特許第6842014号(P6842014)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6842014トロンボスポンジン1遺伝子発現亢進用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842014
(24)【登録日】2021年2月24日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】トロンボスポンジン1遺伝子発現亢進用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/48 20060101AFI20210308BHJP
   A61K 31/716 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 36/07 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 36/03 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 36/06 20060101ALI20210308BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210308BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20210308BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20210308BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20210308BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20210308BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20210308BHJP
   A23L 33/145 20160101ALI20210308BHJP
   A23K 20/163 20160101ALI20210308BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20210308BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20210308BHJP
【FI】
   A61K36/48
   A61K31/716
   A61K36/07
   A61K36/03
   A61K36/06
   A61P43/00 105
   A61P17/02
   A61P17/00
   A61P27/02
   A61P9/10
   A61P43/00 121
   A23L33/105
   A23L33/145
   A23K20/163
   A23K10/16
   !A61P35/00
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-135811(P2016-135811)
(22)【出願日】2016年7月8日
(65)【公開番号】特開2018-2688(P2018-2688A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】501257370
【氏名又は名称】株式会社アウレオ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】守屋 直幸
(72)【発明者】
【氏名】守屋 ▲祐▼生子
(72)【発明者】
【氏名】岩井 淳
(72)【発明者】
【氏名】村松 大輔
【審査官】 深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−504341(JP,A)
【文献】 特開2003−055234(JP,A)
【文献】 特開2007−302626(JP,A)
【文献】 特開2004−051533(JP,A)
【文献】 特開2003−104832(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/148737(WO,A1)
【文献】 特開2004−131500(JP,A)
【文献】 特開2007−186483(JP,A)
【文献】 特開2004−075573(JP,A)
【文献】 Biochemical Pharamacology,2005年,Vol.69,pp.307-318
【文献】 塩尻正俊他,緑豆ペプチドによるヒト血管平滑筋細胞遊走阻害効果,日本薬学会年会要旨集,2008年,Vol.128, No.2,P.72 26PE-am091
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61K 36/00−36/9068
A23L 33/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−グルカンと豆類の熱水抽出物とを有効成分として含有し、トロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進のために用いられることを特徴とする組成物(抗がんのために用いられるものを除く)
【請求項2】
前記β−グルカンは、酵母、茸、及び海藻からなる群から選ばれた少なくとも1種の生物由来のものである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記酵母としてはアウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物であり、前記茸としてはシイタケ又はマイタケであり、前記海藻としては昆布である、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
管新生阻害、創傷治癒、皮膚の老化防止、糖尿病性網膜症の治療もしくはその症状の改善、又はアテローム性動脈硬化症の治療もしくはその症状の改善のために用いられる、請求項1〜3のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項5】
食品用、医薬用、又は動物食餌用である、請求項1〜4のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項6】
β−グルカンと豆類の熱水抽出物との、トロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進のために用いられる組成物(抗がんのために用いられるものを除く)の製造のための使用。
【請求項7】
前記β−グルカンは、酵母、茸、及び海藻からなる群から選ばれた少なくとも1種の生物由来のものである、請求項6記載の使用。
【請求項8】
前記酵母としてはアウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物であり、前記茸としてはシイタケ又はマイタケであり、前記海藻としては昆布である、請求項7記載の使用。
【請求項9】
前記組成物は、血管新生阻害、創傷治癒、皮膚の老化防止、糖尿病性網膜症の治療もしくはその症状の改善、又はアテローム性動脈硬化症の治療もしくはその症状の改善のために用いられる組成物である、請求項6〜8のいずれか1つに記載の使用。
【請求項10】
前記組成物は、食品用、医薬用、又は動物食餌用である、請求項6〜9のいずれか1つに記載の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進のために用いられる食品用、医薬用、動物食餌用等の組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通称黒酵母とも呼ばれるアウレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)は、その培養中にβ−グルカンを豊富に産生する。本出願人は、従来、この培養物を利用した、皮膚用保湿剤(特許文献1)、便秘改善剤(特許文献2)、免疫賦活剤(特許文献3)、免疫アジュバント(特許文献4)、抗癌剤の副作用を低減するために用いられる生体治癒促進剤(特許文献5)、熱火傷の治癒促進のために用いられる生体治癒促進剤(特許文献6)、ウシの乳房炎の予防・治療用組成物(特許文献7)、マクロファージにおけるサイトカイン産生促進組成物(特許文献8)、インフルエンザウイルス感染症の治療剤(特許文献9)、TRAIL発現亢進剤(特許文献10)などを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4000078号公報
【特許文献2】特許第4054697号公報
【特許文献3】特許第4369258号公報
【特許文献4】特許第5242855号公報
【特許文献5】特許第5331482号公報
【特許文献6】特許第5715659号公報
【特許文献7】特許第5554221号公報
【特許文献8】特許第5559173号公報
【特許文献9】特許第5560472号公報
【特許文献10】特許第5937029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アウレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)がその培養中に産生するβ−グルカンと豆類抽出物とを併用することによる作用効果については、明らかではなかった。
【0005】
本発明の目的は、β−グルカンと豆類抽出物とを併用することにより、優れた食品用、医薬用、動物食餌用等の組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明者らが鋭意研究したところ、β−グルカンと豆類抽出物とを併用すると、顕著に優れたトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果が奏されることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]β−グルカンと豆類抽出物とを有効成分として含有し、トロンボスポンジン1遺伝子発現亢進のために用いられることを特徴とする組成物。
[2]前記β−グルカンは、酵母、茸、及び海藻からなる群から選ばれた少なくとも1種の生物由来のものである、上記[1]記載の組成物。
[3]前記酵母としてはアウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物であり、前記茸としてはシイタケ又はマイタケであり、前記海藻としては昆布である、上記[2]記載の組成物。
[4]抗がん、血管新生阻害、創傷治癒、皮膚の老化防止、糖尿病性網膜症の治療もしくはその症状の改善、又はアテローム性動脈硬化症の治療もしくはその症状の改善のために用いられる、上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の組成物。
[5]食品用、医薬用、又は動物食餌用である、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の組成物。
[6]β−グルカン及び豆類抽出物の、トロンボスポンジン1遺伝子発現亢進のために用いられる組成物の製造のための使用。
[7]前記β−グルカンは、酵母、茸、及び海藻からなる群から選ばれた少なくとも1種の生物由来のものである、上記[6]記載の使用。
[8]前記酵母としてはアウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物であり、前記茸としてはシイタケ又はマイタケであり、前記海藻としては昆布である、上記[7]記載の使用。
[9]前記組成物は、抗がん、血管新生阻害、創傷治癒、皮膚の老化防止、糖尿病性網膜症の治療もしくはその症状の改善、又はアテローム性動脈硬化症の治療もしくはその症状の改善のために用いられる組成物である、上記[6]〜[8]のいずれか1つに記載の使用。
[10]前記組成物は、食品用、医薬用、又は動物食餌用である、上記[6]〜[9]のいずれか1つに記載の使用。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、β−グルカンと豆類抽出物とを、トロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進のための有効成分とするので、細胞に備わるトロンボスポンジン1遺伝子の発現能力を安全で副作用なく亢進することができる。よって、食品用、医薬用、動物食餌用などとして好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は試験例1の結果を示す図表であり、各刺激後のTHP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子のmRNA (THBS1 mRNA)の発現量を調べた結果を示す図表である。
図2図2は試験例2の結果を示す図表であり、各刺激後のTHP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子のmRNA (THBS1 mRNA)の発現量を調べた結果を示す図表である。
図3図3は試験例3の結果を示す図表であり、各刺激後のTHP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子のmRNA (THBS1 mRNA)の発現量を調べた結果を示す図表である。
図4図4は試験例4の結果を示す図表であり、各刺激後のTHP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子のmRNA (THBS1 mRNA)の発現量を調べた結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明においては、β−グルカンを、トロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進のための有効成分として用いる。
【0010】
β−グルカンは、β−グルコースがグリコシド結合により重合した多糖である。例えば、大麦やオーツ麦などの穀類、ビール酵母、パン酵母、黒酵母等の酵母類、シイタケ、マイタケ、カワラタケ、スエヒロタケ、ハナビラタケ、マンネンタケ等の茸類、昆布、ワカメ等の海藻類などに含まれるので、それら天然物から適当な溶媒を用いて抽出すること等により得ることができる。抽出方法としては常法に従はばよく、特に制限はない。例えば、必要に応じて乾燥・粉砕した原料に水、含水アルコール等の抽出溶媒を加えて、加熱及び/又は加圧下に抽出する方法などが挙げられる。加熱条件としては、典型的に105〜135℃、加圧条件としては、典型的に1.8〜2.1気圧などが挙げられる。また、抽出効率の向上のためには、酸処理やアルカリ処理、あるいは、多糖類を低分子化させる酵素による酵素処理を施しながら抽出しても構わない。抽出後には、溶媒を溜去して濃縮したり、噴霧乾燥等の乾燥手段で、乾燥粉末化したりしてもよい。なお近年では、各種β−グルカン素材が流通しているので、そのような市販品を利用してもよい。
【0011】
本発明に用いるβ−グルカンは、β-1,3グリコシド結合、β-1,4グリコシド結合、β-1,6グリコシド結合などにより重合されていることが好ましく、β-1,3グリコシド結合のホモ重合を主鎖として含むか、もしくはβ-1,3グリコシド結合及びβ-1,6グリコシド結合のヘテロ重合を主鎖として含むものであることがより好ましく、β-1,3グリコシド結合のホモ重合を主鎖として含み、且つβ-1,6グリコシド結合を側鎖として含むものであることが更により好ましい。β−グルカンは、硫酸基、リン酸基等の官能基を有していてもよい。分子量としては、平均分子量5000〜100万の範囲であることが好ましく、平均分子量20万〜50万の範囲であることがより好ましい。β−グルカンの分子量は、ゲル濾過法などで測定することができる。
【0012】
本発明に用いるβ−グルカンは、後述する実施例で示されるように、アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物を培養した培養液、その培養液から更にβ−グルカンを精製したβ−グルカン精製物、シイタケやマイタケの熱水抽出物、β-1,3グリコシド結合及びβ-1,6グリコシド結合のヘテロ重合を主鎖として含むβ−グルカンである、ラミナリンなどであることができる。
【0013】
以下には、アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物に由来するβ−グルカンについて、更に詳述する。
【0014】
一般に、アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物のなかには、これを培養した培養液中に水溶性のβ−グルカンを豊富に分泌するものがある。そのようなアウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物としては、例えばアウレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)が挙げられる。また、より好適には、アウレオバシジウム プルランス M−1(Aureobasidium pullulans M-1、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター受託番号FERM BP-08615)やアウレオバシジウム プルランス M−2(Aureobasidium pullulans M-2、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター受託番号FERM BP-10014)などが挙げられる。なお、これらの菌株が産生するβ−グルカンは、NMR測定(13CNMR :Varian社UNITY INOVA500型、1HNMR : Varian社UNITY INOVA600型)による構造解析によって、グルコースがβ−1,3結合した主鎖からβ−1,6結合でグルコースが分岐した構造を有するβ−1,3−1,6−グルカンであることが明らかとなっている。
【0015】
アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物の培養は、公知の方法(特開昭57−149301号公報等参照)に準じて行うことができる。すなわち、炭素源(例えば、ショ糖)0.5〜5.0質量%、窒素源(例えば、米糠)0.1〜5.0質量%、その他微量物質(例えばビタミン類、無機質)を加えた培地(pH5.2〜6.0)に菌を接種し、温度20〜30℃で2〜14日間通気培養、好ましくは通気撹拌培養すればよい。β−グルカンが生成されるにしたがって培養液の粘度が上昇し、粘性の高いジェル状になる。このようにして得られる培養液には、通常0.6〜10質量%の固形分が含まれており、該固形分中にはβ−グルカンが5〜80質量%含まれている。また、β−グルカン以外にも、例えばリン、カリウム、マグネシウム、ビタミンC等の他の有用成分も含まれている。
【0016】
よって、上記のようなアウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物の培養組成物(以下「アウレオバシジウム由来培養組成物」ともいう。)を得て、これを本発明におけるβ−グルカンとして用いてもよい。アウレオバシジウム由来培養組成物としては、培養物そのものであってよく、遠心分離等により菌体を分離除去した培養液、その培養液から水分を溜去した濃縮液、その培養液の希釈液、あるいはその培養液を適当な乾燥手段により乾燥させた乾燥物、乾燥粉末、固形物などであってもよい。また、それらに限らず、限外濾過や含水エタノール沈殿により低分子夾雑物を除いたり、その他の公知の分画手段に処したりして、β−グルカンの含有量を高めた培養組成物も含まれる。なお、アウレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)の培養物は、増粘安定剤等の食品添加物として使用されているものであり安全性が高い。
【0017】
本発明において用いられる上記アウレオバシジウム由来培養組成物は、アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物を培養することにより生産されるβ−グルカンを、その培養物の質量100gに対する含有量に換算して、50〜3,000mg含有するものであることが好ましく、100〜2,000mg含有するものであることがより好ましい。
【0018】
β−グルカンの含有量の決定は、例えば次のような方法で行うことができる。すなわち、培養液にアミラーゼ、アミログルコシダーゼ、プロテアーゼ等を用いて酵素処理を施し、蛋白質や、プルラン等のα−グルカンを除き、エタノール沈殿を行う。更に、ガラスフィルターでろ過し、高分子試料を得る。このとき、単糖を含む低分子物質を除くため、80%エタノールで充分に洗浄する。洗浄した高分子試料はアセトンで更に洗浄し、硫酸を加え、加水分解を行う。加水分解後、中和し、そのろ液を採取して、グルコースオキシダーゼ法によりブドウ糖を定量し、下記数式1に基づいて計算した値をβ−グルカン量とする。
【0019】
・数式1:β−グルカン(g/100g)=ブドウ糖(g/100g)×0.9
【0020】
また、β−グルカンの含有量の決定は、いわゆる糖鎖含有高分子物質(多糖)量として決定することもできる。この場合は、培養液にアミラーゼ、アミログルコシダーゼ、プロテアーゼ等を用いて酵素処理を施し、蛋白質や、プルラン等のα−グルカンを除き、エタノール沈殿を行う。更に、ガラスフィルターでろ過し、高分子試料を得る。このとき、単糖を含む低分子物質を除くため、80%エタノールで充分に洗浄する。洗浄した高分子試料はアセトンで更に洗浄したものの重量を測定することで糖鎖含有高分子物質(多糖)量とする。
【0021】
なお、このようにして定量されるβ−グルカンは、硫酸基、リン酸基等の官能基を有するもの、あるいはβ−グルカンの構成糖であるグルコース以外の糖からなる多糖などをも含むものとして定量される。したがって、このように広義の糖鎖含有高分子物質(多糖)としてβ−グルカンを定量した場合には、アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物を培養することにより生産されるβ−グルカンの含有量は、その培養物の質量100gに対する含有量に換算して、70〜5,000mg含有するものであることが好ましく、140〜3,000mg含有するものであることがより好ましい。
【0022】
アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物の培養は、それを培養する培養液中に死菌化された微生物を加えて、栄養成分として資化させるようにして培養してもよい。この場合、その死菌体の培養液中への配合量は、用いる菌体の種類によっても異なるが、通常100個/mL(培養液)〜100兆個/mL(培養液)程度であることが好ましい。微生物の死菌化は加熱殺菌等によって行うことができる。
【0023】
上記死菌化された微生物として用いる微生物としては、窒素源等のアウレオバシジウム微生物の栄養源を含むものであれば特に制限はないが、例えば乳酸菌や酵母などが挙げられる。
【0024】
乳酸菌としては、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシューム(E.fecium)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidphilus)、ラクトバチルス・ガセリ(L.gasseri)、ラクトバチルス・マリ(L.mali)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバチルス・ブヒネリ(L.buchneri)、ラクトバチルス・カゼイ(L.casei)、ラクトバチルス・ジョンソニー(L.johnsonii)、ラクトバチルス・ガリナラム(L.gallinarum)、ラクトバチルス・アミロボラス(L.amylovorus)、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)、ラクトバチルス・ラムノーザス(L.rhamnosus)、ラクトバチルス・ケフィア(L.kefir)、ラクトバチルス・パラカゼイ(L.paracasei)、ラクトバチルス・クリスパタス(L.crispatus)等のラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptcoccus thermophilus)等のストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)等のラクトコッカス属細菌、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B.longum)、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス(B.adolescentis)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(B.infantis)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(B.breve)、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム(B.catenulatum)等のビフィドバクテリウム属細菌、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・コアグランス(B.coagulans)等のバチルス属細菌、クロストリジウム・ブチリカム(Clostoridium butilicum)等のクロストリジウム属細菌などを用いることができる。
【0025】
酵母としては、不完全菌類も含み、アウレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・インタメディウス(Saccharomyces intemedius)、サッカロマイセス・ヴァリドウス(Saccharomyces validus)、サッカロマイセス・エリプソイデウス(Saccharomyces ellipsoideus)、サッカロマイセス・マリリスラー(マリーリスラー)(Saccharomyces mali risler)、サッカロマイセス・マンシュリカス(Saccharomyces mandschuricus)、サッカロマイセス・フォルデルマニ(Saccharomyces Vordermannii )、サッカロマイセス・ペーカー(Saccharomyces Peka)、サッカロマイセス・シアシング(Saccharomyces shasshing)、サッカロマイセス・ピリフォルミス(Saccharomyces piriformis)、サッカロマイセス・アナメンシス(Saccharomyces anamensis)、サッカロマイセス・カルティラギノースス(Saccharomyces cartilaginosus)、サッカロマイセス・アワモリ(Saccharomyces Awamori)、サッカロマイセス・バタタエ(Saccharomyces Batatae)、サッカロマイセス・コレアヌス(Saccharomyces Coreanus)、サッカロマイセス・ロブストウス(Saccharomyces robustus)、サッカロマイセス・カールスベルゲンシス(Saccharomyces Carlsbergensis)、サッカロマイセス・モナセンシス(Saccharomyces Monacensis)、サッカロマイセス・マルキシアヌス(Saccharomyces Marxianus)、ザイゴサッカロマイセス(チゴサッカロマイセス)・マヨール(Zygosaccharomyces major)、サッカロマイセス・ラクティス(Saccharomyces lactis)、サッカロマイセス・ルクシー(Saccharomyces Rouxii)、ハンゼヌーラ・アノマーラ(Hansenula anomala)などを用いることができる。
【0026】
また、上記アウレオバシジウム由来培養組成物として、β−グルカンの含有量を高めた培養組成物を用いる場合、例えばアウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物の培養物を珪藻土等で濾過することによって不溶物を取り除いた後、粉末状の活性炭等を用いて低分子化合物を吸着、除去し、これを分画分子量5,000〜500万、より好ましくは分画分子量50万〜200万の限外濾過膜で限外濾過し、その非通過画分に回収されたβ−グルカンを含水エタノール沈殿させて得られたものなどを用いることができる。このようにして得られたβ−グルカンの含有量を高めた培養組成物は、典型的には、上記広義の糖鎖含有高分子物質(多糖)としてβ−グルカンを定量した場合の値にして、β−グルカンを固形分中40〜100質量%含有する組成物であり、より典型的にはβ−グルカンを固形分中70〜100質量%含有する組成物である。
【0027】
本発明においては、トロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進のための有効成分の他の1つとして、豆類抽出物を用いる。
【0028】
豆類の種類に特に制限はないが、安全性の観点からは、従来食用に供されている豆類が好ましい。例えば、大豆、小豆、白花豆、インゲン豆、ヒヨコ豆等を例示することができる。また、後述する実施例で示されるように、黒千石大豆、大豆、小豆、白花豆などであることができる。
【0029】
抽出方法としては常法に従はばよく、特に制限はない。例えば、必要に応じて乾燥・粉砕した豆類原料に水、含水アルコール等の抽出溶媒を加えて、加熱及び/又は加圧下に抽出する方法などが挙げられる。加熱条件としては、典型的に105〜135℃、加圧条件としては、典型的に1.8〜2.1気圧などが挙げられる。また、抽出効率の向上のためには、酸処理やアルカリ処理、あるいは、多糖類を低分子化させる酵素による酵素処理を施しながら抽出しても構わない。抽出後には、溶媒を溜去して濃縮したり、噴霧乾燥等の乾燥手段で、乾燥粉末化したりしてもよい。
【0030】
後述の実施例で示すように、β−グルカンと豆類抽出物とを併用することにより、細胞に備わるトロンボスポンジン1遺伝子の発現能力を顕著に亢進させることができる(以下、β−グルカンと豆類抽出物は、これらを合わせて単に「有効成分」という場合がある。)。そして、トロンボスポンジン1遺伝子の発現と種々の疾患との関係が、以下のとおり明らかにされている。よって、例えば、抗がん、血管新生阻害、創傷治癒、皮膚の老化防止、糖尿病性網膜症の治療もしくはその症状の改善、アテローム性動脈硬化症の治療もしくはその症状の改善の用途に好適である。
【0031】
1.マクロファージにおけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進は、創傷治癒の促進に働くことが示されている(「Thrombospondin 1 synthesis and function in wound repair. Am J Pathol.」1996 Jun;148(6):1851-60)。
【0032】
2.トロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進に、抗腫瘍効果のあることが認められている(Galvez AF, Huang L, Magbanua MM, Dawson K, Rodriguez RL.「Differential expression of thrombospondin (THBS1) in tumorigenic and nontumorigenic prostate epithelial cells in response to a chromatin-binding soy peptide.」 Nutr Cancer. 2011;63(4):623-36)。
【0033】
3.RasやMycなどのがん原遺伝子の活性化、及びがん抑制遺伝子であるp53とRbの抑制によって、トロンボスポンジン1遺伝子の発現が抑制されると、血管新生と腫瘍の肥大が引き起こされることが示されている(Watnick RS, Cheng YN, Rangarajan A, Ince TA, Weinberg RA.「Ras modulates Myc activity to repress thrombospondin-1 expression and increase tumor angiogenesis.」 Cancer Cell. 2003 Mar;3(3):219-31及びWatnick RS, Rodriguez RK, Wang S, Blois AL, Rangarajan A, Ince T, Weinberg RA.「Thrombospondin-1 repression is mediated via distinct mechanisms in fibroblasts and epithelial cells.」Oncogene. 2015 May 28;34(22):2823-35)。
【0034】
4.UV照射はトロンボスポンジン1遺伝子の発現を亢進させることが示されている。トロンボスポンジン1の発現抑制はUV照射によるType I コラーゲン前駆体の発現の抑制に働くことが示されている(Seo JE, Kim S, Shin MH, Kim MS, Eun HC, Park CH, Chung JH.「Ultraviolet irradiation induces thrombospondin-1 which attenuates type I procollagen downregulation in human dermal fibroblasts.」J Dermatol Sci. 2010 Jul;59(1):16-24. doi: 10.1016/j.jdermsci.2010.04.010.Epub 2010 May 21.)。
【0035】
5.トロンボスポンジン1を皮膚で過剰発現させたトランスジェニックマウスはUV-B照射による皮膚損傷とシワの形成が大幅に減少したことが示されている(Yano K, Oura H, Detmar M.「Targeted overexpression of the angiogenesis inhibitor thrombospondin-1 in the epidermis of transgenic mice prevents ultraviolet-B-induced angiogenesis and cutaneous photo-damage.」J Invest Dermatol. 2002 May;118(5):800-5.)。
【0036】
6.トロンボスポンジ1遺伝子の欠損は、糖尿病性網膜症を悪化させることが示されている(Sorenson CM, Wang S, Gendron R, Paradis H, Sheibani N.「Thrombospondin-1 Deficiency Exacerbates the Pathogenesis of Diabetic Retinopathy.」J Diabetes Metab. 2013 May 25;Suppl 12. doi: 10.4172/2155-6156.S12-005.)。
【0037】
7.トロンボスポンジン1遺伝子のノックアウトマウスはアテローム性動脈硬化症の悪化に働くことが示されている(Moura R, Tjwa M, Vandervoort P, Van Kerckhoven S, Holvoet P, Hoylaerts MF.「Thrombospondin-1 deficiency accelerates atherosclerotic plaque maturation in ApoE-/- mice.」Circ Res. 2008 Nov 7;103(10):1181-9. doi: 10.1161/CIRCRESAHA.108.185645.Epub 2008 Sep 25.)。
【0038】
なお、「併用する」とは、上記の両有効成分がトロンボスポンジン1遺伝子を発現する細胞に、その有効性を示す範囲で時期を経ずに接触させることができればよく、必ずしも両有効成分が単一の製剤に含まれている状態で投与される必要はない。すなわち、その有効性を示す範囲で、両有効成分をそれぞれ別製剤として連続投与したり、所定時間あけて投与したりしても、本発明の効果を享受することができる。また、後述の実施例で示すように、豆類抽出物を栄養源(窒素源)として、アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物を培養してなる培養組成物(培養液)にも、トロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果が奏されるので、本発明はそのような組成物も包含するものである。
【0039】
上記有効成分の投与量は、症状の強弱、体調、年齢、投与方法、投与回数、投与時期などによって適宜決定することができる。一般的な投与量を例示すれば、例えば、β−グルカンの量に換算して1日およそ0.02〜200mg/kg(体重)の量で摂取し、且つ、豆類抽出物のイソフラボンの量(イソフラボンアグリコン換算値)に換算して1日およそ0.1〜0.5mg/kg(体重)の量で摂取する。更に、ペット、家畜など動物にも、ヒト同様に適用することができる。
【0040】
本発明による組成物は、上記有効成分を、トロンボスポンジン1遺伝子発現亢進のための有効量で摂取できるようにした組成物であればよく、特にその形態に制限はない。適宜公知の手法により、例えば、粉末状、顆粒状、液状、ゼリー状、クリーム状等の形態とすることができる。また、それらの形態に応じて添加剤、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、油脂、アルコール、糖アルコール、水、オリゴ糖、水溶性高分子多糖など、適宜適当な製剤基剤等を加えることができる。更にまた、必要に応じて、蛋白質源、脂肪源、炭水化物源、繊維源、ビタミン、ミネラル、甘味剤、呈味剤、酸味料、香料、着色剤、保存剤などを配合してもよい。あるいは動物餌用に適する大豆粕、大豆油、小麦、トウモロコシ、米、フスマ、脱脂米糠などを配合してもよい。
【0041】
本発明による組成物は、その組成物中に、上記有効成分のうちの一方のβ−グルカンを、0.5〜30mg/g含有することが好ましく、1〜20mg/g含有することがより好ましい。また、上記有効成分のうちの他方の豆類抽出物を、豆類抽出物のイソフラボンの量(イソフラボンアグリコン換算値)に換算して、1μg〜2mg/g含有することが好ましく、2μg〜1mg/g含有することがより好ましい。あるいは、上記有効成分のうちの一方のβ−グルカンを、好ましくは0.5〜30mg/g含有し、より好ましくは1〜20mg/g含有する第1剤とし、上記有効成分のうちの他方の豆類抽出物を、豆類抽出物のイソフラボンの量(イソフラボンアグリコン換算値)に換算して、好ましくは1μg〜2mg/g含有し、より好ましくは2μg〜1mg/g含有する第2剤とし、それら第1剤及び第2剤を組み合わせた形態などであってもよい。
【0042】
また、本発明の好ましい態様においては、上記有効成分のうちの1つのβ−グルカンとして、アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物を培養した培養物から遠心分離等により菌体を分離除去し、滅菌処理した培養液を、アルミ蒸着フィルム等の個包装中に0.5〜30g含有し、更にその培養液1gに対し、上記有効成分のうちの他の1つの豆類抽出物を豆類抽出物のイソフラボンの量(イソフラボンアグリコン換算値)に換算して1μg〜2mg/g含有せしめるようにした形態のものが好ましく、2μg〜1mg/g含有せしめるようにした形態のものがより好ましい。
【0043】
本発明の組成物は、典型的に、例えば医薬品、医薬部外品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、健康食品、動物用医薬品、動物用医薬部外品、動物用機能性食品、動物用栄養補助食品、動物用サプリメント、動物用健康食品など各種の製品形態で使用されることが可能である。あるいはそれら製品と組み合わせて使用されることが可能である。また各種の飲食品と組み合わせて使用してもよい。
【実施例】
【0044】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0045】
<試験例1>
超純水に対して質量比で10%に相当する黒千石大豆を加え、2気圧、121℃、20分間加熱後、不溶物および油分を除去し、黒千石大豆熱水抽出物とした。
【0046】
ショ糖2質量%、米糠あるいは黒千石大豆粉末0.3質量%、アスコルビン酸ナトリウム0.08質量%、アスコルビン酸0.02質量%の培地中、アウレオバシジウム プルランス M−2(Aureobasidium pullulans M-2、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター受託番号FERM BP-10014)を植菌し、24.5℃で4日間振とう培養することで、β−グルカンを産生させた。β−グルカン濃度はフェノール硫酸法および酵素法によっておよそ6mg/mlと見積られた。以下、これを「米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液」もしくは「黒千石大豆を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液」、又は単に「アウレオバシジウム培養液」という。
【0047】
ヒト単球細胞に由来する培養細胞株であるTHP-1細胞(ATCC TIB-202)は、RPMI-1640(Sigma-Aldrich社)に10%のウシ胎児血清(FBS: fetal bovine serum)及び100units/mlのペニシリンと100μg/mlストレプトマイシンを添加した培地中で、37℃、5% CO2の条件下で培養を行った。
【0048】
下記(1)〜(4)の試験試料群について、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進活性を調べた。なお、各試験試料について、THP-1細胞を刺激するときの最終濃度は、下記カッコ内に示すとおりとした。
【0049】
(1)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(2)米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(3)黒千石大豆を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(4)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
【0050】
具体的には、THP-1細胞を、12wellプレートに2.0 X 105cells/wellの細胞密度で播種し、1晩培養後、上記の試験試料添加した培地に交換して、その刺激後2時間が経過した細胞を回収した。回収した細胞から総RNAを抽出し、トロンボスポンジン1遺伝子のmRNA (THBS1 mRNA)を特異的に検出するプライマーを用いたリアルタイムRT-PCR法による解析を行った。データはGAPDH mRNAの発現量で標準化した後、無刺激のコントロール細胞におけるmRNA発現量に対する相対的な比として表した。その結果を図1に示す。なお、図1中のエラーバーは3回の独立した実験における標準偏差を示す。
【0051】
図1に示されるように、黒千石大豆の熱水抽出物は、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を示した(図1中「黒千石」で示される。)。これに対して、米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液は、ほとんど発現亢進効果を示さなかった(図1中「AP」で示される。)。一方、黒千石大豆を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液は、黒千石大豆の熱水抽出物と同程度に、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を示した(図1中「FB3」で示される。)。
【0052】
ここで、黒千石大豆を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液が、黒千石大豆の熱水抽出物と同程度にトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を示すことから(図1中「黒千石」及び黒千石大豆の熱水抽出物と「FB3」で示される。)、黒千石大豆に由来する成分がトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進に寄与しているものと考えられた。ただし、黒千石大豆の熱水抽出物は質量比で10%に相当する黒千石大豆から可溶性分子を抽出して用いており、同抽出物を20倍希釈で細胞に刺激を加えていることから、概ね質量比で0.5%強の黒千石大豆由来の可溶画分で細胞に刺激を加えていることになる。その一方で、黒千石大豆を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液は、質量比で0.3%の黒千石大豆しか含まれておらず、同培養液を60倍希釈で細胞に刺激を加えていることから、質量比で0.005%の黒千石大豆の可溶画分しか含まれていない計算になる。この理由としては、黒千石大豆を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液では、黒千石大豆の熱水抽出物に比べて、トロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進に寄与する成分の利用性が顕著に向上したためであると考えられた。
【0053】
一方、黒千石大豆の熱水抽出物と米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液とを併用すると、黒千石大豆の熱水抽出物によるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果が更に増強されることが明らかとなった(図1中「黒千石+AP」で示される。)。その併用による増強の効果は、それぞれ単独での増強効果の単純な合算と仮定した場合よりも高いことから、トロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進に向けてそれらが相乗的に働いた結果であると考えられた。
【0054】
<試験例2>
超純水に対して質量比で10%に相当する黒千石大豆、大豆、小豆、又は白花豆を加え、2気圧、121℃、20分間加熱後、不溶物および油分を除去し、各種豆類の熱水抽出物を調製した。
【0055】
試験例1と同様にして、下記(1)〜(10)の試験試料群について、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を調べた。なお、各試験試料について、THP-1細胞を刺激するときの最終濃度は、下記カッコ内に示すとおりとした。
【0056】
(1)無刺激(コントロール)
(2)米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(3)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(4)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(5)大豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(6)大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(7)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(8)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(9)白花豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(10)白花豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
【0057】
その結果を図2に示す。結果は、豆類の熱水抽出物もアウレオバシジウム培養液も添加しない無刺激のコントロール細胞におけるmRNA発現量に対する相対的な比として表した。なお、図2中の黒く塗りつぶしたグラフは各種豆類の熱水抽出物の単独で刺激したときの結果を示し、白抜きのグラフはアウレオバシジム培養液と共刺激したしたときの結果を示す。また、図2中のエラーバーは3回の独立した実験における標準偏差を示す。
【0058】
図2に示されるように、各種豆類の熱水抽出物は、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を示した(図2中、黒く塗りつぶしたグラフで示される。)。
【0059】
また、各種豆類の熱水抽出物と米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液とを併用すると、各種豆類の熱水抽出物によるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果が更に増強されることが明らかとなった(図2中、白抜きのグラフで示される。)。その併用による増強の効果は、それぞれ単独での増強効果の単純な合算と仮定した場合よりも高いことから、トロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進に向けてそれらが相乗的に働いた結果であると考えられた。
【0060】
<試験例3>
超純水に対して質量比で10%に相当する黒千石大豆又は小豆を加え、2気圧、121℃、20分間加熱後、不溶物および油分を除去し、各種豆類の熱水抽出物を調製した。
【0061】
米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液を珪藻土濾過することによって、死細胞を取り除いた。その後、低分子化合物を粉末状の活性炭(和光純薬)を用いて吸着し、分画分子量20,000限外濾過膜を用いた限外濾過を行った(Q2000; Advantec社)。限外濾過によって濃縮されたβ-(1a3),(1a6)-D-グルカンを80%エタノールで沈殿させ、β-グルカン精製物を調製した。
【0062】
ラミナリンは、Laminaria digitata由来のもの(Sigma-Aldrich社製)を用いた。
【0063】
試験例1と同様にして、下記(1)〜(12)の試験試料群について、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進活性を調べた。なお、各試験試料について、THP-1細胞を刺激するときの最終濃度は、下記カッコ内に示すとおりとした。
【0064】
(1)無刺激(コントロール)
(2)米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(3)β-グルカン精製物(100μg/ml)
(4)ラミナリン( 100μg/ml)
(5)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(6)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(7)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+β-グルカン精製物(100μg/ml)
(8)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+ラミナリン(100μg/ml)
(9)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(10)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(11)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)+β-グルカン精製物(100μg/ml)
(12)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)+ラミナリン(100μg/ml)
【0065】
その結果を図3に示す。結果は、豆類の熱水抽出物もアウレオバシジウム培養液も添加しない無刺激のコントロール細胞におけるmRNA発現量に対する相対的な比として表した。なお、図3中のエラーバーは3回の独立した実験における標準偏差を示す。
【0066】
図3上段に示されるように、黒千石大豆の熱水抽出物は、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を示した(図3上段「control」参照)。また、黒千石大豆の熱水抽出物と米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液とを併用すると、黒千石大豆の熱水抽出物によるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果が更に増強されることが明らかとなった(図3上段「AP」参照)。また、アウレオバシジウム培養液と同様の効果が、その培養液から精製したβ-グルカン精製物にも認められた(図3上段「βグルカン」参照)。
【0067】
図3下段に示されるように、小豆の熱水抽出物は、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を示した(図3下段「control」参照)。また、小豆の熱水抽出物と米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液とを併用すると、小豆の熱水抽出物によるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果が更に増強されることが明らかとなった(図3下段「AP」参照)。更に、アウレオバシジウム培養液と同様の効果が、その培養液から精製したβ-グルカン精製物にも認められた(図3下段「βグルカン」参照)。一方、β-1,3結合とβ-1,6結合で連なったグルコースの直鎖から成る多糖類であるラミナリンにも、アウレオバシジウム培養液より弱いものの、小豆の熱水抽出物によるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を更に増強する効果が認められた(図3下段「ラミナリン」参照)。
【0068】
<試験例4>
超純水に対して質量比で10%に相当する黒千石大豆又は小豆を加え、2気圧、121℃、20分間加熱後、不溶物および油分を除去し、各種豆類の熱水抽出物を調製した。
【0069】
シイタケまたはマイタケに対して超純水を加え気圧、121℃、20分間加熱後、不溶物を除去し各種キノコ類の熱水抽出物を調製した。
【0070】
試験例1と同様にして、下記(1)〜(12)の試験試料群について、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進活性を調べた。なお、各試験試料について、THP-1細胞を刺激するときの最終濃度は、下記カッコ内に示すとおりとした。
【0071】
(1)無刺激(コントロール)
(2)米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(3)シイタケの熱水抽出物(20倍希釈)
(4)マイタケの熱水抽出物(20倍希釈)
(5)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(6)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(7)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+シイタケの熱水抽出物(20倍希釈)
(8)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+マイタケの熱水抽出物(20倍希釈)
(9)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(10)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(11)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)+シイタケの熱水抽出物(20倍希釈)
(12)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)+マイタケの熱水抽出物(20倍希釈)
【0072】
その結果を図4に示す。結果は、豆類の熱水抽出物もアウレオバシジウム培養液も添加しない無刺激のコントロール細胞におけるmRNA発現量に対する相対的な比として表した。なお、図4中のエラーバーは3回の独立した実験における標準偏差を示す。
【0073】
図4に示されるように、主成分としてβ-グルカンを含有するシイタケおよびマイタケの熱水抽出物にも、アウレオバシジウム培養液と同様に、黒千石大豆もしくは小豆の熱水抽出物によるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を更に増強する効果が認められた。
【0074】
以上の試験例1〜4の結果から、β-グルカンに、豆類抽出物によるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を更に増強する効果があることが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4