(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のループが導電糸によって形成され、複数の前記導電糸が前記ループ同士を絡み合わせて編み込まれた布地からなり、電流が前記導電糸に流れて前記布地の温度が上昇して隣り合う前記導電糸の絡み合いの形態が変化し、前記布地を流れる電流経路が短縮されるか、又は前記ループ同士の接触が増して前記布地の電気抵抗値が低下する、ことを特徴とすることを特徴とする面状センサー。
前記布地にはコントローラが接続され、該コントローラは前記布地の電気抵抗値を検知する検知手段と、該検知手段により検知された電気抵抗値に基づいて、前記布地に印加する電圧を低げ若しくは増すか、又は電圧の印加を停止若しくは開始する制御手段と、を備えている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の面状センサー。
複数のループが導電糸によって形成され、複数の前記導電糸が前記ループ同士を絡み合わせて編み込まれた布地と、電極糸によって構成され、前記布地に間隔を空けて設けられた電極部と、を備え、電流が前記導電糸に流れて前記布地の温度が上昇することに伴って、隣り合う前記導電糸の絡み合いの形態が変化し、前記布地を流れる前記電流の経路が短縮されるか、又は前記ループ同士の接触が増して前記布地の電気抵抗値が低下する、ことを特徴とする布ヒータ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本出願人は、上記の布ヒータの性質についてさらに研究を進めてきたところ、編み物からなる布ヒータでは、布地の温度が上昇した場合に布地の電気抵抗値が低下し、布地の温度が低下した場合に布地の電気抵抗値が上昇することを見出した。一般に、金属は、温度が上昇すると電気抵抗値は上昇し、温度が低下すると電気抵抗値も低下する。ところが、上記の布ヒータでは、こうした技術常識とは全く正反対の現象を示した。本出願人は、技術常識とは正反対の現象を示す布ヒータについて鋭意研究を進め、その現象を利用して本発明を完成させた。
【0005】
本発明の目的は、布地の温度が上昇した場合に布地の電気抵抗値が低下し、布地の温度が低下した場合に布地の電気抵抗値が上昇する現象を利用した面状センサー及び布ヒータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る面状センサーは、複数のループが導電糸によって形成され、複数の前記導電糸が前記ループ同士を絡み合わせて編み込まれた布地からなり、電流が前記導電糸に流れて前記布地の温度が上昇して隣り合う前記導電糸の絡み合いの形態が変化し、前記布地を流れる電流経路が短縮されるか、又は前記ループ同士の接触が増して前記布地の電気抵抗値が低下することを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、布地の温度が上昇した場合は、導電糸の絡み合いの形態が変化し、布地を流れる電流経路が短縮されるか、又はループ同士の接触が増して布地の電気抵抗値が低下する。逆に、布地の温度が下がった場合は、隣り合う導電糸の絡み合いの形態が元に戻り、電流経路が長くなるか、又はループ同士の接触が少なくなって布地の電気抵抗値が増す。その結果、別途にセンサーを用いることなく、布地自体が電気抵抗値のセンサーとして機能する。
【0008】
本発明に係る面状センサーにおいて、前記電流の流れる方向が、導電糸ごとに形成された複数の前記ループが連なるコース方向である。
【0009】
この発明によれば、電流の流れる方向が、前記導電糸ごとに形成された複数のループが連なるコース方向なので、隣り合う導電糸の間でループ同士が接触したときに、電流経路が短縮して電流がバイパスし、電気抵抗が下がる。
【0010】
本発明に係る面状センサーにおいて、前記導電糸は、芯線の外周に金属導体が被覆されてなるフィラメント線が、複数撚り合わせて構成されている。
【0011】
この発明によれば、導電糸として、芯線の外周に金属導体が被覆されてなるフィラメント線が複数撚り合わせて構成されているものを用いるので、布地を伸縮自在に構成することができ、伸縮自在な面状センサーとなる。
【0012】
本発明に係る面状センサーにおいて、前記布地にはコントローラが接続され、該コントローラは前記布地の電気抵抗値を検知する検知手段と、該検知手段により検知された電気抵抗値に基づいて、前記布地に印加する電圧を低げ若しくは増すか、又は電圧の印加を停止若しくは開始する制御手段と、を備えている。
【0013】
この発明によれば、上記のように、布地の電気抵抗値を検知する検知手段と、布地に印加する電圧を低げ若しくは増すか、又は電圧の印加を停止若しくは開始する制御手段とを備えているので、布地の温度が所定温度になって電気抵抗値が下がって電流の流れがよくなったときに、温度が上がりすぎないように制御することができる。一方、布地の温度が下がりすぎて電気抵抗値が上がったときは、電流を流して温度を上げるように制御することができる。そのため、面状センサーを安全装置のセンサーとして用いることができる。
【0014】
(2)本発明に係る布ヒータは、複数のループが導電糸によって形成され、複数の前記導電糸が前記ループ同士を絡み合わせて編み込まれた布地と、電極糸によって構成され、前記布地に間隔を空けて設けられた電極部と、を備え、電流が前記導電糸に流れて前記布地の温度が上昇することに伴って、隣り合う前記導電糸の絡み合いの形態が変化し、前記布地を流れる前記電流の経路が短縮されるか、又は前記ループ同士の接触が増して前記布地の電気抵抗値が低下することを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、布地の温度が上昇した場合は、導電糸の絡み合いの形態が変化し、布地を流れる電流経路が短縮されるか、又はループ同士の接触が増して布地の電気抵抗値が低下する。逆に、布地の温度が下がった場合は、隣り合う導電糸の絡み合いの形態が元に戻り、電流経路が長くなるか、又はループ同士の接触が少なくなって布地の電気抵抗値が増す。その結果、別途にセンサーを用いることなく、布地自体を電気抵抗値のセンサーとして機能させた布ヒータとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、布地の温度上昇に伴い布地の電気抵抗値が低下するという特異的な現象に基づいて、布地の温度が所定の温度以上に上昇しないようにしたり、あまり下がりすぎないように利用することができる面状センサーを提供することができる。また、そうした布地を面状センサーとして機能させた布ヒータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態及び図面に記載した形態と同じ技術的思想の発明を含むものであり、本発明の技術的範囲は実施形態の記載や図面の記載のみに限定されるものでない。
【0019】
[基本構成]
本発明に係る面状センサー1は、複数のループ20が導電糸10によって形成され、複数の導電糸10がループ20同士を絡み合わせて編み込まれた布地2で構成されている。面状センサー1は、電流が導電糸10に流れて布地2の温度が上昇することに伴って隣り合う導電糸10の絡み合いの形態が変化し、その布地2を流れる電流経路が短縮されるか、又はループ20同士の接触が増して布地2の電気抵抗値が低下する。また、本発明に係る布ヒータ1Aは、複数のループ20が導電糸10によって形成され、複数の導電糸10がループ20同士を絡み合わせて編み込まれた布地2と、電極糸によって構成され、布地2に間隔を空けて設けられた電極部3と、を備えている。布ヒータ1Aは、電流が導電糸10に流れて布地2の温度が上昇することに伴って布地2を構成する導電糸10の絡み合いの形態が変化し、布地2を流れる電流経路が短縮されるか、又はループ20同士の接触が増して布地2の電気抵抗値が低下する。
【0020】
こうした面状センサー1及び布ヒータ1Aにおいて、布地2は、金属層12又は金属箔で被覆されたフィラメント線15を撚り合わせた導電糸10の編み物である。そうした布地2では、フィラメント線を被覆する金属層12又は金属箔の電気抵抗を利用して発熱させている。
【0021】
金属は、温度が上昇すると電気抵抗は大きくなる。この技術常識に基づけば、温度が上昇すれば金属層12又は金属箔の電気抵抗も当然大きくなって電流が流れ難くなり、布地2の温度は低下することになる。また、温度が下がれば金属層12又は金属箔の電気抵抗も当然小さくなって電流が流れ易くなり、布地2の温度は上昇することになる。ところが、導電糸10を上記のように編み込んだ布地2は、電圧を印加して温度が上昇すると、驚くべきことに布地2の電気抵抗が低下し、一方、電圧の印加をやめて温度が下がると布地2の電気抵抗が高くなった。この現象は、温度が上昇すると布地2が収縮し、隣り合う導電糸10のループ20同士の接触が増して、電流経路が短縮され、温度が下がると布地2の収縮が元に戻り、隣り合う導電糸10のループ20同士の接触が少なくなって、電流経路が元のように長くなることに基づいていると推察した。本発明は、布地2の温度が上昇した場合に布地2の電気抵抗値が低下し、布地2の温度が低下した場合に布地2の電気抵抗値が上昇する現象を利用したものであり、布地2の温度が所定の温度以上に上昇しないようにしたり、布地2の温度が下がりすぎないように利用することができる面状センサー1を提供するものである。
【0022】
従来公知のサーミスタや温度ヒューズを薄く柔らかい布地2に用いると、大きさや固さの違和感があると共に、サーミスタや温度ヒューズが衝撃や屈折等で破損するおそれがある。しかし、本発明に係る面状センサー1及び布ヒータ1Aは、布地自体がセンサーとして機能するので、薄く柔らかい布地2を用いた場合に布地2に固体物を取り付ける必要がなく、使用時に違和感がない。また、衝撃や屈折等で破壊するおそれもない。さらに、サーミスタのように一点の温度だけを検知するものではなく、布地全体の電気抵抗値を検知するものである。
【0023】
以下、本発明に係る面状センサー1及び布ヒータ1Aの具体的な構成について説明する。なお、面状センサー1と布ヒータ1Aの基本的な構成は同じなので、以下では、面状センサー1を例に説明する。
【0024】
[面状センサーの構成例]
図1は、面状センサー1を作用させるシステムモデルの構成例を示している。この構成例の面状センサー1は、1枚の布地2と、布地2に一定の間隔を空けて設けられた電極部3とを有している。電極部3には、電圧を印加すると共に印加電圧を制御するコントローラ5が配線4により接続されている。電極部3は、布地2の2箇所に設けられている。2箇所に設けられた電極部3同士は、所定の間隔を空けて設けられている。ただし、センサーの機能を阻害しなければ、電極部3は2箇所以上に設けることもできる。こうした電極部3は、例えば、電極糸を縫い込んで形成する。布地2に電極糸を縫い込んで電極部3形成する場合、その電極部3は、布地2の伸縮に追従して自在に変形するように、例えば電極糸を飾り縫いという縫い方で形成されることが好ましい。電極糸を飾り縫いして電極部3を形成した場合、電極部3は、布地2の伸縮に応じて変形する。こうした電極部3は、布地2に固定的に取り付けられるが、それに限定されず、布地2に対して着脱可能に設けることもできる。
【0025】
<布地>
面状センサー1を構成する布地2は、編物である。編物は、一般に、糸に複数のループ20を連ねて形成し、隣り合う複数の糸のループ20同士を絡めて構成される。面状センサー1は、
図2に示すように、導電糸10にループ20を連ねて形成し、隣り合う複数の導電糸10のループ20同士を絡めて構成された編物である。
【0026】
導電糸10の編み方は特に限定されず、横編みで導電糸10を編み込んでもよいし、縦編みで導電糸10を編み込んでもよい。横編みとしては、例えば、天竺編み、リブ編み(フライス編み又はゴム編みともいう。)、パール編み(リンクス編み又はガーター編みともいう)等を挙げることができる。縦編みとしては、例えば、トリコット編み、アトラス編み等を挙げることができる。導電糸10の編み方は、面状センサー1の用途等に応じて適宜に選択すればよい。本発明は、布地2がこうした編み方で編んだ編み物であるに特徴があり、そのように編まれた布地2は、布地2の温度が上昇した場合は、導電糸10の絡み合いの形態が変化(収縮)し、逆に、布地2の温度が下がった場合は、隣り合う導電糸10の絡み合いの形態が元に戻る。布地2の編み方は、こうした形態変化が生じるものである必要があり、そうした形態変化が生じれば、種々の編み方を採用することができる。
【0027】
布地2の構成としては、そうした形態変化が生じれば特に限定されず、種々の構成とすることができる。例えば、導電糸10だけで編んだ構成、一面を導電糸10で編み、他面を繊維糸で編んだ構成、一面を導電糸10で編み、他面を繊維糸で編むと共に、一面と他面との間に繊維糸で編んだ中間層を設けた構成、一面と他面とを繊維糸で編み込み、一面と他面との間に導電糸10で編み込んだ中間層を設けた構成、等を挙げることができる。また、布地2は、導電糸10だけを編み込んでなる部分と繊維糸を編み込んでなる部分とが平面状に繋がれてなる構成にすることもできる。さらに、導電糸10を数本編み込むごとに繊維糸を定期的又は不定期的に編み込んで構成することもできる。繊維糸としては、任意に選択されたデニールの繊維糸が用いられる。
【0028】
<導電糸>
導電糸10は、複数のフィラメント線15が撚り合わせて構成されている。フィラメント線15は、芯線11と、芯線11の外周に設けられた金属導体とで構成されている。フィラメント線15は、
図3(A)に示すように、芯線11が繊維で形成され、芯線11の外周に金属層12又は金属箔が設けられたものを好ましく挙げることができる。
【0029】
繊維としては、温度上昇によって布地2が収縮して電気抵抗が低下し、温度降下によって布地2の収縮が元に戻って電気抵抗が増すという本発明特有の現象を生じさせることができる繊維が用いられる。そうした繊維であれば、合成繊維や天然繊維から任意に選択される。合成繊維としては、ポリアミド繊維やポリエステル繊維を挙げることができる。ポリアミド繊維は、例えば、ナイロン、ケプラー(登録商標)、テクニール(登録商標)等を挙げることができる。ポリエステル繊維は、例えば、テトロン(登録商標)等を挙げることができる。天然繊維についても、上記の合成繊維と同様の性質を有するものを用いることができる。繊維の中でも、ナイロンは本発明特有の現象を良好に生じさせることができるので、好ましく用いられる。
【0030】
金属層12は、例えば、
図3(A)に示すように、めっき(無電解又は電解)、蒸着、スパッタリング等で形成することができる。金属層12の材質は特に限定されないが、銅、銅合金、銀、銀合金等が好ましい。金属箔は、帯状に加工したものが好ましく、芯線11の外周を覆うように長さ方向に螺旋状に巻き付けられる。金属箔の材質も特に限定されず、銅や銅合金(例えば0.3質量%の錫入り銅合金)等が好ましい。導電糸10は、金属層12又は金属箔で覆われたフィラメント線15が、
図3(B)に示すように複数撚り合わされて構成されている。
【0031】
<導電糸の絡み合いの形態の変化と電流の流れの関係>
図4(A)及び
図4(B)は、隣り合う導電糸10の絡み合う形態が温度の上昇や下降に伴って変化することをモデル的に示した図である。布地2に電圧を印加しない温度上昇前の段階では、布地2を構成する導電糸10は、
図4(A)に示すように、布地2を構成する隣り合う導電糸10に形成されたループ20同士が緩やかに絡み合っている。そのため、隣り合う導電糸10のループ20同士の接触が少ない。これに対し、布地2に電圧を印加した温度上昇後の段階では、布地2を構成する導電糸10は、
図4(B)に示すように、隣り合う導電糸10のループ20同士の接触が増す。この現象は、導電糸10の芯線11である繊維が温度上昇に伴って収縮し、布地2が全体的に収縮することにより起き、また、温度が下がることによって、収縮した繊維が元に戻ってし、全体的に収縮した布地2が元に戻ることにより起きる。
【0032】
布地2に電圧を印加して布地2の温度が上昇又は下降し、隣り合う導電糸10のループ20同士の絡み合いの形態が変化したときに電流が流れる経路の変化について、
図5を参照して説明する。
【0033】
図5は、導電糸10ごとに形成された複数のループ20が一方向に連なるコース方向(図のX方向)に電圧を印加した場合の変化を示している。電圧を印加して間もないときは、布地2の温度はまだ上昇していない。布地2の温度が上昇していないときには、隣り合う導電糸10のループ20同士の絡み合いの形態が変化しておらず、隣り合う導電糸10のループ20同士の接触が少ない。この場合、導電糸10を流れる電流は、
図5(A)に示すように、各導電糸10の長手方向に流れる。そのため、各導電糸10には、各導電糸10に形成されたループ20の長さに応じた電気抵抗値が発生する。これに対し、布地2に電圧を印加してから時間が経つにしたがって、布地2の温度が上昇する。布地2の温度が上昇した場合には、隣り合う導電糸10のループ20同士の絡み合いの形態が変化し、隣り合う導電糸10のループ20同士の接触が増す。布地2の温度が上昇した場合、導電糸10を流れる電流は、
図5(B)に示すように、温度上昇で布地2が収縮して隣り合う導電糸10のループ20同士の接触が増し、その接触部分で短絡して電流経路が短縮される。そのため、各導電糸10では、各導電糸10に形成されたループ20の長さ分の電気抵抗値が低下する。また、隣り合う導電糸10のループ20同士の接触が増すことにより、布地2の電気抵抗値は低下する。その後、印加電圧を下げたり電圧印加を停止した場合は、布地2の温度が下降する。布地2の温度が下降したときは、隣り合う導電糸10のループ20同士の絡み合いの形態は、
図5(B)の状態から
図5(A)に示す元の状態に戻り、隣り合う導電糸10のループ20同士の接触が少なくなる。この場合、導電糸10を流れる電流は、
図5(A)に示すように、各導電糸10の長手方向に流れることになる。
【0034】
図6は、布地2の温度と導電糸10の電気抵抗値との関係をモデル的に図示したものである。
図6において、横軸は布地2の温度を表し、縦軸は導電糸10の電気抵抗値を表している。
図6は、布地2の温度を30℃から80℃までの範囲で変化させている。布地2の温度が30℃から上昇し始めた段階では、導電糸10の電気抵抗値は大きく低下する。布地2の温度が上昇するにしたがって、電気抵抗値の低下が徐々に小さくなる。その際、電気抵抗値は、連続的に減少する。このことを電気抵抗値の変化率(抵抗変化率ともいう。)でいえば、
図6に示したグラフにおいて、布地2の温度が30℃に近い温度では、グラフの接線の傾きが大きくて抵抗変化率が大きく、80℃に近い温度では、グラフの接線の傾きが小さくて抵抗変化率が小さい。なお、温度を降下させた場合は逆の現象が起こり、電気抵抗値が高くなる。
【0035】
以上、編み目のコース方向に電圧を印加した場合を例に説明したが、編み目のウェール方向(Y方向)に電圧を印加した場合も同様、温度上昇に伴って電気抵抗値が低下し、温度降下に伴って電気抵抗値が高くなる。このことから、上記と同様の形態変化により、隣り合う導電糸10のループ同士の接触が増して電気抵抗値が低下し、又は隣り合う導電糸10のループ同士の接触が少なくなって電気抵抗値が大きくなると考えられる。
【0036】
<コントローラ>
コントローラ5は、配線4により電極部3に接続されている。コントローラ5は、電圧を印加する電源としての機能と、布地2の電気抵抗値を検知する検知部としての機能と、印加する電圧を下げ若しくは増すか、又は電圧の印加を停止若しくは開始する制御部としての機能と、を有している。コントローラ5は、布地2の形態毎に予め測定された温度と電気抵抗値との関係に基づき、必要に応じた電圧を印加又は停止する。例えば、DC1.0V以上、DC25V以下の範囲の電圧を印加したり、印加を停止する。
【0037】
なお、温度の上昇や降下の際の抵抗変化率は、[電気抵抗値の変化率=ΔΩ/ΔT]で表される。ΔTは温度の変化量を表し、ΔΩは温度がΔTだけ変化したしたときの電気抵抗値の変化量を表している。
【0038】
コントローラ5は、布地2への印加電圧の大きさを制御すると共に、電圧を印加するか否かも制御する。この制御は、布地2の温度をどの程度の温度まで上昇させたいか、又はどの程度の温度まで下がったら加温を開始したいかにより定められる。コントローラ5は、布地2の温度が所定の温度(例えば50℃)になったときに、布地2に印加する電圧を低下したり、電圧の印加を停止したりするように予め許容温度を設定しておき、布地2の温度が所定の温度(例えば50℃)になったときに電圧の印加を制御する。また、布地2の温度が所定の温度まで下がったときに、布地2に印加する電圧を上げたり、電圧の印加を再開したりするように予め許容温度を設定しておき、布地2の温度が所定の温度まで下がったときに電圧の印加を制御する。
【0039】
これらの制御は、変化した電気抵抗値又は抵抗変化率に基づいて、電圧を印加するか否かを行う。既に説明した
図6のグラフに示すように、布地2の温度が上昇するにしたがって、電気抵抗値又は抵抗変化率は徐々に小さくなる。コントローラ5には記憶部があってもよく、その記憶部には、布地2に印加する電圧を低下若しくは増加させたり、又は印加電圧を停止若しくは開始させたりする電気抵抗値又は抵抗変化率が予め記憶されている。電気抵抗値又は抵抗変化率が設定した値に一致したときに、コントローラ5の制御部は、布地2に印加する電圧を低下若しくは増加させたり、又は印加電圧を停止若しくは開始する。なお、検知部は本発明の検知手段を構成し、制御部は本発明の制御手段を構成している。このように、面状センサー1は、その制御によって安全装置のセンサーとして利用することができる。
【0040】
図1に示した構成例は、布地2を面状センサー1として機能させるためのシステムモデルを示したものである。本発明に係る面状センサー1は、例えば、スポーツウエア、スキーウエア、作業着、その他の一般的な衣類、ベッドシーツ、手袋、靴下、サポーター、マフラー、アイマスク、膝掛け、工業用ヒータ、融雪装置等に適用することができる。例えば、面状センサー1を衣類に用いる場合、面状センサー1の電極部3に小型のコントローラ5を接続させておくことができる。コントローラ5は、電極部3から衣類への電圧の印加を制御する。
【0041】
衣類は、電圧が印加されることによって温度が上昇するので、防寒着等として用いることができる。この場合、コントローラ5は、衣類の電気抵抗値又は抵抗変化率が予め設定された値まで減少したときに、衣類の温度が設定温度に到達したと判断し、衣類への印加電圧を下げたり、電圧の印加を停止する。一方、衣類への印加電圧を下げたままであったり、電圧の印加を停止したままでは、衣類の温度が下がってしまう。その場合は、温度の低下によって電気抵抗値又は抵抗変化率が予め設定された値まで増したときに、衣類の温度が下がりすぎたと判断し、衣類への印加電圧を上げたり、電圧の印加を開始する。こうしたセンサー機能により、面状センサーとして作動させることができる。
【実施例】
【0042】
[実験例]
<確認実験>
布地2の温度が上昇することに伴って布地2の電気抵抗値が低下することを確認する実験を行った。以下、実験方法及び実験結果について説明する。
【0043】
(試験片)
本実験では、ナイロン66に銀を被覆したフィラメント線15を複数撚り合わせた導電糸10を用いた。試験片には、導電糸10とポリエステル糸とを用いた両面天竺編みの平編物を用いた。両面天竺編みの平編物は、表地が導電糸10のみで作製された平編物で、裏地がポリエステル糸のみで作製された平編物であり、両面をつなぎ糸であるポリエステル糸で繋いだ。天竺編みの平編物のコース密度は、14course/inchであった。網目長は134mmであり、目付けは183g/m
2であり、ゲージは18.3Gであった。
【0044】
導電糸10は、ナイロン66糸の表面をスパッタリングで銀被覆した糸である。ナイロン66は原糸で7.8texであり、フィラメント線15の太さは10.2texである。
【0045】
(実験方法)
実験は、試験片に電圧を印加し、試験片の温度と電気抵抗値との関係を測定した。試験片の温度は30℃から80℃まで上昇させ、温度が10℃上昇するたびに電気抵抗値を測定した。電気抵抗値は、印加した電圧値と電流値に基づき算出した。電圧は、GW INSTEK社製のPSW30−36型の直流安定化電源により、1.0Vの一定値を印加した。
【0046】
(実験結果)
図7に実験結果を示す。
図7に示すように、温度が30℃のとき電気抵抗値は約3.7Ωであった。温度が上昇するにしたがって、電気抵抗値は3.7Ωから徐々に低下していた。具体的には、温度が40℃のとき電気抵抗値は約3.3Ωであり、温度が50℃のとき電気抵抗値は約3.1Ωであり、温度が60℃のとき電気抵抗値は約2.9Ωであり、温度が70℃のとき電気抵抗値は約2.8Ωであり、温度が80℃のとき電気抵抗値は約2.6Ωであった。
【0047】
また、温度が上昇するにしたがって、電気抵抗値の低下の程度は徐々に小さくなった。すなわち、温度が上昇するに伴って、電気抵抗値の抵抗変化率が小さくなった。
【0048】
<比較実験>
比較実験は、試験片に引っ張り力を与えたときの試験片の電気抵抗値の変動、試験片に圧縮力を与えたときの試験片の電気抵抗値の変動、試験片を加熱したときの試験片の電気抵抗値の変動、及び導電糸10の熱収縮率をそれぞれ測定した。試験は、上記の確認実験と同様のものを用いた。
【0049】
(実験方法)
(1)引っ張りによる電気抵抗値の変動
(1.1)実験方法
引っ張り試験は、温度が25±2℃、湿度が50±5%RHの環境の下で、JIS(JAPAN Industrial Standards) L1096の引っ張り強さ、及び伸び率A法(ストリップ法)に準拠して行った。試験は、幅が50mm、長さが300mmの試験辺を200mmの間隔でつかみ、引張速度を200mm/分として、コース方向に電圧を印加して行った。引っ張りの態様は、引張伸度を10%ずつ増加させ、各伸度で引張を一旦停止させた。そして、長さ方向に電極を取り付け、電流値を測定し、印加した電圧値と電流値とにより電気抵抗値を算出した。電圧は、確認実験と同様の電源を用いて、1.0Vの一定値を印加した。
【0050】
(1.2)実験結果
引張による電気抵抗値を測定した場合、引張伸度が0%から20%になるまでの間に、電気抵抗値は低下した。一方、引張伸度が20%から30%に変化するときに電気抵抗値は上昇した。引張伸度が30%から70%に変化する範囲では、電気抵抗値は低下した。具体的には、引張伸度が0%のときには約2.3Ωであった。引張伸度が20%のときは約1.95Ωであり、引張伸度が30%のときは約2.0Ω近くまで上昇した。引張伸度が70%のときは約1.9Ωであった。
【0051】
(2)圧縮による電気抵抗値の変動
(2.1)実験方法
圧縮による電気抵抗の変動の実験は、温度25±2℃、湿度50±5%RHの環境の下で、JIS(JAPAN Industrial Standards) L1096.8.20の圧縮率及び圧縮弾性率を参考にして行った。試験片は、幅が100mm、長さが100mmである。まず、試験片を綿100%のクッションの上に乗せ、圧縮板が試験片の中央に位置するように設置した。エアパックを試験片の表面に取り付け、エアパックで圧縮圧が0gf/cm
2、50gf/cm
2、100gf/cm
2、150gf/cm
2、200gf/cm
2とした。そのときの試験片の電流値を測定し、電流値と電圧値から電気抵抗値を算出した。電圧は、確認実験と同様の電源を用いて、1.0Vの一定値を印加した。
【0052】
(2.2)実験結果
圧縮板として平板を用いた場合及び半球板を用いた場合のいずれにおいても、通電した際の電気抵抗値は、圧縮圧に関わらず、2.0Ωをやや上回る値が測定され、ほとんど変化することがなかった。
【0053】
(3)温度変化による電気抵抗値の変動
(3.1)実験方法
実験は、ヒータで加温することができる鉄製容器の内部に試験片を置いて行った。試験片は、幅が100mm、長さが200mmのものを用いた。実験を行ったときの環境は、温度25±2℃、湿度50±5%RHとした。また、電極は、長さ方向の両端に設けた。こうした実験装置を用い、試験片の表面温度を30℃から10℃ずつ温度を上昇させ、その際の電流値を測定した。温度の上昇は、2.5℃/分で行った。また、80℃に達した後、ヒータによる加熱を止め、試験片を自然降温させ、昇温時と同様の温度での電流値を測定した。測定した電流値及び電圧値より電気抵抗値を算出した。電圧は、確認実験と同様の電源を用いて、1.0Vの一定値を印加した。
【0054】
(3.2)実験結果
試験片の温度が30℃のとき電気抵抗値は約4Ωであり、温度が80度のとき電気抵抗値は約3Ωであった。すなわち、試験片の温度が30℃から80℃まで上昇する間、電気抵抗値は約1Ω低下した。
【0055】
(4)導電糸の熱収縮率の測定
(4.1)実験方法
この実験では長さが200mmの導電糸10を用いた。この導電糸10を辻井染機工業株式会社製のヒートセッター(PT−3型)により、30℃から80℃までの間で10℃ずつ上昇させ、各温度で5分間加熱した。加熱後、導電糸10の長さを測定し、次の式により熱収縮率を算出した。
【0056】
熱収縮率(%)=[(加熱後の長さ−加熱前の長さ)/加熱前の長さ]×100
【0057】
(4.2)実験結果
実験の結果、導電糸10は温度が上昇するに伴い収縮した。温度が80℃のときに元の長さより約3%収縮した。これは、芯線として用いたナイロン66が熱により収縮するためである。導電糸10が収縮することに伴って電気抵抗値が低下した。電気抵抗値は、「R=ρ×L/S」で表される.なお、Rは電気抵抗値(Ω)、ρは電気抵抗率(Ω・m)、Lは導電糸10の長さ(m)、Sは断面積(m
2)である。この式より、電気抵抗値は導電糸10の長さが収縮することに伴い低下する。
【0058】
以上の確認実験の結果及び比較実験の結果より、布地2に電圧を印加して布地2の温度を上昇させた場合、電気抵抗が低下した。なお、布地2に外部から物理的な作用を与えた場合に比べて、電気抵抗値は大きく減少した。また、布地2に電圧を印加して布地2の温度を上昇させた場合、電気抵抗値が減少する傾向に一定の規則性があった。具体的に、布地2に電圧を印加して布地2の温度を上昇させた場合、布地2の温度が約50℃以下の温度範囲では、50℃を超える温度範囲に比べて電気抵抗値が減少する程度が大きいという傾向があった。減少する程度は、布地2に電圧を印加して布地2の温度を上昇させた場合、徐々に小さくなるという規則性があった。そのため、布地2を面状センサー1として良好に用いることができることが分かった。