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前記EGRモードにおいては、1回の燃焼サイクルにおける燃料噴射の開始タイミングが、前記エンジン本体の負荷が同一である場合における前記ノーマルモードの開始タイミングよりも遅いことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の舶用ディーゼルエンジン。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
舶用ディーゼルエンジンにおいても、1回の燃焼サイクルで噴射する燃料の噴射タイミングや噴射量を制御する処理を行うことで、燃料を効率よく燃焼することができる。ここで、舶用ディーゼルエンジンには、エンジン本体と、エンジン本体から排出される排ガスの力でタービンを回転し、タービンと同軸で接続された圧縮機で生成された圧縮空気をエンジン本体に供給する過給機と、エンジン本体から排出される排ガスの一部を前記エンジン本体に再循環させるEGRユニットと、を備えるものがある。
【0005】
ここで、EGRユニットで排ガスをエンジン本体に供給するEGRモードと、EGRユニットで排ガスをエンジン本体に供給しないノーマルモードを切り換えることができる舶用ディーゼルエンジンでは、EGRモードをONで運転した場合、1回の燃焼サイクルで噴射する燃料の噴射タイミングや噴射量を制御しても、条件によって、燃焼が不安定になったり、黒煙が発生したりする恐れがあるエンジン本体の負荷が生じる場合がある。
【0006】
本発明は上述した課題を解決するものであり、EGRモードとノーマルモードの両方でエンジン本体をより良い条件で運転させることができる舶用ディーゼルエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明は、舶用ディーゼルエンジンであって、燃料噴射バルブから燃焼室に燃料を供給し、該燃料を燃焼させるエンジン本体と、前記エンジン本体から排出された排ガスの一部を燃焼用ガスとして前記エンジン本体に再循環するEGRシステムと、燃焼サイクルにおいて前記燃料噴射バルブから燃料を噴射する量または噴射する圧力及び噴射するタイミングを制御するエンジン制御装置と、を有し、前記エンジン制御装置は、前記EGRシステムが稼働する設定である
EGRモード
の制御
と、前記EGRシステムが稼働しない設定である
ノーマルモード
の制御
とを切り替えて実行し、前記EGRモードにおいては、1回の燃焼サイクルにおける燃料噴射のピーク量またはピーク圧力が、前記エンジン本体の負荷が同一である場合における前記ノーマルモードの燃料噴射のピーク量またはピーク圧力よりも大きい値であ
り、前記1回の燃焼サイクルにおける燃料噴射のピーク量またはピーク圧力が前記ノーマルモードの前記燃焼サイクルにおける時間より早いかまたはクランク角度が小さいときに生ずることを特徴とする。
【0008】
舶用ディーゼルエンジンは、EGRモードとノーマルモードとで、燃料噴射のピークの量または圧力を変化させ、EGRモードでは、燃料を短時間で噴射することで、EGR時における燃焼時間の伸長を抑制し、燃焼室での燃料の燃焼時に燃料が拡散する範囲を広くすることができる。これにより、EGRモードにおいても燃料が燃焼しやすい状況とすることができ、EGRモードとノーマルモードの両方でエンジン本体をより良い条件で運転させることができる。
【0009】
また、前記EGRモードにおいては、1回の燃焼サイクルにおける燃料噴射期間が、前記エンジン本体の負荷が同一であ
り、噴射する燃料の総量が同一である場合における前記ノーマルモードの燃料噴射期間よりも短いことが好ましい。
【0010】
上記の目的を達成するための本発明は、燃料噴射バルブから燃焼室に燃料を供給し、該燃料を燃焼させるエンジン本体と、前記エンジン本体から排出された排ガスの一部を燃焼用ガスとして前記エンジン本体に再循環するEGRシステムと、燃焼サイクルにおいて前記燃料噴射バルブから燃料を噴射する量または噴射する圧力及び噴射するタイミングを制御するエンジン制御装置と、を有し、前記エンジン制御装置は、前記EGRシステムが稼働する設定であるEGRモードの制御と、前記EGRシステムが稼働しない設定であるノーマルモードの制御とを切り替えて実行し、前記EGRモードにおいては、1回の燃焼サイクルにおける燃料噴射のピーク量またはピーク圧力が、前記エンジン本体の負荷が同一である場合における前記ノーマルモードの燃料噴射のピーク量またはピーク圧力よりも大きい値であり、前記EGRモードにおいては、1回の燃焼サイクルにおける燃料噴射期間が、前記エンジン本体の負荷が同一である場合における前記ノーマルモードの燃料噴射期間よりも短く、前記エンジン制御装置は、前記負荷が大きくなるにしたがって、前記EGRモードの燃料噴射期間と前記ノーマルモードの燃料噴射期間との差が、大きくなること
を特徴とする。
【0011】
また、前記EGRモードにおいては、1回の燃焼サイクルにおける燃料噴射の開始タイミングが、前記エンジン本体の負荷が同一である場合における前記ノーマルモードの開始タイミングよりも遅いことが好ましい。
【0012】
上記の目的を達成するための本発明は、燃料噴射バルブから燃焼室に燃料を供給し、該燃料を燃焼させるエンジン本体と、前記エンジン本体から排出された排ガスの一部を燃焼用ガスとして前記エンジン本体に再循環するEGRシステムと、燃焼サイクルにおいて前記燃料噴射バルブから燃料を噴射する量または噴射する圧力及び噴射するタイミングを制御するエンジン制御装置と、を有し、前記エンジン制御装置は、前記EGRシステムが稼働する設定であるEGRモードの制御と、前記EGRシステムが稼働しない設定であるノーマルモードの制御とを切り替えて実行し、前記EGRモードにおいては、1回の燃焼サイクルにおける燃料噴射のピーク量またはピーク圧力が、前記エンジン本体の負荷が同一である場合における前記ノーマルモードの燃料噴射のピーク量またはピーク圧力よりも大きい値であり、前記EGRモードにおいては、1回の燃焼サイクルにおける燃料噴射の開始タイミングが、前記エンジン本体の負荷が同一である場合における前記ノーマルモードの開始タイミングよりも遅く、前記エンジン制御装置は、前記負荷が大きくなるにしたがって、前記EGRモードの燃料噴射の開始タイミングと前記ノーマルモードの燃料噴射の開始タイミングとの差が、大きくなること
を特徴とする。
【0013】
上記の目的を達成するための本発明は、燃料噴射バルブから燃焼室に燃料を供給し、該燃料を燃焼させるエンジン本体と、前記エンジン本体から排出された排ガスの一部を燃焼用ガスとして前記エンジン本体に再循環するEGRシステムと、燃焼サイクルにおいて前記燃料噴射バルブから燃料を噴射する量または噴射する圧力及び噴射するタイミングを制御するエンジン制御装置と、を有し、前記エンジン制御装置は、前記EGRシステムが稼働する設定であるEGRモードの制御と、前記EGRシステムが稼働しない設定であるノーマルモードの制御とを切り替えて実行し、前記EGRモードにおいては、1回の燃焼サイクルにおける燃料噴射のピーク量またはピーク圧力が、前記エンジン本体の負荷が同一である場合における前記ノーマルモードの燃料噴射のピーク量またはピーク圧力よりも大きい値であり、前記エンジン制御装置は、前記負荷が大きくなるにしたがって、前記EGRモードの燃料噴射のピーク量またはピーク圧力と前記ノーマルモードの燃料噴射のピーク量またはピーク圧力との差が、大きくなること
を特徴とする。
【0014】
また、前記EGRシステムは、前記エンジン本体から排出される排ガスの一部を燃焼用ガスとして前記エンジン本体に再循環する排ガス再循環ラインと、前記排ガス再循環ラインに設けられるEGRバルブと、前記排ガス再循環ラインを流れる前記燃焼用ガスに対して液体を噴射するスクラバと、を有することが好ましい。
【0015】
また、前記エンジン本体から排出される排ガスで回転するタービンと
、前記タービン及び回転軸が連結され、前記タービンの回転で回転し、圧縮気体を生成する圧縮機
と、を備え、圧縮気体を前記エンジン本体に供給する過給機を有し、前記EGRシステムは、前記圧縮機に排ガスの一部を燃焼用ガスとして供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、EGRモードとノーマルモードとで、燃料噴射のピークの量または圧力を変化させ、EGRモードでは、燃料を短時間で噴射することで、EGR時における燃焼時間の伸長を抑制し、燃焼室での燃料の燃焼時に燃料が拡散する範囲を広くすることができる。これにより、EGRモードにおいても燃料が燃焼しやすい状況とすることができ、EGRモードとノーマルモードの両方でエンジン本体をより良い条件で運転させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0019】
図1は、EGRシステムを備えた舶用ディーゼルエンジンを表す概略図、
図2は、EGRシステムを表す概略構成図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の舶用ディーゼルエンジン10は、エンジン本体(エンジン)11と、過給機12と、EGRシステム13と、を備えている。
【0021】
図2に示すように、エンジン本体11は、図示しないが、プロペラ軸を介して推進用プロペラを駆動回転させる推進用の機関(主機関)である。このエンジン本体11は、ユニフロー掃排気式のクロスヘッド式ディーゼルエンジンであって、2ストロークディーゼルエンジンであり、シリンダ内の吸排気の流れを下方から上方への一方向とし、排気の残留を無くすようにしたものである。エンジン本体11は、ピストンが上下移動する複数のシリンダ21と、各シリンダ21に連通する掃気トランク22と、各シリンダ21に連通する排気マニホールド23とを備えている。そして、各シリンダ21と掃気トランク22との間に掃気ポート24が設けられ、各シリンダ21と排気マニホールド23との間に排気流路25が設けられている。そして、エンジン本体11は、掃気トランク22に給気ラインG1が連結され、排気マニホールド23に排気ラインG2が連結されている。
【0022】
図3は、エンジン本体を表す概略図である。
図3は、エンジン本体11のうち1つのピストン及びシリンダ21に対応する部分を示している。エンジン本体11は、下方に位置する台板111と、台板111上に設けられる架構112と、架構112上に設けられるシリンダジャケット113とを有している。この台板111と架構112とシリンダジャケット113は、上下方向に延在する複数のテンションボルト(タイボルト/連結部材)114及びナット115により一体に締結されて固定されている。
【0023】
シリンダジャケット113は、シリンダライナ116が設けられており、このシリンダライナ116の上端にシリンダカバー117が設けられている。シリンダライナ116とシリンダカバー117は、空間部118を区画しており、この空間部118内にピストン119が上下に往復動自在に設けられることで、燃焼室120が形成される。また、シリンダカバー117は、排気弁(排ガス弁)121が設けられている。この排気弁121は、燃焼室120と排ガス管122とを開閉するものである。なお、排気弁121は、燃焼室120と排ガス管122とを開閉する機能を有していればよく、必ずしもシリンダカバー117の中央部に設ける必要はない。燃料噴射ノズルは、燃焼室120に燃料を噴射する。燃料供給部は、燃料噴射ノズルに燃料を供給する。燃料供給部は、制御弁や、圧力ポンプ等を有し、供給する圧力や制御弁を制御して、燃料噴射ノズルから噴射する燃料の量や圧力を制御する。
【0024】
そのため、燃焼室120に対して、燃料噴射ノズル130から供給された燃料と、過給機12により圧縮された燃焼用ガスが供給されることで燃焼する。そして、この燃焼で発生したエネルギによりピストン119が上下動する。また、このとき、排気弁121により燃焼室120が開放されると、燃焼によって生じた排ガスが排ガス管122に押し出される一方、掃気ポート24から燃焼用ガスが燃焼室120に導入される。排ガス管122は、排気マニホールド23と接続している。
【0025】
ピストン119は、下端部にピストン棒123の上端部に接続されるとともに、ピストン棒123とともにピストン軸方向に移動可能に連結されている。台板111は、クランクケースとされており、クランクシャフト124を回転自在に支持する軸受125が設けられている。また、クランクシャフト124は、クランク126を介して連接棒127の下端部が回動自在に連結されている。架構112は、上下方向に延在する一対のガイド板128が所定間隔を空けて固定されており、一対のガイド板128の間にクロスヘッド129が上下に移動自在に支持されている。クロスヘッド129は、ピストン棒123の下端部に設けられたクロスヘッドピンの下半部を連接棒127の上端部に接続されるクロスヘッド軸受が回動自在となるように連結されている。
【0026】
そのため、シリンダジャケット113の燃焼室120で発生したエネルギが伝達されたピストン119は、ピストン棒123と共に、エンジン本体11の設置面の方向(台板111側の方向、即ち、ピストン軸方向における下向き)に押し下げる。すると、ピストン棒123は、クロスヘッド129をピストン軸方向に押し下げ、連接棒127及びクランク126を介してクランクシャフト124を回転させる。
【0027】
エンジン本体11には、回転数検出部62と、燃料投入量検出部64と、が配置されている。回転数検出部62は、エンジン本体11の回転数(プロペラ軸と接続された回転軸の回転数)を検出する。回転数検出部62は、エンジン本体11に挿入された回転軸の回転数を検出してもよいが、プロペラ軸の回転数を検出してもよい。燃料投入量検出部64は、エンジン本体11の燃料投入量を検出する。
【0028】
エンジン制御装置26は、エンジン本体11の運転を制御する。エンジン制御装置26は、要求負荷等の各種入力条件及び回転数検出部62と燃料投入量検出部64等の各種センサで検出した結果とに基づいて、エンジン本体11の運転を制御する。エンジン制御装置26は、シリンダ21への燃料の噴射タイミングや、噴射量、排気弁121の開閉タイミングを制御して、エンジン本体11の燃料投入量や回転数、燃焼室120での燃焼を制御する。エンジン制御装置26は、燃料投入量や回転数を制御することで、エンジン本体11の出力を制御する。
【0029】
過給機12は、コンプレッサ(圧縮機)31とタービン32とが回転軸33により一体に回転するように連結されて構成されている。この過給機12は、エンジン本体11の排気ラインG2から排出された排ガスによりタービン32が回転し、タービン32の回転が回転軸33により伝達されてコンプレッサ31が回転し、このコンプレッサ31が空気及び再循環ガスの少なくとも一方を圧縮し、圧縮した圧縮気体として給気ラインG1からエンジン本体11に供給する。コンプレッサ31は外部(大気)から空気を吸入する吸入ラインG6に接続されている。
【0030】
過給機12は、タービン32を回転した排ガスを排出する排気ラインG3が連結されており、この排気ラインG3は、図示しない煙突(ファンネル)に連結されている。また、排気ラインG3から給気ラインG1までの間にEGRシステム13が設けられている。
【0031】
EGRシステム13は、排ガス再循環ラインG4、G5、G7と、スクラバ42と、デミスタユニット14と、EGRブロワ(送風機)47と、EGR制御装置60と、を備えている。このEGRシステム13は、エンジン本体11から排出された排ガスの一部を再循環ガスとして空気と混合した後、過給機12により圧縮して燃焼用ガスとして舶用ディーゼルエンジン10に再循環させることで、燃焼によるNOxの生成を抑制するものである。なお、ここでは、タービン32の下流側から排ガスの一部を抽気したが、タービン32の上流側から排ガスの一部を抽気してもよい。
【0032】
なお、以下の説明にて、排ガスとは、エンジン本体11から排気ラインG2に排出された後、排気ラインG3から外部に排出されるガスである。再循環ガスとは、排気ラインG3から分離された一部の排ガスを指す。再循環ガスは、排ガス再循環ラインG4、G5、G7によりエンジン本体11に戻されるものである。
【0033】
排ガス再循環ラインG4は、一端が排気ラインG3の中途部に接続されている。排ガス再循環ラインG4は、EGR入口バルブ(開閉弁)41Aが設けられており、他端がスクラバ42に接続されている。EGR入口バルブ41Aは、排ガス再循環ラインG4を開閉することで、排気ラインG3から排ガス再循環ラインG4に分流する排ガスをON/OFFする。なお、EGR入口バルブ41Aを流量調整弁とし、排ガス再循環ラインG4を通過する排ガスの流量を調整するようにしてもよい。
【0034】
スクラバ42は、ベンチュリ式のスクラバであり、中空形状をなすスロート部43と、排ガスが導入されるベンチュリ部44と、元の流速に段階的に戻す拡大部45とを備えている。スクラバ42は、ベンチュリ部44に導入された再循環ガスに対して水を噴射する水噴射部46を備えている。スクラバ42は、SOxや煤塵などの微粒子(PM)といった有害物質が除去された再循環ガス及び有害物質を含む排水を排出する排ガス再循環ラインG5が連結されている。なお、本実施形態では、スクラバとしてベンチュリ式を採用しているが、この構成に限定されるものではない。また、舶用ディーゼルエンジン10は、スクラバ42以外の排ガス洗浄装置を備えていてもよい。
【0035】
排ガス再循環ラインG5は、デミスタユニット14とEGRブロワ47が設けられている。
【0036】
デミスタユニット14は、水噴射により有害物質が除去された再循環ガスと排水を分離するものである。デミスタユニット14は、排水をスクラバ42の水噴射部46に循環する排水循環ラインW1が設けられている。そして、この排水循環ラインW1は、ミスト(排水)を一時的に貯留するホールドタンク49とポンプ50が設けられている。
【0037】
EGRブロワ47は、スクラバ42内の再循環ガスを排ガス再循環ラインG5からデミスタユニット14を経由して、コンプレッサ31に送るものである。
【0038】
排ガス再循環ラインG7は、一端がEGRブロワ47に接続されると共に、他端が混合器(図示略)を介してコンプレッサ31に接続されており、EGRブロワ47により再循環ガスがコンプレッサ31に送られる。排ガス再循環ラインG7は、EGR出口バルブ(開閉弁または流量調整弁)41Bが設けられている。吸入ラインG6からの空気と、排ガス再循環ラインG7からの再循環ガスは、混合器で混合されることで燃焼用ガスが生成される。なお、この混合器は、サイレンサと別に設けられてもよいし、混合器を別途設けることなく、再循環ガスと空気を混合する機能を付加するようにサイレンサを構成してもよい。そして、過給機12は、コンプレッサ31が圧縮した燃焼用ガスを給気ラインG1からエンジン本体11に供給可能であり、給気ラインG1にエアクーラ(冷却器)48が設けられている。このエアクーラ48は、コンプレッサ31により圧縮されて高温となった燃焼用ガスと冷却水とを熱交換することで、燃焼用ガスを冷却するものである。また、EGRシステム13は、給気ラインG1または掃気トランク22に酸素濃度検出部66が配置されている。本実施形態の酸素濃度検出部66は、エアクーラ48よりもエンジン本体11側に配置されている。酸素濃度検出部66は、エンジン本体11に供給される空気の酸素濃度、つまりEGRシステム13が稼働している場合は、燃焼用ガスの酸素濃度を検出する。
【0039】
EGR制御装置60は、EGRシステム13の各部の動作を制御する。EGR制御装置60は、エンジン制御装置26から負荷情報を取得する。EGR制御装置60は、エンジン制御装置26にEGRシステム13のON、OFFの情報を送る。EGR制御装置60は、回転数検出部62からエンジン本体11の回転数情報を取得する。EGR制御装置60は、燃料投入量検出部64からエンジン本体11の燃料投入量の情報を取得する。EGR制御装置60は、酸素濃度検出部66からエンジン本体11に供給される燃焼用ガスの酸素濃度の情報を取得する。EGR制御装置60は、取得したエンジン本体11の負荷情報と、エンジン本体11に供給される空気の酸素濃度とに基づいて、EGRブロワ47の運転状態、EGRシステム13からエンジン本体11に供給する再循環ガスの量を制御する。EGR制御装置60は、エンジン本体11の負荷と酸素濃度の目標値との関係を記憶しており、負荷に応じて酸素濃度の目標値を算出する。EGR制御装置60は、エンジン本体11の負荷と酸素濃度の目標値との関係とに基づいて酸素濃度の目標値を算出し、算出した酸素濃度の目標値と取得した酸素濃度との関係と現在のEGRブロワ47の周波数とに基づいて、EGRブロワ47の周波数(運転周波数)を算出する。EGR制御装置60は、算出したEGRブロワ47の周波数でEGRブロワ47を回転させる。EGR制御装置60は、EGRブロワ47以外の各部、例えば、EGR入口バルブ41A、EGR出口バルブ41Bの開閉や、スクラバ42の運転も制御する。
【0040】
以下、本実施形態のEGRシステム13の作用を説明する。
図2に示すように、エンジン本体11は、掃気トランク22からシリンダ21内に燃焼用ガスが供給されると、ピストンによってこの燃焼用ガスが圧縮され、この高温の燃焼用ガスに対して燃料を噴射することで自然着火し、燃焼する。そして、発生した燃焼ガスは、排ガスとして排気マニホールド23から排気ラインG2に排出される。エンジン本体11から排出された排ガスは、過給機12におけるタービン32を回転した後、排気ラインG3に排出され、EGR入口バルブ41A及びEGR出口バルブ41Bが閉止しているときは、全量が排気ラインG3から外部に排出される。
【0041】
一方、EGR入口バルブ41A及びEGR出口バルブ41Bが開放しているとき、排ガスは、その一部が再循環ガスとして排気ラインG3から排ガス再循環ラインG4に流れる。排ガス再循環ラインG4に流れた再循環ガスは、スクラバ42により、有害物質が除去される。即ち、スクラバ42は、再循環ガスがベンチュリ部44を高速で通過するとき、水噴射部46から水を噴射することで、この水により再循環ガスを冷却すると共に、有害物質を水と共に落下させて除去する。そして、有害物質を含むミスト(排水)は、再循環ガスと共にデミスタユニット14に流入する。
【0042】
スクラバ42により有害物質が除去された再循環ガスは、排ガス再循環ラインG5に排出され、デミスタユニット14によりミスト(排水)が分離された後、排ガス再循環ラインG7により過給機12に送られる。そして、この再循環ガスは、吸入ラインG6から吸入された空気と混合されて燃焼用ガスとなり、過給機12のコンプレッサ31で圧縮された後、エアクーラ48で冷却され、給気ラインG1からエンジン本体11に供給される。
【0043】
次に、
図4を用いて、舶用ディーゼルエンジン10のエンジン制御装置26で実行するエンジン本体11の制御について説明する。
図4は、エンジン駆動装置の制御の一例を示すフローチャートである。
【0044】
エンジン制御装置26は、EGRシステム13を稼動させる設定と、EGRシステム13を稼動させない設定つまりEGRシステム13を停止させている設定と、で各部の制御条件を切り換える。EGRシステム13を稼動させない設定とは、EGRシステム13から浄化した排ガスの一部をエンジン本体11に供給する再循環を実行しない状態であり、EGRシステム13のスクラバ42等のEGRシステム13の一部が稼動していてもよい。
【0045】
エンジン制御装置26は、EGRシステム13を稼動させる設定の場合、EGRモードで制御を実行し、EGRシステム13を稼動させない設定の場合、ノーマルモードで制御を実行する。以下、
図4を用いて説明する。エンジン制御装置26は、EGR制御装置60を介して、EGRシステム13を
稼働する設定となっているかを判定する(ステップS12)。EGRシステム13を
稼働する設定とは、ユーザがEGRシステム13のON、OFFを操作できるスイッチがある場合、そのスイッチがONとなっているかOFFとなっているかである。なお、EGRシステム13を
稼働する設定の場合、EGRシステム13が実際に
稼働されていなくてもよい。例えば、舶用ディーゼルエンジン10は、EGRシステム13がエンジン本体11の負荷が閾値以上で
稼働する設定の場合、EGRシステム13を
稼働する設定であってもエンジン本体11の負荷が低いとEGRシステム13が稼働しない。
【0046】
エンジン制御装置26は、EGRシステム13を
稼働する設定となっている(ステップS12でYes)と判定した場合、EGRモードを選択し(ステップS14)、EGRモードの設定に基づいて各部を制御する。エンジン制御装置26は、EGRシステム13を
稼働する設定となっていない(ステップS12でNo)と判定した場合、ノーマルモードを選択し(ステップS16)、ノーマルモードの設定に基づいて各部を制御する。
【0047】
次に、
図5及び
図6を用いて、エンジン制御装置26による燃料噴射ノズル130から燃焼室120に供給する燃料噴射の制御について説明する。
図5は、燃料の噴射量または噴射圧と燃焼サイクルにおける時間との関係を示すグラフである。エンジン制御装置26は、
図5に示す噴射量または噴射圧と時間の燃料噴射パターンに基づいて燃料噴射ノズル130から燃料を噴射する。ここで、
図5では、横軸を時間、縦軸を燃料の噴射量または燃焼の噴射圧としたが燃料噴射パターンはこれに限定されない。縦軸は、図面上側に向かうほど、噴射量または噴射圧が多くなる。燃料噴射パターンは、噴射量と噴射圧の両方を制御してもよいが、噴射量と噴射圧の一方を制御してもよい。燃料噴射パターンは、横軸を時間に代えてクランク角度(1燃焼サイクル内におけるタイミング)としてもよい。このように、燃料噴射パターンは、燃焼サイクルにおいて各時点での燃料を噴射する量または圧力を燃焼サイクルの角度に対応付けて示すことができる。この場合、燃料噴射パターンは、上述したようにエンジン本体11のピストンの1ストロークを360度とした角度、つまりクランク角度に基づいて制御する。つまり、エンジン制御装置26は、クランク角度が設定された角度となった場合に設定された量または圧力の燃料を燃料噴射ノズル130から燃焼室120に供給する。また、
図5の縦軸は、噴射量に代えて、噴射圧力としてもよい。また、
図5は、同じエンジン負荷での燃料噴射パターン、つまり負荷が同一である場合における燃料噴射パターンを示している。
【0048】
図5の実線で示す燃料噴射パターン202は、EGRモード(EGR ON)での時間と噴射量または噴射圧との関係を示している。
図5の点線で示す燃料噴射パターン204は、ノーマルモード(EGR OFF)での時間と噴射量または噴射圧との関係を示している。
図5は、1サイクルから燃料を噴射する期間を抜き出しているものである。つまりクランク角度に対応付けると360度の範囲ではなく一部の角度範囲を示している。また
図5は、時刻t
1、t
2、t
3、t
4、t
5、t
6の順で時間が経過していく。時刻t
1、t
2、t
3、t
4、t
5、t
6は、クランク角度に対応付けることができ、時刻t
1、t
2、t
3、t
4、t
5、t
6の順でクランク角度が大きくなる。また、噴射量は、m
1よりもm
2が大きくなる。エンジン制御装置26は、EGRシステム13が稼働する設定であるEGRモードの場合、燃料噴射パターン202に基づいて燃料の噴射を制御する。エンジン制御装置26は、EGRシステム13を稼動させない設定であるノーマルモードの場合、燃料噴射パターン204に基づいて燃料の噴射を制御する。
【0049】
ノーマルモードの燃料噴射パターン204は、時刻t
1で、燃料の噴射を開始し、時刻t
4で噴射量が最大(噴射量m
1)となり、時刻t
6で噴射を終了する。EGRモードの燃料噴射パターン202は、時刻t
2で、燃料の噴射を開始し、時刻t
3で噴射量が最大(噴射量m
2)となり、時刻t
5で噴射を終了する。EGRモードの燃料噴射パターン202は、最大の噴射量m
2が、ノーマルモードの燃料噴射パターン204の最大の噴射量m
1よりも多くなる。また、EGRモードの燃料噴射パターン202は、ノーマルモードの噴射パターン204よりも、燃料の噴射量が最大になる時刻が早い。次に、EGRモードの燃料噴射パターン202は、時刻t
1よりも遅い時刻t
2で噴射を開始し、時刻t
6よりも早い時刻t
5で噴射を終了する。つまり、EGRモードの燃料噴射パターン202は、ノーマルモードの噴射パターン204よりも短時間で燃料を噴射する。なお、EGRモードの燃料噴射パターン202とノーマルモードの燃料噴射パターン204とで噴射する燃料の総量は、負荷が同じであるので、同じ量である。また、EGRモードの燃料噴射パターン202は、ノーマルモードの燃料噴射パターン204よりも、燃料の噴射開始が遅く、噴射終了が速い。
【0050】
図6は、クランク角度と筒内圧力との関係を示すグラフである。
図6は、横軸をクランク角度、縦軸を筒内圧力とした。実線212は、EGRモードにおいて、燃料噴射パターン202で燃焼を行った場合の筒内圧力の変化を示している。点線214は、ノーマルモードにおいて、燃料噴射パターン204で燃焼を行った場合の筒内圧力の変化を示している。エンジン制御装置26は、
図6に示すように、EGRモードの燃料噴射パターン202に基づいて燃料噴射を制御することで、酸素濃度が低いEGRモードであっても、燃料を適切に燃焼させ、燃焼時の筒内圧力の最大値を高く維持することができる。具体的には、エンジン制御装置26は、EGRモードの燃料噴射パターン202に基づいて燃料噴射を制御する。これにより、ディーゼルエンジン10は、EGRシステム13を稼動させている状態で、酸素濃度が低く燃えにくい環境に先に多くの燃料を投入することで、着火遅れを短くすることができ、筒内圧力の上昇を早くできる。また、短時間に燃料を噴ききろうとするため、燃料を拡散させる力が増加し拡散範囲を広げることができる。これにより、燃料の燃焼が伝達しにくく、筒内圧力の上昇が緩やかな状態でも、燃焼時の筒内圧力を、EGRを行わないノーマルモードと同等に維持することができる。ここで、
図6に示す実線212、点線214の筒内圧力の最大値は、ある負荷において燃料の燃焼により生じる圧力の最大値であり、エンジン本体11の設計許容筒内圧力よりは低い値である。
【0051】
エンジン制御装置26は、ノーマルモードとEGRモードとで燃料噴射パターンを切り換え、EGRモードの燃料の噴射量または燃料の噴射圧の最大値(ピーク量またはピーク圧力)をノーマルモードの燃料の噴射量または燃料の噴射圧の最大値(ピーク量またはピーク圧力)よりも多くすることで、燃焼を好適に行うことができ、燃料の燃焼が不完全になり、黒煙が発生する恐れや、燃焼が不安定になる恐れを低減することができる。本実施形態の舶用ディーセルエンジン10は、EGRシステム13を稼動させることで、燃焼室120に供給される空気の酸素濃度が低くなり、燃焼の不安定性や黒煙発生のリスクが大きくなるが、燃料噴射パターン202に基づいて、ノーマルモードの燃料噴射パターン204とは異なるパターンで燃料の噴射を制御することで、燃焼が不安定になることを抑制でき、不完全燃焼で黒煙が発生することを抑制できる。また、燃焼が安定して実行できることで、所望の出力を得ることができる。
【0052】
また、エンジン制御装置26は、EGRモードの燃料噴射パターン202と、ノーマルモードの燃料噴射パターン204を設定し、それぞれのモードに合わせて燃料噴射を制御することで、それぞれのモードでエンジンを安定に運転させつつ、運転の効率を高くすることができる。
【0053】
また、エンジン制御装置26は、EGRモードの燃料噴射パターン202の燃焼噴射期間、つまり1回の燃焼サイクルにおける燃料噴射期間を、ノーマルモードの燃料噴射パターン204の燃焼噴射期間よりも短くすることで、EGRモードとノーマルモードの両方で燃料を安定して燃焼させることができる。
【0054】
また、エンジン制御装置26は、EGRモードの燃料噴射パターン202の燃料の噴射量または燃料の噴射圧のピークのタイミングを、ノーマルモードの燃料噴射パターン204の燃料の噴射量または燃料の噴射圧のピークのタイミングより早くすることで、EGRモードとノーマルモードの両方で燃料を安定して燃焼させることができる。
【0055】
また、エンジン制御装置26は、EGRモードの燃料噴射パターン202の燃料噴射の開始タイミングを、ノーマルモードの燃料噴射パターン204の燃料噴射の開始タイミングより遅くすることで、EGRモードとノーマルモードの両方で内筒圧を同様の状態に維持できる。
【0056】
また、エンジン制御装置26は、燃料噴射パターン202、204のそれぞれの枠組でエンジン本体11の負荷毎に算出する。その上で、EGRを行う場合はエンジン本体11の負荷に応じた燃料噴射パターン202に切り替え、EGRを行わないノーマルモードの場合は、エンジン本体11の負荷に応じた燃料噴射パターン204に切り換えることが好ましい。これにより、運転条件に適した燃料噴射パターンとすることができる。
【0057】
図7は、エンジン負荷と噴射期間差との関係を示すグラフである。エンジン制御装置26は、
図7に示すように、EGRモードの燃料噴射パターン202の燃料噴射期間とノーマルモードの燃料噴射パターン204の燃料噴射期間との差を、エンジン負荷が大きくなるにしたがって大きくすることが好ましい。このように燃料噴射期間との差をエンジン負荷が大きくにしたがって大きくすることで、EGRモードで負荷が上昇し、燃料がより燃焼しにくい条件となっても好適に燃料を燃焼させることができる。
【0058】
図8は、エンジン負荷と最大噴射量比または最大圧力比との関係を示すグラフである。エンジン制御装置26は、
図8に示すように、EGRモードの燃料噴射パターン202の燃料噴射の最大圧力とノーマルモードの燃料噴射パターン204の燃料噴射の最大圧力との差を、エンジン負荷が大きくなるにしたがって大きくすることが好ましい。
図8に示すように、が噴射量の場合も燃料噴射の圧力と同様である。このように燃料噴射の最大圧力(ピーク圧力)または最大量(ピーク量)の差をエンジン負荷が大きくなるにしたがって大きくすることで、EGRモードで負荷が上昇し、燃料がより燃焼しにくい条件となっても好適に燃料を燃焼させることができる。
【0059】
図9は、エンジン負荷と噴射開始タイミング差の関係を示すグラフである。ここで、エンジン制御装置26は、
図9に示すように、EGRモードの燃料噴射パターン202の噴射開始タイミングとノーマルモードの燃料噴射パターン204の噴射開始タイミングとの差を、エンジン負荷が大きくなるにしたがって大きくすることが好ましい。このように噴射開始タイミングの差をエンジン負荷が大きくなるにしたがって大きくすることで、EGRモードで負荷が上昇し、燃料がより燃焼しにくい条件となっても好適に燃料を燃焼させることができる。