(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6842292
(24)【登録日】2021年2月24日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】旋回シミュレーション方法、装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01M 17/06 20060101AFI20210308BHJP
G01M 17/02 20060101ALI20210308BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20210308BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20210308BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20210308BHJP
【FI】
G01M17/06
G01M17/02
B60C19/00 Z
G06F17/50 680Z
G06F17/50 612H
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-240469(P2016-240469)
(22)【出願日】2016年12月12日
(65)【公開番号】特開2018-96785(P2018-96785A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒川 幸司
【審査官】
山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−076404(JP,A)
【文献】
特開2012−037280(JP,A)
【文献】
特開2003−294586(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0250843(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/02
G01M 17/06
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)接地面における温度を予測するステップと、
(2)スリップ角、タイヤに対する路面速度、タイヤ回転速度及び摩擦係数を含む所定の解析条件の下、タイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを所定荷重で接地及び転動させるシミュレーションを実行し、要素毎に接地圧、すべり速度及び摩擦係数を算出するステップと、
(3)圧力、すべり速度、摩擦係数及び温度の対応関係を示す摩擦係数データから、シミュレーションで得られた接地圧及びすべり速度と、予測した温度とに対応する摩擦係数を特定するステップと、
(4)前記(3)で特定された摩擦係数を入力パラメータに含め、スリップ角、タイヤに対する路面速度及びタイヤ回転速度を含む所定の解析条件の下、タイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを所定荷重で接地及び転動させるシミュレーションを実行し、要素毎に接地圧、すべり速度及び摩擦係数を算出するステップと、
(5)前記(3)及び前記(4)のステップを平衡状態に至るまで繰り返す定常解析を実行し、平衡状態における接地面における接地圧分布、すべり速度分布、摩擦係数を算出するステップと、
(6)前記摩擦係数に基づき接地面に生じる3分力を要素毎に算出し、タイヤ軸にかかる横力又はコーナリングフォースを算出するステップと、
を含む、旋回シミュレーション方法。
【請求項2】
前記摩擦係数データは、少なくとも2つの異なる温度について、圧力、すべり速度及び摩擦係数の対応関係を示すデータを有し、データが存在する温度以外の温度を参照する場合には、存在するデータから線形補間した値を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(1)〜(6)のステップを、それぞれ、スリップ角を異ならせて複数回繰り返し実行し、スリップ角と力の関係を複数組取得する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記スリップ角と力の関係を複数組取得することを、前記タイヤに対する路面速度及びタイヤの回転速度で定まるスリップ率を異ならせて複数回繰り返し実行する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
接地面における温度を予測する温度予測部と、
(1)スリップ角、タイヤに対する路面速度、タイヤ回転速度及び摩擦係数を含む所定の解析条件の下、タイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを所定荷重で接地及び転動させるシミュレーションを実行し、要素毎に接地圧、すべり速度及び摩擦係数を算出するステップと、
(2)圧力、すべり速度、摩擦係数及び温度の対応関係を示す摩擦係数データから接地圧及びすべり速度と、予測した温度とに対応する摩擦係数を特定するステップと、
(3)前記(2)で特定した摩擦係数を入力パラメータに含め、スリップ角、タイヤに対する路面速度及びタイヤ回転速度を含む所定の解析条件の下、タイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを所定荷重で接地及び転動させるシミュレーションを実行し、要素毎に接地圧、すべり速度及び摩擦係数を算出するステップと、
(4)前記(2)及び前記(3)のステップを平衡状態に至るまで繰り返す定常解析を実行し、平衡状態における接地面における接地圧分布、すべり速度分布、摩擦係数を算出するステップと、を実行する、シミュレーション実行部と、
前記摩擦係数に基づき接地面に生じる3分力を要素毎に算出し、タイヤ軸にかかる横力又はコーナリングフォースを算出する力算出部と、
を備える、旋回シミュレーション装置。
【請求項6】
前記摩擦係数データは、少なくとも2つの異なる温度について、圧力、すべり速度及び摩擦係数の対応関係を示すデータを有し、データが存在する温度以外の温度を参照する場合には、存在するデータから線形補間した値を用いる、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記温度予測部による温度の予測、前記シミュレーション実行部による前記(1)〜(4)のステップの実行、前記力算出部による力の算出をそれぞれ、スリップ角を異ならせて複数回繰り返し実行し、スリップ角と力の関係を複数組取得する、請求項5又は6に記載の装置。
【請求項8】
前記スリップ角と力の関係を複数組取得することを、前記タイヤに対する路面速度及びタイヤの回転速度で定まるスリップ率を異ならせて複数回繰り返し実行する、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回シミュレーション方法、装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータが解析可能なタイヤFEM(FEM;Finite Element Method)モデルを作成し、タイヤの特性値をシミュレーションする方法が提案され、実用化されつつある。路面と接触するタイヤの性能を予測する主要な方法としては、タイヤを複数要素に分割して要素毎に運動方程式を解く有限要素法等の数値解析手法を用い、所定荷重及び所定内圧等の解析条件の下で接触解析を実施する。
【0003】
特許文献1には、タイヤFEMモデルを用いて、接地圧、すべり速度を算出し、対応する摩擦係数を特定し、接地面に生じる力を算出する記載がある。
【0004】
特許文献2には、タイヤFEMモデルを用いて、タイヤの過渡的なコーナリング特性を予測することについての記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−37280号公報
【特許文献2】特開2016−45798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
接地面に生じる力を算出するにあたり摩擦係数が用いられるが、摩擦係数は温度依存性がある。しかし、いずれの文献においても温度依存性を考慮する記載がない。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、精度を向上させた旋回シミュレーション方法、装置及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0009】
すなわち、本発明の旋回シミュレーション方法は、接地面における温度を予測するステップと、スリップ角、タイヤに対する路面速度及びタイヤ回転速度を含む所定の解析条件の下、タイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを所定荷重で接地及び転動させるシミュレーションを実行し、圧力、すべり速度、摩擦係数及び温度の対応関係を示す摩擦係数データから接地圧及びすべり速度と、予測した温度とに対応する摩擦係数を特定し、特定した摩擦係数を更に入力パラメータとして、平衡状態に至るまで演算を行い、接地面における接地圧分布、すべり速度分布、摩擦係数を算出するステップと、前記摩擦係数に基づき接地面に生じる3分力を要素毎に算出し、タイヤ軸にかかる横力又はコーナリングフォースを算出するステップと、を含む。
【0010】
また、本発明の旋回シミュレーション装置は、接地面における温度を予測する温度予測部と、スリップ角、タイヤに対する路面速度及びタイヤ回転速度を含む所定の解析条件の下、タイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを所定荷重で接地及び転動させるシミュレーションを実行し、圧力、すべり速度、摩擦係数及び温度の対応関係を示す摩擦係数データから接地圧及びすべり速度と、予測した温度とに対応する摩擦係数を特定し、特定した摩擦係数を更に入力パラメータとして、平衡状態に至るまで演算を行い、接地面における接地圧分布、すべり速度分布、摩擦係数を算出するシミュレーション実行部と、前記摩擦係数に基づき接地面に生じる3分力を要素毎に算出し、タイヤ軸にかかる横力又はコーナリングフォースを算出する力算出部と、を備える。
【0011】
このように、接地面の温度を予測し、温度に対応する摩擦係数を使用するので、温度の影響を考慮でき、タイヤに対して垂直に発生する横力又は進行方向に対して垂直に発生するコーナリングフォースを、より精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の旋回シミュレーション装置を模式的に示すブロック図。
【
図2】本発明の旋回シミュレーション処理を示すフローチャート。
【
図3】他の例の旋回シミュレーション処理を示すフローチャート。
【
図4】他の例の旋回シミュレーション処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0014】
[旋回シミュレーション装置]
図1に示す装置1は、予め与えられた解析条件(スリップ角、所定荷重、所定内圧、タイヤに対する路面速度(車速)、タイヤ回転速度)において、タイヤを接地及び転動させるシミュレーションを実行する装置である。
【0015】
具体的に、装置1は、
図1に示すように、設定部10と、シミュレーション実行部11と、力算出部13と、スリップ率設定部14と、温度予測部16と、スリップ角設定部17と、を有する。シミュレーション実行部11は摩擦係数特定部12を有する。これら各部10〜17は、CPU、メモリ、各種インターフェイス等を備えたパソコン等の情報処理装置においてCPUが予め記憶されている図示しない処理ルーチンを実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。
【0016】
図1に示す設定部10は、キーボードやマウス等の既知の操作部を介してユーザからの操作を受け付け、解析対象となるタイヤ有限要素(Finite Element)モデルデータ、解析で利用する各種設定値(例えば、タイヤモデルにかける荷重値、回転速度、タイヤに対する路面速度(車速)、内圧、荷重、タイヤの進行方向に対するタイヤの向きであるスリップ角)などの有限要素法を用いたシミュレーションに必要な各種解析条件の設定を実行し、これら設定値をメモリに記憶する。タイヤFEMモデルデータは、有限要素法に対応した要素分割(例えば、メッシュ分割)により分割された有限個の要素で構成される。要素の境界には節点が定義され、節点毎に運動方程式が演算される。タイヤモデルは、主溝及び横溝で形成されるパターンを有する。なお、単純な旋回シミュレーションでは、タイヤに対する路面速度とタイヤ回転速度が同じにすることが挙げられる。回転速度及びタイヤに対する路面速度として、解析手法によるが、変位や力を代わりに用いても良い。
【0017】
シミュレーション実行部11は、スリップ角、タイヤに対する路面速度(車速)及びタイヤ回転速度を含む上記所定の解析条件の下、タイヤFEMモデルを所定荷重で接地及び転動させるシミュレーションを実行する。シミュレーションでは、摩擦係数特定部12により特定された摩擦係数を更に入力パラメータとして、平衡状態に至るまで演算を行う。この演算では、圧力、すべり速度及び摩擦係数がそれぞれ影響しあうため、平衡状態となるまで演算を行う。シミュレーションの結果、接地面における接地圧分布、すべり速度分布、摩擦係数を算出する。結果は要素毎に算出される。本実施形態では、定常輸送解析を行っているが、これに限定されず、種々の解析法を利用できる。
【0018】
摩擦係数特定部12は、摩擦係数データ15を用いる。摩擦係数データ15は、圧力、すべり速度、摩擦係数及び温度の対応関係を示す。摩擦係数データ15は、圧力、すべり速度、摩擦係数及び温度の4つからなるデータであり、次のように関数で表現することができる。
摩擦係数=F(圧力,すべり速度,温度)
【0019】
摩擦係数データ15の構築方法は、種々存在する。例えば、温度に応じて摩擦係数が変化する数式モデルを設けてもよい。また、少なくとも2つの温度について圧力、すべり速度、摩擦係数の対応関係を示すデータを有し、データが存在する温度以外の温度を参照する場合には、存在するデータから線形補間した値を用いることが挙げられる。
【0020】
摩擦係数データ15は、実験値に基づく値である。ドライ路面、ウエット路面、アイス路面、スノー路面などの環境が異なる毎に複数用意してもよく、路面粗さ違いの路面を複数用意することが考えられる。摩擦係数の計測は、ターンテーブル上に例えば研磨布路面を設け、その上をゴムサンプルを転動させて圧力及びすべり速度を異ならせて計測する。
または、ブロック状のサンプルを用いて路面上を一方向に滑らせる形で圧力及びすべり速度を異ならせて計測する。
研磨布路面よりも、骨材を並べて構成した路面や実際のアスファルト路面の方が好ましい。
【0021】
温度予測部16は、接地面における温度を予測する。温度予測部16は、設定された環境温度をそのまま接地面の温度として設定するように構成してもよい。また、実測の接地面温度分布に基づき設定しても良い。さらには、シミュレーション実行部11での計算結果に基づき接地面の温度分布を予測するように構成してもよい。
【0022】
摩擦係数特定部12は、摩擦係数データ15を用い、シミュレーション実行部11で算出した接地圧及びすべり速度と、温度予測部16で予測した温度とに対応する摩擦係数を、要素毎に特定する。
【0023】
力算出部13は、摩擦係数に基づき接地面に生じる3分力を要素毎に算出し、タイヤ軸にかかる横力を算出する。具体的に、横力分布を得ることができる。各々の要素での横力を合計することでタイヤ全体での横力を算出する。摩擦係数と接地圧とすべり速度に基づき、タイヤの横方向の力(横力;Fy)と、タイヤ前後方向の力(制動力又は駆動力;Fx)とが算出できる。
【0024】
スリップ率設定部14は、タイヤに対する路面速度(車速V
V)及びタイヤの回転速度V
Tで定まるスリップ率Sを異ならせるために、路面速度(車速V
V)及びタイヤの回転速度V
Tを変更する。スリップ率Sは(V
V−V
T)/V
Vで表現される。ある実施例では、スリップ率設定部14を設けずに、スリップ率を一定にしてもよい。
【0025】
スリップ角設定部17は、スリップ角を変更する。
【0026】
シミュレーション実行部11、摩擦係数特定部12、及び、力算出部13の処理それぞれを、スリップ角SAを異ならせて複数回実行し、スリップ角SAと横力Fyの関係を複数組取得する。
【0027】
さらには、スリップ率設定部14がスリップ率を変更することによって、スリップ角SAと横力Fyの関係を複数組取得することを、スリップ率を異ならせて複数回実行してもよい。そうすれば、複合コーナリング状態を再現でき、摩擦円を算出可能となる。
【0028】
[旋回シミュレーション方法]
上記装置1の動作について
図2、
図3、
図4を参照しつつ説明する。
図2は、別途に予め定めた温度分布を設定する例である。
図3は、前の解析で求めた温度分布を用いて、前後力シミュレーションの前に熱解析を行い、その結果を反映した前後力シミュレーションを行う例である。
図4は、前後力シミュレーションと熱解析を同時に行う例であり、駆動・制動状態により発生する熱を摩擦係数に反映させる例である。
【0029】
まず、ステップST1において、設定部10は、解析対象となるタイヤ有限要素(Finite Element)モデルデータ、解析で利用する各種設定値(例えば、タイヤモデルにかける荷重値、回転速度、タイヤに対する路面速度(車速)、内圧、荷重、スリップ角)などの有限要素法を用いたシミュレーションに必要な各種解析条件の設定を実行し、これら設定値をメモリに記憶する。使用する摩擦係数データ15を指定してもよい。
【0030】
次のステップST2において、温度予測部16は、接地面における温度を予測する。
図2では、予め設定された温度分布を利用する。
図3では、設定された解析条件にて熱解析を行い、接地面の温度を予測する。
図4では、ステップST2とST3を同時に行う。
【0031】
次のステップST3において、シミュレーション実行部11は、スリップ角、タイヤに対する路面速度及びタイヤ回転速度を含む所定解析条件の下、タイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを所定荷重で接地及び転動させるシミュレーションを実行し、圧力、すべり速度、摩擦係数及び温度の対応関係を示す摩擦係数データ15から接地圧及びすべり速度と、予測した温度とに対応する摩擦係数を特定し、特定した摩擦係数を更に入力パラメータとして、平衡状態に至るまで演算を行い、接地面における接地圧分布、すべり速度分布、摩擦係数を算出する。詳細には、所定内圧でインフレート解析を行って内圧付与による変形を算出し、所定荷重をかけた接地解析を行って接地による変形を算出し、解析条件(タイヤに対する路面速度及びタイヤ回転速度)で転動させた制動解析を行い、接地面に生じる接地圧、すべり速度、摩擦係数を要素毎算出する。ここで、摩擦係数特定部12は、摩擦係数データ15を用い、シミュレーション実行部11で算出した接地圧及びすべり速度と、温度予測部16で予測した温度とに対応する摩擦係数を、要素毎に特定することになる。
【0032】
次のステップST4において、力算出部13は、摩擦係数に基づき接地面に生じる3分力を要素毎に算出し、タイヤ軸にかかる横力を算出する。
【0033】
次のステップST5では、得られたスリップ角と横力のデータが条件(回数、データ数など)を満たすかを判定する。条件を満たすまで、ステップST2〜4を、スリップ角SAを異ならせて複数回実行する。スリップ角SAは、スリップ角設定部17が変更する。このようにすれば、スリップ角SAと横力Fyのデータが複数組取得でき、スリップ角−横力(SA−Fy)カーブをプロットすることが可能となる。
【0034】
ステップST5にて、条件を満たす場合には、次のステップST6に進む。ステップST6では、得られたスリップ率のデータが条件(回数、データ数)を満たすかを判定する。条件を満たすまでステップST2〜4を、スリップ率を異ならせて複数回実行する。スリップ率(タイヤに対する路面速度及びタイヤ回転速度)は、スリップ率設定部14が変更する。このようにすれば、ST2〜4,ST5:NOのステップを繰り返し実行することで、或るスリップ率におけるSA−Fyカーブが得られ、ST2〜4,ST5:YES,ST6:NOのステップを繰り返し実行することで、SA−Fyカーブを複数のスリップ率について得ることが可能となる。
【0035】
本実施形態において、タイヤに対して垂直に発生する横力Fyを算出するようにしているが、進行方向に対して垂直に発生するコーナリングフォースを算出するように構成してもよい。
【0036】
以上のように、本実施形態の旋回シミュレーション方法は、接地面における温度を予測するステップ(ST2)と、スリップ角、タイヤに対する路面速度及びタイヤ回転速度を含む所定の解析条件の下、タイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを所定荷重で接地及び転動させるシミュレーションを実行し、圧力、すべり速度、摩擦係数及び温度の対応関係を示す摩擦係数データ15から接地圧及びすべり速度と、予測した温度とに対応する摩擦係数を特定し、特定した摩擦係数を更に入力パラメータとして、平衡状態に至るまで演算を行い、接地面における接地圧分布、すべり速度分布、摩擦係数を算出するステップ(ST3)と、摩擦係数に基づき接地面に生じる3分力を要素毎に算出し、タイヤ軸にかかる横力又はコーナリングフォースを算出するステップ(ST4)と、を含む。
【0037】
本実施形態の旋回シミュレーション装置は、接地面における温度を予測する温度予測部16と、スリップ角、タイヤに対する路面速度及びタイヤ回転速度を含む所定の解析条件の下、タイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを所定荷重で接地及び転動させるシミュレーションを実行し、圧力、すべり速度、摩擦係数及び温度の対応関係を示す摩擦係数データ15から接地圧及びすべり速度と、予測した温度とに対応する摩擦係数を特定し、特定した摩擦係数を更に入力パラメータとして、平衡状態に至るまで演算を行い、接地面における接地圧分布、すべり速度分布、摩擦係数を算出するシミュレーション実行部11と、摩擦係数に基づき接地面に生じる3分力を要素毎に算出し、タイヤ軸にかかる横力又はコーナリングフォースを算出する力算出部13と、を備える。
【0038】
この構成によれば、接地面の温度を予測し、温度に対応する摩擦係数を使用するので、温度の影響を考慮でき、タイヤに対して垂直に発生する横力又は進行方向に対して垂直に発生するコーナリングフォースを、より精度を向上させることが可能となる。
【0039】
本実施形態では、摩擦係数データ15は、少なくとも2つの異なる温度について、圧力、すべり速度及び摩擦係数の対応関係を示すデータを有し、データが存在する温度以外の温度を参照する場合には、存在するデータから線形補間した値を用いる。
【0040】
この構成によれば、摩擦係数データ15のデータ量を或る程度抑制しつつ、精度も或る程度担保することができ、実装上では有用である。
【0041】
本実施形態では、温度の予測、シミュレーションの実行、力の算出をそれぞれ、スリップ角を異ならせて複数回繰り返し実行し、スリップ角と力の関係を複数組取得する。
【0042】
このように、スリップ角を異ならせて繰り返し演算するので、スリップ角−横力(SA−Fy)カーブを適切に得ることが可能となる。
【0043】
本実施形態では、スリップ角と力の関係を複数組取得することを、タイヤに対する路面速度及びタイヤの回転速度で定まるスリップ率Sを異ならせて複数回繰り返し実行する。
【0044】
このようにすれば、SA−Fyカーブを複数のスリップ率について得ることが可能となり、例えば摩擦円などのデータを得ることも可能になる。
【0045】
本実施形態のプログラムは、上記方法を構成する各ステップをコンピュータに実行させるプログラムである。
これらプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。言い換えると、上記方法を使用しているとも言える。
【0046】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0047】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0048】
11…シミュレーション実行部
13…力算出部
15…摩擦係数データ
16…温度予測部