(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842041
(24)【登録日】2021年2月24日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】高純度硫化レニウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 61/00 20060101AFI20210308BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20210308BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20210308BHJP
C01G 47/00 20060101ALI20210308BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20210308BHJP
B01D 53/50 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
C22B61/00ZAB
C22B3/44 101A
C22B3/44 101B
C22B7/00 G
C01G47/00
B01D53/78
B01D53/50 270
B01D53/50 290
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-58863(P2017-58863)
(22)【出願日】2017年3月24日
(65)【公開番号】特開2018-162479(P2018-162479A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2020年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 泰輔
【審査官】
河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−058016(JP,A)
【文献】
特開2015−212401(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/129130(WO,A1)
【文献】
特開2016−069690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
B01D 53/34−53/85
C01G 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レニウム、ヒ素及びカドミウムを含む処理対象物を酸化浸出して浸出液を得る浸出工程と、前記浸出液をアルカリで中和してヒ素及びカドミウムを含有する中和沈殿物を生成し、レニウムを含有する中和濾液から該中和沈殿物を除去する中和浄液工程と、前記中和濾液を硫化処理して該中和濾液に含まれるレニウムを硫化レニウムとして回収するレニウム回収工程とを含む硫化レニウムの回収方法であって、
前記レニウム回収工程において、前記硫化レニウムを回収する前にそのスラリーに洗浄液を加えて、2.0規定以下で且つpH7.0以下の酸濃度、および酸化還元電位(銀−塩化銀参照電極)が−0.5V以上0.2V以下の条件下で洗浄することを特徴とする硫化レニウムの回収方法。
【請求項2】
前記レニウム回収工程において前記硫化処理後にデカンテーションを行い、得られた上澄み液を除去した後の硫化レニウムを含むスラリーに前記洗浄液を加え、前記酸濃度および酸化還元電位の条件下で撹拌してから静置することにより洗浄することを特徴とする、請求項1に記載の硫化レニウムの回収方法。
【請求項3】
前記洗浄液で洗浄された後の硫化レニウムを含むスラリーを濾過器に通液して濾過した後、該濾過器内の濾過ケーキに前記酸濃度および酸化還元電位を有する洗浄液を通液することにより洗浄することを特徴とする、請求項2に記載の硫化レニウムの回収方法。
【請求項4】
前記レニウム、ヒ素及びカドミウムを含む原料が、非鉄金属製錬工場から発生する亜硫酸ガスを含む排ガスを水洗する洗浄工程から排出される洗浄排液から回収したものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の硫化レニウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄金属製錬工程で回収されるレニウム、カドミウム、ヒ素などを含む硫化物から純度の高い硫化レニウムを回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レニウムは特殊合金の添加元素や触媒などに利用される希少金属であり、天然には主としてモリブデンの原料となる輝水鉛鉱(Molybdenite、MoS
2)の中に含まれている。モリブデンの製錬工程では、モリブデンを可溶性化するために輝水鉛鉱の酸化焙焼が行われる。この酸化焙焼の際、輝水鉛鉱に含まれるレニウムは、揮発性酸化物Re
2O
7として輝水鉛鉱から分離され、スクラバー等の洗浄工程で回収された後、精製される。
【0003】
また、輝水鉛鉱は例えば黄銅鉱(Chalcopyrite、CuFeS
2)などの銅鉱物と共存することが知られているが、これら輝水鉛鉱と黄銅鉱とは浮遊選鉱などの一般的な方法では分離するのは困難である。そのため、浮遊選鉱の後段に位置する溶鉱炉などの炉を用いて乾式製錬により黄銅鉱から銅を得る場合は、輝水鉛鉱も同時に炉に装入されてしまう。その結果、炉から排出される主に亜硫酸ガスからなる排ガスには揮発したレニウムが混入する。
【0004】
硫酸製造プラントに原料ガスとして送られるこの排ガスには、上記レニウムのほか、銅鉱石に含まれるヒ素やカドミウム、亜鉛などが固体状または液体状の微粒子(フュームとも称される)の形で浮遊している。これら不純物を除去するため、排ガスは硫酸製造工程の前処理としてスクラバー等による洗浄処理が施される。排ガスに含まれるレニウムもこの洗浄処理で分離されるため、上記した多くの種類の元素からレニウムだけを選択的に回収することが必要となる。
【0005】
レニウムを選択的に回収する方法の一つとして、特許文献1には亜硫酸ガスを含んだ排ガスを硫化処理して得られるレニウムとヒ素とを少なくとも含む硫化物に対して酸化浸出を行い、得られた浸出液をアルカリで中和することで不純物であるヒ素を安定な形態で分離除去してヒ素品位の低い硫化レニウムを得る方法が開示されている。
【0006】
具体的には、非鉄金属製錬工場の熔錬工程から排出される亜硫酸ガスを含んだ排ガスを洗浄工程において水洗し、この洗浄工程から排出される、レニウム、ヒ素、カドミウムなどの様々な不純物元素を含んだ洗浄排液を硫化処理してこれら不純物元素を硫化澱物として回収する。そして、この硫化澱物に対して下記に示す浸出工程、中和浄液工程、及びレニウム回収工程で処理を行ってレニウムを硫化レニウムとして回収するものである。
【0007】
(浸出工程)
浸出工程では、硫化澱物に対して硫酸を主成分とする液体を加えてレパルプする。レパルプにより得たスラリーに高温の空気を吹き込んで酸化浸出を行う。これによりレニウムとその他の様々な元素の一部を含んだpHがおよそ0の浸出液が得られる。同時に、この酸化浸出では浸出されなかった元素が濃縮された浸出残渣が得られる。浸出残渣は、澱物処理工程に送られ、そこで残渣と廃液とに分けられる。分けた残渣は熔錬工程に繰り返され、廃液は排水処理工程で処理される。
【0008】
(中和浄液工程)
中和浄液工程では、上記浸出液に中和剤として例えば苛性ソーダを添加し、およそpH7で中和処理する。これを濾過することにより、レニウムが濃縮された中和濾液と、レニウム以外の元素を含む中和澱物が得られる。この中和澱物は熔錬工程に繰り返される。
【0009】
(レニウム回収工程)
レニウム回収工程では、上記中和濾液に硫酸を添加してpHをほぼ0に調整すると共に、水硫化ナトリウムを添加する。これら中和濾液の液張り、pH調整、及び水硫化ソーダ添加からなる硫化処理と称する一連の操作により中和濾液中のレニウムが硫化レニウムとして析出する。この硫化レニウムを含むスラリーを固液分離して硫化レニウムが回収される。スラリーから硫化レニウムが除かれた後の溶液は廃液として排水処理工程で処理される。
【0010】
また、特許文献2には、上記と同様の浸出工程、中和洗浄工程、及びレニウム回収工程からなる方法によりヒ素品位の低い硫化レニウムを製造する方法において、該硫化レニウム中のカドミウム品位も同時に低く抑える方法が開示されている。具体的には、この方法は上記中和浄液工程において、苛性ソーダ添加後にカルシウム系中和剤を添加し、より高いpHで中和するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2013/129130号
【特許文献2】特開2015−212401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記文献1及び2の方法によりヒ素品位の低い硫化レニウムを回収することができるものの、いずれの方法においても、中和浄液工程において硫酸を含む浸出液を苛性ソーダで中和する際、硫酸ナトリウムが多量に生成して後工程のレニウム回収工程において硫化レニウムに混入し、そのまま硫化レニウム製品中に残存するので問題になることがあった。そこで、硫化レニウム中の硫酸ナトリウムの含有率を20質量%以下に抑えることが求められていた。
【0013】
硫酸ナトリウム含有率を上記の通り低く抑える方法として、レニウム回収工程における硫酸および水硫化ソーダの添加量を規定量より低くすることが考えられる。この方法は、硫化レニウムへの硫酸ナトリウムの混入をある程度抑えることができるものの、レニウムの回収率が低下する問題を生ずることがあった。また、他の方法としてレニウム回収工程で得た硫化レニウムを水で洗浄することが考えられる。この方法により硫化レニウム中の硫酸ナトリウムの含有率を上記の規定値より低くすることができるが、レニウムが洗浄液に溶解してレニウムの回収率が低下する問題を生ずることがあった。
【0014】
本発明は、上記した従来の硫化レニウムの製造方法が抱える問題点に鑑みてなされたものであり、硫化澱物などのレニウムを含む物質に対して浸出工程、中和洗浄工程、及びレニウム回収工程からなる一連の工程で処理して硫化レニウムを作製する硫化レニウムの製造方法において、該レニウム回収工程の硫化処理によって得た硫化レニウムを含むスラリーから硫酸ナトリウムを選択的に取り除いて高純度の硫化レニウム製品を作製することが可能な硫化レニウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の硫化レニウム回収方法は、レニウム、ヒ素及びカドミウムを含む処理対象物を酸化浸出して浸出液を得る浸出工程と、前記浸出液をアルカリで中和してヒ素及びカドミウムを含有する中和沈殿物を生成し、レニウムを含有する中和濾液から該中和沈殿物を除去する中和浄液工程と、前記中和濾液を硫化処理して該中和濾液に含まれるレニウムを硫化レニウムとして回収するレニウム回収工程とを含む硫化レニウムの回収方法であって、前記レニウム回収工程において、前記硫化レニウムを回収する前にそのスラリーに洗浄液を加えて、2.0規定以下で且つpH7.0以下の酸濃度および酸化還元電位(銀−塩化銀参照電極)が−0.5V以上0.2V以下の条件下で洗浄することを特徴とする硫化レニウムの回収方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、レニウムの回収率をほとんど低下させることなく硫化レニウム製品中の硫酸ナトリウム等の不純物の濃度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一具体例のレニウム回収方法の工程フロー図である。
【
図2】
図1の工程フローのうちレニウム回収工程を詳細に示した工程フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の硫化レニウムの回収方法の一具体例について説明する。この本発明の一具体例の硫化レニウムの回収方法は、非鉄金属製錬工場の熔練炉からの排ガスを水洗した時に排出される洗浄排水に対して、硫化処理を施すことによって生じる硫化澱物などのレニウム、ヒ素及びカドミウムを含む物質を処理対象物としており、この処理対象物を酸化浸出して浸出液を得る浸出工程と、得られた浸出液をアルカリで中和してヒ素及びカドミウムを含有する中和沈殿物を生成し、レニウムを含有する中和濾液からこの中和沈殿物を除去する中和浄液工程と、得られた中和濾液を硫化処理して該中和濾液に含まれるレニウムを硫化レニウムとして回収するレニウム回収工程とからなる。以下、これら工程の各々について、
図1の工程フロー図を参照しながら具体的に説明する。
【0019】
(浸出工程)
浸出工程1では、回収対象元素のレニウムのほか、カドミウムやヒ素などの不純物を含む上記の硫化澱物などの処理対象物に対して硫酸を主成分とする水溶液を加えてレパルプする。このレパルプにより生成されるスラリーに高温の空気又は空気及び水蒸気を吹き込んで酸化浸出を行う。酸化浸出後は必要に応じて固液分離を行うことで、上記処理対象物に含まれるほとんどのレニウム及びその他の様々な元素の一部を含んだpHがおよそ0の浸出液と、上記酸化浸出1では浸出されなかった元素が濃縮された浸出残渣とが得られる。浸出液は後述する中和洗浄工程2に送られ、浸出残渣は澱物処理工程4に送られる。この澱物処理工程4では遠心分離などにより固液分離が行われ、残渣と廃液とに分けられる。残渣は熔錬工程5に繰り返され、廃液は排水処理工程6で処理される。
【0020】
(中和浄液工程)
中和浄液工程2では、上記の浸出液に中和剤として例えば苛性ソーダを添加し、およそpH7で中和処理する。この中和処理後はフィルタープレスなどの固液分離を行うことでレニウムが濃縮された中和濾液と、レニウム以外の元素からなる中和澱物とが得られる。この中和澱物は回収された後、上記の澱物処理工程4の残渣の場合と同様に熔錬工程5に繰り返される。
【0021】
(レニウム回収工程)
レニウム回収工程3では、上記中和洗浄工程2で得た中和濾液を硫化処理して該中和濾液に含まれるレニウムが硫化レニウムとして回収される。このレニウム回収工程3について
図2を参照しながらより詳細に説明する。
図2に示すように、レニウム回収工程3は硫化工程31、スラリー洗浄工程32、及び固液分離工程33の一連の工程からなる。
【0022】
先ず硫化工程で31では、上記の中和濾液に酸および硫化剤を添加して該中和濾液に含まれるレニウムを硫化レニウムとして沈殿させる。酸の添加では、反応液のpHが約0程度になるように添加量を調整する。添加する酸には硫酸または塩酸を用いることができるが、反応槽等の設備機器に用いる材質の選択の自由度や揮発性などの観点から硫酸の使用が望ましい。
【0023】
一方、硫化剤としては、水硫化ナトリウムなどの水硫化アルカリ、硫化ナトリウムなどの硫化アルカリ、硫化カルシウムなどの硫化アルカリ土類、硫化水素等を用いることができるが、これらの中では水硫化ナトリウムや硫化水素が入手しやすいので好適であり、取り扱いやすさの点で水硫化ナトリウムがより好適である。この反応により生成した硫化レニウムを含む懸濁液は、好ましくは静置(デカンテーション)により上澄み液を除くことで、沈降した硫化レニウムを含むスラリー(以、下硫化レニウムスラリー又は単にスラリーと称する)が得られる。
【0024】
次のスラリー洗浄工程32では、上記スラリーに対して、体積基準で5倍以上の洗浄液を添加混合して洗浄する。その際、酸濃度が2.0規定以下で且つpH7.0以下であって、酸化還元電位(銀−塩化銀電極を参照電極としたときの測定値であり、以降の酸化還元電位においても同じである)が−0.5V以上0.2V以下の条件下で硫化レニウムを洗浄する。この酸濃度が2.0規定を超えると、硫化レニウムが再溶解する。また酸性の硫化レニウムスラリーに洗浄液として水を添加して洗浄を繰り返しても、pHは7を超えることがないので、pH7を上限にしている。酸化還元電位が0.2Vを超えると、硫化レニウムは過レニウム酸イオンとなり再溶解する。強い還元剤を添加すれば、酸化還元電位を低くすることができるが、経済的でないため、酸化還元電位の下限は−0.5Vで十分である。なお、上記の酸濃度の上限については、2.0規定に代えて当該2.0規定のときのpH値で限定してもよい。このpH値は一般的にはpH=−log[酸濃度]から導きだすことができ、上記の場合ではpH−0.3程度になるが、pHが0未満になるとpH計での測定が困難になるので酸濃度の上限は規定で限定するのが好ましい。
【0025】
上記の洗浄では、洗浄液の量がスラリーの量に対して体積基準で5倍未満では、洗浄中の洗浄液に含まれる硫酸ナトリウム濃度が高くなりすぎて洗浄不足のリスクが高くなるうえ、硫酸ナトリウムが硫化レニウムの付着液に伴って後工程の濾過器へキャリーオーバーする量が増加するおそれがある。洗浄液の量の上限については特に制約はないが、15倍程度を超えるとそれ以上効果が上昇しなくなるので不経済である。なお、洗浄不足を防ぐため、30分以上撹拌することが好ましい。
【0026】
上記の洗浄中の酸濃度は、硫酸または塩酸を用いることで上記範囲内に調整することができるが、反応槽等の設備器機に用いる材質の選択の自由度や揮発性などの観点から硫酸を用いるのが望ましい。一方、酸化還元電位は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の硫化物、硫化水素、水素等の還元剤などを用いて調整することができる。これらの中では、入手しやすく且つ硫化レニウムがレニウムイオンと硫黄イオンに分解することを抑制できるので、水硫化ナトリウム又は硫化水素を用いるのが望ましく、取り扱いやすさの点で水硫化ナトリウムがより望ましい。
【0027】
上記のスラリーの洗浄後は、固液分離のため上記の洗浄液を含むスラリーを2時間以上静置する。この静置時間が2時間よりも短いと固液分離が不十分となり、スラリーに含まれる硫化レニウムが上澄み液側に排出されてロスになる可能性が高まる。このロスを減らすため、後述する上澄み液の抜出量を減らすことが考えられるが、この場合は上澄み液の抜出し後に残存するスラリーの濃度が低くなり、後工程の固液分離工程33において濾過時間が長くなるので生産効率が低下する。
【0028】
このスラリー洗浄工程32の静置においても上記の洗浄中の場合と同様に、スラリーの酸濃度を2.0規定以下で且つpHを7.0以下とし、酸化還元電位を−0.5V以上0.2V以下となるようにするのが好ましい。なお、上記の洗浄中や静置している間は、スラリーの酸化還元電位が0.2Vを超えないようにするのが好ましい。酸化還元電位の具体的な調整方法としては、洗浄中や静置している間の洗浄槽や静置槽内の酸化還元電位を測定し、酸化還元電位が0.2Vを超えそうになったら還元剤を添加する。あるいは、酸化還元電位が0.2Vを超えないように、あらかじめ還元剤を多めに洗浄水に添加しておく。また、槽内は窒素パージし、空気中の酸素が洗浄液を含むスラリーにできるだけ混入しないようにする。
【0029】
静置後は上記洗浄液を含むスラリーの体積の80%以上を上澄み液として抜き出す。上澄み液の抜き出しにより残存する硫化レニウム濃度の高い濃縮スラリーは、次に固液分離工程33においてフィルタープレス等の濾過器に通液して濾過が行われる。この濃縮スラリーの濾過後は、濾過器に通液した濃縮スラリーの量と同体積以上の洗浄液を濾過器に通液するのが好ましい。これにより濾過ケーキが洗浄されるので、硫化レニウムに含まれる硫酸ナトリウム等の不純物の濃度をより一層低減することができる。洗浄後は濾過器内から濾過ケーキを回収し、必要に応じて乾燥することで硫化レニウム製品となる。
【0030】
硫化レニウム製品の純度をより一層高めるため、上記の固液分離工程33で得た濾過ケーキを再度スラリー洗浄工程32に戻して上記の洗浄とその後の固液分離とを繰り返してもよい。この場合は、洗浄中および静置している間のスラリーの酸濃度および酸化還元電位を上記した範囲内に維持することで、レニウムの再溶解による損失を抑えることができる。以上説明した硫化レニウムの回収方法により、非鉄金属製錬工場の熔錬炉から排出される排ガスに随伴するレニウムの硫化物等のレニウムを含む物質から高純度の硫化レニウムを効率よく回収ことができる。
【実施例】
【0031】
[実施例1]
銅製錬工場で発生した亜硫酸ガスを含む排ガスを水洗する洗浄塔からの洗浄排液に対して水硫化ソーダを用いて硫化処理し、レニウムを含む硫化澱物を回収した。この硫化澱物に対して、
図1の工程フローに沿って処理し、硫化レニウムを回収した。具体的には、先ず硫化澱物に濃度150g/Lの硫酸水溶液を加えてレパルプし、得られたスラリーの温度が70℃になるように空気と共に蒸気を吹き込み、酸化浸出を行った。これによりpHがおよそ0の浸出液を得た(浸出工程1)。この浸出液を25℃でpHが6.8になるように、20質量%の苛性ソーダを添加して中和処理をして中和澱物を生成させた。この中和澱物を濾紙を敷いたヌッチェを用いて除去し、中和濾液を得た(中和浄液工程2)。
【0032】
上記の中和濾液に対して、
図2に示す工程フローに沿ってレニウム回収工程を行った。具体的には、先ず酸濃度が1.0規定となるように70%硫酸を添加した。この時、反応液のpHはおよそ0であった。次に中和濾液に含まれるレニウムから硫化レニウムを生成するのに必要な化学量論量の1.05倍の水硫化ナトリウムを添加して硫化処理を行い、硫化レニウムを生成し、そのまま2時間静置した(硫化工程31)。
【0033】
上記の2時間の経過後、全体の85体積%に相当する量を上澄み液として上部から抜き取った。残部の硫化レニウムを含むスラリーに対して、体積で10倍量の洗浄水を添加し、40分攪拌した(スラリー洗浄工程32)。この洗浄水には70%硫酸と水硫化ナトリウムを用いて酸濃度1.0規定、銀−塩化銀電極を参照電極とした酸化還元電位0.14Vに調整したものを用いた。撹拌後はそのまま3時間静置した。静置中は容器内を窒素パージし、空気による酸化が生じないようにした。
【0034】
尚、上記の撹拌中及び静置を行っている間は、スラリーの酸化還元電位を測定し、酸化還元電位(銀−塩化銀参照電極)が0.15Vを超えたら水硫化ナトリウム溶液を添加する用意をしたが、0.15Vを超えることはなかった。すなわち、上記の撹拌中および静置している間のスラリーの酸濃度は1.0規定(pHは0)、酸化還元電位は0.14Vであった。
【0035】
上記3時間の静置後、全体の85%に相当する量を上澄み液として上部から抜き取り、残部の硫化レニウムがより濃縮した濃縮スラリーを濾過器に通液して濾過した(固液分離工程33)。この濃縮スラリーの濾過により得られた濾過ケーキを洗浄するため、上記の酸濃度及び酸化還元電位が調整された洗浄水を、濾過器に通液した上記濃縮スラリーと同体積だけ濾過器に通液した。この濾過ケーキを乾燥機で乾燥することにより実施例1の硫化レニウム製品を作製した。
【0036】
[実施例2]
弱塩基性で且つ酸化還元電位の高い洗浄水を用いて硫化レニウムを含むスラリーを洗浄して実施例2の硫化レニウム製品を作製した。具体的には、中和濾液に対して硫酸添加時の酸濃度が1.0規定に代えて2.5規定になるようにすること、水硫化ナトリウムの添加量を化学量論量の1.05倍に代えて1.1倍量にすること、硫化レニウムを含むスラリー及び濃縮スラリーを得るための上澄み液の抜き出し量を各々85%に代えて80%にすること、洗浄水としてpH7.5、酸化還元電位0.4Vのイオン交換水を用い、これをスラリーに対して体積基準で5倍添加したことを除いて上記試料1の場合と同様にして試料2の硫化レニウム製品を作製した。尚、攪拌および静置している間のスラリーの酸濃度は0.5規定(pHは0.3)、酸化還元電位は0.11Vであった。
【0037】
[実施例3]
実施例1の方法により得られた硫化レニウム製品を原料として、スラリー洗浄工程32のスラリー洗浄を再度行った。スラリー洗浄条件は、実施例2の条件を適用した。攪拌中および静置している間の酸濃度はおよそpH3であった。酸化還元電位は−0.07Vを超えた段階で水硫化ナトリウムを添加して、酸化還元電位を−0.07V以下とした。静置中の酸化還元電位は、−0.07V未満であった。静置後、濾過器でスラリーを濾過し、さらに希硫酸で酸濃度pH3、水硫化ナトリウムで酸化還元電位を−0.07Vに調整した前記スラリーと同体積の洗浄液を濾過器に通液して、実施例3の硫化レニウム製品を得た。
【0038】
[実施例4]
実施例3の方法により得られた硫化レニウム製品を原料として、スラリー洗浄工程32のスラリー洗浄を再度行った。スラリー洗浄条件は、実施例2の条件を適用した。攪拌中および静置している間の酸濃度はおよそpH6であった。酸化還元電位は−0.3Vを超えた段階で水硫化ナトリウムを添加して、酸化還元電位を−0.3V以下とした。静置中の酸化還元電位は、−0.3V未満であった。静置後、濾過器でスラリーを濾過し、さらに希硫酸で酸濃度pH6、水硫化ナトリウムで酸化還元電位を−0.3Vに調整した前記スラリーと同体積の洗浄液を濾過器に通液して、実施例4の硫化レニウム製品を得た。
【0039】
[実施例5]
実施例1の方法により得られた硫化レニウム製品を原料として、スラリー洗浄工程32のスラリー洗浄を再度行った。スラリー洗浄条件は、実施例2の条件を適用した。攪拌中および静置している間の酸濃度はおよそpH3であった。酸化還元電位は−0.3Vを超えた段階で水硫化ナトリウムを添加して、酸化還元電位を−0.3V以下とした。静置中の酸化還元電位は、−0.3V未満であった。静置後、濾過器でスラリーを濾過し、さらに希硫酸で酸濃度pH3、水硫化ナトリウムで酸化還元電位を−0.3Vに調整した前記スラリーと同体積の洗浄液を濾過器に通液して、実施例5の硫化レニウム製品を得た。
【0040】
[比較例1]
硫化工程31までは実施例1と同様にして硫化レニウムを含むスラリーを生成し、これを2時間静置後、全体の85体積%に相当する量を上澄み液として上部から抜き取り、残部の硫化レニウムを含むスラリーに対して、体積で10倍量の希硫酸で酸濃度1規定とした洗浄液を添加し、40分攪拌した。攪拌中の酸濃度は1.0規定であった。撹拌時および静置の間は酸化還元電位の調整は行わなかった。そのため、酸化還元電位は当初0.16Vであったが、徐々に酸化して攪拌終了時には酸化還元電位は0.4Vとなった。攪拌後はそのまま3時間静置した。攪拌中および静置中は、容器内の窒素パージをしなかった。
【0041】
上記3時間の静置後、全体の85%に相当する量を上澄み液として上部から抜き取り、硫化レニウムがより濃縮した残部の濃縮スラリーを濾過器に通液して濾過した。得られた濾過ケーキを洗浄するため、希硫酸で酸濃度を1.0規定に調製した洗浄液を濾過器に通液した上記濃縮スラリーと同体積だけ濾過器に通液した。洗浄液の酸化還元電位は、0.4Vであった。この濾過ケーキを乾燥機で乾燥することにより比較例1の硫化レニウム製品を作製した。
【0042】
[比較例2]
硫化工程31までは実施例2と同様にして硫化レニウムを含むスラリーを生成した後、スラリー洗浄工程32では実施例2と同様のイオン交換水を実施例2と同じ量添加し、40分に代えて1時間攪拌した。その後3時間静置した。攪拌中の酸濃度はおよそpH3であった。撹拌時および静置の間は酸化還元電位の調整を行わなかった。そのため、酸化還元電位は当初0.01Vであったが、徐々に参加して攪拌終了時には酸化還元電位は0.4Vとなった。攪拌後はそのまま3時間静置した。攪拌中および静置中は、容器内の窒素パージをしなかった。
【0043】
静置後、濾過器でスラリーを濾過し、さらに希硫酸で酸濃度pH3に調整した前記スラリーと同体積の洗浄液を濾過器に通液して、比較例2の硫化レニウム製品を得た。洗浄液の酸化還元電位は0.4Vであった。この濾過ケーキを乾燥機で乾燥することにより比較例2の硫化レニウム製品を作製した。
【0044】
[比較例3]
硫化工程31までは上記実施例1と同様にして硫化レニウムを含むスラリーを生成した後、そのスラリーをスラリー洗浄工程32で処理することなく固液分離工程33において濾過器に直接通液して硫化レニウムの濾過ケーキを得た。この濾過ケーキを乾燥機で乾燥することにより比較例3の硫化レニウム製品を作製した。
【0045】
上記実施例1〜5および比較例1〜3の硫化レニウムの作製の際、洗浄後の上澄み液(比較例3の場合を除く)、濾液および硫化レニウム製品に含まれるレニウムの含有量をICP分析装置で測定してレニウム品位及びレニウム回収率を得た。その際、硫化レニウム製品中の硫化レニウムがすべて七硫化二レニウム(VII)(Re
2S
7)として換算した。また、硫化レニウム比率および硫化ナトリウム比率は硫化レニウム製品の質量および硫化レニウム製品中の七硫化二レニウムの質量および硫化ナトリウムの質量から求めた。これら実施例1〜5および比較例1〜3のレニウム品位、硫化レニウム比率および回収率を下記表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
上記表1の結果から、本発明の要件を満たす条件で硫化レニウムを洗浄した実施例1〜5では、レニウム品位の高い硫化レニウム製品を高い回収率で回収することができた。これに対して、硫化レニウムの洗浄は行ったものの酸化還元電位の調整を行わなかった比較例1および2では、硫化レニウム製品のレニウム品位は高くなったが回収率が悪かった。また、比較例3では硫化レニウムを洗浄しなかったため、レニウム回収率は高かったが硫化レニウム製品中のレニウム品位が低くなった。
【符号の説明】
【0048】
1 浸出工程
2 中和浄液工程
3 レニウム回収工程
31 硫化工程
32 スラリー洗浄工程
33 固液分離工程