モータ82を上記のようなレイアウトで配置するのは、求められるチップ配列ピッチ12P(図4図5)に対して、駆動モータ81及び吸引モータ82のサイズが大きすぎることによる。上述の通り、マイクロプレート4のウェルピッチ4Pや、複数のチップ12からの同時吐出の実現には、例えば、チップ配列ピッチ12P=9.0mmとすることが求められる。しかしながら、ヘッド61の昇降動作やチップ12の吸引動作のために所要の駆動力を発生可能なモータのサイズは、チップ配列ピッチ12Pより大きくなってしまう。つまり、駆動モータ81及び吸引モータ82を、要請されたチップ配列ピッチ12Pに合わせて配列することができない。そこで、駆動モータ81及び吸引モータ82を−Y側と+Y側とに分けて配置することにより、要請されたチップ配列ピッチ12Pでチップ12を配列しつつ、隣接する駆動モータ81同士、並びに隣接する吸引モータ82同士が干渉しないようにしたものである。
【0072】
上記のレイアウトを実現するための、ヘッド装置6A、6Bの形状的工夫について説明する。図11及び図12を参照して、X方向の同じ位置に配置される一対の−Y側のヘッド装置6Aと+Y側のヘッド装置6Bとが、Y方向に互いに向かい合うようにヘッドユニット6に組み付けられる。
【0073】
昇降機構8Aに連結される第2フレーム部72及び駆動モータ81を支持するモータ支持板815は、X方向に所定幅(第1幅)を有している。前記所定幅としては、ナット部材812及び駆動モータ81を各々安定的に保持するために、駆動モータ81のX方向幅(例えば9mm)と同等以上のX方向幅が必要である。第1フレーム部71についても、吸引モータ82を支持する基部は、吸引モータ82のX方向幅(例えば9mm)と同等以上のX方向幅が必要である。
【0074】
これに対し、ヘッド61を保持する第1フレーム部71のヘッド保持フレーム714は、ヘッド61(第2筒状ロッド65)の外径が駆動モータ81及び吸引モータ82に比べて小さいので、既述の通り、前記基部の1/2程度のX方向幅(第2幅)で足りる。また、保持フレーム712及びモータ支持フレーム713の、ヘッド61の上端を保持する部分も、前記基部の1/2程度のX方向幅で足りることから、上述の幅狭部71A、71Bが形成されている。
【0075】
−Y側のヘッド装置6Aにおいて、幅狭部71Aはモータ支持フレーム713の前記基部の+X側部分から、+Y方向に突出されている。ヘッド保持フレーム714も、垂直フレーム711下端の+X側部分において、+Y方向に突出されている。+Y側のヘッド装置6Bの第1、第2フレーム部71、72は、−Y側のヘッド装置6Aと同じ形状を有し、これを180°反転させた態様となる。ヘッド装置6Bの幅狭部71Bは、モータ支持フレーム713の前記基部の−X側部分から、−Y方向に突出され、ヘッド保持フレーム714は、垂直フレーム711下端の−X側部分において、−Y方向に突出されている。
【0076】
一対のヘッド装置6A、6BがY方向に組合わされると、幅狭部71Aの−X側の側方空間に幅狭部71Bに入り込み、幅狭部71A、71BがX方向に隣接する。同様に、ヘッド装置6A、6Bのヘッド保持フレーム714同士もX方向に隣接する。その結果、ヘッド装置6A、6Bのヘッド61同士もX方向に隣接する状態となる。
【0077】
図8図10に示すように、本実施形態では、図11図12に示したヘッド装置6A、6Bのペアが4組、X方向に隣接するように、ヘッドユニット6に組み付けられる。図10を参照して説明を加えると、−Y側のヘッド装置群G1は、X方向に並ぶ4個のヘッド装置6A−1、6A−2、6A−3、6A−4を備え、+Y側のヘッド装置群G2も、X方向に並ぶ4個のヘッド装置6B−1、6B−2、6B−3、6B−4を備える。
【0078】
両ヘッド装置群G1、G2の向かい合わせ部分において、4つずつの幅狭部71A、71Bが櫛歯状に各々突出し、これらが互いに噛み合った状態となっている。この噛み合いの結果、幅狭部71A、71Bが交互にX方向に並び、ヘッド61(チップ12の先端開口部t)のX方向への直線状配列が実現されている。また、ヘッド装置6A−1〜6A−4の駆動モータ81(吸引モータ82)、ヘッド装置6B−1〜6B−4の駆動モータ81(吸引モータ82)は、それぞれ−Y側、+Y側において、X方向に直線状に配列されている。これにより、8本のヘッド61(チップ12)は、駆動モータ81(吸引モータ82)の配列ピッチの1/2の配列ピッチでX方向に配列されている。このように、ヘッド装置6A、6Bが各々備える駆動モータ81及び吸引モータ82は、それぞれ−Y側、+Y側に配分することで配置スペースを確保すると共に、ヘッド61同士をX方向に可及的に接近させたピッチで配置することができる。
【0079】
[作用効果]
以上説明した本実施形態の細胞移動装置Sによれば、複数の駆動モータ81がヘッド群6Hを挟んで−Y側と+Y側とに分かれて配置されている。ヘッド61(チップ12)に対して駆動モータ81が大きいサイズを有していても、これらモータ同士が干渉しないようにし、チップ12のX方向における配列ピッチを短く設定することができる。例えば、図5に例示したように、ウェルピッチ4Pの2倍のチップ配列ピッチ12Pで、チップ12を配列することが可能となる。これにより、細胞Cの吐出先が狭いエリアに限られている場合でも、複数のチップ12から同時に細胞Cを吐出させることができる。
【0080】
各ヘッド装置6A、6Bは、各チップ12に細胞Cの吸引及び吐出を行わせるための駆動力を発生する吸引モータ82を各々備える。これにより、チップ12毎に細胞Cの吸引及び吐出を行わせることができる。この吸引モータ82についても、ヘッド群6Hを挟んで−Y側と+Y側とに分かれて配置されている。従って、ヘッド61(チップ12)に対して吸引モータ82が大きいサイズを有していても、チップ12のX方向における配列ピッチを短く設定することができる。
【0081】
−Y側のヘッド装置群G1に属する4本の第1ヘッド61と、+Y側のヘッド装置群G2に属する4本の第2ヘッド61とがX方向に交互に直線状に並んでいる。これら第1、第2ヘッドに装着されるチップ12により、所定のピッチで直線状に配列された細胞Cを同時に吸引し、また、所定のピッチで直線状に配列された吐出箇所へ細胞Cを同時に吐出させることが可能となる。そして、ヘッド装置群G1、G2の各ヘッド61の駆動モータ81及び吸引モータ82が、ヘッド群6Hを挟んで−Y側と+Y側とに分かれて配置されるので、チップ12のX方向における直線状の配列ピッチを短く設定することができる。
【0082】
また、細胞移動装置Sを用いた細胞移動方法によれば、ウェルピッチ4Pのn倍のチップ配列ピッチ12Pで配列されたチップ12を備えた細胞移動装置Sが用いられる。このため、マイクロプレート4のウェル41に、複数本のチップ12の先端開口部tを同時に進入させることができる。従って、複数本のチップ12から細胞Cを同時に吐出させることができ、細胞移動作業を効率的に処理することができる。さらに、一つのヘッド61の単位で、ディッシュ2から細胞Cをチップ12に吸引させることができるので、チップ12の配列ピッチに依存しないディッシュ2を用いることができる。従って、ディッシュ2として、コンパクトなサイズのものを使用することができる。
【0083】
[変形実施形態の説明]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変形実施形態を取ることができる。例えば、上記実施形態では、−Y側、+Y側のヘッド装置群G1、G2の幅狭部71A、71B及びヘッド61(チップ12の先端開口部t)が、X方向に交互に並ぶ例を示したが、一部は交互に配列されていなくても良い。
【0084】
図15は、変形例に係るヘッドユニット600の上面図である。ここでは、ヘッド装置6A−2、6A−4の幅狭部71A(ヘッド61)の突設位置が図10の例とは反対に、モータ支持フレーム713の−X側とされている。これに合わせ、ヘッド装置6B−2、6B−4の幅狭部71B(ヘッド61)の突設位置がモータ支持フレーム713の+X側とされている。
【0085】
その結果、同じグループに属するヘッド装置6A−1、6A−2及びヘッド装置6A−3、6A−4同士がX方向に隣接している。同様に、同じグループに属するヘッド装置6B−2、6B−3同士がX方向に隣接している。このようなレイアウトによっても、各駆動モータ81及び吸引モータ82を、それぞれ−Y側、+Y側に配分することで配置スペースを確保すると共に、ヘッド61同士をX方向に可及的に接近させたピッチで配置することができる。但し、幅狭部71A、71Bの突出位置が異なるフレーム部材を準備する必要が生じるため、部品共通化の観点からは、図10に示した上記実施形態が望ましい。
【0086】
なお、上述した具体的実施形態には以下の構成を有する発明が主に含まれている。
【0087】
本発明の一局面に係る細胞移動装置は、細胞の吸引及び吐出を行うチップが装着され、第1方向に沿って移動可能なヘッドを複数本備えるヘッド群と、前記ヘッド群が組み付けられ、前記第1方向と直交する第2方向と、前記第1方向及び前記第2方向の双方と直交する第3方向に移動可能なヘッドユニットと、前記ヘッドの各々に対応して前記ヘッドユニットに搭載され、前記ヘッドを前記第1方向に沿って移動させる駆動力を発生する複数の駆動モータと、を備え、前記複数の駆動モータは、前記第1方向の平面視において、前記ヘッド群を挟んで前記第3方向の一方側と他方側とに分けて配置され、前記ヘッド群は、少なくとも第1ヘッドと、前記第1ヘッドと前記第2方向に隣接する第2ヘッドとを含み、前記第1ヘッドは、前記第3方向の一方側に配置された駆動モータで駆動され、前記第2ヘッドは、前記第3方向の他方側に配置された駆動モータで駆動されることを特徴とする。
【0088】
この細胞移動装置によれば、前記第2方向に互いに隣接して配置される前記第1ヘッド及び前記第2ヘッドの各駆動モータが、前記ヘッド群を挟んで前記第3方向の一方側と他方側とに分かれて配置される。このため、前記第1、第2ヘッド(前記チップ)に対して前記駆動モータが大きいサイズを有していても、前記駆動モータ同士が干渉しないようにし、前記第1、第2ヘッドに装着される前記チップの前記第2方向における配列ピッチを短く設定することが可能となる。これにより、細胞の吐出先が狭いエリアに限られている場合でも、複数の前記チップから同時に前記細胞を吐出させることができるようになる。
【0089】
上記の細胞移動装置において、前記ヘッドの各々に対応して前記ヘッドユニットに搭載され、前記ヘッドに装着されているチップに前記細胞の吸引及び吐出を行わせるための駆動力を発生する複数の吸引モータをさらに備え、前記第1ヘッドに装着されるチップには、前記第3方向の一方側に配置された吸引モータが適用され、前記第2ヘッドに装着されるチップには、前記第3方向の他方側に配置された吸引モータが適用されることが望ましい。
【0090】
この細胞移動装置によれば、前記細胞の吸引及び吐出のための駆動源となる前記吸引モータが前記ヘッド毎に搭載されるので、チップ毎に前記細胞の吸引及び吐出を行わせることができる。そして、前記吸引モータについても、前記ヘッド群を挟んで前記第3方向の一方側と他方側とに分かれて配置されるので、前記チップの前記第2方向における配列ピッチを短く設定することが可能となる。
【0091】
上記の細胞移動装置において、前記ヘッド群が備える前記複数本のヘッドは、前記第2方向に直線状に配列されると共に、第1グループに属するヘッドと、第2グループに属するヘッドとに区分され、前記第1グループのヘッドは前記第1ヘッドを含み、前記第3方向の一方側に配置された各々の駆動モータで駆動され、前記第2グループのヘッドは前記第2ヘッドを含み、前記第3方向の他方側に配置された各々の駆動モータで駆動されることが望ましい。
【0092】
この細胞移動装置によれば、直線状に配列された前記第1、第2グループの前記ヘッドに装着されるチップにより、所定のピッチで直線状に配列された細胞を同時に吸引し、また、所定のピッチで直線状に配列された吐出箇所へ前記細胞を同時に吐出させることが可能となる。そして、前記第1、第2グループの各ヘッドの駆動モータが、前記ヘッド群を挟んで前記第3方向の一方側と他方側とに分かれて配置されるので、前記チップの前記第2方向における直線状の配列ピッチを短く設定することができる。
【0093】
上記の細胞移動装置において、各ヘッドに前記吸引モータが搭載される場合、前記第1グループの各ヘッドに装着されるチップに各々適用される前記吸引モータは、前記第3方向の一方側に配置され、前記第2グループの各ヘッドに装着されるチップに各々適用される前記吸引モータは、前記第3方向の他方側に配置されることが望ましい。
【0094】
この細胞移動装置によれば、前記第1、第2グループの各ヘッドの前記吸引モータについても、前記ヘッド群を挟んで前記第3方向の一方側と他方側とに分かれて配置されるので、前記チップの前記第2方向における配列ピッチを短く設定することが可能となる。
【0095】
上記の細胞移動装置において、前記複数本のヘッドの配列は、前記第1グループに属するヘッドと、前記第2グループに属するヘッドが交互に並ぶ配列であり、前記第1方向の平面視において、前記第3方向の一方側及び他方側に配置された駆動モータは、それぞれ前記一方側及び他方側において、前記第2方向に直線状に配列されていることが望ましい。
【0096】
この細胞移動装置によれば、前記第1、第2グループの前記ヘッドが前記第2方向に交互に並び、前記第1、第2グループの前記駆動モータについても前記第3方向の一方側と他方側とにおいて前記第2方向に直線状に配列される。従って、前記ヘッド及び前記駆動モータをコンパクトに配置することが可能となり、前記チップについても、より短いピッチで前記第2方向に直線状に配列することが可能となる。
【0097】
上記の細胞移動装置において、前記ヘッドユニットは、前記ヘッドを保持する第1フレーム部と、この第1フレーム部が取り付けられると共に、前記駆動モータを含む昇降機構に連結され前記昇降機構によって前記第1方向に移動される第2フレーム部とを含むフレーム部材を前記ヘッド毎に備え、前記第1方向の平面視において、前記第2フレーム部は前記第2方向に第1幅を有し、前記第1フレーム部は前記第1幅よりも狭幅の第2幅を有し、前記ヘッド毎に備えられる前記フレーム部材は同一形状を有し、前記1グループに属するヘッドのフレーム部材と前記2グループに属するヘッドのフレーム部材とが互いに向かい合い、且つ、前記第1フレーム部同士が前記第2方向に隣接するように、前記ヘッドユニットに組み付けられていることが望ましい。
【0098】
この細胞移動装置によれば、前記第2フレーム部で各々の前記駆動モータを前記第3方向の一方側又は他方側で保持させる一方で、前記第1フレーム部同士が前記第2方向に隣接するように、前記第1、第2グループの前記フレーム部材が前記ヘッドユニットに組み付けられる。従って、上述の前記ヘッド及び前記駆動モータのコンパクトな配置を、前記フレーム部材を用いることで実現される。また、前記第1、第2グループの前記フレーム部材が互いに向かい合うように配置される。このため、前記フレーム部材を前記第1、第2グループで同じ形状とし、コストダウンを図ることが可能となる。
【0099】
本発明の他の局面に係る細胞移動方法は、チップに吸引された細胞を所定位置まで移動させて吐出する細胞移動方法であって、前記細胞が吐出される複数のウェルが、所定方向に第1ピッチで配列されてなるマイクロプレートと、前記チップが前記第1ピッチのn倍(nは1以上の整数)の第2ピッチで配列されるよう、複数のヘッドが配列された上記の細胞移動装置と、を準備する工程と、前記ヘッドユニットの移動可能範囲内に前記マイクロプレートを載置する工程と、前記ヘッド群の前記チップに前記細胞を吸引させた状態で、前記ヘッドユニットを前記マイクロプレートの載置位置へ移動させる工程と、複数の前記チップの先端開口が各々前記ウェルに進入するように、複数の前記駆動モータを同時に駆動して複数本の前記ヘッドを同時に前記第1方向へ移動させると共に、複数本の前記チップから前記細胞を同時に吐出させる工程と、を備えることを特徴とする。
【0100】
この細胞移動方法によれば、前記第1ピッチのn倍の前記第2ピッチで配列された前記チップを備えた上記の細胞移動装置が用いられる。このため、前記マイクロプレートの前記ウェルに、複数の前記チップの先端開口を同時に進入させることができる。従って、複数本の前記チップから前記細胞を同時に吐出させることができ、細胞移動作業を効率的に処理することができる。
【0101】
上記の細胞移動方法において、前記細胞を保持する複数の保持部が、前記第1ピッチよりも狭い第3ピッチで所定方向に配列されたディッシュを準備する工程と、前記ヘッドユニットの移動可能範囲内に前記ディッシュを載置する工程と、前記ヘッド群の前記チップが空の状態で、前記ヘッドユニットを前記ディッシュの載置位置へ移動させる工程と、一つの前記チップの先端開口が前記保持部にアクセスするように、一つの前記駆動モータを駆動して一つの前記ヘッドを前記第1方向へ移動させると共に、前記チップに前記細胞を吸引させ、順次他の前記チップについても同様に前記吸引を行わせる工程と、をさらに備えることが望ましい。
【0102】
この細胞移動方法によれば、一つの前記ヘッドの単位で、前記ディッシュから前記細胞が前記チップに吸引されるので、前記チップの配列ピッチに依存しない前記ディッシュを用いることができる。従って、前記ディッシュとして、コンパクトなサイズのものを使用することができる。
【0103】
以上説明した通りの本発明によれば、駆動モータが搭載されたヘッドに装着されるチップを、所要のピッチで配列することが可能な細胞移動装置、及びこれを用いた細胞移動方法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15