(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機錯化剤が、カルボン酸官能基と、カルボン酸、ヒドロキサム酸、ヒドロキソ、ケト、アミン、アミド、イミン、又はチオールから選択される少なくとも1つの追加の官能基とを含有する有機酸である、請求項1に記載のプロセス。
前記自己担持混合金属硫化物触媒が、5つの相:(1)硫化モリブデン相;(2)硫化タングステン相;(3)モリブデンタングステン硫化物相;(4)活性ニッケル相;及び(5)硫化ニッケル相;を含む多相構造を有する、請求項1に記載のプロセス。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<定義及び略語>
「CAT」は、触媒平均温度を意味する。
【0015】
「HCR」は、水素化分解を意味する。
【0016】
「水素化分解」は、水素化及び脱水素化が炭化水素の分解/断片化を伴う、例えばより重質の炭化水素をより軽質の炭化水素に転化する、あるいは芳香族化合物及び/又はシクロパラフィン(ナフテン)を非環式分岐パラフィンに転化するプロセスを指す。
【0017】
「LV%」は、液体体積パーセントを意味する。
【0018】
「硫化モリブデン」は、MoS
2+eを指し、式中、eは、0〜1の間の値を有し得、炭化物、窒化物、及び/又はスルホカーバイドドメインをさらに含み得る。本明細書で使用されるとき、MoS
2は、硫化モリブデン又はMoS
2+eの一般的な例示目的であり、式で表されない任意の硫化モリブデンを除外することを意図するものではない。
【0019】
「ナフテン」は、1つ以上の環式環を有するシクロパラフィンである。環は、5個以上の炭素原子を有し得、1〜20個の炭素原子のアルキル基などの置換基で置換され得る。ナフテンはまた、多環式、すなわち複数の環を含有するものであり得る。より重質の石油留分は、一般に、2、3、4、5又はそれ以上の縮合し得る環を含有する多環式ナフテンを含む。
【0020】
「自己担持触媒(“self−supported catalyst”)」は、「バルク触媒」又は「非担持触媒」と互換的に使用してもよく、これは触媒組成物が予備成形触媒担体上に堆積された触媒からなる従来の触媒形態ではないことを意味する。一実施形態では、自己担持触媒は、沈殿によって形成される。一実施形態では、自己担持触媒は、触媒組成物に組み込まれた結合剤を有する。別の実施形態では、自己担持触媒は、金属化合物から結合剤なしで形成される。
【0021】
「SCFB」は、1バレル当たりの標準立方フィートを意味する。
【0022】
「スラブ」は、硫化ニッケルの単一粒子又は粒子凝集体の結晶形態を指す。
【0023】
本明細書では、「縁部(“edge)”」及び「層(“layer”」という用語は、M.Perez de la Rosa et al.(J.Catal.2004年,225巻,288−299頁)によって以前に記載されたように使用される。
【0024】
「硫化タングステン」は、WS
2+eを指し、式中、eは、0から1の間の値を有し得、炭化物、窒化物、スルホカーバイド、及び/又は酸化硫化物ドメインをさらに含み得る。本明細書で使用されるとき、WS
2は、硫化タングステン又はWS
2+eの一般的な例示目的であり、式で表されない任意の硫化タングステンを除外することを意図するものではない。
【0025】
「API比重」は、ASTM D4052によって決定されるように、石油液体が水と比較してどれだけ重いか又は軽いかの尺度である。
【0026】
「動粘度」(KV)は、ASTM D445によって決定されるように、比重下での流体の流れに対する抵抗のmm
2/sでの測定値である。
【0027】
「多環式指数(PCI)」は、いくつかの芳香環を有する化合物の含有量の尺度を指す。PCIは、水素化処理用の原料の評価に有用である。PCIは、UV分光法を使用して測定され、以下のように計算される:
PCI={[吸光度@385nm‐(0.378×吸光度@435nm)]/115×c}×1000
(式中、cは、溶媒中の試料のg/cm
3における元の濃度である)。
【0028】
「流動点」は、ASTM D5950によって決定されるように、ある特定の注意深く制御された条件下で試料が流動し始める温度の測定値である。
【0029】
「粘度指数」(VI)は、油の動粘度に対する温度変化の影響を示す経験的な単位のない数である。油のVIが高いほど、温度と共に粘度が変化する傾向が低い。VIは、ASTM D2270に従って測定される。
【0030】
「表面積」は、その沸点でのN
2吸着によって決定される。BET表面積は、5点法により、P/P
0=0.050、0.088、0.125、0.163、及び0.200で計算される。水又は有機物のような任意の吸着された揮発性物質を排除するために、試料を最初に流動性の乾燥N
2の存在下において400℃で6時間前処理する。
【0031】
「細孔容積」は、その沸点におけるP/P
0=0.990でのN
2吸着によって決定される。水又は有機物のような任意の吸着された揮発性物質を排除するために、試料を最初に流動性の乾燥N
2の存在下において400℃で6時間前処理する。
【0032】
本明細書で言及される全てのASTM規格は、本出願の出願日現在の最新版である。
【0033】
<自己担持混合金属硫化物触媒組成物>
一実施形態では、ニッケル、モリブデン、及びタングステンの相対モル量が
図1の三元状態図の5点ABCDEによって定義される組成範囲内にあるとき、自己担持混合金属硫化物触媒は、最適なナフテン開環を示し、これは、それらのモル分率で表したニッケル、モリブデン、及びタングステンの元素含有量を示している。5点ABCDEは、以下のように定義される:
A(Ni=0.80、Mo=0.00、W=0.20);
B(Ni=0.25、Mo=0.00、W=0.75);
C(Ni=0.25、Mo=0.25、W=0.50);
D(Ni=0.63、Mo=0.25、W=0.12);
E(Ni=0.80、Mo=0.08、W=0.12)。
【0034】
一実施形態では、ニッケル、モリブデン、及びタングステンの相対モル量が
図2の三元状態図の6点ABCDEFによって定義される組成範囲内にあるとき、自己担持混合金属硫化物触媒は、最適なナフテン開環を示し、これは、それらのモル分率で表したニッケル、モリブデン、及びタングステンの元素含有量を示している。6点ABCDEFは、以下のように定義される:
A(Ni=0.67、Mo=0.00、W=0.33);
B(Ni=0.67、Mo=0.10、W=0.23);
C(Ni=0.60、Mo=0.15、W=0.25);
D(Ni=0.52、Mo=0.15、W=0.33);
E(Ni=0.52、Mo=0.06、W=0.42);
F(Ni=0.58、Mo=0.00、W=0.42)。
【0035】
一実施形態では、ニッケル、モリブデン、及びタングステンの相対原子比が
図3の三元状態図の4点ABCDによって定義される組成範囲内にあるとき、自己担持混合金属硫化物触媒は、最適なナフテン開環を示し、これは、それらのモル分率で表したニッケル、モリブデン、及びタングステンの元素含有量を示している。4点ABCDは、以下のように定義される:
A(Ni=0.67、Mo=0.00、W=0.33);
B(Ni=0.58、Mo=0.00、W=0.42);
C(Ni=0.52、Mo=0.15、W=0.33);
D(Ni=0.60、Mo=0.15、W=0.25)。
【0036】
一実施形態では、自己担持混合金属硫化物触媒中の金属成分Ni、Mo、及びWのモル比は、以下の範囲内である:
0.25≦Ni/(Ni+Mo+W)≦0.80;
0<Mo/(Ni+Mo+W)≦0.25;
0.12≦W/(Ni+Mo+W)≦0.50。
【0037】
一実施形態では、自己担持混合金属硫化物触媒中の金属成分Ni、Mo、及びWのモル比は、以下の範囲内である:
0.50≦Ni/(Ni+Mo+W)≦0.75;
0<Mo/(Ni+Mo+W)≦0.20;
0.15≦W/(Ni+Mo+W)≦0.45。
【0038】
一実施形態では、自己担持混合金属硫化物触媒中の金属成分Ni、Mo、及びWのモル比は、以下の範囲内である:
1.08≦Ni/(Mo+W)≦2.03;
0<Mo/(Ni+W)≦0.18;
0.20≦W/(Ni+Mo)≦0.72。
【0039】
一実施形態では、本発明の自己担持混合金属硫化物触媒は、1.5〜3.0(例えば、2.0〜3.0、2.0〜2.9、2.0〜2.8、2〜2.7、2.0〜2.6、2.0〜2.5、2.1〜3.0、2.1〜2.9、2.1〜2.8、2.1〜2.7、2.1〜2.6、2.1〜2.5、2.2〜3.0、2.2〜2.9、2.2〜2.8、2.2〜2.7、2.2〜2.6、2.2〜2.5、2.3〜3.0、2.3〜2.9、2.3〜2.8、2.3〜2.7、2.3〜2.6、又は2.3〜2.5)の範囲のW/Moモル比でナフテンの開環並びに硫黄及び/又は窒素耐性において最適な性能を示す。
【0040】
<自己担持混合金属硫化物触媒の合成>
自己担持混合金属硫化物触媒は、それらの元素、化合物、又はイオンの形態のニッケル、モリブデン、及びタングステンの供給源(「金属前駆体」)から調製される。金属前駆体溶液を調製するために、任意の好適なニッケル、モリブデン、又はタングステン金属試薬を使用することができる。
【0041】
ニッケル前駆体の例としては、ニッケルの酸化物又は硫化物、ニッケルの有機化合物(例えば、ナフテン酸ニッケル、ニッケルセン)、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、水酸化ニッケル、硝酸ニッケル、及び硫酸ニッケルが挙げられる。
【0042】
モリブデン前駆体の例としては、モリブデンの酸化物又は硫化物、モリブデンの有機化合物(例えば、モリブデンナフテナート)、モリブデンの硫黄含有有機化合物(例えば、モリブデンジチオカルバマート、モリブデンジチオホスファート)、モリブデン酸、アルカリ金属又はモリブデン酸アンモニウム(例えば、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸アンモニウム、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、テトラチオモリブデン酸アンモニウム)、Mo−Pヘテロポリアニオン化合物(例えば、リンモリブデン酸、リンモリブデン酸ナトリウム、リンモリブデン酸アンモニウム)、Mo−Siヘテロポリアニオン化合物(例えば、12−モリブドケイ酸)、及び塩化モリブデンが挙げられる。
【0043】
タングステン前駆体の例としては、タングステンの酸化物又は硫化物、タングステンの有機化合物(例えばシクロペンタジエニルタングステンジヒドリド)、タングステン酸、タングステン酸アルカリ金属又はタングステン酸アンモニウム(例えばタングステン酸ナトリウム、ポリタングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、テトラチオタングステン酸アンモニウム)、W−Pヘテロポリアニオン化合物(例えば、12−タングストリン酸)、及び塩化タングステンが挙げられる。
【0044】
一実施形態では、自己担持混合金属硫化物触媒は、ニッケル、モリブデン、及びタングステンを含有する酸化物又は水酸化物触媒前駆体を最適範囲内の組成で硫化することによって調製される。
【0045】
触媒前駆体は、有機錯化剤(「L」)の存在下で調製され得る。 好ましくは、有機錯化剤は、金属結合基又はキレート剤である。好ましくは、有機錯化剤は、二座配位子である。一実施形態では、有機錯化剤は、溶液中で金属−配位子錯体を形成するのに好適である。
【0046】
有機酸は、好ましい種類の有機錯化剤である。一実施形態では、有機錯化剤は、カルボン酸官能基と、カルボン酸、ヒドロキサム酸、ヒドロキソ、ケト、アミン、アミド、イミン、又はチオールから選択される少なくとも1つの追加の官能基とを含有する有機酸である。本明細書での使用に好適な有機錯化剤の例としては、グリオキシル酸、グリコール酸、ジグリコール酸、チオグリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グリシン、オキサミン酸、グリオキシル酸2−オキシム、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、N−メチルアミノ二酢酸、及びイミノ二酢酸が挙げられる。好ましい有機酸は、マレイン酸である。
【0047】
混合溶液中で使用される有機錯化剤の量もまた、反応条件下で溶液中で金属−有機錯体を形成するのに十分であるべきである。錯化剤が有機酸である実施形態では、有機酸のカルボン酸基対金属の比は、少なくとも0.33、例えば少なくとも0.5、少なくとも約1(ほぼ同じ数のカルボン酸基及び金属原子が存在することを意味する)、少なくとも2、又は少なくとも3であり得る。別の実施形態では、カルボン酸基対金属の比は、12以下(例えば、10以下、又は8以下)であり得る。
【0048】
別の実施形態では、有機錯化剤と金属との混合溶液に使用されるモル比は、6:1以下(例えば、5.5:1以下、5:1以下、又は4.5:1以下)である。さらに別の実施形態では、有機錯化剤と金属との混合溶液に使用されるモル比は、0.5:1以上(例えば、1:1以上、又は1.5:1以上、2:1以上、2.5:1以上、3:1以上、又は3.5:1以上)である。
【0049】
一実施形態では、モリブデン及びタングステン前駆体を最初に水性媒体中で少なくとも1つの有機金属錯化剤と混合し、得られた溶液を反応条件下でニッケル金属前駆体と混合してスラリー(ゲル又は懸濁沈殿物)を形成する。触媒前駆体組成物は、水性媒体に限定されないことを理解すべきであり;金属前駆体/配位子の添加は、任意の順序で行うことができ、別々に又は任意の配位子と一緒に混合することができる。好適な反応条件としては、25℃〜350℃(例えば、60℃〜200℃)の温度及び大気圧〜3000psig(101kPa〜20.7MPa)、例えば、大気圧〜1000psig(101kPa〜6.89MPa)の圧力が挙げられる。反応混合物のpHは、沈殿速度を増減するために変えることができる。
【0050】
一実施形態では、触媒前駆体は、最適化された組成範囲のニッケル、モリブデン、及びタングステンを含有する触媒前駆体を形成するのに十分な量で、出発材料としてのニッケル、モリブデン、及びタングステンの有機金属化合物の形態のニッケル、モリブデン、及びタングステン金属前駆体から調製される。別の実施形態では、触媒前駆体は、少なくとも1つの金属前駆体(例えば、Ni、Mo、又はW)を単一金属硫化物又はモリブデンジ−n−ブチルジチオカルバマート(MOLYVAN(登録商標)A,Vanderbilt Chemicals,LLC)などの硫黄含有有機金属化合物と反応させることによって調製される。
【0051】
共沈後、触媒前駆体は、既知の分離プロセス(例えば、濾過、デカンテーション、又は遠心分離)を使用して液体除去工程において単離又は回収され、次いで乾燥されてさらに水が除去される。乾燥は、水を除去するのに十分であるが、存在する場合にはいかなる有機化合物も除去しない温度で行うことができる。好適には、乾燥は、触媒前駆体が恒量に達するまで50℃〜200℃で実行することができる。焼成工程を用いないことが好ましい。一般に、焼成工程は、触媒前駆体を500℃以上の温度に加熱することを伴う。より好ましくは、触媒前駆体は、後続の工程において450℃を超える、より好ましくは350℃、より好ましくは300℃、より好ましくは250℃、より好ましくは200℃を超える温度に供されない。本発明の意味の範囲内で、「未焼成(“non−calcined”)」である触媒又は触媒前駆体は、前述の焼成手順のいずれにも供されていないものである。
【0052】
当技術分野で既知の結合剤(又は希釈剤)、細孔形成剤、及び他の添加剤は、当技術分野で既知のプロセス(例えば、押出し、ペレット化、又はピリング)によって任意に成形される前に触媒前駆体に組み込むことができる。一実施形態では、自己担持混合金属硫化物触媒又は触媒前駆体は、結合剤を含まない、すなわち、自己担持触媒又は触媒前駆体の粒子は、従来の結合剤を使用することなく一緒に保持されている。
【0053】
触媒前駆体は、触媒前駆体の成分を金属硫化物に少なくとも部分的に転化するのに十分な条件下で硫化することができる。好適な硫化条件は、25℃〜500℃の範囲の温度、10分〜15日間、及び水素含有ガス圧下で硫化剤(例えば、H
2S、ジメチルジスルフィド、無機又は有機ポリスルフィドなど)を含有する雰囲気中で触媒前駆体を加熱することを含む。H
2Sなどのガス状硫化剤による硫化は、現場外又は現場で(例えば、触媒が炭化水素原料を改良するために使用されるユニットで)行うことができる。
【0054】
<自己担持混合金属硫化物触媒の特性評価>
一実施形態では、ニッケル、モリブデン、及びタングステンを含有する自己担持混合金属硫化物触媒は、多相であると特徴付けてもよく、触媒の構造は、5つの相:(1)硫化モリブデン相;(2)硫化タングステン相;(3)モリブデンタングステン硫化物相;(4)活性ニッケル相;及び(5)硫化ニッケル相を含む。
【0055】
モリブデン、タングステン、及びモリブデンタングステン硫化物相は、少なくとも1つの層を含み、その層は、(a)硫化モリブデン及び硫化タングステン;(b)個々の原子として、又は硫化タングステンドメインとして、モリブデンスルフィドに同形置換されたタングステン;(c)個々の原子として、又は硫化モリブデンドメインとして、硫化タングステンに同形置換されたモリブデン;及び(d)上記層の組合せのうちの少なくとも1つを含む。層の数は、1〜6の範囲であり得る。
【0056】
一実施形態では、
図4に示すように、硫化モリブデンタングステン相は、硫化モリブデン層に原子的に置換された(又はその逆の)タングステンとして存在し、層内原子混合物を形成する。別の実施形態では、硫化モリブデンタングステンは、硫化タングステンと硫化モリブデンとの層間混合物として存在する。さらに別の実施形態では、硫化モリブデンタングステン相は、硫化モリブデンと硫化タングステンとの個々のドメインの混合物として存在する。硫化モリブデンタングステン相は、透過型発光顕微鏡(TEM)又はX線回折(XRD)によって観察することができる。
【0057】
活性ニッケル相は、(a)硫化モリブデンタングステン相の縁部(edge)に置換されたニッケル原子(例えば、金属状態)及び還元ニッケル(例えば、2未満の酸化状態のニッケル)のうちの少なくとも1つと、b)0<x≦1である、硫化モリブデンタングステン硫化物相上に分散したNiS
xナノ粒子(すなわち、1マイクロメートル未満のナノメートルスケールの粒度を有する粒子)とを含む。活性ニッケル相は、TEMによって観察することができる。
【0058】
硫化ニッケル相は、Ni
9S
8結晶及びN
i3S
2結晶のうちの少なくとも1つのスラブを含む。大きな硫化ニッケルスラブは、硫化モリブデンタングステンの成長のための担体として働き、硫化モリブデンタングステンの表面上の活性ニッケルの分散を安定化させる。硫化ニッケル相は、XRD及びTEMによって観察することができる。
【0059】
いかなる理論にも縛られることなく、硫化モリブデンタングステン相は、活性ニッケル相の担体として作用すると考えられる。次に、硫化ニッケル相は、モリブデンタングステン硫化物相の分散を安定化させる。硫化モリブデンタングステン相は、硫化ニッケルスラブを包み込むので、硫化モリブデンタングステン層は、湾曲した形状を示す。さらに、硫化モリブデンタングステン相は、基底面上のそのラメラ結晶構造に欠陥を生じさせ、ナフテン開環活性の増大に関連する引用を生み出す。例えば、有機金属化合物の形態の触媒前駆体の分解から始まる、又は酸素含有金属化合物から始まる混合金属オキソヒドロキシドの共沈殿から始まる、異なる触媒調製経路は、同様の金属組成を有するが異なる触媒活性を有する触媒をもたらし得る。
【0060】
一実施形態では、自己担持混合金属硫化物触媒は、例えば、14.4°、32.7°、39.5°、49.8°、及び58.3°2θ度において、(国際回折データセンター又はICDDにより)硫化モリブデンタングステンの存在を示す反射ピークを示す。別の実施形態では、XRDパターンは、例えば、21.8°、31.1°、37.8°、44.3°、49.7°、50.1°及び55.2°2θ度において、(ICDDにより)Ni
3S
2相の存在に対応する反射ピークを示す。
【0061】
一実施形態では、硫化ニッケル相は、TEMによって決定されるように、Ni
9S
8の[002]面に対応する4.60±0.5Åの間隔、及びNi
3S
2の[110]面に対応する2.87ű0.5Åの間隔で格子縞を示す。これらの観察結果は、結晶性硫化ニッケル相を示している。それらはさらに、硫化ニッケル相が、活性ニッケル分散を安定化させるモリブデンタングステン硫化物相の成長のための核形成部位(担体)として働くことを示唆している。
【0062】
一実施形態では、自己担持混合金属硫化物触媒の形態は、大きな(一実施形態では、約10〜20nm)硫化ニッケルスラブ(Ni
2S
3又はNi
9S
8)からなり得、硫化モリブデン層がこれらの硫化ニッケルスラブを包み込む。硫化モリブデンタングステン層は、大部分の層が波状である状態で、約1〜4層の積み重ねで配置され得る。様々なサイズ(1〜20nm)の活性硫化ニッケル(NiS
x)粒子が、モリブデンタングステン硫化物層の縁部(edge)に存在してもよい。
【0063】
一実施形態では、自己担持混合金属硫化物触媒は、X線光電子分光法(XPS)によって決定されるように、少なくとも0.4mol/molのNi表面濃度対Niバルク濃度比、及び少なくとも0.3mol/molのW表面濃度対Wバルク濃度比を有する。別の実施形態では、自己担持MMS触媒は、XPSによって決定されるように、少なくとも0.5mol/molのNi表面濃度対Niバルク濃度比、及び少なくとも0.4mol/molのW表面濃度対Wバルク濃度比を有する。
【0064】
一実施形態では、自己担持混合金属硫化物触媒粒子は、少なくとも20m
2/g(例えば、少なくとも40m
2/g、少なくとも80m
2/g、又は少なくとも120m
2/g)のBET表面積を有する。
【0065】
一実施形態では、自己担持混合金属硫化物触媒粒子は、N
2吸着によって決定されるように、少なくとも0.05mL/g(例えば、0.05〜5mL/g、0.1〜5mL/g、0.1〜4mL/g、0.1〜0.3mL/g、又は0.1〜2mL/g)の細孔容積を有する。
【0066】
一実施形態では、自己担持混合金属硫化物触媒粒子は、少なくとも0.05μm(例えば、0.1〜50μm、又は0.5〜50μm)の平均粒径を有する。
【0067】
<開環>
説明したように、本発明の自己担持混合金属硫化物触媒は、石油供給流を改良するのに有用である。したがって、自己担持混合金属硫化物触媒と接触させる供給流は、典型的にはナフテン環含有組成物のうちの1つ以上を有する炭化水素の混合物を含有し、ナフテン環含有組成物は、1〜20個の炭素原子の少なくとも1つのアルキル置換基を含有し得る。供給流は、少なくとも5重量%(例えば、少なくとも25重量%、少なくとも50重量%、5〜85重量%、25〜85重量%、又は50〜85重量%)の少なくとも1つのナフテン環含有化合物を含み得る。
【0068】
開環される炭化水素含有ナフテン環組成物は、追加の環員を含まないC
5及びC
6ナフテン環化合物を含み得る。これらの化合物の例としては、メチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、プロピルシクロペンタン、ブチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサン、及びペンチルシクロヘキサンなどのアルキル置換C
5及びC
6ナフテンが挙げられる。
【0069】
ナフテン環含有化合物は、留出物範囲で沸騰する石油流などの広範囲の炭化水素原料中に見出される。これらの流れは、典型的には多環式組成物を含む種々の化学化合物を含む。175℃〜600℃の沸点を有する石油供給流を使用し得る。そのような供給流の例としては、ディーゼル燃料、ジェット燃料、灯油、軽油、及び軽サイクル油が挙げられる。軽油は、340℃〜565℃の範囲で沸騰する真空軽油を含む。
【0070】
有意な芳香族化合物が供給流中に存在する場合、それらを飽和させることが望ましくなり得る。原料は、開環に利用可能な全芳香族化合物の20重量%未満(例えば、15重量%未満、又は10重量%未満)を含有してもよい。
【0071】
いくつかの実施形態では、「サワー(“sour”)」供給原料を使用することができる。そのような実施形態では、窒素含有量は、少なくとも50wppm(例えば、少なくとも75wppm又は少なくとも100wppm)であり得る。そのような「サワー」の実施形態であっても、窒素含有量は、任意ではあるが好ましくは2000wppm以下(例えば、1500wppm以下又は1000wppm以下)であり得る。追加的又は代替的に、そのような「サワー」の実施形態では、硫黄含有量は、少なくとも100wppm(例えば、少なくとも500wppm又は少なくとも1000wppm)であり得る。さらに追加的に又は代替的に、そのような「サワー」の実施形態であっても、硫黄含有量は、任意ではあるが好ましくは3.0重量%以下(例えば、2.0重量%以下又は1.0重量%以下)であり得る。
【0072】
いくつかの実施形態では、比較的低レベルの硫黄及び/又は窒素汚染物質を有する「スイート(“sweet”)」供給原料を使用し得る。スイート供給原料は、水素化処理されている、及び/又はそうでなければ比較的低い硫黄及び窒素含有量を有することができる炭化水素原料を表すことができる。そのような実施形態では、硫黄含有量は、100wppm以下(例えば、50wppm以下又は10wppm以下)であり得る。追加的又は代替的に、そのような実施形態では、窒素含有量は、50wppm以下(例えば、25wppm以下又は10wppm以下)であり得る。
【0073】
ナフテン化合物をパラフィンに転化するために、触媒的有効量の本発明の自己担持混合金属硫化物触媒を触媒開環条件下で適切な供給流と接触させる。条件は、触媒と接触したときにナフテン化合物のC
5及びC
6環が開環するようなものである。代表的なプロセス条件としては、550°F〜840°F(288℃〜449℃)、例えば600°F〜815°F(343℃〜435℃)の温度;250〜5000psig(1.8〜34.6MPa)、例えば500〜3000psig(3.5〜20.9MPa)の水素分圧;0.05〜30h
−1、例えば0.5〜5h
−1の液空間速度;及び200〜10,000SCF/B(35.6〜1781m
3/m
3)、例えば1200〜6000SCF/B(213〜1068m
3/m
3)の水素処理ガス速度が挙げられる。
【0074】
従来の触媒開環反応器を本明細書に開示されているプロセスで使用し得る。原料が、触媒の1つ以上の固定床を通過する固定床反応器システムを使用し得る。複数の反応器を直列又は並列構成で使用することができる。
【0075】
反応プロセスに導かれた水素ガスは、供給流と並流又は向流のいずれかの方向に触媒上を流れてもよい。水素は、開環が起こる炭素を飽和させるために供給され、それは、通常、化学量論的に過剰に供給される。反応器流出物は、反応プロセスで消費されなかった水素を分離することができる分離ゾーンに通過させてもよく、必要に応じて補給水素と共に反応ゾーンに再循環させるか、又はさらなる処理のために低圧ユニットにカスケードすることができる。
【0076】
開環生成物は、供給流のそれと比較して増加した直鎖パラフィン官能性を有する。開環生成物は、従来の方法に従って、最終処理工程後(すなわち、開環後)又はさらなる任意の処理工程(例えば、脱ろう、水素化仕上げ)後に回収し得る。回収物は、直接、例えばディーゼル燃料、ジェット燃料、軽油、及び灯油として使用され得、他の石油製品とブレンドしてディーゼル燃料、ジェット燃料、軽油、灯油として使用され得る。ブレンドするとき、開環生成物は、175℃〜600℃の範囲の沸点を有する石油流とブレンドされ得、ブレンドは、少なくとも40のセタン価を有する。
【0077】
開環の結果として、開環生成物は、供給流のものと比較して、より低い沸点、より低い比重、及び/又はより低い芳香族含有量を有し得る。例えば、開環生成物は、原料組成物に基づいて、少なくとも10%(例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%)の全芳香族含有量の全体的な減少になり得る。
【実施例】
【0078】
以下の例示的な例は、非限定的であることを意図する。
【0079】
[例1]
<Ni−Mo−Wマレイン酸触媒前駆体>
ヘプタモリブデン酸アンモニウム(324g)を脱イオン水(2.3kg)に溶解した。メタタングステン酸アンモニウム(1.39kg)を脱イオン水(1.5kg)に溶解した。2つの溶液を撹拌しながら混合し、水酸化アンモニウムを添加してpHを9〜10の範囲に維持した。
【0080】
硝酸ニッケル溶液を、硝酸ニッケル六水和物(3.5kg)を脱イオン水(1.9kg)に溶解し、次いで6kgの脱イオン水で希釈することによって調製した。硫酸ニッケル溶液は、244gの硫酸ニッケルを1.8kgの脱イオン水に溶解することにより調製した。硝酸ニッケル溶液と硫酸ニッケル溶液とを合わせた。濃硫酸(120g)をニッケル溶液に添加し、続いて水(460g)中のマレイン酸(185g)の溶液を添加した。
【0081】
次いで、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、及びマレイン酸の溶液を、撹拌しながらモリブデン酸アンモニウム/メタタングステン酸アンモニウム溶液と合わせた。得られたスラリーを約80℃で4時間加熱した。水酸化アンモニウムを必要に応じて添加してpHを6〜7に維持した。次いで、スラリーを濾過し、集めた沈殿物を室温で一晩真空乾燥した。次いで、材料を120℃で12時間乾燥させた。
【0082】
得られた材料は、2.5Åに広いピークを有する典型的なXRDパターンを有し、これは非晶質Ni−OH含有材料を示す。
【0083】
得られた触媒前駆体は、以下の組成を有していた:
Ni:63mol%;Mo:8mol%;W:29mol%
【0084】
[例2]
<Ni−Mo−Wマレイン酸触媒前駆体>
この触媒前駆体は、得られた触媒前駆体が以下の組成を有すること以外は、例1と同様の方法で調製した:
Ni:66mol%;Mo:15mol%;W:19mol%
【0085】
[例3]
<Ni−Mo−Wマレイン酸触媒前駆体>
この触媒は、得られた触媒前駆体が以下の組成を有すること以外は、例1と同様の方法で調製した:
Ni:66mol%;Mo:10mol%;W:24mol%
【0086】
[例4]
<触媒前駆体の押出>
乾燥触媒前駆体(40g)をDow Chemical Company製のMETHOCEL(商標)セルロースエーテル(0.8g)と混合し、この混合物に脱イオン水(7g)を添加した。混合物が押出可能な粘稠度になるまで追加の脱イオン水(7g)を添加した。次いで、混合物を押し出し、硫化する前に120℃のN
2下で乾燥させた。
【0087】
[例5]
<硫化>
押出物を1〜2のL/Dに短くし、3/8インチ管状反応器に詰めた。全容量6mLの触媒を使用した。接触を改善し、チャネリングを防止するために、触媒押出物の間の空隙を隙間として100メッシュで満たした。
【0088】
触媒硫化は、液相硫化手順に従って実施され、硫化剤として、2.5重量%のジメチルジスルフィド(DMDS)を含有する直留ディーゼル供給原料を使用した。触媒前駆体の硫化は、2工程:400°F〜500°Fの低温硫化工程、続いて600°F〜700°Fの高温硫化工程で行われた。硫化後、全圧を2000psigに上昇させ、供給原料を直留ディーゼルに切り替えて触媒系を3日間並べた。次いで、CAT温度を所望の目標温度に上げた。
【0089】
[例6]
<触媒性能>
未転化油(UCO)、水素化分解装置流出物から分離された高沸点炭化水素留分、並びにそれとジメチルジスルフィド(DMDS)及び/又はトリブチルアミン(Bu
3N)とのブレンドを使用して触媒を評価した。UCO供給原料の特性を表1に列挙する。
【0090】
反応条件は、2000psigの全圧、1.5h
−1の液空間速度、及び5000SCF/Bの水素処理ガス速度を含んでいた。
【表1】
【0091】
表2は、生成物中のクラッキング転化率及び芳香族化合物含有量によって測定された触媒のC−C結合開裂活性を要約する。
【表2】
【0092】
表2に示すように、約2.4のW/Moモル比を有する自己担持混合金属硫化物触媒は、優れたC−C結合開裂活性を示した。驚くべきことに、C−C結合開裂は、硫黄及び/又は窒素の存在下で促進される。