(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1乃至4の何れかに記載の水性エマルションと、液状のウレタンプレポリマーとを、止水対象部材における止水対象部分に注入することによって、前記止水対象部分を止水することを特徴とする止水工法。
請求項5に記載の止水工法であって、前記ウレタンプレポリマーは、ウレタン樹脂と上水道水の総重量に対してウレタン樹脂を10重量%の濃度で添加した時の硬化時間が、常温(20℃)で30分以上となる遅延硬化型であることを特徴とする止水工法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
水と、ヒドロキシル基を有した分子構造の樹脂固形分と、アニオン系界面活性剤と、を有することを特徴とする水性エマルションである。
【0013】
かかる水性エマルションによれば、ウレタンプレポリマーと混合すると、ウレタンプレポリマーのイソシアネート基と水性エマルションの樹脂固形分のヒドロキシル基とが化学反応に基づいて化学的に直接結合して一体化し、これにより、分解し難い硬化物が形成される。よって、かかる硬化物に基づいて、止水物は、より長期的に高い耐久性を奏することができる。
【0014】
また、上記の水性エマルションの乳化は、アニオン系界面活性剤でなされている。よって、乳化のためのポリビニルアルコール等の水溶性高分子の使用を抑えることができて、これにより、当該水溶性高分子で乳化した場合に起こり得る問題を回避し易くなる。
例えば、水溶性高分子のヒドロキシル基にウレタンプレポリマーのイソシアネート基が反応することに起因して樹脂固形分のヒドロキシル基と反応すべきウレタンプレポリマーのイソシアネート基が減ってしまうことを抑制できて、これにより、上記の分解し難い硬化物を確実且つ比較的短時間で形成可能となる。また、水性エマルションの樹脂固形分同士の融着を水溶性高分子が阻害してしまうことを抑制できて、その結果、樹脂固形分の硬化を比較的短時間で行うことができる。更に、ウレタンプレポリマーと水との反応を当該水溶性高分子が妨げてしまうということを抑制できて、これにより、ウレタンプレポリマーは比較的短時間で架橋してポリウレタン樹脂の硬化物を形成することができる。そして、以上により、止水物は止水効果を速やかに奏することができる。
【0015】
かかる水性エマルションであって、
前記樹脂固形分の重量平均分子量は、1000よりも大きく2000000以下であるのが望ましい。
【0016】
かかる水性エマルションによれば、上記の樹脂固形分の重量平均分子量は1000よりも大きいので、かかる樹脂固形分に基づいて、より安定した硬化物を止水物として形成可能となる。
【0017】
かかる水性エマルションであって、水溶性高分子を含んでいないのが望ましい。
【0018】
かかる水性エマルションによれば、水溶性高分子のヒドロキシル基にウレタンプレポリマーのイソシアネート基が反応することに起因して樹脂固形分のヒドロキシル基と反応すべきウレタンプレポリマーのイソシアネート基が減ってしまうことを防ぐことができる。そして、これにより、上記の分解し難い硬化物を確実且つ比較的短時間で形成可能となる。
また、水性エマルションの樹脂固形分同士の融着を当該水溶性高分子が阻害することについても防ぐことができて、その結果、樹脂固形分の硬化を比較的短時間で行うことができる。
更に、ウレタンプレポリマーと水との反応を当該水溶性高分子が妨げてしまうことについても防ぐことができて、これにより、ウレタンプレポリマーは比較的短時間で架橋してポリウレタン樹脂の硬化物を形成可能となる。
【0019】
かかる水性エマルションであって、前記樹脂固形分の水酸基価は、1〜100の範囲に含まれているのが望ましい。
【0020】
かかる水性エマルションによれば、上記の樹脂固形分は、比較的多くのヒドロキシル基を有している。よって、当該樹脂固形分のヒドロキシル基は、ウレタンプレポリマーのイソシアネート基と速やかに化学的に直接結合して一体化することができて、これにより、分解し難い硬化物を確実に形成可能となる。
【0021】
上記の何れかに記載の水性エマルションと、液状のウレタンプレポリマーとを、止水対象部材における止水対象部分に注入することによって、前記止水対象部分を止水することを特徴とする止水工法である。
【0022】
かかる止水工法によれば、上記の水性エマルションとウレタンプレポリマーとを上記の止水対象部分に注入する。よって、上述した作用効果と同様の作用効果を奏することができて、これにより、当該止水対象部分の止水を速やかに行うことができるとともに、その止水効果を長期に亘って保つことができる。
【0023】
かかる止水工法であって、前記水性エマルションと前記液状のウレタンプレポリマーとの配合は、重量比で100:21〜100:100の範囲内となるように行われるのが望ましい。
【0024】
かかる止水工法によれば、上述した作用効果を確実に奏することができる。
【0025】
===本実施形態===
図1A乃至
図1Dは、本実施形態の止水工法の説明図である。また、
図2は、同止水工法に供される注入装置20の注入ヘッド25の一部破断側面図である。
この止水工法は、止水対象部材としてのコンクリート製構造物1において止水対象部分となるひび割れ部1pwに薬液を注入して当該ひび割れ部1pwを埋めるものである。なお、この例では、止水対象部分1pwとしてひび割れ部1pwを例示しているが、何等これに限らない。すなわち、漏水が生じ得るような空隙を有した部分であれば、止水対象部分とすることができて、例えば、コンクリートの打ち継ぎ部を止水対象部分1pwとしても良い。
【0026】
図1Aに示すように、この止水工法では、先ず、コンクリート製構造物1の近傍に注入装置20を搬入・配置する。注入装置20は、2液混合型の装置である。すなわち、互いに種類の異なる薬液を貯留する二つのタンク22u,22eと、タンク22u,22e毎に設けられたポンプ23u,23eと、各高圧ホース24u,24eを介して各ポンプ23u,23eから各薬液が圧送される注入器具25としての注入ヘッド25と、を有する。一方のタンク22uには、第1薬液として液状のウレタンプレポリマーが貯留されており、もう一方のタンク22eには、第2薬液として水性エマルションが貯留されている。そして、これらウレタンプレポリマーと水性エマルションとは、対応する各ポンプ23u,23eによってそれぞれ別個に注入ヘッド25へ圧送供給されるとともに、同ヘッド25内の流路SP25c(
図2)で混合されて同ヘッド25の吐出口25hから混合状態で吐出される。
【0027】
詳しくは、
図2に示すように、注入ヘッド25は、二股形状の基部25aと、基部25aに一体に設けられる基部側筒部25bと、基部側筒部25bに適宜な管継手25jを介して略同軸且つ着脱自在に設けられる先端側筒部25cと、を有する。基部25aには、二つの流路R25au,R25aeが設けられており、各流路R25au,R25aeには、それぞれ上記二つの高圧ホース24u,24eのうちの対応する各高圧ホース24u,24eが接続されている。また、これら二つの流路R25au,R25aeは基部25a内の所定位置で合流して一つの流路R25a1となっていて、当該一つの流路R25a1は基部側筒部25bの筒内流路SP25bに繋がっている。そして、更に当該筒内流路SP25bは、ミキサー26内蔵の上記先端側筒部25cの筒内流路SP25cに繋がっている。よって、各タンク22u,22eから圧送されたウレタンプレポリマー及び水性エマルションは、注入ヘッド25内の基部25a内で合流し、そして、基部側筒部25bを経て先端側筒部25cを通る際には、これらウレタンプレポリマーと水性エマルションとは略螺旋型の上記ミキサー26で撹拌・混合される。そして、当該混合状態で先端側筒部25cの吐出口25hから吐出される。
【0028】
一方、かかる注入装置20の搬入・配置作業と同時並行或いは相前後して、
図1Aに示すように、止水対象のコンクリート製構造物1に対し、ひび割れ部1pwに繋がるように注入孔1hを穿孔する。なお、かかる注入孔1hは複数形成され、例えば、水平方向及び鉛直方向の各方向に対して200mm等の形成ピッチで並んで形成される。
【0029】
そうしたら、
図1Bのように、注入孔1hに注入ヘッド25の先端側筒部25cを差し込み、各ポンプ23u,23eを起動などして、先端側筒部25cの吐出口25hから、ウレタンプレポリマーと水性エマルションとの混合物を吐出し、これにより当該混合物をひび割れ部1pwに注入する。なお、この注入された混合物は、比較的短時間で硬化する。すなわち、ウレタンプレポリマーの発泡硬化に必要な水は、水性エマルションから供給され、他方、この供給により、水性エマルションからは水が消費されて水性エマルションは硬化する。よって、基本的に、ウレタンプレポリマーの発泡硬化が比較的短時間でなされるだけでなく、水性エマルションの硬化も比較的短時間でなされる。
【0030】
なお、注入し終えたら、各ポンプ23u,23eを停止するか、或いは注入ヘッド25内の流路R25au,R25aeを不図示のバルブで閉じる等して、吐出口25hからの吐出を停止する。そして
図1Cのように注入ヘッド25の先端側筒部25cを注入孔1hから抜く。そうしたら、この注入孔1hの水平方向又は鉛直方向の隣に位置する未注入の注入孔1h(
図1A乃至
図1Dでは不図示)へ移行して、当該注入孔1hに対して上述の注入作業を繰り返す。また、注入済みの注入孔1hには、
図1Dのように、モルタル等の適宜な充填材Z1を充填等して孔の無い状態に仕上げる。
【0031】
ここで、第1薬液たる液状のウレタンプレポリマーの一例としては、遅延硬化型のウレタン樹脂を例示できる。なお、遅延硬化型のウレタン樹脂とは、ウレタン樹脂と上水道水の総重量に対してウレタン樹脂を10重量%の濃度で添加した時の硬化時間が、常温(20℃)で30分以上となるものである。 但し、何等これに限らない。すなわち、遅延硬化型以外のウレタン樹脂を使用しても良い。
【0032】
一方、第2薬液たる水性エマルションとしては、従来、次の二つのものが使用されていた。すなわち、第1従来例の水性エマルションE1は、樹脂固形分J1としてヒドロキシル基を有さない分子構造のアクリル樹脂を、アニオン系又はノニオン系の界面活性剤K1で水Wに乳化させたものであり、また、第2従来例の水性エマルションE2は、樹脂固形分J2としてヒドロキシル基を有さない分子構造のアクリル樹脂及び石油樹脂を、界面活性剤としてのポリビニルアルコール(以下、PVAとも言う)で水Wに乳化させたものである。
【0033】
しかし、これら第1従来例及び第2従来例の各水性エマルションE1,E2は、硬化形成された止水物SB1,SB2がより長期的に安定した止水効果を得難いといった問題や、止水効果を速やかに得難いといった問題を有している。
図3A乃至
図3C及び
図4A乃至
図4Cは、その問題点などの説明図である。
【0034】
先ず、
図3Aの左図に示すように、第1従来例の水性エマルションE1は、分散媒としての水Wと、アクリル樹脂(
図3B)等のヒドロキシル基を有さない分子構造の樹脂固形分J1と、アニオン系又はノニオン系の界面活性剤K1と、を有している。なお、アニオン系の界面活性剤としては、R−SO
3Na等のスルホン酸塩やR−COONa等のカルボン酸塩を例示でき、また、ノニオン系の界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテルなどを例示できる。
【0035】
そして、
図3Aに示すように、かかる水性エマルションE1とウレタンプレポリマーUPPとを混合すると、前述のように水性エマルションE1から供給される水Wが、ウレタンプレポリマーUPPと反応(
図3C)し、そして、ウレタンプレポリマーUPPが架橋して発泡硬化し、その結果、
図3Aの右図に示すように架橋高分子の硬化物としてポリウレタン樹脂の硬化物KPUが形成される。また、水性エマルションE1については、上記のウレタンプレポリマーUPPへの水Wの供給によって水Wが消費されるので、同水性エマルションE1中に分散するアクリル樹脂等の樹脂固形分J1,J1同士が互いに融着して硬化し、これにより、樹脂固形分J1の硬化物KJ1が形成される(
図3Aの右図を参照)。
【0036】
しかしながら、この場合、ウレタンプレポリマーUPPと樹脂固形分J1とは化学反応をしていないので、化学的に結合一体化しておらず、つまり、それぞれ別個に形成された硬化物KJ1,KPUが単に混ざった状態になっているだけである。故に、
図3Aの右図に示すようにポリウレタン樹脂の硬化物KPUと樹脂固形分J1の硬化物KJ1との間には大きな界面BS1が存在しており、また、当該界面BS1では概ね分子間力しか働いていないので、当該界面BS1は低強度である。よって、かかる大きな界面BS1を有する止水物SB1に対しては、より高い耐久性を期待することができず、その結果、より長期的に安定した止水効果についても期待できない。
【0037】
一方、
図4Aの左図に示すように、第2従来例の水性エマルションE2は、分散媒としての水Wと、ヒドロキシル基を有さない分子構造の樹脂固形分J2としてのアクリル樹脂(例えばアクリル酸ブチルエステル)及び石油樹脂と、界面活性剤としてのPVA(
図4B)と、を有している。そして、かかる水性エマルションE2とウレタンプレポリマーUPPとを混合した場合も、上述の第1従来例の場合と同様に水Wとの反応等(
図3C)でウレタンプレポリマーUPPが発泡硬化して、これにより、ウレタンプレポリマーUPPは架橋して単独でポリウレタン樹脂の硬化物KPUが形成されるとともに、水性エマルションE2の方でも、樹脂固形分J2,J2同士が互いに融着して硬化して、これにより、単独で樹脂固形分J2の硬化物KJ2が形成される(
図4Aの右図を参照)。そのため、この場合も、それぞれ別個に形成された硬化物KPU,KJ2が単に混ざった状態になっているだけであって、故に、
図4Aの右図に示すようにポリウレタン樹脂の硬化物KPUと樹脂固形分J2の硬化物KJ2との間には大きな界面BS2が存在し、その結果、この止水物SB2に対しても、より高い耐久性を期待することはできない。
【0038】
更に、この第2従来例の場合には、
図4Aの左図に示すように、水性エマルションE2は、樹脂固形分J2の外周を覆うPVAのヒドロキシル基(水酸基、OH基)に基づいて乳化しているが、ここで、PVA中にヒドロキシル基が存在することから、
図4Cに示すように、当該ヒドロキシル基がウレタンプレポリマーUPPのイソシアネート基と反応してしまい、その結果、水Wと反応(
図3C)すべきウレタンプレポリマーUPPが減ってしまう。そのため、この場合には、ウレタンプレポリマーUPPが架橋し難くなってしまい、これにより、硬化形成されるポリウレタン樹脂の硬化物KPUの分子量が小さくなってしまう。そして、その結果、かかる硬化物KJ2,KPUからなる止水物SB2は、安定した止水効果を奏することが困難となる。また、
図4Aの左図に示すように、水性エマルションE2の樹脂固形分J2はPVAで覆われていることから、当該PVAが樹脂固形分J2,J2同士の融着を妨げてしまって、その結果、水性エマルションE2が硬化し難くなって硬化時間が長くなり、これにより、止水効果を速やかに得ることが困難である。
【0039】
そこで、本実施形態では、次のような組成の水性エマルションE3を使用している。すなわち、
図5Aの左図に示すように、この水性エマルションE3は、分散媒としての水Wと、分子末端にヒドロキシル基(水酸基、OH基)を有した分子構造(分子式)の樹脂固形分J3(
図5B)と、アニオン系界面活性剤K3と、を有している。
【0040】
そして、このような組成の水性エマルションE3によれば、ウレタンプレポリマーUPPと混合すると、
図5Cに示すような化学反応に基づいてウレタンプレポリマーUPPのイソシアネート基と水性エマルションE3の樹脂固形分J3のヒドロキシル基とが化学的に直接結合して一体化して、これにより、分解し難い硬化物KJ3PUが形成される。よって、かかる硬化物KJ3PUに基づいて、
図5Aの右図の止水物SB3は、より長期的に高い耐久性を奏することができる。また、ウレタンプレポリマーUPP及び樹脂固形分J3の大半は上記の反応で消費されるので、水Wとの反応(
図3C)で個別形成されるポリウレタン樹脂の硬化物KPUの量は、同
図5Aの右図に示すように少なくなり、また、同様に水性エマルションE3の樹脂固形分J3,J3同士の融着で個別形成される樹脂固形分J3の硬化物KJ3の量も、同
図5Aの右図に示すように少なくなる。そのため、これらの界面BS3の大きさも小さくなって、このことも、上記の止水物SB3の耐久性の向上に有効に寄与する。
【0041】
また、
図5Aの左図に示すように、この水性エマルションE3は、アニオン系界面活性剤K3で乳化されている。そのため、乳化のためのPVA等の水溶性高分子の使用を抑えることができて、この例では、水溶性高分子を使用していない。すなわち、水性エマルションE3は、PVA等の水溶性高分子を含んでいない。
よって、PVA等の水溶性高分子のヒドロキシル基にウレタンプレポリマーUPPのイソシアネート基が反応することに起因して樹脂固形分J3のヒドロキシル基と反応すべきウレタンプレポリマーUPPのイソシアネート基が減ってしまう問題を防ぐことができる。そして、これにより、ウレタンプレポリマーUPPとの混合時に、上記の分解し難い硬化物KJ3PUを確実且つ比較的短時間で形成可能となる。また、水性エマルションE3の樹脂固形分J3,J3同士の融着を当該水溶性高分子が阻害する問題についても防ぐことができて、その結果、樹脂固形分J3の硬化も比較的短時間で行うことができる。更に、ウレタンプレポリマーUPPと水Wとの反応を当該水溶性高分子が妨げてしまう問題についても防ぐことができて、これにより、ウレタンプレポリマーUPPは比較的短時間で架橋してポリウレタン樹脂の硬化物KPUを形成可能となる。そして、以上の結果、ひび割れ部1pwの止水を速やかに行うことができる。
【0042】
なお、ヒドロキシル基を有した分子構造の樹脂固形分J3としては、
図5Bに示すようなヒドロキシル基を有した分子構造のアクリル樹脂を例示できて、ここでは、これが使用されている。但し、ヒドロキシル基を有した分子構造の樹脂固形分J3であれば、何等これに限らない。例えば、アクリル酸エステル系、スチレンアクリル酸エステル系、エチレン酢酸ビニル系、ポリプロピオン酸エステル系、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリエステル系、スチレンブタジエンゴム(SBR)系、クロロプレンゴム(CR)系、天然ゴム(NR)系等から構成される樹脂固形分でも良い。
【0043】
また、望ましくは、上記樹脂固形分J3の重量平均分子量を、1000よりも大きくすると良く、より望ましくは100000以上にすると良い。そして、このようにすれば、この樹脂固形分J3に基づいて、より安定した硬化物KJ3PU,KJ3を形成可能となる。また、架橋反応たる重合反応を円滑に行う観点から、上記樹脂固形分J3の重量平均分子量を2000000以下にすると良く、望ましくは1500000以下にすると良い。
【0044】
更に、上記樹脂固形分J3の水酸基価は、1〜100の範囲であり、望ましくは、20〜80の範囲である。そして、このような範囲であれば、樹脂固形分J3は、比較的多くのヒドロキシル基を有している。そのため、当該樹脂固形分J3のヒドロキシル基は、ウレタンプレポリマーUPPのイソシアネート基と速やかに化学的に直接結合して一体化し得て、これにより、分解し難い硬化物KJ3PUを確実に形成可能となる。
【0045】
また、混合時の水性エマルションE3とウレタンプレポリマーUPPとの配合比については、重量比で例えば100:21〜100:100の範囲から選択される。
【0046】
図6乃至
図9は、本実施形態の水性エマルションE3とウレタンプレポリマーUPPとを混合して硬化形成される止水物SB3の耐久性試験の説明図である。なお、ここでは比較例として、第1従来例の水性エマルションE1とウレタンプレポリマーUPPとを混合して硬化形成される止水物SB1の耐久性試験も行っている。また、
図6の表1には、試験に供した材料の諸元を示している。
【0047】
先ず、
図6の表1に示す本実施形態及び第1従来例の各水性エマルションE3,E1を準備し、また、ウレタンプレポリマーUPPとしてウレタン樹脂を準備した。そして、本実施形態及び第1従来例の各水性エマルションE3,E1を、それぞれウレタン樹脂と、1.5:1の混合比率(重量比)で混合することにより、1mm厚の硬化体をそれぞれ作製した。そして、各硬化体を14日間養生後、ダンベル状3号の抜き型で各硬化体から試験片を打ち抜いて作製し、その後、各試験片を、
図7の表2の何れか一つの薬品に91日浸漬した。そして、引張試験の前日に薬品から各試験片を取り出して常温気中環境下で一晩乾燥させた後に、500mm/minの引張速度で各試験片に対して引張試験を行った。なお、表2の薬品については、止水物が晒される使用環境を想定して選択した。
【0048】
図8及び
図9に引張試験結果を示す。なお、
図8は、引張強さのグラフであり、
図9は、破断時の伸び率のグラフである。また、
図8及び
図9のどちらのグラフも、上段の棒グラフが、本実施形態の水性エマルションE3の試験片の引張試験結果であり、下段の棒グラフが、第1従来例の水性エマルションE1の試験片の引張試験結果である。
【0049】
図8を見ると、何れの薬品に対しても、本実施形態の水性エマルションE3の試験片の引張強さの方が、第1従来例の水性エマルションE1の試験片の引張強さよりも高くなっている。また、
図9を見ると、破断時の伸び率(%)についても、本実施形態の水性エマルションE3の試験片の方が第1従来例の水性エマルションE1の試験片よりも高くなっている。よって、本実施形態の水性エマルションE3を用いて硬化形成される止水物SB3が、想定される使用環境においても高い耐久性を発揮することを確認できた。
【0050】
なお、ここでは、かかる耐久性試験を、上記の耐薬品性の観点だけでなく耐熱性及び耐水性の観点からも行っている。詳しくは次の通りである。
【0051】
先ず、上述の耐薬品試験と同様に、
図6の表1の本実施形態及び第1従来例の各水性エマルションE3,E1をそれぞれウレタン樹脂と混合することによって1mm厚の硬化体をそれぞれ作製した。そして、各硬化体を14日間養生後、ダンベル状3号の抜き型で各硬化体から試験片を打ち抜いて作製した。
【0052】
そうしたら、各試験片を
図10の表3に示す環境下で、すなわち、気中20℃、60℃、−18℃、及び、水中20℃、−18℃(氷中)の各環境下で91日静置した。その後、引張試験の前日に上記の環境から各試験片を取り出して常温気中環境下で一晩乾燥させた後に、500mm/minの引張速度で各試験片に対して引張試験を行った。なお、表3の条件については、止水物が晒される使用環境を想定して設定した。
【0053】
図11及び
図12に引張試験結果を示す。なお、
図11は、引張強さのグラフであり、
図12は、破断時の伸び率(%)のグラフである。また、
図11及び
図12のどちらのグラフも、上段の棒グラフが、本実施形態の水性エマルションE3の試験片の引張試験結果であり、下段の棒グラフが、第1従来例の水性エマルションE1の試験片の引張試験結果である。
【0054】
図11を見ると、何れの条件でも、本実施形態のエマルションE3の試験片の引張強さの方が、第1従来例の水性エマルションE1の試験片の引張強さよりも高くなっている。また、
図12を見ると、破断時の伸び率(%)についても、本実施形態の水性エマルションE3の試験片の方が第1従来例の水性エマルションE1の試験片よりも高くなっている。よって、本実施形態の水性エマルションE3を用いて硬化形成される止水物SB3が、耐熱性及び耐水性の観点からも高い耐久性を発揮することを確認できた。
【0055】
ところで、本実施形態の水性エマルションE3がPVA等の水溶性高分子を含有している場合に、硬化性が低下する旨を前述したが、本願発明者等は、この点についても試験で確認している。以下、これについて説明する。
【0056】
図13の表4に、この試験に供した材料の諸元を示す。
先ず、表4に示すように、材料として、本実施形態の水性エマルションE3、本実施形態の水性エマルションE3に更にPVAを混合した水性エマルションE4、及び、ウレタン樹脂(表1)を準備した。そして、各水性エマルションE3,E4とウレタン樹脂とを3:1の混合比率(重量比)で混合して、これにより、2種類の混合物を生成した。そして、各混合物が硬化してゲル化による抵抗を感じるまでの時間を、硬化時間として測定した。なお、かかる抵抗の測定については、触診及び目視で行った。
【0057】
同表4に、試験結果たる硬化時間を併記しているが、PVAを混合した水性エマルションE4の場合は、PVAを未混合の水性エマルションE3の場合よりも硬化時間が2倍以上に長くなっている。よって、本実施形態の水性エマルションE3にPVAを混合すると、硬化性が低下することを確認できた。
【0058】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。例えば、以下に示すような変形が可能である。
【0059】
上述の実施形態では、止水対象部材の一例としてコンクリート製構造物1を例示したが、何等これに限らない。例えば、モルタル製構造物等のその他のセメント組成体でも良いし、これら以外のものでも良い。