特許第6842275号(P6842275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842275
(24)【登録日】2021年2月24日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】タッチパネル
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20210308BHJP
   C09J 7/20 20180101ALI20210308BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   G06F3/041 400
   C09J7/20
   C09J201/00
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-211498(P2016-211498)
(22)【出願日】2016年10月28日
(65)【公開番号】特開2018-73085(P2018-73085A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】501398606
【氏名又は名称】富士通コンポーネント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】濱野 竜朗
(72)【発明者】
【氏名】上野 豊
【審査官】 木内 康裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−221468(JP,A)
【文献】 特開2014−127071(JP,A)
【文献】 特開2006−259815(JP,A)
【文献】 特開2003−157150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
C09J 7/20
C09J 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電性物質を被着してなる導電膜面を各々が備えた第1基板と第2基板とを、該導電膜面が互いに対向するように接着部を用いて貼り合わせてなるタッチパネルにおいて、
前記接着部は、
ベース層と、該ベース層の前記第1基板に対向する第1の面に貼り合わされた第1接着層と、前記ベース層の前記第2基板に対向する第2の面に貼り合わされた第2接着層とを有し、
前記第1接着層は、前記第2接着層よりせん断方向への弾性物性が高い高弾性接着層であり、
前記第2接着層は、前記第1接着層より被接着面との接着性が高い高接着性接着層であることを特徴とするタッチパネル。
【請求項2】
前記第2接着層の厚みは、前記第1接着層の厚み以下であることを特徴とする請求項1に記載のタッチパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のタッチパネルでは、枠状の両面接着テープ又は接着剤(接着部)を用いて、上側のフィルム基板と下側基板とを貼り合わせた構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
抵抗膜式のタッチパネルの場合、フィルム基板の裏面とガラス基板の表面には、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)膜が形成されている。フィルム基板には例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)基板が利用され、下側基板にはガラス基板が利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−502292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
抵抗膜式タッチパネルにおいて、フィルム基板はガラス基板より膨張率及び収縮率が高い特性を有している。したがって、液晶ディスプレイを点灯させて抵抗膜式タッチパネルが高温になり湿度が低下すると、フィルム基板が中心方向に向かって収縮し、フィルム基板の収縮に追随して接着部も内方へ引っ張られる現象が生じる。このとき接着部には外側に向けて復元力が発生して、フィルム基板を元の位置に戻そうとする力が働く。
【0006】
ここで、タッチパネルの使用期間が数カ月といった短期間である場合には、接着部には復元力が残っているため、フィルム基板が収縮しても接着部が追随可能であり、フィルム基板の歪みは回避できる。しかし、数年といった長期間に渡ってタッチパネルが使用されている場合、フィルム基板が収縮している状態が続くと、長期間の使用のため復元力が弱まった接着部は内側方向にクリープ変形して元の位置に戻らず、永久歪みが接着部に発生してしまう。
【0007】
接着部に永久歪みが発生すると、フィルム基板が膨張した場合に永久歪みの影響で接着部がフィルムの膨張に追随できず、その結果フィルム基板には波打つような変形が生じる。
【0008】
フィルム基板に波打ちを発生させないためには、フィルム基板の膨張、収縮に対してせん断方向へフレキシブルに追随可能な高い弾性物性を有し、且つ長期間使用しても高い弾性物性を保持できることが求められる。しかし、長期間使用しても高い弾性物性が保持可能な接着部は、フィルム基板の波打ち変形を防止することはできるが、弾性力が高い為にフィルム基板やガラス基板への接着性(密着性)が悪く、特にフィルム基板との密着性が悪い。そのためフィルム基板の膨張や収縮の際にフィルム基板と接着部との界面から剥離する虞がある。
【0009】
上記の点からタッチパネルには、せん断方向への弾性物性に優れ、且つ接着性を維持した接着部を用いることが望ましい。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、せん断方向への弾性物性に優れ、且つ接着性を維持した接着部を有するタッチパネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
透明導電性物質を被着してなる導電膜面を各々が備えた第1基板と第2基板とを、該導電膜面が互いに対向するように接着部を用いて貼り合わせてなるタッチパネルにおいて、
前記接着部は、
ベース層と、該ベース層の前記第1基板に対向する第1の面に貼り合わされた第1接着層と、前記ベース層の前記第2基板に対向する第2の面に貼り合わされた第2接着層とを有し、
前記第1接着層は、前記第2接着層よりせん断方向への弾性物性が高い高弾性接着層であり、
前記第2接着層は、前記第1接着層より被接着面との接着性が高い高接着性接着層である。
【発明の効果】
【0012】
開示の技術によれば、せん断方向への弾性物性に優れ、且つ接着性を維持した接着部を有するタッチパネルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係るタッチパネルの概略構成を示す分解斜視図である。
図2図1のタッチパネルの断面図である。
図3】粘着性試験における接着部の温度依存特性を示す図である。
図4】第2接着層が第1接着層より厚い場合における上部フィルム基板の収縮時及び膨張時の変形を説明する図である。
図5】第2接着層の厚みが第1接着層より薄い場合における上部フィルム基板の収縮時及び膨張時の変形を説明する図である。
図6】実施例のタッチパネルを説明する説明図である。
図7図6に示すタッチパネルのクリープ試験の結果を示すグラフである。
図8】比較例のクリープ試験の結果を示すグラフである。
図9】本実施形態に係るタッチパネルの変形例を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本実施形態に係るタッチパネルについて説明する。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。また、本実施形態は抵抗膜式のタッチパネルを例に取り説明する。
【0015】
図1は、本実施形態に係るタッチパネル1の概略構成を示す分解斜視図であり、図2はタッチパネル1の断面図である。
【0016】
タッチパネル1は、第1基板である下部基板2と、接着部3と、第2基板である上部フィルム基板4を含む。
【0017】
下部基板2と上部フィルム基板4とは、枠状の接着部3により互いに接着される。下部基板2及び上部フィルム基板4はそれぞれ、透明導電性物質を被着してなる導電膜面をその表面に有し、下部基板2及び上部フィルム基板4はそれぞれの導電膜面が対向するように貼り合わされる。
【0018】
下部基板2は、上部フィルム基板4と対向する面に導電膜面としてのITO膜を有している。下部基板2には、例えば厚さ0.7mm〜1.8mmのソーダライムガラスが用いられる。
【0019】
下部基板2が有するITO膜は、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、印刷法等で形成されている。
【0020】
上部フィルム基板4は、指やペン等で押圧される側の基板であり、下部基板2と対向する面にITO膜を有する。上部フィルム基板4には、例えばPET基材が用いられる。PET基材の厚みは用途により異なるものであるが、例えば150〜200μmである。上部フィルム基板4の基材はPET基材に限られず、可撓性を有するものであれば他の樹脂材料を含む基材を利用することができる。例えば、PES、PEEK、PC、PP、PA等を利用することができる。ITO膜は、下部基板2のITO膜と基本的に同様のものが用いられる。
【0021】
本実施形態の下部基板2は、ガラス等の膨張率及び収縮率が比較的小さい部材であり、上部フィルム基板4はPETフィルム等の下部基板2より膨張率及び収縮率が大きい部材である。また図1図2の例では、枠状の接着部3によって上部フィルム基板4の全周が下部基板2と固定されている。
【0022】
図1図2に示すように、接着部3は、ベース層31と、ベース層31の第1の面(下部基板2側の面)に貼り付けられた第1接着層32と、ベース層31の第2の面(上部フィルム基板4側の面)に貼り付けられた第2接着層33とを有する。ベース層31はポリエチレン系材料であり、厚みは例えば1〜100μmである。なお、ベース層31、第1接着層32、及び第2接着層33は、略同形同大であり、図1の例では枠形状である。
【0023】
上述のような接着部3は、例えばベース層31を基材とし、該ベース層31の両面にそれぞれ物性の異なる粘着テープ(接着層)を取り付けてなる両面接着テープである。
【0024】
第1接着層32は、第2接着層33よりせん断方向への弾性物性が高い高弾性接着層である。第1接着層32に使用される材質はアクリル系材料である。厚さは、例えば50〜100μmが好ましい。第1接着層32が有するせん断方向への弾性力は、第2接着層33が有するせん断方向への弾性力より高い。
【0025】
具体的には、第1接着層32の弾性力は、第2接着層33の弾性力より例えば2倍以上であってよい。第2接着層33の弾性力が大きいと、第2接着層33のせん断ズレ量も大きくなるが、この場合第1接着層32のせん断方向に対するフレキシブル性が損なわれる。そのため、第1接着層32の弾性力が第2接着層33の弾性力よりも高いことが好ましい。具体的な弾性力については、後述する。
【0026】
第2接着層33は、第1接着層32より被接着面との接着性が高い高接着性接着層である。第2接着層33に使用される材質は、アクリル系材料、エポキシ系材料である。厚さは、例えば第1接着層32の1/2以下であってよい。第2接着層33が有する良好な接着性は、以下に示す手法により判断できる。
【0027】
先ず、JIS K7244−1「プラスチック−動的機械特性の試験方法−第1部:通則」に準拠して粘着材の粘着性試験を実施した。
【0028】
なお、測定条件は、以下の通りである。測定方向:せん断方向、入力歪み:10%、周波数:1Hz、接着面積:5mm×10mm、温度範囲:−10℃〜100℃、昇温速度:2℃/min。
【0029】
JIS K7244−1に従って測定した粘着性試験の結果を図3に示す。図3は、tanδの温度依存特性を示している。縦軸はtanδであり、横軸は温度である。
【0030】
なお、tanδは、損失弾性率/貯蔵弾性率を指しており、物質の粘性度合いを表す。粘性度合いが高いほど粘着材が柔らかく、粘着性に優れていると判断できる。
【0031】
ここでは、高温領域(100℃時)でのtanδの値が0.4を超えている必要があるものとする。
【0032】
図3の例では、「OK特性例」の接着剤は温度が100℃でもtanδは0.4を超えているため、粘着力が十分なレベルであると判断できる。一方、「NG特性例」の接着剤では、高温の領域でtanδが0.4を下回るため、十分な粘着力が得られないと判断できる。このため、本実施形態の第2接着層33としては、「OK特性例」の接着剤を用いることが好ましいと考えられる。なお、閾値として設定すべき値は「0.4」に限る必要はなく、タッチパネルの構成や使用される各接着材の材質などに応じて適宜設定可能である。
【0033】
次に、接着層の厚みとその特性との関係について説明する。接着層は、厚みが厚いほど被接着面の凹凸を吸収することができるため被接着面と密着し接着性は向上するが、厚くなるほど必要とされるせん断方向への弾性物性が損なわれる。逆に、厚みが薄いと接着性には劣るが弾性物性を保持できるという特性を有している。第2接着層33の厚さは、第1接着層32と同等以下とすることが好ましい。
【0034】
上記の点を図4図5から説明する。図4は、第2接着層33が第1接着層32より厚い場合における収縮時及び膨張時の接着部3のせん断変形を説明する図である。図5は、第2接着層33の厚みが第1接着層32より薄い場合における収縮時及び膨張時の接着部3のせん断変形を説明する図である。
【0035】
なお、図4図5において、(A)は、通常時のタッチパネル1(接着部3)の断面図であり、(B)は上部フィルム基板4が収縮した際の接着部3のせん断変形を説明する断面図であり、(C)は上部フィルム基板4が膨張した際の接着部3のせん断変形を説明する断面図である。なお、例えば図4(A)、図5(A)の右端付近の垂直点線は、接着部3の通常時における下部基板2に対する設置位置を示している。
【0036】
先ず第2接着層33が第1接着層32より厚い場合の、上部フィルム基板4が収縮及び膨張した際の接着部3の変形を図4から説明する。
【0037】
図4(A)に示す状態から液晶ディスプレイを点灯してタッチパネル1が高温になると図4(B)に示すように上部フィルム基板4が図示左方向(矢印方向)に収縮し、これに追随して接着部3にはせん断変形が生じる。
【0038】
符号Jは、上部フィルム基板収縮時の第1接着層32のせん断方向のズレ量を示している。符号Kは、上部フィルム基板収縮時の第2接着層33のせん断方向のズレ量を示している。図4(B)図示のように第2接着層33が第1接着層32より厚い場合、第1接着層32のズレ量Jに対して第2接着層33のズレ量Kが大きくなる。第2接着層33のズレ量が大きい状態で接着部3に図4(B)のような変形が長期間続くと、第2接着層33にクリープ変形が生じて永久歪みが発生し、第2接着層33の復元力が損なわれてしまう可能性がある。
【0039】
上部フィルム基板4が収縮していた状態から膨張に転じた場合、接着部3には図4(C)に示す変形が生じる。
【0040】
符号J'は、上部フィルム基板膨張時の第1接着層32のせん断方向のズレ量を示している。図4(C)図示の通り、第1接着層32は上部フィルム基板4の膨張移動に追随できる。しかし、永久歪みが生じた第2接着層33は外側に戻ろうとしないために上部フィルム基板4の膨張移動に追随することができず、図4(C)に示すように内向きに変形した状態を維持する。そのため、第2接着層33がフィルム膨張に追随できなかった量Fに相当する分だけの波打ちが上部フィルム基板4の表面に現れてしまう。
【0041】
次に、第2接着層33の厚みを第1接着層32より薄くした本実施形態において、上部フィルム基板4が収縮及び膨張した際の接着部3のせん断変形を図5から説明する。
【0042】
図5(A)に示す状態から液晶ディスプレイを点灯してタッチパネル1が高温になると、図5(B)に示すように上部フィルム基板4が図示左方向(矢印方向)に収縮し、これに追随して接着部3にはせん断変形が生じる。
【0043】
符号Lは、上部フィルム基板4が収縮した際の第1接着層32のせん断方向のズレ量を示している。符号Mは、上部フィルム基板4が収縮した際の第2接着層33のせん断方向のズレ量を示している。図5(B)図示のように、第2接着層33が第1接着層32より薄い場合、第1接着層32のズレ量Lに対して第2接着層33のズレ量Mが小さくなるため、第1接着層32の弾性力が十分に且つバランス良く発揮できる。
【0044】
したがって、接着部3に図5(B)に図示したような変形が長期間続いても、第2接着層33にクリープ変形が生じて永久歪みが生じることを防止でき、第2接着層33が有する復元力を保持できる。
【0045】
次に、上部フィルム基板4が長期収縮していた状態から、図5(C)に示すように図示右方向(矢印方向)へ膨張に転じた場合、接着部3には図5(C)に示す変形が生じる。
【0046】
符号L'は、上部フィルム基板膨張時の第1接着層32のせん断方向のズレ量を示している。図5(C)図示の通り、第1接着層32は、第2接着層33より厚く且つ第2接着層33より弾性力が高いためせん断方向への膨張移動に追随できている。なお、図5の例では第2接着層33の厚みが薄いため、第2接着層33に永久歪みなどが生じて上部フィルム基板4の膨張移動に追随できなくなっても第2接着層33のズレ量が小さく、上部フィルム基板4への影響を最小限に抑えることができる。
【0047】
上記したように、本実施形態の第2接着層33の厚さは、第1接着層32と同等以下とすることが望ましい。加えて、第2接着層33が有するせん断方向への弾性力を、第1接着層32が有するせん断方向への弾性力より小さい例えば2/3以下であることが求められる。なお、第2接着層33の弾性力は、厚みや使用する材料などにより調整可能である。
【0048】
上記したように本実施形態の接着部3は、ベース層31を中心に上部フィルム基板4とは高い接着性を有する第2接着層33により接着し、下部基板2とは高い弾性物性を有する第1接着層32により接着する構成である。特に第2接着層33は、高い接着性と、第1接着層32の弾性力をバランス良く発揮可能な厚さ及び弾性力を有する構成である。
【0049】
したがって上部フィルム基板4に収縮又は膨張が生じても、接着部3は第1接着層32により上部フィルム基板4のせん断方向への移動をバランス良く十分に許容できる。また第2接着層33が高い接着性を有している故に、上部フィルム基板4との接着性を十分に維持できる。なお、ベース層31と第1接着層32とは、ベース層31が薄いため上部フィルム基板4がせん断方向へ移動しても互いに剥離する虞は無い。
【0050】
また本実施形態のタッチパネル1は、せん断方向への高い弾性力と、接着性の維持を物性の異なる二つの接着層構造により実現することにより、長期間使用しても接着部3にクリープ変形が生じることを抑制できる。斯すると、接着部3が上部フィルム基板4の収縮や膨張に追随できなくなり、上部フィルム基板4に波打ち変形を生じさせることを防止できる。
【0051】
なお、本実施形態において第1接着層32で覆われる接着面は、段差10μm以内にすることが好ましい。これは、第1接着層32と接着する下部基板2の接着面の凹凸(段差)を小さくすることで、せん断方向への高い弾性物性を有する第1接着層32と下部基板2の接着面との密着性を高め、互いに剥離することを防止するためである。
【実施例】
【0052】
以下、実施例と比較例を挙げて本実施形態を更に説明するが、本実施形態はこれにより何ら制限されるものではない。
【0053】
実施例において、図6に示すタッチパネル1Tを製作した。
【0054】
実施例のタッチパネル1Tは、下部基板2T、上部フィルム基板4Tを有している。下部基板2Tと上部フィルム基板4Tとは接着部3Tにより張り合わせられている。
【0055】
下部基板2Tは、図6図示上の、上面にITO膜を有し、厚さ1.1mm、のガラス基板を使用した。上部フィルム基板4Tは、図6図示上の、下面にITO膜を有し、厚さ200μmのPETを使用した。下部基板2Tの大きさは、約50mm×30mmである。上部フィルム基板4Tの大きさは、約80mm×20mmである。
【0056】
接着部3Tは、5mm×10mmの大きさとし、図示の通り下部基板2T及び上部フィルム基板4Tの一側端部にのみ配置させた。
【0057】
接着部3Tのベース層は、厚さ12μmでポリエチレン系材料のものを使用した。また、接着部3Tの第1接着層は、厚さ50μmでアクリル系材料のものを使用した。更に接着部3Tの第2接着層は、厚さ25μmでアクリル系材料のものを使用した。
【0058】
次に、上記の構成のタッチパネル1Tに対して、以下のクリープ試験を行った。
【0059】
測定方法は、JIS K6859−1994「接着剤のクリープ破壊試験方法」 に準拠しており、下記項目を変更して試験を実施した。
【0060】
接着部3Tは、上記したように5mm×10mm(JIS K6859−1994では、12.5mm×25mm)の大きさとした。
【0061】
接着部3Tへの印加荷重は10kPa(1N)とし、荷重印加時間は1000秒(JIS K6859−1994では1秒以上5秒以内)とした。接着部3Tの温度は120℃とした。
【0062】
即ち、上部フィルム基板4Tの接着部3Tとは反対側の端部(図示上右側)からせん断方向(矢印方向)に1Nの負荷を1000秒間加えて、接着部3Tの変位量を測定した。その後荷重を開放して、1000秒間接着部3Tの戻り量(クリープ回復)を測定した。上記した荷重印加と荷重開放を1サイクルとして、10サイクル実施した。上記した試験の結果を図7に示す。図7は、接着部3Tの変位量特性を示している。なお、図7において説明の関係上、1〜3サイクルまでを記載した。図7において、縦軸を変位量mmとし、横軸を時間secとする。
【0063】
ここで、1サイクルにおける荷重印加時の接着部3Tの最大変位量と、荷重解放時の接着部3Tの最小変位量との差分をせん断ズレ量αとする。また、初期状態の接着部3T(図示黒丸:変位量「0」)と荷重解放時の接着部3Tの最小変位量との差分を永久歪み量βとする。
【0064】
接着部3Tは、10サイクル中のせん断ズレ量αが0.05mm<α<0.20mmの範囲内にあり、永久歪み量βがβ<0.15mmであれば、長期間使用しても接着部3Tにクリープ変形が生じることを抑制できることが分った。
【0065】
本実施形態の接着部3Tは、10サイクル中のせん断ズレ量αが0.05mm<α<0.20mmの範囲内にあり、10サイクル中の永久歪み量βがβ<0.15mmとなる弾性物性を有していることが分った。
【0066】
(比較例)
次に、比較例として、比較接着試料Aと比較接着試料Bを用意し、実施例と同様の方法でクリープ試験を行った。
【0067】
比較接着試料Aは、第1接着層(厚さ25μm)、ベース層(厚さ12μm)、第2接着層(厚さ25μm)からなり、アクリル系材料を接着層に使用したものである。
【0068】
比較接着試料Bは、第1接着層(厚さ25μm)、ベース層(厚さ12μm)、第2接着層(厚さ25μm)からなり、エポキシ系材料を接着層に使用したものである。なお、下部基板と上部フィルム基板は同じものを使用した。
【0069】
比較接着試料Aと比較接着試料Bのクリープ試験の結果を図8に示す。図8において説明の関係上、1〜3サイクルまでを記載した。図8において、縦軸を変位量mmとし、横軸を時間secとする。
【0070】
点線で図示される比較接着試料Aに注目すると、永久歪みが次第に大きくなる傾向にあり、3サイクル目で永久歪み量βが大きく発生してしまっている。これは、第1接着層と第2接着層とを、せん断ズレ量が大きい柔らかい材料(例えばアクリル系など)で構成しているからである。また、実線で図示される比較接着試料Bに注目すると、各サイクルの永久歪み量は大きく変化していないものの、せん断ズレ量が次第に小さくなっており、3サイクル目でせん断ズレ量αが非常に小さくなっている。これは、第1接着層と第2接着層とが、クリープ変形し永久歪みが発生しているからである。上記の通り、比較接着試料Aと比較接着試料Bでは、図7に示す本実施形態の接着部3の特性は得られなかった。
【0071】
(変形例)
次に、本実施形態に係るタッチパネルの変形例を説明する。図9は本実施形態に係るタッチパネルの変形例を示す部分断面図である。
【0072】
図9のタッチパネルは基本的に図1図2に示すタッチパネル1と同様の構成を有しており、相違点のみ説明する。
【0073】
図9に示すタッチパネル10は、接着部30がタッチパネル1と相違する。したがって、下部基板20と上部フィルム基板40の説明は省略する。
【0074】
接着部30は、ベース層310、第1接着層320、第2接着層330を有している。
【0075】
第1接着層320は、図1図2の第1接着層32と対応しており、第2接着層330よりせん断方向への弾性物性が高い接着層である。また厚みや弾性力においても、第1接着層32と同様である。第2接着層330は、図1図2の第2接着層33と対応しており、第1接着層320より被接着面との接着性が高い接着層である。また厚み、粘着性、及び弾性力においても、第2接着層33と同様である。また、ベース層310は、図1図2のベース層31と対応し、厚さや材質は略同じである。
【0076】
本実施形態の接着部30は、各部材の配置構成が相違する。
【0077】
ベース層310は、第1接着層320の下部基板20側に張り合わされた下部ベース層311と、第1接着層320の上部フィルム基板40側の面に張り合わされた上部ベース層312とを有している。即ち変形例においては、第1接着層320が基材となる。
【0078】
また第2接着層330は、下部ベース層311の下部基板20側の面に張り合わされた下部接着層331と、上部ベース層312の上部フィルム基板40側の面に張り合わされた上部接着層332とを有している。
【0079】
変形例の接着部30においても、10サイクル中のせん断ズレ量αが0.05mm<α<0.20mmの範囲内にあり、10サイクル中の永久歪み量βがβ<0.15mmとなる弾性物性を有している。
【0080】
以上、好ましい実施の形態について詳説したが、上述した実施の形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0081】
1 タッチパネル
2 下部基板
3 接着部
31 ベース層
32 第1接着層
33 第2接着層
4 上部フィルム基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9