(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
[複合材料]
本願発明に係る複合材料は、炭素材料と、導電性分散剤とを含む。上記導電性分散剤は、上記炭素材料に物理的又は化学的に結合されている。本願発明に係る複合材料は、炭素材料と、該炭素材料に物理的又は化学的に結合されている導電性分散剤とを含むので、例えばトルエンなどの有機溶媒中における分散性に優れており、しかも導電性が高められている。
【0026】
第1の発明では、上記導電性分散剤が、導電性高分子により構成されている。また、導電性高分子の数平均分子量が、2000以上、100000以下である。第1の発明では、導電性高分子の数平均分子量が上記範囲にあるので、複合材料の溶媒中における分散性がより一層高められている。なお、この理由は以下のように説明される。
【0027】
導電性高分子の数平均分子量が上記下限以上である場合、溶媒中において、炭素材料が凝集する力よりも、導電性高分子が炭素材料の凝集を抑制しようとする力の方が強くなり易い。一方、導電性高分子の数平均分子量が上記上限以下である場合、製造工程において炭素材料に吸着した導電性高分子が、炭素材料に未だ吸着されていない他の導電性高分子の炭素材料への吸着を阻害し難くなる。そのため、導電性高分子の炭素材料への吸着量をより一層多くすることができる。これらの理由により、導電性高分子の数平均分子量を上記範囲内とすることで、炭素材料の溶媒中における分散性をより一層高めることができる。すなわち、複合材料の溶媒中における分散性がより一層高められる。
【0028】
第2の発明では、炭素材料のC/O比が、4以上、20以下である。なお、本発明において、C/O比とは、元素分析により得られるC/O比である。元素分析により得られるC/O比とは、元素分析により得られる炭素原子と酸素原子とのモル数の比をいう。第2の発明では、炭素材料のC/O比が上記範囲内にあるので、複合材料の導電性がより一層高められている。
【0029】
第1の発明と第2の発明は、組み合わせて用いられてもよい。すなわち、炭素材料のC/O比が、4以上、20以下であり、かつ導電性高分子の数平均分子量が、2000以上、100000以下であってもよい。第1の発明と第2の発明とを組み合わせて用いる場合、複合材料の分散性及び導電性をより一層高めることができる。
【0030】
以下、本願の第1及び第2の発明を総称して、本発明と称する場合があるものとする。
【0031】
本発明の複合材料には、ドーパントがドーピングされていてもよい。その場合には、複合材料の導電性をより一層高めることができる。上記ドーパントとしては、例えば、テトラシアノキノジメタンなどの有機シアノ化合物、硫酸、塩酸、硝酸、テトラクロロ金酸、又はニトロメタンなどを用いることができる。
【0032】
次に、本発明に係る複合材料を構成する各材料の詳細を説明する。
【0033】
(炭素材料)
炭素材料としては、特に限定されず、グラフェン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、黒鉛又は薄片化黒鉛等が挙げられる。炭素材料の形状としては、特に限定されないが、ガスバリア性をより一層高める観点から、平板状であることが好ましい。そのため、上記炭素材料としては、グラフェン又は薄片化黒鉛であることが好ましい。
【0034】
周知のように黒鉛は、複数のグラフェンシートの積層体である。黒鉛のグラフェンシートの積層数は10万層〜100万層程度である。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛などを用いることができる。膨張黒鉛は、通常の黒鉛よりもグラフェン層同士の層間が大きい。
【0035】
薄片化黒鉛は、元の黒鉛を剥離処理して得られるものであり、元の黒鉛よりも薄いグラフェンシート積層体をいう。薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、元の黒鉛より少なければよい。薄片化黒鉛において、グラフェンシートの積層数は、好ましくは、2層以上であり、より好ましくは5層以上であり、好ましくは300層以下であり、より好ましくは200層以下であり、さらに好ましくは100層以下である。
【0036】
上記薄片化黒鉛としては、市販されている薄片化黒鉛を用いてもよい。また、黒鉛を剥離する様々な処理により薄片化黒鉛を得てもよい。
【0037】
なお、グラフェンや薄片化黒鉛は、通常、ロール状やチューブ状にスクロールする。そのため、炭素材料として、グラフェンや薄片化黒鉛を用いた場合、グラフェン同士又は薄片化黒鉛同士、あるいは他の導電性材料との接触面積が小さくなる。従って、高い導電性が得られない場合がある。また、グラフェンや薄片化黒鉛がロール状やチューブ状にスクロールすると、ガスバリア性も小さくなる。
【0038】
これに対して、本発明では、炭素材料がグラフェン又は薄片化黒鉛である場合においても、グラフェン又は薄片化黒鉛に導電性分散剤が物理的又は化学的に結合されているので、グラフェン又は薄片化黒鉛がロール状やチューブ状にスクロールし難い。そのため、グラフェン同士又は薄片化黒鉛同士、あるいは他の導電性材料との接触面積が大きくなり、導電性が高められることとなる。また、グラフェン又は薄片化黒鉛には、導電性分散剤との物理的又は化学的な結合がなされているので、この点からも、導電性が高められることとなる。また、本発明においては、導電性分散剤によりグラフェン又は薄片化黒鉛のスクロールが抑制されているので、本発明の複合材料はガスバリア性にも優れている。
【0039】
このように、本発明の複合材料においては、グラフェン又は薄片化黒鉛がスクロールし難く、導電性や、ガスバリア性に優れている。そのため、本発明の複合材料は、導電性インクや、導電性フィルムあるいはガスバリアフィルムなどに好適に用いることができる。
【0040】
本発明において、炭素材料のC/O比は、好ましくは4以上であり、より好ましくは5以上であり、好ましくは20以下であり、より好ましくは10以下である。炭素材料のC/O比を、上記下限以上及び上記上限以下とすることで、複合材料の導電性をより一層高めることができる。なお、C/O比が上記範囲内にある炭素材料は、例えば、特許第5048873号公報に記載の薄片化黒鉛の製造方法に従って製造することができる。
【0041】
なお、特許第5048873号公報に記載の薄片化黒鉛の製造方法では、例えば、以下の工程1〜4を備える製造方法が開示されている。
【0042】
工程1:シート状の黒鉛またはシート状の膨張黒鉛を用意する工程。
【0043】
工程2:黒鉛または膨張黒鉛の各グラフェン面を貫通するように金属からなる電極の一部を黒鉛または膨張黒鉛に挿入し、黒鉛を構成している複数のグラフェン層に該電極を接触させる工程。
【0044】
工程3:電極の一部が挿入された黒鉛または膨張黒鉛の少なくとも一部を電解質水溶液中に浸漬し、該黒鉛を作用極とし、対極との間に直流電圧を印加する電気化学的処理を行い、少なくとも一部が膨張化黒鉛である炭素質材料を得る工程。
【0045】
工程4:炭素質材料を得る工程の後に、炭素質材料に剥離力を加えることにより薄片化黒鉛を得る工程。
【0046】
本発明において、炭素材料のBET比表面積は、好ましくは50m
2/g以上であり、より好ましくは200m
2/g以上であり、さらに好ましくは300m
2/g以上であり、好ましくは2500m
2/g以下であり、より好ましくは2000m
2/g以下であり、さらに好ましくは1500m
2/g以下である。BET比表面積が上記下限以上である場合、複合材料のガスバリア性をより一層高めることができる。BET比表面積が上記上限以下である場合、炭素材料がより一層凝集し難くなり、複合材料の分散性がより一層高められる。
【0047】
(導電性分散剤)
導電性分散剤は、炭素材料に物理的又は化学的に結合されている。なお、本発明において、物理的に結合されているとは、ファンデルワールス力などにより結合又は吸着されている状態のことをいう。また、化学的に結合されているとは、共有結合やイオン結合などの化学結合により結合または吸着されている状態のことをいう。
【0048】
導電性分散剤は、導電性高分子により構成することができる。導電性高分子としては、導電性を有する有機高分子を用いることができる。また、導電性を有する有機高分子としては、特に限定されず、例えば、チオフェン骨格を有する高分子や、ポリイオン液体などを用いることができる。導電性をより一層高める観点から、チオフェン骨格を有する高分子であることが好ましい。チオフェン骨格を有する高分子としては、例えば、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシ)チオフェン、又はポリ(3−ブチルチオフェン)等が挙げられる。安定性や導電性の観点から、チオフェン骨格を有する高分子は、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)であることが好ましい。ポリ(3−へキシルチオフェン)は、非特許文献:S. Tamba, et al., J.Am. Chem. Sci., 133,9700 (2011)に記載の合成方法に従って合成することができる。
【0049】
なお、ポリ(3−へキシルチオフェン)は、下記式(1)で表される。
【0050】
【化1】
また、チオフェン骨格を有する高分子として、ポリ(3−へキシルチオフェン)以外の他のポリ(3−アルキルチオフェン)を用いてもよい。他のポリ(3−アルキルチオフェン)としては、例えば、下記式(2)で表されるポリ(3−オクチルチオフェン)が挙げられる。また、下記式(3)で表されるポリ(3−(ヘキシルオキシ))メチルチオフェンを用いてもよい
【0053】
チオフェン骨格を有する高分子としては、下記式(4)で表されるように、チオフェンの3位に、シロキサン結合を有するアルキル基を備える高分子(poly−(3−(4−pentamethyldisiloxybutan−1−yl)thiophene−2,5−diyl))を用いてもよい。
【0055】
本発明において、チオフェン骨格を有する高分子のヘッド−テイル(Head to Tail、以下H−Tともいう)レジオレギュラリティーは、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。なお、H−Tレジオレギュラリティーとは、その繰り返し単位がヘッド−テイルで位置規則的に配列した比率のことをいう。
【0056】
H−Tレジオレギュラリティーが上記下限以上である場合、複合材料の溶媒中への分散性をより一層高めることができる。
【0057】
導電性高分子の数平均分子量(Mn)は、好ましくは2000以上、より好ましくは3000以上、さらに好ましくは5000以上であり、好ましくは100000以下、より好ましくは80000以下、さらに好ましくは50000以下である。数平均分子量(Mn)が上記範囲内にある場合、複合材料の溶媒中への分散性をより一層高めることができる。
【0058】
また、重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比、すなわち分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.2以上、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.3以下である。分子量分布(Mw/Mn)が上記範囲内にある場合、複合材料の溶媒中への分散性をより一層高めることができる。
【0059】
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算での重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を示す。
【0060】
上記数平均分子量(Mn)及び上記分子量分布(Mw/Mn)を上記範囲に調整するためには、重合開始剤、重合温度等の重合条件を調整すればよい。
【0061】
なお、本発明において、炭素材料の導電性分散剤に対する重量比(炭素材料/導電性分散剤)は、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1.0以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは5以下、特に好ましくは2以下である。重量比(炭素材料/導電性分散剤)が、上記範囲内にある場合、複合材料の導電性をより一層高めることができる。
【0062】
以下、本発明の複合材料の製造方法の一例を説明する。
【0063】
(複合材料の製造方法)
本発明に係る複合材料は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0064】
まず、溶媒中に導電性分散剤を溶解させ、導電性分散剤溶液を作製する。続いて、導電性分散剤溶液に炭素材料を添加し、超音波処理を行う。それによって、導電性分散剤を炭素材料に物理的又は化学的に結合させ、本発明の複合材料を得ることができる。得られた複合材料は、溶媒中に分散させた状態で分散液として使用してもよいし、乾燥させて用いてもよい。また、分散液は、超音波処理により得られた溶液を遠心分離して上澄み液を分散液とすることが望ましい。
【0065】
本発明の複合材料の製造方法で用いられる溶媒としては、例えば、トルエン又はクロロホルム等が挙げられる。
【0066】
[導電性材料]
本発明に係る導電性材料は、基材と、上述した本発明の複合材料からなる複合材料層とを備える。上記基材の表面の少なくとも一部は、複合材料層により被覆されている。なお、上記基材の表面の一部が複合材料層により被覆されていてもよいし、基材の表面の全部が複合材料層により被覆されていてもよい。
【0067】
本発明に係る導電性材料は、例えば、以下の方法により製造することができる。まず、基材を上述した本発明の複合材料を含む分散液に浸漬させる。続いて、浸漬させた基材を取り出し分散液を乾燥させることにより、基材の表面が複合材料層で被覆された導電性材料を得ることができる。
【0068】
本発明の導電性材料では、上述した本発明の複合材料からなる複合材料層により基材の表面の少なくとも一部が被覆されているので、導電性が高められている。また、上記複合材料層は、ガスバリア性に優れているので、本発明の導電性材料では、たとえ酸化しても導電性が低下し難いという特徴を有している。
【0069】
上記基材としては、例えば、金属箔、導電性樹脂材、金属が蒸着又はスパッタリングされたフィルムが挙げられる。導電性材料の導電性をより一層高める観点からは、上記基材は金属箔であることが好ましい。
【0070】
金属箔を構成する金属としては、例えば、金、銀、パラジウム、銅、白金、亜鉛、鉄、錫、鉛、アルミニウム、コバルト、インジウム、ニッケル、クロム、チタン、アンチモン、ビスマス、タリウム、ゲルマニウム、カドミウム、タングステン、モリブデン、ケイ素及びこれらの合金等が挙げられる。導電性をより一層効果的に高める観点からは、銅又は金が好ましく、銅がより好ましい。
【0071】
[導電性粒子]
本発明に係る導電性粒子の広い局面では、基材粒子と、上述した本発明の複合材料からなる複合材料層とを備える。上記基材粒子の表面の少なくとも一部は、複合材料層により被覆されている。なお、上記基材粒子の表面の一部が複合材料層により被覆されていてもよいし、基材粒子の表面の全部が複合材料層により被覆されていてもよい。
【0072】
本発明に係る導電性粒子の他の広い局面では、基材粒子と、導電性分散剤からなる導電性分散剤層とを備える。上記基材粒子の表面の少なくとも一部は、導電性分散剤層により被覆されている。なお、上記基材粒子の表面の一部が導電性分散剤層により被覆されていてもよいし、基材粒子の表面の全部が導電性分散剤層により被覆されていてもよい。
【0073】
上記導電性分散剤層は、例えば基材粒子と導電性分散剤が物理的又は化学的に結合されている態様を挙げることができる。なお、本発明において、物理的に結合されているとは、ファンデルワールス力などにより結合又は吸着されている状態のことをいう。また、化学的に結合されているとは、共有結合やイオン結合などの化学結合により結合または吸着されている状態のことをいう。
【0074】
上記導電性分散剤は、導電性高分子により構成することができる。導電性高分子としては、導電性を有する有機高分子を用いることができる。また、導電性を有する有機高分子としては、特に限定されず、例えば、チオフェン骨格を有する高分子や、ポリイオン液体などを用いることができる。導電性をより一層高める観点から、チオフェン骨格を有する高分子であることが好ましい。チオフェン骨格を有する高分子としては、例えば、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシ)チオフェン、又はポリ(3−ブチルチオフェン)等が挙げられる。安定性や導電性の観点から、チオフェン骨格を有する高分子は、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)であることが好ましい。ポリ(3−へキシルチオフェン)は、非特許文献:S. Tamba, et al., J. Am. Chem. Sci., 133, 9700 (2011)に記載の合成方法に従って合成することができる。
【0075】
導電性高分子の数平均分子量(Mn)は、好ましくは2000以上、より好ましくは3000以上、さらに好ましくは5000以上であり、好ましくは100000以下、より好ましくは80000以下、さらに好ましくは50000以下である。数平均分子量(Mn)が上記範囲内にある場合、導電性高分子の溶媒中への分散性をより一層高めることができる。
【0076】
また、重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比、すなわち分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.2以上、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.3以下である。分子量分布(Mw/Mn)が上記範囲内にある場合、導電性高分子の溶媒中への分散性をより一層高めることができる。
【0077】
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算での重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を示す。
【0078】
上記数平均分子量(Mn)及び上記分子量分布(Mw/Mn)を上記範囲に調整するためには、重合開始剤、重合温度等の重合条件を調整すればよい。
【0079】
本発明に係る導電性粒子は、例えば、以下の方法により製造することができる。まず、基材粒子を上述した本発明の複合材料又は導電性分散剤を含む分散液に浸漬させる。続いて、浸漬させた基材粒子を取り出し分散液を乾燥させることにより、基材粒子の表面が複合材料層又は導電性分散剤層で被覆された導電性粒子を得ることができる。
【0080】
本発明の導電性粒子では、上述した複合材料層又は導電性分散剤層により基材粒子の表面の少なくとも一部が被覆されているので、導電性が高められている。また、上記複合材料層は、ガスバリア性に優れているので、たとえ酸化しても導電性が低下し難いという特徴を有している。
【0081】
上記基材粒子としては、金属粒子又は樹脂粒子の表面が金属層により被覆された粒子、すなわちコアシェル構造を有する粒子を用いることができる。なお、コアシェル構造を有する粒子においては、コアが樹脂粒子であり、シェルが金属層である。
【0082】
金属粒子又は上記樹脂粒子の表面を被覆している金属層を構成する金属としては、例えば、金、銀、パラジウム、銅、白金、亜鉛、鉄、錫、鉛、アルミニウム、コバルト、インジウム、ニッケル、クロム、チタン、アンチモン、ビスマス、タリウム、ゲルマニウム、カドミウム、タングステン、モリブデン、ケイ素及びこれらの合金等が挙げられる。導電性をより一層効果的に高める観点からは、銅又は金が好ましく、銅がより好ましい。
【0083】
上記樹脂粒子を構成する樹脂としては、種々の有機物が好適に用いられる。上記樹脂粒子を形成するための樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン等のポリオレフィン樹脂;ポリメチルメタクリレート及びポリメチルアクリレート等のアクリル樹脂;ポリアルキレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノールホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、及び、エチレン性不飽和基を有する種々の重合性単量体を1種もしくは2種以上重合させて得られる重合体等が挙げられる。なかでも、スチレンとジビニルベンゼンとの共重合体を用いることが好ましい。
【0084】
[導電性フィルム]
本発明の導電性フィルムは、上述した本発明に従って構成される複合材料からなる。従って、本発明の導電性フィルムは、導電性やガスバリア性が高められている。また、上記複合材料は、ガスバリア性に優れているので、本発明の導電性フィルムでは、たとえ酸化しても導電性が低下し難いという特徴を有している。このような導電性フィルムは、例えば、上記複合材料を溶媒中に分散させた分散液を、吸引ろ過することにより得ることができる。
【0085】
なお、上記複合材料を構成する炭素材料にグラフェンや薄片化黒鉛を用いた場合、上述したようにロール状やチューブ状にスクロールしやすいため、吸引ろ過法では容易に製膜できない場合がある。しかしながら、本発明の複合材料を構成する炭素材料には、導電性分散剤が物理的又は化学的に結合されているので、炭素材料がグラフェンや薄片化黒鉛である場合においても、スクロールが抑制されることとなる。そのため、本発明の複合材料は、吸引ろ過法により容易に製膜することができる。
【0086】
また、本発明においては、上述したようにグラフェンや薄片化黒鉛などの炭素材料がロール状やチューブ状にスクロールしていないので、導電性フィルム中におけるグラフェン同士又は薄片化黒鉛同士、あるいは他の導電性材料との接触面積が大きくなり、導電性が高められることとなる。また、導電性フィルム中において、炭素材料がロール状やチューブ状にスクロールしていないので、本発明の導電性フィルムはガスバリア性にも優れている。
【0087】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
(分散液1〜5の調製)
非特許文献:S. Tamba, et al., J. Am. Chem. Sci., 133, 9700 (2011)に記載の合成方法に従って、下記の数平均分子量(Mn)及び多分散度(Mw/Mn)のポリ(3−へキシルチオフェン)(P3HT)を重合した。
【0089】
P3HT−1…Mn=6000,Mw/Mn=1.10
P3HT−2…Mn=10000,Mw/Mn=1.10
P3HT−3…Mn=20000,Mw/Mn=1.12
P3HT−4…Mn=45000,Mw/Mn=1.04
P3HT−5…Mn=75000,Mw/Mn=1.21
【0090】
薄片化黒鉛は、ウェルダー法による熱分解により作製した。得られた薄片化黒鉛のBET比表面積は562m
2/gであり、グラフェンシートの積層数は5層であった。また、薄片化黒鉛のC/O比は14.5であった。ここで、C/O比は、走査型X線光電子分光分析装置(ULVAC−PHI.Inc.製、型番:PHI5000 VersaProbe II)を用いて測定した。
【0091】
得られたP3HT−1〜5をそれぞれ1.0mg採取し、それぞれトルエン3mlに溶解させ、さらに作製した薄片化黒鉛1.0mgを添加した。得られた溶液に、超音波処理装置(アズワン社製)を用い、110W、発信周波数31kHz、80℃及び30分間の条件で超音波処理を行った。続いて、30℃の水浴で15分間冷却した。次に、遠心分離を加速度1000×Gで20分間行い、上澄みをシリンジで採取し、分散液1〜5を採取した。なお、分散液1〜5は、それぞれ下記のP3HTを用いたものである。
【0092】
分散液1…P3HT−1
分散液2…P3HT−2
分散液3…P3HT−3
分散液4…P3HT−4
分散液5…P3HT−5
【0093】
採取した分散液について、分光光度計(JASCO社製、商品名:V−770)を用いて、吸光スペクトル測定を行った。なお、設定温度は80度とし、660nmにおける吸光度を求めた。結果を、
図1に示す。
図1より、P3HTの数平均分子量(Mn)が小さいほど、吸光度が高くなっていることがわかる。すなわち、薄片化黒鉛の分散性が高められていることがわかる。
【0094】
(実施例1)
上記のようにして調製した分散液1中に、基材粒子(積水化学工業社製、商品名:ミクロパールAU、CuMPs)を、40℃の水浴中で90分間浸漬させた。分散液1中から、複合材料層により被覆された基材粒子を取り出し、乾燥させることにより、導電性粒子を得た。
【0095】
(比較例1)
基材粒子(積水化学工業社製、商品名:ミクロパールAU、CuMPs)を、そのまま導電性粒子として用いた。
【0096】
(評価方法)
電気抵抗率の測定;
実施例1及び比較例1で得られた導電性粒子の電気抵抗率を以下のようにして測定した。
【0097】
まず、2枚のアルミニウム板に導電性粒子を挟み、導電性粒子を挟んだ2枚のアルミニウム板をマイクロメーター(シンワ社製、商品名:マイクロメーター0−25mm)で挟み込むことにより支持し、抵抗計(カスタム社製、商品名:デジタルマルチメーター)を用いて電気抵抗値を測定した。
【0098】
なお、電気抵抗率は、以下の式を用いて求めた。
【0099】
電気抵抗率(Ω・cm)=電気抵抗値(Ω)×導電距離(cm)
[導電距離は、円周の半分の距離であるため、1/2π×(導電性粒子の直径)により求めた。]
【0100】
また、実施例1及び比較例1で得られた導電性粒子を200℃のオーブンで30分間加熱することにより酸化させて上記と同様の方法で電気抵抗率を求めた。
【0103】
表1に示すように、比較例1では酸化試験後の電気抵抗率が大幅に上昇したのに対し、実施例1では酸化試験後においても電気抵抗率の上昇は認められなかった。
【0104】
(実施例2)
上記のようにして調製した分散液1を2.5ml用意した。続いて、用意した分散液1をろ紙(No.5B、8mm)を用いて吸引ろ過した。吸引ろ過後、ろ紙に100℃で、5分間の熱処理を施した。それによって、ろ紙上に導電性薄膜(導電性フィルム)を形成した。
【0105】
図2は、実施例2において、ろ紙上に導電性フィルムが形成された状態を示す倍率500倍の光学顕微鏡写真である。なお、光学顕微鏡としては、キーエンス社製、品番「VH−5000C」を用いた。
図2より、実施例2では、ろ紙上に導電性フィルムが広がっており、導電性フィルムがろ紙を覆った連続構造が形成されていることを確認することができた。
【0106】
また、得られた導電性フィルムについて、簡易型低抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、品番「ロレスタ AX MCP T370(MCP−TFPプローブ)」)を用いて、シート抵抗値を測定した。結果を下記の表2に示す。
【0107】
(比較例2)
P3HT−1の代わりにBrij系界面活性剤(ADEKA社製、商品名「アデカトールTN−100」)を用いて調製した溶液を、分散液1の代わりに用意したこと以外は実施例2と同様にして、フィルムを作製した。また、得られたフィルムのシート抵抗値を実施例2と同様にして測定した。結果を、下記の表2に示す。
【0108】
(比較例3)
P3HT−1の代わりにPluronic系界面活性剤(ADEKA社製、商品名「アデカプルロニックL−44」)を用いて調製した溶液を、分散液1の代わりに用意したこと以外は実施例2と同様にして、フィルムを作製した。また、得られたフィルムのシート抵抗値を実施例2と同様にして測定した。結果を、下記の表2に示す。表2に示すように、比較例3のフィルムのシート抵抗値は、非常に高く、測定することができなかった。
【0109】
(比較例4)
P3HT−1を用いずに、トルエン3mlに薄片化黒鉛1.0mgのみを添加して調製した溶液を、分散液1の代わりに用意したこと以外は、実施例2と同様にしてフィルムの作製を試みた。しかしながら、
図3に光学顕微鏡写真で示すように、比較例4においては、ろ紙上において薄片化黒鉛が凝集(スクロール)しており、ろ紙が露出している部分が多く観察された。このように、比較例4では、薄片化黒鉛が凝集しており、フィルム(薄膜)を得ることができなかった。
【0111】
(分散液6の調製)
ドライアップ及び窒素置換を行ったシュレンク管に、2−ブロモ−3−オクチルチオフェン1.0mmol(1.0eq.)と、2,2,6,6−テトラメチルピぺリジニルマグネシウムクロリドリチウムクロリド(K−H塩基)1.0mmol(1.0eq.)とを加え、室温で3時間反応させた。次に、テトラヒドロフラン及びNiCl
2(PPh
3)IPr触媒3.9mg(0.005mmol)を加え、室温で1時間反応させた。反応後、0.1M塩酸4ml及びメタノール10mlを加え、十分に撹拌した。撹拌後、桐山ロートを用いてろ過し、ヘキサンを用いて洗浄した。ろ物を一晩真空乾燥し、上記式(2)で表されるポリ(3−オクチルチオフェン)(P3OT)を得た。得られたP3OTの分子量は、Mn=23000であり、多分散度は、Mw/Mn=1.29であった。
【0112】
得られたP3OTを1.0mg採取し、トルエン3mlに溶解させ、さらに分散液1〜5の調製時と同じ方法で作製した薄片化黒鉛1.0mgを添加した。得られた溶液に、超音波処理装置(アズワン社製)を用い、110W、発信周波数31kHz、80℃及び30分間の条件で超音波処理を行った。続いて、30℃の水浴で15分間冷却した。次に、遠心分離を加速度1000×Gで20分間行い、上澄みをシリンジで採取し、分散液6を得た。
【0113】
(分散液7の調製)
ドライアップ及び窒素置換を行ったシュレンク管に、2−ブロモ−3−(へキシロキシ)メチルチオフェン1.0mmol(1.0eq.)と、2,2,6,6−テトラメチルピぺリジニルマグネシウムクロリドリチウムクロリド(K−H塩基)1.0mmol(1.0eq.)とを加え、室温で3時間反応させた。次に、テトラヒドロフラン9.0ml及びNiCl
2(PPh
3)IPr触媒3.9mg(0.005mmol)を加え、室温で1時間反応させた。反応後、0.1M塩酸4ml及びメタノール10mlを加え、十分に撹拌した。撹拌後、桐山ロートを用いてろ過し、ヘキサンを用いて洗浄した。ろ物を一晩真空乾燥し、上記式(3)で表されるポリ(3−((へキシロキシ)メチル)チオフェン)(P3HOT)を得た。得られたP3HOTの分子量は、Mn=17000であり、多分散度は、Mw/Mn=1.31であった。
【0114】
次に、分散液6の調製方法で用いたP3OTの代わりに得られたP3HOTを用いたこと以外は分散液6の調製方法と同様にして、分散液7を得た。
【0115】
(分散液8の調製)
ドライアップ及び窒素置換を行ったシュレンク管に、2−ブロモ−3−(4−ペンタメチルジシロキシブタン−1−yl)チオフェン0.18g(0.50mmol(1.0eq.))と、2,2,6,6−テトラメチルピぺリジニルマグネシウムクロリドリチウムクロリド(K−H塩基)0.55mL(0.55mmol(1.1eq.))とを加え、60℃で1時間反応させた。次に、テトラヒドロフラン5.0ml及びNiCl
2(PPh
3)IPr触媒3.9mg(0.005mmol)を加え、60℃で1時間反応させた。反応後、0.1M塩酸2.0ml及びメタノール10mlを加え、十分に撹拌した。撹拌後、桐山ロートを用いてろ過し、ヘキサンを用いて洗浄した。ろ物を一晩真空乾燥し、上記式(4)で表されるチオフェンの3位に、シロキサン結合を有するアルキル基を備える高分子(poly−(3−(4−pentamethyldisiloxybutan−1−yl)thiophene−2,5−diyl))(P3SiT)を得た。得られたP3SiTの分子量は、Mn=21000であり、多分散度は、Mw/Mn=1.19であった。
【0116】
次に、分散液6の調製方法で用いたP3OTの代わりに得られたP3SiTを用いたこと以外は分散液6の調製方法と同様にして、分散液8を得た。
採取した分散液3(P3HT)、分散液6(P3OT)、分散液7(P3HOT)及び分散液8(P3SiT)について、分光光度計(JASCO社製、商品名:V−770)を用いて、吸光スペクトル測定を行った。なお、設定温度は80度とし、波長範囲200〜900nmにおける吸光度を求めた。波長600nmの結果を、
図4に示す。
【0117】
図4より、得られた分散液3、6〜8では、吸光度が高くなっていることがわかる。すなわち、薄片化黒鉛の分散性が高められていることがわかる。特に、P3HOTを用いた分散液7では、より分散性が高められていることがわかる。P3HOTでは、長い共役鎖の影響により、π−π相互作用が強く働いたためであると考えられる。これに対し、P3SiTを用いた分散液8では、十分に分散性が高められているものの、側鎖に嵩高いシロキサン部位を有するため、薄片化黒鉛との物理吸着が妨げられることから、他の分散液と比べると薄片化黒鉛の分散性が若干低下したものと考えられる。
【0118】
(実施例3)
テトラシアノキノジメタン(TCNQ)5.104mgをジメチルスルホキシド(DMSO)0.25mlに溶解させ、TCNQ溶液(100mM)を調製した。このようにして調製されたTCNQ溶液250μLを加えたサンプル瓶中に、実施例2と同様にして作製した導電性フィルム0.67mgを室温で2時間浸漬させた。その後、導電性フィルムを取り出し、真空オーブンにて60℃で30分間乾燥させた。それによって、TCNQがドーピングされた複合材料(薄片化黒鉛とP3HT−1との複合材料)からなる導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムについて、実施例2と同様の方法により、電気抵抗率計を用いてシート抵抗値を測定した。結果を下記の表3に示す。
【0120】
表3に示すように、TCNQがドーピングされた複合材料を用いることで、シート抵抗値がさらに一層低められていることがわかる。
【0121】
(実施例4)
実施例3と同様にして調製したTCNQ溶液(75mM,0.1ml)中に、実施例1と同様にして作製した導電性粒子1.0mgを、30℃で2時間浸漬させた。その後、導電性粒子を取り出し真空オーブンにて60℃で30分間乾燥させた。それによって、TCNQがドーピングされた複合材料(薄片化黒鉛とP3HT−1との複合材料)からなる導電性粒子を得た。
【0122】
図5は、得られた導電性粒子の観察写真である。得られた導電性粒子の外観は黒色であった。
【0123】
図6は、得られた導電性粒子のラマンスペクトルを示す図である。
図6に示すように、ラマンスペクトルにおいて、2200cm
−1の位置にニトリル基由来のピークが観察された。このことから得られた導電性粒子では、TCNQが吸着していることがわかる。
【0124】
また、得られた導電性粒子について、実施例1と同様の方法で抵抗計(カスタム社製、商品名:デジタルマルチメーター)を用いて電気抵抗率を測定した。結果を下記の表4に示す。
【0126】
表4に示すように、TCNQがドーピングされた複合材料を用いることで、電気抵抗率がさらに一層低められていることがわかる。