(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ベルトは、前記一対のプーリのうちの一方のプーリとの巻き掛け位置と、他方のプーリとの巻き掛け位置とが、前記変速比に応じて前記回転軸方向に変位するようになっており、
前記周壁部において前記観察孔は、前記ベルトの前記回転軸方向の変位が最小となる領域を観察可能な位置に設けられている、請求項2に記載のベルト式の無段変速機。
前記変速機ケースにおいて前記観察孔は、前記無段変速機の設置状態を基準とした鉛直線方向で、前記変速機ケース内の潤滑油の油面よりも上側となる位置に開口している、請求項1から請求項6の何れか一項に記載のベルト式の無段変速機。
【背景技術】
【0002】
ベルト式の無段変速機の変速機構部(バリエータ)は、一対のプーリ(プライマリプーリ、セカンダリプーリ)と、一対のプーリに巻き掛けられたベルトと、を有している。
特許文献1、2には、両側にスリット部を有する板状のエレメントを積層して環状に配置し、エレメントの各々を、スリット部を挿通させたリングで結束して構成された無段変速機用のベルトが開示されている。
【0003】
エレメントは、幅方向の両側に、プーリのシーブ面と接触するフランク面を有している。
変速機構部では、一対のプーリに巻き掛けられたベルトを介して、一対のプーリの間での回転駆動力(トルク)の伝達が行われる。
エレメントの各々では、プーリのシーブ面と接触するフランク面が、回転駆動力の伝達に関与している。
【0004】
特許文献1には、エレメントのフランク面に、シーブ面と油膜を介して接触する山部と、潤滑油をプーリの周方向に排出する溝部と、を、プーリの径方向に交互に配列して形成することが開示されている。
【0005】
フランク面とシーブ面との接触界面には、潤滑油による油膜(反応膜)が形成される。
フランク面の溝部は、シーブ面とベルト側のフランク面とを金属接触させないようにするために、反応膜の生成を促すのに必要な油溜り深さを有している。
フランク面の山部は、シーブ面とベルトとの間に生成した反応膜を摩滅させない初期摩耗高さを有している。
【0006】
一対のプーリの間でのトルク伝達の際には、ベルトとプーリとの間に若干の滑りが生じており、この滑りにより、ベルトとプーリは発熱する。
ここで、滑りを抑えるために、一対のプーリでのベルトの挟圧を高くすると、エレメントのフランク面とシーブ面との接触面圧が高くなって、摩擦による発熱が大きくなる。
【0007】
摩擦による発熱が大きくなると、エレメントのフランク面に異常摩耗や、焼き付きが生じ易くなる。
これは、エレメントとプーリが同種の金属でできているために、発熱が大きくなると、凝着や損傷が生じ易くなるからである。
【0008】
そのため、ベルトのフランク面における損傷の有無を定期的に検査する必要がある。
従来の無段変速機の場合には、変速機ケース下部のオイルパンを外して、変速機ケースのオイルパン側の開口から検査具を挿入して、損傷の有無を確認していた。
しかし、検査の度にオイルパンを外すと、変速機ケース内の潤滑油も一時的に排出する必要があり、検査にかかる作業の手間が大きくなる。
そこで、より簡便に損傷の有無を確認できるようにすることが求められている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1に示すように、ベルト式の無段変速機1では、エンジン(図示せず)の回転駆動力が、トルクコンバータTCと前後進切替機構3とを介して、バリエータ4に入力される。
【0014】
バリエータ4は、一対のプーリ(プライマリプーリ5、セカンダリプーリ6)と、一対のプーリに巻き掛けられたベルトVと、を有している。
プライマリプーリ5とセカンダリプーリ6は、互いに平行な回転軸X1、X2回りに回転可能に設けられている。
【0015】
プライマリプーリ5は、固定プーリ51と、回転軸X1方向に変位可能な可動プーリ55と、を有している。
固定プーリ51と可動プーリ55は、回転軸X1の径方向に延びるシーブ部52、56を有しており、これらシーブ部52、56の互いの対向面は、回転軸X1に対して傾斜したシーブ面52a、56aとなっている。
【0016】
プライマリプーリ5では、これらシーブ面52a、56aの間が、ベルトVが巻き掛けられるV溝となっている。
プライマリプーリ5では、可動プーリ55の回転軸X1方向の変位により、V溝の溝幅が変更されて、プライマリプーリ5におけるベルトVの巻き掛け半径が変更される。
【0017】
セカンダリプーリ6もまた、固定プーリ61と、回転軸X2方向に変位可能な可動プーリ65と、を有している。
固定プーリ61と可動プーリ65は、回転軸X2の径方向に延びるシーブ部62、66を有しており、これらシーブ部62、66の互いの対向面は、回転軸X2に対して傾斜したシーブ面62a、66aとなっている。
【0018】
セカンダリプーリ6では、これらシーブ面62a、66aの間が、ベルトVが巻き掛けられるV溝となっている。
セカンダリプーリ6では、可動プーリ65の回転軸X2方向の変位により、V溝の溝幅が変更されて、セカンダリプーリ6におけるベルトVの巻き掛け半径が変更される。
【0019】
図2は、ベルトVの構成を説明する図である。
図2の(a)は、ベルトVを構成するエレメント41とリング45を説明する図である。
図2の(b)は、エレメント41の平面図であり、
図2の(c)は、エレメント41の側面図である。
【0020】
図2の(a)に示すように、ベルトVは、積層されて環状に配置された複数のエレメント41と、積層されたエレメント41を結束するリング45とを有している。
リング45は、高張力鋼板からなる複数の薄板のリング45aを層状に重ねて環状に形成したものである。
【0021】
図2の(b)、(c)に示すように、エレメント41は、楔部42と、頭部43と、楔部42と頭部43とを接続する接続部44と、を有している。
【0022】
エレメント41では、楔部42の頭部43側の上面が、リング45が摺動するサドル面42aとなっており、接続部44の両側では、サドル面42aと頭部43との間を、リング45が挿通している。
【0023】
ベルトVにおいてエレメント41は、接続部44の両側に位置する一対のリング45、45により拘束されている。
【0024】
楔部42では、幅方向の両側縁が、エレメント41の中心線Lmに対して所定角度傾斜したフランク面420、420となっている。
楔部42は、フランク面420、420により、頭部43から離れるにつれて中心線Lmに直交する方向の幅が狭くなる形状で形成されている。
【0025】
ベルトVにおけるプライマリプーリ5に巻き掛けられた領域では、エレメント41のフランク面420、420が、固定プーリ51のシーブ面52aと、可動プーリ55のシーブ面56aと、で把持される(
図2の(b)仮想線参照)。
同様に、ベルトVにおけるセカンダリプーリ6に巻き掛けられた領域では、エレメント41のフランク面420、420が、固定プーリ61のシーブ面62aと、可動プーリ65のシーブ面66aと、で把持される。
【0026】
フランク面420、420には、複数の山部420aと溝部420bとが、中心線Lmに沿う上下方向で交互に配列して形成されている。
図2の(c)に示すように、側面視において、これら山部420aと溝部420bは、ベルトVの長手方向に沿う向きに延びており、互いに平行に設けられている。
【0027】
バリエータ4では、ベルトVを介したトルク伝達を行う際に、ベルトVにおけるプライマリプーリ5に巻き掛けられた領域に、シーブ部52、56から把持力が作用し、セカンダリプーリ6に巻き掛けられた領域に、シーブ部62、66から把持力が作用する。
【0028】
この把持力は、ベルトVのエレメント41を、回転軸X1、X2の径方向外側に変位させる方向に作用する。
ベルトVにおいてエレメント41の各々は、サドル面42aと頭部43との間を挿通したリング45、45により、径方向外側への変位が規制されている。
【0029】
そのため、ベルトVにおけるプライマリプーリ5とセカンダリプーリ6に巻き掛けられた領域では、エレメント41のフランク面420、420と、シーブ面52a、56a、62a、66aとが、把持力に応じた摩擦力で接触する。
これにより、ベルトVと、プライマリプーリ5およびセカンダリプーリ6との間でのトルク伝達が行われる。
【0030】
このトルク伝達の際に、ベルトVにおけるプライマリプーリ5とセカンダリプーリ6に巻き掛けられた領域では、フランク面420の山部420aが、シーブ面52a、56a、62a、66aと油膜を介して接触する。
そして、フランク面420の溝部420bは、潤滑油をベルトVの長手方向に排出する排出路として機能する。
【0031】
図2の(c)に示すように、エレメント41の頭部43には一方の面に凸形状のディンプル431が形成されている。他方の面には、隣接する他のエレメント41のディンプル431が嵌合する凹形状のホール432が形成されている。
【0032】
図1を参照して、バリエータ4では、プライマリプーリ5とセカンダリプーリ6におけるベルトVの巻き掛け半径を変更することで、プライマリプーリ5に入力された回転駆動力が、所望の変速比で変速されて、セカンダリプーリ6に伝達される。
【0033】
セカンダリプーリ6に伝達された回転駆動力は、リダクションギアRGに伝達される。リダクションギアRGは、回転軸X2に平行な回転軸X3回りに回転可能に設けられており、リダクションギアRGには、差動装置DEFのファイナルギアFGが回転伝達可能に噛合している。
【0034】
よって、セカンダリプーリ6からリダクションギアRGに伝達された回転駆動力は、ファイナルギアFGを介して差動装置DEFに伝達される。そして、差動装置DEFに連結された駆動シャフトSHが、回転軸X3に平行な回転軸X4回りに回転して、駆動シャフトSHが連結された駆動輪(図示せず)が、伝達された回転駆動力で回転する。
【0035】
無段変速機1の変速機ケース7は、バリエータ4の収容室80を有するケース8と、ケース8に組み付けられて収容室80の開口を封止するサイドカバー9と、トルクコンバータTCを収容するハウジング10と、を有している。
【0036】
図3は、無段変速機1のケース8を説明する図である。
図3の(a)は、ケース8を、サイドカバー9側から見た図である。
図3の(b)は、無段変速機1の設置状態を基準とした鉛直線方向の上側から、ケース8を見た図である。
【0037】
図3の(a)に示すように、ケース8をサイドカバー9側から見ると、ケース8には、バリエータ4の外周を囲む筒状の周壁部82が設けられている。
プライマリプーリ5とセカンダリプーリ6は周壁部82の内側で、回転軸X1、X2回りに回転可能に設けられている。ここで、回転軸X1、X2は、周壁部82の内側で、間隔をあけて互いに平行に設定されている。
【0038】
周壁部82では、周方向に間隔をあけてボルトボス85が複数設けられている。
周壁部82の内側は、バリエータ4の収容室80となっており、この収容室80の開口が、サイドカバー9(
図1参照)で封止されるようになっている。
【0039】
サイドカバー9では、側壁部81(
図3の(b))の紙面下側の端面に接合される周縁部に、ボルトボス95(
図1参照)が設けられている。これらボルトボス95は、ケース8側のボルトボス85に対応する位置に設けられており、
サイドカバー9は、当該サイドカバー9の周縁部を、ケース8の周壁部82に接合した状態で、ボルトB(
図1参照)でケース8に取り付けられている。
【0040】
図3の(b)に示すように、無段変速機1の設置状態を基準とした鉛直線方向の上側からケース8を見ると、
図3の(b)における下側から、サイドカバー9がケース8に固定される。また、
図3の(b)における上側から、ハウジング10(
図1参照)がケース8に固定される。
【0041】
ケース8では、ハウジング10側にも、開口部を囲む周壁部83が設けられており、この周壁部83でも、周方向に間隔をあけて複数のボルトボス86が設けられている。
ケース8の上側の側壁部81では、プライマリプーリ5の回転軸X1と、セカンダリプーリ6の回転軸X2との間の領域に、観察孔87aを有するボス部87が設けられている(
図3の(b))。
【0042】
図4は、ケース8に設けた観察孔87aを説明する図である。
図4の(a)は、
図3の(b)におけるA−A線に沿ってケース8を切断した断面図である。
図4の(b)は、ケース8を、オイルパン側の下方から見た斜視図であって、ケース8における観察孔87a周りの領域を拡大して示した図である。
なお、
図4の(b)では、観察孔87aから挿入された棒状の検査具Tを仮想線で示している。
【0043】
図5は、観察孔87aに設けた位置決め溝871(871a、871b)、872(872a、872b)を説明する図である。
図5の(a)は、
図3の(b)におけるA−A線に沿ってケース8を切断した断面図であって、検査具Tの先端部Ta側とエレメント41を仮想線で示した図である。
図5の(b)は、
図5の(a)におけるA−A断面図であって、位置決め溝871、872による検査具Tの位置決めを説明する図である。
図5の(c)は、
図5の(a)におけるB−B断面図であって、位置決め溝871、872による検査具Tの位置決めを説明する図である。
【0044】
図4の(a)に示すように、観察孔87aは、ケース8の上側の側壁部81を厚み方向に貫通して設けられている。
ケース8の外側面には、観察孔87aを囲むボス部87が、側壁部81から離れる方向に突出している。
本実施形態では、
図4の(a)における左側に、前記した周壁部82が位置しており、この周壁部82に、サイドカバー9(
図1参照)の外周縁が組み付けられて、バリエータ4の収容室80が、ケース8とサイドカバー9との間に形成される。
【0045】
観察孔87aは、検査具Tを挿通可能な開口径D1(
図5参照)で形成されている。観察孔87aは、ケース8内の収容室80とケース8の外部とを連通させる貫通孔であり、ボス部87の内部に、略直線状に設けられている。
【0046】
本実施形態では、観察孔87aの一端と他端に、位置決め溝871a、871b、872a、872bが設けられている。
観察孔87aにおいて位置決め溝871a、871bは、ケース8内側の端部に設けられている。観察孔87aにおいて位置決め溝872a、872bは、ケース8外側の端部に設けられている。
観察孔87aの開口は、観察孔87aの位置決め溝872a、872b側に螺入されたボルトBa(
図4参照)の軸部で封止される。
【0047】
図5の(b)に示すように、観察孔87aは、円形の断面を有しており、位置決め溝871a、871bは、観察孔87aを挟んで対称となる位置関係で設けられている。
これら位置決め溝871a、871bは、観察孔87aの中心を通る直径線L上に位置している。本実施形態では、この直径線Lは、ベルトVを幅方向に横切る向きに設定されており、直径線Lは、積層されたエレメント41の幅方向に観察孔87aを横切っている。
【0048】
位置決め溝871a、871bは、直径線Lに直交する方向Ln(ベルトVの長手方向)に所定幅W1を持って形成されており、この幅W1は、検査具Tを係合可能な幅に設定されている。
【0049】
図5の(c)に示すように、ケース8の外側に位置する位置決め溝872a、872bもまた、観察孔87aの中心を通る直径線L上に位置している。
これら位置決め溝872a、872bもまた、直径線Lに直交する方向Lnに所定幅W1を持って形成されており、この幅W1は、検査具Tを係合可能な幅に設定されている。
【0050】
図5の(a)に示すように、観察孔87aの貫通方向(
図5の(a)における上下方向)の長さL1と、位置決め溝871a、871b、872a、872bの位置及び範囲が、以下の条件を満たすように設定されている。
(a)観察孔87aを挿通させた検査具Tを、直線状態を保持したままで、一方の位置決め溝871aと他方の位置決め溝872bに係合させることができる。
ここで、「直線状態を保持したまま」とは、検査具Tを屈曲させることなくという意味でもある。
(b)観察孔87aを挿通させた検査具Tを、直線状態を保持したままで、一方の位置決め溝871bと他方の位置決め溝872aに係合させることができる。
(c)検査具Tを、一方の位置決め溝871aと他方の位置決め溝872bに係合させると、検査具Tの先端部Taは、エレメント41の幅方向の一方のフランク面420に対向する位置に配置される。
(d)検査具Tを、一方の位置決め溝871bと他方の位置決め溝872aに係合させると、検査具Tの先端部Taは、エレメント41の幅方向の他方のフランク面420に対向する位置に配置される。
一実施例においては、位置決め溝871a、871b、872a、872bは、
図5の(a)に示すように、それぞれ三角形状をなしている。
【0051】
そのため、観察孔87aを挿通させた検査具Tを、位置決め溝871a、871b、872a、872bを利用して位置決めすると、検査具Tの先端部Taを,フランク面420に対向する位置に速やかに配置させることができるようになっている。
【0052】
図6は、観察孔87aとベルトVとの位置関係を説明する図である。なお、
図6では、ケース8を上方から見た状態で、側壁部81の内側に配置されるベルトVを仮想線で示した図である。
【0053】
無段変速機1では、バリエータ4を構成する一対のプーリ(プライマリプーリ5、セカンダリプーリ6)におけるベルトVの巻き掛け半径を変更することで、バリエータ4に入力された回転駆動力の変速比が変更される。
【0054】
プライマリプーリ5では、可動プーリ55の回転軸X1方向の変位により、ベルトVの巻き掛け半径が変更される。
セカンダリプーリ6では、可動プーリ65の回転軸X2方向の変位により、ベルトVの巻き掛け半径が変更される。
【0055】
そのため、バリエータ4では、プライマリプーリ5におけるベルトVの巻き掛け位置と、セカンダリプーリ6におけるベルトの巻き掛け位置とが、それぞれ変速比に応じて回転軸X1、X2方向に変位する。
【0056】
ここで、一対のプーリ(プライマリプーリ5、セカンダリプーリ6)に巻き掛けられたベルトVは、プライマリプーリ5の回転軸X1側と、セカンダリプーリ6の回転軸X2側の変位量が最も大きくなる(
図6、ベルトの振れ参照)。
そして、互いに平行に配置された回転軸X1と回転軸X2との略中間となる中間位置が、無段変速機1で実現可能な変速比の範囲内で最も変位量(芯ずれ)が小さくなる。
【0057】
この中間位置にあるベルトVの領域は、一対のプーリ(プライマリプーリ5、セカンダリプーリ6)に巻き掛けられていない。そして、この中間位置にあるベルトVの領域では、エレメント41のフランク面420が、ベルトVの幅方向の両側に露出している。
【0058】
前記したように、本実施形態では、ケース8の上側の側壁部81において、プライマリプーリ5の回転軸X1と、セカンダリプーリ6の回転軸X2との間の領域に観察孔87aが設けられている。
そして、この観察孔87aの貫通方向における延長上に、ベルトVにおける回転軸X1、X2方向の変位量が最小となる領域(中間位置にあるベルトVの領域)の外周が位置している。
【0059】
前記したように、観察孔87aは、観察孔87aから挿入した検査具Tの先端部Ta側を、ベルトVの幅方向の一方側と他方側に配置可能な深さで形成されている
さらに、観察孔87aでは、ケース8の内側の端部と外側の端部に、位置決め溝871a、871b、872a、872bが設けられている。
そして、検査具Tを位置決め溝871aと位置決め溝872b、または位置決め溝871bと位置決め溝872aに係合させると、検査具Tの先端部Taを、エレメント41の一方のフランク面420、または他方のフランク面420に対向する位置に配置できる。
【0060】
ここで、検査具Tとして、ファイバースコープ、CCDカメラが例示される。本実施形態では、先端部Taにカメラが設けられた棒状の検査具Tが用いられている。
そのため、位置決め溝871、872を用いることで、検査具Tの先端部Taを、フランク面420に対向する位置に速やかに配置できる。
【0061】
さらに、ケース8において観察孔87aは、無段変速機1の設置状態を基準とした鉛直線方向で、変速機ケース7内の潤滑油の油面よりも上側となる位置に開口している。
そのため、ベルトVの検査を行う際に、検査具Tをケース8内に挿入するために、観察孔87aを封止するボルトBaを外しても変速機ケース7内の潤滑油が外部に漏れることがないようになっている。
【0062】
以上の通り、本実施形態にかかる無段変速機1は、以下の構成を有している。
(1)ベルト式の無段変速機1は、一対のプーリ(プライマリプーリ5、セカンダリプーリ6)にベルトVを巻き掛けて構成したバリエータ4と、
バリエータ4の収容室80を有する変速機ケース7(ケース8,サイドカバー9、ハウジング10)と、を備える。
無段変速機1では、一対のプーリ(プライマリプーリ5、セカンダリプーリ6)各々におけるベルトVの巻き掛け半径を変更することで、所望の変速比を実現する。
収容室80は、バリエータ4の外周を囲む周壁部(側壁部81、周壁部82)を有しており、
一対のプーリ(プライマリプーリ5、セカンダリプーリ6)は、周壁部82の内側で、それぞれ間隔をあけて互いに平行に設定された一対の回転軸X1、X2回りに回転可能に設けられている。
プーリ(プライマリプーリ5、セカンダリプーリ6)は、
固定プーリ51、61と、回転軸X1、X2方向に変位可能な可動プーリ55、65と、を有する。
可動プーリ55、65の回転軸X1、X2方向の変位により、プーリ(プライマリプーリ5、セカンダリプーリ6)におけるベルトVの巻き掛け半径が変更される。
ベルトVは、積層して環状に配置されたエレメント41と、積層したエレメント41を結束するリング45と、を有する。
エレメント41は、幅方向の両側に、固定プーリ51、61と可動プーリ55、65で把持されるフランク面420、420をそれぞれ有している。
周壁部82には、フランク面420、420を観察可能にする観察孔87aが設けられている。
【0063】
このように構成すると、ベルトVを構成するエレメント41のフランク面420、420を観察して、フランク面420、420における損傷の有無を適切に確認できる。
【0064】
本実施形態にかかる無段変速機1は、以下の構成を有している。
(2)エレメント41は、フランク面420、420が、それぞれ、固定プーリ51、61のシーブ面52a、62aと可動プーリ55、65のシーブ面56a、66aで把持される領域となっている。
フランク面420、420には、固定プーリ51、61のシーブ面52a、62a、または可動プーリ55、65のシーブ面56a、66aと油膜を介して接触する山部420aと、潤滑油OLをエレメントの積層方向に排出する溝部420bが設けられている。
山部420aと溝部420bは、ベルトXの厚み方向(回転軸X1、X2の径方向)で、交互に配列して形成されている。
【0065】
このように構成すると、フランク面420、420に設けた山部420aと溝部420bの摩耗を適切に確認できる。
【0066】
本実施形態にかかる無段変速機1は、以下の構成を有している。
(3)ベルトVは、プライマリプーリ5との巻き掛け位置と、セカンダリプーリ6との巻き掛け位置とが、無段変速機1の変速比に応じて回転軸X1、X2方向に変位する。
周壁部82において観察孔87aは、ベルトVの回転軸X1、X2方向の変位が最小となる領域を観察可能な位置に設けられている。
【0067】
ベルトVにおける観察される領域が、変速比に応じて回転軸X1、X2方向に大きく変位する領域である場合、ベルトVを適切に観察するためには、観察孔をベルトVの変位方向に広げて形成する必要がある。
観察孔が大きくなると、ケース8の剛性強度の低下や、加工コストの上昇が生じてしまう。
観察孔87aを、ベルトVの回転軸X1、X2方向の変位が最小となる領域を観察可能な位置に設けると、観察孔87aの大きさを抑えることができる。これにより、観察孔の大きさを抑えつつ、ベルトにおける損傷の有無を適切に確認できる。ケース8の剛性強度の低下や、加工コストの上昇を好適に防止できる。
【0068】
本実施形態にかかる無段変速機1は、以下の構成を有している。
(4)ベルトVの回転軸X1、X2方向の変位が最小となる領域は、ベルトVにおけるプーリ(プライマリプーリ5、セカンダリプーリ6)に巻き掛けられていない領域にある。
【0069】
ベルトVにおけるプーリ(プライマリプーリ5、セカンダリプーリ6)に巻き掛けられていない領域では、エレメント41のフランク面420、420が露出している。
そのため、フランク面420に設けた山部420aと溝部420bの摩耗を適切に確認できる。
【0070】
本実施形態にかかる無段変速機1は、以下の構成を有している。
(5)観察孔87aの延長上に、ベルトVの回転軸X1、X2方向の変位が最小となる領域の外周が位置している。
観察孔87aは、観察孔87aから挿入した検査具Tの先端部Ta側を、ベルトVの幅方向の一方側と他方側に配置可能な深さL1で形成されている。
【0071】
ベルトVにおける損傷などの有無を確認する際に、検査具(ファイバースコープ、CCDカメラなど)を観察孔87aから挿入する。
この際に、挿入した検査具Tを、観察孔87aのケース8の内周に開口する開口端と、ケース8の外周に開口する開口端に当接させた位置に保持すると、検査具Tの先端部Ta側を、各エレメント41の幅方向の一方のフランク面420に対向する位置や、他方のフランク面420に対向する位置に配置できる。
これにより、検査具Tの先端部Ta側に観察用のカメラなど設けることで、各エレメント41の幅方向の一方のフランク面420と他方のフランク面420における摩耗の有無を適切に確認できる。
【0072】
本実施形態にかかる無段変速機1は、以下の構成を有している。
(6)観察孔87aでは、少なくともケース8の内側に開口する端部に、検査具Tの位置決め溝871a、872bが設けられている。
観察孔87aの貫通方向から見て、位置決め溝871a、871bは、ベルトVの幅方向に沿う直径線L上で、対称となる位置関係で一組設けられている。
【0073】
このように構成すると、一方の位置決め溝871aに検査具Tを位置決めすると、観察孔87aから挿入した検査具Tの先端部Ta側を、ベルトVの幅方向の一方側に配置させることができる。また、他方の位置決め溝871bに検査具Tを位置決めすると、観察孔87aから挿入した検査具Tの先端部Ta側を、ベルトVの幅方向の他方側に配置させることができる。
これにより、検査具Tを、各エレメント41の幅方向の一方のフランク面420の観察に適した位置と、他方のフランク面420の観察に適した位置に速やかに配置できる。
【0074】
本実施形態にかかる無段変速機1は、以下の構成を有している。
(7)変速機ケース7のケース8において観察孔87aは、無段変速機1の設置状態を基準とした鉛直線方向で、変速機ケース7内の潤滑油OLの油面よりも上側となる位置に開口している。
【0075】
このように構成すると、検査具Tを観察孔87aに挿入するために、観察孔87aの開口を塞ぐボルトBa(キャップ)を取り外しても、変速機ケース7内の潤滑油OLが、観察孔87aから漏出することがない。
これにより、ベルトVにおける損傷の有無を確認する度に、変速機ケース7内の潤滑油OLを抜く必要がないので、ベルトVにおける損傷の有無をより簡単に確認できる。
【0076】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本願発明は前記した態様のもののみに限定されるものではない。本願発明の技術的な思想の中で適宜変更可能である。