【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー・環境新技術先導プログラム/フェムトリアクター化学プロセスの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1及び第2の物質を反応させることにより得られる反応生成物の分散体の製造方法であって、前記第1の物質を第1の液体に溶解又は分散させ、前記第2の物質を第2の液体に溶解又は分散させ、前記第2の液体の相及び低誘電率液体の相を2相分離するように重ねて配置し、ノズルの噴霧口を前記低誘電率液体の相中に配置し、かつ電極を前記第2の液体の相中に配置した状態で、前記ノズルを正電位とし、前記電極を0kV以上の電位とし、かつ前記ノズル及び前記電極間に2kVの電位差を与えることにより帯電すると共に前記第1の物質を溶解又は分散させた前記第1の液体の液滴を、前記ノズルの噴霧口から静電噴霧するステップであって、前記静電噴霧された第1の液体が前記低誘電率液体の相を通って前記第2の液体の相に到達して、前記反応生成物が前記第2の液体の相中に分散する、静電噴霧ステップを含み、前記ノズル及び前記電極間に与えられた前記電位差で前記ノズルに印加される前記正電位により、得られるナノ粒子の粒子径を制御する、反応生成物の分散体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る分散体の製造方法の実施形態について以下に説明する。
【0012】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態に係る分散体の製造方法について以下に説明する。
【0013】
(分散体の製造装置について)
最初に、本実施の形態で用いる製造装置の一実施の形態について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る製造装置は、低誘電率液体LL、第1の液体L1、及び第2の液体L2を用いて、第1の物質及び第2の物質の反応生成物を含有する分散液などの分散体を製造するように構成されている。かかる製造装置を用いて得られる反応生成物は、金属粒子、繊維粒子、樹脂粒子、有機結晶、半導体粒子、オリゴマー粒子、ポリマー粒子など、特に、金属ナノ粒子、繊維ナノ粒子、樹脂ナノ粒子、有機ナノ結晶、半導体ナノ粒子、オリゴマーナノ粒子、ポリマーナノ粒子などである。本実施の形態に係る製造装置は、このような反応生成物の分散液などの分散体を製造するように構成されている。製造に用いられる第1の液体L1に第1の物質を溶解又は分散させており、特に、第1の液体L1に第1の物質を溶解させると好ましい。製造に用いられる第2の液体L2に第2の物質を溶解又は分散させており、特に、第2の液体L2に第2の物質を溶解させると好ましい。このような第1及び第2の液体L1,L2は互いに相溶であるとよい。
【0014】
本実施の形態に係る製造装置は、第1の液体L1を静電噴霧可能に構成されたエレクトロスプレーノズル(以下、「ノズル」という)1を有している。第1の液体L1は、液滴の状態で、矢印Dで示すようにノズル1の噴霧口1aから噴霧される。また、製造装置は、第1の液体L1を供給する供給源2を有している。ノズル1と供給源2とは供給管3によって接続されている。
【0015】
本実施の形態に係る製造装置は、ノズル1の噴霧口1aと間隔を空けて配置される電極4を有している。
図1では、電極4は、ノズル1の噴霧口1aと距離W1の間隔を空けて対向している。かかる距離W1は、電場強度に関連し、さらに、静電噴霧によって生成された液滴の断片化プロセスに関連するので、最適化することが好ましい。電極4は略プレート形状に形成されている。しかしながら、これに限定されず、電極4の形状は、後述するようにノズル1と電極4との間に静電場を形成することができれば、略リング形状、略筒形状、略メッシュ形状、略棒形状、略球形状、略半球形状などであってもよい。一例として、ノズル1の噴霧口1aは、第1の液体L1をプレート形状の電極4の平面に対して垂直方向に噴霧するように配向されていると好ましい。
【0016】
本実施の形態に係る製造装置は、ノズル1及び電極4のそれぞれに電気的に接続された電源5を有している。特に、電源5は高電圧電源であると好ましい。電源5は、ノズル1に正電位をもたらし、かつ電極4に負電位をもたらすように構成されている。しかしながら、これに限定されず、電源5は、ノズル1に負電位をもたらし、かつ電極4に正電位をもたらすように構成されていてもよい。また、ノズル1に正電位をもたらし、かつ電極4にも正電位をもたらして、ノズル1と電極4との間に電位差を与えることもできる。この場合、ノズル1側の電位を電極4側の電極より高くすることが好適である。
【0017】
本実施の形態に係る製造装置は、内部に空洞を形成した容器6を備えている。容器6は内部を密閉可能とするように構成されている。しかしながら、これに限定されず、容器6は、上方を向く開口によって開放するように構成されていてもよい。かかる容器6の内部に、低誘電率液体LL及び第2の液体L2が収容される。低誘電率液体LLから成る相(以下、「低誘電率液体相」という)P1は容器6の頂部6a側に配置され、第2の液体L2から成る相(以下、「第2の液体相」という)P2は容器6の底部6b側に配置されており、低誘電率液体相P1と第2の液体相P2とは、界面Bを境に互いに分離した状態で重なっている。この場合、低誘電率液体相P1が上層に位置し、第2の液体相P2が下層に位置することとなる。
【0018】
本実施の形態に係る製造装置において、ノズル1の噴霧口1aは、低誘電率液体相P1中にて界面Bと距離W2の間隔を空けて配置される。距離W2は、電場強度に関連し、さらに、静電噴霧によって生成された液滴の断片化プロセスに関連するので、最適化することが好ましい。また、電極4は第2の液体相P2中に配置されており、
図1では、電極4は容器6の底部6bに当接して配置されている。しかしながら、これに限定されず、例えば、電極4が容器6の底部6bと間隔を空けて配置されていてもよい。電極4が略リング形状又は略筒形状に形成されている場合には、電極4が容器6の周方向に沿って配置されていてもよい。
【0019】
図1では、本実施の形態に係る製造装置は、容器6の頂部6a側を上方に向け、かつ底部6b側を下方に向けるように配置されている。しかしながら、これに限定されず、製造装置は、容器6の底部6b側を上方に向け、かつ頂部6a側を下方に向けるように配置されてもよい。この場合、第2の液体相P2が上層に位置し、かつ低誘電率液体相P1が下層に位置する必要があるので、低誘電率液体LLに、第2の液体L2よりも比重の大きな溶剤、例えば、四塩化炭素、パーフルオロヘキサンなどを用いるとよい。ここで、低誘電率液体相P1が上層に位置し、かつ第2の液体相P2が下層に位置する場合、第1及び第2の物質の反応によって第2の液体相にて発生した気体が、第2の液体を含んだ泡の状態で低誘電率液体相を通過しながら上昇し、このような泡に含まれる第2の液体を介して、ノズルの噴霧口及び第2の液体相間の通電が起こり、その結果、ノズル及び電極間の電位差が消失するおそれがある。これに対して、第2の液体相P2が上層に位置し、かつ低誘電率液体相P1が下層に位置する場合には、第2の液体相P2にて発生した気体は上昇するので、かかる気体が下層に位置する低誘電率液体相P1に移動することは困難となる。そのため、上述のように発生した気体によってノズル1の噴霧口1a及び第2の液体相P2間の通電が発生することを防ぎ、かつノズル1及び電極4間の電位差が消失することを防ぐことができる。
【0020】
(分散体の製造方法について)
第1の実施の形態に係る分散体の製造方法について説明する。第1の物質を第1の液体L1に溶解又は分散させ、第2の物質を第2の液体L2に溶解又は分散させる。特に、第1の物質を第1の液体L1に溶解させ、第2の物質を第2の液体L2に溶解させると好ましい。容器6の内部に、低誘電率液体相LL及び第2の液体相P2を2相分離するように重ねて配置する。
【0021】
ここで、反応生成物に相応する種物質を、反応物質を分散させる第2の液体の相中に予め分散する。「反応生成物に相応する種物質」とは、一般的には得ようとする反応生成物と同一素材であり、形状、粒径などの大きさなどの形態、特に大きさの形態も同一ないし類似するものをいう。例えば、金ナノ粒子の分散体を得ようとする場合には、得ようとする金ナノ粒子とモード径を同一とし、同形状の金ナノ粒子を種物質とする。反応生成物を分散させる液体(本実施の形態では、第2の液体)に対する種物質の配合量は、実用的に0.003質量%〜0.1質量%、好ましくは、0.005質量%〜0.05質量%、さらに好ましくは0.008質量%〜0.02質量%の範囲である。
【0022】
ノズル1の噴霧口1aを低誘電率液体相P1中に配置し、電極4を第2の液体相P2中に配置する。電源5によって、ノズル1に正電位をもたらし、かつ電極4に負電位をもたらして、ノズル1と電極4との間に電位差を与える。このとき、ノズル1と電極4との間に静電場が形成されることとなる。なお、電源5によって、ノズル1に負電位をもたらし、かつ電極4に正電位をもたらして、ノズル1と電極4との間に電位差を与えてもよい。また、ノズル1に正電位をもたらし、かつ電極4にも0kV以上の電位をもたらして、ノズル1と電極4との間に電位差を与えることもできる。この場合、ノズル1側の電位を電極4側の電極より高くすることが好適である。
【0023】
このような状態で、低誘電率液体相P1にて、第1の液体L1をノズル1の噴霧口1aから液滴の状態で噴霧する。液滴は帯電された状態となっており、このような液滴が、電場勾配に沿って低誘電率液体相P1を通って、第2の液体相P2に向かって移動し、低誘電率液体相P1と第2の液体相P2との界面Bに到達する。ここで、低誘電率液体LLの種類、第1の液体L1の表面張力、イオン強度、及び比誘電率、並びにノズル1及び電極4間の電位差のうち少なくとも1つを調整することによって、液滴の大きさが制御されるとよい。
【0024】
次に、第1の液体L1から成る液滴と第2の液体とは、好ましくは、互いに相溶であるので、第1の液体L1から成る液滴が、第2の液体L2と混合かつ反応する。さらに、第1の液体L1に溶解又は分散する第1の物質と、第2の液体L2に溶解又は分散する第2の物質とが反応し、第1及び第2の物質の反応生成物が第2の液体相P2中に分散される。その結果、反応生成物の分散液が得られることとなる。
【0025】
その後、第2の液体相P2を低誘電率液体相P1と分離し、かかる第2の液体相P2にて得られた分散液から反応生成物を回収することもできる。一例として、容器6から第2の液体相P2を取り出して、この第2の液体相P2にて得られる分散液を遠心操作することによって反応生成物を分別して、分別された反応生成物を回収してもよい。
【0026】
このような製造方法により得られる反応生成物としては、金属粒子、繊維粒子、樹脂粒子、有機結晶、半導体粒子、オリゴマー粒子、ポリマー粒子など、特に、金属ナノ粒子、繊維ナノ粒子、樹脂ナノ粒子、有機ナノ結晶、半導体ナノ粒子、オリゴマーナノ粒子、ポリマーナノ粒子などが挙げられる。
【0027】
本実施形態の好ましい構成についてさらに説明する。
【0029】
原料物質としての第1の物質が金属塩である場合、ノズル1から噴霧される液滴の表面張力を下げるために、第1の液体L1が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの炭素数1〜3の低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;又はこれらのうち2種類以上の混合物を含有していてもよい。また、第1の液体L1中又は第2の液体L2中における金属塩の濃度は、金属イオンの由来となる化合物の溶解度、金属ナノ粒子分散液の使用目的などに対応して適宜調整可能である。例えば、この金属塩の濃度は、0.01mol/L以上かつ5mol/L以下の範囲とすると好ましい。
【0030】
(低誘電率液体LLについて)
低誘電率液体LLの好ましい構成について以下に説明する。低誘電率液体LLは、第1及び第2の液体L1,L2と相溶しない有機溶剤系となっているとよい。さらに、低誘電率液体LLは、非水溶性の有機溶媒となっていると好ましい。低誘電率液体LLの比誘電率は、25以下、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下、さらに好ましくは5以下であるとよい。一例として、低誘電率液体LLは、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカンなどのノルマルパラフィン系炭化水素、イソオクタン、イソデカン、イソドデカンなどのイソパラフィン系炭化水素、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、デカリンなどのシクロパラフィン系炭化水素、流動パラフィン、ケロシンなどの炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;クロロホルム、四塩化炭素などの塩素系溶媒;パーフルオロカーボン、パーフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロエーテルなどのフッ素系溶媒;1−ブタノール(比誘電率17.51)、1−ペンタノール(比誘電率13.90)、1−オクタノール(比誘電率10.30)などのアルコール系溶媒;並びにこれらのうち2種類以上の混合物であるとよい。一例として、イソパラフィンは、出光興産株式会社製のIPソルベント1016、又はIPクリーンLX(登録商標)、丸善石油化学株式会社製のマルカゾールR、エクソンモービル社製のアイソパーH(登録商標)、アイソパーE(登録商標)、又はアイソパーL(登録商標)などであるとよい。また、低誘電率液体LLの比誘電率は、第1及び第2の液体L1,L2の比誘電率よりも低くなっていると好ましい。
【0031】
(第1及び第2の液体L1,L2について)
第1及び第2の液体L1,L2の好ましい構成について以下に説明する。第1及び第2の液体L1,L2は、互いに相溶する水溶液系又は水溶性であるとよい。一例として、第1及び第2の液体L1,L2に用いられる溶媒は、水、エタノール、DMF、アセトン、又はこれらのうち2種類以上の混合物であるとよい。特に、第1及び第2の液体L1,L2は、水であるか、又は水とエタノール、DMF、アセトンなどの水溶性の溶媒との水溶液であるとよい。また、第1及び第2の液体L1,L2に用いられる溶媒が同種であると好ましい。
【0032】
(反応生成物の制御について)
本実施の形態においては、反応生成物に相応する種物質を、反応物質を分散させる前記第2の液体の相中に予め分散することによって、反応生成物を制御する。前記したように、「反応生成物に相応する種物質」とは、一般的には得ようとする反応生成物と同一素材であり、形状、粒径などの大きさなどの形態、特に大きさの形態も同一ないし類似するものをいう。例えば、金ナノ粒子の分散体を得ようとする場合には、得ようとする金ナノ粒子とモード径を同一とし、同形状の金ナノ粒子を種物質とする。
これによって、反応生成物の形状を、繊維状、球状、中空(ポーラス)状などとするように制御し、反応生成物を複合化するように制御し、又は反応生成物の大きさを制御することが可能となり、所望の性状の反応生成物を得ることができる。
本実施の形態においては、さらに、ノズル1の電位、電極4の電位、ノズル1及び電極4間の電位差、第1及び第2の液体L1,L2に溶解又は分散されると共に反応に関連する物質の濃度、低誘電率液体LL及び第1の液体L1間の化学的相互作用、第2の液体相P2中に配置したマグネティックスターラーなどの撹拌手段による撹拌の強弱、例えば、マグネティックスターラーの回転速度などを調整し、得られる反応生成物の性状をより適切に制御することができる。
特に、金属ナノ粒子分散液を製造する場合において、還元反応によって生成される金属ナノ粒子の大きさは、第1の液体L1から成る液滴の大きさ、液滴が第2の液体相P2にて拡散する速度、及び還元反応速度に依存している。反応生成物の大きさを小さくすること、特に、金属ナノ粒子の大きさをnmオーダーとすることを考慮すると、液滴の平均粒子径は、0.1μm以上かつ100μm以下の範囲とするとよい。さらに、かかる平均粒子径は、1μm以上かつ10μm以下の範囲とすると好ましい。
【0033】
そのため、低誘電率液体LLの種類、第1及び第2の液体L1,L2における溶媒の種類、ノズル1からの液滴の噴霧量(すなわち、供給源2からノズル1に向かう第1の液体L1の送液速度)、還元剤の種類、ノズル1の噴霧口1及び電極4間の距離W1、ノズル1の噴霧口1a及び界面B間の距離W2、並びにノズル1及び電極4間の電位差などを調整し、このような調整によって、液滴の大きさを制御して、反応生成物、特に、金属ナノ粒子の大きさを制御することができる。例えば、低誘電率液体LLの比誘電率、粘度などの特性、第1の液体L1の表面張力、粘度、比誘電率、イオン強度などの特性、並びにノズル1及び電極4間の電位差のうち少なくとも1つを調整し、このような調整によって、液滴の大きさを制御して、金属ナノ粒子などの反応生成物の大きさを制御することができる。
【0034】
なお、第1の液体L1の表面張力を増加することによって、液滴の大きさを大きくすることができる。第1の液体L1のイオン強度を増加することによって、液滴の大きさを大きくすることができる。第1の液体L1の比誘電率を増加することによって、液滴の大きさを大きくすることができる。このように液滴の大きさを大きくすることによって、金属ナノ粒子などの反応生成物の大きさを大きくすることができる。また、ノズル1及び電極4間の電位差を増加させることによって、液滴の大きさを小さくすることができる。このように液滴の大きさを小さくすることによって、金属ナノ粒子などの反応生成物の大きさを小さくすることができる。
【0035】
ノズル1の噴霧口1a及び電極4間の距離W1は1cm以上であるとよい。さらに、距離W1は2cm以上であると好ましい。ノズル1の噴霧口1a及び界面B間の距離W2は、容器容量、電位差などにより適宜調整し得るが、上記距離W1よりも小さな値であれば、1cm以上が好ましく、2cm以上がより好ましい。距離W2の上限は、例えば、容量を10Lとするビーカーの場合、電位を調整することにより20cmとすることができ、容器容量、電位差などに対応して適宜調整し得る。
【0036】
ノズル1側の電位は−30kV以上かつ30kV以下の範囲とするとよく、電極4側の電位もまた−30kV以上かつ30kV以下の範囲とするとよい。ノズル1及び電極4間の電位差は、得られる反応生成物に適合するように調整されるとよい。例えば、ノズル1及び電極4間の電位差は、絶対値にて0.3kV以上かつ30kV以下の範囲とするとよい。
もっとも、本発明者らは、ノズル1を正電位とし、前記電極4の電位を0kV以上とし、かつノズル1及び電極4間に小さい電位差(1〜4kV)を与えることにより、2〜50nmオーダーの金属ナノ粒子を効果的に得られることを見出している。なお、ノズル1側の電位を電極4側の電極より高くすることが好適である。
ノズル1からの液滴の噴霧量は反応量に適合するように選択されるとよい。例えば、反応量を100mLとする場合、第1の液体L1の送液速度を0.001mL/min(分)以上かつ0.1mL/min以下の範囲とするように噴霧量が調節されるとよい。
【0037】
以上、本実施形態に係る製造方法においては、第1の物質を溶解又は分散させた第1の液体L1が低誘電率液体相P1中に静電噴霧され、静電噴霧された第1の液体L1が、低誘電率液体相P1を通って、第2の物質を溶解又は分散させた第2の液体相P2に到達して、第1及び第2の物質の反応生成物が第2の液体相中に分散することとなる。そのため、静電噴霧された第1の液体L1に溶解又は分散させた第1の物質のほぼ全部を、第2の液体L2に溶解又は分散させた第2の物質と反応させることができる。また、低誘電率液体LL、第1の液体L1、及び第2の液体L2の特性、並びに静電場の少なくとも1つを調整することによって、液滴の特性を第1及び第2の物質の反応に適するように制御して、所望の特性を有する反応生成物を素早く安定化させることができ、かつ当該反応生成物の分散体を高効率で製造することができる。よって、所望の特性を有する反応生成物の分散体を高速かつ高効率で製造することができる。
【0038】
とりわけ、本実施形態に係る製造方法においては、反応生成物に相応する種物質を第2の液体の相中に予め分散し、所望の大きさ、形状などを有する反応生成物、特に所望の大きさを有する反応生成物を確実に得ることが可能である。
【0039】
また、本実施形態に係る製造方法においては、液滴の大きさが、低誘電率液体LLの種類、第1の液体L1の表面張力、イオン強度、及び比誘電率、並びにノズル1及び電極4間の電位差のうち少なくとも1つを調整することによって制御される。そのため、液滴の大きさを精密に制御することによって、液滴を第1及び第2の物質の反応に適するように制御することができる。また、反応生成物の大きさは液滴の大きさに起因して変化するので、液滴の大きさを精密に制御することによって、所望の大きさの反応生成物を得ることに資する。
【0040】
本実施形態に係る製造方法においては、第1及び第2の物質の一方が金属塩であり、第1及び第2の物質の他方が還元剤であり、第2の液体がさらに界面活性剤を溶解又は分散させた場合、所望の特性を有する金属ナノ粒子の分散体を、第2の液体相P2中にて、高速かつ高効率で製造することができる。また、金属ナノ粒子分散液を製造する場合、界面活性剤がノニオン界面活性剤であると好ましく、この場合、金属ナノ粒子分散液を安定化し易くでき、さらには、金属ナノ粒子分散液を濃縮し易くできる。
【0041】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態に係る分散体の製造方法について以下に説明する。
本実施の形態は、第1の実施の形態との相違として、反応生成物に相応する種物質を第2の液体の相中に予め分散することを要しない。
ただし、第1の実施の形態で、「ノズル1に正電位をもたらし、かつ電極4に0kV以上の電位をもたらして、ノズル1と電極4との間に電位差を与える」としたことについて必須とする。そして、この電位差を小さく設定している。小さくとは、1〜4kV、好ましくは、2kV〜3kVの範囲とすることを意味する。この場合、ノズル1側の電位を電極4側の電極より高くすることが好適である。
その他の構成については、第1の実施の形態で説明した内容がそのまま適用される。
なお、もっとも、反応生成物に相応する種物質を、第2の液体の相中に予め分散することを妨げるものではない。
本実施形態に係る製造方法においては、ノズル1に正電位をもたらし、かつ電極4に0kV以上の電位をもたらして、ノズル1と電極4との間に小さい電位差を与え、これによって、本実施形態に係る製造方法においても、所望の反応生成物を確実に得ることが可能である。
【0042】
さらに、本実施の形態では、第2の液体相P2にマグネティックスターラーを配置し、これを撹拌し、撹拌条件の強弱、例えば、マグネティックスターラーの回転速度を調整することによって、ノズル1に正電位をもたらし、かつ電極4にも正電位をもたらして、ノズル1と電極4との間に電位差を与えることと相まって、反応生成物の大きさを調整することができる。
【0043】
ここまで本発明の実施の形態について述べたが、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではない。本発明は、その技術的思想に基づいて変形かつ変更可能である。
【実施例】
【0044】
次に、比較例1、実施例1〜実施例8について説明する。
【0045】
動的光散乱装置(大塚電子社製、品番 ELSZ−1000)を用いて、キュムラント法によって反応生成物の粒子径を求めた。得られた粒度分布を比較例1、実施例1、4〜6の各々について、
図2〜
図6に示す。また、モード径(粒度分布の最頻値に対応する粒子径)を比較例1、実施例1〜6の各々について求め、表1中及び
図2〜
図6の図中に表示した。
【0046】
[比較例1]
表1に示すように、比較例1においては、第1の液体L1として水を用い、原料物質としてテトラクロロ金(III)酸・4水和物を0.1mol/Lの濃度とするように加えて調製した。第2の液体L2として水を用い、かかる水に分散剤としてポリビニルピロリドンを1質量%の濃度とするように加えて調製した水溶液に、さらに、還元剤としてアスコルビン酸を0.1mol/Lの濃度にて共存させた。低誘電率液体LLとしてはイソパラフィンを用いた。容量を200mLとするビーカーを容器6として用いて、かかるビーカーに100mLの低誘電率液体相P1と100mLの第2の液体相P2とを2相分離状態にて収容した。
【0047】
低誘電率液体相P1にノズル1を配置し、ビーカーの底部、すなわち、第2の液体相P2の下部に電極4を配置した。ノズル1及び電極4の距離W1は4.5cmとし、ノズル1の噴霧口1a及び界面B間の距離W2は1cmとした。ビーカー内に収容された液体を、第2の液体相P2内のマグネチックスターラーによって500rpmで撹拌(強撹拌)しながら、電源5(松定プレシジョン株式会社製 高圧電源 HAR)によってノズル1側の電位を+5kVとし、かつ電極4側の電位を−1kVとして、ノズル1及び電極4間の電位差を絶対値にて6kVとした。このような状態で、第1の液体L1を、0.01mL/minの送液速度にて10分間、ノズル1から電極4に向けて噴霧した。その結果、第2の液体相P2にて金ナノ粒子分散液が得られ、かかる金ナノ粒子分散液を回収した。このような条件にて得られた金ナノ粒子分散液においては、金ナノ粒子の粒径分布は、
図2のようになり、モード径は5.3nmとなった。
【0048】
[実施例1]
ビーカー内に収容された液体を、第2の液体相P2内のマグネチックスターラーによって500rpmで撹拌(強撹拌)しながら、電源5(松定プレシジョン株式会社製 高圧電源 HAR)によってノズル1側の電位を+2kVとし、かつ電極4側の電位を0kVとして、ノズル1及び電極4間の電位差を絶対値にて2kVとした。このような状態で、第1の液体L1を、0.01mL/minの送液速度にて10分間、ノズル1から電極4に向けて噴霧した。その結果、第2の液体相P2にて金ナノ粒子分散液が得られ、かかる金ナノ粒子分散液を回収した。このような条件にて得られた金ナノ粒子分散液においては、金ナノ粒子の粒径分布は、
図3のようになり、モード径は10.0nmとなった。
なお、他の条件は、比較例1と同様とした。
【0049】
[実施例2]
ビーカー内に収容された液体を、第2の液体相P2内のマグネチックスターラーによって500rpmで撹拌(強撹拌)しながら、電源5(松定プレシジョン株式会社製 高圧電源 HAR)によってノズル1側の電位を+3kVとし、かつ電極4側の電位を+1kVとして、ノズル1及び電極4間の電位差を絶対値にて2kVとした。このような状態で、第1の液体L1を、0.01mL/minの送液速度にて10分間、ノズル1から電極4に向けて噴霧した。その結果、第2の液体相P2にて金ナノ粒子分散液が得られ、かかる金ナノ粒子分散液を回収した。このような条件にて得られた金ナノ粒子分散液においては、金ナノ粒子のモード径は12.3nmとなった。
なお、他の条件は、比較例1と同様とした。
【0050】
[実施例3]
ビーカー内に収容された液体を、第2の液体相P2内のマグネチックスターラーによって500rpmで撹拌(強撹拌)しながら、電源5(松定プレシジョン株式会社製 高圧電源 HAR)によってノズル1側の電位を+6kVとし、かつ電極4側の電位を+4kVとして、ノズル1及び電極4間の電位差を絶対値にて2kVとした。このような状態で、第1の液体L1を、0.01mL/minの送液速度にて10分間、ノズル1から電極4に向けて噴霧した。その結果、第2の液体相P2にて金ナノ粒子分散液が得られ、かかる金ナノ粒子分散液を回収した。このような条件にて得られた金ナノ粒子分散液においては、モード径は23.1nmとなった。
なお、他の条件は、比較例1と同様とした。
【0051】
[実施例4]
ビーカー内に収容された液体を、第2の液体相P2内のマグネチックスターラーによって500rpmで撹拌(強撹拌)しながら、電源5(松定プレシジョン株式会社製 高圧電源 HAR)によってノズル1側の電位を+8kVとし、かつ電極4側の電位を+6kVとして、ノズル1及び電極4間の電位差を絶対値にて2kVとした。このような状態で、第1の液体L1を、0.01mL/minの送液速度にて10分間、ノズル1から電極4に向けて噴霧した。その結果、第2の液体相P2にて金ナノ粒子分散液が得られ、かかる金ナノ粒子分散液を回収した。このような条件にて得られた金ナノ粒子分散液においては、金ナノ粒子の粒径分布は、
図4のようになり、モード径は23.1nmとなった。
なお、他の条件は、比較例1と同様とした。
【0052】
[実施例5]
ビーカー内に収容された液体を、第2の液体相P2内のマグネチックスターラーによって0〜100rpmで撹拌(弱撹拌)しながら、電源5(松定プレシジョン株式会社製 高圧電源 HAR)によってノズル1側の電位を+8kVとし、かつ電極4側の電位を+6kVとして、ノズル1及び電極4間の電位差を絶対値にて2kVとした。このような状態で、第1の液体L1を、0.01mL/minの送液速度にて10分間、ノズル1から電極4に向けて噴霧した。その結果、第2の液体相P2にて金ナノ粒子分散液が得られ、かかる金ナノ粒子分散液を回収した。このような条件にて得られた金ナノ粒子分散液においては、金ナノ粒子の粒径分布は、
図5のようになり、モード径は43.3nmとなった。
なお、他の条件は、比較例1と同様とした。
【0053】
[実施例6]
第2の液体相P2内に、実施例3で得られた金ナノ粒子を種物質として0.008質量%添加し、ビーカー内に収容された液体を、第2の液体相P2内のマグネチックスターラーによって500rpmで撹拌(強撹拌)しながら、電源5(松定プレシジョン株式会社製 高圧電源 HAR)によってノズル1側の電位を+8kVとし、かつ電極4側の電位を+6kVとして、ノズル1及び電極4間の電位差を絶対値にて2kVとした。このような状態で、第1の液体L1を、0.01mL/minの送液速度にて10分間、ノズル1から電極4に向けて噴霧した。その結果、第2の液体相P2にて金ナノ粒子分散液が得られ、かかる金ナノ粒子分散液を回収した。このような条件にて得られた金ナノ粒子分散液においては、金ナノ粒子の粒径分布は、
図6のようになり、モード径は43.3nmとなった。
なお、他の条件は、比較例1と同様とした。
【0054】
(比較例1及び実施例1〜6の解析)
比較例1では、第2の液体相P2を強撹拌しながら、ノズル1側の電位を+5kVとし、かつ電極4側の電位を−1kVとして、ノズル1及び電極4間の電位差を絶対値にて6kVとし、その結果、金ナノ粒子のモード径は5.3nmとなった。このモード径は、ナノ粒子として十分に小さい粒径が得られていることを示している。
【0055】
実施例1では、第2の液体相P2を強撹拌しながら、ノズル1側の電位を+2kVとし、かつ電極4側の電位を0kVとして、ノズル1及び電極4間の電位差を絶対値にて2kVとし、金ナノ粒子のモード径は、10.0nmとなった。実施例2では、印加電位以外の条件を変えずに、ノズル1側の電位を+3kV、かつ電極4側の電位を+1kVとすることでモード径12.3nmの粒径分布を示す金ナノ粒子を得、実施例3では、ノズル1側の電位を+6kV、かつ電極4側の電位を+4kVとしてモード径23.1nmの粒径分布を示す金ナノ粒子を得た。実施例4では、ノズル1側の電位を+8kVとし、かつ電極4側の電位を6kVとして、金ナノ粒子のモード径は、23.1nmとなった。表1に示すように、ノズル1を正電位とし、かつ電極を0kV以上の電位とすれば、ノズル1及び電極4間の電位差が2kVであれば、nmオーダーの金属ナノ粒子を効果的に得られ、かつ印加電位によるナノ粒子の粒子径が制御できることを示している。
【0056】
実施例5では、第2の液体相P2を弱撹拌しながら、ノズル1側の電位を+8kVとし、かつ電極4側の電位を6kVとして、ノズル1及び電極4間の電位差を絶対値にて2kVとし、その結果、金ナノ粒子は、
図5のような粒径分布を示し、モード径は、43.3nmとなった。この結果は、マグネチックスターラーのような撹拌手段による撹拌の有効性を示している。
実施例6では、第2の液体相P2内に、実施例5で得られた金ナノ粒子を種物質として0.008質量%添加し、第2の液体相P2を強撹拌しながら、ノズル1側の電位を+8kVとし、かつ電極4側の電位を6kVとして、ノズル1及び電極4間の電位差を絶対値にて2kVとし、その結果、金ナノ粒子のモード径は、43.3nmとなった。実施例4と、実施例5の相違は、撹拌の度合いだけであり、撹拌の度合いを制御することで、得られる金ナノ粒子の作り分けができることを示している(表1)。
実施例6は、種物質を添加した以外、実施例4と同一条件で行っている。実施例6の結果は、実施例4の結果に近いものを想定していた。実施例6の結果は、撹拌手段による撹拌よりも、種物質の添加の影響の方が大きいことを示しており、種物質を添加することにより、所望の性状の反応生成物を得ることができることを示している。
【0057】
【表1】