【実施例】
【0044】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0045】
<試験例1>
超純水に対して質量比で10%に相当する黒千石大豆を加え、2気圧、121℃、20分間加熱後、不溶物および油分を除去し、黒千石大豆熱水抽出物とした。
【0046】
ショ糖2質量%、米糠あるいは黒千石大豆粉末0.3質量%、アスコルビン酸ナトリウム0.08質量%、アスコルビン酸0.02質量%の培地中、アウレオバシジウム プルランス M−2(Aureobasidium pullulans M-2、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター受託番号FERM BP-10014)を植菌し、24.5℃で4日間振とう培養することで、β−グルカンを産生させた。β−グルカン濃度はフェノール硫酸法および酵素法によっておよそ6mg/mlと見積られた。以下、これを「米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液」もしくは「黒千石大豆を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液」、又は単に「アウレオバシジウム培養液」という。
【0047】
ヒト単球細胞に由来する培養細胞株であるTHP-1細胞(ATCC TIB-202)は、RPMI-1640(Sigma-Aldrich社)に10%のウシ胎児血清(FBS: fetal bovine serum)及び100units/mlのペニシリンと100μg/mlストレプトマイシンを添加した培地中で、37℃、5% CO
2の条件下で培養を行った。
【0048】
下記(1)〜(4)の試験試料群について、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進活性を調べた。なお、各試験試料について、THP-1細胞を刺激するときの最終濃度は、下記カッコ内に示すとおりとした。
【0049】
(1)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(2)米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(3)黒千石大豆を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(4)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
【0050】
具体的には、THP-1細胞を、12wellプレートに2.0 X 10
5cells/wellの細胞密度で播種し、1晩培養後、上記の試験試料添加した培地に交換して、その刺激後2時間が経過した細胞を回収した。回収した細胞から総RNAを抽出し、トロンボスポンジン1遺伝子のmRNA (THBS1 mRNA)を特異的に検出するプライマーを用いたリアルタイムRT-PCR法による解析を行った。データはGAPDH mRNAの発現量で標準化した後、無刺激のコントロール細胞におけるmRNA発現量に対する相対的な比として表した。その結果を
図1に示す。なお、
図1中のエラーバーは3回の独立した実験における標準偏差を示す。
【0051】
図1に示されるように、黒千石大豆の熱水抽出物は、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を示した(
図1中「黒千石」で示される。)。これに対して、米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液は、ほとんど発現亢進効果を示さなかった(
図1中「AP」で示される。)。一方、黒千石大豆を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液は、黒千石大豆の熱水抽出物と同程度に、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を示した(
図1中「FB3」で示される。)。
【0052】
ここで、黒千石大豆を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液が、黒千石大豆の熱水抽出物と同程度にトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を示すことから(
図1中「黒千石」及び黒千石大豆の熱水抽出物と「FB3」で示される。)、黒千石大豆に由来する成分がトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進に寄与しているものと考えられた。ただし、黒千石大豆の熱水抽出物は質量比で10%に相当する黒千石大豆から可溶性分子を抽出して用いており、同抽出物を20倍希釈で細胞に刺激を加えていることから、概ね質量比で0.5%強の黒千石大豆由来の可溶画分で細胞に刺激を加えていることになる。その一方で、黒千石大豆を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液は、質量比で0.3%の黒千石大豆しか含まれておらず、同培養液を60倍希釈で細胞に刺激を加えていることから、質量比で0.005%の黒千石大豆の可溶画分しか含まれていない計算になる。この理由としては、黒千石大豆を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液では、黒千石大豆の熱水抽出物に比べて、トロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進に寄与する成分の利用性が顕著に向上したためであると考えられた。
【0053】
一方、黒千石大豆の熱水抽出物と米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液とを併用すると、黒千石大豆の熱水抽出物によるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果が更に増強されることが明らかとなった(
図1中「黒千石+AP」で示される。)。その併用による増強の効果は、それぞれ単独での増強効果の単純な合算と仮定した場合よりも高いことから、トロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進に向けてそれらが相乗的に働いた結果であると考えられた。
【0054】
<試験例2>
超純水に対して質量比で10%に相当する黒千石大豆、大豆、小豆、又は白花豆を加え、2気圧、121℃、20分間加熱後、不溶物および油分を除去し、各種豆類の熱水抽出物を調製した。
【0055】
試験例1と同様にして、下記(1)〜(10)の試験試料群について、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を調べた。なお、各試験試料について、THP-1細胞を刺激するときの最終濃度は、下記カッコ内に示すとおりとした。
【0056】
(1)無刺激(コントロール)
(2)米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(3)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(4)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(5)大豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(6)大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(7)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(8)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(9)白花豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(10)白花豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
【0057】
その結果を
図2に示す。結果は、豆類の熱水抽出物もアウレオバシジウム培養液も添加しない無刺激のコントロール細胞におけるmRNA発現量に対する相対的な比として表した。なお、
図2中の黒く塗りつぶしたグラフは各種豆類の熱水抽出物の単独で刺激したときの結果を示し、白抜きのグラフはアウレオバシジム培養液と共刺激したしたときの結果を示す。また、
図2中のエラーバーは3回の独立した実験における標準偏差を示す。
【0058】
図2に示されるように、各種豆類の熱水抽出物は、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を示した(
図2中、黒く塗りつぶしたグラフで示される。)。
【0059】
また、各種豆類の熱水抽出物と米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液とを併用すると、各種豆類の熱水抽出物によるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果が更に増強されることが明らかとなった(
図2中、白抜きのグラフで示される。)。その併用による増強の効果は、それぞれ単独での増強効果の単純な合算と仮定した場合よりも高いことから、トロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進に向けてそれらが相乗的に働いた結果であると考えられた。
【0060】
<試験例3>
超純水に対して質量比で10%に相当する黒千石大豆又は小豆を加え、2気圧、121℃、20分間加熱後、不溶物および油分を除去し、各種豆類の熱水抽出物を調製した。
【0061】
米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液を珪藻土濾過することによって、死細胞を取り除いた。その後、低分子化合物を粉末状の活性炭(和光純薬)を用いて吸着し、分画分子量20,000限外濾過膜を用いた限外濾過を行った(Q2000; Advantec社)。限外濾過によって濃縮されたβ-(1a3),(1a6)-D-グルカンを80%エタノールで沈殿させ、β-グルカン精製物を調製した。
【0062】
ラミナリンは、Laminaria digitata由来のもの(Sigma-Aldrich社製)を用いた。
【0063】
試験例1と同様にして、下記(1)〜(12)の試験試料群について、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進活性を調べた。なお、各試験試料について、THP-1細胞を刺激するときの最終濃度は、下記カッコ内に示すとおりとした。
【0064】
(1)無刺激(コントロール)
(2)米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(3)β-グルカン精製物(100μg/ml)
(4)ラミナリン( 100μg/ml)
(5)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(6)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(7)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+β-グルカン精製物(100μg/ml)
(8)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+ラミナリン(100μg/ml)
(9)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(10)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(11)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)+β-グルカン精製物(100μg/ml)
(12)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)+ラミナリン(100μg/ml)
【0065】
その結果を
図3に示す。結果は、豆類の熱水抽出物もアウレオバシジウム培養液も添加しない無刺激のコントロール細胞におけるmRNA発現量に対する相対的な比として表した。なお、
図3中のエラーバーは3回の独立した実験における標準偏差を示す。
【0066】
図3上段に示されるように、黒千石大豆の熱水抽出物は、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を示した(
図3上段「control」参照)。また、黒千石大豆の熱水抽出物と米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液とを併用すると、黒千石大豆の熱水抽出物によるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果が更に増強されることが明らかとなった(
図3上段「AP」参照)。また、アウレオバシジウム培養液と同様の効果が、その培養液から精製したβ-グルカン精製物にも認められた(
図3上段「βグルカン」参照)。
【0067】
図3下段に示されるように、小豆の熱水抽出物は、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を示した(
図3下段「control」参照)。また、小豆の熱水抽出物と米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液とを併用すると、小豆の熱水抽出物によるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果が更に増強されることが明らかとなった(
図3下段「AP」参照)。更に、アウレオバシジウム培養液と同様の効果が、その培養液から精製したβ-グルカン精製物にも認められた(
図3下段「βグルカン」参照)。一方、β-1,3結合とβ-1,6結合で連なったグルコースの直鎖から成る多糖類であるラミナリンにも、アウレオバシジウム培養液より弱いものの、小豆の熱水抽出物によるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を更に増強する効果が認められた(
図3下段「ラミナリン」参照)。
【0068】
<試験例4>
超純水に対して質量比で10%に相当する黒千石大豆又は小豆を加え、2気圧、121℃、20分間加熱後、不溶物および油分を除去し、各種豆類の熱水抽出物を調製した。
【0069】
シイタケまたはマイタケに対して超純水を加え気圧、121℃、20分間加熱後、不溶物を除去し各種キノコ類の熱水抽出物を調製した。
【0070】
試験例1と同様にして、下記(1)〜(12)の試験試料群について、THP-1細胞におけるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進活性を調べた。なお、各試験試料について、THP-1細胞を刺激するときの最終濃度は、下記カッコ内に示すとおりとした。
【0071】
(1)無刺激(コントロール)
(2)米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(3)シイタケの熱水抽出物(20倍希釈)
(4)マイタケの熱水抽出物(20倍希釈)
(5)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(6)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(7)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+シイタケの熱水抽出物(20倍希釈)
(8)黒千石大豆の熱水抽出物(20倍希釈)+マイタケの熱水抽出物(20倍希釈)
(9)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)
(10)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)+米糠を窒素源として製造したアウレオバシジウム培養液(β-グルカン濃度に換算して100μg/ml)
(11)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)+シイタケの熱水抽出物(20倍希釈)
(12)小豆の熱水抽出物(20倍希釈)+マイタケの熱水抽出物(20倍希釈)
【0072】
その結果を
図4に示す。結果は、豆類の熱水抽出物もアウレオバシジウム培養液も添加しない無刺激のコントロール細胞におけるmRNA発現量に対する相対的な比として表した。なお、
図4中のエラーバーは3回の独立した実験における標準偏差を示す。
【0073】
図4に示されるように、主成分としてβ-グルカンを含有するシイタケおよびマイタケの熱水抽出物にも、アウレオバシジウム培養液と同様に、黒千石大豆もしくは小豆の熱水抽出物によるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を更に増強する効果が認められた。
【0074】
以上の試験例1〜4の結果から、β-グルカンに、豆類抽出物によるトロンボスポンジン1遺伝子の発現亢進効果を更に増強する効果があることが明らかとなった。